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特開2022-129073グリコサミノグリカンオリゴ糖を含有する消毒液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129073
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】グリコサミノグリカンオリゴ糖を含有する消毒液
(51)【国際特許分類】
   A01N 31/02 20060101AFI20220829BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20220829BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20220829BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220829BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
A01N31/02
A01N25/00 101
A01N25/02
A01P1/00
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027625
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】305032508
【氏名又は名称】丸共バイオフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】宮本 宜之
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA04
4H011BA01
4H011BA03
4H011BB03
4H011BC08
4H011DA13
4H011DC05
4H011DG05
(57)【要約】
【課題】 均一で十分な保湿作用を期待しうるアルコール系消毒液を提供する。
【解決手段】 グリコサミノグリカンオリゴ糖を含有し、かつ、エタノールまたはイソプロパノールから選択されるアルコールの濃度が45(v/v)%以上である消毒液。本発明の消毒液は、グリコサミノグリカンオリゴ糖と高濃度のアルコールとを含有してなるものであるから、高濃度アルコールにより抗微生物作用を発揮するとともに、溶けたグリコサミノグリカンオリゴ糖により均一あるいは高い保湿作用を発揮することができる。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコサミノグリカンオリゴ糖を含有し、かつ、エタノールまたはイソプロパノールから選択されるアルコールの濃度が45(v/v)%以上である消毒液。
【請求項2】
皮膚用である、請求項1に記載の消毒液。
【請求項3】
構成糖の数が12個以下のグリコサミノグリカンオリゴ糖を含む、請求項1または請求項2に記載の消毒液。
【請求項4】
前記アルコールの濃度が70(v/v)%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の消毒液。
【請求項5】
前記グリコサミノグリカンオリゴ糖がコンドロイチン硫酸オリゴ糖および/またはヒアルロン酸オリゴ糖である、請求項1~4のいずれかに記載の消毒液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコサミノグリカンオリゴ糖を含有する消毒液に関する。
【背景技術】
【0002】
消毒液は、病原微生物や有害微生物を死滅、除去あるいは不活化させる目的で用いられる液体である。消毒作用を発揮する成分としては、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド系や次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系、過酸化水素などの酸化剤、ポピヨンヨードなどのヨウ素系、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール系などがあり、消毒対象や標的微生物の種類に応じて適宜選択して用いられる。なかでも、アルコール系は、抗微生物スペクトルが広く、短時間で効力を発揮し、速やかに乾燥して残留せず、毒性が比較的低いといった理由から、手指などの皮膚用、ドアノブやトイレ便座などの施設・物品用、医療器具・器材用などに幅広く用いられている。
【0003】
ここで、アルコール系消毒液が十分な抗微生物作用を発揮するには、比較的高いアルコール濃度が必要とされている。例えば、消毒液におけるエタノールの至適濃度は、日本薬局方では76.9~81.4(v/v)%、米国薬局方であるUSP-NF(The United States Pharmacopeia-National Formulary )では68.5~71.5(v/v)%、World Healthcare Organization (WHO)ガイドラインでは60~80(v/v)%と規定されている(非特許文献1)。また、消毒液におけるイソプロパノールの至適濃度は、50~70(v/v)%とされている(非特許文献2)。
【0004】
一方、エタノールやイソプロパノールは脱脂作用を有するため、これらを高濃度に含むアルコール系消毒液は、皮膚用として頻回に用いると肌荒れを誘発するという問題がある。そこで、従来、保水性の高い糖鎖であるヒアルロン酸を配合した手指用アルコール系消毒液が市販されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】神明朱美、殺菌・抗ウイルス効果に及ぼすエタノール濃度の影響、東京医療保健大学大学院 医療保健学研究科 医療保健学専攻 博士課程論文、2019年3月11日、[online]、[令和3年2月15日検索]、インターネット<URL: http://www.thcu.ac.jp/uploads/imgs/20190605090207.pdf>
【非特許文献2】健栄製薬、医薬品インタビューフォーム ケンエー消毒用イソプロピルアルコール・70 ケンエー消毒用イソプロピルアルコール・50、2003年11月改定(改定第2版)、[online]、[令和3年2月15日検索]、インターネット<URL: https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2016/11/interview1291802540.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ヒアルロン酸などの高分子の糖鎖(グリコサミノグリカン)は、これを天然物から抽出する場合、エタノールを加えて沈殿させることにより精製する手法が一般的である。このことからも明らかなように、グリコサミノグリカンは、高濃度のアルコールには極めて溶解しにくい。すなわち、従来市販されているグリコサミノグリカン配合アルコール系消毒液は、(i)グリコサミノグリカンの配合量が非常に微量であり、十分な保湿作用が得られない、あるいは(ii)グリコサミノグリカンが析出していて、十分な保湿作用ないし均一な保湿作用が得られない、といった課題を有すると考えられる。
【0007】
本発明は係る課題を解決するために成されたものであって、均一で十分な保湿作用を期待しうるアルコール系消毒液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、グリコサミノグリカンを低分子化して得られるグリコサミノグリカンオリゴ糖が、高濃度のアルコールに良く溶解することを見出した。そこで、係る知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0009】
(1)本発明に係る消毒液は、グリコサミノグリカンオリゴ糖を含有し、かつ、エタノールまたはイソプロパノールから選択されるアルコールの濃度が45(v/v)%以上である。
【0010】
(2)本発明に係る消毒液は、皮膚用であってもよい。
【0011】
(3)本発明に係る消毒液は、構成糖の数が12個以下のグリコサミノグリカンオリゴ糖を含むものであってもよい。
【0012】
(4)本発明に係る消毒液において、アルコールの濃度は70(v/v)%以上であってもよい。
【0013】
(5)本発明において、グリコサミノグリカンオリゴ糖は、コンドロイチン硫酸オリゴ糖および/またはヒアルロン酸オリゴ糖であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
グリコサミノグリカンの保水性は、その構成糖が多数の硫酸基やカルボキシル基を有することによる。グリコサミノグリカンオリゴ糖はグリコサミノグリカンを低分子化してなるものであり、その構成糖はグリコサミノグリカン同様の構造をもつことから、グリコサミノグリカンオリゴ糖も高い保水性が期待できる。また、グリコサミノグリカンオリゴ糖は、グリコサミノグリカンと異なり、高濃度のアルコール溶液に溶解することができる。
【0015】
本発明の消毒液は、グリコサミノグリカンオリゴ糖と高濃度のアルコールとを含有してなるものであるから、高濃度アルコールにより抗微生物作用を発揮するとともに、溶けたグリコサミノグリカンオリゴ糖により均一あるいは高い保湿作用を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】市販のコンドロイチン硫酸CをコンドロイチナーゼABCで消化して得られたコンドロイチン硫酸オリゴ糖(CSオリゴ糖)を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して得られたクロマトグラムである。
図2】市販のヒアルロン酸をコンドロイチナーゼABCで消化して得られたヒアルロン酸オリゴ糖(HAオリゴ糖)を、HPLCに供して得られたクロマトグラムである。
図3】実施例で用いたオリゴ糖製造装置を模式的に示す図である。
図4】実施例1で調製したCSオリゴ糖の糖組成(1~16糖以上のそれぞれの含有割合)を示す棒グラフである。以下、図中のmerは単糖残基の個数を示す単位である。
図5】70(v/v)%エタノール水溶液における、CSオリゴ糖の可溶画分の糖組成を示す棒グラフである。
図6】70(v/v)%エタノール水溶液における、CSオリゴ糖の不溶画分の糖組成を示す棒グラフである。
図7】CSオリゴ糖の糖組成、ならびに、70(v/v)%エタノール水溶液における、CSオリゴ糖の可溶画分および不溶画分の糖組成を示す棒グラフである。
図8】実施例2で調製したHAオリゴ糖の糖組成(1~13糖以上のそれぞれの含有割合)を示す棒グラフである。
図9】70(v/v)%エタノール水溶液における、HAオリゴ糖の可溶画分の糖組成を示す棒グラフである。
図10】70(v/v)%エタノール水溶液における、HAオリゴ糖の不溶画分の糖組成を示す棒グラフである。
図11】HAオリゴ糖の糖組成、ならびに、70(v/v)%エタノール水溶液における、HAオリゴ糖の可溶画分および不溶画分の糖組成を示す棒グラフである。
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明において、消毒液は、病原微生物などの有害な微生物を、一定程度以上、死滅、除去あるいは不活化する目的(以下、「消毒目的」という場合がある。)で用いられる液体、または、有害な微生物を一定程度以上、死滅、除去あるいは不活化する作用(以下、「消毒作用」という場合がある。)を有する液体をいう。消毒液は、清浄液、清浄剤、殺菌液、除菌液、消毒剤などの様々な名称ないし表現で表される場合があるが、消毒目的で用いられる液体、または、消毒作用を有する液体である限り、本発明の消毒液に包含される。
【0019】
消毒液が対象とする有害微生物は、ウイルスや細菌、真菌などを例示することができる。
【0020】
本発明に係る消毒液は、エタノールまたはイソプロパノールから選択されるアルコールを比較的高濃度で含有する。非特許文献1によれば、医療関連施設で重要な下記の病原微生物について、エタノールが殺菌効果を示す最小濃度は以下(ア)~(エ)のとおり報告されている;
(ア)45(v/v)%以上;グラム陰性菌8種(Achromobacter xylosoxidans、Burkholderia cepacia、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Proteus mirabilis、Pseudomonas aeruginosa、Salmonella enterica、Serratia marcescens)9株、グラム陽性菌4種(Enterococcus faecalis、Micrococcus luteus、Staphylococcus aureus、Streptococcus pyogenes)4株、酵母状真菌1種(Candida albicans)2株、抗酸菌2種(Mycobacterium avium、Mycobacterium kansasii) 2株、供試したエンベロープウイルス2種(Influenzavirus A, Human herpesvirus)7株全て。
【0021】
(イ)54(v/v)%以上;供試したグラム陰性菌8種(Achromobacter xylosoxidans、Burkholderia cepacia、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Proteus mirabilis、Pseudomonas aeruginosa、Salmonella enterica、Serratia marcescens)10株全て、グラム陽性菌6種(Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、Micrococcus luteus、 Staphylococcus aureus、Staphylococcus hemolyticus、Streptococcus pyogenes)8株、供試した酵母状真菌3種(Candida albicans、 Candida glabrata、 Candida orthopsilosis)4株全て、糸状菌1種(Aspergillus flavus)1株、抗酸菌5種(Mycobacterium abscessus、Mycobacterium aurum、Mycobacterium avium、Mycobacterium kansasii、Mycobacterium terrae) 5株、供試したエンベロープウイルス2種7株全て。
【0022】
(ウ)63(v/v)%以上;供試したグラム陰性菌8種10株全て、供試したグラム陽性菌7種(Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、Micrococcus luteus、 Staphylococcus aureus、 Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus hemolyticus、Streptococcus pyogenes)9株全て、供試した酵母状真菌3種4株全て、供試した糸状菌3種(Aspergillus flavus、 Aspergillus brasiliensis、 Aspergillus niger)3株全て、抗酸菌6種(Mycobacterium abscessus、Mycobacterium aurum、Mycobacterium avium、Mycobacterium chelonae、Mycobacterium kansasii、Mycobacterium terrae)6株、供試したエンベロープウイルス2種7株全て。
【0023】
(エ)72(v/v)%以上;供試したグラム陰性菌8種10株全て、供試したグラム陽性菌7種9株全て、供試した酵母状真菌3種4株全て、供試した糸状菌3種3株全て、供試した抗酸菌7種(Mycobacterium abscessus、Mycobacterium aurum、Mycobacterium avium、Mycobacterium chelonae、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium kansasii、Mycobacterium terrae)7株全て、供試したエンベロープウイルス2種7株全て。
【0024】
以上のことから、アルコール濃度が45(v/v)%以上であれば、ウイルス、多くのグラム陰性菌、一部のグラム陽性菌、一部の酵母状真菌および一部の抗酸菌に対する消毒作用が期待でき、54(v/v)%以上、63(v/v)%以上または72%以上であれば、より広範囲の微生物に対して消毒作用が期待できるといえる。よって、消毒液におけるアルコール濃度として、好ましくは45(v/v)%以上~70(v/v)%以上を例示することができる。また、WHOガイドラインに沿って60(v/v)%以上としてもよい。
【0025】
なお、イソプロパノールは、従来、消毒用としてエタノールに代えて用いられており、微生物のタンパク質を変性凝固させて殺菌作用を示し、エタノールの2倍の効力をもつ(非特許文献2)。このことから、消毒液におけるイソプロパノール濃度は、エタノールの場合と同様に設定することができる。
【0026】
グリコサミノグリカンは、アミノ糖(ガラクトサミンもしくはグルコサミン)とウロン酸(グルクロン酸もしくはイズロン酸)またはガラクトースとの二糖の繰り返し構造(グリコサミノグリカン構造)からなる多糖である。この二糖の構造の違いに基づいて、表1に示すように、グリコサミノグリカンはヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸およびヘパリンに大別される。グリコサミノグリカンは、動物の結合組織を中心に、(ヒアルロン酸を除いて)コアタンパク質と結合した形で存在し、通常100~200単糖残基からなる。
【表1】
【0027】
グリコサミノグリカンオリゴ糖は、グリコサミノグリカン構造をもち、かつ、構成糖の個数がグリコサミノグリカンよりも少ないもの、または、グリコサミノグリカンを分解(低分子化)して得られる1~3糖をいう。その構成糖の個数として、具体的には、例えば1糖、2糖、3糖、4糖、5糖、6糖、7糖、8糖、9糖、10糖、11糖、12糖、13糖、14糖、15糖、16糖、17糖、18糖、19糖、20糖・・・48糖などを挙げることができる。これらのうち、構成糖の個数が12個以下のものは高濃度のアルコールに顕著に溶けやすい。よって、消毒液に添加するグリコサミノグリカンオリゴ糖は1~12糖以下を含むことが好ましい。
【0028】
グリコサミノグリカンオリゴ糖は、グリコサミノグリカンを公知の方法により分解して低分子化することにより得てもよく、市販品を用いてもよい。グリコサミノグリカンを低分子化する方法としては、例えば、温度Tが175℃≦T≦220℃でありかつ圧力Pが5MPa≦P≦25MPaの高温高圧条件で加水分解する方法(特許第6146733号公報)や、塩酸などの酸により加水分解する方法(Cifonelli、Carbohydrate Res.、第2巻、第150-161頁、1966年)、グリコサミノグリカン分解酵素(コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼACI、コンドロイチナーゼACII、コンドロイチナーゼB、コンドロ-4-スルファターゼ、コンドロ-6-スルファターゼ、精巣ヒアルロニダーゼ、コンドロイチン硫酸分解酵素(特開平9-168384号公報)など)により脱離分解あるいは加水分解する方法、pH2.5~12.0のコンドロイチン硫酸水溶液を100~160℃未満の水熱条件下に5~20分未満保つ方法(特開2010-77256号公報)を例示することができる。
【0029】
原料のグリコサミノグリカンは、動物の軟骨等から抽出して得てもよく、微生物発酵により得てもよく、市販品を用いてもよい。動物から抽出する場合、その由来としては、例えば、エイやサメ、ウシ、クジラ、ウサギ、ヒツジ、カブトガニ、ブタ、イカ、ニワトリなどを挙げることができるが、いずれの生物であってもよい。
【0030】
グリコサミノグリカンオリゴ糖は、後述する実施例で示すように、高濃度のアルコールに良く溶解する。ここで、本発明において、「溶解する」あるいは「溶ける」とは、溶質(糖)が溶媒に均一に分散し、低温(4℃程度)に長時間(10時間程度以上)置いても沈殿を生成しない状態をいう。
【0031】
本発明の消毒液は、グリコサミノグリカンオリゴ糖を含有することから、保湿作用が期待できる。よって、手指などの皮膚を消毒対象とする用途に好適に用いることができる。
【0032】
消毒液におけるグリコサミノグリカンオリゴ糖の含有量は、グリコサミノグリカンの種類、アルコールの種類、アルコール濃度、消毒液の用途(適用対象、標的微生物など)、所望の体感性や保湿性、経済性(製品価格)などに応じて適宜設定することができる。例えば、乾燥質量を基準として0.0001~10(w/v)%、0.001~1(w/v)%、0.01~0.5(w/v)%、0.01~0.5(w/v)%、0.02~0.5(w/v)%、0.03~0.5(w/v)%、0.04~0.5(w/v)%、0.05~0.5(w/v)%、0.01~0.4(w/v)%、0.01~0.3(w/v)%、0.01~0.2(w/v)%などとすることができる。
【0033】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0034】
本実施例において、コンドロイチン硫酸は「CS」、オリゴ糖のコンドロイチン硫酸は「CSオリゴ糖」、ヒアルロン酸は「HA」、オリゴ糖のヒアルロン酸は「HAオリゴ糖」と略記する場合がある。
【0035】
<試験方法>標準物質の測定による溶出位置の決定
(1)CSオリゴ糖
市販のコンドロイチン硫酸C(生化学工業)10mgを10mMの酢酸緩衝液(pH5.5)1mLに溶解し、コンドロイチナーゼABC(生化学工業)溶液(0.1ユニット/mL)を10μL加えて37℃で15分間反応させた。その後速やかに90℃に10分間置いて酵素の失活処理を行った。これを孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過した後、下記条件のHPLCに供した。得られたクロマトグラムを図1に示す。図1に示すように、CSオリゴ糖の2糖、4糖および6糖はそれぞれ、保持時間28.6分、23.8分および20.8分に溶出することが明らかになった。本実施例においては、このクロマトグラムと試料のクロマトグラムとを比較して、CSオリゴ糖試料における各糖の溶出位置を決定した。
《HPLC分析条件》
システム:株式会社島津製作所 プロミネンス
検出器:蒸発光散乱検出器(ELSD)
カラム:Superdex 30 Increase 10/300GL (Cytiva)
移動相:50mM重炭酸アンモニウム水溶液
流速:0.3mL/分
カラム温度:室温
【0036】
(2)HAオリゴ糖
市販のヒアルロン酸(製品名「ヒアルロン酸Rv」、平均分子量約70万、日本新薬)について、試験方法(1)と同様にコンドロイチナーゼABC(生化学工業)を用いて限定消化した後、試験方法(1)と同条件のHPLCに供した。得られたクロマトグラムを図2に示す。図2に示すように、HAオリゴ糖の2糖、4糖、6糖、8糖、10糖および12糖はそれぞれ、保持時間43.02分、40.00分、36.48分、34.11分、32.38分および31.05分に溶出することが明らかになった。本実施例においては、このクロマトグラムとHAオリゴ糖試料のクロマトグラムとを比較して、試料における各糖の溶出位置を決定した。
【0037】
<実施例1>コンドロイチン硫酸オリゴ糖の溶解性の検討
(1)CSオリゴ糖の調製
エイの軟骨280kgを斜軸ニーダー(GN-100、サムソン)に入れ、攪拌しながらパパイン(新日本化学工業)300gを投入して、55℃で3時間反応させた。92℃に10分間保つことにより失活処理したのち、金網を通過させて粗ろ過し、ろ液を回収した。ろ液を50℃に冷却し、ろ過助剤として珪藻土(昭和化学工業ラジオライト#100)10kgを加えてよく攪拌した後、加圧型ろ過装置フィルタープレス(薮田機械)を用いて清澄ろ過し、淡黄色清明なろ液を得た。ろ液を分画分子量13000の限外ろ過膜を備えた濾過装置に供して、適宜加水しながら12時間透析した。内液(透析保持液)を回収して92℃で加熱殺菌した後、スプレードライヤー(DA-20S、坂本技研)により噴霧乾燥し、白色粉末10.2kgを得て、これを粗精製コンドロイチン硫酸とした。
【0038】
続いて、粗精製コンドロイチン硫酸を175~220℃かつ5~25MPaの高温高圧条件で加水分解して、オリゴ糖のコンドロイチン硫酸(CSオリゴ糖)を得た。具体的には、まず、特許第6146733号公報に記載のオリゴ糖製造装置(図3)を用意した。すなわち、当該装置は、図3に示すように、蒸留水を収容する水容器、高圧ポンプA(ミルフロー制御容量ポンプ M150 パルスレスC24-Z3、日機装)、ヒーター(電気ヒーター)、センサーA、原料を収容する原料容器、高圧ポンプB(ミルフロー制御容量ポンプ M150 パルスレスC23-X1、日機装)、混合T字管、反応部(内腔径0.5mmのステンレス316製配管(内腔の空間体積46800mm~191000mm)からなる)、センサーB、センサーC、ウォーターバス、センサーD、背圧弁(High Pressure/Back Pressure 26-1762-66-314、TESCOM)および反応生成物を収容する生成物容器を備えるものであり、水容器、原料容器および生成物容器はすべてステンレス製配管でつながれた構造である。反応部の入り口温度をセンサーB、出口温度をセンサーCで確認する。圧力はセンサーDにより確認する。
【0039】
上記のとおりエイ軟骨から調製した粗精製コンドロイチン硫酸10kgを500Lの水に溶解し、Brix2.0に調整して原料液とした。脱気した蒸留水を水容器に入れ、高圧ポンプAにより連続的に送液してヒーターで加熱した。原料液を原料容器に入れ、高圧ポンプBにより連続的に送液した。加熱された蒸留水と常温の原料液とは、反応部入口の混合T字管で混合され、反応部にて、水と原料液に含まれるコンドロイチン硫酸とを反応させて加水分解を行った。反応条件は、反応部の温度が175~220℃、反応部の圧力が5~25MPa、反応時間が8.8秒間とした。続いて、ステンレス製配管をウォーターバスで直接冷却することにより反応を速やかに終了させた。その後、背圧弁によりステンレス製配管内の圧力を下げて、反応生成物を生成物容器に収容した。なお、蒸留水の流量は原料液の流量の3倍以上とした。
【0040】
反応生成物を分画分子量3000の限外ろ過膜を備えた濾過装置に供して限外濾過し、外液(透過液)を回収して濃縮した。これを陰イオン交換担体NuviaQ(Bio Rad)を充填したイオン交換クロマトグラフィーに供して精製し、続いて、Biogel P-6(Bio Rad)に通して脱塩処理した後、凍結乾燥して、コンドロイチン硫酸オリゴ糖(CSオリゴ糖)の粉末を得た。
【0041】
(2)CSオリゴ糖の糖組成
本実施例1(1)のCSオリゴ糖50mgを超純水5mLに溶解して、濃度1(w/v)%の水溶液を調製した。これを孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過した後、試験方法(1)と同条件のHPLCに供して、糖組成(1~16糖以上のそれぞれの含有割合)を確認した。その結果を図4に示す。
【0042】
図4に示すように、CSオリゴ糖は、16糖以上を1.42質量%含み、15糖~1糖をそれぞれ2.36~8.35質量%ずつ含む糖組成であることが明らかになった。
【0043】
(3)70(v/v)%エタノール可溶画分の糖組成
本実施例1(2)のCSオリゴ糖1(w/v)%水溶液4mLに、超純水8mLを加えた。これをスターラーで攪拌しながら、試薬特級エタノール28mLをゆっくりと加えて全量を40mLとした。すなわち、CSオリゴ糖の終濃度が0.1(w/v)%で、かつ、エタノールの終濃度が70(v/v)%である液を作成した。これを4℃で一晩静置したところ、翌朝には液が白濁していた。白濁した液をすべて遠沈管に入れ10000×gで15分遠心したのち、デカンテーションで上清とペレットとに分離して回収した。すなわち、この上清には、CSオリゴ糖のうち70(v/v)%濃度のエタノール水溶液に溶け易い成分(可溶画分)が含まれる。一方、ペレットにはCSオリゴ糖のうち70(v/v)%濃度のエタノール水溶液に溶けにくい成分(不溶画分)が含まれる。
【0044】
上清(可溶画分)全部をエバポレータで蒸発乾固させた。これに超純水1mLを加え、よく振り混ぜて溶解した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過した。濾液のうち2μLを試料として、試験方法(1)分析条件のHPLCに供して、CSオリゴ糖可溶画分の糖組成を求めた。その結果を図5に示す。
【0045】
図5に示すように、上清(可溶画分)は、16糖以上を1.65質量%含み、15糖~1糖をそれぞれ2.30~9.10質量%ずつ含む糖組成であることが明らかになった。すなわち、上清(可溶画分)の糖組成は、図4に示す水溶液中のCSオリゴ糖の糖組成と近似していた。この結果から、1~16糖程度のCSオリゴ糖は、高濃度のエタノール水溶液によく溶解することが明らかになった。
【0046】
(4)70(v/v)%エタノール不溶画分の糖組成
本実施例1(3)のペレット(不溶画分)に超純水1mLを加え溶解させた後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過した。濾液のうち5μLを試料として、試験方法(1)と同条件の分析条件のHPLCに供して、CSオリゴ糖不溶画分の糖組成を求めた。その結果を図6に示す。
【0047】
図6に示すように、ペレット(不溶画分)は、12~16糖以上をそれぞれ6.62~32.97質量%ずつ含み、11糖~1糖を含まない糖組成であることが明らかになった。この結果から、CSオリゴ糖のうち11糖以下のものは、高濃度のエタノール水溶液に顕著に溶解することが明らかになった。
【0048】
以上の本実施例1(2)~(4)の結果をまとめて図7に示す。図7に示すように、16糖以上~13糖では、不溶画分の含有割合が可溶画分の含有割合を上回っていた。これに対して12~1糖では、可溶画分の含有割合が不溶画分の含有割合を上回っていた。この結果から、12糖以下のCSオリゴ糖は、高濃度のエタノール水溶液における溶解性が高いことが明らかになった。すなわち、高濃度のアルコール溶液に配合するCSオリゴ糖は、12糖以下が好ましいことが明らかになった。
【0049】
<実施例2>ヒアルロン酸オリゴ糖の溶解性の検討
(1)HAオリゴ糖の調製
市販のヒアルロン酸(製品名「ヒアルロン酸Rv」、平均分子量約70万、日本新薬)1kgを500リットルの水に溶解して原料液とした。これを、図1に記載のオリゴ糖製造装置を用いて実施例1(1)に記載の方法と同様に高温高圧条件で加水分解して、ヒアルロン酸オリゴ糖(HAオリゴ糖)を得た。具体的には、市販のヒアルロン酸(製品名「ヒアルロン酸Rv」、平均分子量約70万、日本新薬)1kgを500リットルの水に溶解して原料液とした。反応条件は、反応部の温度が223℃、反応部の圧力が10MPa、反応時間が11.9秒間とした。
【0050】
その後、逆浸透膜濃縮装置(RUW-5CH、日東電工)に接続したろ過膜NTR-7430HG)をもちいて反応生成物の液量を3リットルに濃縮した。これに活性炭(SG840、フタムラ化学)140gを添加して、しばらく攪拌したのち48時間静置した。ろ過助剤として珪藻土(ラジオライト#100、昭和化学工業)を加えてよく攪拌した後、ブフナー漏斗を用いて吸引ろ過し、淡黄色清明なろ液を得た。ろ液を凍結乾燥して、HAオリゴ糖の白色粉末230gを得た。
【0051】
(2)HAオリゴ糖の糖組成
本実施例2(1)のHAオリゴ糖10mgを超純水1mLに溶解して、濃度1(w/v)%の水溶液を調製した。これを孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過した後、試験方法(1)と同条件のHPLCに供して、糖組成(1~13糖以上のそれぞれの含有割合)を確認した。その結果を図8に示す。
【0052】
図8に示すように、HAオリゴ糖は、13糖以上を39.53質量%含み、12糖~2糖をそれぞれ0.08~8.38質量%ずつ含む糖組成であることが明らかになった。
【0053】
(3)70(v/v)%エタノール可溶画分の糖組成
本実施例2(1)のHAオリゴ糖50mgを超純水15mLに溶解した。これをスターラーで攪拌しながら、試薬特級エタノール35mLをゆっくりと加えて全量を50mLとした。すなわち、HAオリゴ糖の終濃度が1.0(w/v)%で、かつ、エタノールの終濃度が70(v/v)%である液を作成した。これを4℃で一晩静置したところ、翌朝には液が白濁していた。白濁した液をよく振り混ぜて40mLを遠沈管に入れ10000×gで15分遠心したのち、デカンテーションで上清とペレットとに分離して回収した。すなわち、この上清には、HAオリゴ糖のうち70(v/v)%濃度のエタノール水溶液に溶け易い成分(可溶画分)が含まれる。一方、ペレットにはHAオリゴ糖のうち70(v/v)%濃度のエタノール水溶液に溶けにくい成分(不溶画分)が含まれる。
【0054】
上清(可溶画分)全部をエバポレータで蒸発乾固させた。これに超純水1mLを加え、よく振り混ぜて溶解した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過した。濾液のうち2μLを試料として、試験方法(1)と同条件のHPLCに供して、HAオリゴ糖可溶画分の糖組成を求めた。その結果を図9に示す。
【0055】
図9に示すように、上清(可溶画分)は、13糖以上を30.76質量%含み、12糖~1糖をそれぞれ0.08~9.20質量%ずつ含む糖組成であることが明らかになった。すなわち、上清(可溶画分)の糖組成は、図8に示す水溶液中のHAオリゴ糖の糖組成と近似していた。この結果から、1~12糖程度のHAオリゴ糖は、高濃度のエタノール水溶液によく溶解することが明らかになった。
【0056】
(4)70(v/v)%エタノール不溶画分の糖組成
本実施例2(3)のペレット(不溶画分)に超純水1mLを加え溶解させた後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過した。濾液のうち5μLを試料として、試験方法(1)と同条件の分析条件のHPLCに供して、HAオリゴ糖不溶画分の糖組成を求めた。その結果を図10に示す。
【0057】
図10に示すように、ペレット(不溶画分)は、13糖以上を78.50質量%含み、12糖~3糖をそれぞれ0.11~5.87質量%ずつ含み、2糖~1糖を含まない糖組成であることが明らかになった。この結果から、HAオリゴ糖のうち12糖以下のものは、高濃度のエタノール水溶液によく溶解することが明らかになった。
【0058】
以上の本実施例2(2)~(4)の結果をまとめて図11に示す。図11に示すように、13糖以上では、不溶画分の含有割合が可溶画分の含有割合を上回っていた。これに対して12~1糖では、可溶画分の含有割合が不溶画分の含有割合を上回っていた。この結果から、12糖以下のHAオリゴ糖は、高濃度のエタノール水溶液における溶解性が高いことが明らかになった。すなわち、高濃度のアルコール溶液に配合するHAオリゴ糖は、12糖以下が好ましいことが明らかになった。
【0059】
<実施例3>イソプロパノールにおけるコンドロイチン硫酸オリゴ糖の溶解性の検討
実施例1(1)のCSオリゴ糖を70%(v/v)%イソプロパノールに溶解し、CSオリゴ糖の終濃度が0.1(w/v)%で、かつ、イソプロパノールの終濃度が70(v/v)%である液を作成した。これを4℃で一晩静置した後、観察したところ、沈殿物は生成せず、均一に溶解した状態が保たれていた。この結果から、1~16糖程度のCSオリゴ糖は、高濃度のイソプロパノール水溶液によく溶解することが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11