(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129095
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】遮音構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20220829BHJP
G10K 11/168 20060101ALI20220829BHJP
B32B 3/08 20060101ALI20220829BHJP
B32B 3/24 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/168
B32B3/08
B32B3/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027658
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517033746
【氏名又は名称】旭機工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510128225
【氏名又は名称】松陽産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貝瀬 智昭
(72)【発明者】
【氏名】井上 諭
(72)【発明者】
【氏名】滝川 宇志
(72)【発明者】
【氏名】山城 理幸
(72)【発明者】
【氏名】小美堂 信
(72)【発明者】
【氏名】石田 淳一
【テーマコード(参考)】
4F100
5D061
【Fターム(参考)】
4F100AB00A
4F100AB00E
4F100AG00A
4F100AG00E
4F100AK00A
4F100AK00E
4F100AK04B
4F100AK04D
4F100AK10E
4F100AK15B
4F100AK15D
4F100AK75E
4F100AN00B
4F100AN00D
4F100AN02E
4F100AP00A
4F100AP00E
4F100AR00C
4F100AR00E
4F100AT00B
4F100AT00D
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100DB17E
4F100DC11A
4F100DC11E
4F100DC16A
4F100DC16E
4F100DG10A
4F100DG10E
4F100DJ00E
4F100GB08
4F100JH01C
4F100JK01A
4F100JK01E
4F100JK07E
5D061AA04
5D061AA06
5D061AA26
5D061BB02
5D061BB24
(57)【要約】
【課題】内圧を制御するためのポンプなどを備えた駆動装置に接続しなくても、加圧時に設定した内圧を長期間、保持することが可能な遮音構造体を提供する。
【解決手段】パネル状に形成される遮音構造体1である。
そして、薄膜材によって形成されて内部に気体が封入された袋体部2と、袋体部の側面となる第1面に密着させた複数の開口を有する面状材の第1剛性材31と、反対側の側面となる袋体部の第2面に密着させた複数の開口を有する面状材の第2剛性材32と、第1剛性材と袋体部と第2剛性材とを積層させた状態で保持させる枠体部4と、第1剛性材と袋体部との間及び前記第2剛性材と袋体部との間に介在させる弾性材(61,62)とを備えている。この弾性材は、枠体部の内周縁43に沿って配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル状に形成される遮音構造体であって、
薄膜材によって形成されて内部に気体が封入された袋体部と、
前記袋体部の側面となる第1面に密着させた複数の開口を有する面状材の第1剛性部と、
前記第1面の反対側の側面となる前記袋体部の第2面に密着させた複数の開口を有する面状材の第2剛性部と、
前記第1剛性部と前記袋体部と前記第2剛性部とを積層させた状態で保持させる枠体部と、
前記第1剛性部と前記袋体部との間及び前記第2剛性部と前記袋体部との間に介在させる弾性材とを備え、
前記弾性材は、少なくとも前記枠体部の内周縁に沿って配置されていることを特徴とする遮音構造体。
【請求項2】
前記内周縁に沿って配置される弾性材に加えて、前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方の縦方向又は横方向の中央付近にも前記弾性材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項3】
前記枠体部は、前記第1剛性部側及び前記第2剛性部側の少なくとも一方が対向する枠材間に架け渡される区画材によって区画されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の遮音構造体。
【請求項4】
前記区画材によって区画された領域にも、それぞれ前記弾性材が介在されていることを特徴とする請求項3に記載の遮音構造体。
【請求項5】
前記区画材が前記第1剛性部側と前記第2剛性部側の両方に配置されて対向する場合に、前記枠体部にスペーサが介在されて対向する前記区画材間に隙間が形成されることを特徴とする請求項3又は4に記載の遮音構造体。
【請求項6】
前記弾性材は、合成ゴム、ゴム系スポンジ又は樹脂系スポンジによって形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の遮音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル状に形成される遮音構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工事現場などの騒音発生源を囲う防音パネル、住宅の仕切り壁、遮音壁、遮音扉などのようにパネル状の遮音構造体が、騒音などを遮断するために設置されることが知られている(特許文献1-3など参照)。
【0003】
特許文献1に開示された遮音構造体は、可撓性を有する袋状の膜材を表面、裏面双方より金網等の開口を複数有する剛性材で挟み込み、膜材内の圧力を上昇させて剛性材と膜材とを一体化させた構造となっている。
【0004】
一方、特許文献2に開示された遮音構造体は、ゴム製の袋体の一面に鉄製の板状体を配置するとともに、袋体の他面に保持体となる網体を配置して、板状体と網体との間で袋体を加圧して、板状体に袋体を押し付けて密着させる構造となっている。
【0005】
要するに特許文献1,2に開示されたような長方形のパネル状の遮音構造体は、空気等の気体を注入して膜内に圧力(内圧)をかけることで、剛性材及び膜材のそれぞれに張力を発生させ、剛性を高めることで遮音性能を発揮させる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-219577号公報
【特許文献2】特開2017-227109号公報
【特許文献3】特許第5209037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように所定の遮音性能を確保するには、膜の内圧を保持することが必要不可欠であるが、大気圧や気温の変動に伴い膜内の気体が膨張と収縮を長期間繰り返すと、内圧が低下して、所定の遮音性能が得られなくなることがある。
【0008】
このような課題に対して、特許文献3に開示されているように、ポンプを備えた制御ユニットを配置して所定の内圧にその都度、制御することもできるが、防音壁等の大面積を要する防音装置に適用する場合には、ユニットが複数で構成されることになるため、気体供給用のチューブを連結するなど、手間とコストが増えることになる。
【0009】
そこで本発明は、内圧を制御するためのポンプなどを備えた駆動装置に接続しなくても、加圧時に設定した内圧を長期間、保持することが可能な遮音構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の遮音構造体は、パネル状に形成される遮音構造体であって、薄膜材によって形成されて内部に気体が封入された袋体部と、前記袋体部の側面となる第1面に密着させた複数の開口を有する面状材の第1剛性部と、前記第1面の反対側の側面となる前記袋体部の第2面に密着させた複数の開口を有する面状材の第2剛性部と、前記第1剛性部と前記袋体部と前記第2剛性部とを積層させた状態で保持させる枠体部と、前記第1剛性部と前記袋体部との間及び前記第2剛性部と前記袋体部との間に介在させる弾性材とを備え、前記弾性材は、少なくとも前記枠体部の内周縁に沿って配置されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記内周縁に沿って配置される弾性材に加えて、前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方の縦方向又は横方向の中央付近にも前記弾性材が配置されている構成とすることができる。
【0012】
また、前記枠体部は、前記第1剛性部側及び前記第2剛性部側の少なくとも一方が対向する枠材間に架け渡される区画材によって区画されている構成とすることができる。そして、前記区画材によって区画された領域にも、それぞれ前記弾性材が介在されている構成とすることができる。また、前記区画材が前記第1剛性部側と前記第2剛性部側の両方に配置されて対向する場合に、前記枠体部にスペーサが介在されて対向する前記区画材間に隙間が形成されることが好ましい。
【0013】
そして、このような前記弾性材は、合成ゴム、ゴム系スポンジ又は樹脂系スポンジによって形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の遮音構造体は、内部に気体が封入された袋体部とその両側面の第1剛性部及び第2剛性部とを積層させた状態で枠体部によって保持させる構成となっている。そして、枠体部の内周縁に沿った袋体部と第1剛性部及び第2剛性部との間のそれぞれには、伸縮性のある弾性材が介在されている。
【0015】
このため、大気圧や気温の変動に伴い膜内の気体が膨張と収縮を繰り返しても、枠体部の内周縁付近に配置された弾性材が伸縮して袋体部の変形に追従することで、内圧の低下を抑えて、所定の遮音性能を維持させることができる。すなわち、内圧を制御するためのポンプなどを備えた駆動装置に接続しなくても、加圧時に設定した内圧を長期間、保持することができる。
【0016】
また、袋体部の両側面の少なくとも一方の縦方向又は横方向の中央付近にも弾性材を配置することで、袋体部の側面が広くなっても収縮した袋体部を押さえつけることができるようになるなど、より内圧を保持する機能を高めることができる。
【0017】
さらに、枠体部の第1剛性部側及び第2剛性部側の少なくとも一方が対向する枠材間に架け渡される区画材によって区画されていれば、パネル状のユニットの面積を変えなくても、区画材により枠体部が区画されることによって固有振動数が変わって剛性則領域における充分な遮音量を得ることができるようになる。
【0018】
また、枠材間に架け渡される区画材によって区画された領域ごとに弾性材が追加で配置されていれば、すべての区画で内圧が確実に保持されるようになって、さらに一体性を高めることができる。
【0019】
一方、区画材が袋体部の両側面の対向する位置に配置されている場合でも、枠体部にスペーサを介在させて対向する区画材間に隙間が形成されるようにしておくことで、袋体部内で気体の流れが区画材によって妨げられるのを防ぐことができる。
【0020】
このような袋体部の内圧を長期間、保持できるようにするために配置される弾性材は、合成ゴム、ゴム系スポンジ又は樹脂系スポンジなどの入手しやすい材料によって簡単に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態の遮音構造体の構成を説明するための分解斜視図である。
【
図2】組み立てられた遮音構造体の側縁付近を拡大して示した説明図である。
【
図3】組み立てられた遮音構造体の上縁付近の構成を説明する断面図である。
【
図4】袋体部が膨張と収縮を繰り返すことで起きる現象を模式的に説明する図であって、(a)は弾性材が配置されていない状態を示す説明図、(b)は弾性材が配置されている状態を示す説明図である。
【
図5】弾性材が内圧に与える影響を確認するために行った実験に使用された本発明の実施の形態の遮音構造体の構成を、袋体部の第1面側のみで説明する斜視図である。
【
図6】実験の比較例とした試験体の構成を、袋体部の第1面側のみで説明する斜視図である。
【
図7】実験の比較例の試験体の構成を説明する断面図である。
【
図10】実施例1の遮音構造体の構成を説明するための分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の遮音構造体1の構成を説明するための分解斜視図である。また、
図2は、組み立てられた遮音構造体1の側縁付近を拡大して示した説明図である。
【0023】
本実施の形態の遮音構造体1は、正面視略長方形などのパネル状に形成される。例えば、複数のパネル状の遮音構造体1のユニットを並べることによって、工事現場などの騒音発生源を囲うことができる。また、2つの空間を区切る仕切り壁を、複数のパネル状の遮音構造体1によって構成することもできる。
【0024】
この遮音構造体1は、薄膜材によって形成されて内部に気体が封入された袋体部2と、その第1面に密着させた第1剛性部としての第1剛性材31と、第1面の反対側の第2面に密着させた第2剛性部としての第2剛性材32と、第1剛性材31と袋体部2と第2剛性材32とを積層させた状態で保持させる枠体部4と、第1剛性材31と袋体部2との間及び第2剛性材32と袋体部2との間に介在させる弾性材(61,62)とによって、主に構成される。
【0025】
袋体部2は、可撓性を有する薄膜材によって形成される。例えば、ポリエチレンシート、塩化ビニルシート、ゴムシートなどを袋状に成形することができる。また、薄膜材の厚さは、0.01mm-1mm程度が好ましい。
【0026】
袋体部2は、第1剛性材31と第2剛性材32という両側面に配置される剛性材の拘束によって形状が変形するため、初期の形状は限定されるものではない。例えば、長方形のポリエチレンシートを二つ折りにして、縁部21を溶着させて袋状に成形することができる。
【0027】
また、袋体部2には、図示していないが、内部に気体を注入するための逆止弁付き注入口が設けられ、必要に応じて排出口を設けることもできる。加圧時に内部に注入する気体は、空気、ヘリウムガス、二酸化炭素、窒素ガスなど特に限定されるものではない。
【0028】
さらに、袋体部2の縁部21には、必要に応じて正面視略長方形の弾性枠材(図示省略)を貼り付けることもできる。弾性枠材は、剛性材(31,32)の仕様によっては生じる膨張した袋体部2の枠体部4からの滑り抜けを防ぐために配置される滑り止め材で、クロロプレンゴム、EPDMゴム(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)など摩擦抵抗が確保できる素材が使用できる。また、弾性枠材を設けることで、袋体部2の縁部21が損傷するのを防ぐことができる。
【0029】
この弾性枠材は、内圧を保持させるために配置される伸縮性のある弾性材(61,62)とは別物で、枠体部4の対向する枠部(41,42)間内に収められ、枠部(41,42)からはみ出してはいない。これに対して本実施の形態の遮音構造体1には、
図2に示すように、第1弾性材61(第2弾性材62)が、枠体部4を構成する第1枠部41(第2枠部42)の内周縁43よりも中央側に、はみ出すように配置されることになるが、詳細については後述する。
【0030】
そして、袋体部2の側面となる第1面には、第1弾性材61を介在させる箇所以外は第1剛性材31を密着させる。第1剛性材31は、複数の開口を有する面状材である。すなわち格子の目が開口に該当する。第1剛性材31には、パンチングパネル、ファインメッシュ、ワイヤーメッシュ、金網、ハニカム材等の面状材として剛性が確保できる材料が使用できる。素材としては、金属、プラスチック、紙、木材、ガラスなどが使用できる。
【0031】
第1剛性材31の開口率は、例えば格子状であれば、横線及び縦線の線径(幅)と、横線及び縦線のピッチ(配置間隔)によって調整することができる。一方、第1剛性材31の面密度は、単位面積当たりの質量となるため、横線及び縦線の線径(幅)とピッチ(配置間隔)に加えて、横線及び縦線の素材(密度)によって調整することができる。
【0032】
袋体部2の第1面の反対側の側面となる第2面には、第2弾性材62を介在させる箇所以外は第2剛性材32を密着させる。この第2剛性材32は、上述した第1剛性材31と同様の構成となるため、重複する説明は省略する。第1剛性材31と第2剛性材32とは、開口率及び面密度がまったく同じ構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。すなわち、横線及び縦線の素材や線径(幅)を変えたり、横線及び縦線のピッチ(配置間隔)を変えたりすることで、開口率及び面密度が異なる組み合わせにすることができる。
【0033】
枠体部4は、少なくとも袋体部2の縁部21に沿って配置される正面視略長方形の枠材を備えている。この枠体部4は、第1剛性材31側に配置される第1枠部41と、第2剛性材32側に配置される第2枠部42とによって主に構成される。
【0034】
そして、第1枠部41は、上下に略平行に配置される長辺側の枠材となる横材411,411と、横材411,411の両端間を繋ぐように左右に略平行に配置される短辺側の枠材となる縦材412,412とによって、正面視略長方形に形成される。
【0035】
また、第2枠部42は、上下に略平行に配置される長辺側の枠材となる横材421,421と、横材421,421の両端間を繋ぐように左右に略平行に配置される短辺側の枠材となる縦材422,422とによって、正面視略長方形に形成される。
【0036】
第1枠部41及び第2枠部42は、袋体部2の内部を高圧にして膨張させた際に、大きく変形したり破損したりしない程度の剛性を有するように形成される。例えば、鋼材、アルミニウム、木材、プラスチックなどの断面視略L字形や断面視長方形の部材によって、長方形枠状に製作することができる。
【0037】
また、本実施の形態の遮音構造体1には、枠体部4を構成する第1枠部41と第2枠部42のそれぞれに、それらの長方形空間を長方形に区切る区画材として桟材5が取り付けられる。
【0038】
詳細には、第1枠部41では、長辺となる横材411,411間に縦桟となる桟材5が架け渡される。桟材5は、第1枠部41の縦材412,412間に略平行に等間隔で配置され、第1枠部41の長方形空間が、同じ大きさの複数の長方形に区画される。
【0039】
第2枠部42も同様に、長辺となる横材421,421間に縦桟となる桟材5が架け渡される。桟材5は、第2枠部42の縦材422,422間に略平行に等間隔で配置され、第2枠部42の長方形空間が、同じ大きさの複数の長方形に区画される。
【0040】
桟材5は、後述するように作用する圧縮力によって座屈しない程度の素材及び形状になっていればよい。例えば、鋼材、アルミニウム、木材、プラスチックなどによって直方体状に形成される。また、桟材5は、横材411,421に対して溶接などで接合させる構成であっても、ボルトなどで固定する構成であってもよい。
【0041】
本実施の形態の遮音構造体1では、
図1及び
図2に示すように、少なくとも枠体部4の内周縁43に沿って、第1剛性材31と袋体部2との間には第1弾性材61を介在させ、第2剛性材32と袋体部2との間には第2弾性材62を介在させる。
【0042】
第1弾性材61は、少なくとも枠体部4の内周縁43に沿って正面視略長方形の枠状に配置される。ここで、上下に略平行に配置される長辺を横材611,611とし、横材611,611の両端間を繋ぐように左右に略平行に配置される短辺を縦材612,612とする。
【0043】
さらに、第1弾性材61として、内周縁43に沿って枠状に配置される弾性材(611,612)に加えて、袋体部2の第1面の縦方向の中央付近にも弾性材となる中央材613が配置される。すなわち中央材613は、横材611と略平行に、縦材612,612間に架け渡される。
【0044】
袋体部2の第1面の反対側の側面となる第2面に配置される第2弾性材62は、上述した第1弾性材61と同様の構成となるため、重複する説明は省略する。第2弾性材62は、少なくとも枠体部4の内周縁43に沿って正面視略長方形の枠状に配置され、上下に略平行に配置される横材621,621と、横材621,621の両端間を繋ぐように左右に略平行に配置される縦材622,622と、横材621と略平行に縦材622,622間に架け渡される中央材623とを備えている。
【0045】
伸縮性のある第1弾性材61及び第2弾性材62は、クロロプレンゴム、EPDMゴム(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)などの合成ゴム、天然ゴムなどのゴム系スポンジ又はウレタンなどの樹脂系スポンジなどによって形成される。すなわち、収縮と復元の繰り返しに強い弾性材が使用できる。
【0046】
第1弾性材61及び第2弾性材62の厚さは、2mmから4mm程度、例えば約3mmで、厚すぎると第1弾性材61(第2弾性材62)が介在されていない箇所との差が大きくなり過ぎるので好ましくない。また、帯状の横材611,621の幅(内周縁43からの縦方向の突出量)や縦材612,622の幅(内周縁43からの横方向の突出量)は、25mm以上にするのが好ましい。
【0047】
要するに、
図3に示すように、枠体部4の内周縁43から下方(又は上方)に、25mm以上の高さで突出する横材611,621や縦材612,622を、第1枠部41側と第2枠部42側に設けるのが好ましい。
【0048】
ここで、
図4を参照しながら、弾性材(61,62)の機能について説明する。大気圧や気温の変動に伴って袋体部2の内部に充填された気体が膨張と収縮を繰り返すと、
図4(a)に示すように、第1剛性材31及び第2剛性材32は、袋体部2の変形に追従できずに、枠体部4の周辺で塑性変形を起こすことになる。
【0049】
第1剛性材31及び第2剛性材32が、袋体部2の膨張時の形状に塑性変形した状態で袋体部2の収縮が起きると、袋体部2の縁部21周辺で第1剛性材31及び第2剛性材32との間に隙間が生じることになる。
【0050】
このような隙間は、第1剛性材31の縁部311や第2剛性材32の縁部321が、第1枠部41と第2枠部42との間から抜け出したときにも生じることがある。この抜け出しは、縁部311,321の滑り抜けで起きる場合がある。また、第1枠部41と第2枠部42とをボルトで連結する場合に、縁部311,321に設けられるボルト穴が塑性変形したときなどにも生じる。このため、縁部311,321を開口のない平板状にするなどしてボルト穴の周縁を補強すれば、ボルト穴の拡幅による隙間の発生は抑えることができる。
【0051】
そして、このような隙間などが生じた状態で袋体部2が再び膨張すると、袋体部2と第1剛性材31(第2剛性材32)が一体化されていない箇所(特に、枠体部4近辺)に過度な応力がかかり、第1剛性材31(第2剛性材32)が折れ曲がって損傷することがある。
【0052】
また、袋体部2と第1剛性材31(第2剛性材32)との間に隙間があると、第1剛性材31及び第2剛性材32と袋体部2の膜材に加圧時に設定された張力が発生した状態にならず、剛性を高めることで得られる所望する遮音性能が得られなくなる。
【0053】
これに対して、
図4(b)に示すように、枠体部4の内周縁43に隣接した上記隙間が生じやすい位置の袋体部2と第1剛性材31(第2剛性材32)との間に、第1弾性材61(第2弾性材62)を介在させることで、隙間を埋めることができるようになる。
【0054】
第1弾性材61(第2弾性材62)は、弾性変形の繰り返しに強い材料によって形成されているので、袋体部2が膨張するときには収縮して袋体部2と第1剛性材31(第2剛性材32)との間に収まり、袋体部2が収縮するときには復元して袋体部2と第1剛性材31(第2剛性材32)との間を埋めることができる。
【0055】
そして、第1弾性材61(第2弾性材62)を介して袋体部2と第1剛性材31(第2剛性材32)とが一体化されれば、第1剛性材31及び第2剛性材32と袋体部2の膜材に設定された張力が維持された剛性の高い状態になって、所望する遮音性能が持続できるようになる。
【0056】
特に、ファインメッシュよりも剛性が高く塑性変形しにくいパンチングパネルのような材料を第1剛性材31及び第2剛性材32に使用することで、隙間が生じにくい状態にすることができ、枠体部4の内周縁43に沿って弾性材(61,62)を配置する効果をより高めることができる。
【0057】
図1の分解斜視図で示された第1枠部41と第1剛性材31と袋体部2と第2剛性材32と第2枠部42とは、積層されて第1枠部41と第2枠部42とがボルトや挟み金物によって連結されて一体化される。
【0058】
また、第1枠部41と第2枠部42との間には、
図3に示すように、一対の平板状のスペーサ7,7が、第1剛性材31及び第2剛性材32の縁部311,321並びに袋体部2の縁部21を挟むように配置される。スペーサ7は、ステンレス板、鋼板、アルミニウム板、木板、プラスチック板などによって形成される。
【0059】
このスペーサ7,7を介在させることによって、枠体部4の横材411,421にそれぞれ取り付けられた対向する桟材5,5間に、隙間を開けることができるようになる。このようにすることで、枠体部4を連結しても、桟材5,5間で袋体部2の内部が連通できるようになり、加圧時に袋体部2に注入された気体の移動が桟材5によって妨げられるのを防ぐことができる。
【0060】
膨張した袋体部2の側面には、第1剛性材31(第2剛性材32)が密着されている。袋体部2の内部は高圧になっているため、横線と縦線に囲まれた開口から、袋体部2の薄膜材が膨出された形態となる。
【0061】
要するに袋体部2の薄膜材は、張力が付与された状態になる。張力が付与された薄膜材は、入射音波に対する剛性が増加するため、剛性則によって振動しにくい状態になる。さらに、第1剛性材31(第2剛性材32)と袋体部2の薄膜材とが密着によって一体化することでも、入射音波に対する剛性を増加させることができる。
【0062】
このような袋体部2の薄膜材に張力が付与され、第1剛性材31(第2剛性材32)と袋体部2の薄膜材とが密着によって一体化して剛性が増加した状態は、上述したように第1剛性材31(第2剛性材32)と袋体部2との間に、伸縮性のある第1弾性材61(第2弾性材62)を介在させることで、長期間、維持させることができるようになる。
【0063】
ところで、剛性材(31,32)及び袋体部2の薄膜材の面密度と袋体部2の内圧とが一定になる場合は、剛性材(31,32)及び袋体部2が拘束された寸法に応じて固有振動数は変化し、その面積が小さくなるに従い、高域にシフトすることになる。そこで、桟材5を取り付けることで、桟材5と枠部(41,42)とで袋体部2の薄膜材及び剛性材(31,32)を囲んだ範囲のそれぞれにおいて、固有振動数を持つことができるようになる。
【0064】
すなわち、遮音パネルの縦横の長さに基づく外寸に依存して遮音欠損となる1次固有振動数が決定することになるが、桟をなくして面積を大きくすると、固有振動数が低周波数側にシフトし、低周波音領域(剛性則領域)の遮音量が得られる周波数範囲が狭くなる。
【0065】
これに対して、枠体部4に桟材5を配置することで、遮音パネルの遮音性能に影響を与える面積(以下、便宜的に「見かけの面積」という。)を小さくすると、遮音欠損となる1次固有振動数を高周波側にシフトさせることができる。桟材5を配置する場合、ピッチを細かくすることでより見かけの面積を小さくできるので、より高周波側に固有振動数を移動させることができる。
【0066】
そして、遮音欠損となる1次固有振動数を高周波側にシフトさせると、それに伴って低周波音領域の遮音量が得られる周波数範囲が広くなって、低周波音領域の遮音性能を向上させることができる。
【0067】
要するに、遮音パネルの1ユニットの面積を小さくすることで遮音欠損となる1次固有振動数を高周波側にシフトさせることはできるが、小さな面積のユニットで大面積を遮音する場合には、多数のユニットが必要となり、各ユニットの袋体部2をそれぞれ加圧したり、多数のユニットを設置したりする際に手間がかかるようになる。これに対して、桟材5を使って枠体部4の長方形空間を区画する場合は、1つの袋体部2を加圧するだけで済むので、加圧作業も含めて簡単に設置までを行うことができる。
【0068】
また、横材411,411(421,421)間に桟材5を架け渡すことによって、横材411,411(421,421)の内側への変形を抑えるための突っ張りの抵抗部材に桟材5をすることができる。そして、桟材5を配置することで枠体部4に変形が起き難くなった遮音構造体1は、上下にユニットを並べた場合でも、袋体部2の加圧によって隙間が生じることがほとんどなく、隙間による遮音欠損を抑えることができる。
【0069】
次に、本実施の形態の遮音構造体1の内圧の保持性能を確認するために行った実験結果について説明する。
実験では、枠体部4の内周縁43に沿って配置される弾性材の効果が確認できるように、
図5に示すように、中央材613が配置されていない弾性材(61,62)を備えた遮音構造体1Aを使用した。
【0070】
図5は、実験に用いられた試験体となる遮音構造体1Aの構成を、袋体部2の第1面側のみで説明する分解斜視図である。上述した遮音構造体1との相違点は、第1弾性材61及び第2弾性材62に中央材613,623が配置されていない点だけである。
【0071】
実験に使用した遮音構造体1Aの試料の詳細を記載する。袋体部2は、厚さ0.11mmで面密度0.253kg/m2のポリエチレンとナイロンの合成素材によって可撓性を有するように製作した。
【0072】
また、第1剛性材31及び第2剛性材32には、厚さ1mmのパンチングパネルを使用した。このパンチングパネルは、縁部311,321以外に多数の開口が設けられたもので、縁部311,321は開口のない平板状に形成されている。すなわち、第1枠部41と第2枠部42とを連結するボルトのボルト穴の周縁は、補強された状態になっている。
【0073】
また、正面視略長方形のスペーサ7は、厚さ3.2mmのステンレス板で製作した。そして、第1弾性材61及び第2弾性材62は、厚さ3mm、幅25mmの帯状のEPDMゴムスポンジによって製作した。また、枠体部4の横材411,421及び縦材412,422にはアングル材を使用し、桟材5には角パイプを使用した。
【0074】
一方、
図6と
図7には、実験の比較例とした試験体の構成を示した。
図6も
図5と同様に、比較例として製作した試験体の構成を、袋体部2の第1面側のみで説明する分解斜視図である。
【0075】
比較例の試験体と本発明の遮音構造体1Aとの最大の違いは、比較例の試験体には、弾性材(61,62)が配置されていない点である。また、比較例の試験体としては、第1剛性材31及び第2剛性材32に厚さ0.7mmのファインメッシュを使用した試験体(以下、「比較例」という。)と、厚さ1mmのパンチングパネルを使用した試験体(以下、「弾性材なし」という。)を製作した。ここで、ファインメッシュは、縁部311に至るまで開口(格子の目)が設けられている。
【0076】
実験では、温度と湿度を一定とした恒温室に、本発明の遮音構造体1A(以下、「弾性材あり」という。)と比較例の試験体(「比較例」、「弾性材なし」)を入れて、内圧保持性能の検証を行った。実験では、初期内圧を、「弾性材あり」の遮音構造体1Aと「弾性材なし」の試験体では5kPaとし、「比較例」の試験体では4kPaとした。
【0077】
図8に、実験結果を示した。
図8には、計測開始から17日間の内圧の変化が示されている。「弾性材あり」の遮音構造体1Aは、この期間での内圧の低下はほとんど起きていない。また、
図9に示した長期間(4ヶ月から6ヶ月程度)の内圧の変動結果を見ても、顕著な内圧低下が見られず、高い内圧保持性能があることが確認できた。
【0078】
一方、第1剛性材31及び第2剛性材32にファインメッシュを使用した「比較例」の試験体は、この短い17日間の間でも、徐々に内圧が低下していく傾向が見られた。さらに、第1剛性材31及び第2剛性材32にパンチングパネルを使用した「弾性材なし」の試験体については、わずか1週間程度で当初5kPaに設定された内圧が1kPaまで低下する結果となった。
【0079】
次に、本実施の形態の遮音構造体1,1Aの作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の遮音構造体1,1Aは、内部に気体が封入された袋体部2とその両側面の第1剛性材31及び第2剛性材32とを積層させた状態で枠体部4によって保持させる構成となっている。そして、枠体部4の内周縁43に沿った袋体部2と第1剛性材31及び第2剛性材32との間のそれぞれには、第1弾性材61と第2弾性材62が介在されている。
【0080】
このため、大気圧や気温の変動に伴い袋体部2の内部の気体が膨張と収縮を繰り返しても、枠体部4の内周縁43付近に配置された弾性材(61,62)が伸縮して袋体部2の変形に追従して、第1剛性材31(第2剛性材32)と袋体部2との一体化が維持され、内圧が保持されることになる。
【0081】
そしてその結果、内圧の低下が抑えられて、所望する遮音性能を維持させることができる。すなわち、内圧を制御するためのポンプなどを備えた駆動装置に接続しなくても、加圧時に設定した内圧を長期間、保持することができる。
【0082】
また、袋体部2の両側面の縦方向の中央付近にも弾性材である中央材613,623を配置した遮音構造体1は、袋体部2の側面が広くなっても収縮した袋体部2を中央付近でも押さえつけることができるようになるので、より内圧を保持する機能を高めることができる。
【0083】
さらに、枠体部4の第1枠部41及び第2枠部42の両方が、対向する横材411,411(421,421)間に架け渡される桟材5によって区画されていることで、パネル状のユニットの面積を変えなくても、桟材5により枠体部4が区画されることによって固有振動数が変わって剛性則領域における充分な遮音量を得ることができるようになる。
【0084】
また、一対の桟材5,5が袋体部2の両側面の対向する位置に配置されている場合でも、枠体部4にスペーサ7を介在させて対向する桟材5,5間に隙間が形成されるようにしておくことで、袋体部2の内部で気体の流れが桟材5,5によって妨げられるのを防ぐことができる。
【0085】
このような袋体部2の内圧を長期間、保持できるようにするために配置される伸縮自在な弾性材(61,62)は、合成ゴム、ゴム系スポンジ又は樹脂系スポンジなどの入手しやすい材料によって簡単に形成することができる。
【0086】
そして、気体が封入された袋体部2並びに第1剛性材31、第2剛性材32及び枠体部4によって構成される遮音構造体1,1Aは、弾性材(61,62)を取り付けても軽量に製作することができる。軽量化された遮音構造体1,1Aであれば、工事現場や住宅内などの様々な場所に容易に設置することができる。
【実施例0087】
以下、前記実施の形態で説明した遮音構造体1,1Aとは別の形態の実施例1の遮音構造体1Bについて、
図10を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
【0088】
本実施例1で説明する遮音構造体1Bは、
図10に示すように、枠体部4に区画材として取り付けられた桟材5によって区画された領域のそれぞれにも弾性材が介在されている。以下、遮音構造体1Bの第1弾性材61B及び第2弾性材62Bの構成について説明する。
【0089】
第1弾性材61Bは、枠体部4の内周縁43に沿って正面視略長方形の枠状に配置される横材611,611及び縦材612,612と、横材611,611間に架け渡される区画用材614とによって主に構成される。
【0090】
横材611などと同じ伸縮性のある弾性材によって形成される区画用材614は、縦材612,612間に略平行に等間隔で配置される。すなわち、第1枠部41に取り付けられた桟材5,5間の横方向の中央付近に、区画用材614が配置される。
【0091】
袋体部2の第1面の反対側の側面となる第2面に配置される第2弾性材62Bは、上述した第1弾性材61Bと同様の構成となるため、重複する説明は省略する。
【0092】
このように枠体部4の横材411,411(421,421)間に架け渡される桟材5によって区画された領域ごとに弾性材である区画用材614が追加で配置されていれば、すべての区画で内圧が確実に保持されるようになって、さらに一体性を高めることができる。
【0093】
なお、実施例1のこの他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるため説明を省略する。
【0094】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0095】
例えば、前記実施の形態では、枠体部4の内周縁43に沿って正面視略長方形又は正面視「日」字状に弾性材(61,62)を配置した例を説明し、実施例1では正面視略長方形が縦桟で区画された形状の弾性材(61B,62B)を配置した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、正面視略長方形の内部にX字状、V字状に弾性材が配置されていてもよい。また、袋体部2の側面の全体が覆われるように弾性材が配置されていてもよい。
【0096】
また、前記実施の形態及び実施例1では、枠体部4に桟材5を設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、第1枠部41及び第2枠部42のみの正面視略長方形だけの構成であってもよい。さらに、区画材として、格子状、トラス状となる区画材を設けることもできる。