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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129110
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】取水装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 9/04 20060101AFI20220829BHJP
   E02B 7/26 20060101ALI20220829BHJP
   E02B 7/20 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
E02B9/04 C
E02B7/26 B
E02B7/20 109
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027676
(22)【出願日】2021-02-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】591180624
【氏名又は名称】日東河川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】桑島 聡明
【テーマコード(参考)】
2D019
【Fターム(参考)】
2D019AA57
2D019BA21
(57)【要約】
【課題】電力を使用することなく取水の制限と取水復帰とを自動で行うことができる取水装置を提供する。
【解決手段】河川Rから取水する取水路Cに設置される取水装置10であって、取水路Cにおける開口Caを開閉する弁体11と、取水路C内の水Wの水位に応じて昇降するフロート12と、フロート12と弁体11とを連結する連結機構15と、を備えており、連結機構15は、フロート12に第一端部が連結され、一端と他端との間に設けられた揺動軸16a周りに揺動する、剛体によって形成された揺動部材16を有しており、揺動部材16の第二端部は、第二端部が上下に揺動すると、弁体11の第一面11aが取水路Cにおける開口Caが設けられた壁面CFに接触した状態で壁面CFに沿って移動するように弁体11と連結されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川から取水する取水路に設置される取水装置であって、
取水路における開口を開閉する弁体と、
取水路内の水の水位に応じて昇降するフロートと、
該フロートと前記弁体とを連結する連結機構と、を備えており、
該連結機構は、
前記フロートに第一端部が連結され、第一端部と第二端部との間に設けられた揺動軸周りに揺動する揺動部材を有しており、
該揺動部材の第二端部は、
該第二端部が上下に揺動すると、前記弁体の第一面が取水路における開口が設けられた壁面に接触した状態で該壁面に沿って移動するように前記弁体と連結されている
ことを特徴とする取水装置。
【請求項2】
前記連結機構は、
前記揺動部材の第二端部と前記弁体とを連結する連結部材を有している
ことを特徴とする請求項1記載の取水装置。
【請求項3】
前記取水路における開口が設けられた壁面と前記弁体との間には、両者の摺動抵抗を小さくする摺動部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1または2記載の取水装置。
【請求項4】
取水路には、
開口の下方に取水路における開口が設けられた壁面と交差する交差面が設けられており、
前記弁体の下端縁には、
該弁体が前記交差面に接触した際に、該弁体の下端と前記交差面との間をシールするシール部材が設けられており、
前記揺動部材は、
前記弁体の上端部に回転可能に連結されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の取水装置。
【請求項5】
前記連結機構の揺動部材は、
その第一端部が前記フロートに固定されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の取水装置。
【請求項6】
前記弁体によって開閉される開口が形成され、前記弁体が開口が形成された壁面に沿って移動可能に設けられた壁と、
前記壁と連結され、前記連結機構の揺動軸が設けられる保持部材と、を有するフレーム部を有している
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の取水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取水装置に関する。さらに詳しくは、河川から分岐した取水路等に設けられ、取水を制限する取水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電所などでは、河川の途中に堰を設けて取水が行われている。河川水の取水については、事前に取水量などについて河川管理者から水利使用許可を得て行われており、許可取水量を超過した取水は認められていない。このため、河川からの取水するための取水路等には取水量を制御するために取水装置が設けられている。この取水装置には、取水路等における流路面積を制限するゲートが設けられており、河川や取水路等の水位が一定以上になった場合には、このゲートを作動させることによって許可取水量を越えないように取水量を制限している。
【0003】
ところで、大雨等に起因して河川や取水路等の水位が一定以上になった場合にはゲートを閉めなければならない一方、水位が元の状態に戻った場合には取水を元の状態に戻すためにゲートを開く必要がある。ゲートの開閉作業を作業者が行う場合、ゲートが重いので作業者の負担が大きい。また、大雨等で水位が一定以上になった場合には作業者の作業に危険が伴うので、取水装置のゲートの開閉は自動で行われることが望ましい。
【0004】
大規模な河川に設けられた取水装置では、ゲートの作動を電動化して、自動で開閉する構造を採用している。一方、山間部などの小規模な河川(渓流など)に設けられた取水装置では、電源を確保することが困難であるなどの問題があるためゲートの作動を電動化することが難しい。
【0005】
そこで、小規模な河川(渓流など)に設けられる取水装置として、ゲートと連結されたフロートを設けて、取水路等の水位に応じてフロートが昇降し、このフロートの昇降に伴ってゲートが開閉するようにしたものが開発されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
特許文献1には、可動体(フロート)と連結された弁体が取水管の取水口を開閉することによって取水量を調整でき、水位が一定以上になった場合には取水口を完全に閉塞するようにした取水装置が開示されている。この取水装置では、弁体が回転軸に揺動可能に取り付けられているので、水位が上がって可動体が上昇すると弁体が下方に揺動して取水口を閉塞し、水位が下がって可動体が下降すると弁体が上方に揺動して取水口を開くことができる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5025740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の取水装置では、水位が上がった場合には弁体によって取水口を自動で閉塞することはできる。しかし、弁体によって取水口が閉塞された後、水位が取水口が閉塞した水位になっても弁体を自動で開かせることは難しい。なぜなら、特許文献1の取水装置の場合、弁体によって取水口を閉塞した状態では、弁体に対して水流からの水圧が加わっており、この水圧が弁体が揺動する際に大きな抵抗となるからである。もちろん、水位が取水口が閉塞した水位よりも大きく低下すれば、弁体に対して加わる水圧が小さくなるので取水口を開くことはできるが、所定の水位、つまり、本体取水を再開させたい水位まで復帰してから取水口を開くまでにタイムラグが大きくなり、適切なタイミングで取水を再開することが難しい。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、電力を使用することなく取水の制限と取水復帰とを自動で行うことができる取水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の取水装置は、河川から取水する取水路に設置される取水装置であって、取水路における開口を開閉する弁体と、取水路内の水の水位に応じて昇降するフロートと、該フロートと前記弁体とを連結する連結機構と、を備えており、該連結機構は、前記フロートに第一端部が連結され、一端と他端との間に設けられた揺動軸周りに揺動する揺動部材を有しており、該揺動部材の第二端部は、該第二端部が上下に揺動すると、前記弁体の第一面が取水路における開口が設けられた壁面に接触した状態で該壁面に沿って移動するように前記弁体と連結されていることを特徴とする。
第2発明の取水装置は、第1発明において、前記連結機構は、前記揺動部材の第二端部と前記弁体とを連結する連結部材を有していることを特徴とする。
第3発明の取水装置は、第1または第2発明において、前記取水路における開口が設けられた壁面と前記弁体との間には、両者の摺動抵抗を小さくする部材が設けられている
ことを特徴とする。
第4発明の取水装置は、第1、第2または第3発明において、取水路には、開口の下方に取水路における開口が設けられた壁面と交差する交差面が設けられており、前記弁体の下端縁には、該弁体が前記交差面に接触した際に、該弁体の下端と前記交差面との間をシールするシール部材が設けられており、前記揺動部材は、前記弁体の上端部に回転可能に連結されていることを特徴とする。
第5発明の取水装置は、第1から第4発明のいずれかにおいて、前記連結機構の揺動部材は、その第一端部が前記フロートに固定されていることを特徴とする。
第6発明の取水装置は、第1から第5発明のいずれかにおいて、前記弁体によって開閉される開口が形成され、前記弁体が開口が形成された壁面に沿って移動可能に設けられた壁と、前記壁と連結され、前記連結機構の揺動軸が設けられる保持部材と、を有するフレーム部を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、取水路内の水の水位に応じてフロートが昇降すれば、弁体によって取水路における開口を開閉することができる。しかも、弁体が壁面に沿って移動するように設けられているので、弁体に水圧が加わっても、弁体の移動抵抗を小さくすることができる。また、揺動部材の揺動によってフロートの昇降を弁体の移動に変換するので、フロートの移動と弁体の移動との連動性を高めることができる。
第2発明によれば、揺動部材と弁体との相対的な移動の自由度を高めることができる。
第3発明によれば、弁体が壁面に沿って移動する際の移動抵抗を小さくできるので、水位の変動と弁体の移動とを連動させやすくなる。
第4発明によれば、フロートが上昇して弁体が下方に移動した際に、弁体と交差面との間のシール性を高めることができる。
第5発明によれば、フロートの移動と弁体の移動の連動性をより高めることができる。
第6発明によれば、取水路への取水装置の設置が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の取水装置10を取水路Cに設けた状態の概略説明図であって、(A)は開口Caが完全に開いた状態であり、(B)は弁体11によって開口Caが完全に閉じられた状態である。
図2】(A)は本実施形態の取水装置10を取水路Cに設けた状態の概略平面図であり、(B)は(A)のB-B線矢視図である。
図3】本実施形態の取水装置10を交差面CSが無い取水路Cに設けた状態の概略説明図であって、(A)は開口Caが完全に開いた状態であり、(B)は弁体11によって開口Caが完全に閉じられた状態である。
図4】(A)はフレーム部FRを有する本実施形態の取水装置10を取水路Cに設けた状態の概略平面図であり、(B)は(A)のB-B線矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の取水装置は、河川等から取水する取水量を調整するために取水路に設けられる装置であって、電力を使用せずに取水量の調整を自動で行えるようにしたものである。
【0014】
本実施形態の取水装置が設けられる場所は、河川等から取水する取水路であればよく、設置される取水路は限定されない。作業者等が容易にアクセスできない場所に設けられた取水路、とくに、重機等の機械を使用することが困難な場所に設置する取水装置として、本実施形態の取水装置は適している。例えば、山間の渓流等から取水する取水路に設置する取水装置等として、本実施形態の取水装置は適している
【0015】
また、本実施形態の取水装置は、取水路の水位が上限水位以上になった際に取水を停止し、水位が上限水位よりも低下した際に取水を再開するために設ける取水装置として使用することができる。また、上記以外の目的にも、本実施形態の取水装置を使用することは可能である。
【0016】
以下では、河川等から取水する取水路において、取水路の水位が上限水位(例えば、越流天端)以上になった際に、取水を停止するために本実施形態の取水装置を設けた場合を説明する。
【0017】
なお、本実施形態の取水装置によって取水を停止する上限水位としては、取水路から許可取水量の水を取水できる最大水位である越流天端を採用することができる。また、越流天端よりも若干高い水位や若干低い水位を上限水位として採用することもできる。
【0018】
<取水路C>
まず、本実施形態の取水装置10が採用される取水路Cの概略を説明する。
図1に示すように、取水路Cは、上流側水路C1と下流側水路C2との間に両者を分離する壁CWが形成されており、この壁CWに上流側水路C1と下流側水路C2とを連通する開口Caが設けられている。この開口Caは、その上端が取水路Cの上流側水路C1における上限水位H1(図1参照)よりも下方に位置しており、上流側水路C1の水位が上限水位H1まで上昇すると、所定の取水量(許可取水量)となるように形成されている。
【0019】
なお、壁CWの上流側の壁面CFは、後述する弁体11の第一面11aと壁CWの壁面CFとの接触状態を面接触に近い状態にするため、言い換えれば、壁面CFと後述する弁体11の第一面11aとの間に隙間ができないように、ここでいう「隙間ができない」とは、壁面CFと後述する弁体11の第一面11aとの間からほとんど水が漏れない場合と、若干の漏れが生じする場合を含んでいる。
【0020】
<本実施形態の取水装置10>
つぎに、本実施形態の取水装置10を説明する。
図1に示すように、本実施形態の取水装置10(以下、単に取水装置10という場合がある)は、取水路Cの上流側水路C1に設けられている。つまり、本実施形態の取水装置10は、取水路Cの壁CWよりも上流側に設けられている。
【0021】
<弁体11>
本実施形態の取水装置10は、開口Caを開閉する弁体11を備えている。この弁体11は板状の部材であり、その板状の本体の一方の面に摩擦抵抗の小さい素材によって形成された摺動部材11fが設けられている。この摺動部材11fの表面11a(以下では弁体11の第一面11aという場合がある)は平面に形成されており、この第一面11aを取水路Cの壁CWの壁面CFに接触させた状態で、壁CWの壁面CFに沿って上下方向に移動できるように設けられている。例えば、壁CWの壁面CFに弁体11の上下方向の移動を案内する案内機構を設けて、壁CWの壁面CFに沿った弁体11の移動を案内させることができる。案内機構としては、例えば、壁CWの壁面CFの開口Caの側方に上下方向に沿って伸びる溝を備えた一対のレール状部材CR,CRを採用することができる(図2(B)参照)。かかる一対のレール状部材CR,CRを設ければ、この一対のレール状部材CR,CRの溝に弁体11の両側端部を挿入することによって、一対のレール状部材CR,CRに案内されて弁体11を上下方向に移動させることができる。
【0022】
なお、摺動部材11fは、弁体11が移動する際に、取水路Cの壁CWの壁面CFとの間に発生する摩擦が小さくなる部材であればよく、その素材はとくに限定されない。例えば、高分子ポリエチレン等のように摩擦抵抗の小さい素材によって摺動部材11fを形成することができる。
また、取水路Cの壁CWの壁面CFに摩擦抵抗の小さい素材によって形成された部材(壁側摺動部材)を設けてもよい。つまり、取水路Cの壁CWの壁面CFにおいて、弁体11と接触する部分に壁側摺動部材を設けてもよい。この壁側摺動部材を設けた場合、弁体11にも摺動部材11fを設けてもよいが、弁体11には摺動部材11fを設けなくてもよい。つまり、弁体11の本体の一方の面を、直接、取水路Cの壁CWの壁面CF、つまり、取水路Cの壁CWの壁面CFに設けられた壁側摺動部材に接触させるようにしてもよい。壁側摺動部材も、摺動部材11fと同様に、その素材はとくに限定されず、例えば、高分子ポリエチレン等のように摩擦抵抗の小さい素材を採用することができる。
もちろん、弁体11の本体の一方の面と取水路Cの壁CWの壁面CFとを直接接触させても、両者間の摩擦抵抗が小さく、後述するように弁体11をフロート12の動きに応じてスムースに移動させることができるのであれば、摺動部材11fや壁側摺動部材は設けてなくてもよい。
【0023】
<フロート12>
図1および図2に示すように、本実施形態の取水装置10は、フロート12を有している。このフロート12は、後述する連結機構15を介して弁体11を上下方向に移動させる駆動力を発生させるものである。
【0024】
<連結機構15>
図1および図2に示すように、取水路Cの上流側水路C1には、壁CWの壁面CFによりも上流側に連結機構15が設けられている。この連結機構15は、フロート12の浮力による移動を利用して、弁体11を上下方向に移動させる機能を有するものである。
【0025】
<揺動部材16>
図1および図2に示すように、連結機構15は、取水路Cに設置された揺動軸16aによって揺動可能に設けられた揺動部材16を有している。具体的には、揺動軸16aは、取水路Cの壁CWの壁面CFと平行かつ水平となるように、上流側水路C1の上限水位H1よりも上方に設けられている。そして、揺動部材16は、その一端部と他端部との間の位置が揺動軸16aに対して回転可能に設けられている。つまり、揺動部材16は、揺動軸16aを介して、揺動軸16a周りにその両端が上下方向に揺動するように取水路Cの上流側水路C1に設けられている。
【0026】
この揺動部材16の第一端部にはフロート12が固定されている。このフロート12は、少なくとも、取水路Cの上流側水路C1内の水位が上限水位H1になると上流側水路C1内の水に浮かび、水位が上限水位H1を超えると揺動部材16の第二端部を下方に揺動させることができるように、揺動部材16の第一端部に連結されている(図1(B)参照)。
【0027】
なお、フロート12は、上流側水路C1内の水位が上限水位H1以下の状態から上流側水路C1内の水に浮かぶようになっていてもよい。この場合でも、上限水位H1(またはその近傍の水位)までは、弁体11によって開口Caの開口面積が小さくならないように連結機構15は調整される。
【0028】
<連結部材17>
一方、揺動部材16の第二端部は、連結部材17を介して、弁体11に連結されている。具体的には、連結部材17は、例えば、金属などで形成された軸状の部材であり、その第一端部が揺動部材16の第二端部に揺動可能に連結されており、その第二端部が弁体11の上端に揺動可能に連結されている。より詳しく言えば、連結部材17の第一端部と揺動部材16の第二端部とは、上述した揺動軸16aと平行な揺動軸17aによって連結されており、この揺動軸17a周りに連結部材17が揺動部材16に対して揺動可能に連結されている。また、連結部材17の第二端部と弁体11の上端とは、上述した揺動軸16aと平行な揺動軸17b(つまり揺動軸17aと平行な揺動軸17b)によって連結されており、この揺動軸17b周りに連結部材17が弁体11に対して揺動可能に連結されている。
【0029】
以上のような構造であるので、本実施形態の取水装置10は、取水路Cの上流側水路C1内の水位によって以下のように作動する。
【0030】
まず、取水路Cの上流側水路C1内の水位が低い場合には、フロート12は揺動軸16aよりも下方に位置する(図1(A)参照)。つまり、揺動部材16の第一端部が揺動軸16aよりも下方に位置し、揺動部材16の第二端部が揺動軸16aよりも上方に位置した状態になる。この状態では、弁体11は、その下端が取水路Cの壁CWに設けられた開口Caよりも上方に配置されるので、開口Caを通して、取水路Cの上流側水路C1から下流側水路C1に所定の取水量以下の水が流れる。
【0031】
また、取水路Cの上流側水路C1内の水位が上昇すると、フロート12は水位の上昇にともなって上方に移動し、揺動部材16の第一端部が上昇する。すると、揺動部材16の第二端部が下降し、連結部材17を介して弁体11が下方に移動される。しかし、取水路Cの上流側水路C1内の水位が上限水位H1以下の場合には、弁体11は、その下端が取水路Cの壁CWに設けられた開口Caの上端よりも上方に位置するので、開口Caを通して、取水路Cの上流側水路C1から下流側水路C1に所定の取水量以下の水が流れる。
【0032】
一方、取水路Cの上流側水路C1内の水位が上限水位H1を超えると、弁体11は、その下端が取水路Cの壁CWに設けられた開口Caの上端よりも下方まで移動し、開口Caの開口面積を低減させる。すると、開口Caを通して取水路Cの上流側水路C1から下流側水路C2に流れる水の量が、所定の取水量を越えないように制限される。
【0033】
取水路Cの上流側水路C1内の水位の上昇に伴ってフロート12は上昇し、弁体11の下方への移動量が大きくなるので、開口Caの開口面積が小さくなっていく。そして、取水路Cの上流側水路C1内の水位が水位H2まで上昇すると、弁体11は、取水路Cの壁CWに設けられた開口Caを完全に塞ぐ位置まで下降し、開口Caを通した取水が停止される(図1(B)参照)。
【0034】
なお、弁体11の下端が交差面CSに接触するまで、揺動部材16が揺動した後もさらに水位H2が上昇すると、フロート12に発生する浮力が大きくなるので、その浮力に起因して、弁体11の下端を交差面CSに押しつける力が発生する。したがって、弁体11の下端と交差面CSとの間を通って水が流れることを防止する効果が高くなる。
【0035】
取水路Cの上流側水路C1内の水位が水位H2を越えた後、水位が減少すると、水位の減少にともなってフロート12が発生する浮力が小さくなり、フロート12は下方に移動しようとする。すると、揺動部材16を介して弁体11を上方に移動させようとする力が発生する。このとき、弁体11には、水圧によって取水路Cの壁CWの壁面CFに押し付ける力が加わっているので、この力によって弁体11と壁面CFとの間には摩擦抵抗が発生しており、この摩擦抵抗が弁体11の移動抵抗になる。しかし、弁体11には摺動部材11fが設けられており、弁体11と壁面CFとの間の摩擦抵抗が小さくなっているので、弁体11を上方に移動させようとする力が発生すると、弁体11はスムースに上方に移動する。つまり、取水路Cの上流側水路C1内の水位が減少すれば、その水位の減少とほぼ連動するように弁体11を上方に移動させることができる。
【0036】
取水路Cの上流側水路C1内の水位がさらに減少すると、フロート12はさらに下降する。やがて、取水路Cの上流側水路C1内の水位が上限水位H1まで下降すると、弁体11は、その下端が取水路Cの壁CWに設けられた開口Caよりも上方に位置するまで移動する。すると、取水状態が、取水路Cの上流側水路C1内の水位が上限水位H1を超える前の取水状態に復帰する(図1(A)参照)。
【0037】
以上のように、本実施形態の取水装置10によれば、取水路Cの上流側水路C1内の水の水位に応じてフロート12が昇降すれば、弁体11によって取水路Cの壁CWに設けられた開口Caを開閉することができる。
【0038】
しかも、揺動部材16の揺動によってフロート12の昇降を弁体11の移動に変換しているので、フロート12の移動に対する弁体11の移動の連動性を高めることができる。
【0039】
また、弁体11が壁CWの壁面CFに沿って移動するように設けられており、しかも、弁体11と壁面CFとの間の摩擦抵抗が小さくなっている。したがって、弁体11によって取水路Cの壁CWに設けられた開口Caが閉じられた状態から、弁体11を上方に移動させて開口Caを開く際に、水位の減少に対して弁体11の移動を連動させることができる。
【0040】
<弁体11について>
弁体11は、その形状や素材はとくに限定されないが、連結機構15の連結部材17によって下方に押し付けられたときに、曲がったり座屈したりしない程度の剛性を有するように形成されていることが必要である。
【0041】
また、弁体11は、上述したように、壁CWの壁面CFに沿ってスムースに移動できるように設けられていればよいが、壁CWの壁面CFとの間に隙間ができるだけ小さくなるように形成されていればより望ましい。壁CWの壁面CFとの間に隙間ができないようにする上では、上述したように、弁体11は、第一面11aが平面に形成されていることが望ましい。
【0042】
弁体11の下端に、ゴムや樹脂等で形成されたシール部材11sを設けてもよい。かかるシール部材11sを設ければ、フロート12が上昇して弁体11が下方に移動して、弁体11の下端が交差面CSに押し付けられた際に、弁体11と交差面CSとの間のシール性を高めることができる。
【0043】
<フロート12について>
フロート12は、取水路Cの上流側水路C1内の水位が上限水位になると上流側水路C1内の水に浮かび、揺動部材16の揺動によって弁体11を移動させることができるように設けられていれば、その大きさや構造、弁体11を形成する素材はとくに限定されない。フロート12は、設置する環境に応じて適切な大きさや構造、素材を採用すればよい。しかし、本実施形態の取水装置10の運搬や設置を容易にする上では、フロート12はできるだけ小さく軽い方が望ましい。例えば、本実施形態の取水装置10を使用する場所が装置を人力で無ければ運搬できない環境であれば、人力で運搬や設置を容易にするために、フロート12は20kg以下が好ましい。
【0044】
フロート12は、取水路Cの水の水位に伴って移動すると、揺動部材16の第一端部をフロート12の移動方向と同じ方向に移動させることができるように連結されていればよく、その連結方法はとくに限定されない。とくに、フロート12が揺動部材16に対して相対的に移動しないように、フロート12の側面等が揺動部材16の第一端部に固定されていることが望ましい。かかる構成とすれば、フロート12の移動と揺動部材16の第一端部の移動との間にズレが生じないので、フロート12の移動と弁体11の移動との連動性をより高めることができる。
【0045】
<連結機構15について>
揺動部材16の第一端部と第二端部との間において、揺動部材16と揺動軸16aとを連結する位置はとくに限定されない。しかし、揺動部材16と揺動軸16aとを連結する位置は、少なくとも、フロート12に浮力が発生していない状態では、揺動部材16の第一端部が第二端部よりも下方に位置するように設ける。つまり、フロート12が取水路Cの上流側水路C1の水に浸漬していない状態では、揺動軸16aよりも揺動部材16の第一端部側の部材によって発生するモーメントが、揺動軸16aよりも揺動部材16の第二端部側の部材によって発生するモーメントよりも大きくなるように設ける。すると、フロート12からの浮力が加わっていない状態では、揺動部材16はその第一端部が第二端部よりも下方に位置するように揺動するので、弁体11を開口Caよりも上方に配置しておくことができる。
【0046】
なお、揺動軸16aよりも揺動部材16の第一端部側の部材とは、揺動部材16において揺動軸16aよりも第一端部側の部分およびフロート12を意味している。
また、揺動部材16の第二端部側の部材とは、揺動部材16において揺動軸16aよりも第二端部側の部分、連結部材17および弁体11を意味している。もちろん、弁体11と壁CWの壁面CFとの間に発生する摩擦もモーメントを発生させる力に含まれる。
【0047】
揺動部材16の長さや連結部材17の長さはとくに限定されない。しかし、上述したように、弁体11の下端を交差面CSに押しつける効果を高くする上では、揺動部材16の長さや連結部材17の長さは、以下の条件を満たすように調整されていることが望ましい。図1に示すように、揺動部材16の第二端部と連結部材17との連結位置と、弁体11と連結部材17との連結位置と、を結ぶ線をL1とする。そして、揺動部材16が揺動した際に、鉛直方向(図1の線CL)に対して線L1のなす角度θが±30°、好ましくは±20°の範囲で揺動するように、揺動部材16の長さおよび連結部材17の長さを調整する。すると、フロート12が上昇して揺動部材16の第二端部が下降した際に、連結部材17を介して揺動部材16の第二端部が弁体11を下方に移動させる力を、効果的に弁体11の下端を交差面CSに押しつける力として作用させることができる。
【0048】
上記例では、連結機構15が連結部材17を有する場合を説明したが、必ずしも上述したような連結部材17は設けなくてもよい。つまり、揺動部材16の第二端部と弁体11とを直接連結してもよい。例えば、揺動部材16の第二端部と弁体11との連結位置が、揺動部材16の軸方向(揺動軸16aを通り揺動部材16の第一端部と第二端部を繋ぐ方向)に沿って相対的に移動するように連結する。すると、揺動部材16の第二端部と弁体11とを直接連結しても、揺動部材16が揺動した際に、弁体11の第一面11aと壁面CFとを接触させた状態で弁体11を上下方向に移動させることができる。
【0049】
連結機構15の揺動部材16や連結部材17を形成する素材や各部材の形状はとくに限定されない。連結機構15の揺動部材16や連結部材17は、フロート12の昇降によって弁体11を移動させる際に、曲がったりしない程度の剛性を有するように形成されていればよい。つまり、フロート12が昇降すると、ほとんどタイムラグが無いように弁体11を移動させることができる程度の剛性を有するように連結機構15の揺動部材16や連結部材17は形成されていればよい。
【0050】
揺動軸16aを設ける高さもとくに限定されないが、取水路Cの上流側水路C1における上限水位H1よりも上方に位置すように設けることが望ましい。かかる高さに揺動軸16aを設ければ、弁体11を交差面CSに押し付ける力を発揮させやすくなる。
【0051】
<取水路Cについて>
上記例では、取水路Cが、開口Caの下方に壁面CFと交差する交差面CSが設けられている場合を説明したが、交差面CSが無い場合でも、本実施形態の取水装置10を開口Caを開閉する取水装置として使用してもよい(図3参照)。取水路Cが交差面CSを有しない場合には、本実施形態の取水装置10や取水路Cは、フロート12が最も上方まで上昇しても弁体11が開口Caを塞いでおくことができるような構造とすることが必要である。
例えば、フロート12が最も上方まで上昇しても、弁体11の上端が開口Caの上端よりも上方に位置するような長さに弁体11を形成すれば、上記機能を満たすことができる。
また、弁体11の上端が開口Caの上端よりも若干上方に位置するまで弁体11が下降すると、フロート12の上昇や連結機構15の揺動部材16の揺動が停止するようにしても、上記機能を満たすことができる。例えば、フロート12の上昇や揺動部材16の揺動を制限するストッパーを、本実施形態の取水装置10や取水路Cに設けてもよい。
【0052】
<壁CWについて>
壁CWは、取水路Cと一体に形成されたものでもよいが、取水路Cと別に形成して後から取り付けてもよい。例えば、取水路Cはコンクリートによって形成し、壁CWを鉄やステンレス等の金属製の板材で形成してもよい。この場合、壁CWの壁面CFを平坦面に形成し易くなるので、弁体11の第一面11aと壁CWの壁面CFとの接触状態を面接触に近い状態にできるから、弁体11による開口Caの閉鎖性を高くすることができる。
【0053】
<フレーム部FRについて>
また、上述したように、壁CWを取水路Cと別に形成する場合には、壁CWに連結された保持部材CHを設けてフレーム部FRとしてもよい。この場合、本実施形態の取水装置10を構成する部材を一つのユニットのようにすることができるので、本実施形態の取水装置10を取水路Cに設置する作業が容易になる。例えば、図4に示すように、壁CWの両側端縁から立設される一対の板材PR,PRによって保持部材CHを形成し、一対の板材PR,PR間に揺動軸16aを設置する。そして、揺動軸16aは、その軸が壁CWの表面と平行かつ弁体11の移動方向と直交するように配設する。すると、保持部材CHの一対の板材PR,PRの外面がそれぞれ取水路Cの一対の側壁SW,SWの内面に接触した状態かつ壁CWの下端が取水路Cの底に接触するように設置するだけで、取水装置10を設置することができる。
【0054】
なお、保持部材CHは、上述したような構造に限られず、揺動部材16が上述したような機能を発揮できるように揺動軸16aを保持できる形状および強度に形成されていればよい。
【0055】
また、フレーム部FRは、弁体11の下端が押し付けられる、交差面CSを有する底板BPを有していてもよい。かかる底板BPを設ければ、弁体11を下方に押し付けた際のシール性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の取水装置は、河川等から取水する取水量を調整するために設けられる装置に適している。
【符号の説明】
【0057】
10 取水装置
11 弁体
11a 第一面
11s シール部材
12 フロート
15 連結機構
16 揺動部材
16a 揺動軸
17 連結部材
FR フレーム部
CH 保持部材
R 河川
C 取水路
Ca 開口
CW 壁
CF 壁面
CS 交差面
H1 上限水位
H2 水位
図1
図2
図3
図4