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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129133
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】位相調整器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/295 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
G02F1/295
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027705
(22)【出願日】2021-02-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、「IoT機器増大に対応した有無線最適制御型電波有効利用基盤技術の研究開発(技術課題カ「光ファイバ無線技術によるモバイルフロントホールの大容量化・高効率化技術」)」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA28
2K102BA01
2K102BA07
2K102BB04
2K102BC10
2K102BD01
2K102CA20
2K102CA21
2K102DA04
2K102DC08
2K102DD07
2K102DD09
2K102EA05
2K102EB01
2K102EB06
(57)【要約】
【課題】無線伝送用の高周波信号(ミリ波信号)への変換前に、RoF方式の光信号に含まれる高周波信号の位相を制御するための技術を提供する。
【解決手段】光回路6は、光周波数フィルタ22、位相シフタ群23、及び光合波部24を有する。光周波数フィルタ22は、光源から出力された光を無線伝送用のミリ波信号(高周波信号)で変調して得られたRoF光(変調光)であって、搬送波と、上側帯波及び下側帯波のうちの一方の側帯波とを含むRoF光が入力され、当該RoF光に含まれる搬送波と側帯波とを分離して出力する。位相シフタ群23は、ミリ波信号の位相が調整されるように、光周波数フィルタ22により分離された搬送波及び側帯波に位相差を与える。光合波部24は、光シフタ群23から出力された搬送波と側帯波とを合波して出力する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線伝送用の高周波信号の位相調整を行う位相調整器であって、
光源から搬送波として出力される光を無線伝送用の高周波信号で変調して得られた変調光であって、前記搬送波と、上側帯波及び下側帯波のうちの一方の側帯波とを含む前記変調光が入力され、前記変調光に含まれる前記搬送波と前記側帯波とを分離して出力する、AWG型の第1光周波数フィルタと、
前記高周波信号の位相が調整されるように、前記第1光周波数フィルタにより分離された前記搬送波及び前記側帯波に位相差を与える位相シフタ群と、
前記位相シフタ群から出力された前記搬送波と前記側帯波とを合波して出力する光合波部と、
を備えることを特徴とする位相調整器。
【請求項2】
前記位相シフタ群は、前記搬送波に位相シフトを与える第1位相シフタと、前記側帯波に位相シフトを与える第2位相シフタとを含み、
前記位相シフタ群に含まれる各位相シフタは、ヒータと、前記ヒータにより温度が変化する導波路とを備え、前記導波路を通過する光に対して、前記ヒータによる前記導波路の加熱により位相シフトを与えるように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の位相調整器。
【請求項3】
前記高周波信号の位相の調整量は、前記位相シフタ群によって前記搬送波及び前記側帯波に与えられる前記位相差に応じて変化する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の位相調整器。
【請求項4】
前記第1光周波数フィルタは、
入力側及び出力側にそれぞれ複数のポートを備え、
前記入力側の1つのポートからの入力光に含まれる、前記搬送波の周波数の光と前記側帯波の周波数の光とを、前記出力側の個別のポートから出力するように構成されており、かつ、
前記入力光に含まれる前記搬送波の周波数の光と前記側帯波の周波数の光とを、前記出力側において、前記入力光が入力される前記入力側のポートに応じて異なるポートから出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の位相調整器。
【請求項5】
前記光合波部は、前記位相シフタ群から出力された前記搬送波と前記側帯波とを合流させるY分岐型の合波器で構成されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の位相調整器。
【請求項6】
前記光合波部は、前記第1光周波数フィルタと同一の構成を有するAWG型の第2光周波数フィルタで構成されており、
前記第2光周波数フィルタは、前記位相シフタ群を挟んで前記第1光周波数フィルタと入出力が対称となるように前記位相シフタ群と接続されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の位相調整器。
【請求項7】
前記変調光が入力される入力ポートと、
前記入力ポートから入力された前記変調光をN個(Nは2以上の整数)の変調光に分割して前記第1光周波数フィルタへ出力する光分岐部と、
前記N個の変調光にそれぞれ対応するN個の出力ポートと、
を更に備え、
前記第1光周波数フィルタは、前記N個の変調光のそれぞれについて、各変調光に含まれる前記搬送波と前記側帯波とを分離して前記位相シフタ群へ出力するように構成されており、
前記位相シフタ群は、前記N個の変調光のそれぞれについて、前記搬送波及び前記側帯波に位相差を与えるように構成されており、
前記光合波部は、前記N個の変調光のそれぞれについて、前記位相シフタ群から出力された前記搬送波と前記側帯波とを合波し、当該合波により得られた、前記位相調整が行われた変調光を、前記N個の出力ポートのうちで対応する出力ポートから出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の位相調整器。
【請求項8】
無線伝送用の高周波信号の位相調整を行う位相調整器であって、
光源から搬送波として出力される光を無線伝送用の高周波信号で変調して得られた変調光であって、前記搬送波と上側帯波と下側帯波とを含む前記変調光が入力され、前記変調光に含まれる前記搬送波と前記上側帯波と前記下側帯波とを分離して出力する、AWG型の第1光周波数フィルタと、
前記高周波信号の位相が調整されるように、前記第1光周波数フィルタにより分離された前記搬送波、前記上側帯波及び前記下側帯波に位相差を与える位相シフタ群と、
前記位相シフタ群から出力された前記搬送波と前記上側帯波と前記下側帯波とを合波して出力する光合波部と、
を備えることを特徴とする位相調整器。
【請求項9】
前記位相シフタ群は、前記搬送波に対する前記上側帯波の位相差と、前記搬送波に対する前記下側帯波の位相差とが、異なる極性を有し、かつ、同じ大きさを有するように、前記搬送波、前記上側帯波及び前記下側帯波にそれぞれ位相シフトを与える第1位相シフタ、第2位相シフタ及び第3位相シフタを含む
ことを特徴とする請求項8に記載の位相調整器。
【請求項10】
前記光合波部は、前記位相シフタ群から出力された前記搬送波と前記上側帯波と前記下側帯波とを合流させる三分岐型の合波器で構成されている
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の位相調整器。
【請求項11】
前記光合波部は、前記第1光周波数フィルタと同一の構成を有するAWG型の第2光周波数フィルタで構成されており、
前記第2光周波数フィルタは、前記位相シフタ群を挟んで前記第1光周波数フィルタと入出力が対称となるように前記位相シフタ群と接続されている
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の位相調整器。
【請求項12】
前記変調光が入力される入力ポートと、
前記入力ポートから入力された前記変調光をN個(Nは2以上の整数)の変調光に分割して前記第1光周波数フィルタへ出力する光分岐部と、
前記N個の変調光にそれぞれ対応するN個の出力ポートと、
を更に備え、
前記第1光周波数フィルタは、前記N個の変調光のそれぞれについて、各変調光に含まれる前記搬送波と前記上側帯波と前記下側帯波とを分離して前記位相シフタ群へ出力するように構成されており、
前記N個の位相シフタは、前記N個の変調光のそれぞれについて、前記搬送波、前記上側帯波及び前記下側帯波に位相差を与えるように構成されており、
前記光合波部は、前記N個の変調光のそれぞれについて、前記位相シフタ群から出力された前記搬送波と前記上側帯波と前記下側帯波とを合波し、当該合波により得られた、前記位相調整が行われた変調光を、前記N個の出力ポートのうちで対応する出力ポートから出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の位相調整器。
【請求項13】
前記光分岐部、前記第1光周波数フィルタ、前記位相シフタ群、及び前記光合波部は、1枚の基板上に形成された光回路の一部として構成され、前記基板上にモノリシック集積されている
ことを特徴とする請求項7又は12に記載の位相調整器。
【請求項14】
前記N個の出力ポートは、N個のアンテナ素子とそれぞれ対応付けられており、
前記N個の変調光のそれぞれについての前記高周波信号の位相の調整量に応じて、当該高周波信号の供給により前記N個のアンテナ素子からの電波の放射方向が制御される
ことを特徴とする請求項7、12及び13のいずれか1項に記載の位相調整器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線伝送用の高周波信号を光信号により伝送するシステムにおいて使用可能な位相調整器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話(特にスマートフォン)の普及はめざましく、データ通信のトラフィックの急増に対応するため、基幹局と無線アンテナ局の間を結ぶ通信路(モバイルフロントホール(MFH:Mobile Front Haul)とも称される。)の伝送容量を増加させる伝送方式が急務となっている。MFHにおいて現在普及している伝送方式は、光ファイバを用いる方式である。これは、電波の元となる高周波無線信号をそのまま同軸ケーブルで伝送するよりも、細くて軽量でかつ伝送損失が低い光ファイバで伝送するほうが、合理的で経済性に優れるからである。光ファイバを用いる伝送方式では、CPRI(common public radio interface)と呼ばれるデジタル伝送方式がよく用いられている(例えば、非特許文献1)。CPRIの伝送容量は最大で10Gb/s程度であり、現在普及している通常の基幹伝送網用の光ファイバ通信の伝送容量(100Gb/s×波長多重数80の場合、8000Gb/s)と比較してかなり少ない。これは、MFHは市内網であり、基幹網と比較して通信路の本数が極端に多いため、性能(すなわち伝送容量)よりは低コスト性が重要であるためである。
【0003】
また、ユーザ端末との間で電波を送信又は受信する無線アンテナ局(アンテナ及びその電源、無線機器並びにCPRI機器を含み、RRH(Remote Radio Head)と呼ばれる。)のサイズ小型化や運用コスト低減の視点から、RRHの簡素化が求められている。更に、アンテナの送受信効率の向上のため、アンテナは複数の小型アンテナから構成され(合成開口アンテナ)、電波の送受信を特定の方向に集中させる方式が採用されている。所望の特性を得るため、個々の小型アンテナに供給される高周波無線信号の位相及び振幅(すなわち波形)を適切に制御する必要がある。
【0004】
現在のMFHシステムでは、この無線信号(例えば電波が800MHz帯の場合には800MHzの高周波信号)をCPRI回線でデジタル伝送している。この場合、CPRI回線に必要な伝送容量は、800MHz(搬送波周波数)×2(標本化定理)×8bit(量子化数)=12.8Gb/s であり、CPRIの伝送能力の限界に達している。もちろん、符号化方式の改良等により改善の余地はあるが、抜本的な伝送能力の向上は望めない状況である。
【0005】
これに対し、第五世代(5G)又はそれ以降の携帯電話サービスでは、ユーザ端末との通信速度を向上させるため、現在、搬送波周波数を高める方向で開発が進んでいる。例えば、28GHzのミリ波を用いることが検討されているが、CPRI回線ではミリ波の無線信号をデジタル伝送するために必要な伝送容量が不足する。このようなCPRI回線の伝送容量の不足に対処するために、電波として送出されるミリ波信号等の高周波信号で光信号を強度変調して光ファイバで伝送するRoF(radio over fiber)方式が注目されている。RoF方式では、高周波信号波形をそのままアナログ方式で光信号の強度により表現するため、デジタル方式(CPRI)における標本化に伴う所要帯域の増大が発生しない。そのため、例えば28GHzのミリ波信号も容易に光ファイバで伝送可能であり、RoF方式は第五世代又はそれ以降で用いられる伝送方式の有力候補である。
【0006】
また、このように周波数の高い搬送波を用いるとアンテナの指向性が高まる。この場合、1つのRRHのカバーエリアを意図的に小さくし収容ユーザ数を低減することにより、1ユーザ当たりの伝送速度を向上させることが可能である。その際、需要に応じてアンテナの指向性を可変にする(すなわち電波の伝搬方向を制御する)ビームステアリング技術が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"W-CDMAシステムと共用可能なLTEシステム用無線基地局装置の開発", NTT DOCOMOテクニカルジャーナル, 2011年4月, vol.19, No.1, pp.20-25
【非特許文献2】H. Takahashi, K. Oda, H. Toba, Y. Inoue, Transmission characteristics of arrayed-waveguide N x N wavelength multiplexer, IEEE Journal of Lightwave Technology, Vol.13, No.3, pp.447-455, March 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
RRH等の無線アンテナ局においてビームステアリングを実現するためには、個々のアンテナに供給する高周波信号(ミリ波信号)の位相を高精度で制御する必要がある。しかし、RRHの小型化及び省電力化のためには、高周波信号用の位相制御器をアンテナ数だけRRHに導入することは望ましくない。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、MFHシステムにおいて、無線伝送用の高周波信号(ミリ波信号)への変換前に、RoF方式の光信号に含まれる高周波信号の位相を制御するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明の一態様に係る位相調整器は、無線伝送用の高周波信号の位相調整を行う位相調整器であって、光源から搬送波として出力される光を無線伝送用の高周波信号で変調して得られた変調光であって、前記搬送波と、上側帯波及び下側帯波のうちの一方の側帯波とを含む前記変調光が入力され、前記変調光に含まれる前記搬送波と前記側帯波とを分離して出力する、AWG型の第1光周波数フィルタと、前記高周波信号の位相が調整されるように、前記第1光周波数フィルタにより分離された前記搬送波及び前記側帯波に位相差を与える位相シフタ群と、前記位相シフタ群から出力された前記搬送波と前記側帯波とを合波して出力する光合波部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の一態様に係る位相調整器は、無線伝送用の高周波信号の位相調整を行う位相調整器であって、光源から搬送波として出力される光を無線伝送用の高周波信号で変調して得られた変調光であって、前記搬送波と上側帯波と下側帯波とを含む前記変調光が入力され、前記変調光に含まれる前記搬送波と前記上側帯波と前記下側帯波とを分離して出力する、AWG型の第1光周波数フィルタと、前記高周波信号の位相が調整されるように、前記第1光周波数フィルタにより分離された前記搬送波、前記上側帯波及び前記下側帯波に位相差を与える位相シフタ群と、前記位相シフタ群から出力された前記搬送波と前記上側帯波と前記下側帯波とを合波して出力する光合波部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、MFHシステムにおいて、無線伝送用の高周波信号(ミリ波信号)への変換前に、RoF方式の光信号に含まれる高周波信号の位相を制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】MFHシステムの概略的な構成例を示す図
図2】光回路の内部の概略的な構成例を示す図(第1実施形態)
図3】光回路を構成する光導波路の断面斜視図
図4】AWG型周波数フィルタの概略的な構成例、及び当該周波数フィルタにおける入出力ポート間を通過する周波数の関係の例を示す図
図5】位相シフタの概略的な構成例を示す斜視図及び断面図
図6】光回路の内部の概略的な構成例を示す図(第2実施形態)
図7】光回路の内部の概略的な構成例を示す図(第3実施形態)
図8】AWG型周波数フィルタの概略的な構成例、及び当該周波数フィルタにおける入出力ポート間を通過する周波数の関係の例を示す図(第3及び第4実施形態)
図9】光回路の内部の概略的な構成例を示す図(第4実施形態)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
以下で説明する実施形態では、基幹局からユーザ端末の方向の伝送(すなわち、RRHのアンテナからユーザ端末へ電波を送信する場合)について説明する。ただし、高周波信号及び光信号の流れを逆にすれば、ユーザ端末から基幹局の方向の伝送(すなわち、RRHのアンテナでユーザ端末からの電波を受信して基幹局に伝送する場合)も同様に説明できる。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る、高周波信号の位相調整器を活用したビームステアリング機能を有する、RoF方式が適用されたMFHシステムの概略的な構成例を示す図である。なお、MFHシステムの構成例は、第2実施形態以降の各実施形態も共通である。図1に示すMFHシステムは、光ファイバ10を介して接続された、基幹局1とRRH5とで構成される。基幹局1は、ミリ波送信機2、光強度変調器3、及び光源4を備えている。RRH5は、光回路6、N個のフォトダイオード(PD)7(7-1,7-2,...,7-N)、N個のミリ波増幅器8(8-1,8-2,...,8-N)、及びN個のアンテナ素子9(9-1,9-2,...,9-N)を備えている。なお、Nは2以上の整数であり、本明細書の各実施形態ではN=4の場合を例に説明を行う。
【0017】
ミリ波送信機2は、ユーザに送る信号でミリ波の搬送波を変調することで、アンテナから送信したいミリ波信号(高周波信号)を生成する。ミリ波送信機2によって生成されたミリ波信号は、光強度変調器3に入力される。光強度変調器3は、光源4で発生した光(無変調の連続波)をミリ波信号で強度変調することで、ミリ波信号の波形に応じて強度が変化する光を生成する。この光は、光ファイバ10を伝搬する、アンテナからの送信対象のミリ波信号(高周波信号)を搬送する、RoF方式の光信号である。(以下では、光強度変調器3によって生成される光を「RoF光」と呼ぶ。)このRoF光は、光源4から出力された光を無線伝送用の高周波信号で変調して得られた変調光に相当する。
【0018】
RoF光は、基幹局1から光ファイバ10へ出力される。RoF光は、光ファイバ10の中を伝搬し、RRH5に到達する。RRH5に到達したRoF光は、光回路6に入力される。なお、RoF光の周波数スペクトルは、通常、図1における挿入図にあるように、搬送波である光源4の周波数fC、及びその両側(高周波側及び低周波側)に、変調信号であるミリ波信号の周波数fRFだけ離れた周波数fL及びfUの周波数成分を有する。このように、RoF光は、搬送波周波数fCと下側波帯の周波数fLの光(下側帯波)と上側波帯の周波数fUの光(上側帯波)とを含む。あるいは、図1における挿入図にあるように、搬送波(fC)と、上側帯波(fU)及び下側帯波(fL)のうちの一方の側帯波とから成る、搬送波抑圧型片側帯波変調(SSB)の光が、RoF光として伝送されてもよい。この場合、光強度変調器3の工夫により又は変調後に光周波数フィルタを用いて上側帯波又は下側帯波を除去することによって、このようなRoF光が生成される。なお、図1には一例として、搬送波(fC)及び上側帯波(fU)から成るRoF光を示しており、以下ではこのような周波数成分を有するRoF光がRRH5へ伝送される場合を例に説明する。
【0019】
光回路6は、後述する原理に基づき、RoF光に含まれるミリ波信号の位相を制御し、N個のPD7にRoF光を分配する機能を有する。各PD7は、入力された光の強度を電気信号に変換(より具体的には光強度に比例する電流を出力)し、得られた電気信号を、それぞれ対応するミリ波増幅器8へ出力する。ミリ波増幅器8は、入力された電気信号を増幅し、増幅後の電気信号をミリ波信号として出力する。各ミリ波増幅器8から出力されたミリ波信号は、対応するアンテナ素子9からミリ波の電波として送出される。
【0020】
各アンテナ素子9から空間に送出された電波は、合成されて1つの電波となる。本実施形態では、各アンテナ素子9から送出されるミリ波の位相が一定間隔でずれるように、光回路6の機能により、各アンテナ素子9から送出されるミリ波の位相が制御される。その結果、各アンテナ素子9から送出されて合成されるミリ波は、図1に示すように、N個のアンテナ素子9の配列方向に対して垂直の方向を基準として角度θの方向に放射される。
【0021】
図2は、本実施形態に係る光回路6の内部の概略的な構成例を示す図である。本実施形態の光回路6は、位相調整された複数の高周波信号を得るための構成を有する。
【0022】
光回路6は、光を導波する線状の光導波路から構成されている。図3は、光回路6を構成する光導波路の断面斜視図である。図3に示すように、光導波路は、シリコン基板32と、シリコン基板32上に形成されたクラッド層33と、クラッド層33の中に埋め込まれた導波路コア31とから構成される。クラッド(クラッド層33)及びコア(導波路コア31)は、いずれも石英ガラスでできているが、コアにはゲルマニウムが添加されており、コアの屈折率はクラッドの屈折率よりやや高くなっている。これにより、コア内に光を閉じ込めて伝送する機能が実現されている。なお、光導波路には、本実施形態で使用している材料に限定されず、種々の誘電体、半導体、又は有機材料等の、種々の材料を使用可能である。
【0023】
図2に示すように、光回路6は、RoF光(変調光)が入力される入力ポート20、及び無線伝送用のミリ波信号の位相調整がそれぞれ行われたN個のRoF光を出力するN個の出力ポート25(25-1,25-2,...,25-N)を備えている(本例ではN=4)。なお、N個の出力ポート25は、N個のアンテナ素子9と対応付けられている。光回路6には、入力ポート20とN個の出力ポート25との間に、1×N型の分岐回路21(光分岐部)、AWG型の光周波数フィルタ22、位相シフタ群23、及び光合波部24が配置されている。光周波数フィルタ22は、入力側及び出力側にそれぞれ複数の(本例では8個の)ポートを備える。位相シフタ群23は、複数の光の位相シフタ(本例では8個の位相シフタ23-1~23-8)で構成される。なお、本実施形態において、光回路6は、無線伝送用の高周波信号の位相調整を行う位相調整器の一例を構成する。また、分岐回路21、AWG型の光周波数フィルタ22、位相シフタ群23、及び光合波部24は、1枚の基板(シリコン基板32)上に形成された光回路6の一部として構成され、当該基板上にモノリシック集積されている。
【0024】
分岐回路21は、入力ポート20に入力されたRoF光(変調光)をN個のRoF光に分岐(分割)して出力するように構成されている。入力ポート20には、光源4から出力された光を無線伝送用のミリ波信号で変調して得られたRoF光が入力される。分岐回路21は、分割後のN個のRoF光に対して、入力されたRoF光の電力(パワー)をN等分してもよいし、非等分で(例えば出力ポート25から出力されるN個のRoF光の電力に合わせて)配分してもよい。
【0025】
分岐回路21から出力されたN個のRoF光は、光周波数フィルタ22へ入力される。その際、図2に示すように、N個のRoF光は、光周波数フィルタ22の入力側のポートIN1,IN3,... へ入力される。光周波数フィルタ22は、入力側の各ポートから入力された入力光を、以下で説明する特性に従って、当該入力光に含まれる周波数ごとに、出力側における個別のポートOUT1,OUT2,OUT3,... から出力するように構成されている。
【0026】
後述するように、本実施形態の光周波数フィルタ22は、RoF光(変調光)に含まれる搬送波(fC)と、RoF光に含まれる側帯波(上側帯波(fU)及び下側帯波(fL)のうちの一方の側帯波)とを分離して出力する。光周波数フィルタ22によって分離された搬送波と及び側帯波は、位相シフタ群23へ入力される。位相シフタ群23は、入力された搬送波と及び側帯波に所望の位相差を与える。位相シフタ群23から出力された搬送波と及び側帯波は、光合波部24によって合波されて出力ポート25から出力される。
【0027】
光周波数フィルタ22は、図3に示すような多数の光導波路で構成されており、その概略的な構成例は図4(A)に示すとおりである(非特許文献2参照)。図4(B)は、図4(A)に示す構成において、入力側のあるポート(IN1,IN2,...,IN8)から入力された場合に、当該入力側のポートから出力側の各ポート(OUT1,OUT2,...,OUT8)へ到達する光の周波数を示している。例えば、周波数f7及びf8を含む光がポートIN7から入力されると、周波数f7の光がポートOUT1から出力され、f8の光がポートOUT2から出力される。周波数f7及びf8を含む光がポートIN5から入力されると、周波数f7の光がポートOUT3から出力され、f8の光がポートOUT4から出力される。本実施形態では、一例として、図4(B)において太線の枠で示す周波数f7及びf8を使用する。
【0028】
本実施形態では、搬送波(fC)及び上側帯波(fU)から成るSSB変調光をRoF光として伝送しているMFHシステムに、図2に示す光回路6を導入した場合を想定し、ミリ波信号の位相調整がどのように実現されるのかを以下に詳細に説明する。本実施形態の光周波数フィルタ22は、周波数f7が搬送波の周波数fCに一致し、周波数f8が上側帯波の周波数fUに一致するように設計されている。
【0029】
光回路6において、入力ポート20から入力された、周波数fCの光(以下、単に「fC」と称する。)と周波数fUの光(以下、単に「fU」と称する。)とを含むRoF光は、1×4型の分岐回路21によって4分割されて4つのポートから出力され、光周波数フィルタ22の入力側の4つのポートIN1,IN3,IN5,IN7に入力される。
【0030】
光周波数フィルタ22は、入力側のポートIN1に入力されたRoF光について、当該RoF光に含まれるfCとfUとを分離して、それぞれ出力側のポートOUT7,OUT8から出力する。即ち、光周波数フィルタ22は、搬送波(fC)と上側帯波(fU)とを分離して出力する。光周波数フィルタ22により分離された搬送波(fC)及び上側帯波(fU)は、それぞれ、位相シフタ群23(の位相シフタ23-7,23-8)へ入力される。
【0031】
このように、光周波数フィルタ22は、入力側の1つのポートからの入力光に含まれる、搬送波の周波数の光と側帯波の周波数の光とを、出力側の個別のポートから出力するように構成されている。更に、後述するように、光周波数フィルタ22は、入力光に含まれる搬送波の周波数の光と側帯波の周波数の光とを、出力側において、入力光が入力される入力側のポートに応じて異なるポートから出力するように構成されている。
【0032】
図5(A)及び(B)は、位相シフタ群23を構成する位相シフタのうちの2つの位相シフタの概略的な構成例を示す斜視図及び断面図である。図5には一例として、位相シフタ23-7及び23-8のペアを示しているが、位相シフタ23-1及び23-2のペア、位相シフタ23-3及び23-4のペア、位相シフタ23-5及び23-6のペアも同様である。また、図5には一例として、薄膜ヒータを用いる2つの位相シフタを示している。位相シフタ23-7(第1位相シフタ)は、薄膜ヒータ34-1と、当該ヒータにより温度が変化する導波路コア31-1とを備える。位相シフタ23-8(第2位相シフタ)は、薄膜ヒータ34-2と、当該ヒータにより温度が変化する導波路コア31-2とを備える。
【0033】
ここで、図5を用いて位相シフタの動作について説明する。第1位相シフタにおいて、シリコン基板32上のクラッド層33の表面には、金属でできた薄膜ヒータ34-1と、それにつながる電極42,43とが形成されている。なお、図5には示していないが、第2位相シフタについても薄膜ヒータ34-2につながる電極が同様に形成されている。電極42,43を通じて薄膜ヒータ34-1に電流を流すと、薄膜ヒータ34-1は発熱し、その直下の過熱領域44-1内にある導波路コア31-1の温度を上昇させる。その結果、導波路コア31-1における温度が上昇した部分の屈折率が熱光学効果により上昇し、当該部分を通過する際の光の伝搬速度が低下する。そのため、導波路コア31-1が加熱されていない状態と比較して、加熱された導波路コア31-1を光が通過した場合には光の位相が変化(遅延)を受ける。これは、薄膜ヒータ34-2及び導波路コア31-2を備える第2位相シフタも同様である。このように、位相シフタ群23に含まれる各位相シフタは、その導波路(導波路コア)を通過する光に対して、ヒータ(薄膜ヒータ)による導波路の加熱により位相シフト(位相変化)を与えるように構成されている。
【0034】
このような位相シフタの機構を利用して、搬送波(fC)及び上側帯波(fU)がそれぞれ通過する導波路(導波路コア)の加熱量を変えることで、搬送波及び上側帯波に位相差φを与えることが可能である。具体的には、搬送波(fC)が入力される位相シフタ23-7における導波路と、上側帯波(fU)が入力される位相シフタ23-8における導波路とを、それぞれ異なる加熱量で加熱する。これにより、fCとfUとの間に位相差が発生する。
【0035】
このようにして発生する位相差は、薄膜ヒータ34-1,34-2への印加電力と比例関係にある。クラッド層33の厚さに依存するが、例えば、180度の位相変化を発生させるのに必要な薄膜ヒータ34-1,34-2への印加電力は約0.3Wである。このように、位相シフタ23-7,23-8により搬送波(fC)及び上側帯波(fU)に与えられる位相差は、薄膜ヒータ34-1,34-2へ印加される電力に応じて変化する。
【0036】
なお、本実施形態においては、光導波路の材料がガラスである点を考慮し最も実用的な熱光学効果を原理とし、位相シフタによる位相差の発生には薄膜ヒータを使用しているが、その他の原理を用いて本発明の位相シフタを実現することも可能である。例えば、光導波路の材料が強誘電体(ニオブ酸リチウム等)の場合には電気光学効果を原理とし、熱の発生を伴わない電界を印加する方法を用いて位相シフタを実現してもよい。
【0037】
位相シフタ23-7,23-8により位相差が与えられた搬送波(fC)及び上側帯波(fU)は、光合波部24へ出力される。光合波部24は、位相シフタ群23から出力された搬送波(fC)と上側帯波(fU)とを合波し、得られたRoF光を、対応する出力ポート25-4から出力する。本実施形態では、光合波部24は、位相シフタ群23から出力された搬送波と側帯波(本例では上側帯波)とを合流させるY分岐型の合波器で構成されている。例えば、位相シフタ23-7,23-8から出力された搬送波(fC)及び上側帯波(fU)が、合波器において合流して合わされることで合波される。このようにして搬送波(fC)及び上側帯波(fU)が合波されることで、光周波数フィルタ22のポートIN1から入力されたRoF光が搬送する、ミリ波信号の位相が制御(調整)されたRoF光が、出力ポート25-4から出力される。
【0038】
出力ポート25-4から出力されるRoF光に含まれる、搬送波(fC)及び上側帯波(fU)の和の電界Eは、位相シフタ23-7,23-8で発生した、搬送波と上側帯波との間の位相差をφとすると、次式で与えられる。
ここで、ωCは搬送波の角周波数、ωUは上側帯波の角周波数、ωC=2πfC、ωU=2πfUであり、右辺第2項の係数1/2は、振幅変調においてよく知られている搬送波と側帯波との振幅比である。
【0039】
出力ポート25-4から出力されるRoF光は、図1に示すように、光回路6の後段に設けられたPD7へ入力される。なお、RoF光は、N個のPD7のうち、出力ポート25-4と接続されたPD7-4へ入力される。PD7は、入力されたRoF光を電気信号に変換して出力する。PD7による変換後の電流は、入力されるRoF光の電力と比例する。このRoF光の電力(パワー)Pは、次式のように計算される。
【0040】
RoF光の電力Pの成分のうち、100THz以上の光周波数領域の振動成分は、平均化されてPD7では検知されない。このため、RoF光の電力の時間平均を求めると、次式で与えられる。
この光電力振動をPD7で電流に変換した後にミリ波増幅器8で得られる電圧Vは、直流成分は遮断されるため、次式で与えられる。
【0041】
上式において、(ωU-ωC)は、搬送波と上側帯波との間の角周波数の差であり、RoF光が搬送するミリ波信号の各周波数に相当する(ωU-ωC=ωRF)。このため、ミリ波増幅器8で得られる電圧Vは、ミリ波送信機2によって生成されたミリ波信号の周波数RRFの高周波振動に相当する。即ち、ミリ波増幅器8の出力信号に、ミリ波送信機2によって生成されたミリ波信号が再現される。
【0042】
また、上式において、ミリ波信号の振動を示すcos関数の引数として、位相シフタ群23(位相シフタ23-7,23-8)によって与えられた位相差φが含まれている。位相シフタ23-7,23-8によってRoF光に与えられた、搬送波と上側帯波との間の位相差φは、RoF光から変換されたミリ波信号(高周波信号)において位相変化として表れることを示している。このミリ波信号の位相φは、アンテナ素子9から放射されるミリ波の位相と一致する。即ち、RoF光に与えた位相変化が、アンテナ素子9から放射されるミリ波の位相と一致する結果となる。
【0043】
このため、位相シフタ群23(位相シフタ23-7,23-8)によって搬送波(fC)及び上側帯波(fU)に位相差φを与えることで、RoF波によって搬送されるミリ波信号(高周波信号)の位相を制御(調整)できることになる。ミリ波信号の位相の調整量は、位相シフタ群23によって搬送波(fC)及び上側帯波(fU)に与えられる位相差φに応じて変化する。このように、本実施形態では、位相シフタ群23によってRoF光の位相を制御することにより、アンテナ素子9から放射されるミリ波の位相を制御(調整)することが可能である。
【0044】
上述の説明は、光周波数フィルタ22の入力側のポートIN1に入力されるRoF光についての説明であるが、ポートIN3,IN5,IN7に入力されるRoF光についても同様である。光回路6では、光周波数フィルタ22のポートIN1に入力されるRoF光は、ミリ波信号の位相調整が行われ、出力ポート25-4から出力される。同様に、光周波数フィルタ22のポートIN3,IN5,IN7に入力されるRoF光は、ミリ波信号の位相調整が行われ、それぞれ、出力ポート25-3,25-2,25-1から出力される。
【0045】
具体的には、以下のとおりである。
●光周波数フィルタ22のポートIN3に入力されたRoF光については、当該RoF光に含まれる搬送波(fC)及び上側帯波(fU)は、出力側においてポートOUT5及びOUT6から出力される。更に、搬送波及び上側帯波は、位相シフタ23-5,23-6によって位相差が与えられた後、光合波部24によって合波され、出力ポート25-3から出力される。
●光周波数フィルタ22のポートIN5に入力されたRoF光については、当該RoF光に含まれる搬送波(fC)及び上側帯波(fU)は、出力側においてポートOUT3及びOUT4から出力される。更に、搬送波及び上側帯波は、位相シフタ23-3,23-4によって位相差が与えられた後、光合波部24によって合波され、出力ポート25-2から出力される。
●光周波数フィルタ22のポートIN7に入力されたRoF光については、当該RoF光に含まれる搬送波(fC)及び上側帯波(fU)は、出力側においてポートOUT1及びOUT2から出力される。更に、搬送波及び上側帯波は、位相シフタ23-1,23-2によって位相差が与えられた後、光合波部24によって合波され、出力ポート25-1から出力される。
【0046】
光回路6では、分岐回路21によって分割されたN個のRoF光(変調光)に対して位相シフタ群23によって与える位相差φを、それぞれ独立して制御できる。そこで、N個のRoF光に対して与える位相差φを、ミリ波信号の位相が少しずつずれるように設定(例えば、出力ポート25-1,25-2,25-3,25-4からそれぞれ出力されるRoF光に対して与える位相差φとして、φ=0,10,20,30[度]を設定)する。このようにして、RRH5におけるビームステアリングに必要となる、位相差が等間隔の多数のミリ波を生成することが可能になる。
【0047】
図1に示すように、複数の(N個の)アンテナ素子9(9-1,9-2,...,9-N)に対し、位相が少しずつずれたミリ波信号が供給されて合成されたミリ波は、角度θの方向に放射されることになる。即ち、光回路6として構成された位相調整器による、N個のRoF光のそれぞれに対応するミリ波信号の位相の調整量に応じて、ミリ波信号の供給によりN個のアンテナ素子9からの電波の放射方向θが制御される。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る位相調整器として構成された光回路6は、光周波数フィルタ22、位相シフタ群23、及び光合波部24を有する。光周波数フィルタ22は、光源から出力された光を無線伝送用のミリ波信号(高周波信号)で変調して得られたRoF光(変調光)であって、搬送波と、上側帯波及び下側帯波のうちの一方の側帯波とを含むRoF光が入力され、当該RoF光に含まれる搬送波と側帯波とを分離して出力する。位相シフタ群23は、ミリ波信号の位相が調整されるように、光周波数フィルタ22により分離された搬送波及び側帯波に位相差を与える。光合波部24は、光シフタ群23から出力された搬送波と側帯波とを合波して出力する。
【0049】
このように、本実施形態では、RoF光の搬送波及び側帯波(上側帯波又は下側帯波)に対して位相シフタ群23により位相差φを与えることで、当該RoF光に含まれるミリ波信号の位相を調整する。これにより、無線伝送用のミリ波信号への変換前に、RoF方式の光信号であるRoF光に含まれるミリ波信号(高周波信号)の位相を制御することが可能になる。したがって、通常必要とされるミリ波帯の位相シフタが不要となり、すなわち、高周波信号用の位相制御器をアンテナ数だけRRHに導入することを不要にでき、これはRRHの小型化及び省電力化につながる。
【0050】
また、本実施形態では、位相シフタ群23に含まれる各位相シフタを、薄膜ヒータを使用して構成している。これにより、位相シフタの動作を薄膜ヒータに流す電流の制御により実現でき、非常に簡便で低コストの直流電源で位相シフタを動作させることが可能である(薄膜ヒータの制御は、レシート印字用の感熱紙プリンタ等で使われている汎用技術である。)。
【0051】
また、ビームステアリングを行うためには、複数のアンテナ素子に供給するためのミリ波信号を複数(N個)の信号に分岐する必要があるが、本実施形態によれば、光回路6の一部(分岐回路21)で分岐動作を実現できる。また、位相シフタ群23を構成する多数の位相シフタが必要になるが、各位相シフタのサイズは非常に小さい(例えば、幅が数十μm)ため、これらも1枚の基板上に集積することが可能であり、小型化・集積化の効果がある。
【0052】
なお、本実施形態では、入力側及び出力側のポート数が8のAWG型の光周波数フィルタを用いて、光回路6の出力ポート数4を実現しているが、本発明はこれに限定されず、より多くの出力ポート数を実現可能である。例えば、AWG型の光周波数フィルタのポート数は、最大で80程度であることが知られており、このため光回路6の出力ポート数は最大で40程度まで増やすことが可能である。
【0053】
[第2実施形態]
第1実施形態では、光回路6(図2)の光合波部24を、Y分岐型の合波器で構成している。これに対し、第2実施形態では、光合波部24を、AWG型の光周波数フィルタで構成する例について説明する。以下では、第1実施形態と共通する部分については説明を省略する。
【0054】
図6は、本実施形態に係る光回路6の内部の概略的な構成例を示す図である。光回路6の構成は、光合波部24が、Y分岐型の合波器ではなく、AWG型の光周波数フィルタ26で構成されている点で、第1実施形態の構成(図2)と異なっている。本実施形態の光合波部24は、光周波数フィルタ22と同一の構成を有するAWG型の光周波数フィルタ26で構成されている。光周波数フィルタ26(第2光周波数フィルタ)は、位相シフタ群23を挟んで光周波数フィルタ22(第1光周波数フィルタ)と入出力が対称となるように(即ち、鏡面対称の関係となるように)位相シフタ群23と接続されている。
【0055】
具体的には、光周波数フィルタ22において出力側として使用された各ポート(OUT1,OUT2,...,OUT8)が、光周波数フィルタ26において入力側のポートとして使用される。また、光周波数フィルタ22において入力側として使用された各ポート(IN1,IN2,...,IN8)が、光周波数フィルタ26において出力側のポートとして使用される。このように、本実施形態では、光周波数フィルタ22と同一の構成の光周波数フィルタに、光を逆向きに伝搬させて、光周波数フィルタ26として使用する。
【0056】
光回路6の上述の構成により、光周波数フィルタ22によって分離された、(分岐回路21から出力されるN個のRoF光についての)全てのfCとfUとのペアが、光周波数フィルタ26で合波されて出力される。例えば、光周波数フィルタ22の入力側のポートIN1から入力されたRoF光に含まれるfC及びfUは、出力側のポートOUT7及びOUT8から出力される。その後、fC及びfUは、それぞれ、位相シフタ23-7,23-8を通過後、光周波数フィルタ26の入力側の(図6において最下部の2つの)ポートに入力され、光周波数フィルタ26で合波されて出力ポート25-1から出力される。
【0057】
本実施形態の光回路6によれば、第1実施形態と同一の動作原理で、無線伝送用のミリ波信号への変換前に、RoF光に含まれるミリ波信号(高周波信号)の位相を制御することが可能になる。本実施形態では更に、実用上の改良点として、光合波部24をY分岐型の合波器で構成する際に生じる3dBの損失を回避することが可能になる。
【0058】
[第3実施形態]
第3実施形態では、MFHシステムにおいて伝送されるRoF光として、搬送波(fC)と上側帯波(fU)及び下側帯波(fL)とから成る、通常の振幅変調方式の変調光を使用する場合を想定して、光回路6を構成する例について説明する。以下では、第1実施形態と共通する部分については説明を省略する。
【0059】
図7は、本実施形態に係る光回路6の内部の概略的な構成例を示す図である。光回路6に使用されている分岐回路21、光周波数フィルタ27、位相シフタ群23、及び光合波部24は、それぞれ、第1実施形態における分岐回路21、光周波数フィルタ22、位相シフタ群23、及び光合波部24と同一の機能を有する。以下では、光の伝搬の順序に沿って光回路6の動作を説明する。
【0060】
入力ポート20から入力されたRoF光(変調光)は、分岐回路21によってN個のRoF光に分割される。なお、図7は、第1及び第2実施形態と同様、N=4の例を示している。分岐回路21から出力されたN個のRoF光は、光周波数フィルタ27の入力側のポートIN1,IN4,IN7,IN10にそれぞれ入力される。光周波数フィルタ27は、第1実施形態の光周波数フィルタ22と同様、AWG型の光周波数フィルタで構成されており、入力側及び出力側にそれぞれ12個のポートを有する。
【0061】
図8(A)は、光周波数フィルタ27の概略的な構成例を示している。図8(B)は、図8(A)に示す構成において、入力側のあるポート(IN1,IN2,...,IN12)から入力された場合に、当該入力側のポートから出力側の各ポート(OUT1,OUT2,...,OUT12)へ到達する光の周波数を示している。本実施形態の光周波数フィルタ27は、図8(B)に示す周波数f10、f11、及びf12が、それぞれ、下側帯波の周波数fL、搬送波の周波数fC、及び上側帯波の周波数fUに一致するように設計されている。
【0062】
光周波数フィルタ27は、図8(B)に示す関係に従って、入力側のポートIN1に入力されたRoF光について、当該RoF光に含まれるfLとfCとfUとを分離して、それぞれ出力側のポートOUT10,OUT11,OUT12から出力する。光周波数フィルタ27により分離された3つの周波数(fL,fC,fU)の光は、それぞれ、位相シフタ群23(の位相シフタ23-10,23-11,23-12)へ入力される。
【0063】
位相シフタ群23の各位相シフタは、入力される光に対して位相シフトを与える。ここで、位相シフタ23-10,23-11,23-12が、3つの周波数(fL,fC,fU)の光に対してそれぞれ与える位相シフトを、φ10,φ11,φ12とする。本実施形態では、φ10-φ11=-φ、及びφ12-φ11=φとなるように、位相シフタ23-10,23-11,23-12の薄膜ヒータに電力が印加される。このように、位相シフタ23-10,23-11,23-12(第1、第2及び第3位相シフタ)は、搬送波(fC)に対する上側帯波(fU)の位相差と、搬送波(fC)に対する下側帯波(fL)の位相差とが、異なる極性を有し、かつ、同じ大きさを有するように、搬送波、上側帯波及び下側帯波にそれぞれ位相シフトを与える。
【0064】
位相シフタ23-10,23-11,23-12により位相差が与えられた下側帯波(fL)、搬送波(fC)及び上側帯波(fU)は、光合波部24へ出力される。光合波部24は、位相シフタ群23から出力された下側帯波(fL)と搬送波(fC)と上側帯波(fU)とを合波し、得られたRoF光を、対応する出力ポート25-4から出力する。本実施形態の光合波部24は、位相シフタ群23から出力された下側帯波と搬送波と上側帯波とを合流させる三分岐型の合波器で構成されている。
【0065】
出力ポート25-4から出力されるRoF光の電界Eは、上記の3つの光の和であり、次式で与えられる。
ここで、右辺の第1項及び第3項の係数1/2は、振幅変調における搬送波と側帯波との振幅比である。
【0066】
出力ポート25-4から出力されるRoF光は、図1に示すように、光回路6の後段に設けられたPD7へ入力される。PD7は、入力されたRoF光を電気信号に変換して出力する。PD7による変換後の電流は、入力されるRoF光の電力と比例する。このRoF光の電力Pは、次式のように計算される。
【0067】
第1実施形態と同様、上式に基づいて、RoF光の電力の時間平均を求めると、次式で与えられる。
なお、上式の算出過程においてωC-ωL=ωU-ωL=ωRFの関係を用いている。この光をPD7で電流に変換した後にミリ波増幅器8による増幅が行われる。その際、ミリ波増幅器8では、動作帯域外にある直流成分及び2ωRFの周波数成分は増幅されない。したがって、ミリ波増幅器8で得られる電圧Vは、次式で与えられる。
【0068】
上式では、第1実施形態と同様、ミリ波信号の振動を示すcos関数の引数として、位相シフタ群23(位相シフタ23-10,23-11,23-12)によって与えられた位相差φが含まれている。したがって、第1実施形態と同様、位相シフタ群23によってRoF光の位相を制御することにより、アンテナ素子9から放射されるミリ波の位相を制御(調整)することが可能である。
【0069】
上述の説明は、光周波数フィルタ27の入力側のポートIN1に入力されるRoF光についての説明であるが、ポートIN4,IN7,IN10に入力されるRoF光についても同様である。
【0070】
光回路6では、分岐回路21によって分割されたN個のRoF光(変調光)に対して位相シフタ群23によって与える位相差φを、それぞれ独立して制御できる。第1実施形態と同様、出力ポート25-1,25-2,25-3,25-4からそれぞれ出力されるRoF光に対して与える位相差φを、ミリ波信号の位相が少しずつずれるように設定できる。これにより、RRH5におけるビームステアリングに必要となる、位相差が等間隔の多数のミリ波を生成することが可能になる。
【0071】
なお、本実施形態では、入力側及び出力側のポート数が12のAWG型の光周波数フィルタを用いて、光回路6の出力ポート数4を実現しているが、本発明はこれに限定されず、より多くの出力ポート数を実現可能である。例えば、AWG型の光周波数フィルタのポート数は、最大で80程度であることが知られており、このため光回路6の出力ポート数は最大で26程度まで増やすことが可能である。
【0072】
[第4実施形態]
第3実施形態では、光回路6(図7)の光合波部24を、Y分岐型の合波器で構成している。これに対し、第4実施形態では、光合波部24を、AWG型の光周波数フィルタで構成する例について説明する。以下では、第3実施形態と共通する部分については説明を省略する。
【0073】
図9は、本実施形態に係る光回路6の内部の概略的な構成例を示す図である。光回路6の構成は、光合波部24が、Y分岐型の合波器ではなく、AWG型の光周波数フィルタ28で構成されている点で、第3実施形態の構成(図7)と異なっている。本実施形態の光合波部24は、光周波数フィルタ27と同一の構成を有するAWG型の光周波数フィルタ28で構成されている。光周波数フィルタ28(第2光周波数フィルタ)は、位相シフタ群23を挟んで光周波数フィルタ27(第1光周波数フィルタ)と入出力が対称となるように(即ち、鏡面対称の関係となるように)位相シフタ群23と接続されている。
【0074】
具体的には、光周波数フィルタ27において出力側として使用された各ポート(OUT1,OUT2,...,OUT12)が、光周波数フィルタ28において入力側のポートとして使用される。また、光周波数フィルタ27において入力側として使用された各ポート(IN1,IN2,...,IN12)が、光周波数フィルタ28において出力側のポートとして使用される。このように、本実施形態では、光周波数フィルタ27と同一の構成の光周波数フィルタに、光を逆向きに伝搬させて、光周波数フィルタ28として使用する。
【0075】
光回路6の上述の構成により、光周波数フィルタ27によって分離された、(分岐回路21から出力されるN個のRoF光についての)全てのfLとfCとfUとのセットが、光周波数フィルタ28で合波されて出力される。例えば、光周波数フィルタ27の入力側のポートIN1から入力されたRoF光に含まれるfL、fC及びfUは、出力側のポートOUT10,OUT11,OUT12から出力される。その後、fL、fC及びfUは、それぞれ、位相シフタ23-10,23-11,23-12を通過後、光周波数フィルタ28の入力側の(図9において最下部の3つの)ポートに入力され、光周波数フィルタ28で合波されて出力ポート25-1から出力される。
【0076】
本実施形態の光回路6によれば、第3実施形態と同一の動作原理で、無線伝送用のミリ波信号への変換前に、RoF光に含まれるミリ波信号(高周波信号)の位相を制御することが可能になる。本実施形態では更に、実用上の改良点として、光合波部24を三分岐型の合波器で構成する際に生じる4.8dBの損失を回避することが可能になる。
【0077】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
1:基幹局、2:ミリ波送信機、3:光強度変調器、4:光源、5:RRH、6:光回路、7:PD、8:ミリ波増幅器、9:アンテナ素子、10:光ファイバ、20:入力ポート、21:分岐回路、22,26,27,28:AWG型周波数フィルタ、23:位相シフタ群、23-n:位相シフタ、24:光合波部、25-n:出力ポート
図1
図2
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図9