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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012914
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】逆入力低減機構
(51)【国際特許分類】
   B62D 7/22 20060101AFI20220107BHJP
   F16H 1/16 20060101ALI20220107BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20220107BHJP
   B62D 7/08 20060101ALI20220107BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B62D7/22
F16H1/16 Z
F16H25/20 Z
B62D7/08 Z
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115089
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】浅野 紘輝
【テーマコード(参考)】
3D034
3D333
3J009
3J062
【Fターム(参考)】
3D034BA02
3D034BA10
3D034BC03
3D034BC04
3D034BC16
3D034BC25
3D034CC12
3D034CC14
3D333CB02
3D333CB41
3D333CC14
3D333CC19
3D333CD05
3D333CD10
3D333CE04
3D333CE05
3J009DA20
3J009EA06
3J009EA19
3J009EA23
3J009EA32
3J009EA43
3J009EB17
3J009EC02
3J009ED17
3J009FA03
3J062AA01
3J062AB24
3J062AC07
3J062BA11
3J062CD03
3J062CD23
(57)【要約】
【課題】駆動対象の姿勢保持機能に優れ、構成が簡単で搭載性に優れた逆入力低減機構を得る。
【解決手段】駆動対象との接続部を持つ押引部材1と、押引部材1を往復移動させる駆動機構Kと、駆動機構Kの駆動力により動作し、押引部材1に当接して駆動対象から押引部材1に作用する逆入力に抵抗し押引部材1の位置保持を行う保持機構Hと、を備え、駆動機構Kが、駆動部3と、駆動伝達部4と、駆動力を押引部材1に出力する第1ギヤ4cと、第1ギヤ4cと歯合するよう押引部材1に設けられた第2ギヤ4dと、を備え、保持機構Hが、駆動部3によって駆動されるトリガ部Tと、トリガ部Tによって作動するリンク部Lと、リンク部Lに接続され、押引部材1の位置保持を行う保持姿勢と、押引部材1の位置移動を許容する解放姿勢とを取り得る保持部Bと、を備えた逆入力低減機構U。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象に接続する接続部を有する押引部材と、
前記押引部材を往復移動させる駆動機構と、
前記駆動機構の駆動力によって動作し、前記押引部材に当接することで、前記駆動対象から前記押引部材に作用する逆入力に抵抗し前記押引部材の位置保持を行う保持機構と、を備え、
前記駆動機構が、駆動部と、前記駆動部からの駆動力を伝達する駆動伝達部と、当該駆動力を前記押引部材に出力する第1ギヤと、前記第1ギヤと歯合するよう前記押引部材に設けられた第2ギヤと、を備え、
前記保持機構が、前記駆動部によって駆動されるトリガ部と、
前記トリガ部によって作動するリンク部と、
前記リンク部に接続され、前記押引部材の位置保持を行う保持姿勢と、前記押引部材の位置移動を許容する解放姿勢とを取り得る保持部と、を備えている逆入力低減機構。
【請求項2】
前記駆動伝達部が、
前記駆動部から駆動力を受けるウォームと、
前記ウォームに歯合するウォームホイールを外周面に備え前記第1ギヤを雌ネジ部として内周面に備える円筒状のナット部材と、を備え、
前記保持機構の保持部が保持姿勢にあるとき前記ナット部材の外面に当接するよう構成されている請求項1に記載の逆入力低減機構。
【請求項3】
前記トリガ部が、前記駆動部の出力軸と一体回転する本体部を備え、前記本体部の外周面に、軸支部および当該軸支部に揺動可能に支持された腕部が少なくとも一組備えられ、
前記トリガ部が静止している状態で、前記腕部が前記リンク部に当接不能となり、前記トリガ部の回転速度が一定以上であるとき、前記腕部が遠心力によって振り出され、前記リンク部に当接作用して前記保持部を解放姿勢に設定可能な請求項1または2に記載の逆入力低減機構。
【請求項4】
前記出力軸と前記駆動伝達部とが、あるいは、前記トリガ部と前記駆動伝達部とが、所定の回転角度の遊びを設けて係合している請求項3に記載の車両の逆入力低減機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動機構と押引部材を用いて駆動対象を往復移動させる装置において、駆動機構が静止している際には、駆動対象から押引部材に作用する逆入力の影響を緩和し、駆動機構の駆動に際しては押引部材を円滑に動作させる逆入力低減機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような逆入力低減機構としては例えば特許文献1に示すものがある。この技術は、車両の後輪のホイールアライメントを調整するアクチュエータに搭載されるものであって、車輪の転舵を行わない場合には、車輪の方向が変化することを防止するためにアクチュエータの構成部材をロックするものである。
【0003】
アクチュエータは、モータから減速機を介して伝達された駆動力によって回転する筒状の回転部材と、この回転部材の内部に挿通されつつ回転部材と螺合する直動部とを有する。回転部材を正逆回転させることで直動部が往復移動し、車輪の向きを変化させる。
【0004】
回転部材の外周部には、転舵操作を行わず回転部材が静止状態にある場合に回転部材の不意の回転を防止するロック機構が設けてある。ロック機構は、周方向に沿って連続的に凹部を有し回転部材に固定される環状のレシーバと、この凹部の一つに係合するよう突出・引退可能なピンを有するソレノイドとを備えている。
【0005】
本技術では、ピンでレシーバを係止する際に、まずピンの先端で凹部の表面を摩擦当接してロック動作を行い、さらに、ピンの先端に形成した円錐面が凹部の壁面に当接する。よって、仮に円錐面が壁面に当接する場合でも、摩擦力に抗いながら当接するため衝撃が少なくロック機能が高まるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-54536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の逆入力低減機構では、ピンが係合する凹部が断続的に構成されているため、回転部材を任意の回転姿勢でロックすることができない。よって、車輪の保持角度を正確に設定できない場合がある。
【0008】
また、従来の逆入力低減機構では、ロック機構に係るソレノイドがアクチュエータのモータとは別構成であり、夫々を個別に動作制御する必要がある。よって、ロック機構の構成が煩雑となる。また、構成部品が増えることで装置の体格が増し、搭載性が悪化する。
【0009】
このような実情に鑑み、従来から、駆動対象の姿勢保持機能に優れ、構成が簡単で搭載性に優れた逆入力低減機構が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(特徴構成)
本発明に係る逆入力低減機構は、
駆動対象に接続する接続部を有する押引部材と、
前記押引部材を往復移動させる駆動機構と、
前記駆動機構の駆動力によって動作し、前記押引部材に当接することで、前記駆動対象から前記押引部材に作用する逆入力に抵抗し前記押引部材の位置保持を行う保持機構と、を備え、
前記駆動機構が、駆動部と、前記駆動部からの駆動力を伝達する駆動伝達部と、当該駆動力を前記押引部材に出力する第1ギヤと、前記第1ギヤと歯合するよう前記押引部材に設けられた第2ギヤと、を備え、
前記保持機構が、前記駆動部によって駆動されるトリガ部と、
前記トリガ部によって作動するリンク部と、
前記リンク部に接続され、前記押引部材の位置保持を行う保持姿勢と、前記押引部材の位置移動を許容する解放姿勢とを取り得る保持部と、を備えた点に特徴を有する。
【0011】
(効果)
本構成の逆入力低減機構は、駆動対象から押引部材に逆入力が作用した場合でも、押引部材が不意に移動するのを防止する。そのために、保持部が、押引部材を位置保持する保持姿勢と当該位置移動を許容する解放姿勢とを取り得るように構成し、押引部材の移動を規制する期間を確保する。
【0012】
本構成では、特に、保持部の姿勢を変更する駆動力を、押引部材を移動させる駆動機構の動力を利用している。これにより、保持機構のための別途の駆動装置が不要となり、逆入力低減機構の体格を小さく留め、良好な搭載性を確保することができる。
【0013】
(特徴構成)
本発明に係る逆入力低減機構においては、前記駆動伝達部が、前記駆動部から駆動力を受けるウォームと、前記ウォームに歯合するウォームホイールを外周面に備え前記第1ギヤを雌ネジ部として内周面に備える円筒状のナット部材と、を備え、前記保持機構の保持部が保持姿勢にあるとき前記ナット部材の外面に当接するよう構成されていると好都合である。
【0014】
(効果)
本構成の逆入力低減機構は、駆動伝達部からの駆動力を第1ギヤ・第2ギヤを介して押引部材に出力する。第1ギヤは雌ネジ部であり、第2ギヤがこの雌ネジ部に歯合する。よって、押引部材に作用する逆入力に対しては、第1ギヤと第2ギヤとのネジピッチを所定の値に設定することで、押引部材の移動を効果的に阻止することができる。
【0015】
また、本構成では、駆動伝達部に設けられたナット部材を、ウォームとウォームホイールとで駆動する。これらウォームおよびウォームホイールも、逆入力に抵抗するには非常に有効である。
【0016】
さらに本構成では、保持姿勢にある保持部がナット部材の外面に当接してナット部材の回転を規制することができる。よって、押引部材に作用する逆入力の影響を最小限にとどめることができる。
【0017】
このように、保持部材がナット部材を押える構成とすることで、駆動機構と保持機構とが近接配置され、駆動機構の駆動力を保持機構に伝達することが容易となる。また、体格の小さな逆入力低減機構を得ることができる。
【0018】
(特徴構成)
本発明に係る逆入力低減機構にあっては、前記トリガ部が、前記駆動部の出力軸と一体回転する本体部を備え、前記本体部の外周面に、軸支部および当該軸支部に揺動可能に支持された腕部が少なくとも一組備えられ、前記トリガ部が静止している状態で、前記腕部が前記リンク部に当接不能となり、前記トリガ部の回転速度が一定以上であるとき、前記腕部が遠心力によって振り出され、前記リンク部に当接作用して前記保持部を解放姿勢に設定可能となるように構成することができる。
【0019】
(効果)
本構成であれば、駆動部の回転速度を変化させることで保持機構の機能を入り切りすることができる。駆動部の回転速度に基づくものであれば、押引部材の駆動に係る駆動部入力によって保持機構が従動する。よって、保持機構の動作タイミングも適切に設定することができる。保持機構に特段のアクチュエータや制御回路などを設ける必要もなく、簡略な構成の逆入力低減機構を得ることができる。
【0020】
また、腕部を軸支する構成であれば、腕部が姿勢変化するときの抵抗が極めて小さくなる。そのため、駆動部の駆動・停止に際して腕部が迅速に姿勢変化し、応答性の良い逆入力低減機構を得ることができる。
【0021】
さらに、遠心力で腕部が振り出される構成であれば、保持機構の体格もコンパクトに収めることができ、搭載性に優れた逆入力低減機構を得ることができる。
【0022】
(特徴構成)
本発明に係る逆入力低減機構にあっては、前記出力軸と前記駆動伝達部とを、あるいは、前記トリガ部と前記駆動伝達部とを、所定の回転角度の遊びを設けて係合していると好都合である。
【0023】
(効果)
本構成のごとく駆動部の出力軸あるいはトリガ部と、駆動伝達部との間に遊びを設けることで、駆動部の回転開始時に、駆動部のみが回転し、駆動伝達部であるウォームなどが回転しない状態を作ることができる。これにより、出力軸と一体回転するトリガ部に設けた腕部を広げる期間が確保され、保持機構の駆動動作と、押引部材の駆動動作との干渉を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係る逆入力低減機構を示す斜視図
図2】第1実施形態に係る逆入力低減機構を示す断面図
図3】第1実施形態に係る保持機構の要部を示す説明図
図4】第2実施形態に係る逆入力低減機構を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔第1実施形態〕
(概要)
本発明に係る逆入力低減機構Uは、例えば、車両等に搭載されて駆動対象を押し引き動作させる駆動機構Kに用いられる。駆動対象としては、伸縮させるステアリングロッドや、車輪の操舵を行うタイロッド、あるいは、伸縮して車高を調整するサスペンションなど各種の部位に適用可能である。この逆入力低減機構Uは、駆動機構Kを動作させる際にはその動作を円滑なものとし、駆動機構Kが停止している際には、駆動対象からの逆入力によって駆動対象に接続された押引部材1の姿勢が変化しないように保持する。この逆入力低減機構Uでは、押引部材1の位置を固定する保持状態と移動を許容する解放状態とを切り換える際に、駆動機構Kの駆動力を用いる点が特徴的である。以下、本発明に係る第1実施形態を、図1乃至図3を参照しつつ説明する。
【0026】
本実施形態の逆入力低減機構Uは、図2に示すように、駆動対象に接続する接続部2を備える押引部材1と、この押引部材1を往復移動させる駆動機構Kと、押引部材1の位置保持を行う保持機構Hと、を備えている。本実施形態では、例えば駆動対象が車輪であり、押引部材1は、車輪の方向を変えるタイロッドである。
【0027】
(駆動機構)
駆動機構Kは、電動式のモータ3aなどで構成される駆動部3と、駆動部3からの駆動力を伝達する駆動伝達部4を備えている。モータ3aは、双方向の駆動回転が可能なものであれば各種のものを利用可能である。駆動伝達部4としては、例えば図1に示すように、モータ3aからの駆動力を受けるウォーム4aと、ウォーム4aに歯合するウォームホイール4bとを備えている。この構成であれば大きな減速比が得られ、ウォームホイール4bからの逆入力に対するセルフロック機能が高く、ウォーム4aの不意の回転を抑える効果が高い。
【0028】
ウォームホイール4bは、円筒状のナット部材5の外周面に設けられている。このナット部材5には押引部材1が挿通されている。ナット部材5の内周面には駆動伝達部4としての第1ギヤ4cが設けられ、押引部材1の外周面には同じく駆動伝達部4として第1ギヤ4cに歯合する第2ギヤ4dが設けられている。第1ギヤ4cは雌ネジ部であり、第2ギヤ4dは雄ネジ部である。この第1ギヤ4cと第2ギヤ4dとにおいても夫々のピッチを所定の値に設定することで、押引部材1からの逆入力に有効に対抗することができる。
【0029】
押引部材1は棒状の部材であり、第2ギヤ4dを含む一部が長尺状のケーシング6に収められている。ケーシング6の2か所にはスラスト軸受け7が設けてあり、押引部材1のうち第2ギヤ4dを挟む2か所が支持されている。第1ギヤ4cの回転に際して押引部材1が回転不能に往復移動できるよう、押引部材1の側面にはコマ部材8が取り付けられ、当該コマ部材8は、ケーシング6に設けられたレール8bに沿って移動可能である。
【0030】
(保持機構)
保持機構Hは、押引部材1の駆動に際して、押引部材1の位置固定を解除し、押引部材1が静止状態にある場合に、押引部材1の位置を固定するものである。本実施形態では、図1に示すようにナット部材5をロックしあるいはロック解除することで押引部材1が逆入力を受けた際に不意に移動することを防止する。保持機構Hは駆動機構Kの駆動力を利用して駆動される。
【0031】
保持機構Hは、駆動機構Kからナット部材5に至るまでいくつかの部材で構成される。駆動機構Kの回転力は先ずトリガ部Tに伝達され、トリガ部Tが回転する。回転するトリガ部Tの一部はリンク部Lに作用し、駆動力の伝達方向が変更される。このリンク部Lの端部は、ナット部材5に作用する保持部Bに作用する。保持部Bは、ナット部材5の外周面を挟持してナット部材5の回転を阻止する保持姿勢と、挟持を緩めてナット部材5の回転を許容する解放姿勢とに切り替わる。
【0032】
(トリガ部およびリンク部)
図1に示すように、トリガ部Tは筒状の本体部9aと、本体部9aから例えば4方向に振り出し動作可能な腕部9bを備えている。腕部9bは、本体部9aに設けられた軸支部9cに揺動自在に支持されている。本体部9aは、モータ3aの出力軸3bに同軸心状に固定されている。出力軸3bと本体部9aとは一体回転する。モータ3aの出力軸3bは本実施形態では鉛直方向に沿う状態に設定され、そのため本体部9aに軸支された4つの腕部9bはモータ3aが静止した状態では下方に偏位しており、モータ3aの回転速度の高まりに応じて外方に振り出される。
【0033】
このように腕部9bを軸支する構成であれば、腕部9bが姿勢変化するときの抵抗が極めて小さい。そのため、駆動部3の駆動・停止に際して腕部9bが迅速に姿勢変化し、応答性の良い逆入力低減機構Uを得ることができる。さらに、腕部9bが遠心力で振り出される構成であれば、保持機構Hの体格もコンパクトに収めることができ、搭載性に優れた逆入力低減機構Uを得ることができる。
【0034】
本体部9aの下方にはウォーム4aが同軸心状に配置される。本体部9aとウォーム4aには、互いに係合して駆動力が伝達される3本の係合突起12が設けられている。本体部9aとウォーム4aに設けられた夫々3本の係合突起12は、出力軸3bの軸心Xの方向に沿う方向視で周方向に沿って3等分の位置に設けられ、互いが交互に配置されている。
【0035】
互いに隣接する係合突起12どうしの間には所定の隙間すなわち遊びGが設けられている。このような遊びGを設けることで、モータ3aが回転を開始するとき、本体部9aのみが回転を開始してウォーム4aが回転しない状態が得られる。つまり、モータ3aの駆動開始によって、先ず保持部Bによるナット部材5のロックを解消し、その後にウォーム4aからナット部材5に駆動力が伝達される。
【0036】
遊びGを設ける箇所は、上記のようにトリガ部Tの本体部9aと駆動伝達部4であるウォーム4aとの間に設ける他に、トリガ部Tが取り付けられているモータ3aの出力軸3bとウォーム4aとの間に設けられるものであってもよい。つまり、出力軸3bの回転がトリガ部Tに伝達される際に、ウォーム4aへの駆動力の伝達が遅延するのであれば何れの構成であってもよい。
【0037】
腕部9bからリンク部Lへの駆動力の伝達の様子を図3に示す。尚、リンク部Lは、例えば、以下の切替片13、リンクアーム14、シーソーリンク15等を含む。
【0038】
トリガ部Tが静止している状態では、腕部9bは下方に位置しているか、以下に示す切替片13に当接している。モータ3aの回転に伴って本体部9aが回転すると、振り出された腕部9bは切替片13に当接し、切替片13は、支軸13aを中心に図3(a)中の左右の何れかに傾く。切替片13の支点13bはリンクアーム14およびシーソーリンク15を介して、保持部Bに連結されている。
【0039】
保持部Bは、以下に示すように、例えばブレーキシュー16やブレーキばね18を含んでいる。
【0040】
切替片13の揺動に従ってリンクアーム14は往復移動し、シーソーリンク15を図3(a)中の左右に傾動させる。シーソーリンク15は左右に張り出した一対の凸部15aを備えており、これら一対の凸部15aは、保持機構Hのケース17に形成された一対の凹部17aに配置されている。シーソーリンク15の下方はブレーキシュー16の駆動支点16aに軸支されている。ブレーキシュー16は、ブレーキばね18によってナット部材5に付勢されているから駆動支点16aは、概ね一定の位置にある。よって、シーソーリンク15は、一対の凹部17aの間で所定の姿勢となる。この構成により、例えば、シーソーリンク15が図3(a)中で左に傾動する際には、シーソーリンク15の右側の凸部15aが対応する凹部17aの天井面17bに当接し、破線で示したように左側の凸部15aが下方に変位する。このようにしてシーソーリンク15が傾斜することで駆動支点16aの位置が低位となり、ブレーキシュー16が破線で示したように拡径してナット部材5の保持力が解放される。
【0041】
このようなシーソーリンク15の機能が迅速に発揮されるためには、切替片13が図3(a)中でβ位置にあるとき、シーソーリンク15の左右の凸部15aが、実線で示すように夫々対応する凹部17aの天井面17bに近接しているのが望ましい。そうであれば、切替片13の動作に伴ってシーソーリンク15が左右の何れかに傾斜を開始したとき、左右の凸部15aの何れかが速やかに凹部17aの天井面17bと当接して反力を受け、シーソーリンク15のその後の姿勢変化が迅速に行われる。
【0042】
保持機構Hが動作する際の本体部9aの腕部9bと切替片13との当接態様は以下のとおりである。図3(a)(b)に示すように、腕部9bの振り出し角度は本体部9aの回転速度の高まりに応じて水平姿勢に近付く。モータ3aの回転速度が一定となり、切替片13が最も高く変位した状態では、腕部9bの軌跡は切替片13の先端の軌跡とわずかに交差するように構成してある。こうすることで、以下に説明するようにモータ3aが所定速度に達した状態で腕部9bと切替片13とが当接しないものとし、打撃音や振動の発生をなくして腕部9bや切替片13に摩耗や変形が生じるのを防止する。
【0043】
切替片13は、ブレーキシュー16が解放姿勢となるとき傾斜した状態に位置固定される。そのために切替片13の一端部には例えば球状の膨出部13cが形成してあり、この膨出部13cの移動軌跡には図3(a)に示すようにキャッチャ19が形成してある。このキャッチャ19は、例えば、弾力性のある金属板を折り曲げて対向面19aを形成しておき、膨出部13cが嵌合する凹部19bを形成したものである。対向面19aの隙間に膨出部13cが入り込んだ場合に、対向する金属板の凹部19bに膨出部13cが嵌入することで膨出部13cの位置が固定され、切替片13の姿勢が固定される。
【0044】
モータ3aの回転が始まり腕部9bが切替片13を一方に押圧し始める際には、本体部9aの回転速度は低く、腕部9bの高さも途中の位置にある。よって、腕部9bは切替片13のうち支軸13aに近い位置に当接し、モータ3aの回転に伴って腕部9bが切替片13を一方側に押圧して傾動させる。図3(a)は、腕部9bによって切替片13が実線の状態からが破線の状態となるように右方向に押される状態を示している。切替片13の双方の縁部13dは曲線状に構成してあり、腕部9bが支軸13aに近い位置に当接した場合に、腕部9bが切替片13の縁部13dに沿って切替片13の先端部に移動するようにしてある。これにより、切替片13の支軸13aから遠い位置を押圧することとなって、切替片13の操作力が小さくなり、切替片13を確実に押圧することができる。
【0045】
腕部9bの回転に伴い、切替片13が所定の角度まで傾斜すると、膨出部13cがキャッチャ19の凹部19bに嵌合する。つまり、切替片13は、例えば図3(a)中のα位置で安定する。この姿勢では、図3(b)に示すように回転する腕部9bがα位置にある切替片13に当接しない状態となる。この結果、シーソーリンク15が、ブレーキシュー16を付勢するブレーキばね18の付勢力に打ち勝ってブレーキシュー16の駆動支点16aを押し込んだ状態となり、ブレーキシュー16によるナット部材5の保持が解放される。このような機能を発揮させるためには、ブレーキばね18の付勢力と、キャッチャ19による膨出部13cの保持力とをバランスさせておく。
【0046】
尚、押引部材1の駆動が終了し、本体部9aおよび腕部9bの回転が停止した状態では、ブレーキシュー16を保持姿勢に戻しておく必要がある。そのためには、たとえばモータ3aを所定角度だけ逆回転させると良い。角度は、モータ3aに付属しているエンコーダなどを利用すると良い。また、切替片13をキャッチャ19から抜き出すために腕部9bおよび本体部9aには所定の抵抗が作用するから、回転角度ではなくモータ3aの回転負荷を検出するようにしても良い。このようにすることで、モータ3aが回転を開始する際には、切替片13が常に図3(a)のβ位置にある状態となる。
【0047】
腕部9bは四つ設けてあり、本体部9aの回転開始に伴い、何れかの腕部9bが切替片13に当接するから、ナット部材5の保持姿勢が速やかに解放姿勢となる。ただし、腕部9bは四つでなくともよく、少なくとも一つ設けておけば逆入力低減機構Uを得ることができる。
【0048】
このように、本実施形態では、保持姿勢にあるブレーキシュー16がナット部材5の外面に当接してナット部材5の回転を規制する。ナット部材5は、逆入力が作用する押引部材1が最初に当接する部材であるから、ナット部材5の回転を規制することで、押引部材1に作用する逆入力の影響を最小限にとどめることができる。本実施形態では、ナット部材5の表面は例えば円筒状に形成され、ブレーキシュー16の摩擦当接によるナット部材5の姿勢保持が行われる。このため、ナット部材5が何れの回転位相にあってもナット部材5の姿勢保持が行われるから、任意の位置にある駆動対象を位置保持することができる。
【0049】
また、ブレーキシュー16などの保持部Bがナット部材5を押える構成とすることで、駆動機構Kと保持機構Hとが近接配置され、駆動機構Kの駆動力を保持機構Hに伝達することが容易となる。また、体格の小さな逆入力低減機構Uを得ることができる。
【0050】
さらに本構成であれば、駆動部3の回転速度の変化に応じて保持機構Hの機能を入り切りすることができる。よって、保持機構Hの動作タイミングを特段考慮せず、押引部材1の駆動部3を駆動させるだけでよいから特段の制御も不要である。また、保持機構Hに特段のアクチュエータや制御回路などを設ける必要もなく、簡略な構成の逆入力低減機構Uを得ることができる。
【0051】
〔第2実施形態〕
図4には、本発明の第2実施形態に係る逆入力低減機構Uを示す。この実施形態では、ブレーキシュー16がウォーム4aの外周面を保持するように構成してある。本体部9aには4つの腕部9bが揺動自在に支持されている。ウォーム4aの外方には保持機構Hのケース17が配置され、ブレーキシュー16がブレーキばね18によってウォーム4aの外周面に付勢されている。
【0052】
ただし、ブレーキシュー16の駆動支点16aには第1カム面20aを備えた第1カム20が設けられ、これと対抗するように第2カム面21aが設けられた第2カム21が対向している。第2カム21には支軸13aを介して切替片13が一体に接続されている。図示は省略してあるが、これら第1カム20および第2カム21は、当該逆入力低減機構Uのケーシング6に固定されている。
【0053】
尚、図4では、理解を容易にするために第1カム20および第2カム21を離間した状態に示しているが、これ等は常に当接状態にある。また、腕部9bは、切替片13に十分に届く長さを有している。
【0054】
第1カム面20aは、例えば中央に谷部を備えその両側に山部を備えている。他方の第2カム面21aは、断面が3角形状の山部を有する。つまり、切替片13が支軸13aの周りに回転し、図4に示した姿勢から左右の何れかに傾くことで、第2カム面21aと第1カム面20aとの当接状態が変化して駆動支点16aをウォーム4aの側に押し込む。これにより、ブレーキシュー16の姿勢を保持姿勢から解放姿勢に切り換える。
【0055】
この切替片13にも、球状の膨出部13cを設けてある。この膨出部13cは切替片13と共に揺動し、揺動領域の両端部に設けたキャッチャ19に嵌合する。このキャッチャ19の構成も第1実施形態のものと同じである。
【0056】
本構成であれば、第2カム21から切替片13に至る部材が非常にコンパクトに構成できる。第1実施形態のように、切替片13からリンクアーム14、シーソーリンク15を介して駆動支点16aに至るといった複数の部材および配置スペースは不要である。第2カム21と切替片13とは一体であるから、部材間における駆動力の伝達ロスがなくガタツキも生じ難い。よって、より精密な保持機構Hを得ることができる。しかも全体の構成が極めてコンパクトであり搭載性に優れたものとなる。
【0057】
〔その他の実施形態〕
図示は省略するが、特に上記保持機構Hは他の構成を採用することもできる。例えば、姿勢保持の対象が押引部材1そのものであってもよく、その場合、逆入力に対する押引部材1の保持効果が最も高くなる。
【0058】
また、保持機構Hにおいては、切替片13を保持するキャッチャ19を省略してもよい。その場合、回転する腕部9bと切替片13とが連続的に当接して打音や振動が生じる可能性がある。しかし、機構が極めて簡単になるから低コストで登載性に優れた逆入力低減機構Uを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の逆入力低減機構は、例えば車両に搭載される往復移動可能なアクチュエータ等に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 押引部材
2 接続部
3 駆動部
3b 出力軸
4 駆動伝達部
4a ウォーム
4b ウォームホイール
4c 第1ギヤ
4d 第2ギヤ
5 ナット部材
9 トリガ部
9a 本体部
9b 腕部
9c 軸支部
B 保持部
G 遊び
H 保持機構
K 駆動機構
L リンク部
U 逆入力低減機構
図1
図2
図3
図4