(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129181
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】吸音構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/86 20060101AFI20220829BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20220829BHJP
E04B 9/36 20060101ALI20220829BHJP
E04F 13/08 20060101ALI20220829BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20220829BHJP
G10K 11/168 20060101ALI20220829BHJP
B32B 3/14 20060101ALI20220829BHJP
B32B 3/24 20060101ALI20220829BHJP
B32B 3/26 20060101ALI20220829BHJP
B32B 13/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
E04B1/86 K
E04B1/86 D
E04B1/94 R
E04B9/36 100
E04F13/08 E
G10K11/16 130
G10K11/168
B32B3/14
B32B3/24 Z
B32B3/26 Z
B32B13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027784
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 大悟
(72)【発明者】
【氏名】西部 俊
(72)【発明者】
【氏名】杉尾 康志
【テーマコード(参考)】
2E001
2E110
4F100
5D061
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001DF04
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2E110GA33W
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2E110GB45Z
2E110GB62W
4F100AE00D
4F100AE01C
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5D061AA12
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5D061BB21
5D061BB24
(57)【要約】
【課題】幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造を提供する。
【解決手段】建物内に設けられる吸音構造1は、表面において開口する空洞を有する複数のヘルムホルツ共鳴器が内部に形成された吸音パネル10と、該吸音パネル10の表面上に所定の間隔を空けて取り付けられる複数のルーバー材21,…,21とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内に設けられる吸音構造であって、
表面において開口する空洞を有する複数のヘルムホルツ共鳴器が内部に形成された吸音パネルと、
上記吸音パネルの表面上に所定の間隔を空けて取り付けられた複数のルーバー材とを備えている
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項2】
請求項1に記載の吸音構造において、
上記吸音パネルは、
表面側に設けられ、上記ヘルムホルツ共鳴器の開口となる複数の貫通孔が形成された化粧板と、
多孔質吸音材料によって形成され、上記化粧板の裏面に重ねられ、該化粧板の裏面との間に上記ヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する凹部が表面に複数形成された板状の吸音下地材とを有している
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項3】
請求項2に記載の吸音構造において、
上記複数の貫通孔には、第1の内径を有する第1貫通孔と、上記第1の内径よりも大きい第2の内径を有する第2貫通孔とが含まれている
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の吸音構造において、
上記化粧板及び上記吸音下地材は、不燃性能を有する材料によって形成されている
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1つに記載の吸音構造において、
上記吸音下地材は、ロックウール板で構成されている
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の吸音構造において、
上記ルーバー材には、側面において開口する空洞を有する複数のヘルムホルツ共鳴器が内部に形成されている
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項7】
請求項6に記載の吸音構造において、
上記ルーバー材は、多孔質吸音材料によって形成された芯材と、該芯材の2つの側面を覆う2つの側面部と該2つの側面部を繋ぐ正面部とを有して上記芯材に外嵌される断面コ字状の表面材とを有し、
上記表面材の少なくとも一方の上記側面部には、上記ヘルムホルツ共鳴器の開口となる複数の貫通孔が形成され、
上記芯材の上記貫通孔に対応する側面には、対面する上記表面材の内側面との間に上記ヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する凹部が複数形成されている
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項8】
請求項7に記載の吸音構造において、
上記複数の貫通孔は、上記表面材の2つの上記側面部の両方に形成され、
上記芯材は、表面に上記凹部が複数形成され、裏面どうしが重ね合わされた2枚の板状部材によって構成されている
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項9】
請求項7又は8の吸音構造において、
上記芯材の側面に形成される上記複数の凹部には、第1の容積を有する第1凹部と、上記第1の容積よりも大きい第2の容積を有する第2凹部とが含まれている
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか1つに記載の吸音構造において、
上記芯材及び上記表面材は、不燃性能を有する材料によって形成されている
ことを特徴とする吸音構造。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか1つに記載の吸音構造において、
上記芯材は、ロックウール板で構成されている
ことを特徴とする吸音構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の室内に設けられる吸音構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅やオフィスビル等の建物の内壁材や天井材として、吸音性を有するパネル材がよく用いられている。例えば、特許文献1には、複数の吸音孔が形成された表層材と、表層材の裏面に積層された裏面材とで構成されたパネル材からなる防音内装材が開示されている。この防音内装材では、各吸音孔を、表面側の小径孔部と、小径孔部よりも大径な裏面側の大径孔部とで構成し、さらに隣接する大径孔部間を表層材の裏面に形成された溝状空間部によって連通させている。このような構成により、上記防音内装材では、ヘルムホルツ共鳴器の原理を利用した吸音効果を奏するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヘルムホルツ共鳴器の原理を利用した吸音効果を図るパネル材では、共振周波数付近では優れた吸音性能を発揮するものの、優れた吸音性能を発揮する周波数帯域が狭いという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明では、複数のヘルムホルツ共鳴器が形成された吸音パネルの表面上に複数のルーバー材を取り付けることとした。
【0007】
具体的には、第1の発明は、建物内に設けられる吸音構造であって、表面において開口する空洞を有する複数のヘルムホルツ共鳴器が内部に形成された吸音パネルと、上記吸音パネルの表面上に所定の間隔を空けて取り付けられた複数のルーバー材とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
第1の発明では、吸音構造付近に達した音波は、吸音パネルに形成された複数のヘルムホルツ共鳴器に吸収される。具体的には、上記吸音パネルでは、複数のヘルムホルツ共鳴器に共振周波数(固有振動数)付近の音波が入射することにより、各ヘルムホルツ共鳴器の内部(空洞内)の空気が共鳴し、開口部(首部)で空気が激しく振動する。激しく振動する開口部の空気は、開口部の内壁と摩擦を生じることにより、音エネルギー(振動エネルギー)が熱エネルギーに変換される。第1の発明によれば、このようにして吸音構造付近に達した音波のうち、複数のヘルムホルツ共鳴器の共振周波数付近の音波を著しく減衰させることができる。
【0009】
また、第1の発明では、吸音パネルの表面上に複数のルーバー材が取り付けられている。そのため、吸音構造付近に達した音波の一部は、複数のルーバー材で反射して進行方向が様々に変化する。第1の発明では、このように音波を複数のルーバー材で様々な方向に反射させることにより、吸音パネルの複数のヘルムホルツ共鳴器に対して様々な角度から音波が入射することとなる。
【0010】
ところで、ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積と開口部の長さ(首部の長さ)と空洞の容積とによって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動するが、同形状のヘルムホルツ共鳴器でも音波の入射角が変わると、擬似的に開口部の断面積と長さとが変わり、共振周波数が変わる。そのため、上述のように、吸音パネルの表面上に複数のルーバー材を取り付けて複数のヘルムホルツ共鳴器に様々な角度で音波が入射するように構成することにより、ルーバー材を設けない場合に比べて、吸音パネルによって吸収可能な音波(減衰させることができる音波)の周波数帯域を拡げることができる。従って、第1の発明によれば、幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造を提供することができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上記吸音パネルは、表面側に設けられ、上記ヘルムホルツ共鳴器の開口となる複数の貫通孔が形成された化粧板と、多孔質吸音材料によって形成され、上記化粧板の裏面に重ねられ、該化粧板の裏面との間に上記ヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する凹部が表面に複数形成された板状の吸音下地材とを有していることを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明では、複数の貫通孔が形成された化粧板と表面に複数の凹部が形成された吸音下地材とを重ねるだけで複数のヘルムホルツ共鳴器が形成された吸音パネルを容易に形成することができる。
【0013】
また、第2の発明では、吸音下地材が多孔質吸音材料によって構成されている。そのため、第2の発明によれば、吸音パネルに形成されたヘルムホルツ共鳴器の内部の空気の共鳴に伴い、吸音下地材を構成する多孔質吸音材料に含まれる空気が振動することによっても音エネルギーが熱エネルギーに変換されて音波が減衰する。つまり、第2の発明によれば、より吸音性能に優れた吸音構造を提供することができる。
【0014】
さらに、第2の発明では、多孔質吸音材料からなる吸音下地材にヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する複数の凹部を形成しているため、ヘルムホルツ共鳴器の空洞の周壁部の大部分が多孔質吸音材料で形成されることとなる。よって、第2の発明によれば、化粧板にヘルムホルツ共鳴器の空洞を形成する場合に比べて、多孔質吸音材料に含まれる空気の振動による吸音効果を向上させることができる。
【0015】
ところで、通常、多孔質吸音材料で構成される板状体は、ある程度の剛性が要求される化粧板に比べて軽量で軟質である。そのため、上記吸音構造のように、ヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する凹部を化粧板ではなく、多孔質吸音材料からなる吸音下地材に形成することにより、凹部の加工が容易になる。また、凹部の加工が容易であるため、吸音下地材に形成する複数の凹部のうちのいくつかの形状を変更する等して、吸収可能な音波の周波数帯域の異なる複数種のヘルムホルツ共鳴器を吸音パネルに形成することも容易にできる。そして、このように複数種のヘルムホルツ共鳴器が形成された吸音パネルを用いた吸音構造によれば、優れた吸音性能を発揮する周波数帯域をさらに広げることができる。
【0016】
第3の発明は、第2の発明において、上記複数の貫通孔には、第1の内径を有する第1貫通孔と、上記第1の内径よりも大きい第2の内径を有する第2貫通孔とが含まれていることを特徴とするものである。
【0017】
第3の発明では、吸音パネルにおいてヘルムホルツ共鳴器の開口として機能する複数の貫通孔に、内径の異なる2種類の貫通孔(第1及び第2貫通孔)が含まれている。ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積と開口部の長さ(首部の長さ)と空洞の容積によって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動する。そのため、化粧板に内径の異なる2種類の貫通孔を形成することにより、開口部の形状が異なるために吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されることとなる。従って、第3の発明によれば、幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造を提供することができる。
【0018】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、上記化粧板及び上記吸音下地材は、不燃性能を有する材料によって形成されていることを特徴とするものである。
【0019】
第4の発明では、化粧板及び吸音下地材を、不燃性能を有する材料によって形成することにより、吸音パネルに不燃性能を与えることができる。
【0020】
第5の発明は、第2乃至第4のいずれか1つの発明において、上記吸音下地材は、ロックウール板で構成されていることを特徴とするものである。
【0021】
第5の発明では、吸音下地材を吸音性能と不燃性能に優れたロックウール板で構成することにより、吸音パネルに高い吸音性能だけでなく不燃性能も与えることができる。
【0022】
第6の発明は、第1乃至第5のいずれか1つの発明において、上記ルーバー材には、側面において開口する空洞を有する複数のヘルムホルツ共鳴器が内部に形成されている。
【0023】
第6の発明では、吸音パネルだけでなく、吸音パネルに取り付けられるルーバー材にも複数のヘルムホルツ共鳴器が形成されている。そのため、吸音構造付近に達した音波は、吸音パネルだけでなく各ルーバー材にも吸収されることとなる。具体的には、各ルーバー材では、複数のヘルムホルツ共鳴器に、共振周波数(固有振動数)付近の音波が入射することにより、ヘルムホルツ共鳴器の内部(空洞内)の空気が共鳴し、開口部で空気が激しく振動する。激しく振動する開口部の空気は、開口部の内壁と摩擦を生じることにより、音エネルギー(振動エネルギー)が熱エネルギーに変換される。第6の発明によれば、このようにして吸音構造付近に達した音波のうち、ルーバー材に形成された複数のヘルムホルツ共鳴器の共振周波数付近の音波を著しく減衰させることができる。つまり、第6の発明によれば、各ルーバー材にも吸音機能を付与することにより、吸音構造の吸音性能をより向上させることができる。
【0024】
また、第6の発明によれば、吸音パネルとルーバー材とに形成されるヘルムホルツ共鳴器の形状を変えることにより、吸音パネルに吸収されない周波数帯域の音波を、ルーバー材に吸収させることができる。このように構成によれば、さらに幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮する吸音構造を提供することができる。
【0025】
第7の発明は、第6の発明において、上記ルーバー材は、多孔質吸音材料によって形成された芯材と、該芯材の2つの側面を覆う2つの側面部と該2つの側面部を繋ぐ正面部とを有して上記芯材に外嵌される断面コ字状の表面材とを有し、上記表面材の少なくとも一方の上記側面部には、上記ヘルムホルツ共鳴器の開口となる複数の貫通孔が形成され、上記芯材の上記貫通孔に対応する側面には、対面する上記表面材の内側面との間に上記ヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する凹部が複数形成されていることを特徴とするものである。
【0026】
第7の発明では、少なくとも一方の側面部に複数の貫通孔が形成された断面コ字状の表面材を、側面に複数の凹部が形成された芯材に外嵌するだけで複数のヘルムホルツ共鳴器が形成されたルーバー材を容易に形成することができる。
【0027】
また、第7の発明では、芯材が多孔質吸音材料によって構成されている。そのため、第7の発明によれば、各ルーバー材に形成されたヘルムホルツ共鳴器の内部の空気の共鳴に伴い、芯材を構成する多孔質吸音材料に含まれる空気が振動することによっても音エネルギーが熱エネルギーに変換されて音波が減衰する。つまり、第7の発明によれば、より吸音性能に優れた吸音構造を提供することができる。
【0028】
さらに、第7の発明では、多孔質吸音材料からなる芯材にヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する複数の凹部を形成しているため、ヘルムホルツ共鳴器の空洞の周壁部の大部分が多孔質吸音材料で形成されることとなる。よって、第7の発明によれば、表面材にヘルムホルツ共鳴器の空洞を形成する場合に比べて、多孔質吸音材料に含まれる空気の振動による吸音効果を向上させることができる。
【0029】
ところで、通常、多孔質吸音材料で構成される板状体は、ある程度の剛性が要求される表面材に比べて軽量で軟質である。そのため、上記吸音構造のように、ヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する凹部を表面材ではなく、多孔質吸音材料からなる芯材に形成することにより、凹部の加工が容易になる。また、凹部の加工が容易であるため、芯材に形成する複数の凹部のうちのいくつかの形状を変更する等して、吸収可能な音波の周波数帯域の異なる複数種のヘルムホルツ共鳴器をルーバー材に形成することも容易にできる。そして、このように複数種のヘルムホルツ共鳴器が形成されたルーバー材を用いた吸音構造によれば、優れた吸音性能を発揮する周波数帯域をさらに広げることができる。
【0030】
第8の発明は、第7の発明において、上記複数の貫通孔は、上記表面材の2つの上記側面部の両方に形成され、上記芯材は、表面に上記凹部が複数形成され、裏面どうしが重ね合わされた2枚の板状部材によって構成されていることを特徴とするものである。
【0031】
第8の発明では、ルーバー材の両側から音波を吸収することができるため、より吸音性能に優れた吸音構造を提供することができる。また、第8の発明によれば、芯材の両側面に凹部の加工を施すことなく、表面のみに加工を施した2枚の板状部材を重ね合わせた芯材を用いることにより、両側面から音波を吸収可能なルーバー材を容易に形成することができる。
【0032】
第9の発明は、第7又は第8の発明において、上記芯材の側面に形成される上記複数の凹部には、第1の容積を有する第1凹部と、上記第1の容積よりも大きい第2の容積を有する第2凹部とが含まれていることを特徴とするものである。
【0033】
第9の発明では、ルーバー材においてヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する複数の凹部に、容積の異なる2種類の凹部(第1凹部及び第2凹部)が含まれている。ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積と開口部の長さ(首部の長さ)と空洞の容積によって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動する。そのため、芯材に容積の異なる2種類の凹部を形成することにより、ルーバー材に空洞の容積が異なるために吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されることとなる。従って、第9の発明によれば、幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造を提供することができる。
【0034】
第10の発明は、第7乃至第9のいずれか1つの発明において、上記芯材及び上記表面材は、不燃性能を有する材料によって形成されていることを特徴とするものである。
【0035】
第10の発明では、芯材及び表面材を、不燃性能を有する材料によって形成することにより、ルーバー材に不燃性能を与えることができる。
【0036】
第11の発明は、第7乃至第10のいずれか1つの発明において、上記芯材は、ロックウール板で構成されていることを特徴とするものである。
【0037】
第11の発明では、芯材を吸音性能と不燃性能に優れたロックウール板で構成することにより、ルーバー材に高い吸音性能だけでなく不燃性能も与えることができる。
【発明の効果】
【0038】
以上説明した如く、本発明によると、複数のヘルムホルツ共鳴器が形成された吸音パネルの表面上に複数のルーバー材を取り付けることとしたため、幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る吸音構造を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る吸音パネルの分解斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る吸音パネルの一部の断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係るルーバー材の断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態1で実施した吸音率試験の結果を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係る吸音構造を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【
図7】
図7は、実施形態2に係るルーバー材の断面図である。
【
図8】
図8は、実施形態2で実施した吸音率試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態は、本質的に好ましい例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0041】
《発明の実施形態1》
図1に示すように、実施形態1では、本発明に係る建物内に設けられる吸音構造の一例として、室内空間の天井に適用した例について説明する。
【0042】
-吸音構造の構成-
図1に示すように、吸音構造1は、吸音パネル10とルーバー20とを備えている。吸音パネル10は、天井下地材2に取り付けられ、ルーバー20は、吸音パネル10の表面上に取り付けられている。なお、
図1では、合板等からなる天井下地材2に取り付けられる複数の吸音パネル10のうちの一部のみを実線で示し、残り(
図1において上側部分)は仮想線(二点鎖線)で示している。また、
図1では、ルーバー20の一部(
図1の下側部分)のみを実線で示し、他の部分の図示を省略しているが、ルーバー20は、吸音パネル10が設けられている部分全体に亘って設けられている。
【0043】
なお、本実施形態1では、吸音構造1が吸音パネル10を複数備える例について説明するが、吸音構造1は、吸音パネル10を1枚しか備えないものであってもよい。
【0044】
[吸音パネル]
図2及び
図3に示すように、吸音パネル10は、表面から裏面に亘る複数の貫通孔13,…,13が形成された化粧板11と、表面に複数の溝14,…,14が形成された吸音下地材12とを有している。化粧板11は、吸音パネル10の表側に設けられ、吸音下地材12は、化粧板11の裏面に重ねられ、例えば、酢酸ビニル樹脂系のエマルジョン型の接着剤により接着されている。
【0045】
化粧板11は、一定の厚み(本実施形態1では、6mm)を有する矩形状の板状体によって構成されている。本実施形態1では、化粧板11は、火山性のガラス質と鉱物繊維によって形成された火山性ガラス質複層板(商品名:ダイライト、大建工業株式会社製)で構成されている。
【0046】
化粧板11としては、火山性ガラス質複層板の他、ケイ酸カルシウム板、メラミン化粧板、合板、MDFやパーティクルボード等の木質繊維板、グラスウールボード等の無機繊維板、石膏ボード等を用いることができる。なお、吸音性の観点からは、化粧板11として、木質繊維板や無機繊維板等の多孔質構造の繊維板を用いるのが好ましい。繊維板では、繊維間に入射した音波が繊維との摩擦によって減衰されるので、繊維板で化粧板11を構成した場合、吸音性能を向上させることができる。また、不燃性の観点からは、化粧板11として、火山性ガラス質複層板、無機繊維板、ケイ酸カルシウム板、メラミン化粧板、石膏ボード等を用いるのが好ましい。
【0047】
複数の貫通孔13,…,13は、化粧板11において縦横に等しいピッチ(本実施形態1では、25mm)で設けられている。また、本実施形態1では、複数の貫通孔13,…,13には、第1の内径D1(本実施形態1では、3mm)を有する第1貫通孔13aと、第1貫通孔13aの内径よりも大きい第2の内径D2(本実施形態1では、5mm)を有する第2貫通孔13bとが含まれている。つまり、化粧板11には、内径の異なる2種類の貫通孔13a,13bが形成されている。
【0048】
第1貫通孔13aと第2貫通孔13bは、化粧板11において、縦方向に同種のものが並び、横方向には異なるもの、即ち、第1貫通孔13aと第2貫通孔13bとが交互に並ぶように設けられている。つまり、化粧板11上では、複数の第1貫通孔13aからなる第1貫通孔列と、複数の第2貫通孔13bからなる第2貫通孔列とが交互に形成されている。
【0049】
吸音下地材12は、一定の厚み(本実施形態1では、9mm)を有する矩形状の板状体によって構成されている。本実施形態1では、吸音下地材12は、ロックウール板(商品名:ダイロートン、大建工業株式会社製)で構成されている。
【0050】
なお、吸音下地材12は、多孔質吸音材料で形成されていればいかなるものでもよく、ロックウール板以外の無機繊維板(ガラスウール板等)を用いることができるが、積層や切削(溝加工)に耐え得るという観点からは、ロックウール板を吸音下地材12として用いるのが好ましい。
【0051】
複数の溝14,…,14は、吸音下地材12の表面において、化粧板11の複数の貫通孔13,…,13と等しいピッチ(本実施形態1では、25mm)で互いに平行に設けられている。また、本実施形態1では、複数の溝14,…,14は、同様に形成されている。各溝14は、断面コ字状に形成され、一定の溝幅(本実施形態1では、12mm)と一定の深さ(本実施形態1では、5mm)とを有し、吸音下地材12の表面の一端から他端(対向する2辺の一方から他方)に亘って形成されている。
【0052】
化粧板11と吸音下地材12とは、化粧板11の各貫通孔列(第1貫通孔列、第2貫通孔列)の同種の複数の貫通孔13,…,13が、吸音下地材12の同じ溝14に対応する(各貫通孔列の複数の貫通孔が同じ溝14に繋がる)ように、重ね合わせられて接着されている。このように化粧板11と吸音下地材12とを重ね合わせることにより、吸音パネル10には、複数のヘルムホルツ共鳴器が形成される。
【0053】
具体的には、
図3に示すように、吸音下地材12の表面に形成された各溝14(凹部)により、化粧板11と吸音下地材12との間には、複数の細長い空洞が形成される。各空洞は、対応する複数の貫通孔13,…,13によって外部に開口する。この各空洞と空洞に対応する各貫通孔13を区画する周壁部により、ヘルムホルツ共鳴器が形成される。つまり、吸音パネル10には、複数の貫通孔13,…,13の個数分のヘルムホルツ共鳴器が形成される。
【0054】
また、本実施形態1では、複数の貫通孔13,…,13には、内径の異なる2種類の貫通孔(第1貫通孔13a,第2貫通孔13b)が含まれている。ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積(貫通孔13の断面積)と開口部の長さ(貫通孔13の長さ)と空洞の容積によって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動する。そのため、化粧板11に内径の異なる2種類の貫通孔13a,13bが形成された本実施形態1の吸音パネル10では、開口部の形状が異なるために吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されることとなる。
【0055】
[ルーバー]
図1に示すように、ルーバー20は、吸音パネル10の表面上に取り付けられた複数のルーバー材21,…,21によって構成されている。複数のルーバー材21,…,21は、吸音パネル10の表面上に所定のピッチ(本実施形態1では、125mm)で固定され、互いに平行に設けられている。なお、
図1では、ルーバー20の一部分のみを実線で示し、他の部分の図示を省略しているが、実際には、複数のルーバー材21,…,21は、複数の吸音パネル10,…,10が設けられている部分全体に亘って互いに平行に設けられている。
【0056】
図4に示すように、ルーバー材21は、芯材22と表面材23と木口部材(図示省略)とを有している。
【0057】
芯材22は、厚板状の底部22aと、該底部22aの幅方向(
図4の左右方向)の両端から互いに平行に同じ寸法だけ伸びる板状の1対の側壁部22b,22bとを有し、断面コ字状の長尺部材に形成されている。底部22aは、例えば、その厚さ方向に積層された一定厚さ(本実施形態1では、21mm)の合板で形成され、各側壁部22bは、一定厚さ(本実施形態1では、2.4mm)の合板からなり、底部22aの幅方向端面に一体的に接着されている。芯材22の底部22aは、吸音パネル10の表面上に裏面が当接した状態で底部22aを厚さ方向に貫通するビス等により固定される。
【0058】
表面材23は、板状の正面部23aと、該正面部23aの幅方向両端部から互いに同じ向きに平行に同じ寸法だけ延びる板状の一対の側面部23b,23bとを有し、断面コ字状に形成されている。表面材23は、吸音パネル10の化粧板11と同様の火山性ガラス質複層板で構成されている。具体的には、表面材23は、長尺の火山性ガラス質複層板の幅方向中間部に長さ方向に延びる複数の切り欠きを形成し、その切り欠きで直角に折り曲げることにより、断面コ字状に形成されている。
【0059】
なお、表面材23は、化粧板11と同様に、火山性ガラス質複層板の他、ケイ酸カルシウム板、メラミン化粧板、合板、MDFやパーティクルボード等の木質繊維板、グラスウールボード等の無機繊維板、石膏ボード等を用いることができる。
【0060】
表面材23は、芯材22に対し、表面材23の開口部を芯材22の開口部に対向させた状態で、芯材22の開口側から該芯材22の底部22aと両側壁部22b,22bとを覆うように外嵌されている。芯材22と表面材23とは、図示しない接着剤とピンネイルとによって固定されている。なお、芯材22の木口側の端部は、木口部材(図示省略)で覆われている。芯材22と木口部材とは、図示しない接着剤とピンネイルとによって固定されている。
【0061】
-吸音構造1による吸音作用-
上述のように、上記吸音構造1では、吸音パネル10に複数のヘルムホルツ共鳴器が形成されている。そのため、吸音構造1が設けられた天井付近に達した音波は、吸音パネル10に形成された複数のヘルムホルツ共鳴器に吸収される。具体的には、上記吸音パネル10では、複数のヘルムホルツ共鳴器に共振周波数(本実施形態1では、1000Hz)付近の音波が入射することにより、各ヘルムホルツ共鳴器の内部(溝14内)の空気が共鳴し、化粧板11に形成された各貫通孔13内で空気が激しく振動する。激しく振動する各貫通孔13内の空気は、各貫通孔13の周壁部と摩擦を生じることにより、音エネルギー(振動エネルギー)が熱エネルギーに変換される。上記吸音構造1では、このようにして吸音構造1が設けられた天井付近に達した音波のうち、複数のヘルムホルツ共鳴器の共振周波数付近の音波が著しく減衰する。
【0062】
また、上述したように、内径の異なる2種類の貫通孔13a,13bが形成された化粧板11を備えた本実施形態1の吸音パネル10には、開口部(貫通孔13)の形状が異なるために吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が形成される。そのため、上記吸音構造1では、周波数帯域の異なる音波が吸音パネル10に吸収されることとなる。
【0063】
また、上記吸音構造1では、吸音下地材12が多孔質吸音材料によって構成されているため、吸音パネル10に形成されたヘルムホルツ共鳴器の内部の空気の共鳴に伴い、吸音下地材12を構成する多孔質吸音材料に含まれる空気が振動することによっても音エネルギーが熱エネルギーに変換されて音波が減衰する。
【0064】
さらに、上記吸音構造1では、吸音パネル10の表面上に複数のルーバー材21,…,21が取り付けられている。そのため、吸音構造1が設けられた天井付近に達した音波の一部は、複数のルーバー材21,…,21で反射して進行方向が変化する。上記吸音構造1では、このように複数のルーバー材21,…,21で反射して音波が様々な方向に進行することにより、吸音パネル10に形成された複数のヘルムホルツ共鳴器の内部に様々な角度で音波が入射することとなる。
【0065】
ところで、ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積と開口部の長さ(首部の長さ)と空洞の容積とによって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動するが、同形状のヘルムホルツ共鳴器でも音波の入射角が変わると、擬似的に開口部の断面積と長さとが変わり、共振周波数が変わる。そのため、吸音パネル10の表面上に複数のルーバー材21,…,21が取り付けられた上記吸音構造1によれば、吸音パネルのみからなる従来の吸音構造に比べて、吸収可能な音波(減衰させることができる音波)の周波数帯域が拡がる。つまり、上記吸音構造1によれば、従来の吸音パネルしか備えない吸音構造に比べて、優れた吸音性能を発揮する周波数帯域が広くなる。この効果を検証すべく、以下の吸音率試験(残響室法吸音率試験)を行った。
【0066】
[吸音率試験]
以下の実施例1の吸音構造体1Aと比較例1の吸音構造体1Bとについて、温度23.4℃、湿度55%RHの残響室内で、JIS A 1409:1998に規定される「残響室法吸音率の試験方法」に準拠して、吸音率を測定した。測定は、中心周波数100Hz~4kHzの1/3オクターブ帯域毎に行った。
【0067】
<実施例1>
606mm×2420mm×6mmの火山性ガラス質複層板(商品名:ダイライト、大建工業株式会社製)に、内径3mmの第1貫通孔13aと内径5mmの第2貫通孔13bとを、縦横方向にそれぞれ25mmピッチで、縦方向に同種のものが並び、横方向には異なるものが並ぶように形成した化粧板11を作製した。
【0068】
また、606mm×2420mm×9mmのロックウール板(商品名:ダイロートン、大建工業株式会社製)の表面に、25mmピッチで複数の溝14,…,14を互いに平行に形成した吸音下地材12を作製した。
【0069】
化粧板11と吸音下地材12とを、化粧板11の各貫通孔列(第1貫通孔列、第2貫通孔列)の同種の複数の貫通孔13,…,13が、吸音下地材12の同じ溝14に対応する(各貫通孔列の複数の貫通孔が同じ溝14に繋がる)ように重ね合わせて接着し、606mm×2420mm×15mmの吸音パネル10を作製した。
【0070】
実施形態1で説明した合板からなる芯材22と、火山性ガラス質複層板からなる表面材23とから、幅30mm、高さ100mm、長さ2420mmのルーバー材21を作製し、606mm×2420mm×15mmの吸音パネル10の表面上に125mmピッチで固定して吸音構造体1Aを作製した。
【0071】
<比較例1>
実施例1の606mm×2420mm×15mmの吸音パネル10のみからなる吸音構造体1Bを作製した。
【0072】
<測定結果>
実施例1の吸音構造体1Aと比較例1の吸音構造体1Bについて残響室法吸音率を測定したところ、
図5のような結果となった。
図5では、吸音構造体1Aの吸音率を実線で示し、吸音構造体1Bの吸音率を破線で示している。
【0073】
図5に示すように、比較例1の吸音構造体1Bは、残響室法吸音率が0.6以上になるのが中心周波数630~2000Hzの範囲であるところ、吸音構造体1Aは、中心周波数400~2000Hzの範囲で残響室法吸音率が0.6以上であった。この結果から、吸音パネル10の表面上に複数のルーバー材21,21,21が取り付けられた吸音構造1(吸音構造体1A)が、吸音パネル10のみからなる従来の吸音構造(吸音構造体1B)に比べて、幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することが判る。
【0074】
また、中心周波数250~2000Hzの範囲で計測した残響室法吸音率の平均値(N.R.C)は、吸音構造体1Aが0.72であり、吸音構造体1Bが0.58であった。この結果から、本願発明に係る吸音構造1(吸音構造体1A)の吸音性能が従来の吸音構造(吸音構造体1B)に比べて優れることが判る。
【0075】
-実施形態1の効果-
以上のように、本実施形態1の吸音構造1では、該吸音構造1付近に達した音波は、吸音パネル10に形成された複数のヘルムホルツ共鳴器に吸収される。具体的には、上記吸音パネル10では、複数のヘルムホルツ共鳴器に共振周波数(固有振動数)付近の音波が入射することにより、各ヘルムホルツ共鳴器の内部(溝14内)の空気が共鳴し、貫通孔13内で空気が激しく振動する。激しく振動する貫通孔13内の空気は、貫通孔13の周壁部と摩擦を生じることにより、音エネルギー(振動エネルギー)が熱エネルギーに変換される。上記吸音構造1によれば、このようにして吸音構造1付近に達した音波のうち、吸音パネル10に形成された複数のヘルムホルツ共鳴器の共振周波数付近の音波を著しく減衰させることができる。
【0076】
また、本実施形態1の吸音構造1では、吸音パネル10の表面上に、複数のルーバー材21,…,21を取り付けている。そのため、吸音構造1付近に達した音波の一部は、複数のルーバー材21,…,21で反射して進行方向が様々に変化する。上記吸音構造1では、このように音波を複数のルーバー材21,…,21で様々な方向に反射させることにより、吸音パネル10の複数のヘルムホルツ共鳴器に対して様々な角度から音波が入射することとなる。
【0077】
ところで、ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積と開口部の長さ(首部の長さ)と空洞の容積とによって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動するが、同形状のヘルムホルツ共鳴器でも音波の入射角が変わると、擬似的に開口部の断面積と長さとが変わり、共振周波数が変わる。そのため、上述のように、吸音パネル10の表面上に複数のルーバー材21,…,21を取り付けて複数のヘルムホルツ共鳴器に様々な角度で音波が入射するように構成することにより、ルーバー材21を設けない従来の吸音構造に比べて、吸音パネル10によって吸収可能な音波(減衰させることができる音波)の周波数帯域を拡げることができる。従って、本実施形態1によれば、幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造1を提供することができる。
【0078】
また、本実施形態1では、吸音パネル10が、ヘルムホルツ共鳴器の開口となる複数の貫通孔13,…,13が形成された化粧板11の裏面に、多孔質吸音材料によって形成されて化粧板11の裏面との間にヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する溝(凹部)14が表面に複数形成された板状の吸音下地材12を重ねることによって形成されている。本実施形態1では、このような構成により、化粧板11の裏面に吸音下地材12を重ねるだけで複数のヘルムホルツ共鳴器が形成された吸音パネル10を容易に形成することができる。
【0079】
また、本実施形態1では、吸音下地材12が多孔質吸音材料によって構成されている。そのため、本実施形態1によれば、吸音パネル10に形成されたヘルムホルツ共鳴器の内部の空気の共鳴に伴い、吸音下地材12を構成する多孔質吸音材料に含まれる空気が振動することによっても音エネルギーが熱エネルギーに変換されて音波が減衰する。つまり、本実施形態1によれば、より吸音性能に優れた吸音構造を提供することができる。
【0080】
さらに、本実施形態1では、多孔質吸音材料からなる吸音下地材12にヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する複数の溝(凹部)14,…,14を形成しているため、ヘルムホルツ共鳴器の空洞の周壁部の大部分が多孔質吸音材料で形成されることとなる。よって、本実施形態1によれば、化粧板11にヘルムホルツ共鳴器の空洞を形成する場合に比べて、多孔質吸音材料に含まれる空気の振動による吸音効果を向上させることができる。
【0081】
ところで、通常、多孔質吸音材料で構成される板状体は、ある程度の剛性が要求される化粧板11に比べて軽量で軟質である。そのため、本実施形態1の吸音構造1のように、ヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する凹部(本実施形態1では、溝14)を化粧板11ではなく、多孔質吸音材料からなる吸音下地材12に形成することにより、凹部の加工が容易になる。また、凹部の加工が容易であるため、本実施形態1では、複数の凹部として断面形状の等しい複数の溝14,…,14を形成しているが、このうちのいくつかの凹部(溝14)の形状を変更する等により、吸収可能な音波の周波数帯域の異なる複数種のヘルムホルツ共鳴器を吸音パネル10に形成することも容易にできる。そして、このように複数種のヘルムホルツ共鳴器が形成された吸音パネル10を用いた吸音構造1によれば、優れた吸音性能を発揮する周波数帯域をさらに広げることができる。
【0082】
また、本実施形態1では、吸音パネル10においてヘルムホルツ共鳴器の開口として機能する複数の貫通孔13,…,13に、内径の異なる2種類の貫通孔(第1及び第2貫通孔13a,13b)が含まれている。ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積(貫通孔13の断面積)と開口部の長さ(貫通孔13の長さ)と空洞の容積によって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動する。そのため、化粧板11に内径の異なる2種類の貫通孔13a,13bを形成することにより、開口部(貫通孔13)の形状が異なるために吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されることとなる。従って、本実施形態1によれば、より幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造1を提供することができる。
【0083】
また、本実施形態1では、化粧板11及び吸音下地材12を、不燃性能を有する材料によって形成している。このような構成により、吸音パネル10に不燃性能を与えることができる。
【0084】
特に、本実施形態1では、吸音下地材12を吸音性能と不燃性能に優れたロックウール板で構成している。そのため、吸音パネル10に高い吸音性能だけでなく不燃性能も与えることができる。
【0085】
《発明の実施形態2》
実施形態2は、実施形態1の吸音構造1の一部の構成を変更したものである。実施形態2では、ルーバー20を構成するルーバー材21を、複数のヘルムホルツ共鳴器を有するように構成している。
【0086】
[ルーバー]
図6に示すように、実施形態2においても、ルーバー20は、吸音パネル10の表面上に取り付けられた複数のルーバー材21,…,21によって構成されている。複数のルーバー材21,…,21は、吸音パネル10の表面上に所定のピッチ(本実施形態2では、125mm)で固定され、互いに平行に設けられている。なお、
図6では、ルーバー20の一部分のみを実線で示しているが、実際には、複数のルーバー材21,…,21は、複数の吸音パネル10,…,10が設けられている部分全体に亘って互いに平行に設けられている。
【0087】
図7に示すように、ルーバー材21は、芯材22と表面材23と閉塞材24と木口部材(図示省略)とを有し、受け材25を介して吸音パネル10に固定されている。
【0088】
芯材22は、2枚の板状部材22A,22Bによって構成されている。2枚の板状部材22A,22Bは、いずれも一定の厚み(本実施形態2では、9mm)と一定の幅(本実施形態2では、59mm)とを有する長尺(本実施形態2では、2420mm)のロックウール板(商品名:ダイロートン、大建工業株式会社製)で構成されている。また、実施形態2では、2枚の板状部材22A,22Bは、面対称形状に形成されている。
【0089】
各板状部材22A,22Bの表面には、長さ方向に延びる複数の溝(凹部)26,…,26が形成されている。本実施形態2では、溝26は、3本ずつ形成され、各板状部材22A,22Bの表面において等しいピッチ(本実施形態2では、20mm)で互いに平行に設けられている。各溝26は、断面コ字状に形成され、一定の溝幅と一定の深さ(本実施形態2では、5mm)とを有し、各板状部材22A,22Bの長さ方向の一端から他端に亘って形成されている。本実施形態2では、3つの溝26,26,26は、溝幅の異なる(容積の異なる)2種類の第1溝(第1凹部)26a及び第2溝(第2凹部)26bで構成されている。板状部材22A,22Bの幅方向(
図4の上下方向)の一端部に位置する溝26は、他の2つよりも溝幅が短く、第1の容積を有する第1溝26aで構成され、残りの2つは、第1溝26aよりも溝幅が広く、第1の容積よりも大きい第2の容積を有する第2溝26bで構成されている。
【0090】
2枚の板状部材22A,22Bは、裏面(溝26が形成された表面の裏側の面)どうしを重ね合わせた時に、互いの裏面に対して面対称な形状に形成されている。実施形態2では、このような面対称形状の2枚の板状部材22A,22Bの裏面どうしを重ね合わせることにより、芯材22が形成されている。また、このように構成することにより、芯材22の両側面には、対面する表面材23の内側面との間にヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する溝(凹部)26が複数(各3つ)形成されることとなる。
【0091】
なお、芯材22を構成する2枚の板状部材22A,22Bは、多孔質吸音材料で形成されていればいかなるものでもよく、ロックウール板以外の無機繊維板(ガラスウール板等)を用いることができるが、積層や切削に耐え得るという観点からは、ロックウール板を用いるのが好ましい。
【0092】
表面材23は、板状の正面部23aと、該正面部23aの幅方向両端部から互いに同じ向きに平行に同じ寸法だけ延びる板状の一対の側面部23b,23bとを有し、断面コ字状に形成されている。表面材23は、芯材22に外嵌され、正面部23aが芯材22の幅方向(
図4の上下方向)の一方の端面を覆い、2つの側面部23b,23bが芯材22の2つの側面を覆う。
【0093】
表面材23は、吸音パネル10の化粧板11と同様の一定の厚み(本実施形態2では、6mm)を有する火山性ガラス質複層板(商品名:ダイライト、大建工業株式会社製)で構成されている。具体的には、表面材23は、長尺の火山性ガラス質複層板の幅方向中間部に長さ方向に延びる複数の切り欠きを形成し、その切り欠きで直角に折り曲げることにより、断面コ字状に形成されている。
【0094】
なお、表面材23は、化粧板11と同様に、火山性ガラス質複層板の他、ケイ酸カルシウム板、メラミン化粧板、合板、MDFやパーティクルボード等の木質繊維板、グラスウールボード等の無機繊維板、石膏ボード等を用いることができる。
【0095】
表面材23の2つの側面部23b,23bには、外面から内面に亘る複数の貫通孔27,…,27が形成されている。複数の貫通孔27,…,27は、各側面部23bにおいて長さ方向及び幅方向に等しいピッチで設けられている。本実施形態2では、複数の貫通孔27,…,27は、各側面部23bの長さ方向(
図4の紙面直交方向)には、吸音パネル10の化粧板11の複数の貫通孔13,…,13と等しいピッチ(本実施形態2では、25mm)で設けられ、各側面部23bの幅方向(
図4の上下方向)には、芯材22の各3本の溝26,26,26と等しいピッチ(本実施形態2では、20mm)で3つずつ設けられている。また、本実施形態2では、複数の貫通孔27,…,27は、全て同一形状(本実施形態2では、内径5mmの断面正円形状)に形成されている。
【0096】
また、表面材23の2つの側面部23b,23bの各内側面には、閉塞材24の側端部が嵌まる嵌合溝28が形成されている。嵌合溝28は、断面コ字状に形成され、一定の溝幅(本実施形態2では、12mm)と一定の深さ(本実施形態2では、1mm)とを有し、閉塞材24を表面材23の長さ方向の一端側から他端側へ挿入できるように、表面材23の長さ方向の一端から他端に亘って形成されている。
【0097】
表面材23は、各側面部23b,23bが、3本の溝26,26,26が形成された芯材22の2つの側面をそれぞれ覆うように外嵌されている。より具体的には、表面材23は、各側面部23bに形成された複数の貫通孔27,…,27の全てが、芯材22の側面に形成された3つの溝26,26,26のいずれかに対応するように、芯材22に外嵌されている。このように表面材23が芯材22に外嵌されることにより、ルーバー材21には、複数のヘルムホルツ共鳴器が形成される。
【0098】
具体的には、
図7に示すように、芯材22の両側面に形成された各溝26(凹部)により、表面材23の各側面部23bと芯材22の各側面との間には、複数の細長い空洞が形成される。各空洞は、対応する複数の貫通孔27,…,27によって外部に開口する。この各空洞と空洞に対応する各貫通孔27を区画する周壁部により、ヘルムホルツ共鳴器が形成される。つまり、ルーバー材21には、複数の貫通孔27,…,27の個数分のヘルムホルツ共鳴器が形成される。
【0099】
また、本実施形態2では、芯材22を構成する2つの板状部材22A,22Bの表面に形成される各3つの溝26,26,26のうちの1つの第1溝26aは、他の2つの第2溝26b,26bよりも溝幅が短く容積が小さい。ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積(貫通孔27の断面積)と開口部の長さ(貫通孔27の長さ)と空洞の容積によって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動する。そのため、芯材22に溝幅の異なる(容積の異なる)2種類の第1溝26a及び第2溝26bが形成された本実施形態2のルーバー材21では、空洞の容積が異なるために吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されることとなる。
【0100】
閉塞材24は、一定の厚み(本実施形態2では、12mm)と一定の幅(本実施形態2では、20mm)とを有する長尺(本実施形態2では、2420mm)の合板で構成されている。閉塞材24は、芯材22に外嵌した表面材23の長さ方向の一端側から2つの側面部23b,23bに形成された対応する2つの嵌合溝28,28内に挿入されることにより、表面材23に内嵌されている。閉塞材24は、幅方向の両端部が表面材23の2つの嵌合溝28,28に嵌まり込むことによって厚さ方向(ルーバー材21の幅方向、本実施形態2では上下方向)への移動が規制される。このような閉塞材24により、閉塞材24と表面材23の正面部23aとの間に設けられた芯材22が幅方向(閉塞材24の厚さ方向)に移動して表面材23から抜けないように規制される。
【0101】
芯材22と表面材23、及び表面材23と閉塞材24は、図示しない接着剤によって固定されている。なお、芯材22の木口側の端部は、木口部材(図示省略)で覆われている。芯材22と木口部材とは、図示しない接着剤とピンネイルとによって固定されている。
【0102】
このように芯材22と表面材23と閉塞材24と木口部材(図示省略)とで構成されたルーバー材21は、
図7に示すように、受け材25を介して吸音パネル10に固定される。なお、受け材25は、表面材23の2つの側面部23b,23bの閉塞材24よりも開口側の部分と閉塞材24とによって形成される凹溝に嵌合する大きさに形成され、例えば、合板によって形成されている。
【0103】
具体的には、
図7に示すように、予め、複数の吸音パネル10,…,10に跨がるように受け材25をピンネイル等で固定しておく。そして、複数の吸音パネル10,…,10に固定された受け材25がルーバー材21の上記凹溝に嵌合するように、ルーバー材21を配置し、ルーバー材21の側面側から受け材25に達するようにピンネイルを打ち込むことによってルーバー材21を受け材25に固定する。各ルーバー材21は、このようにして複数の吸音パネル10,…,10に固定される。
【0104】
-吸音構造1による吸音作用-
実施形態2の吸音構造1においても、吸音パネル10に複数のヘルムホルツ共鳴器が形成されている。そのため、吸音構造1が設けられた天井付近に達した音波は、吸音パネル10に形成された複数のヘルムホルツ共鳴器に吸収される。具体的には、上記吸音パネル10では、複数のヘルムホルツ共鳴器に共振周波数(本実施形態1では、1000Hz)付近の音波が入射することにより、各ヘルムホルツ共鳴器の内部(溝14内)の空気が共鳴し、化粧板11に形成された各貫通孔13内で空気が激しく振動する。激しく振動する各貫通孔13内の空気は、各貫通孔13の周壁部と摩擦を生じることにより、音エネルギー(振動エネルギー)が熱エネルギーに変換される。上記吸音構造1では、このようにして吸音構造1が設けられた天井付近に達した音波のうち、複数のヘルムホルツ共鳴器の共振周波数付近の音波が著しく減衰する。
【0105】
また、実施形態2においても、化粧板11に内径の異なる2種類の貫通孔13a,13bを形成することにより,吸音パネル10には、開口部(貫通孔13)の形状が異なるために吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されることとなり、周波数帯域の異なる音波が吸音パネル10に吸収されることとなる。
【0106】
また、実施形態2においても、吸音下地材12が多孔質吸音材料によって構成されているため、吸音パネル10に形成されたヘルムホルツ共鳴器の内部の空気の共鳴に伴い、吸音下地材12を構成する多孔質吸音材料に含まれる空気が振動することによっても音エネルギーが熱エネルギーに変換されて音波が減衰する。
【0107】
さらに、実施形態2の吸音構造1では、実施形態1と同様に、吸音パネル10の表面上に複数のルーバー材21,…,21を取り付けることとした上で、各ルーバー材21にもヘルムホルツ共鳴器が形成されるように構成している。そのため、吸音構造1付近に達した音波は、吸音パネル10だけでなく各ルーバー材21にも吸収される。具体的には、各ルーバー材21では、複数のヘルムホルツ共鳴器に共振周波数付近の音波が入射することにより、各ヘルムホルツ共鳴器の内部(溝26内)の空気が共鳴し、表面材23に形成された各貫通孔27内で空気が激しく振動する。激しく振動する各貫通孔27内の空気は、各貫通孔27の周壁部と摩擦を生じることにより、音エネルギー(振動エネルギー)が熱エネルギーに変換される。上記吸音構造1では、このようにして吸音構造1が設けられた天井付近に達した音波が、吸音パネル10だけでなく各ルーバー材21にも形成されたヘルムホルツ共鳴器によって減衰する。
【0108】
また、実施形態2では、芯材22に溝幅の異なる(容積の異なる)2種類の第1溝(第1凹部)26a及び第2溝(第2凹部)26bを形成することにより、各ルーバー材21には、空洞の容積が異なるために吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されている。そのため、実施形態2では、周波数帯域の異なる音波が各ルーバー材21に吸収されることとなる。
【0109】
また、実施形態2では、芯材22が多孔質吸音材料によって構成されているため、各ルーバー材21に形成されたヘルムホルツ共鳴器の内部の空気の共鳴に伴い、芯材22を構成する多孔質吸音材料に含まれる空気が振動することによっても音エネルギーが熱エネルギーに変換されて音波が減衰する。
【0110】
さらに、実施形態2においても、吸音パネル10の表面上に複数のルーバー材21,…,21を取り付けて吸音パネル10に形成された複数のヘルムホルツ共鳴器に様々な角度で音波が入射するように構成することにより、ルーバー材21を設けない場合に比べて、複数のヘルムホルツ共鳴器が形成された吸音パネル10によって吸収可能な音波(減衰させることができる音波)の周波数帯域が拡がる。
【0111】
以上のような吸音作用により、実施形態2の吸音構造1は、実施形態1の吸音構造1よりも優れた吸音性能を発揮する。また、実施形態2の吸音構造1によれば、従来の吸音パネルしか備えない吸音構造に比べて、優れた吸音性能を発揮する周波数帯域が広くなる。この効果を検証すべく、以下の吸音率試験(残響室法吸音率試験)を行った。
【0112】
[吸音率試験]
実施形態1で示した吸音構造体1A,1Bに加え、以下の実施例2の吸音構造体1Cについて、温度23.4℃、湿度55%RHの残響室内で、JIS A 1409:1998に規定される「残響室法吸音率の試験方法」に準拠して、吸音率を測定した。測定は、中心周波数100Hz~4kHzの1/3オクターブ帯域毎に行った。
【0113】
<実施例2>
実施例1と同様の手順により、実施例1と同様の606mm×2420mm×15mmの吸音パネル10を作製した。また、実施形態2で説明したルーバー材21の長さを2420mmにした30mm×100mm×2420mmのルーバー材21を作製し、606mm×2420mm×15mmの吸音パネル10の表面上に125mmピッチで取り付けて吸音構造体1Cを作製した。
【0114】
<測定結果>
実施例2の吸音構造体1Cについて残響室法吸音率を測定したところ、
図8のような結果となった。
図8では、吸音構造体1Cの吸音率を実線で示し、実施形態1と比較するために、実施例1の吸音構造体1Aの吸音率を一点鎖線で示し、比較例1の吸音構造体1Bの吸音率を破線で示している。
【0115】
図8に示す結果より、吸音構造体1Cについて中心周波数250~2000Hzの範囲で計測した残響室法吸音率の平均値(N.R.C)を求めると、0.83であった。この結果から、実施形態2に係る吸音構造1(吸音構造体1C)の吸音性能が、実施形態1の吸音構造1(吸音構造体1A)よりもさらに優れることが判る。
【0116】
また、
図8に示すように、実施例1の吸音構造体1Aでは、残響室法吸音率が0.6以上になるのが中心周波数400~2000Hzの範囲であったが、吸音構造体1Cでは、中心周波数400~2500Hzの範囲で残響室法吸音率が0.6以上であった。この結果から、吸音構造1のルーバー20を、吸音機能を有する実施形態2のルーバー材21でルーバー20を構成した実施形態2の吸音構造1(吸音構造体1C)によれば、吸音機能を有しない実施形態1の通常のルーバー材21でルーバー20を構成した実施形態1の吸音構造1(吸音構造体1A)に比べて、優れた吸音性能を発揮する周波数帯域が広くなることが判る。
【0117】
-実施形態2の効果-
実施形態2の吸音構造1においても、実施形態1の吸音構造1と同様の効果を奏することができる。
【0118】
また、実施形態2の吸音構造1では、吸音パネル10だけでなく、吸音パネル10に取り付けられるルーバー材21にも複数のヘルムホルツ共鳴器が形成されている。そのため、吸音構造1付近に達した音波は、吸音パネル10だけでなく各ルーバー材21にも吸収されることとなる。具体的には、各ルーバー材21では、複数のヘルムホルツ共鳴器に、共振周波数(固有振動数)付近の音波が入射することにより、ヘルムホルツ共鳴器の内部(溝26内)の空気が共鳴し、各貫通孔27内で空気が激しく振動する。激しく振動する各貫通孔27内の空気は、各貫通孔27の周壁部と摩擦を生じることにより、音エネルギー(振動エネルギー)が熱エネルギーに変換される。実施形態2によれば、このようにして吸音構造付近に達した音波のうち、ルーバー材に形成された複数のヘルムホルツ共鳴器の共振周波数付近の音波を、各ルーバー材21に形成されたヘルムホルツ共鳴器によって著しく減衰させることができる。つまり、実施形態2によれば、各ルーバー材21にも吸音機能を付与することにより、吸音構造1の吸音性能をより向上させることができる。
【0119】
また、実施形態2によれば、吸音パネル10とルーバー材21とに形成されるヘルムホルツ共鳴器の形状を変えることにより、吸音パネル10に吸収されない周波数帯域の音波を、ルーバー材21に吸収させることができる。このように構成によれば、さらに幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮する吸音構造1を提供することができる。
【0120】
また、実施形態2の吸音構造1では、少なくとも一方の側面部23bに複数の貫通孔27,…,27が形成された断面コ字状の表面材23を、側面に複数の溝(凹部)26,…,26が形成された芯材22に外嵌するだけで複数のヘルムホルツ共鳴器が形成されたルーバー材21を容易に形成することができる。
【0121】
また、実施形態2では、芯材22が多孔質吸音材料によって構成されている。そのため、実施形態2によれば、各ルーバー材21に形成されたヘルムホルツ共鳴器の内部の空気の共鳴に伴い、芯材22を構成する多孔質吸音材料に含まれる空気が振動することによっても音エネルギーが熱エネルギーに変換されて音波が減衰する。つまり、実施形態2によれば、より吸音性能に優れた吸音構造1を提供することができる。
【0122】
さらに、実施形態2では、多孔質吸音材料からなる芯材22にヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する複数の溝(凹部)26,…,26を形成しているため、ヘルムホルツ共鳴器の空洞の周壁部の大部分が多孔質吸音材料で形成されることとなる。よって、実施形態2によれば、表面材23にヘルムホルツ共鳴器の空洞を形成する場合に比べて、多孔質吸音材料に含まれる空気の振動による吸音効果を向上させることができる。
【0123】
ところで、通常、多孔質吸音材料で構成される板状体は、ある程度の剛性が要求される表面材23に比べて軽量で軟質である。そのため、実施形態2の吸音構造1のように、ヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画する凹部(本実施形態2では、溝26)を表面材23ではなく、多孔質吸音材料からなる芯材22の側面に形成することにより、溝(凹部)26の加工が容易になる。また、溝(凹部)26の加工が容易であるため、芯材22に形成する複数の溝(凹部)26,…,26のうちのいくつかの形状を変更することにより、吸収可能な音波の周波数帯域の異なる複数種のヘルムホルツ共鳴器をルーバー材21に形成することも容易にできる。
【0124】
なお、本実施形態2の吸音構造1では、板状部材22A,22Bの表面に形成される複数の溝(凹部)26,26,26に、容積の異なる2種類の凹部(第1溝26a及び第2溝26b)が含まれている。ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積と開口部の長さ(首部の長さ)と空洞の容積によって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動する。そのため、芯材22に容積の異なる2種類の凹部を形成することにより、ルーバー材21に空洞の容積が異なるために吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されることとなる。そして、本実施形態2によれば、このようなルーバー材21を用いることにより、実施形態1の吸音構造1よりもさらに幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造1を提供することができる。
【0125】
また、実施形態2の吸音構造1では、複数の貫通孔27,…,27を、表面材23の2つの側面部23b,23bの両方に形成し、表面に複数の溝(凹部)26,…,26が形成され、裏面どうしを重ね合わせた2枚の板状部材22A,22Bによって芯材22を形成している。実施形態2では、このようにルーバー材21を構成することにより、ルーバー材21の両側から音波を吸収させることができるため、より吸音性能に優れた吸音構造1を提供することができる。また、実施形態2の吸音構造1では、芯材22の両側面に溝26の加工を施すことなく、表面のみに加工を施した2枚の板状部材22A,22Bを重ね合わせた芯材22を用いることにより、両側面から音波を吸収可能なルーバー材21を容易に形成することができる。
【0126】
また、実施形態2の吸音構造1では、芯材22及び表面材23を、不燃性能を有する材料によって形成しているため、ルーバー材21に不燃性能を与えることができる。
【0127】
また、実施形態2の吸音構造1では、芯材22を、ロックウール板で構成しているため、ルーバー材21に高い吸音性能だけでなく不燃性能も与えることができる。
【0128】
《その他の実施形態》
上記各実施形態では、本発明に係る建物内に設けられる吸音構造の一例として、室内空間の天井に適用した例について説明したが、本発明に係る吸音構造を適用可能な箇所は、天井に限られない。本発明に係る吸音構造は、室内空間を構成する壁に適用されてもよく、また、間仕切り壁や衝立のような間仕切り部材に適用されてもよい。
【0129】
また、上記各実施形態では、化粧板11と吸音下地材12とからなる吸音パネル10を備えた吸音構造1について説明したが、本発明に係る吸音構造で用いる吸音パネルは、複数のヘルムホルツ共鳴器が形成されたパネルであればいかなるものであってもよい。
【0130】
また、上記各実施形態では、吸音パネル10に、内径の異なる2種類の貫通孔13a,13bを形成することにより、吸収可能な音波の周波数帯域の異なる2種類のヘルムホルツ共鳴器が構成されるようにしていた。しかしながら、本発明に係る吸音パネルは、形成される複数の貫通孔13,…,13の内径が全て等しく構成されるものであってもよい。また、吸音パネル10に、内径の異なる3種類以上の貫通孔を形成するものであってもよい。
【0131】
また、上記各実施形態では、吸音パネル10においてヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画するために吸音下地材12の表面に形成される凹部を、吸音下地材12の一端から他端に亘る溝14で構成し、各溝14に複数の貫通孔13,…,13を対応させていた。しかしながら、本発明に係る凹部は、上述のように複数の貫通孔13,…,13に対応する溝14によって構成されるものに限られず、貫通孔13に1対1に対応するものであってもよい。
【0132】
また、上記各実施形態では、吸音下地材12の表面に形成される複数の溝14,…,14を、同様の構成としていたが、複数の溝(凹部)14,…,14は、断面形状や断面寸法が異なるものであってもよい。ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積と開口部の長さ(首部の長さ)と空洞の容積によって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動する。そのため、吸音下地材12の表面に断面形状や断面寸法の異なる複数種類の溝(凹部)14,…,14を形成すると、吸音パネル10には、吸収可能な音波の周波数帯域の異なる複数種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されることとなる。言い換えると、吸音下地材12の表面に断面形状や断面寸法の異なる複数種類の溝(凹部)14,…,14を形成するだけで、幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造1を提供することができる。
【0133】
また、上記各実施形態において、吸音パネル10及びルーバー材21の種々の寸法は、一例として示したものであり、本発明に係る吸音パネル及びルーバー材の寸法は、上述のものに限られない。そのため、巨大な1枚の吸音パネル10に複数のルーバー材21,…,21を取り付けて吸音構造1を構成してもよい。
【0134】
また、上記実施形態2において、芯材22と表面材23とを有する複数のルーバー材21,…,21を備えた吸音構造1について説明したが、本発明に係る吸音構造で用いるルーバー材は、側面において開口する空洞を有する複数のヘルムホルツ共鳴器が内部に形成され、ルーバーを構成できるものであればいかなるものであってもよい。
【0135】
また、上記実施形態2では、ルーバー材21においてヘルムホルツ共鳴器の空洞を区画するために多孔質吸音材料からなる2つの板状部材22A,22Bの表面に形成される凹部を、長さ方向の一端から他端に亘る溝26で構成し、各溝26に複数の貫通孔27,…,27を対応させていた。しかしながら、本発明に係る凹部は、上述のように複数の貫通孔27,…,27に対応する溝26によって構成されるものに限られず、貫通孔27に1対1に対応するものであってもよい。
【0136】
また、上記実施形態2では、表面材23の側面部23bに形成される複数の貫通孔27,…,27を、同様の構成としていたが、複数の貫通孔27,…,27は、断面形状や断面寸法が異なるものであってもよい。ヘルムホルツ共鳴器では、開口部の断面積と首の長さと空洞の容積によって共振周波数が変動し、吸収可能な(減衰させることができる)音波の周波数が変動する。そのため、表面材23の側面部23bに断面形状や断面寸法の異なる複数種類の貫通孔27,…,27を形成すると、ルーバー材21には、吸収可能な音波の周波数帯域の異なる複数種類のヘルムホルツ共鳴器が形成されることとなる。言い換えると、表面材23の側面部23bに断面形状や断面寸法の異なる複数種類の貫通孔27,…,27を形成するだけで、幅広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮することができる吸音構造1を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
以上説明したように、本発明は、建物の室内に設けられる吸音構造について有用である。
【符号の説明】
【0138】
1 吸音構造
10 吸音パネル
11 化粧板
12 吸音下地材
13 貫通孔
13a 第1貫通孔
13b 第2貫通孔
14 溝(凹部)
20 ルーバー
21 ルーバー材
22 芯材
22A,22B 板状部材
23 表面材
23a 正面部
23b 側面部
26 溝(凹部)
26a 第1溝(第1凹部)
26b 第2溝(第2凹部)
27 貫通孔
D1 第1の内径
D2 第2の内径