(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129183
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】全熱交換素子
(51)【国際特許分類】
F28F 3/08 20060101AFI20220829BHJP
F28D 9/00 20060101ALI20220829BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
F28F3/08 301A
F28D9/00
C09J133/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027788
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】毛利 信吉
【テーマコード(参考)】
3L103
4J040
【Fターム(参考)】
3L103AA35
3L103BB42
3L103CC22
3L103DD15
3L103DD54
3L103DD56
4J040CA081
4J040DB001
4J040DC091
4J040DD001
4J040DE001
4J040DF001
4J040EK031
4J040LA08
4J040LA11
4J040MA09
4J040MB02
4J040MB10
4J040NA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】仕切部材に担持した吸湿剤が、間隔保持部材へ移行する現象を低減し、熱交換性能に優れた全熱交換素子を提供する。
【解決手段】吸湿剤が担持された仕切部材2と、間隔保持部材3と、仕切部材2と間隔保持部材3とを接着する接着剤と、を有し、接着剤が、接触角(乾燥塗工量23g/m
2で、接着剤を片面塗工及び乾燥したコピー用紙(製品名:三菱PPC用紙V-MX、坪量70g/m
2、三菱製紙(株)製)の塗工面の接触角を、携帯式接触角計PG-X plus((株)マツボー製)にて、4μL液滴での動的モード、ドロップアウトタイム1minの条件で5回測定した平均値)が55度以上の(メタ)アクリル樹脂系接着剤であることを特徴とする全熱交換素子1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿剤が担持された仕切部材と、間隔保持部材と、前記仕切部材と前記間隔保持部材とを接着する接着剤と、を有し、
前記接着剤が、下記接触角が55度以上の(メタ)アクリル樹脂系接着剤であることを特徴とする全熱交換素子。
接触角:乾燥塗工量23g/m2で、接着剤を片面塗工及び乾燥したコピー用紙(製品名:三菱PPC用紙V-MX、坪量70g/m2、三菱製紙(株)製)の塗工面の接触角を、携帯式接触角計PG-X plus((株)マツボー製)にて、4μL液滴での動的モード、ドロップアウトタイム1minの条件で5回測定した平均値。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル、事務所、店舗、住居等で、快適な空間を維持するために、室内に新鮮な外気を供給すると共に、室内の汚れた空気を排出する全熱交換器に搭載される、顕熱(温度)と潜熱(湿度)の交換を同時に行う全熱交換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
室内の空調において、冷暖房効率に優れた換気方法として、新鮮な外気を供給する給気流と室内の汚れた空気を排出する排気流との間で、温度(顕熱)と共に湿度(潜熱)の交換も同時に行うことができる全熱交換がよく知られている。
【0003】
全熱交換を行う全熱交換素子では、給気経路と排気経路が、全熱交換素子用紙を挟んで、互いに独立して形成されており、その間で全熱交換が行われるため、このような全熱交換素子を備えた全熱交換器で室内の換気を行えば、冷暖房効率を大きく改善することが可能となる。
【0004】
全熱交換素子には、直交流型と対向流型があり、全熱交換素子用紙を加工して作製される。いずれも専用の機械を用いて作製される。
【0005】
直交流型全熱交換素子では、所定個の素子構成ユニットを積層して全熱交換素子を作製する際に水系接着剤を用いた場合、仕切部材に担持されている吸湿剤が、仕切部材から間隔保持部材へ移行する現象が徐々に起きて、特に湿度(潜熱)交換性能が低下する課題がある。この課題を改善するために、水溶性の吸湿剤が添加されたシート状の仕切部材と、接着剤により仕切部材と接合されて該仕切部材と共に給気及び排気経路を形成する間隔保持部材とが交互に積層された積層構造を有する全熱交換素子を構成するにあたって、間隔保持部材には保水性を持たせ、上記の接着剤としては上記水溶性の吸湿剤又は該水溶性の吸湿剤の水溶液に対して非溶解性を示す接着剤を用いることにより、湿度交換性能が高く、かつ信頼性の高い空気調和機や換気装置等を構成し易い全熱交換素子が開示されている(例えば特許文献1)。これは、水溶性の吸湿剤が、仕切部材から間隔保持部材へ移行する現象を低減することに有効であるが、吸湿剤に対して非溶解性を示す接着剤、例えばホットメルト等を使用するため、全熱交換素子専用の機械を用いた製造では、作業性が下がり、且つコストアップとなるため、好ましくない。
【0006】
また、同様の目的で、湿度交換性能が高く、経済的な全熱交換素子を提供するために、仕切部材であるライナーシートと間隔保持部材であるコルゲートシートとを接着し片面段ボールを作成する工程と、前記工程で得られた複数の前記片面段ボールを、片面段ボールの断目の方向が一段ずつ交差するように積層する工程とを有する全熱交換素子の製造方法であって、前記ライナーシート及び前記コルゲートシートはそれぞれ少なくとも一部に吸湿剤を含有し、片面段ボールを積層する前におけるライナーシートの吸湿剤の含有量をR1、コルゲートシートの吸湿剤の含有量をR2とした場合、R1が1~20g/m2であり、R1/R2が0.5~2.0である全熱交換素子の製造方法及び全熱交換素子が提案されている(例えば特許文献2)。これは、吸湿剤が、仕切部材から間隔保持部材へ移行する現象を低減し、湿度交換性能が維持される全熱交換素子を提供することに有効であるが、間隔保持部材に吸湿剤を塗工するため、手間が掛かってコストアップとなる課題があった。
【0007】
更に、多孔質基材の片面に水溶性高分子と吸湿剤と難燃剤とからなるコート層を設けたシート状物であって、前記多孔質基材が前記コート層と接合しているサイズ度50秒以上の可燃性層と前記可燃性層の他面側に接合される難燃性層との2層構造となっていることを特徴とする全熱交換素子、2層構造からなる多孔質基材の透気度が2秒/100cc以下である全熱交換素子が提案されている(例えば特許文献3)。しかし、片面のみにコート層があり、吸湿剤、難燃剤の塗工量もコントロールするため、全熱交換素子としての交換性能がやや低いという課題があった。
【0008】
気体遮蔽性を有する仕切部材と仕切部材の間隔を保持する間隔保持部材を有し、仕切部材を隔てて二種の気流を流動させ、仕切部材を介して二種の気流の顕熱及び潜熱を熱交換させる全熱交換器において、仕切部材及び間隔保持部材は、潮解性の吸湿剤を含有し、仕切部材と間隔保持部材とが、カルボキシル基と水酸基の少なくとも1つを含む水溶性非イオン性樹脂に塩化リチウムを含有させた混合物の水溶液からなる接着剤によって接着されている全熱交換器が開示されている(例えば特許文献4)。これは全熱交換器の熱交換性能の低下が抑制される反面、当該接着剤の準備と使用に手間が掛かるという課題があった。
【0009】
熱交換素子に、火災時等の製品安全性確保のため難燃機能を持たせるべく、第1の気体の流路である第1の気体流路と、第2の気体の流路であって第1の気体流路上に設けられた第2の空気流路と、を形成すると共に第1の気体流路と第2の気体流路とを仕切る仕切部材と、第1の気体流路と第2の気体流路とを形成すると共に仕切部材間の間隔を保持する間隔保持部材と、仕切部材と間隔保持部材とを接着する接着剤と、を備え、仕切部材及び/又は間隔保持部材が、吸液性を有する素材からなり、接着剤が、水溶性難燃剤を含浸した水溶媒系接着剤であることを特徴とする熱交換素子が開示されている(例えば特許文献5)。これは、熱交換素子に難燃性を持たせることを目的としているが、熱交換素子の熱交換性能の低下抑制にも一定の効果があり、その効果がもう少し大きいことが望まれている。
【0010】
また、給気及び排気経路内で凍結が発生しても損傷を受けることがなく、湿度の変化によっても寸法が大きく変化することなく、間隔保持部材であるコルゲートシートとして燃え易い材料を使用しても全体としては難燃性を有する直交流型全熱交換器を提供するために、仕切部材であるライナーシートは透湿性を有する材料より構成し、間隔保持部材であるコルゲートシートは非吸湿性の材料より構成し、仕切部材より耐熱性の低い接着剤(アクリル・エマルジョン系、酢酸ビニル・エマルジョン系接着剤)で仕切部材と間隔保持部材とを接着した直交流全熱交換器が提案されている(例えば特許文献6)。これにより全熱交換器の熱交換性能の低下抑制に一定の効果があるが、その効果がもう少し大きいことが望まれている。
【0011】
また、水溶性吸湿剤を添加した仕切部材と、間隔保持部材と、前記仕切部材と間隔保持部材とを接着する接着剤と、を備える全熱交換素子において、前記接着剤が水溶性吸湿剤を含浸させた水溶媒系接着剤(エマルジョン分散型接着剤(酢酸ビニル樹脂系、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)系、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体系、アクリル-酢酸ビニル系、ポリウレタン系等)、水溶性高分子樹脂(ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸))であることを特徴とする全熱交換素子及び全熱交換器が提案されている(例えば特許文献7)。これは全熱交換器の熱交換性能の低下抑制に一定の効果が発揮されるが、当該接着剤の調製に手間が掛かるという課題があった。
【0012】
多孔質基材を親水性高分子物質で処理してなる全熱交換器用の素子シートを相互に貼合わせて形成させた全熱交換素子であるエレメントにおいて、前記素子シートの接着剤(エチレン酢酸ビニル系のホットメルト接着剤)塗布部分に多数の小孔からなる穿孔処理が施されていることを特徴とする全熱交換器のエレメント接着構造が提案されている(例えば特許文献8)。これによりエレメントの熱交換性能の低下抑制に一定の効果が発揮されるが、穿孔処理に手間が掛かるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2009/004695号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2015/098592号パンフレット
【特許文献3】特開昭62-26498号公報
【特許文献4】特開2007-315649号公報
【特許文献5】国際公開第2008/139560号パンフレット
【特許文献6】特開2001-241867号公報
【特許文献7】国際公開第2008/041327号パンフレット
【特許文献8】特開昭61-43687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、仕切部材に担持された吸湿剤が、間隔保持部材へ移行する現象を低減し、熱交換性能に優れた全熱交換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る課題は、下記手段によって解決することができる。
<1>吸湿剤が担持された仕切部材と、間隔保持部材と、前記仕切部材と前記間隔保持部材とを接着する接着剤と、を有し、
前記接着剤が、下記接触角が55度以上の(メタ)アクリル樹脂系接着剤であることを特徴とする全熱交換素子。
接触角:乾燥塗工量23g/m2で、接着剤を片面塗工及び乾燥したコピー用紙(製品名:三菱PPC用紙V-MX、坪量70g/m2、三菱製紙(株)製)の塗工面の接触角を、携帯式接触角計PG-X plus((株)マツボー製)にて、4μL液滴での動的モード、ドロップアウトタイム1minの条件で5回測定した平均値。
【発明の効果】
【0016】
本発明の全熱交換素子により、仕切部材に担持された吸湿剤が、間隔保持部材へ移行する現象を低減し、熱交換性能に優れた全熱交換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の全熱交換素子について詳細に説明する。
【0019】
本発明の全熱交換素子用の仕切部材は、天然パルプを含有した基材シートからなることが好ましい。
【0020】
本発明における基材シートは、天然パルプを原料として、湿式抄紙法にて製造されるシートであることが好ましい。天然パルプとしては、広葉樹晒しクラフトパルプ(略称:LBKP、英文表記:Hardwood Bleached Kraft Pulp)、針葉樹晒しクラフトパルプ(略称:NBKP、英文表記:Softwood Bleached Kraft Pulp)、広葉樹晒しサルファイトパルプ(略称:LBSP、英文表記:Hardwood Bleached Sulfite Pulp)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(略称:NBSP、英文表記:Softwood Bleached Sulfite Pulp)、広葉樹未晒クラフトパルプ(略称:LUKP、英文表記:Hardwood Unbleached Kraft Pulp)、針葉樹未晒クラフトパルプ(略称:NUKP、英文表記:Softwood Unbleached Kraft Pulp)等の木材パルプ繊維を単独又は複数配合して使用することが好ましい。基材シートは、その他の繊維として、綿、コットンリンター、麻、竹、サトウキビ、トウモロコシ、ケナフ等の植物繊維;羊毛、絹等の動物繊維;レーヨン、キュプラ、リヨセル等のセルロース再生繊維を単独又は複数配合して使用することもできる。
【0021】
本発明では、天然パルプの長さ加重平均繊維長は0.7~1.7mmであることが好ましい。また、
図2に示したように、天然パルプの繊維長ヒストグラムにおいて、0.5~1.5mmの間に最大頻度ピークを有し、1.0mm以上の繊維長を有する繊維の割合が25.0%以上であることが好ましい。全熱交換素子用紙から全熱交換素子を作製する工程において、天然パルプの長さ加重平均繊維長が0.7~1.7mmであり、また、1.0mm以上の繊維を絡み合わせた場合、全熱交換素子用紙の強度が強くなり易く、遮蔽性も向上し易い。最大頻度ピークは、0.7~1.2mmの間にあることがより好ましい。1.0mm以上の繊維長を有する繊維の割合が30.0%以上であることがより好ましく、35.0%以上であることが更に好ましい。また、1.0mm以上の繊維長を有する繊維の割合は60.0%以下であることが好ましい。
【0022】
また、天然パルプが、繊維長ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に、0.0~0.5mmの間にピーク(第2ピーク)を有する全熱交換素子用紙では、より細かな繊維が繊維間の隙間を塞ぐことにより、強度を維持し、給気と排気の混合を起こし難く、より優れた遮蔽性を有する。
【0023】
本発明の天然パルプの繊維長及び繊維長ヒストグラムは、JIS P8226:2006(偏光法)「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準じて、OpTest Equipment Inc.Canada社製ファイバークオリティーアナライザーを使用して測定した。
【0024】
本発明における「繊維長」、「平均繊維長」及び「繊維長分布」とは、上記に従って測定・算出される「長さ加重繊維長」、「長さ加重平均繊維長」及び「長さ加重繊維長分布」を意味する。また、「1.0mm以上の繊維の割合」とは、「1.0mm以上の繊維長を有する繊維の割合」を意味し、上記に従って測定・算出された「長さ加重繊維長分布」において、その中の「1.0mm以上の繊維の割合」を求めた数値を意味する。
【0025】
天然パルプは、ビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、ボールミル、ダイノミル、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で、剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕機、繊維懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより、繊維に剪断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等に付され、上記所望の繊維長分布等に調製される。この中でも特に、リファイナーが好ましい。これら叩解、分散設備の種類、処理条件(繊維濃度、温度、圧力、回転数、リファイナーの刃の形状、リファイナーのプレート間のギャップ、処理回数)の調整により、目的の天然パルプの繊維長分布等を達成することが可能となる。
【0026】
基材シートには、必要とする密度、平滑度、保湿性を得るために、例えば重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ、アルミナ、有機顔料等の各種填料、接着剤、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、紙力増強剤等の各種配合剤を適宜含有することができる。
【0027】
基材シートの製法としては、一般的な長網抄紙機、円網抄紙機等を用いて、天然パルプをシート状に形成する湿式抄紙法が挙げられる。
【0028】
基材シートには、必要とする密度、平滑度、透気度、強度を得るために、抄紙機に設置されたサイズプレス、ロールコーター等で、表面サイズプレスを施してもよい。表面サイズプレス液の成分としては、ポリビニルアルコール等の各種の合成接着剤が適宜使用できる。
【0029】
基材シートには、必要とする密度、平滑度、透気度、強度を得るために、カレンダー処理を施してもよい。カレンダー装置としては、硬質ロール同士、弾性ロール同士及び硬質ロールと弾性ロールの対の組み合わせからなる群から選ばれる1種以上の組み合わせロールを有する装置が好適に使用される。具体的には、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等を使用することができる。
【0030】
全熱交換素子用の仕切部材には、湿度交換性能を改善させる目的で、吸湿剤を担持させる。吸湿剤としては、無機酸塩、有機酸塩、無機質填料、尿素類、吸湿(吸水)性高分子などがある。例えば、無機酸塩としては、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどがある。有機酸塩としては、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウムなどがある。無機質填料としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、タルク、クレー、ゼオライト、珪藻土、セピオライト、シリカゲル、活性炭などがある。尿素類としては、尿素、ヒドロキシエチル尿素などがある。吸湿(吸水)性高分子としては、ポリアスパラギン酸、ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びそれらの塩又は架橋物、ヒアルロン酸及びそれらの架橋物、コラーゲン、アクリルニトリル系重合体ケン化物、酢酸ビニル/アクリル酸塩共重合体ケン化物、アクリル酸塩/アクリルアミド共重合体、ポリビニルアルコール/無水マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド系、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体等がある。吸湿剤は、目的とする透湿度に応じて、種類や付着量を選んで用いられる。コスト面と透湿性能の観点から、塩化カルシウム、塩化リチウム及び塩化マグネシウムの群から選ばれる1種以上の吸湿剤を使用することが好ましい。特に好ましい吸湿剤は塩化カルシウムである。塩化カルシウムと他の吸湿剤とを併用しても良い。
【0031】
吸湿剤の付着量は、特に制限はない。使用する吸湿剤の種類にもよるが、JIS Z0208:1976の評価方法を用い、23℃、相対湿度50%の条件下で測定された透湿度が300g/m2・24h以上であることが好ましい。この範囲であれば、湿熱交換性能に優れた全熱交換素子が得ることができる。吸湿剤の付着量としては、使用する吸湿剤の種類にもよるが、ある程度の付着量から湿熱交換性能が頭打ちになることもあり、3g/m2~15g/m2であることが好ましく、4g/m2~10g/m2であることがより好ましい。透湿度としては300g/m2・24h~1500g/m2・24hが好ましく、400g/m2・24h~1000g/m2・24hの範囲がより好ましい。
【0032】
仕切部材には、難燃性を付与する目的で、難燃剤を付着することができる。難燃剤としては、無機系難燃剤、無機リン系化合物、含窒素化合物、塩素系化合物、臭素系化合物などがある。例えば、ホウ砂とホウ酸の混合物、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸アミド、塩素化ポリオレフィン、臭化アンモニウム、非エーテル型ポリブロモ環状化合物等の水溶液若しくは水に分散可能である難燃剤が挙げられる。難燃性のレベルとしては、JIS A1322:1966で測定される炭化長が10cm未満であることが好ましい。難燃剤の含有量としては、特に制限はなく、使用する難燃剤にもよるが、5g/m2~10g/m2であることが好ましい。10g/m2よりも多く付着させても良いが、効果は頭打ちとなる。
【0033】
仕切部材には、防カビ性を付与する目的で、防カビ剤を含有させることができる。防カビ剤としては、一般的に防カビ剤として市販されているものが使用できる。例えば、有機窒素化合物、硫黄系化合物、有機酸エステル類、有機ヨウ素系イミダゾール化合物、ベンザゾール化合物などが挙げられる。防カビ性のレベルとしては、JIS Z2911:2010で測定される菌糸の発育が認められない状態が好ましい。防カビ剤の含有量としては、0.5g/m2~5g/m2であることが好ましい。5g/m2よりも多く付着させても良いが、効果は頭打ちとなる。
【0034】
仕切部材に、難燃剤、防カビ剤、吸湿剤等の薬剤を含有させる方法としては、薬剤を基材シートにできるだけ均一に含有させることができる方法であれば特に制限はない。天然パルプと薬剤を混合し、基材シートとして製造することもできるし、薬剤を含む溶液又は分散液を、塗工、含浸又はスプレー等の方法によって、天然パルプを含有するシートに付与し、溶媒や分散媒を乾燥等の方法で除去し、薬剤を基材シートに含有させる方法が例示される。また、全熱交換素子用の仕切部材と間隔保持部材の接着に使用する接着剤に、これら薬剤を含有させて使用することもできる。
【0035】
仕切部材の坪量、厚み、密度等に関しては特に制限はないが、熱交換性能の観点から、坪量は低く、厚みは薄く、密度は高いものが好ましい。坪量は20~80g/m2が好ましく、30~60g/m2がより好ましく、40~50g/m2が更に好ましい。厚みは20~80μmが好ましく、30~60μmがより好ましく、40~50μmが更に好ましい。密度は0.6~1.2g/cm3が好ましく、0.7~1.2g/cm3がより好ましく、0.8~1.1g/cm3が更に好ましい。
【0036】
間隔保持部材は、全熱交換素子の室内及び室外空気の排気経路及び給気経路となるものであるが、間隔保持部材の材質には特に限定はなく、紙、フィルム、樹脂板、不織布等が例示される。当該間隔保持部材の坪量、厚み、密度に関しても特に制限はなく、熱交換性能とコスト、強度等の観点から適宜選ばれる。間隔保持部材の坪量は、例えば紙の場合、坪量は10~300g/m2、厚みは20~300μm、密度は0.6~3.0g/cm3が好ましく、且つ安価である紙が好ましい。
【0037】
全熱交換素子は、仕切部材と間隔保持部材を接着剤で接着加工して作製されるが、その際、専用の機械(コルゲーターマシン)等を用いる。本発明において、接着剤は、接触角が55度以上の(メタ)アクリル樹脂系接着剤である。(メタ)アクリル樹脂系接着剤における樹脂分子量の増加や樹脂組成を変更することで、乾燥後の接着剤被膜の疎水性を高くし、接着剤が、接触角が55度以上の(メタ)アクリル樹脂系接着剤であることによって、仕切部材に担持された吸湿剤が間隔保持部材へ移行する現象を低減し、熱交換性能に優れた全熱交換素子を提供することができる。接触角が55度以上の(メタ)アクリル樹脂系接着剤は、必要に応じて2種類以上を併用しても良い。
【0038】
本発明において、接着剤が、接触角が55度以上の(メタ)アクリル樹脂系接着剤以外に、ポリビニルアルコール系、接触角が55度未満の(メタ)アクリル樹脂系、芳香族ビニル化合物樹脂系、スチレンブタジエンゴム系、酢酸ビニル樹脂系、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂系、シリコン樹脂系、フッ素樹脂系、ホットメルトバインダー等の他の接着剤を更に含んでも良い。しかしながら、接着剤が、接触角が55度以上の(メタ)アクリル樹脂系接着剤であることによって、仕切部材に担持された吸湿剤が、間隔保持部材へ移行する現象を低減し、熱交換性能に優れた全熱交換素子を提供することができることから、他の接着剤の含有率は、接着剤全体に対して、20質量%以下であることが好ましい。なお、他の接着剤としては、必要に応じて2種類以上を併用しても良い。また、他の接着剤としては、酢酸ビニル樹脂系、接触角が55度未満の(メタ)アクリル樹脂系の接着剤がより好ましい。接着剤の媒体は、水又は溶剤が一般的に使われる。しかし、専用の機械での作業性を踏まえると、媒体が水であることが好ましい。
【0039】
なお、本発明における接触角とは、乾燥塗工量23g/m2で、接着剤を片面塗工及び乾燥したコピー用紙(製品名:三菱PPC用紙V-MX、坪量70g/m2、三菱製紙(株)製)の塗工面の接触角を、携帯式接触角計PG-X plus((株)マツボー製)にて、4μL液滴での動的モード、ドロップアウトタイム1minの条件で5回測定した平均値である。
【実施例0040】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものでない。
【0041】
(実施例1~4、比較例1)
NBKPを濃度3質量%で離解した後、ダブルディスクリファイナー及びデラックスファイナーを用いて調製し、天然パルプを得た。その後、長網抄紙機により、坪量40g/m2の仕切部材Iを製造した。
【0042】
次いで、仕切部材Iに、35質量%の塩化カルシウム(吸湿剤、(株)トクヤマ製)水溶液を、ロッドバーを使って、乾燥後に塩化カルシウムが5g/m2になるように塗工し、120℃で3分間乾燥し、仕切部材IIを得た。
【0043】
[全熱交換素子の作製方法]
遮蔽性の評価のために、全熱交換素子用の仕切部材IIを用いて、縦200mm、横200mm、高さ250mm、一段の高さ4mmの全熱交換素子を作製した。この時、間隔保持部材としては、70g/m
2の晒クラフト紙を用い、仕切部材と間隔保持部材との接着には、表1の全熱交換素子用接着剤を接合部にdry50g/m
2になるように塗工し、
図1の形状を有する、直交流型全熱交換素子を作製した。
【0044】
図1の形状を有する全熱交換素子について詳説する。全熱交換を行う全熱交換素子1では、間隔保持部材3を介して、仕切部材2を積層させ、室外の空気を室内に導入する給気経路4と、室内の空気を室外に排出する排気経路5が構成されていて、給気経路4と排気経路5は独立している。給気経路4及び排気経路5に気流6及び7が流れて、仕切部材2の間で全熱交換が行われる。このような全熱交換素子1を備えた全熱交換器で室内の換気を行えば、冷暖房効率を大きく改善することが可能となる。
【0045】
また、仕切部材2は、間隔保持部材3を積層させるに当たり、上下の間隔保持部材3同士の間に置かれ、接着剤で接着することで、全熱交換素子1が作製される。
【0046】
商品名:モビニール(登録商標)VDM7410:ジャパンコーティングレジン(株)製((メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの水系接着剤)
商品名:モビニールDM772:ジャパンコーティングレジン(株)製((メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの水系接着剤)
商品名:モビニール987B:ジャパンコーティングレジン(株)製((メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの水系接着剤)
商品名:モビニール718A:ジャパンコーティングレジン(株)製((メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの水系接着剤)
【0047】
[接着剤の接触角の測定方法]
ワイヤーバーで、乾燥塗工量23g/m2で、接着剤を片面塗工及び乾燥したコピー用紙(製品名:三菱PPC用紙V-MX、坪量70g/m2、三菱製紙(株)製)を、23℃、50%RH下で12時間保持後、携帯式接触角計PG-X plus((株)マツボー製)にて、4μL液滴での動的モード、ドロップアウトタイム1min条件で5回測定した値の平均値を「接触角」とした。
【0048】
[全熱交換素子の熱交換性能の評価方法]
JIS B8628:2003に準じて、作製した各全熱交換素子を用いて、全熱交換素子の熱交換性能を評価した。実施例1~4の全熱交換素子の熱交換性能は、比較例1の全熱交換素子の熱交換性能と比較して、下記評価基準で評価した。
【0049】
1:不良
2:やや不良
3:同等
4:やや良
5:良
【0050】
【0051】
実施例1~3は、接着剤が、接触角が55度以上の(メタ)アクリル樹脂系接着剤であるが、接着剤が、接触角が40度の(メタ)アクリル樹脂系接着剤である比較例1と比較して、全熱交換素子としての熱交換性能が良いことが分かる。
【0052】
以上の結果より、吸湿剤が担持された仕切部材と、間隔保持部材と、前記仕切部材と前記間隔保持部材とを接着する接着剤と、を有する全熱交換素子において、接着剤が、接触角が55度以上である(メタ)アクリル樹脂系接着剤であることによって、仕切部材に担持された吸湿剤が間隔保持部材へ移行する現象を低減し、熱交換性能に優れた全熱交換素子を提供することができる。