(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129214
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220829BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220829BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/20 Z
B32B15/09 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027826
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土屋 圭司
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA33
4F071AA46
4F071AA84
4F071AA88A
4F071AB21
4F071AB26
4F071AD02
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4F071AF30Y
4F071AG28
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4F071BC01
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4F100EJ172
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4F100GB16
4F100JA04A
4F100JK16
4F100JL01
4F100JN08A
(57)【要約】
【課題】 製缶工程時の粒子脱落が少なく、且つフィルムラミネート金属板の移送時や加工時に傷つきや加工シワの発生がなく、製缶における成形加工性に優れたポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 エチレンテレフタレート単位を95モル%以上含むポリエステル樹脂含むポリエステルフィルムであって、
(1)フィルムの空隙率が、0~5%であり、
(2)フィルム表面の算術平均高さSaが、0.1~0.16μmであり、
(3)フィルム表面の最大山高さSpが2.5~4.0μmであり、
(4)フィルムのヘイズが25~70%である、
ことを特徴とするポリエステルフィルム。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレート単位を95モル%以上含むポリエステル樹脂含むポリエステルフィルムであって、
(1)フィルムの空隙率が、0~5、0体積%であり、
(2)フィルム表面の算術平均高さSaが、0.1~0.16μmであり、
(3)フィルム表面の最大山高さSpが2.5~4.0μmであり、
(4)フィルムのヘイズが25~70%である、
ことを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項2】
非球状の無機粒子を少なくとも2種含む、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記非球状の無機粒子の少なくとも1種が多孔質シリカ粒子である、請求項2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記非球状の無機粒子の少なくとも1種が炭酸カルシウム粒子である、請求項2又は3に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記ポリエステルフィルムがエチレンイソフタレート単位を1~5モル%含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリエステルフィルムが金属板の少なくとも一方の面にラミネートされてなるフィルムラミネート金属板。
【請求項7】
請求項6に記載のフィルムラミネート金属板を成形してなる金属容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は清涼飲料、ビール、缶詰等の金属容器の腐蝕防止等の目的で使用されるポリエステル系フィルムであり、特に3ピース缶用に好適に用いられるポリエステルフィルムに関するものである。
さらに詳細には、金属板の移送性、製缶性(例えば、曲げ加工・接合・接合部補修・フランジング・上蓋取り付け・内容物充填・底蓋取り付け・レトルト殺菌)に優れたポリエステルフィルム、前記フィルムを金属板にラミネートしたフィルムラミネート金属板、及び前記フィルムラミネート金属板を成形してなる金属容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはポリエチレンテレフタレート樹脂にポリエーテルエステルエラストマーと球状のPMMA粒子を添加した金属板ラミネート用ポリエステルフィルムが開示されている。しかし、製缶工程中の粒子脱落により生産効率を低下させるという問題があった。
【0003】
特許文献2には、エチレンテレフタレートユニットが95モル%以上98モル%以下であり、不定形の無機微粒子を0.5~2.0質量%含有する金属板ラミネート用ポリエステル系フィルムが提案されている。特許文献2には製缶工程中の微粒子脱落や溶接部のフィルム剥がれを防止することができることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-251140号公報
【特許文献2】国際公開第2016/143818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製缶工程時の粒子脱落が少なく、且つフィルムラミネート金属板の移送時や加工時に傷つきや加工シワの発生がなく、製缶における成形加工性に優れたポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成よりなる。
[1] エチレンテレフタレート単位を95モル%以上含むポリエステル樹脂含むポリエステルフィルムであって、
(1)フィルムの空隙率が、0~5、0体積%であり、
(2)フィルム表面の算術平均高さSaが、0.1~0.16μmであり、
(3)フィルム表面の最大山高さSpが2.5~4.0μmであり、
(4)フィルムのヘイズが25~70%である、
ことを特徴とするポリエステルフィルム 。
[2] 非球状の無機粒子を少なくとも2種含む、[1]に記載のポリエステルフィルム。
[3] 前記非球状の無機粒子の少なくとも1種が多孔質シリカ粒子である、[2]に記載のポリエステルフィルム。
[4] 前記非球状の無機粒子の少なくとも1種が炭酸カルシウム粒子である、[2]又は[3]に記載のポリエステルフィルム。
[5] 前記ポリエステルフィルムがエチレンイソフタレート単位を1~5モル%含む、[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のポリエステルフィルムが金属板の少なくとも一方の面にラミネートされてなるフィルムラミネート金属板。
[7] [6]に記載のフィルムラミネート金属板を成形してなる金属容器。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエステルフィルムは、製缶工程時における粒子脱落を抑制することに加え、フィルムラミネート金属板の移送時や製缶加工時の傷つき及び加工シワが抑制できるため、製缶工程における成形加工性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[ポリエステル樹脂組成物]
本発明のポリエステルフィルムは、エチレンテレフタレート単位を95モル%以上含むポリエステル樹脂組成物からなる。好ましくはエチレンテレフタレート単位を96~99モル%、より好ましくエチレンテレフタレート単位を97~98モル%含むポリエステル樹脂組成物からなる。ポリエステル樹脂組成物中のエチレンテレフタレート単位が95モル%以上にすることで十分な耐熱性が得られ、製缶時にフィルムが高い温度になっても縮みや剥がれ等のトラブルを抑制できる。
【0009】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、共重合成分としてエチレンイソフタレート単位を含むことができる。この場合、エチレンイソフタレート単位を1~5モル%含むことが好ましく、2~4モル%含むことがより好ましい。 エチレンイソフタレート単位は1モル%以上含有させた場合、フィルムの製缶性や滑り性が良好となる。また、粒子の脱落を抑制することができる。エチレンイソフタレート単位の含有量は5モル%以下にすると、十分な耐熱性が得られ、製缶時にフィルムが高い温度になっても縮みや剥がれ等のトラブルを抑制できる。
【0010】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、ポリエチレンテレフタレート又は共重合ポリエチレンテレフタレートとその他のポリエステル樹脂を配合することができる。その他のポリエステル樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、又はそれらを共重合した共重合ポリエステルが挙げられる。
【0011】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物の極限粘度(IV)は、0.57~1.2であることが好ましい。極限粘度が0.57未満の場合には、得られるフィルムの力学特性が低下するおそれがある。極限粘度が1.2を越えてもそれ以上の力学特性向上の効果は得られず、逆にポリエステル樹脂及びポリエステルフィルムの製造時の生産性が低下するので経済的ではない。
【0012】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、結晶核剤等各種添加剤を含有することができる。上記の各種添加剤は、ポリエステル樹脂組成物100質量%中に5質量%以下が好ましい。
【0013】
本発明おけるポリエステル樹脂組成物には、溶融押出しフィルムを成形する際の静電密着性を付与するために、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム等のMg塩、酢酸カルシウム、塩化カルシウム等のCa塩、酢酸マンガン、塩化マンガン等のMn塩、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等のZn塩、塩化コバルト、酢酸コバルト等のCo塩を各々の金属イオンの総量として300ppm以下添加することができる。この際、熱安定剤としてリン酸またはリン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル等のリン酸エステル誘導体をリン原子として200ppm以下の範囲で添加することができる。重合触媒以外の金属イオンの総量が300ppm、またリン量が200ppmを越えると、得られたポリエステル樹脂の着色が顕著になる。また、ポリエステル樹脂の耐熱性及び耐加水分解性も低下する場合があるので好ましくない。
【0014】
[ポリエステルフィルム]
本発明のポリエステルフィルムは、表面粗さの算術平均高さSaが0.10μm以上0.16μm以下であり、表面粗さの最大山高さSpが2.5μm以上4.0μm以下であることを特徴とする。表面粗さの算術平均高さ及び最大山高さが上記範囲内にあることにより、ポリエステルフィルムの滑り性や耐スクラッチ性を付与することができる。滑り性は、一例として、複数枚積載したフィルムラミネート金属板を移送する際に、フィルムラミネート金属板が一枚ずつ容易に剥離できるようにするために求められる特性である。加えて、滑り性や耐スクラッチ性は、製缶工程(例えば、曲げ加工・接合・接合部補修・フランジング・上蓋取り付け・内容物充填・底蓋取り付け・レトルト殺菌)において、缶の移送時における傷つきや缶のネック加工における加工シワの抑制のために求められる特性である。これらの特性は金属容器、特に缶の成形加工性の改善に寄与する。
【0015】
算術平均高さSaが0.10μmより小さいと、フィルムラミネート金属板の移送性、及び製缶工程における傷つき、加工シワ抑制および成形加工性の改良効果が不十分であるおそれがある。0.16μmを超えると、粒子の脱落が悪化する場合がある。最大山高さSpが2.5μmより小さいであると、フィルムラミネート金属板の移送性、及び製缶工程における傷つき、加工シワ抑制および成形加工性の改良効果が不十分であるおそれがある。4.0μmを超えると、粒子の脱落が悪化する場合がある。
【0016】
算術平均高さSa及び最大山高さSpを範囲内にするための方法としては、後述する通り、ポリエステル樹脂組成物に少なくとも2種の非球状の無機微粒子を0.9~1.9質量%添加する方法が挙げられる。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムの内部の空隙率は、0体積%以上5.0体積%以下であることを特徴とする。フィルム内部の空隙率を5.0体積%以下とすることで、製缶工程中での粒子の脱落を抑えることができる。本発明のポリエステルフィルムの表面の算術平均高さSaと最大山高さSpを上記範囲にして、かつフィルム内部の空隙率を5.0体積%以下にするには、非球状の無機微粒子を使用するとともに、フィルムの長手方向及び幅方向の延伸温度を高めに延伸倍率を低めにすることが好ましい。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムは、ヘイズが25~70%が好ましく、35%~60%がより好ましい。ヘイズが前記範囲であることにより、ポリエステルフィルムの隠蔽性を付与することができる。隠蔽性があることにより、一例として、フィルムラミネート金属板における鋼板表面を適度に隠蔽し、金属板の欠点検知機の誤作動を防ぐことができる。25%より低い場合、フィルムラミネート金属板における鋼板の加工欠点を検知する工程において、欠点検知機の誤作動を招く可能性が高くなる。他方、70%より高い場合、フィルムラミネート金属板の鋼板の傷、汚れ等の欠点が検知し難くなる。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム同士の静摩擦係数と動摩擦係数の和が0.50~0.65であることが好ましい。0.65を超える場合、滑り性が不十分でフィルムに傷がつき易くなるおそれがある。一方、0.50未満になっても滑り性や傷つき抑制の効果は飽和し、粒子の脱落が発生し易くなる。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの長手方向及び幅方向の引張破断強度は、100~300MPaであることが好適であり、この範囲とすることで、ラミネート金属缶を落下時のフィルムクラックの発生を抑えることができる。本発明のポリエステルフィルムの長手方向及び幅方向の引張破断伸度は、60~140%であることが好適であり、この範囲とすることで、ラミネート金属缶を落下時のフィルムクラックの発生を抑えることができる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムの150℃で15分間熱処理後のフィルム長手方向の熱収縮率は、1%以上、3%以下であることが好ましい。150℃における熱収縮率が1%未満の場合は、熱ラミネート時にシワや帯電等の操業トラブルが発生し易く、3%を超えると熱ラミネート時の密着力が低く、融点近傍かそれ以上の高いラミネート温度が必要となり、実用上好ましくない。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは特に限定されないが、被覆効果(防錆性)および成形性、さらには経済性の点から8μm以上、50μm以下であるのが好ましく、10μm以上、30μm以下であることがより好ましい。フィルム厚みが8μm未満では被覆効果が得られず、50μmを超えた場合は過剰品質であり、経済的に好ましくない。
【0023】
[無機微粒子]
本発明おけるポリエステルフィルムは、無機微粒子を含むことが好ましく、少なくとも2種の非球状または不定形の無機微粒子を含むことがより好ましい。無機微粒子は、ポリエステルフィルムの隠蔽性、滑り性、耐スクラッチ性を付与することができる、1種又は2種以上の無機微粒子を選択することが好ましい。無機微粒子の含有量は0.9質量%以上が好ましく、より好ましくは1.0質量%以上であり、更に好ましくは1.2質量%以上である。上限は、1.9質量%以下が好ましく、より好ましくは1.8質量%以下である。非球状の無機微粒子が3.0質量%より多く含むと、隠蔽性、滑り性、耐スクラッチ性の効果が飽和し、粒子の脱落やフィルム強度の低下が発生する場合がある。
【0024】
ここで非球状の無機微粒子とは、真球状シリカ微粒子、真球状架橋PMMA微粒子、真球状架橋ポリスチレン微粒子、真球状シリコーン微粒子などの球状ではない無機微粒子である。球状や球状に近い微粒子のみを含有させた場合は、滑り性や耐スクラッチ性と粒子の脱落の抑制が両立するのが困難になる。本発明おける非球状の無機粒子としては、例えば、多孔質シリカ微粒子や重質炭酸カルシウム微粒子などの粉砕と分級により製造される無機微粒子の他、立方体状微粒子、直方体状微粒子などの無機微粒子が挙げられる。
【0025】
本発明おける無機微粒子の種類としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン等の金属酸化物、カオリン、ゼオライト、セリサイト、セピオライト等の複合金属酸化物、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム等のリン酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩等を挙げることがでる。これらの無機微粒子は、非球状であるならば、天然品であっても合成品であってもよい。
【0026】
本発明おける非球状の無機微粒子の平均粒径は、好ましくは0.5~5.0μmであり、より好ましくは0.8~4.0μmである。平均粒径が0.5μm未満であると、フィルムと金属板との高温での滑り性の向上効果が小さくなり、フィルムに傷がつき易くなるおそれがある。一方、平均粒径が5.0μmを超えると上記の効果が飽和したり、微粒子がフィルムから脱落し易くなったり、フィルムの製膜時にフィルムが破断し易くなったり、衝撃強度が低下する等のおそれがある。上記粒子の平均粒径はレーザー法により50%質量平均で測定した値である。
【0027】
本発明おける好ましい実施態様は、2種類以上の非球状の無機微粒子の少なくとも1種は、平均粒子径が3.0~4.0μm、比表面積350~650m2/gである多孔質シリカ粒子である。多孔質シリカ粒子の含有量は0.1~1.0質量%が好ましく、0.3~0.6質量%がより好ましい。多孔質シリカ粒子は、主に滑り性及び耐スクラッチ性に寄与する。
【0028】
多孔質シリカ粒子の平均粒子径は、レーザー回析・散乱法を用いて、積算体積頻度50%径の値から求めることができる。多孔質シリカ粒子の比表面積は、JIS Z8830:2013に従って簡易BET法により測定することができる。
【0029】
本発明おける好ましい実施態様は、2種類以上の非球状の無機微粒子の少なくとも1種は、平均粒子径が0.50~2.5μm、比表面積が1~5m2/gである炭酸カルシウム粒子である。特に重質炭酸カルシウム粒子が好ましい。より好ましくは、平均粒子径が0.8~1.5μm、比表面積が1~5m2/gである。炭酸カルシウム粒子の含有量は0.1~2.0質量%が好ましく、0.5~1.5質量%がより好ましい。炭酸カルシウム粒子は、主に隠蔽性に寄与する。
【0030】
炭酸カルシウム粒子の平均粒子径は、レーザー回析・散乱法を用いて、積算体積頻度50%径の値から求めることができる。炭酸カルシウム粒子の比表面積は、空気透過法により測定することができる。具体的には、恒圧粉体比表面積測定装置(島津製作所製:SS-100)を使用して、下記の測定条件で測定する。
重質炭酸カルシウムの比重:2.7g/ml
試料:2.7g
通気させる水の量:5ml
試料層の厚み:比表面積10000cm2/g未満の場合は、8mm~9mmに調整;比表面積10000cm2 /g以上20000cm2/g以下の場合は、9mm~12mmに調整;比表面積20000cm2/g超過の場合は、12mm~13mmの間に調整
【0031】
上記非球状の無機微粒子のポリエステルフィルムへの添加は、ポリエステル樹脂組成物の製造工程で添加してもよいし、ポリエステル樹脂組成物と無機微粒子とを溶融混練法で行ってもかまわない。また、ポリエステルフィルムの製造時に高濃度の無機微粒子を含むマスターバッチで添加してもかまわない。
【0032】
[ポリエステルフィルムの製造方法]
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、特に限定されるものではないが、押出し法により未延伸フィルムを成形後、1軸延伸又は2軸延伸をすることが好ましい。延伸フィルムとすることで、結晶配向が起こり、強度や優れた加工適性を得ることができる。
【0033】
但し、その際の延伸条件としては、延伸工程での予熱、延伸温度において、フィルムの溶融が起こらない範囲で、適度な温度と延伸倍率を与えることが、本発明の要件の一つとなっているボイドの少ないフィルムを得る為には望ましく、ここで、熱が不足すると配向による無機微粒子とポリエチレンテレフタレートの界面応力が大きくなりボイドが高くなり、粒子の脱落が顕著になる場合がある為、好ましくなく、温度が高いとフィルム表面の突起形成がしにくくなり、耐スクラッチ性や製缶性が低下する場合があるので好ましくない。
【0034】
逐次2軸延伸時の長手方向の延伸温度の場合を例にとり、好ましい温度範囲を例示すると、長手方向の延伸時の延伸温度として70~130℃、より好ましくは80~100℃である。
幅方向の延伸時の延伸温度としては、好ましくは90~160℃、より好ましくは100~130℃で、熱固定度としては180~240℃が好ましく、200~230℃がより好ましい。
また、延伸倍率に関しても、適切な範囲を取る事が好ましく、倍率が低いと目的とする強度、表面突起が得られなかったり、内容物の風味を損なったりする場合があり、倍率が高いと製造が困難になる場合があるので、好ましくない。好ましい逐次2軸延伸の延伸倍率としては、長手方向に3~5倍、幅方向に3~5倍、より好ましくは長手方向に3~4.5倍、幅方向に3~4.5倍である。
【0035】
本発明のポリエステルフィルムは、片面に接着性を有する層を設けても良い。当該接着性を有する層を設けたポリエステルフィルムも本発明の範囲に含まれる。接着性を有する層は、フィルム製造時に共押し出し法により、接着性を有する樹脂層を設ける方法やコーティング法などを用いることが可能である。共押し出し法を用いる場合は、共重合ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、それらの混合樹脂が使用できる。
【0036】
コーティング法を用いる場合は、有機溶剤可溶樹脂組成物や水分散型樹脂組成物が使用でき、分散型樹脂組成物が好適である。水分散型樹脂組成物とはそれ自身は水には不溶であるが、水系溶媒に分散または溶解することが出来る樹脂組成物であり、公知のものを使用することができる。接着層をコーティング法で行う場合は、製膜中(インライン)の延伸膜でも製膜後(オフライン)のフィルムに処理してもどちらでも良い
【0037】
また、本発明のポリエステルフィルムは、接着層と金属板との密着性を良好にするため、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、などの表面処理をしてもよい。
【0038】
[フィルムラミネート金属板]
本発明のフィルムラミネート金属板は、本発明のポリエステルフィルムを金属板の少なくとも片面にラミネートして得ることができる。
【0039】
また、本発明のポリエステルフィルムを金属板の少なくとも片面にラミネートする方法としては、公知の方法が適用でき、特に限定されないが、好ましくはサーマルラミネート法があげられ、特に好ましくは金属板を通電加熱させてサーマルラミネートする方法が挙げられる。また、ポリエステルフィルムは、金属板の両面にラミネートされていてもよい。ポリエステルフィルムを金属板の両面にラミネートする場合、同時にラミネートしても逐次にラミネートしてもよい。
【0040】
また、接着性を有する層を設けたポリエステルフィルムを金属板の少なくとも片面にラミネートする場合、前記接着層を金属板側にラミネートさせる層として用いるが、接着層のバリア性や耐腐食性を向上させるためやラミネート密着性をさらに向上させるために、熱硬化性樹脂を主成分とした公知の接着剤を予め前記接着層に塗布しておくことができる。
【0041】
本発明のフィルムラミネート金属板に用いられる金属板としては、特に限定されないが、例えば、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられる。また、その厚さは、特に限定されないが、強度の確保と経済性の点から、100~500μmが好ましい。より好ましくは150~400μmである。また、金属板は、フィルムとの接着力を充分にするためクロメート処理やアルマイト処理などの処理をすることが好ましい。
【0042】
[金属容器]
本発明の金属容器は、前記のフィルムラミネート金属板を用いて成形することによって得ることができる。金属容器の形状は特に限定されないが、例えば、缶状、瓶状、樽状などが挙げられる。本発明の金属容器の成形方法も特に限定されないが、例えば、絞り成形、しごき成形、絞りしごき成形、円筒成形、溶接接合、半田接合、巻締加工などの公知の方法を使用することができる。
【実施例0043】
以下、実施例を挙げて本発明の内容および効果を具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
以下に本発明における各種評価方法を示す。
(1)ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)
ポリエステル樹脂0.2gをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(60/40(質量比))の混合溶媒50ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。単位はdl/gである。
(2)ポリエステル樹脂の融点
ポリエステル組成物を300℃で5分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷して得たサンプル10mgを用い、窒素気流中、示差走査型熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で発熱・吸熱曲線(DSC曲線)を測定したときの、融解に伴う吸熱ピークの頂点温度を融点Tm(℃)とした。
【0045】
(3)フィルムの厚み
JIS K7130-1999 A法に準拠し、ダイアルゲージ(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0046】
(4)フィルムのヘイズ
JIS K7136-2000に準拠し、ヘイズメーター(日本電色工業社製300A)を用いて測定した。なお、測定は3回行い、その平均値を求めた。
【0047】
(5)フィルム空隙率(%)
得られたフィルムの長手方向の断面を切削した後、走査型電子顕微鏡(日立社製、TM3030plus)の試料台に固定し、スパッタリング装置(真空デバイス社製、MSP-mini)を用いて、電圧0.3KV、電流26mAの条件にて1分間、該断面に金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡を用いて倍率2000倍にて観察した。得られた観察像のうち、空孔の面積(μm2)と同観察像の内の該層の全面積(μm2)を算出し、下式(1)に体入して空隙率(%)を求めた。
上記の操作で5点の観察像の撮影および空隙率の算出を行い、5点の平均をポリエステル層Aの空隙率(%)とした。
ポリエステル層Aの空隙率(%)=ポリエステル層A中の空隙部分の面積(μm2)/ポリエステル層Aの全面積(μm2)×100。
【0048】
(6)フィルム表面粗さ(算術平均高さSa及び最大山高さSp)
得られたフィルムから長手方向10cm×幅方向10cmの面積に切り出し、Zygo社製の白色レーザー干渉計(NEW VIEW8300)を使用し、干渉計に20倍レンズを取り付けて走査を行い測定した。測定は、10cm×10cmのサンプルの任意の箇所10点で、一方の表面のMD方向に0.82μm、幅方向に0.82μmの範囲で行い、算術平均高さSa(μm)と最大山高さSpを測定した。
【0049】
(7)フィルムの摩擦係数の和
得られたフィルムから長手方向400mm×幅方向100mmの面積に切り出し、試料フィルムを作製した。これを23℃、65%RHの雰囲気下で12時間エージングした。試料サンプルを滑走台用として長手方向300mm×幅方向100mm、荷重用に長手方向100mm×幅方向100mmに分けた。滑走台用サンプルは滑走台にセットし、荷重用サンプルは、金属荷重3.5kg(底面積の大きさは、39.7mm2)の面にテープで貼りつけ、滑走台用サンプルと荷重用サンプルが接するようにした。AND社製のテンシロン(RTG-1210)にて、金属荷重の引張りスピード200mm/分、23℃、65%RH条件下で静摩擦係数と動摩擦係数を測定し、3回の測定の平均を求めた。
【0050】
(8)粒子脱落性
東洋精機(株)製の染色堅牢度摩擦試験機にて、0.05mmの厚さのアルミ箔をセットした荷重500gの摩擦子を用いて、100mmの往復距離を30往復/分の条件で20~40℃のフィルム上を30秒間摩擦処理した。その後、フィルム表面の粒子脱落痕を走査型電子顕微鏡(日立社製、TM3030plus)を用いて倍率500倍にて観察した。得られた観察像を、以下に従い判定した。
判定 A:粒子脱落痕が殆ど認められない。
判定 B:部分的に粒子脱落痕が認められる。
判定 C:全面に粒子脱落痕が認められる。
【0051】
(9)成形加工性
脱脂処理した厚さ190μmの金属板(ティンフリースチール、Lタイプブライト仕上げ、表面粗さ0.3~0.5μm、日本製鉄株式会社製)を140℃に予熱しておく。前記金属板と接着性を有する層を設けたポリエステルフィルムの接着性を有する層表面とを合わせ、ゴムロールとゴムロールとの間を圧力500N/cm、速度10m/分の条件で貼り合わせたものを通過させる。その後、急水冷させてフィルムラミネート金属板〔厚さ202μm(ポリエステル系フィルム/金属板=12μm/190μm)〕を得た。
東洋精機(株)製の染色堅牢度摩擦試験機にて、フィルムサンプルをセットした荷重400gの摩擦子を用いて、100mの往復距離を30往復/分の条件で得られたフィルムラミネート金属板上を1分間摩擦処理した。その後のフィルムラミネート金属板のフィルム表面の傷を目視で観察し、以下の基準により評価した。なお、判定B以上は実用性がある。
判定 A:傷が確認できない。
判定 B:薄く傷が見える。
判定 C:傷が見える。
【0052】
[ポリエステル樹脂の製造]
次に、実施例および比較例に用いたポリエステルの種類と内容について説明する。
【0053】
(1)ポリエステル樹脂A
撹拌機、蒸留塔、圧力調整器を備えたステンレス製オートクレーブにテレフタル酸、エチレングリコールを加えて、エステル化反応、及び触媒による重縮合反応を行い、IV=0.61dl/gのポリエステル樹脂を得た。このポリエステル樹脂を、バッチ式の固相重合装置を使用し、IV=0.68dl/gのポリエステル樹脂Aを得た。このポリエステル樹脂Aの融点(Tm)は255.0℃であった。
【0054】
(2)ポリエステル樹脂B
撹拌撹拌機、蒸留塔、圧力調整器を備えたステンレス製オートクレーブにテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールを加えて、エステル化反応、及び触媒による重縮合反応を行った。その後、このポリエステル樹脂を、バッチ式の固相重合装置を使用し、酸成分のうちイソフタル酸共重合量が10.8mol%、IV=0.63dl/gのポリエステル樹脂Bを得た。このポリエステル樹脂Bの融点(Tm)は225.0℃であった。
【0055】
(3)ポリエステル樹脂C
ポリエステル樹脂Aを95質量部に対して、非球状の炭酸カルシウム粒子(丸尾カルシウム社製、カルテックス5、不定形、平均粒径1μm)5質量部を2軸押出機にて溶融混練してポリエステル樹脂Cを得た。
【0056】
(4)ポリエステル樹脂D
ポリエステル樹脂Aを98質量部に対して、非球状の多孔質シリカ粒子(富士シリシア、サイリシア550、不定形、平均粒径3.9μm、比表面積500m2/g)2質量部を2軸押出機にて溶融混練してポリエステル樹脂Dを得た。
【0057】
(5)ポリエステル樹脂E
ポリエステル樹脂Aを98質量部に対して、非球状の多孔質シリカ粒子(富士シリシア、サイリシア310、不定形、平均粒径2.7μm、比表面積300m2/g)2質量部を2軸押出機にて溶融混練してポリエステル樹脂Eを得た。
【0058】
(6)ポリエステル樹脂F
ポリエステル樹脂Aを98質量部に対して、非球状の多孔質シリカ粒子(富士シリシア、サイリシア350、不定形、平均粒径3.9μm、比表面積300m2/g)2質量部を2軸押出機にて溶融混練してポリエステル樹脂Fを得た。
【0059】
(7)ポリエステル樹脂G
ポリエステル樹脂Aを98質量部に対して、非球状の多孔質シリカ粒子(富士シリシア、サイリシア710、不定形、平均粒径2.8μm、比表面積700m2/g)2質量部を2軸押出機にて溶融混練してポリエステル樹脂Gを得た。
【0060】
(8)ポリエステル樹脂H
ポリエステル樹脂Aを98質量部に対して、非球状の多孔質シリカ粒子(富士シリシア、サイリシア730、不定形、平均粒径4.0μm、比表面積700m2/g)2質量部を2軸押出機にて溶融混練してポリエステル樹脂Hを得た。
【0061】
(9)ポリエステル樹脂I
ポリエステル樹脂Aを95質量部に対して、球状ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子(日本触媒社製、エポスターMA1002、球状、平均粒径2μm、比表面積2m2/g)5質量部を2軸押出機にて溶融混練して、IV=0.52dl/gのポリエステル樹脂Iを得た。
【0062】
(実施例1)
フィルム原料として、ポリエステル樹脂A、B、C及びDを37.2:27.8:20:15の質量比でエチレンイソフタレート単位が3モル%、無機微粒子の含有量が表の通りになるように混合してホッパーに供給し、押出機を用いTダイより樹脂温度280℃で溶融押出し回転冷却ドラムにキャストし冷却固化して未延伸シートを得た。次いで未延伸シートを110℃で長手方向に3.7倍、130℃で幅方向に4.1倍延伸し、225℃で熱固定した後、同温度で5%横方向に緩和処理を行い、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを作製した。
【0063】
(実施例2、3)
フィルム原料として、ポリエステル樹脂A、B、C及びDの混合比率を表1の組成になるように変更し、実施例1と同様の方法で二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0064】
(比較例1~8)
フィルム原料として、ポリエステル樹脂A~Iを表1の組成になるように混合して、実施例1と同様の方法で二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0065】
【0066】
実施例1~3及び比較例1~8で作製したポリエステルフィルムの物性、並びに粒子脱落性、成形加工性及び視認性の評価結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
実施例1~3のフィルムは、表2の結果のように、フィルムの空隙率、算術平均高さSaが規定の範囲内となるため、ラミネート金属板の移送時に傷つきがなく、製缶性や製缶工程時の粒子脱落が少なく、製缶における成形加工性に優れたものであった。
【0069】
球状の微粒子を使用した比較例1及び2は、得られたフィルムの算術平均高さSaは規定の範囲内であるものの、空隙率が高いため、粒子脱落が多く、生産効率を低下させるものであった。
比表面積の小さい多孔質シリカ微粒子を使用した比較例3及び4は、得られたフィルムの空隙率は規定の範囲内であるものの、Sa及びSpは低いため、摩擦係数の和も大きく、フィルムラミネート金属板の移送時に傷つきや製缶における成形加工性に劣るものであった。
比表面積の大きい多孔質シリカ微粒子を使用した比較例5及び6は、得られたフィルムは、粒子脱落の抑制と成型加工性を両立できず生産効率を低下させるものであった。
微粒子の含有量が規定より少ない比較例7は、得られたフィルムのSa及びSpが規定の範囲より小さく、成型加工性に劣るものであった。
微粒子の含有量が規定より多い比較例8は、得られたフィルムの空隙率が高いため、粒子脱落が多く、生産効率を低下させるものであった。
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムラミネート金属板の移送性、製缶性(例えば、曲げ加工、接合・接合部補修・フランジング・上蓋取り付け・内容物充填・底蓋取り付け・レトルト殺菌)に優れ、製缶工程時の粒子脱落が少なく汚染が少ないため、コーヒー飲料、清涼飲料、缶詰等の金属容器等に使用するフィルムへの用途において有用であり、産業界に大きく寄与することが期待される。