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特開2022-129216緊張力の測定装置及び診断装置、並びに検査システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129216
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】緊張力の測定装置及び診断装置、並びに検査システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20220829BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
G01L5/00 103D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027832
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000144485
【氏名又は名称】株式会社サンノハシ
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西郷 史隆
(72)【発明者】
【氏名】畠山 勝幸
【テーマコード(参考)】
2D041
2F051
【Fターム(参考)】
2D041GC12
2F051AA06
2F051AB09
(57)【要約】
【課題】 グラウンドアンカーなどの緊張装置の緊張力を容易に効率よく検査する。
【解決手段】 グラウンドアンカー3のアンカープレート37に、測定回路板29と物性センサ(歪センサ)23が組み込まれる。測定回路板39が、物性センサ23を用いてアンカープレート37の物性変化を検出することで、グラウンドアンカー3の緊張力を測定し、測定データを無線で外部へ送信する。測定回路板29と物性センサ23は保護材45、47で覆われる。測定回路板29の保護材45上に、測定回路板29の位置を示すマーカー突起49が設けられる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部をもつ緊張材と、前記緊張材の前記頭部と前記対象物との間に介装され且つ前記頭部より外側へ張り出したフランジ部をもつ座金とを有し、前記頭部により前記座金を介して前記相性物を押圧するように構成された緊張装置のための、前記緊張材の緊張力を測定する装置において、
前記座金と、
前記座金の前記フランジ部に固定された物性センサと、
前記座金の前記フランジ部に固定され、前記物性センサに電気的に接続された測定回路板と
を備え、
前記測定回路板が、前記緊張力に応じて前記座金の前記フランジ部に起こる物性変化を、前記物性センサを通じて測定し、測定結果を示す測定データを、外部へ無線で送信するように構成された、
測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の測定装置において、
前記座金の平面視の形状が多角形である場合、前記物性センサが前記座金のフランジ部の表面の対角線上又は前記対角線の近傍に配置された、測定装置。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれか一項記載の測定装置において、
前記座金の前記フランジ部に固定され、前記物性センサを外側から覆って保護するセンサ保護材と、
前記座金の前記フランジ部に固定され、前記測定回路板を外側から覆って保護する回路保護材と、
をさらに備えた測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載の測定装置において、
前記座金の前記フランジ部の前記測定回路板の近傍に固定されたマーカー突起をさらに備えた測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項記載の測定装置において、
前記緊張材の頭部を保護する保護キャップが前記座金の前記フランジ部の表面に固定された場合、前記物性センサが、前記フランジ部の前記保護キャップの内側に配置された、測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項記載の測定装置において、
前記測定回路板が、外部から非接触で電力を受けるための受電アンテナと、外部と無線で通信するための通信アンテナと、前記受電アンテナ及び前記通信アンテナと前記座金との間に配置された電磁気的遮断のための磁性体部材とを有する、測定装置。
【請求項7】
緊張力の測定データを無線で送信する測定装置を備えた緊張装置のための、診断装置において、
前記測定装置から無線で前記測定データを受信するための通信アンテナと、
前記緊張装置の所定個所に押し当てられるとターンオンする起動スイッチ機構と、
前記起動スイッチ機構のターンオンに応答して検査プロセスを実行する診断回路と、
前記診断回路が下した診断結果を発光で表示する診断ランプと
を備え、
前記診断回路が、前記検査プロセスにおいて、前記通信アンテナを通じて前記測定回路から前記測定データを受信し、受信された前記測定データを用いて前記緊張力に関する診断を行い、前記診断の結果に応じて前記診断ランプに発光を表示させるように構成され、
さらに、作業者が片手で持って携帯できる全体サイズと全体重量をもつように構成された診断装置。
【請求項8】
請求項7記載の診断装置において、
作業者が手で掴むための棒状の把手を備え、
前記把手の一端部に前記通信アンテナと前記起動スイッチ機構が配置され、
前記把手の多端部に、延長アームを接続するための接続部が設けられた、
診断装置。
【請求項9】
請求項7乃至8のいずれか一項記載の診断装置に置いて、
前記診断回路が、
前記測定データと前記診断結果を記憶する手段と、
前記測定データと前記診断結果を外部の汎用の情報処理端末へ送信する手段と、を備えた、診断装置。
【請求項10】
請求項1記載の測定装置と、請求項7記載の診断装置とを備えた、緊張装置のための検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウンドアンカーやアンカーボルトや吊索などのように、緊張力を用いて構造物などの対象物を特定場所に定着させる又は支持する緊張装置において、その緊張力を測定し診断するための装置、及びそれらの装置を組み合わせたシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばグラウンドアンカーの緊張力を検査する公知技術が、例えば特許文献1~3に開示されている。
【0003】
特許文献1には、グラウンドアンカーのリフトオフ試験に関する発明が開示されている。特許文献2には、検査時に透磁性センサーをアンカープレートに装着して検査する技術が開示されている。特許文献3には、グラウンドアンカーの頭部のナットとアンカープレートとの間に測定ピースを予め挟み込んでおき、検査時に検出プローブを測定ピースの表面に当てて検査する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-231515号公報
【特許文献2】特開2002-048659号公報
【特許文献3】特開2007-101205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のようなリフトオフ試験は、重いジャッキと多くの作業と長い時間を要し、検査コストが高く、能率が悪い。これに比べて、特許文献2や特許文献3に記載の技術によれば、検査の手間とコストは小さい。しかし、特許文献2に記載の技術の場合は検査前の汚れたアンカープレートの表面の洗浄、また、特許文献3に記載の技術の場合は検査前のアンカーのヘッドの保護キャップの取り外しと検査後のその再装着など、検査前の準備や検査後の後始末に、相当の作業と時間が必要である。
【0006】
本発明の一つの目的は、緊張力の検査をより簡便により能率に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に従う、緊張力の測定装置は、次のような構成をもつ緊張装置に適用される。すなわち、その緊張装置は、頭部をもつ緊張材と、前記緊張材の前記頭部と前記対象物との間に介装され且つ前記頭部より外側へ張り出したフランジ部をもつ座金とを有して、前記頭部により前記座金を介して前記対象物を押圧するように構成されたものである。
【0008】
このような緊張装置に適用された、一実施形態に従う測定装置は、前記座金と、前記座金の前記フランジ部に固定された物性センサと、前記座金の前記フランジ部に固定され、前記物性センサに電気的に接続された測定回路板とを備える。
【0009】
そして、前記測定回路板が、前記緊張力に応じて前記座金の前記フランジ部に起こる物性変化を、前記物性センサを通じて測定し、測定結果を示す測定データを、外部へ無線で送信するように構成される。
【0010】
前記座金の平面視の形状が多角形である場合には、前記物性センサが前記座金のフランジ部の表面の対角線上又は前記対角線の近傍に配置されてよい。
【0011】
また、前記物性センサを外側から覆って保護するセンサ保護材が、前記座金の前記フランジ部に固定されてよい。同様に、前記測定回路板を外側から覆って保護する回路保護材が、前記座金の前記フランジ部に固定されてよい。
【0012】
さらに、前記座金の前記フランジ部の前記測定回路板の近傍に、マーカー突起が設けられてよい。
【0013】
また、前記緊張材の頭部を保護する保護キャップが前記座金の前記フランジ部の表面に固定された場合には、前記物性センサが、前記フランジ部の前記保護キャップの内側に配置されてよい。
【0014】
一実施形態に従う、緊張装置のための診断装置は、次のような緊張装置に適用される。すなわち、それは、緊張力の測定データを無線で送信する測定装置を備えた緊張装置である。
【0015】
このような緊張装置に適用された、一実施形態に従う診断装置は、前記測定装置から無線で前記測定データを受信するための通信アンテナと、前記緊張装置の所定個所に押し当てられるとターンオンする起動スイッチ機構と、前記起動スイッチ機構のターンオンに応答して検査プロセスを実行する診断回路と、前記診断回路が下した診断結果を発光で表示する診断ランプとを備える。
【0016】
そして、前記診断回路が、前記検査プロセスにおいて、前記通信アンテナを通じて前記測定回路から前記測定データを受信し、受信された前記測定データを用いて前記緊張力に関する診断を行い、前記診断の結果に応じて前記診断ランプに発光を表示させる。
【0017】
さらに、一実施形態に従う診断装置は、作業者が片手で持って携帯できる全体サイズと全体重量をもつ。
【0018】
一実施形態に従う診断装置は、作業者が手で掴むための棒状の把手を備え、前記把手の一端部に前記通信アンテナと前記起動スイッチ機構が配置され、前記把手の多端部に、延長アームを接続するための接続部が設けられる。
【0019】
前記診断回路が、前記測定データと前記診断結果を記憶する手段と、前記測定データと前記診断結果とを送信を外部の汎用の情報処理端末へ送信する手段とを備えてよい。
【0020】
一実施形態に従う、緊張装置のための検査システムは、上記のような測定装置と診断装置とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態に係る緊張力検査システムのシステム構成を示す。
図2】同システムの測定装置のブロック構成を示す。
図3】同測定装置が組み込まれたグラウンドアンカーの要部の一部断面図を示す。
図4】同測定装置のアンカープレート上での平面配置を示す。
図5】同システムの診断装置の側面図を示す。
図6】同診断装置の正面図を示す。
図7】同診断装置の底面図を示す。
図8】同診断装置の検査プロセスの流れを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、グラウンドアンカーの緊張力検査に適用された一実施形態にかかる緊張力検査システム(以下、本システムという)を説明する。
【0023】
図1は、本システムのシステム構成を示す。
【0024】
図1に示すように、本システム1は、測定装置5と、診断装置7と、表示通信装置9と、管理装置11とを有する。
【0025】
測定装置5は、グラウンドアンカー3の設置完了時に既にグラウンドアンカー3に組み込まれ、以後常時、検査時も非検査時も、グラウンドアンカー3に搭載されたままである。複数のグラウンドアンカー3が設置された現場では、各グラウンドアンカー3に1つづつ測定装置5を組み込むことができる。
【0026】
測定装置5は、グラウンドアンカー3の緊張力によってグラウンドアンカー3のアンカープレート(後述、図3参照)に生じる物性変化、例えば機械的な歪の大きさ、を測定する機能をもつ。検査装置5は、グラウンドアンカー3の識別コード(以下、IDという)を記憶しており、測定結果とIDとを含む測定データ15を診断装置7へ非接触(無線)で送信することができる。
【0027】
診断装置7は、作業者が片手で持って携帯し操作することが可能な全体サイズと全体重量をもったものであり、検査装置5から空間的に分離されている。診断装置7は、作業者がこれをグラウンドアンカー3に設けられたマーカー突起(後述、図3参照)に押し当てると、検査プロセスを開始するように構成されている。
【0028】
診断装置7は、検査プロセスを開始すると、まず、測定装置5に対して、非接触(無線)で駆動電力13を供給して測定装置5を起動し、続いて、測定装置5から送信されてきた測定データ15を非接触(無線)で受信する。続いて、診断装置7は、受信した測定データ15を診断装置7内に保存するとともに、その測定データ15を用いてグラウンドアンカー3の緊張力の診断を行う。
【0029】
緊張力の診断結果は、例えば、正常、異常及び注意(例えば、アンカーヘッドのナットを増し締めすればよい程度の状態)の三段階とすることができる。続いて、診断装置7は、診断結果をグラウンドアンカー3のIDに関連付けて診断装置7内に保存するとともに、作業者が五感(例えば、視覚や聴覚など)で認識できるような方法で、例えば、正常、異常及び注意をそれぞれ緑、赤及び黄色の異なる色で示すランプの点灯により、診断結果を表示する。上記の一連の検査プロセスにかかる時間は、2~3秒程度である。作業者は、多数のグラウンドアンカー3が存在する現場でも、リアルタイムで各グラウンドアンカー3の診断結果を把握しつつ、短時間で能率的にすべてのグラウンドアンカー3の診断を行うことができる。
【0030】
診断装置7は、さらに、診断装置7内に保存された1以上のグラウンドアンカー3の測定データ15と診断結果とを含む診断データ17を、外部の表示通信装置9へ非接触(無線)で送信することができる。
【0031】
表示通信装置9は、診断装置7と遠隔の管理装置11との間の診断データの通信を中継する役割や、グラウンドアンカー3の検査データを詳細に分析したり表示したりする役割などをもつ。表示通信装置9には、インターネットや移動体通信網などの広域の通信網を使って通信ができ、詳細な情報を表示する表示スクリーンをもち、かつ、複雑な情報処理が行えるものが望ましい。その点で、例えば、いわゆるスマートフォン、タブレット端末あるいはパーソナルコンピュータなどと呼ばれる、普及型の汎用の情報処理装置を、表示通信装置9として採用することができる。
【0032】
表示通信装置9は、診断装置7から、1以上のグラウンドアンカー3の診断データ17を受け取り、そして、それぞれの診断データ17の詳細内容を表示スクリーンに表示したり、それぞれの診断データ17を分析したり、その分析結果を表示スクリーンに表示したりする。さらに、表示通信装置9は、1以上のグラウンドアンカー3の診断データ17とその分析結果とを、表示通信装置9内に保存し、また、保存した診断データ17とその分析結果を、通信ネットワークを通じて遠隔の管理装置11へ送信する。
【0033】
管理装置11は、表示通信装置9から1以上のグラウンドアンカー3の詳細診断データ19を受信し、受信した詳細診断データ19を管理装置11内に保存する。そして、管理装置11は、保存した詳細診断データ19を用いて、複数のグラウンドアンカーが設置された各現場の保守点検管理や、各グラウンドアンカー3に保守点検管理などのための情報処理を行う。
【0034】
図2は、測定装置5のブロック構成を示す。
【0035】
図2に示すように、測定装置5は、測定回路21と、1以上の物性センサ、例えば1以上の歪センサ23と、受電アンテナ(受電コイル)25と、通信アンテナ(通信コイル)27とを有する。測定回路21は、歪センサ23と受電アンテナ(受電コイル)25と通信アンテナ(通信コイル)27に電気的に接続される。
【0036】
物性センサとしての歪センサ23は、グラウンドアンカー3の緊張力に応じてアンカープレート(後述、図3参照)に発生する物性変化、例えばアンカープレートの機械的な歪をセンスするためのものである。歪センサ23は、例えば、半導体や金属を用いた抵抗歪ゲージであり、アンカープレートの表面に固着される。
【0037】
測定回路21は、歪センサ23を用いて、アンカープレートの機械的な歪の大きさに対応した値を測定する電子回路であり、その具体的構成には公知の構成が採用できる。測定回路21によって測定された測定値は、実質的にグラウンドアンカー3の緊張力の大きさを示す。測定回路21は、それが搭載されたグラウンドアンカー3のIDを記憶しており、そのIDと上記の測定値とを含む測定データ15を、通信アンテナ(通信コイル)27を通じて、外部の診断装置7へ送信することができる。
【0038】
測定回路21は、電源を内蔵しておらず、受電アンテナ(受電コイル)25を通じて診断装置7から駆動電力13を受けた時に起動して、上記の動作を行う。
【0039】
測定回路21と受電アンテナ(受電コイル)25と通信アンテナ(通信コイル)27は、例えば、一枚の回路基板上に実装されて、薄く平らな板(又はシート又はフィルム)(以下、測定回路板という)29として形成されている。そして、この測定回路板29は、グラウンドアンカー3のアンカープレートの表面上に固定される。
【0040】
図3は、上述した測定装置5が組み込まれたグラウンドアンカー3の要部の一部断面図を示す。
【0041】
図3に示すように、グラウンドアンカー3は、細長い緊張材31を有し、緊張材31の本体(図3中、図示省略された下方の部分)は例えば地下の地盤などに固定される。緊張材31の頭部31Aは、地表上の構造物などの対象物33を貫通して、対象物33の表面に突出する。緊張材31の頭部31Aは雄ねじを有し、その雄ねじにナット35が螺合される。ナット35と対象物33の間に、座金つまりアンカープレート37が挟み込まれる。アンカープレート37は、一般に、平面視の形状が多角形(典型的には、正方形又は長方形)である鋼製の板であり、その中心に貫通孔が設けられ、その貫通孔に緊張材31の頭部31Aが挿通される。アンカープレート37の平面視の面積はナット35より遥かに広いので、アンカープレート37は、ナット35よりも外側へ張り出した部分をもち、この部分をここではフランジ部と呼ぶ。
【0042】
ナット35を締めることで、ナット35がアンカープレート37を介して対象物33を押圧し、同時に緊張材31が緊張して、その緊張力が押圧力を生む。そのとき、アンカープレート37の各部には、緊張力の大きさに応じた大きさの応力が発生し、その応力の大きさに応じた物性変化、例えば機械的な歪など、が生じる。
【0043】
グラウンドアンカー3の内、緊張材31の頭部31Aとそこに螺合されたナット35を含んだ、アンカープレート37を押圧するための構造を、ここではアンカーヘッド39と呼ぶ。アンカーヘッド39には、これを外部から保護するためのアンカーキャップ41が被せられている。アンカーキャップ41は、上部が閉じた円筒体で、その内側にキャップナット43を有する。キャップナット43を緊張材31の頭部31Aに螺合させることで、アンカーキャップ41がアンカーヘッド39に固定される。アンカーキャップ41の下端の裾は、アンカープレート37の表面に密着し、外部からの水分などの内側への侵入を防ぐ。
【0044】
アンカープレート37のフランジ部(アンカーヘッド39より外側に張り出した部分)の表面上に、測定回路5を構成する測定回路板29と1以上の歪センサ23(23A、23B又は23Cなど)が固定される。測定回路板29の全部、または、少なくとも受電・通信アンテナの部分が、アンカープレート37の表面上の、アンカーキャップ41の外側に配置される。それにより、診断装置7との通信や受電がアンカーキャップ41に妨害されにくい。また、測定回路板29の受電・通信アンテナ(受電・通信コイル)25、27(図2参照)とアンカープレート37との間の位置、例えば、測定回路板29のアンカープレート37に接する面には、給電と通信のエネルギーがアンカープレート37に吸収されることを抑制する、電磁気的遮断のための磁性体(例えばフェライト)製の板(フィルム又はシート)42が設けられる。
【0045】
1以上の歪センサ23(23A、23B又は23C)は、例えば歪センサ23Bのようにアンカーキャップ41の内側に配置されても良いし、あるいは、例えば歪センサ23Aや23Cのようにアンカーキャップ41の外側に配置されても良い。アンカーキャップ41の内側に配置された歪センサ23は、アンカーキャップ41により保護される。
【0046】
アンカープレート37の表面上のアンカーキャップ41の外側に配置された測定回路板29及び歪センサ23(23A及び23C)は、それぞれを外部から保護するための保護材45、47で外面を覆われる。例えば、測定回路板29には、アンカープレート37の表面上に固定された、非接触給電と無線通信に影響しない材料製の保護材(板、シート、フィルム又はコート層)45が被せられる。また、歪センサ23は、例えば歪センサ23Aのように、同じ保護板45で測定回路板29と一緒に保護されてもよいし、あるいは、例えば歪センサ23Cのように、アンカープレート37の表面上に固定された別の保護材(板、シート、フィルム又はコート層)47で保護されてもよい。
【0047】
測定回路板29を覆う保護材45の外面上には、マーカー突起49が設けられる。マーカー突起49は、例えば直径2~3センチメートル程度で高さ1~2センチメートル程度の円柱状の突起である。作業者が、このマーカー突起49に診断装置7を押し当てれば、診断装置7が自動的に検査プロセスを開始するようになっている。
【0048】
図4は、測定装置5を構成する測定回路板29と歪センサ23のアンカープレート37上での平面配置の例を示す。
【0049】
図4に示すように、測定回路板29は、アンカープレート37のナット35より外側に張り出したフランジ部の内、アンカーキャップ41より外側に張り出した部分の表面上に配置される。1以上の歪センサ―23(23D、23E、23F、23G、23H又は23J)は、例えば、歪センサ23D、23E、23Fのように、アンカープレート37のフランジ部の表面上の対角線51上の位置に配置されるか、又は、例えば歪センサ23G、23H、23Jのように、対角線51の近傍の位置に配置される。
【0050】
緊張力によってアンカープレート37に発生する応力の分布をコンピュータ・シミュレーションにより解析した結果によると、アンカープレート37の中心に位置するナット35に近いほど応力が大きく、かつ、ナット35からの距離が同じであれば、アンカープレート37の多角形の平面形状の対角線51に近いほど応力が大きいという傾向がある。すなわち、ナット35によって直接押される部分では最も応力が高い。ナット35の外側へ張り出したフランジ部では、二点鎖線で囲まれた密の梨地で示した部分51は二番目に応力が高い。さらにその外側の一点鎖線で囲まれた粗い梨地で示した部分55は三番目に応力が高く、さらにその外側の白地で示した部分は最も応力が低い。アンカープレート37のこのような応力分布によれば、フランジ部の表面の内、対角線51上又は対角線51の近傍に歪センサ23を配置することが、応力により起きる歪の測定の感度を高くするための好ましい。また、対角線51上又はその近傍の内、ナット35により近い位置、例えば、アンカーキャップ41の内側の位置、あるいは、対角線51上の中心から角端までの距離範囲のうち、中心寄り二分の一以内の距離範囲とその近傍領域(つまり、図中の領域53)に、歪センサ23を配置することが、好ましい。
【0051】
図5図6及び図7は、診断装置7の側面図、正面図及び底面図をそれぞれ示す。
【0052】
図5図6及び図7に示すように、診断装置7は、作業者が片手で掴むことができる棒状の把手3を有する。把手3の後端部に、バッテリケース63と主回路ケース65が設けられる。把手3の前端部に、アンテナケース67が設けられる。
【0053】
バッテリケース63内に、診断装置7の電源であるバッテリ71が収容される。主回路ケース65内に、主回路板73が収容される。主回路板73は、グラウンドアンカー3の測定装置5から測定データを受信してグラウンドアンカー3の緊張力を診断する診断回路を有する。主回路板73は、また、外部の表示通信装置9と無線通信及び有線通信をするための通信回路も有する。さらに、主回路板73は、アンテナケース67内の各種の電気部品(後述)と電気的に接続される。
【0054】
主回路ケース65の外面には、作業者が主回路板73の電源をオンオフするための主電源スイッチ75が設けられる。また、主回路ケース65の外面の、把手62い近い個所に、作業者がアンテナケース67の照明ランプ89をオンオフするための照明スイッチ77が設けられる。
【0055】
アンテナケース67は、把手61から最も遠い位置に平らな前面67Aを有する。この前面67Aの中央部に、例えば円板状のスイッチ板81が設けられる。スイッチ板81は、前後方向に0.5~1センチメートル程度の小距離だけ移動可能であり、かつ、アンテナケース67内のスイッチ板81の背後に配置されたバネ部材83によって、その背面を前方へ弾性的に押されている。また、スイッチ板81の背後には、スイッチ板81の後退によってターンオンされる起動スイッチ85が配置される。起動スイッチ85のターンオンに応答して、主回路板73が検査プロセス(測定データの受信動作と緊張力の診断動作)を開始するようになっている。
【0056】
アンテナケース67内には、また、アンテナセット87が収容される。アンテナセット87は、測定装置5へ非接触で給電するための給電アンテナ(給電コイル)と、測定装置5から測定データを無線で受信するための通信アンテナ(通信コイル)とを有する。アンテナセット87は、例えば、アンテナケース67内の前面67Aの近傍で且つスイッチ板81の近傍に配置される。
【0057】
さらに、アンテナケース67の前面67Aには、1以上の照明ランプ89が設けられる。照明ランプ89は、アンテナケース67の前方(図中下方)を光で照らす。照明ランプの89は、把手61の近くに設けられた照明スイッチ77によって、オンオフされる。暗い現場で検査をするとき、照明ランプ89が、作業者がグラウンドアンカー5の位置を視認するのを助ける。
【0058】
アンテナケース67の把手61の方を向いた後面67Bの、作業者から見て把手67を握った手の陰に隠れない個所に、1以上の診断ランプ91が設けられる。診断ランプ91は、主回路板73により駆動され、診断結果を表示する。診断ランプ91は、例えば、青、緑、赤、黄の4色の異なる色で点灯できる。主回路板73が、検査プロセスを開始すると、まず、診断ランプ91を例えば青色に点灯させ、その後、診断結果が出ると、例えば、正常は緑、異常は赤、注意は黄色のように、診断結果に応じた色で診断ランプ91を点灯させる。
【0059】
診断装置7の、アンテナケース67から最も遠い後端部には、延長アーム(図示省略)を接続するための接続部(例えば、ねじ穴)11が設けられる。延長アームを診断装置7の接続部に接続することで、作業者の手の届かない位置にあるグラウンドアンカー3へ診断装置7を届かせてそれを検査できる。
【0060】
グラウンドアンカー3の検査をするとき、作業者は、診断装置7の把手61を手で掴み、アンテナケース67の前面67Aのスイッチ板81を、グラウンドアンカー3のアンカープレート37上のマーカー突起49(図3参照)に押し当てる。すると、診断装置7が、検査プロセスを開始する。
【0061】
図8は、診断装置7の検査プロセスの流れを示す。
【0062】
図8に示すように、診断装置7は、主電源がオンのとき、ステップS1で、起動スイッチ85がターンオンされたか否かを周期的にチェックし続ける。起動スイッチ85のターンオンが検出されると、検査プロセスが開始される。検査プロセスでは、ステップS2で、測定装置5への給電が行われる。ステップS3で、測定装置5から測定データが受信される。ステップS4で、測定装置5への給電を終了し、そしてステップS5で、受信した測定データを用いて緊張力の診断が行われ、その診断結果が診断装置7内に保存される。ステップS6で、診断結果に応じた色で診断ランプ91が点灯する。
【0063】
以上説明した実施形態は、説明のための単なる例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、上記の実施形態とは違うさまざまな形態で、実施することができる。
【0064】
グラウンドアンカー以外の緊張装置、例えば、アンカーボルト、吊索、締結ボルトなどにも本発明が適用できる。また、本発明にかかる診断装置は、上述の実施形態のような座金に測定装置を組み込んだ緊張装置だけに適用可能なわけではなく、例えば特開2016-169997号や特開2020-177034号に記載の締結ボルトのように、緊張材の頭部や本体内に測定装置が組み込まれたものにも適用できる。例えば、特開2020-177034号に記載の締結ボルトに、一実施形態にかかる診断装置を適用する場合、診断装置のスイッチ板を締結ボルトの頭部に押し当てれば、診断装置は自動的に検査を行う。
【符号の説明】
【0065】
1 検査システム
3 グラウンドアンカー(緊張装置)
5 測定装置
7 診断装置
9 表示通信装置
11 管理装置
13 駆動電力
15 測定データ
17 診断データ
25 受電アンテナ
27 通信アンテナ
21 測定回路
29 測定回路板
23 歪センサ(物性センサ)
31 緊張材
33 対象物
35 ナット
37 アンカープレート(座金)
39 アンカーヘッド
41 アンカーキャップ(保護キャップ)
45、47 保護材
49 マーカー突起
51 対角線
61 把手
63 バッテリケース
65 主回路ケース
67 アンテナケース
71 バッテリ
73 主回路板
81 スイッチ板
83 バネ部材
85 起動スイッチ
87 アンテナセット
89 照明ランプ
91 診断ランプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8