(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012924
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】虚血/再灌流障害に続くノーリフローの予防又は処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/07 20060101AFI20220106BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220106BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61K38/07
A61P9/10
A61P9/04
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181839
(22)【出願日】2021-11-08
(62)【分割の表示】P 2020080135の分割
【原出願日】2011-07-08
(31)【優先権主張番号】61/412,655
(32)【優先日】2010-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/363,133
(32)【優先日】2010-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/363,129
(32)【優先日】2010-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512044909
【氏名又は名称】ステルス バイオセラピューティックス コープ
(71)【出願人】
【識別番号】513004021
【氏名又は名称】グッド サマリタン インスティテュート フォア リサーチ アンド エデュケイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ボロウ ケネス
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン ディー トラヴィス
(72)【発明者】
【氏名】クロナー ロバート エイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイル シャロン
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA16
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA441
4C084ZA442
(57)【要約】
【課題】哺乳動物である対象における心虚血/再灌流障害を予防又は処置する方法を提供する。
【解決手段】本方法では、有効量の芳香族カチオン性ペプチドを投与することによって哺乳動物である対象において解剖学的ノーリフロー領域を予防又は処置する。本方法は、有効量の芳香族カチオン性ペプチドをそれを必要とする対象に投与することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左心室拡張又は左心室遠心性肥大の減少を必要とする哺乳動物対象において左心室拡張又は左心室遠心性肥大を減少させるための医薬の製造における芳香族カチオン性ペプチドの使用であって、
前記芳香族カチオン性ペプチドが、治療有効量のペプチドD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2又はその薬学的に許容可能な塩である、使用。
【請求項2】
前記対象が血管再建術を受けている、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記対象に、前記ペプチドが、前記血管再建術の前に、前記血管再建術の後に、前記血管再建術の最中及び後に、又は前記血管再建術の前、最中及び後に連続的に投与される、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記対象に、前記ペプチドが、前記血管再建術後の少なくとも3時間、前記血管再建術後の少なくとも5時間、前記血管再建術後の少なくとも8時間、前記血管再建術後の少なくとも12時間、又は前記血管再建術後の少なくとも24時間にわたって投与される、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記対象に、前記ペプチドが、前記血管再建術の少なくとも8時間前から、前記血管再建術の少なくとも4時間前から、前記血管再建術の少なくとも2時間前から、前記血管再建術の少なくとも1時間前から、又は前記血管再建術の少なくとも10分前から投与される、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
前記対象が心筋梗塞又は脳卒中を患っている、あるいは血管形成術を必要としている、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記血管再建術が、バルーン血管形成術、バイパスグラフトの挿入、ステントの挿入、経皮的冠動脈形成術、又は方向性冠動脈アテレクトミーからなる群から選択される、請求項2に記載の使用。
【請求項8】
前記血管再建術が閉塞の除去である、請求項2に記載の使用。
【請求項9】
前記血管再建術が1種以上の血栓溶解薬の投与である、請求項2に記載の使用。
【請求項10】
前記1種以上の血栓溶解薬が、組織プラスミノーゲンアクチベータ、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、プラスミノーゲンのアシル化形態、プラスミンのアシル化形態、及びアシル化ストレプトキナーゼとプラスミノーゲンとの複合体からなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本願は、2010年7月9日に出願の米国仮特許出願第61/363129号、2010年7月9日に出願の第61/363133号及び2010年11月11日に出願の第61/412655号の優先権を主張するものであり、その全開示は参照により本明細書に全て組み込まれる。
【0002】
本テクノロジーは概して、虚血/再灌流組織障害を予防又は処置する組成物及び方法に関する。特に、本テクノロジーの実施形態は、有効量の芳香族カチオン性ペプチドを投与することによって、虚血/再灌流組織障害のリスクがある又は虚血/再灌流組織障害を患っている哺乳動物である対象において解剖学的ノーリフロー領域を予防又は処置することに関する。
【背景技術】
【0003】
以下の説明は読み手の理解を支援するためのものであって、提供する情報又は引用する参考文献を本発明の先行技術と認めるものではない。
【0004】
急性心筋梗塞(AMI)が起きた後の当面の治療目標は、梗塞に関係した動脈の開存性を確立することである。しかしながら、心外膜冠動脈の開存性の回復に成功したからといって必ずしも組織灌流が改善されるわけではない。微小血管系の構造的な破損又は閉塞、いわゆる「ノーリフロー」現象が、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に先立って又はそれを原因として起きることがあり、冠動脈の血流が損なわれる可能性がある。ノーリフロー現象を起こした患者の臨床予後は不良である。ノーリフロー現象は、一般に、組織内に解剖学的ノーリフロー領域が存在することに関係している。画像化モダリティにおける進歩によりノーリフローをより良好に可視化できるようになり、その頻度が臨床的な判断だけで推定した場合より高いことが判明している。ノーリフロー現象は梗塞サイズと相関関係にあることから重要であり、また有用な予後情報となる。ノーリフローは、左心室駆出分画の低下、左心室リモデリング及び不良な臨床成績に関係しており、この作用下にある患者は再灌流が生じた患者の中では高リスク群となる。したがって、関心の対象は、単に心外膜動脈の開存性を達成することから解剖学的ノーリフロー領域の発生につながり得る微小血管系の状態へと移っている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本テクノロジーは、D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2等の治療有効量の芳香族カチオン性ペプチド又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を、それを必要としている対象に投与することによる哺乳動物における心虚血/再灌流障害の処置又は予防に関する。一部の実施形態において、本テクノロジーは、虚血/再灌流の後の解剖学的ノーリフロー領域、出血領域及び梗塞サイズの処置又は予防に有用な方法に関する。
【0006】
一部の態様において、本開示は解剖学的ノーリフロー領域を処置又は予防する方法を提供し、本方法は、治療有効量の芳香族カチオン性ペプチド又はその薬学的に許容可能な塩(例えば、D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2)、あるいはその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を、それを必要としている対象に投与することを含む。一部の実施形態において、本方法は更に、対象に血管再建術を行うことを含む。一部の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、少なくとも1の正味の正電荷と、
最低4個のアミノ酸と、
最大約20個のアミノ酸と、
正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間で3pmがr+1以下の最大数である関係と、
芳香族基の最低数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間で2aはpt+1以下の最大数であるが、ただしaが1の場合、ptも1になり得る関係とを有するペプチドである。
特定の実施形態において、対象はヒトである。
【0007】
一部の実施形態において、2pmはr+1以下の最大数であり、またaはptに等しくなり得る。芳香族カチオン性ペプチドは、最低2又は最低3の正電荷を有する水溶性ペプチドになり得る。一部の実施形態において、ペプチドは、1つ以上の非天然のアミノ酸、例えば1つ以上のD-アミノ酸を含む。一部の実施形態において、アミノ酸のC末端のC末端カルボキシル基をアミド化する。特定の実施形態において、ペプチドは、最低4個のアミノ酸を有する。ペプチドは、最大で約6個、最大で約9個又は最大で約12個のアミノ酸を有し得る。
【0008】
一部の実施形態において、ペプチドは、N末端にチロシン又は2’,6’-ジメチルチロシン(Dmt)残基を含む。例えば、ペプチドは、式:Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2又は2’,6’-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有し得る。別の実施形態において、ペプチドは、N末端にフェニルアラニン又は2’,6’-ジメチルフェニルアラニン残基を含む。例えば、ペプチドは、式:Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2又は2’,6’-Dmp-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有し得る。特定の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、式:D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を有する。
【0009】
一実施形態において、ペプチドは、式I:
【化1】
によって定義され、式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して
(i)水素、
(ii)直鎖又は分岐C
1~C
6アルキル、
【化2】
(式中、m=1~3)、
(iv)
、
(v)
から選択され、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して
(i)水素、
(ii)直鎖又は分岐C
1~C
6アルキル、
(iii)C
1~C
6アルコキシ、
(iv)アミノ、
(v)C
1~C
4アルキルアミノ、
(vi)C
1~C
4ジアルキルアミノ、
(vii)ニトロ、
(viii)ヒドロキシル、
(ix)ハロゲンから選択され、ここで「ハロゲン」はクロロ、フルオロ、ブロモ及びヨードを含み、
R
5、R
6、R
7、R
8及びR
9はそれぞれ独立して
(i)水素、
(ii)直鎖又は分岐C
1~C
6アルキル、
(iii)C
1~C
6アルコキシ、
(iv)アミノ、
(v)C
1~C
4アルキルアミノ、
(vi)C
1~C
4ジアルキルアミノ、
(vii)ニトロ、
(viii)ヒドロキシル、
(ix)ハロゲンから選択され、ここで「ハロゲン」はクロロ、フルオロ、ブロモ及びヨードを含み、nは1~5の整数である。
【0010】
(0011) 特定の実施形態において、R1及びR2は水素であり、R3及びR4はメチルであり、R5、R6、R7、R8及びR9は全て水素であり、nは4である。
【0011】
(0012) 一実施形態において、ペプチドは、式II:
【化3】
によって定義され、式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して
(i)水素、
(ii)直鎖又は分岐C
1~C
6アルキル、
【化4】
(式中、m=1~3)、
(iv)
、
(v)
から選択され、
R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11及びR
12はそれぞれ独立して
(i)水素、
(ii)直鎖又は分岐C
1~C
6アルキル、
(iii)C
1~C
6アルコキシ、
(iv)アミノ、
(v)C
1~C
4アルキルアミノ、
(vi)C
1~C
4ジアルキルアミノ、
(vii)ニトロ、
(viii)ヒドロキシル、
(ix)ハロゲンから選択され、ここで「ハロゲン」はクロロ、フルオロ、ブロモ及びヨードを含み、nは1~5の整数である。
【0012】
(0013) 特定の実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11及びR12は全て水素であり、nは4である。別の実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR11は全て水素であり、R8及びR12はメチルであり、R10はヒドロキシルであり、nは4である。
【0013】
(0014) 芳香族カチオン性ペプチドは、様々なやり方で投与し得る。一部の実施形態において、ペプチドは、経口的に、局所的に、鼻腔内に、腹腔内に、静脈内に、皮下で又は経皮的に(例えば、イオン泳動により)投与し得る。一部の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、経冠動脈で又は動脈内経路で投与される。
【0014】
(0015) 一実施形態において、本テクノロジーは、それを必要とする哺乳動物である対象において解剖学的ノーリフロー領域を予防又は処置(treat)する方法を提供し、本方法は、対象に、治療有効量のペプチドD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を投与することによって、対象における微小血管損傷を予防又は処置することを含む。一実施形態において、本方法は更に、対象に血管再建術を行うステップを含む。一実施形態において、解剖学的ノーリフロー領域(anatomic zone of no re-flow)は、対象の微小血管系の破損又は閉塞である。一実施形態において、哺乳動物である対象は、解剖学的ノーリフロー領域を抱えるリスクにさらされている又は抱える。一実施形態において、対象は、心血管組織に関連して又は心血管組織中に解剖学的ノーリフロー領域を抱えるリスクにさらされている又は抱える。一実施形態において、対象は、脳組織に関連して又は脳組織内に解剖学的ノーリフロー領域を抱えるリスクにさらされている又は抱える。一実施形態において、対象は、腎組織に関連して又は腎組織内に解剖学的ノーリフロー領域を抱えるリスクにさらされている又は抱える。一実施形態において、対象は、骨格組織に関連して又は骨格組織内に解剖学的ノーリフロー領域を抱えるリスクにさらされている又は抱える。一実施形態において、この解剖学的ノーリフロー領域は、対象の微小血管系の破損又は閉塞を有する。一実施形態においては、解剖学的ノーリフロー領域が形成される前にペプチドを対象に投与する。一実施形態においては、解剖学的ノーリフロー領域が形成された後にペプチドを対象に投与する。
【0015】
(0016) 一実施形態においては、血管再建術の前にペプチドを対象に投与する。別の実施形態においては、血管再建術の後にペプチドを対象に投与する。別の実施形態においては、血管再建術の最中及びその後にペプチドを対象に投与する。更に別の実施形態においては、血管再建術の前、最中及びその後にペプチドを対象に連続的に投与する。
【0016】
(0017) 一実施形態において、ペプチドを、血管再建術後、少なくとも3時間、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間又は少なくとも24時間にわたって対象に投与する。一実施形態においては、ペプチドを、血管再建術の少なくとも8時間、少なくとも4時間、少なくとも2時間、少なくとも1時間又は少なくとも10分前から対象に投与する。
【0017】
(0018) 様々な実施形態において、対象は心筋梗塞、脳卒中を患っている、あるいは血管形成術を必要としている。一実施形態において、血管再建術は、バルーン血管形成術、バイパスグラフトの挿入、ステントの挿入、経皮的冠動脈形成術又は方向性冠動脈アテレクトミー(directional coronary atherectomy)から成る群から選択される。一実施形態において、血管再建術は、閉塞の除去である。一実施形態において、血管再建術は、1種以上の血栓溶解薬の投与である。一実施形態において、この1種以上の血栓溶解薬は、組織プラスミノーゲンアクチベータ、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、プラスミノーゲンのアシル化形態、プラスミンのアシル化形態及びアシル化ストレプトキナーゼ/プラスミノーゲン複合体(acylated streptokinase-plasminogen complex)から成る群から選択される。
【0018】
(0019) 一部の実施形態において、血管閉塞は、深部静脈血栓症、末梢血栓症、塞栓性血栓症、肝静脈血栓症、静脈洞血栓症、静脈血栓症、閉塞した動静脈シャント及び閉塞したカテーテルデバイスから成る群から選択される。
【0019】
(0020) 一態様において、本開示は冠動脈血管再建方法を提供するものであり、本方法は、(a)哺乳動物である対象に、治療有効量のペプチドD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を投与し、(b)対象に冠動脈バイパスグラフト手術を行うことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例で使用する動物についての研究デザイン図である。
【
図2A】インビボでの研究手順及び病理学的測定の研究フローチャートである。
【
図2B】インビボでの研究手順及び病理学的測定の研究フローチャートである。
【
図3】実施例1に記載のモデルを使用し、組織染色技法により心虚血/再灌流に供したウサギ(コントロール)から採取した心臓組織を評価する。パネルA~Cは、代表的なコントロールのウサギから得た例示的な心臓組織切片である。パネルA:虚血リスク領域を示す写真である。再灌流期の最後に冠動脈を再閉塞させ、ユニスパースブルーを左心房カテーテルを通して注入する。青色の領域が心臓の灌流領域であり、青色染料で染色されない領域は灌流がない。パネルB:ノーリフロー領域(紫外線下で撮影したチオフラビンS染色写真)。チオフラビンSを、動脈を再閉塞させる前に再灌流期の最後に左心房カテーテルを通して注入する。血管が無傷の領域は蛍光を発するが、ノーリフロー領域は暗く写った。パネルC:TTCでのインキュベーション後の心臓組織切片。壊死組織の領域は白く見え、非壊死組織は赤色に染まる。
【
図4】リスク領域に含まれる出血領域の例示的な実施形態を示す写真である。
【
図5】AMIのウサギモデルにおけるD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2の平均IA/ARへの効果を示すグラフである。
【
図6】AMIのウサギモデルの処置グループ及びコントロールグループにおける壊死領域及びリスク領域の関係を示すグラフである。
【
図7】AMIのウサギモデルの処置グループ及びコントロールグループにおけるリスク領域及びノーリフロー領域の関係を示すグラフである。
【
図8】AMIのウサギモデルの処置グループ及びコントロールグループにおけるリスク領域及びノーリフロー領域の関係を示すグラフである。
【
図9A】AMIのウサギモデルのコントロールグループ及び処置グループにおける梗塞サイズ及びノーリフロー領域を示すグラフである。
【
図9B】AMIのウサギモデルのコントロールグループ及び処置グループにおける梗塞サイズ及びノーリフロー領域を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(0030) 本発明が十分に理解できるように、本発明の特定の態様、様式、実施形態、変形及び特徴を以下で様々な詳細度でもって説明する。
【0022】
(0031) 本発明を実践するにあたって、分子生物学、タンパク質生化学、細胞生物学、免疫学、微生物学及び組み換えDNAにおける多くの慣用の技法を利用する。これらの技法は周知であり、また例えばCurrent Protocols in Molecular Biology,Vols.I-III,Ausubel,Ed.(1997)、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989)、DNA Cloning:A Practical Approach,Vols.I and II,Glover,Ed.(1985)、Oligonucleotide Synthesis,Gait,Ed.(1984)、Nucleic Acid Hybridization,Hames&Higgins,Eds.(1985)、Transcription and Translation,Hames&Higgins,Eds.(1984)、Animal Cell Culture,Freshney,Ed.(1986)、Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press,1986)、Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning、the series,Meth.Enzymol.,(Academic Press,Inc.,1984)、Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells,Miller&Calos,Eds.(Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1987)並びにMeth.Enzymol.,Vol.154,155,Wu&Grossman及びWu,Eds.においてそれぞれ説明されている。
【0023】
(0032) 本明細書で使用する特定の用語を以下で定義する。特に明記されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は概して、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0024】
(0033) 本明細書及び添付の請求項で使用する単数形の不定冠詞及び定冠詞には、内容が明らかにそうではない場合を除き、指示対象が複数の場合が含まれる。例えば、「ある細胞」と言う場合、これには2つ以上の細胞の組み合わせ等が含まれる。
【0025】
(0034) 本明細書で使用の剤、薬剤又はペプチドの対象への「投与」には、対象に化合物をその意図した機能を果たさせるために導入又は送達する全ての経路が含まれる。投与はいずれの適切な経路でも行うことができ、経口投与、鼻腔内投与、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与)又は局所投与が含まれる。一部の実施形態においては、芳香族カチオン性ペプチドを冠動脈内経路又は動脈内経路で投与する。投与には、自己投与及び他者による投与が含まれる。
【0026】
(0035) 本明細書で使用の用語「アミノ酸」には、天然のアミノ酸及び合成のアミノ酸並びに天然のアミノ酸に似た形で機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸ミメティックが含まれる。天然のアミノ酸とは、遺伝暗号でコードされたもの及び後天的に修飾されたアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート及びO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体とは、天然のアミノ酸と同じ基本的化学構造(すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基及びR基に結合しているα炭素)を有する化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムである。このような類似体は修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、天然のアミノ酸と同じ基本的化学構造を保持している。アミノ酸ミメティックとは、アミノ酸の一般化学構造とは異なる構造を有するが天然のアミノ酸に似た形で機能する化合物のことである。本明細書においては、アミノ酸に、一般に知られている3文字記号又はIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionが推奨する1文字記号で言及することができる。
【0027】
(0036) 本明細書で使用の用語「有効量」とは所望の治療及び/又は予防効果を達成するのに十分な量のことであり、例えば、心虚血/再灌流障害又は心虚血/再灌流障害に関連した1つ以上の症状の予防又は減少に至る量である。治療又は予防に利用する場合、対象に投与する組成物の量は、疾患のタイプ及び重症度並びに個体の特性(全身の健康状態、年齢、性別、体重、薬剤への耐性等)に左右される。対象に投与する組成物の量は、疾患の度合い、重症度及びタイプにも左右される。当業者は、これらの及び他の要素に基づいて適切な用量を決定できた。組成物を、1つ以上の追加の治療用化合物と組み合わせて投与することもできる。本明細書に記載の方法において、芳香族カチオン性ペプチドを、ノーリフロー領域の1つ以上の徴候又は症状を有する対象に投与し得る。他の実施形態において、哺乳動物は、心筋梗塞の1つ以上の徴候又は症状(中間胸部における圧覚、膨満又は締め付けと表現される胸痛、顎又は歯、肩、腕及び/又は背中に放散する胸痛、呼吸困難又は息切れ、悪心及び嘔吐を伴う又は伴わない上腹部不快感、発汗)を有する。例えば、芳香族カチオン性ペプチドの「治療有効量」は、解剖学的ノーリフロー障害領域の生理学的作用が最低でも改善されるレベルを意味する。
【0028】
(0037) 本明細書で使用の用語「虚血再灌流障害」とは、最初の組織への血液供給の制限とそれに続く突然の血液の再供給及び付随するフリーラジカルの発生によって引き起こされる損傷のことである。虚血は組織への血液供給量の低下であり、再灌流、すなわち酸素が欠乏した組織への突然の酸素の再灌流が続く。
【0029】
(0038) 「単離した」又は「精製した」ポリペプチド又はペプチドは、実質的に、剤を誘導する細胞又は組織源由来の細胞物質又は他の汚染ポリペプチドを含有しない。あるいは、化学的に合成する場合、化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含有しない。例えば、単離した芳香族カチオン性ペプチドは、剤を診断又は治療に使用する際の妨げとなる物質を含有しない。このような妨害物質には、酵素、ホルモン並びに他のタンパク質性及び非タンパク質性の溶質が含まれ得る。
【0030】
(0039) 本明細書で使用の用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は本明細書において同じ意味で使用され、ペプチド結合又は修飾ペプチド結合によって互いに繋ぎ合わされた2つ以上のアミノ酸、すなわちペプチドアイソスターを含むポリマーを意味する。ポリペプチドとは、一般にペプチド、グリコペプチド又はオリゴマーと称される短鎖及び一般にタンパク質と称される長鎖の両方のことである。ポリペプチドは、20種類の遺伝子でコードされたアミノ酸以外のアミノ酸を含有し得る。ポリペプチドは、当該分野で周知の天然のプロセス(翻訳後プロセシング等)又は化学修飾技法によって修飾されたアミノ酸配列を含む。
【0031】
(0040) 本明細書で使用の用語「処置する」又は「処置」又は「緩和」とは治療的処置及び予防的手段の両方を指し、その目的は、ターゲットとする病態又は疾患を予防する又は減速させる(軽減する)ことである。本明細書に記載の方法に従って治療量の芳香族カチオン性ペプチドを投与した後、解剖学的ノーリフロー領域のサイズに観察可能な及び/又は測定可能な低下が対象で見られるのならば、対象のノーリフロー障害は成功裡に「処置」されたとなる。また、記載するような病状を処置又は予防する様々な様式は「実質的」であることが意図されており、これには完全な処置又は予防だけでなく完全ではない処置又は予防も含まれ、なんらかの生物学的又は医学的に関係した結果が得られることがわかる。
【0032】
(0041) 本明細書で使用するある疾患又は状態の「予防」又は「予防する」とは、統計試料において、無処置のコントロール試料と比較して処置済みの試料において疾患又は状態の発生を低下させる、あるいは無処置のコントロール試料と比較して疾患又は状態の1つ以上の症状の発現を遅らせる又はその重症度を低下させる化合物のことである。本明細書での使用において、虚血/再灌流障害の予防には、酸化障害を予防する又はミトコンドリア膜透過性遷移を予防することによって心臓への血流の喪失及び続く血流の回復による悪影響を予防又は軽減することを含む。
【0033】
(0042)ノーリフロー障害の予防又は処置方法
急性心筋梗塞後の治療においては、危険にさらされた心筋への冠血流を迅速に回復させることが重要である。梗塞に関係した動脈が開放されているにも関わらず、冠微小血管系の破損又は閉塞が梗塞領域への血流量を著しく低下させ、解剖学的ノーリフロー領域の形成につながる場合がある。この作用はノーリフロー現象として知られている。積極的な再灌流治療にも関わらず注目すべき割合のAMI患者にノーリフロー現象が起き、またこれは不良な予後に関係している(Ito,H.,No-reflow phenomenon and prognosis in patients with acute myocardial infarction,Nature Clinical Practice Cardiovascular Medicine(2006)3,499-506)。更に、ノーリフローの程度は、AMI患者の治療成績の優秀な予測因子である。梗塞後、微小血管の閉塞からは心血管合併症の頻度上昇が予測され、また微小血管の閉塞はAMI患者における長期的な見通しに直接関係している(梗塞の拡大、入院、死亡率、主要有害心イベント等)。Wu et al.,Prognostic significance of microvascular obstruction by magnetic resonance imaging in patients with acute myocardial infarction.Circulation 1998,97:765-772、Ndrepapa et al.5-year prognostic value of no-reflow phenomenon after percutaneous coronary intervention in patients with acute myocardial infarction.J Am Coll Cardiology 2010,55(21):2383-2389、Bolognese et al.Impact of microvascular dysfunction on left ventricular remodeling and long-term clinical outcome after primary coronary angioplasty for acute myocardial infarction.Circulation 2004,109:1121-1126及びReffelmann et al.No-reflow phenomenon persists long-term after ischemia/reperfusion in the rat and predicts infarct expansion.Circulation 2003,108:2911-2917。
【0034】
(0043) ノーリフロー現象は、心臓以外の他の臓器、例えば肝臓、腎臓、脳、皮膚等で起きることもある。このノーリフローの概念は、脳虚血で初めて示唆された。2分半の短時間の虚血を被ったウサギの脳は、虚血が解消すると正常な血流を取り戻した。ウサギをより長時間にわたる虚血にさらすと、脳組織への正常な血流は、血管の閉塞が解消した後であっても回復しなかった。長時間にわたる虚血によって微小血管系における著しい変化がもたらされ、これが脳細胞への正常な血流を妨げた。この現象の存在は、多種多様な脳虚血動物モデルにおいて確認された。皮膚、骨格筋及び腎臓を含む様々な他の臓器でも見られた。更に、微小循環の変化は、臓器移植中の虚血/再灌流障害によって惹起される臓器損傷の程度に影響し得る。Majno et al.No-reflow after cerebral ischaemia.Lancet.1967;2:569-570、Ames et al.Cerebral ischemia,II:the no-reflow phenomenon.Am J Pathol.1968;52:437-447、Cerisoli et al.Experimental cerebral ”no-reflow phenomenon”:response to intracarotid injection of dexamethasone,furosemide and escina.J Neurosurg Sci.1981;25:7-12、Ito et al.Transient appearance of ”no-reflow”phenomenon in Mongolian gerbils.Stroke.1980;11:517-521、Asano T,Sano K.Pathogenetic role of no-reflow phenomenon in experimental subarachnoid hemorrhage in dogs.J Neurosurg.1977;46:454-466、Chait et al.The effects of the perfusion of various solutions on the no-reflow phenomenon in experimental free flaps.Plast Reconstr Surg.1978;61:421-430、Allen et al.Pathophysiology and related studies of the no-reflow phenomenon in skeletal muscle.Clin Orthop.1995;314:122-133、Summers WK,Jamison RL.The no-reflow phenomenon in renal ischemia.Lab Invest.1971;25:635-643、Johnston WH,Latta H.Glomerular mesangial and endothelial cell swelling following temporary renal ischemia and its role in the no-reflow phenomenon.Am J Pathol.1977;89:153-166を参照のこと。
【0035】
(0044) 本テクノロジーは、D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2等の治療有効量の芳香族カチオン性ペプチド又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を、それを必要としている対象に投与することによる哺乳動物における心虚血/再灌流障害の処置又は予防に関する。一態様において、本テクノロジーは、虚血/再灌流の後の解剖学的ノーリフロー領域、出血領域及び梗塞サイズの処置又は予防に有用な方法に関する。一実施形態において、解剖学的ノーリフロー領域の処置は、芳香族カチオン性ペプチドを投与していない同様の対象と比較して、対象における組織灌流の量又は面積を増加させることを含む。一実施形態において、解剖学的ノーリフロー領域の予防は、芳香族カチオン性ペプチドを投与していない同様の対象と比較して、対象における再灌流によって引き起こされる微小血管の損傷の量又は面積を減少させることを含む。一部の実施形態において、解剖学的ノーリフロー領域の処置又は予防は、芳香族カチオン性ペプチドを投与していない同様の対象と比較して、再灌流時の影響を受ける血管への障害を軽減する、血球による塞栓の作用を軽減する及び/又は対象における内皮細胞の膨張を軽減することを含む。予防又は処置の程度は、当該分野で公知のいずれの方法でも測定することができ、以下に限定するものではないが、微小血管の損傷を評価するためのMRIが含まれる。リフロー現象は、心筋コントラスト心エコー、冠動脈血管造影、心筋ブラッシュ、冠動脈ドップラーイメージング、心電図検査、核イメージング単一光子放射型CT、タリウム又はテクネチウム99mの使用及びPETを利用しても評価し得る。予防又は処置が成功したか否かは、これらの画像化技法のいずれかで観察される対象におけるノーリフローの程度を、芳香族カチオン性ペプチドを投与していないコントロールの対象又はコントロールの対象グループと比較することによって判断することができる。
【0036】
(0045) 一態様において、本テクノロジーは、D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2等の特定の芳香族カチオン性ペプチド又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を、それを必要としている対象に投与することによる、解剖学的ノーリフロー領域の処置又は予防に関する。一実施形態において、対象への芳香族カチオン性ペプチドの投与は、解剖学的ノーリフロー領域の形成の前である。別の実施形態において、対象への芳香族カチオン性ペプチドの投与は、解剖学的ノーリフロー領域の形成の後である。一実施形態においては、この方法を、血管再建術と共に行う。心虚血/再灌流障害の処置又は予防の方法も提供する。対象における心筋梗塞を処置して再灌流時の心臓への障害を予防する方法も提供する。一態様において、本テクノロジーは、冠動脈血管再建方法に関し、哺乳動物である対象に、治療有効量の芳香族カチオン性ペプチドを投与し、対象に冠動脈バイパスグラフト(CABG)手術を行うことを含む。
【0037】
(0046) 一実施形態においては、血管再建術の前にD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2等のペプチドはその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を対象に投与する。別の実施形態においては、血管再建術の後にペプチドを対象に投与する。別の実施形態においては、血管再建術の最中及びその後にペプチドを対象に投与する。更に別の実施形態においては、血管再建術の前、最中及びその後にペプチドを対象に連続的に投与する。別の実施形態においては、AMI及び/又は血管再建術又はCABG術に続いてペプチドを定期的に(すなわち、慢性的に)対象に投与する。
【0038】
(0047) 一部の実施形態においては、ペプチドを、血管再建術後に対象に投与する。一実施形態においては、ペプチドを、血管再建術後、少なくとも3時間、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間又は少なくとも24時間にわたって対象に投与する。一実施形態においては、ペプチドを、血管再建術の前に対象に投与する。一実施形態においては、ペプチドを、血管再建術の少なくとも8時間、少なくとも4時間、少なくとも2時間、少なくとも1時間又は少なくとも10分前から対象に投与する。一実施形態においては、血管再建術後、少なくとも1週間、少なくとも1ヵ月又は少なくとも1年にわたって対象への投与を行う。一部の実施形態においては、ペプチドを、血管再建術の前後に対象に投与する。一部の実施形態においては、ペプチドを、指定の期間にわたって輸液として対象に投与する。一部の実施形態においては、ペプチドを、ボーラスとして対象に投与する。
【0039】
(0048) 芳香族カチオン性ペプチドは水溶性であり且つ高極性である。これらの特性にも関わらず、ペプチドは細胞膜を容易に通過できる。芳香族カチオン性ペプチドは、典型的には、ペプチド結合で共有結合した最低3個のアミノ酸又は最低4個のアミノ酸を含む。この芳香族カチオン性ペプチド中に存在する最大数のアミノ酸は、ペプチド結合で共有結合した約20個のアミノ酸である。適切には、アミノ酸の最大数は約12、より好ましくは約9、最も好ましくは約6である。
【0040】
(0049) 芳香族カチオン性ペプチドのアミノ酸は、いずれのアミノ酸にもなり得る。本明細書で使用の用語「アミノ酸」は、少なくとも1つのアミノ基と少なくとも1つのカルボキシル基とを有する全ての有機分子を指すのに使用される。典型的には、少なくとも1つのアミノ基は、カルボキシル基に対するα位にある。アミノ酸は天然のものになり得る。天然のアミノ酸には、例えば、哺乳動物のタンパク質に通常見出される20種類の最も一般的な左旋性(L)アミノ酸が含まれ、すなわちアラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)である。他の天然のアミノ酸には、例えば、タンパク質合成に関係していない代謝過程で合成されるアミノ酸が含まれる。例えば、アミノ酸であるオルニチン及びシトルリンは、尿素産生中に哺乳動物の代謝で合成される。天然のアミノ酸の別の例にはヒドロキシプロリン(Hyp)が含まれる。
【0041】
(0050) ペプチドは、任意で、1つ以上の非天然のアミノ酸を含有する。一部の実施形態において、ペプチドは天然のアミノ酸を有さない。非天然のアミノ酸は、左旋性(L)、右旋性(D)又はこれらの混合物になり得る。非天然のアミノ酸は、典型的には生物の通常の代謝過程では合成されず且つタンパク質中に天然では存在しないアミノ酸である。加えて、非天然のアミノ酸は、適切には、通常のプロテアーゼによって認識されることもない。非天然のアミノ酸は、ペプチドのどの位置にも存在し得る。例えば、非天然のアミノ酸は、N末端、C末端又はN末端とC末端との間の任意の位置に存在し得る。
【0042】
(0051) 非天然のアミノ酸は、例えば、天然アミノ酸に見られないアルキル、アリール又はアルキルアリール基を含み得る。非天然のアルキルアミノ酸の幾つかの例には、β-アミノ酪酸、β-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸、δ-アミノ吉草酸及びε-アミノカプロン酸が含まれる。非天然のアリールアミノ酸の幾つかの例には、オルト、メタ及びパラ-アミノ安息香酸が含まれる。非天然のアルキルアリールアミノ酸の幾つかの例には、オルト、メタ及びパラ-アミノフェニル酢酸並びにγ-フェニル-β-アミノ酪酸が含まれる。非天然のアミノ酸には、天然のアミノ酸の誘導体が含まれる。天然のアミノ酸の誘導体には、例えば、天然のアミノ酸への1つ以上の化学基の付加が含まれ得る。
【0043】
(0052) 例えば、1つ以上の化学基を、フェニルアラニン又はチロシン残基の芳香環の2’、3’、4’、5’又は6’位、あるいはトリプトファン残基のベンゾ環の4’、5’、6’又は7’位の1つ以上に付加することができる。この基は、芳香環に付加可能ないずれの化学基にもなり得る。このような基の幾つかの例には、分岐又は非分岐C1~C4アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル又はt-ブチル、C1~C4アルキルオキシ(すなわち、アルコキシ)、アミノ、C1~C4アルキルアミノ及びC1~C4ジアルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ、ヒドロキシル、ハロ(すなわち、フルオロ、クロロ、ブロモ又はヨード)が含まれる。天然のアミノ酸の非天然の誘導体の幾つかの具体例には、ノルバリン(Nva)及びノルロイシン(Nle)が含まれる。
【0044】
(0053) ペプチドにおけるアミノ酸の修飾の別の例は、ペプチドのアスパラギン酸又はグルタミン酸残基のカルボキシル基の誘導体化である。誘導体化の一例は、アンモニア又は一級若しくは二級アミン(例えば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン)でのアミド化である。誘導体化の別の例には、例えばメチル又はエチルアルコールでのエステル化が含まれる。別のこのような修飾には、リジン、アルギニン又はヒスチジン残基のアミノ基の誘導体化が含まれる。例えば、このようなアミノ基をアシル化することができる。幾つかの適切なアシル基には、例えば、アセチル又はプロピオニル基等の上記のC1~C4アルキル基のいずれかを含むベンゾイル基又はアルカノイル基が含まれる。
【0045】
(0054) 非天然のアミノ酸は好ましくは通常のプロテアーゼに耐性があり、より好ましくは非感受性である。プロテアーゼに耐性がある又は非感受性の非天然のアミノ酸の例には、上記の天然のL-アミノ酸の右旋(D)形態並びにL-及び/又はD-非天然アミノ酸が含まれる。細胞の通常のリボソームタンパク質合成機構以外の手段で合成される特定のペプチド抗生物質には見られるものの、D-アミノ酸は通常、タンパク質中には存在しない。本明細書でのD-アミノ酸は、非天然のアミノ酸であると見なされる。
【0046】
(0055) プロテアーゼ感受性を最小限に抑えるために、ペプチドは、アミノ酸が天然か天然でないかに関わらず、通常のプロテアーゼによって認識される5個未満、好ましくは4個未満、より好ましくは3個未満、最も好ましくは2個未満の近接するL-アミノ酸を有するべきである。一部の実施形態において、ペプチドはD-アミノ酸だけを有し、L-アミノ酸を有さない。ペプチドがプロテアーゼ感受性のアミノ酸配列を含有する場合、そのアミノ酸の少なくとも1つは好ましくは非天然のD-アミノ酸であり、これによってプロテアーゼ耐性が付与される。プロテアーゼ感受性配列の例には、通常のプロテアーゼ(エンドペプチダーゼ、トリプシン等)で容易に切断できる2個以上の近接する塩基性アミノ酸が含まれる。塩基性アミノ酸の例には、アルギニン、リジン及びヒスチジンが含まれる。
【0047】
(0056) 芳香族カチオン性ペプチドは、ペプチドにおけるアミノ酸残基の総数と比較して、生理学的pHで最小数の正味の正電荷を有するべきである。生理学的pHでの最小数の正味の正電荷を以下、(pm)とした。ペプチドにおけるアミノ酸残基の総数を、以下で(r)とした。以下で論じる正味の正電荷の最小数は全て、生理学的pHでのものである。本明細書で使用の用語「生理学的pH」とは、哺乳動物の身体の組織及び臓器の細胞における正常なpHのことである。例えば、ヒトの生理学的pHは通常、約7.4であるが、哺乳動物における正常な生理学的pHは、約7.0~約7.8のいずれのpHにもなり得る。
【0048】
(0057) 本明細書で使用の「正味の電荷」とは、ペプチド中に存在するアミノ酸が有する正電荷の数と負電荷の数とのバランスのことである。本明細書において、正味の電荷は生理学的pHで測定すると理解される。生理学的pHで正に帯電する天然のアミノ酸には、L-リジン、L-アルギニン及びL-ヒスチジンが含まれる。生理学的pHで負に帯電する天然のアミノ酸には、L-アスパラギン酸及びL-グルタミン酸が含まれる。
【0049】
(0058) 典型的には、ペプチドは、正に帯電したN末端のアミノ基及び負に帯電したC末端のカルボキシル基を有する。電荷は、生理学的pHで相殺される。正味の電荷を計算する例として、ペプチドTyr-Arg-Phe-Lys-Glu-His-Trp-D-Argは、1個の負に帯電したアミノ酸(すなわち、Glu)及び4個の正に帯電したアミノ酸(すなわち、2個のArg残基、1個のLys及び1個のHis)を有する。したがって、上記のペプチドは、3の正味の正電荷を有する。
【0050】
(0059) 一実施形態において、芳香族性カチオン性ペプチドは、生理学的pHでの正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間で3pmがr+1以下の最大数である関係を有する。この実施形態において、正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係は以下のとおりである。
【0051】
【0052】
(0060) 別の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間で2pmがr+1以下の最大数である関係を有する。この実施形態において、正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係は以下のとおりである。
【0053】
【0054】
(0061) 一実施形態において、正味の正電荷の最小数(pm)及びアミノ酸残基の総数(r)は等しい。別の実施形態において、ペプチドは、3又は4個のアミノ酸残基及び最小で1の正味の正電荷、好ましくは最小で2の正味の正電荷、より好ましくは最小で3の正味の正電荷を有する。
【0055】
(0062) 芳香族カチオン性ペプチドは、正味の正電荷の総数(pt)と比較して最低数の芳香族基を有することも重要である。以下では芳香族基の最低数を(a)とする。芳香族基を有する天然のアミノ酸には、アミノ酸であるヒスチジン、トリプトファン、チロシン及びフェニルアラニンが含まれる。例えば、ヘキサペプチドLys-Gln-Tyr-D-Arg-Phe-Trpは、2の正味の正電荷(リジン及びアルギニン残基が寄与する)及び3個の芳香族基(チロシン、フェニルアラニン及びトリプトファン残基が寄与する)を有する。
【0056】
(0063) また、芳香族カチオン性ペプチドは、芳香族基の最低数(a)と生理学的pHでの正味の正電荷の総数(pt)との間で3aがpt+1以下の最大数であり、ただしptが1の場合、aは1にもなり得る関係を有するべきである。この実施形態において、芳香族基の最低数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との関係は以下のとおりである。
【0057】
【0058】
(0064) 別の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、芳香族基の最低数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間で2aがpt+1以下の最大数である関係を有する。この実施形態において、芳香族アミノ酸残基の最低数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との関係は以下のとおりである。
【0059】
【0060】
(0065) 別の実施形態において、芳香族基の数(a)と正味の正電荷の総数(pt)は等しい。
【0061】
(0066) カルボキシル基、特にC-末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、適切には、例えばアンモニアでアミド化されてC末端アミドを形成する。あるいは、C-末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、任意の一級又は二級アミンでアミド化され得る。この一級又は二級アミンは、例えば、アルキル、特には分岐若しくは非分岐C1~C4アルキル又はアリールアミンになり得る。したがって、ペプチドのC末端のアミノ酸を、アミド、N-メチルアミド、N-エチルアミド、N,N-ジメチルアミド、N,N-ジエチルアミド、N-メチル-N-エチルアミド、N-フェニルアミド又はN-フェニル-N-エチルアミド基に変換し得る。本発明の芳香族カチオン性ペプチドのC末端に存在しないアスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸及びグルタミン酸残基の遊離のカルボキシレート基もまた、ペプチドでの位置に関わらずアミド化され得る。これらの内部位置でのアミド化は、アンモニア又は上記の一級若しくは二級アミンのいずれかによって行われ得る。
【0062】
(0067) 一実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、2の正味の正電荷及び少なくとも1個の芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。特定の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、2の正味の正電荷及び2個の芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。
【0063】
(0068) 芳香族カチオン性ペプチドには、以下のペプチド例が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0064】
【0065】
(0069) 一実施形態において、ペプチドは、μ-オピオイド受容体アゴニスト活性を有する(すなわち、μ-オピオイド受容体を活性化する)。μ-オピオイド活性は、クローニングされたμ-オピオイド受容体への放射性リガンド結合により又はモルモットの回腸を使用したバイオアッセイにより評価することができる(Schiller et al.,Eur J Med Chem,35:895-901,2000、Zhao et al.,J Pharmacol Exp Ther307:947-954,2003)。μ-オピオイド受容体の活性化は典型的には鎮痛効果を引き出す。場合によっては、μ-オピオイド受容体アゴニスト活性を有する芳香族カチオン性ペプチドが好ましい。例えば、急性の疾患又は状態での短期間の処置において、μ-オピオイド受容体を活性化する芳香族カチオン性ペプチドの使用は有益になり得る。このような急性の疾患及び状態は、中程度又は重度の疼痛と関連していることが多い。このような場合、芳香族カチオン性ペプチドの鎮痛効果は、ヒト患者又は他の哺乳動物の治療レジメンにおいて有益になり得る。しかしながら、μ-オピオイド受容体を活性化しない芳香族カチオン性ペプチドは、臨床的要件に応じて、鎮痛薬と共に又は伴うことなく使用され得る。
【0066】
(0070) あるいは、他の例において、μ-オピオイド受容体アゴニスト活性を有さない芳香族カチオン性ペプチドが好ましい。例えば、長期間にわたる処置の間(慢性疾患状態又は状態等)、μ-オピオイド受容体を活性化する芳香族カチオン性ペプチドの使用は禁忌となり得る。このような場合、芳香族カチオン性ペプチドの潜在的に有害な又は中毒作用により、ヒト患者又は他の哺乳動物の治療レジメンにおける、μ-オピオイド受容体を活性化する芳香族カチオン性ペプチドの使用は除外される。潜在的に有害な作用には、鎮静、便秘及び呼吸抑制が含まれ得る。このような場合は、μ-オピオイド受容体を活性化しない芳香族カチオン性ペプチドが適切な処置となり得る。
【0067】
(0071) μ-オピオイド受容体アゴニスト活性を有するペプチドは、典型的には、N末端(すなわち、最初のアミノ酸位置)にチロシン残基又はチロシン誘導体を有するペプチドである。チロシンの適切な誘導体には、2’-メチルチロシン(Mmt)、2’,6’-ジメチルチロシン(2’,6’-Dmt)、3’,5’-ジメチルチロシン(3’5’Dmt)、N,2’,6’-トリメチルチロシン(Tmt)及び2’-ヒドロキシ-6’-メチルチロシン(Hmt)が含まれる。
【0068】
(0072) 一実施形態において、μ-オピオイド受容体アゴニスト活性を有するペプチドは、式:Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有する。このペプチドは、アミノ酸のチロシン、アルギニン及びリジンが寄与する3の正味の正電荷を有し、またアミノ酸のフェニルアラニン及びチロシンが寄与する2個の芳香族基を有する。チロシンは2’,6’-ジメチルチロシン等のチロシンの修飾された誘導体になり得て、式:2’,6’-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有する化合物が生成される。このペプチドは分子量640を有し、また生理学的pHで3の正味の正電荷を有する。このペプチドは、幾つかの哺乳動物細胞タイプの細胞膜をエネルギー非依存性で容易に透過する(Zhao et al.,J.Pharmacol Exp Ther.304:425-432,2003)。
【0069】
(0073) μ-オピオイド受容体アゴニスト活性を有さないペプチドは一般に、N末端(すなわち、アミノ酸1位)にチロシン残基又はチロシンの誘導体を有さない。N末端のアミノ酸は、チロシン以外のいずれの天然の又は非天然のアミノ酸にもなり得る。一実施形態において、N末端のアミノ酸は、フェニルアラニン又はその誘導体である。フェニルアラニンの例示的な誘導体には、2’-メチルフェニルアラニン(Mmp)、2’,6’-ジメチルフェニルアラニン(2’,6’-Dmp)、N,2’,6’-トリメチルフェニルアラニン(Tmp)及び2’-ヒドロキシ-6’-メチルフェニルアラニン(Hmp)が含まれる。
【0070】
(0074) μ-オピオイド受容体アゴニスト活性を有さない芳香族カチオン性ペプチドの一例は、式:Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有する。あるいは、N末端のフェニルアラニンは、フェニルアラニンの誘導体、例えば2’,6’-ジメチルフェニルアラニン(2’,6’-Dmp)になり得る。一実施形態において、アミノ酸1位に2’,6’-ジメチルフェニルアラニンを有するペプチドは、式:2’,6’-Dmp-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有する。一実施形態においては、N末端にDmtが存在しないようにアミノ酸配列を再編成する。μ-オピオイド受容体アゴニスト活性を有さないこのような芳香族カチオン性ペプチドの一例は、式:D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2を有する。
【0071】
(0075) 本明細書で言及するペプチド及びそれらの誘導体には、機能的類似体を更に含めることができる。類似体が記載のペプチドと同じ機能を有するならば、ペプチドは機能的類似体と見なされる。この類似体は、例えば、1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸で置換されたペプチドの置換変異体になり得る。ペプチドの適切な置換変異体には、保存的アミノ酸置換体が含まれる。アミノ酸は、以下のようにその物理化学的特性に応じて分類され得る。
(a)非極性アミノ酸:Ala(A)、Ser(S)、Thr(T)、Pro(P)、Gly(G)、Cys(C)
(b)酸性アミノ酸:Asn(N)、Asp(D)、Glu(E)、Gln(Q)
(c)塩基性アミノ酸:His(H)、Arg(R)、Lys(K)
(d)疎水性アミノ酸:Met(M)、Leu(L)、Ile(I)、Val(V)
(e)芳香族アミノ酸:Phe(F)、Tyr(Y)、Trp(W)、His(H)
【0072】
(0076) ペプチドにおけるアミノ酸の同じグループに属する別のアミノ酸による置換は保存的置換と称され、また元々のペプチドの物理化学的特徴を保持し得る。対照的に、ペプチドにおけるアミノ酸の異なるグループに属する別のアミノ酸による置換には、概して、元々のペプチドの特徴を変化させる傾向がある。
【0073】
(0077) μ-オピオイド受容体を活性化させるペプチドの例には、以下に限定するものではないが、表5に示す芳香族カチオン性ペプチドが含まれる。
【0074】
【表6】
Dab=ジアミノ酪酸
Dap=ジアミノプロピオン酸
Dmt=ジメチルチロシン
Mmt=2’-メチルチロシン
Tmt=N,2’,6’-トリメチルチロシン
Hmt=2’-ヒドロキシ,6’-メチルチロシン
dnsDap=β-ダンシル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
atnDap=β-アントラニロイル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
Bio=ビオチン
【0075】
(0078) μ-オピオイド受容体を活性化しない類似体の例には、以下に限定するものではないが、表6に示す芳香族カチオン性ペプチドが含まれる。
【0076】
【0077】
(0079) 表5、6に示すペプチドのアミノ酸は、L型又はD型のいずれかになり得る。
【0078】
(0080) ペプチドは、当該分野において周知のいずれの方法でも合成し得る。タンパク質の化学的な合成に適した方法には、例えば、Solid Phase Peptide Synthesis,Second Edition,Pierce Chemical Company(1984)及びMethods Enzymol.289,Academic Press,Inc,New York(1997)にStuart及びYoungが記載したものが含まれる。
【0079】
(0081)芳香族カチオン性ペプチドの予防及び治療を目的とした用途
概要:本明細書に記載の芳香族カチオン性ペプチド(D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2等)又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)は、ある疾患又は状態の予防又は処置に有用である。具体的には、本開示は、血管閉塞障害、解剖学的ノーリフロー領域又は心虚血/再灌流障害を起こすリスクがある(又は起こしやすい)対象を処置する予防方法及び治療方法の両方を提供するものである。したがって、本方法では、有効量の芳香族カチオン性ペプチドをそれを必要とする対象に投与することによって、対象において血管閉塞障害、心虚血/再灌流障害又は解剖学的ノーリフロー領域を予防及び/又は処置する。
【0080】
(0082)芳香族カチオン性ペプチドをベースとした治療薬の生物学的効果の判定
様々な実施形態において、適切なインビトロ又はインビボのアッセイを行うことによって特定の芳香族カチオン性ペプチドをベースとした治療薬の効果及びその投与が処置に適応があるか否かを判定する。様々な実施形態において、インビトロのアッセイを代表的な動物モデルで実施して、所定の芳香族カチオン性ペプチドをベースとした治療薬が解剖学的ノーリフロー領域の予防又は処置において所望の効果を発揮するか否かを判定することができる。治療に使用する化合物は、ヒト対象での試験に先立って適切な動物モデル系で試験することができ、この適切な動物モデル系には、以下に限定するものではないが、ラット、マウス、ニワトリ、ブタ、ウシ、サル、ウサギ、ヒツジ、モルモット等が含まれる。同様に、インビボの試験でも、当該分野で公知の動物モデル系のいずれをも、ヒト対象への投与に先立って使用することができる。
【0081】
(0083)予防方法
一態様において、本発明は、解剖学的ノーリフロー領域を対象において予防するための、対象にその状態の惹起又は進行を予防する芳香族カチオン性ペプチドを投与することによる方法を提供する。解剖学的ノーリフロー領域を抱えるリスクがある対象は、例えば、本明細書に記載の診断方法又は予後分析のいずれか又は組み合わせで特定することができる。予防を目的とした用途においては、芳香族カチオン性ペプチドの医薬組成物又は薬物を、ある疾患又は状態を発症しやすい又はそのリスクがある対象に、そのリスクを取り除く若しくは低下させる、重症度を低下させる又はその疾患若しくは状態の発症を遅らせるのに十分な量で投与する(疾患又は状態の生化学的、組織学的及び/又は行動上の症状、疾患又は状態の発症中に認められる合併症及び中間的な病理学的表現型を含む)。予防用の芳香族カチオン性ペプチドを、異常を特徴とする症状が顕在化する前に投与することができ、これによってある疾患又は状態が予防される、あるいはその進行が遅延する。適切な化合物は、上記のスクリーニングアッセイに基づいて決定することができる。
【0082】
(0084)治療方法
本テクノロジーの別の態様には、治療を目的として、対象における血管閉塞障害、解剖学的ノーリフロー領域又は心虚血/再灌流障害を処置する方法が含まれる。治療を目的とした用途においては、組成物又は薬物を、このような疾患又は状態を疑われる又は既に患っている対象に、その疾患又は状態の症状を治癒する又は少なくとも部分的にその進行を阻止するのに十分な量で投与する(疾患又は状態の発症中に認められる合併症及び中間的な病理学的表現型を含む)。このようにして、本発明では、解剖学的ノーリフロー領域を抱えている個体を処置する方法を提供する。
【0083】
(0085)投与方法及び有効用量
細胞、臓器又は組織をペプチドと接触させるための当該分野で公知のいずれの方法も利用し得る。適切な方法には、インビトロ、エクスビボ又はインビボの方法が含まれる。インビボの方法には、典型的には、芳香族カチオン性ペプチド(上記のもの等)の哺乳動物、適切にはヒトへの投与が含まれる。治療を目的としてインビボで使用する場合は、芳香族カチオン性ペプチドを、対象に有効量(すなわち、所望の治療効果を有する量)で投与する。用量及び投与レジメンは、対象の障害の程度、使用する特定の芳香族カチオン性ペプチドの特徴(例えば、その治療係数)、対象及び対象の既往歴に左右される。
【0084】
(0086) 有効量は、前臨床試験及び臨床試験中に医師及び臨床家が精通している方法により決定され得る。本発明の方法において有用なペプチドの有効量を、医薬化合物を投与するための多数の周知の方法のいずれかによってそれを必要とする哺乳動物に投与し得る。ペプチドは、全身的に又は局所的に投与し得る。
【0085】
(0087) ペプチドを、薬学的に許容可能な塩として処方し得る。用語「薬学的に許容可能な塩」は、哺乳動物等の患者/患畜への投与が許容可能な塩基又は酸から調製される塩を意味する(例えば、所定の投与レジメンについて許容可能な哺乳動物安全性を有する塩)。しかしながら、塩が薬学的に許容可能な塩である必要はないことがわかる(患者/患畜への投与を意図していない中間体化合物の塩等)。薬学的に許容可能な塩は、薬学的に許容可能な無機又は有機塩基及び薬学的に許容可能な無機又は有機酸から誘導することができる。加えて、ペプチドが塩基性部分(アミン、ピリジン、イミダゾール等)及び酸性部分(カルボン酸、テトラゾール等)の両方を含有する場合、双生イオンが発生することがあり、また本明細書で使用の用語「塩」に含まれる。薬学的に許容可能な無機塩基から誘導される塩には、アンモニウム塩、カルシウム塩、銅塩、第二鉄塩、第一鉄塩、リチウム塩、マグネシウム塩、第二マンガン塩、第一マンガン塩、カリウム塩、ナトリウム塩及び亜鉛塩等が含まれる。薬学的に許容可能な有機塩基から誘導される塩には、置換アミン、環状アミン、天然アミン等を含めた一級、二級及び三級アミン(アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン(piperazine)、ピペラジン(piperadine)、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミン等)の塩が含まれる。薬学的に許容可能な無機酸から誘導される塩には、ホウ酸、カルボン酸、ハロゲン化水素酸(臭化水素酸、塩酸、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸)、硝酸、リン酸、スルファミン酸及び硫酸の塩が含まれる。薬学的に許容可能な有機酸から誘導される塩には、脂肪族ヒドロキシル酸(例えば、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、ラクトビオン酸、リンゴ酸、酒石酸)、脂肪族モノカルボン酸(例えば、酢酸、酪酸、ギ酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸、p-クロロ安息香酸、ジフェニル酢酸、ゲンチジン酸、馬尿酸、トリフェニル酢酸)、芳香族ヒドロキシル酸(例えば、o-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、1-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸、3-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸)、アスコルビン酸、ジカルボン酸(例えば、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、コハク酸)、グルコロン酸(glucoronic)、マンデル酸、粘液酸、ニコチン酸、オロチン酸、パモ酸、パントテン酸、スルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、エジシル(edisylic)酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、メタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2,6-ジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸)、キシナホン(xinafoic)酸等の塩が含まれる。一部の実施形態において、塩はアセテート塩又はトリフルオロアセテート塩である。
【0086】
(0088) 本明細書に記載のD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2等の芳香族カチオン性ペプチド又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を、本明細書に記載の疾患を処置又は予防するために対象に単体で又は組み合わせて投与する医薬組成物に組み入れることができる。このような組成物は、典型的には、有効成分及び薬学的に許容可能な担体を含む。本明細書で使用の用語「薬学的に許容可能な担体」には、医薬品の投与に適合した生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤並びに吸収遅延剤等が含まれる。補助的な活性化合物も、組成物に組み入れることができる。
【0087】
(0089) 医薬組成物を、典型的には、その意図している投与経路に適合するように製剤する。投与経路の例には、非経口(例えば、静脈内、皮内、腹腔内、皮下)、経口、吸入、経皮(局所)、眼内、イオン泳動及び経粘膜投与が含まれる。非経口、皮内又は皮下適用に使用する溶液又は懸濁液は、以下の成分を含むことができる:注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、他の合成溶媒等の無菌希釈剤、ベンジルアルコール、メチルパラベン等の抗菌剤、アスコルビン酸、重亜硫酸ナトリウム等の抗酸化剤、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤、アセテート、シトレート、ホスフェート等の緩衝液及び塩化ナトリウム、デキストロース等の張性を調整するための剤。pHは、酸又は塩基(塩酸、水酸化ナトリウム等)で調整することができる。非経口製剤は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ又は複数回量バイアルに封入することができる。患者/患畜又は処置を行う医師にとって便利なように、投薬する製剤を、必要なもの全て(例えば、薬剤のバイアル、希釈剤のバイアル、シリンジ及び針)が入った、一連の処置用のキット(例えば、7日間の処置)として提供することができる。
【0088】
(0090) 注射に適した医薬組成物は、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液と、滅菌注射溶液又は分散液の即時調製用の滅菌粉末とを含み得る。静脈内投与に適した担体には、生理食塩水、静菌水、CREMOPHOR EL(登録商標)(BASF、パーシッパニー、NJ)又はリン酸緩衝食塩水(PBS)が含まれる。すべてのケースにおいて、非経口投与用の組成物は無菌でなくてはならず、またシリンジでの投与が容易な程度に流動性であるべきである。組成物は、製造及び保管条件下で安定であるべきであり、また細菌、真菌等の微生物による汚染から保護されなくてはならない。
【0089】
(0091) 芳香族カチオン性ペプチド組成物は担体を含み得て、この担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)及びこれらの適切な混合物を含有する溶媒又は分散媒になり得る。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用、分散液の場合は必要とされる粒径の維持及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の活動は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チオメラソール(thiomerasol)等により防止することができる。グルタチオン及び他の抗酸化剤を含めることによって酸化を防止することができる。多くの場合、組成物中に、等張剤、例えば糖、多価アルコール(マンニトール、ソルビトール等)又は塩化ナトリウムを含めることが好ましかった。吸収を遅らせる剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム又はゼラチンを組成物に含めることによって、注射用組成物の吸収を持続性にすることができる。
【0090】
(0092) 滅菌注射溶液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上で挙げた成分の1つ又は組み合わせと共に適切な溶媒に組み入れ、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基礎分散媒及び上で挙げたものの中で必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み入れることによって調製される。滅菌注射溶液を調製するための滅菌粉末の場合、典型的な調製方法には、それまでは滅菌濾過溶液であったものから活性成分に所望の成分を追加したものの粉末が得られる真空乾燥及び凍結乾燥が含まれる。
【0091】
(0093) 経口組成物は一般に、不活性な希釈剤又は可食性の担体を含む。治療薬を経口投与する場合、活性化合物を賦形剤と共に組み入れ、錠剤、トローチ又はカプセル(例えば、ゼラチンカプセル)の形態で使用することができる。マウスウォッシュとして使用するために、経口組成物を液状の担体を使用して調製することもできる。薬学的に適合性の結合剤及び/又はアジュバント材料を、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチ等は、以下の成分又は同様の性質の化合物のいずれをも含むことができる:結晶セルロース、トラガカントガム、ゼラチン等の結合剤、デンプン、ラクトース等の賦形剤、アルギン酸、Primogel、コーンスターチ等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、Sterotes等の滑沢剤、コロイド状二酸化ケイ素等のグライダント、スクロース、サッカリン等の甘味料又はペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ香料等の香料。
【0092】
(0094) 吸入による投与の場合、化合物を、適切な噴射剤、例えば二酸化炭素等のガスの入った加圧容器若しくはディスペンサー又は噴霧器からエアゾールスプレーの形態で送達することができる。このような方法には、米国特許第6468798号明細書に記載のものが含まれる。
【0093】
(0095) 本明細書に記載の治療用化合物の全身投与を、経粘膜的又は経皮的手段で行うこともできる。経粘膜的又は経皮的に投与する場合、透過すべき障壁に適切な浸透剤を製剤で使用する。このような浸透剤は当該分野で一般に知られており、例えば、経粘膜投与の場合は、界面活性剤、胆汁酸塩及びフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜投与は、点鼻薬の使用を通じて達成することができる。経皮投与の場合、活性化合物を、当該分野において一般に知られている軟膏、膏薬、ゲル又はクリームに製剤する。一実施形態においては、経皮投与を、イオン泳動により実施し得る。
【0094】
(0096) 治療用タンパク質又はペプチドを担体系中に処方することができる。この担体はコロイド系になり得る。このコロイド系は、リポソーム、リン脂質二重層ビヒクルになり得る。一実施形態においては、治療用ペプチドを、ペプチドの完全性を維持しながらリポソーム内に封入する。当業者ならば、リポソームの調製には様々な方法があることがわかる(Lichtenberg et al.,Methods Biochem.Anal.,33:337-462(1988)、Anselem et al.,Liposome Technology,CRC Press(1993)を参照のこと)。リポソーム製剤は、クリアランスを遅らせ、また細胞への取り込み量を上昇させることができる(Reddy,Ann.Pharmacother.,34(7-8):915-923(2000)を参照のこと)。有効成分を、以下に限定するものではないが、可溶性、不溶性、透過性、不透過性、生分解性又は胃内滞留性のポリマー又はリポソームを含む薬学的に許容可能な成分から調製された粒子に担持させることもできる。このような粒子には、以下に限定するものではないが、ナノ粒子、生分解性ナノ粒子、ミクロ粒子、生分解性ミクロ粒子、ナノ球体、生分解ナノ球体、ミクロスフィア、生分解性ミクロスフィア、カプセル、エマルション、リポソーム、ミセル及びウイルスベクター系が含まれる。
【0095】
(0097) 担体は、ポリマー、例えば生分解性、生体適合性のポリマーマトリックスにもなり得る。一実施形態において、治療用ペプチドは、ポリマーマトリックスに、タンパク質の完全性を維持しながら埋め込むことができる。ポリマーは天然(ポリペプチド、タンパク質、多糖等)又は合成(ポリα-ヒドロキシ酸等)になり得る。例には、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、セルロースニトレート、多糖、フィブリン、ゼラチン及びこれらの組み合わせから作製される担体が含まれる。一実施形態において、ポリマーは、ポリ-乳酸(PLA)又はコポリ乳酸/グリコール酸(PGLA)である。ポリマーマトリックスは、マイクロスフェア及びナノスフェアを含む多様な形態及びサイズで調製及び単離することができる。ポリマー製剤は、より長い治療効果持続時間をもたらすことができる(Reddy,Ann.Pharmacother.,34(7-8):915-923(2000)を参照のこと)。ヒト成長ホルモン(hGH)のためのポリマー製剤が、臨床試験において使用されている(Kozarich and Rich,Chemical Biology,2:548-552(1998)を参照のこと)。
【0096】
(0098) ポリマーマイクロスフェア徐放性製剤の例は、PCT公報である国際公開第99/15154号パンフレット(Tracyら)、米国特許第5674534号明細書及び第5716644号明細書(共にZaleら)、PCT公報である国際公開第96/40073号パンフレット(Zaleら)及びPCT公報である国際公開第00/38651号パンフレット(Shahら)に記載されている。米国特許第5674534号明細書及び第5716644号明細書並びにPCT公報である国際公開第96/40073号パンフレットには、塩による凝集に対して安定化されているエリスロポエチンの粒子を含有するポリマーマトリックスが記載されている。
【0097】
(0099) 一部の実施形態において、治療用化合物は、治療用化合物が身体から速やかに排出されないように保護する担体と共に調製され、例えばインプラント及びマイクロカプセル化送達系を含めた徐放性製剤である。生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができ、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸である。このような製剤は、公知の技法を使用し調製することができる。材料は、例えばAlza Corporation及びNova Pharmaceuticals,Inc.からも商業的に入手可能である。リポソーム懸濁物(特定の細胞を標的とした、細胞特異性抗原に対するモノクローナル抗体のリポソームを含む)も、薬学的に許容可能な担体として使用することができる。これらは、例えば米国特許第4522811号明細書に記載されるような当業者に公知の方法に従って調製し得る。
【0098】
(0100) 治療用化合物は、細胞内送達が強化されるように処方することもできる。例えば、リポソーム送達系が当該分野において公知であり、例えば、Chonn and Cullis,“Recent Advances in Liposome Drug Delivery Systems,”Current Opinion in Biotechnology6:698-708(1995)、Weiner,“Liposomes for Protein Delivery:Selecting Manufacture and Development Processes,”Immunomethods4(3)201-9(1994)及びGregoriadis,“Engineering Liposomes for Drug Delivery:Progress and Problems,”Trends Biotechnol.13(12):527-37(1995)を参照のこと。Mizguchi et al.,Cancer Lett.100:63-69(1996)には、インビボ及びインビトロの両方における、タンパク質を細胞に送達するための膜融合リポソームの使用が記載されている。
【0099】
(0101) 治療薬の用量、毒性及び治療効率は、例えばLD50(集団の50%に対して致死的である用量)及びED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を求めるための細胞培養物又は実験動物を使用しての標準的な薬学的手順に従って求めることができる。毒性作用と治療効果との間の用量比は治療係数であり、比LD50/ED50として表現することができる。高い治療係数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を示す化合物も使用し得るが、このような化合物を患部組織部位に送達する送達系を設計する際は、未感染細胞への潜在的な損傷を最小限に抑えて副作用が減少するように注意を払うべきである。
【0100】
(0102) 細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトで使用する場合の用量範囲を割り出す際に利用することができる。そのような化合物の用量は、好ましくは、殆ど又は全く毒性を伴うことのないED50を含む幅広い循環濃度内にある。用量は、採用する剤形及び利用する投与経路に応じてこの範囲内で異なり得る。本方法で使用するいずれの化合物であっても、治療有効量は、最初は細胞培養アッセイから推定することができる。用量は、細胞培養で求められたIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように動物モデルで割り出すことができる。このような情報を利用して、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーで測定し得る。
【0101】
(0103) 典型的には、治療又は予防効果を得るのに十分な本発明の芳香族カチオン性ペプチドの有効量は、1日あたり体重1kgあたり約0.000001~約10000mgである。好ましくは、用量は、1日あたり体重1kgあたり約0.0001~約100mgである。例えば、用量は、毎日、2日おき又は3日おきに1mg/kg体重又は10mg/kg体重、あるいは毎週、2週間おき又は3週間おきに1~10mg/kgの範囲内になり得る。一実施形態において、ペプチドの1回の用量は、体重1kgあたり0.1~10000μgである。一実施形態において、担体中の芳香族カチオン性ペプチドの濃度は、送達される1mlあたり0.2~2000μgである。例示的な治療レジメンは、1日あたり1回又は1週間あたり1回の投与を必要とする。治療を目的とした用途の場合、疾患の進行が遅くなる又は停止するまで、また好ましくは対象が疾患の症状の部分的又は完全な改善を示すまで比較的高用量が比較的短い投与間隔で必要となる場合がある。その後、患者/患畜に、予防的レジメンを施すことができる。
【0102】
(0104) 幾つかの実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドの治療有効量を、標的組織において10-12~10-6モル、例えば約10-7モルのペプチド濃度として定義し得る。この濃度を、0.01~100mg/kgの全身用量又は体表面積による等価用量で送達し得る。投薬スケジュールを、連続投与(例えば、非経口注入、経皮投与)も含めた最も好ましくは毎日又は毎週の単回投与によって標的組織での治療濃度を維持するように最適化する。
【0103】
(0105) 一部の実施形態においては、芳香族カチオン性ペプチドの投薬を、「低」、「中」又は「高」用量レベルで行う。一実施形態において、低用量は約0.01~約0.5mg/kg/時間、適切には約0.0001~約0.1mg/kg/時間である。一実施形態において、中用量は約0.001~約1.0mg/kg/時間、適切には約0.01~約0.5mg/kg/時間である。一実施形態において、高用量は約0.005~約10mg/kg/時間、適切には約0.01~約2mg/kg/時間である。
【0104】
(0106) 当業者ならば、以下に限定するものではないが、疾患又は障害の重症度、治療歴、対象の全身の健康状態及び/又は年齢並びに抱えているその他の疾患を含めた特定の要因が、対象を効果的に処置するのに必要な用量及びタイミングに影響し得ることがわかる。更に、対象を治療有効量の本明細書に記載の治療用組成物で処置することには1回限りの処置又は一連の処置を含めることができる。
【0105】
(0107) 本方法に従って処置する哺乳動物は、例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ等の家畜、イヌ、ネコ等の愛玩動物、ラット、マウス、ウサギ等の実験用動物を含めたいずれの哺乳動物にもなり得る。適切な実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【0106】
(0108)解剖学的ノーリフロー領域の測定
画像化技法は、本テクノロジーのペプチドの解剖学的ノーリフロー領域に対する効果を評価するのに有用である(概して、参考文献1~51を参照のこと)。ノーリフロー現象は、心筋コントラスト心エコー、冠動脈血管造影、心筋ブラッシュ、冠動脈ドップラーイメージング、心電図検査、核イメージング単一光子放射型CT、タリウム又はテクネチウム99mの使用及びPETを利用して評価し得る。造影MRIは、造影剤の初回通過中に心筋灌流を評価することができる。あるいは、造影剤注入から20分後の遅延造影MRIを利用して壊死を検出することができる。初回通過時灌流MRIでのリフローを示さない造影陰性領域の検出は、追跡調査での永久的な機能障害に関係している。一部の実施形態において、微小血管の閉塞を心臓MRIで評価することができる。例えば、1.5-T全身MRIスキャナで心臓MRIを行うことによって心室機能、心筋浮腫(リスク領域)、微小血管の閉塞及び梗塞サイズを評価することができる。
【実施例0107】
(0109) 本発明を以下の実施例により更に詳しく説明するが、実施例はいかなる形でも限定的であると解釈されるべきではない。上述したように、虚血によって微小血管系において著しい変化がもたらされ、これが多くの組織/臓器への正常な血流を妨げることがある。このため、心臓、肝臓、脳、皮膚、骨格筋、腎臓等を含めた様々な組織/臓器でノーリフロー現象が起こり得る。本テクノロジーの芳香族カチオン性ペプチドは、様々な組織/臓器において解剖学的ノーリフロー領域を予防又は処置する方法において有用であることが予測される。
【0108】
(0110)実施例1:ウサギの心臓における虚血/再灌流傷害後の解剖学的ノーリフロー領域、出血領域及び梗塞サイズに対するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2の効果
概要:局所心筋虚血(約30分)及び再灌流(約3時間)後の梗塞サイズ及びノーリフローに対するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2の効果を調査する。研究対象(すなわち、ビヒクル/プラセボ及びD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩))の有効性を、虚血発生及び続く心筋再灌流に対しての研究対象の投与のタイミングが異なる実験手順で評価する。
【0109】
(0111)投与経路及び投与時間
ビヒクル/プラセボ及びD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)を点滴静注で投与する。注入の詳細及び注入時間については
図1に示す。
【0110】
(0112)実験動物
研究で使用する動物を表7に挙げる。動物は、USDA及びNIHの基準に沿って動物飼育施設で飼育される。プロトコルに従って無作為化を行う前に、有資格者がウサギを検査し、それから少なくとも2日間にわたって順化させる。全てのウサギを毎日、下痢、食欲減退、倦怠感等の徴候について観察する。これらの徴候が見られたら、そのウサギを研究の母集団には含めない。動物実験前夜は、ウサギを絶食させる(食餌を取り上げる)。全てのウサギに明らかな臨床疾患は見られない。動物実験の前日又は動物実験当日に、用量の算出及び麻酔を目的として各ウサギの体重を記録する。各実験の完了後、ウサギ(既に完全な麻酔下にある)を安楽死させ、適切に処分する。
【0111】
【0112】
研究対象:(D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)及びビヒクル/プラセボ)
以下に記載の研究対象のロット番号、供給業者名、ペプチド含有量、有効期限及び保管条件を記録する。D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)を使用した研究対象製剤を、以下で詳述するようにビヒクル中の混合物(重量対体積)として調製する。
【0113】
これらの研究で使用するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)(滅菌凍結乾燥粉末)は、Stealth Peptides Inc.から調達する。研究対象であるD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)を、滅菌生理食塩水(0.9%NaCl)に溶解させて研究対象であるD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)の原液を調製する。生理食塩水で再構成した後、研究対象であるD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)の原液を、0.22μm未満の膜(PES又はPVDF膜)を備えた滅菌フィルターユニットを使用して濾過し、使用するまで-20℃で保管する。
【0114】
各D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)実験の日の朝、研究対象であるD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)原液の冷凍アリコートを、滅菌生理食塩水(0.9%NaCl)との混合に先立って室温で解凍する。ビヒクル/プラセボは滅菌生理食塩水(0.9%NaCl)である。投与する溶液の準備及び注入速度に関して、研究で使用するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)の濃度/用量を表8~11にまとめた。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
(0116)研究デザイン
研究を、適応する設計モデルを利用して設計する。したがって、約32羽のウサギの第1グループ(コホート1)から得られたデータを利用して、適宜、残りの研究(例えば、続くコホート)を修正する。約15~30分の安定化後、血行動態パラメータ及び温度のベースラインを得る。更に、ウサギを、以下の4つのグループの1つに無作為に分類する(
図1を参照のこと)。グループ1、研究対象はD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩):D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)の注入は、冠動脈閉塞(CAO)の約10分後から開始し、また約180分の再灌流の間ずっと継続し、n=8(求める用量/体積)である。D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)注入時間は約200分である。グループ2、研究対象はD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩):D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)の注入は、CAOの約20分後から開始し、(再灌流10分前)また約180分の再灌流の間ずっと継続し、n=8(求める用量/体積)である。D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)注入時間は約190分である。グループ3、研究対象はD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩):D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)は冠動脈再灌流直前から開始し、約180分の再灌流の間ずっと継続し、n=8(求める用量/体積)である。D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)注入時間は約180分である。グループ4、研究対象(コントロール): D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)に対して等価体積のビヒクル/プラセボ注入をCAOの約10分後に開始し、また約180分の再灌流の間ずっと継続し、n=8である。ビヒクル/プラセボ注入時間は約200分である。
【0120】
(0117) 特定のタイミング(例えば、再灌流時、再灌流開始から15分後、ほぼ定常状態)で所望のD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2血漿濃度を達成するために、グループ1、2及び3のそれぞれについての投与設計は以下の通りとなるべきである。
グループ1:グループ1の全200分間にわたって0.05mg/kg/時間でD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)を注入する。
グループ2:最初の20分間にわたって0.075mg/kg/時間でD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)を注入し、次にグループ2の170分間にわたって0.05mg/kg/時間でのD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)の注入に変更する。
グループ3:最初の20分間にわたって0.10mg/kg/時間でD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)を注入し、次にグループ3の160分間にわたって0.05mg/kg/時間でのD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)の注入に変更する。
【0121】
(0118)外科的準備(
図2A:研究フローチャート・インビボでの手順及び
図2B:研究フローチャート・病理学的測定を参照のこと)
雄のニュージーランド白色ウサギに、ケタミン(約75mg/kg)とキシラジン(約5mg/kg)との混合物の筋肉内注射により麻酔をかける。必要に応じて研究中にペントバルビタール麻酔を静脈内投与でかけ、深麻酔を維持する。ウサギに挿管し、酸素富化空気による人工呼吸を行う。流体充填カテーテルを、左頸静脈に挿入して研究対象を投与し、右頸動脈にも挿入して麻酔薬を投与する。カテーテルを左頸動脈に挿入して血行動態を評価し、また局所心筋血流量測定中に基準血液サンプルを採取する。左側第4肋間隙から開胸し、心膜を切開し、心臓を露出させる。心底近くで、回旋動脈の第1大前外側分岐又は回旋動脈自体を4-O絹縫合糸で囲む。この領域でのCAOは通常、前外側及び心尖部心室壁の広い領域にわたる虚血に至る。縫合糸の末端を管に通し、締めて動脈を閉塞させるためのスネアを形成する。カテーテルを左心耳内に入れ、放射性マイクロスフィアを注入し、研究の最後に染料を注入する。温度プローブを直腸に挿入し、体温を加温パッドを使用して維持する。全てのウサギは約30分間にわたるCAO及び約3時間にわたる再灌流を受ける。局所心筋血流量を放射性マイクロスフィア法によりCAOから約20~30分後に測定し、リスク領域において虚血が起きていること、また4つのグループで虚血度が同じであることを確認する。
【0122】
(0119)研究対象の投与経路及び投与時間
研究を開始する前に、ポンプ注入速度及び体積のカリブレーションを行う。研究対象を頸動脈カテーテルから注入ポンプを使用して決定される速度で投与する。特定のグループに適したタイミングで注入を開始し、約180分の再灌流中も継続する。
【0123】
(0120)データ手順、採取及び測定
心拍数、収縮期圧、拡張期圧及び直腸温度をモニタし、ほぼベースライン、閉塞から5、15及び29分、また再灌流から約5、15、30、60、90、120、150及び180分の時点で記録する。記録をとるタイミングは、動物の安定性又は不安定性により若干異なり得る。
【0124】
(0121) 約180分後、約1ml/kgの約4%のチオフラビンS溶液を左心房カテーテルから心臓に注入してノーリフロー領域を明確にする。チオフラビンS(蛍光黄緑色の染料)が内皮を染め、灌流のマーカーとなる。チオフラビンSを、ノーリフロー領域を特定するための標準マーカーとして使用する(
図3を参照のこと)。冠動脈を再閉塞させ、虚血リスク領域を、左心房に注入した約4mlの約50%のユニスパースブルー染料溶液(供給業者:Ciba Geigy)で明確にする。
【0125】
(0122)局所心筋血流量(RMBF)の測定方法
RMBFを、約2x10
6個の放射性マイクロスフィア(供給業者:PerkinElmer Life Sciences)を使用し、虚血から約25分後に測定する。マイクロスフィアを左心房カテーテルを通して左心房に注入し、基準血液サンプルを、約2.06ml/分の速度で頸動脈から得る。プロトコルの最後に、サンプルをリスク領域(青色染料で染まっていないことから判断)及び非虚血領域から切り取る。サンプルを計量し、基準血液サンプルと共にコンピュータγ-ウェルカウンタ(供給業者:Canberra、System S100)でカウントする。バックグラウンドを適宜差し引き且つアイソトープ間で重複する放射能を修正した後、RMBFをコンピュータで算出し、結果をml/分/gで表わす(
図3を参照のこと)。
【0126】
(0123)血行動態の測定
心拍数及び血圧を、頸動脈に挿入した流体充填カテーテルを使用して測定する。データをADI(供給業者:Advanced Digital Instruments)システムを使用してデジタル化し、記録する。各タイミングでの3回の拍動を平均化する。
【0127】
(0124)ノーリフロー、リスク及び出血領域並びに壊死の分析
心臓を横方向にスライスして6~8枚の切片にする。切片を紫外線下で撮影してノーリフロー領域を特定し(
図3、パネルBを参照のこと)、またハロゲンライト下で撮影してリスク領域(
図3、パネルAを参照のこと)及び出血領域(
図4を参照のこと)を特定する。次に切片を約1%の塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)溶液中で約15分間にわたってインキュベートし、ホルマリンに浸漬させ、再度撮影することによって梗塞を可視化する(
図3、パネルCを参照のこと)。壊死組織はTTCでは染まらず、白色~淡黄色に見える。梗塞を起こしていない組織は赤レンガ色に染まる。デジタル写真をコンピュータモニタ上で観察する。各切片におけるノーリフロー、出血、虚血及び正常に灌流している領域の面積並びに壊死及び非壊死領域の面積を、Image J(供給業者:Rasband WS,Image J,National Institutes of Health,http://rsb.info.nih.gov/ij/)を使用してデジタル化する。各切片における面積に切片の重量を掛け、結果を合計することによってノーリフロー、リスク及び梗塞領域の質量を得る。
【0128】
(0125) 壊死を起こした部位及び正常な部位を含む梗塞領域の中心からとった1枚の切片を組織学的に検査する。浮腫は半定量的にスコア化する(スケール:0~3+)。写真を使用した全ての測定は、研究プロトコルを知らない訓練を受けた個人が行う。
【0129】
(0126)サンプルのサイズ、除外基準及びデータ分析
最初のサンプルサイズは、各グループでn=8の動物から成る。除外基準には、再灌流前及び研究完了前の死亡又は左心室の10%未満の虚血リスク領域が含まれる。データ分析には、CAO中のリスク領域内での局所心筋血流量が>0.2ml/分/gの各グループ内の動物を除外すること、またCAO中のリスク領域内での局所心筋血流量が>0.2ml/分/gの各グループ内の動物を含めることが含まれる。
【0130】
(0127)血液サンプルの採取及び取扱い
薬物動態(PK)分析のために、静脈全血サンプルを採取する。表12は、採取したタイミングの一覧である。静脈全血サンプルを、PK分析のために以下で指定のタイミングで採取する。PK分析サンプル用に、1mlの静脈全血を、事前に冷却してあるシリンジを使用して、(スプレーコーティングした)K2EDTAの入った事前に冷却してあるBD Vacutainer(登録商標)血漿分離管(ラベンダーキャップ)に以下のタイミングで採取する。グループ1、2、4:ほぼベースライン、虚血から29~30分後(再灌流開始前)及び再灌流から約30、60及び180分後。グループ3:再灌流から約15、30、90及び180分後。
【0131】
【0132】
(0128) PK分析用の血液が入った試験管を十分且つ優しく振り混ぜ、速やかに氷中に置く。採取から30分以内に、サンプルを約1500、好ましくは最高2000xGで15分間にわたって-4℃で遠心分離にかけ、続いて2つの血漿アリコート(それぞれ約0.25ml)を取り出し、速やかにラベルを貼ったスクリューキャップ付きポリプロピレン管に入れる。個々の血漿サンプルをドライアイスで急速冷凍し、更なる分析を行う時まで凍ったまま、-70±15℃を維持するように設定された条件下で保管する。
【0133】
(0129)統計解析プラン
全てのデータの要約及び統計解析を、SAS(バージョン9.3)を使用して行う。左心室の重量、梗塞サイズ、リスク領域の面積、ノーリフロー及び出血領域の面積並びに血流量を分散分析で比較する。グループ間での差異を、チューキー法で求める。時間の経過と共に起きる血行動態変数における変化を分散分析で分析する(繰り返し測定)。動物モデルについて<0.05のf値が得られる場合、平均値の差をコントラスト法により求める。共分散分析(ANCOVA)も利用して、リスク、ノーリフロー及び出血領域並びに側副血行を備えた壊死性心筋の回帰モデルに対するグループ効果を試験する。データは平均±SEMで表わされる。
【0134】
(0130)エンドポイント
研究のエンドポイントには、以下に限定するものではないが、心拍数、収縮期/拡張期の動脈圧、病理組織標本の面積及びそのそれぞれの比、リスク領域の面積、梗塞の質量、左心室の質量、リスク領域、ノーリフロー領域、出血領域、壊死/梗塞サイズ並びに浮腫が含まれ得る。
【0135】
(0131) 他の芳香族カチオン性ペプチド(例えば、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)は、同様のやり方で試験することができる。
【0136】
(0132)実施例2:AMIのウサギモデルにおける平均IA/ARに対するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2の効果
実施例1に記載されるようなAMIのウサギモデルにおける平均IA/ARに対するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2の効果を評価するために研究を行った。D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)注入のタイミングの効果を評価した。低用量(約0.01~約0.5mg/kg/時間)でのD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)注入のタイミングの効果を評価した。結果を表13及び
図5に示す。D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2は、プラセボを投与された対象と比較してのD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2(アセテート塩)を投与された対象におけるIA/AR比の低下からわかるように、虚血障害の処置並びに心臓における再灌流障害の予防及び処置において有用である。一部の実験において、梗塞サイズは、平均11%(表記せず)低下した。一部の実験において、梗塞サイズは、最大44.7%低下した(表13、
図5)。
【0137】
【0138】
(0133) 他の芳香族カチオン性ペプチド(例えば、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を、同様のやり方で試験することができる。同様の結果が代替のペプチドでも得られると予測される。
【0139】
(0134)実施例3:ウサギの心臓における虚血/再灌流傷害後の解剖学的ノーリフロー領域、出血領域及び梗塞サイズに対するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2の効果
実施例1に記載されるようなAMIのウサギモデルにおける解剖学的ノーリフロー領域、出血領域及び梗塞サイズに対するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2の効果を評価するために研究を行った。結果は、D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2が虚血障害の処置並びに解剖学的ノーリフロー領域を含めた心臓における再灌流障害の予防及び処置に有用であることを示す。
【0140】
(0135) 66羽のウサギがプロトコルに参加し、これには実施例2で詳述したウサギも含まれる。2個の心臓からのデータを、虚血リスク領域サイズの予測される除外基準に基づいて除外した(左心室の10%未満のAR)。最終データを残りの64個の心臓について報告した。グループ1、n=15(D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)注入は冠動脈閉塞(CAO)から10分後に開始する。グループ2、n=17 (D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)注入はCAOから20分後に開始する)。グループ3、n=17(D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)注入はCAOから29分後に開始する)。グループ4、n=15(生理食塩水注入はCAOから10分後に開始する)。3個の心臓は、CAO中、虚血領域において>0.20ml/分/gのRMBFを有していた。3羽のウサギは、注入ポンプの問題から高いD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2血清レベルを有しているようである。これらの心臓を、本明細書で提示するデータ分析に含めた。
【0141】
(0136) 4つのグループにおける虚血リスク領域、ノーリフロー領域、出血領域及び梗塞サイズを表14に示す。4つのグループにおけるこれらの変数についての平均及び標準誤差値を示す。これらの変数における潜在的な差は分散分析で分析した。
【0142】
【0143】
(0137) 共分散分析を利用し、グラムで表わされるリスク領域の程度(AR/LV)と壊死の程度(AN/LV)との関係(
図6)、リスク領域の程度とノーリフロー領域の程度との関係(
図7)に対する効果について、クラス変数「グループ」を試験した。ノーリフローとリスクとの関係には有意なグループ効果が見られた。処置グループについての回帰直線は、コントロールグループのものの下にくる。AR/LV>15%のウサギについてのリスク領域で割った壊死領域(AN/AR)の分析は、D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH
2での処置が20%を超える梗塞サイズにおける統計学的に有意な低下をもたらすことを示した(表15を参照のこと)。
【0144】
【0145】
(0138) 統合したグループデータに対して、グループ効果についてANCOVA分析を行った。ノーリフロー領域とリスク領域との関係に対して有意なグループ効果が見られた(p=0.0085)(
図8)。
【0146】
(0139)4つの処置グループにおける局所心筋血流量(RMBF)データ
RMBFを虚血領域及び非虚血領域において冠動脈閉塞から25分後に測定した。予備データにおいては、虚血リスク領域において非虚血値(>0.2ml/分/g)を示す3羽のウサギがいた。これは閉塞中にクランプが徐々に緩むからと考えられる。研究の第2部においては二重クランプ法を採用し、虚血領域における血流量が>0.2ml/分/gの心臓はなかった。下の表16はRMBF値を示す。
【0147】
【0148】
(0140) D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2での処置は、コントロールの心臓と比較して、ノーリフローの程度における21%の低下傾向をもたらした。変数「グループ」は、ノーリフロー領域の程度とリスク領域の程度との関係に大きく影響した。この徴候は、処置グループを統合し、コントロールと比較するとより一層強かった(p=0.0085)。
【0149】
(0141) 要約すると、いずれの任意のリスク領域サイズに関しても、ノーリフローは、D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2により有意に減少した。これは臨床的に重要な意味を有する発見である。近年の研究では、ノーリフローの悪化からはLV拡張の悪化及び慢性梗塞におけるリモデリングが予測でき、またノーリフローの悪化は、梗塞サイズの変化とは無関係に予後の悪化に関係していることが判明している。Reffelmann T et al.Circulation 2003;108:2911-17、Wu K et al.Circulation 1998;97:765-72、Ndrepepa et al.J Am Coll Cardiol 2010;55:2383-89及びBolognese et al.Circulation 2004;109:1121-26を参照のこと。D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2は平均的な任意のリスク領域サイズにしてはノーリフローを減少させることから、これが治癒を促進し(壊死片のより良好な除去及び治癒に必要な血液成分へのより良好なアクセス)、ひいてはLVリモデリングを減少させると予測している(LV拡張及びLV遠心性肥大を減少させることを含む)。加えて、長期生存となる可能性がある。
【0150】
(0142) 本明細書で開示の他の芳香族カチオン性ペプチド(例えば、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を同様のやり方で試験し、使用することができる。また、同様の結果が得られると予測される。
【0151】
(0143)実施例4:脳における虚血/再灌流傷害後の解剖学的ノーリフロー領域に対するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2の効果
虚血/再灌流によって引き起こされる解剖学的ノーリフロー領域から対象を保護することにおける本発明の芳香族カチオン性ペプチドの効果を、脳虚血/再灌流障害の動物モデルで調査する。
【0152】
(0144) 脳虚血は、脳の損傷につながる一連の細胞的及び分子的事象を惹起する。このような事象の1つが解剖学的ノーリフロー領域である。脳虚血は、30分間にわたる右中大脳動脈の閉塞によって引き起こされる。野生型(WT)マウスに生理食塩水ビヒクル(Veh)(ip)又はD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)(2~5mg/kg)を虚血から0、6、24及び48時間後に与える。マウスを虚血から3日後に殺す。脳を横方向にスライスして6~8枚の切片にする。切片を紫外線下で撮影してノーリフロー領域を特定する。各切片におけるノーリフロー面積を、Image J(供給業者:Rasband WS,Image J,National Institutes of Health,http://rsb.info.nih.gov/ij/)を使用してデジタル化する。各切片における面積に切片の重量を掛け、結果を合計することによってノーリフロー領域の質量を得る。
【0153】
(0145) 脳虚血/再灌流のマウスモデルを使用し(中大脳動脈の20分間にわたる閉塞)、D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2での野生型マウスの処置は梗塞体積における有意な低下、また解剖学的ノーリフロー領域の予防又は減少をもたらすと予測される。このため、ペプチドD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2は、脳における虚血/再灌流によって引き起こされるノーリフローの発生率を低下させるのに効果的である。
【0154】
(0146) 本明細書で開示の他の芳香族カチオン性ペプチド(例えば、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を同様のやり方で試験し、使用することができる。代替の芳香族カチオン性ペプチドを使用して同様の結果が得られることが予測される。
【0155】
(0147)実施例5:腎臓における虚血/再灌流傷害後の解剖学的ノーリフロー領域に対するD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2の効果
虚血/再灌流によって引き起こされる解剖学的ノーリフロー領域から対象を保護することにおける本発明の芳香族カチオン性ペプチドの効果を、腎損傷の動物モデルで調査する。
【0156】
(0148) Sprague-Dawley系ラット(250~300g)を3つのグループに分ける:(1)I/Rなしのシャム手術グループ、(2)I/R+生理食塩水ビヒクル処置、(3)I/R+D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)処置。D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)(3mg/kg、生理食塩水に溶解させる)を、虚血30分前及び再灌流開始直前にラットに投与する。同じスケジュールでコントロールのラットに生理食塩水だけを与える。ラットに、ケタミン(90mg/kg、i.p)とキシラジン(4mg/kg、i.p.)との混合物で麻酔をかける。左腎血管茎を、マイクロクランプを使用して30又は45分間にわたって一時的に閉塞させる。虚血が終了したら、クランプを取り外すことによって再灌流を確立する。その時、反対側の右腎を除去する。24時間にわたる再灌流後、ラットを屠殺し、血液サンプルを心穿刺により得た。腎機能は、血中尿素窒素(BUN)及び血清クレアチニンにより求める(BioAssay Systems DIUR-500及びDICT-500)。
【0157】
(0149)ノーリフロー領域及び壊死の分析
腎臓を横方向にスライスして6~8枚の切片にする。切片を紫外線下で撮影してノーリフロー領域を特定する。各切片におけるノーリフロー面積を、Image J(供給業者:Rasband WS,Image J,National Institutes of Health,http://rsb.info.nih.gov/ij/)を使用してデジタル化する。各切片における面積に切片の重量を掛け、結果を合計することによってノーリフロー領域の質量を得る。
【0158】
(0150) D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2での処置が、45分間にわたる虚血及び24時間にわたる再灌流後の解剖学的ノーリフロー領域を予防する又は減少させることが予測される。例えば、芳香族カチオン性ペプチドで処置した対象においては、ペプチド処置を受けていない対象と比較して、BUN、血清クレアチニン及び糸球体濾過量の1つ以上が改善されることが予測される。このため、ペプチドD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2は、腎臓における虚血/再灌流によって引き起こされるノーリフローの発生率を低下させるのに効果的である。
【0159】
(0151) 他の芳香族カチオン性ペプチド(例えば、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を同様のやり方で試験し、使用することができる。代替の芳香族カチオン性ペプチドを使用して同様の結果が得られることが予測される。
【0160】
(0152)実施例6:芳香族カチオン性ペプチドのヒトにおけるノーリフロー現象からの保護効果
これらの研究では、血管再建時にD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2を投与することで再灌流時に発生する解剖学的ノーリフロー領域のサイズが制限されるか否かを判定する。AMIの処置の場合、責任動脈の機械的な再開通により、90%を超える患者において、虚血心筋への心外膜冠血流が回復する(TIMI流量、グレード3)。しかしながら、再灌流させようとするこれらの努力は、それに伴う毛細血管床レベルの下流での血流を回復させるという重要な問題に対処するものではない。一次PCI中又はその後に、20~40%の患者で微小循環不全が観察される。ステント留置による血管形成後にST部分の上昇が解消されないのは微小血管に問題があるというマーカーであり、また不良な臨床予後に関係している。STEMIにおいて、開存性の冠動脈が存在するにも関わらず心筋再灌流を達成できないことを、「ノーリフロー」現象と称してきた。
【0161】
(0153)研究グループ
18歳以上で、胸痛発生から6時間以内に症状を呈し、近接する2本のリード線間でのST部分上昇が0.1mVより高く、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)で処置するとの臨床判断がなされる男女に参加資格がある。一次PCI、レスキューPCIのどちらを受けるかに関わらず、患者にはこの研究への参加資格がある。入院時の責任冠動脈の閉塞(心筋梗塞の血栓溶解[TIMI]流量グレード0)もまた、組み入れ基準である。
【0162】
(0154)血管造影及び血管再建
左心室及び冠動脈造影は、血管再建直前に標準的な技法で行う。血管再建は、直接的なステント留置によるPCIで行う。代替の血管再建術には、以下に限定するものではないが、バルーン血管形成術、バイパスグラフトの挿入、経皮的冠動脈形成術又は方向性冠動脈アテレクトミーが含まれる。
【0163】
(0155)実験プロトコル
冠動脈造影を行った後、ただしステントを埋め込む前に、参加基準を満たす患者を無作為にコントロールグループ又はペプチドグループに振り分ける。無作為化はコンピュータで生成した無作為化シーケンスを使用して行う。直接的なステント留置を行う10分未満前に、ペプチドグループの患者は、D-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)の静脈内ボーラス注入を受ける。ペプチドを生理食塩水に溶解させ(最終濃度、25mg/ml)、前肘静脈内に位置決めしたカテーテルを通して注入する。コントロールグループの患者には、等価体積の生理食塩水を投与する。
【0164】
(0156)ノーリフロー領域
プライマリーエンドポイントは、1種以上の画像化技法で評価する解剖学的ノーリフロー領域のサイズである。リフロー現象は、心筋コントラスト心エコー、冠動脈血管造影、心筋ブラッシュ、冠動脈ドップラーイメージング、心電図検査、核イメージング単一光子放射型CT、タリウム又はテクネチウム99mの使用又はPETで評価する。1.5-T全身MRIスキャナで心臓MRIを行うことによって心室機能、心筋浮腫(リスク領域)、微小血管の閉塞及び梗塞サイズを評価する。造影後遅延増強を、PCIの成功及びステント留置から4日目±1、30日目±3及び6日目+1.5ヵ月に行うことによって梗塞を起こした心筋を定量化する。梗塞を起こした心筋は、同一切片内の離れた位置にある梗塞を起こしてない心筋の基準領域のものより2SDを越えて高い心筋造影後シグナルの強度により定量的に定義される。標準的な細胞外ガドリニウム系造影剤を0.2mmol/kgの量で使用する。2D反復回転高速グラジエントエコーシーケンスを以下のタイミングで使用する。(1)微小血管閉塞を評価するための早期使用(造影剤注入から約2分後)。利用可能ならばシングルショット技法の採用が考えられる。(2)梗塞サイズを評価するための後期使用(造影剤注入から約10分後)。
【0165】
(0157) 再灌流時のD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2(アセテート塩)の投与が、プラセボで見られるものより小さい解剖学的ノーリフロー領域と関係していると予測される。このため、ペプチドD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2は、心臓における虚血/再灌流によって引き起こされるノーリフローの発生率を低下させるのに効果的である。
【0166】
(0158) 他の芳香族カチオン性ペプチド(例えば、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)又はその薬学的に許容可能な塩(アセテート塩、トリフルオロアセテート塩等)を同様のやり方で試験し、使用することができる。同様の結果が得られることが予測される。
【0167】
【0168】
(0159)均等物
本発明が、本発明の個々の態様の単独の実例としての本願に記載の特定の実施形態によって限定されることはない。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく数多くの本発明の改良形及び変化形を形成可能であることは当業者に明らかである。本発明の範囲内の機能的に同等の方法及び装置についても、本明細書で列挙したものに加えて、上記の説明から当業者には明らかであった。このような改良形及び変化形は、付随する請求項の範囲内に含まれるものとする。本発明は、付随する請求項が権利を有する均等物の全範囲を含め、付随する請求項の用語によってのみ限定される。本発明は、特定の方法、試薬、化合物、組成物又は生物学的な系に限定されず、当然のことなら変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で使用の用語が特定の実施形態だけを説明することを目的とし、限定を意図していないことを理解されたい。
【0169】
(0160) 加えて、開示の構成又は態様がマーカッシュグループで記載される場合、当業者ならば、それによってその開示がマーカッシュグループの任意の個々の要素又は要素の下位集合の形でも記載されることがわかる。
【0170】
(0161) 当業者ならばわかるように、任意の及び全ての目的のために、特には書面での提供に関し、本明細書で開示する全ての範囲には、任意の及び全ての考えられ得る下位範囲及びその下位範囲の組み合せも含まれる。記載の範囲が十分に説明され、また同範囲を少なくとも2等分、3等分、4等分、5等分、10等分等に分割し得ることはすぐにわかる。非限定な例を挙げると、本明細書で論じる各範囲を、下部3分の1、中央3分の1及び上部3分の1等に容易に分割し得る。また、当業者ならばわかるように、「~まで」、「少なくとも」、「~より大きい」、「~より小さい」等の全ての文言には記載の数字が含まれ、また上述したような下位範囲に続いて分割可能な範囲を指している。最後に、当業者ならばわかるように、範囲には、その個々の要素が含まれる。したがって、例えば、1~3個の細胞を有する群とは、1、2又は3個の細胞を有する群のことである。同様に、1~5個の細胞を有する群は、1、2、3、4又は5個の細胞を有する群を意味する等々。
【0171】
(0162) 本明細書で言及又は引用する全ての特許、特許出願、仮出願及び出版物は、本明細書の明示的な教示と矛盾しない範囲で、全ての図及び表を含めて参照により全て組み込まれる。
【0172】
(0163) 他の実施形態は以下の請求項で示される。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕それを必要とする哺乳動物である対象において解剖学的ノーリフロー領域を予防又は処置する方法であって、
治療有効量のペプチドD-Arg-2’,6’-Dmt-Lys-Phe-NH2又はその薬学的に許容可能な塩を対象に投与することによって、前記対象における解剖学的ノーリフロー領域を予防又は処置することを含むことを特徴とする方法。
〔2〕前記対象に血管再建術を行うステップを更に含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記解剖学的ノーリフロー領域が、前記対象の微小血管系の破損又は閉塞を有する、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記対象が、心血管組織、骨格筋組織、脳組織及び腎組織から成る群から選択される組織に関連した解剖学的ノーリフロー領域を抱えるリスクにさらされている又は抱えている、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記対象に、前記ペプチドを、前記解剖学的ノーリフロー領域が形成される前に又は前記解剖学的ノーリフロー領域が形成された後に投与する、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕前記対象に、前記ペプチドを、前記血管再建術の前に、前記血管再建術の後に、前記血管再建術の最中及び後に又は前記血管再建術の前、最中及び後に連続的に投与する、前記〔2〕に記載の方法。
〔7〕前記対象に、前記ペプチドを、前記血管再建術後の少なくとも3時間、前記血管再建術後の少なくとも5時間、前記血管再建術後の少なくとも8時間、前記血管再建術後の少なくとも12時間又は前記血管再建術後の少なくとも24時間にわたって投与する、前記〔6〕に記載の方法。
〔8〕前記対象に、前記ペプチドを、前記血管再建術の少なくとも8時間前から、前記血管再建術の少なくとも4時間前から、前記血管再建術の少なくとも2時間前から、前記血管再建術の少なくとも1時間前から又は前記血管再建術の少なくとも10分前から投与する、前記〔6〕に記載の方法。
〔9〕前記対象が心筋梗塞又は脳卒中を患っている、あるいは血管形成術を必要としている、前記〔1〕に記載の方法。
〔10〕前記血管再建術が、バルーン血管形成術、バイパスグラフトの挿入、ステントの挿入、経皮的冠動脈形成術又は方向性冠動脈アテレクトミーから成る群から選択される、前記〔1〕に記載の方法。
〔11〕前記血管再建術が閉塞の除去である、前記〔1〕に記載の方法。
〔12〕前記血管再建術が1種以上の血栓溶解薬の投与である、前記〔1〕に記載の方法。
〔13〕前記1種以上の血栓溶解薬が、組織プラスミノーゲンアクチベータ、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、プラスミノーゲンのアシル化形態、プラスミンのアシル化形態及びアシル化ストレプトキナーゼ/プラスミノーゲン複合体から成る群から選択される、前記〔12〕に記載の方法。
〔14〕前記対象が、脳組織に関連した解剖学的ノーリフロー領域を抱えるリスクにさらされている又は抱えていて、また前記解剖学的ノーリフロー領域が、毛細血管の閉塞又は微小塞栓を含む前記対象の微小血管系の閉塞を有する、前記〔4〕に記載の方法。