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特開2022-129250ポリオキサゾリン結合アルブミン、人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液
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  • 特開-ポリオキサゾリン結合アルブミン、人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129250
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】ポリオキサゾリン結合アルブミン、人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/38 20060101AFI20220829BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220829BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20220829BHJP
【FI】
A61K38/38
A61P7/00
A61K47/59
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027892
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小松 晃之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 航
(72)【発明者】
【氏名】臼井 朝音
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA94
4C076BB12
4C076CC14
4C076CC41
4C076EE25
4C076EE59
4C076FF31
4C076FF67
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA17
4C084CA18
4C084CA20
4C084CA21
4C084CA36
4C084CA53
4C084CA56
4C084DA36
4C084DA37
4C084MA05
4C084MA16
4C084MA65
4C084NA06
4C084NA12
4C084ZA521
4C084ZA522
(57)【要約】
【課題】生体適合性が高く、且つ調製(合成)が容易な水溶性高分子を結合したアルブミン、並びに、該水溶性高分子結合アルブミンを含む人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液を提供する。
【解決手段】コアとしてのアルブミン10と、前記アルブミン10に架橋剤を介して共有結合されたシェルとしてのポリオキサゾリン20と、を有することを特徴とする、ポリオキサゾリン結合アルブミン100、並びに、該ポリオキサゾリン結合アルブミン100を含むことを特徴とする、人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとしてのアルブミンと、前記アルブミンに架橋剤を介して共有結合されたシェルとしてのポリオキサゾリンと、を有することを特徴とする、ポリオキサゾリン結合アルブミン。
【請求項2】
前記アルブミンにおける前記架橋剤との結合部位が、リシン、タンパク質末端の1級アミン、又はシステインである、請求項1に記載のポリオキサゾリン結合アルブミン。
【請求項3】
前記ポリオキサゾリンにおける前記架橋剤との結合部位が、下記一般式(1)で表されるポリオキサゾリンの末端ヒドロキシル基又はアミノ基である、請求項1又は2に記載のポリオキサゾリン結合アルブミン。
【化1】
[一般式(1)中、Rは炭素数1~8の炭化水素基を表し、Rは、ヒドロキシル基、アミノ基、又は-NH-(CH-OHを表し、nは反復単量体単位の数を表す。]
【請求項4】
前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(1)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合アルブミン。
【化2】
【請求項5】
前記架橋剤を介した共有結合が、マレイミド基導入剤に由来する構造を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合アルブミン。
【請求項6】
前記マレイミド基導入剤が、下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項5に記載のポリオキサゾリン結合アルブミン。
【化3】
【化4】
[一般式(2)中、Rは水素原子又はSO Naを表し、Rは下記一般式(4)、下記一般式(5)又は下記化学式(1)、下記化学式(2)のいずれかを表す。また、一般式(3)中、Rは下記一般式(4)を表し、RはOH又はClを表す。]
【化5】
[一般式(4)中、nは1~10の整数を表す。]
【化6】
[一般式(5)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。]
【化7】
【化8】
【請求項7】
前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(2)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合アルブミン。
【化9】
[構造(2)中、Rは、下記一般式(4)、下記一般式(5)又は下記化学式(1)、下記化学式(2)のいずれかを表す。]
【化10】
[一般式(4)中、nは1~10の整数を表す。]
【化11】
[一般式(5)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。]
【化12】
【化13】
【請求項8】
前記架橋剤を介した共有結合が、チオール基導入剤に由来する構造を更に含み、
前記チオール基導入剤が、下記化学式(3)、下記一般式(6)、又は下記一般式(7)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項5又は6に記載のポリオキサゾリン結合アルブミン。
【化14】
【化15】
[一般式(6)中、nは1~10の整数を表す。]
【化16】
[一般式(7)中、RはOH又はClを表し、n、mは、1~10の整数を表す。]
【請求項9】
前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(3)又は構造(4)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合アルブミン。
【化17】
【化18】
[構造(3)、構造(4)中、mは1~10の整数を表す。]
【請求項10】
前記ポリオキサゾリンは、重量平均分子量が500~100,000ダルトンである、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合アルブミン。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合アルブミンを含むことを特徴とする、人工血漿増量剤。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合アルブミンを含むことを特徴とする、出血ショックの蘇生液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキサゾリン結合アルブミン、人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液に関する。
【背景技術】
【0002】
血清アルブミンは、血漿タンパク質の約60%を占める単純タンパク質であり、血流中では膠質浸透圧の維持や、各種内因性物質(代謝産物やホルモン等)・外因性物質(薬物等)の貯蔵運搬という役割を担っている。献血液(血漿分画)から分離精製されたアルブミンは、製剤化され、臨床で広く用いられている。アルブミン製剤を投与する目的は、膠質浸透圧を維持し、循環血液量(循環血漿量)を確保することである。具体的には、出血、毛細血管の浸透性の増加、肝臓のアルブミン合成低下、腎臓や腸からの排泄過剰、代謝の亢進、術中輸液による希釈等によって低アルブミン血症となった場合、アルブミン製剤が投与される。アルブミン製剤には、等張アルブミン製剤と高張アルブミン製剤の2種類がある。等張アルブミン製剤は、外傷による緊急出血性ショック時の他、敗血症、人工心肺を使用する心臓手術、循環動態が不安定な体外循環実施時、重症熱傷、妊娠高血圧症候群等の病態に用いられる。高張アルブミン製剤は、膠質浸透圧を上昇させ、血管内に水を引き込むことができるので、出血性ショック時の他、肝硬変に伴う難治性の腹水、難治性の浮腫、肺水腫を伴うネフローゼ症候群等の病態に用いられる。アルブミン製剤は、加熱によるウイルス不活化が可能であり、ウイルス感染のリスクは無い。しかしながら、日本におけるアルブミン製剤の自給率は64%(2018年)と低く、血液法の基本理念である「国内自給」は達成されていない。少子高齢化が進行し、輸血の必要な高齢者数が増え、血液提供者(ドナー)数(若年層)が減少すると、自給率が更に低下する懸念もある。
【0003】
アルブミン製剤の代替物、即ち、人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液としては、1970年代から多糖を用いた製剤が開発され、現在では低分子デキストラン製剤やヒドロキシエチルデンプン(HES)製剤が実用化されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかしながら、HES製剤を投与した場合、血液凝固障害、腎機能障害、ショック、アミラーゼ上昇等の副作用を起こす場合がある。このような背景から、現在、新しい人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液の開発に期待が寄せられている。
【0004】
一方、日本は犬猫飼育頭数1813万頭を超えるペット大国であり、その数は15歳未満の子供の人口(1511万人)を遥かに上回る。また、ペットの高齢化も進み、動物医療に対する需要も年々高まり続けている。しかしながら、輸血治療については、そもそも動物用血液バンクが存在しないため、充分な体制が整っていないのが現状である。当然、血漿分画製剤としての動物用アルブミン製剤(例えば、イヌ血液から分離精製されたイヌ血清アルブミン製剤や、ネコ血液から分離精製されたネコ血清アルミン製剤)も存在しない。低アルブミン血症になった動物の治療には、その動物の血漿を入手し輸液する方法があるが、安定して確保するのは難しい。仕方なくHES製剤を使用するものの、上述の副作用を起こしたり、血中滞留時間が短いという欠点もある。このような背景から、現在、より安全で長い血中滞留性を有する動物用人工血漿増量剤の開発に大きな期待が寄せられている。
【0005】
ポリエチレングリコール(PEG)は、生体適合性に優れた水溶性の合成高分子である。異種タンパク質であっても、その分子表面をPEGで被覆すれば、免疫学的ステルス性が付与される。しかしながら、PEG結合アスパラギナーゼ、PEG結合ウリカーゼによる治療を受けた患者の体内で、PEGに対する血清抗体が産生されることが報告されている。抗PEG抗体が存在すると、投与されたPEG結合製剤は、速やかに体外へ排出されてしまう(例えば、非特許文献1、2参照)。更に、PEG結合製剤による治療を受けたことがない患者も、25%以上の割合で抗PEG抗体を保有しているという報告がある(例えば、非特許文献3、4)。これは、市場に出回っている食品、化粧品等の様々な製品にPEGが使用されていることが原因と考えられる。また、PEG結合ヘモグロビンを繰り返し投与すると、細胞の空胞化が観測されることも明らかにされている(例えば、非特許文献5)。斯かる状況の下、PEGに置き換わる生体適合性を有する新しい水溶性高分子の開発に注目が集まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06-133791号公報
【特許文献2】特表2007-525588号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.K.Armstrongら,Cancer,2007,110,103-111.
【非特許文献2】M.R.Shermanら,Adv.Drug Delivery Rev.,2008,6,59-68.
【非特許文献3】R.M.Legerら,Transfusion,2001,41,29S.
【非特許文献4】C.Lubichら,Pharm.Res.,2016,33,2239-2249.
【非特許文献5】C.Conoverら,Artif.Cells,Blood Subs.,Immob.Biotechnol.,1996,24,599-611.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒト用及び動物用の人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液として、容易に入手可能な異種アルブミンからなる製剤を安全に使用することができれば、一般医療はもとより、動物医療にも大きな貢献をもたらすものと考えられる。その一つの方法は、異種アルブミンの表面にPEGを結合して、免疫学的ステルス性を付与することであるが、PEG抗体の産生が危惧される。従って、PEGの代わりに、生体適合性が高く(例えば、腎排泄が無く、腎機能障害や抗原抗体反応等の副作用が無く)、且つ調製(合成)が容易な水溶性高分子を結合したアルブミンからなる人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液の開発が強く望まれている。
【0009】
本発明は、生体適合性が高く、且つ調製(合成)が容易な水溶性高分子を結合したアルブミン、並びに、それを有効成分とする人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、安全性・有効性に優れた人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液の開発に鋭意研究を重ねた結果、水溶性高分子であるポリオキサゾリンをアルブミンの表面に共有結合したポリオキサゾリン結合アルブミンが、異種動物に投与した場合も、免疫学的に不活性な人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液として作用し、上記目的を達成し得ることを見出した。
【0011】
前記ポリオキサゾリンは、生体適合性が高く、且つ非免疫原性の疑似ポリペプチド構造からなる非イオン性の(電荷を持たない)水溶性高分子である。また、PEGの好ましい特性を多く示しながら、その欠点のいくつかを回避できる。ポリオキサゾリンの特筆すべき特徴を列挙すると次の通りである(カッコ内はPEGの欠点)。(I)オキサゾリンの開環重合により容易に合成でき、様々な側鎖置換誘導体の調製も容易(PEGは重合が困難で、側鎖がない)、(II)過酸化物を生成しない(PEGは過酸化物を生成する)、(III)低粘度(PEGは高濃度で高粘度)、(IV)室温で安定(PEGは低温で安定であるが、室温では不安定)、(V)体内で分解し容易に除去される(PEGは蓄積する可能性あり)。本発明者らは、アルブミンを修飾する化合物として、ポリオキサゾリンが、PEGの代替材料になり得ることを見出した。
【0012】
即ち、本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンは、コアとしてのアルブミンと、前記アルブミンに架橋剤を介して共有結合されたシェルとしてのポリオキサゾリンと、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンにおいては、前記アルブミンにおける前記架橋剤との結合部位が、リシン、タンパク質末端の1級アミン、又はシステインであることが望ましい。
【0014】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンにおいては、前記ポリオキサゾリンにおける前記架橋剤との結合部位が、下記一般式(1)で表されるポリオキサゾリンの末端ヒドロキシル基又はアミノ基であることが望ましい。
【化1】
[一般式(1)中、Rは炭素数1~8の炭化水素基を表し、Rは、ヒドロキシル基、アミノ基、又は-NH-(CH-OHを表し、nは反復単量体単位の数を表す。]
【0015】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンにおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(1)を含むことが望ましい。
【化2】
【0016】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンにおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、マレイミド基導入剤に由来する構造を含むことが望ましい。
【0017】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンにおいては、前記マレイミド基導入剤が、下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが望ましい。
【化3】
【化4】
[一般式(2)中、Rは水素原子又はSO Naを表し、Rは下記一般式(4)、下記一般式(5)又は下記化学式(1)、下記化学式(2)のいずれかを表す。また、一般式(3)中、Rは下記一般式(4)を表し、RはOH又はClを表す。]
【化5】
[一般式(4)中、nは1~10の整数を表す。]
【化6】
[一般式(5)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。]
【化7】
【化8】
【0018】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンにおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(2)を含むことが望ましい。
【化9】
[構造(2)中、Rは、下記一般式(4)、下記一般式(5)又は下記化学式(1)、下記化学式(2)のいずれかを表す。]
【化10】
[一般式(4)中、nは1~10の整数を表す。]
【化11】
[一般式(5)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。]
【化12】
【化13】
【0019】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンにおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、チオール基導入剤に由来する構造を更に含み、前記チオール基導入剤が、下記化学式(3)、下記一般式(6)、又は下記一般式(7)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物であることが望ましい。
【化14】
【化15】
[一般式(6)中、nは1~10の整数を表す。]
【化16】
[一般式(7)中、RはOH又はClを表し、n、mは、1~10の整数を表す。]
【0020】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(3)又は構造(4)を含むことが望ましい。
【化17】
【化18】
[構造(3)、(4)中、mは1~10の整数を表す。]
【0021】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンにおいて、前記ポリオキサゾリンは、重量平均分子量が500~100,000ダルトンであることが望ましい。
【0022】
また、本発明の人工血漿増量剤は、前記ポリオキサゾリン結合アルブミンを含むことを特徴とする。
【0023】
また、本発明の出血ショックの蘇生液は、前記ポリオキサゾリン結合アルブミンを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、生体適合性が高く、且つ調製(合成)が容易である、新規なポリオキサゾリン結合アルブミン、人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンの一例を示す図である。
図2】ブタアルブミン(PSA)投与群、ポリエチレングリコール結合ブタアルブミン(PEG(5k)-eSM-PSA)投与群、及びポリオキサゾリン結合ブタアルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)投与群、の抗PSA IgM抗体の産生量を示すグラフである。
図3】ポリオキサゾリン結合ブタアルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)を混合した血液中の、赤血球(RBC)数(図3(A))、白血球(WBC)数(図3(B))、及び血小板(PLT)数(図3(C))を示すグラフである。
図4】50%脱血後、ポリオキサゾリン結合ブタアルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)投与群、及びヒドロキシエチルスターチ(HES、ボルベン輸液)投与群、の平均動脈血圧(MAP)(図4(A))、及び心拍数(HR)(図4(B))を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、必要に応じて図面を参照して、具体的に例示説明する。
【0027】
<ポリオキサゾリン結合アルブミン>
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、少なくともコアとしてのアルブミンと、シェルとしてのポリオキサゾリンとを有し、さらに必要に応じて、その他の部位を有する。前記アルブミンと前記ポリオキサゾリンとは、架橋剤を介して共有結合している。
【0028】
例えば、図1に示すように、本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミン100は、コアとしてのアルブミン10と、シェルとしての6個のポリオキサゾリン20とを有していてよい。図1において、アルブミン10とポリオキサゾリン20とは、架橋剤を介して共有結合されている。
【0029】
[アルブミン]
前記アルブミンは、単純タンパク質であり、分子量が約66500ダルトンである。
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、アルブミンに架橋剤を介してポリオキサゾリンが結合していればよい。
【0030】
前記アルブミンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ヒトを含む脊椎動物由来の血清から精製したもの等を使用できる。前記アルブミンとしては、ヒトアルブミン、ブタアルブミン、ウシアルブミン、ウマアルブミン、イヌアルブミン、ネコアルブミン、組換えアルブミンからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ブタアルブミン、ウシアルブミンが、原料確保の点で好ましい。また、SPF(特定病原体フリー)ブタ由来アルブミンが、安全性の観点から、特に好ましい。また、前記組換えアルブミンは、タンパク質合成(培養)により容易に製造することができる。
【0031】
-ヒトアルブミン-
前記ヒトアルブミンとしては、ヒト由来の血清から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
-ブタアルブミン-
前記ブタアルブミンとしては、ブタ由来の血清から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、SPFブタ由来アルブミンとしては、SPFブタ由来の血清から精製したもの等が挙げられる。
【0033】
-ウシアルブミン-
前記ウシアルブミンとしては、ウシ由来の血清から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
-ウマアルブミン-
前記ウマアルブミンとしては、ウマ由来の血清から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0035】
-イヌアルブミン-
前記イヌアルブミンとしては、イヌ由来の血清から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
-ネコアルブミン-
前記ネコアルブミンとしては、ネコ由来の血清から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる
【0037】
-組換えアルブミン-
前記組換えアルブミンとしては、通常の遺伝子組換え操作、培養操作等により産生したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
[架橋剤]
前記架橋剤としては、例えば、マレイミド基導入剤を含む架橋剤、チオール基導入剤を含む架橋剤等が挙げられ、具体的には、マレイミド基導入剤、チオール基導入剤等が挙げられる。前記架橋剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(マレイミド基導入剤)
前記マレイミド基導入剤としては、アルブミン又はポリオキサゾリンにマレイミド基を導入可能な試薬である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、マレイミド基を有する化合物が好ましく、反応効率の観点から、下記一般式(2)等の、一方の末端がスクシンイミジル基であり他方の末端がマレイミド基である二官能性の化合物、及び下記一般式(3)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物が好ましい。
【0040】
【化19】
【化20】
【0041】
一般式(2)中、Rは水素原子又はSO Naのいずれかを表し、Rは下記一般式(4)、下記一般式(5)又は下記化学式(1)、下記化学式(2)のいずれかを表す。
また、一般式(3)中、Rは下記一般式(4)を表し、RはOH又はClを表す。
【0042】
【化21】
一般式(4)中、nは1~10の整数を表す。
【0043】
【化22】
一般式(5)中、nは2、4、6、8、10又は12の整数を表す。
【0044】
【化23】
【化24】
【0045】
がOHである上記一般式(3)で表される化合物を用いてマレイミド基を導入する場合は、縮合剤と共に用いて、アルブミン又はポリオキサゾリンのNH末端又はOH末端にマレイミド基を導入することが好ましい。縮合剤の例としては、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等が好ましい。また、RがOHである上記一般式(3)で表される化合物は、例えば、塩化チオニル、塩化オキサリル等の化合物と反応させて、RのOHをClに変換してから用いてもよい。
【0046】
上記マレイミド基導入剤としては、アルブミンのリシン残基のNH基、タンパク質末端の1級アミンのNH基、及びポリオキサゾリンの末端NH基へのマレイミド基の導入には、上記一般式(2)又は上記一般式(3)で表される化合物が好ましく、ポリオキサゾリンの末端OH基へのマレイミド基の導入には上記一般式(3)で表される化合物が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
例えば、前記マレイミド基導入剤におけるスクシンイミジル基と、アルブミンにおけるリシン残基のアミノ基(NH基)やタンパク質末端のアミノ基(NH基)とを反応させることで、リシン残基のアミノ基(-NH)やタンパク質末端のアミノ基(NH基)にマレイミド基を導入することができる。
【0048】
前記マレイミド基を導入するための方法としては、例えば、アルブミンとマレイミド基導入剤を0℃~30℃で0.5時間~10時間攪拌すること、等が挙げられる。
【0049】
(チオール基導入剤)
前記チオール基導入剤としては、アルブミン又はポリオキサゾリンにチオール基を導入可能な試薬である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。反応効率の観点から、下記化学式(3)(2-イミノチオラン塩酸塩)、下記一般式(6)又は下記一般式(7)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物が好ましい。
【0050】
【化25】
【0051】
【化26】
一般式(6)中、nは1~10の整数を表し、架橋反応のし易さの観点から、好ましくは2~5、更に好ましくは2~3、特に好ましくはn=2である。
【0052】
【化27】
一般式(7)中、RはOH又はClを表し、n、mは、1~10の整数を表す。それぞれのRは同じであってもよいし異なっていてもよい。RはOHであることが好ましく、2つのRが共にOHであることがより好ましい。n、mは同じであってもよいし異なっていてもよい。n、mは、架橋反応のし易さの観点から、好ましくは2~5、更に好ましくは2~3、特に好ましくはn=m=2である。
【0053】
がOHである上記一般式(7)で表される化合物を用いてチオール基を導入する場合は、縮合剤と共に用いて、アルブミン又はポリオキサゾリンのNH末端又はOH末端にチオール基を導入することが好ましい。縮合剤の例としては、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等が好ましい。また、RがOHである上記一般式(7)で表される化合物は、例えば、塩化チオニル、塩化オキサリル等の化合物と反応させて、RのOHをClに変換してから用いてもよい。
【0054】
上記チオール基導入剤としては、アルブミンのリシン残基のNH基、タンパク質末端の1級アミンのNH基、及びポリオキサゾリンの末端NH基へのチオール基の導入には、上記化学式(3)、上記一般式(6)又は上記一般式(7)で表される化合物が好ましく、ポリオキサゾリンの末端OH基へのチオール基の導入には、上記一般式(7)で表される化合物が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
[ポリオキサゾリン]
前記ポリオキサゾリンは、生体適合性が高く、且つ非免疫原性の疑似ポリペプチド構造からなる非イオン性の水溶性高分子である。ポリオキサゾリンは、大量合成が可能で、様々な官能基を導入でき、動物に安全に用いることができる。ポリオキサゾリンは、PEGが持つ優れた性質を多く示しながら、その欠点のいくつかを回避できる。更に、ポリオキサゾリンは、体内の組織に蓄積することなく、腎臓から排出される。
上記ポリオキサゾリンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
前記ポリオキサゾリンとしては、下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【化28】
一般式(1)中、Rは炭素数1~8の炭化水素基を表し、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である。Rは、ヒドロキシル基、アミノ基、又は-NH-(CH-OHを表す。nは反復単量体単位の数を表す。
ここで、前記ポリオキサゾリンにおける前記架橋剤との結合部位は、上記一般式(1)で表されるポリオキサゾリンの末端ヒドロキシル基又はアミノ基であることが望ましい。
前記ポリオキサゾリンは、ホモ重合体であってもよいし、ヘテロ重合体であってもよい。
【0057】
前記ポリオキサゾリンの重量平均分子量としては、500~100,000ダルトンが好ましい。
【0058】
<ポリオキサゾリン結合アルブミンの製造方法>
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンの製造方法としては、前記アルブミン由来のアルブミン誘導体、及び前記ポリオキサゾリン由来のポリオキサゾリン誘導体を少なくとも用いて反応させる方法等が挙げられる。
【0059】
(アルブミン誘導体)
前記アルブミン誘導体は、マレイミド基導入アルブミン、チオール基導入アルブミン、非修飾アルブミンからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0060】
中でも、ポリオキサゾリン誘導体として末端チオール基ポリオキサゾリンを用いる場合、アルブミン誘導体はマレイミド基導入アルブミンを用いることが望ましい。
前記マレイミド基導入アルブミンは、アルブミンのリシン残基(NH基)やタンパク質末端のアミノ基(NH基)に上記マレイミド基導入剤(例えば、前記一般式(2)で表される化合物)が結合して得られたマレイミド基導入アルブミンであることが望ましい。前記マレイミド基導入アルブミンは、例えば、アルブミン及びマレイミド基導入剤を、0℃~30℃で0.5時間~10時間攪拌する方法等により得ることができる。
【0061】
また、ポリオキサゾリン誘導体として末端マレイミド基ポリオキサゾリンを用いる場合、アルブミン誘導体はチオール基導入アルブミン又は非修飾アルブミンを用いることが望ましい。
前記チオール基導入アルブミンは、アルブミンのリシン残基のアミノ基(NH基)やタンパク質末端のアミノ基(NH基)に上記チオール基導入剤(例えば、2-イミノチオラン塩酸塩)が結合して得られたチオール基導入アルブミンであることが望ましい。前記チオール基導入アルブミンは、例えば、アルブミン及び2-イミノチオラン塩酸塩等のチオール基導入剤を、0℃~30℃で0.5時間~10時間攪拌する方法等により得ることができる。
非修飾アルブミンとしては、還元剤で処理したアルブミンを用いてもよい。
【0062】
(ポリオキサゾリン誘導体)
前記ポリオキサゾリン誘導体は、末端チオール基ポリオキサゾリン、末端マレイミド基ポリオキサゾリンからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、下記一般式(8)~(13)で表される化合物から選択される少なくとも1種であることがより望ましい。
中でも、アルブミン誘導体がマレイミド基導入アルブミンである場合、末端チオール基ポリオキサゾリンが望ましく、アルブミン誘導体がチオール基導入アルブミン又は非修飾アルブミンである場合、末端マレイミド基ポリオキサゾリンが望ましい。
前記ポリオキサゾリン誘導体は、例えば、化合物(例えば、末端にチオール基を有する化合物、末端にマレイミド基を有する化合物等)に、ポリオキサゾリンを導入する際の架橋剤として用いることができる。
【0063】
-末端チオール基ポリオキサゾリン-
前記末端チオール基ポリオキサゾリンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(8)~(10)で表される化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記末端チオール基ポリオキサゾリンの重量平均分子量としては、500~100,000ダルトンが好ましい。
【0064】
【化29】
一般式(8)中、nは反復単量体単位の数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【0065】
【化30】
一般式(9)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【0066】
【化31】
一般式(10)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【0067】
前記末端チオール基ポリオキサゾリン中の繰り返し単位の各構造は、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0068】
前記末端チオール基ポリオキサゾリンは、末端にマレイミド基を有する化合物(例えば、マレイミド基修飾をしたタンパク質等)にポリオキサゾリンを付加する架橋剤として用いることができる。
【0069】
前記末端チオール基ポリオキサゾリンは、例えば、ポリオキサゾリンと、上記一般式(7)の化合物等のチオール基導入剤とを反応(例えば、25℃で1時間~96時間撹拌する反応等)させることにより得ることができる。混合比としては、ポリオキサゾリン1モルに対して、上記一般式(7)の化合物等のチオール基導入剤2~20モルの割合としてよい。反応後に、還元剤で処理をしたり、遠心分離、フィルターろ過、ゲルろ過等による精製を行ったりしてもよい。
得られる末端チオール基ポリオキサゾリンは、H-NMR等により構造を解析することができる。
【0070】
-末端マレイミド基ポリオキサゾリン-
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(11)~(13)で表される化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンの重量平均分子量としては、500~100,000ダルトンが好ましい。
【0071】
【化32】
一般式(11)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【0072】
【化33】
一般式(12)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【0073】
【化34】
一般式(13)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【0074】
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリン中の繰り返し単位の各構造は、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0075】
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンは、末端にSH基を有する化合物(例えば、タンパク質中のシステイン残基、チオール基修飾をしたタンパク質等)にポリオキサゾリンを付加する架橋剤として用いることができる。
【0076】
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンは、例えば、ポリオキサゾリンと、上記一般式(3)の化合物等のマレイミド基導入剤とを反応(例えば、RがClの場合はそのまま、OHの場合は縮合剤を入れて25℃で1時間~96時間撹拌する反応等)させることにより得ることができる。混合比としては、ポリオキサゾリン1モルに対して、上記一般式(3)の化合物等のマレイミド基導入剤2~20モルの割合としてよい。反応後に、遠心分離、フィルターろ過、ゲルろ過等により精製してもよい。
得られる末端マレイミド基ポリオキサゾリンは、H-NMR等により構造を解析することができる。
【0077】
前記一般式(8)~(13)においては、いずれもRがメチル基であるものは、PEGよりも高い水溶性を示す傾向にあり、Rがプロピル基であるものは、加熱により水への溶解度が下がる傾向にある。そのため、いずれも、Rがエチル基であるものが、親疎水性のバランスが取れているという点で好ましい。
【0078】
前記一般式(8)~(13)においては、いずれも、mが、化学的な安定性が高く、最小の2であるものが好ましい。
【0079】
前記ポリオキサゾリン結合アルブミンの製造方法としては、より具体的には、例えば以下の(a)~(c)の方法等が挙げられる。
【0080】
-ポリオキサゾリン結合アルブミンの製造例(a)-
前記末端チオール基ポリオキサゾリンと、前記マレイミド基導入アルブミンとを反応させることにより、前記末端チオール基ポリオキサゾリンにおけるチオール基が、マレイミド基導入アルブミンのマレイミド基と共有結合を形成する。
前記ポリオキサゾリンを導入するための方法としては、例えば、マレイミド基導入アルブミンと末端チオール基ポリオキサゾリンを0℃~30℃で1時間~72時間攪拌すること、等が挙げられる。
【0081】
-ポリオキサゾリン結合アルブミンの製造例(b)-
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンと、前記チオール基導入アルブミンとを反応させることにより、前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンにおけるマレイミド基が、チオール基導入アルブミンのチオール基と共有結合を形成する。
前記ポリオキサゾリンを導入するための方法としては、例えば、チオール基導入アルブミンと末端マレイミド基ポリオキサゾリンを0℃~30℃で1時間~72時間攪拌すること、等が挙げられる。
【0082】
-ポリオキサゾリン結合アルブミンの製造例(c)-
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンと、前記非修飾アルブミンとを反応させることにより、前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンにおけるマレイミド基が、非修飾アルブミンのシステインと共有結合を形成する。
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンを導入するための方法としては、例えば、非修飾アルブミンと末端マレイミド基ポリオキサゾリンを0℃~30℃で1時間~72時間攪拌すること、等が挙げられる。
【0083】
<ポリオキサゾリン結合アルブミンの特徴>
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、前記アルブミンにおける前記架橋剤との結合部位がリシンやタンパク質末端の1級アミン、又はシステインであることが望ましい。
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、前記ポリオキサゾリンにおける前記架橋剤との結合部位が、上記一般式(1)で表されるポリオキサゾリンの末端ヒドロキシル基又はアミノ基であることが望ましい。
前記マレイミド基導入アルブミンにおける前記末端チオール基ポリオキサゾリンとの結合部位は、導入したマレイミド基であることが望ましい。前記チオール基導入アルブミンにおける前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンとの結合部位は、導入したチオール基であることが望ましい。前記非修飾アルブミンにおける前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンとの結合部位は、システイン残基であることが望ましい。
【0084】
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、前記架橋剤を介した結合が、マレイミド基導入剤及び/又はチオール基導入剤に由来する構造を含むことが好ましく、マレイミド基導入剤とチオール基導入剤とのみに由来する構造であることがより好ましい。
上記架橋剤を介した結合は、以下の構造(1):
【化35】
を含むことが好ましく、以下の構造(2)、構造(3)又は構造(4):
【化36】
[構造(2)中、Rは、上述の一般式(4)、一般式(5)又は上述の化学式(1)、化学式(2)のいずれかを表す。]
【化37】
【化38】
[構造(3)、(4)中、mは1~10の整数を表す。]
の構造を有することがより好ましく、以下の構造(5)又は構造(6):
【化39】
【化40】
[構造(5)、構造(6)中、Rは、上述の一般式(4)、一般式(5)又は上述の化学式(1)、化学式(2)のいずれかを表し、mは1~10の整数を表す。]
の構造を有することが更に好ましい。
【0085】
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、合成等が容易であるにもかかわらず、三次元構造は明確である。ポリオキサゾリン結合アルブミンの平均粒径は、8~30nmが好ましく、10~20nmがより好ましい。
【0086】
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンのコアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数としては、1~10本が好ましい。
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンにおける、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数の測定方法としては、ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定する方法が挙げられる。
【0087】
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、非修飾アルブミンに比べ、膠質浸透圧が高く、生体に投与した場合、同濃度の非修飾アルブミンよりも循環血液量の維持に効果を発揮する。
【0088】
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、コアアルブミンの周囲が、ポリオキサゾリンで覆われているため、異種動物に投与した場合も免疫原性を発現しない。
【0089】
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、血液と混合した場合でも沈殿及び凝集は惹起せず、血液適合性が高い。
【0090】
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、生体内に投与した場合、腎排泄、血管内皮細胞からの漏出がないため、非修飾アルブミンに比べて血中滞留時間が長い。また、ポリオキサゾリンは、水溶性が高く、代謝に優れる。
【0091】
本実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンは、出血ショック状態の生体に投与した場合、循環血液量を回復させ、血圧の改善をもたらす。
【0092】
以上より、本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンは、生体適合性(安全性)と有効性を併せ持った類例のない人工血漿増量剤及び出血ショックの蘇生液として機能し得る。
【0093】
<人工血漿増量剤>
本実施形態の人工血漿増量剤は、上記実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンを含む。なお、前記人工血漿増量剤とは、膠質浸透圧を有する物質であり、生体に投与した場合には、その動物が持つアルブミンの代替物として機能するものである。
上記人工血漿増量剤は、例えば、ヒト、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル、ウサギ等の脊椎動物のアルブミンの代替物として用いることができる。
【0094】
<出血ショックの蘇生液>
本実施形態の出血ショックの蘇生液は、上記実施形態のポリオキサゾリン結合アルブミンを含む。なお、前記出血ショックの蘇生液とは、膠質浸透圧を有する物質であり、生体に投与した場合には、その動物が持つアルブミンの代替物として機能するものである。
上記出血ショックの蘇生液は、例えば、ヒト、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル、ウサギ等の脊椎動物のアルブミンの代替物として用いることができる。
【実施例0095】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0096】
(実施例1)
-調製例1:マレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-M)の調製-
ブタアルブミン(PSA)にマレイミド基を導入するために、以下の操作を行った。
サンプル瓶(8mL容量)にN-スクシンイミジル 3-マレイミドプロピオネート(N-succinimidyl 3-Maleimidopropionate)(SMP、富士フイルム和光純薬社)119.8mgを入れ、ジメチルスルホキシド3mLで溶解し、0.15MのSMP溶液を調製した。次に、1口ナスフラスコ(100mL容量)にブタアルブミン(1mM)30mLを入れ、SMP溶液を3mL(N-スクシンイミジル 3-マレイミドプロピオネート/アルブミン(SMP/PSA)=15(mol/mol))を加え、25℃で1時間撹拌した。フィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過した後、その溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Sephadex G-25 Superfine)にかけ、過剰のN-スクシンイミジル 3-マレイミドプロピオネートを除去した。
得られた溶液にPBSを加え、90mLに定容した。
【0097】
-調製例2:末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)の調製-
末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)を合成するために、以下の操作を行った。
【化41】
化学反応式(1)中、nは反復単量体単位の数を表す。
3口ナスフラスコ(300mL容量)に、末端がヒドロキシル基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-OH、Sigma-ALDRICH社)5g、3,3’-ジチオジプロピオン酸(3,3’-Dithiodipropionic Acid)(DTDPA、東京化成工業社)1.26g、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(N,N’-Dicyclohexylcarbodiimide)(DCC、東京化成工業社)1.26g及び4-ジメチルアミノピリジン(4-Dimethylaminopyridine)(DMAP、東京化成工業社)160mgを入れ、窒素通気を行った後、テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社)60mLを加え、25℃で72時間撹拌した。反応液の溶媒をロータリーエバポレーター(EYELA社)で留去し、真空ポンプを用いて白色の固体を乾燥した。そこに純水50mLを加え、遠心分離で沈殿物を除去した。5M NaOH溶液(富士フイルム和光純薬社)を用いてpHを7に調整後、ジチオトレイトール(DTT、富士フイルム和光純薬社)1.85gを加え、窒素を5分間通気した後、25℃で2時間撹拌した(ジチオトレイトール/ポリオキサゾリン(DTT/POx(5k)-SH)=12(mol/mol))。溶液をフィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過し、透析膜(分画分子量3500Da、Spectrum Laboratories社)を用いて透析を行い、未反応物を除去した。
得られた水溶液を液体窒素で凍結した後、真空下で凍結乾燥し、H NMRによって構造を同定した。チオール基とジスルフィド結合の交換反応を利用して、得られたポリオキサゾリン溶液中のチオール濃度を定量した。4,4’-ジチオピリジン(4,4’-Dithiopyridine)(4,4’-DTP)は、遊離チオール(SH)基と反応し、4-チオピリジノン(4-Thiopyridinone)(4-TP)を生じるので、チオール基導入アルブミンに4,4’-ジチオピリジン(4,4’-DTP)を加え、生成した4-チオピリジノン(4-TP)の量を測ることにより、チオール基の量が定量できる。得られた濃度から、末端チオール基ポリオキサゾリン(POx(5k)-eSH)のチオール基の導入率を算出したところ、約96%であった。
【0098】
-調製例3:ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)の調製-
ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)を結合したポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)を調製するために、以下の操作を行った。
1口フラスコ(300mL容量)に調製例1で得たマレイミド基導入ブタアルブミン溶液(PSA-M、333μM)90mLを入れ、調製例2で得た末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)のPBS溶液(3.75mM)60mLを加え、25℃で24時間撹拌した(末端チオール基ポリオキサゾリン/マレイミド基導入アルブミン(POx(5k)-eSH/PSA-M)=7.5(mol/mol))。
反応液を循環型限外ろ過(Merck社、Pelicon XL casette、限外分子量100kDa)にかけ、未反応のポリオキサゾリンを除去した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/PSAであった。
【0099】
(実施例2)
-調製例1:末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-aSH)の調製-
末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-aSH)を合成するために、以下の操作を行った。
【化42】
化学反応式(2)中、nは反復単量体単位の数を表す。
2口ナスフラスコ(100mL容量)に、末端がアミノ基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-NH、Sigma-ALDRICH社)200mg、及びN-スクシンイミジル 3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)(N-succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate)(SPDP、東京化成工業社)124mgを入れ、窒素通気を行った(N-スクシンイミジル 3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート/ポリオキサゾリン(SPDP/POx(5k)-NH)=10(mol/mol))。
そこに、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社)20mLを加え、25℃で15時間撹拌した。反応液の溶媒をロータリーエバポレーター(EYELA社)で留去し、純水12mL、ジチオトレイトール(DTT、富士フイルム和光純薬社)124mgを加え、25℃で2時間撹拌した(ジチオトレイトール/ポリオキサゾリン(DTT/POx(5k)-NH)=20(mol/mol))。遠心分離で沈殿を除去後、上清をフィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過し、純水で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、PD-10)にかけ、未反応物を除去した。
得られた水溶液を液体窒素で凍結した後、真空下で凍結乾燥し、H NMRによって構造を同定した。チオール基とジスルフィド結合の交換反応を利用して、得られたポリオキサゾリン溶液中のチオール濃度を定量し、末端チオール基ポリオキサゾリン(POx(5k)-aSH)のチオール基の導入率を算出したところ、約95%であった。
【0100】
-調製例2:ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(POx(5k)-aSM-PSA)の調製-
ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)を結合したポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-aSM-PSA)を調製するために、以下の操作を行った。
1口フラスコ(30mL容量)に実施例1における調製例1で得たマレイミド基導入アルブミン溶液(PSA-M、333μM)9.0mLを入れ、実施例2における調製例1で得た末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-aSH)のPBS溶液(3.75mM)6.0mLを加え、25℃で24時間撹拌した(末端チオール基ポリオキサゾリン/マレイミド基導入アルブミン(POx(5k)-aSH/PSA-M)=7.5(mol/mol))。
反応液を循環型限外ろ過(Merck社、Pelicon XL casette、限外分子量100kDa)にかけ、未反応のポリオキサゾリンを除去した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/PSAであった。
【0101】
(実施例3)
-調製例1:末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eSH)の調製-
実施例1における調製例2で、末端がヒドロキシ基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-OH)の代わりに、末端がヒドロキシ基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-OH)を用いた以外は、実施例1における調製例2と同様な方法に従って、末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eSH)を調製した。チオール基とジスルフィド結合の交換反応を利用して、得られたポリオキサゾリン溶液中のチオール濃度を定量し、末端チオール基ポリオキサゾリン(POx(10k)-eSH)のチオール基の導入率を算出したところ、約95%であった。
【0102】
-調製例2:ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)結合アルブミン(POx(10k)-eSM-PSA)の調製-
実施例1における調製例3で、末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)の代わりに、実施例3における調製例1で得た末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eSH)を用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eSM-PSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/PSAであった。
【0103】
(実施例4)
-調製例1:マレイミド基導入ヒトアルブミン(HSA-M)の調製-
実施例1における調製例1で、ブタアルブミンの代わりに、ヒトアルブミンを用いた以外は、実施例1における調製例1と同様な方法に従って、マレイミド基導入ヒトアルブミン(HSA-M)を調製した。
【0104】
-調製例2:ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(POx(5k)-eSM-HSA)の調製-
実施例1における調製例3で、マレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-M)の代わりに、実施例4における調製例1で得たマレイミド基導入ヒトアルブミン(HSA-M)を用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-HSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/HSAであった。
【0105】
(実施例5)
-調製例1:ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)結合アルブミン(POx(10k)-eSM-HSA)の調製-
実施例1における調製例3で、末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)の代わりに、実施例3における調製例1で得た末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eSH)を用い、更にマレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-M)の代わりに、実施例4における調製例1で得たマレイミド基導入ヒトアルブミン(HSA-M)を用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eSM-HSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/HSAであった。
【0106】
(実施例6)
-調製例1:マレイミド基導入ウシアルブミン(BSA-M)の調製-
実施例1における調製例1で、ブタアルブミンの代わりに、ウシアルブミンを用いた以外は、実施例1における調製例1と同様な方法に従って、マレイミド基導入ウシアルブミン(BSA-M)を調製した。
【0107】
-調製例2:ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(POx(5k)-eSM-BSA)の調製-
実施例1における調製例3で、マレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-M)の代わりに、実施例6における調製例1で得たマレイミド基導入ウシアルブミン(BSA-M)を用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-BSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/BSAであった。
【0108】
(実施例7)
-調製例1:ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)結合アルブミン(POx(10k)-eSM-BSA)の調製-
実施例1における調製例3で、末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)の代わりに、実施例3における調製例1で得た末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eSH)を用い、更にマレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-M)の代わりに、実施例6における調製例1で得たマレイミド基導入ウシアルブミン(BSA-M)を用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eSM-BSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/BSAであった。
【0109】
(実施例8)
-調製例1:マレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-MC)の調製-
実施例1における調製例1で、N-スクシンイミジル 3-マレイミドプロピオネート(N-succinimidyl 3-Maleimidopropionate)(SMP、富士フイルム和光純薬社)の代わりにN-スクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(N-succinimidyl 4-(N-Maleimidomethyl)cyclohexanecarboxylate)(SMCC、富士フイルム和光純薬社)を用いた以外は、実施例1における調製例1と同様な方法に従って、マレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-MC)を調製した。
【0110】
-調製例2:ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(POx(5k)-eSMC-PSA)の調製-
実施例1における調製例3で、マレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-M)の代わりに、実施例8における調製例1で得たマレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-MC)を用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSMC-PSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/PSAであった。
【0111】
(実施例9)
-調製例1:ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)結合アルブミン(POx(10k)-eSMC-PSA)の調製-
実施例1における調製例3で、末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)の代わりに、実施例3における調製例1で得た末端チオール基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eSH)を用い、更にマレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-M)の代わりに、実施例8における調製例1で得たマレイミド基導入ブタアルブミン(PSA-MC)を用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eSMC-PSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/PSAであった。
【0112】
(実施例10)
-調製例1:チオール基導入ブタアルブミン(PSA-SH)の調製-
ブタアルブミンにチオール基を導入するために、以下の操作を行った。
マイクロチューブ(1.5mL容量)に2-イミノチオラン塩酸塩(2-IT、富士フイルム和光純薬社)13.8mgを入れ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)1mLで希釈し、0.1Mの2-イミノチオラン溶液を調製した。次に、1口ナスフラスコ(10mL容量)にブタアルブミン(1mM)1mLを入れ、2-イミノチオラン溶液400μL(2-イミノチオラン/アルブミン(2-IT/PSA)=40(mol/mol))を加え、25℃で3時間撹拌した。その溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Sephadex G-25 Superfine)にかけ、過剰の2-イミノチオラン(2IT)を除去した。
得られた溶液20mLを遠心濃縮器(Merck社、アミコンウルトラ-15、限外分子量10kDa)に入れ、遠心分離することにより、2.5mLまで濃縮した(0.4mM)。
【0113】
-調製例2:末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)の調製-
末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)を合成するために、以下の操作を行った。
【化43】
化学反応式(3)中、nは反復単量体単位の数を表す。
2口ナスフラスコ(50mL容量)に、末端がヒドロキシル基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-OH、Sigma-ALDRICH社)120mg、及び3-マレイミドプロピオン酸(3-maleimidopropionic acid)に塩化チオニルを反応させて調製した3-マレイミドプロパノイルクロリド(3-maleimidopropanoly chloride)(MPC)45mgを入れ、窒素通気を行った(3-マレイミドプロパノイルクロリド/ポリオキサゾリン(MPC/POx(5k)-OH)=10(mol/mol))。
そこに、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社)5mL、及びトリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社)66μLを加え、25℃で18時間撹拌した。反応液の溶媒をロータリーエバポレーター(EYELA社)で留去し、純水3mLを加えよく撹拌し、遠心分離で沈殿物を除去後、上清をフィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過し、純水で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Sephadex G-25 Superfine)を用いて精製した。
得られた水溶液を液体窒素で凍結した後、真空下で凍結乾燥し、H NMRによって構造を同定した。
【0114】
-調製例3:ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(POx(5k)-eMS-PSA)の調製-
ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)を結合したポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eMS-PSA)を調製するために、以下の操作を行った。
1口フラスコ(5mL容量)に調製例1で得たチオール基導入アルブミン溶液(PSA-SH、0.4mM)625μLを入れ、調製例2で得た末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)12.5mgを加え、25℃で14時間撹拌した(末端マレイミド基ポリオキサゾリン/チオール基導入アルブミン(POx(5k)-eM/PSA-SH)=10(mol/mol))。
反応液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Superdex 200 p.g.)にかけ、未反応のポリオキサゾリンを除去した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/PSAであった。
【0115】
(実施例11)
-調製例1:末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-aM)の調製-
末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-aM)を合成するために、以下の操作を行った。
【化44】
化学反応式(4)中、nは反復単量体単位の数を表す。
2口ナスフラスコ(50mL容量)に、末端がアミノ基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-NH、Sigma-ALDRICH社)50mg、及びN-スクシンイミジル 3-マレイミドプロピオネート(N-succinimidyl 3-maleimidopropionate)(SMP、富士フイルム和光純薬社)26.5mgを入れ、窒素通気を行った(N-スクシンイミジル 3-マレイミドプロピオネート/ポリオキサゾリン(SMP/POx(5k)-NH)=10(mol/mol))。
そこに、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社)5mLを加え、25℃で18時間撹拌した。反応液の溶媒をロータリーエバポレーター(EYELA社)で留去し、純水2mLを加えよく撹拌し、遠心分離で沈殿物を除去後、上清をフィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過し、純水で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Sephadex G-25 Superfine)にかけ、未反応のN-スクシンイミジル 3-マレイミドプロピオネート(SMP)を除去した。
得られた水溶液を液体窒素で凍結した後、真空下で凍結乾燥し、H NMRによって構造を同定した。
【0116】
-調製例2:ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(POx(5k)-aMS-PSA)の調製-
実施例10における調製例3で、末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)の代わりに、実施例11における調製例1で得た末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-aM)を用いた以外は、実施例10における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(POx(5k)-aMS-PSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/PSAであった。
【0117】
(実施例12)
-調製例1:末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eM)の調製-
実施例10における調製例2で、末端がヒドロキシ基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-OH)の代わりに、末端がヒドロキシ基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-OH)を用いた以外は、実施例10における調製例2と同様な方法に従って、末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eM)を調製した。
【0118】
-調製例2:ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)結合アルブミン(POx(10k)-eMS-PSA)の調製-
実施例10における調製例3で、末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)の代わりに、実施例12における調製例1で得た末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eM)を用いた以外は、実施例10における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eMS-PSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/PSAであった。
【0119】
(実施例13)
-調製例1:チオール基導入ヒトアルブミン(HSA-M)の調製-
実施例10における調製例1で、ブタアルブミンの代わりに、ヒトアルブミンを用いた以外は、実施例10における調製例1と同様な方法に従って、チオール基導入ヒトアルブミン(HSA-SH)を調製した。
【0120】
-調製例2:ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(POx(5k)-eMS-HSA)の調製-
実施例10における調製例3で、チオール基導入ブタアルブミン(PSA-SH)の代わりに、実施例13における調製例1で得たチオール基導入ヒトアルブミン(HSA-SH)を用いた以外は、実施例10における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eMS-HSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/HSAであった。
【0121】
(実施例14)
-調製例1:ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)結合アルブミン(POx(10k)-eMS-HSA)の調製-
実施例10における調製例3で、末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)の代わりに、実施例12における調製例1で得た末端マレイミド基ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、POx(10k)-eM)を用い、更にチオール基導入ブタアルブミン(PSA-SH)の代わりに、実施例13における調製例1で得たチオール基導入ヒトアルブミン(HSA-SH)を用いた以外は、実施例10における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eMS-HSA)を調製した。ポリオキサゾリン結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出したところ、約6本/HSAであった。
【0122】
実施例1~14の要旨を表1に示す。
【表1】
【0123】
表1に示すように、種々のアルブミン誘導体とポリオキサゾリン誘導体から、ポリオキサゾリン結合アルブミンを調製できることが分かる。
【0124】
(実施例15)
-動的光散乱(DLS)測定-
実施例1における調製例3で得たポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4)の動的光散乱(DLS)測定をゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子社、ELSZ-2000)を用いて行った。また、同様にして、非修飾ブタアルブミン(PSA)についても試験した。
非修飾ブタアルブミン(PSA)の平均粒径は8nmであった。ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)の平均粒径は13nmであった。ポリオキサゾリンがアルブミンに結合することで、分子サイズが増大することが分かった。
【0125】
(実施例16)
-膠質浸透圧測定-
実施例1における調製例3で得たポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4、[PSA]=5g/dL)の膠質浸透圧測定をコロイド浸透圧計(OSMOMAT 050、Gomotec社)を用いて行った。また、同様にして、実施例3における調製例2で得たポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eSM-PSA)及び非修飾ブタアルブミン(PSA)についても試験した。
非修飾ブタアルブミン(PSA、5g/dL)の膠質浸透圧は18mmHgであった。ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)の膠質浸透圧は36mmHgであった。ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eSM-PSA)の膠質浸透圧は62mmHgであった。ポリオキサゾリンがアルブミンに結合することで、膠質浸透圧が増大することが分かった。
【0126】
(実施例17)
-調製例1:ポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da)結合アルブミン(PEG(5k)-eSM-PSA)の調製-
ポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da)を結合したポリエチレングリコール結合アルブミン(PEG(5k)-eSM-PSA)を調製するために、以下の操作を行った。
1口フラスコ(5mL容量)に実施例1における調製例1で得たマレイミド基導入アルブミン溶液(PSA-M、333μM)1.7mLを入れ、末端チオール基ポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da、PEG(5k)-SH、日本油脂社)28mgを加え、25℃で24時間撹拌した(末端チオール基ポリエチレングリコール/マレイミド基導入アルブミン(PEG(5k)-SH/PSA-M)=10(mol/mol))。
反応液を循環型限外ろ過(Merck社、Pelicon XL casette、限外分子量100kDa)にかけ、未反応のポリエチレングリコールを除去した。ポリエチレングリコール結合アルブミンの乾燥重量を測定することにより、コアアルブミンに対するポリエチレングリコールの結合数を算出したところ、約8本/PSAであった。
【0127】
-ラットを用いた免疫原性試験-
Wister rat(雄性、7週令、約180g)の尾静脈からアルブミン(PSA)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4、[PSA]=5g/dL)、実施例1における調製例3で得たポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4、[PSA]=5g/dL)及び実施例17における調製例1で得たポリエチレングリコール結合アルブミン(PEG(5k)-eSM-PSA)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4、[PSA]=5g/dL)を投与した(200mg-PSA/kg-rat)。0、1、2、3、4、5、6、7、14、21、28日後に尾静脈から100μL採血し、遠心分離して得た上清を-80℃で保存した。28日後以降に、各上清を間接ELISA測定し、PSAに対するIgM抗体の産生量を定量した。
アルブミン(PSA)投与群では投与4日後をピークとして抗PSA IgM抗体の産生が観測された。ポリエチレングリコール結合アルブミン(PEG(5k)-eSM-PSA)投与群ではアルブミン(PSA)投与群と同程度の抗PSA IgM抗体の産生が観測された。これに対して、ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)投与群での抗PSA IgM抗体の産生は著しく低かった(図2参照)。ポリオキサゾリン結合が優れた免疫学的ステルス性を示すことが明らかとなった。
【0128】
(実施例18)
-血液適合性試験-
EDTA入り真空採血管を用いて、Wister rat(雄性、7週令、約230g、Charls river)から採血し、転倒攪拌によりEDTAとよく混和させた。得られたラットの血液と実施例1における調製例3で得たポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4、[PSA]=5g/dL)を、ポリオキサゾリン結合アルブミン溶液の体積比が0、10、20、40%となるように混合した(全量:600μL)。試料を37℃の恒温装置内に静置し、0(混合直後)、1、2、3、4、5、6時間後に50μLを分取して、多項目血球計数装置(pocH-100iV Diff、Sysmex社)を用いて赤血球(RBC)数、白血球(WBC)数、血小板(PLT)数を測定した(n=3)。
ポリオキサゾリン結合アルブミン溶液の混合比が10、20、40%のとき、各血球数はポリオキサゾリン結合アルブミン溶液を混合していない血液中の血球数(基準値)の90、80、60%となった(図3参照)。血球数は6時間後まで変化せず、ポリオキサゾリン結合アルブミンの血液適合性は高いことが明らかとなった。
【0129】
(実施例19)
-ラットにおける血中滞留性測定-
Sevoflurane(丸石製薬)(5.0% in air)で導入麻酔を行ったWister rat(雄性、7週令、約230g、Charls river)をSevoflurane(3.0~4.0% in air)吸入麻酔下で保温パッド(DC Temperature controller、ブレインサイエンス・イデア)上に仰臥位で固定した。右頸静脈にカテーテル(SP-31)を3cmほど挿入し、先が右心房へ入るようにした。カテーテルの逆側の末端は皮下を通して背中外皮上に固定した。Cy5.5で蛍光標識した実施例1における調製例3で得たポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4、[PSA]=5g/dL)を右頸静脈から投与(5%トップロード)した(投与量は、ラットの循環血液量(56mL/kg)の5%量(140mg/kg-rat)、蛍光標識体:非蛍光標識=1:9)。投与から3分後を0分とし、0、5、15、30分後、1、3、6、12、18、24時間後に右頸静脈から200μL採血し、遠心分離(6,000rpm、5分)で得た血清成分(100μL)を分取して、冷蔵・遮光保存した。血清成分20μLとTritonX-100のPB溶液12μL、PBS溶液28μLを混合し(血清成分:3倍希釈、TritonX-100:1%(w/v))、冷蔵・遮光下で一晩静置した。この溶液を3mmミクロ石英セル(最小試料容量:50μL)に入れ、蛍光分光光度計(JASCO FP-8300)を用いてCy5.5で蛍光標識したポリオキサゾリン結合アルブミンの蛍光スペクトルを測定した。0分に採血した血清の710nmの蛍光強度を100%とし、蛍光強度の減少度からポリオキサゾリン結合アルブミンの血中消失半減期(t1/2)を算出した。また、同様にして、実施例3における調製例2で得たポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eSM-PSA)及び非修飾ブタ血清アルブミン(PSA)についても試験した。
非修飾ブタ血清アルブミン(PSA)の血中消失半減期(t1/2)は7.3時間であった。ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)の血中消失半減期(t1/2)は15.3時間であった。ポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(10k)-eSM-PSA)の血中消失半減期(t1/2)は21.5時間であった。ポリオキサゾリンがアルブミンに結合することで、血中消失半減期(t1/2)が延長することが分かった。
【0130】
(実施例20)
-ラット50%出血性ショックモデルによる有効性評価-
Sevoflurane(丸石製薬)(5.0% in air)で導入麻酔を行ったWister rat(雄性、7週令、約230g、Charls river)をSevoflurane(3.0% in air)吸入麻酔下で保温パッド(DC Temperature controller、ブレインサイエンス・イデア)上に仰臥位で固定した。右頸動脈に血圧測定および脱血用にカテーテル(SP-31、内径:0.5mm、外径:0.8mm、夏目製作所)を中枢側に向かって挿入し、逆側の末端を血圧測定装置(PAS-101、スターメディカル)に接続した。また、右頸静脈に試料投与用に同カテーテルを挿入した。気管カニューレを行い、人工呼吸器を用いて呼吸管理を行った。動脈カテーテルより全血液量(56mL/kg)の50%を脱血することで(1mL/min)、出血性ショック状態を作成した。15分後に静脈カテーテルより、実施例1における調製例3で調製したポリオキサゾリン結合アルブミン(POx(5k)-eSM-PSA)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4、[PSA]=5g/dL)(n=6)及びヒドロキシエチルスターチ水溶液(大塚製薬株式会社、ボルベン輸液6%)(n=6)を投与(1mL/min)することで蘇生した(投与量は、全血液量(56mL/kg)の30%相当量)
バイタルサイン(平均動脈血圧(MAP)、心拍数(HR)、呼吸数、直腸温)は以下の10時点で記録した。(1)50%脱血前、(2)50%脱血直後、(3)試料投与直前、(4)試料投与直後、(5)投与5分後、(6)投与15分後、(7)投与30分後、(8)投与1時間後、(9)投与1.5時間後、(10)投与2時間後。
約100mmHgであった平均動脈血圧(MAP)は脱血後に約30mmHgまで低下したが、ポリオキサゾリン結合アルブミン溶液投与により上昇し、投与2h後では約90mmHgまで回復した(図4(A)参照、**p<0.01 対ヒドロキシエチルスターチ)。一方、ヒドロキシエチルスターチ投与群では投与2h後に約60mmHgまでしか上昇しなかった。また、約400beats/minであった心拍数(HR)は脱血後に約300beats/minまで低下したが、ポリオキサゾリン結合アルブミン溶液投与により上昇し、投与2時間後では約400beats/minまで回復した(図4(B)参照、*p<0.05、**p<0.01 対ヒドロキシエチルスターチ)。一方、ヒドロキシエチルスターチ投与群では投与2時間後に約320beats/minまでしか上昇しなかった。ポリオキサゾリン結合アルブミン溶液投与が出血性ショック状態からの蘇生に有効であることが分かった。その他のバイタルサイン、及び血液ガスパラメーターも、ポリオキサゾリン結合アルブミン溶液投与により初期値まで回復した。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンを有効成分とする人工血漿増量剤は、生体内に投与する場合も安全性の高い代用血漿剤として利用できる。対象は人間に限ることはなく、動物(イヌやネコ等のペット、家畜等)にも投与可能な人工血漿増量剤となる。本発明のポリオキサゾリン結合アルブミンを有効成分とする人工血漿増量剤は、出血、毛細血管の浸透性の増加、肝臓のアルブミン合成低下、腎臓や腸からの排泄過剰、代謝の亢進、術中輸液による希釈等によって低アルブミン血症となった場合に投与される。具体的には、出血性ショック時の他、敗血症、人工心肺を使用する心臓手術、循環動態が不安定な体外循環実施時、重症熱傷、妊娠高血圧症候群等の病態、肝硬変に伴う難治性の腹水、難治性の浮腫、肺水腫を伴うネフローゼ症候群、蛋白質喪失性腸症等の治療剤としての利用が期待できる。
【符号の説明】
【0132】
100:ポリオキサゾリン結合アルブミン
10:アルブミン
20:ポリオキサゾリン
図1
図2
図3
図4