(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129267
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】浄水処理方法及び浄水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/52 20060101AFI20220829BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20220829BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C02F1/52 Z
B01D21/01 102
G01N21/27 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027924
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】古幡 真祐子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 倫子
(72)【発明者】
【氏名】森 康輔
(72)【発明者】
【氏名】安永 利幸
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
【テーマコード(参考)】
2G059
4D015
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059AA10
2G059BB06
2G059CC20
2G059EE07
2G059FF02
4D015BA03
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4D015DC06
4D015DC07
4D015DC08
4D015EA03
4D015EA35
(57)【要約】
【課題】原水又は処理水中のピコプランクトンを安全かつ効率良く除去し、濁度の低いろ過水を安定して得ることが可能な浄水処理方法及び浄水処理装置を提供する。
【解決手段】ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理後の処理水をろ過処理してろ過水を得る浄水処理方法において、原水、処理水、又は、ろ過水の総微粒子数を測定し、総微粒子数を、ピコプランクトンを含む第1の微粒子の数と、第1の微粒子よりも凝集性が良好な第2の微粒子の数とに分類し、第1の微粒子の数が総微粒子数に占める割合に基づいて、第1の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤の添加を制御することを含む浄水処理方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加して凝集処理し、前記凝集処理後の処理水をろ過処理してろ過水を得る浄水処理方法において、
前記原水、前記処理水、又は、前記ろ過水の総微粒子数を測定し、
前記総微粒子数を、前記ピコプランクトンを含む第1の微粒子の数と、前記第1の微粒子よりも凝集性が良好な第2の微粒子の数とに分類し、
前記第1の微粒子の数が前記総微粒子数に占める割合に基づいて、前記第1の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤の添加を制御することを特徴とする浄水処理方法。
【請求項2】
前記凝集助剤が、粘土粒子又は無機粒子を含む請求項1に記載の浄水処理方法。
【請求項3】
前記凝集助剤が、前記凝集処理の返送汚泥、前記ろ過処理の洗浄排水、粒状物質を含む凝集助剤の少なくともいずれかを含む請求項1に記載の浄水処理方法。
【請求項4】
前記第1の微粒子の数の前記総微粒子数に占める前記割合が30%以下となるように、前記原水又は前記処理水に前記凝集助剤を添加することを含む請求項1~3のいずれか1項記載の浄水処理方法。
【請求項5】
前記第1の微粒子の数の前記総微粒子数に占める前記割合に応じて、前記原水に添加する前記凝集剤の添加量又は種類を更に調整することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の浄水処理方法。
【請求項6】
前記第1の微粒子が、粒径2.0μm以下の自家蛍光を有する粒子である請求項1~5のいずれか1項に記載の浄水処理方法。
【請求項7】
ピコプランクトンを含む原水を導入する導入手段と、
前記原水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、
前記凝集剤を添加した前記原水を凝集処理し、処理水を得る凝集手段と、
前記処理水をろ過処理し、ろ過水を得るろ過手段と、
前記原水、前記処理水、又は、前記ろ過水の総微粒子数を測定する測定手段と、
前記測定手段が測定した前記総微粒子数を、前記ピコプランクトンを含む第1の微粒子の数と、前記第1の微粒子よりも凝集性が良好な第2の微粒子の数とに分類した結果から算出される前記第1の微粒子の数の前記総微粒子数に占める割合に基づいて、前記第1の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤の添加を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする浄水処理装置。
【請求項8】
前記凝集手段で発生する余剰汚泥又は前記ろ過手段の洗浄排水を前記原水又は前記処理水に供給する供給配管を更に備える請求項7に記載の浄水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水処理方法及び浄水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、全国各地の水道水源では、富栄養化に起因する微小プランクトンの大発生が頻発している。微小プランクトンは、急速ろ過池より漏出してろ過水濁度を0.1度以上に上昇させる原因となるため、水道事業体ではその処理対策に苦慮しているところである。
厚生労働省は、水道水を介して発生したクリプトスポリジウムによる感染症への対応としてろ過水濁度0.1度以下での管理を指導しており(非特許文献1参照)、各地の水道事業者は、ろ過水濁度を常時0.1度以下に管理することが最も重要な水質管理項目の一つであると位置づけている。
【0003】
ピコプランクトンは、0.2~2.0μmの大きさを持つプランクトンであり、ろ過水の濁度を上昇させる要因となることが報告されている(非特許文献2参照)。ピコプランクトンは栄養摂取の仕組みから2つのグループに分類される。1つは、有機物を分解して栄養源とする細菌が主体の従属栄養ピコプランクトンであり、もう1つは、光合成を行う植物ピコプランクトンである。
【0004】
このようなピコプランクトンは、クロロフィルaなどの色素を持つ。よって、落射式蛍光顕微鏡にて緑色(G)もしくは青色(B)の励起波長を照射することで自家蛍光が観察でき、これにより原水または処理水中に存在するピコプランクトンが確認できる。しかしながら、ピコプランクトンは、凝集剤添加による分離が難しい場合がある。
【0005】
ピコプランクトンは、生物由来の濁質であるため、従来では、塩素注入が有効な除去手段とされてきた。しかしながら、塩素注入は、副生成物として発生するトリハロメタンが発がん性物質として健康問題となっていることから、より安全な除去方法が求められている。
【0006】
特許第5430788号公報(特許文献1)には、水の生物粒子計測機器に関し、検出計数可能な生物粒子は、粒径0.1~100μmの大きさの生物粒子、藻類、植物プランクトンであることが記載されている。そして、生物粒子計測機器の計数結果に応じて、凝集剤や塩素などの薬品を注入制御し、効率的に浄水処理や水質の監視が可能となることが記載されている。
【0007】
特許第5473560号公報(特許文献2)には、浄水処理自動連続式監視装置から得られた沈殿水濁度及びろ過水濁度の情報に基づき、浄水処理不良原因が、微小プランクトンによるろ過障害か否かを判断し、微小プランクトンによるろ過障害と判断された時に、後凝集処理工程において凝集剤の自動注入を行う浄水プロセスの連続制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5430788号公報
【特許文献2】特許第5473560号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】厚生労働省告示、薬生水発0529第1号、「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」、別紙2、第3頁、令和元年5月29日
【非特許文献2】日本水道協会、「生物障害を起こさないための浄水処理の手引き」平成18年3月、第57頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の処理技術のいずれも、ろ過水中から安定してピコプランクトンを低減させるための対策としてはまだ十分でない場合がある。例えば、特許文献1では、藻類等の個数の計数方法については詳細に検討されているが、計数結果に基づく凝集剤及び塩素等の薬品の注入制御の具体的処理については十分な検討がされていない。
【0011】
特許文献2に記載された発明には、微小プランクトンによるろ過障害を意識した水処理方法が記載されている。しかしながら、特許文献2では、微小プランクトン抑制対策としては、実施設の後凝集処理に対して凝集剤の自動注入を行う例が開示される程度であり、ろ過水中のピコプランクトン数を効率的に低減させる処理方法としては、まだ十分とはいえない。
【0012】
上記課題に鑑み、本発明は、原水又は処理水中のピコプランクトンを安全かつ効率良く除去することが可能な浄水処理方法及び浄水処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理後の処理水をろ過処理してろ過水を得る浄水処理において、原水又は処理水又はろ過水に含まれる微粒子数を測定し、ピコプランクトンを含む難凝集性微粒子の数の総微粒子数に占める割合に応じて、所定の制御を行うことが有効であるとの知見を得た。
【0014】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態は、ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理後の処理水をろ過処理してろ過水を得る浄水処理方法において、原水、処理水、又は、ろ過水の少なくともいずれかの総微粒子数を測定し、総微粒子数を、ピコプランクトンを含む第1の微粒子の数と、第1の微粒子よりも凝集性が良好な第2の微粒子の数とに分類し、第1の微粒子の数の総微粒子数に占める割合に基づいて、第1の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤の添加を制御することを含む浄水処理方法である。
【0015】
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法は一実施態様において、凝集助剤が、粘土粒子、無機粒子、凝集処理の返送汚泥、ろ過処理の洗浄排水、又は、粒状物質を含む凝集助剤の少なくともいずれかを含む。
【0016】
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法は別の一実施態様において、第1の微粒子の数の総微粒子数に占める割合が30%以下となるように、原水又は処理水に、凝集助剤を添加することを含む。
【0017】
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法は更に別の一実施態様において、第1の微粒子の数の総微粒子数に占める割合に応じて、原水に添加する凝集剤の添加量又は種類を調整することを含む。
【0018】
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法は更に別の一実施態様において、第1の微粒子が、粒径2.0μm以下の自家蛍光を有する粒子である。
【0019】
本発明の実施の形態は別の一側面において、ピコプランクトンを含む原水を導入する導入手段と、原水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、凝集剤を添加した原水を凝集処理し、処理水を得る凝集手段と、処理水をろ過処理し、ろ過水を得るろ過手段と、原水、処理水、又は、ろ過水の総微粒子数を測定する測定手段と、測定手段が測定した総微粒子数を、ピコプランクトンを含む第1の微粒子の数と、第1の微粒子よりも凝集性が良好な第2の微粒子の数とに分類した結果から算出される第1の微粒子の数が総微粒子数に占める割合に基づいて、第1の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤の添加を制御する制御手段と、を備えた浄水処理装置である。
【0020】
本発明の実施の形態に係る浄水処理装置は一実施態様において、凝集手段で発生する余剰汚泥又はろ過手段の洗浄排水を原水又は処理水に供給する供給配管を更に備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、原水又は処理水中のピコプランクトンを安全かつ効率良く除去することが可能な浄水処理方法及び浄水処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係る浄水処理方法の一例を表す概略図である。
【
図2】第1の微粒子と第2の微粒子の分類結果の例を示す説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る浄水処理装置を表す概略図である。
【
図4】原水A、B、Cの第1の微粒子と第2の微粒子との粒子数の比較を結果を表すグラフである。
【
図5】難凝集性微粒子の存在比率と凝集処理における凝集性の関係とを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0024】
(凝集処理方法)
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法は、
図1に示すように、ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加して凝集処理する凝集剤添加工程と、凝集処理後の処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過工程とを有する。
【0025】
原水としては、浄水処理に利用可能な原水であれば特に限定されない。例えば、水道原水として利用される河川水、湖沼水、貯留池水、雨水、伏流水、地下水、井戸水などが、本実施形態に係る原水として好適に利用可能である。例えば、原水の濁度が100度以下、より典型的には25度以下、より更に典型的には2~10度程度の原水が利用される。原水は、典型的には、沈砂池や着水井を経て、凝集処理される。
【0026】
[凝集剤添加工程]
凝集剤添加工程では原水に凝集剤が添加される。本実施形態において「凝集剤」とは、水中の懸濁粒子やコロイド状物質の荷電を中和し、集塊して、フロックを形成させる架橋能力を有する薬剤のことをいう。
【0027】
凝集剤としては、例えば、無機凝集剤などを使用することができる。無機凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム(硫酸ばん土)、ポリ硫酸鉄等が利用可能である。これらは1種類を単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
凝集剤の添加量は、選択された凝集剤の種類に応じて適宜選択されるが、通常は1~50mg/Lであり、この範囲で後述する制御工程で凝集剤の添加量及び種類の制御を行うことができる。
【0029】
凝集剤添加工程では、原水に対して凝集助剤(凝集補助剤ともいう)を更に添加する。本実施形態において「凝集助剤」とは、凝集処理におけるフロックの凝集沈降性や急速ろ過池での捕捉性を改善させ、径が大きく緻密で強固なフロックを形成させる目的で凝集剤と併用して添加される薬剤のことをいう。
【0030】
凝集助剤としては、フロック形成助剤、消石灰や水酸化ナトリウム、ソーダ灰などのアルカリ剤、活性ケイ酸やベントナイトなどの無機物、有機凝集助剤、高分子凝集剤、凝集改良剤等の種々の凝集助剤を挙げることができる。特に、ピコプランクトン等の難凝集性の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤としては、フロックの核となるような、粒状物質を含む薬剤を用いることが好ましい。
【0031】
高分子凝集剤は、液中の粒子の表面電荷等を考慮し、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、及びノニオン系高分子凝集剤のいずれか又は複数を適宜選択して使用することが好ましい。
【0032】
有機凝集助剤は、アルギン酸塩、ポリ(メタ)アクリル酸塩、CMC、ポリグルタミン酸、アラビアゴム、キサンタンガム、グアガム、キトサン、ポリビニルアルコールを用いることができる。アルギン酸塩は、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウムなどである。また、アルギン酸エステルも使用できる。ポリ(メタ)アクリル酸塩としてはポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸アンモニウムが挙げられるが、好ましくはポリアクリル酸ナトリウムのいずれか又は複数を適宜選択して使用することが好ましい。
【0033】
凝集改良剤は、例えば粒径が100μm以上の質量割合が5%以下であり、且つ粒径が10μm以下の質量割合が30%以下である粒度分布を有し、且つ比重が2.0~4.0である微細砂を使用することができる。そのような微細砂は、水に不溶解性で、且つ被処理水に添加した場合のゼータ電位が-30mV~-60mVであることが更に好ましい。
【0034】
凝集助剤として、無機粒子又は粘土粒子等の凝集沈降性の良好な粒子を単体で又は上述の凝集助剤と組み合わせて添加することも好ましい。無機粒子としては、比重が2.0~4.0の範囲で、水に不溶解性の粒状物質であれば良い。具体的な粒状物質の例としては、砂、活性炭、カオリンなどが挙げられ、これらの中でも砂が好ましい。更に、主成分がSiO2である珪砂がより好ましい。更に、この粒子は、105μm以下の重量割合が95%以上となる粒度分布であることが好ましい。
【0035】
無機粒子又は粘土粒子は、浄水処理において発生する汚泥又は洗浄排水等にも含まれる。そのため、凝集助剤として、凝集処理の返送汚泥又はろ過処理の洗浄排水を利用することにより、ピコプランクトンを含む粒子の凝集処理のために別途薬剤を使用することなく、浄水処理で発生する資源を有効に利用できる。無機粒子又は粘土粒子を含み、浄水処理において発生する排水又は洗浄排水の具体例としては、沈殿池の排泥(浄水汚泥)、洗砂排水、洗浄排水がある。そのため、市販の凝集助剤の代わりとして、沈殿池の汚泥又はろ過池の逆洗排水を原水に返送することで、原水中の無機粒子の割合を高め、ピコプランクトンの処理性を向上させることができる。これにより、ピコプランクトンを含む粒子の凝集処理のために別途薬剤を使用することなく、浄水処理で発生する資源を有効に利用できる。
【0036】
凝集助剤の添加量は、適宜選択されるが、通常は、原水量に対して4~40mg/Lであり、この範囲で後述する制御工程で凝集助剤の添加制御を行うことができる。凝集剤及び凝集助剤の添加の順序は、凝集剤及び凝集助剤の種類によって適宜変更される。通常は、凝集剤及び凝集助剤を添加した後、原水と凝集剤及び凝集助剤とを混和してフロックを形成させ、フロックを沈降分離する。凝集処理で得られた処理水はろ過工程へ送られる。
【0037】
[ろ過工程]
ろ過工程では、凝集処理で得られた処理水をろ過処理する。ろ過処理の方法は、従来から行われている方法を使用することができ、一般に、砂ろ過が使用される。
【0038】
[微粒子測定工程]
微粒子測定工程では、原水、処理水、又は、ろ過水の少なくともいずれかの微粒子の数を測定する。本実施形態において、微粒子とは、粒径0.1μm~数百μmである粒子をいう。微粒子測定工程では、原水、処理水、又は、ろ過水に含まれる微粒子の総数(以下「総微粒子数」ともいう)を測定する。
【0039】
総微粒子数を測定するために使用される方法としては、例えば、蛍光顕微鏡による蛍光測定を利用することができる。蛍光測定では、ピコプランクトンに含まれるクロロフィルが発する蛍光を測定することによって、ピコプランクトンの存在が確認でき、その存在数をカウンターによって計数できる。
【0040】
[制御工程]
制御工程では、微粒子測定工程で測定された原水、処理水、又は、ろ過水の微粒子数を利用して凝集助剤の添加量を制御する。具体的には、まず、微粒子測定工程において測定された原水、処理水、又は、ろ過水の総微粒子数を、例えば、パーティクルカウンタ等の微粒子計測器に付随する粒子数測定用のソフトウェア等を用いて、ピコプランクトンを含む第1の微粒子の数と、第1の微粒子よりも凝集性が良好な第2の微粒子の数とに分類する。
【0041】
第1の微粒子は、粒径が小さく、凝集剤の添加による凝集効果が比較的小さいピコプランクトンを含む微粒子をいう(以下「難凝集性微粒子」ともいう)。典型的には、粒径が2.0μm以下、より典型的には粒径が0.2~2.0μmの自家蛍光を有する微粒子を第1の微粒子として含む。
【0042】
ろ過水の濁度上昇の要因となるピコプランクトンは、最小長さが粒径0.2μm~2.0μm程度である。そのため、粒径2.0μm以下、より典型的には、粒径0.2~2.0μmの自家蛍光を有する微粒子の数を第1の微粒子として分類することで、原水、処理水、又は、ろ過水に含まれるピコプランクトンを含む難凝集性微粒子の数を考慮することができる。なお、ピコプランクトンは、微小プランクトン、植物プランクトン、小型プランクトン、小型藻類、藻類の生物粒子などの総称する用語である。
【0043】
自家蛍光の有無は、測定対象水に対して、ピコプランクトンを検出するための特定波長の紫外線レーザを照射した場合に、蛍光強度が所定値以上(例えば15mV以上)を示す微粒子を、自家蛍光を有する微粒子とし、蛍光強度が所定値未満となる微粒子を、自己蛍光を有さない微粒子と定義することができる。
【0044】
第2の微粒子は、第1の微粒子よりも粒径が大きく、一般的な凝集剤の添加による一定の凝集効果が期待できる微粒子をいう(以下「易凝集性微粒子」ともいう)。微粒子計測器が測定対象とする微粒子の粒径範囲によって変わるが、典型的には粒径2.0μm超えの微粒子及び粒径2.0μm以下で自家蛍光を有しない、第1の微粒子以外の微粒子を、第2の微粒子として含むことができる。第2の微粒子の数は、測定対象水に含まれる総微粒子数から第1の微粒子の数を減算することによって計数できる。
【0045】
現在入手可能な蛍光測定を利用した微粒子計測においては、装置に付随する制御ソフトウェアによって、
図2に示すような、測定した微粒子数を、粒径と蛍光強度毎に分類したデータを得ることができる。例えば、
図2に示すように、蛍光強度15mV以上で粒径が2.0μm以下となる領域a~fの微粒子の数を第1の微粒子の数とし、それ以外の領域g~nの微粒子の数を第2の微粒子の数として分類することができる。但し、第1の微粒子の数と第2の微粒子の数を分類するための粒径の基準値(粒径2.0μm)は、上記の例に限定されるものではない。例えば、原水の性状、微粒子の粒度分布の状況等の各種事情に応じて、例えば、粒径が2.0μmを超える微粒子の数も難凝集性微粒子として設定すべきであれば、粒径が2.0μmを超える微粒子の数も第1の微粒子の数として含むように、適宜設定することができる。
【0046】
原水又は処理水中に存在する難凝集性微粒子の割合が一定の割合を超えると、凝集処理又はろ過処理によっても、難凝集性微粒子が効率的に除去しきれず、難凝集性微粒子がろ過水中へ流入して濁度の上昇を生じさせることがある。
【0047】
本制御工程では、第1の微粒子の数の総微粒子数に占める割合に基づいて、割合が閾値以上となった場合に、第1の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤を添加することにより、第1の微粒子の水中における存在比率を下げて、第1の微粒子がより凝集しやすくなるように原水又は処理水を調整することが好ましい。
【0048】
例えば、測定対象水の微粒子数を測定した結果、第1の微粒子数の総微粒子数に占める割合に関する閾値として30%以上、更には40%以上、更には50%以上となる場合に、難凝集性微粒子の存在割合が高く、凝集処理及びろ過処理での処理が不十分となり、ろ過水の濁度が上昇する場合がある。
【0049】
よって、制御工程では、凝集助剤を原水又は処理水に所定量添加することにより、原水又は処理水中の第1の微粒子の数の総微粒子数に占める割合が30%以下、さらには25%以下、より更には20%以下となるように、原水又は処理水に対して粒状物質を含む凝集助剤を添加する。その結果、第1の微粒子の粒子全体に対する存在比率を下げて、第1の微粒子の凝集性を向上させることができるため、ろ過水の濁度を常時0.1度以下に管理することがより容易になる。
【0050】
微粒子計測は、原水、処理水またはろ過水のいずれ1か所以上を測定すればよい。本実施形態では、測定原水又は処理水、特に、原水を測定することがより好ましい。微粒子数の測定結果に基づいて、測定対象水中の難凝集性微粒子の存在比が小さくなるように、原水、処理水へ凝集助剤を添加するような制御を行うことで、浄水処理全体としての凝集性又はろ過処理性を向上することができる。
【0051】
ろ過水の測定を行う場合には、ろ過水の濁度と第1の微粒子の数の総微粒子数に占める割合と、その割合に応じて追加されるべき凝集助剤の添加量の関係を予め予備実験等で決定しておき、測定結果と予め決定された添加量に基づいて、原水又は処理水へ凝集助剤を添加することができる。
【0052】
制御工程では、第1の微粒子数の総微粒子数に占める割合に応じて、原水に添加する凝集剤の添加量又は種類を調整することが更に好ましい。例えば、難凝集性微粒子の総微粒子数に示す割合が上述した閾値を超える場合に、凝集助剤の制御に加えて、更に、凝集剤の添加量及び種類を増加又は変更することが好ましい。
【0053】
例えば、原水中のピコプランクトンを効果的に除去する場合には、凝集剤として、従来のPACの代わりに、塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液を用いることが好ましい。ピコプランクトンの除去に用いられるPAC溶液の塩基度は、高いほど原水中における荷電中和能力を高くすることができるため、難凝集性微粒子の捕捉効果を向上できる。
【0054】
また、塩基度を高くPACを利用するほどPACの添加率を低減できるため、より少ない添加量でピコプランクトン数の低減効果が得られる。例えば、塩基度が65%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは75%以上のPAC溶液を、原水に添加する凝集剤として利用することが好ましい。PAC溶液の塩基度は、高いほど好ましいが、高すぎると凝集性や凝集剤の安定性が損なわれる場合もある。より安定して処理を行うために、PAC溶液の塩基度は、90%以下、更には85%以下とすることが好ましい。
【0055】
具体的には、第1の微粒子数の総微粒子数に占める割合が30%以上となった場合に、第1の微粒子の凝集処理が行いやすくなるように、凝集剤の種類を、従来の通常塩基度50%程度のPACから塩基度が60%以上のPACに切り替えることや、凝集剤の添加量を増加させる。
【0056】
制御工程では、凝集剤及び凝集助剤の添加位置も制御することができる。例えば、凝集剤又は凝集助剤を、必要に応じて、原水又はろ過池の流入配管やろ過池上部等の任意の位置に添加するように制御することもできる。
【0057】
このように、本発明の実施の形態に係る浄水処理方法によれば、第1の微粒子の数が総微粒子数に占める割合に基づいて、第1の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤を添加し、第1の微粒子の存在比率を小さくする。凝集助剤として、無機粒子又は粘土粒子を含む、例えば返送汚泥又はろ過処理の洗浄排水を利用することで、追加の薬品無しで水質制御が行える。そのため、気温や水温の急激な変動により難凝集性微粒子の数が多くなった場合においても、ろ過水の濁度の上昇を抑えながらより効率的な処理が行える。
【0058】
(浄水処理装置)
本発明の実施の形態に係る浄水処理装置は、
図3に示すように、ピコプランクトンを含む原水を導入する導入手段20(着水井)と、原水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段1と、凝集剤を添加した原水を凝集処理し、処理水を得る凝集手段2と、処理水をろ過処理し、ろ過水を得るろ過手段3と、原水、処理水、又は、ろ過水の総微粒子数を測定する測定手段4と、制御手段5とを備える。
【0059】
着水井には、水源から取水された原水が導入され、原水の水量の調整及び水質把握が行われる。凝集剤添加手段1は、原水、凝集処理後の処理水、またはろ過水に凝集剤及び凝集助剤を添加することが可能な装置であれば特に限定されない。凝集手段2は、例えば、凝集槽21及び沈殿槽22を備えることができるが、この例には限定されない。
例えば、凝集手段2として、原水と凝集剤及び凝集助剤を混和するための混和槽と、フロックが十分形成されるためのフロック形成槽と、フロックを沈殿させて取り除くための沈殿池とを備えていても良い。或いは、凝集手段2として、凝集処理と沈殿処理とを一槽の装置で行う凝集沈殿装置が配置されていてもよい。
ろ過手段3としては、典型的には、砂ろ過装置を用いることができるが、膜ろ過装置等の公知の他のろ過装置を利用できる。
【0060】
測定手段4としては、粒径0.1μm~数百μm程度微粒子を測定でき、且つ粒径0.2.0μm~2.0μmのピコプランクトンの数を測定可能な機器であれば特に限定されない。例えば、測定手段4として、蛍光測定を利用した計測器を用いることでピコプランクトンの数をより簡易且つ正確に測定することが可能となる。図示していないが、測定手段4として、原水、処理水、ろ過水の濁度、水温、pH等の水質を測定するための測定装置を更に備え、原水、処理水、ろ過水の測定結果が、制御手段5へ出力されるように構成されていることが好ましい。
【0061】
制御手段5は、測定手段4及び凝集剤添加手段1に接続されており、測定手段4及び凝集剤添加手段1を制御するための制御信号を出力するように構成されている。制御手段5は、例えば、測定手段4が測定した総微粒子数を、ピコプランクトンを含む第1の微粒子の数と、第1の微粒子よりも凝集性が良好な第2の微粒子の数とに分類し、第1の微粒子の数の総微粒子数に占める割合に基づいて、第1の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤の添加を制御する。
微粒子の分類は、測定手段4が備える制御ソフト等を利用し、制御手段5はその分類結果に関する情報の入力を受け付けるように構成されてもよい。
【0062】
制御手段5は、さらに、凝集手段2で発生する余剰汚泥又はろ過手段3のろ過層の洗浄排水を原水又は処理水に供給する供給配管23、33に接続され、測定手段4の微粒子測定結果に基づいて、余剰汚泥又は洗浄排水の供給を制御するように構成されてもよい。制御手段5は、さらに、凝集剤の添加量の制御、添加位置の制御及び添加する凝集剤及び凝集助剤の切り替え制御を行う。
【0063】
本発明の実施の形態に係る浄水処理装置によれば、第1の微粒子の数の総微粒子数に占める割合に基づいて、第1の微粒子の凝集沈降性を高めるための凝集助剤の添加を制御する制御手段5を備えることにより、処理対象水全体の微粒子総数に対する難凝集性の第1の微粒子の占める割合を小さくし、凝集助剤の添加により第1の微粒子を凝集しやすくできる。その結果、難凝集性微粒子であるピコプランクトンを安全かつ効率良く除去し、濁度の低いろ過水を安定して得ることが可能となる。
【0064】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。即ち、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できることは勿論である。
【実施例0065】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0066】
浄水場で3回採水を行い、原水A、B、Cを得た。原水A、B、Cに対してそれぞれ濁度、pH及び微粒子数を測定した。濁度及びpHは、市販の濁度計及びpH計を用いて測定した。微粒子数は微粒子計測器(リオン株式会社 ピコプランクトンカウンタ XL-10A)を使用した。本実施例では、原水A、B、C中に含まれる粒径0.5~2.0μmの総微粒子数を測定し、付属の制御ソフトウェアを用いて蛍光強度が15μm以上を占めす微粒子の数を、ピコプランクトンを含む難凝集性微粒子(第1の微粒子)の数とし、総微粒子数から難凝集性微粒子の数を減算した微粒子の数を易凝集性微粒子(第2の微粒子)の数とした。
【0067】
原水A、B、Cに含まれる難凝集性微粒子及び易凝集性微粒子の粒子数の比較結果を
図4に示す。
原水Aは、濁度が12度、pHが7.2、難凝集性微粒子の数が2.7×10
5個/mLで、易凝集性微粒子の数が2.1×10
6個/mLであった。このときの総微粒子数に対する難凝集性微粒子の存在比は約11%であった。
原水Bは、濁度が4.0度、pHが7.1、難凝集性微粒子の数が2.1×10
5個/mL、易凝集性微粒子の数が8.2×10
5個/mLであった。このときの総微粒子数に対する難凝集性微粒子の存在比は約26%であった。
原水Cは、濁度が21度、pHが7.3、難凝集性微粒子の数が1.4×10
6個/mL、易凝集性微粒子の数が4.5×10
5個/mLであった。このときの総微粒子数に対する難凝集性微粒子の存在比は約77%であった。
【0068】
次に、原水A、B、Cに対してPAC注入率50mg/Lの条件で凝集処理を行い、上澄水A、B、Cを得た。
原水に対するPAC注入率が50mg/Lのとき、
上澄水Aの濁度が0.27度となり、清澄な上澄水Aが得られた。
上澄水Bの濁度が0.46度となり、原水Aに比べて濁度が上昇した。
上澄水Cの濁度が8.0度となり、上澄水Cの濁度の除去性が十分とはいえないことが確認された。
【0069】
このように、上澄水A、B、Cに含まれるピコプランクトンを含む難凝集性微粒子の数の測定結果は、原水中に難凝集性微粒子が存在する比率が高くなるほど、上澄水に難凝集性微粒子が残留しやすくなることが確認できた。
【0070】
原水に対するPAC注入率が50mg/Lのとき、
上澄水Aの難凝集性微粒子数は2.0×104個/mL、除去率は93%であった。
上澄水Bの難凝集性微粒子数は2.7×104個/mL、除去率は86%であった。
上澄水Cの難凝集性微粒子数は1.8×105個/mL、除去率は25%であった。
【0071】
上記の結果から、難凝集性微粒子の総微粒子に対する存在比と凝集性との関係について検討した結果を
図5に示す。
図5に示すように、原水中の難凝集性微粒子の存在比が10%程度であれば、問題なく難凝集性微粒子が除去可能で、存在比が25~30%程度で難凝集性微粒子の除去性が低下し始める。
【0072】
そして、存在比が80%程度では、難凝集性微粒子の除去性が困難になる場合があることが分かった。このため、原水中の難凝集性微粒子の存在比を測定し、存在比が30%以下、好ましくは20%以下となるように、原水に対してフロック形成の核となる微粒子を含む凝集助剤や返送汚泥等を添加し、難凝集性微粒子の存在比を低くなるように制御することが、難凝集性微粒子の凝集性向上のためには有効な対策といえる。