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特開2022-129286新規なかび菌株及び当該菌株を使用したかび付け魚節
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129286
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】新規なかび菌株及び当該菌株を使用したかび付け魚節
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20220829BHJP
   A23B 5/04 20060101ALI20220829BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20220829BHJP
【FI】
C12N1/14 A
A23B5/04 A
A23L23/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027952
(22)【出願日】2021-02-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000114732
【氏名又は名称】ヤマキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【弁理士】
【氏名又は名称】八木田 智
(72)【発明者】
【氏名】来島 壮
(72)【発明者】
【氏名】稲田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 佳史
(72)【発明者】
【氏名】牧野 泰之
【テーマコード(参考)】
4B036
4B065
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LF06
4B036LF19
4B036LG05
4B036LH37
4B036LK01
4B036LP16
4B036LP24
4B065AA57X
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA22
4B065BB23
4B065BB40
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】好適な香気成分を得ることができる魚節を製造することができる新規なかび菌株を提供すること、及び当該菌株を使用したかび付け魚節を提供すること。
【解決手段】本発明は、MY20培地上で、コロニーを形成し、その中心部は黄色~橙色を呈し、その周辺部は淡黄色であり、球形~亜球形の子のう胞子を含む黄色~橙色の球体状の子のう果を形成する、耐乾燥かび菌株の一種のユーロチウム属ルブラム種に属する新規なかび菌株Eurotium rubrum YM-1478株(寄託番号NITE P-03338)を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MY20培地上で、コロニーを形成し、その中心部は黄色~橙色を呈し、その周辺部は淡黄色であり、球形~亜球形の子のう胞子を含む黄色~橙色の球体状の子のう果を形成する、耐乾燥かび菌株の一種のユーロチウム属ルブラム種に属する新規なかび菌株Eurotium rubrum YM-1478株。(寄託番号NITE P-03338)。
【請求項2】
Eurotium rubrum YM-1478(寄託番号NITE P-03338)を焙乾後の魚節に接種して得たことを特徴とするかび付け魚節。
【請求項3】
請求項2に記載のかび付け魚節を粉砕して枯節粉砕物を作成し、
前記枯節粉砕物を熱水により抽出して成る
ことを特徴とするかび付け魚粉出汁。
【請求項4】
濃度を4~5%に調整した前記かび付け魚粉出汁の香気成分のピークエリア比において、トリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比が、0.7~1.0である
ことを特徴とする請求項3に記載のかび付け魚粉出汁。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の出汁に、調味料を加えて作成した
ことを特徴とするつゆ。
【請求項6】
前記つゆ中の出汁の濃度を4~5%に調整したつゆの香気成分のピークエリア比において、トリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比が、0.9~1.4である
ことを特徴とする請求項5に記載のつゆ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かび付け魚節の製造に用いるのに有用なユーロチウム属ルブラム種に属する新規なかび菌株及び該カビ菌株を使用したかび付け魚節に関する。
【背景技術】
【0002】
魚節のかび付けは、使用する魚節類の品質や気候や天候の影響を受け易く、かび付けに必要な期間や、得られる品質を一定にすることは非常に難しく、職人の匠の技の感覚でかび付けの工程管理を行っていた。この工程の再現性を実現させるために、かび付けに使用する菌株を選抜して使用することは既に提案されており、出願人も魚節のかび付けに適したかび菌株としてYM-1481(寄託番号NITE P-738)を既に提案している(特許文献1)。
ところで魚節は、削ってそのまま食すこともあるが、魚節出汁を得るために使用されることが多く、魚節出汁を製造した時に得られる香気成分や呈味成分が食用においては重要であり、これらの品質は、原料となる魚節の成分によって変化する。
鰹節の成分に関する知見として、荒節に含まれるグアヤコール(2-メトキシフェノール)が鰹節かびの作用によりベラトロール(1,2-ジメトキシベンゼン、DMB)に変化することが報告されている。同様に、鰹節に含まれる1,2,3-トリメトキシベンゼン(TMB)が、鰹節かびの作用により荒節に含まれる2,6-ジメトキシフェノールから変化すること、1,2-ジメトキシ-4-メチルベンゼン(3,4-ジメトキシトルエン(DMT))がクレオゾール(4メチルグアヤコール)から変化することも報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-273548公報
【特許文献2】特開2011-33414公報
【特許文献3】特開平6-327433公報
【特許文献4】特開2006-34124公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】"Degradation and O-Methylation of Phenols amaong Volataile Flavor Components of Dried Bonito (Katsuobushi) by Aspergillus Species" Agric. Biol.Chem., 53 (4), 1051-1055,1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、鰹節において重要な香気成分や呈味成分は、荒節に含まれている成分は勿論のこと、魚節をかび付けする際のかびの作用によっても変化するものであるため、魚節をかび付けする際にかび菌株が及ぼす影響は大きく、好適な香気成分等が得られるかび付け魚節の製造に適したかび菌株が市場では求められている。
本発明は、上記した課題を解決するために、好適な香気成分を得ることができる魚節を製造することができる新規なかび菌株を提供すること、及び当該菌株を使用したかび付け魚節を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明は、MY20培地上で、コロニーを形成し、その中心部は黄色~橙色を呈し、その周辺部は淡黄色であり、球形~亜球形の子のう胞子を含む黄色~橙色の球体状の子のう果を形成する、耐乾燥かび菌株の一種のユーロチウム属ルブラム種に属する新規なかび菌株Eurotium rubrum YM-1478株(寄託番号NITE P-03338)を提供する。
本発明に係る新規なカビ菌株Eurotium rubrum YM-1478株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はNITE P-03338号である。
上記YM-1478菌は、鰹節の保管庫から分離されたものである。本菌は、耐乾性かびに属する為、通常のかびの培地(PDA培地やCzapek-Dox培地)での生育は非常に悪い。その為形態の観察は主としてMY20培地培養下で行った。
MY20培地の組成は以下の通りである。
ペプトン 5.0g
酵母エキス 3.0g
麦芽エキス 3.0g
ぶどう糖 200.0g
寒天 20.0g
水 1000ml
MY20培地上で、培養温度25℃7日培養後のコロニー直径は8cm、中心部は黄色~橙色を呈し、その周辺部は淡黄色であった。
分生子各器官の大きさ:分生子形状は円柱状~放射状、分生子の大きさは直径5~10μm。
子嚢胞子各器官の大きさ:子嚢胞子形状は球形~亜球形、子嚢胞子の大きさは直径3.0~5.0μm、子嚢果直径35~62.5μm。
【0007】
PDA(ポテトデキストロースアガー)培地上での生育形態を観察した。PDA培地の組成は以下の通りである。
ジャガイモ浸出液粉末 4.0g
ぶどう糖 20.0g
寒天 15.0g
水 1000ml
PDA培地上で、培養温度25℃7日培養後のコロニーは確認できず、21日培養後のコロニー直径は2cm、コロニー色調は黄色であり、MY20培地よりも生育は悪いことが確認できた。
【0008】
本発明に係る新規なカビ菌株Eurotium rubrum YM-1478株は、魚節粉末上又は魚節粉砕物上で前培養して分離採取することができる。このように魚節粉末上又は魚節粉砕物上で前培養して採取したカビ菌株を、魚節上に接種する種菌として使用する事により、培地組成が基本的に同一組成になるため後の魚節上での本菌株の生育をよりスムーズに立ち上げることが可能になる。魚節粉末又は魚節粉砕物は、鰹節、宗田節、サバ節、ムロ節、鮪節等の魚節類や煮干類が使用できる。更に望むべきは、前培養を行う魚節粉末又は魚節粉砕物とかび付けを行う魚節は同種類を使用することが望ましい。また、一般的に、糸状菌の工業的な大量培養を行う場合には、小麦や大豆等の穀類や穀類加工時の副産物(フスマ)を前培養の培地として使用するが、この様な穀類原料は、食品の法律上表示の義務を伴うアレルギー物質を含む可能性があり、魚節にとっては魚節以外の原材料が混入するといった危険性を含んでいる。その為、かび付けを行う魚節と前培養を行う魚節粉末又は魚節粉砕物の種類を統一する事は、非常に重要且つ有意義なことである。
【0009】
また、本発明に係る新規なカビ菌株Eurotium rubrum YM-1478株は、魚節粉末を用いて前培養する場合、出汁を抽出後の魚節出汁抽出残渣を使用する事によって、廃棄処分される抽出残渣の有効利用に繋がると共に、より低コストで魚節粉末上に成育させた種菌を得ることができる。出汁を抽出後の魚節出汁抽出残渣は水分が多く(60%以上)本菌株の生育には不適な水分環境であるが、水分30%以下、好ましくは水分18~25%の範囲に水分調整して乾燥させた抽出残渣を使用し、オートクレーブ処理等の滅菌処理をした後、温湿度を調整した環境下にて、本菌株を生育させる事が出来る。
また、本発明に係るかび付け魚節は、魚節上で成長するかびEurotium rubrum YM-1478(寄託番号NITE P-03338)を焙乾後の魚節に接種して得ることを特徴とするものである。
前記Eurotium rubrum YM-1478(寄託番号NITE P-03338)を焙乾後の魚節に接種して得ることができる魚節は、濃度4~5%の出汁の香気成分のピークエリア比において、トリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比が、0.7~1.0であり、該魚節からは出汁感が強い、好ましい出汁が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る新規なかび菌株Eurotium rubrum YM-1478株(寄託番号NITE P-03338)は、MY20培地上で、コロニーを形成し、その中心部は黄色~橙色を呈し、その周辺部は淡黄色であり、球形~亜球形の子のう胞子を含む黄色~橙色の球体状の子のう果を形成する、耐乾燥かび菌株の一種のユーロチウム属ルブラム種に属するかび菌株であって、焙乾後の魚節に接種してかび付け魚節を製造することにより、TMTを低く抑えながらTMBを高度に含む魚節を製造することが可能になり、該魚節を用いることで、風味が劇的に変化した高品質な出汁を得ることが可能になる。
本発明に係るかび付け魚節は、焙乾後の魚節に新規なかび菌株Eurotium rubrum YM-1478株(寄託番号NITE P-03338)を接種することにより製造されるものであり、上記したようにTMTを低く抑えつつTMBを高度に含み、濃度4~5%の出汁の香気成分のピークエリア比におけるトリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比が0.7~1.0となり、この値は、市場で得られる従来のかび菌株(以下、従来菌株)を接種して得られた魚節の同濃度の出汁の値の1.5~3.5倍の値であり、該魚節からは出汁感が強い、好ましい出汁が得られる。また、本発明に係るかび付け魚節から製造される出汁におけるトリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比は、出汁の濃度が3%台、2%台、1%台と低くなっても、0.5を下回ることはなく、従来菌株を接種して得られた魚節の同濃度の出汁の値の1.4倍以上の値を維持し、喫食中に薄まっても出汁感及び風味が落ちることがない。さらに、本発明に係るかび付け魚節は、上記したようにTMTを低く抑えながらTMBを高度に含んでいるため、その出汁をつゆに使用した場合でも、高いトリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比を維持することができ、強い出汁感及び風味をもった好ましいつゆを得ることができる。このように、食品添加物ではなく、天然物でTMTを低く抑えながらTMBを高度に含むかび付け魚節を得ることで、かび臭さが抑えられ、より枯節特有の風味が強調され、その風味は特に、魚節を用いて製造されるつゆ類において高い効果を発揮する。
同種・類縁菌において、香気成分の変換についてはすでに評価されており(特許文献2)、燻煙・焙乾工程に由来する香気成分が減少することで香りがマイルドになることも公知である(特許文献3)。また、TMBが多く含まれるとカビのにおいが抑制されることは公知であるが(特許文献4)、この特許文献4における組成物は、化合物を添加調整した香気組成物であり、食品添加物の使用を余儀なくされるものであり、本発明に係るかび付け魚節のように、新規なかび菌株を接種することで得られるものでない点で食品における効果は全く異なるものである。
また、つゆ類の課題の一つに、喫食時に風味が低下することが挙げられる。温かいつゆの香りが揮散することもあるが、水で締めた麺をつゆにつけて食す時のつけつゆにおける風味低下は顕著であり、枯節出汁を使用する頻度の多いそばつゆでも大きな課題であったが、本発明に係る新規なかび菌株を接種して得られる本発明に係るかび付け魚節は、TMTを低く抑えつつTMBを高度に含み、濃度4~5%の出汁の香気成分のピークエリア比におけるトリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比が0.7~1.0と非常に高く、この値は出汁の濃度が3%台、2%台、1%台と低くなっても、0.5を下回ることがないため、それを使用したつゆは、喫食中につゆが薄まっても、風味が落ちることがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るかび菌株YM-1478株を接種して得られたかび付け鰹節を用いて製造した様々な濃度の出汁、並びにEurotium repens YM-1418(NITE P-738)及び従来のかび菌株を接種して得られたかび付け鰹節を用いて製造した同濃度の出汁におけるTMB/TMT比を表すグラフである。
図2図1と同じ出汁についての、従来のかび菌株を接種して得られたかび付け鰹節を用いた出汁のTMB/TMT比を基準とした、本発明に係るかび菌株YM-1478株を接種して得られたかび付け鰹節を用いた出汁及びEurotium repens YM-1418(NITE P-738)を接種して得られたかび付け鰹節を用いて製造した同濃度の出汁のTMB/TMT比の比率を示している。
図3図1の出汁に調味料を加えて作成した様々な濃度のつゆのTMB/TMT比を表すグラフである。
図4図3と同じつゆについての、従来のかび菌株を接種して得られたかび付け鰹節を用いた出汁を使用したつゆのTMB/TMT比を基準とした、本発明に係るかび菌株YM-1478株を接種して得られたかび付け鰹節を用いた出汁を使用したつゆ及びEurotium repens YM-1418(NITE P-738)を接種して得られたかび付け鰹節を用いて製造した同濃度の出汁を使用したつゆのTMB/TMT比の比率を示している。
【発明を実施するための形態】
【実施例0012】
鰹節粉末1kgを30Lの温水(95℃)に入れ20分抽出を行う。出汁液を濾布を用いてろ過し、鰹抽出残渣と出汁を分離する。抽出残渣を回収し水分を良く切った後、乾燥機にて水分30%以下に乾燥する。乾燥後1mm以下の微粉末をふるいにより取り除き、水分25%の鰹節出汁抽出残渣乾燥物800gを得た。得られた鰹節出汁抽出残渣乾燥物を培養瓶に移し、オートクレーブにて温度121℃で20分間加熱殺菌処理を行った。殺菌後、室温まで冷却し、クリーンベンチ内で本発明に係るかび菌株YM-1478株(以下、本菌体)を無菌的に接種し、温度25℃湿度85%の恒温恒湿庫で2週間培養を行った。培養期間中に1~3日毎に攪拌し、鰹節出汁抽出残渣乾燥物全体に菌を均一に発生させた。2週間本菌株を培養した鰹節出汁抽出残渣乾燥物は、本菌体由来の菌糸や分生子が多数密に形成され、淡黄色を呈する。
尚、この実施例1では、出汁を抽出後の魚節出汁抽出残渣を使用してかび菌株YM-1478株の前培養を行っているが、出汁抽出前の魚節粉末を使用して前培養を行うことも可能であり、魚節粉砕を使用して前培養を行うことも可能である。
【実施例0013】
実施例1で得られた、鰹節粉末上で前培養した本菌体を使用して、鰹節へのかび付けを実施した。冷凍鰹から、常法によりかつお節を得たのち、グラインダーにより表面のタール分を取り除き、裸節を得る。得られた裸節の表面に鰹節粉末上で培養した本菌株を接種する。接種する方法としては、培養菌体50gを浄水5L中に懸濁し、菌体懸濁液(かび菌数10^6個以上/ml)を得る。得られた菌体懸濁液を使用し、噴霧器を用いて裸節の上下全ての表面に均一に噴霧し、本菌体を裸節表面に接種し、以降常法により枯節を得る。
【実施例0014】
実施例2で得られた枯節の表面のかびをふき取り、粉砕機により5mm以下に粉砕し、1mm以下の微粉末はふるいにより除去し、枯節粉砕物を得た。得られた枯節粉砕物をとり、熱水により20分間抽出し、試験区1~10の枯節出汁(以下、「本発明出汁」と称する)を得た。
比較例のかびとして、Eurotium repens YM-1418(NITE P-738)を使用して、試験区1~10と同じ濃度の出汁(以下、「比較例1出汁」と称する)及び従来菌株を使用して、試験区1~10と同じ濃度の出汁(以下、「従来出汁」と称する。)を得た。
試験区1~5、8について、ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリーを用いる方法により香気成分の分析を行った。分析には、ガスクロマトグラフィーとしてGC7890B(Agilent社製)およびマススペクトロメトリーとしてMS5977B(Agilent社製)を用いた。ガスクロマトグラフィー用キャピラリーカラムHP-5MSUI(長さ30m×膜厚0.25μm×内径0.25mm、J&W社製)に流速1ml/分のヘリウムガスを流して分析した。
試験区1~5、8の本発明出汁(本願1478)、比較例1出汁(比較例1418)
及び従来出汁(従来菌株)に対する上記香気成分の分析結果を表1に示す。
【表1】
表1中、
DMB(1,2-ジメトキシベンゼン(ベラトロール))、TMB(1,2,3-トリメトキシベンゼン)、DMT(3,4-ジメトキシトルエン(ホモベラトロール))及びTMT(1,2,3-トリメトキシ-5メチルベンゼン(3,4,5-トリメトキシトルエン))は、香気成分である。
また、試験区1~5、8に対する本発明出汁(本願1478)、比較例1出汁(比較例1418)及び従来出汁(従来菌株)のTMB/TMT比、及び従来出汁(従来菌株)に対する本発明出汁(本願1478)及び比較例1出汁(比較例1418)のTMB/TMT比の比率のグラフを図1及び図2に示す。
表1並びに図1及び図2の香気成分の分析結果から分かるように、本発明出汁は、比較例1出汁及び従来出汁に比べて、TMTを低く抑えながらTMBを高度に含み、本発明出汁のTMB/TMT比は、比較例1出汁及び従来出汁のTMB/TMT比に比べて高い。
また、試験区1及び2から、濃度を4~5%に調整した本発明出汁(本願1478)の香気成分のピークエリア比において、トリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比が0.7~1.0であることが分かる。
尚、試験区1及び2の出汁濃度は4.3%であるところ、試験区3及び5の出汁濃度は3.3%及び3%、試験区8の出汁濃度は1.45%、試験区4の出汁濃度は1.1%であり、試験区1及び2の出汁濃度より低い出汁濃度としている。
本発明出汁におけるTMB/TMT比は、出汁濃度が最も高い試験区1及び2においては、約0.7~1.0という高い比率を示し、出汁濃度が低くなっても0.5を下回ることはない一方で、比較例1出汁及び従来出汁は、濃度が最も濃い試験区1及び2においても0.5を上回ることはない。
【0015】
試験区6、7、9及び10についても、同様の香気成分の分析を行った。
その結果を表2に示す。
【表2】
表2においても、表1と同様、本発明出汁におけるTMB/TMT比は、出汁濃度が低くなっても0.5を下回ることはない一方で、比較例1出汁及び従来出汁は、0.5を上回ることはない。
【実施例0016】
実施例3で得られた本発明出汁、比較例1出汁及び従来出汁に、しょうゆ、砂糖、みりん等の調味料を加えて試験区1~10のめんつゆを作成した。各試験区に加えた調味料及び水の量を表3に示す。以下、本発明出汁を使用したつゆを「本発明つゆ」、比較例1出汁を使用したつゆを「比較例1つゆ」、従来出汁を使用したつゆを「従来つゆ」と称する。
【表3】
【0017】
試験区1~5、8について、ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリーを用いる方法により香気成分の分析を行った。分析には、ガスクロマトグラフィーとしてGC7890B(Agilent社製)およびマススペクトロメトリーとしてMS5977B(Agilent社製)を用いた。ガスクロマトグラフィー用キャピラリーカラムHP-5MSUI(長さ30m×膜厚0.25μm×内径0.25mm、J&W社製)に流速1ml/分のヘリウムガスを流して分析した。
【0018】
同時に、試験区1~5、8について、試飲温度約20℃で、6~10名のパネラーによって順位法により官能検査を行った。
【0019】
試験区1~5、8の本発明つゆ(本願1478)、比較例1つゆ(比較例1418)及び従来つゆ(従来菌株)に対する上記香気成分の分析結果及び官能検査の結果を表4に示す。
【0020】
【表4】
表4中、
「出汁感強さ」及び「好ましさ総合」は官能評価結果であり、それぞれ合計点数をパネラーの数で割った値である。
「パネル数」は官能評価を行ったパネラーの人数であり、
「そば/つゆ」は、そばでの喫食評価か、つゆでの喫食評価かを示している。試験区1~5及び8は、何れも、つゆでの喫食評価である。
また、表4中、
「枯節原料」は、かび付け鰹節の原料となる鰹の種類であり、
「ロット」は、分析及び評価に使用したかび付け鰹節の製造ロット番号であり、
「喫食時出汁濃度%」は、官能検査時の出汁濃度であり、
「節/醤油」は、醤油に対するかび付け鰹節の割合を示している。
さらに、表4中、
DMB(1,2-ジメトキシベンゼン(ベラトロール))、TMB(1,2,3-トリメトキシベンゼン)、DMT(3,4-ジメトキシトルエン(ホモベラトロール))及びTMT(1,2,3-トリメトキシ-5メチルベンゼン(3,4,5-トリメトキシトルエン))は、香気成分である。
また、試験区1~5、8に対する本発明つゆ(本願1478)、比較例1つゆ(比較例1418)及び従来つゆ(従来菌株)のTMB/TMT比、及び従来出汁に対する本発明つゆ(本願1478)及び比較例1つゆ(比較例1418)のTMB/TMT比の比率のグラフを図3及び図4に示す。
【0021】
本明細書において、「出汁感」とは、出汁の風味を感じる感覚であり、表4から、TMB/TMT比が高い本発明つゆ(本願1478)が、TMB/TMT比が低い比較例1つゆ(比較例1418)及び従来つゆ(従来菌株)に比べて、官能評価における「だし感の強さ」、即ち、「出汁感」が強くなることが分かる。
表4並びに図3及び図4の香気成分の分析結果から分かるように、本発明つゆは、比較例1つゆ及び従来つゆに比べて、TMTを低く抑えつつTMBを高度に含み、本発明つゆのTMB/TMT比は、比較例1つゆ及び従来つゆのTMB/TMT比に比べて顕著に高いことが分かる。
また、本発明つゆにおけるTMB/TMT比は、濃度が最も高い試験区1及び2においては、約0.9~1.4という高い比率を示し、濃度が低くなっても0.7を下回ることはない一方で、比較例1出汁及び従来出汁では、0.5を上回ることはない。また、本発明つゆのTMB/TMT比は、従来つゆのTMB/TMT比と比較すると、約1.5~3.3倍高く、官能検査の結果からも分かるように、本発明つゆは、比較例1つゆ及び従来つゆに比べて、「出汁感」が強くなっており、かつ、濃度が薄くなっても「出汁感」を維持していることが分かる。
【0022】
試験区6,7,9及び10についても、同様の香気成分の分析及び官能検査を実施した。
その結果を表5に示す。
【0023】
【表5】
【0024】
表5からも、本発明つゆ(本願1478)は、比較例1つゆ(比較例1418)及び従来つゆ(従来菌株)に比べて、TMB/TMT比が高く、従って、「出汁感」が強く、かつ、濃度が薄くなっても「出汁感」を維持していることが分かる。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-02-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MY20培地上で、コロニーを形成し、その中心部は黄色~橙色を呈し、その周辺部は淡黄色であり、球形~亜球形の子のう胞子を含む黄色~橙色の球体状の子のう果を形成する、耐乾燥かび菌株の一種のユーロチウム属ルブラム種に属する新規なかび菌株Eurotium rubrum YM-1478株。(寄託番号NITE P-03338)。
【請求項2】
Eurotium rubrum YM-1478(寄託番号NITE P-03338)を焙乾後の魚節に接種して得たことを特徴とするかび付け魚節。
【請求項3】
マカツオ又はソウダカツオ由来の請求項2に記載のかび付け魚節を粉砕して枯節粉砕物を作成し、
前記枯節粉砕物を熱水により抽出して成るかび付け魚粉出汁であって、
濃度を4~5%に調整した前記かび付け魚粉出汁の香気成分のピークエリア比において、トリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比が、0.7~1.0である
ことを特徴とするかび付け魚粉出汁。
【請求項4】
請求項3に記載の出汁と調味料とから成る
ことを特徴とするつゆ。
【請求項5】
前記つゆ中の出汁の濃度を4~5%に調整したつゆの香気成分のピークエリア比において、トリメトキシベンゼン(TMB)/トリメトキシトルエン(TMT)比が、0.9~1.4である
ことを特徴とする請求項4に記載のつゆ。