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特開2022-129303真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられるカバー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129303
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられるカバー
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
F04D19/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027977
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131AA07
3H131BA03
3H131CA01
3H131CA04
3H131CA34
(57)【要約】
【課題】プロセスガスに起因するパーティクル等の異物が半導体ウエハの製造工程等に進入するのを抑制することができる真空ポンプを提供する。
【解決手段】吸気口101を有するケーシング127と、吸気口101に向けて開口する凹部201を有し、凹部201内に配置された緊締用ボルト205でロータ軸113に締結された回転体103と、を備え、回転体103の吸気口101に対向する上側端面103aに外周部202bが接触し、かつ、吸気口101側に向けて凸状に形成された、凹部201を覆うカバー202を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口を有するケーシングと、前記吸気口に向けて開口する凹部を有し、前記凹部内に配置されたボルトでロータ軸に締結された回転体と、を備えた真空ポンプであって、
前記回転体の前記吸気口に対向する端面に外周部が接触し、前記吸気口側に向けて凸状に形成され、前記凹部を覆うカバーを備えている、ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記カバーは、前記外周部が前記端面と面状に接触可能な接触面積増加構造を有する、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記端面は、前記外周部を受けて前記カバーの拡開を規制する段差部を備えている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記外周部の前記端面に対向する対向面は、前記端面に向けて凸状に湾曲して形成されている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記カバーを挟持して前記カバーの拡開を規制する拘束部をさらに備えている、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記カバーは、前記カバーの拡開を抑制するように剛性を増加させる剛性増加構造を備えている、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記カバーは、耐腐食性及び防錆性を有している、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記カバーは、表面に耐腐食性及び防錆性のコーティング処理が施されている、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
吸気口を有するケーシングと、前記吸気口に向けて開口する凹部を有し、前記凹部内に配置されたボルトでロータ軸に締結された回転体と、を備えた真空ポンプに用いられるカバーであって、
前記回転体の前記吸気口に対向する端面に外周部が接触し、前記吸気口側に向けて凸状に形成され、前記凹部を覆うことを特徴とするカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低真空から超高真空に亘る圧力範囲で利用可能な真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられるカバーに関するもので、特に真空ポンプ内に残留するパーティクルや発錆等に起因する異物等の発生を抑制することができる真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられるカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、メモリや集積回路等の半導体を製造する際、空気中の塵等による影響を避けるために、高真空状態のチャンバ内で高純度の半導体基板(ウエハ)にドーピングやエッチングを行う必要がある。また、ここで使用したプロセスガスは、例えばターボ分子ポンプとネジ溝ポンプとを組み合わせた複合ポンプ等の真空ポンプによって排気している。
【0003】
このような真空ポンプとして、例えば、円筒状のケーシングと、ケーシング内に入れ子で固定されると共に、ネジ溝部が配設された円筒状のステータと、ステータ内で高速回転可能に支持されたロータ軸にボルトで締結された回転体と、を備えたものが知られている。プロセスガスは、ロータの回転翼によって下向きの運動量が与えられることにより、ネジ溝ポンプの上流に移送される。次いで、プロセスガスは、ネジ溝ポンプで圧縮された後に、外部に排気される。
【0004】
半導体を製造するチャンバでは、耐食性のプロセスガスを半導体ウエハに作用させる工程が数多くあるため、真空ポンプでチャンバ内のプロセスガスを排出する際に、プロセスガスがロータ軸の先端部や回転体とロータ軸とを締結するボルトの表面に腐食や錆びが発生し、または、プロセスガス中の成分の物理化学的変化により、パーティクル(微粒子、ダスト等)を発生させることがある。
【0005】
そして、チャンバ内の減圧と昇圧を繰り返すうちに、ボルト表面の錆やパーティクル等の異物を含むプロセスガス等がチャンバ内に逆流し、異物が半導体ウエハに付着して、半導体ウエハの加工品質を低下させる虞があった。そのような、異物を含むプロセスガス等がチャンバ内に逆流することを抑制するため、特許文献1には、ロータの凹部に嵌入されて、ロータ軸やボルトの締結部を覆うように配置されたカバーを備えた真空ポンプが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された真空ポンプでは、真空ポンプを組み立てる上で、部材の寸法誤差を吸収するために確保されたカバーと回転体との僅かの隙間をプロセスガスが通過可能なことにより、ボルト表面に生じた錆や凹部内に残留したパーティクルがチャンバ内に逆流することがあった。
【0007】
そこで、特許文献2には、例えば図12に示すように、回転体1と可撓性カバー2との僅かの隙間からプロセスガスが凹部3に通過することがないように、回転体1の吸気口に対向する端面1aに外周部が支持されると共に、回転体1の凹部3内に中央部2aが弾性変形により陥入して、凹部3を覆うようにした可撓性カバー2を備えた真空ポンプが開示されている。この構成では、可撓性カバー2が、回転体1の凹部3を覆うことにより、回転体1を回転軸4に締結するボルト5がプロセスガスに曝されなくなり、ボルト5の腐食や発錆が抑制されるため、チャンバ内への異物の逆流を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6190580号公報
【特許文献2】特許第6644813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の発明は、可撓性カバー2は、回転体1の凹部3内に中央部2aが弾性変形により陥入して凹部3を覆うようにして設けているので、凹部3内に陥入した中央部2aとボルト5との間である部分6b等にパーティクルが残留してしまう虞があった。また、中央部2aを凹部3に嵌入させる変形に対して、適切な設計をしていないと、回転体1の凹部3を覆っている可撓性カバー2の外周部2bがまくれて、回転体1の端面1aから浮き上がり、その浮き上がった部分6aと回転体1の端面1aとの間にパーティクルが残留してしまう虞があった、そして、残留したパーティクルがチャンバ内に逆流することがあるという問題点があった。
【0010】
そこで、プロセスガスに起因するパーティクル等の異物が半導体ウエハの製造工程等に進入するのを抑制するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明は、この課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載の発明は、吸気口を有するケーシングと、前記吸気口に向けて開口する凹部を有し、前記凹部内に配置されたボルトでロータ軸に締結された回転体と、を備えた真空ポンプであって、前記回転体の前記吸気口に対向する端面に外周部が接触し、前記吸気口側に向けて凸状に形成され、前記凹部を覆うカバーを備えている、真空ポンプを提供する。
【0012】
この構成によれば、吸気口に向けて開口する回転体の凹部を、吸気側に向けて凸状をしたカバーで覆い、かつ、カバーの外周部を回転体の端面に接触させて取り付けられる。したがって、カバーの取付時に、カバーが回転体の端面に向けて押し付けられると、凸状をしたカバーは凸状を保持したまま、そのカバーの外周部が回転体の端面に強く押し付けられて、カバーの外周部が回転体の端面と平行になり、回転体の端面と密に当接した状態で配置される。これにより、カバーの中央部並びにカバーの外周部と回転体の端面との間に残留するパーティクル等の異物をなくすことができる。この結果、真空ポンプ内からチャンバ側に逆流するパーティクルがなくなる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記カバーは、前記外周部が前記端面と面状に接触可能な接触面積増加構造を有する、真空ポンプを提供する。
【0014】
この構成によれば、カバーの取付時に、ボルトの締結力でカバーが回転体に向けて強く押し付けられると、そのボルトの締結力に比例してカバーの外周部も回転体の端面に更に強く押し付けられる。これにより、カバーの外周部が回転体の端面と平行になる接触面積が増加し、カバーの外周部と回転体の端面との間が更に密に当接した状態で配置される。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、前記端面は、前記外周部を受けて前記カバーの拡開を規制する段差部を備えている、真空ポンプを提供する。
【0016】
この構成によれば、カバーの取付時に、カバーが回転体に向けて強く押し付けられて、カバーの外周部が外側に向かって拡開するとき、カバーの外周部が段差部とぶつかり、その段差部により外周部が外側に規定以上に拡がるのを抑える。また、回転体の端面に対するカバーの位置ずれ等も防げる。これにより、カバーの外周部が回転体の端面と離れる方向にカール等をすること、及び、カバーの回転体の端面に対する位置ずれ等を防ぐことができ、カバーの外周部と回転体の端面とを更に密に当接させることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の構成において、前記外周部の前記端面に対向する対向面は、前記端面に向けて凸状に湾曲して形成されている、真空ポンプを提供する。
【0018】
この構成によれば、カバーの取付時に、カバーが回転体に向けて強く押し付けられて、カバーの外周部が回転体の端面上を滑りながら外側に向かって拡開するとき、外周部の凸状に湾曲している部分が回転体の端面上を線接触状態で滑りながら移動し、回転体の端面上に傷を付けるのを防ぐ。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の構成において、前記カバーを挟持して前記カバーの拡開を規制する拘束部をさらに備えている、記載の真空ポンプを提供する。
【0020】
この構成によれば、カバーの剛性が低いような場合に、拘束部で、カバーの所定の凸形状を保持したまま、カバー全体の広がりを規制することが可能になる。これにより、カバーの所定の形状を維持しながら、回転体の端面にカバーの外周部を押し付けることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の構成において、前記カバーは、前記カバーの拡開を抑制するように剛性を増加させる剛性増加構造を備えている、真空ポンプを提供する。
【0022】
この構成によれば、剛性増加構造により、カバーにおける柔軟性と剛性の両面を満足させて、カバーの所定の凸形状を保持したまま、カバー全体の広がり持たせることが可能になる。これにより、カバーの所定の形状を維持しながら、回転体の端面にカバーの外周部を押し付けることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の構成において、前記カバーは、耐腐食性及び防錆性がある、真空ポンプを提供する。
【0024】
この構成によれば、カバー自体は、耐腐食性及び防錆性を有するので、排気されるプロセスガスによるカバーの腐食及び発錆が抑制される。
【0025】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか1項に記載の構成において、前記カバーは、表面に耐腐食性及び防錆性のコーティング処理が施されている、真空ポンプを提供する。
【0026】
この構成によれば、カバーの表面には、耐腐食性及び防錆性のコーティング処理が施されているので、排気されるプロセスガスによるカバー表面の腐食及び発錆を効果的に防止することができる。
【0027】
請求項9に記載の発明は、吸気口を有するケーシングと、前記吸気口に向けて開口する凹部を有し、前記凹部内に配置されたボルトでロータ軸に締結された回転体と、を備えた真空ポンプに用いられるカバーであって、前記回転体の前記吸気口に対向する端面に外周部が接触し、前記吸気口側に向けて凸状に形成され、前記凹部を覆う、カバーを提供する。
【0028】
この構成によれば、真空ポンプにおける回転体の凹部周辺の端面を密に覆うことができるので、プロセスガスに起因するパーティクル等の回転体の凹部等に残留するのをなくして、例えば排気されるプロセスガスによる真空ポンプの腐食及び発錆を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、吸気口に向けて開口する回転体の凹部を、吸気側に向けて凸状をしたカバーで覆い、かつ、カバーの外周部が回転体の端面と平行となるようにして、カバーの外周部を回転体の端面に接触させて取り付けるので、カバーの取付時に、カバーの外周部と回転体の端面とがより密に当接した状態で配置されて、回転体の凹部をカバーで塞ぐことができる。これにより、カバーの中央部並びにカバーの外周部と回転体の端面との間に残留するパーティクル等の異物をなくすことができるとともに、ボルトの腐食や発錆が抑制されるため、真空ポンプ内からチャンバ側に逆流する異物を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
図2】同上ターボ分子ポンプにおけるアンプ回路の一例を示す図である。
図3】同上ターボ分子ポンプにおけるアンプ回路で検出した電流指令値が検出値より大きい場合の一制御例を示すタイムチャートである。
図4】同上ターボ分子ポンプにおけるアンプ回路で検出した電流指令値が検出値より小さい場合の一制御例を示すタイムチャートである。
図5図1に示すターボ分子ポンプのカバー周辺構造を示す一部拡大図で、(a)は平面図、(b)は同図(a)のA-A線概略断面図である。
図6図5に示したカバー周辺構造の分解側面図である。
図7図5に示したカバー単体を示し、(a)はそのカバーの平面図、(b)は(a)のB-B線概略断面図、(c)は(b)の部分拡大図である。
図8図5に示したカバー単体の第1の変形例を示し、(a)はそのカバーの平面図、(b)は(a)のC-C線概略断面図、(c)は(b)の部分拡大図、(d)は第1の変形例を更に変形した例を説明する(c)に相当する部分の拡大図である。
図9図5に示したカバー単体の第2の変形例を示し、(a)はそのカバーの平面図、(b)は(a)のD-D線概略断面図、(c)は(b)の部分拡大図である。
図10図5に示したカバー単体の第3の変形例を示し、(a)はそのカバーの平面図、(b)は(a)のE-E線概略断面図、(c)は(b)の部分拡大図である。
図11図1に示すターボ分子ポンプのカバー周辺構造の一変形例を示す一部拡大図で、(a)図5(a)のA-A線に相当する部分の概略断面図、(b)は同図(a)の部分を分解して示した分解断面図である。
図12】従来の真空ポンプの問題点を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、プロセスガスに起因するパーティクル等の異物が半導体ウエハの製造工程等に進入するのを抑制することができる真空ポンプを提供するという目的を達成するために、吸気口を有するケーシングと、前記吸気口に向けて開口する凹部を有し、前記凹部内に配置されたボルトでロータ軸に締結された回転体と、を備えた真空ポンプであって、前記回転体の前記吸気口に対向する端面に外周部が接触し、前記吸気口側に向けて凸状に形成され、前記凹部を覆うカバーを備える、構成として実現した。
【実施例0032】
以下、本発明の実施形態に係る一実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0033】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0034】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0035】
また、以下の説明において、上下や左右等の方向を示す表現は、絶対的なものではなく、本発明の真空ポンプの各部が描かれている姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。また、実施例の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付している。
【0036】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0037】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0038】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0039】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0040】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0041】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0042】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0043】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0044】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0045】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0046】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0047】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0048】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0049】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円板状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0050】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0051】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0052】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0053】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0054】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0055】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0056】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0057】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0058】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0059】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0060】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0061】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0062】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0063】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0064】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0065】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0066】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0067】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0068】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0069】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0070】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0071】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0072】
なお、本実施例に係る真空ポンプ、すなわちターボ分子ポンプ100の構成では、回転体103の上側端面103aには凹部201が形成されており、凹部201は可撓性カバー202により塞がれている。凹部201を可撓性カバー202で塞いでいる構造について、図5から図7の図面を加えて更に詳細に説明する。
【0073】
図5は、図1の要部拡大図、すなわちターボ分子ポンプ100における可撓性カバー202の周辺構造を示す一部拡大図であり、(a)は平面図、(b)は同図(a)のA-A線概略断面図である。図6は、図5に示したカバー周辺構造の分解側面図である。図7は、図5に示した可撓性カバー202を示し、(a)は可撓性カバー202の平面図、(b)は(a)のB-B線概略断面図、(c)は(b)の部分拡大図である。
【0074】
凹部201には、凹部201を覆う可撓性カバー202が、ステンレス製の締結用ボルト205を用いてロータ軸113に、座金203及びスリーブ204と共に一体に締結されている。
【0075】
可撓性カバー202は、薄い円板で円錐台状に形成されており、例えば、ステンレス製又はアルミ合金製であり、厚み1~3mm程度に形成されている。また、可撓性カバー202の外径は、回転体103の凹部201の内径より3~10mm程度大きく設定され、中央部202aは上方に向かって緩やか凸状をなす形に盛り上がり、中央部202aから下る外周部202bは回転体103の上側端面103aに接触している。また、中央部202aの略中心には、締結用ボルト205が挿通される貫通孔206が形成されている。
【0076】
座金203は、締結用ボルト205と可撓性カバー202との間に介装されており、例えばステンレス製で、中央部には締結用ボルト205が取り付けられる貫通孔207が形成されている。
【0077】
スリーブ204は、可撓性カバー202とロータ軸113との間に配設される。スリーブ204は、略円筒状に形成されており、例えばステンレス製又はアルミ合金製である。スリーブ204は、中央部に締結用ボルト205が挿通される貫通孔208が形成されている。
【0078】
なお、可撓性カバー202、座金203、スリーブ204、締結用ボルト205には、耐腐食性及び耐錆性のコーティング処理が施されており、各部材の腐食及び発錆を抑制することができる。
【0079】
そして、締結用ボルト205は、図5の(a)及び(b)に示すように、座金203の貫通孔207、可撓性カバー202の貫通孔206、スリーブ204の貫通孔208を順に通して、座金203、可撓性カバー202、スリーブ204を一体化される。また、この状態で、図1に示すように凹部201に挿入されてロータ軸113の上端に設けられたネジ穴113aに取り付けられる。この場合、可撓性カバー202の外周部202bを回転体103の上側端面103aに当接させて、可撓性カバー202で凹部201を覆って塞ぐと共に、上側端面103aと外周部202bとの間が密になるまで、締結用ボルト205をロータ軸113に締め付け、座金203、スリーブ204と共に可撓性カバー202を回転体103に固定される。すなわち、可撓性カバー202は、吸気口101と対向する回転体103の上側端面103aに外周部202bが接触し、かつ、凸状を形成する中央部202aが吸気口101側を向いて取り付けられる。
【0080】
このようにして、本実施例に係るターボ分子ポンプ100は、回転体103の凹部201を覆って塞ぐことにより、ロータ軸113や回転体103をロータ軸113に締結するボルト209がプロセスガスに曝されなくなり、ロータ軸113やボルト209の腐食や発錆を抑制することができる。
【0081】
また、可撓性カバー202の取付時に、可撓性カバー202が回転体103の上側端面103aに向けて押し付けられると、凸状をした可撓性カバー202は凸状を保持したまま、可撓性カバー202の外周部202bの端が回転体103の上側端面103aに強く押し付けられて、可撓性カバー202の外周部202bの端の部分が回転体103の上側端面103aと平行な状態で接触される。すなわち、可撓性カバー202の外周部202bが回転体103の上側端面103aに対して密に当接した状態で配置される。これにより、可撓性カバー202の外周部202bの端と回転体103の上側端面103aとの間に残留するパーティクル等の異物をなくすことができる。この結果、ターボ分子ポンプ100内からチャンバ側に逆流するパーティクルをなくすことができる。
【0082】
また、可撓性カバー202として、可撓性カバー202自体に柔軟性を持たせ、外周部202bの端が回転体103の上側端面103aに強く押し付けられると、その可撓性カバー202の外周部202bの一部が撓み、回転体103の上側端面103aに対して面状に接触して接触面積を増加させる構造、いわゆる可撓性カバー202自体に接触面積増加構造の作用を備えるようにした構成にしてもよい。この場合では、可撓性カバー202の取付時に、締結用ボルト205の締結力で可撓性カバー202が回転体103の上側端面103aに向けて強く押し付けられると、締結用ボルト205の締結力に比例して撓み、その撓みに伴って外周部202bが上側端面103a上を滑りながら拡開し、可撓性カバー202の外周部202bが回転体103の上側端面103aに更に強く押し付けられる。これにより、可撓性カバー202の中央部並びに可撓性カバー202の外周部202bと回転体103の上側端面103aとの間における、互いに平行に当接する面積を増やしながら更に密に配置され、可撓性カバー202の外周部202bの端と回転体103の上側端面103aとの間に残留するパーティクル等の異物を更になくすことができる。
【0083】
なお、可撓性カバー202の取付時に、締結用ボルト205の締結力で可撓性カバー202が回転体103の上側端面103aに向けて強く押し付けられると、締結用ボルト205の締結力に比例して可撓性カバー202の外周部202bが回転体103の上側端面103aと面状に接触可能となる接触面積増加手段を有する機械的な構造を備える可撓性カバー202としては、上記以外に、例えば図8及び図9のような構造がある。
【0084】
図8は、図5に示した可撓性カバー202の第1の変形例を示し、(a)はその可撓性カバー202の平面図、(b)は(a)のC-C線概略断面図、(c)は(b)の部分拡大図である。図8に示す可撓性カバー202は、可撓性カバー202の取付時に、締結用ボルト205の締結力で可撓性カバー202が回転体103の上側端面103aに向けて強く押し付けられると、締結用ボルト205の締結力に比例して外周部202bが上側端面103aと面状に接触可能となる手段を有する機械的な接触面積増加構造を有するものである。
【0085】
ここでの可撓性カバー202も、薄い円板で円錐台状に形成されており、例えば、ステンレス製又はアルミ合金製であり、厚み1~3mm程度に形成され、更に耐腐食性及び耐錆性のコーティング処理が施されている。また、可撓性カバー202の外径は、回転体103の凹部201の内径より3~10mm程度大きく設定され、中央部202aは上方に向かって緩やか凸状をなす形に盛り上がり、中央部202aから下る外周部202bは回転体103の上側端面103aに接触している。さらに、中央部202aの略中心には、締結用ボルト205が挿通される貫通孔206が形成されている。
【0086】
そして、図8に示す第1変形例の可撓性カバー202は、吸気口101と対向する回転体103の上側端面103aに外周部202bが接触し、かつ、凸状を形成している中央部202aが、吸気口101側を向いて取り付けられる構造である。また、外周部202bの外側には、外周部202bの外側を一周する形で、外周部202bから外側に向かって略水平に延びる環状をしたフランジ部210が一体に設けられている。
【0087】
図8に示す第1変形例の可撓性カバー202を用いた場合では、可撓性カバー202の取付時に、締結用ボルト205の締結力で、可撓性カバー202が回転体103の上側端面103aに向けて強く押し付けられると、外周部202bの外側に設けられたフランジ部210が、締結用ボルト205の締結力に比例して上側端面103aに面接触して押し付けられる。また更に押し付けられると、外周部202bとフランジ部210が撓んで上側端面103a上を滑りながら外側に拡開し、更に外周部202bの一部が撓んで上側端面103a上に面接触して、可撓性カバー202と回転体103の上側端面103aとの間の面接触部分が増加して密なる接触が得られる。
【0088】
なお、可撓性カバー202の外周部202bが上側端面103aの上を滑ることにより、回転体103の上側端面103aに傷などの発生するのを防止するには、図8の(d)に示すように、可撓性カバー202におけるフランジ部210の下面側に、断面が上側端面103aに向かって凸状を呈する形状(凸状部202c)を設けるように構成するとよい。
【0089】
また、締結用ボルト205の締結力で強く抑えられることにより、可撓性カバー202の外周部202bが所定量以上に拡開してしまうのを規制するには、可撓性カバー202が取り付けられる回転体103の上側端面103a上に、段差となる規制壁211を、可撓性カバー202の外側を一周囲むようにして設けると対応することができる。すなわち、外周部202bが所定量以上に外側へ拡がろうとしたときに、外周部202bが規制壁211にぶつかり、所定量以上に拡がるのを抑えることができる。また、規制壁211を設けると、上側端面103aに対する可撓性カバー202の位置ずれを防ぐことが可能になる。
【0090】
更なる効果として、フランジ部210の底面と回転体103の上側端面103aによる面接触にプラスして、フランジ部210の側面と規制壁211の側壁との接触で、密となる接触が得られ、面接触する面積部分を増加させることができる。
【0091】
図9は、図5に示した可撓性カバー202の第2の変形例を示し、(a)はその可撓性カバー202の平面図、(b)は(a)のD-D線概略断面図、(c)は(b)の部分拡大図である。図9に示す可撓性カバー202は、可撓性カバー202の取付時に、可撓性カバー202が、締結用ボルト205の締結力で回転体103の上側端面103aに向けて強く押し付けられると、締結用ボルト205の締結力に比例して外周部202bが撓んで上側端面103aと面状に接触して接触面積を増加させる構造、すなわち機械的な接触面積増加構造としての内側フランジ部212を有するものである。
【0092】
更に詳述すると、図9に示す第2変形例の可撓性カバー202は、外周部202bの内側に、その外周部202bの内側を一周する形で、外周部202bから内側斜め下方に向かって拡がる環状をした内側フランジ部212を一体に設けたものである。ここでの可撓性カバー202も、薄い円板で円錐状に形成されており、例えば、ステンレス製又はアルミ合金製であり、厚み1~3mm程度に形成され、更に耐腐食性及び耐錆性のコーティング処理が施されている。また、可撓性カバー202の外径は、回転体103の凹部201の内径より3~10mm程度大きく設定され、中央部202aは上方に向かって緩やか凸状をなす形に盛り上がり、中央部202aから下る外周部202b及び内側フランジ部212は回転体103の上側端面103aに接触可能になっている。さらに、中央部202aの略中心には、締結用ボルト205が挿通される貫通孔206が形成されている。
【0093】
そして、第2の変形例の可撓性カバー202は、可撓性カバー202の取付時に、可撓性カバー202が、締結用ボルト205の締結力で回転体103の上側端面103aに向けて強く押し付けられると、締結用ボルト205の締結力に比例して、まず内側フランジ部212が回転体103の上側端面103aに押し付けられて、内側フランジ部212が回転体103の上側端面103aに対して平行となり、上側端面103aとの接触面積を増加させる。また、内側フランジ部212の略全体が上側端面103aに接触し終わると、その後、外周部202bの一部が潰れて、上側端面103aと平行になるようにして、可撓性カバー202に、上側端面103aと接触可能となる機械的な接触面積増加構造を設けたものである。これにより、可撓性カバー202の内側フランジ部212及び外周部202bと回転体103の上側端面103aとの間が、密に当接する面積を増やしながら配置され、可撓性カバー202の外周部202bの端と回転体103の上側端面103aとの間に残留するパーティクル等の異物を更になくすことができる。
【0094】
図10は、図5に示した可撓性カバー202の第3の変形例を示し、(a)はその可撓性カバー202の平面図、(b)は(a)のE-ED線概略断面図、(c)は(b)の部分拡大図である。図10に示す可撓性カバー202は、細長い棒状の、例えばステンレス製又はアルミ合金製の骨材213を複数本(本例では8本)、可撓性カバー202の内側に取り付けたものである。複数本の各骨材213は、凸状の頂点となる中央部202aから外周部202bに向かって、また外周方向に略等間隔に配置されて放射状に設けられている。
【0095】
また、ここでの可撓性カバー202も、薄い円板で円錐台状に形成されており、例えば、ステンレス製又はアルミ合金製であり、厚み1~3mm程度に形成され、更に可撓性カバー202と骨材213にはそれぞれ耐腐食性及び耐錆性のコーティング処理が施されている。また、可撓性カバー202の外径は、回転体103の凹部201の内径より3~10mm程度大きく設定され、中央部202aは上方に向かって緩やか凸状をなす形に盛り上がり、中央部202aから下る外周部202bは回転体103の上側端面103aに接触している。さらに、中央部202aの略中心には、締結用ボルト205が挿通される貫通孔206が形成されている。
【0096】
そして、図10に示す第3の変形例の可撓性カバー202は、可撓性カバー202の取付時に、締結用ボルト205の締結力で可撓性カバー202が回転体103の上側端面103aに向けて強く押し付けられると、締結用ボルト205の締結力に比例して、まず外周部202bが上側端面103aに押し付けられて内側に撓み、その撓みにより接触面積を増加させる。次いで、可撓性カバー202と共に骨材213が内側に撓まされ、これに伴って可撓性カバー202の外周部202bが、回転体103の上側端面103aと更に接触して、接触面積が増加されるようにした、機械的な接触面積増加構造を備えたものである。この場合では、可撓性カバー202の剛性が低いようなときに、骨材213の剛性を付加して、可撓性カバー202における柔軟性と骨材213の剛性の都を利用して、可撓性カバー202の外周部202bと回転体103の上側端面103aとの間の当接する面積を増やすことができる。
【0097】
図11は、図1に示すターボ分子ポンプ100の可撓性カバー202の周辺構造の一変形例を示す一部拡大図で、(a)図5(a)のA-A線に相当する部分の概略断面図、(b)は同図(a)の部分を分解して示した分解断面図である。
【0098】
図11に示す構造は、凹部201を覆う可撓性カバー202が、ステンレス製の締結用ボルト205を用いてロータ軸113に、第1の座金203aと第2の座金203b及びスリーブ204と共に、一体に締結されるようにしたものである。可撓性カバー202は、薄い円板で円錐台状に形成されており、例えば、ステンレス製又はアルミ合金製であり、厚み1~3mm程度に形成されている。また、可撓性カバー202の外径は、回転体103の凹部201の内径より3~10mm程度大きく設定され、中央部202aは上方に向かって緩やか凸状をなす形に盛り上がり、中央部202aから下る外周部202bは回転体103の上側端面103aに接触している。また、中央部202aの略中心には、締結用ボルト205が挿通される貫通孔206が形成されている。
【0099】
このように厚みが薄い材料で緩やかな凸状に形成された可撓性カバー202では、可撓性カバー202の剛性が低いような場合う、締結用ボルト205で締め付けたときに、凸形状をしている中央部202aが大きく潰れて、可撓性カバー202の形状が大きく破損する虞がある。そこで、この変形例では、可撓性カバー202を挟んで、その上下に第1の座金203aと第2の座金203bを配置して、適切な凸形状を保持しながら締め付ける構造としたものである。
【0100】
第1の座金203aは、締結用ボルト205と可撓性カバー202との間に介装されており、例えばステンレス製で、中央部には締結用ボルト205が取り付けられる貫通孔207が形成されている。また、可撓性カバー202と対向する下面203aaは、可撓性カバー202における中央部202aの上面形状に倣い、可撓性カバー202における中央部202aと略対応した曲面形状で形成されており、可撓性カバー202を第2の座金203bと共に挟むときに、下面203aaが可撓性カバー202の上面に、略密着して当接されるようになっている。
【0101】
第2の座金203bは、スリーブ204と可撓性カバー202との間に介装されており、例えばステンレス製で、中央部には締結用ボルト205が取り付けられる貫通孔207が形成されている。また、可撓性カバー202と対向する上面203baは、可撓性カバー202における中央部202aの下面(内面)形状に倣い、可撓性カバー202の中央部202aと略対応した曲面形状で形成されており、可撓性カバー202を第1の座金203aと共に挟むとき、上面203baが可撓性カバー202の下面に、略密着して当接されるようになっている。
【0102】
なお、ここでの可撓性カバー202、第1の座金203a、第2の座金203bにも、耐腐食性及び耐錆性のコーティング処理が施されており、各部材の腐食及び発錆を抑制することができる。
【0103】
そして、締結用ボルト205は、図11の(a)及び(b)に示すように、第1の座金203aの貫通孔207、可撓性カバー202の貫通孔206、第2の座金203bの貫通孔207、スリーブ204の貫通孔208を順に通して、第1の座金203a、可撓性カバー202、第2の座金203b、スリーブ204を一体化する。ここでは、可撓性カバー202の上面は第1の座金203aの下面203aaと密着し、可撓性カバー202の下面(内面)は第2の座金203bの上面203baに密着して一体化される。
【0104】
この状態で、締結用ボルト205は、図1に示すように凹部201に挿入されてロータ軸113の上端に設けられたネジ穴113aに、第1の座金203a、可撓性カバー202、第2の座金203b、スリーブ204と共に取り付けられる。この場合、可撓性カバー202の外周部202bを回転体103の上側端面103aに当接させて、可撓性カバー202で凹部201を覆って塞ぐと共に、上側端面103aと外周部202bとの間が密になるまで、締結用ボルト205をロータ軸113に締め付け、座金203、スリーブ204と共に可撓性カバー202を回転体103に固定される。すなわち、可撓性カバー202は、吸気口101と対向する回転体103の上側端面103aに外周部202bが密に接触し、かつ、凸状を形成する中央部202aが吸気口101側を向いて取り付けられる。
【0105】
そして、図11に示す実施例の構造では、可撓性カバー202の上下の面を、可撓性カバー202における中央部202aの形状に倣った第1の座金203aの下面203aaと第2の座金203bの上面203baで密に挟んでいるので、可撓性カバー202が回転体103の上側端面103aに向けて押し付けられても、凸状をした可撓性カバー202は、その凸形状を保持したまま、可撓性カバー202の外周部202bが回転体103の上側端面103aに強く押し付けられ、可撓性カバー202の外周部202bの一部と回転体103の上側端面103aとが互いに平行に当接した状態で密に配置される。これにより、可撓性カバー202の中央部並びに可撓性カバー202の外周部202bと回転体103の上側端面103aとの間に残留するパーティクル等の異物をなくすことができ、真空ポンプ内からチャンバ側に逆流するパーティクルがなくなる。
【0106】
また、スリーブ204の上部に、第2の座金203bの上面203baの構造を持たせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0107】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を成すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0108】
100 :ターボ分子ポンプ
101 :吸気口
102 :回転翼
102d :円筒部
103 :回転体
103a :上側端面
104 :上側径方向電磁石
105 :下側径方向電磁石
106A :軸方向電磁石
106B :軸方向電磁石
107 :上側径方向センサ
108 :下側径方向センサ
109 :軸方向センサ
111 :金属ディスク
113 :ロータ軸
113a :ネジ穴
120 :保護ベアリング
121 :モータ
122 :ステータコラム
123 :固定翼
125 :固定翼スペーサ
127 :外筒
129 :ベース部
131 :ネジ付スペーサ
131a :ネジ溝
133 :排気口
141 :電子回路部
143 :基板
145 :底蓋
149 :水冷管
150 :アンプ回路
151 :電磁石巻線
161 :トランジスタ
161a :カソード端子
161b :アノード端子
162 :トランジスタ
162a :カソード端子
162b :アノード端子
165 :ダイオード
165a :カソード端子
165b :アノード端子
166 :ダイオード
166a :カソード端子
166b :アノード端子
171 :電源
171a :正極
171b :負極
181 :電流検出回路
191 :アンプ制御回路
191a :ゲート駆動信号
191b :ゲート駆動信号
191c :電流検出信号
200 :制御装置
201 :凹部
202 :可撓性カバー
202a :中央部
202a :中央部
202b :外周部
202c :凸状部
203 :座金
203a :第1の座金
203aa :下面
203b :第2の座金
203ba :上面
204 :スリーブ
205 :締結用ボルト
206 :貫通孔
207 :貫通孔
208 :貫通孔
209 :ボルト
210 :フランジ部
211 :規制壁
212 :内側フランジ部
213 :骨材
Tp1 :パルス幅時間
Tp2 :パルス幅時間
Ts :制御サイクル
iL :電磁石電流
iLmax :電流値
iLmin :電流値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12