(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129315
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法、電子機器
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20220829BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028005
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】戸端 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 慶輔
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA02
5E322AB11
5E322FA04
5E322FA09
5F136BC05
5F136BC07
5F136FA14
5F136FA16
5F136FA25
5F136FA53
5F136FA63
5F136FA64
5F136FA66
5F136GA17
5F136GA35
(57)【要約】
【課題】電子部品との密着性に優れ、貼付位置からのずれを抑制できる熱伝導シートを提供する。
【解決手段】少なくとも高分子マトリックス成分2と繊維状の熱伝導性充填剤3を含む組成物の硬化物である熱伝導シート1であって、以下の条件1で、銅板10で挟持した状態を基準に長さ方向のズレが2.5mm以下である。
条件1:20mm×5mmの短冊状に切断した熱伝導シート個片11を、鉛直方向に設置した銅板10で長さ方向を鉛直方向に向けて且つ長さ方向の一辺を銅板10の一辺に一致させて挟持し厚さを10%圧縮した状態で、-40℃と100℃の間の熱サイクル(試験温度移行時間3分以内、試験温度到達後保温時間30分)を672時間実施
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも高分子マトリックス成分と繊維状熱伝導性充填剤を含む組成物の硬化物である熱伝導シートであって、以下の条件1で、銅板で挟持した状態を基準に長さ方向のズレが2.5mm以下である熱伝導シート。
条件1:20mm×5mmの短冊状に切断した熱伝導シート個片を、鉛直方向に設置した銅板で長さ方向を鉛直方向に向けて且つ長さ方向の一辺を上記銅板の一辺に一致させて挟持し厚さを10%圧縮した状態で、-40℃と100℃の間の熱サイクル(試験温度移行時間3分以内、試験温度到達後保温時間30分)を672時間実施
【請求項2】
少なくとも高分子マトリックス成分と繊維状熱伝導性充填剤を含む組成物の硬化物である熱伝導シートであって、以下の条件2で、銅板で挟持した状態を基準に長さ方向のズレが2.5mm以下である熱伝導シート。
条件2:20mm×5mmの短冊状に切断した熱伝導シート個片を、鉛直方向に設置した銅板で長さ方向を鉛直方向に向けて且つ長さ方向の一辺を上記銅板の一辺に一致させて挟持し厚さを10%圧縮した状態で、-55℃と125℃の間の熱サイクル(試験温度移行時間3分以内、試験温度到達後保温時間30分)を672時間実施
【請求項3】
ASTM D 2240準拠のタイプOOデュロメータで20以上60未満の硬度を有する請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
上記高分子マトリックス成分は、2液性の付加反応型液状シリコーンである請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
初期厚みの70%まで圧縮し、常温で24時間保持した後に開放し30分経過した時の復元率が85%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
圧縮応力が5.0psi以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
熱伝導性充填剤としてさらにアルミニウム化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、上記アルミニウム化合物の含有量が39体積%より多く51%未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導シート
【請求項8】
高分子マトリックス成分と繊維状熱伝導性充填剤とを含む熱伝導組成物を調製する工程と、
上記熱伝導組成物から成形体ブロックを形成する工程と、
上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導シートを得る工程とを有し、
上記熱伝導シートが、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝導シートである、熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝導シートを備えた電子機器であり、上記熱伝導シートは電子部品と放熱部材との間に挟持され、
上記熱伝導シートは、面方向が略鉛直方向となるように固定されて用いられることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法及びこれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パーソナルコンピュータ等の各種電気機器やその他の機器に搭載されている半導体素子は、駆動により熱が発生し、発生した熱が蓄積すると半導体素子の駆動や周辺機器へ悪影響が生じるおそれがあるため、種々の冷却方法が用いられている。
【0003】
半導体素子を有する機器の冷却方法としては、当該機器にファンを取り付けて機器筐体内の空気を冷却する方法、半導体素子に放熱フィンや放熱板等のヒートシンクを取り付ける方法、フッ素系不活性液体に浸漬する方式等が知られている。半導体素子にヒートシンクを取り付けて冷却を行う場合、半導体素子の熱を効率よく放出させるために、半導体素子とヒートシンクとの間に放熱グリスなどの液状又はペースト状の熱伝導材が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-023335号公報
【特許文献2】特開2015-029076号公報
【特許文献3】特開2015-029075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、パーソナルコンピュータのCPUなどの電子部品はその高速化、高性能化に伴って、その放熱量は年々増大する傾向にある。しかしながら、反対にプロセッサ等のチップサイズは微細シリコン回路技術の進歩によって、従来と同等サイズかより小さいサイズとなり、単位面積あたりの熱流速は高くなっている。したがって、その温度上昇による不具合などを回避するために、CPUなどの電子部品をより効率的に放熱、冷却することが求められている。
【0006】
また、電子機器のスリム化(小型化)が進んだことで、ICチップなどの発熱を伴う電子部品を水平方向にではなく、鉛直方向に向けて設置するような設計も出てきている。
【0007】
ここで、液状又はペースト状の熱伝導材を略鉛直方向に向けた電子部品に使用した場合、電子部品の発熱と冷却の熱サイクルに伴い、熱伝導材が電子部品と放熱部材との間から流出するいわゆるポンプアウト現象が生じ得る。これにより、電子部品と放熱部材の間に空気が入ることで熱抵抗が上昇し、電子部品の駆動や周辺機器への悪影響が生じ得る。また、硬化性の液状熱伝導剤を使用すると、電子部品の熱サイクルに伴うポンプアウト現象により、電子部品の反り等の変形に追従できず、空気層ができることで放熱が阻害され、電子部品の駆動や周辺機器への悪影響が生じ得る。
【0008】
このような問題に対して、熱伝導性樹脂組成物がシート状に成形された熱伝導シートの使用がされている。熱伝導シートの面方向を鉛直方向に向けて電子部品に使用する場合、電子機器が使用され続けていくなかで熱伝導シートが放熱特性を維持するためには、電子部品が発熱と冷却を繰り返すことによっても、所定の貼付位置からの位置ずれや落下が防止される必要が有る。また、熱伝導シートには、電子部品が発熱と冷却を繰り返すことにより変形した場合にも追従し、電子部品や放熱部材との密着性を維持し続ける復元性が求められる。
【0009】
そこで、本技術は、電子部品との密着性に優れ、貼付位置からのずれを抑制できる熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法及びこれを用いた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本技術に係る熱伝導シートは、少なくとも高分子マトリックス成分と繊維状熱伝導性充填剤を含む組成物の硬化物である熱伝導シートであって、以下の条件1で、銅板で挟持した状態を基準に長さ方向のズレが2.5mm以下である。
条件1:20mm×5mmの短冊状に切断した熱伝導シート個片を、鉛直方向に設置した銅板で長さ方向を鉛直方向に向けて且つ長さ方向の一辺を上記銅板の一辺に一致させて挟持し厚さを10%圧縮した状態で、-40℃と100℃の間の熱サイクル(試験温度移行時間3分以内、試験温度到達後保温時間30分)を672時間実施
【0011】
また、本技術に係る熱伝導シートの製造方法は、高分子マトリックス成分と繊維状熱伝導性充填剤とを含む熱伝導組成物を調製する工程と、上記熱伝導組成物から成形体ブロックを形成する工程と、上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導シートを得る工程とを有し、上記記載の熱伝導シートを得るものである。
【0012】
また、本技術に係る電子機器は、上記記載の熱伝導シートを備えた電子機器であり、上記熱伝導シートは電子部品と放熱部材との間に挟持され、上記熱伝導シートは、面方向が略鉛直方向となるように固定されて用いられるものである。
【発明の効果】
【0013】
本技術によれば、所定の熱サイクル試験における長さ方向のズレが2.5mm以下であるため、略鉛直方向に設けられた半導体素子等の発熱を伴う電子部品(発熱部品)に使用され、当該発熱部品が発熱と冷却を繰り返した場合にも、貼付位置が大きくずれることなく、また発熱部品の発熱及び冷却に伴う反りなどの変形にも追従して密着し、熱抵抗の上昇を防止でき、熱伝導シートの放熱特性を維持することができる。
【0014】
また、これにより、半導体素子等の発熱部品を鉛直方向に向けて設置することが可能となり、電子機器の設計の自由度が増し、ICチップを鉛直方向に向けて設置することで設置幅の省スペース化を図る等、電子機器の小型化等の要請に応じることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、熱伝導シートの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本技術に係る熱サイクル試験の構成を示す図であり、(A)は銅板で熱伝導シート個片を挟持した状態を示す断面図、(B)は締結具を用いて銅板で熱伝導シート個片を挟持する例を示す正面図、(C)は熱伝導シート個片の長さ方向の一辺を銅板の一辺に一致させた状態を示す正面図である。
【
図3】
図3は、銅板で挟持した熱伝導シート個片の、熱サイクル試験後のズレ量を示す図である。
【
図4】
図4は、熱伝導シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術が適用された熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法及びこれを用いた電子機器について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本技術は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0017】
図1は、本技術に係る熱伝導シートの一例を示す断面図である。
図1に示す熱伝導シート1は、少なくとも高分子マトリックス成分2と繊維状の熱伝導性充填剤3を含む組成物の硬化物である熱伝導シートであって、以下の条件1で、銅板で挟持した状態を基準に長さ方向のズレが2.5mm以下である。
条件1:20mm×5mmの短冊状に切断した熱伝導シート個片を、鉛直方向に設置した銅板で長さ方向を鉛直方向に向けて且つ長さ方向の一辺を上記銅板の一辺に一致させて挟持し厚さを10%圧縮した状態で、-40℃と100℃の間の熱サイクル(試験温度移行時間3分以内、試験温度到達後保温時間30分)を672時間実施
【0018】
本技術が適用された熱伝導シート1は、条件1での長さ方向でのズレが2.5mm以下であるため、電子部品が発熱と冷却を繰り返すことによっても、ズレた長さ分が電子部品と放熱部材との間からはみ出したとしても、電子部品と放熱部材とに挟持されている部分において、85%以上の復元率を有し、所定の貼付位置からの位置ずれや落下を防止することができる。また、熱伝導シート1は、電子部品が発熱と冷却を繰り返すことにより変形した場合にも追従し、電子部品や放熱部材との密着性を維持し続け、熱抵抗の上昇を抑制することができる。
【0019】
なお、熱サイクル試験によるズレ量の測定は、銅板により挟持され銅板側縁からはみ出した状態を基準とし、はみ出した部分におけるズレ量を計測する。これは、電子部品と放熱部材の間に挟持され10%圧縮された状態において、熱サイクルに対する耐性(位置ずれの有無や密着性)を検討する必要が有るためである。
【0020】
なお、熱サイクル試験に供する熱伝導シート個片の厚さは、例えば1.0mm又は2.0mmのものを好適に使用することができる。
【0021】
図2、
図3は、本技術に係る条件1に係る熱サイクル試験を示す図である。
図2(A)に示すように、条件1では、2枚の銅板10(3.0mm×3.0mm、厚さ2.0mm)によって、20mm×5mmの短冊状に切断した熱伝導シート個片11を挟持する。また、
図2(A)に示すように、2枚の銅板10,10間には、熱伝導シート個片11の圧縮率が10%となるように、銅板間距離を規定するスペーサ12が配置される。2枚の銅板10,10で熱伝導シート個片11を挟持した状態を保持する方法は、例えば
図2(B)に示すように、2枚の銅板10,10を各コーナー部に設けたボルト及びナットなどの締結具13で締結する方法がある。また、銅板10,10の側縁をクリップで挟持してもよい。なお、熱サイクル試験における銅板10の反りを阻害しないようにする観点から、スペーサ12は、銅板10の外縁部、例えば締結具13と一体に又は近傍に設けることが好ましい。
【0022】
また、
図2(C)に示すように、熱伝導シート個片11は、長さ方向の一辺が銅板10の一辺10a(下片)に一致させて挟持される。これにより、熱伝導シート個片11は、
図2(A)に示すように、銅板10の一辺から若干はみ出す。
図3に示すように、この銅板10で挟持された状態をズレ量計測の基準とし、はみ出した先端部が鉛直下側にズレた長さをズレS(mm)とする。
【0023】
熱伝導シート個片11銅板10で挟持されたサンプル14は、熱伝導シート個片11の長さ方向を鉛直方向とし、且つ熱伝導シート個片11がはみ出す銅板10の一辺10aを鉛直下向きにして、治具等により熱伝導シート個片11の下側縁が地面などに触れないように載置され、熱サイクル試験に供される。
【0024】
図1に示す熱伝導シート1は、少なくとも高分子マトリックス成分2(バインダ樹脂)と繊維状の熱伝導性充填剤3を含む組成物の硬化物である熱伝導シートである。また、熱伝導シート1は、繊維状の熱伝導性充填剤3以外の他の熱伝導性充填剤4をさらに含んでもよい。
【0025】
そして、熱伝導シート1は、上述した条件1で熱サイクル試験を行った場合、長さ方向でのズレが2.5mm以下である。すなわち、熱伝導シート1は、発熱する電子部品と放熱部材との間に挟持され、電子部品が発熱と冷却を繰り返すことによっても、鉛直方向に対するズレが2.5mm以下に留まる。条件1での熱サイクル試験におけるズレが2.5mmを超える場合、85%以上の復元率を維持することが困難となり、電子部品が発熱と冷却を繰り返すことにより、所定の貼付位置からの位置ずれや落下が生じ得る。また、電子部品が発熱と冷却を繰り返すことにより変形した場合に追従できず、電子部品や放熱部材との密着性が低減することにより熱抵抗の上昇を招く恐れがある。
【0026】
なお、本技術において、復元率とは、1mm厚、直径29mmの円盤状熱伝導シートを常温で0.7mm(初期厚みの70%)まで圧縮し、24時間保持し、圧力を開放した後30分経過時の厚みを元の厚み(1mm)で除した値×100(%)をいう。
【0027】
また、本技術に係る熱伝導シートは、少なくとも高分子マトリックス成分と繊維状の熱伝導性充填剤を含む組成物の硬化物である熱伝導シートであって、以下の条件2で、銅板で挟持した状態を基準に長さ方向のズレが2.5mm以下である熱伝導シートとしてもよい。
条件2:20mm×5mmの短冊状に切断した熱伝導シート個片を、鉛直方向に設置した銅板で長さ方向を鉛直方向に向けて且つ長さ方向の一辺を上記銅板の一辺に一致させて挟持し厚さを10%圧縮した状態で、-55℃と125℃の間の熱サイクル(試験温度移行時間3分以内、試験温度到達後保温時間30分)を672時間実施
【0028】
条件2は、上述した条件1よりも熱サイクルの温度幅が大きい。条件2での長さ方向でのズレが2.5mm以下であるため、条件1よりもさらに過酷な環境に置いた場合にも、85%以上の復元率を有し、所定の貼付位置からの位置ずれや落下を防止することができ、また、電子部品が発熱と冷却を繰り返すことにより変形した場合にも追従し、電子部品や放熱部材との密着性を維持し続け、熱抵抗の上昇を抑制することができる。
【0029】
また、熱伝導シート1は、上記条件1又は条件2で、銅板で挟持した状態を基準に長さ方向のズレを2.5mm以下とする観点から、ASTM D 2240準拠のタイプOOデュロメータで20以上60未満の硬度を有することが好ましい。該硬度が60以上の場合、上記条件1又は条件2下で、復元力が不足し、所定の貼付位置からの位置ずれや落下を生じ得る。また、電子部品が発熱と冷却を繰り返すことにより変形した場合に追従できず、電子部品や放熱部材との密着性が損なわれて熱抵抗の上昇を招く恐れがある。
【0030】
また、熱伝導シート1は、上記条件1又は条件2で、銅板で挟持した状態を基準に長さ方向のズレを2.5mm以下とする観点から、上記高分子マトリックス成分は、2液性の付加反応型液状シリコーンであり、硬化触媒を含有する主剤と、硬化剤の比が以下の条件を満たすことが好ましい。
主剤:硬化剤=35:65~70:30
【0031】
上記比よりも主剤成分が硬化剤成分より相対的に少なくなると、後述するようにシリコーンの未硬化成分の滲出が少なくシート表面のタック性が不足し、上記条件1又は条件2下で、所定の貼付位置からの位置ずれや落下を生じ得る。上記比よりも主剤成分が硬化剤成分より相対的に多くなると、シリコーンの架橋密度低下により復元力が不足し、上記条件1又は条件2下で銅板の膨張収縮に追従できず、所定の貼付位置からの位置ずれや落下を生じ得る。
【0032】
また、熱伝導シート1は、上記条件1又は条件2で、銅板で挟持した状態を基準に長さ方向のズレを2.5mm以下とする観点から、圧縮応力が5.0[psi]以上であることが好ましい。圧縮応力の測定方法は、2.0mm厚の熱伝導シートを25mm角に切り出し、テンシロンにて、押し付け速度は20mm/secとし、30%圧縮して3分間保持し、3分間後の圧縮応力を測定して得た値(psi)である。
【0033】
また、熱伝導シート1は、熱伝導性充填剤としてさらにアルミニウム化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、上記アルミニウム化合物の含有量を39体積%より多く且つ51%未満とすることが好ましい。アルミニウム化合物の含有量が39体積%以下の場合、充填量不足により熱伝導率が低下する。また、アルミニウム化合物の含有量が51%以上の場合、繊維状熱伝導性充填剤の充填の妨げになる。
【0034】
熱伝導シート1の厚みは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導シート1の厚みは、0.05mm以上とすることができ、0.1mm以上とすることもできる。また、熱伝導シート1の厚みの上限値は、5mm以下とすることができ、4mm以下であってもよく、3mm以下であってもよい。熱伝導シート1は、取扱性の観点では、厚みが0.1~4mmであることが好ましい。熱伝導シート1の厚みは、例えば、熱伝導シート1の厚みを任意の5箇所で測定し、その算術平均値から求めることができる。
【0035】
以下、熱伝導シート1の構成要素の具体例について説明する。熱伝導シート1は、例えば、少なくとも高分子マトリックス成分(バインダ樹脂)2と、繊維状の熱伝導性充填剤3とを含む組成物の硬化物である熱伝導シートである。
【0036】
<高分子マトリックス成分>
高分子マトリックス成分2は、繊維状熱伝導性充填剤3や他の熱伝導性充填剤4を熱伝導シート1内に保持するためのものである。高分子マトリックス成分2は、熱伝導シート1に要求される機械的強度、耐熱性、電気的性質等の特性に応じて選択される。高分子マトリックス成分2としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂の中から選択することができる。
【0037】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のエチレン-αオレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリフェニレン-エーテル共重合体(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル等のポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、アイオノマー等が挙げられる。
【0038】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン- ブタジエンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0039】
熱硬化性樹脂としては、架橋ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。架橋ゴムの具体例としては、天然ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0040】
高分子マトリックス成分2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂としては、例えば、アルケニル基を有するシリコーンを主成分とし、硬化触媒を含有する主剤と、ヒドロシリル基(Si-H基)を有する硬化剤とからなる、2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いることができる。アルケニル基を有するシリコーンとしては、例えば、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。硬化触媒は、アルケニル基を有するシリコーン中のアルケニル基と、ヒドロシリル基を有する硬化剤中のヒドロシリル基との付加反応を促進するための触媒である。硬化触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられ、例えば、白金族系硬化触媒、例えば白金、ロジウム、パラジウムなどの白金族金属単体や塩化白金などを用いることができる。ヒドロシリル基を有する硬化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。高分子マトリックス成分2は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
熱伝導シート1中の高分子マトリックス成分2の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導シート1中の高分子マトリックス成分2の含有量は、熱伝導シート1の柔軟性の観点では、20体積%以上とすることができ、25体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよく、35体積%以上であってもよい。また、熱伝導シート1中の高分子マトリックス成分2の含有量は、熱伝導シート1の熱伝導率の観点では、70体積%以下とすることができ、60体積%以下であってもよく、50体積%以下であってもよく、41体積%以下であってもよく、39体積%以下であってもよい。また、熱伝導シート1中の高分子マトリックス成分2の含有量は、例えば、熱伝導シート1の圧縮応力や復元率の観点では、20~50体積%とすることが好ましく、35体積%以上、41体積%以下とすることがより好ましい。
【0042】
<繊維状熱伝導性充填剤>
熱伝導シート1は、繊維状熱伝導性充填剤3を含む。繊維状熱伝導性充填剤3とは、長軸と短軸とを有し、長軸と短軸の長さが異なりアスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)が1を超える形状であるものを含む。繊維状熱伝導性充填剤3は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。繊維状熱伝導性充填剤3は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属繊維、炭素繊維などを用いることができ、炭素繊維が好ましい。
【0043】
炭素繊維は、例えば、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、PBO繊維を黒鉛化した炭素繊維、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成された炭素繊維を用いることができる。これらの中でも、熱伝導性の観点では、ピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0044】
繊維状熱伝導性充填剤3の平均繊維長(平均長軸長さ)は、例えば、50~250μmとすることができ、75~220μmであってもよい。また、繊維状熱伝導性充填剤3の平均繊維径(平均短軸長さ)は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、4~20μmとすることができ、5~14μmであってもよい。繊維状熱伝導性充填剤3のアスペクト比は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱伝導性の観点では、例えば、8以上とすることができ、9~30であってもよい。繊維状熱伝導性充填剤3の平均長軸長さ及び平均短軸長さは、例えば、マイクロスコープや走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することができる。
【0045】
炭素繊維は、目的に応じて、表面が絶縁被膜によって被覆されていてもよい。このように、炭素繊維として、絶縁被覆炭素繊維を用いることができる。絶縁被覆炭素繊維は、炭素繊維と、炭素繊維の表面の少なくとも一部に絶縁皮膜とを有し、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0046】
絶縁皮膜は、電気絶縁性を有する材料からなり、例えば、酸化ケイ素や、重合性材料の硬化物で形成されている。重合性材料は、例えばラジカル重合性材料であり、重合性を有する有機化合物、重合性を有する樹脂などが挙げられる。ラジカル重合性材料は、エネルギーを利用してラジカル重合する材料であれば、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラジカル重合性2重結合を有する化合物が挙げられる。ラジカル重合性2重結合としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。ラジカル重合性2重結合を有する化合物におけるラジカル重合性2重結合の個数は、耐熱性や、耐溶剤性を含む強度の観点では、2つ以上が好ましい。ラジカル重合性2重結合を2つ以上有する化合物は、例えば、ジビニルベンゼン(Divinylbenzene:DVB)、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物が挙げられる。ラジカル重合性材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ラジカル重合性材料の分子量は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50~500の範囲とすることができる。絶縁皮膜が重合性材料の硬化物で形成されている場合、絶縁被膜における重合性材料に由来する構成単位の含有量は、例えば、50質量%以上とすることができ、90質量%以上とすることもできる。
【0047】
絶縁皮膜の平均厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、高い絶縁性を実現する観点では、50nm以上とすることができ、100nm以上であってもよく、200nm以上であってもよい。絶縁被膜の平均厚みの上限値は、例えば、1000nm以下とすることができ、500nm以下であってもよい。絶縁被膜の平均厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めることができる。
【0048】
絶縁皮膜により炭素繊維を被覆する方法としては、例えば、ゾルゲル法、液相堆積法、ポリシロキサン法、特開2018-98515号公報に記載された炭素繊維の表面の少なくとも一部に重合性材料の硬化物からなる絶縁皮膜を形成する方法等が挙げられる。
【0049】
熱伝導シート1中の繊維状熱伝導性充填剤3の含有量は、熱伝導シート1の熱伝導性の観点では、例えば、5体積%以上とすることができ、10体積%以上とすることもでき、14体積%以上とすることもでき、20体積%以上とすることもでき、25体積%以上とすることもできる。また、熱伝導シート1中の繊維状熱伝導性充填剤3の含有量は、熱伝導シート1の成形性の観点では、例えば30体積%以下とすることができ、28体積%以下とすることもでき、25体積%以下とすることもでき、23体積%以下とすることもできる。熱伝導シート1中の繊維状熱伝導性充填剤3の含有量は、例えば、5~50体積%とすることができ、14~23体積%とすることが好ましい。2種以上の繊維状熱伝導性充填剤3を併用する場合、その合計量が上述した含有量を満たすことが好ましい。
【0050】
<他の熱伝導性充填剤>
他の熱伝導性充填剤4は、上述した繊維状熱伝導性充填剤3以外の熱伝導性充填剤であり、例えば、無機フィラーが挙げられる。他の熱伝導性充填剤4の形状は、例えば、球状、破砕状、楕円球状、塊状、粒状、扁平状などが挙げられる。他の熱伝導性充填剤4の形状は、充填性の観点では、破砕状、球状、楕円球状などが好ましく、熱伝導シート1の復元性、特に、熱伝導シート1において上記条件1又は条件2で熱サイクル試験を行った場合の復元率をより良好とする観点では破砕状が好ましい。他の熱伝導性充填剤4は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
他の熱伝導性充填剤4は、例えば、無機フィラーであり、具体的には、酸化アルミニウム(アルミナ、サファイア)、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウム、酸化亜鉛などを用いることができる。特に、熱伝導シート1の復元性や熱伝導率の観点では、窒化アルミニウム及びアルミナの少なくとも1種を用いることが好ましく、具体例として、アルミナを単独で用いる態様、窒化アルミニウムを単独で用いる態様、及びこれらを併用する態様が挙げられる。
【0052】
アルミナ粒子の平均粒径(D50)は、例えば、0.1~10μmとすることができ、0.1~8μmであってもよく、0.1~7μmであってもよく、0.1~2μmであってもよい。窒化アルミニウム粒子の平均粒径(D50)は、例えば、0.1~10μmとすることができ、0.1~8μmであってもよく、0.1~7μmであってもよく、0.1~2μmであってもよい。
【0053】
他の熱伝導性充填剤4の平均粒径は、他の熱伝導性充填剤4の粒子径分布全体を100%とした場合に、粒子径分布の小粒子径側から粒子径の値の累積カーブを求めたとき、その累積値が50%となるときの粒子径をいう。粒度分布(粒子径分布)は、体積基準によって求められたものである。粒度分布の測定方法としては、例えば、レーザー回折型粒度分布測定機を用いる方法が挙げられる。
【0054】
他の熱伝導性充填剤4は、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、アルコキシシラン化合物などのカップリング剤により他の熱伝導性充填剤4を処理することが挙げられる。カップリング剤の処理量は、例えば、他の熱伝導性充填剤4の総量に対して0.1~1.5体積%の範囲とすることができる。
【0055】
アルコキシシラン化合物は、ケイ素原子(Si)が持つ4個の結合のうち、1~3個がアルコキシ基と結合し、残りの結合が有機置換基と結合した構造を有する化合物である。アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。アルコキシシラン化合物の具体例としては、トリメトキシシラン化合物、トリエトキシシラン化合物などが挙げられる。
【0056】
熱伝導シート1中の他の熱伝導性充填剤4の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。熱伝導シート1がアルミニウム化合物から選ばれる少なくとも1種を含む場合、アルミニウム化合物の含有量は39体積%より多く、51体積%未満とすることが好ましい。熱伝導シート1中のアルミニウム化合物の含有量は、熱伝導シート1の復元性をより良好にする観点では、例えば、42~45体積%とすることが好ましい。2種以上の他の熱伝導性充填剤4を併用する場合、その合計量が上述した含有量を満たすことが好ましい。
【0057】
熱伝導シート1が繊維状熱伝導性充填剤3と他の熱伝導性充填剤4を含む場合、熱伝導シート1中の繊維状熱伝導性充填剤3と他の熱伝導性充填剤4の含有量の合計は、熱伝導シート1の復元性や熱伝導率の観点では、50体積%以上とすることができ、55体積%以上であってもよく、59体積%以上であってもよく、60体積%以上であってもよい。また、熱伝導シート1中の繊維状熱伝導性充填剤3と他の熱伝導性充填剤4の含有量の合計は、熱伝導シート1の復元性の観点では、77体積%未満とすることができ、67体積%以下であってもよく、65体積%以下であってもよく、64体積%以下であってもよく、63体積%以下であってもよく、62体積%以下であってもよく、61体積%以下であってもよい。熱伝導シート1中の繊維状熱伝導性充填剤3と他の熱伝導性充填剤4の含有量の合計は、例えば、59体積%以上65体積%以下とすることが好ましい。
【0058】
熱伝導シート1は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、例えば、分散剤、硬化促進剤、遅延剤、粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤などが挙げられる。
【0059】
<熱伝導シートの製造方法>
本技術に係る熱伝導シートの製造方法は、少なくとも高分子マトリックス成分2と繊維状熱伝導性充填剤3とを含む熱伝導組成物を調製する工程(以下、工程Aともいう。)と、熱伝導組成物から成形体ブロックを形成する工程(以下、工程Bともいう。)と、成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導シート1を得る工程(以下、工程Cともいう。)とを有する。
【0060】
本製造方法で得られる熱伝導シート1は、上述のように、上記条件1又は条件2で熱サイクル試験を行った場合のズレが2.5mm以下であり、良好な復元率を有する。そのため、熱伝導シート1を発熱部品と放熱部材との間に配置した場合に、発熱部品と放熱部材との間のギャップが開いたとしても、そのギャップに対して熱伝導シート1を容易かつ迅速に追従させることができる。これにより、熱伝導シート1の位置ずれや熱抵抗の悪化を抑制できる。
【0061】
[工程A]
工程Aでは、高分子マトリックス成分2と繊維状熱伝導性充填剤3とを含む熱伝導組成物を調製する。熱伝導組成物は、上述した他の熱伝導性充填剤4を含んでもよい。熱伝導組成物は、各種添加剤や揮発性溶剤ととともに公知の手法で均一に混合してもよい。なお高分子マトリックス成分を2液性の付加反応型液状シリコーンとし、硬化触媒を含有する主剤と硬化剤で構成する場合、主剤と硬化剤の比が以下の条件を満たすことが好ましい。当該比を満たすことにより、熱伝導シート1は、シート表面にシリコーンの未硬化成分が湧出ることによりタック性が付与され、また、シリコーンの架橋密度が適正化されることにより所望の復元力を備え、上記条件1又は条件2下で、所定の貼付位置からの位置ずれや落下がより抑制しやすくなる。
主剤:硬化剤=35:65~70:30
【0062】
工程Bでは、熱伝導組成物から成形体ブロックを形成する。成形体ブロックの形成方法としては、押出成形法、金型成形法などが挙げられる。押出成形法、金型成形法としては、特に制限されず、公知の各種押出成形法、金型成形法の中から、熱伝導組成物の粘度や熱伝導シート1に要求される特性等に応じて適宜採用することができる。例えば、押出成形法において、熱伝導組成物をダイより押し出す際、あるいは金型成形法において、熱伝導組成物を金型へ圧入する際、高分子マトリックス成分2が流動し、その流動方向に沿って繊維状熱伝導性充填剤3の長軸が配向する。
【0063】
成形体ブロックの大きさ・形状は、求められる熱伝導シートの大きさに応じて決めることができる。例えば、断面の縦の大きさが0.5~15cmで横の大きさが0.5~15cmの直方体が挙げられる。直方体の長さは必要に応じて決定すればよい。押出成形法では、熱伝導組成物の硬化物からなり、押出方向に繊維状熱伝導性充填剤3の長軸が配向した、柱状の成形体ブロックを形成しやすい。
【0064】
得られた成形体ブロックは、熱硬化させることが好ましい。熱硬化における硬化温度は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高分子マトリックス成分2がシリコーン樹脂である場合、60℃~120℃の範囲とすることができる。熱硬化における硬化時間は、例えば、30分~10時間の範囲とすることができる。
【0065】
<工程C>
工程Cでは、成形体ブロックをシート状にスライスして、厚さ方向に繊維状熱伝導性充填剤3の長軸が配向した熱伝導シート1を得る。スライスにより得られるシートの表面(スライス面)には、繊維状熱伝導性充填剤3が露出する。スライスする方法としては特に制限はなく、成形体ブロックの大きさや機械的強度により公知のスライス装置の中から適宜選択することができる。スライス装置としては、例えば、超音波カッタ、かんな(鉋)などが挙げられる。成形体ブロックのスライス方向としては、成形方法が押出成形法である場合、押出し方向に繊維状熱伝導性充填剤3の長軸が配向しているものもあるため、押出し方向に対して60~120度であることが好ましく、70~100度の方向であることがより好ましく、90度(垂直)の方向であることがさらに好ましい。
【0066】
このように、工程Aと、工程Bと、工程Cとを有する製造方法では、繊維状熱伝導性充填剤3が高分子マトリックス成分2に分散した熱伝導シート1であって、繊維状熱伝導性充填剤3が断面視で厚さ方向に配向された熱伝導シート1を得ることができる。
【0067】
熱伝導シート1の製造方法は、上述した例に限定されず、例えば、工程Cの後に、スライス面をプレスする工程Dをさらに有していてもよい。このような工程Dを有する製造方法では、工程Cで得られる熱伝導シート1の表面がより平滑化され、他の部材との密着性をより向上できる。プレスの方法としては、平盤と表面が平坦なプレスヘッドとからなる一対のプレス装置を使用することができる。また、熱伝導シート1の表面をピンチロールでプレスしてもよい。
【0068】
プレスの際の圧力は、例えば、0.1~100MPaの範囲とすることができ、0.1~1MPaの範囲であってもよく、0.1~0.5MPaの範囲であってもよい。プレス時間は、プレスの際の圧力、シート面積などに応じて適宜選択することができ、例えば、10秒~5分の範囲とすることができ、30秒~3分の範囲であってもよい。
【0069】
プレスの効果をより高め、プレス時間を短縮するために、成形体シートを構成する高分子マトリックス成分のガラス転移温度(Tg)以上でプレスを行ってもよい。一態様として、ヒータを内蔵したプレスヘッドを用いて加熱しながらプレスを行ってもよい。プレス温度は、例えば、0~180℃の範囲とすることができ、室温(例えば25℃)~100℃の範囲であってもよく、30~100℃の範囲であってもよい。
【0070】
<電子機器>
熱伝導シート1は、例えば、発熱部品と放熱部材との間に配置させることにより、発熱部品で生じた熱を放熱部材に逃がすためにそれらの間に配された構造の電子機器(サーマルデバイス)とすることができる。電子機器は、発熱部品と放熱部材と熱伝導シート1とを少なくとも有し、必要に応じて、その他の部材をさらに有していてもよい。
【0071】
発熱部品としては、特に限定されず、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱部品には、通信機器における光トランシーバ等の光信号を受信する部品も含まれる。
【0072】
放熱部材としては、特に限定されず、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバ筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。ヒートシンクやヒートスプレッダの材質としては、例えば、銅、アルミニウムなどが挙げられる。放熱部材としては、ヒートスプレッダやヒートシンク以外にも、熱源から発生する熱を伝導して外部に放散させるものであればよく、例えば、放熱器、冷却器、ダイパッド、プリント基板、冷却ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、ベーパーチャンバー、金属カバー、筐体等が挙げられる。ヒートパイプは、例えば、円筒状、略円筒状又は扁平筒状の中空構造体である。
【0073】
図4は、熱伝導シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。例えば、熱伝導シート1は、
図4に示すように、各種電子機器に内蔵される半導体装置50に実装され、発熱部品と放熱部材との間に挟持される。
図4に示す半導体装置50は、電子部品51と、ヒートスプレッダ52と、熱伝導シート1とを備え、熱伝導シート1がヒートスプレッダ52と電子部品51との間に挟持される。熱伝導シート1が、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に挟持されることにより、ヒートスプレッダ52とともに、電子部品51の熱を放熱する放熱部材を構成する。熱伝導シート1の実装場所は、ヒートスプレッダ52と電子部品51との間や、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に限らず、電子機器や半導体装置の構成に応じて、適宜選択できる。ヒートスプレッダ52は、例えば方形板状に形成され、電子部品51と対峙する主面52aと、主面52aの外周に沿って立設された側壁52bとを有する。ヒートスプレッダ52は、側壁52bに囲まれた主面52aに熱伝導シート1が設けられ、主面52aと反対側の他面52cに熱伝導シート1を介してヒートシンク53が設けられる。
【0074】
ここで、本技術が適用された熱伝導シート1は、面方向が略鉛直方向となるように固定されて用いることができる。半導体装置50等の電子機器は、近年のスリム化(小型化)が進んだことで、ICチップなどの発熱を伴う電子部品51を水平方向にではなく、鉛直方向に向けて設置する設計もある。熱伝導シート1は、上記条件1又は条件2での熱サイクル試験における長さ方向のズレが2.5mm以下であるため、略鉛直方向に設けられた半導体素子等の電子部品51に使用され、当該電子部品51が発熱と冷却を繰り返した場合にも、貼付位置が大きくずれることなく、また発熱部品の発熱及び冷却に伴う反りなどの変形にも追従して密着し、熱抵抗の上昇を防止でき、熱伝導シートの放熱特性を維持することができる。
【0075】
したがって、半導体装置50は、半導体素子等の電子部品51を鉛直方向に向けて設置することが可能となり、電子機器の設計の自由度が増し、ICチップを鉛直方向に向けて設置することで設置幅の省スペース化を図る等、電子機器の小型化等の要請に応じることが可能となる。
【実施例0076】
以下、本技術の実施例について説明する。本技術は、これらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例では、熱伝導性樹脂組成物のシリコーン樹脂量、熱伝導性充填剤量、硬さ(ASTM D 2240準拠のタイプOOデュロメータ硬度)を変えた熱伝導シートのサンプルを形成し、各熱伝導シートサンプルについて、シート表面のタッキネス[gf]、熱抵抗[℃・cm2/W]及び圧縮率、圧縮応力[psi]並びに復元率[%]を測定、評価した。また、上記条件1及び条件2に従って、各熱伝導シートサンプルを銅板に挟んで縦置きにし、熱サイクル試験に投入してシートのズレを観察した。
【0077】
[熱抵抗及び圧縮率]
熱抵抗の評価は、2.0mm厚の熱伝導シートサンプルの熱抵抗[℃・cm2/W]を、ASTM-D5470に準拠した方法で0.7kgf/cm2の荷重で測定した。圧縮率は熱抵抗測定時の厚みから算出した。
【0078】
[バルク熱伝導率]
バルク熱伝導率は、ASTM-D5470に準拠した方法で各熱伝導シートの熱抵抗を測定し、横軸に測定時の熱伝導シートの厚み(mm)、縦軸に熱伝導シートの熱抵抗(℃・cm2/W)をプロットし、そのプロットの傾きから熱伝導シートのバルク熱伝導率(W/m・K)を算出した。
【0079】
[タイプOO硬度]
デュロメータタイプOOにおける硬度は、ASTM-D2240に準拠した測定方法で、2mm厚の熱伝導シートを5枚重ねて10mm厚とし、片面5点、両面で合計10点測定した測定結果の平均値とした。
【0080】
[タッキネス]
タッキネス(gf)について、マルコム製タッキネステスター(TK-1S)を使用し、荷重50gf、押し付け時間0.2秒、速度10mm/secの条件で測定した。
【0081】
[シートのズレ]
シートのズレ評価は、3cm角の銅板(C1100P)の中央下辺に、外形サイズを20×5mmにカットした熱伝導シートサンプルを、長さ方向の一辺(短辺)を上記銅板の下辺に一致させて置いたのち、圧縮率10%となるように挟持した。熱伝導シートサンプルの長さ方向が鉛直方向となり、且つ銅板の下辺を鉛直下向きとなるように設置し、銅板の下辺からはみ出たシートが地面と接触しないよう浮かせ、はみ出た距離を測定した。その後、条件1に係る熱サイクル試験(-40℃⇔100℃:試験温度移行時間3分以内、試験温度到達後保温時間30分、総試験時間672時間)及び条件2に係る熱サイクル試験(-55℃⇔125℃:試験温度移行時間3分以内、試験温度到達後保温時間30分、総試験時間672時間)に投入し、672時間経過後のシートはみだし量を測定する。672時間経過後のはみだし量から初期のはみだし量を引くことでズレの距離(mm)を算出した。各熱サイクル試験は、気槽式の試験機で行った。
【0082】
[圧縮応力]
2.0mm厚の熱伝導シートサンプルを25mm角に切り出し、テンシロンにて圧縮応力を測定した。押し付け速度は20mm/secとし、30%圧縮して3分間保持し、3分間後の圧縮応力(psi)を得た。
【0083】
[復元率]
1.0mm厚の熱伝導シートサンプルを、直径29mmの円盤状に切り出し、常温で0.7mm(初期厚みの70%)まで圧縮し、24時間保持し、圧力を開放した後30分経過時の厚みtnを元の厚みto(1mm)で除して復元率(=tn/to×100[%])を算出した。
【0084】
[実施例1]
実施例1では、表1に示すように、2液性の付加反応型液状シリコーンに、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径2μmアルミナ粒子42体積%、繊維状熱伝導性充填剤として平均繊維長150μmのピッチ系炭素繊維23体積%を混合し、シリコーン組成物を調製した。実施例1における熱伝導性充填剤の合計量は65体積%である。また、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分とするものに添加剤と併せて35体積%使用し、完成後の熱伝導シートがASTM D 2240準拠のタイプOOデュロメータで硬度50となるように、主剤と硬化剤の構成比(主剤:硬化剤=58:42)を調整した。得られたシリコーン組成物を、中空四角柱状の金型(50mm×50mm)の中に押出成形し、50mm□のシリコーン成型体を成型した。シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間加熱してシリコーン硬化物とした。シリコーン硬化物をスライサーで切断して、厚みが1.0mm、2.0mmの熱伝導シートを得た。
【0085】
[実施例2]
実施例2では、表1に示すように、2液性の付加反応型液状シリコーンに、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径2μmアルミナ粒子45体積%、繊維状熱伝導性充填剤として平均繊維長150μmのピッチ系炭素繊維14体積%を混合し、シリコーン組成物を調製した。実施例2における熱伝導性充填剤の合計量は59体積%である。また、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分とするものに添加剤と併せて41体積%使用し、完成後の熱伝導シートがASTM D 2240準拠のタイプOOデュロメータで硬度30となるように、主剤と硬化剤の構成比(主剤:硬化剤=59:41)を調整した。得られたシリコーン組成物を、中空四角柱状の金型(50mm×50mm)の中に押出成形し、50mm□のシリコーン成型体を成型した。シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間加熱してシリコーン硬化物とした。シリコーン硬化物をスライサーで切断して、厚みが1.0mm、2.0mmの熱伝導シートを得た。
【0086】
[実施例3]
実施例3では、表1に示すように、2液性の付加反応型液状シリコーンに、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径2μmアルミナ粒子22体積%、平均粒径1.5μm窒化アルミ粒子23体積%、繊維状熱伝導性充填剤として平均繊維長150μmのピッチ系炭素繊維20体積%を混合し、シリコーン組成物を調製した。実施例3における熱伝導性充填剤の合計量は65体積%である。また、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分とするものに添加剤と併せて35体積%使用し、完成後の熱伝導シートがASTM D 2240準拠のタイプOOデュロメータで硬度50となるように、主剤と硬化剤の構成比(主剤:硬化剤=57:43)を調整した。得られたシリコーン組成物を、中空四角柱状の金型(50mm×50mm)の中に押出成形し、50mm□のシリコーン成型体を成型した。シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間加熱してシリコーン硬化物とした。シリコーン硬化物をスライサーで切断して、厚みが1.0mm、2.0mmの熱伝導シートを得た。
【0087】
[比較例1]
比較例1では、表1に示すように、2液性の付加反応型液状シリコーンに、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径2μmアルミナ粒子51体積%、繊維状熱伝導性充填剤として平均繊維長150μmのピッチ系炭素繊維12体積%を混合し、シリコーン組成物を調製した。比較例1における熱伝導性充填剤の合計量は63体積%である。また、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分とするものに添加剤と併せて37体積%使用し、完成後の熱伝導シートがASTM D 2240準拠のタイプOOデュロメータで硬度45となるように、主剤と硬化剤の構成比(主剤:硬化剤=53:47)を調整した。得られたシリコーン組成物を、中空四角柱状の金型(50mm×50mm)の中に押出成形し、50mm□のシリコーン成型体を成型した。シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間加熱してシリコーン硬化物とした。シリコーン硬化物をスライサーで切断して、厚みが1.0mm、2.0mmの熱伝導シートを得た。
【0088】
[比較例2]
比較例2では、表1に示すように、2液性の付加反応型液状シリコーンに、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径2μmアルミナ粒子21体積%、平均粒径1.5μm窒化アルミ粒子23体積%、繊維状熱伝導性充填剤として平均繊維長150μmのピッチ系炭素繊維23体積%を混合し、シリコーン組成物を調製した。比較例2における熱伝導性充填剤の合計量は67体積%である。また、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分とするものに添加剤と併せて33体積%使用し、完成後の熱伝導シートがASTM D 2240準拠のタイプOOデュロメータで硬度30となるように、主剤と硬化剤の構成比(主剤:硬化剤=59:41)を調整した。得られたシリコーン組成物を、中空四角柱状の金型(50mm×50mm)の中に押出成形し、50mm□のシリコーン成型体を成型した。シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間加熱してシリコーン硬化物とした。シリコーン硬化物をスライサーで切断して、厚みが1.0mm、2.0mmの熱伝導シートを得た。
【0089】
[比較例3]
比較例3では、表1に示すように、2液性の付加反応型液状シリコーンに、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径2μmアルミナ粒子22体積%、平均粒径1.5μm窒化アルミ粒子23体積%、繊維状熱伝導性充填剤として平均繊維長150μmのピッチ系炭素繊維20体積%を混合し、シリコーン組成物を調製した。比較例3における熱伝導性充填剤の合計量は65体積%である。また、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分とするものに添加剤と併せて35体積%使用し、完成後の熱伝導シートがASTM D 2240準拠のタイプOOデュロメータで硬度60となるように、主剤と硬化剤の構成比(主剤:硬化剤=50:50)を調整した。得られたシリコーン組成物を、中空四角柱状の金型(50mm×50mm)の中に押出成形し、50mm□のシリコーン成型体を成型した。シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間加熱してシリコーン硬化物とした。シリコーン硬化物をスライサーで切断して、厚みが1.0mm、2.0mmの熱伝導シートを得た。
【0090】
次に、上記実施例1~3及び比較例1~3に係る熱伝導性シートを剥離処理されたPETフィルムで挟み、87℃、0.5MPa、3分の条件でプレスすることで、熱伝導シートサンプルを得た。各熱伝導シートサンプルについて、シート表面のタッキネス[gf]、熱抵抗[℃・cm2/W]及び圧縮率、圧縮応力[psi]並びに復元率[%]を測定、評価した。また、上記条件1及び条件2に従って、各熱伝導シートサンプルを銅板に挟んで縦置きにし、熱サイクル試験に投入してシートのずれ量を計測し、評価(○:良、×:不可)した。
【0091】
【0092】
表1に示すように、実施例1~3に係る熱伝導シートサンプルでは、条件1及び条件2での熱サイクル試験を経ても、シートのズレが2.5mm以下と、貼付位置が大きくずれることなく、また圧縮応力5.0以上及び復元率85%以上を有することが分かる。すなわち、発熱と冷却を繰り返す発熱部品に貼付された場合にも、貼付位置がずれることなく、また発熱部品の発熱及び冷却に伴う反りなどの変形にも追従して密着し、熱抵抗の上昇を防止でき、熱伝導シートの放熱特性を維持することができるものであることが分かる。
【0093】
一方、比較例1~3に係る熱伝導シートサンプルでは、条件1及び条件2での熱サイクル試験により、2.5mmを超えるシートのズレが見られた。したがって、貼付位置ずれが生じ、また圧縮応力及び復元率も悪化し、発熱と冷却を繰り返す発熱部品に貼付された場合に貼付位置ずれを起こし、また発熱部品の発熱及び冷却に伴う反りなどの変形に追従できず、熱抵抗の上昇を招く恐れがあるものであることが分かる。
【0094】
なお、表1[比較例2]に示すように、タックがあっても熱伝導シートの位置ずれは発生する。すなわち、熱伝導シートのタックの有無と熱伝導シートのズレには相関はなく、タックの強さに関わらず熱伝導シートの圧縮応力に応じて熱伝導シートの位置ずれの抑制の可否が決まることが分かる。
【0095】
これは、熱伝導シートと銅板の熱膨張係数が異なることに起因するものと考えられる。すなわち、圧縮応力が低い熱伝導シートは、熱衝撃に対して収縮膨張が追従できず、タック力があっても銅板と離れてしまうことで、熱伝導シートがずれてしまう。圧縮応力が大きい熱伝導シートは、熱衝撃時の収縮膨張により銅板との密着性を維持できるので、タック力がなくても銅板とのずれを抑制することができると考えられる。
1 熱伝導シート、2 高分子マトリックス成分、3 繊維状熱伝導性充填剤、4 他の熱伝導性充填剤、10 銅板、11 熱伝導シート個片、12 スペーサ、14 熱伝導シートサンプル