(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129318
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】布帛状センサ、及び布帛状センサデバイス
(51)【国際特許分類】
G01L 1/16 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
G01L1/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028013
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】東邦化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591168932
【氏名又は名称】株式会社SHINDO
(71)【出願人】
【識別番号】510045438
【氏名又は名称】TBカワシマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003203
【氏名又は名称】弁理士法人大手門国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 健
(72)【発明者】
【氏名】清水 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正明
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 学
(72)【発明者】
【氏名】村尾 政宏
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 玄
(57)【要約】
【課題】使用時の出力信号を向上させることができ、またセンサ素子の損傷や破断も生じ難い布帛状センサ、及びそれを用いた布帛状センサデバイスを提供する。
【解決手段】布帛基材1と線状センサ素子2とを有する布帛状センサSにおいて、前記布帛基材1に、内部に線状の空洞部11を少なくとも一つ設け、かつ、前記空洞部11の少なくとも一部を前記空洞部11の線方向に伸縮性を有しない生地から構成し、更に前記線状センサ素子2を、少なくとも一つの前記空洞部11内に、布帛生地1に実質的に拘束または固定されていない状態で配置した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛基材と、線状センサ素子と、を有し、
前記布帛基材は、内部に線状の空洞部を少なくとも一つ備え、かつ前記空洞部の少なくとも一部が前記空洞部の線方向に伸縮性を有しない生地で構成され、
前記線状センサ素子は、少なくとも一つの前記空洞部内に、実質的に布帛生地に拘束または固定されていない状態で配置される、布帛状センサ。
【請求項2】
前記布帛基材が、前記空洞部を複数備え、
前記線状センサ素子が、全ての前記空洞部内に配置されている、請求項1記載の布帛状センサ。
【請求項3】
前記線状センサ素子の少なくとも一つが圧電センサである、請求項1または2に記載の布帛状センサ。
【請求項4】
前記布帛基材の非空洞部が一重組織から成り、かつ、この非空洞部の一重組織の地糸を使った二重組織から前記空洞部が形成される、請求項1~3の何れか一つに記載の布帛状センサ。
【請求項5】
前記布帛基材の前記空洞部が形成されている部位の少なくとも表裏一方の面上に、エラストマー材料を有する、請求項1~4の何れか一つに記載の布帛状センサ。
【請求項6】
前記エラストマー材料が、前記布帛基材を構成する生地の一部である、請求項5に記載の布帛状センサ。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一つに記載の布帛状センサと、信号処理装置と、を含む、布帛状センサデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種検知用デバイスに用いられる布帛状センサ及び布帛状センサデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
布帛状センサ(布帛状の形態から成るセンサ)は、寝具や衣服等の対象面に取り付けて接触の有無や形状変化を検知する表面感圧センサまたは形状変化センサとして利用されている。またこのような布帛状センサとしては、従来、線状のセンサ素子を布帛生地に織り込んで一体化したものが公知となっている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
しかしながら、上記従来の布帛状センサは、線状のセンサ素子が布帛生地の地糸によって拘束されてしまうだけでなく、センサ素子自体も布帛生地に織り込まれることで波打った形状になっていたため、布帛状センサを変形させた際にセンサ素子から目的の電気信号以外の信号の影響が大きく電気信号の出力が低下する問題があった。
【0004】
また上記従来の布帛状センサでは、線状のセンサ素子が外部に露出した状態となっていたため、硬質の物体が布帛状センサに接触した際にセンサ素子が損傷し易い欠点もあった。加えて、線状のセンサ素子を織り込んだ布帛生地に伸縮性を持たせた場合に、地糸に拘束されたセンサ素子に引っ張り方向の負荷がかかって断線のおそれがあった。
【0005】
一方、従来においては、装飾布帛の分野において、織物生地の組織に空洞部を設け、この空洞部内に装飾糸を挿入する技術も公知となっている(特許文献4参照)。しかし、この技術は、あくまで衣服や自動車のシート等に取り付ける装飾布帛に関する技術であって、布帛状センサにこの種の技術を適用したものは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-203996号公報
【特許文献2】特開2017-120885号公報
【特許文献3】特開2018-173292号公報
【特許文献4】特許第3006998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題を解決することを課題としており、要約すると、使用時の出力信号を向上させることができ、またセンサ素子の損傷や破断も生じ難い布帛状センサ、及びそれを用いた布帛状センサデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のセンサ素子を布帛生地に織り込んだ上記従来技術の布帛状センサは、地糸に拘束されたセンサ素子の局部的な伸び縮みにより+(プラス)と-(マイナス)の出力信号が狭い範囲内で同時に発生し、このノイズ信号と目的とする信号が+と-で打ち消しあって出力ロスが生じるおそれがあった。
【0009】
そこで、本発明者は、布帛基材1と線状センサ素子2とを有する布帛状センサSにおいて、前記布帛基材1に、内部に線状の空洞部11を少なくとも一つ設け、かつ、前記空洞部11の少なくとも一部を前記空洞部11の線方向に伸縮性を有しない生地から構成し、更に前記線状センサ素子2を、少なくとも一つの前記空洞部11内に、布帛生地1に実質的に拘束または固定されていない状態で配置した(
図1参照)。
【0010】
また本発明では、上記布帛基材1について、上記空洞部11を複数設け、上記線状センサ素子2を、全ての空洞部11内に配置することにより、布帛状センサSの検知精度を向上させることができる。
【0011】
また本発明では、上記線状センサ素子2の少なくとも一つを圧電センサとすることで、布帛状センサSを表面感圧センサまたは形状変化センサとして好適に利用できる。
【0012】
また本発明では、上記布帛基材1の非空洞部を一重組織から構成し、かつ、この非空洞部の一重組織の地糸を使った二重組織(袋組織)から上記空洞部を形成することにより、布帛状センサSの表面を平坦化することができる。
【0013】
また本発明では、上記布帛基材1の前記空洞部11が形成されている部位の少なくとも表裏一方の面上に、エラストマー材料を設けることで、布帛状センサSを対象面に配置したときに滑り止め効果を得ることができる。
【0014】
また本発明では、上記エラストマー材料を、前記布帛基材1を構成する生地の一部とすることにより生地の表面を平坦化することができる。
【0015】
また本発明では、上記布帛状センサSに信号処理装置3を接続して布帛状センサデバイスとして構成することもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、布帛基材の内部に線状の空洞部を設け、この空洞部内に線状センサ素子を布帛生地に拘束または固定しない状態で配置して布帛状センサを構成することにより、使用時に布帛状センサを変形させた場合でも、線状センサ素子にノイズ信号が発生しないため、目的とする電気信号をロスなく出力することが可能となる。またこれにより布帛状センサの検出精度を向上させることが可能となる。
【0017】
また本発明の布帛状センサは、空洞部内の線状センサ素子が布帛基材で被覆された状態となり、布帛状センサを配置する対象面や布帛状センサを変形させる物体と非接触の状態で検出を行うことができるため、線状センサ素子の損傷も防止できる。また上記布帛基材に、空洞部の線方向に伸縮性を有しない生地を使用することで、線状センサ素子に引張方向の負荷もかからないため、線状センサ素子の断線も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第一実施形態及び実施例2の布帛状センサを表側から見た全体斜視図である。
【
図2】本発明の第一実施形態及び実施例2の布帛状センサの断面状態を説明するためのX-X断面の拡大図である。
【
図3】本発明の変更例及び実施例1の布帛状センサの断面状態を説明するための拡大断面図である。
【
図4】本発明の変更例の布帛状センサの断面状態を説明するための拡大断面図である。
【
図5】本発明の第一実施形態の布帛状センサを裏側から見た全体斜視図である。
【
図6】本発明の第二実施形態の布帛状センサデバイスを示す全体斜視図である。
【
図7】本発明の効果の実証試験を説明するための説明図である。
【
図8】本発明の効果の実証試験を説明するための説明図である。
【
図9】本発明の効果の実証試験を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
『第一実施形態』
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて、更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0020】
「布帛状センサの構成・使用方法・製造方法」
[1]布帛状センサの基本構成について
本実施形態の基本構成について
図1~
図5に基づいて説明する。本実施形態では、
図1及び
図2に示すように布帛状センサSを、内部に線状の空洞部11を複数備えた帯状の布帛基材1に対し、線状センサ素子2を布帛基材1に拘束または固定されていない状態で空洞部11内に配置して構成している。また布帛基材1には、空洞部11の線方向(帯状の布帛基材1の長さ方向)に伸縮性を有しない生地を使用し、布帛基材1の中央と両端に空洞部11を3列形成している。また布帛基材1の中央の空洞部11に配置する線状センサ素子2として圧電センサ21を、両端の空洞部11・11内に配置する線状センサ素子2として静電容量式変位センサ22を使用している。
【0021】
なお上記「拘束または固定されていない状態」とは、線状センサ素子2の上下に布帛基材1の地糸や縫い糸を横断させて、または絡ませて拘束していない状態、若しくは線状センサ素子2を布帛基材1に接着剤や熱融着糸等により固定していない状態を指し、空洞部11内で線状センサ素子2が少なくとも空洞部11の線方向にフリーな状態を意味する。但し、この状態は実質的に拘束また固定されていない状態であればよく、例えば、布帛状センサSの対象面(測定面)の殆どで線状センサ素子2が拘束等されていない状態であって、数カ所が局所的に固定されている形態を含むものである。また線状センサ素子2は、空洞部11内に空間的に余裕がある状態(可動スペースを有する状態)で配置するのが好ましい。
【0022】
[2]布帛状センサの使用方法について
次に上記布帛状センサSの使用方法について説明する。上記布帛状センサSを柔軟な対象面上に配置し、その対象面に布帛状センサSの上から垂直方向の荷重を掛ける。この際、線状センサ素子2が曲げ荷重を受けて対象面に合わせて変形することで電気エネルギーが生じ、これが電気信号として線状センサ素子2の端部に出力される。そして、この線状センサ素子2から出力された電気信号を、布帛状センサSに接続された信号処理装置に入力して演算処理することで対象面の変形の有無及び変形の大きさを検出できる。
【0023】
また上記の際、本実施形態の布帛状センサSは、線状センサ素子2を布帛基材1に拘束または固定しない状態で配置しているため、電気信号のノイズや相殺、減衰を抑制することができ、これにより電気信号の出力を向上させて布帛状センサSの検知精度を高めることができる。また布帛基材1に空洞部11の線方向(言い換えると空洞部11内に配置された線状センサ素子2の長さ方向)に伸縮性を有しない生地を使用することで、布帛基材1に空洞部11の線方向の荷重が加わっても線状センサ素子2が引張方向の負荷を受け難く、断線等も防止できる。
【0024】
[3]布帛基材について
[3-1]材料
次に上記布帛状センサSの各構成要素について説明する。まず上記布帛基材1の材料に関しては、本実施形態では織物を使用しているが、編物や不織布(湿式不織布及び乾式不織布の両方を含む)を使用することもできる。また布帛基材1を構成する地糸に関しては、本実施形態ではポリエステル繊維のマルチフィラメント糸を使用しているが、素材としてナイロン繊維やアクリル繊維などの合成繊維、レーヨンやキュプラなどの再生繊維、コットンやウールなどの天然繊維、またはこれらを組み合わせたものを使用できる。またマルチフィラメント糸だけでなく紡績糸、混紡糸を使用することもできる。また布帛基材1に不織布を使用する場合も同様の繊維素材を使用できる。
【0025】
また本実施形態では、布帛基材1全体に伸縮性を有しない生地を使用しているが、空洞部11の一部に伸縮性を有しない生地を使用することもできる。なお本明細書中における「伸縮性を有しない生地」とは、JIS L 1096のB-1法(定荷重法)において伸長弾性率が5%以下の生地を意味する。また本実施形態では、電気信号のノイズを抑制するために、空洞部11の線方向に対して垂直な方向(帯状の布帛基材1の幅方向)にも伸縮性を有しない生地を布帛基材1に使用しているが、空洞部11の線方向にのみ伸縮性を有しない生地を使用することもできる。
【0026】
[3-2]組織
また上記布帛基材1の組織としては、本実施形態では、布帛基材1に平織組織を採用しているが、布帛基材1の組織には平織組織だけでなく綾織組織、朱子織組織、これらの変形組織から成る織り組織を採用することもできる。また布帛基材1に編物を使用する場合には、組織として平編組織やゴム編組織、パール編組織、これらの変形組織から成る緯編組織、またはトリコット編組織やラッセル編組織、ミラニーズ編組織、これらの変形組織から成る経編組織から選択して採用できる。
【0027】
[3-3]形状
また本実施形態では、上記布帛基材1に正確な検知を行うために帯状の生地を使用しているが、対象面の形状や検知範囲に合わせて布帛基材1の形状は、例えば幅が広いシート状や枝分かれ形状などに適宜変更することができる。また布帛基材1の厚みに関しても、本実施形態では曲げ方向の柔軟性と引張強度を確保するために0.1~2.0mmに形成しているが、検知する荷重の大きさや用途等に応じて適宜変更できる。
【0028】
[3-4]空洞部
また本実施形態では、
図2に示すように上記布帛基材1に中央と両端の3列の空洞部11を形成しているが、空洞部11の数や配置は適宜変更することができ、
図3に示すように空洞部11を一つだけ形成することもできる。また空洞部11の線形状に関しては、本実施形態では直線状に形成しているが、曲線状に形成することもでき、また直線と曲線を組み合わせた形状に形成することもできる。また空洞部11のサイズについては、空洞部11の断面積が最大化した状態で線状センサ素子2の直径よりも大きくなっていればよいが、線状センサ素子2の挿入を容易化するために空洞部11の最大化した断面積を線状センサ素子2の断面積の1.1倍以上1000倍以下の大きさとするのが好ましい。
【0029】
[3-5]空洞部の形成方法
また上記空洞部11の形成方法に関しては、本実施形態では、生地表面を平坦化するために
図2に示すように布帛基材1の非空洞部を一重組織から構成し、更にこの非空洞部の一重組織の地糸を使った二重組織(袋組織)から空洞部11を形成しているが、例えば、
図4に示すように、布帛基材1を多重織り組織から構成して、部分的に層間が連結されていない部位を空洞部11として形成することもできる。また生地表面を平坦化する必要がない場合には、布帛基材1の地糸とは異なる別糸によって袋組織を部分的に形成して空洞部11を形成することもできる。
【0030】
上記空洞部11を形成するその他の方法としては、織物や編物、不織布において、生地表面に袋状の組織を地組織とは別に形成する方法や、二枚の生地を接着剤や熱融着で貼り合わせ、部分的に貼り合わせていない部分を空洞部11として形成する方法、二枚の生地を空洞部11の線方向に縫着して縫着部間に空洞部11を形成する方法などを採用することもできる。
【0031】
また上記布帛基材1に織物でなく編物を使用する場合にも、布帛基材1の非空洞部を一重の組織から構成し、この非空洞部の一重組織の地糸を使った二重組織(袋組織)から空洞部11を形成することができる。他にも布帛基材1を多重編み組織から構成して、部分的に層間が連結されていない部位を空洞部11として形成することもできる。この場合も上記織り組織の空洞部11と同様に生地表面を平坦化することができる。また布帛基材1を3層以上の面組織を連結して、或いは3枚以上の生地を積層一体化して構成することもでき、その場合には、異なる層間に複数の空洞部11を形成することもできる。
【0032】
[3-6]滑り止め部
また本実施形態では、
図5に示すように上記布帛基材1の空洞部11を形成している部位の裏面側に、エラストマー材料から成る断面形状が横長半楕円形の板状の滑り止め部12を形成している。これにより布帛状センサSを対象面上に配置した際に横方向(対象面と平行な方向)の力が加わった場合でも布帛基材1の位置ズレを抑制することができる。また滑り止め部12には、曲げ方向の負荷に対して柔軟性を有するエラストマー材料を使用しているため、布帛状センサSの検知精度が損なわれる心配もない。なお滑り止め部12の厚さは、曲げ方向の柔軟性を確保するために0.1~5mmの範囲内とするのが好ましい。
【0033】
また上記エラストマー材料には、本実施形態ではシリコーンゴムを使用しているが、ポリオレフィン系やポリスチレン系、塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系などの熱可塑性エラストマーを使用することもでき、またシリコーンゴム以外のウレタンゴムやフッ素ゴムなどの熱硬化性エラストマーを使用することもできる。またエラストマー材料としては、可塑剤で柔軟性を付与した軟質塩化ビニル樹脂などの軟質樹脂を使用することもできる。
【0034】
また本実施形態では、上記滑り止め部12を布帛基材1の裏面にのみ形成しているが、表面または表裏両面に形成することもできる。本実施形態では、空洞部11の幅に合わせて板状の滑り止め部12を形成することにより、滑り止め部12が補強材となって空洞部11の幅を保持することが可能となるため、空洞部12の変形(例えば、空洞部11の幅が縮まることによる表面層の浮き上がり等)を抑制でき、空洞部11を形成している表面層と裏面層で線状センサ素子2を挟み込んだ状態を維持できる。
【0035】
また本実施形態では、上記滑り止め部12を板状に形成しているが、エラストマー材料が外部に露出した状態で布帛基材1と一体化されているのであれば、点状や線状、棒状、シート状の形態を採用することもできる。また滑り止め部12の断面形状も適宜変更できる。また本実施形態では、滑り止め部12を布帛基材1に対して接着層を介さずに一体化しているが、接着層を介して一体化することもできる。
【0036】
[3-7]滑り止め部の変更例
また上記布帛基材1の滑り止め部12に関しては、エラストマー材料を用いたゴム糸(弾性糸)を使用することもでき、その場合には、布帛基材1の織り組織または編み組織に挿入糸として組み込んで、空洞部11を構成している表面層または裏面層の外部にエラストマー材料を露出させることで滑り止め効果を得ることができる。またこのように布帛基材1を構成する生地の一部としてエラストマー材料を設けることで、布帛状センサSの裏面側を平坦化することができ、また滑り止め部12を形成する後加工も省略できる。
【0037】
[4]線状センサ素子について
[4-1]センサ素子の種類
また上記線状センサ素子2に関しては、本実施形態では圧電センサ21として特許第6501958号に記載のワイヤー状圧電素子を使用しているが、圧電センサ21としてポリ乳酸圧電繊維やその他の繊維状圧電素子を使用することもできる。また静電容量式変位センサ22としてその部品として使用される銅線を布帛基材1の空洞部11内に配置している。また圧電センサ21や静電容量式変位センサ22以外のセンサ素子を使用することもでき、例えば、歪みワイヤセンサや温度センサ等を使用することもできる。但し、線状センサ素子2には、少なくとも圧電センサ21を一つ以上使用するのが好ましい。
【0038】
[4-2]センサ素子の配置
また本実施形態では、検知精度を向上させるために布帛基材1に形成した全ての空洞部11内に線状センサ素子2を配置しているが、必要に応じて少なくとも一つの空洞部11内に配置すればよく、また空洞部11全体ではなく一部に線状センサ素子2を配置することもできる。また一つの空洞部11内に複数の線状センサ素子2を配置することもできる。また線状センサ素子2には、空洞部11の最大化した断面積よりも断面積が小さいものを使用できる。
【0039】
「布帛状センサの製造方法」
次に上記布帛状センサSの製造方法について説明する。本実施形態では、布帛基材1を織機で織り上げる際に、線状センサ素子2を空洞部11の位置に挿入しながら織り上げを行っている。この際、布帛基材1の表面層と裏面層の連結組織の位置や領域を調整することで、所定大きさの空洞部11を簡単に形成できる。また織り上げた布帛基材をコンベヤで長さ方向に移動させながら、裏面側に液状ないしペースト状のシリコーンゴムを垂らして加熱硬化させることにより滑り止め部12を布帛基材1と一体に接着剤を用いずに形成している。これにより布帛状センサSの製造を効率的に行うことができる。
【0040】
また上記布帛基材1に編物を使用する場合には、布帛基材1を編機で編み立てる際に、線状センサ素子2を空洞部11の位置に挿入しながら編み立てを行うことにより布帛状センサSの製造を効率的に行える。また織物や編物、不織布等の生地を二枚重ねた状態で貼り合わせ、または縫い合わせて布帛基材1とする場合には、生地間に線状センサ素子2を配置した状態で貼り合わせや縫い合わせを行うことで効率的に布帛状センサSの製造を行える。一方、布帛基材1を先に作製してから空洞部11内に線状センサ素子2を挿入して布帛状センサSを製造することもできる。
【0041】
また上記布帛基材1の滑り止め部12に関しては、板状または棒状に成形されたエラストマーを接着剤等によって布帛基材1の表面側または裏面側に接着して一体化することもでき、また熱可塑性エラストマーを使用する場合には熱プレス等によって熱融着で一体化することもできる。また滑り止め部12のエラストマーとしてゴム糸を使用する場合には、上記布帛生地を織り上げる際、または編み立てる際に挿入糸として使用して布帛基材と一体化することができる。
【0042】
「布帛状センサの変形例」
本実施形態では、上記空洞部11の少なくとも一つに線状センサ素子2が配置されている構成を開示しているが、上記空洞部11には、本発明の効果を損なわない範囲で線状センサ素子2以外の線状物が配置されていてもよい。具体的には、例えば、樹脂製又は金属製チューブ、金属線、光ファイバー、磁気コード等が挙げられる。例えば、樹脂製又は金属製チューブの場合、そのチューブ内に線状センサ素子2を配置すれば、線状センサ素子2を保護することによって、布帛状センサの耐久性、耐水性、耐油性等を向上させることができ、また金属線の場合は、布帛状センサに賦形性を付与することができる。
【0043】
『第二実施形態』
「布帛状センサデバイスの構成・用途」
[1]布帛状センサデバイスの基本構成について
本実施形態の基本構成について
図6に基づいて以下に説明する。本実施形態では、第一実施形態の布帛状センサSを使用して、この布帛状センサSの線状センサ素子2の一端に信号処理装置3を接続して構成している。これにより布帛状センサSを変形させた際に、線状センサ素子2から信号処理装置3に出力された電気信号を出力された電気信号をアナログ信号処理又はデジタル信号処理によって、信号増幅処理、フィルタリング処理、信号変換処理等を行うことができるため、外部装置の制御部に線状センサ素子2からの電気信号に応じた制御信号を出力できる。なお信号処理装置3と外部装置との接続は有線接続であっても無線接続であってもよい。
【0044】
[2]信号処理装置について
また上記信号処理装置3に関しては、入力部、演算処理部、記憶部および出力部を備え、かつ、線状センサ素子2として使用している圧電センサ及び静電容量式変位センサから出力される電気信号を処理可能な信号処理プログラムを記憶部に備えているが、線状センサ素子2に歪みワイヤセンサや温度センサ等を使用する場合には、各種センサに応じた信号処理プログラムを記憶部に格納する必要がある。
【0045】
[3]布帛状センサの用途について
上記布帛状センサSは、通常公知の各種センサに利用でき、例えば、寝返り検知センサ、着座センサ等の体位把握センサ、圧力センサ、変位センサ、変形センサ、振動センサ、生体センサ、加速度センサ、接触センサ、衝撃センサ、セキュリティセンサ等として使用できる。
【0046】
また上記布帛状センサSの取り付け対象物には、上記各種センサに応じて、例えば、ベッドや布団等の寝具類、カーシートや航空機シート等の乗物用座席、ソファや椅子等の着座用家具類、座布団やクッション等のインテリア小物類、タオルやシーツ等のリネン類、ヘルメットや頭巾等の安全・防災用品、カーペットやマット等の敷物類、サポーターやマスク等の医療・衛生用品、ぬいぐるみやゴムボール等の玩具類、床材や壁材等の建築材料、家電用品や産業機械等の各種機器類などが含まれる。また上記布帛状センサSの取り付け方法については、対象物上に載置するだけでもよく、また縫い付けや挟み込み、粘着テープや面ファスナ等によって対象物に固定することもできる。
【実施例0047】
[効果の実証試験]
次に本発明の効果の実証試験について以下に説明する。本試験では、圧電センサを線状センサ素子に用いた布帛状センサを異なる構成で数種類作製し、これら各サンプル(下記の実施例1~2及び比較例1~2)について布帛状センサを変形させたときの圧電信号の出力の大きさを評価した。
【0048】
<圧電信号の出力評価試験の方法>
まず準備として
図7(A)に示すように長さ30cmの布帛状センサのサンプルTを椅子の座部Mに載せ、サンプルTの端部を信号処理装置に接続し、この信号処理装置をオシロスコープ(Pco Technology社 Picoscope2204A)に接続する。この信号処理装置は、アナログ増幅回路により電気信号を約4000倍に増幅し、この増幅した信号をデジタル信号に変換してオシロスコープに出力する。またオシロスコープはパソコンに接続して計測した圧電信号の発生出力(mVp-p)をモニターに表示する。
【0049】
上記準備の完了後、
図7(B)に示すように1kgfの重りWをサンプルTの中央に載せ、直ぐに重りWを持ち上げて
図5(C)に示すようにサンプルTから離す。この際のサンプルTの変形による圧電信号の出力の変化をオシロスコープで計測する。また圧電信号の出力はパソコンのモニターに
図8のようにグラフ化して表示され、サンプルTに重りWを載せたときの負の出力電圧と重りWを持ち上げた際の正の出力電圧の振れ幅を発生出力(mVp-p)として計測する。
【0050】
「実施例1」
本実施例では、ポリエステル糸を地糸とする平織組織から成る布帛基材1を、幅50mm、厚さ1mm、長さ30cmの帯状に形成すると共に、布帛基材1の幅方向の中央に空洞部11を1つ設け、更に生地表面に滑り止め部を設けずに布帛状センサSを作製した(
図3参照)。また布帛基材1の非空洞部は一重組織から構成し、この非空洞部の一重組織の地糸を使った二重組織から空洞部11を形成した。また布帛基材1の空洞部11の幅(線状センサ素子2を挿入する前のスリット状の状態での幅)を5mmとして、この空洞部11内に特許第6501958号に記載された直径0.35mmの圧電センサ21(ワイヤー状圧電素子)を挿入して配置した。そして、本実施例のサンプルを使用して圧電信号の出力電圧を計測したところ、計測値は1230mVp-pであった。
【0051】
「実施例2」
本実施例では、ポリエステル糸を地糸とする平織組織から成る布帛基材1を、幅50mm、厚さ1mmの帯状に形成すると共に、布帛基材1の幅方向の中央と両側に空洞部11を3つ設けて布帛状センサSを作製した(
図2参照)。更に布帛基材1の各空洞部11の裏面にはそれぞれエラストマー材料から成る断面形状が横長半楕円形の板状の滑り止め部12を形成した。また布帛基材1の非空洞部は一重組織から構成し、この非空洞部の一重組織の地糸を使った二重組織から空洞部11を形成した。また布帛基材1の空洞部11の幅(線状センサ素子2を挿入する前のスリット状の状態での幅)を5mmとして、布帛基材1の中央の空洞部11内に特許第6501958号に記載された直径0.35mmの圧電センサ21(ワイヤー状圧電素子)を挿入して配置し、布帛基材1の両端の空洞部11・11内には直径0.5mmの静電容量式変位センサ22用の銅線を挿入して配置した。そして、本実施例のサンプルを使用して圧電信号の出力電圧を計測したところ、計測値は1221mVp-pであった。
【0052】
「比較例1」
本比較例では、綿の紡績糸を地糸として綾織りして成る布帛基材1を、
図9に示すように幅25mm、厚さ1mmの帯状の形態で構成した。またミシン糸の上糸に30番手(19.68tex)の厚地生地用ミシン糸を、下糸に特許第6501958号に記載された直径0.35mmの圧電センサ21(ワイヤー状圧電素子)を線状センサ素子2として使用して、布帛基材1の中央部に対し長さ方向にジグザグ縫いを行い(JANOME JP210M 模様番号:08)、布帛状センサSを構成した。縫い目の幅は3.5mmとし、あらさは2.2mmとした。そして、本比較例のサンプルを使用して圧電信号の出力電圧を計測したところ、計測値は63mVp-pであった。
【0053】
「比較例2」
本比較例では、綿の紡績糸を地糸として綾織りして成る布帛基材1を、
図9に示すように幅25mm、厚さ1mmの帯状の形態で構成した。またミシン糸の上糸に30番手(19.68tex)の厚地生地用ミシン糸を、下糸に特許第6501958号に記載された直径0.35mmの圧電センサ21(ワイヤー状圧電素子)を線状センサ素子2として使用して、布帛生地の中央部に対し長さ方向に直線縫いを行い(JANOME JP210M 模様番号:00) 、布帛状センサSを構成した。あらさは1.5mmとした。そして、本比較例のサンプルを使用して圧電信号の出力電圧を計測したところ、計測値は312mVp-pであった。
【0054】
<試験結果のまとめ>
上記の試験により、布帛基材の空洞部内に圧電センサを配置した実施例1~2のサンプルの方が、圧電センサをミシン糸として組織に組み込んだ比較例1~2のサンプルよりも圧電信号の出力電圧が大きいことが確認できた。また滑り止め部を有する実施例2においても、滑り止め部を有しない実施例1と同等の出力が得られることが確認できた。以下に試験結果をまとめた表を示す。
【表1】