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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129324
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】作業車輌
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/47 20100101AFI20220829BHJP
   F16H 61/435 20100101ALI20220829BHJP
   F16H 61/425 20100101ALI20220829BHJP
   F16H 61/04 20060101ALI20220829BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20220829BHJP
   F16H 59/54 20060101ALI20220829BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20220829BHJP
   F16H 59/06 20060101ALI20220829BHJP
   B60T 7/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
F16H61/47
F16H61/435
F16H61/425
F16H61/04
F16H61/66
F16H59/54
F16H59/44
F16H59/06
B60T7/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043620
(22)【出願日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2021027292
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】東泊 良隆
(72)【発明者】
【氏名】小倉 康平
【テーマコード(参考)】
3D124
3J053
3J552
【Fターム(参考)】
3D124AA32
3D124AA35
3D124BB01
3D124BB14
3D124CC15
3D124DD41
3J053AA01
3J053AB02
3J053AB34
3J053AB43
3J053AB48
3J053DA06
3J053DA26
3J552MA10
3J552NA05
3J552NB01
3J552PA32
3J552PA33
3J552PA51
3J552RB15
3J552RB18
3J552RB20
3J552SA31
3J552SB02
3J552TB02
3J552UA05
3J552VA74W
3J552VB01W
3J552VB16W
3J552VD11W
(57)【要約】
【課題】ブレーキ装置の係合状態及び解除状態に応じて無段変速装置の減速制御及び増速制御をそれぞれ行いつつ、増速制御の際の変速ショックを防止乃至は低減し得る作業車輌を提供する。
【解決手段】本発明に係る作業車輌においては、ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行時に起動されるブレーキ解除変速制御モードは、走行部材の走行速度が、前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行を検出したブレーキ解除開始時点でのブレーキ解除開始時速度から変速操作部材の操作位置によって画される操作速度へ増速するように変速アクチュエータを作動させ、ブレーキ解除開始時点直後の所定のブレーキ解除初動期間における制御速さ、及び、操作速度復帰時点直前の所定の操作速度復帰直前期間における制御速さの少なくとも一方が所定の基準制御速さよりも緩やかとされている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、走行部材と、前記駆動源からの回転動力を無段変速して、前記走行部材へ向けて出力する無段変速装置と、前記無段変速装置の変速状態を変化させる変速アクチュエータと、前記走行部材に作動的に係合して制動力を付加可能なブレーキ装置と、人為操作可能な変速操作部材及びブレーキ操作部材と、前記変速アクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記ブレーキ操作部材の人為操作に応じて前記ブレーキ装置が係合又は解除されるように構成された作業車輌であって、
前記制御装置は、前記ブレーキ装置の非作動状態、係合状態及び解除状態を検出した際に、それぞれ、起動する通常変速制御モード、ブレーキ係合変速制御モード及びブレーキ解除変速制御モードを有し、
前記通常変速制御モードは、前記走行部材の走行速度が前記変速操作部材の操作位置に応じた操作速度となるように前記変速アクチュエータを作動させ、
前記ブレーキ係合変速制御モードは、前記走行速度が、前記ブレーキ装置の非作動状態から係合状態への移行を検出したブレーキ係合開始時点での前記操作速度から車速ゼロ速へ向けて所定の制御速さで減速するように、前記変速アクチュエータを作動させ、
前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度が、前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行を検出したブレーキ解除開始時点でのブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させ、
前記ブレーキ解除変速制御モードにおいて、ブレーキ解除開始時点直後の所定のブレーキ解除初動期間における制御速さ、及び、操作速度復帰時点直前の所定の操作速度復帰直前期間における制御速さの少なくとも一方が所定の基準制御速さよりも緩やかとされていることを特徴とする作業車輌。
【請求項2】
前記制御装置には、前記ブレーキ解除変速制御モードの作動時間に対する、ブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの時間配分を表す時間配分係数が記憶されており、
前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度を前記ブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで前記基準制御速さで増速させる際の基準所要時間と同一時間で前記走行速度を前記ブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで増速させつつ、ブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間の長さを、前記基準所要時間とブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの前記時間配分係数とに基づいて決定することを特徴とする請求項1に記載の作業車輌。
【請求項3】
人為操作可能な時間配分変更部材を備え、
ブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの前記時間配分係数は前記時間配分変更部材によって変更可能とされていることを特徴とする2に記載の作業車輌。
【請求項4】
ブレーキ解除初動期間における制御速さが前記基準制御速さよりも緩やかとされており、
前記制御装置には、ブレーキ解除初動期間の長さが記憶されていることを特徴とする請求項1に記載の作業車輌。
【請求項5】
人為操作可能なブレーキ解除初動期間変更部材を備え、
前記制御装置に記憶されるブレーキ解除初動期間は、前記ブレーキ解除初動期間変更部材によって変更可能とされていることを特徴とする請求項4に記載の作業車輌。
【請求項6】
前記ブレーキ解除変速制御モードは、ブレーキ解除初動期間の終了後に前記走行速度を前記基準制御速さで増速させる基準制御速さ期間を有していることを特徴とする請求項4又は5に記載の作業車輌。
【請求項7】
前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度が前記操作速度よりも所定速度だけ低速の操作速度側切替速度に到達すると基準制御速さ期間を終了し、前記基準制御速さ期間の終了後の前記操作速度復帰直前期間において前記走行速度が前記操作速度側切替速度から前記操作速度まで前記基準制御速さよりも緩やかな制御速さで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させることを特徴とする請求項6に記載の作業車輌。
【請求項8】
前記操作速度及び前記操作速度側切替速度の間の速度差を設定する人為操作可能な操作速度側切替速度設定部材を備え、
前記操作速度側切替速度は、前記操作速度から前記操作速度側切替速度設定部材によって設定された速度差を減じた速度とされることを特徴とする請求項7に記載の作業車輌。
【請求項9】
駆動源と、走行部材と、前記駆動源からの回転動力を無段変速して、前記走行部材へ向けて出力する無段変速装置と、前記無段変速装置の変速状態を変化させる変速アクチュエータと、前記走行部材に作動的に係合して制動力を付加可能なブレーキ装置と、人為操作可能な変速操作部材及びブレーキ操作部材と、前記変速アクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記ブレーキ操作部材の人為操作に応じて前記ブレーキ装置が係合又は解除されるように構成された作業車輌であって、
前記制御装置は、前記ブレーキ装置の非作動状態、係合状態及び解除状態を検出した際に、それぞれ、起動する通常変速制御モード、ブレーキ係合変速制御モード及びブレーキ解除変速制御モードを有し、
前記通常変速制御モードは、前記走行部材の走行速度が前記変速操作部材の操作位置に応じた操作速度となるように前記変速アクチュエータを作動させ、
前記ブレーキ係合変速制御モードは、前記走行速度が、前記ブレーキ装置の非作動状態から係合状態への移行を検出したブレーキ係合開始時点での前記操作速度から車速ゼロ速へ向けて所定の制御速さで減速するように、前記変速アクチュエータを作動させ、
前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度が、前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行を検出したブレーキ解除開始時点でのブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させ、
前記ブレーキ解除変速制御モードにおいて、前記走行速度が前記ブレーキ解除開始時速度から所定速度だけ高速のブレーキ解除開始側切替速度に達するまでのブレーキ解除初動期間における制御速さ、及び、前記走行速度が前記操作速度より所定速度だけ低速の操作速度側切替速度から前記操作速度に到達するまでの操作速度復帰直前期間における制御速さの少なくとも一方が所定の基準制御速さよりも緩やかとされていることを特徴とする作業車輌。
【請求項10】
前記制御装置には、前記ブレーキ解除変速制御モードにおいて変速する全体変速幅に対するブレーキ解除初動期間及びブレーキ解除初動期間のそれぞれの速度幅を表す速度配分係数が記憶されており、
前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度を前記ブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで前記基準制御速さで増速させる際の基準所要時間と同一時間で前記走行速度を前記ブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで増速させつつ、ブレーキ解除開始側切替速度及び操作速度側切替速度を、前記全体変速幅とブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの前記速度配分係数とに基づいて決定することを特徴とする請求項9に記載の作業車輌。
【請求項11】
人為操作可能な速度配分変更部材を備え、
ブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの前記速度配分係数は前記速度配分変更部材によって変更可能とされていることを特徴とする請求項10に記載の作業車輌。
【請求項12】
ブレーキ解除初動期間における制御速さが前記基準制御速さよりも緩やかとされており、
前記制御装置には、前記ブレーキ解除開始時速度及び前記ブレーキ解除開始側切替速度の間のブレーキ解除開始側速度差が記憶されており、
前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記ブレーキ解除開始時速度及び前記ブレーキ解除開始側速度差に基づき前記ブレーキ解除開始側切替速度を算出することを特徴とする請求項11に記載の作業車輌。
【請求項13】
前記ブレーキ解除開始側速度差を設定する人為操作可能なブレーキ解除開始側速度差変更部材を備え、
前記制御装置に記憶されているブレーキ解除開始側速度差は、前記ブレーキ解除開始側速度差変更部材によって変更可能とされていることを特徴とする請求項12に記載の作業車輌。
【請求項14】
前記ブレーキ解除変速制御モードは、ブレーキ解除初動期間の終了後に前記走行速度を前記基準制御速さで増速させる基準制御速さ期間を有していることを特徴とする請求項12又は13に記載の作業車輌。
【請求項15】
操作速度復帰直前期間における制御速さは前記基準制御速さよりも緩やかとされ、
前記制御装置には、前記操作速度及び前記操作速度側切替速度の間の操作速度側速度差が記憶されており、
前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度が前記操作速度及び前記操作速度側速度差によって算出される前記操作速度側切替速度に達すると前記基準制御速さ期間を終了して前記操作速度復帰直前期間に移行することを特徴とする請求項14に記載の作業車輌。
【請求項16】
前記操作速度側速度差を設定する人為操作可能な操作速度側速度差変更部材を備え、
前記操作速度側速度差は、前記操作速度側速度差変更部材によって変更可能とされていることを特徴とする請求項15に記載の作業車輌。
【請求項17】
人為操作可能な基準制御速さ変更部材を備え、
基準制御速さは前記基準制御速さ変更部材によって変更可能とされていることを特徴とする請求項1から16の何れかに記載の作業車輌。
【請求項18】
人為操作可能なブレーキ解除初動期間用制御速さ変更部材を備え、
ブレーキ解除初動期間での制御速さは前記ブレーキ解除初動期間用制御速さ変更部材によって変更可能とされていることを特徴とする請求項1から17の何れかに記載の作業車輌。
【請求項19】
ブレーキ解除初動期間での制御速さは、当該ブレーキ解除初動期間の全体に亘って走行速度の増速割合が一定となるように設定されていることを特徴とする請求項1から18の何れかに記載の作業車輌。
【請求項20】
ブレーキ解除初動期間での制御速さは、時間経過に伴って走行速度の増速割合が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1から18の何れかに記載の作業車輌。
【請求項21】
人為操作可能な操作速度復帰直前期間用制御速さ変更部材を備え、
操作速度復帰直前期間での制御速さは前記操作速度復帰直前期間用制御速さ変更部材によって変更可能とされていることを特徴とする請求項1から20の何れかに記載の作業車輌。
【請求項22】
操作速度復帰直前期間での制御速さは、当該操作速度復帰直前期間の全体に亘って走行速度の増速割合が一定となるように設定されていることを特徴とする請求項1から21の何れかに記載の作業車輌。
【請求項23】
操作速度復帰直前期間での制御速さは、時間経過に伴って走行速度の増速割合が小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項1から21の何れかに記載の作業車輌。
【請求項24】
前記ブレーキ装置は、ブレーキ解除初動期間内において完全解除状態となるように構成されていることを特徴とする請求項1から23の何れかに記載の作業車輌。
【請求項25】
前記ブレーキ操作部材の操作状態を検出するブレーキ操作センサを備え、
前記制御装置は、前記ブレーキ操作センサからの検出信号に基づき、前記ブレーキ装置の非作動状態、係合状態及び解除状態を検出することを特徴とする請求項1から24の何れかに記載の作業車輌。
【請求項26】
前記無段変速装置は、前記駆動源から入力される回転動力を前記変速アクチュエータによる変速動作に応じて正逆双方向に無段変速して出力するHSTと、前記駆動源及び前記HSTから入力される回転動力を合成し、合成回転動力を前記走行部材へ向けて出力する遊星ギヤ機構とを含むHMTとされ、
前記HMTは、前記HSTの出力速度が中立速及び逆転側最高速の間の逆転側所定回転速とされた際に、合成回転動力の出力速度がゼロ速となり、前記HSTの出力速度が逆転側所定回転速から中立速を介して正転側最高速へ変速されるに従って、合成回転動力の出力速度がゼロ速から前進側最高速へ変速され、前記HSTの出力速度が逆転側所定回転速から逆転側最高速へ変速されるに従って、合成回転動力の出力速度がゼロ速から後進側最高速へ変速されるように、構成されていることを特徴とする請求項1から25の何れかに記載の作業車輌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速操作部材の操作状態に応じて出力制御される無段変速装置及びブレーキ操作部材の操作状態に応じて制動力の付加又は解除が行われるブレーキ装置が、駆動源から駆動輪へ至る走行系伝動経路に備えられている作業車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源から走行部材へ至る走行系伝動経路に介挿されたHST(油圧式無段変速機構)及び遊星歯車機構を含むHMT(油圧・機械式無段変速装置)と、前記HMTの変速状態を変化させる変速アクチュエータと、前記駆動輪に作動的に制動力を付加可能なブレーキ装置と、人為操作可能な変速操作部材及びブレーキ操作部材と、前記HMTの出力が前記変速操作部材の操作状態に応じて変化するように前記変速アクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記ブレーキ操作部材への人為操作に応じて前記ブレーキ装置が係合状態又は解除状態とされる作業車輌において、前記ブレーキ装置の係合状態を検出すると、前記制御装置が、前記HSTの可動斜板が車速ゼロに相当する中立位置に位置するように前記変速アクチュエータを作動させ、且つ、前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行を検出すると、前記可動斜板がブレーキ装置の係合開始時点の変速比に応じた傾転位置又は前記変速操作部材のその時点での操作状態に応じた傾転位置に位置するように前記変速アクチュエータを作動させること(以下、従来構成という)が提案されている(下記特許文献1参照)。
【0003】
さらに、前記従来構成は、前記ブレーキ装置の係合状態に応じて、HST可動斜板が車速ゼロに相当する中立位置に位置するように前記変速アクチュエータを作動させる際には、予め登録された複数の制御曲線の中から一の制御曲線を選択し、当該一の制御曲線に従って前記変速アクチュエータの作動制御を行うように構成されている。
【0004】
前記従来構成は、前記ブレーキ装置が係合状態とされて前記駆動輪に作動的に制動力が付加されているにも拘わらず、前記HMTが前記駆動輪へ向けて回転動力を出力し続けることを有効に防止でき、これにより、前記ブレーキ装置の係合状態時に、制動距離が不当に伸びること並びに前記HMTに必要以上に負荷が掛かることを有効に防止できる点において有用であるが、前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への切替時における増速制御に関しては改善の余地があった。
【0005】
即ち、前記従来構成においては、前記作業車輌が作業走行中において前記ブレーキ装置が係合状態へ移行され且つその後に解除状態へ移行された場合には、前記ブレーキ装置の解除状態への移行の際に、前記ブレーキ装置の係合開始時点で記憶されたHST変速比が走行再開時の開始変速比として読み出され、この開始変速比に基づいてHST変速比制御曲線を決定し、急激にHST変速比を増速側へ変化させるのではなく、段階的に徐々に変更させるようにしてスムースな発進を行う、とされているが、前記特許文献1にその具体的な構成は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4439183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、無段変速装置及びブレーキ装置を備え、前記ブレーキ装置の係合状態への移行に応じて前記無段変速装置の減速制御を行い且つ前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行に応じて前記無段変速装置の増速制御を行う作業車輌であって、増速制御に際し変速ショックを可及的に防止乃至は低減させて円滑な増速を行える作業車輌の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する為に、本発明の第1態様は、駆動源と、走行部材と、前記駆動源からの回転動力を無段変速して、前記走行部材へ向けて出力する無段変速装置と、前記無段変速装置の変速状態を変化させる変速アクチュエータと、前記走行部材に作動的に係合して制動力を付加可能なブレーキ装置と、人為操作可能な変速操作部材及びブレーキ操作部材と、前記変速アクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記ブレーキ操作部材の人為操作に応じて前記ブレーキ装置が係合又は解除されるように構成された作業車輌であって、前記制御装置は、前記ブレーキ装置の非作動状態、係合状態及び解除状態を検出した際に、それぞれ、起動する通常変速制御モード、ブレーキ係合変速制御モード及びブレーキ解除変速制御モードを有し、前記通常変速制御モードは、前記走行部材の走行速度が前記変速操作部材の操作位置に応じた操作速度となるように前記変速アクチュエータを作動させ、前記ブレーキ係合変速制御モードは、前記走行速度が、前記ブレーキ装置の非作動状態から係合状態への移行を検出したブレーキ係合開始時点での前記操作速度から車速ゼロ速へ向けて所定の制御速さで減速するように、前記変速アクチュエータを作動させ、前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度が、前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行を検出したブレーキ解除開始時点でのブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させ、前記ブレーキ解除変速制御モードにおいて、ブレーキ解除開始時点直後の所定のブレーキ解除初動期間における制御速さ、及び、操作速度復帰時点直前の所定の操作速度復帰直前期間における制御速さの少なくとも一方が所定の基準制御速さよりも緩やかとされている作業車輌を提供する。
【0009】
前記第1態様の第1例においては、前記制御装置には、前記ブレーキ解除変速制御モードの全体時間に対する、ブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの時間配分を表す時間配分係数が記憶され、前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度を前記ブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで前記基準制御速さで増速させる際の基準所要時間と同一時間で前記走行速度を前記ブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで増速させつつ、ブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間の長さを、前記基準所要時間とブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの前記時間配分係数とに基づいて決定するように構成される。
【0010】
前記第1態様の第1例において、好ましくは、前記作業車輌には人為操作可能な時間配分変更部材が備えられ、ブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの前記時間配分係数は前記時間配分変更部材によって変更可能とされる。
【0011】
前記第1態様の第2例においては、ブレーキ解除初動期間における制御速さが前記基準制御速さよりも緩やかとされ、前記制御装置には、ブレーキ解除初動期間の長さが予め記憶される。
【0012】
前記第1態様の第2例に係る作業車輌には、好ましくは、人為操作可能なブレーキ解除初動期間変更部材が備えられる。
この場合、前記制御装置に記憶されるブレーキ解除初動期間は、前記ブレーキ解除初動期間変更部材によって変更可能とされる。
【0013】
前記第1態様の第2例において、好ましくは、前記ブレーキ解除変速制御モードは、ブレーキ解除初動期間の終了後に前記走行速度を前記基準制御速さで増速させる基準制御速さ期間を有し得る。
【0014】
より好ましくは、前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度が前記操作速度よりも所定速度だけ低速の操作速度側切替速度に到達すると基準制御速さ期間を終了し、前記基準制御速さ期間の終了後の前記操作速度復帰直前期間において前記走行速度が前記操作速度側切替速度から前記操作速度まで前記基準制御速さよりも緩やかな制御速さで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる。
【0015】
前記第1態様の第2例に係る作業車輌には、好ましくは、前記操作速度及び前記操作速度側切替速度の間の速度差を設定する人為操作可能な操作速度側切替速度設定部材が備えられ、前記操作速度側切替速度は、前記操作速度から前記操作速度側切替速度設定部材によって設定された速度差を減じた速度にとされる。
【0016】
前記目的を達成する為に、本発明の第2態様は、駆動源と、走行部材と、前記駆動源からの回転動力を無段変速して、前記走行部材へ向けて出力する無段変速装置と、前記無段変速装置の変速状態を変化させる変速アクチュエータと、前記走行部材に作動的に係合して制動力を付加可能なブレーキ装置と、人為操作可能な変速操作部材及びブレーキ操作部材と、前記変速アクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記ブレーキ操作部材の人為操作に応じて前記ブレーキ装置が係合又は解除されるように構成された作業車輌であって、前記制御装置は、前記ブレーキ装置の非作動状態、係合状態及び解除状態を検出した際に、それぞれ、起動する通常変速制御モード、ブレーキ係合変速制御モード及びブレーキ解除変速制御モードを有し、前記通常変速制御モードは、前記走行部材の走行速度が前記変速操作部材の操作位置に応じた操作速度となるように前記変速アクチュエータを作動させ、前記ブレーキ係合変速制御モードは、前記走行速度が、前記ブレーキ装置の非作動状態から係合状態への移行を検出したブレーキ係合開始時点での前記操作速度から車速ゼロ速へ向けて所定の制御速さで減速するように、前記変速アクチュエータを作動させ、前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度が、前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行を検出したブレーキ解除開始時点でのブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させ、前記ブレーキ解除変速制御モードにおいて、前記走行速度が前記ブレーキ解除開始時速度から所定速度だけ高速のブレーキ解除開始側切替速度に達するまでのブレーキ解除初動期間における制御速さ、及び、前記走行速度が前記操作速度より所定速度だけ低速の操作速度側切替速度から前記操作速度に到達するまでの操作速度復帰直前期間における制御速さの少なくとも一方が所定の基準制御速さよりも緩やかとされている作業車輌を提供する。
【0017】
前記第2態様の第1例において、前記制御装置には、前記ブレーキ解除変速制御モードにおいて変速する全体変速幅に対するブレーキ解除初動期間及びブレーキ解除初動期間のそれぞれの速度幅を表す速度配分係数が記憶され、前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度を前記ブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで前記基準制御速さで増速させる際の基準所要時間と同一時間で前記走行速度を前記ブレーキ解除開始時速度から前記操作速度まで増速させつつ、ブレーキ解除開始側切替速度及び操作速度側切替速度を、前記全体変速幅とブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの前記速度配分係数とに基づいて決定するように構成される。
【0018】
前記第2態様において、好ましくは、前記作業車輌には、人為操作可能な速度配分変更部材が備えられ、ブレーキ解除初動期間及び操作速度復帰直前期間のそれぞれの前記速度配分係数は前記速度配分変更部材によって変更可能とされる。
【0019】
前記第2態様の第2例においては、ブレーキ解除初動期間における制御速さが前記基準制御速さよりも緩やかとされ、前記制御装置には、前記ブレーキ解除開始時速度及び前記ブレーキ解除開始側切替速度の間のブレーキ解除開始側速度差が記憶される。
この場合、前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記ブレーキ解除開始時速度及び前記ブレーキ解除開始側速度差に基づき前記ブレーキ解除開始側切替速度を算出する。
【0020】
前記第2態様の第2例に係る作業車輌は、好ましくは、前記ブレーキ解除開始側速度差を設定する人為操作可能なブレーキ解除開始側速度差変更部材を備え得る。
この場合、前記制御装置に記憶されるブレーキ解除開始側速度差は、前記ブレーキ解除開始側速度差変更部材によって変更可能とされる。
【0021】
前記第2態様の第2例において、好ましくは、前記ブレーキ解除変速制御モードは、ブレーキ解除初動期間の終了後に前記走行速度を前記基準制御速さで増速させる基準制御速さ期間を有し得る。
【0022】
より好ましくは、操作速度復帰直前期間における制御速さは前記基準制御速さよりも緩やかとされる。
この場合、前記制御装置には、前記操作速度及び前記操作速度側切替速度の間の操作速度側速度差が記憶され、前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行速度が前記操作速度及び前記操作速度側速度差によって算出される前記操作速度側切替速度に達すると前記基準制御速さ期間を終了して前記操作速度復帰直前期間に移行する。
【0023】
前記第2態様の第2例に係る作業車輌は、好ましくは、前記操作速度側速度差を設定する人為操作可能な操作速度側速度差変更部材を備え得る。
この場合、前記操作速度側速度差は、前記操作速度側速度差変更部材によって変更可能とされる。
【0024】
本発明の前記第1及び第2態様に係る作業車輌は、好ましくは、人為操作可能な基準制御速さ変更部材を備え、基準制御速さは前記基準制御速さ変更部材によって変更可能とされる。
【0025】
本発明の前記第1及び第2態様に係る作業車輌は、好ましくは、人為操作可能なブレーキ解除初動期間用制御速さ変更部材を備え、ブレーキ解除初動期間での制御速さは前記ブレーキ解除初動期間用制御速さ変更部材によって変更可能とされる。
【0026】
例えば、ブレーキ解除初動期間での制御速さは、当該ブレーキ解除初動期間の全体に亘って走行速度の増速割合が一定となるように設定され得る。
これに代えて、ブレーキ解除初動期間での制御速さは、時間経過に伴って走行速度の増速割合が大きくなるように設定され得る。
【0027】
本発明の前記第1及び第2態様に係る作業車輌は、好ましくは、人為操作可能な操作速度復帰直前期間用制御速さ変更部材を備え、操作速度復帰直前期間での制御速さは前記操作速度復帰直前期間用制御速さ変更部材によって変更可能とされる。
【0028】
例えば、操作速度復帰直前期間での制御速さは、当該操作速度復帰直前期間の全体に亘って走行速度の増速割合が一定となるように設定され得る。
これに代えて、操作速度復帰直前期間での制御速さは、時間経過に伴って走行速度の増速割合が小さくなるように設定され得る。
【0029】
本発明の前記第1及び第2態様に係る作業車輌において、好ましくは、前記ブレーキ装置は、ブレーキ解除初動期間内において完全解除状態となるように構成される。
【0030】
本発明の前記第1及び第2態様に係る作業車輌は、好ましくは、前記ブレーキ操作部材の操作状態を検出するブレーキ操作センサを備え得る。
この場合、前記制御装置は、前記ブレーキ操作センサからの検出信号に基づき、前記ブレーキ装置の非作動状態、係合状態及び解除状態を検出する。
【0031】
本発明の前記第1及び第2態様に係る作業車輌において、好ましくは、前記無段変速装置は、前記駆動源から入力される回転動力を前記変速アクチュエータによる変速動作に応じて正逆双方向に無段変速して出力するHSTと、前記駆動源及び前記HSTから入力される回転動力を合成し、合成回転動力を前記走行部材へ向けて出力する遊星ギヤ機構とを含むHMTとされ、前記HMTは、前記HSTの出力速度が中立速及び逆転側最高速の間の逆転側所定回転速とされた際に、合成回転動力の出力速度がゼロ速となり、前記HSTの出力速度が逆転側所定回転速から中立速を介して正転側最高速へ変速されるに従って、合成回転動力の出力速度がゼロ速から前進側最高速へ変速され、前記HSTの出力速度が逆転側所定回転速から逆転側最高速へ変速されるに従って、合成回転動力の出力速度がゼロ速から後進側最高速へ変速されるように、構成される。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る作業車輌によれば、ブレーキ装置の係合状態への移行に応じて走行速度を減速させ且つ前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行に応じて走行速度を増速させつつ、さらに、前記ブレーキ装置の係合状態から解除状態への移行時における増速制御の際の変速ショックを可及的に防止乃至は低減して円滑な増速を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る作業車輌の伝動模式図である。
図2図2は、図1に示す前記作業車輌における無段変速装置を形成するHMTの断面図である。
図3図3は、図2に示す前記HMTにおけるHSTの油圧回路図である。
図4図4は、前記HSTの出力回転速度と前記HMTの出力回転速度との関係を表すグラフである。
図5図5は、前記作業車輌におけるブレーキ操作部材の斜視図であり、非操作位置(初期位置)に位置されている状態を示している。
図6図6は、前記ブレーキ操作部材の斜視図であり、最大係合操作位置に位置されている状態を示している。
図7図7は、前記ブレーキ操作部材が一操作パターンで操作された場合に、前記実施の形態1に係る作業車輌における制御装置によって変速制御される走行速度(前記HMTの出力速度)の変化状況を表すグラフである。
図8図8は、前記ブレーキ操作部材が他の操作パターンで操作された場合に、前記制御装置によって変速制御される走行速度(前記HMTの出力速度)の変化状況を表すグラフである。
図9図9は、前記ブレーキ操作部材が図7におけると同一操作パターンで操作された場合に、前記制御装置における第1変形例の制御構造によって変速制御される走行速度(前記HMTの出力速度)の変化状況を表すグラフである。
図10図10は、前記ブレーキ操作部材が図7におけると同一操作パターンで操作された場合に、前記制御装置の第2変形例の制御構造によって変速制御される走行速度(前記HMTの出力速度)の変化状況を表すグラフである。
図11図11は、前記ブレーキ操作部材が図7におけると同一操作パターンで操作された場合に、前記制御装置の第3変形の制御構造によって変速制御される走行速度(前記HMTの出力速度)の変化状況を表すグラフである。
図12図12は、前記制御装置による変速制御のフローチャートである。
図13図13は、前記制御装置におけるブレーキ解除変速制御モードのフローチャートである。
図14図14は、前記制御装置におけるブレーキ解除変速制御モードの変形例のフローチャートである。
図15図15は、前記ブレーキ操作部材が図7におけると同一の操作パターンで操作された場合に、本発明の実施の形態2に係る作業車輌における制御装置によって変速制御される走行速度(前記HMTの出力速度)の変化状況を表すグラフである。
図16図16は、前記ブレーキ操作部材が図15におけると同一操作パターンで操作された場合に、図15の第1変形例に係る制御構造によって変速制御される走行速度(前記HMTの出力速度)の変化状況を表すグラフである。
図17図17は、前記ブレーキ操作部材が図15におけると同一操作パターンで操作された場合に、図15の第2変形例に係る制御構造によって変速制御される走行速度(前記HMTの出力速度)の変化状況を表すグラフである。
図18図18は、前記実施の形態2に係る作業車輌における制御装置によるブレーキ解除変速制御モードのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
実施の形態1
以下、本発明に係る作業車輌の一実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施の形態に係る作業車輌1の伝動模式図を示す。
【0035】
図1に示すように、前記作業車輌1は、駆動源10と、駆動輪等の走行部材15と、前記駆動源10からの回転動力を無段変速して、前記走行部材15へ向けて出力する無段変速装置100と、前記走行部材15に作動的に係合して制動力を付加可能なブレーキ装置300とを備えている。
【0036】
本実施の形態においては、図1に示すように、前記無段変速装置100は、前記駆動源10から作動的に入力される回転動力を無段変速する油圧式無段変速機構110(以下、HSTという)と、前記駆動源10から作動的に入力される回転動力及び前記HST110から作動的に入力される回転動力を合成し、合成回転動力を前記走行部材15へ向けて出力する遊星ギヤ機構150とを有する油圧・機械式無段変速装置(以下、HMTという)とされている。
当然ながら、前記無段変速装置100が前記HST110のみを有するように変形することも可能である。
【0037】
前記作業車輌1は、前記走行部材15として左右一対の第1及び第2走行部材15(1)、15(2)を有しており、前記無段変速装置100の回転動力を前記第1及び第2走行部材15(1)、15(2)へ差動伝達する差動ギヤ機構320を有している。
【0038】
詳しくは、前記作業車輌1は、前記第1及び第2走行部材15(1)、15(2)をそれぞれ作動的に駆動する左右一対の第1及び第2駆動車軸17(1)、17(2)を有しており、前記差動ギヤ機構320は、前記無段変速装置100から作動的に伝達される回転動力を前記第1及び第2駆動車軸17(1)、17(2)に差動伝達するように構成されている。
【0039】
なお、本実施の形態においては、前記作業車輌1は、図1に示すように、さらに、前記駆動源10から前記走行部材15へ至る走行系伝動経路に関し、前記無段変速装置100及び前記差動ギヤ機構320の間に介挿されたギア式変速機構250を有している。
【0040】
前記ギヤ式変速機構250は、前記無段変速装置100からの回転動力を作動的に入力する副変速入力軸252と、副変速出力軸254と、前記副変速入力軸252から前記副変速出力軸254へ回転動力を伝達可能な低速ギヤ列256L及び高速ギヤ列256Hを含む複数の副変速ギヤ列と、前記複数の変速ギヤ列のうちの一のギヤ列を伝動状態とさせるシフター258とを有している。
【0041】
この場合、前記無段変速装置100が主変速装置として作用し、前記ギヤ式変速機構250が副変速装置として作用する。
【0042】
図1に示すように、前記ギヤ式変速機構250及び前記差動ギヤ機構320は前記作業車輌1に備えられるミッションケース200内に収容されており、前記第1及び第2駆動車軸17(1)、17(2)は前記ミッションケース200に支持されている。
【0043】
図2に、前記無段変速装置100の断面図を示す。
図1及び図2に示すように、本実施の形態においては、前記無段変速装置100は、前記HST110及び前記遊星ギヤ機構150を収容するハウジング102を有しており、前記ハウジング102が前記ミッションケース200に着脱可能に連結されている。
【0044】
図3に、前記HST110の油圧回路図を示す。
図1図3に示すように、前記HST110は、前記ハウジング102に軸線回り回転自在に支持されたポンプ軸112及びモータ軸122と、前記ポンプ軸112に軸線回り相対回転不能に支持された状態で前記ハウジング102に収容された油圧ポンプ114と、前記モータ軸122に軸線回り相対回転不能に支持された状態で前記ハウジング102に収容され、且つ、前記油圧ポンプ114に一対の作動油ライン400a、400bを介して流体接続された油圧モータ124と、前記油圧ポンプ114及び前記油圧モータ124の容積量をそれぞれ画するポンプ側斜板116及びモータ側斜板126とを備えており、前記ポンプ側斜板116及び前記モータ側斜板126の少なくとも一方が揺動軸線回りの傾転位置に応じて対応する油圧ポンプ114又は油圧モータ124の容積量を変化させる可動斜板とされている。
【0045】
図1図3に示すように、本実施の形態においては、前記ポンプ側斜板116が可動斜板とされており、一方、前記モータ側斜板126は固定斜板とされている。
【0046】
図3に示すように、前記HST110は、さらに、前記ポンプ軸112によって駆動される補助ポンプ130と、前記補助ポンプ130から圧油供給を受ける供給ライン410と、前記供給ライン410の油圧を設定するリリーフ弁412と、一端部が前記供給ライン410に流体接続され且つ分岐点416において第1及び第2分岐ライン415a、415bに分岐されたチャージライン415であって、前記第1及び第2分岐ライン415a、415bの圧油流れ方向下流端部がそれぞれ前記第1及び第2作動油ライン400a、400bに流体接続されているチャージライン415と、前記供給ライン410から対応する作動油ライン400a、400bへの圧油流入を許容し且つ逆向きの流れを防止するように前記第1及び第2分岐ライン415a、415bにそれぞれ介挿されたチェック弁417とを有している。
【0047】
本実施の形態においては、前記HST110は、さらに、前記第1及び第2分岐ライン415a、415bのそれぞれに前記チェック弁417に並列状態で設けられた高圧リリーフ弁420を有している。前記高圧リリーフ弁420は、一方の作動油ライン(例えば、第1作動油ライン400a)の異常高圧時に当該一方の作動油ライン400aの圧油を、他方の作動油ライン400bに接続された分岐ライン415b及び当該分岐ライン415bに介挿された前記チェック弁417を介して他方の作動油ライン400bへリリーフさせる。
【0048】
また、前記第1及び第2分岐ライン415a、415bの一方には、当該一方の分岐ラインに介挿される前記チェック弁417をバイパスさせるバイパスライン422と、前記バイパスライン422に介挿された絞り424とが設けられている。
【0049】
前記バイパスライン422及び前記絞り424は、HST作動効率の悪化を可能な範囲で防止しつつ、HST中立幅を確保する為に備えられるものであり、好ましくは、前記一対の第1及び第2作動油ライン400a、400bのうち、後進時高圧側の作動油ライン(例えば、第2作動油ライン400b)に流体接続された分岐ライン415bに備えられる。
【0050】
図1及び図2に示すように、前記遊星ギヤ機構150は、サンギヤ152と、前記サンギヤ152と噛合する遊星ギヤ154と、前記遊星ギヤ154と噛合するインターナルギヤ156と、前記遊星ギヤ154を軸線回り回転自在に支持し且つ前記遊星ギヤ154の前記サンギヤ152回りの公転に連動して前記サンギヤ152の軸線回りに回転するキャリヤ158とを有しており、前記サンギヤ152、前記キャリヤ158及び前記インターナルギヤ156が遊星3要素を形成している。
【0051】
前記遊星3要素のうちの第1要素に前記HST110の出力が作動的に入力され、第2要素に前記駆動源10からの動力が作動的に入力され、第3要素から合成回転動力が出力される。
【0052】
本実施の形態においては、図1及び図2に示すように、前記サンギヤ152、前記インターナルギヤ156及び前記キャリヤ158が、それぞれ、前記第1~第3要素として作用している。
【0053】
図1及び図2に示すように、前記無段変速装置100は、さらに、前記駆動源10から作動的に伝達される回転動力を入力する入力軸105と、前記第3要素(本実施の形態においては前記キャリヤ158)に作動連結されたHMT出力軸195とを有している。
【0054】
前記入力軸105は、前記ポンプ軸112と同軸上に配置されており、伝動方向上流側の第1端部105aが前記駆動源10に作動連結され且つ伝動方向下流側の第2端部105bが前記ポンプ軸112にカップリング106を介して連結されている。
【0055】
本実施の形態においては、図1に示すように、前記ハウジング102を前記ミッションケース200に連結させた状態において、前記入力軸105の第1端部105aが前記ミッションケース200に支持された入力伝動軸205に軸線回り相対回転不能に連結されるようになっている。
なお、前記入力伝動軸205はプーリー伝動機構等の伝動機構202を介して前記駆動源10に作動連結されている。
【0056】
前記インターナルギヤ156は、前記カップリング106に設けられた伝動ギヤ107を介して前記駆動源10からの回転動力を入力している。
【0057】
前記HMT出力軸195は、前記ハウジング102を前記ミッションケース200に連結させた状態において、前記ミッションケース200に支持された伝動軸に軸線回り相対回転不能に連結される。
【0058】
本実施の形態においては、図2に示すように、前記HMT出力軸195は、前記サンギヤ152と同軸上に配置されており、伝動方向上流側の第1端部が前記キャリヤ158に連結され、且つ、伝動方向下流側の第2端部が前記伝動軸に連結されている。
なお、本実施の形態においては、図1に示すように、前記副変速入力軸252が、前記HMT出力軸195が連結される前記伝動軸とされている。
【0059】
図4に、前記HST110の出力(前記モータ軸122の回転動力)の回転速度と前記HMTの出力(前記遊星歯車機構150の合成回転動力)の回転速度との関係を表すグラフを示す。
【0060】
本実施の形態においては、前記HMTは、前記HST110の出力速度が中立速HST(N)及び逆転側最高速HST(Rmax)の間の逆転側所定回転速HST(Rs)とされた際に、合成回転動力の出力速度(即ち、走行速度)がゼロ速0となり、前記HST110の出力速度が逆転側所定回転速HST(Rs)から中立速HST(N)を介して正転側最高速HST(Fmax)へ変速されるに従って、合成回転動力の出力速度がゼロ速から前進側最高速Fmaxへ変速され、前記HST110の出力速度が逆転側所定回転速HST(Rs)から逆転側最高速HST(Rmax)へ変速されるに従って、合成回転動力の出力速度がゼロ速0から後進側最高速Rmaxへ変速されるように、構成されている。
【0061】
斯かる構成により、走行系伝動経路に前後進切替機構を備えることなく、前進走行及び後進走行を可能としつつ、前進側最高速Fmaxの絶対値を後進側最高速Rmaxよりも大きくして、使用頻度の高い前進走行の変速可能範囲を後進走行に比して広げることが可能となっている。
【0062】
図1に示すように、本実施の形態においては、前記ブレーキ装置300は、前記左右一対の第1及び第2駆動車軸17(1)、17(2)にそれぞれ制動力を付加する第1及び第2走行ブレーキ機構300(1)、300(2)を有している。
本実施の形態においては、前記第1及び第2走行ブレーキ機構300(1)、300(2)は摩擦板式とされている。
【0063】
図1及び図3に示すように、前記作業車輌1は、さらに、前記無段変速装置100の変速状態を変化させる変速アクチュエータと、人為操作可能な変速操作部材710及びブレーキ操作部材720と、前記変速アクチュエータの作動制御を司る制御装置700とを備えている。
【0064】
前記ブレーキ装置300は、前記ブレーキ操作部材720への人為操作に応じて係合及び解除の切替が行われるように構成されている。
【0065】
本実施の形態においては、前記作業車輌1は、前記ブレーキ操作部材720と前記ブレーキ装置300の作動部とを作動連結するブレーキリンク機構305(下記図5及び図6参照)を有しており、前記ブレーキ装置300が、前記ブレーキ操作部材720の操作量に比例した大きさの制動力を生じるようになっている。
【0066】
当然ながら、前記ブレーキリンク機構305に代えて、前記ブレーキ装置300を油圧的に作動させる油圧構造及び前記ブレーキ操作部材720への操作に応じて前記油圧構造への油路の切替を行う電磁弁を含む油圧式アクチュエータ、又は、前記ブレーキ操作部材720への操作に応じて前記ブレーキ装置300を作動させる電動モータ等の電気式アクチュエータ等のブレーキアクチュエータを備えることも可能である。
【0067】
この場合、前記制御装置700は、前記ブレーキ装置300が前記ブレーキ操作部材720への人為操作に応じた作動状態となるように、前記ブレーキアクチュエータの作動制御を行うように構成される。
【0068】
図3に示すように、本実施の形態に係る作業車輌1は、前記変速アクチュエータとして、電気制御式油圧サーボ機構500を有している。
【0069】
図3に示すように、前記油圧サーボ機構500は、サーボ空間505に往復動可能に収容されたサーボピストン510と、前記サーボピストン510を前記ポンプ側斜板116に連結させる連結ピン520とを有している。
【0070】
本実施の形態においては、前記サーボ空間505は前記ハウジング102に形成されている。
前記サーボピストン510は、前記サーボ空間505の長手方向一端側及び他端側にそれぞれ第1及び第2油室506a、506bを液密に画した状態で前記サーボ空間505に収容されており、前記第1油室506aへの圧油供給及び前記第2油室506bからの圧油排出によって軸線方向一方側の第1軸線方向へ移動され且つ前記第2油室506bへの圧油供給及び前記第1油室506aからの圧油排出によって軸線方向他方側の第2軸線方向へ移動されるようになっている。
【0071】
前記連結ピン520は、前記サーボピストン510の第1及び第2軸線方向への移動に応じて可動斜板(本実施の形態においては前記ポンプ側斜板116)がそれぞれ揺動軸線回り第1及び第2方向へ傾転するように、前記サーボピストン510及び前記可動斜板を連結している。
【0072】
一方、本実施の形態においては、前記ポンプ側斜板116は、前記ハウジング102に設けられた凹状の斜板受け部によって揺動軸線回り傾転可能に支持されたクレードル型とされており、前記連結ピン520の基端側が作動連結されている。
【0073】
これにより、前記サーボピストン510が第1軸線方向に移動されると、前記連結ピン520は、前記サーボピストン510と共に第1軸線方向に移動されて、前記ポンプ側斜板116に対して前記第1軸線方向への押動力を付加する。
第1軸線方向への押動力を受けると、前記ポンプ側斜板116は、前記斜板受け部によって画される揺動軌跡に沿って、揺動軸線回りに第1方向へ傾転される。
【0074】
図3に示すように、前記油圧サーボ機構500は、さらに、油圧源から圧油を受ける圧油ライン530と、前記第1及び第2油室506a、506bにそれぞれ流体接続された第1及び第2給排ライン535a、535bと、ドレンライン540と、前記圧油ライン530、前記第1給排ライン535a、前記第2給排ライン535b及び前記ドレンライン540の接続状態を切り替える切替弁600と、操作空間の長手方向一端側及び他端側にそれぞれ第1操作油室155a及び第2操作油室を液密に画した状態で当該操作空間に往復動可能往復動可能に収容された操作ピストン770と、前記操作ピストン770及び前記切替弁600を連結させる連結部材760と、前記第1及び第2操作油室155a、155bに対する圧油給排をそれぞれ切り替える第1及び第2電磁比例弁820a、820bとを備えている。
【0075】
前記切替弁600は前記サーボピストン510の中央軸線孔に往復動可能に収容されたスプールとされ得る。
【0076】
前記切替弁600は、前記第1給排ライン535aを前記圧油ライン530に流体接続させて前記第1油室506aに圧油を供給し且つ前記第2給排ライン535bを前記ドレンライン540に流体接続させて前記第2油室506bから圧油を排出させて前記サーボピストン510を軸線方向一方側へ移動させる第1方向作動位置(例えばHST正転方向作動位置)と、前記第1給排ライン535aを前記ドレンライン540に流体接続させて前記第1油室506aから圧油を排出させ且つ前記第2給排ライン535bを前記圧油ライン540に流体接続させて前記第1油室506aに圧油を供給して前記サーボピストン510を軸線方向他方側へ移動させる第2方向作動位置(例えばHST逆転方向作動位置)と、前記第1及び第2給排ライン535a、bを閉塞させて、前記サーボピストン510をその時点の軸線方向位置に保持する保持位置とをとり得るように構成されている。
【0077】
前記操作ピストン770は、前記第1操作油室155aへの圧油供給及び前記第2操作油室155bからの圧油排出によって第1長手方向へ移動され且つ前記第2操作油室155bへの圧油供給及び前記第1操作油室155aからの圧油排出によって第2長手方向へ移動される。
【0078】
前記連結部材760は、前記操作ピストン770の第1及び第2長手方向への移動に応じて前記切替弁600がそれぞれ第1方向作動位置及び第2方向作動位置へ向けて移動されるように、前記操作ピストン770及び前記切替弁600を作動連結している。
【0079】
前記制御装置700は、入力信号に応じて前記第1及び第2電磁比例弁820a、820bの作動制御を行うことで、前記HST110の出力速度(即ち、前記HMTの出力速度)を変更する。
【0080】
なお、本実施の形態においては、前記変速アクチュエータとして前記油圧サーボ機構500が備えられているが、当然ながら、前記制御装置700による制御によって、前記無段変速装置100の変速部(本実施の形態においては前記ポンプ側斜板116)を作動させ得る限り、種々の構成を取ることができる。
例えば、前記変速アクチュエータとして、前記油圧サーボ機構500の代わりに、電動モータを備えることも可能である。
【0081】
前記変速操作部材710の操作状態は、前記作業車輌1に備えられる変速操作センサ715(図3参照)によって検出される。
【0082】
例えば、前記変速操作部材710は変速操作軸線回り回動操作可能とされ、前記変速操作センサ715は前記変速操作部材710の変速操作軸線回りの回動角度を検出するように構成され得る。
【0083】
この場合、前記変速操作センサ715は、前記変速操作部材710における前記変速操作軸線回り一方側及び他方側の回動端をそれぞれ前進側最高速位置及び後進側最高速位置として検出し、前記変速操作軸線回りに関し前進側最高速位置及び後進側最高速位置の間の所定の中間位置を車速ゼロ速位置として検出する。
【0084】
図5及び図6に、前記ブレーキ操作部材720の斜視図を示す。
本実施の形態においては、前記ブレーキ操作部材720は、ブレーキ操作軸線721回りに、非操作位置(初期位置)及び最大係合操作位置の間で回動操作可能とされている。
図5及び図6は、それぞれ、非操作位置(初期位置)及び最大係合操作位置に位置されている状態を示している。
【0085】
図5及び図6における符号723は、前記ブレーキ操作部材720を非操作位置(初期位置)へ向けて付勢するブレーキ戻しバネである。
即ち、前記ブレーキ操作部材720へのブレーキ操作は前記ブレーキ戻しバネ723の付勢力に抗して行われ、前記ブレーキ操作部材720への人為操作力を解除すると、前記ブレーキ操作部材720は前記ブレーキ戻しバネ723の付勢力によって非操作位置(初期位置)へ戻されるようになっている。
【0086】
以下、前記制御装置700による変速制御構造について説明する。
【0087】
前記作業車輌1は、前記ブレーキ装置300の状態を検出するブレーキセンサを有しており、前記制御装置700は、前記変速アクチュエータの作動制御モードとして、前記ブレーキセンサからの検出信号に基づいて前記ブレーキ装置300の非作動状態、係合状態及び解除状態を検出した際にそれぞれ起動する通常変速制御モード、ブレーキ係合変速制御モード及びブレーキ解除変速制御モードを有している。
【0088】
本実施の形態においては、前記ブレーキセンサとして、前記ブレーキ操作部材720の操作状態を検出するブレーキ操作センサを有しており、前記制御装置700は、前記ブレーキ操作センサからの検出信号に基づき、前記ブレーキ装置300の非作動状態、係合状態及び解除状態を判別する。
【0089】
具体的には、図3図5及び図6に示すように、本実施の形態に係る前記作業車輌1は、前記ブレーキ操作センサとして、前記ブレーキ操作部材720のブレーキ操作軸線721回りの回動角度を検出するブレーキ回動角センサ725を有している。
【0090】
前記ブレーキ操作センサは、ブレーキ回動回動角センサ725に代えて、又は、加えて、ブレーキ入切スイッチ727を有し得る。
前記ブレーキ入切スイッチ727は、前記ブレーキ操作部材720が、非操作位置(初期位置)からブレーキ操作軸線721回りに所定閾値(例えば、ブレーキ操作軸線721回りに3.5°)だけ最大係合操作位置へ向けて離間された入切位置を超えて最大係合操作位置の方向へ操作されたか否かを検出する。
【0091】
前記制御装置700は、前記ブレーキ操作センサからの検出信号に基づき、
・前記ブレーキ操作部材720が継続的にブレーキ非操作範囲(ブレーキ操作軸線721回りに非操作位置(初期位置)から入切位置までの範囲)に位置されている状態を前記ブレーキ装置300の非作動状態と判断し、
・前記ブレーキ操作部材720がブレーキ操作範囲(ブレーキ操作軸線721回りに入切位置から最大操作位置までの範囲)に位置されている状態を前記ブレーキ装置300の係合状態と判断し、
・前記ブレーキ操作部材720がブレーキ操作範囲からブレーキ非操作範囲へ移動された状態を前記ブレーキ装置300の解除状態と判断する。
【0092】
なお、前述の通り、本実施の形態においては、前記作業車輌1は、前記ブレーキ操作センサとして、ブレーキ回動角センサ725及びブレーキ入切スイッチ727を有しており、前記制御装置700は、前記ブレーキ入切スイッチ727からの信号に基づき、前記ブレーキ操作部材720がブレーキ非操作範囲及びブレーキ操作範囲の何れに位置されているかを判断する。
【0093】
これに代えて、前記ブレーキ入切スイッチ727を有さない場合には、前記制御装置700は、前記ブレーキ回動角センサ725からの信号に基づき前記ブレーキ操作部材720がブレーキ非操作範囲及びブレーキ操作範囲の何れに位置されているかを判断することができる。
【0094】
図7に、前記ブレーキ操作部材720が一操作パターンで操作された場合における、走行速度(前記無段変速装置100の出力速度)の変化状況を示す。
【0095】
図7に示す操作パターンにおいては、ブレーキ係合開始時点t1において前記ブレーキ操作部材720がブレーキ非操作範囲からブレーキ操作範囲へ操作され、ブレーキ係合解除開始時点t2において前記ブレーキ操作部材720がブレーキ操作範囲からブレーキ非操作範囲へ操作されている。
【0096】
図7においては、
・前記ブレーキ操作部材720への人為操作が行われず前記ブレーキ操作部材720がブレーキ非操作範囲に位置されたままの期間(即ち、時点0からブレーキ係合開始時点t1までの期間)においては通常変速制御モードが起動され、
・前記ブレーキ操作部材720がブレーキ係合操作されている期間(即ち、ブレーキ係合開始時点t1からブレーキ解除開始時点t2までの期間)においてはブレーキ係合変速制御モードが起動され、
・ブレーキ解除開始時点t2から作動時間Txが経過するまでの期間(即ち、ブレーキ解除開始時点t2から時点t5までの期間)においてはブレーキ解除変速制御モードが起動され、
・ブレーキ解除変速制御モードによって走行速度が前記変速操作部材710の操作位置に応じた操作速度Vtに到達した後の期間(即ち、時点t5以降の期間)においては再び通常変速制御モードが起動される。
【0097】
通常変速制御モードは、前記走行部材15の走行速度が前記変速操作部材710の操作位置に応じた操作速度Vtとなるように前記変速アクチュエータ(本実施の形態においては前記油圧サーボ機構500)の作動制御を実行する。
【0098】
詳しくは、前記作業車輌1は、前記走行部材15の走行速度を直接又は間接的に検出する車速センサを有しており、通常変速制御モードは、前記車速センサによって検出される走行速度が前記変速操作センサ715によって検出される操作位置に応じた操作速度Vtとなるように、前記変速アクチュエータを作動させる。
【0099】
図1に示すように、本実施の形態に係る作業車輌1は、前記車速センサとして、前記無段変速装置の出力速度を検出する変速出力センサ735を有している。
【0100】
本実施の形態においては、図1及び図2に示すように、前記変速出力センサ735は、前記モータ軸122の回転速度を検出するHSTセンサ735a及び前記HMT出力軸195の回転速度を検出するHMTセンサ735bを備えているが、前記HSTセンサ735a及び前記HMTセンサ735bの何れか一方を省略することも可能である。
【0101】
即ち、例えば、前記HSTセンサ735aのみを備える場合には、前記モータ軸122の回転速度と前記遊星ギヤ機構150の変速比とに基づき、前記HMT出力軸195の出力速度が算出される。
【0102】
ブレーキ係合変速制御モードは、前記走行部材15の走行速度(本実施の形態においては前記無段変速装置100の出力速度)が、前記ブレーキ装置300の非作動状態から係合状態への移行を検出したブレーキ係合開始時点t1での前記操作速度Vtから車速ゼロ速へ向けて所定の制御速さA(図7参照)で減速するように、前記変速アクチュエータを作動させる。
【0103】
前記制御速さAは前記制御装置700に予め設定登録される。
好ましくは、前記所定制御速さAは前記作業車輌1に人為操作可能に備えられるブレーキ係合制御速さ変更部材740a(図3参照)を介して使用者によって変更可能とされる。
【0104】
前述の通り、本実施の形態においては、前記無段変速装置100が前記HMTとされており、前記HST110の出力速度が中立速HST(N)及び逆転側最高速HST(Rmax)の間の逆転側所定回転速HST(Rs)とされた際に、前記HMTの出力速度が車速ゼロ速となるように構成されている。
【0105】
従って、本実施の形態においては、ブレーキ係合変速制御モードにおいては、前記制御装置700は、前記HST110の出力速度が逆転側所定回転速HST(Rs)となるように、前記変速アクチュエータを作動させる。
【0106】
これとは異なり、前記無段変速装置100が前記HST110のみによって構成される場合には、ブレーキ係合変速制御モードにおいて、前記制御装置700は、前記HST110の出力速度が中立速となるように、前記変速アクチュエータを作動させる。
【0107】
なお、図7に示す前記ブレーキ操作部材720の操作パターンにおいては、走行速度が車速ゼロ速まで減速される前の段階で、前記ブレーキ装置300が係合状態から解除状態へ移行されており、ブレーキ解除開始時点t2での走行速度(以下、ブレーキ解除開始時速度という)Vrは車速ゼロ速より大となっている。
【0108】
当然ながら、走行速度が車速ゼロ速となるまで前記ブレーキ装置300の係合状態を維持し続け、走行速度が車速ゼロ速となった後に前記ブレーキ装置300を係合状態から解除状態へ移行させることも可能である。
【0109】
図8に、前記ブレーキ操作部材720の斯かる操作パターンにおける、走行速度の変化状況を示す。
【0110】
図8に示す前記ブレーキ操作部材720の操作パターンにおいては、ブレーキ係合開始時点t1でのブレーキ係合操作に応じてブレーキ係合変速制御モードが起動され、これにより、走行速度がブレーキ係合開始時点t1での操作速度Vtから所定の制御速さAで車速ゼロ速へ向けて減速されて、時点taにおいて車速ゼロ速となっている。
【0111】
その後、時点taから所定時間経過後のブレーキ解除開始時点t2で前記ブレーキ操作部材720がブレーキ解除操作され、これに応じてブレーキ解除変速制御モードが起動されている。
従って、図8に示す操作パターンにおいては、ブレーキ解除開始時出力速度Vrは車速ゼロ速となる。
【0112】
前記ブレーキ解除変速制御モードは、走行速度が前記ブレーキ装置300の係合状態から解除状態への移行を検出したブレーキ解除開始時点t2でのブレーキ解除開始時速度Vrから前記変速操作部材710の操作位置に応じた操作速度Vtへ復帰するように、前記変速アクチュエータを作動させるものであり、その上で、下記構成を備えている。
【0113】
即ち、図7に示すように、前記ブレーキ解除変速制御モードは、前記走行部材15の走行速度が、ブレーキ解除開始時速度Vrから前記操作速度Vtへ所定の基準制御速さBに応じた基準所要時間Tで復帰すると共に、ブレーキ解除開始時点t2直後の所定のブレーキ解除初動期間Tsにおける制御速さC(ブレーキ解除初動期間制御速さ)、及び、操作速度復帰時点t5直前の所定の操作速度復帰直前期間Teにおける制御速さD(操作速度復帰直前期間制御速さ)が基準制御速さBよりも緩やかとなるように、前記変速アクチュエータを作動させる。
【0114】
ここで、基準制御速さB、ブレーキ解除初動期間制御速さC及び操作速度復帰直前期間制御速さDは予め前記制御装置700に設定登録されている。
また、基準所要時間Tとは、ブレーキ解除開始時速度Vrから操作速度Vtへ基準制御速さBで増速させた場合に要する時間を意味する。
【0115】
斯かる構成によれば、前記ブレーキ装置300を係合状態から解除状態へ移行させるだけで、走行速度を前記変速操作部材710の操作位置に応じた操作速度Vtに自動的に復帰させつつ、その際に生じ得る変速ショックを有効に防止乃至は低減することができ、円滑な増速を実現できる。
【0116】
なお、本実施の形態においては、図7に示すように、ブレーキ解除初動期間制御速さC及び操作速度復帰直前期間制御速さDの双方が基準制御速さBよりも緩やかとされているが、当然ながら、制御速さC及び制御速さDの何れか一方のみを基準制御速さBよりも緩やかとすることも可能である。
【0117】
図9に、ブレーキ解除変速制御モードの第1変形例が適用された制御構造において、前記ブレーキ操作部材720が図7におけると同一操作パターンで操作された場合の走行速度(前記無段変速装置100の出力速度)の変化状況を示す。
図9に示す第1変形例においては、ブレーキ解除初動期間制御速さCだけが基準制御速さBよりも緩やかとされている。
【0118】
図10に、ブレーキ解除変速制御モードの第2変形例が適用された制御構造において、前記ブレーキ操作部材720が図7におけると同一操作パターンで操作された場合の走行速度(前記無段変速装置100の出力速度)の変化状況を示す。
図10に示す第2変形例においては、操作速度復帰直前期間制御速さDだけが基準制御速さBよりも緩やかとされている。
【0119】
また、本実施の形態並びに第1及び第2変形例においては、ブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Teの双方において、時間経過に対する走行速度の増速割合は一定とされているが(即ち、図7図10において、ブレーキ解除初動期間制御速さC及び操作速度復帰直前期間制御速さDは直線によって表されているが)、本発明は斯かる形態に構成に限定されるものではない。
【0120】
図11に、ブレーキ解除変速制御モードの第3変形例が適用された制御構造において、前記ブレーキ操作部材720が図7におけると同一操作パターンで操作された場合の走行速度(前記無段変速装置100の出力速度)の変化状況を示す。
【0121】
図11に示す第3変形例は、ブレーキ解除初動期間Tsにおいては、走行速度の増速割合が時間経過に伴って徐々に大きくなり(図11におけるブレーキ解除初動期間制御速さCが下に凸の湾曲状となり)、且つ、操作速度復帰直前期間Teにおいては、走行速度の増速割合が時間経過に伴って徐々に小さくなるように(図11における操作速度復帰直前期間制御速さDが上に凸の湾曲状となるように)、変形されている。
【0122】
即ち、ブレーキ解除初動期間Tsの開始時点t2及び終了時点t3の間の走行速度の平均増速割合(即ち、図7及び図11における(Vs-Vr)/(t3-t2)によって画される平均増速割合)、及び/又は、操作速度復帰直前期間Teの開始時点t4及び終了時点t5の間の走行速度の平均増速割合(即ち、図7及び図11における(Vt-Ve)/(t5-t4)によって画される平均増速割合)が、基準制御速さBによって画される平均増速割合よりも緩やかである限り、ブレーキ解除初動期間Ts及び/又は操作速度復帰直前期間Teにおける走行速度の変速パターンは種々変形可能である。
【0123】
以下、前記制御装置700による変速制御構造のフローについて説明する。
図12に、前記制御装置700による変速制御構造のフローチャートを示す。
【0124】
前記制御装置700は、前記作業車輌1の主電源オン動作に応じた初期状態において、通常変速制御モードを起動する(ステップ11)。
【0125】
通常変速制御モード起動時においては、前述の通り、前記制御装置700は、前記車速センサによって検出される走行速度が前記変速操作センサ715によって検出される操作速度Vtとなるように、前記変速アクチュエータを作動させる。
【0126】
主電源オフ操作等の走行終了信号が入力されない場合(ステップ12においてNOの場合)、前記制御装置700は、前記ブレーキ装置300が未作動状態から係合状態へ移行されたか否かを判断する(ステップ21)。
【0127】
本実施の形態においては、前記制御装置700は、前記ブレーキ操作センサからの検出信号に基づき、前記ブレーキ装置300が未作動状態から係合状態へ移行されたか否かを判断する。
【0128】
前記ブレーキ装置300が未作動状態の場合(ステップ21においてNOの場合)には、通常変速制御モードが維持される(ステップ11)。
【0129】
一方、前記ブレーキ装置300の係合状態への移行を検出した場合(ステップ21においてYESの場合)には、前記制御装置700は、通常変速制御モードに代えて、ブレーキ係合変速制御モードを起動する(ステップ22)。
【0130】
ブレーキ係合変速制御モード起動時においては、前述の通り、前記制御装置700は、前記車速センサによって検出される走行速度がブレーキ係合開始時点t1での操作速度Vtから車速ゼロ速へ向けて所定の制御速さA(図7参照)で減速するように、前記変速アクチュエータを作動させる。
【0131】
前記制御装置700は、前記ブレーキ装置300の係合状態から解除状態への移行を検出するまでは(ステップ23)、ブレーキ係合変速制御モードを維持する。
【0132】
前記ブレーキ装置300の解除状態への移行を検出した場合(ステップ23においてYESの場合)には、前記制御装置700は、ブレーキ係合変速制御モードに代えてブレーキ解除変速制御モードを起動する(ステップ24)。
【0133】
ここで、ブレーキ解除変速制御モードの詳細について説明する。
図13に、ブレーキ解除変速制御モードのフローチャートを示す。
【0134】
ブレーキ解除変速制御モードが起動されると、前記制御装置700は、まず、ブレーキ解除開始時点t2での走行速度Vr及びその時点での前記変速操作部材710の操作位置に応じた操作速度Vtに基づき変速すべき変速幅ΔVを算出し、このΔV及び予め設定登録されている基準制御速さBに基づきブレーキ解除変速制御モードによって走行速度を操作速度Vtまで復帰させる際に要する基準所要時間Tを算出する(ステップ31)。
【0135】
好ましくは、基準制御速さBは前記作業車輌1に人為操作可能に備えられる基準制御速さ変更部材740b(図3参照)を介して使用者によって変更可能とされる。
【0136】
なお、図7においては、ブレーキ解除開始時点t2での操作速度Vtとブレーキ係合開始時点t1での操作速度Vtとは同一速度とされているが、本発明は、当然ながら、ブレーキ解除開始時点t2での操作速度Vtがブレーキ係合開始時点t1での操作速度Vtと異なっている場合にも適用可能である。
【0137】
前記制御装置700は、当該制御装置700に予め設定登録されている時間配分に基づいて、ブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Teを算出する(ステップ32)。
【0138】
即ち、前記制御装置700には、予め、前記ブレーキ解除変速制御モードの全体時間に対する、ブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Teのそれぞれの時間配分係数Xs及びXe(0≦Xs、Xe<1)が設定登録されており、前記制御装置700は、Ts=Xs×基準所要時間T、及び、Te=Xe×基準所要時間Tに基づきブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Teを算出する。
【0139】
例えば、係数X1が1/3で且つ係数X2が1/4である場合には、ブレーキ解除初動期間TsはT/3となり且つ操作速度復帰直前期間TeはT/4となる。
【0140】
なお、ステップ32において、前記制御装置700は、ブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Teの間の中間期間Tcを併せて算出することができる。
【0141】
好ましくは、前記係数Xs及び係数Xeは、前記作業車輌1に人為操作可能に備えられる時間配分変更部材745s、745e(図3参照)を介して使用者によって変更可能とされる。
【0142】
前記制御装置700は、走行速度がブレーキ解除開始時点t2でのブレーキ解除開始時速度Vrから予め前記制御装置700に設定登録されているブレーキ解除初動期間制御速さCで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる(ステップ33)。
ここで、制御速さCは基準制御速さBよりも緩やかとされている。
【0143】
前記制御装置700は、ブレーキ解除初動期間Tsが経過するまで(即ち、時間tが、ブレーキ解除開始時点t2からブレーキ解除初動期間Tsだけ経過したブレーキ解除開始側切替時点t3に到達するまで)、制御速さCでの増速制御を維持する(ステップ34)。
【0144】
好ましくは、制御速さCは前記作業車輌1に人為操作可能に備えられるブレーキ解除初動期間用制御速さ変更部材740cを介して使用者によって変更可能とされる。
【0145】
なお、前記ブレーキ装置300の係合状態から解除状態への切替が行われた後、前記ブレーキ装置300が完全に解除状態になるまでの期間においては、前記無段変速装置100の増速動作と前記ブレーキ装置300の係合動作とが同時に行われることになる。
【0146】
その為、前記ブレーキ装置300は可及的速やかに完全解除状態へ移行されることが好ましい。
この点に関し、前記無段変速装置100の増速が基準制御速さBよりも緩やかな制御速さCで行われるブレーキ解除初動期間Ts内において、完全解除状態とされることが好ましい。
【0147】
次いで、前記制御装置700は、ブレーキ解除開始側切替時点t3での走行速度Vsを検出する(ステップ35)。
【0148】
前記制御装置700は、ブレーキ解除初動期間Ts、ブレーキ解除変速制御モードにおける制御目標速度である操作速度Vt及び予め設定登録されている操作速度復帰直前期間制御速さDに基づき、操作速度復帰直前期間Teの開始時点t4での目標走行速度Veを算出する(ステップ36)。
ここで、制御速さDは基準制御速さBよりも緩やかとされている。
【0149】
好ましくは、制御速さDは前記作業車輌に人為操作可能に備えられる操作速度復帰直前期間用制御速さ変更部材740dを介して使用者によって変更可能とされる。
【0150】
前記制御装置700は、操作速度復帰直前期間Teの開始時点t4での走行速度Ve及びブレーキ解除開始側切替時点t3での走行速度Vsの間の変速幅ΔVcと操作速度復帰直前期間Teの開始時点t4及びブレーキ解除開始側切替時点t3の間の時間とに基づき、ブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Teの間の中間期間Tcでの制御速さEを算出する(ステップ37)。
【0151】
その後、前記制御装置700は、走行速度がブレーキ解除開始側切替時点t3での走行速度Vsから制御速さEで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる(ステップ38)。
【0152】
中間期間Tcでの制御速さEでの増速制御は、時間がt4に達するか、又は、走行速度がVeに達することによって終了される(ステップ39)。
【0153】
前記制御装置700は、時間がt4に達するか、又は、走行速度がVeに達したと判断すると(ステップ39)、走行速度が制御速さDで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる(ステップ40)。
【0154】
そして、前記制御装置700は、時間がt5に達するか、又は、走行速度が操作速度Vtに達したことを検出すると(ステップ41)、ブレーキ解除変速制御モードを終了して、初期制御モードである通常変速制御モードを起動させる(図12のステップ24からステップ11)。
【0155】
図13に示すブレーキ解除変速制御モードは、「時間」に基づいてブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Teを規定しているが、本発明は斯かる形態に限定されるものではない。
【0156】
図14にブレーキ解除変速制御モードの変形例のフローチャートを示す。
図14に示す変形例は、「走行速度」に基づいてブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Teを規定している。
【0157】
前記変形例においては、ブレーキ解除変速制御モードが起動されると、前記制御装置700は、まず、ブレーキ解除開始時点t2での走行速度Vr及びその時点での前記変速操作部材710の操作位置に応じた操作速度Vtに基づき変速すべき変速幅ΔVを算出する(ステップ51)。
【0158】
次いで、前記制御装置700は、ΔVと当該制御装置700に予め設定登録されている速度配分とに基づき、ブレーキ解除初動期間の終了時点t3での走行速度Vs(即ち、ブレーキ解除開始側切替速度)及び操作速度復帰直前期間Teの開始時点t4での走行速度Ve(即ち、操作速度側切替速度)を算出する(ステップ52)。
【0159】
詳しくは、前記制御装置700には、予め、前記ブレーキ解除変速制御モードにおいて変速すべき全体変速幅に対する、ブレーキ解除初動期間において増速すべき変速幅の割合を示す速度配分係数(以下、ブレーキ解除初動期間速度配分係数Ysという、0≦Ys<1)、及び、前記全体変速幅に対する操作速度復帰直前期間Teにおいて増速すべき変速幅の割合を示す速度配分係数(以下、操作速度復帰直前期間速度配分係数Yeという、0≦Ye<1)が設定登録されており、前記制御装置700は、Vs=Vr+Ys×ΔV、及び、Ve=Vt-Ye×ΔVに基づき、ブレーキ解除開始側切替速度Vs及び操作速度側切替速度Veを算出する。
【0160】
例えば、係数Ysが1/3で且つ係数Yeが1/4である場合には、ブレーキ解除初動期間においてはΔV/3だけ増速され、操作速度復帰直前期間においてはΔV/4だけ増速される。
【0161】
好ましくは、前記係数Ys及び係数Yeは、前記作業車輌1に人為操作可能に備えられる速度配分変更部材750s、750e(図3参照)を介して使用者によって変更可能とされる。
【0162】
前記制御装置700は、走行速度がVrからVsに達するまで、当該制御装置700に予め設定登録されているブレーキ解除初動期間制御速さCで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる(ステップ53及び54)。
【0163】
ここで、前記制御装置700は、ブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Te以外の中間期間Tcでの制御速さEを算出する(ステップ55~57)。
【0164】
具体的には、前記制御装置700は、ΔV及び及び当該制御装置700予め設定登録されている基準制御速さBに基づきブレーキ解除変速制御モードの基準所要時間Tを算出する(ステップ55)。
【0165】
そして、前記制御装置700は、ブレーキ解除開始時点t2、基準所要時間T、操作速度Vt、操作速度側切替速度Ve、及び、予め設定登録されている操作速度復帰直前期間制御速さDに基づき、中間期間Tcを算出する(ステップ56)。
【0166】
即ち、前記制御装置700は、走行速度がVsまで増速された時点(即ち、ブレーキ解除開始側切替時点t3)を認識しており、従って、Tc=((t2+T)-(Vt-Ve)/D)-t3に基づき中間期間Tcを算出する。
【0167】
次いで、前記制御装置700は、E=(Ve-Vs)/Tcに基づき、中間期間Tcでの制御速さEを算出する(ステップ57)。
【0168】
その後、前記制御装置700は、走行速度がVsからVeまで制御速さEで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる(ステップ58及び59)。
【0169】
そして、走行速度がVeに達すると、前記制御装置700は、走行速度がVeからVtまで予め設定登録されている操作速度復帰直前期間制御速さDで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる(ステップ60及び61)。
【0170】
前記制御装置700は、走行速度が操作速度Vtに達したことを検出すると(ステップ61)、ブレーキ解除変速制御モードを終了して、初期制御モードである通常変速制御モードを起動させる(図12のステップ24からステップ11)。
【0171】
実施の形態2
以下、本発明に係る作業車輌の他の実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0172】
本実施の形態に係る作業車輌は、前記実施の形態1に係る作業車輌に比して、前記ブレーキ装置300の係合状態から解除状態への移行に応じて起動されるブレーキ解除変速制御モードの構成が変更されている。
【0173】
図15に、前記ブレーキ操作部材720が図7での操作パターンと同一操作パターンで操作された場合における、走行速度(前記無段変速装置100の出力速度)の変化状況を示す。
【0174】
図7図10に示されるように、前記実施の形態1において採用されている前記ブレーキ解除変速制御モードは、走行速度をブレーキ解除開始時速度Vrから操作速度Vtまで増速させる際に要する作動時間Txが、走行速度をVrからVtまで基準制御速さBで増速させた場合に要する基準所要時間Tと同一時間となるように、構成されている。
【0175】
即ち、前記実施の形態1においては、前記ブレーキ解除初動期間Ts及び/又は前記操作速度復帰直前期間Teにおける制御速さを基準制御速さBよりも緩やかとさせつつ、前記ブレーキ解除変速制御モードの作動時間Tx(即ち、走行速度をブレーキ解除開始時速度Vrから操作速度Vtまで増速させる時間)を基準所要時間Tと同一とさせる為に、制御速さが基準制御速さBよりも緩やかとされた期間以外の期間の少なくとも一部において、制御速さを基準制御速さBよりも速めている。
【0176】
具体的には、図7及び図8に示された構成においては、前記ブレーキ解除変速制御モードの作動時間Txが基準所要時間Tと同一となるように、前記中間期間Tcでの制御速さEが基準制御速さBよりも速められている。
【0177】
図9に示された構成においては、前記ブレーキ解除変速制御モードの作動時間Txが基準所要時間Tと同一となるように、ブレーキ解除初動期間Ts以外の期間での制御速さが基準制御速さBよりも速められている。
【0178】
図10に示された構成においては、前記ブレーキ解除変速制御モードの作動時間Txが基準所要時間Tと同一となるように、操作速度復帰直前期間Te以外の期間での制御速さが基準制御速さBよりも速められている。
【0179】
これらに対し、本実施の形態においては、図15に示すように、ブレーキ解除初動期間Tsでの制御速さC及び操作速度復帰直前期間Teでの制御速さDが基準制御速さBよりも緩やかとされつつ、ブレーキ解除初動期間Ts及び操作速度復帰直前期間Te以外の中間期間Tsでの制御速さEが基準制御速さBと同一とされている。
【0180】
その結果、前記ブレーキ解除変速制御モードの作動時間Txは基準所要時間Tよりも長くなっている。
【0181】
本実施の形態においても、前記実施の形態1におけると同様の効果、即ち、前記ブレーキ装置300を係合状態から解除状態へ移行させるだけで、走行速度を前記変速操作部材710の操作位置に応じた操作速度Vtに自動的に復帰させつつ、その際に生じ得る変速ショックを有効に防止乃至は低減することができ、円滑な増速を実現できる。
【0182】
なお、本実施の形態においては、図15に示すように、ブレーキ解除初動期間制御速さC及び操作速度復帰直前期間制御速さDの双方が基準制御速さBよりも緩やかとされているが、当然ながら、制御速さC及び制御速さDの何れか一方のみを基準制御速さBよりも緩やかとすることも可能である。
【0183】
図16に、本実施の形態におけるブレーキ解除変速制御モードの第1変形例が適用された制御構造において、前記ブレーキ操作部材720が図15におけると同一操作パターンで操作された場合の走行速度(前記無段変速装置100の出力速度)の変化状況を示す。
【0184】
図16に示す第1変形例においては、ブレーキ解除初動期間Tsでのブレーキ解除初動期間制御速さCが基準制御速さBよりも緩やかとされ、且つ、ブレーキ解除初動期間Ts以外の期間での制御速さが基準制御速さBと同一とされている。
【0185】
図17に、本実施の形態におけるブレーキ解除変速制御モードの第2変形例が適用された制御構造において、前記ブレーキ操作部材720が図15におけると同一操作パターンで操作された場合の走行速度(前記無段変速装置100の出力速度)の変化状況を示す。
【0186】
図17に示す第2変形例においては、操作速度復帰直前期間制御速さDが基準制御速さBよりも緩やかとされ、且つ、操作速度復帰直前期間Te以外の期間での制御速さが基準制御速さBと同一とされている。
【0187】
図18に、図15に示すブレーキ解除変速制御モードのフローチャートを示す。
図15に示す構成のブレーキ解除変速制御モードが起動されると、前記制御装置700は、走行速度がブレーキ解除開始時点t2でのブレーキ解除開始時速度Vrから基準制御速さBよりも緩やかとされたブレーキ解除初動期間制御速さCで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる(ステップ61)。
【0188】
前記実施の形態1におけると同様に、ブレーキ解除初動期間制御速さCは前記制御装置700に予め記憶され、好ましくは、前記作業車輌に人為操作可能に備えられる前記ブレーキ解除初動期間用制御速さ変更部材740c(図3参照)を介して使用者によって変更可能とされる。
【0189】
前記制御装置700は、ブレーキ解除開始時点t2からの経過時間が前記制御装置700に予め記憶されている所定のブレーキ解除初動期間Tsに達するか、又は、走行速度Vがブレーキ解除開始時速度Vrと前記制御装置に予め記憶されている所定のブレーキ解除開始側速度差ΔVsとによって算出されるブレーキ解除開始側切替速度Vsに到達するまで、制御速さCでの増速制御を維持する(ステップ62)。
【0190】
好ましくは、ブレーキ解除初動期間Tsは、前記作業車輌1に人為操作可能に備えられるブレーキ解除初動期間変更部材760s(図3参照)を介して使用者によって、例えば、0.3秒や0.5秒等、種々に変更可能とされる。
【0191】
同様に、好ましくは、ブレーキ解除開始側速度差ΔVsは、前記作業車輌1に人為操作可能に備えられるブレーキ解除開始側速度差変更部材765s(図3参照)を介して使用者によって、例えば、3km/hや5km/h等、種々に変更可能とされる。
【0192】
ブレーキ解除開始時点t2からの経過時間がブレーキ解除初動期間Tsに達するか、又は、走行速度Vがブレーキ解除開始側切替速度Vsに到達すると、前記制御装置700は、走行速度が制御速さEで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる(ステップ63)。
【0193】
なお、本実施の形態においては、図15図17に示すように、制御速さEは基準制御速さBと同一とされている。
好ましくは、制御速さEは前記作業車輌に人為操作可能に備えられる中間期間用制御速さ変更部材740e(図3参照)を介して使用者によって変更可能とされる。
【0194】
前記制御装置700は、走行速度Vが操作速度Vtと前記制御装置700に予め記憶されている所定の操作速度側速度差ΔVeとによって算出される操作速度側切替速度Veに到達するまで、制御速さEでの増速制御を維持する(ステップ64)。
【0195】
好ましくは、操作速度側速度差ΔVeは、前記作業車輌1に人為操作可能に備えられる操作速度側速度差変更部材765e(図3参照)を介して使用者によって、例えば、3km/hや5km/h等、種々に変更可能とされる。
【0196】
走行速度Vが操作速度Vtと操作速度側速度差ΔVeとによって算出される操作速度側切替速度Veに到達すると、前記制御装置700は、走行速度が制御速さDで増速するように、前記変速アクチュエータを作動させる(ステップ65)。
【0197】
前記制御装置700は、走行速度Vが操作速度Vtに到達するまで、制御速さDでの増速制御を維持し(ステップ66)、走行速度Vが操作速度Vtに到達すると、ブレーキ解除変速制御モードを終了して、初期制御モードである通常変速制御モードを起動させる(図12のステップ24からステップ11)。
【符号の説明】
【0198】
1 作業車輌
10 駆動源
15 走行部材
100 HMT(無段変速装置)
110 HST
150 遊星ギヤ機構
300 ブレーキ装置
500 油圧サーボ機構(変速アクチュエータ)
700 制御装置
710 変速操作部材
720 ブレーキ操作部材
725 ブレーキ操作センサ
745s、745e 時間配分変更部材
750s、750e 速度配分変更部材
740b 基準制御速さ変更部材
740c ブレーキ解除初動期間用制御速さ変更部材
740d 操作速度復帰直前期間用制御速さ変更部材
760s ブレーキ解除初動期間変更部材
765s ブレーキ解除開始側速度差変更部材
765e 操作速度側速度差変更部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16
図17
図18