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特開2022-129373超音速航空機、並びにソニックブーム及びジェット騒音の低減方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129373
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】超音速航空機、並びにソニックブーム及びジェット騒音の低減方法
(51)【国際特許分類】
   B64D 33/00 20060101AFI20220829BHJP
   B64D 27/20 20060101ALI20220829BHJP
   B64D 29/04 20060101ALI20220829BHJP
   B64C 30/00 20060101ALI20220829BHJP
   B64C 5/00 20060101ALI20220829BHJP
   B64D 33/04 20060101ALI20220829BHJP
   F02K 1/44 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B64D33/00 B
B64D27/20
B64D29/04
B64C30/00
B64C5/00
B64D33/04
F02K1/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015476
(22)【出願日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2021027126
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 純一
(57)【要約】
【課題】超音速航空機の環境適合性における主要課題であるソニックブーム低減と空港離着陸時のジェット騒音低減の両方を解決する。
【解決手段】超音速航空機は、機体の胴体に取り付けられたエンジンナセルに収容されたジェットエンジンから噴出されるエンジン排気流を遮蔽することにより前記エンジン排気流によるソニックブームを低減する遮蔽体と、前記エンジンナセルの排気口に設けられ、前記遮蔽体が前記エンジン排気流の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に高周波数成分の音源を発生させることにより前記高周波数成分のジェット騒音を低減し、前記エンジン排気流の低周波数成分と外気流との混合を促進することにより低周波数成分のジェット騒音を低減する排気ノズルとを具備する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の胴体に取り付けられたエンジンナセルに収容されたジェットエンジンから噴出されるエンジン排気流を遮蔽することにより前記エンジン排気流によるソニックブームを低減する遮蔽体と、
前記エンジンナセルの排気口に設けられ、前記遮蔽体が前記エンジン排気流の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に高周波数成分の音源を発生させることにより前記高周波数成分のジェット騒音を低減し、前記エンジン排気流の低周波数成分と外気流との混合を促進することにより低周波数成分のジェット騒音を低減する排気ノズルと、
を具備する超音速航空機。
【請求項2】
請求項1に記載の超音速航空機であって、
前記排気ノズルは、前記エンジン排気流と外気流の混合を前記排気口付近で促進することにより、前記遮蔽体が前記エンジン排気流の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に前記高周波数成分の音源を発生させる
超音速航空機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超音速航空機であって、
前記機体の機首を0°、前記排気ノズルの排気口を90°及び前記機体の機尾を180°とするポーラ角の範囲において、
110°以上140°以下のポーラ角の範囲で、前記排気ノズル及び前記遮蔽体を用いた場合のジェット騒音の低減量は、前記排気ノズルを用いて前記遮蔽体を用いない場合のジェット騒音の低減量より大きい
超音速航空機。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の超音速航空機であって、
前記機体の機首を0°、前記排気ノズルの排気口を90°及び前記機体の機尾を180°とするポーラ角の範囲において、
140°のポーラ角で、前記排気ノズル及び前記遮蔽体を用いた場合のジェット騒音の低減量は、前記排気ノズルを用いて前記遮蔽体を用いない場合のジェット騒音の低減量と、前記排気ノズルを用いず前記遮蔽体を用いた場合のジェット騒音の低減量との合計値より大きい
超音速航空機。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の超音速航空機であって、
前記排気ノズルは、内周に設けられた複数の突出部を有する
超音速航空機。
【請求項6】
請求項5に記載の超音速航空機であって、
前記複数の突出部は、同一形状及び同一サイズであり、前記排気ノズルの周方向に等間隔に設けられる
超音速航空機。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の超音速航空機であって、
前記複数の突出部の数Nは、N>4である
超音速航空機。
【請求項8】
請求項5乃至7の何れか一項に記載の超音速航空機であって、
前記複数の突出部は、それぞれ、前記排気ノズルを軸方向に見たときに前記排気ノズルの内周方向に突出する2辺を含み、前記2辺の長さは同じであり、
前記複数の突出部の数をNとし、正N角形の1辺の長さを1としたとき、
前記突出部の1辺の長さRfは、Rf>0.5である
超音速航空機。
【請求項9】
請求項8に記載の超音速航空機であって、
前記複数の突出部の数N及び前記突出部の1辺の長さRfによらず、前記排気ノズルの排気口の面積は等しい
超音速航空機。
【請求項10】
請求項5乃至9の何れか一項に記載の超音速航空機であって、
前記複数の突出部を有する前記排気ノズルによるジェット騒音の高周波数成分の音圧レベルは、前記複数の突出部を有しない排気ノズルによるジェット騒音の高周波数成分の音圧レベルより高く、
前記複数の突出部を有する前記排気ノズルによるジェット騒音の低周波数成分の音圧レベルは、前記複数の突出部を有しない排気ノズルによるジェット騒音の低周波数成分の音圧レベルより低い
超音速航空機。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の超音速航空機であって、
前記遮蔽体は、前記エンジン排気流の前記機体の下方への回り込みを抑制することにより、前記エンジン排気流によるソニックブームを低減する
超音速航空機。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか一項に記載の超音速航空機であって、
前記遮蔽体は、前記エンジン排気流を挟むように前記機体に配置される一対の遮蔽体を含む
超音速航空機。
【請求項13】
請求項12に記載の超音速航空機であって、
前記エンジンナセルより後方に配置された水平尾翼を有し、
前記一対の遮蔽体は、前記水平尾翼に配置されている
超音速航空機。
【請求項14】
請求項13に記載の超音速航空機であって、
前記遮蔽体は、前記水平尾翼をさらに含む
超音速航空機。
【請求項15】
請求項12乃至14の何れか一項に記載の超音速航空機であって、
各前記一対の遮蔽体は、前記機体の外側に傾斜する
超音速航空機。
【請求項16】
請求項12に記載の超音速航空機であって、
前記エンジンナセルより後方に設けられた後胴揚力面を有し、
前記一対の遮蔽体は、前記後胴揚力面に配置され、V尾翼としての機能を有する
超音速航空機。
【請求項17】
請求項1乃至16の何れか一項に記載の超音速航空機であって、
前記排気ノズルは、エンジンの後方に延び排気流路を構成し、
前記排気ノズルは、複数の主ノズル片と1つ以上の連結ノズル片とを有し、
前記主ノズル片は、前記エンジンの後方の絞り部の後端に形成された開閉屈曲部を中心に、後端部側が前記排気流路の内外方向に揺動可能に設けられ、
前記連結ノズル片は、隣接する前記主ノズル片の間に配置され、かつ、両側の主ノズル片とそれぞれ屈曲可能に連結され、前記連結ノズル片は、側部屈曲部で前記主ノズル片と屈曲可能に連結され、各前記主ノズル片の動きに連動して前記排気流路の内方に前記複数の突出部を形成することが可能な中央屈曲部を有し、
前記主ノズル片が排気流路の外方に揺動した際には、前記連結ノズル片が前記排気流路内に突出部を持たない平面を形成し、前記排気流路の断面積は前記開閉屈曲部の位置より前記排気流路の後端部側に向けて広くなり、
前記排気流路を狭くするために、前記主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、前記連結ノズル片が前記排気流路内に当該排気流路に沿った突出部を形成する
超音速航空機。
【請求項18】
請求項17に記載の超音速航空機であって、
前記複数の主ノズル片および連結ノズル片が、前記エンジンの後方の排気流路の全周を構成している
超音速航空機。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の超音速航空機であって、
前記超音速航空機の超音速での巡航時に、前記主ノズル片が前記排気流路の外方に揺動し、
前記超音速航空機の離着陸時に、前記主ノズル片が前記排気流路の内方に揺動する
超音速航空機。
【請求項20】
遮蔽体が、超音速航空機の機体の胴体に取り付けられたエンジンナセルに収容されたジェットエンジンから噴出されるエンジン排気流を遮蔽することにより前記エンジン排気流によるソニックブームを低減し、
前記エンジンナセルの排気口に設けられた排気ノズルが、前記遮蔽体が前記エンジン排気流の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に高周波数成分の音源を発生させることにより前記高周波数成分のジェット騒音を低減し、前記エンジン排気流の低周波数成分と外気流との混合を促進することにより低周波数成分のジェット騒音を低減する
ソニックブーム及びジェット騒音の低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音速旅客機等の超音速航空機と、その超音速航空機のソニックブーム及びジェット騒音の低減方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
超音速航空機が上空を超音速で飛行するとき、機体各部から発生する衝撃波が大気中を長い距離伝播するに従い統合し、地上では、2つの急激な圧力変動を引き起こすN型の圧力波形として観測され、人には瞬間的な爆音として聞こえる。これが一般に「ソニックブーム」と呼ばれているものである。西暦2003年に退役したコンコルドは、ソニックブームにより地上を超音速で飛行することができず、海上のみに制限されていたため、ソニックブームは将来の超音速旅客機実現のための大きな技術課題になっている。
【0003】
ソニックブームに加えて、空港離着陸時のジェット騒音も、超音速航空機の環境適合性において主要な課題である。いずれも国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)で基準制定の議論が進められており、低離着陸騒音かつ低ソニックブームであることは民間超音速航空機の市場へ新規参入を果たすために不可欠な要素となっている。超音速航空機の空港離着陸時のジェット騒音についてはエンジンの排気により生じるジェット騒音が主たる要因である。この対策には音源の抑制か遮蔽が有効であることが知られている。
【0004】
空港離着陸時のジェット騒音を抑制する技術として排気ノズル出口形状を工夫した低騒音ノズルが、特許文献1及び非特許文献2として提案されている。またエンジンのファン騒音を遮蔽する技術として、特許文献2のように、エンジン配置の工夫により機体を遮蔽体として利用する技術が知られている。一方、ジェット騒音についてはエンジン排気口より下流に音源があるため、機体や尾翼による遮蔽効果がほとんど得られないことが分かっている。このジェット騒音の遮蔽性を高める技術として、非特許文献1のように、ノズル出口形状の変更により音源分布を変え、機体後端板(アフトデッキ)を設けて騒音を遮蔽する方法が研究されている。またソニックブームの低減方法として、特許文献3及び非特許文献3のように、胴体後端に配置した遮蔽フィンによる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6183837号公報
【特許文献2】特開2012-106726号公報
【特許文献3】特開2019-182125号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】James Bridges, "Noise Measurements of a Low-Noise Top-Mounted Propulsion Installation for a supersonic airliner", [online], AIAA paper 2019-0253, AIAA SciTech 2019 Conference 7-11 January 2019, [2021年1月26日検索]、インターネット<https://arc.aiaa.org/doi/10.2514/6.2019-0253>
【非特許文献2】Junichi Akatsuka and Tatsuya Ishii, " Experimental and Numerical Study of Jet Noise Reduction for Supersonic Aircraft Using Variable Folding Nozzle Concept", [online], AIAA paper 2018-3612, AIAA AVIATION Forum 25-29 June 2018, [2021年1月26日検索]、インターネット<https://arc.aiaa.org/doi/abs/10.2514/6.2018-3612>
【非特許文献3】宇宙航空研究開発機構、「補足資料 静粛超音速航空機統合設計技術の研究開発に係る事後評価」、[online]、2020年7月28日、文部科学省、航空科学技術委員会(第66回)配付資料[2021年1月26日検索]、インターネット<https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/004/shiryo/1422978_00003.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び非特許文献2の低騒音ノズルは、ジェット騒音のうちエンジンから離れた位置に音源があり下流方向に伝播する低周波数成分を下げるためには効果的であるが、エンジンに近い位置に音源があり側方に伝播する高周波数成分に対しては効果が弱い、もしくは逆に騒音を増加させる場合がある。特許文献2の機体による騒音遮蔽設計は、エンジン付近に音源を持つファン騒音に有効だが、エンジンから離れた位置に分散して音源を生じるジェット騒音には効果がない。このため、非特許文献1の方法によりジェット騒音を遮蔽する方法が研究されているが、低ソニックブーム化とトレードオフを生じる。一方、ソニックブームを低減させる特許文献3及び非特許文献3の遮蔽フィンは、ジェット騒音を遮る効果は持たない。このため、空港離着陸時のジェット騒音を低減させる技術と巡航中のソニックブームを下げる技術が個別に要求される。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、超音速航空機の環境適合性における主要課題であるソニックブーム低減と空港離着陸時のジェット騒音低減の両方を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係る超音速航空機は、
機体の胴体に取り付けられたエンジンナセルに収容されたジェットエンジンから噴出されるエンジン排気流を遮蔽することにより前記エンジン排気流によるソニックブームを低減する遮蔽体と、
前記エンジンナセルの排気口に設けられ、前記遮蔽体が前記エンジン排気流の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に高周波数成分の音源を発生させることにより前記高周波数成分のジェット騒音を低減し、前記エンジン排気流の低周波数成分と外気流との混合を促進することにより低周波数成分のジェット騒音を低減する排気ノズルと、
を具備する。
【0010】
本実施形態によれば、ソニックブームを低減する遮蔽体と、低周波数成分のジェット騒音を低減する排気ノズルとを併用することで、高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に高周波数成分の音源を発生させることにより高周波数成分のジェット騒音を低減することができる。超音速航空機の環境適合性における主要課題であるソニックブーム低減と空港騒音低減の両方を解決することができる。
【0011】
前記排気ノズルは、前記エンジン排気流と外気流の混合を前記排気口付近で促進することにより、前記遮蔽体が前記エンジン排気流の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に前記高周波数成分の音源を発生させる。
【0012】
排気ノズルは、排気口付近の気流の乱れにより、エンジン排気流と外気流の混合を、早くから(即ち、上流で)促進する。このため、上流では、高周波数成分の音源となる相対的に小さなスケールの擾乱を強め、その結果、高周波数音源の位置を上流側に生じさせることができる。
【0013】
前記機体の機首を0°、前記排気ノズルの排気口を90°及び前記機体の機尾を180°とするポーラ角の範囲において、
110°以上140°以下のポーラ角の範囲で、前記排気ノズル及び前記遮蔽体を用いた場合のジェット騒音の低減量は、前記排気ノズルを用いて前記遮蔽体を用いない場合のジェット騒音の低減量より大きくてもよい。
【0014】
本実施形態によれば、遮蔽体と、本実施形態に係る排気ノズルとは異なる排気ノズルとの組み合わせでは得られない高い空港騒音低減効果を得ることができる。
【0015】
前記機体の機首を0°、前記排気ノズルの排気口を90°及び前記機体の機尾を180°とするポーラ角の範囲において、
140°のポーラ角で、前記排気ノズル及び前記遮蔽体を用いた場合のジェット騒音の低減量は、前記排気ノズルを用いて前記遮蔽体を用いない場合のジェット騒音の低減量と、前記排気ノズルを用いず前記遮蔽体を用いた場合のジェット騒音の低減量との合計値より大きくてもよい。
【0016】
本実施形態によれば、遮蔽体と、本実施形態に係る排気ノズルとは異なる排気ノズルとの組み合わせから単純に予期される効果よりも高い効果を得ることができる。
【0017】
前記排気ノズルは、内周に設けられた複数の突出部を有してもよい。
【0018】
本実施形態に係る排気ノズルによれば、排気流路の内方の一部を突出させることで、離着陸時等のジェット騒音を防止することができる。
【0019】
前記複数の突出部は、同一形状及び同一サイズであり、前記排気ノズルの周方向に等間隔に設けられてもよい。
【0020】
本実施形態によれば、排気流路の断面形状を全周にわたって偏りなく変化させることができる。
【0021】
前記複数の突出部の数Nは、N>4でもよい。
【0022】
突出部の数N≦4の場合、機体後部の側方(上流側)で排気ノズル自体が発生する騒音増加量が大きいため、遮蔽体を併用しても騒音増加量が依然として大きい。このため、排気ノズル及び遮蔽体を併用しても、適切な騒音低減効果が得られず、実用的とはいえない。これに対して、N>4の場合、機体後部の側方(上流側)から下流側に亘って、排気ノズルがジェット騒音を低減するため、遮蔽体を併用することで、より適切な騒音低減効果を得ることを図れる。
【0023】
前記複数の突出部は、それぞれ、前記排気ノズルを軸方向に見たときに前記排気ノズルの内周方向に突出する2辺を含み、前記2辺の長さは同じであり、
前記複数の突出部の数をNとし、正N角形の1辺の長さを1としたとき、
前記突出部の1辺の長さRfは、Rf>0.5でもよい。
【0024】
Rf≦0.5は、突出部の排気流路への貫入量が小さい(円形に近い)ことを意味する。突出部の排気流路への貫入量が小さいと、所望の音響的な変化が得られない。このため、Rf≦0.5は、円形出口との明確な差を生じない。言い換えれば、Rf>0.5である場合の騒音低減量は相対的に(即ち、Rf≦0.5の場合と比べて)高いので、Rf>0.5とするのが好ましい。
【0025】
前記複数の突出部の数N及び前記突出部の1辺の長さRfによらず、前記排気ノズルの排気口の面積は等しい。
【0026】
排気ノズルの排気口の面積を等しくすることで、N及びRfの値を適切に選定することができる。
【0027】
前記複数の突出部を有する前記排気ノズルによるジェット騒音の高周波数成分の音圧レベルは、前記複数の突出部を有しない排気ノズルによるジェット騒音の高周波数成分の音圧レベルより高く、
前記複数の突出部を有する前記排気ノズルによるジェット騒音の低周波数成分の音圧レベルは、前記複数の突出部を有しない排気ノズルによるジェット騒音の低周波数成分の音圧レベルより低くてもよい。
【0028】
排気ノズルの形状によっては、低周波数成分のジェット騒音を低減する効果が高いが、高周波数成分のジェット騒音はむしろ増加する。しかしながら、本実施形態では、排気ノズルを用いて、遮蔽体がエンジン排気流の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に、高周波数成分の音源を発生させる。これにより、遮蔽体は、エンジン排気流の高周波数成分を遮蔽するので、高周波数成分のジェット騒音を低減する。このため、排気ノズルが、高周波数成分のジェット騒音を増加させるにも拘らず、遮蔽体は高周波数成分のジェット騒音を遮蔽することができる。このため、特定形状の排気ノズル(即ち、低周波数成分のジェット騒音を低減する効果が高いが、高周波数成分のジェット騒音はむしろ増加する排気ノズル)及び遮蔽体を併用することで、ジェット騒音を低減することが可能になる。
【0029】
前記遮蔽体は、前記エンジン排気流の前記機体の下方への回り込みを抑制することにより、前記エンジン排気流によるソニックブームを低減する。
【0030】
本発明によれば、遮蔽体によりエンジン排気流の機体下方への回り込みが抑制され、エンジン排気流によるソニックブームを低減することができる。
【0031】
前記遮蔽体は、前記エンジン排気流を挟むように前記機体に配置される一対の遮蔽体を含んでもよい。
【0032】
本発明によれば、一対の遮蔽体によりエンジン排気流の機体下方への回り込みが抑制され、エンジン排気流によるソニックブームを低減することができる。
【0033】
前記エンジンナセルより後方に配置された水平尾翼を有し、
前記一対の遮蔽体は、前記水平尾翼に配置されてもよい。
【0034】
これにより、遮蔽体による圧力遮蔽を効果的に行い、ソニックブームを低減することができる。
【0035】
前記遮蔽体は、前記水平尾翼をさらに含んでもよい。
【0036】
平面上形状の水平尾翼により、遮蔽体による圧力遮蔽を効果的に行い、ソニックブームを低減することができる。
【0037】
各前記一対の遮蔽体は、前記機体の外側に傾斜してもよい。
【0038】
これにより、遮蔽体による圧力遮蔽を効果的に行い、ソニックブームを低減することができる。
【0039】
前記エンジンナセルより後方に設けられた後胴揚力面を有し、
前記一対の遮蔽体は、前記後胴揚力面に配置され、V尾翼としての機能を有してもよい。
【0040】
この実施形態に係る超音速航空機も、一対の遮蔽体を有することで、ソニックブームを低減することができる。
【0041】
前記排気ノズルは、エンジンの後方に延び排気流路を構成し、
前記排気ノズルは、複数の主ノズル片と1つ以上の連結ノズル片とを有し、
前記主ノズル片は、前記エンジンの後方の絞り部の後端に形成された開閉屈曲部を中心に、後端部側が前記排気流路の内外方向に揺動可能に設けられ、
前記連結ノズル片は、隣接する前記主ノズル片の間に配置され、かつ、両側の主ノズル片とそれぞれ屈曲可能に連結され、前記連結ノズル片は、側部屈曲部で前記主ノズル片と屈曲可能に連結され、各前記主ノズル片の動きに連動して前記排気流路の内方に前記複数の突出部を形成することが可能な中央屈曲部を有し、
前記主ノズル片が排気流路の外方に揺動した際には、前記連結ノズル片が前記排気流路内に突出部を持たない平面を形成し、前記排気流路の断面積は前記開閉屈曲部の位置より前記排気流路の後端部側に向けて広くなり、
前記排気流路を狭くするために、前記主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、前記連結ノズル片が前記排気流路内に当該排気流路に沿った突出部を形成してもよい。
【0042】
本実施形態によれば、排気流路の内方の一部を突出させ、内面側に襞状の突起が出現する第1状態と、排気流路の内方を突出させることなく、かつ、前記排気流路の断面積を後端部ほど広くする第2状態との間で変化させることで、第1状態での離着陸時等の騒音防止効果と、第2状態での超音速巡航時の効率の向上を両立することが可能となる。また、第1状態と第2状態との間で、排気流路の断面形状の変化のみで流路の変更等はなく、排気ノズルの構造を複雑化、大型化することなく、騒音を低減するとともに、さらに超音速巡航時の効率を向上させることができる。さらに、本実施形態に係る排気ノズルによれば、アクティブに可動とする部分は主ノズル片の開閉屈曲部のみでよく、主ノズル片と連結ノズル片との屈曲部が主ノズル片の揺動によって自動的に屈曲し、排気流路の断面形状を変化させることができ、排気ノズルの構造を複雑化、大型化することなく、軽量で単純な機構とすることができる。
【0043】
前記複数の主ノズル片および連結ノズル片が、前記エンジンの後方の排気流路の全周を構成してもよい。
【0044】
本実施形態によれば、複数の主ノズル片および連結ノズル片が、エンジンの後方の排気流路の全周を構成していることにより、排気流路の断面形状を全周にわたって偏りなく変化させることができる。
【0045】
前記超音速航空機の超音速での巡航時に、前記主ノズル片が前記排気流路の外方に揺動し、
前記超音速航空機の離着陸時に、前記主ノズル片が前記排気流路の内方に揺動してもよい。
【0046】
本実施形態によれば、主ノズル片が排気流路の内方に揺動した際には、排気流路の後端部の断面積が、排気流路の開閉屈曲部の位置の断面積以下となることにより、第1状態の時に連結ノズル片による内面側の襞状の突起で騒音を防止しつつ、後端側ほど先細りとなる形状として離着陸時等の音速以下での推進効率が向上することができる。
【0047】
本発明の一形態に係るソニックブーム及びジェット騒音の低減方法は、
遮蔽体が、超音速航空機の機体の胴体に取り付けられたエンジンナセルに収容されたジェットエンジンから噴出されるエンジン排気流を遮蔽することにより前記エンジン排気流によるソニックブームを低減し、
前記エンジンナセルの排気口に設けられた排気ノズルが、前記遮蔽体が前記エンジン排気流の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に高周波数成分の音源を発生させることにより前記高周波数成分のジェット騒音を低減し、前記エンジン排気流の低周波数成分と外気流との混合を促進することにより低周波数成分のジェット騒音を低減する。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、超音速航空機のソニックブーム低減と空港離着陸時のジェット騒音低減の両方を解決することを図れる。
【0049】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明の一実施形態に係る超音速航空機の外観を示す斜視図である。
図2】本発明の別の一実施形態に係る超音速航空機の外観を示す平面図である。
図3図2に示した超音速航空機の外観を示す側面図である。
図4図2に示した超音速航空機の外観を示す正面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るフィンの効果を確認するためのフィンがある場合及びない場合の機体直下地上のソニックブーム波形を示すグラフである。
図6】本発明の他の実施形態に係る超音速航空機の外観を示す平面図である。
図7図6に示した超音速航空機の外観を示す側面図である。
図8図6に示した超音速航空機の外観を示す正面図である。
図9】本実施形態のコンセプトを説明するための図である。
図10】本発明の一実施形態に係る排気流路の断面形状の変化の説明図である。
図11】本発明の一実施形態に係る排気ノズルの第1状態における概略斜視図である。
図12図11の排気側からの正面図である。
図13】本発明の一実施形態に係る排気ノズルの第1状態と第2状態との中間状態の概略斜視図である。
図14図13の排気側からの正面図である。
図15】本発明の一実施形態に係る排気ノズルの第2状態における概略斜視図である。
図16図15の排気側からの正面図である。
図17】排気ノズルの突出部の形状のバリエーションを示す。
図18】複数の異なるタイプの排気ノズルの、無次元周波数に対する音圧レベルの分布を示す。
図19】排気ノズルの突出部の形状に依存する騒音低減量を示すコンタマップである。
図20】確認試験の方法を説明するための図である。
図21】排気ノズル#4の確認試験の結果を示す。
図22】排気ノズル#7の確認試験の結果を示す。
図23】排気ノズル#1の確認試験の結果を示す。
図24】異なる排気ノズルを使用したときの排気流方向の乱流運動エネルギー(TKE)のコンタ図である。
図25】異なる排気ノズルを使用したときの排気ノズルの排気口付近のTKEのコンタ図である。
図26】ポーラ角90°の音圧レベルを基準としたときの、異なるポーラ角に対する音圧レベルの変化量を示す。
図27】第2の確認試験において、円形出口の排気ノズル(Baseline)が使用された場合(比較例)の側面図である。
図28】第2の確認試験において、花弁形の排気ノズルが使用された場合(本実施形態)の側面図である。
図29】第2の確認試験を示す側方断面図である。
図30】第2の確認試験を示す上面図である。
図31】第2の確認試験を排気ノズルの排気口側から見た図である。
図32】第2の確認試験を示す斜視図である。
図33】排気ノズル#4の第2の確認試験の結果を示す。
図34】排気ノズル#7の第2の確認試験の結果を示す。
図35】排気ノズル#1の第2の確認試験の結果を示す。
図36】排気ノズル#5の第2の確認試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0052】
1.超音速航空機の構成
【0053】
図1は本発明の一実施形態に係る超音速航空機の外観を示す斜視図である。
【0054】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る超音速航空機は、機体310の胴体311に取り付けられた一対のエンジンナセル312R、312Lと、一対のフィン313R、313Lと、エンジンナセル312R、312Lより後方に配置された一対の水平尾翼314R、314Lとを有する。
【0055】
一対のフィン313R、313Lは、エンジンナセル312R、312Lの後方側かつ下側に配置される。この一対のフィン313R、313Lは、遮蔽体として機能する。遮蔽体(即ち、一対のフィン313R、313L)は、エンジンナセル312R、312Lに収容されたジェットエンジン(図示を省略)から噴出されるエンジン排気流を遮蔽することによりエンジン排気流の機体310下方への回り込みを抑制し、これによりソニックブームを低減する。
【0056】
右側のフィン313Rは、水平尾翼314Rと同様の形状の水平フィン313'Rと、水平フィン313'Rの右側の端部に立設された翼端フィン313"Rとを含む。翼端フィン313"Rは、機体310の外側に傾斜(機軸方向の前方側から見て反時計回り)するように水平フィン313'Rに設けられている。左側のフィン313Lは、水平尾翼314Lと同様の形状の水平フィン313'Lと、水平フィン313'Lの左側の端部に立設された翼端フィン313"Lとを含む。翼端フィン313"Lは、機体310の外側に傾斜(機軸方向の前方側から見て時計回り)するように水平フィン313'Lに設けられている。なお、翼端フィン313"R、313"Lを適切に傾斜させることで、ソニックブームを低減することができる。
【0057】
一対の水平フィン313'R、313'Lは、エンジン排気流の下側に配置され、一対の翼端フィン313"R、313"Lは、エンジン排気流を挟みこむ位置に配置される。より詳細には、一対の水平フィン313'R、313'L及び一対の翼端フィン313"R、313"Lは、それぞれ、機体310の機軸を垂直に横切る対称面に対して面対称に構成される。
【0058】
この実施形態に係る超音速航空機は、フィン313R、313Lを有することで、エンジン排気流がソニックブームに及ぼす影響を低減することができる。
【0059】
図2は本発明の別の一実施形態に係る超音速航空機の外観を示す平面図、図3はその側面図、図4はその正面図である。
【0060】
図2乃至図4に示すように、この実施形態に係る超音速航空機は、機体10の胴体11に取り付けられた一対のエンジンナセル12R、12Lと、一対のフィン13R、13Lと、エンジンナセル12R、12Lより後方に配置された一対の水平尾翼14R、14Lとを有する。
【0061】
一対のフィン13R、13Lは、遮蔽体として機能する。あるいは、一対のフィン13R、13L及び一対の水平尾翼14R、14Lは、遮蔽体として機能する。言い換えれば、遮蔽体は、一対のフィン13R、13Lを含み、一対の水平尾翼14R、14Lをさらに含んでもよい。遮蔽体(即ち、一対のフィン13R、13L、あるいは、一対のフィン13R、13L及び一対の水平尾翼14R、14L)は、エンジンナセル12R、12Lに収容されたジェットエンジン(図示を省略)から噴出されるエンジン排気流15を遮蔽することによりエンジン排気流15の機体10下方への回り込みを抑制し、これによりソニックブームを低減する。
【0062】
フィン13R、13Lは、エンジン排気流15を挟むように機体10のうち典型的には水平尾翼14R、14Lにそれぞれ配置される。より詳細には、一対のフィン13R、13L及び一対の水平尾翼14R、14Lは、それぞれ、機体10の機軸を垂直に横切る対称面に対して面対称に配置され、フィン13Rは、水平尾翼14R上に取り付けられ、フィン13Lは、水平尾翼14L上に取り付けられる。
【0063】
図4に示すように、一対のフィン13R、13Lは、それぞれ、機体10の外側に傾斜している。このようにフィン13R、13Lを適切に傾斜させることで、ソニックブームを低減することができる。
【0064】
この実施形態に係る超音速航空機は、フィン13R、13Lを有することで、エンジン排気流15がソニックブームに及ぼす影響を低減することができる。
【0065】
図5は、フィン13R、13Lがある場合(70d)及びない場合(70e)の機体直下地上のソニックブーム波形を示すグラフである。
【0066】
計算条件は、
高度:14.4km
マッハ数:1.6
迎角:2.76度
100%推力
とした。
【0067】
図5から、フィン13R、13Lを有する方が、圧力が上がっている。これから、フィン13R、13Lを有することで、エンジン排気流15のソニックブームに及ぼす影響を低減していることが分かる。
【0068】
図6は本発明の別の一実施形態に係る超音速航空機の外観を示す平面図、図7はその側面図、図8はその正面図である。
【0069】
図6乃至図8に示すように、本発明の別の一実施形態に係る超音速航空機は、機体210の胴体211に取り付けられた一対のエンジンナセル212R、212Lと、エンジンナセル212R、212Lの後方に配置された一対の遮蔽体213R、213Lとを有する。
【0070】
一対の遮蔽体213R、213Lは、エンジンナセル212R、212Lより後方に設けられた後胴揚力面214に機体外側に傾斜するように取り付けられている。
【0071】
一対の遮蔽体213R、213Lは、エンジンナセル212R、212Lに収容されたジェットエンジン(図示を省略)から噴出されるエンジン排気流を遮蔽することによりエンジン排気流の胴体211への回り込みを抑制し、これによりソニックブームを低減する。また、一対の遮蔽体213R、213Lは、V尾翼としての機能を有する。
【0072】
この実施形態に係る超音速航空機も、一対の遮蔽体213R、213Lを有することで、ソニックブームを低減することができる。
【0073】
2.本実施形態のコンセプト
【0074】
図9は、本実施形態のコンセプトを説明するための図である。
【0075】
上記各実施形態の遮蔽体(図9の遮蔽体13)は、上記のように、超音速巡行中のソニックブームを低減する。しかしながら、遮蔽体13は、空港離着陸時のジェット騒音を低減する効果は低い。その原理を、図9の(A)を参照して説明する。
【0076】
図9の(A)は、比較例を模式的に示す。図9の(A)は、超音速航空機の機体に設けられた、遮蔽体13と、エンジンナセルの排気口に設けられた排気ノズル200と、排気ノズル200から噴出されるエンジン排気流15と、を模式的に示す。比較例の排気ノズル200は、低騒音を目的として設計されたノズルではなく、突出部を有さず円形出口を有するノズルである。
【0077】
排気ノズル200から噴出されるエンジン排気流15が発生するジェット騒音の音源は、機体後部から離れた位置に分散する。一方、遮蔽体13は、典型的には水平尾翼に取り付けられたフィンである。遮蔽体13が水平尾翼に設けられ、ジェット騒音の音源が機体後部から離れた位置(即ち、水平尾翼の後方)に存在する位置関係においては、遮蔽体13はジェット騒音の大半を遮蔽出来ない。
【0078】
エンジン排気流15が発生するジェット騒音の音源分布は、エンジン排気流15の上流側(即ち、機体後部に近い側)に高周波数成分の音源があり、下流側に低周波数成分の音源がある。遮蔽体13は、低周波数成分を遮蔽することはできず、機体に近い高周波数成分の一部を遮蔽するにとどまる。その寄与はジェット騒音全体に対して小さく、有効な騒音低減効果をもたらさない。
【0079】
以上のように、水平尾翼に設けられた遮蔽体13は、空港離着陸時のジェット騒音を低減することは出来ない。
【0080】
これに対して、本実施形態では、超音速航空機の機体に遮蔽体13を設けることで超音速巡行中のソニックブームを低減しつつ、さらに、この遮蔽体13を利用して、空港離着陸時のジェット騒音の低減を図る。そこで、本実施形態では、図9の(B)に示す様に、低騒音を目的として設計された排気ノズル100を用いる。排気ノズル100は、例えば、シェブロンノズルや、花弁形の折込式ノズル等の混合の促進を図る低騒音ノズルである。本実施形態では、排気ノズル100として、花弁形の折込式ノズルを採用する。
【0081】
図9の(B)は、本実施形態を模式的に示す。図9の(B)は、超音速航空機の機体に設けられた、遮蔽体13と、エンジンナセルの排気口に設けられた排気ノズル100と、排気ノズル100から噴出されるエンジン排気流15と、を模式的に示す。
【0082】
花弁形の折込式ノズル等の混合の促進を図る排気ノズル100は、機体後部から離れた下流側の位置に音源があり下流方向に伝播する低周波数成分のジェット騒音を低減するのに効果的である。具体的には、排気ノズル100は、機体後部から離れた下流側の位置にあるエンジン排気流15の低周波数成分と外気流との混合を促進することにより低周波数成分のジェット騒音を低減する(下向きの矢印でイメージを示す)。
【0083】
一方、花弁形の折込式ノズル等の混合の促進を図る排気ノズル100は、高周波数成分の騒音を低減する効果は低く、設計によっては高周波成分の騒音が増加することもある(上向きの矢印でイメージを示す)。そこで、本実施形態では、超音速巡行中のソニックブームを低減するための遮蔽体13を利用して、高周波数成分のジェット騒音を低減する。言い換えれば、低周波数成分のジェット騒音は排気ノズル100の混合促進により低減し、一方、高低周波数成分のジェット騒音は遮蔽体13を利用して低減する。これが本実施形態のコンセプトである。
【0084】
遮蔽体13の目的はソニックブームの低減であるから、遮蔽体13の位置は、ソニックブームの低減に効果的な位置として予め決まっている。典型的には、遮蔽体13の位置は、水平尾翼の位置である。そこで、本実施形態では、排気ノズル100を用いて、この所定位置にある遮蔽体13がエンジン排気流15の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に、高周波数成分の音源を発生させる。
【0085】
図24は、異なる排気ノズルを使用したときの排気流方向のTKE(乱流運動エネルギー:Turbulent Kinetic Energy)のコンタ図である。図25は、異なる排気ノズルを使用したときの排気ノズルの排気口付近のTKEのコンタ図である。
【0086】
花弁形の折込式ノズル等の混合の促進を図る排気ノズル100は、高周波成分の騒音を増加させることもあるが、高周波数成分の音源を移動させもする。図24及び図25に示す様に、花弁形の排気ノズル♯4及び♯7(後で構成をより詳細に説明する)、とりわけ排気ノズル♯4の排気口(x/D=0)付近のTKEの強さは、円形の排気ノズル(Baseline)の排気口付近のTKEの強さより大きい。これは、花弁形の排気ノズル♯4及び♯7、とりわけ排気ノズル♯4が、高周波数成分の音源をより排気口付近に(より上流に)移動させることを意味する。この様な現象が生じる理由を説明する。
【0087】
花弁形の折込式ノズル等の混合の促進を図る排気ノズル100は、排気口付近に、排気流路へ貫入する突出部を有する。突出部の排気流路への貫入量が大きいと、突出部付近(即ち、排気口付近)の気流の乱れ(TKE)が大きくなる。突出部付近(即ち、排気口付近)の気流の乱れ(TKE)により、エンジン排気流と外気流の混合が、早くから(即ち、上流で)促進される。このため、下流では、低周波数成分の音源となる相対的に大きなスケールの擾乱が弱まる。一方、上流では、高周波数成分の音源となる相対的に小さなスケールの擾乱が強まり、その結果、高周波数音源の位置は上流側に生じる。
【0088】
本実施形態では、この様な排気ノズル100を用いることで、高周波数成分の音源の位置を、遮蔽体13が遮蔽不可能な位置(図9の(A)参照)から、遮蔽体13が遮蔽可能な位置(図9の(B)参照)に移動させる。具体的には、高周波数成分の音源を、機体後部からより離れた位置(図9の(A)参照)から、機体後部により近い位置(図9の(B)参照)に移動させる。これにより、遮蔽体13は、エンジン排気流15の高周波数成分を遮蔽することができるため、高周波数成分のジェット騒音を低減することができる。
【0089】
図26は、ポーラ角90°の音圧レベルを基準としたときの、異なるポーラ角に対する音圧レベル(OASPL)の変化量ΔOASPLを示す。具体的には、図26は、(A)ジェット騒音の音圧レベル(OASPL)の変化量、(B)伝播距離(拡散減衰)による音圧レベル(OASPL)の変化量及び(A+B)観測者に到達する音の音圧レベル(OASPL)の変化量を示す。縦軸は、負側(即ち、0未満側)の値が大きいほど、ポーラ角90°の音圧レベルに比して騒音が小さいことを示す。この逆に、正側(即ち、0より大きい側)の値が大きいほど、ポーラ角90°の音圧レベルに比して騒音が大きいことを示す。
【0090】
ポーラ角は、機体の機首を0°、排気ノズルの排気口を90°及び機体の機尾を180°とする角度範囲である。図26に示す様に、頭上を水平飛行する航空機のジェット騒音を低減する場合、ポーラ角の影響は均等ではない。今後就航が見込まれる民間超音速機のジェット騒音はポーラ角140°~160°付近で最大となる分布を持つ。また、騒音は拡散減衰により伝播距離の2乗に反比例して小さくなり、観測者との距離が長くなる下流(160°等の)方向は伝播する際に大きく減衰する。このため、ポーラ角140°~150°付近で観測者が感じる騒音が最大となる(図26参照)。本実施形態では、排気ノズル100と遮蔽体13とを併用することで、特にポーラ角140°付近の騒音低減効果を高めることを図る。
【0091】
3.排気ノズルの構成
【0092】
図10は、本発明の一実施形態に係る排気流路の断面形状の変化の説明図である。図11は、本発明の一実施形態に係る排気ノズルの第1状態における概略斜視図である。図12は、図11の排気側からの正面図である。図13は、本発明の一実施形態に係る排気ノズルの第1状態と第2状態との中間状態の概略斜視図である。図14は、図13の排気側からの正面図である。図15は、本発明の一実施形態に係る排気ノズルの第2状態における概略斜視図である。図16は、図15の排気側からの正面図である。
【0093】
上記各実施形態のエンジンナセル312R、312L、12R、12L、212R、212Lの排気口には、それぞれ、排気ノズル100が設けられる。本発明の一実施形態に係る排気ノズル100は、花弁形の第1状態と円形の第2状態との間で形状が可変となる折込式の排気ノズルであり、混合の促進を図る低騒音ノズルである。以下、排気ノズル100の構成の代表例を説明する。
【0094】
本発明の一実施形態に係る排気ノズル100は、図10乃至図16に示すように、ジェットエンジンの後方の開閉屈曲部111を中心に後端部側が排気流路101の内外方向に揺動可能に設けられた複数の主ノズル片110と、隣接する主ノズル片110の間に配置された複数の連結ノズル片120とを有しており、複数の主ノズル片110及び連結ノズル片120が、ジェットエンジンの後方の排気流路101の全周を構成している。
【0095】
主ノズル片110は、絞り部103の後端の開閉屈曲部111を中心に図示しないアクチュエータによって揺動可能に構成されており、主ノズル片110の揺動によって、図10の左側に示す排気流路101の後端部の断面積が最も狭くなる花弁形の第1状態と、図10の右側に示す排気流路101の後端部の断面積が最も広くなる円形の第2状態との間で変化し、花弁形の第1状態では、連結ノズル片120が排気流路101の内方に屈曲して突出し、円形の第2状態では、連結ノズル片120が排気流路101の内方を突出することなく排気流路101の断面積が後端部ほど広い形状となる。
【0096】
本発明の一実施形態に係る排気ノズル100について、花弁形の第1状態を示す図11図12、花弁形の第1状態と円形の第2状態との中間状態を示す図13図14、及び、円形の第2状態を示す図15図16に基づいて説明する。
【0097】
なお、図11乃至図16は、主ノズル片110及び連結ノズル片120の厚み方向の形状を省略し、排気流路101の内面側のみを規定する一様な薄板として図示している。
【0098】
本実施形態では、絞り部103は、後端の断面積が最も小さくなる円錐台形状に形成され、絞り部103の後端を開閉屈曲部111として、8枚の主ノズル片110が全周にわたって設けられており、開閉屈曲部111は、絞り部103と主ノズル片110とがヒンジ結合されることで構成されている。
【0099】
主ノズル片110は、開閉屈曲部111から後端ほど円周方向の幅が小さくなるように形成されており、それぞれの隣接する主ノズル片110の間には、排気流路の内方に屈曲可能な連結ノズル片120が設けられている。
【0100】
連結ノズル片120は、両側の主ノズル片110と、側部屈曲部121により屈曲可能に連結されているとともに、中央に突出部を形成する中央屈曲部122を有している。
【0101】
本実施形態では、連結ノズル片120は、中央屈曲部122でヒンジ結合された2つの部材で構成されるとともに、側部屈曲部121もヒンジ結合されることで構成されている。
【0102】
主ノズル片110が排気流路101の内方に最も揺動した位置にあり、排気流路101の後端部の断面積が最も狭くなる花弁形の第1状態では、図11図12に示すように、主ノズル片110の後端部が開閉屈曲部111よりも僅かに排気流路101内方に位置するとともに、連結ノズル片120は、排気ノズル100の外周から見て、側部屈曲部121が大きく山折り状態、中央屈曲部122が大きく谷折り状態となり、中央屈曲部122の部分が排気流路101の内方に突出する突出部102を形成する。
【0103】
上記状態から、図示しないアクチュエータによって、主ノズル片110を排気流路101の外方に揺動させると、図13図14に示すように、主ノズル片110の後端部が外方に広がる動きに連動して、連結ノズル片120の、側部屈曲部121の山折り状態、中央屈曲部122の谷折り状態が徐々に小さくなり、中央屈曲部122の部分が排気流路101の内方に突出する突出部102も小さくなる。
【0104】
主ノズル片110が排気流路101の外方に最も揺動した位置にあり、排気流路101の後端部の断面積が最も広くなる円形の第2状態では、図15図16に示すように、連結ノズル片120の中央屈曲部122の屈曲がなくなり、排気流路101の内方に突出する突出部102もなく、開閉屈曲部111より後方は、主ノズル片110の後端部と連結ノズル片120とによって、後端の断面積が最も大きくなる円錐台形状に近似した形状となる。
【0105】
上記状態から、図示しないアクチュエータによって、主ノズル片110を排気流路101の内方に揺動させると、前述した図13図14の状態を経て、図11図12に示す花弁形の第1状態となる。
【0106】
なお、絞り部103、主ノズル片110及び連結ノズル片120の外周側の形状や厚みは、飛行時の空力特性等を考慮して適宜設計すればよい。
【0107】
また、図10に示すように、連結ノズル片120の外周側の形状を三角錐形状とすることで、中央屈曲部122や側部屈曲部121の屈曲限界を規定することが可能となり、上記花弁形の第1状態、円形の第2状態を確実に確保することができる。
【0108】
上記の排気ノズル100によって変化する排気流路101の断面積を説明する。花弁形の第1状態では、開閉屈曲部111位置より後方が離着陸時等に適した先細の断面積となる。円形の第2状態では、開閉屈曲部111位置より後方が超音速巡航に適した先細末広の断面積となる。また、図10乃至図12に示すように、花弁形の第1状態では、連結ノズル片120が排気流路101の内方に屈曲して突出部102を形成することにより、排気流の形状がひだ状に湾曲する。排気ジェットのマッハ数分布は、ひだ状の分布となる。このことで、排気流と外気流との混合が促進し、空港離着陸時のジェット騒音の低減を図ることができる。
【0109】
排気ノズル100は、特に、エンジン排気流の低周波数成分と外気流との混合を促進することにより低周波数成分のジェット騒音を低減する。
【0110】
4.排気ノズルの突出部の形状のバリエーション
【0111】
図17は、排気ノズルの突出部の形状のバリエーションを示す。
【0112】
排気ノズル100が花弁形の第1状態(図12に相当)であるときの、突出部102の形状のバリエーションを説明する。排気ノズル100は、排気ノズル100の内周に設けられた複数の(即ち、N個の)突出部102を有する。複数の突出部102は、同一形状及び同一サイズであり、排気ノズル100の周方向に等間隔に設けられる。複数の突出部102は、それぞれ、排気ノズル100を軸方向に見たときに排気ノズル100の内周方向に突出する2辺を含み、2辺の長さRf、Rfは同じである。N個の突出部102の1辺の長さRfは、排気ノズル100の排気口が構成する正N角形の1辺の長さを1としたとき、正N角形の1辺に対して排気口の内側に折り込まれる辺の長さを意味する。
【0113】
複数の突出部102の数N及び突出部の1辺の長さRfによらず、排気ノズル100の排気口の面積は等しい。言い換えれば、5タイプの排気ノズル♯1、♯4、♯5、♯7、♯8の排気口の出口断面積は、全て等しい。
【0114】
排気ノズル♯1は、N=4個の突出部を有する。排気ノズル♯1の排気口が構成する正4角形の1辺の長さを1としたとき、突出部の1辺の長さRf=0.59である。言い換えれば、排気ノズル♯1の排気口が構成する正4角形の1辺の長さに対して、突出部の1辺の長さRfは59%である。
【0115】
排気ノズル♯4は、図12と同様に、N=8個の突出部を有する。排気ノズル♯4の排気口が構成する正8角形の1辺の長さを1としたとき、突出部の1辺の長さRf=0.75である。言い換えれば、排気ノズル♯4の排気口が構成する正8角形の1辺の長さに対して、突出部の1辺の長さRfは75%である。
【0116】
排気ノズル♯5は、N=12個の突出部を有する。排気ノズル♯5の排気口が構成する正12角形の1辺の長さを1としたとき、突出部の1辺の長さRf=0.62である。言い換えれば、排気ノズル♯5の排気口が構成する正12角形の1辺の長さに対して、突出部の1辺の長さRfは62%である。
【0117】
排気ノズル♯7は、N=16個の突出部を有する。排気ノズル♯7の排気口が構成する正16角形の1辺の長さを1としたとき、突出部の1辺の長さRf=0.77である。言い換えれば、排気ノズル♯7の排気口が構成する正16角形の1辺の長さに対して、突出部の1辺の長さRfは77%である。
【0118】
排気ノズル♯8は、N=16個の突出部を有する。排気ノズル♯8の排気口が構成する正16角形の1辺の長さを1としたとき、突出部の1辺の長さRf=0.42である。言い換えれば、排気ノズル♯8の排気口が構成する正16角形の1辺の長さに対して、突出部の1辺の長さRfは42%である。
【0119】
5.遮蔽体を設けない場合の、排気ノズルのジェット騒音の低減効果
【0120】
図18は、複数の異なるタイプの排気ノズルの、無次元周波数に対する音圧レベルの分布を示す。
【0121】
図18は、遮蔽体13を設けない場合の、3タイプの排気ノズル♯4、♯7、♯8及び突出部を有しない排気ノズル(基準値:Baseline)の無次元周波数Stに対する音圧レベルSPL(Sound Pressure Level)の分布を示す。(a)はポーラ角90°、(b)はポーラ角160°の位置での音圧レベルSPLの分布を示す。ポーラ角は、機体の機首を0°、排気ノズルの排気口を90°及び機体の機尾を180°とする角度範囲である。即ち、(a)は機体後部の側方(上流側)の音圧レベルSPLの分布、(b)は下流側の音圧レベルSPLの分布を示す。
【0122】
(a)の機体後部の側方及び(b)の下流側の両方において、排気ノズル#4によるジェット騒音の低周波数成分の音圧レベルは、突出部を有しない排気ノズル(Baseline)によるジェット騒音の低周波数成分の音圧レベルより低い。さらに、排気ノズル♯4の低周波数成分の音圧レベルは、(a)の機体後部の側方及び(b)の下流側の両方において、排気ノズル♯7、♯8よりも低い。特に、排気ノズル#4によるジェット騒音の低周波数成分の音圧レベルのBaselineに対する低減量は、(a)の機体後部の側方が、(b)の下流側よりも大きい。
【0123】
しかしながら、(a)の機体後部の側方及び(b)の下流側の両方において、排気ノズル#4によるジェット騒音の高周波数成分の音圧レベルは、突出部を有しない排気ノズル(Baseline)によるジェット騒音の高周波数成分の音圧レベルより高い。特に、排気ノズル#4によるジェット騒音の高周波数成分の音圧レベルのBaselineに対する増加は、(a)の機体後部の側方が、(b)の下流側よりも大きい。
【0124】
言い換えれば、排気ノズル♯4は、低周波数成分のジェット騒音を低減する効果が最も高いが、高周波数成分のジェット騒音はむしろ増加する。
【0125】
排気ノズル♯7の全ての周波数成分の音圧レベルは、(a)の機体後部の側方及び(b)の下流側の両方において、Baselineより低い。即ち、排気ノズル♯7は、バランスよくジェット騒音を低減する。しかしながら、機体後部の側方及び下流側の両方において、排気ノズル♯7の低周波数成分の音圧レベルは、排気ノズル♯4より高い。言い換えれば、低周波数成分のジェット騒音を低減する効果は、排気ノズル♯7よりも、排気ノズル♯4が高い。
【0126】
排気ノズル♯8は、(a)の機体後部の側方において、全ての周波数成分の音圧レベルがBaselineより低いものの、排気ノズル♯7より低くなることは無い。一方、排気ノズル♯8は、(b)の下流側において、全ての周波数成分の音圧レベルがBaselineとほぼ等しい。言い換えれば、排気ノズル♯8は、機体後部の側方においてジェット騒音を低減する効果は相対的に低く、下流側においてジェット騒音を低減する効果はほぼ無い。
【0127】
図19は、排気ノズルの突出部の形状に依存する騒音低減量を示すコンタマップである。
【0128】
図19は、遮蔽体13を設けない場合の、突出部を有しない排気ノズル(基準値:Baseline)の騒音レベル(OASPL Baseline)に対する騒音低減量ΔOASPL(=OASPL-OASPL Baseline)(dB)を示す。図19は、排気ノズル#1、#4、#7、#8及びさらに別のバリエーションの形状を有する排気ノズル#2、#3、#5、#6、#9、#10の騒音低減量ΔOASPLを示す。排気ノズル#1~#10の排気口の出口断面積は全て等しく、突出部の数N及び突出部の1辺の長さRfがそれぞれ異なる。図19の(a)はポーラ角90°、(b)はポーラ角120°、(c)はポーラ角160°の、排気ノズル#1~#10の騒音低減量ΔOASPLを示す。下図のスケールは、ΔOASPL=-2.2dB(負側)に近づくほど騒音低減量が大きく(スケールの左側)、この逆に、ΔOASPL=2.2dB(正側)に近づくほど騒音増加量が大きい(スケールの右側)ことを意味する。
【0129】
コンタマップのXY座標系は、排気ノズル#1~#10の形状を示す。X軸は、排気ノズル#1~#10の突出部の数Nを示す。Y軸は、突出部の1辺の長さRf(即ち、排気ノズルの排気口が構成する正N角形の1辺の長さを1としたとき、正N角形の1辺に対して排気口の内側に折り込まれる辺の長さ)を示す。例えば、排気ノズル#4のXY座標は、排気ノズル#4の突出部の数Nが8個であり、突出部の1辺の長さRf=0.75であることを意味する。
【0130】
(a)のポーラ角90°及び(b)のポーラ角120°の位置で、N≦4(具体的には、N=4)である排気ノズル#1、#2の騒音低減量は正の値であり、これは、騒音増加量が大きいことを意味する。一方、排気ノズル#3~#10(N>4)の騒音低減量は負の値であり、騒音が低減する。従って、N>4(言い換えると、N≧5)が好ましい。
【0131】
そこで、N>4に着目すると、全てのポーラ角(90°、120°、160°)の位置で、Rf≦0.5である場合の騒音低減量が相対的に(即ち、Rf>0.5の場合と比べて)低い。特に、(c)のポーラ角160°の位置で、Rf≦0.5である場合は、騒音減少量が小さくなるNの範囲が広い。Rf≦0.5は、突出部の排気流路への貫入量が小さい(円形に近い)ことを意味する。突出部の排気流路への貫入量が小さいと、所望の音響的な変化が得られない。このため、Rf≦0.5は、円形出口との明確な差を生じない。言い換えれば、Rf>0.5である場合の騒音低減量は相対的に(即ち、Rf≦0.5の場合と比べて)高いので、Rf>0.5とするのが好ましい。
【0132】
6.排気ノズルと遮蔽体を併用する場合の騒音低減効果の確認試験:第1の確認試験
【0133】
排気ノズル100と遮蔽体13とを併用した場合の、ジェット騒音の低減を確認するため、確認試験を行った。
【0134】
図20は、確認試験の方法を説明するための図である。
【0135】
3タイプの排気ノズル#1、#4、#7それぞれについて、(a)排気ノズル#1、#4、#7を使用し、遮蔽体13を使用しない場合、(b)遮蔽体13を使用し、円形出口の排気ノズルを使用する場合、(c)排気ノズル#1、#4、#7及び遮蔽体13を併用する場合、のモデルを作成した。(c)排気ノズル#1、#4、#7及び遮蔽体13の併用は、本実施形態の実施例である。一方、(a)及び(b)は比較例である。左舷ノズルのモデルを作成し、ジェットエンジンをオンにした。マイクロフォンを、左舷ノズルのモデルの、排気方向の後方に設置し、ポーラ角=90°~160°の範囲で騒音低減量(dB)を測定した。ポーラ角は、機体の機首を0°、排気ノズルの排気口を90°及び機体の機尾を180°とする角度範囲である。
【0136】
図21は、排気ノズル#4の確認試験の結果を示す。
【0137】
図21は、(a)排気ノズル#4を使用し、遮蔽体13を使用しない場合(比較例)、(b)遮蔽体13を使用し、円形出口の排気ノズルを使用する場合(比較例)、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)の、ポーラ角=90°~160°の範囲での騒音低減量ΔOASPL(dB)を示す。負側(即ち、0未満側)の値が大きいほど、騒音低減量が大きいことを示す。この逆に、正側(即ち、0より大きい側)の値が大きいほど、騒音増加量が大きいことを示す。
【0138】
110°以上140°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#4を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量より大きい(c>a)。
【0139】
一方、140°より大きく160°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、ほぼ変化していない。言い換えれば、140°より大きく160°以下のポーラ角の範囲でも、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、十分大きいと言える。
【0140】
さらに、120°以上140°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#4を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量と、(b)遮蔽体13のみを使用する場合(比較例)のジェット騒音の低減量との合計値より大きい(c>a+b)。言い換えれば、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する(本実施形態)ことで、120°以上140°以下のポーラ角の範囲で、単純に予期される効果(a+bの合計値)よりも高い効果を得ることができる。
【0141】
図18を参照して説明したように、排気ノズル♯4は、低周波数成分のジェット騒音を低減する効果が最も高いが、高周波数成分のジェット騒音はむしろ増加する。しかしながら、本実施形態では、図9の(B)を参照して説明したように、排気ノズル100を用いて、遮蔽体13がエンジン排気流15の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に、高周波数成分の音源を発生させる。これにより、遮蔽体13は、エンジン排気流15の高周波数成分を遮蔽するので、高周波数成分のジェット騒音を低減する。このため、排気ノズル♯4が、高周波数成分のジェット騒音を増加させるにも拘らず(図18を参照)、遮蔽体13は高周波数成分のジェット騒音を遮蔽することができる。このため、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)は、(a)排気ノズル#4を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)に比べて、大幅にジェット騒音を低減することが可能になる。
【0142】
図22は、排気ノズル#7の確認試験の結果を示す。
【0143】
図22は、(a)排気ノズル#7を使用し、遮蔽体13を使用しない場合(比較例)、(b)遮蔽体13を使用し、円形出口の排気ノズルを使用する場合(比較例)、(c)排気ノズル#7及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)の、ポーラ角=90°~160°の範囲での、騒音低減量ΔOASPL(dB)を示す。
【0144】
110°以上160°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#7及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#7を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量より大きい(c>a)。図21に示したように、排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合は、110°以上140°以下のポーラ角の範囲で、比較例(a)のジェット騒音の低減量より大きい。従って、排気ノズル#7と遮蔽体13とを併用することで、より広い範囲でバランスよくジェット騒音を低減することができる。
【0145】
さらに、140°以上160°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#7及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#7を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量と、(b)遮蔽体13のみを使用する場合(比較例)のジェット騒音の低減量との合計値より大きい(c>a+b)。言い換えれば、(c)排気ノズル#7及び遮蔽体13を併用する(本実施形態)ことで、140°以上160°以下のポーラ角の範囲で、単純に予期される効果(a+bの合計値)よりも高い効果を得ることができる。
【0146】
以上のように、(c)排気ノズル#4又は#7及び遮蔽体13を併用する(本実施形態)ことで、110°以上140°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル100及び遮蔽体13を用いた場合のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル100を用いて遮蔽体13を用いない場合のジェット騒音の低減量より大きく、さらに、140°のポーラ角で、単純に予期される効果(a+bの合計値)よりも高い効果を得ることができる。
【0147】
頭上を水平飛行する航空機のジェット騒音を低減する場合、ポーラ角の影響は均等ではない。今後就航が見込まれる民間超音速機のジェット騒音はポーラ角140°~160°付近で最大となる分布を持つ。また、騒音は拡散減衰により伝播距離の2乗に反比例して小さくなり、観測者との距離が長くなる下流(160°等の)方向は伝播する際に大きく減衰する。このため、ポーラ角140°~150°付近で観測者が感じる騒音が最大となる(図26参照)。本実施形態では、排気ノズル100と遮蔽体13とを併用することで、特にポーラ角140°付近の騒音低減効果を高めることができる。
【0148】
図23は、排気ノズル#1の確認試験の結果を示す。
【0149】
図23は、(a)排気ノズル#1を使用し、遮蔽体13を使用しない場合(比較例)、(b)遮蔽体13を使用し、円形出口の排気ノズルを使用する場合(比較例)、(c)排気ノズル#1及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)の、ポーラ角=90°~160°の範囲での、騒音低減量ΔOASPL(dB)を示す。
【0150】
90°以上160°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#1及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#1を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量より大きい(c>a)。
【0151】
さらに、90°以上160°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#1及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#1を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量と、(b)遮蔽体13のみを使用する場合(比較例)のジェット騒音の低減量との合計値より大きい(c>a+b)。言い換えれば、(c)排気ノズル#1及び遮蔽体13を併用する(本実施形態)ことで、単純に予期される効果(a+bの合計値)よりも高い効果を得ることができる。
【0152】
しかしながら、比較例(a)のΔOASPLの正側(即ち、0より大きい側)の値がそもそも高すぎる、即ち、そもそも騒音増加量が大きすぎる。これは、図19の(a)及び(b)を参照して、ポーラ角90°及び120°の位置で排気ノズル#1の騒音増加量が大きい(正の値)と説明した通りである。排気ノズル#1自体が発生する騒音増加量がそもそも大きすぎるため、遮蔽体13を併用しても騒音増加量が依然として大きい。即ち、排気ノズル#1及び遮蔽体13を併用しても、適切な騒音低減効果が得られず、実用的とはいえない。
【0153】
7.排気ノズルと遮蔽体を併用する場合の騒音低減効果の確認試験:第2の確認試験
【0154】
次に、排気ノズル100と遮蔽体13とを併用した場合の、ジェット騒音の低減を確認するための、さらに別の確認試験について説明する。
【0155】
図27図32は、第2の確認試験の様子を示す図である。図27は、第2の確認試験において、円形出口の排気ノズル200(Baseline)が使用された場合(比較例)の側面図である。図28は、第2の確認試験において、花弁形の排気ノズル100が使用された場合(本実施形態)の側面図である。
【0156】
図29は、第2の確認試験を示す側方断面図である。図30は、第2の確認試験を示す上面図である。図31は、第2の確認試験を排気ノズル100、200の排気口側から見た図である。
【0157】
図32は、第2の確認試験を示す斜視図である。図32(a)は、本実施形態に係る排気ノズル100を使用し、遮蔽体13を使用しない場合を示している(比較例)。図32(b)は、比較例に係る円形出口の排気ノズル200を使用し、遮蔽体13を使用する場合を示している(比較例)。また、図32(c)は、本実施形態に係る排気ノズル100と、遮蔽体13とを併用する場合を示している(本実施形態)。
【0158】
図27及び図28に示すように、第2の確認試験においては、エンジンナセル1(ジェットエンジン)(モデル)の後端側(排気口)に、比較例に係る円形出口の排気ノズル200(モデル)、または、本実施形態に係る花弁形の排気ノズル100(モデル)が取り付けられる。
【0159】
第2の確認試験においては、花弁形の排気ノズル100として、4タイプの排気ノズル#1、#4、♯5、#7が用いられた(図17参照)。なお、上述の第1の確認試験においては、3タイプの排気ノズル#1、#4、#7が用いられており、従って、第2の確認試験においては、排気ノズル♯5が追加されている。
【0160】
また、第2の確認試験においては、遮蔽体13(モデル)が用いられた。遮蔽体13は、平板状の部材であり、エンジンナセル1及び排気ノズル100、200の中心軸方向に対して平行に配置される。
【0161】
図29に示すように、遮蔽体13は、エンジンナセル1及び排気ノズル100、200の中心軸(一点鎖線参照)から、2Dの距離を開けて配置された。なお、Dの値は、排気ノズル100、200における排気口の直径を意味している。ここでの例では、Dの値は、28.8mmとされた。
【0162】
また、図30に示すように、遮蔽体13の幅は、3Dとされ、遮蔽体13の幅方向の中心位置はエンジンナセル1及び排気ノズル100、200の中心軸の位置に一致するように配置された。また、図30に示すように、遮蔽体13において排気ノズル100、200の排気口よりも後方側に突出する長さは、3Dとされた。
【0163】
マイクロフォンは、遮蔽体13の背面側に配置され(図31参照)、ポーラ角=90°~160°の範囲で騒音低減量(dB)が測定された(図29参照)。なお、ジェットエンジンによるマッハ数Mjは、0.98とされた。
【0164】
また、騒音の収録のサンプリングは、204.8kHzで行われた。また、騒音の評価は、1/3オクターブバンド中心周波数で、400Hz(確認試験が行われた無響室の下限周波数)~80kHz(収録の上限周波数)の範囲で行われた。なお、後述の図33図36におけるOASPLは、この周波数範囲での積算値であり、騒音低減量ΔOASPL(dB)は、それぞれ、各OASPL-OASPL(Baseline)である。
【0165】
図33は、排気ノズル#4の第2の確認試験の結果を示す。
【0166】
図33は、(a)排気ノズル#4を使用し、遮蔽体13を使用しない場合(比較例)、(b)遮蔽体13を使用し、円形出口の排気ノズルを使用する場合(比較例)、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)の、ポーラ角=90°~160°の範囲での騒音低減量ΔOASPL(dB)を示す。負側(即ち、0未満側)の値が大きいほど、騒音低減量が大きいことを示す。この逆に、正側(即ち、0より大きい側)の値が大きいほど、騒音増加量が大きいことを示す。
【0167】
90°以上160°以下のポーラ角の範囲(全範囲)で、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#4を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量より大きい(c>a)。
【0168】
さらに、90°以上140°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#4を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量と、(b)遮蔽体13のみを使用する場合(比較例)のジェット騒音の低減量との合計値より大きい(c>a+b)。言い換えれば、(c)排気ノズル#4及び遮蔽体13を併用する(本実施形態)ことで、90°以上140°以下のポーラ角の範囲で、単純に予期される効果(a+bの合計値)よりも高い効果を得ることができる。
【0169】
一方、150以上160°以下のポーラ角の範囲では、c>a+bとはならないが、これは、第2の確認試験に用いた遮蔽体13の大きさでは、この方向への遮蔽効果が弱く、排気ノズル♯4の単体での騒音低減効果が支配的であるためである。このとき、遮蔽体13による遮蔽効果は弱くとも、排気ノズル♯4単体の効果によって有意な騒音低減効果が得られ、その程度は十分に大きい。
【0170】
図34は、排気ノズル#7の第2の確認試験の結果を示す。
【0171】
図34は、(a)排気ノズル#7を使用し、遮蔽体13を使用しない場合(比較例)、(b)遮蔽体13を使用し、円形出口の排気ノズルを使用する場合(比較例)、(c)排気ノズル#7及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)の、ポーラ角=90°~160°の範囲での、騒音低減量ΔOASPL(dB)を示す。
【0172】
90°以上140°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#7及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#7を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量より大きい(c>a)。
【0173】
また、90°以上140°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#7及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#7を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量と、(b)遮蔽体13のみを使用する場合(比較例)のジェット騒音の低減量との合計値と略等しい(c≒a+b)。言い換えれば、(c)排気ノズル#7及び遮蔽体13を併用する(本実施形態)場合、90°以上140°以下のポーラ角の範囲で、予期される効果(a+bの合計値)と同等の効果を得ることができる。
【0174】
一方、150°以上160°以下のポーラ角の範囲では、cは、a+bよりも小さくなるが、これは、第2の確認試験に用いた遮蔽体13の大きさでは、この方向への遮蔽効果が弱く、排気ノズル♯7の単体での騒音低減効果が支配的であるためである。このとき、遮蔽体13による遮蔽効果は弱くとも、排気ノズル♯7単体の効果によって有意な騒音低減効果が得られるが、排気ノズル♯4に比べてその程度は小さい。
【0175】
図35は、排気ノズル#1の第2の確認試験の結果を示す。
【0176】
図35は、(a)排気ノズル#1を使用し、遮蔽体13を使用しない場合(比較例)、(b)遮蔽体13を使用し、円形出口の排気ノズルを使用する場合(比較例)、(c)排気ノズル#1及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)の、ポーラ角=90°~160°の範囲での、騒音低減量ΔOASPL(dB)を示す。
【0177】
90°以上160°以下のポーラ角の範囲(全範囲)で、(c)排気ノズル#1及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#1を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量より大きい(c>a)。
【0178】
また、90°以上160°以下のポーラ角の範囲(全範囲)で、(c)排気ノズル#1及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#1を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量と、(b)遮蔽体13のみを使用する場合(比較例)のジェット騒音の低減量との合計値より大きい(c>a+b)。言い換えれば、(c)排気ノズル#1及び遮蔽体13を併用する(本実施形態)ことで、90°以上160°以下のポーラ角の範囲で、単純に予期される効果(a+bの合計値)よりも高い効果を得ることができる。
【0179】
しかしながら、図35では、排気ノズル♯1単体での騒音低減の効果が、ポーラ角160°の方向に寄りすぎているため、90°以上140°以下のポーラ角の範囲では、遮蔽体13の騒音低減効果を含めても、騒音増加(正側)となる。
【0180】
図36は、排気ノズル#5の第2の確認試験の結果を示す。
【0181】
図36は、(a)排気ノズル#5を使用し、遮蔽体13を使用しない場合(比較例)、(b)遮蔽体13を使用し、円形出口の排気ノズルを使用する場合(比較例)、(c)排気ノズル#5及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)の、ポーラ角=90°~160°の範囲での騒音低減量ΔOASPL(dB)を示す。負側(即ち、0未満側)の値が大きいほど、騒音低減量が大きいことを示す。この逆に、正側(即ち、0より大きい側)の値が大きいほど、騒音増加量が大きいことを示す。
【0182】
90°以上160°以下のポーラ角の範囲(全範囲)で、(c)排気ノズル#5及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#5を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量より大きい(c>a)。
【0183】
さらに、90°以上130°以下のポーラ角の範囲で、(c)排気ノズル#5及び遮蔽体13を併用する場合(本実施形態)のジェット騒音の低減量は、(a)排気ノズル#5を用いて遮蔽体13を用いない場合(比較例)のジェット騒音の低減量と、(b)遮蔽体13のみを使用する場合(比較例)のジェット騒音の低減量との合計値より大きい(c>a+b)。言い換えれば、(c)排気ノズル#5及び遮蔽体13を併用する(本実施形態)ことで、90°以上130°以下のポーラ角の範囲で、単純に予期される効果(a+bの合計値)よりも高い効果を得ることができる。
【0184】
一方、140°以上160°以下のポーラ角の範囲では、c>a+bとはならないが、これは、第2の確認試験に用いた遮蔽体13の大きさでは、この方向への遮蔽効果が弱く、排気ノズル♯5の単体での騒音低減効果が支配的であるためである。このとき、遮蔽体13による遮蔽効果は弱くとも、排気ノズル♯5単体の効果によって有意な騒音低減効果が得られ、その程度は、排気ノズル♯4よりは小さく、排気ノズル♯7よりは大きい。
【0185】
排気ノズル♯5及び遮蔽体13が併用される場合、排気ノズル♯4及び遮蔽体13の併用と、排気ノズル♯7及び遮蔽体13の併用との間の中間的な特徴が表れている。
【0186】
つまり、排気ノズルと遮蔽体13との併用により単純に予期される効果よりも高い効果(c>a+b)が得られるポーラ角の範囲は、排気ノズル#4、排気ノズル#5、排気ノズル#7の順に広く、ノズル形状の工夫により騒音低減効果の制御が可能であると見込まれる。このことはソニックブームの低減を目的として設置される遮蔽体13にあわせて空港騒音低減効果を高めるノズル形状が設計可能であることを示唆している。
【0187】
8.結語
【0188】
以上のように、本実施形態に係る超音速機と、ソニックブーム及びジェット騒音の低減方法とによれば、遮蔽体13が、超音速航空機の機体の胴体に取り付けられたエンジンナセルに収容されたジェットエンジンから噴出されるエンジン排気流を遮蔽することによりエンジン排気流によるソニックブームを低減する。エンジンナセルの排気口に設けられた排気ノズル100が、遮蔽体13がエンジン排気流の高周波数成分を遮蔽することが可能な位置に高周波数成分の音源を発生させることにより高周波数成分のジェット騒音を低減し、エンジン排気流の低周波数成分と外気流との混合を促進することにより低周波数成分のジェット騒音を低減する。
【0189】
この様に、本実施形態によれば、超音速巡行中のソニックブーム低減と離陸時の空港騒音低減という別々の課題を、低ソニックブーム用に設計された遮蔽体13と、花弁形の排気ノズル100とを併用することで、遮蔽体13と円形ノズルとの単純な組み合わせでは得られない高い空港騒音低減効果を得ることができ、超音速航空機の環境適合性における主要課題であるソニックブーム低減と空港騒音低減の両方を解決することができる。
【0190】
超音速航空機は国際基準の制定と市場の開拓が進められているところであり、今後の当該分野の低騒音化技術は新型航空機の製造において利用が見込まれる。
【0191】
本技術の各実施形態及び各変形例について上に説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0192】
10 機体
100 排気ノズル
101 排気流路
102 突出部
13 遮蔽体
15 エンジン排気流
図1
図2
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