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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129384
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】清拭シート
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/34 20060101AFI20220829BHJP
   A01N 33/12 20060101ALI20220829BHJP
   A01N 47/44 20060101ALI20220829BHJP
   A01N 37/06 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
A01N25/34 A
A01N33/12 101
A01N47/44
A01N37/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023267
(22)【出願日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2021027953
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390020019
【氏名又は名称】レック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(74)【代理人】
【識別番号】100120570
【弁理士】
【氏名又は名称】中 敦士
(72)【発明者】
【氏名】石井 和親
(72)【発明者】
【氏名】磯川 由美
(72)【発明者】
【氏名】金尾 弥生
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011BB04
4H011BB06
4H011BB14
4H011DA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】保存安定性に優れ、皮膚刺激性が抑制された、清拭シートを提供する。
【解決手段】織布又は不織布からなる基材シートに水系組成物が含浸された清拭シートであって、該水系組成物には、精製水中に、保存性向上剤としてベンザルコニウムクロリドが0.030質量%~0.050質量%、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩が0.025質量%~0.070質量%、及びカプリン酸グリセリルが0.003質量%~0.050質量%含有され、並びに可溶化剤として、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤が含有されていて、該水系組成物中の精製水濃度は99.85質量%~99.92質量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布又は不織布からなる基材シートに保存性向上剤と可溶化剤を含む水系組成物が含浸されてなる清拭シートであって、
前記水系組成物は、精製水中に、保存性向上剤として、抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩、及び防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリル、
並びに可溶化剤として、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤が含まれていて、
前記水系組成物における、ベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)が0.030質量%以上0.050質量%以下、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)が0.025質量%以上0.070質量%以下、カプリン酸グリセリルの含有量(c1)が0.003質量%以上0.050質量%以下、であり、
更に、前記水系組成物における、精製水の濃度が99.85質量%以上99.92質量%以下である、ことを特徴とする清拭シート。
【請求項2】
前記水系組成物における、
ベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)とポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)の合計量(b1+b2)が0.060質量%以上0.105質量%以下であり、
かつ、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)とベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)との質量比(b2/b1)が0.625以上2.00以下である、
請求項1に記載の清拭シート。
【請求項3】
前記水系組成物における、
防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリルの含有量(c1)と、抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)とポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)の合計量(b1+b2)との質量比(c1/(b1+b2))が、0.035以上0.833以下である、
請求項1又は2に記載の清拭シート。
【請求項4】
前記水系組成物における、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤の含有量(d1)と、防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリルの含有量(c1)との質量比(d1/c1)が0.60以上2.14以下である、
請求項1から3のいずれかに記載の清拭シート。
【請求項5】
前記水系組成物における、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤が常温の15~25℃において液状であり、かつOH末端基を有するポリエーテルである、
請求項1から4のいずれかに記載の清拭シート。
【請求項6】
前記水系組成物における、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤が数平均分子量100以上600以下のポリエチレングリコールである、
請求項1から5のいずれかに記載の清拭シート。
【請求項7】
前記清拭シートにおける水相部の25℃でのpHが6.1以上6.6以下である、
請求項1から6のいずれかに記載の清拭シート。
【請求項8】
前記清拭シートが、乳幼児の尻拭き用、又は病人、老人、もしくは乳幼児の身体清拭用の清拭シートである、
請求項1から7のいずれかに記載の清拭シート。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性向上剤と可溶化剤を含む水系組成物が基材シートに含浸された清拭シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、乳幼児や被介護者の使い捨ておむつ等の交換時に汚れの拭き取りを容易にするために、又は汚れが付いた手や身体を拭き取るためにウェットタイプの清拭シートが使用されている。ウェットタイプの清拭シートは、通常、精製水中に抗菌剤等を含む水系組成物を基材シートに含浸して作製される。
【0003】
前記水系組成物は、肌に対する刺激を低減するために、精製水中の抗菌剤等の含有量が少ないことが望まれる。特に、乳幼児や肌の弱い老人に使用する清拭シートには、刺激のある成分の含有量が極力少なく、かつ精製水濃度の高い水系組成物が含侵されていることが望まれる。一方、精製水濃度の高い水系組成物が含侵された清拭シートは、保存期間の長期化に伴い細菌やカビが発生して、保存安定性が低下するおそれがある。
【0004】
下記の特許文献1から特許文献3には、抗菌剤等を含む水溶液組成物が開示されている。
下記特許文献1には、化粧品等の抗菌・防腐剤として従来から広く使用されてきた、パラベン(パラヒドロキシ安息香酸エステル)は、界面活性剤等の可溶化剤の添加が必要であったが、可溶化剤が添加されると、パラベンの抗菌・防腐力が著しく低下することが記載されている。そこで、該特許文献1にはパラベンを含有しない、(A)成分として2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸n-ヘキシルが0.2質量%以上と、(B)成分として炭素数6-8のアルキルグリセリルエーテル及び/又は炭素数8から12の脂肪酸グリセリルエステルが前記(A)成分の2倍以上含まれる皮膚外用剤が開示されている。前記脂肪酸グリセリルエステルとしてカプリン酸グリセリルが挙げられている。
【0005】
下記特許文献2には、パーソナルケア組成物として、環境持続性及び健康上の懸念のあるトリクロサンを含まない、カチオン性活性成分、カチオン適合性界面活性剤、泡促進剤、泡構造強化剤、及び哺乳類の皮膚組織への刺激を低減する皮膚調整剤を含む、発泡抗菌性皮膚洗剤が開示されている。前記泡促進剤として、カプリン酸グリセリルが挙げられている。下記特許文献3には、グリセリン脂肪酸エステル等と第4級アンモニウム塩を含有する、おしぼり又はウェットティシュー用の保存剤が開示されている。
【0006】
下記の特許文献4から特許文献6には水溶液組成物が含侵された清拭シート等が開示されている。
下記特許文献4には、不織布シートに洗浄剤を含浸させた乳幼児尻拭き用清拭シートが開示されている。該洗浄剤中の精製水濃度は、99.80~99.90重量%の範囲であり、該洗浄剤中には殺菌防腐剤としてベンザルコニウムクロリドと、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、及びプロピレングリコール又は1,3-ブチレングリコールが含有されている。また、このような清拭シートは、肌への刺激性を抑制できる、と記載されている。
【0007】
下記特許文献5には、ポリアミノプロピルビグアニドと第四級アンモニウム塩との混合物、安息香酸ナトリウム、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、及び非イオン性界面活性剤を含み、かつ、そのpHが3.5~4.5である、繊維シート含浸用の水溶性組成物と、該水溶性組成物が含浸された繊維シートが開示されている。下記特許文献6には、乳酸、クエン酸若しくはこれらの酸の塩、第四級アンモニウム塩型界面活性剤、及び水、を含有するとともにエタノールを含有せず、且つ25℃におけるpHが3.0以上6.0未満の液剤が基材シートに含浸されたウェットシート、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4927986号公報
【特許文献2】特許第6431180号公報
【特許文献3】特開2021-003399号公報
【特許文献4】特許第5876981号公報
【特許文献5】特許第5845098号公報
【特許文献6】特開2020-199090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に開示された皮膚外用剤は、クリーム、化粧水、乳液等における添加剤の成分濃度が高い溶液中に、抗菌・防腐効果を発揮させる目的で配合されるので、皮膚外用剤中の抗菌・防腐剤を比較的多量に含有させる必要がある。上記特許文献2に開示された発泡抗菌性皮膚洗剤において、カプリン酸グリセリルは、ポリエチレングリコール(PEG)8000等の泡構造強化剤と共に、洗浄の間の充分な泡体積、高密度で安定な泡構造を提供するために泡促進剤として配合されている。また、該皮膚洗剤は、処方例において、純水以外の添加剤成分が約15~20重量%と多量に配合されている。
【0010】
上記特許文献3の実施例には、保存剤の成分がカプリン酸グリセリルのみである場合には抗菌性が不十分であることが示唆されているので、開示された保存剤中で抗菌剤として作用しているのは主に、ベンザルコニウムクロリド等の第4級アンモニウム塩であると想定される。しかし、抗菌剤がベンザルコニウムクロリドのみではpHが弱酸性域では抗菌性が低下し、また、抗菌剤が実質的に1成分のときには該抗菌剤に抵抗性のある菌種の存在等により充分な抗菌効果を発揮できなくなるおそれがある。上記特許文献4に開示された清拭シートにおいて、含浸される洗浄剤中に殺菌防腐剤としてブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルが含有されているが、該成分が含まれない清拭シートが望まれている。また、該清拭シートにおいて、防カビ性の向上も更に望まれる。
【0011】
上記特許文献5に開示の繊維シート含浸用の水溶性組成物には、殺菌防腐剤として安息香酸ナトリウムが添加されている。安息香酸ナトリウムは弱酸性域で抗菌性を効果的に発揮するので、水溶性組成物のpHを調整するために、複数のpH調整剤が添加されている。更に、皮膚への刺激を低減するために、非イオン性界面活性剤が添加されているので、添加剤成分の種類が多くなっている。上記特許文献6に開示のウェットシートに含侵する液剤には、第四級アンモニウム塩型界面活性剤に対して、3~10倍重量の乳酸、クエン酸等の配合例が記載されている。従って、液剤中の精製水の濃度が相対的に低くなり、該文献には精製水濃度は97.0~99.7質量%が好ましいと記載されている。また、該液剤には、除菌剤として上記乳酸、第四級アンモニウム塩型界面活性剤等の配合が記載されて、抗菌性について評価されているが、防カビ性の評価については記載されていない。
【0012】
清拭シートに含侵される水系組成物の抗菌性と防カビ性の双方を向上するために、複数の保存性向上剤を配合すると、一般に精製水濃度を高濃度に維持することが困難になる問題点がある。また、清拭シートの皮膚刺激性を低減するために、精製水濃度を高濃度に維持してpHを弱酸性域に調整することが望ましいが、この場合、一般的にはpH調整剤の添加が必要となり、またpHが弱酸性域では抗菌剤の種類により抗菌性が低下する問題点がある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、基材シートに含侵させる水系組成物に特定の保存性向上剤を選択して配合することにより抗菌性と防カビ性を向上すると共に、精製水を高濃度に維持し、かつpHを弱酸性に維持可能して、肌のデリケートな乳幼児や肌の弱い老人にも好適に使用することができる、清拭シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、清拭シート含侵用の水系組成物に保存性を向上するために、抗菌剤として、pHの影響を受ける可能性のあるベンザルコニウムクロリドと、pHの影響を受ける可能性の少ないポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩とを併用すると共に、防カビ剤としてカプリン酸グリセリルを含有させ、また該カプリン酸グリセリルの配合に基づき可溶化剤を含有させ、更に、皮膚に対する刺激性を抑制するために、該水系組成物中の精製水濃度を高濃度に維持すると共に、ベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩をそれぞれ所定量含有させて水系組成物のpHを弱酸性域に保つことを可能とすることにより、
保存安定性に優れ、更に皮膚への刺激を低減できる清拭シートが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は以下の(1)~(8)に記載する発明を要旨とする。
【0014】
(1)織布又は不織布からなる基材シートに保存性向上剤と可溶化剤を含む水系組成物が含浸されてなる清拭シートであって、
前記水系組成物は、精製水中に、保存性向上剤として、抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩、及び防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリル、並びに可溶化剤として、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤が含まれていて、
前記水系組成物における、ベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)が0.030質量%以上0.050質量%以下、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)が0.025質量%以上0.070質量%以下、カプリン酸グリセリルの含有量(c1)が0.003質量%以上0.050質量%以下、であり、
更に、前記水系組成物における、精製水の濃度が99.85質量%以上99.92質量%以下である、ことを特徴とする清拭シート。
【0015】
(2)前記水系組成物における、ベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)とポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)の合計量(b1+b2)が0.060質量%以上0.105質量%以下であり、かつ、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)とベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)との質量比(b2/b1)が0.625以上2.00以下である、前記(1)に記載の清拭シート。
(3)前記水系組成物における、防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリルの含有量(c1)と、抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)とポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)の合計量(b1+b2)との質量比(c1/(b1+b2))が、0.035以上0.833以下である、前記(1)又は(2)に記載の清拭シート。
【0016】
(4)前記水系組成物における、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤の含有量(d1)と、防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリルの含有量(c1)との質量比(d1/c1)が0.60以上2.14以下である、前記(1)から(3)のいずれかに記載の清拭シート。
(5)前記水系組成物における、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤が常温の15~25℃において液状であり、かつOH末端基を有するポリエーテルである、
前記(1)から(4)のいずれかに記載の清拭シート。
【0017】
(6)前記水系組成物における、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤が数平均分子量100以上600以下のポリエチレングリコールである、前記(1)から(5)のいずれかに記載の清拭シート。
(7)前記清拭シートにおける水相部の25℃でのpHが6.1以上6.6以下である、前記(1)から(6)のいずれかに記載の清拭シート。
(8)前記清拭シートが、乳幼児の尻拭き用、又は病人、老人、もしくは乳幼児の身体清拭用の清拭シートである、前記(1)から(7)のいずれかに記載の清拭シート。
【発明の効果】
【0018】
本発明の清拭シートは、織布又は不織布からなる基材シートに水系組成物が含侵されており、該水系組成物には、保存性向上剤として、抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩、及び防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリルがそれぞれ特定量含有されている。それ故、本発明の清拭シートは、抗菌性と防カビ性の双方が向上されることにより、保存安定性が高められている。
また、本発明の清拭シートにおいて、含浸される水系組成物中の保存性向上剤と可溶化剤の含有量を極力少なくして精製水濃度が高められており、更に、ベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩をそれぞれ所定量含有されていて、pHが弱酸性域に保たれることにより、清拭シートによる皮膚への刺激が低減されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の清拭シートについて説明する。
本発明の清拭シートは、織布又は不織布からなる基材シートに保存性向上剤と可溶化剤を含む水系組成物が含浸されてなる清拭シートであって、
前記水系組成物は、精製水中に、保存性向上剤として、抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩、及び防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリル、
並びに可溶化剤として、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤が含まれていて、
前記水系組成物における、ベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)が0.030質量%以上0.050質量%以下、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)が0.025質量%以上0.070質量%以下、カプリン酸グリセリルの含有量(c1)が0.003質量%以上0.050質量%以下、であり、更に、前記水系組成物における、精製水の濃度が99.85質量%以上99.92質量%以下である、ことを特徴とする。
本発明の清拭シートを(1)水系組成物、(2)基材シート、(3)清拭シート、に分けて、以下に具体的に説明する。
【0020】
(1)水系組成物
(1-1)精製水
水系組成物に使用される精製水は、例えば、水道水等の常水を用いて、必要に応じて前処理後、イオン交換、蒸留、濾過等から選択される1種又は2種以上の手段の組み合わせにより精製するのが好ましく、更に紫外線殺菌装置等により殺菌処理することがより好ましい。水の殺菌処理としては、紫外線殺菌、熱殺菌、オゾン水殺菌、塩素系殺菌等が挙げられるが、大型の設備や大熱量を必要とせず、水質に影響を与えない紫外線殺菌が好ましい。上記手段により得られた精製水は、精製後、又は精製と殺菌処理された後の電気伝導度が25℃で1μS/cm以下であることが好ましい。電気伝導度は、水溶液における電気の伝わり易さを示すもので、溶液の電気抵抗の逆数であり、イオン性物質の不純物含有量が増えるほど電気伝導度は増加する。
【0021】
(1-2)保存性向上剤
清拭シートを乳幼児の尻拭き、又は病人、老人、乳幼児の身体清拭用等に使用する場合に皮膚への刺激を少なくするためには、清拭シートに含浸させる水系組成物中の精製水の濃度が高い方が好ましい。一方、精製水濃度が高い水系組成物ほど保存中に細菌やカビが発生し易くなるので、保存上の問題が生ずることになる。従って、水系組成物中の保存性向上剤の濃度を極力低くして皮膚への刺激性を少なくし、かつ長期間の保存を可能にするためには、保存性向上剤の選択とその含有量の決定は極めて重要である。
【0022】
保存性向上剤として、種々の抗菌剤等が知られているが、これまで広く使用されてきた前記パラベンの使用を避ける傾向があることから、本発明においては、保存性向上剤として、いずれも化粧品に用いられている、抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩、及び防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリルが使用される。
本発明において、上記「抗菌剤成分である」とは、主として抗菌性を発揮する成分であることを意味し、上記「防カビ剤成分である」とは、主として防カビ性を発揮する成分であることを意味する。
【0023】
抗菌剤成分として、ベンザルコニウムクロリドは、化粧品に配合可能な防腐剤リスト(ポジティブリスト)に収載されているが、その含有量は減少させることが望ましい。抗菌剤成分がベンザルコニウムクロリドのみからなる成分では、pHが弱酸性域で抗菌性が低下するおそれがあり、また該抗菌剤に抵抗性のある菌種の存在等により抗菌効果を充分に発揮できなくなるおそれがある。従って、抗菌剤成分としては少なくとも2成分の使用が好ましいことから、本発明では、抗菌剤成分として、ベンザルコニウムクロリドと、pH変化により抗菌性の低下が少ないポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩を併用する。該併用により抗菌性を向上できるほか、ベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有割合を調整することにより、水系組成物のpHを皮膚刺激性の少ない弱酸性に調整することも可能になる。
【0024】
保存性向上剤として、抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の2種のみを選択する場合には充分な防カビ性が期待できないことから、更に防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリルを併用することにより、抗菌性に加えて防カビ性も向上させることが可能になる。尚、水系組成物中にカプリン酸グリセリルを含有させる場合には、該成分は水溶液への溶解性が低いことから、可溶化剤として、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤を含有させる必要がある。
【0025】
抗菌剤成分として、ベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩を併用することにより、ベンザルコニウムクロリドの含有量を減少させることも可能になる。このように、水系組成物中に少量のベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩を含有させて抗菌性を向上させ、更に少量のカプリン酸グリセリルを含有させて防カビ性を向上させることにより、保存安定性を向上させると共に水系組成物のpHを弱酸性に調整して、人体の皮膚への刺激性の低い水系組成物が得られることは本発明の特徴である。
【0026】
以下に水系組成物に含有される、保存性向上剤と可溶化剤について説明する。
(1-3)保存性向上剤中の各成分
(i)ベンザルコニウムクロリド
化粧品分野で抗菌剤成分として広く使用されている、ベンザルコニウムクロリドは、化学名がアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリドであり、下記の化学式(1)で示される。
[RCCH(CH]Cl-・・・・・・・・・・・(1)
上記化学式(1)で示されるベンザルコニウムクロリドは、アルキル基(R)の一部又はすべてが炭素数8から18(C17~C1837)のアルキル基からなる、混合物である。
【0027】
ベンザルコニウムクロリドは、その希釈水溶液は弱アルカリ性であり、弱アルカリ性で優れた殺菌性を発揮するが、pHが中性ないし弱酸性の水溶液に調整されると殺菌性が低下することが知られている。例えば、市販のベンザルコニウムクロリドについて、石炭酸係数(石炭酸を基準にして殺菌力が石炭酸の何倍であるかを示す数値)を用いてpHと殺菌性の関係を示すと、常温付近においてpH7での殺菌力はpH9、11での殺菌力のそれぞれ約0.86、0.54倍に低下し、pH5での殺菌力はpH9、11での殺菌力のそれぞれ約0.78、0.49倍に低下することが知られている。
【0028】
(ii)ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩
ポリアミノプロピルビグアニドは下記の化学式(2)で示される、分子中に多数の陽電荷をもつカチオン性高分子である。
[-NH-C(=NH)-NH-C(=NH) -NH-(CH-]・・・・・(2)
ポリアミノプロピルビグアニドは、塩酸塩等の無機酸塩、及びフマル酸塩等の有機酸塩等が存在することが知られている。抗菌剤に使用する場合、ポリアミノプロピルビグアニド、及びポリアミノプロピルビグアニド無機酸塩等として使用することが可能であるが、本発明においては、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩が好ましい。
【0029】
ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩は、水への溶解度が高く、広い温度範囲、pH範囲でも抗菌活性は安定している。また、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌等対して抗菌性があることから、細菌に対しては広い抗菌スペクトルを有しているが、カンジタ、黒コウジカビ等の真菌に対しては防カビ効果が比較的低いことが知られている。
上記化学式(2)において、ポリアミノプロピルビグアニドの重合度nは5~50が好ましく、10~20がより好ましい。また、ポリアミノプロピルビグアニドの重量平均分子量は、800~8000が好ましく、2000~3000がより好ましい。尚、重量平均分子量(Mw)は、公知の測定法により求めることができる。
【0030】
(iii)カプリン酸グリセリル
カプリン酸グリセリルは、炭素数10の飽和脂肪酸であるカプリン酸とグリセリンのモノエステルであり、下記の化学式(3)と式(4)で示される、2種の異性体が存在する。
CHOH-CHOH-CH-O-CO-(CHCH・・・・(3)
CHOH-CH-O-(CO-(CHCH)-CHOH ・・(4)
炭素数8、10、12の脂肪酸とグリセリンのモノエステルがそれぞれ知られている。これらの中で、他の抗菌剤成分との併用による抗菌性と防カビ性の相乗効果、可溶化剤を使用した水溶液への溶解性、低濃度における防カビ性の効果、入手の容易性等を考慮すると、防カビ剤成分として、炭素数10のカプリン酸とグリセリンのモノエステルであるカプリン酸グリセリルが好ましい。
【0031】
カプリン酸グリセリルは一般に天然由来の大豆油などの植物油性脂肪酸をグリセリンでエステル化して、合成される非イオン界面活性剤である。カプリン酸グリセリルは、常温で固体であり、また親油性であるので水溶液への溶解度は、25℃において126mg/リットルである。カプリン酸グリセリルは、化粧品の分野で、主に油性製品や乳化系製品に使用されてきたが可溶化剤と併用することで水系製品にも配合することが可能になる。
【0032】
(1-4)保存性向上剤の各成分の含有量
本発明の清拭シートの保存安定性を向上して、皮膚刺激性を減少するためには、清拭シートに含侵される水系組成物中の保存性向上剤の各成分の配合範囲を下記の通りにする必要がある。
【0033】
抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)は、0.030質量%以上0.050質量%以下であり、0.035質量%以上0.050質量%以下が好ましい。抗菌剤成分であるポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)は、0.025質量%以上0.070質量%以下であり、0.035質量%以上0.070質量%以下が好ましい。防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリルの含有量(c1)は、0.003質量%以上0.050質量%以下であり、0.0035質量%以上0.050質量%以下が好ましい。
前記水系組成物中において、ベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩、カプリン酸グリセリルは前記含有量において、抗菌性、防カビ性をそれぞれ有効に発揮することが可能である。
【0034】
(1-5)保存性向上剤の各成分の含有割合
本発明の清拭シートの保存安定性と皮膚刺激性の低減化を更に考慮すると、該清拭シートに含侵される水系組成物中での保存性向上剤の各成分の含有割合を以下の通りにすることが好ましい。
抗菌性を考慮すると、ベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)とポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)の合計量(b1+b2)は0.06質量%以上0.105質量%以下が好ましく、皮膚刺激性を減少するために水系組成物のpHを考慮すると、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)とベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)との質量比(b2/b1)は0.625以上2.00以下が好ましい。
【0035】
また、水系組成物の抗菌性と防カビ性の双方の向上を考慮すると、防カビ剤成分であるカプリン酸グリセリルの含有量(c1)と、抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)とポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)の合計量(b1+b2)との質量比(c1/(b1+b2))は、0.035以上0.833以下が好ましい。
【0036】
(1-6)可溶化剤
カプリン酸グリセリルは水溶液への溶解度が上記の通り極めて低いので、水系組成物中にカプリン酸グリセリルを均一に溶解させるために、カプリン酸グリセリルを可溶化させる溶剤を含有させる必要がある。溶剤としては、カプリン酸グリセリルを水系組成物中に均一に溶解することができれば特に制限はされないが、カプリン酸グリセリルとの溶解性、水溶性、含有量、安全性等を考慮すると、常温の15~25℃において液状であり、かつOH末端基を有するポリエーテルが好ましい。このようなポリエーテルとしては、エチレンオキサイドを付加反応させて得られるポリエチレングリコールの他、エチレンオキサイドと、プロピレンオキサイド、または1,3-ブチレンオキサイド等とを付加反応させたポリエーテルが挙げることができる。これらのポリエーテルは、共にエーテル結合と末端にOH結合があるため、優れた溶媒で熱に安定でしかも多くの化学薬品に比較的不活性である。
【0037】
前記ポリエーテルの中でも、常温での液状と、刺激性の減少、カプリン酸グリセリルの可溶化性を考慮すると、数平均分子量が100以上600以下のポリエチレングリコールがより好ましく、数平均分子量が200以上300以下のポリエチレングリコールが更に好ましい。数平均分子量が100以上600以下のポリエチレングリコールは、蒸気圧が低く、水溶液に低濃度で溶解しているとべと付きを抑制することもできる。尚、皮膚への刺激を低減するためには、メタノール、エタノールのような低級アルコールは含有されていないことが好ましい。
水系組成物への可溶化性の維持とべた付きの防止、及び精製水濃度を高濃度に維持するために水系組成物における前記溶剤の含有量(d1)とカプリン酸グリセリルの含有量(c1)との質量比(d1/c1)は、0.60以上2.14以下が好ましい。
【0038】
(1-7)水系組成物における精製水濃度とpH値
前記水系組成物における、精製水の濃度は、99.85質量%以上99.92質量%以下である。該水系組成物は、精製水中に保存性向上剤と可溶化剤が含有されているが、上記の通りいずれの含有量を少量とすることにより、精製水を高濃度に維持できて、皮膚刺激性の低減化を図ることが可能になる。
【0039】
また、乳幼児、老人や肌の弱い病人等への皮膚刺激性の低減化、後述するように皮膚表面のpHは弱酸性であること等を考慮すると、25℃における水系組成物のpHは、3.47~3.83が好ましい。尚、水系組成物のpH値は、(株)堀場製作所製、HORIBA pH METER F-21を用いて得られる測定値である。このようなpH範囲にある水系組成物は、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維とレーヨン繊維からなる複合繊維等から得られる不織布シートに含侵させると、得られる清拭シートにおける水相部のpHを弱酸性である6.1~6.6程度に維持することが可能になり、身体を清拭シートで拭きとる際の皮膚刺激を低減することができる。
【0040】
(1-8)その他の添加剤
水系組成物中に、保存性向上剤の効果を損なわない範囲において、他の添加剤を少量含有させることも可能である。このような添加剤として、保湿作用を有するヒアルロン酸、コラーゲン等が挙げられる。
【0041】
(2)基材シート
本発明の清拭シートに用いられる基材シートは、織布又は不織布のいずれも使用することができるが、不織布の使用が好ましい。不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたシートで、具体的には繊維を熱、物理的または化学的な作用によって接着または絡み合わせてシート状にしたものである。織布又は不織布の材料としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、パルプ繊維(紙も含まれる)、及びこれらの2種以上からなる複合繊維が挙げられるが、基材シートに好ましい機能を付与するためには、複合繊維の使用が好ましい。
【0042】
複合繊維を使用する場合、吸湿性が高く、かつ肌触りが良好なレーヨン繊維が含まれていることが好ましい。好ましい複合繊維として、ポリエチレンテレフタレート繊維とレーヨン繊維からなる複合繊維が挙げられるが、この場合に複合繊維中にレーヨン繊維が40~60質量%含まれていることがより好ましい。また、他の好ましい複合繊維として、パルプ繊維とレーヨン繊維からなる複合繊維が挙げられるが、この場合には複合繊維中にレーヨン繊維が10~30質量%含まれていることがより好ましい。
基材シートの坪量は、20~80g/mが好ましく、30~60g/mがより好ましい。尚、基材シートは水系組成物を含浸させる前又は含浸させた後に紫外線照射等で殺菌処理されることが望ましい。
【0043】
(3)清拭シート
本発明が適用される清拭シートは、前記織布又は不織布からなる基材シートに水系組成物が含浸されたシートであり、乳幼児の尻拭き用、病人、老人、乳幼児等の身体清拭用に限定されず、更に、化粧落とし用シート、手拭き用シート、台所用拭き取りシート、OA製品用クリーナー等に広く使用することができる。
【0044】
(3-1)基材シートへの水系組成物の含浸
前記基材シートに水系組成物を含浸させる方法としては、乾燥状態の基材シートに水系組成物をスプレーする方法、水系組成物を含むロールによる塗布方法、水系組成物への浸漬する方法等を例示することができるがこれらの方法に限定はされない。
【0045】
本発明の清拭シートにおいて、基材シートへの水系組成物の含侵量は、清拭機能を発揮させる観点から、基材シートの乾燥質量換算100質量部に対し、100~300質量部が好ましく、150~270質量部がより好ましい。含侵量が前記100質量部未満では基材シート全体に水系組成物を含侵させることができず、拭き取に支障を生ずるおそれがあり、含侵量が前記300質量部を超えると水系組成物を基材シートに含侵しきれず、拭いた後の皮膚が濡れて不快感を生じ易くなるおそれがある。
【0046】
(3-2)清拭シートの水相部のpH
本発明の清拭シートにおける水相部のpH、すなわち水系組成物を基材シートに含浸させた後のほぼ平衡状態における、水相部のpHは、25℃において6.1以上6.6以下であることが好ましい。前記水相部のpHは、(株)堀場製作所製、LAQUA twin pHメータを用いて測定されたpH値である。
皮膚表面では、例えば善玉菌(Good bacteria)で皮膚常在菌(Skin-resident bacteria)である表皮ブドウ球菌が脂肪酸を分泌して皮膚表面を弱酸性に保ち雑菌やウイルスの侵入を防いでいる。一方、皮膚表面がアルカリ性になると悪玉菌(Bad bacteria)である黄色ブドウ球菌が活発になって、皮膚トラブルが生じ易くなるおそれがある。
【0047】
皮膚表面のpHは、個人差はあるが4.5~6.5程度の弱酸性に保たれていて、善玉菌である皮膚常在菌が棲みやすい環境となっている。また乳幼児の皮膚表面のpHは生後5~6週間後に6.0~7.0程度になること等から、清拭シートにおける水相部のpHを上記範囲に維持することが好ましい。pH調整剤を添加せずに、清拭シートにおける水相部のpHを抗菌剤成分であるベンザルコニウムクロリドとポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の配合割合により弱酸性に調整できることは本発明の特徴の一つである。
【実施例0048】
本発明の清拭シートを以下の実施例と比較例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本実施例と比較例において、清拭シート含侵用の水系組成物と、水系組成物が含侵された清拭シートに分けて説明する。
【0049】
先ず、本実施例、比較例で使用した原材料、試料を以下に記載する。
(1)精製水
常水をイオン交換樹脂により精製して、電気伝導度が1μS/cm以下の精製水を調製した。
(2)保存性向上剤、可溶化剤
水系組成物に添加する成分として、以下に記載する保存性向上剤、可溶化剤を使用した。尚、pHの測定は、(株)堀場製作所製、HORIBA pH METER F-21を用いて行った。
(i)ベンザルコニウムクロリドは、市販品で、その1質量%水溶液のpHは7.91、10質量%水溶液のpHは8.93であった。
(ii)ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩は、市販品で、その1質量%水溶液のpHは3.26、10質量%水溶液のpHは3.45であり、重量平均分子量は2000~3000であった。
(iii)カプリン酸グリセリルは、市販品で、その性状はロウ状の塊であった。尚、該成分は、水に難溶のためpH測定は行わなかった。
(iv)ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルは、市販品を用いた。
(v)ポリエチレングリコールは、市販品で、その数平均分子量は、200であった。
(vi)ポリプロピレングリコールは、市販品を用いた。
【0050】
(3)基材シート
基材シートに使用した不織布は、坪量が32g/mのレーヨンとポリエチレンテレフタレートからなる複合繊維のスパンレースで、該複合繊維中のレーヨン繊維の含有割合は40~60質量%であった。
【0051】
[実施例1~9、比較例1~8]
1.水系組成物についての評価試験
清拭シート含侵用の水系組成物についての評価試験を行った。
1―1.水系組成物の調製
実施例1~9、比較例1~8において、清拭シート含侵用の水系組成物を調製した。
具体的には、各実施例と比較例に応じて保存性向上剤と、可溶化剤のそれぞれの所定量を上記精製水に溶解して、表1~3に示す水系組成物を調製した。尚、カプリン酸グリセリルは予め可溶化剤であるポリエチレングリコールに溶解して、水系組成物に添加した。比較例5で評価する水系組成物は可溶化剤が含まれていないので、ロウ状の固形物をすり潰して水系組成物に直接添加した。また、比較例8は、水系組成物がブランクの例であるので、水系組成物の代わりに上記精製水をそのまま使用した。
上記で調製した水系組成物について、下記の評価を行った。
【0052】
1―2.水系組成物についての評価
実施例1~9、比較例1~8において、基材シートに含浸させる前の水系組成物について、以下に示す(1)pH測定、(2)白濁又は沈殿物の発生の有無の観察、(3)保存効力試験をそれぞれ行った。
(1)pH測定
実施例1~9、比較例1~4、8において、調製した水系組成物の常温(25℃)におけるpHを測定した。pH測定装置は、(株)堀場製作所製、HORIBA pH METER F-21を使用した。
pHの測定結果を表1-3に示した。実施例1~9の水系組成物において、常温(25℃)におけるpHは、3.47~3.83の範囲であった。表1~3から、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩の含有量(b2)とベンザルコニウムクロリドの含有量(b1)との質量比(b2/b1)が増加する程、水系組成物のpH値が低くなることが確認された。
【0053】
(2)白濁又は沈殿物の発生の有無の観察
実施例1~9、比較例1~7において、保存性向上剤と可溶化剤を表1~3に示す濃度になるように調製した水系組成物を充分に撹拌した後に静置して、白濁又は沈殿物の発生の有無を目視で観察した。白濁又は沈殿物の発生の有無の観察結果を表1~3に示した。可溶化剤が配合されていない、比較例5においては、水系組成物に白濁ないし沈殿の発生が観察された。
【0054】
(3)保存効力試験
実施例1~9において、第17改正日本薬局方の「保存効力試験法」に記載された試験法に準拠して、水系組成物の保存効力試験を行った。
【0055】
(i)試験方法
保存効力試験は、一定数の細菌、真菌を水系組成物にそれぞれ混入させ、その数を経時的に測定して防腐効果を確認する試験である。
被検菌株として規定されている、下記の3種の細菌及び、2種の真菌をそれぞれ用いて接種し、7日後、14日後、28日後の生菌数を測定した。
抗菌性試験の被検菌株(細菌)
(a)大腸菌(NBRC 3972)
(b)黄色ブドウ球菌(NBRC 12732)
(c)緑膿菌(12689)
抗カビ性試験の被検菌株(真菌)
(d)カンジタ(NBRC 1385)
(e)クロコウジカビ(NBRC 105649)
【0056】
(ii)評価方法、評価結果
評価は、接種菌数の減少率により行った。減少率の算出方法を以下に示す。
減少率(%)=[((初発菌数)-(7、14、28日後の生菌数))/初発菌数]×100
実施例1~9で調製した水系組成物についての評価結果を表1、2に示した。
尚、表1、2において、保存効力試験におけるブランクの欄は、水系組成物の代わりに精製水に上記細菌、真菌を所定数接種した後、7日間経過後の生菌数を示す。
実施例1~5においては、細菌、真菌をそれぞれ接種した後、7日後、14日後、28日の生菌数を測定し、実施例6~9では7日後の細菌数を測定した。
いずれの上記被検菌株を用いた保存効力試験においても、7日後、及び7日経過以降の生菌減少率は、100%であったので、実施例1~9で調製した水系組成物は優れた抗菌性・防カビ性を有していることが確認された。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
2.清拭シートについての評価試験、及び結果
実施例1~9、比較例1~4、6、7で調製した水系組成物を基材シートに含侵させて清拭シート試験片を作製し、得られた清拭シート試験片について、以下の保存安定性試験と皮膚刺激性に関する評価を行った。
(i)保存安定性試験
保存安定性試験として、抗菌性試験(JIS L 1902に準拠)、抗カビ性試験(JIS L 1921に準拠)、及びカビ抵抗性試験(JIS Z 2911に準拠)を行った。
清拭シート試験片の抗カビ性の評価について、実施例1~4では、比較例に対する優位性を明確化するために定量的な抗カビ性の評価である、「抗カビ性試験(JIS L 1921に準拠)」を行った。また、実施例5~9では、比較例に対する優位性が想定されていたので、定性的な抗カビ性の評価である、「カビ抵抗性試験(JIS Z 2911に準拠)」を行った。
(ii)皮膚刺激性に関する評価
皮膚刺激性試験に関する評価として、清拭シート試験片の水相部のpH測定、及び皮膚一次刺激性試験を行った。
【0061】
2-1.清拭シート試験片の作製
所定のサイズに切断した上記不織布シートに、上記で調製した水系組成物を、ハンドスプレーで含浸量が80g/mになるように均一に噴霧して、実施例1~9、及び比較例1~4、6~8でそれぞれ評価する清拭シート試験片を作製した。尚、不織布シートに水系組成物を含浸させた後に紫外線により殺菌処理を行った。
【0062】
2-2.清拭シート試験片についての評価試験
(1)清拭シート試験片の水相部のpH測定
実施例1~9、比較例1~4、8において調製した水系組成物をそれぞれ基材シートに含浸させて清拭シート試験片を作製した後、約60分放置した。その後、該清拭シート試験片をパディング加工機(マングル)で絞った抽出液を、室温(25℃)に維持し、pH測定装置((株)堀場製作所製、LAQUA twin pHメータ)を用いてpH測定を行った。測定結果を表4~6に示した。
実施例1~9で調製した水系組成物が含侵された清拭シート試験片の水相部のpHはいずれも6.1~6.6の範囲内であった。
【0063】
(2)抗菌性試験
実施例1~9、比較例1~4、6~8での評価用に調製した水系組成物をそれぞれ基材シートに含浸させて得た清拭シート試験片について、JIS L 1902(2015)に準拠して抗菌性試験を行った。JIS L 1902は、抗菌性繊維の抗菌性を評価する定性試験で、不織布を含む全ての抗菌性繊維製品の抗菌活性の評価方法について規定している。
(i)試験の方法
供試細菌には、下記の2種を用いた。
大腸菌(NBRC 3301)
黄色ブドウ球菌(NBRC 12732)
寒天培地に大腸菌、黄色ブドウ球菌をそれぞれ加えた培地をシャーレに入れて固め、清拭シート試験片をシャーレの中央に置いた。このシャーレを37℃で48時間放置し、培地上に菌が繁殖した状況で、試験片の周囲に菌が繁殖しない阻止帯(ハロー)形成幅の4方の幅(mm)を測定して、その平均値を求めた。尚、表6において、比較例6、7についてのみ、評価結果としてハローの有無を記載した。
【0064】
(ii)評価結果
試験菌である、大腸菌と黄色ブドウ球菌について測定したハロー幅を表4~6に示した。JIS L 1902に基づくハローの有無の判定基準は、下記の通りである。
ハローの幅の平均値>0 のとき:ハローあり
ハローの幅の平均値=0 のとき:ハローなし
実施例1から9において、抗菌性試験の評価は、いずれも「ハローあり」の判定であった。
【0065】
(3)抗カビ性試験
実施例1~4、比較例4での評価用に調製した水系組成物をそれぞれ基材シートに含浸させて得た清拭シート試験片について、JIS L 1921(2015)に準拠して抗カビ性試験を行った。抗カビ性試験は、比較的短時間でカビを一定量死滅させる抗かび力を調べる、定量的な試験方法である。
【0066】
(i)試験の概要
予め培養した試験カビから胞子を採取して、試験用胞子懸濁液を調製する。次に、該験胞子懸濁液を清拭シート試験片と、比較対照試料(綿標準布)とにそれぞれ接種し、25℃で18、24時間培養した後のATP量を測定することにより、試料上に生存しているカビの量を求める。清拭シート試験片と対照試料のかびの量を比較することで、かびの増殖をどれだけ抑えることができたかを示す、「抗かび活性値」を算出する。尚、ATP量の測定とは、生物の細胞内に存在するATP(アデノシン三リン酸)を酵素等により発光させて、その発光量を測定することをいう。この発光量は細胞内のATP量が多いほど発光量は増加する。
【0067】
「抗カビ活性値」は下式から求められる。
抗カビ活性値(Aa):(Fb-Fa)-(Fc-Fo)
Fb:未処理綿繊維42時間培養後のATP量の算術平均の常用対数値
Fa:未処理綿繊維接種直後のATP量の算術平均の常用対数値
Fc:清拭シート試験片42時間培養後のATP量の算術平均の常用対数値
Fo:清拭シート試験片接種直後のATP量の算術平均の常用対数値
【0068】
(ii) 試験カビ種
試験カビ種として、下記のカビを選択した。
クロコウジカビ(NBRC 105649)
(iii)評価基準、評価結果
抗カビ活性値(Aa)は、値が大きい程、抗かび性能が高いことを示しており、評価基準からは2.0以上が抗カビ性有りされる。
実施例1~4、比較例4で算出された抗かび活性値(Aa)を表4に示す。表4から、実施例1~4の清拭シート試験片は、いずれも抗カビ活性値(Aa)が2.0以上であり、比較例4の清拭シート試験片と対比して、抗かび性に優れていることが確認された。
【0069】
(4)カビ抵抗性試験
前記水系組成物をそれぞれ基材シートに含浸させて得た清拭シート試験片について、カビ抵抗性試験(JIS Z 2911(2018))に基づく評価を行った。カビ抵抗性試験は、試験片のカビに対する抵抗性を評価する定性的な試験であり、比較的長い培養期間での試験片のカビ抵抗性の評価を行うことが可能である。
【0070】
(i)試験の概要
実施例5~9、比較例1~3、8での評価用に調製した水系組成物をそれぞれ基材シートに含浸させて得た清拭シート試験片について、カビ抵抗性試験を行った。
尚、上記実施例1~4、比較例4においては上記抗カビ性試験で抗カビ性は評価済であるので、カビ抵抗性試験は省略した。
試験片をシャーレ内の無機塩培地上に置き、下記カビの胞子懸濁液を試験片の表面に均等に吹き付けて、28±4℃で4週間培養した後、前記試験片上での菌糸の発育状態を肉眼および顕微鏡で観察した。
【0071】
(ii)供試カビ
下記の(a)1種カビと、(b)3種混合カビを用いた。
(a)アスペルギルス ニゲル (Aspergillus niger) NBRC 105649
(b)3種混合
ペニシリウム シトリナム(Penicillium citrinum) (NBRC 6352)
ケトミウム グロボスム(Chaetomium globosum) (NBRC 6347)
ミロテシウム ベルカリア(Myrothecium verrucaria) (NBRC 6113)
【0072】
(iii)判定基準、評価結果
JIS Z 2911(2018)に基づく、かびの発育状態の判定基準は下記の3段階で示されており、「0又は1」の評価をかび抵抗性有とした。
0:試験片の接種した部分に菌糸の発育が認められない。
1:試験片の接種した部分に認められた菌糸の面積が全面積の1/3を超えない。
2:試験片の接種した部分に認められた菌糸の面積が全面積の1/3を超える。
上記判定基準に基づく、評価結果を表5、6に示した。表5、6から、実施例5~9で作製した清拭シート試験片においては、かび発育状態の判定はいずれも1であり、比較例1~3、8で作製した清拭シート試験片と対比してかび抵抗性に優れていることが確認された。
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
(5)皮膚一次刺激性試験
日本化粧品工業連合会による「化粧品の安全性評価に関する指針」に準拠した皮膚一次刺激性試験を行った。
実施例6での評価用に調製した水系組成物を含侵させて作製した清拭シート試験片、及び実施例6で調製した水系組成物において、ベンザルコニウムクロリドを0.0500質量%、ポリアミノプロピルビグアニド塩酸塩を0.0500質量%、カプリン酸グリセリルを0.0300質量%、ポリエチレングリコールを0.0100質量%とした以外は、実施例6で調製したと同様の水系組成物(実施例11)を含侵させて作製した清拭シート試験片について、皮膚一次刺激性試験を行った。
【0077】
(i)試験方法
健康な男性と女性の被験者20名に、皮膚テスト用テープ(評価用清拭シート試験片)を被験者の背部正常皮膚部に貼付した。貼付24時間後に、皮膚テスト用テープを取り除いて皮膚の症状を目視で確認し、下記評価基準で評価した。
反応なし:0.0点
わずかな紅斑:0.5点
明らかな紅斑:1.0点
紅斑および浮腫または丘疹:2.0点
紅斑および浮腫・丘疹および小水疱:3.0点
大水疱:4.0点
【0078】
(ii)皮膚刺激指数と判定
各被験者の評価点を求め、下記式により皮膚刺激指数を求めた。
皮膚刺激指数=(評点総和/被験者数)×100
次に、求メータ皮膚刺激指数から、香粧品の皮膚刺激指数の分類(安全品:5.0以下、許容品:5.0~15.0、要改良品:15.0~30.0、危険品:30.0以上)により安全性を判定した。
評価の結果、実施例6、11で作製した清拭シート試験片の皮膚刺激指数は、いずれも2.5以下を示し、「安全品」に分類された。