(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129390
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】外部共振型レーザモジュール
(51)【国際特許分類】
H01S 5/0239 20210101AFI20220829BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
H01S5/0239
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025994
(22)【出願日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2021027527
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術開発機構IoT社会実現のための革新的センシング技術開発 革新的センシング技術開発 波長掃引中赤外レーザによる次世代火山ガス防災技術の研究開発 産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】杉山 厚志
(72)【発明者】
【氏名】枝村 忠孝
(72)【発明者】
【氏名】秋草 直大
【テーマコード(参考)】
2H249
5F173
【Fターム(参考)】
2H249AA02
2H249AA12
2H249AA62
2H249AA63
5F173MB04
5F173MC01
5F173MC15
5F173ME15
5F173ME22
5F173MF02
5F173MF13
5F173MF28
5F173MF40
(57)【要約】
【課題】小型化、消費電力の抑制、及びスペクトル線幅の狭線化を図ることができる外部共振型レーザモジュールを提供する。
【解決手段】外部共振型レーザモジュールは、量子カスケードレーザと、軸線A周りに揺動可能な可動部63、及び可動部63上に形成された回折格子部64を有するMEMS回折格子51と、レンズと、を備える。回折格子部64は、第1方向D1に並ぶ複数の格子溝64aを含み、格子溝64aの各々は、第1方向D1に垂直な第2方向D2に延在している。MEMS回折格子51は、回折格子部64の法線が量子カスケードレーザの端面に対して傾斜すると共に、当該端面に垂直な方向から見た場合に、第1方向D1が量子カスケードレーザの積層構造の積層方向に沿うように、配置されている。第1方向D1における回折格子部64の長さL1は、第2方向D2における回折格子部64の長さL2よりも長い。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造を有し、端面から光を出射する量子カスケードレーザと、
所定の軸線周りに揺動可能な可動部と、前記可動部上に形成された回折格子部と、を有し、前記量子カスケードレーザから出射された前記光を前記回折格子部によって回折及び反射させて前記光の一部を前記量子カスケードレーザに帰還させるMEMS回折格子と、
前記量子カスケードレーザと前記MEMS回折格子との間に配置されたレンズと、を備え、
前記回折格子部は、第1方向に並ぶ複数の格子溝を含み、前記複数の格子溝の各々は、前記第1方向に垂直な第2方向に延在しており、
前記MEMS回折格子は、前記回折格子部の法線が前記端面に対して傾斜すると共に、前記端面に垂直な方向から見た場合に、前記第1方向が前記積層構造の積層方向に沿うように、配置されており、
前記第1方向における前記回折格子部の長さは、前記第2方向における前記回折格子部の長さよりも長い、外部共振型レーザモジュール。
【請求項2】
前記可動部は、前記法線に平行な方向から見た場合に、4つの隅部を有する形状に形成されており、
前記4つの隅部は、丸く形成されている、請求項1に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項3】
前記量子カスケードレーザから出射されて前記レンズを介して前記MEMS回折格子に入射する前記光は、前記回折格子部の位置において、前記第1方向における長さが前記第2方向における長さよりも長いビーム形状を有する、請求項1又は2に記載の外部共振型レーザモジュール。
【請求項4】
前記MEMS回折格子は、前記可動部の前記軸線周りの揺動角度にかかわらずに、前記量子カスケードレーザから出射されて前記レンズを透過した光の全てが前記回折格子部に入射するように、配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の外部共振型レーザモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)回折格子を備える外部共振型レーザモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
外部共振型レーザモジュールとして、量子カスケードレーザと、揺動可能な回折格子と、量子カスケードレーザと回折格子との間に配置されたレンズと、を備えるものが知られている(例えば特許文献1参照)。このような外部共振型レーザモジュールでは、量子カスケードレーザからの光が回折格子によって回折及び反射され、当該光のうち特定波長の光が量子カスケードレーザに帰還する。これにより、量子カスケードレーザの端面と回折格子とによって外部共振器が構成され、特定波長の光が増幅されて外部に出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような外部共振型レーザモジュールには、消費電力の抑制が求められる。特に、量子カスケードレーザを用いる場合、量子カスケードレーザから出射される光のビーム径が大きいため、回折格子の面積を大きくする必要がある。そのため、大きな駆動力が必要となり、消費電力が大きくなり易い。また、外部共振型レーザモジュールには、出力光の純度を高めるためにスペクトル線幅を狭くすることが求められると共に、小型化が併せて求められる。
【0005】
そこで、本発明は、小型化、消費電力の抑制、及びスペクトル線幅の狭線化を図ることができる外部共振型レーザモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の外部共振型レーザモジュールは、積層構造を有し、端面から光を出射する量子カスケードレーザと、所定の軸線周りに揺動可能な可動部と、可動部上に形成された回折格子部と、を有し、量子カスケードレーザから出射された光を回折格子部によって回折及び反射させて光の一部を量子カスケードレーザに帰還させるMEMS回折格子と、量子カスケードレーザとMEMS回折格子との間に配置されたレンズと、を備え、回折格子部は、第1方向に並ぶ複数の格子溝を含み、複数の格子溝の各々は、第1方向に垂直な第2方向に延在しており、MEMS回折格子は、回折格子部の法線が端面に対して傾斜すると共に、端面に垂直な方向から見た場合に、第1方向が積層構造の積層方向に沿うように、配置されており、第1方向における回折格子部の長さは、第2方向における回折格子部の長さよりも長い。
【0007】
この外部共振型レーザモジュールでは、MEMS回折格子が、回折格子部の法線が量子カスケードレーザの端面に対して傾斜するように配置されており、格子溝の並び方向である第1方向における回折格子部の長さが、第1方向に垂直な第2方向における回折格子部の長さよりも長い。第1方向における回折格子部の長さが長いことで、回折格子部が傾斜して配置された場合でも、量子カスケードレーザからの光を回折格子部によって良好に受けることができる。また、第2方向における回折格子部の長さが低減されていることで、モジュールの小型化を図ることができると共に、回折格子部の大型化を抑制して消費電力の増大を抑制することができる。更に、この外部共振型レーザモジュールでは、MEMS回折格子が、量子カスケードレーザの端面に垂直な方向から見た場合に、第1方向が積層構造の積層方向に沿うように配置されている。第1方向が積層方向に沿うようにMEMS回折格子を配置することで、回折格子部における格子溝の延在方向(第2方向)を量子カスケードレーザから出射される光の偏光方向と直交させることができ、且つ、格子溝の並び方向である第1方向をMEMS回折格子の長手方向とすることで、傾斜した回折格子部において照射ビーム径内に位置する格子溝の本数を多くすることができる。その結果、MEMS回折格子の波長分解能を高く確保することができ、出力光のスペクトル線幅を狭くすることができる。よって、この外部共振型レーザモジュールによれば、小型化、消費電力の抑制、及びスペクトル線幅の狭線化を図ることができる。
【0008】
可動部は、法線に平行な方向から見た場合に、4つの隅部を有する形状に形成されており、4つの隅部は、丸く形成されていてもよい。この場合、可動部の慣性モーメントを低減することができ、可動部の揺動を高速化することができる。
【0009】
量子カスケードレーザから出射されてレンズを介してMEMS回折格子に入射する光は、回折格子部の位置において、第1方向における長さが第2方向における長さよりも長いビーム形状を有していてもよい。第1方向における回折格子部の長さが第2方向における回折格子部の長さよりも長いことで、このような場合でも、量子カスケードレーザからの光を回折格子部によって良好に受けることができる。
【0010】
MEMS回折格子は、可動部の軸線周りの揺動角度にかかわらずに、量子カスケードレーザから出射されてレンズを透過した光の全てが回折格子部に入射するように、配置されていてもよい。この場合、量子カスケードレーザからの光の一部が回折格子部に入射せずに迷光となる事態を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型化、消費電力の抑制、及びスペクトル線幅の狭線化を図ることができる外部共振型レーザモジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係るレーザモジュールの斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿っての断面図である。
【
図4】MEMS回折格子を法線方向から見た図である。
【
図5】MEMS回折格子を法線方向から見た図である。
【
図6】
図5のVI-VI線に沿っての回折格子部の断面図である。
【
図8】(a)は磁石の平面図であり、(b)は磁石の側面図である。
【
図9】(a)及び(b)は、第1変形例及び第2変形例のMEMS回折格子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。便宜上、各図に示されるようにX方向、Y方向及びZ方向を設定する。
【0014】
図1及び
図2に示されるように、外部共振型レーザモジュール1(以下、「レーザモジュール1」という)は、筐体2と、マウント部材3と、量子カスケードレーザ4(以下、「QCL4」という)と、回折格子ユニット5と、レンズ6,7と、を備えている。筐体2は、マウント部材3、QCL4、回折格子ユニット5及びレンズ6,7を内部に収容している。筐体2は、例えばバタフライパッケージを構成している。一例として、筐体2の各辺の長さは30mm以下である。筐体2は、開口21aを有する本体部21と、開口21aを塞ぐ蓋部22と、を有し、箱状に形成されている。筐体2は、レーザモジュール1の出力光Lを外部へ出力するための出射窓2aを有している。
【0015】
マウント部材3は、筐体2の底面に固定されている。マウント部材3には、QCL4、回折格子ユニット5及びレンズ6,7が固定されている。より具体的には、マウント部材3は、本体部31と、本体部31からZ方向に突出した突出部32と、を有している。QCL4は、突出部32の頂面に固定されている。本体部31には、配置孔33が形成されている。回折格子ユニット5は、後述するヨーク53の一部が配置孔33内に配置された状態で、本体部31に固定されている。レンズ6,7は、それぞれレンズホルダ11,12により保持されている。レンズ6は、レンズホルダ11を介して本体部31に固定され、QCL4と回折格子ユニット5のMEMS回折格子51との間に配置されている。レンズ7は、レンズホルダ12を介して本体部31に固定され、QCL4と出射窓2aとの間に配置されている。出射窓2a、レンズ7、QCL4、レンズ6及びMEMS回折格子51は、Y方向においてこの順に並んでいる。
【0016】
QCL4は、第1端面4aと、第1端面4aとは反対側の第2端面4bと、を有し、中赤外領域(例えば4μm~12μm)の光を第1端面4a及び第2端面4bの各々から出射する。第1端面4a及び第2端面4bは、例えばY方向に垂直な平坦面である。第1端面4aには無反射コーティングが施されている。
【0017】
QCL4は、半導体基板41と、半導体基板41上に形成された積層構造42と、を有している。積層構造42は、活性層と、活性層を挟む一対のクラッド層と、を含んでいる。活性層は、例えば、InGaAsからなる複数の量子井戸層と、InAlAsからなる複数の量子障壁層と、を含んでいる。クラッド層は、例えばInPからなる。活性層及びクラッド層は、結晶成長により半導体基板41上に形成されている。結晶成長の際、活性層及びクラッド層はZ方向(積層方向、成長方向)に沿って半導体基板41上に形成される。成長方向は活性層の厚さ方向である。QCL4から出射される光は、積層方向に平行な直線偏光の光である。なお、積層構造42は互いに異なる中心波長を有する複数の活性層と一対のクラッド層とを含んでいてもよい。
【0018】
レンズ6,7は、例えば、セレン化亜鉛(ZnSe)からなる非球面レンズである。レンズ6,7の表面には無反射コーティングが施されている。レンズ6は、QCL4に対して第1端面4aの側に配置されており、第1端面4aから出射される光をコリメートする。レンズ7は、QCL4に対して第2端面4bの側に配置されており、第2端面4bから出射される光をコリメートする。レンズ7によりコリメートされた光は、筐体2の出射窓2aを通り、出力光Lとして外部に出力される。
【0019】
レンズ6によりコリメートされた光は、回折格子ユニット5のMEMS回折格子51に入射する。MEMS回折格子51は、この入射光を回折及び反射させることにより、当該入射光のうち特定波長の光をQCL4の第1端面4aに帰還させる。レーザモジュール1では、MEMS回折格子51と第2端面4bとによりリトロー型の外部共振器が構成されている。これにより、レーザモジュール1は、特定波長の光を増幅させて外部に出力することができる。
【0020】
また、MEMS回折格子51では、後述するように、入射光を回折及び反射させる回折格子部64の向きを高速に変化させることができる。これにより、MEMS回折格子51からQCL4の第1端面4aに帰還する光の波長が可変となっており、ひいてはレーザモジュール1の出力光Lの波長が可変となっている。出力光Lの波長を変化させることで、例えば、QCL4のゲインバンドの範囲内において波長掃引を行うことができる。
【0021】
回折格子ユニット5は、MEMS回折格子51と、磁石52と、ヨーク53と、を備えている。MEMS回折格子51は、略板状に形成されている。磁石52は、MEMS回折格子51に対してQCL4とは反対側に配置されている。MEMS回折格子51はヨーク53に固定されており、磁石52はヨーク53内に収容されている。これによりMEMS回折格子51、磁石52及びヨーク53は一体化されており、1つのユニットを構成している。
【0022】
図3~
図6に示されるように、MEMS回折格子51は、支持部61と、一対の連結部62と、可動部63と、回折格子部64と、一対のコイル65,66と、を備えている。MEMS回折格子51は、軸線A周りに可動部63を揺動させるMEMSデバイスとして構成されている。MEMS回折格子51は、MEMS技術(パターニング、エッチング等)を用いて半導体基板を加工することにより形成される。
【0023】
支持部61は、平面視において(後述する法線方向DNから見た場合に)矩形状を呈する平板状の枠体である。支持部61は、一対の連結部62を介して可動部63を支持している。各連結部62は、平面視において矩形棒状を呈する平板状の部材であり、軸線Aに沿って真っ直ぐに延在している。各連結部62は、可動部63が軸線A周りに揺動自在となるように、軸線A上において可動部63を支持部61に連結している。
【0024】
可動部63は、支持部61の内側に位置している。可動部63は、上述したように軸線A周りに揺動可能となっている。可動部63は、平面視において略矩形状を呈する平板状の部材であり、4つの隅部63aを有している。可動部63は各隅部63aにおいてR状に面取りされており、各隅部63aは丸く形成されている。例えば、各隅部63aは平面視において円弧状に湾曲している。これにより、可動部63の慣性モーメントを低減することができ、可動部63の揺動を高速化することができる。この例では、可動部63は、長辺が第1方向D1に平行な略長方形状に形成されており、第1方向D1における可動部63の長さは、第2方向D2における可動部63の長さよりも長くなっている。一例として、第1方向D1における可動部63の長さは4mm程度、第2方向D2における可動部63の長さは3mm程度、厚さは30μm程度である。支持部61、連結部62及び可動部63は、例えば1つのSOI(Silicon on Insulator)基板に作り込まれることにより、一体に形成されている。
【0025】
可動部63におけるQCL4の側の表面には、回折格子部64が設けられている。回折格子部64は、複数の格子溝64aを有し、QCL4から出射された光を回折及び反射させる。回折格子部64は、例えば、可動部63の表面上に設けられ、回折格子パターンが形成された樹脂層と、当該回折格子パターンに沿うように樹脂層の表面上にわたって設けられた金属層と、を含んでいる。或いは、回折格子部64は、可動部63上に設けられると共に回折格子パターンが形成された金属層のみにより構成されてもよい。回折格子パターンは、この例では回折効率を高めるために鋸歯状断面のブレーズドグレーティングとなっているが、矩形状断面のバイナリグレーティング、又は正弦波状断面のホログラフィックグレーティング等であってもよい。回折格子パターンは、例えばナノインプリントリソグラフィ法により樹脂層に形成される。金属層は、例えば、金からなる金属反射膜であり、蒸着により形成される。
【0026】
図5に示されるように、複数の格子溝64aは、第1方向D1に等間隔で並んでいる。各格子溝64aは、第1方向D1に垂直な第2方向D2に真っ直ぐに延在している。第2方向D2は、軸線Aに平行な方向である。第1方向D1における格子溝64aの繰り返し周期(隣り合う格子溝64a間の距離)dは、例えば4μm~10μmである。回折格子部64の法線(格子面Sに垂直な直線)Nに平行な法線方向DNに対する格子溝64aの角度(ブレーズド角)θは、例えば20度~35度である。
【0027】
回折格子部64は、平面視において可動部63よりも一回り小さく形成されており、回折格子部64の外縁は、可動部63の外縁から一定の間隔を空けて、可動部63の外縁に沿って延在している。この例では、回折格子部64は、平面視において可動部63と相似な略長方形状に形成されている。すなわち、回折格子部64は、長辺が第1方向D1に平行な略長方形状に形成されており、第1方向D1における回折格子部64の長さL1は、第2方向D2における回折格子部64の長さL2よりも長くなっている。
【0028】
コイル65,66は、例えば、銅等の金属材料からなり、可動部63の表面に形成された溝内に埋め込まれたダマシン構造を有している。平面視において、コイル65は軸線Aに対して一方側(
図4中の上側)に配置されており、コイル66は軸線Aに対して他方側(
図4中の下側)に配置されている。
【0029】
コイル65,66の各々は、平面視において渦巻き状に複数回巻回されている。コイル65の外側端部は、支持部61上に設けられた電極パッド71に配線72を介して電気的に接続されている。配線72は、支持部61、一方の連結部62及び可動部63にわたって延在している。コイル66の外側端部は、支持部61上に設けられた電極パッド73に配線74を介して電気的に接続されている。配線74は、支持部61、他方の連結部62及び可動部63にわたって延在している。
【0030】
コイル65の内側端部は、コイル66の内側端部と電気的に接続されている。この例では、コイル65,66の内側端部同士が多層配線67により電気的に接続されている。多層配線67はコイル65,66の一部を構成しているとみなすこともでき、MEMS回折格子51では、1本のコイル配線(多層配線)が平面視において8の字状に折り返されるように延在していることで、一対のコイル65,66が構成されているとみなすこともできる。なお、コイル65,66は互いに一体に形成されてもよい。
【0031】
コイル65は、軸線Aに沿って延在する内側部分65aと、可動部63の外縁側を延在する外側部分65bと、を有している。内側部分65a及び外側部分65bは、第2方向D2に沿って互いに平行に直線状に延在している。内側部分65aは、軸線Aから一定の間隔を空けて、軸線Aに沿って延在している。外側部分65bは、可動部63の外縁から一定の間隔を空けて、可動部63の外縁に沿って延在している。
【0032】
コイル66は、軸線Aに沿って延在する内側部分66aと、可動部63の外縁側を延在する外側部分66bと、を有している。内側部分66a及び外側部分66bは、第2方向D2に沿って互いに平行に直線状に延在している。内側部分66aは、軸線Aから一定の間隔を空けて、軸線Aに沿って延在している。外側部分66bは、可動部63の外縁から一定の間隔を空けて、可動部63の外縁に沿って延在している。
【0033】
磁石52は、コイル65,66に作用する磁界(磁力)を発生させる。
図2、
図7及び
図8に示されるように、磁石52は、略直方体状に形成されたネオジウム磁石(永久磁石)であり、表面54を有している。表面54は、MEMS回折格子51の側の表面であり、法線方向DNにおいてMEMS回折格子51と向かい合う。磁石52は、法線方向DNにおける一方側と他方側とに異なる磁極を有する単一の部材からなる。すなわち、磁石52は、複数の部材が組み合わせられて構成された磁石ではなく、厚さ方向に磁化された一体型のバルク磁石である。この例では、磁石52は、MEMS回折格子51の側にN極部分57を有し、MEMS回折格子51とは反対側にS極部分58を有している。
図8ではN極部分57とS極部分58との間の境界線が二点鎖線で示されている。
【0034】
表面54は、一対の傾斜面55を含んでいる。各傾斜面55は、第2方向D2から見た場合に、軸線Aから離れるほどMEMS回折格子51の可動部63から離れるように傾斜している。傾斜面55の傾斜角度(法線方向DNに垂直な平面に対する角度)は、MEMS回折格子51における可動部63の最大機械傾斜角度の半分に設定されている。これにより、可動部63の軸線A周りに揺動した場合に可動部63が磁石52と干渉することを抑制することができ、可動部63の揺動角度を大きくすることができる。例えば、最大機械傾斜角度が10度である場合、傾斜面55の傾斜角度は5度に設定される。
図8(b)に示されるように、第2方向D2から見た場合に、一対の傾斜面55を仮想的に延長した直線は、軸線Aを通り法線方向DNに平行な直線上の交点Bで交差する。
【0035】
表面54には、凹部56が形成されている。この例では、凹部56は、第2方向D2に沿って真っ直ぐに延在する溝である。凹部56は、例えば、第2方向D2に関して一様な矩形状の断面を有し、法線方向DNと垂直かつ平坦な底面56aを有している。第1方向D1において、凹部56は、一対の傾斜面55の間に配置され、一対の傾斜面55に連なっている。第2方向D2において、凹部56は、磁石52の両端部に至るように延在している。凹部56内の空間は空隙であるが、非磁性体が配置(充填)されていてもよい。凹部56は、N極部分57に止まるようにN極部分57に形成されており、S極部分58には至っていない。これは、凹部56がS極部分58に至るように形成されているか、又は凹部56が貫通孔であると、磁力線が複雑になり安定的な動作が阻害される可能性があるためである。
【0036】
図4を参照しつつ、法線方向DNから見た場合におけるMEMS回折格子51と磁石52との間の位置関係について説明する。第1方向D1におけるMEMS回折格子51の長さは、第1方向D1における磁石52の長さよりも長い。第1方向D1における磁石52の長さは、第1方向D1における回折格子部64の長さと略等しい。第2方向D2におけるMEMS回折格子51の長さは、第2方向D2における磁石52の長さと略等しい。第2方向D2における磁石52の長さは、第2方向D2における回折格子部64の長さよりも長い。このような位置関係とすることにより、磁石52を可能な限り大きくしつつ、可動部63が軸線A周りに揺動した際にQCL4からの光が磁石52に入射することを回避することができる。
【0037】
凹部56(底面56a)の少なくとも一部は、法線方向DNから見た場合に、コイル65,66の内側部分65a,66aと重なっている。この例では、凹部56における軸線Aの側の一部が、内側部分65a,66aの全体と重なっている。すなわち、法線方向DNから見た場合に、凹部56の幅W1は、内側部分65a,66aの幅W2よりも広い。幅W1,W2とは、第1方向D1における幅である。凹部56は、法線方向DNから見た場合に、コイル65,66の外側部分65b,66bよりも軸線Aの側に位置しており、外側部分65b,66bと重なっていない。一例として、第1方向D1における磁石52の長さは4mm、第2方向D2における磁石52の長さは6mmである。凹部56の幅W1は1mm~2mm程度であり、例えば2mmである。凹部56の深さ(底面56aと交点Bとの間の距離)は1mm程度であり、法線方向DNにおける磁石52の厚さは3mm~3.5mmである。
【0038】
ヨーク53は、磁石52の磁力を増幅させ、磁石52と共に磁気回路を形成する。
図2に示されるように、ヨーク53は、傾斜面53aを有している。傾斜面53aは、法線方向DNと垂直かつ平坦に延在しており、QCL4の第1端面4aに対して傾斜している。このような傾斜面53a上にMEMS回折格子51が固定されることにより、MEMS回折格子51の回折格子部64の法線Nを第1端面4aに対して傾斜させることができる。この例ではZ方向の一方側(筐体2の蓋部22の側)を向くように回折格子部64が傾斜しているが、Z方向の他方側(筐体2の底面側)を向くように回折格子部64が傾斜していてもよい。傾斜面53aの傾斜角度(第1端面4aに対する角度)は、QCL4の発振波長、回折格子部64における格子溝64aの溝本数、及び角度θに応じて設定される。例えば、発振波長が7μm帯、溝本数が150本/mmである場合、傾斜面53aの傾斜角度は30度程度に設定される。
【0039】
ヨーク53は、X方向から見た場合に略コ字状(逆C字状)に形成されており、傾斜面53aに開口した配置空間SPを画定している。この配置空間SP内に磁石52が配置されて、磁石52がヨーク53内に収容されている。ヨーク53は、X方向から見た場合に磁石52を包囲している。MEMS回折格子51は、配置空間SPの開口を覆うように、支持部61の縁部において傾斜面53aに固定されている。MEMS回折格子51は、Y方向から見た場合に第1方向D1がZ方向(QCL4の積層構造42の積層方向)に沿い(平行となり)、かつ第2方向D2(軸線A)がX方向に平行となるように、配置されている。
【0040】
QCL4は、積層構造42の積層方向に長尺なビーム形状を有する光を出射する。レーザモジュール1では、QCL4から出射されてレンズ6を介してMEMS回折格子51に入射する光は、回折格子部64の位置において、第1方向D1における長さが第2方向D2における長さよりも長い楕円形状のビーム形状を有する。また、MEMS回折格子51は、可動部63の軸線A周りの揺動角度にかかわらずに、QCL4から出射されてレンズ6を透過した光の全てが回折格子部64に入射するように、配置されている。すなわち、可動部63が軸線A周りに最大機械傾斜角度まで揺動した状態においても、当該光の全てが回折格子部64に入射する。
【0041】
図3に示されるように、磁石52及びヨーク53により、MEMS回折格子51を通る磁界Mが形成される。この例では、磁界Mは、軸線Aの側から可動部63の縁部側に向けて可動部63を横切るように形成される。ヨーク53は、炭素が添加された鉄材により形成されている。これにより、傾斜面53aの加工工程を容易化することができる。ヨーク53の表面は、劣化防止のために亜鉛メッキ等により保護されていてもよい。
【0042】
MEMS回折格子51では、コイル65,66に電流が流れると、磁石52及びヨーク53により形成される磁界Mにより、コイル65,66内を流れる電子に所定の方向にローレンツ力が生じる。これにより、コイル65は所定の方向に力を受ける。このため、コイル65に流れる電流の向き又は大きさ等を制御することで、可動部63(回折格子部64)を軸線A周りに揺動させることができる。また、可動部63の共振周波数に対応する周波数の電流をコイル65,66に流すことで、可動部63を共振周波数レベルで(例えば1kHz以上の周波数で)高速に揺動させることができる。このように、コイル65,66、磁石52及びヨーク53は、可動部63を揺動させるアクチュエータ部として機能する。
【0043】
図4では、コイル65,66を流れる電流の方向が矢印により示されている。
図4に示されるように、MEMS回折格子51では、コイル65,66の外側部分65b,66bに同一方向の電流が流れる。これにより、可動部63を揺動させるための駆動力を大きく確保することができる。
[作用及び効果]
【0044】
レーザモジュール1では、MEMS回折格子51が、回折格子部64の法線NがQCL4の第1端面4aに対して傾斜するように配置されており、格子溝64aの並び方向である第1方向D1における回折格子部64の長さL1が、第1方向D1に垂直な第2方向D2における回折格子部64の長さL2よりも長い。第1方向D1における回折格子部64の長さが長いことで、回折格子部64が傾斜して配置された場合でも、QCL4からの光を回折格子部64によって良好に受けることができる。例えば、QCL4からの光の一部が回折格子部64に入射せずに迷光となる事態を抑制することができる。また、第2方向D2における回折格子部64の長さL2が低減されていることで、モジュールの小型化を図ることができると共に、回折格子部64の大型化を抑制して消費電力の増大を抑制することができる。更に、レーザモジュール1では、MEMS回折格子51が、QCL4の第1端面4aに垂直なY方向から見た場合に、第1方向D1が積層構造42の積層方向(Z方向)に沿うように配置されている。第1方向D1が積層方向に沿うようにMEMS回折格子51を配置することで、回折格子部64における格子溝64aの延在方向(第2方向D2)をQCL4から出射される光の偏光方向と直交させることができ、且つ、格子溝64aの並び方向である第1方向D1をMEMS回折格子51の長手方向とすることで、傾斜した回折格子部64において照射ビーム径内に位置する格子溝64aの本数を多くすることができる。その結果、MEMS回折格子51の波長分解能を高く確保することができ、出力光のスペクトル線幅を狭くすることができる。よって、レーザモジュール1によれば、小型化、消費電力の抑制、及びスペクトル線幅の狭線化を図ることができる。なお、MEMS回折格子51の波長分解能を確保してスペクトル線幅の狭線化を図ることは、QCL4のように中赤外の長い波長の光を出射する光源を用いる場合に特に重要となり易く、可視光のように短い波長の場合には格子溝の方向や本数は問題となり難い。
【0045】
格子溝64aの本数を多くすることによりMEMS回折格子51の波長分解能を高くしてスペクトル線幅を狭線化することができる点について説明する。2つの近接した波長λと波長λ+Δλの2本のスペクトル線について、どの程度小さなΔλまでを2本のスペクトルとして区別することができるかという指標(分解能)は式(1)で表される。
λ/Δλ=mN×W …(1)
mは回折次数、N×Wは格子溝64aの本数を表す。
【0046】
例えば、実測結果として、周期dが7800nmのMEMS回折格子51を用いて発振波長8000nmのレーザモジュール1を構成すると、スペクトル線幅は約13nmが得られる。周期dが7800nmで長さL1が4.2mmのMEMS回折格子51の場合のΔλを算出すると、次の式(2)により14.8nmとなり、実測のスペクトル線幅と同等の算出結果を得ることができる。
Δλ=8000nm/1次×(総本数538本)=14.8nm …(2)
以上のことから、回折格子部64の長さL1を長くすることで回折格子部64の波長分解能を高くすることができ、スペクトル線幅を狭線化できることが分かる。
【0047】
可動部63の4つの隅部63aが丸く形成されている。これにより、可動部63の慣性モーメントを低減することができ、可動部63の揺動を高速化することができる。
【0048】
QCL4から出射されてレンズ6を介してMEMS回折格子51に入射する光が、回折格子部64の位置において、第1方向D1における長さが第2方向D2における長さよりも長いビーム形状を有している。第1方向D1における回折格子部64の長さL1が第2方向D2における回折格子部64の長さL2よりも長いことで、このような場合でも、QCL4からの光を回折格子部64によって良好に受けることができる。
【0049】
MEMS回折格子51が、可動部63の軸線A周りの揺動角度にかかわらずに、QCL4から出射されてレンズ6を透過した光の全てが回折格子部64に入射するように、配置されている。これにより、QCL4からの光の一部が回折格子部64に入射せずに迷光となる事態を抑制することができる。
[変形例]
【0050】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。上記実施形態では直列に接続された1本のコイル配線により一対のコイル65,66が構成されていたが、コイル65,66は別体に構成されて別々に外部に引き出されていてもよい。ただし、コイル65,66が1本のコイル配線により構成されているほうが、大電流化及び制御性向上の観点から好ましい。上記実施形態ではMEMS回折格子51が電磁駆動方式により駆動されていたが、MEMS回折格子51は静電又は圧電方式により駆動されてもよい。これらの場合、例えば、コイル65,66、磁石52及びヨーク53に代えて静電櫛歯又は圧電素子が設けられる。
【0051】
可動部63の形状は長方形状に限らず、例えば楕円形状であってもよいし、円形又は正方形状であってもよい。可動部63の隅部63aは、丸く形成されていなくてもよく、縁部同士が直角に交わる角部であってもよい。回折格子部64の形状は長方形状に限らず、例えば楕円形状であってもよい。QCL4から出射されてレンズ6を介してMEMS回折格子51に入射する光は、回折格子部64の位置において略円形のビーム形状を有していてもよい。磁石52に凹部56が形成されていなくてもよい。
【0052】
MEMS回折格子51は、
図9(a)に示される第1変形例、又は
図9(b)に示される第2変形例のように構成されてもよい。第1変形例及び第2変形例では、各連結部62が蛇行して延在している。第1変形例では、一対の連結部62が平面視において可動部63の中心を通り軸線Aに垂直な直線に関して対称に形成されており、第2変形例では、一対の連結部62が平面視において当該直線に関して非対称に形成されている。第1変形例及び第2変形例によっても、上記実施形態と同様に、小型化、消費電力の抑制、及びスペクトル線幅の狭線化を図ることができる。また、第1変形例及び第2変形例は、可動部63を非共振モードで動作させる場合に好適に用いることができる。可動部63を非共振モードで動作させる場合、出力光Lの波長を制御することができ、任意の波長に固定することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…外部共振型レーザモジュール、4…量子カスケードレーザ、4a…第1端面、6…レンズ、42…積層構造、51…MEMS回折格子、63…可動部、63a…隅部、64…回折格子部、64a…格子溝、D1…第1方向、D2…第2方向、N…法線、L1,L2…長さ。