(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129442
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/29 20060101AFI20220830BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20220830BHJP
H01Q 13/10 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01Q21/29
H01Q13/08
H01Q13/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028102
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】水野 浩年
(72)【発明者】
【氏名】野崎 高志
【テーマコード(参考)】
5J021
5J045
【Fターム(参考)】
5J021AA09
5J021AB05
5J021AB06
5J021HA05
5J021HA07
5J021HA10
5J045AA21
5J045DA03
5J045DA10
5J045EA07
5J045FA02
5J045LA01
5J045LA03
5J045NA01
5J045NA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】衛星から送信される電波を受信するアンテナ装置として、高中仰角における平均利得が改善され、理想的な指向性を有するアンテナを提供する。
【解決手段】アンテナ装置10(10a、10b)は、所定の周波数帯の信号を受信可能な放射素子35を有するパッチアンテナ30と、パッチアンテナの周囲に設けられた少なくとも一つの無給電のスロット25~28が形成される地板20又は金属部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数帯の信号を受信可能な放射素子を有するアンテナと、
前記アンテナの周囲に設けられた少なくとも一つの無給電のスロットを有する金属部と、
を有するアンテナ装置。
【請求項2】
地板と、
前記地板に設けられたアンテナと、を備え、
前記地板は、前記アンテナの周囲に形成された少なくとも一つの無給電のスロットを有する、
アンテナ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアンテナ装置であって、
前記スロットは、前記アンテナの周囲における所定の範囲内に設けられる、
アンテナ装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一つに記載のアンテナ装置であって、
前記アンテナは、
誘電体部材と、
前記誘電体部材に設けられた放射素子と、を有する
アンテナ装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つに記載のアンテナ装置であって、
前記スロットの形状は、長手方向と、短手方向とを有する四辺形である、
アンテナ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のアンテナ装置であって、
前記長手方向の長さは、所望の周波数帯の波長の略2分の1である、
アンテナ装置。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一つに記載のアンテナ装置であって、
前記スロットは、前記アンテナの中心から、所望の周波数帯の波長の略4分の1以上、略4分の3の以下の位置に設けられる、
アンテナ装置。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載のアンテナ装置であって、
前記アンテナの周囲には、複数の前記スロットが設けられる、
アンテナ装置。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載のアンテナ装置であって、
前記アンテナは、衛星信号を受信する衛星用アンテナである、
アンテナ装置。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載のアンテナ装置であって、
前記アンテナは、パッチアンテナである、
アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パッチアンテナを含むアンテナ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アンテナ装置の地板の面積が大きくなると、例えば、パッチアンテナの高仰角の利得が低下することにより、アンテナ装置の指向性が悪化してしまうことがある。
【0005】
本発明の目的の一例は、アンテナ装置の指向性を向上することである。本発明の他の目的は、本明細書の記載から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、所定の周波数帯の信号を受信可能な放射素子を有するアンテナと、前記アンテナの周囲に設けられた少なくとも一つの無給電のスロットを有する金属部と、を有するアンテナ装置である。
【0007】
本発明の一態様によれば、アンテナ装置の指向性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】地板20のおもて面の理論上の円Cを説明するための図である。
【
図6】アンテナ装置A,アンテナ装置10の仰角と利得との関係を示す図である。
【
図8】長さLを変化させた際の仰角と利得との関係を示す図である。
【
図10】距離Dを変化させた際の仰角と利得との関係を示す図である。
【
図14】アンテナ装置X,アンテナ装置100~102の仰角と利得との関係を示す図である。
【
図20】アンテナ装置A,アンテナ装置111~112,アンテナ装置114の仰角と利得との関係を示す図である。
【
図22】アンテナ装置Bの周波数と利得との関係を示す図である。
【
図23】アンテナ装置200aの周波数と利得との関係を示す図である。
【
図24】アンテナ装置B,アンテナ装置200aの仰角と利得の関係の図である。
【
図25】アンテナ装置200bの周波数と利得との関係を示す図である。
【
図26】アンテナ装置B,アンテナ装置200bの仰角と利得の関係の図である。
【
図27】アンテナ装置200cの周波数と利得との関係を示す図である。
【
図28】アンテナ装置B,アンテナ装置200cの仰角と利得の関係の図である。
【
図29】アンテナ装置200cの仰角と利得の関係の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
<<<アンテナ装置10>>>
図1~
図3を参照しつつ、アンテナ装置10の構成の概要を説明する。
図1は、アンテナ装置10の斜視図であり、
図2は、アンテナ装置10の平面図である。また、
図3は、パッチアンテナ30の斜視図である。なお、便宜上、
図2においては、アンテナ装置10のパッチアンテナ30のみを描き、一部の構成(後述する、パッチアンテナ30を支える台座部等)は省略している。
【0011】
本実施形態では、後述するパッチアンテナ30の放射素子35の中心点35pと、給電点43aとを結ぶ線分に沿った方向をX方向とする。また、X方向と垂直な左右方向をY方向、X方向とY方向に垂直な鉛直方向をZ方向とする。また、以下、図面に示される同一又は同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。
【0012】
アンテナ装置10は、図示しない車両に搭載される車載用アンテナ装置であり、地板20、及びパッチアンテナ30を含んで構成される。車載用アンテナ装置は、例えば、車両のルーフパネルと、車室内の天井面のルーフライニングとの間の空洞に収納される。、
【0013】
地板20は、パッチアンテナ30のグランドとして利用される四辺形の金属板であり、例えば、車両(不図示)のルーフライニング上に設置される。地板20は、パッチアンテナ30の周囲に形成された4つの無給電のスロット25~28を有する。なお、スロット25~28の詳細については後述する。また、地板20は、四辺形であることとしたが、これに限られず、例えば円形や楕円形の板状部材であっても良い。さらに、地板20は、グランドとして機能する金属製の部材であれば板状以外の形状を有していても良い。
【0014】
パッチアンテナ30は、例えば、衛星デジタル音声ラジオサービス(SDARS:Satellite Digital Audio Radio Service)の方式に利用されるアンテナであり、2.3GHz帯の左旋円偏波(衛星信号)を受信する。また、パッチアンテナ30は、地板20の中央付近に設けられる。なお、パッチアンテナ30の受信可能な通信規格及び周波数帯は、上述のものに限定するものではなく、他の通信規格及び周波数帯域であってもよい。
【0015】
<<<パッチアンテナ30の詳細>>>
以下、
図3及び
図4を参照して、パッチアンテナ30について詳細に説明する。なお、
図4は、
図3のA-A線のパッチアンテナ30の断面図である。なお、
図4に示す斜線は、後述する導線性のパターン31,33,回路基板32,誘電体部材34,放射素子35、シールドカバー40を図面上わかり易くするために便宜上記載したものである。
【0016】
パッチアンテナ30は、導電性のパターン31,33(詳細は後述する)が形成された回路基板32、誘電体部材34、放射素子35、及びシールドカバー40を備えて構成される。
【0017】
回路基板32は、うら面(Z軸負方向の面)と、おもて面(Z軸正方向の面)とのそれぞれに、導電性のパターン31,33が形成された誘電体の板材であって、例えばガラスエポキシ樹脂からなる。そして、パターン31は、回路パターン31aと、グランドパターン31bとを含む。
【0018】
回路パターン31aは、例えば、アンプ基板(不図示)からの同軸ケーブル45の信号線45aが接続される導電性のパターンである。また、同軸ケーブル45の編組45bは、はんだ45cにより、グランドパターン31bに電気的に接続されている。なお、回路パターン31aと、放射素子35とを接続する構成については後述する。
【0019】
グランドパターン31bは、パッチアンテナ30を接地させるための導電パターンである。グランドパターン31bと、金属製の地板20に設けられた4つの台座部21とは、電気的に接続される。ここで、4つの台座部21の各々は、パッチアンテナ30を支持できるよう、地板20の一部が曲げ加工によって形成されている。
【0020】
そして、グランドパターン31bと、台座部21とが電気的に接続されることにより、グランドパターン31bは接地される。なお、回路基板32のうら面には、例えば、回路パターン31aをシールドするための金属性のシールドカバー40が取り付けられている。
【0021】
回路基板32のおもて面に形成されたパターン33は、パッチアンテナ30の地導体板(または、地導体膜)、及び回路(不図示)のグランドとして機能するグランドパターンである。パターン33は、スルーホールを介し、グランドパターン31bに電気的に接続されている。また、グランドパターン31bは、回路基板32を台座部21に固定する固定用のビス及び台座部21を介し、地板20に電気的に接続される。したがって、パターン33は、地板20に電気的に接続されることになる。
【0022】
誘電体部材34は、X軸に平行な辺及びY軸に平行な辺を有する略四辺形の板状の部材である。誘電体部材34のおもて面及びうら面は、X軸及びY軸に対して平行であり、誘電体部材34のおもて面がZ軸正方向に向けられ、誘電体部材34のうら面は、Z軸負方向に向けられている。そして、誘電体部材34のうら面は、例えば両面テープによりパターン33に取り付けられている。なお、誘電体部材34は、セラミック等の誘電体材料で形成されている。
【0023】
放射素子35は、誘電体部材34のおもて面の面積より小さい、略四辺形の導電性の素子であり、誘電体部材34のおもて面に形成されている。なお、本実施形態では、放射素子35の放射面の法線方向が、Z軸正方向となっている。また、放射素子35は、Y軸に平行な辺35a,35cと、X軸に平行な辺35b,35dを有している。
【0024】
ここで、「略四辺形」とは、例えば、正方形や長方形を含む、4つの辺からなる形状をいい、例えば、少なくとも一部の角が辺に対して斜めに切り欠かれていても良い。また、「略四辺形」の形状では、辺の一部に切り込み(凹部)や出っ張り(凸部)が設けられていても良い。さらに、パッチアンテナ30では、放射素子35が「略四辺形」であるが、これに限られず、例えば、円形、楕円形、略四辺形以外の多角形であっても良い。つまり、放射素子35は、所望の周波数帯の信号(電波)を受信可能な形状であれば良い。
【0025】
貫通孔41は、回路基板32、パターン33、及び誘電体部材34を貫通する。貫通孔41の内側には、回路パターン31aと、放射素子35とを接続する給電線42が設けられている。なお、給電線42は、接地されるパターン33とは電気的に絶縁された状態で、回路パターン31aと、放射素子35とを接続する。また、本実施形態では、給電線42が放射素子35に電気的に接続される点を給電点43aとする。
【0026】
なお、給電点43aは、
図3に示すように、放射素子35の中心点35pからX軸正方向にずれた位置に設けている。ただし、給電点43aの位置はこれに限られず、給電点43aを、例えば、放射素子35の中心点35pからX軸正方向及びY軸負方向にずらした位置に設けてもよい。
【0027】
なお、「放射素子35の中心点35p」とは、放射素子35の外縁形状における中心点、つまり幾何中心をいう。
図3に示す1給電方式の放射素子35は、例えば、所望の円偏波を送受信できるよう、縦、横の長さが異なる略長方形の形状を有する。
【0028】
また、本実施形態では、中心点35pは、XY平面におけるパッチアンテナ30の中心と一致するよう、パッチアンテナ30は設計されている。「パッチアンテナ30の中心」とは、例えば、パッチアンテナ30を、+z方向からみたx-y平面の平面視において、台座部21を除くパッチアンテナ30の幾何中心である。
【0029】
また、「略長方形」は、上述した「略四辺形」に含まれる形状である。このため、「放射素子35の中心点35p」は、放射素子35の対角線が交わる点となる。なお、「略長方形」は、上述した「略四辺形」に含まれる形状である。
【0030】
本実施形態では、放射素子35に接続される給電線が、給電線42の1本のみの構成を説明したが、放射素子35に接続される給電線を追加し、2本設け、2給電方式を採用しても良い。なお、追加する給電線は、給電線42と同様に、誘電体部材34等を貫通する貫通孔(不図示)を介して設けることができるため、ここでは詳細な構成の説明は省略する。
【0031】
また、2給電方式を用いる場合、放射素子35は、例えば、所望の円偏波を送受信できるよう、縦、横の長さが等しい略正方形の形状を有する。なお、「略正方形」は、上述した「略四辺形」に含まれる形状である。
【0032】
<<<スロットの詳細>>>
==スロットの形状==
図1、及ぶ
図2のスロット25は、パッチアンテナ30が受信する所望の周波数帯の電波を放射(または、反射)するために、地板20に形成された無給電の開口(または、孔)である。本実施形態のスロット25は、所望の周波数帯の使用波長に応じた長手方向の長さL、及び短手方向の長さWを有する四辺形をしている。
【0033】
ここで、「使用波長(所望の周波数帯の波長)」とは、パッチアンテナ30が用いられる所望の周波数帯の所望の周波数に対応する波長であり、具体的には、例えば所望周波数帯の中心周波数に対応する波長をいう。
【0034】
例えば、パッチアンテナ30は、衛星デジタル音声ラジオサービスの方式に利用されるアンテナであるため、中心周波数は、略2.3GHzとなる。したがって、使用波長は、略2.3GHzに対応する波長となる。
【0035】
詳細は後述するが、スロット25は、使用波長(以下、λとする。)の電波を放射できるよう、長さLを、使用波長の略2分の1(λ/2)とし、長さWを、長さLより十分短い長さとしている。
【0036】
また、スロット26~28の夫々は、スロット25と同じ四辺形の開口であるため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、本実施形態では、スロット25~28の夫々は、長さL、及び長さWの四辺形を有していることとしたが、これに限られない。スロット25~28は、所望の周波数帯の電波を放射できれば良いため、例えば、略四辺形、四辺形以外の多角形、円形、楕円形、または十字形であっても良い。
【0037】
==スロットの位置==
スロット25~28は、パッチアンテナ30の指向性を改善することができるよう、パッチアンテナ30の周囲に設けられている。具体的には、スロット25~28の夫々は、例えば、
図5に示すように、放射素子35の中心点35pに対応する地板20のおもて面の位置を中心とし、半径を距離Dとする理論上の円(以下、円Cとする。)の円周上に、等間隔に設けられている。なお、本実施形態の距離Dは、例えば、使用波長の1/2(λ/2)の長さである。
【0038】
スロットを配置する「パッチアンテナの周囲」とは、例えば、パッチアンテナ30の周辺の領域のうち、スロットを設けることにより、パッチアンテナ30の指向性が改善する領域である。また、
図5では、参考までに、放射素子35が受信する左旋円偏波の旋回の向きを、矢印Sによって示している。
【0039】
スロット25は、長手方向の2つの辺のうち、放射素子35側の辺の中点が、円Cの+X方向、及び-Y方向の円周上の点P1に接するよう、地板20に設けられている。また、スロット26は、円Cの+X方向、及び+Y方向の円周上の点P2に接し、スロット27は、円Cの-X方向、及び+Y方向の円周上の点P3に接するよう、設けられる。さらに、スロット28は、円Cの-X方向、及び-Y方向の円周上の点P4に接するように設けられる。
【0040】
ここで、本実施形態では、点P1~P4の夫々は、円Cの円周上において、等間隔(90°毎)に位置する。したがって、スロット25~28の各々も、円Cの円周上において、90°毎に設けられる。なお、ここでは、4つのスロットを90°毎(等間隔)で配置することとしたが、これに限られず、スロット間の角度は異なっていても良い。
【0041】
このような場合、スロット25~28の夫々の長手方向は、円Cの点P1~P4の接線に対して平行になる。したがって、スロット25~28の夫々の長手方向は、パッチアンテナ30が受信する円偏波の旋回方向と同様となる。つまり、スロット25~28は、円偏波の旋回方向に沿って配置されることになる。
【0042】
なお、本実施形態では、パッチアンテナ30が受信する電波は、左旋円偏波であるが、例えば右旋円偏波であっても、スロット25~28は、円偏波の旋回方向に沿って配置されていることになる。
【0043】
==シミュレーション条件==
ここで、誘電体部材34のサイズ、放射素子のサイズ、誘電体部材34及び放射素子35の総厚、地板20の表面から放射素子35の表面までの高さ、地板のサイズ、給電方式など、所定の条件(以下、「所定条件」と称する。)において、アンテナ装置10、及び比較例のアンテナ装置(以下、アンテナ装置Aと称する。)の利得を計算した。なお、アンテナ装置A(不図示)とは、アンテナ装置10においてスロット25~28が設けられていないものである。また、アンテナ装置10、及びアンテナ装置Aのシミュレーションにあたっては、便宜上、利得への影響の小さい回路パターン31a等を省略したモデルを用いている。
【0044】
ここでは、受信電波の周波数を2320MHzとし、それに対応する使用波長λは、略130mmとなる。したがって、スロット25~28の長さL(=64mm)、及び距離D(=64mm)は、使用波長λの略2分の1に相当する。スロット25~28の長さWは5mmとしている。
【0045】
なお、ここでは、距離や長さを、使用波長λの略2分の1等、「略」を用いて表現しているが、これは、使用波長λが必ずしも割り切れる整数で表現されないことや、実際の地板20に形成されたスロットの電気長が、パッチアンテナ30等様々な要因により変化するためである。したがって、本実施形態において、距離や長さを「略」を用いて標記した場合、正確な値から所定値(例えば、使用波長λの32分の1の値)ずれている値を含むこととする。なお、ここでは「所定値」を、使用波長λの32分の1の値としているが、アンテナ装置10を構成する地板20や、パッチアンテナ30等により変化する値であるため、これに限られない。
【0046】
==シミュレーション結果==
図6は、アンテナ装置A、及びアンテナ装置10の夫々において、仰角(横軸)と平均利得(縦軸)との関係を示す図である。なお、ここでは、仰角は、天頂角を0°として、水平方向の角度を90°としている。また、
図6において、アンテナ装置Aの計算結果を、点線で示し、アンテナ装置10の計算結果を実線で示している。なお、これら点線上の□印及び実線上の●印は、横軸の数値に対する縦軸の数値の位置を示すものであり、それらを区別するために便宜上□印と●印で示している。なお、後述する
図8、
図10、
図14、
図20、
図24、
図26、
図28、
図29も同様であり、一点鎖線上の△印、二点鎖線上の×印も同様である。
【0047】
また、以下、本実施形態では、「高仰角」とは、例えば仰角0°~30°の範囲をいい、「中仰角」とは、例えば仰角30°~60°の範囲をいい、「低仰角」とは、例えば仰角60°~90°の範囲をいう。
【0048】
図6に示すように、アンテナ装置Aの利得は、仰角0°(4.3dBic)から徐々に低下し、仰角30°において、2.3dBicまで低下する。その後、アンテナ装置Aの利得は、仰角が大きくなるにつれて上昇し、仰角50°において2.7dBicとなり、再度低下する。したがって、アンテナ装置Aでは、高仰角(例えば、30°)にて利得が悪化する指向性を有していることになる。
【0049】
一方、アンテナ装置10の利得は、仰角0°の天頂方向(5.7dBic)から、仰角が大きくなるにつれて、徐々に低下し、利得が上昇するポイントを含まない。
【0050】
また、アンテナ装置Aの仰角0°~60°までの平均利得は、略3.0(≒2.99)dBであるが、アンテナ装置10の仰角0°~60°までの平均利得は、略3.8dBと、0.8dB大きくなっている。したがって、アンテナ装置10は、例えば、衛星から送信される電波を受信するアンテナ装置として、高中仰角における平均利得が改善され、理想的な指向性を有することになる。
【0051】
このように、無給電のスロット25~28がパッチアンテナ30の周囲に設けられることによって、高中仰角におけるパッチアンテナ30の利得が改善するとともに、指向性が向上される。この結果、パッチアンテナ30は、例えば衛星からの到来電波を効率的に受信することができる。
【0052】
<<<スロットの形状、設置条件の変更について>>>
つぎに、スロットの形状、設置条件(長さL、距離D、配置、数)を変更した場合について説明する。なお、以下に説明する条件を2以上変更させ、を組み合わせて適用してもよい。例えば、設置条件のうち、スロットの長さLと、スロットの数との2つの条件を変更しても良く、長さLと、距離Dと、配置との3つの条件を変更しても良い。
【0053】
==スロットの長さLを変更した場合==
ここでは、スロット25~28の長さLを変更した場合のアンテナ装置10aの特性について検証する。なお、ここでは、4つのスロット25~28の長さLを全て同じように変化させている。また、スロット25~28の長さL以外のアンテナ装置10aの各種条件(例えば、例えばスロットの長さWや距離D)等は、上述した所定条件と同じである。
【0054】
図7は、アンテナ装置10aにおける仰角0°~60°までの平均利得(dB)と、スロット25~28の長さLと、の関係を示す図である。
図7に示すように、長さLが、44mm,49mmと、使用波長の略8分の3λ(3λ/8)に到るまでは、アンテナ装置10における仰角0°~60°までの平均利得は、スロットを有さない場合の平均利得(略3.0dB)より若干小さい。
【0055】
一方、長さLが、54mm(使用波長の略16分の7)となると、アンテナ装置10における仰角0°~60°までの平均利得は3.1dBとなるため、スロットを有さない場合の平均利得(略3.0dB)より大きくなる。
【0056】
そして、長さLが、64mm(使用波長の略2分の1)となると、アンテナ装置10における仰角0°~60°までの平均利得はピーク値(3.65dB)となり、長さLを64mmから長くすると、徐々に平均利得は低下する。ただし、例えば94mm(使用波長の略3分の4)まで長くした場合であっても、アンテナ装置10における仰角0°~60°までの平均利得は、3.3dBとなり、スロットを有さない場合の平均利得(略3.0dB)より大きい。
【0057】
図8は、スロット無し、スロットの長さL=54mm、スロットの長さL=94mmの夫々において、仰角(横軸)と利得(縦軸)との関係を示す図である。なお、「スロット無し」の結果は、上述した
図6のアンテナ装置Aの結果と同じである。
【0058】
図8の実線に示すように、長さLが54mmのアンテナ装置10aでは、高仰角の範囲の利得は、点線(スロット無し)と比較すると改善している。さらに、
図8の一点鎖線に示すように、長さL=94mmの高仰角の利得は、点線(スロット無し)と比較すると更に改善している。このように、
図7に基づいて、長さLを、54mm~94mmまで変化させると、スロットを設けない場合と比較して、アンテナ装置10aの高中仰角の平均利得が改善され、理想的な指向性を得ることができる。
【0059】
==距離Dを変更した場合==
つぎに、スロット25~28の設置条件のうち、距離Dを変化させた場合のアンテナ装置10bの特性について検証する。なお、ここでは、4つのスロット25~28の距離Dを全て同じように変化させている。また、距離D以外のアンテナ装置10bの各種条件(例えば、スロットの長さL,長さW等)は、上述した所定条件と同じである。
【0060】
図9は、アンテナ装置10bにおける仰角0°~60°までの平均利得(dB)と、スロット25~28の距離Dと、の関係を示す図である。ここでは、距離Dを34mm(使用波長の略4分の1波長)~94mm(使用波長の略4分の3)まで、5mm刻みで変化させている。
【0061】
距離Dが34mmの場合、仰角0°~60°までの平均利得は、3.03dBであり、スロットが無い場合の平均利得(2.99dB)より大きい。そして、距離Dが49mm(使用波長の略8分の3)において、仰角0°~60°までの平均利得が3.95dBとなり、最も高くなる。その後、距離Dを49mmから徐々に長くすると、緩やかに仰角0°~60°までの平均利得は減少する。だたし、距離Dが94mm(使用波長の略4分の3)の仰角0°~60°までの平均利得は、3.52dBとなり、スロットが無い場合の平均利得(2.99dB)より高い値となっている。
【0062】
また、
図10は、スロット無し、距離D=34mm、距離D=94mmの夫々において、仰角(横軸)と利得(縦軸)との関係を示す図である。なお、「スロット無し」の結果は、上述した
図6のアンテナ装置Aの結果と同じである。
【0063】
図10の実線に示すように、距離Dが34mmのアンテナ装置10bでは、高仰角の範囲の利得は、点線(スロット無し)と比較すると改善している。さらに、
図10の一点鎖線に示すように、距離D=94mmの高仰角の利得は、点線(スロット無し)と比較すると、更に改善している。このように、
図9に基づいて、距離Dを、34mm~94mmまで変化させた場合、スロットを設けない場合と比較して、アンテナ装置10bの高中仰角の平均利得を改善し、理想的な指向性を得ることができる。
【0064】
==スロットの配置を変更した場合==
ここでは、地板20において、4つのスロットの配置を変更した場合について説明する。なお、ここでは、4つのスロット25~28の配置以外のアンテナ装置の各種条件(例えば、スロットの長さL,長さWやパッチアンテナ30のサイズ等)は、上述した所定条件と同じである。また、詳細は後述するが、ここで、配置の変更とは、例えば、4つのスロット毎、距離Dを変更する場合と、4つのスロットの位置を、距離Dを保ちつつ、回転させた場合とを含む。
【0065】
図11は、スロット25~28の夫々の距離Dを変化させたアンテナ装置100の平面図である。アンテナ装置100では、中心点35pから、スロット25までの距離D1を、74mmとし、スロット26までの距離D2を、64mmとしている。また、中心点35pから、スロット27までの距離D3を、94mmとし、スロット28までの距離D4を、84mmとしている。
【0066】
図12は、
図11と同様にスロット25~28の夫々の距離Dを変化させたアンテナ装置101の平面図である。
図12のアンテナ装置101では、
図11の配置から、距離D1,D3を入れ替えている。具体的には、アンテナ装置101では、距離D1を、94mmとし、距離D3を、74mmとしている。一方、距離D2,D4のそれぞれは、64mm,84mmである。
【0067】
図13は、放射素子35の各辺に対し、スロットの長手方向が平行となるよう、4つのスロットを配置したアンテナ装置102の平面図である。なお、
図13のアンテナ装置102では、4つのスロットまでの距離Dは、アンテナ装置100の距離D(=64mm)から変更はせず、スロット25~28の配置角度を変化させている。
【0068】
具体的には、放射素子35の中心点35pから+X方向に、距離Dだけ離れた位置にスロット25の長手方向の辺の中心が位置するよう、スロット25は設けられている。また、スロット26~28についても、スロット25と同様である。
【0069】
スロット26は、中心点35pから、+Y方向に距離Dだけ離れた位置に設けられ、スロット27は、中心点35pから、-X方向に距離Dだけ離れた位置に設けられている。また、スロット28は、中心点35pから、-Y方向に距離Dだけ離れた位置に設けられている。この結果、アンテナ装置102においては、スロット25~28の夫々において、中心点35pと交わる点は、中心点35pを中心とし、半径を距離Dとする地板20のおもて面の理論上の円において、90°毎に配置されることになる。
【0070】
ここで、アンテナ装置100~102の夫々の仰角0°~60°までの平均利得の計算結果は、3.63dB、3.72dB、及び3.67dBであり、全て、アンテナ装置Aの仰角0°~60°までの平均利得(2.99dB)より大きい。
【0071】
また、
図14は、スロット無し(アンテナ装置A)、アンテナ装置100~102の夫々において、仰角(横軸)と、利得(縦軸)との関係を示す図である。
図14において、点線は、スロット無し(アンテナ装置A)の波形であり、実線、一点鎖線、及び二点鎖線の夫々は、アンテナ装置100~102の波形である。
【0072】
図14に示すように、高仰角において、アンテナ装置100~102の夫々の利得は、アンテナ装置Aの利得より大きい。そして、アンテナ装置100~102の夫々の利得は、天頂角から仰角が大きくなるにつれて、徐々に小さくなる。したがって、スロット25~28の配置を変更したアンテナ装置100~102を用いた場合であっても、アンテナ装置100~102の高中仰角の平均利得を改善し、理想的な指向性を得ることができる。
【0073】
==スロットの数を変更した場合==
ここでは、地板20に設けるスロットの数を変更した場合について説明する。なお、ここでは、スロットの数以外のアンテナ装置の各種条件(例えば、スロットの長さL,長さWやパッチアンテナ30のサイズ等)は、上述した所定条件と同じである。
【0074】
図15は、1つのスロットを有するアンテナ装置110の平面図である。アンテナ装置110には、スロット25~28のうち、スロット26のみが設けられている。
図16~
図18は、2つのスロットを有するアンテナ装置111~113の平面図である。
【0075】
図16のアンテナ装置111には、スロット25~28のうち、+X方向において隣り合うスロット25,26が設けられている。
図17のアンテナ装置112には、スロット25~28のうち、+Y方向において隣り合うスロット26,27が設けられている。
【0076】
また、
図18のアンテナ装置113には、スロット25~28のうち、放射素子35の中心点35pを介して向かい合うよう、スロット26,28が設けられている。
【0077】
図19は、3つのスロットを有するアンテナ装置114の平面図である。アンテナ装置114には、スロット25~28のうち、3つのスロット26~28が設けられている。
【0078】
以下の表は、スロットの数と、アンテナ装置の仰角0°~60°までの平均利得の計算結果との関係を示す表である。この表から明らかなように、スロットが無い場合(アンテナ装置A)の仰角0°~60°までの平均利得より、少なくとも一つスロットを有するアンテナ装置の平均利得は大きくなる。
【0079】
【0080】
図20は、スロット無し、アンテナ装置110,111,114の夫々において、仰角(横軸)と、利得(縦軸)との関係を示す図である。
図20において、点線は、スロット無し(アンテナ装置A)の波形であり、実線、一点鎖線、及び二点鎖線の夫々は、アンテナ装置110,111,114の波形である。なお、ここでは、スロットの数が2つのアンテナ装置111~113のうち、便宜上、アンテナ装置111を図示している。
【0081】
図20に示すように、高仰角において、アンテナ装置110,111,114の夫々の利得は、アンテナ装置Aの利得より大きい。そして、アンテナ装置110,111,114の夫々の利得は、天頂角から仰角が大きくなるにつれて、徐々に小さくなる。したがって、アンテナ装置のパッチアンテナ30の周囲に少なくとも一つスロットを設けることにより、アンテナ装置の高中仰角の平均利得が改善され、指向性を向上するすることができる。
【0082】
<<<他の実施形態>>>
ここで、2つの周波数帯の電波を受信するアンテナ装置に対し、スロットを設けた場合の一例について説明する。
【0083】
図21は、2つの周波数帯の電波を受信するアンテナ装置200の平面図を示す図である。アンテナ装置200は、円形状の地板300と、パッチアンテナ400と、を含んで構成される。
【0084】
地板300は、直径が直径1mの円形の金属板である。地板300の略中央には、パッチアンテナ400が設けられ、パッチアンテナ400の周囲にはスロット310~313が設けられている。スロット310~313は、スロット25と同様に、長手方向の長さがL,短手方向の長さがWの四辺形を有した開口(孔)である。なお、スロット310~313の詳細については後述する。
【0085】
パッチアンテナ400は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)に用いられる1.2GHz及び1.6GHzの周波数帯の電波を受信するアンテナである。GNSS用のパッチアンテナ400としては、一般的な2段パッチアンテナを用いることができるため、ここでは、パッチアンテナ400の詳細な構成の説明は省略する。また、パッチアンテナ400は、パッチアンテナ30が地板20に取り付けられた構成と同様の構成を用い、地板300に取り付けられている。
【0086】
なお、
図21では、パッチアンテナ400に含まれる2つの放射素子(1.2GHz用の放射素子、及び1.6GHz用の放射素子)のうち、便宜上、1.2GHz用の放射素子410のみを符号を付している。
【0087】
スロット310は、略四辺形の放射素子410の中心点410pから、+X方向に距離D10だけ離れた位置に形成されている。また、本実施形態では、スロット310の2つの長手方向の辺のうち、放射素子410側の辺の中点が、中心点410pから、+X方向に延びる軸上にあるよう、スロット310が地板300に設けられる。
【0088】
なお、本実施形態では、中心点410pは、XY平面におけるパッチアンテナ400の中心と一致するよう、パッチアンテナ400は設計されている。このため、「パッチアンテナ400の中心」も中心点410pになる。
【0089】
スロット311~313は、スロット310と同様に、地板300に形成されている。具体的には、スロット311は、放射素子410の中心点410pから、+Y方向に距離D11だけ離れた位置に設けられ、スロット312は、放射素子410の中心点410pから、-X方向に距離D12だけ離れた位置に設けられる。また、スロット313は、放射素子410の中心点410pから、-Y方向に距離D13だけ離れた位置に設けられる。
【0090】
詳細は後述するが、アンテナ装置200では、アンテナ装置10と同様に、例えば、スロット310~313の長さLと、距離D10~13と、を調整することにより、パッチアンテナ400が受信する電波の指向性を改善できる。
【0091】
==アンテナ装置B(スロットが無い場合)==
ここでは、まず、アンテナ装置200の比較例のアンテナ装置(以下、アンテナ装置Bと称する。)の利得を計算した。なお、アンテナ装置B(不図示)とは、アンテナ装置200において、4つのスロット310~313が設けられていないものである。
【0092】
図22は、アンテナ装置Bにおける周波数と、利得との関係を示す図である。
図22に示すように、アンテナ装置Bの利得は、1.2GHz付近と、1.6GHz付近とで大きくなっている。したがって、このようなアンテナ装置Bを用いることにより、GNSS用の2つの周波数帯(1.2GHz帯、1.6GHz帯)の電波を受信できる。
【0093】
以下、本実施形態では、GNSS用の2つの周波数帯のうち、1.2GHz帯の周波数を、「第1周波数帯」と称し、1.6GHz帯の周波数を「第2周波数帯」と称する。
【0094】
==アンテナ装置200a==
アンテナ装置200aは、第1周波数帯の電波の利得を、より高くできるアンテナ装置200の一形態である。アンテナ装置200aでは、スロット310~313の夫々の長さLを、第1周波数帯の使用波長の略2分の1とし、長さWを、長さLより十分短い長さとする。
【0095】
ここで、第1周波数帯の使用波長は、例えば、第1周波数帯の中心周波数(例えば、略1246MHz)に対応する波長である。このため、ここでの使用波長λは、略240mmとなるため、長さLは、略120mmとなる。
【0096】
また、本実施形態では、長さWを、例えば5mmとしているが、120mmより十分短く、かつ、スロット310~313が、第1周波数帯の電波を放射(または、反射)できる長さであればこれに限られない。
【0097】
また、アンテナ装置200aでは、距離D10~D13の夫々を、例えば、第1周波数帯の使用波長の略2分の1の長さ(120mm)としている。なお、距離D10~D13は、同じであることとしているが、これに限られず、
図9で説明したよう、使用波長の略4分の1~略4分の3の範囲内にあれば良い。
【0098】
図23は、アンテナ装置200aの周波数と、利得との関係を示す図である。
図23に示すように、アンテナ装置200aにおいては、1.2GHz帯の利得が、1.6GHz帯の利得より大きくなっている。
【0099】
また、
図24は、アンテナ装置200aの仰角(横軸)と、利得(縦軸)との関係を示す図である。
図24において、点線は、スロット無し(アンテナ装置B)の波形であり、実線は、アンテナ装置200aの波形である。
【0100】
図24に示すように、高仰角において、アンテナ装置200aの利得は、アンテナ装置Bの利得より大きい。そして、アンテナ装置200aの利得は、天頂角から仰角が大きくなるにつれて、徐々に小さくなる。また、アンテナ装置200aの仰角0°~60°までの平均利得の計算結果は、1.64dBであり、アンテナ装置Bの仰角0°~60°までの平均利得(0.6dB)より大きい。
【0101】
したがって、アンテナ装置200aのパッチアンテナ400の周囲に、第1周波数帯の使用波長に応じた長さLのスロット310~313を設けることにより、第1周波数帯の高中仰角の平均利得が改善され、指向性を向上することができる。
【0102】
==アンテナ装置200b==
アンテナ装置200bは、第2周波数帯の電波の利得をより高くできるアンテナ装置200の一形態である。アンテナ装置200bでは、スロット310~313の夫々の長さLを、第2周波数帯の使用波長の略2分の1とし、長さWを、長さLより十分短い長さとする。
【0103】
ここで、第2周波数帯の使用波長は、例えば、第2周波数帯の中心周波数(例えば、略1602MHz)に対応する波長である。このため、ここでの使用波長λは、略187mmとなるため、長さLは、略94mmとなる。
【0104】
また、本実施形態では、長さWを、例えば5mmとしているが、94mmより十分短く、かつ、スロット310~313が、第2周波数帯の電波を放射(または、反射)できる長さであればこれに限られない。
【0105】
また、アンテナ装置200bでは、距離D10~D13の夫々を、例えば、第2周波数帯の使用波長の略2分の1の長さ(94mm)としている。なお、距離D10~D13は、同じであることとしているが、これに限られず、
図9で説明したよう、使用波長の略4分の1~略4分の3の範囲内にあれば良い。
【0106】
図25は、アンテナ装置200bの周波数と、利得との関係を示す図である。
図25に示すように、アンテナ装置200bにおいては、1.6GHz帯の利得が、1.2GHz帯の利得より大きくなっている。
【0107】
また、
図26は、アンテナ装置200bの仰角(横軸)と、利得(縦軸)との関係を示す図である。
図26において、点線は、スロット無し(アンテナ装置B)の波形であり、実線は、アンテナ装置200bの波形である。
【0108】
図26に示すように、高仰角において、アンテナ装置200bの利得は、アンテナ装置Bの利得より大きい。そして、アンテナ装置200bの利得は、天頂角から仰角が大きくなるにつれて、徐々に小さくなる。また、アンテナ装置200bの仰角0°~60°までの平均利得の計算結果は、2.29dBであり、アンテナ装置Bの仰角0°~60°までの平均利得(1.35dB)より大きい。
【0109】
したがって、アンテナ装置200bのパッチアンテナ400の周囲に、第2周波数帯の使用波長に応じた長さLのスロット310~313を設けることにより、第2周波数帯の高中仰角の平均利得が改善され、指向性を向上することができる。
【0110】
==アンテナ装置200c==
アンテナ装置200cは、第1及び第2周波数帯の電波の利得をより高くできるアンテナ装置200の一形態である。アンテナ装置200cでは、スロット310~313のうち、例えばスロット310,311の夫々の長さLを、第1周波数帯の使用波長の略2分の1(略120mm)とする。そして、スロット312,313の夫々の長さLを、第1周波数帯の使用波長の略2分の1(略94mm)とする。また、スロット310~313を、上述した長さLより十分短い長さ(例えば、5mm)とする。
【0111】
また、アンテナ装置200cでは、距離D10~D13のうち、距離D10,D11を、第1周波数帯の使用波長の略2分の1の長さ(略120mm)とし、距離D12,D13を、第2周波数帯の使用波長の略2分の1の長さ(略94mm)とする。
【0112】
なお、
図21では、便宜上、スロット310~313の長さLは全て同じ長さで描いているが、アンテナ装置200cにおいては、スロット310,311の長さLは、スロット312,313の長さLより長い。同様に、距離D10~D13のうち、距離D10,D11は、距離D12,13より長い。
【0113】
図27は、アンテナ装置200cの周波数と、利得との関係を示す図である。
図27に示すように、アンテナ装置200bにおいては、1.6GHz帯の利得、及び1.2GHz帯の利得は、
図22と比較すると大きくなっている。例えば、略1240MHzにおける周波数の利得は、
図22では、略3.50dBであるのに対し、
図27では、略3.75dBとなっている。
【0114】
図28は、アンテナ装置200cの第1周波数帯の仰角(横軸)と、利得(縦軸)との関係を示す図である。
図28において、点線は、スロット無し(アンテナ装置B)の波形であり、実線は、第1周波数帯の波形である。
【0115】
図28に示すように、高仰角において、アンテナ装置200cの利得は、アンテナ装置Bの利得より大きい。そして、アンテナ装置200cの利得は、天頂角から仰角が大きくなるにつれて、徐々に小さくなる。また、アンテナ装置200cの仰角0°~60°までの平均利得の計算結果は、1.11dBであり、アンテナ装置Bの仰角0°~60°までの平均利得(0.60dB)より大きい。
【0116】
図29は、アンテナ装置200cの第2周波数帯の仰角(横軸)と、利得(縦軸)との関係を示す図である。
図29において、点線は、スロット無し(アンテナ装置B)の波形であり、実線は、第2周波数帯の波形である。
【0117】
図29に示すように、高仰角において、アンテナ装置200cの利得は、アンテナ装置Bの利得より大きい。そして、アンテナ装置200cの利得は、天頂角から仰角が大きくなるにつれて、徐々に小さくなる。また、アンテナ装置200cの仰角0°~60°までの平均利得の計算結果は、1.73dBであり、アンテナ装置Bの仰角0°~60°までの平均利得(1.35dB)より大きい。
【0118】
したがって、アンテナ装置200cのパッチアンテナ400の周囲に、第1周波数帯の使用波長に応じた長さLのスロット310,311と、第2周波数帯の使用波長に応じた長さLの312,313と、を設けることにより、第1及び第2周波数帯の指向性を改善することができる。
【0119】
==金属部==
上述したアンテナ装置10,200では、スロットは、地板20,300に形成されることとしたが、この限りではない。例えば、アンテナ装置10のパッチアンテナ30の周囲に設けられた、地板20とは別の金属部に対し、上述した無給電のスロットを少なくとも一つ形成しても良い。例えば、パッチアンテナ30が樹脂上に設けられ、スロットを設けた金属部(例えば、金属板)をパッチアンテナ30の周囲に少なくとも一つ設けるようにしてもよい。この場合でも、そのスロットは無給電となる。このように、地板20または金属部を用いることにより、パッチアンテナ30の周囲にスロットが設けられると、パッチアンテナ30を含むアンテナ装置の高中仰角の平均利得が改善され、指向性は向上することになる。
【0120】
==スロットの配置方向==
また、例えばアンテナ装置10において、スロット25~28の夫々の長手方向は、円Cの点P1~P4の接線に対して平行となるよう配置することとしたが、これに限られない。アンテナ装置10では、スロット25~28の夫々の長手方向は、円Cの点P1~P4の接線に対して平行にならない場合であっても、アンテナ装置10の指向性を改善できる方向であれば良い。
【0121】
<<<<まとめ>>>>
以上、本実施形態のアンテナ装置について説明した。例えば、アンテナ装置112では1/4~3/4の範囲、パッチアンテナ30の周囲に、一つのスロット26が設けられている。このような場合、スロット26は、アンテナ装置112の高仰角の利得を増加させつつ、指向性を改善できる。また、アンテナ装置112では、スロット26は、地板20に設けられているが、上述した地板20とは異なる金属部に設けられていても良い。このような場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0122】
また、本実施形態のアンテナ装置10では、パッチアンテナ30の周囲の地板20にスロットが設けられることとしたが、対象となるアンテナは、パッチアンテナでなくても良い。例えば、板状アンテナや、線状アンテナの周囲にスロットを設けても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0123】
また、本実施形態において、スロットは、パッチアンテナ30の周囲において、パッチアンテナ30の中心から、パッチアンテナ30の指向性が改善することができる範囲内(以下、「所定の範囲内」と称する。)に設けられる。なお、「所定の範囲」は、例えば、パッチアンテナ30が受信する電波(信号)の使用波長、地板の面積、パッチアンテナ30の構造等に基づいて定まる。
【0124】
また、アンテナ装置10は、アンテナとして、誘電体部材34、及び放射素子35を含むパッチアンテナ30を有している。このような、パッチアンテナ30の周囲にスロットを設けることにより、アンテナ装置10の高中仰角の平均利得を増加させつつ、指向性を向上することができる。
【0125】
また、例えばスロット25の形状は、長手方向の長さL、短手方向の長さWの四辺形である。例えば、スロットの形状として、楕円や十字の形状を用いることもできるが、四辺形とすることで地板20を容易に加工できる。
【0126】
また、例えばスロット25~28の長手方向の長さLは、使用波長λの略2分の1である。スロット25~28の長さLをこのような長さとすることで、例えば
図7に示したように、アンテナ装置10の高中仰角の平均利得をより増加させつつ、指向性を向上できる。
【0127】
また、アンテナ装置10では、スロット25~28を、
図9に示すように、中心点35p(パッチアンテナ30の中心)から、使用波長λの略4分の1以上、略4分の3の以下の位置に設けている。このため、このような範囲にスロット25~28を設けることにより、スロットが無い場合と比較して、アンテナ装置10の高中仰角の平均利得を改善し、指向性を向上することができる。
【0128】
また、
図1、及び
図16~
図19に示すように、アンテナ装置10は、複数のスロットを有することにより、高中仰角の平均利得を改善し、指向性を向上することができる。
【0129】
また、パッチアンテナ30は、衛星デジタル音声ラジオサービスの衛星信号を受信するアンテナである。このようなパッチアンテナ30の周囲に、本実施形態のスロットを設けることによって、パッチアンテナ30は衛星信号をより精度良く受信することができる。
【0130】
なお、本実施形態では、パッチアンテナ30の中心が、中心点35pと一致することとしたが、両者は異なっていても良い。そのような場合、パッチアンテナ30の中心を、距離Dの始点とし、スロット設置しても良い。
【0131】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0132】
10,100~102,110~114,200,200a~200c アンテナ装置
20,300 地板
21 台座部
25~28,310~313 スロット
30,400 パッチアンテナ
31,33 パターン
31a 回路パターン
31b グランドパターン
32 回路基板
34 誘電体部材
35 放射素子
35a~35d 辺
35p,410p 中心点
40 シールドカバー
41 貫通孔
42 給電線
43a 給電点
45 同軸ケーブル
45a 信号線
45b 編組
45c はんだ