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特開2022-129451炭素系耐熱パイプ及びその製造方法並びにこれを使用した炉内温度検知装置
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  • 特開-炭素系耐熱パイプ及びその製造方法並びにこれを使用した炉内温度検知装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129451
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】炭素系耐熱パイプ及びその製造方法並びにこれを使用した炉内温度検知装置
(51)【国際特許分類】
   B29D 23/00 20060101AFI20220830BHJP
   G01K 1/14 20210101ALI20220830BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20220830BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20220830BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B29D23/00
G01K1/14 L
C04B35/80
C04B35/52
C04B41/87 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028115
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】310013299
【氏名又は名称】國友熱工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】坪田 輝一
(72)【発明者】
【氏名】上島 康嗣
【テーマコード(参考)】
2F056
4F213
【Fターム(参考)】
2F056CL13
4F213AA37
4F213AC03
4F213AD02
4F213AD16
4F213AG03
4F213AG08
4F213AP05
4F213AR06
4F213WA16
4F213WA17
4F213WA57
4F213WA58
4F213WA92
4F213WB01
(57)【要約】
【課題】耐熱性や耐蝕性、化学的安定性に優れた炭素系耐熱パイプを提供する。
【解決手段】炭素系耐熱パイプは、パイプ基材1と、その外周面に被覆した耐熱性保護層2とを備えている。パイプ基材1は、炭素繊維の糸状材等を巻き付けるワイディング法によって作られており、肉部内にフェノール樹脂が含浸している。第1焼成工程によってフェノール樹脂を焼失させ、次いで、パイプ基材1の空隙にリン酸アルミニウム14を充填して第2焼成工程を行い、次いで、アルミナ系等のセメントより成る内層7と水ガラス(及び硼砂の混合物)より成る外層8とを形成する。第1、第2の焼成は500~600℃程度でよいため、パイプ基材1を構成する炭素繊維をグラファイト化することなく(従ってコストを抑制しつつ)、リン酸アルミニウムと保護層2とにより、高い耐蝕性、化学的安定性、形態安定性を確保できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維から成るシート材又はテープ材若しくは糸状材を素材として中空に加工されてフェノール樹脂が含浸したパイプ基材を作る基礎工程と、
前記フェノール樹脂が焼失することなく固化する温度で前記パイプ基材を焼成する保形工程と、
前記保形されたパイプ基材の少なくとも外表面にセラミック系耐熱性保護層を設ける保護層形成工程とを含んでいる、
炭素系耐熱パイプの製造方法。
【請求項2】
炭素繊維から成るシート材又はテープ材若しくは糸状材を素材として中空に加工されてフェノール樹脂が含浸したパイプ基材を作る基礎工程と、
前記フェノール樹脂が焼失する温度で前記パイプ基材を焼成する保形工程と、
前記フェノール樹脂の焼失によって生じた空隙に流動性の耐熱充填材を充填してから焼成する緻密化工程と、
前記緻密化されたパイプ基材の少なくとも外表面にセラミック系耐熱性保護層を設ける保護層形成工程と含んでいる、
炭素系耐熱パイプの製造方法。
【請求項3】
前記耐熱充填材はリン酸アルミニウム又はこれを主体としている一方、
前記セラミック系耐熱性保護層は、セメント又はこれを主体にした材料から成るなる内層と、水ガラス又はこれを主体にした混合物より成る外層とを有しており、前記内層と外層とは、不定形の材料を被覆してから乾燥させる工程を経て形成されている、
請求項2に記載した炭素系耐熱パイプの製造方法。
【請求項4】
前記基礎工程は、素材を心材に巻き付けてパイプ状化するワイディング法を有しており、フェノール樹脂が塗布された素材を心材に巻き付けていくか、心材に巻き付けられる素材にフェノール樹脂を塗布するか、若しくは、前記心材に巻かれてパイプ化した素材にフェノール樹脂を含浸させるかのいずれかの方法であり、
前記心材に巻かれた状態のまま前記保形工程が成される、
請求項1~3のうちのいずれかに記載した炭素系耐熱パイプの製造方法。
【請求項5】
粉状の炭素繊維とフェノール樹脂とを混練した不定形材料を型に入れて硬化させることよってパイプ基材を作る基礎工程と、
前記フェノール樹脂が焼失することなく固化する温度で前記パイプ基材を焼成するか、又は前記フェノール樹脂が焼失する温度で焼成する保形工程と、
前記保形されたパイプ基材の少なくとも外表面にセラミック系耐熱性保護層を設ける保護層形成工程とを含んでおり、
前記保形工程を前記フェノール樹脂が焼失する温度で行った場合は、前記保護層形成工程の前に、前記フェノール樹脂の焼失によって生じた空隙に流動性の耐熱充填材を充填してから焼成する緻密化工程が入っている、
炭素系耐熱パイプの製造方法。
【請求項6】
炭素繊維からなるパイプ基材の外表面に、セラミック系耐熱材より成る耐熱性保護層が形成されている炭素系耐熱パイプであって、
前記炭素繊維はグラファイト化することなく素材の状態が維持されており、
前記パイプ基材を構成する炭素繊維間の空隙が、焼成されたフェノール樹脂によって埋められているか、又は、焼成されたリン酸アルミニウム又は他の耐熱性充填材によって埋められている一方、
前記耐熱性保護層は、セメント又はこれを主体にした内層と、水ガラス又はこれを主体にした混合物より成る外層とを含んでいる、
炭素系耐熱パイプ。
【請求項7】
焼却炉又は加熱炉若しくは他の炉に使用する温度検出装置であって、
熱電対が内蔵された金属製のインナー保護管と、前記インナー保護管の全体又は大部分を覆うアウター保護管とを有し、前記アウター保護管が請求項1~6のうちのいずれかに記載した炭素系耐熱パイプから成っている、
炉内温度検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、炭素系耐熱パイプ及びその製造方法並びにこれを使用した炉内温度検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼却炉や真空浸炭炉、ガス浸炭炉、焼成炉、焼入れ用加熱炉、各種ボイラー、高炉、転炉、真空脱ガス炉、ロータリーキルンのように内部が高温になる炉類において、内部温度を管理するための温度センサが使用されている。炉用の温度センサには、保護管(シース管)内に絶縁体を介して測温素線が配置されたシース熱電対が多用されている。
【0003】
保護管の長さは炉の大きさや種類によってまちまちであり、長いものは2m以上になる。そこで、保護管には強度と高い耐熱性と耐蝕性とが要求されており、この要求に応えるため、ステンレスやインコネル系特殊鋼などが使用されているが、熱ショックによる破損や炉内のガスによる腐食、炉内のガスとの反応による破損などのトラブルが後を絶たず、耐久性は低いのが現状である。
【0004】
これについて対策が考えられており、その例として特許文献1には、保護管を、金属製の内部管と黒鉛製の外部との2層方式に構成して、内部管に絶縁体を介して測温素線を配置することが開示されている。他方、特許文献2には、温度センサをアクチェータによって炉内に挿脱する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-189616号公報
【特許文献2】特許第6010675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
黒鉛は耐熱性及び化学的安定性に優れるため、特許文献1の構成を採用すると、熱ひずみによる破損や化学反応による破損、腐食を大幅に抑制できると云えるが、黒鉛は衝撃に弱いため、運搬等に際して外部からの衝撃によって破損しやすくなる問題が懸念される。また、黒鉛製の筒の製造も容易ではないと推測される。
【0007】
他方、特許文献2は、温度センサの露出時間を短くして過酷な環境からできるだけ保護しようとするものであるが、連続的な測温が必要な炉には適用できない問題や、シール性を確保しつつ温度センサをスライドさせる構造が複雑化してコストが嵩む問題、或いは、既存の炉にそのままは適用することができないという問題があり、汎用性に欠けると云える。
【0008】
本願発明はこのような状況を契機として成されたものであり、強度と耐熱性と耐蝕性とに優れて汎用性が高い炭素系耐熱パイプを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は様々な構成を含んでおり、その典型例を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は炭素系耐熱パイプの製法に係るもので、
「炭素繊維から成るシート材又はテープ材若しくは糸状材を素材として中空に加工されてフェノール樹脂が含浸したパイプ基材を作る基礎工程と、
前記フェノール樹脂が焼失することなく固化する温度で前記パイプ基材を焼成する保形工程と、
前記保形されたパイプ基材の少なくとも外表面にセラミック系耐熱性保護層を設ける保護層形成工程とを含んでいる」
という構成になっている。
【0010】
請求項1の発明の具体例として、
「前記セラミック系耐熱性保護層は、アルミナ系セメント層に水ガラス層とリン酸アルミニウム層とのうち少なくも一方が重なった積層構造になっており、水で混練したアルミナ系セメントを前記パイプ基材に塗布してから乾燥固化させ、次いで、水ガラス又はリン酸アルミニウムを塗布し乾燥させるか、又は、水ガラスの塗布乾燥とリン酸アルミニウムの塗布乾燥とをいずれかの順序で行い、次いで、炉内で加熱して前記アルミナ系セメントと水ガラス及び/又はリン酸アルミニウムとを焼成して前記耐熱性保護層に形成している」
という構成を採用できる。
【0011】
水ガラスは珪酸ナトリウム(珪酸ソーダ)を主成分にしており、様々なバリエーションがあるが、いずれのタイプも使用できる。水ガラス層とリン酸アルミ層とを設ける場合、いずれをアルミナ系セメントに重ねてもよい。また、水ガラスには硼砂(の水溶液)を添加してもよい。セメントは、樹脂バイダー系のものも使用できる。
【0012】
請求項2の発明は炭素系耐熱パイプの製法に関する独立した発明であり、
「炭素繊維から成るシート材又はテープ材若しくは糸状材を素材として中空に加工されてフェノール樹脂が含浸したパイプ基材を作る基礎工程と、
前記フェノール樹脂が焼失する温度で前記パイプ基材を焼成する保形工程と、
前記フェノール樹脂の焼失によって生じた空隙に流動性の耐熱充填材を充填してから焼成する緻密化工程と、
前記緻密化されたパイプ基材の少なくとも外表面にセラミック系耐熱性保護層を設ける保護層形成工程と含んでいる」
という構成になっている。
【0013】
請求項3の発明は請求項2を具体化したものであり、
「前記耐熱充填材はリン酸アルミニウム又はこれを主体としている一方、
前記セラミック系耐熱性保護層は、セメント又はこれを主体にした材料から成るなる内層と、水ガラス又はこれを主体にした混合物より成る外層とを有しており、前記内層と外層とは、不定形の材料を被覆してから乾燥させる工程を経て形成されている」
という構成になっている。
【0014】
セメントは、耐熱性の確保の点から、バインダとしてムライト等のアルミナ系材料(無機物)を添加したもの(アルミナ系セメント)が好適であるが、フェルノール系等の有機系バインダーを混合したものも使用可能である。他方、外層は内層に亀裂が入った場合にこれを封止してガスバリア性を確保するためのものであり、水ガラスと他の材料との混合物を使用する場合、添加材料として硼砂を使用できる。すなわち、硼砂の水溶液(飽和水溶液が好ましい)を水ガラスに混ぜて使用できる。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1~3のうちのいずれかにおいて、
「前記基礎工程は、素材を心材に巻き付けてパイプ状化するワイディング法を有しており、フェノール樹脂が塗布された素材を心材に巻き付けていくか、心材に巻き付けられる素材にフェノール樹脂を塗布するか、若しくは、前記心材に巻かれてパイプ化した素材にフェノール樹脂を含浸させるかのいずれかの方法であり、
前記心材に巻かれた状態のまま前記保形工程が成される」
という構成になっている。
【0016】
請求項1~4の発明は、炭素系耐熱パイプの素材として炭素繊維よりなるシート材又はテープ材若しくは糸状材を使用したが、請求項5の発明は粉状(短繊維状も含む)の炭素繊維を使用してパイプ基材を製造している。
【0017】
すなわち、請求項5の発明は、
「粉状の炭素繊維とフェノール樹脂とを混練した不定形材料を型に入れて硬化させることよってパイプ基材を作る基礎工程と、
前記フェノール樹脂が焼失することなく固化する温度で前記パイプ基材を焼成するか、又は前記フェノール樹脂が焼失する温度で焼成する保形工程と、
前記保形されたパイプ基材の少なくとも外表面にセラミック系耐熱性保護層を設ける保護層形成工程とを含んでおり、
前記保形工程を前記フェノール樹脂が焼失する温度で行った場合は、前記保護層形成工程の前に、前記フェノール樹脂の焼失によって生じた空隙に流動性の耐熱充填材を充填してから焼成する緻密化工程が入っている」
という構成になっている。
【0018】
請求項6の発明は炭素系耐熱パイプに係るもので、この発明は、
「炭素繊維からなるパイプ基材の外表面に、セラミック系耐熱材より成る耐熱性保護層が形成されている炭素系耐熱パイプであって、
前記炭素繊維はグラファイト化することなく素材の状態が維持されており、
前記パイプ基材を構成する炭素繊維間の空隙が、焼成されたフェノール樹脂によって埋められているか、又は、焼成されたリン酸アルミニウム又は他の耐熱性充填材によって埋められている一方、
前記耐熱性保護層は、セメント又はこれを主体にした内層と、水ガラス又はこれを主体にした混合物より成る外層とを含んでいる」
という構成になっている。
【0019】
本願発明の炭素系耐熱パイプは様々な用途に使用できるが、請求項7では、炉内温度検知装置に使用している。すなわち、請求項7の発明は、
「焼却炉又は加熱炉若しくは他の炉に使用する温度検出装置であって、
熱電対が内蔵されたインナー保護管と、前記インナー保護管の全体又は大部分を覆うアウター保護管とを有し、前記アウター保護管が請求項1~6のうちのいずれかに記載した炭素系耐熱パイプから成っている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1,2では、炭素系耐熱パイプは炭素繊維より成るシート材又はテープ材若しくは糸状材で構成されているため、耐衝撃性に優れて極めて強靱であり、長さが長くても形態の安定性に優れている。更に述べると、パイプ基材は炭素繊維がグラファイト化するような温度には焼成されていないため、フェノール樹脂又はリン酸アルミニウムによる保形機能が維持される。従って、コストを抑制しつつ、高い強度を保持できる。炭素の特性として熱膨張率が著しく低いため、熱ひずみによる破損の問題も生じない。また、フェノール樹脂は耐熱性に優れた熱硬化性樹脂であるため、パイプ基材の保形機能に優れている。
【0021】
また、パイプ基材の表面には化学的に安定なセラミック系耐熱材による成る耐熱性保護層が形成されているため、請求項7のような炉内温度検知装置に使用しても、腐食性ガスや反応性ガスがパイプ基材を透過してパイプ基材の内部に入り込むことを防止・抑制して、温度測定装置のセンサ部材を熱とガスからしっかりと保護できる。
【0022】
また、耐熱性保護層はセラミック系耐熱材から成っていて耐磨耗性にも優れているため、熱風に晒されても損傷するようなことはなく、耐久性向上に貢献できる。請求項2では、充填材が焼成されていて高い強度を有するため、外径が数mm~12mm前後で長さが500mm以上のように細くて長いものであっても、真直性・形態安定性に優れている。請求項1でも、耐熱性保護層にリン酸アルミニウムを使用して焼成するなどして耐熱性保護層に補強機能を持たせることにより、高い真直性・形態安定性を確保でき。
【0023】
このように、請求項1,2の発明によると、耐熱性、耐蝕性、化学的安定性(非反応性)、耐衝撃性、耐磨耗性・形態安定性に優れて耐久性が高い炭素系耐熱パイプを提供することができる。
【0024】
炭素繊維より成るシート材又はテープ材若しくは糸状材を素材としてパイプ基材を作ることは、請求項4のように、シートワイディング法やテープワイディング法、フィラメントワイディング法によって容易に行える。従って、加工上の問題はなくて現実性に優れている。各方法はそれぞれ特色があるので、どの素材を使用するかは、炭素系耐熱パイプの直径や長さなどに応じて選択したらよい。
【0025】
請求項4では、パイプ基材が心材に巻かれた状態で焼成されるが、心材によって形態が安定した状態でフェノール樹脂が固化するため、炭素系耐熱パイプの真直性・形態安定性を向上できる。従って、例えば長さが数百mm以上あるような炭素系耐熱パイプの場合、特に真価を発揮して高い品質を確保できると云える。
【0026】
セラミック系の耐熱性保護層には様々の材料を使用できるが、既述したように、請求項1の具体例として、アルミナ系等のセメントと水ガラス又は/及びリン酸アルミニウムとの積層構造を採用すると、セメントによってパイプ基材との接着性と強度(耐衝撃性、剛性、真直性・形態安定性)とを保持しつつ、水ガラス又は/及びリン酸アルミニウムによってガスの透過を遮断できるため、特に好適である。樹脂バインダーを混合したセメントを使用した場合も、同様の効果が期待できる。
【0027】
例えば一般的な焼却炉の使用温度は900℃程度であるが、水ガラスは730~780℃程度で軟化するため、温度変化に伴う膨張・収縮等によってセメントに亀裂が入っても、水ガラスが溶融して亀裂を埋めることによってガスの流入を阻止できる。従って、900℃程度以下の環境で使用される場合は、セメント層に水ガラス層のみを重ねて形成するだけで、高いガスバリア性を確保できると云える。
【0028】
他方、水ガラスは1200℃程度まで昇温すると粘度が大きく低下してセメント層の亀裂から流れて出てしまう場合があるが、この場合は、耐熱性保護層の外層として軟化温度が高いリン酸アルミニウムを使用することにより、セメント層の亀裂を埋めることができる。
【0029】
この場合、亀裂修復層としてはリン酸アルミニウムのみを使用してもよいし、セメント層に水ガラス層を重ね形成して、水ガラス層にリン酸アルミ層を重ね形成してもよい。後者の三層構造を採用すると、幅広い温度域の使用に対応できる利点がある。また、水ガラスが外側に流れ出ることをリン酸アルミニウム層によって防止できるため、900℃以上の温度環境下での使用においても有益である。
【0030】
さて、炉の使用温度が600℃を超えると、フェノール樹脂が焼失してしまうことがあり、すると、パイプ基材がポーラス構造になってガスバリア性が低下するおそれがある。この点、請求項2の構成を採用すると、パイプ基材の製造段階で予めフェノール樹脂を焼失させて、フェノール樹脂の焼失によって形成された空洞を耐熱性充填材で埋めているため、耐熱性と高い強度(真直性・形態安定性)とを保持しつつ、高いガスバリア性を確保できる。従って、請求項1の発明と請求項2の発明とは、炉の温度を考慮して選択したらよい。
【0031】
請求項3では、請求項2における耐熱性充填材と耐熱性保護層との材料を特定しているが、充填材であるリン酸アルミニウムは酸性であるため、酸性雰囲気で使用されるときに高い耐蝕性を発揮する。また、リン酸アルミニウムは焼成前の状態で高い流動性を有するため、フェノール樹脂が焼失した空隙への浸透性に優れると共に、焼成に際しても炭素繊維を破壊するようなことはなく、更に、焼成後には高い耐熱性を有している。従って、パイプ基材の保形機能(強度の確保)とガスバリア性とに優れていて好適である。
【0032】
アルミナ系等のセメントと水ガラスとを積層することの利点は既述のとおりであるが、セメントはアルカリ性であるため、アルカリ雰囲気で使用されるときでも高い耐蝕性・ガスバリア性を発揮する。従って、請求項3では、酸性であるリン酸アルミニウムとアルカリ性のセメントとの協働作用により、様々な成分のガスに対して耐蝕性・化学的安定性に優れており、従って、高い汎用性を発揮する。
【0033】
ムライト等のアルミナ系材料が配合されたアルミナ系セメントが高い耐熱性・耐火性を有することはよく知られており、本願請求項3でも、耐熱性確保の点からアルミナ系セメントを使用することは好適であるが、樹脂バインダー等の有機系バインダーを添加したセメントも使用可能である。有機系バインダーは使用環境によっては焼失するが、焼失して残った空隙は水ガラス等よりなる外層で封止できるため、ガスバリア性は確保可能である。
【0034】
内層に亀裂が入った場合に、亀裂を外層で埋めてガスバリア性を確保できることは既に述べたとおりであるが、外層の材料として、水ガラスに硼砂(Na2B4O5(OH)4 ・8H2O)の水溶液を添加した混合物を使用すると、外層を強靱化できて好適である。すなわち、ガラス質と硼砂とが反応して、靱性と耐熱性とに優れたホウケイ酸ガラスが生成されることにより、外層の亀裂を防止又は大幅に抑制できる。その結果、セメントより成る内層のガスバリア性も向上できる。請求項1の具体例及び請求項6の場合も同様である。
【0035】
なお、セメントと水ガラスとは焼成する必要はなく、塗布(被覆)して乾燥させるだけでよい(焼成工程を排除するものではない。)。耐熱性保護層としてリン酸アルミニウムを使用する場合も同様であり、リン酸アルミニウムは水ガラス層やセメント層等の外側に塗布し乾燥させるだけでよいが、焼成を排除するものではない(焼成することが好ましい場合も有り得るであろう。)。
【0036】
請求項5の発明は粉状の炭素繊維をパイプの材料とするもので、金型等の型を使用して成型できるため、量産性に優れている。500mm以下のような短い炭素系耐熱パイプには好適であると云える。このパイプ基材も、請求項1,2と同様に外周面がセラミック系耐熱材から成る耐熱性保護層で覆われているため、2000℃以上の高温で焼成してグラファイト化する必要はなく、それだけコストを抑制できる。
【0037】
請求項6の発明は炭素系耐熱パイプに係るものであり、2000℃以上の焼成によるグラファイト化の工程が不要な炭素系耐熱パイプでありながら、耐熱性や耐蝕性、化学的安定性、ガス遮断性、真直性・形態安定性に優れているため、炉用の温度測定装置などに使用するにおいて、温度測定装置などの交換頻度を低減させて炉の連続操業時間を飛躍的に長くできるため、炉の生産性(稼働効率、処理能力)を大幅に向上できる。
【0038】
この場合、パイプ基材の内部に熱電対(測温部)を直接配置してもよいが、請求項7のように、金属製のインナー保護管の内部に熱電対を配置して、インナー保護管をアウター保護管で覆う構成を採用すると、金属製のインナー保護管によって剛性が確保されるため、細長い形態であっても安定した姿勢を保持できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】(A)は第1実施形態に係る炭素系耐熱パイプの一部破断正面図、(B)は(A)の部分拡大断面図、(C)は(B)のC-C視断面図、(D)~(G)はパイプ基材の加工方法の例を示す図である。
図2】それぞれ加工工程を示す図である。
図3】(A)は用途例として温度測定装置に適用した第2実施形態の縦断面図、(B)は他の構造の温度測定装置に適用した第3実施形態を示す図である。
図4】パイプ基材を成型によって製造する第4実施形態の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(1).第1実施形態の構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1(A)~(C)に示す第1実施形態の構造を説明する。第1実施形態は、基本的には請求項1の具体例として説明するが、請求項1と請求項2とは共通性も高いので、適宜、請求項2の具体例にも言及する。
【0041】
実施形態の炭素系耐熱パイプは、炭素繊維を主体にして作られたパイプ基材1と、その外表面に固着したセラミック系の耐熱性保護層(耐熱性ガスバリア層)2とを備えており、一端はプラグ3で塞がれている(プラグ3は任意的な部材である。)。
【0042】
パイプ基材1は、図1(D)~(G)に示すように、炭素繊維から成る糸状材4又は布状材5若しくはテープ材6を素材として中空に形成されており、肉厚部内に(繊維間の空隙に)フェノール樹脂を含浸させることによってパイプの形状に保形している。
【0043】
すなわち、図1(C)は炭素繊維のみからなる状態を示す模式図であり、簡素繊維間に空隙が存在するが、空隙にフェノール樹脂が充満することにより、図2(D)に模式的に示すように、パイプ基材1は、空隙が全く又は殆ど存在しない密な状態に形成されている。
【0044】
他方、セラミック系の耐熱性保護層2は、パイプ基材1を被覆する内層(補強層)7と、内層7を被覆する外層8との2層構造になっており、内層7はアルミナセメントのような無機系バインダーを使用したセメントや、フェノール樹脂等の有機系バイダーを使用したセメントから成って、外層8は珪酸ナトリウムのような水ガラス(の無水化物)から成っている。セメントは微細な空隙を有するが、外層8は空隙が存在しない水ガラスより成っているため、パイプ基材1の内部にガスが透過することはない。外層8は水ガラスのみで形成してもよいし、水ガラスと硼砂との混合物も使用できる。この場合は、両者が化学反応すると、ホウケイ酸ガラスとして存在している。
【0045】
請求項1の具体例では、外層8としては、水ガラス(又はこれと硼砂との混合物)に代えて、又は水ガラスに加えて、リン酸アルミニウムのような他の水溶性アルミニウム塩なども使用できる。
【0046】
なお、パイプ基材1の寸法(外径・内径・長さ)は、用途に応じて任意に設定できる。例えば、内径5~25mm、長さは数十~1500mm程度に設定できる。図示の例では、パイプ基材1の厚さと耐熱性保護層2の肉厚をほぼ同じ程度に設定しているが、両者の厚さの比率は任意に設定できる。一般に、焼却炉の最高温度は1000℃程度、真空浸炭炉の最高温度は2000℃程度と解されるが、本実施形態の炭素系耐熱パイプはこれらの炉に内部に使用できる耐熱性(熱で溶損しない機能、ヒートショックで破損しない機能)を有している。
【0047】
(2).パイプ基材の製造工程
次に、上記の炭素系耐熱パイプの製法を説明する。この製法は請求項2を具体化したもので、まず、基礎工程として、炭素繊維を素材としてパイプ基材1を製造するが、この方法には、図1(D)に示すように、炭素繊維から成る糸状材4を心材9に巻き付けて編み込み又は織り込んでいくフィラメントワイディング法や、図1(E)に示すように、炭素繊維から成る布状材5を心材9に巻き付けていくテープワイディング法や、炭素繊維から成る布状材5を心材9に巻き付けていくシートワイディング法や、図1(F)(G)に示すように、炭素繊維から成るテープ材6を心材9に巻き付けていくテープワイディング法を採用できる。
【0048】
いずれにしても、炭素繊維層が複層構造になっているのが好ましいが、どの程度の厚さを選択するかは、長さや外径などを考慮して設定したらよい。図1(D)のように多数本の糸状材4を編み込んでいくと、糸状材4が絡み合うため薄くても剛性は高くなると云える。テープワイディング法を採用する場合、図1(F)のように1本のテープ材6を斜め巻きしてもよいし、図1(G)に示すように、複数本のテープ材6をクロスさせながら巻き付けていってもよい。(G)の場合は強度が高くなる。
【0049】
パイプ基材1を製造するに当たって、パイプ形状を保持するため及び炭素繊維間の空隙を埋めるために、図1(G)に例示するようにフェノール樹脂10を含浸させる。含浸の方法としては、a)図1(G)に例示するように、心材9に巻き付けながら液状のフェノール樹脂10をスプレー等で噴霧・塗布する方法、b)糸状材4等の素材を心材9に向けて繰り出しつつ、心材9に巻き付ける前の段階で素材にフェノール樹脂10を塗布(含浸を含む)する方法、c)いったんパイプ基材1を形成してから、これをフェノール樹脂が入れられたタンクに浸漬する方法、といった各種の方法を採用できる。
【0050】
糸状材4等の材料を繰り出しながらこれにフェノール樹脂10を塗布する方法には、スプレーやローラで塗布する方法と、タンクに入れたフェノール樹脂10の液に潜らせる方法とがある。パイプ基材1を作ってからタンクに浸漬してフェノール樹脂を含浸させる場合、パイプの状態を仮保持するために紐等で両端を縛っておくのが好ましい。
【0051】
フェノール樹脂10は熱硬化性であるが、耐熱性が高いと共に接着性にも優れるため、パイプ基材1の保形機能に優れている。フェノール樹脂10としては、常温において液体である熱硬化性のレゾール型が好ましい。
【0052】
フェノール樹脂が含浸したパイプ基材1を製造してから、次の工程として、図2(A)に示すように、加熱炉11によってフェノール樹脂を焼成して固化する第1焼成工程(保形工程)を行う。この第1焼成は、フェノール樹脂を固化してパイプ基材1の形態を保持することが目的であるが、本実施形態では、例えば500~600℃で焼成して、フェノール樹脂を焼失させる(樹脂の性状を無くす。)。
【0053】
フェノール樹脂の焼失により、図2(E)に模式的に示すように、パイプ基材1には空隙が発生するが、フェノール樹脂の全ての成分がガス化して焼失する訳ではなく、炭化した固体成分(炭素成分)が多少は残るため、パイプ基材の保形機能は維持されている。従って、第1焼成の工程後にもパイプ基材1はパイプとしての形態を保持しており、バラバラに解けるようなことはない。なお、請求項1では、第1焼成工程はフェノール樹脂が焼失しない温度(120~130℃程度)で行われる。
【0054】
この第1焼成工程は、パイプ基材1を心材9から抜き外した状態で行うことも可能であるが、パイプ基材1の真直性を確保する点からは、心材9に巻き付けられた状態のままで行うのが好ましい。心材9の両端部を受け材12で支持することにより、パイプ基材1の全体をむらなく加熱して均等に固化できる。なお、第1焼成工程は、酸素が存在しない真空雰囲気下で行うことも可能であるし、大気炉で行うこともできる。
【0055】
第1焼成の後にパイプ基材1を心材9から抜き外すが、抜き外しを容易化する対策(手段)を講じるのが好ましい。例えば、心材9の表面にシリコーン樹脂等の離型剤を塗布しておくことができる。或いは、心材9を薄い紙や樹脂フィルム等の被覆材で被覆しておき、心材9を抜き外してから被覆材を除去することも可能である。更に、心材9を樹脂等の軟質材で筒状に作って、フェノール樹脂の焼成後に心材9を変形させつつ除去するといったことも可能である。
【0056】
更に、心材9を外径が変化する構造に構成して、大径の状態でパイプ基材1を加工してから、フェノール樹脂10の焼成後に小径化して引き抜く方法も採用できる。例えば、心材9を、外周がごく緩いテーパに形成された中心軸と、周方向に隣り合うようにして中心軸を覆う複数本の外側部材とで構成して、外側部材の内面をテーパに形成しておいて、中心軸と外側部材とを軸方向に相対動させることにより、外径を変化させることができる。
【0057】
(3).定寸化~最終工程
フェノール樹脂10を焼失させて(請求項1ではフェノール樹脂を固化して)パイプ基材1を保形してから、図2(B)に示すように両端部13をカットして所定の寸法に揃え、次いで、同じく図2(B)に示すように、パイプ基材1の一端にプラグ(栓)3を装着する。図示のプラグ3はフランジ3aを備えているが、フランジ3aを備えないタイプであってもよい。プラグ3が無くてもよいことは既述のとおりである。
【0058】
プラグ3を設ける場合、その素材は、炭素系耐熱パイプを使用する温度に応じて選択できる。使用環境が1000℃以下の場合は、ステンレスのような金属を使用できる。他方、使用環境が1200℃以上のように金属の軟化温度・溶融温度に近いか高い場合は、炭素製とするのが好ましい。抜け防止手段としては、強制嵌合を採用してもよいし、プラグ3には雄ねじを形成する一方パイプ基材1には雌ねじを形成し、両者を螺合してもよい。或いは、両者の間に接着剤としてフェノール樹脂10を塗布して、フェノール樹脂10を焼成して固化させてもよい。
【0059】
フェノール樹脂の焼失により、パイプ基材1は図2(E)に模式的に示すポーラス構造になるが、次の工程として、図2(F)に示すように、パイプ基材1の外周面に、耐熱性充填材としてのリン酸アルミニウム14を被覆してこれを空隙に浸透させ、次いで、加熱炉11にて第2焼成工程を行ってリン酸アルミニウム14を固化させる。これにより、パイプ基材1は再び緻密な構造になる。第2焼成は400~600℃程度で行われるが、この程度の温度では、パイプ基材1を構成する炭素繊維がグラファイトすることはない。従って、パイプ基材1の靱性は保持されている。
【0060】
そして、フェノール樹脂の焼失によって発生した無数の空隙は互いに連通しているため、リン酸アルミニウムの焼成体は編地のような構造になって一連に繋がっており、リン酸アルミニウムの焼成体とグラファイト化することなく靱性を残した炭素繊維とが絡み合うことにより、パイプ基材1に高い強度とガスバリア性とが付与されている。
【0061】
第2焼成工程の後に、図2(G)に示すように、パイプ基材1の外周面に水で混練した不定形のアルミナ系セメント(主成分:シリカ、アルミナ)を塗布して耐熱性保護層2の内層7を形成し、内層7を自然乾燥又は温風乾燥させる(第1保護層形成工程)。次いで、同じく図2(G)に示すように、内層7の外周面に流体状の水ガラスを塗布してから自然乾燥又は温風乾燥させて、耐熱性保護層2の外層8を形成する(第2保護層形成工程)。アルミナセメント及び水ガラスを塗布するに当たっては、例えば、パイプ基材1を回転させながら塗布しつつ、スキージで余分な部分を掻き取ると、均等な厚さに美麗に仕上げることができると云える。
【0062】
プラグ3がフランジ3aを有する場合、フランジ3aの外周が外層8の外周面と略同一面を成すように設定しておくのが好ましい。耐熱性保護層2の形成工程において、パイプ基材1の内部に耐熱性保護層2の材料が入り込まないように、パイプ基材1の他端に取り外す容易なダミーのプラグを装置しておいてもよい。
【0063】
第1焼成工程を低温で行ってパイプ基材1にフェノール樹脂が残存している場合は、耐熱性保護層2は、アルミナセメントより成る内層7と、水ガラスよりなる中間層と、リン酸アルミニウムより成る中間層との三層構造に構成するのが好ましい。フェノール樹脂を焼失させてリン酸アルミニウムで置換した場合も、耐熱性保護層を上記の3層構造にすることは好ましいことである。
【0064】
アルミナセメント及び水ガラスはアルカリ性であるのに対して、リン酸アルミニウムは強酸性であるため、アルミナセメント層にリン酸アルミニウムを積層したり、水ガラス層にリン酸アルミニウムを積層したりした場合は、アルミナセメントや水ガラスが十分に乾燥していない状態でリン酸シルミニウムを塗布すると化学反応を起こすおそれがあるが、アルミナセメント及び水ガラスが十分に乾燥して無水状態になっていると、化学反応を防止した状態でリン酸アルミニウムを塗布できる。
【0065】
従って、リン酸アルミニウムは必ずしも焼成する必要はなく、塗布し乾燥させた状態のままであっても性質を安定化できる。もとより、リン酸アルミニウムを焼成・固化することは可能であり、その場合、焼成は500~600℃で行ったらよい。いずれにしても、水ガラス層の外側にリン酸アルミウム層を設けると、リン酸アルミニウムは軟化温度が高いため、高温環境下の使用によって水ガラスが軟化しても、外側に漏洩ないように封止して、アルミナセメントの密封機能を保持できる。
【0066】
そして、耐熱性保護層2が形成されて耐熱性とガスバリア性とに優れているため、パイプ基材1は、2000℃以上に焼成して炭素繊維をグラファイト化する必要はない。従って、コストを大幅に抑制しつつ、真っ直ぐで強度・耐熱性・耐蝕性に優れた炭素系耐熱パイプを得ることができる。
【0067】
なお、耐熱性保護層2は、アルミナセメントより成る内層7のみで構成してもよい。或いは、内層7と外層8との積層構造を採用する場合、外層8として、水ガラスに代えてリン酸アルミニウムを使用することも可能である。耐熱性保護層の構造は、使用される環境(温度やガスの性質など)に応じて選択したらよい。
【0068】
図2(F)(G)では、リン酸アルミニウム14の全体がパイプ基材1の内部に浸透しきった状態に描いているが、リン酸アルミニウム14の一部がパイプ基材1に浸透しきらずに、パイプ基材1の外周に層として残ることは有り得る(リン酸アルミニウムの層を積極的に形成して、この層を耐熱性保護層の一部として活用することも可能である。)。
【0069】
外層を構成する水ガラスに硼砂を添加できることは既に述べたが、硼砂の溶解温度878℃であって水ガラスの溶解温度でほぼ同じであるので、外層8の一体性は高くなっている。このことと、両者が反応してホウケイ酸ガラスが生成されることにより、外層8の靱性を高めて高い保護機能を保持できる。
【0070】
本願発明者たちは、硼砂の混合割合と温度による重量変化率とを計測してみた。すなわち、硼砂は飽和水溶液を材料して使用してこれを水ガラスに添加しており、試料を、3Hかけて900℃まで昇温し、900℃で21H保持し、試験前後の重量(乾燥重量)の変化率を調べてみた。
【0071】
その結果、水ガラスと硼砂との混合割合が1:3のときは重量変化率は94%、混合割合が1:4のときは重量変化率は96%、混合割合が1:5のときは重量変化率は94%、混合割合が1:10のときは重量変化率は92%、混合割合が1:0のときは重量変化率は92%であり、重量変化率が92%では亀裂が入りやすい一方、重量変化率が94%を超えると亀裂は見られなかった。硼砂の配合割合が1:3よりも少ない場合も亀裂の発生が見られた。
【0072】
このことから、硼砂の配合割合として概ね1:4のあたりに好適なピークがあり、概ね1:3より大きく1:5より小さい範囲で良い効果を享受できると云える。従って、水ガラスに硼砂を適量添加することは、外層8のガスバリア性を向上させる上で好適である。なお、水に対する硼砂の溶解度は4.7g/100mlであるので、外層8は、重量比(質量比)では水ガラスの成分が遥かに多い。
【0073】
(4).温度測定装置への展開例
図3(A)では、炭素系耐熱パイプを温度測定装置15に適用した第2実施形態を示している。温度測定装置15は、シース熱電対方式の温度センサ16と既述のプラグ3付き炭素系耐熱パイプ1との組み合わせに係るもので、プラグ3が温度測定装置15の先端を構成している。
【0074】
温度センサ16は、金属製のインナー保護管17の内部に絶縁体18を介して2本の測定素線19が配置された構成であり、2本の測定素線19の先端が接合されて測温部20になっている。また、インナー保護管17の基端は、コネクタ付きの蓋21で封止されている。インナー保護管17には、炉22の外壁23に重なるフランジ24が固定されている。
【0075】
そして、インナー保護管17は、既述の炭素系耐熱パイプより成るアウター保護管25で覆われている。アウター保護管25は、その基部がスペーサ26を介してインナー保護管17に固定されており、アウター保護管25とインナー保護管17との間に空間が空いている。
【0076】
なお、アウター保護管25とインナー保護管17との間に複数のスペーサ26を配置すると、インナー保護管17とアウター保護管25とを同心状に確実に保持できて好適である。スペーサ26は金属製であってもよいが、耐熱性やインナー保護管17の熱収縮吸収性等の点から炭素製を採用するのが好ましい。また、フランジ24をアウター保護管25に固定することも可能である。
【0077】
この実施形態では、炉22の内部温度はアウター保護管25を介してインナー保護管17に伝達されるが、インナー保護管17は炭素系耐熱パイプであるアウター保護管25で保護されているため、有害ガスがインナー保護管17に接触することは皆無であり、高い耐久性を確保できる。また、炉22は操業や操業停止によって温度が急激に変化するが、インナー保護管17はアウター保護管25で保護されていて炉22の温度変化が直接作用せず、温度変化は緩和されてインナー保護管17に伝わるため、熱ひずみ(ヒートショック)によるインナー保護管17の破損事故も防止できる。
【0078】
図3(B)に示す第3実施形態では、炭素系耐熱パイプを保護管(シース管)25と成した温度測定装置15を示している。この実施形態では、金属製の保護管は使用しないため、真空浸炭炉や焼成炉のように1500℃以上の温度になるような炉の温度測定装置15にも適用できる。また、炭素系耐熱パイプは2000℃以上の耐熱性があるため、溶鋼のような溶融金属に差し込んで温度を直接計測することも可能になる。
【0079】
(5).成型による加工例
以上の説明では、パイプ基材1は糸状等に加工された炭素繊維によって形成されていたが、図4に示す第4実施形態では、粉状の炭素繊維27を使用した成型によってパイプ基材1を製造している。
【0080】
すなわち、簡略して示すように、この実施形態では、ホッパー28に粉状炭素繊維27とフェノール樹脂10とを投入して混練し、得られた不定形中間物を成形型29に投入してパイプ基材1と成し、このパイプ基材1を図2図3の手順で加工している。成形型29に投入された混練物は、軸方向に摺動するリング状プッシャーによって押し固められる。
【0081】
成形型29は外型30と内型(コア)31とを有しているが、内型31は既述の心材9と同じ機能を有しており、外型30から取り外して第1焼成工程を行うようになっている。この場合、図4(C)に示すように、外型30を2つ割方式に構成すると、成型後のパイプ基材1の取り外しを容易に行える利点がある。
【0082】
ホッパー28を使用して混練物を作ることに代えて、成形型29のキャビティにまず粉状炭素繊維27を投入してある程度に押し固め、次いで、成形型29に液状のフェノール樹脂10を注入してこれをパイプ基材1に含浸させることも可能である。これらのように成形型29を使用すると、パイプ基材1の量産性に優れる利点がある。
【0083】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、パイプ基材は押し出し成形によって作ることも可能である。或いは、粉状の炭素繊維とフェノール樹脂とを混練してうどん生地やパン生地のような粘土状中間体を作り、これを心材に巻き付けて所定の厚さに延ばしていく、といったことも可能である。
【0084】
炭素系耐熱パイプの用途は温度測定装置には限らず、各種の耐熱性製品に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本願発明は、温度測定装置等に使用できる炭素系耐熱パイプに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0086】
1 パイプ基材
2 耐熱性保護層
3 プラグ(栓、蓋)
4 炭素繊維から成る糸状材
5 炭素繊維から成る布状材
6 炭素繊維から成るテープ材
7 耐熱性保護層の内層(アルミナセメント層)
8 耐熱性保護層の外層(水ガラス層)
9 心材
10 フェノール樹脂
11 加熱炉
14 リン酸アルミニウム層
15 温度測定装置
16 シース熱電対方式の温度センサ
17 インナー保護管
18 絶縁体
19 測定素線
20 測温部(接点)
22 炉
25 アウター保護管
26 スペーサ
29 成形型
30 外型
31 内型(コア)
図1
図2
図3
図4