(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129463
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】セラミック電子部品、回路基板およびセラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20220830BHJP
H01G 2/06 20060101ALI20220830BHJP
H05K 1/16 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01G4/30 201F
H01G4/30 311E
H01G4/30 201G
H01G4/30 513
H01G4/30 517
H01G4/30 516
H01G2/06 500
H05K1/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028131
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 潤一
(72)【発明者】
【氏名】関口 芳昭
(72)【発明者】
【氏名】近藤 稔己
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴久
【テーマコード(参考)】
4E351
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4E351AA07
4E351BB04
4E351BB24
4E351BB33
4E351DD19
4E351DD43
4E351EE14
4E351EE24
4E351GG20
5E001AB03
5E001AH01
5E001AJ03
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC33
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE24
5E082EE25
5E082EE26
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082GG10
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】外部電極を介して素体の稜線に集中する応力を緩和する。
【解決手段】一態様に係るセラミック電子部品によれば、誘電体と、内部電極とを有する素体と、前記素体上の長さ方向に対向する端面で前記内部電極と接続し、前記素体の前記端面と幅方向に対向する側面と高さ方向に対向する上面および下面にそれぞれ連続して形成され、前記側面の素体中央側に開口し端面方向に伸びるスリット部を備える一対の外部電極とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体と、内部電極とを有する素体と、
前記素体上の長さ方向に対向する端面で前記内部電極と接続し、前記素体の前記端面と幅方向に対向する側面と高さ方向に対向する上面および下面にそれぞれ連続して形成され、前記側面の素体中央側に開口し端面方向に伸びるスリット部を備える一対の外部電極を有することを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記スリット部は、前記素体の稜線から離れた位置にあることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記スリット部の位置において、前記素体は前記外部電極から露出されていることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記外部電極の側面の高さ方向の寸法をTとすると、前記スリット部の幅は、(T/30)μm以上(T/10)μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記外部電極の長さをLとすると、前記スリット部の深さは、(L/5)μm以上(L/1.5)μm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記外部電極の側面の高さ方向の寸法をTとすると、前記スリット部は、前記素体の稜線から(T/30)μm以上(T/3)μm以下離れていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記セラミック電子部品を端面方向から透視したとき、前記スリット部と、高さ方向の最も外側にある前記内部電極が、高さ方向に重なる位置にあることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記スリット部は、前記素体の稜線に対して斜めの円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記スリット部は、前記素体の1つの側面上に複数設けられていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記スリット部は、前記素体の1つの面上に等間隔で並列に設けられていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
前記スリット部は、対向する前記側面にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項12】
前記外部電極は、
金属を含む下地層と、
前記下地層上に形成されためっき層とを備えることを特徴とする請求項1から11のいずれか1に記載のセラミック電子部品。
【請求項13】
前記下地層は、前記金属に混在された共材を備えることを特徴とする請求項12に記載のセラミック電子部品。
【請求項14】
前記共材は、前記素体に含まれる前記誘電体を主成分とすることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項15】
前記下地層は、Niを主成分とすることを特徴とする請求項12から14のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項16】
前記下地層は、Cuを主成分とすることを特徴とする請求項12から14のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項17】
前記スリット部の位置において、前記めっき層は前記下地層を覆っていることを特徴とする請求項12から16のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項18】
前記内部電極は、
第1内部電極層と、
前記誘電体を含む誘電体層を介して前記第1内部電極層上に積層された第2内部電極層とを備え、
前記外部電極は、
前記第1内部電極層に接続する第1外部電極と、
前記第1外部電極と分離して設けられ、前記第2内部電極層に接続する第2外部電極とを備えることを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載のセラミック電子部品が実装された回路基板であって、
前記セラミック電子部品は、前記導電体に付着されたはんだ層を介して接続されることを特徴とする回路基板。
【請求項20】
誘電体と内部電極が設けられ、前記内部電極が端面に引き出された素体を形成する工程と、
外部電極の下地層の下地材料の付着を阻害する阻害剤を、前記端面と幅方向に対向する側面の素体中央側に開口し端面方向にスリット状に伸びるように塗布する工程と、
前記素体の端面および前記端面に対して垂直な4つの面の一部に前記下地材料を塗布する工程と、
前記下地材料を焼成し、前記素体の側面の素体中央側に開口し端面方向に伸びるスリット部を有する下地層を形成する工程と、
前記下地層上にめっき層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品、回路基板およびセラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、複数の内部電極層とセラミック層が交互に積層され、各内部電極層の端部が長さ方向の両端面に交互に露出し、内部電極層の露出端部と導通するように長さ方向両端部に一対の外部電極が形成されている。この外部電極は、特許文献1に開示されているように、容量部の端部のみでなく、上面、底面および側面をキャップ状に覆っている。
【0003】
また、特許文献2には、はんだ実装する際のセルフアライメント性の向上を図りつつ、実装する際の方向性を無くして、実装の作業性の向上を図るために、素体に形成される電極部分間において、素体の第一側面と第二側面とで形成される稜部が露出した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/098092号
【特許文献2】特開2015-103554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、外部電極と素体の線膨張率の差、外部電極の下地層の焼成工程での収縮差に起因して生じる応力やその残留応力および実装後のはんだから受ける応力により、外部電極の端部付近、特に素体の稜部にクラックが生じる恐れがあった。また、素体の稜線部を露出する構造では部品の取扱中に稜線部が外部のものと接触したときに該部にクラックが生じる恐れがあった。
【0006】
そこで、本発明は、外部電極を介して素体の稜線に集中する応力を緩和することが可能なセラミック電子部品、回路基板およびセラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、誘電体と、内部電極とを有する素体と、前記素体上の長さ方向に対向する端面で前記内部電極と接続し、前記素体の前記端面と幅方向に対向する側面と高さ方向に対向する上面および下面にそれぞれ連続して形成され、前記側面の素体中央側に開口し端面方向に伸びるスリット部を備える一対の外部電極とを備える。
【0008】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記スリット部は、前記素体の稜線から離れた位置にある。
【0009】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記スリット部の位置において、前記素体は前記外部電極から露出されている。
【0010】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記外部電極の側面の高さ方向の寸法をTとすると、前記スリット部の幅は、(T/30)μm以上(T/10)μm以下である。
【0011】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記外部電極の長さをLとすると、前記スリット部の深さは、(L/5)μm以上(L/1.5)μm以下である。
【0012】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記外部電極の側面の高さ方向の寸法をTとすると、前記スリット部は、前記素体の稜線から(T/30)μm以上(T/3)μm以下離れている。
【0013】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記セラミック電子部品を端面方向から透視したとき、前記スリット部と、高さ方向の最も外側にある前記内部電極が、高さ方向に重なる位置にある。
【0014】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記スリット部は、前記素体の稜線に対して斜めの円弧状に形成されている。
【0015】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記スリット部は、前記素体の1つの面上に複数設けられている。
【0016】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記スリット部は、前記素体の1つの面上に等間隔で並列に設けられている。
【0017】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記外部電極は、前記素体の端面に垂直に接続する4つの面を周回するように形成され、前記スリット部は、前記4つの面のうち互いに対向する面に設けられている。
【0018】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記導電層は、前記素体の稜線を覆うように前記素体の複数の面に形成され前記内部電極と接続し金属を含む下地層と、前記下地層上に形成されためっき層とを備える。
【0019】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記下地層は、前記金属に混在された共材を備える。
【0020】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記共材は、前記素体に含まれる前記誘電体を主成分とする。
【0021】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記下地層は、Niを主成分とする。
【0022】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記下地層は、Cuを主成分とする。
【0023】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記スリット部の位置において、前記めっき層は前記下地層を覆っている。
【0024】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品によれば、前記内部電極は、第1内部電極層と、前記誘電体を含む誘電体層を介して前記第1内部電極層上に積層された第2内部電極層とを備え、前記外部電極は、前記第1内部電極層に接続する第1外部電極と、前記第1外部電極と分離して設けられ、前記第2内部電極層に接続する第2外部電極とを備える。
【0025】
また、本発明の一態様に係る回路基板によれば、上述したいずれかのセラミック電子部品が実装された回路基板であって、前記セラミック電子部品は、前記導電体に付着されたはんだ層を介して接続される。
【0026】
また、本発明の一態様に係るセラミック電子部品の製造方法によれば、誘電体と内部電極が設けられ、前記内部電極が端面に引き出された素体を形成する工程と、外部電極の下地層の下地材料の付着を阻害する阻害剤を、前記端面と幅方向に対向する側面の素体中央側に開口し端面方向にスリット状に伸びるように塗布する工程と、前記素体の端面および前記端面に対して垂直な4つの面の一部に前記下地材料を塗布する工程と、前記下地材料を焼成し、前記素体の側面の素体中央側に開口し端面方向に伸びるスリット部を有する下地層を形成する工程と、前記下地層上にめっき層を形成する工程とを備える。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一つの態様によれば、外部電極を介して素体の稜線に集中する応力を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構成を示す斜視図である。
【
図2A】
図1の積層セラミックコンデンサを長さ方向に切断した断面図である。
【
図2B】
図1の積層セラミックコンデンサを幅方向に切断した断面図である。
【
図3A】
図2Aの外部電極にスリット部があるときの素体にかかる応力の一例を示す断面図である。
【
図3B】
図2Aの外部電極にスリット部がないときの素体にかかる応力の一例を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5A】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示す断面図である。
【
図5B】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示す断面図である。
【
図5C】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示す断面図である。
【
図5D】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示す断面図である。
【
図5E】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法を示す断面図である。
【
図5F】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法を示す断面図である。
【
図5G】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法を示す断面図である。
【
図5H】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法を示す断面図である。
【
図5I】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法を示す断面図である。
【
図6A】第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサが実装された回路基板の構成を示す断面図である。
【
図6B】
図6Aの外部電極にスリット部がないときの積層セラミックコンデンサが実装された回路基板の構成を示す断面図である。
【
図7】第3実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法のその他の例を示すフローチャートである。
【
図8A】第4実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構成を示す斜視図である。
【
図8B】第5実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構成を示す斜視図である。
【
図9】第6実施形態に係るセラミック電子部品の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。また、以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。
【0030】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構成を示す斜視図、
図2Aは、
図1の積層セラミックコンデンサを長さ方向に切断した断面図、
図2Bは、
図1の積層セラミックコンデンサを幅方向に切断した断面図である。なお、
図2Aは、
図1のA1-A1線に沿って切断し、
図2Bは、
図1のB1-B1線に沿って切断した。
【0031】
図1、
図2Aおよび
図2Bにおいて、積層セラミックコンデンサ1Aは、素体2および外部電極6A、6Bを備える。素体2は、積層体2A、下カバー層5Aおよび上カバー層5Bを備える。積層体2Aは、内部電極層3A、3Bおよび誘電体層4を備える。
【0032】
積層体2Aの下層には下カバー層5Aが設けられ、積層体2Aの上層には上カバー層5Bが設けられている。内部電極層3A、3Bは、誘電体層4を介して交互に素体2の対向する面に引き出されて積層されている。なお、
図1、
図2Aおよび
図2Bでは、内部電極層3A、3Bが合計で11層分だけ積層された例を示したが、内部電極層3A、3Bの積層数は、特に限定されない。このとき、素体2および積層体2Aの形状は、略直方体形状とすることができる。
【0033】
なお、以下の説明では、素体2の端面が互いに対向する方向を長さ方向DL、素体2の側面が互いに対向する方向を幅方向DW、素体2の上下面が互いに対向する方向を積層方向(高さ方向または厚み方向)DSと言うことがある。このとき、素体2の下面は、積層セラミックコンデンサ1Aが実装される回路基板の実装面と対向する位置に配置することができる。素体2は、素体2の稜線LYに沿って面取りされてもよい。このとき、素体2は、その角部が面取された曲面Rを備えることができる。
【0034】
外部電極6A、6Bは、長さ方向DLに互いに分離された状態で互いに対向するように素体2に形成される。このとき、各外部電極6A、6Bは、素体2の下面側から端面を介して素体2の上面側に連続的に形成されるとともに、素体2の下面および端面の双方に垂直な互いに対向する一対の側面にも連続的に形成される。このように下地層7は、素体2の一対の端面からそれぞれ隣接する4つの周面に渡って連続して形成される。このとき、外部電極6A、6Bの境界EAは、素体2の面上に位置する。
【0035】
ここで、外部電極6A、6Bは、スリット部8を備える。スリット部8は、外部電極6A、6Bの境界EA側の素体2の面上で素体2の中央側に開口する。また、1つのスリット部8は、外部電極6A、6Bの側面上に位置することができる。このとき、スリット部8は、素体2の稜線LYから離れた位置に設けることができる。スリット部8の位置において、素体2は外部電極6A、6Bから一定の領域で露出しており、その露出領域は高さ方向に一定の幅を持ち、前記開口から素体2のより近い端面方向に向かって一定の深さで閉口する。
例えば、スリット部8は、各外部電極6A、6Bの端部から素体2の稜線LYの方向に沿って延びる。このとき、スリット部8は、素体2の稜線LYから離れた位置に開口部KAを備える。スリット部8は、外部電極6A、6Bを介して素体2の長さ方向DLに伸びる4つの稜線LYのうち、それぞれ最も近い稜線にかかる応力を低減することができる。
【0036】
なお、
図1および
図2Bでは、幅方向DWを法線とする面(素体2の一対の側面)側において、各外部電極6A、6Bにスリット部8を設けた例を示したが、さらに積層方向DSを法線とする面(素体2の下面および上面)側においても、各外部電極6A、6Bにスリット部8を設けるようにしてもよい。また、スリット部8は、素体2の1つの面上に複数設けられてもよい。スリット部8は、素体2の稜線LYに対して斜めの円弧状であってもよいし、楔状であってもよい。スリット部8は、稜線LYに平行な直線状に形成されてもよいし、スリット部8の先端は、鋭角状であってもよい。
【0037】
ここで、スリット部8を各外部電極6A、6Bに設けることにより、積層セラミックコンデンサ1Aの実装時において、各外部電極6A、6Bを介して濡れ上がるはんだをスリット部8の位置で抑制することができる。従来の形態では、
図6Bのようにはんだ13A´、13B´が外部電極6A´、6B´の側面に濡れ上がっていくが、このとき上方のはんだ13A´、13B´による応力が、下面と側面で形成される素体2の稜線と外部電極極6A、6Bが接する位置S´に集中する。
【0038】
一方、本実施形態では、
図6Aのようにはんだ13A、13Bはスリット部8で上方に濡れ上がる量が抑制されるので側面においてはんだ量が低減し、素体2の稜線LYと外部電極6A、6Bが接する位置Sに集中する応力を低減することができる。位置Sは2つの面が隣接する稜線LY上にあるので応力が集中しやすく、下面のはんだ13A、13Bからの応力と側面のはんだ13A、13Bからの応力を受け、さらに外部電極6A、6Bの長さ方向の端縁にあるので製品のなかで最も応力が集中しクラックの起点となりやすい。従って、この位置Sの応力を低減することは、クラック防止の点から製品の信頼性向上に大きく寄与する。このとき、スリット部8は素体2の近い方の稜線LYに対して、並行に形成してもよいし、斜めに角度をつけて形成してもよい。
図6Aのようにスリット部8の稜線側のラインが端面の方向に切れ込んでいくに従って近接する素体2の稜線LYから離間するように形成すると、はんだ13A、13Bは側面内において端面側上方に濡れ上がりやすく、はんだ13A、13Bの滞留が生じにくい。また、スリット部8の稜線側のラインが端面の方向に切れ込んでいくに従って近接する素体2の稜線LYに近づくように形成すると、はんだ13A、13Bはスリット部8で上方への濡れ上がりをより有効に抑制できる。
【0039】
各外部電極6A、6Bの側面の高さ方向の寸法をT、長さ方向の寸法をLとする。このとき、スリット部8の幅は、(T/30)μm以上(T/10)μm以下であるのが好ましい。このようなスリット部8の幅は、スリット部の深さ方向中央の位置で素体2の露出寸法を測定すれば良い。スリット部8の深さは、(L/5)μm以上(L/1.5)μm以下であるのが好ましい。このようなスリット部8の深さは、開口部の外部電極の端部からスリットが閉口する位置までの素体2の長さ方向の成分を測定すれば良い。スリット部8は、素体2の稜線LYから高さ方向に(T/30)μm以上(T/3)μm以下離れているのが好ましい。このようなスリット部8の高さ方向位置は、スリット部8の深さ方向中央の位置におけるスリット部8の幅の中央位置で特定すれば良い。
【0040】
例えば、各外部電極6A、6Bの高さTが300μm、長さLが150μmとする。この場合、スリット部8の幅は、10μm以上30μm以下であるのが好ましい。スリット部8の深さは、30μm以上100μm以下であるのが好ましい。スリット部8は、素体2の稜線LYから10μm以上100μm以下離れているのが好ましい。
【0041】
ここで、スリット部8の幅を(W/30)μm以上とし、スリット部8の深さを(L/5)μm以上とすることにより、スリット部8で上方に濡れ上がるはんだ量を低減させ、素体2の稜線LYと外部電極6A、6Bが接する位置Sに集中する応力を低減することができる。スリット部8の幅を(W/10)μm以下とし、スリット部8の深さを(L/1.5)μm以下とすることにより、各外部電極6A、6Bの強度の低下を抑制することができる。
【0042】
スリット部8を素体2の稜線LYから(T/30)μm以上離すことにより、積層セラミックコンデンサ1Aの実装時または搬送時などに積層セラミックコンデンサ1Aに応力が加わった場合においても、素体2の角部に衝撃が直接加わるのを防止することができ、素体2の破損を抑制することができる。スリット部8と素体2の稜線LYとの距離を(T/3)μm以下とすることにより、スリット部8で上方に濡れ上がるはんだ量を低減させ、素体2の稜線LYと外部電極6A、6Bが接する位置Sに集中する応力を低減することができる。
【0043】
スリット部8は、外部電極6A、6Bの側面内に少なくとも1つあれば有効だが、高さ方向に1対に形成すれば実装面を上下面とすることができる。製品の外部電極6A、6Bの各側面にそれぞれ2つずつのスリット部8が形成されていてもよい。
【0044】
長さ方向DLにおいて、内部電極層3A、3Bは、積層体2A内で異なる位置に交互に配置されている。このとき、内部電極層3Aは、内部電極層3Bに対して素体2の一方の端面側に配置し、内部電極層3Bは、内部電極層3Aに対して素体2の他方の端面側に配置することができる。そして、内部電極層3Aの端部は、素体2の長さ方向DLの一方の端面側で誘電体層4の端部に引き出され、外部電極6Aに接続される。内部電極層3Bの端部は、素体2の長さ方向DLの他方の端面側で誘電体層4の端部に引き出され、外部電極6Bに接続される。
一方、素体2の幅方向DWにおいて、内部電極層3A、3Bの端部は、誘電体層4にて覆われている。幅方向DWでは、内部電極層3A、3Bの端部の位置は揃っていてもよい。このとき、素体2は、幅方向DWにおいて内部電極層3A、3Bを被覆するサイドマージン部10を備えることができる。
図1および
図2Bの例では、サイドマージン部10の素体2の表面上にスリット部8が位置する。
また、
図2Bのように部品を端面方向から透視したとき、スリット部8と、高さ方向の最も外側にある少なくとも1つの内部電極3A、3Bが高さ方向DSで重なる位置にあると、外部電極6A、6Bから内部電極3A、3Bにかかる応力が低減され、最も外側にある内部電極3A、3Bに沿うクラックが生じにくい。
【0045】
なお、内部電極層3A、3Bおよび誘電体層4の積層方向DSの厚みはそれぞれ、0.2μm~20μmの範囲内とすることができ、例えば、0.3μmである。内部電極層3A、3Bの材料は、例えば、Cu(銅)、Fe(鉄)、Zn(亜鉛)、Al(アルミニウム)、Sn(スズ)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ta(タンタル)およびW(タングステン)などの金属から選択することができ、これらの金属を含む合金であってもよい。
【0046】
誘電体層4の材料は、例えば、ペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とすることができる。なお、主成分は、50at%以上の割合で含まれていればよい。誘電体層4のセラミック材料は、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよび酸化チタンなどから選択することができる。
【0047】
下カバー層5Aおよび上カバー層5Bの材料は、例えば、セラミック材料を主成分とすることができる。このとき、下カバー層5Aおよび上カバー層5Bのセラミック材料の主成分は、誘電体層4のセラミック材料の主成分と同一であってもよい。下カバー層5Aおよび上カバー層5Bの厚みはそれぞれ、5μm以上100μm以下であるのが好ましい。
【0048】
各外部電極6A、6Bは導電層として、素体2上に形成された下地層7と、下地層7上に積層されためっき層9を備える。下地層7は、長さ方向DLに互いに分離された状態で互いに対向するように素体2に形成される。このとき、下地層7は、素体2の下面側から端面を介して上面側に連続的に形成されるとともに、素体2の下面側から対向する一対の側面側に連続的に形成される。このように下地層7は、素体2の一対の端面からそれぞれ隣接する4つの周面に渡って連続して形成される。
【0049】
下地層7の導電性材料として用いられる金属は、例えば、Cu、Fe、Zn、Al、Ni、Pt、Pd、Ag、AuおよびSnから選択される少なくとも1つを含む金属または合金を主成分とすることができる。下地層7は、金属が混在された共材を含んでもよい。共材は、下地層7中に島状に混在することで素体2と下地層7との間の熱膨張率の差を低減し、下地層7にかかる応力を緩和することができる。共材は、例えば、誘電体層4の主成分であるセラミック成分である。下地層7は、ガラス成分を含んでいてもよい。ガラス成分は、下地層7に混在することで下地層7を緻密化することができる。このガラス成分は、例えば、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、Ca(カルシウム)、Zn、Al、Si(ケイ素)またはB(ホウ素)などの酸化物である。
【0050】
ここで、下地層7は、導電性金属ペーストの焼結体で構成するのが好ましい。これにより、素体2と下地層7との密着性を確保しつつ、下地層7の厚膜化を図ることが可能となり、各外部電極6A、6Bの強度を確保しつつ、内部電極層3A、3Bとの導通性を確保することができる。
【0051】
めっき層9は、下地層7を覆うように外部電極6A、6Bごとに連続的に形成される。このとき、めっき層9は、スリット部8の位置において、下地層7を覆うことができる。めっき層9は、下地層7を介して内部電極層3A、3Bと導通する。また、めっき層9は、はんだを介して実装基板の端子と導通する。
【0052】
めっき層9の材料は、例えば、Cu、Fe、Zn、Al、Ni、Pt、Pd、Ag、AuおよびSnから選択される少なくとも1つを含む金属または合金である。めっき層9は、単一金属成分のめっき層でもよく、互いに異なる金属成分の複数のめっき層でもよい。めっき層9は、例えば、下地層7上に形成されたCuめっき層9Aと、Cuめっき層9A上に形成されたNiめっき層9Bと、Niめっき層9B上に形成されたSnめっき層9Cの3層構造とすることができる。Cuめっき層9Aは、下地層7へのめっき層9の密着性を向上させることができる。Niめっき層9Bは、はんだ付け時の各外部電極6A、6Bの耐熱性を向上させることができる。Snめっき層9Cは、めっき層9に対するはんだの濡れ性を向上させることができる。
【0053】
図3Aは、
図2Aの外部電極にスリット部があるときの素体にかかる応力の一例を示す断面図、
図3Bは、
図2Aの外部電極にスリット部がないときの素体にかかる応力の一例を示す断面図である。
【0054】
図3Aにおいて、素体2に対して外部電極6Aから矢印で示したベクトルの圧縮応力が働く。このとき、素体2の稜線LYは2つの面から外部電極6Aの応力を受けるので応力が集中する。このとき、スリット部8の位置では、外部電極6Aから素体2の面方向に伝わる応力K2が分断され、素体2の稜線LYへの応力の集中が緩和される。このため、素体2の稜線LYに働く応力K1を低減することができ、素体2の稜線LYを起点として素体2にクラックが入るのを抑制することができる。
【0055】
一方、
図3Bにおいて、積層セラミックコンデンサ1A´には、スリット部8がない外部電極6A´が設けられているものとする。外部電極6A´は、素体2上に形成された下地層7´と、下地層7´上に積層されためっき層9´を備える。めっき層9´は、下地層7´上に形成されたCuめっき層9A´と、Cuめっき層9A´上に形成されたNiめっき層9B´と、Niめっき層9B´上に形成されたSnめっき層9C´の3層構造とすることができる。
【0056】
図3Bにおいて、スリット部8がない外部電極6A´では、素体2の面方向に応力K2´が伝わり、素体2の稜線LYの方向へ応力が集中する。このため、素体2の稜線LYに働く応力K1´が増大し、素体2の稜線LYを起点として素体2にクラックが入りやすくなる。このようにスリット部8が存在することで近接する素体2の稜線LYへの外部電極6A、6Bからの応力を低減することができ、素体2にクラックが入るのを抑制することができる。
【0057】
図4は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示すフローチャート、
図5Aから
図5Iは、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示す断面図である。なお、
図5Cから
図5Iでは、誘電体層4を介して内部電極層3A、3Bが交互に3層分だけ積層される場合を例にとった。
【0058】
図4のS1において、分散剤および成形助剤としての有機バインダおよび有機溶剤を誘電体材料粉末に加え、粉砕・混合してスラリを生成する。誘電体材料粉末は、例えば、セラミック粉末を含む。誘電体材料粉末は、添加物を含んでいてもよい。添加物は、例えば、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(カドミウム)、Tb(テウビウム)、Dy(ジスプロシウム、Ho(ホロミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Co(コバルト)、Ni、Li(リチウム)、B、Na(ナトリウム)、K(カリウム)またはSiの酸化物もしくはガラスである。有機バインダは、例えば、ポリビニルブチラール樹脂またはポリビニルアセタール樹脂である。有機溶剤、例えば、エタノールまたはトルエンである。
【0059】
次に、
図4のS2および
図5Aに示すように、セラミック粉末を含むスラリをキャリアフィルム上にシート状に塗布して乾燥させたグリーンシート24を作製する。キャリアフィルムは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。スラリの塗布には、ドクターブレード法、ダイコータ法またはグラビアコータ法などを用いることができる。
【0060】
次に、
図4のS3および
図5Bに示すように、複数枚のグリーンシートのうち内部電極層3A、3Bを形成する層のグリーンシート24に内部電極用導電ペーストを所定のパターンとなるように塗布し、内部電極パターン23を形成する。このとき、1枚のグリーンシート24には、グリーンシート24の長手方向に分離された複数の内部電極パターン23を形成することができる。内部電極用導電ペーストは、内部電極層3A、3Bの材料として用いられる金属の粉末を含む。例えば、内部電極層3A、3Bの材料として用いられる金属がNiの場合、内部電極用導電ペーストは、Niの粉末を含む。また、内部電極用導電ペーストは、バインダと、溶剤と、必要に応じて助剤とを含む。内部電極用導電ペーストは、共材として、誘電体層4の主成分であるセラミック材料を含んでいてもよい。内部電極用導電ペーストの塗布には、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法またはグラビア印刷法などを用いることができる。
【0061】
次に、
図4のS4および
図5Cに示すように、内部電極パターン23が形成されたグリーンシート24と、内部電極パターン23が形成されていない外層用のグリーンシート25A、25Bを所定の順序で複数枚数だけ積み重ねた積層ブロックを作製する。外層用のグリーンシート25A、25Bの厚みは、内部電極パターン23が形成されたグリーンシート24の厚みより大きい。このとき、積層方向に隣接するグリーンシート24の内部電極パターン23A、23Bが、グリーンシート24の長手方向に交互にずらされるように積み重ねる。また、内部電極パターン23Aのみが積層方向に積み重ねられる部分と、内部電極パターン23A、23Bが積層方向に交互に積み重ねられる部分と、内部電極パターン23Bのみが積層方向に積み重ねられる部分とができるようにする。
【0062】
次に、
図4のS5および
図5Dに示すように、
図4のS4の成型工程で得られた積層ブロックをプレスし、グリーンシート24、25A、25Bを圧着する。積層ブロックをプレスする方法として、例えば、積層ブロックを静水圧プレスする方法などを用いることができる。
【0063】
次に、
図4のS6および
図5Eに示すように、プレスされた積層ブロックを切断し、直方体形状の素体に個片化する。積層ブロックの切断は、内部電極パターン23Aのみが積層方向に積み重ねられる部分と、内部電極パターン23Bのみが積層方向に積み重ねられる部分で行う。積層ブロックの切断には、例えば、ブレードダイシングなどの方法を用いることができる。
【0064】
このとき、
図5Fに示すように、個片化された素体2´には、誘電体層4を介して交互に積層された内部電極層3A、3Bが形成されるとともに、最下層および最上層にカバー層5A、5Bが形成される。内部電極層3Aは、素体2´の一方の端面で誘電体層4の表面から引き出され、内部電極層3Bは、素体2´の他方の端面で誘電体層4の表面から引き出される。なお、
図5Fでは、
図5Eの個片化された1つの素体を長さ方向に拡大して示した。
【0065】
次に、
図4のS7および
図5Gに示すように、素体2´の面取りを行うことにより、素体2´の角部に曲面Rが設けられた素体2を形成する。素体2´の面取りは、例えば、バレル研磨を用いることができる。
【0066】
次に、
図4のS8に示すように、
図4のS7で面取りされた素体2に含まれるバインダを除去する。バインダの除去では、例えば、約350℃のN
2雰囲気中で素体2を加熱する。
【0067】
次に、
図4のS9に示すように、下地層用導電ペーストの付着を阻害する阻害剤を素体2上に選択的に塗布する。このとき、阻害剤は、
図1のスリット部8の形成位置に選択的に塗布する。阻害剤は、例えば、下地層用導電ペーストに濡れないシリコーンである。阻害剤を素体2上に選択的に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法またはグラビア印刷法などを用いることができる。
【0068】
次に、
図4のS10に示すように、
図4のS9で阻害剤が塗布された素体2の両端面と、各端面の周面の4つの面(上面、下面、一対の側面)に下地層用導電ペーストを塗布して乾燥させる。下地層用導電ペーストの塗布には、例えば、ディッピング法を用いることができる。このとき、
図1のスリット部8の形成位置には阻害剤が塗布されているので、スリット部8の形成位置には下地層用導電ペーストが付着しない。下地層用導電ペーストは、下地層7の導電性材料として用いられる金属の粉末またはフィラーを含む。例えば、下地層7の導電性材料として用いられる金属がNiの場合、下地層用導電ペーストは、Niの粉末またはフィラーを含む。また、下地層用導電ペーストは、共材として、例えば、誘電体層4の主成分であるセラミック成分を含む。例えば、下地層用導電ペーストには、共材として、チタン酸バリウムを主成分とする酸化物セラミックの粒子(例えば、D50粒子径で0.1μm~4μm)が混入される。また、下地層用導電ペーストは、バインダと、溶剤とを含む。
【0069】
次に、
図4のS11および
図5Hに示すように、
図5のS10で下地層用導電ペーストが塗布された素体2を焼成し、内部電極層3A、3Bと誘電体層4を一体化するとともに、素体2に一体化された下地層7を形成する。このとき、スリット部8の形成位置には下地層用導電ペーストが塗布されていないので、スリット部8の形成位置には下地層7が形成されない。素体2および下地層用導電ペーストの焼成は、例えば、焼成炉にて1000~1400℃で10分~2時間だけ行う。内部電極層3A、3BにNiまたはCuなどの卑金属を使用している場合は、内部電極層3A、3Bの酸化を防止するため、焼成炉内を還元雰囲気にして焼成することができる。なお、下地層7の形成では、N
2ガス雰囲気中で600℃~1000℃の温度で再酸化処理を行ってもよい。
【0070】
次に、
図4のS12および
図5Iに示すように、Cuめっき層9A、Niめっき層9BおよびSnめっき層9Cを下地層7上に順次形成する。ここで、下地層7が形成された素体2を、めっき液とともにバレルに収容し、バレルを回転させつつ通電することにより、めっき層9を形成することができる。このとき、スリット部8の形成位置では、下地層7を覆うようにめっき層9がスリット状に形成される。
【0071】
(第2実施形態)
【0072】
図6Aは、第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサが実装された回路基板の構成を示す断面図、
図6Bは、
図6Aの外部電極にスリット部がないときの積層セラミックコンデンサが実装された回路基板の構成を示す断面図である。なお、
図6Aでは、
図1の積層セラミックコンデンサ1Aを模式化して示した。
【0073】
図6Aにおいて、回路基板11上には、ランド電極12A、12Bが形成されている。回路基板11は、プリント基板であってもよいし、Siなどの半導体基板であってもよい。積層セラミックコンデンサ1Aは、各外部電極6A、6Bに付着された各はんだ層13A、13Bを介してランド電極12A、12Bに接続される。
【0074】
ここで、はんだ13A、13Bはスリット部8で上方に濡れ上がる量が抑制されるので側面においてはんだ量が低減する。このため、素体2の稜線LYと外部電極6A、6Bが接する位置Sに集中する応力を低減することができ、クラックの発生を抑制することができる。このとき、スリット部8の稜線側のラインが開口部から素体2の端面方向に切れ込んでいくに従って近接する素体2の稜線LYから離間するように形成すると、はんだ13A、13Bは側面内において端面側上方に濡れ上がりやすく、はんだ13A、13Bの滞留が生じにくい。また、スリット部8の稜線側のラインが開口部から素体2の端面方向に切れ込んでいくに従って近接する素体2の稜線LYに近づくように形成すると、はんだ13A、13Bはスリット部8で上方への濡れ上がりをより有効に抑制できる。
【0075】
一方、
図6Bにおいて、積層セラミックコンデンサ1A´は、スリット部8がない外部電極6A´、6B´を備える。積層セラミックコンデンサ1A´は、各外部電極6A´、6B´に付着された各はんだ層13A´、13B´を介してランド電極12A、12Bに接続される。
【0076】
ここで、はんだ13A´、13B´は外部電極6A´、6B´の側面に濡れ上がっていくが、このとき上方のはんだ13A´、13B´による応力が、下面と側面で形成される素体2の稜線LYと外部電極極6A、6Bが接する位置S´に集中し、クラックが発生しやすい。
【0077】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法のその他の例を示すフローチャートである。
図7のS21からS28において、
図4のS1からS8と同様の工程により、バインダが除去された素体2を作製する。
【0078】
次に、
図7のS29に示すように、
図7のS28でバインダが除去された素体2を焼成し、内部電極層3A、3Bと誘電体層4を一体化する。素体2の焼成は、例えば、焼成炉にて1000~1350℃で10分~2時間だけ行う。内部電極層3A、3BにNiまたはCuなどの卑金属を使用している場合は、内部電極層3A、3Bの酸化を防止するため、焼成炉内を還元雰囲気にして焼成することができる。
【0079】
次に、
図7のS30に示すように、下地層用導電ペーストの付着を阻害する阻害剤を素体2上に選択的に塗布する。このとき、阻害剤は、
図1のスリット部8の形成位置に選択的に塗布する。阻害剤は、例えば、下地層用導電ペーストに濡れないシリコーンである。阻害剤を素体2上に選択的に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法またはグラビア印刷法などを用いることができる。
【0080】
次に、
図7のS31に示すように、
図7のS30で阻害剤が塗布された素体2の両端面と、各端面の周面の4つの面に下地層用導電ペーストを塗布して乾燥させる。下地層用導電ペーストは、下地層7の導電性材料として用いられる金属の粉末またはフィラーを含む。例えば、下地層7の導電性材料として用いられる金属がCuの場合、下地層用導電ペーストは、Cuの粉末またはフィラーを含む。また、下地層用導電ペーストは、ガラス焼結助剤(例えば、SiO
2など)を含む。
【0081】
次に、スリット部8の形成位置を避けるように素体2に塗布された下地層用導電ペーストを焼成し、素体2に一体化された下地層7を形成する。下地層用導電ペーストの焼成は、例えば、焼成炉にて600~900℃の温度で10分~2時間だけ行う。
【0082】
次に、
図7のS32に示すように、
図4のS12と同様の工程により、めっき処理を行う。
【0083】
(第4実施形態)
図8Aは、第4実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構成を示す斜視図である。
図8Aにおいて、積層セラミックコンデンサ1Bは、
図1の積層セラミックコンデンサ1Aの外部電極6A、6Bの代わりに外部電極36A、36Bを備える。
【0084】
外部電極36A、36Bは、
図1のスリット部8の代わりにスリット部38を備える。スリット部38は、外部電極36A、36Bの境界側の素体2の面上で素体2の中央側に開口する。このとき、スリット部38は、各外部電極36A、36Bを介して素体2の稜線LYにかかる応力を低減することができる。
図1のスリット部8の代わりにスリット部38を備える点以外は、各外部電極36A、36Bは、
図1の外部電極6A、6Bと同様に構成することができる。このとき、各外部電極36A、36Bは、素体2上に形成された下地層37と、下地層37上に積層されためっき層39を備える。めっき層39は、例えば、下地層37上に形成されたCuめっき層39Aと、Cuめっき層39A上に形成されたNiめっき層39Bと、Niめっき層39B上に形成されたSnめっき層39Cの3層構造とすることができる。
【0085】
スリット部38は、各外部電極36A、36Bの端部から素体2の稜線LYの方向に沿って延びる。このとき、スリット部38は、素体2の稜線LYから離れた位置で開口する。スリット部38は、
図1のスリット部8と配置位置および個数が異なる点以外は、
図1のスリット部8と同様に構成することができる。例えば、スリット部38は、素体2の1つの面上に等間隔で並列に設けることができる。なお、
図8Aでは、幅方向DWを法線とする面(素体2の一対の側面)側において、各外部電極36A、36Bにスリット部38を設けた例を示した。スリット部38は、素体2の稜線LYに対して斜めの円弧状であってもよいし、楔状であってもよい。スリット部38は、稜線LYに平行な直線状に形成されてもよいし、スリット部38の先端は、鋭角状であってもよい。外部電極36A、36Bのスリット部38の幅、深さおよび稜線LYからの距離は、
図1の外部電極6A、6Bのスリット部8の幅、深さおよび稜線LYからの距離と同様に設定することができる。
【0086】
ここで、各外部電極36A、36Bに設けられるスリット部38の個数を増大させることにより、外部電極36A、36Bを介して素体2の稜線LYに加わる応力をより効果的に低減することができ、素体2にクラックが入るのを抑制することができる。
また、第1実施形態、第2実施形態で説明した実装時のはんだ挙動による応力低減の効果を同様に得ることができるので、素体2にクラックが入るのを抑制することができる。
【0087】
(第5実施形態)
図8Bは、第5実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構成を示す斜視図である。
図8Bにおいて、積層セラミックコンデンサ1Cは、
図1の積層セラミックコンデンサ1Aの外部電極6A、6Bの代わりに外部電極46A、46Bを備える。
【0088】
外部電極46A、46Bは、
図1のスリット部8の代わりにスリット部48を備える。スリット部48は、外部電極46A、46Bの境界側の素体2の面上で開口する。このとき、スリット部48は、外部電極46A、46Bを介して素体2の稜線LYに向かう応力を分断することができる。
図1のスリット部8の代わりにスリット部48を備える点以外は、各外部電極46A、46Bは、
図1の外部電極6A、6Bと同様に構成することができる。このとき、各外部電極46A、46Bは、素体2上に形成された下地層47と、下地層47上に積層されためっき層49を備える。めっき層49は、例えば、下地層47上に形成されたCuめっき層49Aと、Cuめっき層49A上に形成されたNiめっき層49Bと、Niめっき層49B上に形成されたSnめっき層49Cの3層構造とすることができる。
【0089】
スリット部48は、各外部電極46A、46Bの端部から素体2の稜線LYの方向に沿って延びる。このとき、スリット部48は、素体2の稜線LYから離れた位置で開口する。スリット部48は、
図1のスリット部8と配置位置および個数が異なる点以外は、
図1のスリット部8と同様に構成することができる。例えば、スリット部48は、幅方向DWを法線とする面(素体2の一対の側面)側だけでなく、積層方向DSを法線とする面(素体2の下面および上面)側にも設けることができる。スリット部48は、素体2の稜線LYに対して斜めの円弧状であってもよいし、楔状であってもよい。スリット部48は、稜線LYに平行な直線状に形成されてもよいし、スリット部48の先端は、鋭角状であってもよい。外部電極46A、46Bのスリット部48の幅、深さおよび稜線LYからの距離は、
図1の外部電極6A、6Bのスリット部8の幅、深さおよび稜線LYからの距離と同様に設定することができる。
【0090】
ここで、素体2の対向する一対の側面、下面および上面にスリット部48を設けることにより、各外部電極46A、46Bから稜線LYに積層方向DSに伝わる応力だけでなく、各外部電極46A、46Bから稜線LYに幅方向DWに伝わる応力も低減することができ、素体2にクラックが入るのを抑制することができる。
【0091】
(第6実施形態)
図9は、第6実施形態に係るセラミック電子部品の構成例を示す斜視図である。なお、
図9では、セラミック電子部品としてチップインダクタを例にとった。
図8において、チップインダクタ21は、素体22および外部電極26A、26Bを備える。素体22は、コイルパターン23、内部電極層23A、23Bおよび磁性体材料24を備える。磁性体材料24は、内部電極層23A、23Bを絶縁する誘電体としても用いられる。素体22の形状は、略直方体形状とすることができる。
【0092】
コイルパターン23および内部電極層23A、23Bは、磁性体材料24にて覆われている。ただし、内部電極層23Aの端部は、素体22の一方の端面側で磁性体材料24から露出され、外部電極26Aに接続される。内部電極層23Bの端部は、素体22の他方の端面側で磁性体材料24から露出され、外部電極26Bに接続される。
【0093】
コイルパターン23および内部電極層23A、23Bの材料は、例えば、Cu、Fe、Zn、Al、Sn、Ni、Ti、Ag、Au、Pt、Pd、TaおよびWなどの金属から選択することができ、これらの金属を含む合金であってもよい。磁性体材料24は、例えば、フェライトである。
【0094】
外部電極26A、26Bは、互いに分離された状態で素体22の互いに対向する端面に位置する。各外部電極26A、26Bは、素体22の各端面から側面および上下面にかけて連続している。外部電極26A、26Bは、スリット部28を備える。スリット部28は、外部電極26A、26Bの境界側の素体22の面上で開口する。このとき、スリット部28は、外部電極26A、26Bを介して素体22の稜線に向かう応力を分断することができる。
【0095】
スリット部28は、各外部電極26A、26Bの端部から素体2の稜線の方向に沿って延びる。このとき、スリット部28は、素体22の稜線から離れた位置で開口する。
図9の例では、幅方向DWを法線とする面(素体22の一対の側面)側にスリット部28を設けた場合を示したが、積層方向DSを法線とする面(素体22の下面および上面)側にもスリット部28を設けるようにしてもよい。スリット部28は、素体22の稜線に対して斜めの円弧状であってもよいし、楔状であってもよい。スリット部28は、稜線に平行な直線状に形成されてもよいし、スリット部28の先端は、鋭角状であってもよい。外部電極26A、26Bのスリット部28の幅、深さおよび稜線LYからの距離は、
図1の外部電極6A、6Bのスリット部8の幅、深さおよび稜線LYからの距離と同様に設定することができる。
【0096】
なお、上述した実施形態では、セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサおよびチップインダクタを例にとったが、チップ抵抗またはセンサチップであってもよい。また、上述した実施形態では、2端子の外部電極を持つセラミック電子部品を例にとったが、3端子以上の外部電極を持つセラミック電子部品であってもよい。
【符号の説明】
【0097】
1A 積層セラミックコンデンサ
2 素体
2A 積層体
3A、3B 内部電極層
4 誘電体層
5A、5B カバー層
6A、6B 外部電極
7 下地層
8 スリット部
9、9A~9C めっき層