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特開2022-129474耐プラズマセラミックス部材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129474
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】耐プラズマセラミックス部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20220830BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20220830BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20220830BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C04B41/87 J
C04B35/111
C04B35/44
H01L21/302 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028145
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】土田 淳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇喜
(72)【発明者】
【氏名】傳井 美史
【テーマコード(参考)】
5F004
【Fターム(参考)】
5F004AA16
5F004BB29
5F004BC08
(57)【要約】
【課題】耐プラズマ性に優れ、大型の半導体装置用の部材としての大型構造物にも適用できる耐プラズマセラミックス部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】耐プラズマセラミックス部材100であって、Alを主成分とするセラミックス焼結体で形成される基材110と、YAGを主成分とするセラミックス焼結体で形成され、前記基材110の第1の表面112上に、互いに隣接するように接着される複数のセラミックス基板120と、前記基材110と前記セラミックス基板120との積層方向から前記複数のセラミックス基板120をみたときに、隣接する前記セラミックス基板120の間隙に形成されるYAGまたはYからなる溶射膜130と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐プラズマセラミックス部材であって、
Alを主成分とするセラミックス焼結体で形成される基材と、
YAGを主成分とするセラミックス焼結体で形成され、前記基材の第1の表面上に、互いに隣接するように接着される複数のセラミックス基板と、
前記基材と前記セラミックス基板との積層方向から前記複数のセラミックス基板をみたときに、隣接する前記セラミックス基板の間隙に形成されるYAGまたはYからなる溶射膜と、を備えることを特徴とする耐プラズマセラミックス部材。
【請求項2】
隣接する前記セラミックス基板の表面および前記溶射膜の表面を含む面の表面粗さRaは、2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐プラズマセラミックス部材。
【請求項3】
前記セラミックス基板の気孔率は1%以下であり、
前記溶射膜の気孔率は1%より大きく5%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐プラズマセラミックス部材。
【請求項4】
耐プラズマセラミックス部材の製造方法であって、
Alを主成分とするセラミックス焼結体で形成された基材、およびYAGを主成分とするセラミックス焼結体で形成され、前記基材の第1の表面上に、互いに隣接するように接着された複数のセラミックス基板を準備する工程と、
隣接する前記セラミックス基板の間隙に、YAGまたはYを含む溶射原料粉を溶射し、溶射膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする耐プラズマセラミックス部材の製造方法。
【請求項5】
前記溶射膜を形成する工程の後に、間隙の両側の前記セラミックス基板および前記溶射膜を含む面を研削または研磨する工程をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の耐プラズマセラミックス部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐プラズマセラミックス部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体装置用部材、特にプラズマ環境下で使用される部材として耐プラズマ性の良好なYAl12(YAG)焼結体が使用されていた。
【0003】
特許文献1は、機械的な強度が補強され、かつ低圧高密度プラズマ曝露に対しても十分耐える耐プラズマ性部材を提供することを目的として、純度98.0%以上のアルミナ系基材の少なくともプラズマに曝される表面が、イットリウムアルミニウムガーネット層で形成されていることを特徴とする耐プラズマ性部材が開示されている。表面層材料として、Laなどの周期律表IIIA族元素の酸化物を添加することによって低温での焼成が可能となること、および、アルミナ及びイットリウムアルミニウムガーネット混成系の中間層を介して、アルミナ系基材と表面層と接合することによって機械的特性に優れた部材が得られることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2は、大型化に伴う静電吸着面と内部電極との平行の悪化、焼成時の層間剥離の発生等による歩留まり低下要因を抑え、簡便な方法で製造できる大型静電チャックユニットを提供することを目的として、ベース板に静電チャックを接合してなる静電チャックユニットであって、静電チャックがベース板よりも小さく構成されており、ベース板に凹部を形成して、凹部に静電チャックを埋設するとともに、静電チャックの吸着面とベース板の上面が面一である静電チャックユニット、およびベース板に静電チャックを接合してなる静電チャックユニットであって、静電チャックはベース板よりも小さく構成されており、かつ、静電チャックをベース板に2枚以上接合してなる静電チャックユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-059397号公報
【特許文献2】特開2002-252274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体プロセスで用いられる部材の寸法は大型化してきている。そのためプラズマプロセスのような腐食環境下で使用される部材も大型の部材が要求されている。しかし、耐プラズマ部材は、その製法や使用する材料の性質に起因して大型化することが困難であった。
【0007】
一方、FPDプロセス等では大型の機能部材の要求に対して、機能部材が小型のものしか製作できない場合に、これを並べて基盤と接合し一体化することが行われていた(特許文献2)。そのためプラズマプロセスで使用される大型の部材の要求に対しても小型の耐プラズマ部材を並べてモジュール化することが考えられる。しかし、小型の耐プラズマ部材を並べただけではその隙間から腐食性ガスが侵入しプロセスに悪影響を及ぼすことが懸念される。そこで、そのような懸念を払拭でき、大型化の可能な耐プラズマ部材が要求されていた。
【0008】
しかしながら、特許文献1は、耐プラズマ部材の大型化に関する記載はない。また、特許文献2は、静電チャックの大型化は考慮されているものの、腐食環境下であるプラズマプロセスが用いられる前工程で用いられるものではなく、腐食ガスに対する耐性については考慮されていない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐プラズマ性に優れ、大型の半導体装置用の部材としての大型構造物にも適用できる耐プラズマセラミックス部材およびその製造方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の耐プラズマセラミックス部材は、耐プラズマセラミックス部材であって、Alを主成分とするセラミックス焼結体で形成される基材と、YAGを主成分とするセラミックス焼結体で形成され、前記基材の第1の表面上に、互いに隣接するように接着される複数のセラミックス基板と、前記基材と前記セラミックス基板との積層方向から前記複数のセラミックス基板をみたときに、隣接する前記セラミックス基板の間隙に形成されるYAGまたはYからなる溶射膜と、を備えることを特徴としている。
【0011】
このように、耐プラズマセラミックス部材の所定の面を、YAGを主成分とするセラミックス焼結体からなるセラミックス基板を隣接して配置し、その間隙をYAGまたはYの溶射膜を形成する構成とする耐プラズマ面とすることで、間隙からの腐食性ガスの侵入を防止でき、耐プラズマ性を高くすることができる。また、基材はAlを主成分とするセラミックス焼結体で形成されているので、耐プラズマセラミックス部材の機械的強度を十分に高くすることができる。そのため、耐プラズマセラミックス部材の大型化も実現できる。
【0012】
(2)また、本発明の耐プラズマセラミックス部材において、隣接する前記セラミックス基板の表面および前記溶射膜の表面を含む面の表面粗さRaは、2μm以下であることを特徴としている。
【0013】
これにより、溶射膜をまたぐ面を十分に滑らかにすることができ、耐プラズマ面の耐プラズマ性をより高くすることができる。
【0014】
(3)また、本発明の耐プラズマセラミックス部材は、前記セラミックス基板の気孔率は1%以下であり、前記溶射膜の気孔率は1%より大きく5%以下であることを特徴としている。
【0015】
このように、セラミックス基板および溶射膜の気孔率を低くすることで、耐プラズマ面の耐プラズマ性をより高くすることができる。
【0016】
(4)また、本発明の耐プラズマセラミックス部材の製造方法は、耐プラズマセラミックス部材の製造方法であって、Alを主成分とするセラミックス焼結体で形成された基材、およびYAGを主成分とするセラミックス焼結体で形成され、前記基材の第1の表面上に、互いに隣接するように接着された複数のセラミックス基板を準備する工程と、隣接する前記セラミックス基板の間隙に、YAGまたはYを含む溶射原料粉を溶射し、溶射膜を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0017】
このように、耐プラズマセラミックス部材の所定の面を、YAGを主成分とするセラミックス焼結体からなるセラミックス基板を隣接して配置し、その間隙をYAGまたはYの溶射膜を形成する構成とする耐プラズマ面とすることで、間隙からの腐食性ガスの侵入を防止でき、耐プラズマ性を高くすることができる。また、基材はAlを主成分とするセラミックス焼結体で形成されているので、耐プラズマセラミックス部材の機械的強度を十分に高くすることができる。そのため、耐プラズマセラミックス部材の大型化も実現できる。
【0018】
(5)また、本発明の耐プラズマセラミックス部材の製造方法は、前記溶射膜を形成する工程の後に、間隙の両側の前記セラミックス基板および前記溶射膜を含む面を研削または研磨する工程をさらに含むことを特徴としている。
【0019】
これにより、溶射膜をまたぐ面を十分に滑らかにすることができ、耐プラズマ面の耐プラズマ性をより高くすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐プラズマ性を高くすることができ、また、耐プラズマセラミックス部材の機械的強度を十分に高くすることができる。そのため、耐プラズマセラミックス部材の大型化も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材の変形例を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材の変形例を示す斜視図である。
図4】(a)~(d)、それぞれ本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材の間隙の形状の一例を示す断面図である。
図5】(a)は、本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材の研削または研磨前の隣接するセラミックス基板および溶射膜の形状の一例を示す断面図である。(b)は、本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材の研削または研磨後の隣接するセラミックス基板および溶射膜の形状の一例を示す断面図である。
図6】実施例および比較例の耐プラズマセラミックス部材の形状および評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0023】
[耐プラズマセラミックス部材の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材の一例を示す斜視図である。また、図2および図3は、本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材の変形例を示す斜視図である。本発明の耐プラズマセラミックス部材100は、基材110と、セラミックス基板120と、溶射膜130と、を備える。
【0024】
基材110は、Alを主成分とするセラミックス焼結体で形成される。Alを主成分とするとは、セラミックス焼結体にAlが95wt%以上含まれることをいう。また、基材110の形状は、耐プラズマセラミックス部材100の形状に応じて、円板状、多角形板状、楕円板状、柱状、筒状など、様々な形状にすることができる。
【0025】
セラミックス基板120は、YAG(YAl12)を主成分とするセラミックス焼結体で複数形成される。YAGを主成分とするとは、セラミックス基板120を形成するセラミックス焼結体にYAGが95wt%以上含まれることをいう。YAG以外の成分としては、例えば、YAM、YAP、Y、Al等のYとAlの複酸化物やYやAlの酸化物が含まれていてもよい。また、YやAl以外の不可避に含まれる元素が微量含まれていてもよい。
【0026】
複数のセラミックス基板120は、基材110の第1の表面112上に、互いに隣接するように接着される。基材110の第1の表面112とは、耐プラズマセラミックス部材100の設計に応じて設定された基材110の少なくとも一部の面をいい、平面であっても、曲面であってもよい。また、連続する複数の平面や曲面であってもよいし、離間する複数の平面や曲面であってもよい。第1の表面112上にセラミックス基板120および溶射膜130が形成されたセラミックス基板120および溶射膜130の表面を、耐プラズマ面という。耐プラズマ面は、複数の耐プラズマセラミックス部材を渡る面であってもよい。
【0027】
基材110とセラミックス基板120との接着は、隣接するセラミックス基板120の間隙から腐食性ガスが侵入しないため、どのような接着剤を用いてもよいが、耐熱性や熱伝導率等を考慮すると、シリコーン樹脂を使用したシリコーン接着剤を用いることが好ましい。接着剤により形成される接着層140の厚みは、10μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0028】
セラミックス基板120の気孔率は、1%以下であることが好ましい。これにより、耐プラズマ面の耐プラズマ性をより高くすることができる。
【0029】
溶射膜130は、YAGまたはYからなる。また、溶射膜130は、基材110とセラミックス基板120との積層方向から複数のセラミックス基板120をみたときに、隣接するセラミックス基板120の間隙に形成される。
【0030】
このとき、隣接するセラミックス基板120の間隙の形状は様々なものが考えられる。図4(a)から(d)は、それぞれ本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材の間隙の形状の一例を示す断面図である。
【0031】
図4(a)に示されるように、隣接するセラミックス基板120に垂直な間隙が設けられ、その間隙に溶射膜130が設けられてもよい。また、図4(b)に示されるように、隣接するセラミックス基板120が面取りされ、面取りされた部分に溶射膜130が形成されてもよい。また、図4(c)に示されるように、隣接するセラミックス基板120に斜めの間隙が設けられ、その間隙に溶射膜130が設けられてもよい。図4(a)から(c)の場合の間隙は、平行でなくてもよい。なお、溶射膜130は、ガスの基材110への侵入経路が塞がれるように形成されていれば十分であり、断面内の間隙をすべて埋める必要はなく、内部に空間が残っていてもよい。したがって、図4(a)から(c)の場合、溶射膜130は、基材110と接しなくてもよい。
【0032】
また、図4(d)に示されるように、隣接するセラミックス基板120が組み合わさるように形成され、耐プラズマ面からみえる間隙にのみ溶射膜130が形成されてもよい。この場合も、溶射膜130は、ガスの基材110への侵入経路が塞がれるように形成されていれば十分であり、断面内の間隙をすべて埋める必要はなく、内部に空間が残っていてもよい。したがって、溶射膜130は、セラミックス基板120の間隙内部の一部の面と接しなくてもよい。
【0033】
このように、耐プラズマセラミックス部材100の所定の面を、YAGを主成分とするセラミックス焼結体からなるセラミックス基板120を隣接して配置し、その間隙をYAGまたはYの溶射膜130を形成する構成とする耐プラズマ面とすることで、間隙からの腐食性ガスの侵入を防止でき、耐プラズマ性を高くすることができる。また、基材110はAlを主成分とするセラミックス焼結体で形成されているので、耐プラズマセラミックス部材100の機械的強度を十分に高くすることができる。そのため、耐プラズマセラミックス部材100の大型化も実現できる。
【0034】
YAGを主成分とするセラミックス焼結体からなるセラミックス基板120は、YAGまたはYからなる溶射膜よりも緻密であるため、耐プラズマ性が高い。また、溶射膜よりも容易に厚くすることができる。そのため、本発明の耐プラズマセラミックス部材100は、Alを主成分とするセラミックス焼結体の表面をYAGまたはYからなる溶射膜で覆った部材と比較して、耐プラズマ性を高く、寿命を長くすることができる。
【0035】
また、セラミックス基板120がYAGを主成分とする焼結体で形成され、溶射膜130がYAGまたはYからなる構成とすることで、YAG焼結体とYAG溶射膜またはYAG焼結体とYはいずれも親和性が高く、機械的に密着しやすい。これにより、溶射膜130の剥離の虞はほとんどない。
【0036】
溶射膜130の幅、すなわち、基材110とセラミックス基板120との積層方向から複数のセラミックス基板120をみたときに、隣接するセラミックス基板120の間隙の幅は、0.2mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがより好ましく、0.05mm以下であることがさらに好ましい。これにより、耐プラズマセラミックス部材100の耐プラズマ性を十分に高くできる。溶射膜130の幅の下限は特に設ける必要はないが、後述する溶射膜130をまたぐ面を滑らかにする加工をする場合、間隙に溶射膜130が入り込みやすくするため、10μm以上であることが好ましい。
【0037】
溶射膜130の気孔率は、1%より大きく5%以下であることが好ましい。これにより、耐プラズマ面の耐プラズマ性をより高くすることができる。
【0038】
隣接するセラミックス基板120の表面および溶射膜130の表面を含む面の表面粗さRaは、2μm以下であることが好ましい。これにより、溶射膜130をまたぐ面を十分に滑らかにすることができ、耐プラズマ面の耐プラズマ性をより高くすることができる。
【0039】
なお、図4(a)から(d)は、溶射膜130をまたぐ面を研削または研磨し、滑らかにした例を示しているが、図5(a)のように、溶射膜130を形成したあと研削又は研磨をしない状態であっても、ガスの基材110への侵入経路が塞がれていればよい。図5(a)は、本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材100の研削または研磨前の隣接するセラミックス基板120および溶射膜130の形状の一例を示す断面図である。(b)は、本発明の実施形態に係る耐プラズマセラミックス部材100の研削または研磨後の隣接するセラミックス基板120および溶射膜130の形状の一例を示す断面図である。研削または研磨をする場合、隣接するセラミックス基板120の高さをそろえるように加工してもよい。このとき、隣接するセラミックス基板120の全体の高さではなく、1の溶射膜130と接触するそれぞれのセラミックス基板120の端部を含む一部の高さのみをそろえるように加工してもよい。
【0040】
本発明の耐プラズマセラミックス部材は、耐プラズマ性を高くすることができ、また、耐プラズマセラミックス部材の機械的強度を十分に高くすることができる。そのため、耐プラズマセラミックス部材の大型化も実現できる。
【0041】
[耐プラズマセラミックス部材の製造方法]
耐プラズマセラミックス部材の製造方法は、基本的な工程として、基材の作製工程、セラミックス基板の作製工程、基材にセラミックス基板を接着する工程、セラミックス基板を接着した基材の隣接するセラミックス基板の間隙に溶射膜を形成する工程、および必要がある場合、溶射面を含む面を研削または研磨する工程に分けられる。以下、各工程の詳細を説明する。
【0042】
(基材の作製工程)
機械的強度の高い基材として、Alを主成分とするセラミックスにより基材を作製する。Alを主成分とするセラミックスは、例えば、Al原料粉末を造粒し、鋳込み成形法やCIP成形法により成形体を形成し、焼成することで焼成体を得ることができる。このような、従前の製造方法により基材を作製することができる。焼成体は、必要な機械加工により基材として整えられる。Alを主成分とするセラミックスは、機械的強度が高いため、大型化も可能である。
【0043】
Al原料粉末の造粒前の平均粒径は、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましい。また、Al原料粉末の純度は、99.9%以上であることが好ましく、99.99%以上であることがより好ましい。焼成温度は1200℃以上1800℃以下であることが好ましい。焼成時間は、0.1時間以上24時間以下であることが好ましい。焼成方法は、常圧焼成や一軸加圧焼成等を適用できる。焼成雰囲気は、大気雰囲気であることが好ましい。
【0044】
(セラミックス基板の作製工程)
プラズマプロセスなどの腐食環境下でも使用できる耐プラズマ素材として、YAGがあげられる。YAGは、例えば、鋳込み成形法やCIP成形法により成形体を形成し、焼成することで焼成体を得ることができる。このとき、AlまたはAlの酸化物を含む原料粉とYまたはYの酸化物を含む原料粉を混合して造粒し、造粒粉で成形体を形成し、焼成を行ない、焼成時にYAGを形成する反応焼成によってセラミックス基板を形成してもよい。また、YAGの原料粉を造粒し、造粒粉で成形体を形成し、焼成を行ない、セラミックス基板を形成してもよい。すなわち、セラミックス基板は、従前の製造方法により作製することができる。
【0045】
各原料粉末の造粒前の平均粒径は、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましい。また、各原料粉末の純度は、99.9%以上であることが好ましく、99.99%以上であることがより好ましい。焼成温度は1500℃以上1800℃以下であることが好ましい。焼成時間は、0.1時間以上24時間以下であることが好ましい。焼成方法は、常圧焼成や一軸加圧焼成等を適用できる。焼成雰囲気は、大気雰囲気であることが好ましい。
【0046】
YAGを主成分とするセラミックスは、Alを主成分とするセラミックスに比べ機械的強度が弱いため、セラミックス基板は、大型(例えば、Φ500mmまたは□500mm、厚み30mm相当以上)の焼成体を製作することが困難である。そのため、耐プラズマ面を複数の領域に分割し、それぞれの領域を覆う形状の、□250mm×10mmt程度の複数のセラミックス基板を焼成する。焼成後に、必要であれば機械加工し、複数のセラミックス基板を準備する。
【0047】
複数のセラミックス基板間の厚みの差は0.1mm以下とすることが好ましく、0.05mm以下とすることがより好ましい。ここで、大型とは代表寸法(部材において任意の2点間距離が最大になる寸法とする)が500mm以上、または、厚みが20mm以上のものを指す。セラミックス基板の厚みに対する積層方向の基材の厚みの比は、1/3~1/10となるようにすることが好ましい。これにより、大型部材として十分な強度が得られる。また、セラミックス基板の気孔率が、1%以下となるように作製することが好ましい。
【0048】
(接着工程)
基材の第1の表面上に、セラミックス基板を並べて配置し、接着する。接着はシリコーン樹脂を含むシリコーン接着剤で行なうことが好ましい。この際に、隣接するセラミックス基板間の間隙は、0.2mm以下とすることが好ましく、0.1mm以下とすることがより好ましく、0.05mm以下とすることがさらに好ましい。また、接着後、必要に応じて、機械加工を行ってもよい。その場合、複数のセラミックス基板の積層方向の段差を0.05mm以下とすることが好ましく、0.02mm以下とすることがより好ましい。これ以上の段差ができると、後の溶射工程で溶射膜による段差カバーが困難になりクラックが入る虞があるからである。
【0049】
(溶射工程)
Alを主成分とするセラミックス焼結体で形成された基材と、YAGを主成分とするセラミックス焼結体で形成され、基材の第1の表面上に、互いに隣接するように接着された複数のセラミックス基板とを準備したのち、隣接するセラミックス基板の間隙に、YAGまたはYを含む溶射原料粉を溶射し、溶射膜を形成する。YAGまたはYは、プラズマに対して高い耐性を示すことが知られているからである。溶射は、間隙の少なくとも一部にセラミックス原料粉が充填される程度行なうことが好ましい。セラミックス溶射はプラズマ溶射法が好適で、フィードする原料は乾式の顆粒または湿式の原料粉末を含むスラリーとすることができる。このとき、溶射膜の気孔率が、1%より大きく5%以下となるように溶射することが好ましい。
【0050】
(研削・研磨工程)
溶射膜を形成する工程の後に、間隙の両側のセラミックス基板および溶射膜を含む面を研削または研磨する加工を行なってもよい。基材上に形成されたセラミックス基板および溶射膜を面一に機械加工することで、耐プラズマ性をより高くすることができる。このとき、隣接するセラミックス基板の表面および溶射膜の表面を含む面の表面粗さRaは、2μm以下とすることが好ましい。
【0051】
以上のような工程により、本発明の耐プラズマセラミックス部材を製造することができる。
【0052】
[実施例および比較例]
(実施例1)
(基材の作製)
実施例1の耐プラズマセラミックス部材は、基材およびセラミックス基板を図1の形状になるように形成した。Al原料粉(純度99.99%、平均粒子径0.5μm)を秤量し、原料粉にバインダー(PVA)を3wt%添加して混合し、造粒した。その後、造粒粉をCIP成形し、大気雰囲気炉で1600℃、5時間焼成して基材を作製した。
【0053】
(セラミックス基板の作製)
原料粉およびAl原料粉を37.5mоl%:62.5mоl%の混合割合となるように、Y原料粉(純度99.9%、平均粒子径1μm)、およびAl原料粉(純度99.99%、平均粒子径0.5μm)を秤量した。次に、秤量した原料粉にバインダー(PVA)を外割で2wt%添加して混合し、造粒した。その後、一軸プレス成形をし、大気雰囲気炉で1700℃、2時間焼成して焼成体を得た。これを機械加工し、複数のセラミックス基板を作製した。機械加工後のセラミックス基板の寸法は、□250mm×5mmtとなるように作製した。セラミックス基板の角部の形状は、自然に形成されたC0.02mmであった。これを4枚準備した。
【0054】
(接着)
基材の第1の表面に接着剤を塗布し、所定の位置にセラミックス基板を配置し、接着した。接着剤は、シリコーン樹脂を含む熱硬化式のシリコーン接着剤を使用した。硬化後の接着層の厚みは、0.1mmであった。また、硬化後の接着層の25℃における熱伝導率は、0.9W/mKであった。接着後の隣接するセラミックス基板の間隙(積層方向に垂直な方向の間隙の距離)は、0.05mmであった。
【0055】
(溶射)
接着したセラミックス基板の間隙に溶射膜を形成した。まず、高速プラズマ溶射機を用いて非酸化性ガスプラズマを基材およびセラミックス基板の被溶射面に対して照射または噴射し、被溶射面の予熱を行った。非酸化性ガスとして、Arガス、NガスおよびHガスの混合ガスが用いられた。溶射機を構成するノズルに対するArガスの供給量が100l/minに制御され、Nガスの供給量70l/minに制御され、かつ、Hガスの供給量が70l/minに制御された。
【0056】
高速プラズマ溶射機を構成するノズルに対する印加電流を250Aに制御することにより、当該ノズルへの供給電力が65kWに調節された。ノズルの先端とセラミックス基板の被溶射面との間隔を75mmに調節した。基材に対するノズルの走査速度または変位速度を850mm/sに調節した。これにより、Arガス、NガスおよびHガスの混合ガスのプラズマが生成され、当該プラズマがノズルの先端から被溶射面に対して照射または噴射された。プラズマの照射または噴射による被溶射面の予熱は、3分間行った。
【0057】
そして、高速プラズマ溶射機をそのまま用いて、YAGスラリーを、非酸化性ガスを用いて基材の被溶射面に対してプラズマ溶射した。スラリーは、平均粒子径D50が0.5μmである純度99.9%以上のYAG原料粉末300gと、水700gとを混合することによりYAGスラリーを調整した。非酸化性ガスとして、Arガス、NガスおよびHガスの混合ガスが用いられた。溶射機を構成するノズルに対するArガスの供給量を100l/minに制御し、Nガスの供給量を70l/minに制御し、かつ、Hガスの供給量を70l/minに制御した。これにより、溶射速度が600~700mm/sに制御された。
【0058】
高速プラズマ溶射機を構成するノズルに対する印加電流を250Aに制御することにより、当該ノズルへの供給電力が65kWに調節された。ノズルの先端とセラミックス基板の被溶射面との間隔を75mmに調節した。基材に対するノズルの走査速度または変位速度を850mm/sに調節した。これにより、Arガス、NガスおよびHガスの混合ガスのプラズマが生成され、当該プラズマにより溶融された原料粉末がノズルの先端から基材の被溶射面に対して噴射された。
【0059】
(加工)
溶射膜形成後、研削加工によって、隣接するセラミックス基板および溶射膜の表面を面一加工した。加工後の隣接するセラミックス基板の表面および溶射膜の表面を含む面の表面粗さRaは、1.2μmであった。このようにして、隣接するセラミックス基板の間隙がYAG溶射膜により被覆されている実施例1の耐プラズマセラミックス部材を作製した。実施例1の間隙の断面形状は、図4(a)に示されるような形状となっている。
【0060】
(実施例2)
実施例2の耐プラズマセラミックス部材は、セラミックス基板の角部をC1mmに加工した以外は、実施例1と同一の条件および形状で作製した。実施例2の間隙の断面形状は、図4(b)に示されるような形状となっている。
【0061】
(実施例3)
実施例3の耐プラズマセラミックス部材は、セラミックス基板の角部を斜め45°で組み合わさる形状に面取り加工した以外は、実施例1と同一の条件および形状で作製した。実施例3の間隙の断面形状は、図4(c)に示されるような形状となっている。
【0062】
(実施例4)
実施例4の耐プラズマセラミックス部材は、セラミックス基板の角部を段差付きで組み合わさる形状に加工した以外は、実施例1と同一の条件および形状で作製した。実施例4の間隙の断面形状は、図4(d)に示されるような形状となっている。
【0063】
(実施例5)
実施例5の耐プラズマセラミックス部材は、基材およびセラミックス基板を図2の形状になるように形成した。詳述すると、基材を外径600mm、内径550mm、高さ500mmの円筒状に形成した。また、セラミックス基板を外径550mm、内径540mm、高さ250mmの円筒を円周方向に1/3カットした形状に形成し、それを6個準備した。それ以外は、実施例1と同一の条件で作製した。実施例5の間隙の断面形状は、図4(a)に示されるような形状と同様の形状となっている。
【0064】
(実施例6)
実施例6の耐プラズマセラミックス部材は、基材およびセラミックス基板を図3の形状になるように形成した。詳述すると、基材を外径600mm、厚み25mmの円板状に形成した。また、外径600mm、内径300mm、厚み5mmのドーナツ形状を円周方向に1/4カットした形状に形成したセラミックス基板を4個準備し、外径300mm、厚み5mmの円板形状に形成したセラミックス基板を1個準備した。それ以外は、実施例1と同一の条件で作製した。実施例6の間隙の断面形状は、図4(a)に示されるような形状となっている。
【0065】
(実施例7)
実施例7の耐プラズマセラミックス部材は、セラミックス基板の角部をC0.05mmに加工し、隣接するセラミックス基板の間隙を0.1mmとした以外は、実施例1と同一の条件および形状で作製した。実施例7の間隙の断面形状は、図4(a)に示されるような形状となっている。
【0066】
(実施例8)
実施例8の耐プラズマセラミックス部材は、セラミックス基板の角部をC0.05mmに加工し、隣接するセラミックス基板の間隙を0.2mmとした以外は、実施例1と同一の条件および形状で作製した。実施例8の間隙の断面形状は、図4(a)に示されるような形状となっている。
【0067】
(実施例9)
実施例9の耐プラズマセラミックス部材は、セラミックス基板の角部をC2mmに加工した以外は、実施例1と同一の条件および形状で作製した。実施例9の間隙の断面形状は、図4(a)に示されるような形状となっている。
【0068】
(実施例10)
実施例10の耐プラズマセラミックス部材は、溶射膜の材料をYとした以外は、実施例1と同一の条件および形状で作製した。実施例10の間隙の断面形状は、図4(a)に示されるような形状となっている。
【0069】
(比較例)
比較例の耐プラズマセラミックス部材は、溶射膜を形成しなかった以外は、実施例1と同一の条件および形状で作製した。
【0070】
(評価方法)
実施例1から10、および比較例の耐プラズマセラミックス部材を、耐プラズマ面のみがプラズマに曝されるように、個別にプラズマプロセスを行なうチャンバーに設置し、10時間プラズマプロセスを実施した。その後、実施例1および比較例は、隣接するセラミックス基板の表面にシリコンウェハを載置し、そのシリコンウェハに付着したパーティクルについて、トプコン社製ウエハ表面検査装置(WM-10)を用いて、0.2~5μmのパーティクルの数をカウントした。また、実施例および比較例の耐プラズマセラミックス部材の耐プラズマ面の形態を光学顕微鏡(×500)で確認した。またシリコンウェハに転写したパーティクルの付着位置で耐プラズマセラミックス部材からのパーティクル発塵位置を確認した。図6は、実施例および比較例の耐プラズマセラミックス部材の形状および評価結果を示す表である。
【0071】
溶射膜を形成した実施例1と比較して、溶射膜を形成しなかった比較例は、パーティクルが溶射膜を形成していない領域に集中してカウントされ、パーティクル数が非常に多かった。これは、セラミックス基板の間隙から侵入した腐食性ガスが基材のAlを腐食させ、それによって発生したパーティクルが耐プラズマセラミックス部材の外部に飛び出したためと推定される。したがって、隣接するセラミックス基板の間隙をYAGまたはYからなる溶射膜で覆うことで、耐プラズマ面の耐プラズマ性が向上することが確かめられた。
【0072】
実施例1から7および10は、耐プラズマ面の形態がいずれも良好であった。一方、実施例8は、溶射膜に段差が確認された。これは、セラミックス基板の間隙の距離が大きすぎたためと推定される。セラミックス基板の間隙が大きい箇所や段差のある箇所に溶射膜を製膜すると、段差を溶射膜でカバーしきれなくなる場合がある。そのような箇所は、溶射膜の強度が低下しやすいため、クラックが発生しやすくなると考えられる。また、実施例9は、溶射膜に気孔が確認された。これは、C面が大きすぎたため、堆積する溶射膜の体積が大きくなりすぎて溶射膜の密度に粗密の分布が生じたためと推定される。溶射膜の気孔率が5%以上になると、溶射膜の耐プラズマ性が低下するので、耐プラズマセラミックス部材の寿命が短くなる場合がある。これら溶射膜の不具合は、溶射の条件を変更することである程度改善させることが可能である。
【0073】
以上の結果によって、本発明の耐プラズマセラミックス部材は、耐プラズマ性を高くすることができ、また、耐プラズマセラミックス部材の機械的強度を十分に高くすることができることが分かった。また、耐プラズマセラミックス部材は、実施例で作製したような大型の部材も作製できたように、大型化を実現できることが分かった。また、本発明の耐プラズマセラミックス部材の製造方法は、このような耐プラズマセラミックス部材を製造できることが分かった。
【0074】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0075】
100 耐プラズマセラミックス部材
110 基材
112 第1の表面
120 セラミックス基板
130 溶射膜
140 接着層
図1
図2
図3
図4
図5
図6