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特開2022-129476吸引機能付き加工装置及びカバー部材
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  • 特開-吸引機能付き加工装置及びカバー部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129476
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】吸引機能付き加工装置及びカバー部材
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
B23Q11/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028147
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100134728
【弁理士】
【氏名又は名称】奥川 勝利
(72)【発明者】
【氏名】楠山 純平
(72)【発明者】
【氏名】中尾 陽一
【テーマコード(参考)】
3C011
【Fターム(参考)】
3C011BB03
3C011BB06
(57)【要約】
【課題】カバー部材の内周面と回転軸部材の外周面との摺動による摩耗によって回転軸部材やカバー部材が劣化するのを回避して高い耐久性を実現する。
【解決手段】回転軸部材2の先端に備わった加工部3を回転させて被加工物を加工するとともに該被加工物の加工屑を吸引する吸引機能付き加工装置であって、前記回転軸部材には、先端側に小径部R1、後端側に大径部R3が設けられており、前記回転軸部材の小径部から大径部にわたる外周面を、該外周面の全周にわたって吸引用流路B1~B3が形成されるように覆うカバー部材20と、前記吸引用流路に連通する気流排出口24とを備え、前記吸引用流路内における加工時の圧力が、前記小径部での流路部分B1よりも前記大径部での流路部分B3の方が低く、加工時における前記吸引用流路内の前記圧力の差によって生じる気流Aにより前記被加工物の加工屑を前記吸引用流路内へ吸引し、前記気流排出口から排出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸部材を回転させることにより該回転軸部材の先端に備わった加工部を回転させて被加工物を加工するとともに該被加工物の加工屑を吸引する吸引機能付き加工装置であって、
前記回転軸部材には、先端側に小径部、後端側に大径部が設けられており、
前記回転軸部材の小径部から大径部にわたる外周面を、該外周面の全周にわたって吸引用流路が形成されるように覆うカバー部材と、
前記吸引用流路に連通する気流排出口とを備え、
前記吸引用流路内における加工時の圧力が、前記小径部での流路部分よりも前記大径部での流路部分の方が低く、
加工時における前記吸引用流路内の前記圧力の差によって生じる気流により前記被加工物の加工屑を前記吸引用流路内へ吸引し、前記気流排出口から排出することを特徴とする吸引機能付き加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の吸引機能付き加工装置において、
前記吸引用流路内に生じる前記気流を補強するための気流補強手段を有することを特徴とする吸引機能付き加工装置。
【請求項3】
請求項2に記載の吸引機能付き加工装置において、
前記気流補強手段は、前記回転軸部材の回転力によって回転される羽部材を含むことを特徴とする吸引機能付き加工装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の吸引機能付き加工装置において、
前記気流補強手段は、前記気流排出口から吸い込み気流が発生するように該気流排出口に接続された通路内に気流を発生させる気流発生手段を含むことを特徴とする吸引機能付き加工装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吸引機能付き加工装置において、
前記回転軸部材の外周面は粗面であることを特徴とする吸引機能付き加工装置。
【請求項6】
請求項5に記載の吸引機能付き加工装置において、
前記大径部の外周面は、前記小径部の外周面よりも表面粗さが高い粗面であることを特徴とする吸引機能付き加工装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の吸引機能付き加工装置において、
前記加工部は炭素繊維強化プラスチックを被加工物とするものであることを特徴とする吸引機能付き加工装置。
【請求項8】
先端側に小径部、後端側に大径部を有する回転軸部材を回転させて該回転軸部材の先端に備わった加工部により被加工物を加工するとともに、該被加工物の加工屑を吸引する吸引機能付き加工装置に用いられるカバー部材であって、
前記回転軸部材の小径部から大径部にわたる外周面を、該外周面の全周にわたって吸引用流路が形成されるように覆うカバー部と、
前記吸引用流路に連通する気流排出口とを有し、
前記吸引用流路内における加工時の圧力が、前記小径部での流路部分よりも前記大径部での流路部分の方が低く、加工時における前記吸引用流路内の前記圧力の差によって生じる気流により前記被加工物の加工屑を前記吸引用流路内へ吸引し、前記気流排出口から排出するように構成されていることを特徴とするカバー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引機能付き加工装置及びカバー部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加工部を回転させることで被加工物を加工するとともに該被加工物の加工屑を吸引する吸引機能付き加工装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、先端に切刃(加工部)が備わった工具本体(回転軸部材)を軸線回りに回転させて加工したときの切屑(加工屑)を、この工具本体の回転を利用して吸引する切屑吸引式切削工具を備えた工作機械(吸引機能付き加工装置)が開示されている。この工作機械では、工作機械の主軸に切屑吸引式切削工具が取り付けられる。円柱状の工具本体の外周面に、工具本体先端面に開口して後端側に向かうに従い工具回転方向とは反対側に向かうように捩れる切屑排出溝を有し、この切屑排出溝の後端部が切屑排出用のダクトに連通している。ダクトは、吸引装置に接続されている。この工作機械における切屑吸引式切削工具は、工具本体の軸線を中心とした円筒状のカバー部材が、ダクトから切刃の後端部にわたって、工具本体の外周面を覆うように固定配置されている。
【0004】
特許文献1には、工具本体が回転すると、切屑排出溝内には、切屑排出溝の捩れによる工具本体後端側への気流が発生するとされている。また、工具本体が回転すると、遠心力によって切屑排出溝内の気体が外周側に押し出されて固定されたカバー部材の内周面と接触することによる摩擦に伴う旋回流が形成されるとされている。この旋回流も切屑排出溝の捩れに沿って工具本体の後端側に向かい。切屑排出溝の捩れによる気流とともに、切屑排出溝内の切屑をダクトへ排出させるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-177316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の工具は、切屑を吸引するための吸引用流路となる切屑排出溝内に気流を発生させるため、工具本体の外周面(切屑排出溝外の面)とカバー部材の内周面との隙間を実質的に無くすように両面を摺動させることになる。そのため、この摺動による摩耗によって工具本体やカバー部材が劣化しやすく、耐久性に課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、回転軸部材を回転させることにより該回転軸部材の先端に備わった加工部を回転させて被加工物を加工するとともに該被加工物の加工屑を吸引する吸引機能付き加工装置であって、前記回転軸部材には、先端側に小径部、後端側に大径部が設けられており、前記回転軸部材の小径部から大径部にわたる外周面を、該外周面の全周にわたって吸引用流路が形成されるように覆うカバー部材と、前記吸引用流路に連通する気流排出口とを備え、前記吸引用流路内における加工時の圧力が、前記小径部での流路部分よりも前記大径部での流路部分の方が低く、加工時における前記吸引用流路内の前記圧力の差によって生じる気流により前記被加工物の加工屑を前記吸引用流路内へ吸引し、前記気流排出口から排出することを特徴とするものである。
この吸引機能付き加工装置では、加工部を先端に備えた回転軸部材が、先端側に小径部、後端側に大径部を有している。そして、この小径部から大径部にわたる回転軸部材の外周面は、その外周面の全周にわたって吸引用流路が形成されるように、カバー部材で覆われている。このような構成により、加工時に回転軸部材が回転すると、大径部での周速は小径部での周速よりも速くなるため、大径部の外周面に連れまわって流れる気流の速度が小径部の外周面に連れまわって流れる気流の速度よりも速くなる。この速度差は、ベルヌーイの定理により、大径部の外周面とカバー部材の内周面との間の流路部分の圧力を、小径部の外周面とカバー部材の内周面との間の流路部分の圧力よりも低くするように作用する。この圧力差は、加工時(回転軸部材の回転時)における吸引用流路内に、回転軸部材の先端側(小径部側)よりも後端側(大径部側)を負圧にするので、吸引用流路内の気流を、回転軸部材の先端側から後端側へ向わせることを可能にする。すなわち、連れまわり気流の勢いが吸引用流路内に生じる流路抵抗(気体の粘性抵抗、流路壁面での摩擦損失、流路断面の変化での損失など)を上回って上述した圧力差が生じように構成することで、吸引用流路内に、回転軸部材の先端側から後端側へ向かう気流を発生させることができる。これにより、加工部が被加工物を加工するときに生じる加工屑を回転軸部材の先端側から吸引用流路内へ吸引でき、気流排出口から排出することができる。
しかも、本発明では、カバー部材が、回転軸部材の外周面の全周にわたって吸引用流路が形成されるように、回転軸部材の外周面との間に十分な隙間を有する。そのため、カバー部材の内周面と回転軸部材の外周面との摺動がなく、摩耗による回転軸部材やカバー部材の劣化が回避できるので、高い耐久性を実現することができる。
【0008】
また、前記吸引機能付き加工装置は、前記吸引用流路内に生じる前記気流を補強するための気流補強手段を有してもよい。
これによれば、加工屑をより高い吸引力で吸引することが可能となる。
なお、従来の吸引機能を備えていない加工装置では、加工屑を処理するために、加工装置とは別体の吸引装置(モータ等の駆動力によって発生させた吸い込み気流によって吸引する吸引装置)を併用し、吸引装置の吸引口を加工屑の発生箇所(加工箇所近傍)に配置することがあった。本吸引機能付き加工装置は、上述のように加工部を回転させるための回転軸部材の回転力によって発生させた気流で加工屑を吸引できるものであるため、この気流を補強するための気流補強手段は、従来の併用されていた吸引装置と比べて小型で簡易なものとすることができる。
【0009】
また、前記吸引機能付き加工装置において、前記気流補強手段は、前記回転軸部材の回転力によって回転される羽部材を含んでもよい。
これによれば、加工部を回転させるための回転軸部材の回転力によって発生させた気流を補強するための気流補強手段の動力源として、この回転軸部材の回転力を用いることができる。よって、気流補強手段としての別途の動力源を不要とし、更なる小型化が可能となる。
【0010】
また、前記吸引機能付き加工装置において、前記気流補強手段は、前記気流排出口から吸い込み気流が発生するように該気流排出口に接続された通路内に気流を発生させる気流発生手段を含んでもよい。
これによれば、上述のように加工部を回転させるための回転軸部材の回転力によって発生させた気流で気流排出口から排出された加工屑を、気流排出口に接続された通路の奥へと安定して送り込むことができる。これにより、気流排出口付近に加工屑が溜まるのを抑制でき、吸引用流路内の気流の勢いが気流排出口付近の加工屑によって阻害されるのを抑制できる。また、このような気流発生手段を設けることで、気流排出口に接続された通路の奥に加工屑を処理したり収容したりする後段装置まで加工屑を適切に搬送できるようになる。
【0011】
また、前記吸引機能付き加工装置において、前記回転軸部材の外周面は粗面であってもよい。
これによれば、回転軸部材の外周面に連れまわって生じる気流の勢いを大きくすることができる。よって、回転軸部材の外周面とカバー部材の内周面との間の吸引用通路内は、加工屑の発生する箇所(吸引用通路外)の圧力に対し、より大きな負圧となり、より大きな吸引力を発揮して加工屑を吸引することができる。
【0012】
また、前記吸引機能付き加工装置において、前記大径部の外周面は、前記小径部の外周面よりも表面粗さが高い粗面であってもよい。
これによれば、回転軸部材のうちの小径部の外周面に連れまわって生じる気流の勢いに対し、回転軸部材のうちの大径部の外周面に連れまわって生じる気流の勢いが更に大きいものとなる。その結果、小径部での流路部分と大径部での流路部分との圧力差を更に大きいものとすることができ、吸引用流路内には、回転軸部材の先端側から後端側へ向かうより強い気流を発生させることができる。
【0013】
また、前記吸引機能付き加工装置において、前記加工部は炭素繊維強化プラスチックを被加工物とするものであってもよい。
これによれば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を、その加工時に発生する硬く微小な加工屑であるCFRP片(特に切断された炭素繊維)を吸引しながら加工することができる。これにより、CFRP片(加工屑)が飛散したり、CFRP片(加工屑)が各種装置の駆動部に進入して部品を摩耗させたりする諸問題を解決することが可能となる。
従来は、このような諸問題を解決するためにクーラント液を使用してCFRP片(加工屑)を液で流して回収する方法が採られていたが、この方法では使用済みのクーラント液の処理が困難で使い勝手が悪いという課題があった。これに対し、本吸引機能付き加工装置によれば、クーラント液を使用せずにCFRP片(加工屑)による諸問題を解決可能であるため、使い勝手の良い加工装置を提供することができる。
【0014】
また、本発明の他の態様は、先端側に小径部、後端側に大径部を有する回転軸部材を回転させて該回転軸部材の先端に備わった加工部により被加工物を加工するとともに、該被加工物の加工屑を吸引する吸引機能付き加工装置に用いられるカバー部材であって、前記回転軸部材の小径部から大径部にわたる外周面を、該外周面の全周にわたって吸引用流路が形成されるように覆うカバー部と、前記吸引用流路に連通する気流排出口とを有し、前記吸引用流路内における加工時の圧力が、前記小径部での流路部分よりも前記大径部での流路部分の方が低く、加工時における前記吸引用流路内の前記圧力の差によって生じる気流により前記被加工物の加工屑を前記吸引用流路内へ吸引し、前記気流排出口から排出するように構成されていることを特徴とする。
本カバー部材は、先端側に小径部、後端側に大径部を有する回転軸部材を回転させて該回転軸部材の先端に備わった加工部により被加工物を加工する加工装置に用いられることで、被加工物を加工しながら加工屑を吸引する吸引機能付きの加工装置を提供できる。しかも、この吸引機能付き加工装置は、上述したように、加工部を回転させるための回転軸部材の回転力によって発生させた気流で加工屑を吸引できるため、小型化が容易である。しかも、本カバー部材は、回転軸部材の外周面の全周にわたって吸引用流路が形成されるように、回転軸部材の外周面との間に十分な隙間を有するように構成される。そのため、カバー部材の内周面と回転軸部材の外周面との摺動がなく、摩耗による回転軸部材やカバー部材の劣化が回避できるので、高い耐久性を実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カバー部材の内周面と回転軸部材の外周面との摺動による摩耗によって回転軸部材やカバー部材が劣化するのを回避して、高い耐久性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態における加工装置の一部を模式的に示す斜視図。
図2】同加工装置の本体部を示す一部破断側面図。
図3】同加工装置による正面フライス加工の説明図。
図4】同加工装置の本体部を回転軸部材の先端側から見た斜視図。
図5】同加工装置に接続された収集部を示す斜視図。
図6】同加工装置の吸引機能を説明するための説明図。
図7】同加工装置における気流補強手段の一変形例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)からなる被加工物(ワーク)を切削加工する加工装置に適用した一実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態における加工装置の一部を模式的に示す斜視図である。
図2は、本実施形態における加工装置の本体部を示す一部破断側面図である。
本実施形態の加工装置1は、CFRPワーク100の側面を正面フライス加工により切削加工するものである。この加工装置1は、加工装置の本体部と、ワーク支持部10と、カバー部材20と、収集部30とから構成されている。
【0019】
加工装置1の本体部は、主に、鋼材等の金属材料による構成される円柱状の回転軸部材2と、回転軸部材2の先端に設けられる加工部としての正面フライス加工用の切削工具3と、回転軸部材2を軸線Oの回りで回転駆動させる駆動部としてのモータ4とから構成されている。
【0020】
回転軸部材2は、モータ4に接続されて回転するモータ軸に対して同軸となるように取り付けられ、先端に設けられる切削工具3と一体的に構成されている。回転軸部材2は、先端側から順に、切削工具3と、切削工具3を保持するコレクトチャック2aと、コレクトチャック2aを支持する軸本体部2bと、軸本体部2bの後端側に固定されてモータ軸に対して取り付けられる取付部2cとから構成される。
【0021】
回転軸部材2の外形形状は、軸線Oを中心とした多段構成の円柱形状である。具体的には、先端側に最も径の小さい小径部としての第一径部R1を有し、後端側に当該第一径部R1よりも径の大きい大径部としての第三径部R3を有し、第一径部R1と第三径部R3との間にこれらを接続するテーパー部R2を有する。第一径部R1は、コレクトチャック2aに保持される切削工具3の軸部によって構成され、本実施形態において、その直径は例えば12.45mmである。また、第三径部R3は、コレクトチャック2aの後端部と軸本体部2bとによって構成され、その直径は例えば76mmである。
【0022】
切削工具3は、CFRPのフライス加工に用いることが可能な工具であれば、特に制限はないが、ダイヤモンド状炭素(DLC:Diamond Like Carbon)や気相合成ダイヤモンド(CVDD:Chemical Vapor Deposition Diamond)などでコーティングされた工具を用いることができる。DLC工具は、超硬合金に炭素間の結合を骨格構造とした、ダイヤモンドに近いアモルファス炭素膜(1~10μm)を生成した工具である。一方、CVDD工具は、一般にダイヤモンドコーティング工具と呼ばれ、化学蒸着法を用いて超硬合金の台金上にダイヤモンドの薄膜(10~20μm)を生成した工具である。また、プラズマ援用蒸着法を用いてダイヤモンドの薄膜を生成する方法もある。
【0023】
これらのコーティング工具の寿命は短く、コーティング膜が剥がれると加工精度や能率が著しく低下する欠点があるので、切削工具3としては、多結晶ダイヤモンド(PCD:Polycrystalline Diamond)工具を用いるのが好適である。PCD工具は、微細なダイヤモンド粒子をランダムに配向している焼結体であるため、 DLC工具や CVDD工具に比べて耐摩耗性に優れている。また、コバルト系(Co-C二元系、Co-W-C三元系)金属を焼結助剤に用いるためワイヤー放電加工が可能であるうえに、ダイヤモンド層の厚さも大きくできるため刃先研磨が可能である。その結果、刃先形状や粒径に左右されやすいDLCやCVDDに比べ、鋭利な切れ刃が創成できる。したがって、PCD工具によれば、工具寿命の延長や加工精度の向上が期待できる。
【0024】
ワーク支持部10は、CFRPワーク100の被加工面である側面が加工装置1の本体部における切削工具3に対面するようにCFRPワーク100を把持により支持する。ワーク支持部10は、固定配置されている加工装置1の本体部に対し、切削工具3の軸線Oに対して直交する方向(ワーク送り方向:X方向)に移動する。また、ワーク支持部10は、軸線Oに平行な方向(切込み深さ方向:Y方向)の位置がCFRPワーク100の切り込み深さの設定に合わせて調整される。
【0025】
図3は、本実施形態における加工装置1による正面フライス加工の説明図である。
加工装置1の本体部は、モータ4によって回転軸部材2が軸線O回りで回転することにより、回転軸部材2と一体に構成される切削工具3が軸線O回りで図中矢印Cの向きに回転する。そして、CFRPワーク100を支持した状態のワーク支持部10のY方向位置を切込み深さの設定に合わせて位置調整した後、ワーク支持部10をワーク送り方向(X方向)へ移動させる。これにより、軸線O回りで回転する切削工具3によってCFRPワーク100の側面(被加工面)が切削され、CFRPワーク100の側面に対して正面フライス加工が行われる。
【0026】
次に、本実施形態における加工装置1の吸引機能について説明する。
図4は、加工装置1の本体部を回転軸部材2の先端側から見た斜視図である。
切削工具3を先端に備えた回転軸部材2は、図1及び図2に示したように、先端側が小径の第一径部R1であり、後端側が大径の第三径部R3であるという略多段円柱形状の外形形状を有する。本実施形態では、小径の第一径部R1から大径の第三径部R3にわたる回転軸部材2の外周面を覆うカバー部材20が設けられている。
【0027】
カバー部材20は、図4に示すように、回転軸部材2の先端側に位置する端面に開口部22を有している。この開口部22から回転軸部材2の先端に設けられる切削工具3が突出するように、カバー部材20が配置されている。これにより、切削工具3による正面フライス加工中にカバー部材20がCFRPワーク100に接触しないように構成されている。ただし、正面フライス加工中に発生する切り屑(加工屑)をカバー部材20の開口部22から効率よく吸い込むために、カバー部材20の開口部22から切削工具3が突出する突出量はできるだけ少なくすることが好ましい。
【0028】
本実施形態におけるカバー部材20は、小径の第一径部R1から大径の第三径部R3にわたる回転軸部材2の外周面の全周にわたって、一定の距離をあけて離間しており、この離間により形成される空間が後述の吸引用流路B1~B3となる。このカバー部材20の側面には、吸引用流路B1~B3に連通する気流排出口24が形成され、この気流排出口24からカバー部材20の側面外方へ排出通路部21が伸びている。この排出通路部21は、加工装置1の収集部30に接続されている。
【0029】
図5は、本実施形態の加工装置1に接続された収集部30を示す斜視図である。
収集部30は、回転軸部材2の外周面とカバー部材20の内周面との間に形成される吸引用流路B1~B3を介して吸引された切り屑(加工屑)を収集する。本実施形態の収集部30は、カバー部材20の排出通路部21に接続される入口通路部31と、サイクロン部32と、ダストボックス33と、エア吸込通路部34と、エア吸込通路部34に接続されるサイレントクリーナ35とから構成される。
【0030】
吸引用流路B1~B3を介して吸引された切り屑(加工屑)は、空気とともに入口通路部31からサイクロン部32へ送られる。サイクロン部32は、を通って導入されると、空気と切り屑とを分離する。サイクロン部32は、サイレントクリーナ35がエア吸引を行うことで動作し、サイクロン部32の内部において空気と切り屑とを分離する。分離された切り屑は、サイクロン部32の下部に配置されるダストボックス33に収容される。一方、切り屑が分離された清浄な空気は、エア吸込通路部34を介してサイレントクリーナ35に吸引され、外部へ排出される。
【0031】
なお、収集部30の構成はこれに限られないが、長時間にわたって吸塵能力が低下しないようにするためには、吸塵機としてガスサイクロン方式が好ましい。
【0032】
図6は、本実施形態における加工装置1の吸引機能を説明するための説明図である。
加工時に回転軸部材2が軸線O回りで回転すると、回転軸部材2の外周面周囲の空気が回転軸部材2の外周面に連れまわる。これにより、回転軸部材2の外周面の周囲にその周方向に流れる気流Aが生じる。このとき、本実施形態の回転軸部材2は、先端側が小径(直径d)の第一径部R1で、後端側が大径(直径d)の第三径部R3であるという外形形状を有する(d>d)。そのため、回転軸部材2の周速は、大径の第三径部R3での周速の方が小径の第一径部R1での周速よりも速くなる。そのため、大径の第三径部R3の外周面に連れまわって流れる気流A3の速度は、小径の第一径部R1の外周面に連れまわって流れる気流A1の速度よりも速くなる。
【0033】
また、本実施形態では、小径の第一径部R1と大径の第三径部R3との間がテーパー部R2によって接続されており、テーパー部R2の外周面は回転軸部材2の軸方向後端側に向かうほど直径が大きいものである。したがって、テーパー部R2の外周面に連れまわって流れる気流A2は、回転軸部材2の軸方向後端側に向かうにつれて徐々に速くなる。
【0034】
このような構成は、回転軸部材2の外周面とカバー部材20の内周面との間に形成される吸引用流路B1~B3を流れる気流Aの速度を、回転軸部材2の先端側から後端側にむかって高め、回転軸部材2の軸方向において気流Aの速度差を生むように作用する。この気流Aの速度差(A3>A2>A1)は、ベルヌーイの定理により、大径の第三径部R3の外周面とカバー部材20の内周面との間の流路部分B3の圧力を、テーパー部R2の外周面とカバー部材20の内周面との間の流路部分B2の圧力よりも低くするように作用し、また、流路部分B2の圧力を、小径の第一径部R1の外周面とカバー部材20の内周面との間の流路部分B1の圧力よりも低くするように作用する。
【0035】
このような圧力差は、加工時(回転軸部材2の回転時)における吸引用流路B1~B3内に、回転軸部材2の先端側(小径の第一径部R1側)よりも後端側(大径の第三径部R3側)を負圧にする。この負圧によって、吸引用流路B1~B3内に生じる気流Aは、回転軸部材2の先端側から後端側へ向かうことが可能になる。
【0036】
ここで、吸引用流路B1~B3内には、気体の粘性抵抗、流路壁面での摩擦損失、流路断面の変化での損失によって気流Aの勢いを妨げる流路抵抗が存在する。ただし、流路抵抗は、各流路部分B1~B3における回転軸部材2の外周面とカバー部材20の内周面との間隔(流路断面積)、回転軸部材2の外周面やカバー部材20の内壁面の表面性状、流路形状などを適宜設定することにより調整することが可能である。
【0037】
本実施形態では、回転軸部材2の外周面とカバー部材20の内周面との間に形成される吸引用流路B1~B3内で生じる回転軸部材2の外周面の連れまわり気流Aの速度が、回転軸部材2の先端側から後端側にむかって高まるように、流路抵抗が調整されている。そのため、吸引用流路B1~B3内に上述した圧力差による負圧を発生させることができ、吸引用流路B1~B3内に、回転軸部材2の先端側から後端側へ向かう気流Aを生じさせることができる。
【0038】
したがって、本実施形態によれば、切削工具3の近傍において、カバー部材20の開口部22への吸い込み気流Aを発生させることができる。これにより切削工具3がCFRPワーク100を加工するときに生じる切り屑(加工屑)を吸い込み気流Aに乗せて吸引用流路B1~B3内へ吸引することができる。そして、このように吸引された切り屑は、吸引用流路B1~B3を通って気流排出口24から排出され、排出通路部21を通じて収集部30へと送られる。
【0039】
このとき、本実施形態では、収集部30における気流発生手段としてのサイレントクリーナ35がエア吸引を行っている。このエア吸引によりサイクロン部32を介して入口通路部31及び排出通路部21を通じ、気流排出口24から収集部30側への吸い込み気流が発生する。これにより、上述のように回転軸部材2の回転力によって発生させた気流Aで気流排出口24から排出された加工屑を、気流排出口24に接続された入口通路部31及び排出通路部21の奥へと安定して送り込むことができる。これにより、気流排出口24付近に加工屑が溜まるのを抑制でき、吸引用流路B1~B3内の気流Aの勢いが気流排出口24付近の加工屑によって阻害されるのを抑制できる。
【0040】
また、このようなサイレントクリーナ35のエア吸引は、吸引用流路B1~B3内に生じる気流Aを補強する作用をもたらすため、サイレントクリーナ35は気流補強手段として機能する。したがって、このようなサイレントクリーナ35のエア吸引を行わない場合と比べて、切削工具3がCFRPワーク100を加工するときに生じる切り屑(加工屑)をより高い吸引力で吸引することが可能となる。
【0041】
なお、このように吸引用流路B1~B3内に生じる気流Aを補強するための気流補強手段は、上述したものに限定されることはない。例えば、図7に示すように、回転軸部材2によって回転される羽部材25を気流補強手段として利用することができる。この羽部材25は、回転軸部材2の後端側、本実施形態では気流排出口24の位置よりも後端側において、回転軸部材2の外周面上に取り付けられている。回転軸部材2が軸線O回りで回転すると、羽部材25が回転して回転軸部材2の後端側へ向かう気流を生じさせる。これにより発生する気流は吸引用流路B1~B3内に生じる気流Aを補強し、カバー部材20の開口部22への吸い込み気流Aの勢いを補強することができる。図7の例は、気流補強手段の動力源として回転軸部材2の回転力を用いることができるので、気流補強手段としての別途の動力源を不要とし、更なる小型化が可能となる。
【0042】
なお、上述した気流補強手段は、本発明において必須の構成ではなく、必ずしも設ける必要はない。
【0043】
また、本実施形態において、カバー部材20は、回転軸部材2の外周面の全周にわたって吸引用流路B1~B3が形成されるように、回転軸部材2の外周面との間に十分な隙間を有する。そのため、カバー部材20の内周面と回転軸部材2の外周面とを摺動させることがない。よって、摩耗による回転軸部材2やカバー部材20の劣化を回避することができ、高い耐久性を実現することができる。
【0044】
なお、本発明を適用可能な加工装置は、本実施形態のもの限らず、加工部を回転させて被加工物を加工するときに加工屑が発生する加工であれば、どのような加工装置であってもよい。本実施形態では、一例として、加工部としての切削工具3によりCFRPワーク100の側面を正面フライス加工により切削加工する場合で説明したが、例えば、CFRPワーク100の側面をエンドミル加工により切削加工したり、CFRPワーク100の平面を平面削りする加工を行ったりしてもよい。
【0045】
また、被加工物も、CFRPワーク100に限られるものではなく、加工部を回転させて被加工物を加工するときに加工屑が発生する被加工物であれば、どのような被加工物であってもよい。本実施形態の加工装置1で加工する被加工物であるCFRPは、炭素繊維に樹脂を含浸・硬化させた複合材料であり、優れた機械特性から航空宇宙産業や自動車産業など幅広い分野において使用されている。CFRPは、工作機械など産業機械の構成部品としての使用が検討されており、従来の航空宇宙産業や自動車産業よりも高い加工精度が求められることが予想される。
【0046】
CFRPの加工には、金属などの加工と同様に湿式加工と乾式加工の2つの方法が用いられている。これらの方法のうち、湿式加工では、水等のクーラント液に長い時間去られているとCFRP中の樹脂を可塑化させ、CFRPの強度を低下させるおそれがある。そのため、CFRPの加工には乾式加工が好適である。しかしながら、乾式加工の場合、加工時に細かい切り屑(特に切断された炭素繊維) が発生し、これが飛散することで、人体の粘膜、肺や気管などに入り、炎症を引き起こすおそれがある。また、CFRPの切り屑は非常に硬いため、これが周囲の部品(特に駆動部の軸受け部など)に進入して部品を摩耗させるおそれがある。そのため、CFRPの加工では特に、加工時に発生する切り屑(加工屑)の飛散を抑制できるように適切に処理することが求められる。
【0047】
本実施形態の加工装置1は、CFRPを加工する加工装置に、その加工時に発生する切り屑を吸引しながら加工できるような吸引機能を付加したものである。これにより、CFRPを加工する時に発生する硬く微小な切り屑(特に切断された炭素繊維)を吸引しながら加工することができる。よって、CFRPの切り屑が飛散したり、CFRPの切り屑が各種装置の駆動部に進入して部品を摩耗させたりする諸問題を解決することができる。
【0048】
また、本実施形態の加工装置1は、先端側に小径部、後端側に大径部を有し、加工部を先端に備えた回転軸部材を有する既存の加工装置に、これに対応するように構成された上述のカバー部材20を取り付けることで実現することが可能である。したがって、既存の加工装置に対するアタッチメントとしてカバー部材20を提供することで、本実施形態の加工装置1が奏する効果を発揮させることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 :加工装置
2 :回転軸部材
3 :切削工具
4 :モータ
10 :ワーク支持部
20 :カバー部材
21 :排出通路部
22 :開口部
24 :気流排出口
25 :羽部材
30 :収集部
31 :入口通路部
32 :サイクロン部
33 :ダストボックス
34 :エア吸込通路部
35 :サイレントクリーナ
100 :CFRPワーク
R1 :第一径部
R2 :テーパー部
R3 :第三径部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7