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<図1>
  • 特開-フレキシブル太陽電池の製造方法 図1
  • 特開-フレキシブル太陽電池の製造方法 図2
  • 特開-フレキシブル太陽電池の製造方法 図3
  • 特開-フレキシブル太陽電池の製造方法 図4
  • 特開-フレキシブル太陽電池の製造方法 図5
  • 特開-フレキシブル太陽電池の製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129504
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】フレキシブル太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20220830BHJP
   H01L 51/48 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01L31/04 132
H01L31/04 112Z
H01L31/04 186
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028189
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】391021226
【氏名又は名称】株式会社カーメイト
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】菊池 創太
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 修二
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA20
5F151CB13
5F151CB14
5F151CB15
5F151CB24
5F151CB27
5F151CB29
5F151FA02
5F151FA03
5F151FA04
5F151FA06
5F151FA17
5F151GA05
5F151GA11
(57)【要約】
【課題】正孔輸送層成膜後の熱処理による影響を抑制し、光電変換層成膜時の膜厚を均一にすることのできるフレキシブル太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂製透明基板14を用いた透明電極基板12を採用したフレキシブル太陽電池10の製造方法であって、透明電極基板12に正孔輸送層18を構成するための水分散液を塗布した後、第1熱処理を実施して成膜する正孔輸送層成膜工程と、正孔輸送層成膜工程の後に、第2熱処理を実施する撓み除去工程と、撓み除去工程の後に、光電変換層20を成膜する光電変換層成膜工程と、を有し、第2熱処理の加熱温度は、第1熱処理の加熱温度よりも低温であり、樹脂製透明基板14のガラス転移温度よりも高温とし、第2熱処理の加熱時間は、第1熱処理の加熱時間よりも短くしたことを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製透明基板を用いた透明電極基板を採用したフレキシブル太陽電池の製造方法であって、
前記透明電極基板に正孔輸送層を構成するための水分散液を塗布した後、第1熱処理を実施して成膜する正孔輸送層成膜工程と、
前記正孔輸送層成膜工程の後に、第2熱処理を実施する撓み除去工程と、
前記撓み除去工程の後に、光電変換層を成膜する光電変換層成膜工程と、を有し、
前記第2熱処理の加熱温度は、前記第1熱処理の加熱温度よりも低温であり、前記樹脂製透明基板のガラス転移温度よりも高温とし、前記第2熱処理の加熱時間は、前記第1熱処理の加熱時間よりも短くしたことを特徴とするフレキシブル太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂製透明基板は、ポリエチレンテレフタレートにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記正孔輸送層を構成するための水分散液は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープされたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のフレキシブル太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記第1熱処理の加熱温度は100℃以上、150℃未満としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフレキシブル太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記第2熱処理の加熱温度は、90℃としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフレキシブル太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池として用いられる光電変換素子の製造方法に係り、特に、フレキシブルな特性を有する太陽電池を製造する場合に好適な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として広く知られているシリコン系素子や、化合物系素子を用いた太陽電池に対して、比較的高い変換効率を持ち、かつフレキシブル性を持たせる事のできる光電変換素子を用いた太陽電池として、ペロブスカイト型の太陽電池が注目されてきている。さらに、ペロブスカイト型の太陽電池は、光電変換層をスピンコートにより形成する事ができる事により、従来の太陽電池に比べて生産コストを大幅に低減する事ができる事でも注目されている。
【0003】
こうしたペロブスカイト型の太陽電池については、種々の研究が進められており、一例として、特許文献1に開示されているような構造が知られている。特許文献1に開示されている太陽電池は、透明電極基板に対して正孔輸送層と、光電変換層、及び対向電極を順次積層形成した構造とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6487005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているような構造を持つ太陽電池では、透明電極基板(例えばPET/ITO基板)に対して正孔輸送層を構成するPEDOT:PSSを塗布した後、120℃から140℃程度での熱処理を施して乾燥させることで成膜を成す。そして、PEDOT:PSSを成膜した後に光電変換層を構成するペロブスカイト化合物の成膜を行うといった工程を経る。
【0006】
しかし、太陽電池を構成する素子にフレキシブル性を持たせるために、透明電極基板を薄板状の基板とした場合、PEDOT:PSSを成膜する工程で加えられる熱により、透明電極基板に撓みが生ずる事が確認された。透明電極基板に生ずる撓みは、主に透明電極基板の中心から離れた部位(透明電極基板が矩形である場合には四隅)がめくれ上がるようなものとなる(図3参照)。光電変換層の成膜は、スピンコートにより行われるため、透明電極基板にこうした撓みが生じていると、光電変換層の膜厚が不均一となり、光電変換効率の低下や、製品としての歩留まりの低下を招く恐れがある。
【0007】
そこで本発明では、正孔輸送層(例えばPEDOT:PSS)成膜後の熱処理による影響を抑制し、光電変換層成膜時の膜厚を均一にすることのできるフレキシブル太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るフレキシブル太陽電池の製造方法は、樹脂製透明基板を用いた透明電極基板を採用したフレキシブル太陽電池の製造方法であって、前記透明電極基板に正孔輸送層を構成するための水分散液を塗布した後、第1熱処理を実施して成膜する正孔輸送層成膜工程と、前記正孔輸送層成膜工程の後に、第2熱処理を実施する撓み除去工程と、前記撓み除去工程の後に、光電変換層を成膜する光電変換層成膜工程と、を有し、前記第2熱処理の加熱温度は、前記第1熱処理の加熱温度よりも低温であり、前記樹脂製透明基板のガラス転移温度よりも高温とし、前記第2熱処理の加熱時間は、前記第1熱処理の加熱時間よりも短くしたことを特徴とする。
【0009】
また、上記のような特徴を有するフレキシブル太陽電池の製造方法において前記樹脂製透明基板は、ポリエチレンテレフタレートにより構成することができる。
【0010】
また、上記のような特徴を有するフレキシブル太陽電池の製造方法において前記正孔輸送層を構成するための水分散液は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープされたものとすることができる。
【0011】
また、上記のような特徴を有するフレキシブル太陽電池の製造方法において前記第1熱処理の加熱温度は100℃以上、150℃未満とすると良い。
【0012】
さらに、上記のような特徴を有するフレキシブル太陽電池の製造方法において、前記第2熱処理の加熱温度は、90℃とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記のような特徴を有するフレキシブル太陽電池の製造方法によれば、正孔輸送層としてのPEDOT:PSS成膜後の熱処理による影響を抑制することができる。よって、光電変換層成膜時の膜厚を均一にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るフレキシブル太陽電池の製造方法を適用するフレキシブル太陽電池の構成を示す図である。
図2】透明電極基板の表面に正孔輸送層をコーティングした状態を示す図である。
図3】第1熱処理を施した後の透明電極基板の状態を示す図である。
図4】第2熱処理を施した後の透明電極基板の状態を示す図である。
図5】光電変換層を成膜した状態を示す図である。
図6】実施形態に係るフレキシブル太陽電池の製造方法を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のフレキシブル太陽電池の製造方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明を実施する上での好適な形態の一部であり、同様な効果を奏する限りにおいて、実施形態における一部の条件に変更を加えたとしても、本発明の一部とみなすことができる。
【0016】
まず、図1を参照して、本発明に係るフレキシブル太陽電池の製造方法(以下、単に製造方法と称す)を適用するフレキシブル太陽電池10の構成を説明する。本発明に係る製造方法を適用するフレキシブル太陽電池10は、透明電極基板12と正孔輸送層18、光電変換層20、及び対向電極22を有する。透明電極基板12は、樹脂製透明基板14と透明電極16により構成される。樹脂製透明基板14は、ポリエチレン(PE)やポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリイミドアミド、液晶ポリマー等、樹脂製基板であれば良いが、以下の実施形態では特に、樹脂製透明基板14としてPETを採用した場合の例について説明する。また、透明電極16としては、透光性と導電性を有する材料であれば良く、酸化インジウムや酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム-酸化亜鉛(IZO)、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(IGZO)等の導電性金属酸化物を採用する事ができる。以下の実施形態では特に、透明電極16としてITOを採用している。よって、本実施形態における透明電極基板12は、PET/ITOにより構成されているものとする。
【0017】
正孔輸送層18は、導電性高分子であるPEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)にポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたものであれば良く、イオン化ポテンシャルが調整された水分散液を熱処理する事により構成される。
【0018】
光電変換層20は、有機/無機混成ペロブスカイト化合物(以下、単にペロブスカイト化合物と称す)により構成されている。
【0019】
対向電極22は本実施形態の場合、アクセプタとしてのC60と、励起子拡散阻止材料としてのBCP(bathocuproine)、及びAgからなる層により構成されている。
【0020】
[製造方法]
上記のような構成のフレキシブル太陽電池10の製造方法について、図2から図5、及び図6に示すフローを参照して説明する。実施形態に係るフレキシブル太陽電池10は、図2に示すような透明電極基板12であるPET/ITO基板をコーター(回転台)に配置し、透明電極基板12上に、正孔輸送層18を構成するPEDOT:PSSの水分散液を滴下した後(S10)、透明電極基板12を回転させる事により塗布が成される(スピンコート:S20)。PEDOT:PSSの水分散液を塗布した後、アニール処理(第1熱処理)を施す事で、PEDOT:PSSの膜を構成する。ここで、アニール処理の温度は、PEDOT:PSSのアニール温度として一般的とされる温度であれば良く、例えば100℃以上、150℃未満程度とすれば良い。なお、本実施形態では、アニール処理の温度を140℃としている。また、アニール処理に要する時間は、20分としている(正孔輸送層成膜工程:S30)。
【0021】
可撓性を有するシート状の透明電極基板12の表面に正孔輸送層18を成膜すると、成膜後の透明電極基板12には、図3に示すような撓みが生じることとなる。これは、アニール処理により透明電極基板12であるPET/ITOに収縮が生じたことによるものと考えられる。
【0022】
このような状態となった透明電極基板12に対し、撓み除去工程としての第2熱処理を施す。第2熱処理は、第1熱処理としての熱処理温度(アニール温度)よりも低く、樹脂製透明基板14が軟化する温度(ガラス転移温度:樹脂製透明基板14をPETとする場合には、約70℃)よりも高温となる温度で熱処理を行うようにする。第2熱処理における具体的な熱処理温度は、90℃前後(例えば90℃±5℃)とすることが望ましい。また、第2熱処理に要する時間は、第1熱処理に要する時間よりも短く、7分としている。
【0023】
透明電極基板12(樹脂製透明基板14)の厚みが十分に厚い場合、樹脂製透明基板14がガラス転移温度以上の温度となり軟化すると、PET/ITOの収縮により樹脂製透明基板14内に生じた残留応力と自重の影響により、図4に示すように撓みが除去されることとなる。
【0024】
なお、第2熱処理の温度は、樹脂製透明基板14の材質や厚みと透明電極16の厚みの関係により、撓み除去に要する温度や時間を適宜定めるようにすれば良い(撓み除去工程:S40)。
【0025】
第2熱処理による撓み除去工程(S40)を経た後、図5に示すように、光電変換層20の成膜を行う。光電変換層20は、次のようにして成膜すれば良い。まず、透明電極基板12上に成膜された正孔輸送層18の上層にペロブスカイト化合物材料の溶液を滴下する(S50)。次に、透明電極基板12を回転させる事で正孔輸送層18の上面にペロブスカイト化合物を均等塗布する(スピンコート:S60)。スピンコートによるペロブスカイト化合物の塗布を終えた後、アニール処理(第3熱処理)を施す(光電変換層成膜工程:S70)。
【0026】
光電変換層20の成膜を終えた後、光電変換層20の上層に対向電極22を成膜する。対向電極22の成膜は、真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティングなどの物理蒸着法(PVD:Physical Vapor Deposition)により行うようにすれば良い。本実施形態の場合図1に示すように、C60と、BCP、及びAgを順次成膜すれば良い(S80)。
【0027】
[効果]
上記のようなフレキシブル太陽電池10の製造方法によれば、正孔輸送層18であるPEDOT:PSSを成膜する際に透明電極基板12に生じる撓みを除去した上で、光電変換層20を成膜することが可能となる。このため、スピンコートによる光電変換層成膜材料の溶液(ペロブスカイト化合物材料の溶液)の塗布を均一なものとすることができる。
【0028】
また、光電変換層20の膜厚を均一なものとすることにより、光電変換効率の向上や、製品としての歩留まりの向上を期待することができる。
【符号の説明】
【0029】
10………フレキシブル太陽電池、12………透明電極基板、14………樹脂製透明基板、16………透明電極、18………正孔輸送層、20………光電変換層、22………対向電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6