(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129513
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】テストリード棒
(51)【国際特許分類】
G01R 1/067 20060101AFI20220830BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
G01R1/067 C
G01R31/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028202
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 伸二
【テーマコード(参考)】
2G011
2G132
【Fターム(参考)】
2G011AA02
2G011AB01
2G011AB06
2G011AE01
2G011AE02
2G011AF06
2G132AA20
2G132AE29
2G132AF01
2G132AL03
2G132AL31
(57)【要約】
【課題】本発明は、電気的特性を安全に、且つ、安定した状態で測定するためのテストリード棒を提供する。
【解決手段】電気的特性を測定する測定器に接続されて先端を測定箇所に接触させる導電性の金属ピン4と、金属ピン4の後端側を保持すると共に外周面を把持可能とする絶縁性の把持部3と、金属ピン4を挿通可能にするピン孔22を有し、金属ピン4の軸方向に移動自在に把持部3又は把持部3の先端側に設けられた中継カバー(中継部)2aに挿入支持されると共に、金属ピンの先端部の全体を被覆する位置まで把持部3又は中継カバー(中継部)2aから突出可能とする絶縁性のピンカバー2bと、ピンカバー2bを金属ピン4の先端側に向けて常時付勢する弾性体5と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的特性を測定する測定器に接続されて先端を被測定箇所に接触させる導電性の金属ピンと、
前記金属ピンの基端側を覆って該金属ピンと一体化し、外周面を把持可能とする絶縁性の把持部と、
前記金属ピンを挿通可能にするピン孔を有し、前記金属ピンの軸方向に移動自在に前記把持部又は前記把持部の先端側に設けられた中継部に挿入支持されると共に、前記金属ピンの先端部の全体を被覆する位置まで前記把持部又は前記中継部から突出可能とする絶縁性のピンカバーと、
前記ピンカバーを前記金属ピンの先端側に向けて常時付勢する弾性体と、
を有することを特徴とするテストリード棒。
【請求項2】
前記ピンカバーは、前記把持部又は前記中継部に挿入された後端部に弾性体受けを備え、
前記把持部又は前記中継部は、内側において、前記弾性体受けより先端側に受座を備え、
前記弾性体は、前記弾性体受けと前記受座の間に介在され、前記弾性体受けと前記受座を互いに引っ張る方向に付勢力を付与する引っ張りバネである
ことを特徴とする請求項1記載のテストリード棒。
【請求項3】
前記ピンカバーは、前記把持部又は前記中継部に挿入された後端部に弾性体受けを備え、
前記把持部又は前記中継部は、内側において、前記弾性体受けより後端側に受座を備え、
前記弾性体は、前記弾性体受けと前記受座の間に介在され、前記弾性体受けと前記受座を互いに離反する方向に付勢力を付与する圧縮ばねである
ことを特徴とする請求項1記載のテストリード棒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的特性の測定に使われる計測器のテストリード棒に関し、特に金属ピンの露出をできるだけ抑えるようにしたテストリード棒に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路の電圧や電流等の電気的特性の測定には、計測器に接続されたテストリード棒が用いられる。このテストリード棒は、絶縁材の先端部から金属ピンが露出されているもので、金属ピンの先端を端子や導線等の被測定箇所に接触させて電気的特性を測定するようにしている。
しかしながら、変電所や発電所等の端子台は、多数の端子を備え、配線が非常に入り組んでいる場合が多く、また、多くの端子台が密集しているため、意図する端子台の測定箇所にたどり着くまでに、金属ピンの露出部分が大きい(長い)と、金属ピンが意図しない導電体にも接触して短絡・地絡事故が発生しやすくなる。
このため、従来においては、非特許文献1及び2や特許文献1及び2に示すように、金属ピンの露出を抑えるようにしたテストリード棒が提案されている。
【0003】
このうち、非特許文献1に示すテストリード棒は、
図7に示されるように、金属ピン4を固定する把持部3と、この把持部3に対して軸心を中心として相対回転可能に取り付けられた中継カバー2aと、金属ピン4を摺動可能に挿通し、金属ピンの外部への露出量を調節可能とするピンカバー(ガード)2bとを備え、中継カバー2aを把持部3に対して回転させることで(又は、把持部3を中継カバー2aに対して回転させることで)、ピンカバー(ガード)2bの中継カバー2aからの突出量を調整し、ピンカバー(ガード)2bを、
図7(a)で示す中継カバー2aに収納した状態(金属ピン4を最も大きく露出させた状態)から
図7(b)で示す金属ピン4の露出を小さく抑えた状態とすることで、短絡によるアークフラッシュの危険性を軽減するようにしている。
【0004】
また、非特許文献2に示すテストリード棒は、
図8(a), (b)に示されるように、把持部3と、把持部3に続いて金属ピン4を支持する中継部2とを備え、中継部2から露出している金属ピン4の露出量を抑えるために、金属ピン4の先端部を除いて被覆可能なキャップ50を中継部2に着脱可能に装着するようにしている。
【0005】
また、特許文献1に示す測定用プローブは、電気的特性を測定する測定器に接続されて先端側を測定箇所に接触させる導電性の棒状の探針と、探針の後端側を覆って支持する絶縁性の把持部と、探針の先端側を外界に突出させるピン孔を有し、探針の軸線方向に移動自在に把持部に嵌められ、この軸線方向への移動により探針の先端部の露出量を第1の規定値の長さからそれより長い第2の規定値の長さまでの範囲で可変させる探針カバーと、探針カバーを探針の先端側に向けて付勢する圧縮コイルバネとを有するものである。
【0006】
さらに、特許文献2に示すテストリードは、テストリード本体の先端に絶縁筒を設け、この絶縁筒内を摺動するテストピンを出没させるために、バネ、連結棒、押しボタン、及びテストピン固定解除ボタンを備えたもので、押しボタンやテストピン固定解除ボタンを操作することで、部品リードの形状、箇所に応じてテストピンを絶縁筒から押し出した状態、又は、引き込んだ状態にして部品リードに接触させるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fluke Corporation、”製品情報”、 TL175 TwistGuardTM テスト・リード、[online]、[検索日令和2年12月22日検索]、インターネット(URL: https://www.fluke.com/ja-jp/product/accessories/test-leads/fluke-tl175#)
【非特許文献2】日置電機株式会社、”Online Store”、保守パーツ・消耗品、[online]、[検索日令和2年12月22日検索]、インターネット(URL: https://www.hioki.co.jp/shop/products/detail/1052)
【特許文献1】特開2011-185688号公報
【特許文献2】実用新案登録第3090803号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、金属ピンの露出量を小さくする上述した各従来技術は、短絡・地絡を軽減する上では有効であるが、金属ピンの先端は露出量が小さいとはいえ常時露出した状態であるため、短絡・地絡するおそれがある。特に、配線が込み入った端子台においては、被測定箇所にたどり着くまでに、テストリード棒の先端部で配線等をかき分ける操作を行うため、配線等をかき分ける際に他の導電体と接触する恐れや配線の被覆を傷つける恐れがある。
【0009】
また、キャップを取り付けて金属ピンの露出量を小さくする構成においては、キャップを紛失した場合には、短絡・地絡を低減する機能を持たせることができなくなるため、キャップの厳格な管理が別途必要となる。
【0010】
さらに、押しボタンを操作することで金属ピンの先端を露出させる構成においては、被測定箇所にたどり着くまでは金属ピンを遮蔽させ、被測定箇所を測定する際に押しボタンを押して金属ピンを露出させる操作が可能となるが、押しボタンを押して金属ピンを押し出す操作はテストリード本体を金属ピンに対して相対的に後方へ移動させる操作となるので、ボタンを押す操作によって手元が振れやすく、金属ピンを被測定箇所に安定して押し付けにくくなる。このため、短絡・地絡の虞を払拭できず、また、安定した状態で正確に測定することができなくなる不都合が生じる。
【0011】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、常態において、キャップのような着脱部材を必要とせず、また、テストリード棒の先端部の全体を被覆可能として、込み入った配線を傷つけることなく安全にかき分けることができ、さらに、測定時には、テストリード棒を被測定箇所に押し付ける操作のみで金属ピンを被測定箇所に接触させ、安定した状態で正確に測定することが可能なテストリード棒を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するために、本発明に係るテストリード棒は、
電気的特性を測定する測定器に接続されて先端を被測定箇所に接触させる導電性の金属ピンと、
前記金属ピンの基端側を覆って該金属ピンと一体化し、外周面を把持可能とする絶縁性の把持部と、
前記金属ピンを挿通可能にするピン孔を有し、前記金属ピンの軸方向に移動自在に前記把持部又は前記把持部の先端側に設けられた中継部に挿入支持されると共に、前記金属ピンの先端部の全体を被覆する位置まで前記把持部又は前記中継部から突出可能とする絶縁性のピンカバーと、
前記ピンカバーを前記金属ピンの先端側に向けて常時付勢する弾性体と、
を有することを特徴としている。
【0013】
したがって、ピンカバーは、弾性体の付勢力により先端側に常時付勢されているので、測定前の常態時においては、金属ピンの先端部の全体を被覆する位置まで変位した状態に保持され、金属ピンは全く表出されない状態となる。このため、テストリード棒によって被測定箇所の電気的特性を測定する場合には、把持部を手で把持してピンカバーによって入り組んだ配線をかき分けながらピンカバーの先端を被測定箇所に近接させ当接させる。その後、その状態で把持部を先端に向かって軸方向に押し付ければ、ピンカバーは弾性体の付勢力に抗して後方へ変位し、ピンカバーで覆われた金属ピンの先端はピンカバー内において被測定箇所に近づく。そして、把持部を更に押してピンカバーを後方に変位させると、金属ピンの先端が被測定箇所に突き当たり、被測定箇所の電気的特性の測定が可能となる。
【0014】
よって、金属ピンは、被測定箇所に当接するまで、ピンカバーに覆われた状態となるので、テストリード棒を被測定箇所に当接するまでの過程で金属ピンが他の導電体と接触する虞は全くなく、短絡・地絡を確実に防ぐことが可能となる。
【0015】
また、込み入った配線をかき分ける場合でも、金属ピンが露出していないので、金属ピンによって配線を傷つけることがなく、安全にかき分けることが可能となる。しかも、金属ピンを被接触箇所に押しつける方向(金属ピンをピンカバーの先端に移動させる方向)と把持部に力をかける方向とが同じになるので、手元が振れて意図しない箇所に金属ピンが当たる不都合もなくなり、安定した状態で正確に電気的特性を測定することが可能となる。
【0016】
ここで、ピンカバーを金属ピンの先端側に向けて常時付勢する構造としては、いろいろな構成が採用可能である。例えば、把持部又は中継部に挿入されたピンカバーの後端部に弾性体受けを設け、把持部又は中継部の内側に、弾性体受けより先端側に受座を設け、弾性体を、弾性体受けと受座の間に介在し、弾性体受けと受座を互いに引っ張る方向に付勢力を付与する引っ張りバネで構成するようにしてもよい。
また、把持部又は中継部に挿入されたピンカバーの後端部に弾性体受けを設け、把持部又は中継部の内側に、弾性体受けより後端側に受座を設け、弾性体を、弾性体受けと受座の間に介在し、弾性体受けと受座を互いに離反する方向に付勢力を付与する圧縮ばねで構成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上に述べたように、本発明のテストリード棒は、導電性の金属ピンと、この金属ピンの後端側を覆って該金属ピンと一体化する絶縁性の把持部と、金属ピンを挿通可能にするピン孔を有し、金属ピンの軸方向に移動自在に把持部又は中継部に挿入支持されると共に、金属ピンの先端部の全体を被覆する位置まで把持部又は中継部から突出可能とする絶縁性のピンカバーと、ピンカバーを金属ピンの先端側に向けて常時付勢する弾性体と、を有して構成したので、常態において、金属ピンの先端部の全体がピンカバーによって被覆された状態となり、込み入った配線をかき分ける場合でも、短絡・地絡するおそれはなく、また、配線を傷つけるおそれもなくなる。また、金属ピンを覆うために着脱させる部材が別途不要となるので、部品の管理も不要となる。
さらに、測定時にはテストリード棒を被測定箇所に押し付ける操作のみで金属ピンを被測定箇所に接触させることができるので、安定した状態で正確に電気的特定を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係るテストリード棒の第1実施形態を示す図であり、(a)は、その全体図、(b)は、弾性体として引っ張りばねを用いた場合の常態時での先端側の構造を示す拡大断面図、(c)は、(b)の状態からピンカバーを先端から押して、ピンカバーの先端(開口端)を金属ピンの先端と一致させた状態を示す拡大断面図である。
【
図2】
図2は、込み入った既設配線をテストリード棒のピンカバーでかき分ける様子を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1のテストリード棒を使用し、端子台の被測定箇所を測定する操作を説明する図であり、(a)は、ピンカバーの先端を端子台の被測定箇所に当接させた状態を示す図、(b)は、把持部を押してピンカバーを引っ張りバネの付勢力に抗して変位させ、金属ピンの先端を被測定箇所に当接させた状態を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るテストリード棒の第2実施形態を示す図であり、(a)は、その全体図、(b)は、弾性体として引っ張りばねを用いた場合の常態時での先端側の構造を示す拡大断面図、(c)は、(b)の状態からピンカバーを先端から押して、ピンカバーの先端(開口端)を金属ピンの先端と一致させた状態を示す拡大断面図である。
【
図5】
図5は、本発明に係るテストリード棒の第3実施形態を示す図であり、(a)は、その全体図、(b)は、弾性体として圧縮ばねを用いた場合の常態時での先端側の構造を示す拡大断面図、(c)は、(b)の状態からピンカバーを先端から押して、ピンカバーの先端(開口端)を金属ピンの先端と一致させた状態を示す拡大断面図である。
【
図6】
図6は、本発明に係るテストリード棒の第4実施形態を示す図であり、(a)は、その全体図、(b)は、弾性体として圧縮ばねを用いた場合の常態時での先端側の構造を示す拡大断面図、(c)は、(b)の状態からピンカバーを先端から押して、ピンカバーの先端(開口端)を金属ピンの先端と一致させた状態を示す拡大断面図である。
【
図7】
図7は、従来のテストリード棒を示す図であり、(a)は、テストリード棒の金属ピンの先端部が大きく露出している状態、(b)は、テストリード棒の金属ピンの露出をピンカバーで抑え、金属ピンの先端のみが露出している状態を示す図である。
【
図8】
図8は、従来のテストリード棒を示す図であり、(a)は、テストリード棒にキャップを装着していない状態を示す図、(b)は、テストリード棒にキャップを装着した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1において、本発明に係るテストリード棒1の第1実施形態が示されている。
テストリード棒1は、金属ピン4と、この金属ピン4を保持する把持部3と、把持部3の先端側に設けられたカバー2(中継カバー(中継部)2aと、金属ピンを覆うように摺動可能に設けられたピンカバー2b)と、金属ピン4を覆う方向にピンカバー2bを常時付勢する弾性体5と、を有して構成されている。
【0021】
金属ピン4は、その全体が、例えば、黄銅によって形成され、表面が金又はニッケル等でメッキされている。金属ピン4の先端は、測定箇所に接触しやすいように尖頭形状に形成され、金属ピン4の後端側は、金属ピン4よりも大径の円柱状に形成された把持部3によって覆われ、この把持部3に固定されて一体化されている。金属ピン4と把持部3は、例えば、圧入、接着、樹脂モールド等の従来と同様の手法によって互いに固定され、金属ピン4の軸心は、把持部3の軸心と一致させている。
【0022】
把持部3は、外周面を把持可能とする絶縁性の硬質樹脂によって形成され、先端側には、測定時の作業者の安全性を確保するためのつば部6が径方向外側に突出形成されている。前記金属ピンは、把持部3の内部においてリード線7と電気的に接続され、このリード線7は、把持部3の後端から引き出されており、図示しない測定器に接続可能となっている。
【0023】
中継カバー(中継部)2aは、把持部3と同様の絶縁性の硬質樹脂によって形成され、つば部6を挟んで把持部3とは反対側に設けられ、例えば、つば部6の金属ピン4の周囲に設けられたボス部6aに嵌合し、金属ピン4の周囲を覆うように軸方向に延設された中空筒状に形成されている。この中継カバー2aによって、内側には後述するピンカバー2bを軸方向に変位させる作動空間20が形成されている。また、この中継カバー2aの先端壁23の中央には、通孔23aが形成され、金属ピン4を作動空間20及び通孔23aを介して突出させるようにしている。
【0024】
ピンカバー2bは、絶縁性の硬質樹脂によって形成され、金属ピン4が挿通可能なピン孔22が形成された長尺筒状に形成されている。このピンカバー2bは、その外径が、中継カバー2aの通孔23aとの間に所定のクリアランスが形成されるように、通孔23aの内径よりも小さく形成され、後端部が通孔23aを介して中継カバー2a内(作動空間20)に挿入され、この中継カバー2aによって軸方向に移動可能に支持されている。
【0025】
このピンカバー2bは、金属ピン4の先端部の全体を被覆可能な長さ(ピンカバー2bを中継カバー2aから最も突出させた状態において、金属ピン4の先端部の全体が被覆可能な長さ)に形成され、中継カバー2aに挿入された後端部には、径方向外側に突出する係止鍔からなる弾性体受け21が一体に形成されている。この弾性体受け21は、中継カバー2aの前端壁23の通孔23aよりも大きい外径を有し、前端壁23の通孔23aの周囲に設けられた受座23bと、軸方向で対峙するように設けられている。
【0026】
そして、受座23bと弾性体受け21の間には、引っ張りバネ5aからなる弾性体5が介在されている。この引っ張りバネ5aは、一端が受座23bに接着剤等で固定され、他端が弾性体受け21に接着剤等で固定され、受座23bと弾性体受け21とを互いに引き寄せる方向に付勢力(引張力)を常時付与するようにしている。
【0027】
したがって、ピンカバー2bは、常態において、引っ張りバネ5aの引張力で中継カバー2aら最も突出した状態となり、金属ピン4の先端部を完全に覆うようになっている。また、ピンカバー2bの先端を引っ張りバネ5aの付勢力に抗して軸方向に押し込むと、ピンカバー2bの中継カバー2aへの挿入量が多くなり、それに伴って金属ピン4がピン孔22の開口端22aに近づくようになる。また、ピンカバー2bの先端の押し込みを解除すると、引っ張りバネ5aの付勢力(引張力)によりピンカバー2bの中継部2aからの突出量が大きくなり、金属ピン4がピン孔22の開口端22aから遠ざかる。
【0028】
なお、引っ張りばね5aは、ピンカバー2bによって込み入った配線10をかき分ける作業においてもピンカバー2bによる金属ピン4を被覆した状態が維持され、且つ、測定時にピンカバー2bを測定箇所に押し当てて軸方向に動かす際に、作業者がさほど大きな力を要しない程度の弾性力であることが望ましい。
【0029】
また、ボス部6aは、ピンカバー2bの挿入量を規制するストッパとしても機能させ、ピンカバー2bの弾性体受けがストッパに当接した状態においては、金属ピン4の先端がピンカバー2bの先端から僅かに突出した状態(金属ピン4の先端が被測定箇所に当接して測定するのに支障がない程度の突出量)となるように設定してもよい。すなわち、ピンカバー2bを最も押し込んだ状態においても、金属ピン4の先端は、測定に必要な突出量しか突出させないようにしてもよい。
【0030】
以上の構成において、次に、上述したテストリード棒1を用いて、込み入った配線10の下にある被測定箇所の電気的特性を測定する操作について説明する。
【0031】
先ず、作業者は、テストリード棒1の把持部3を手で持ち、金属ピン4を覆っているピンカバー2bで込み入った配線10をかき分け(
図2参照)、ピンカバー2bの先端を端子台11の意図する被測定箇所(端子9)に近づける。そして、ピンカバー2bの先端を、
図3に示すように、被測定箇所(端子9)に当接させる。その際、テストリード棒1は、被測定箇所(端子9)に対して略垂直方向から当接させることが好ましいが、テストリード棒1の差し入れる角度によっては、斜めに当接させることになるので、先端部を被測定箇所(端子9)に当接させた状態が滑らないようにテストリード棒1を保持する。
【0032】
その後、その状態でテストリード棒1の把持部3を先端に向かって軸方向に押し付け、ピンカバー2bを引っ張りバネ5aのばね力に抗して中継カバー2aに押し込む。すると、ピンカバー2bを押し込んだ分だけ金属ピン4の先端がピンカバー2bのピン孔22を摺動して被測定箇所(端子9)に近づき、ピンカバー2bが軸方向に移動しなくなるまで押し込めば、金属ピン4の先端が被測定箇所(端子9)に当接した状態となるので、被測定箇所(端子9)の電気的特性の測定が可能となる。
【0033】
したがって、ピンカバー2bは、弾性体5の付勢力により、金属ピン4を被覆したまま、先端部を被測定箇所(端子9)に当接させることができ、また、把持部3を押して金属ピン4を被測定箇所(端子9)に当接させる際にも、金属ピン4を被測定箇所(端子9)に当接させるまで外界に表出させることがない(金属ピン4は、被測定箇所(端子9)に当接するまでピンカバー2bで覆われた状態である)。
【0034】
また、測定が終わり、被測定箇所(端子9)からテストリード棒1を取り除く場合において、把持部3を被測定箇所(端子9)から遠ざけると、ピンカバー2bは、引っ張りバネ5aのばね力で中継カバー2aからの突出量が大きくなり、金属ピン4の先端部を完全に覆う状態となる。このため、テストリード棒1を抜き取る操作においても、金属ピン4が外界に表出されることはない。
【0035】
したがって、テストリード棒1を被測定箇所に当接するまでの工程と、テストリード棒1を被測定箇所から取り除くまでの工程の全工程において、金属ピン4が他の導電体と接触するおそれは無くなるので、短絡・地絡事故を確実に防ぐことが可能となる。このため、短絡・地絡事故を防ぐためのキャップ等の脱着部材は不要となる。
【0036】
また、込み入った配線10をかき分ける場合でも、ピンカバー2bで対処できるので、金属ピン4によって配線10を傷つけることがなく、安全にかき分けることが可能となる。
しかも、金属ピン4を押し出す方向と、金属ピン4を押し出すために把持部3に掛ける力の方向が同方向であるため、手元が振れて意図しない箇所に金属ピンが当たる不都合がなくなり、安定した状態で電気的特性を正確に測定することが可能となる。
【0037】
以上の構成においては、把持部3の先端側に中継カバー2aを設け、この中継カバー2aの内部に弾性体を設け、中継カバー2aに対してピンカバー2bを挿入可能とした構成であるが、中継カバー2aを設けず、把持部3の内部に弾性体5を設け、把持部3に対してピンカバー2bを挿入可能としてもよい。
【0038】
図4にその例(第2実施形態)が示され、テストリード棒1は、金属ピン4と、この金属ピン4を保持する把持部3と、把持部3から突出した金属ピン4を覆うように摺動可能に設けられたピンカバー2bと、金属ピン4を覆う方向にピンカバー2bを常時付勢する弾性体5と、を有して構成されている。
【0039】
この第2実施形態において、第1実施形態と異なる点について説明すると、把持部3は、その先端部の内側、即ち、金属ピン4を固定する樹脂モールド3aとつば部6との間にピンカバー2bを軸方向に変位させる作動空間20を形成し、つば部6の中央に通孔6bを形成し、金属ピン4を作動空間20及び通孔6bを介して把持部3から突出させるようにしている。
【0040】
ピンカバー2bは、金属ピン4を挿通可能な通孔22が形成された長尺筒状に形成され、後端部がつば部6の通孔6bを介して把持部3の内側(作動空間20)に挿入され、この把持部3によって軸方向に移動可能に支持されている。
このピンカバー2bは、金属ピン4の先端部の全体を被覆可能な長さ(ピンカバー2bを把持部3から最も突出させた状態において、金属ピン4の先端部の全体が被覆可能な長さ)に形成され、把持部3に挿入された後端部には、径方向外側に突出する係止鍔からなる弾性体受け21が一体に形成されている。この弾性体受け21は、つば部6の通孔6bよりも大きい外径を有し、つば部6の通孔6bの周囲に設けられた受座6cと、軸方向で対峙するように設けられている。
【0041】
そして、受座6cと弾性体受け21の間に、引っ張りバネ5aからなる弾性体5が介在されている。この引っ張りバネ5aは、一端が受座6cに接着剤等で固定され、他端が弾性体受け21に接着剤等で固定され、受座6cと弾性体受け21とを互いに引き寄せる方向に付勢力(引張力)を常時付与するようにしている。
なお、他の構成は、第1実施形態と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0042】
したがって、ピンカバー2bは、常態において、引っ張りバネ5aの引張力で把持部3から最も突出した状態となり、金属ピン4の先端部を完全に覆うようになっている。また、ピンカバー2bの先端を軸方向に押し込むと、引っ張りバネ5aの付勢力に抗してピンカバー2bの把持部3への挿入量が多くなり、それに伴って金属ピン4がピン孔22の開口端22aに近づくようになる。また、ピンカバー2bの先端の押し付けを解除すると、引っ張りバネ5aの付勢力(引張力)によりピンカバー2bの把持部3からの突出量が大きくなり、金属ピン4がピン孔22の開口端22aから遠ざかるようになる。
したがって、このような構成においても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることが可能となる。
【0043】
図5において、本発明に係るテストリード棒1の第3実施形態が示されている。
このテストリード棒1は、金属ピン4と、この金属ピン4を保持する把持部3と、把持部3の先端側に設けられた中継カバー(中継部)2aと、金属ピン4を覆うように摺動可能に設けられたピンカバー2bと、ピンカバー2bを金属ピン4を覆う方向に常時付勢する弾性体5と、を有している点において、第1実施形態と同様であるが、中継カバー2aの内部構造が異なっている。
【0044】
以下、異なる点について説明すると、ピンカバー2bの中継カバー2aに挿入された後端部に設けられた弾性体受け21は、中継カバー2bの前端壁23(前端壁23の通孔23aの周囲)に当接可能となっている。また、中継カバー2aの内側には、ピンカバー2bの弾性体受け21より後端側に内周壁を縮径して形成された受座24が設けられ、弾性体受け21は、この受座24と軸方向で対峙している。
【0045】
受座24と弾性体受け21の間に、圧縮ばね5bからなる弾性体5が介在され、受座24と弾性体受け21とを互いに離反させる方向(弾性体受けをピンカバー2bの前端壁に当接させる方向)に付勢力(伸長力)を常時付与するようにしている。
【0046】
そして、ピンカバー2bは、少なくともこの弾性体受け21が中継カバー2bの前端壁23に当接した状態において、金属ピン4の全体がピンカバー2bによって覆われるようになっており、また、ピンカバー2bを把持部3に最も押し込んだ状態においては、金属ピン4の先端がピンカバー2bの先端から突出した状態となるようにピンカバー2bの長さや作動空間20の軸方向寸法が調整されている。
なお、他の構成は、第1実施形態と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0047】
このような構成においても、ピンカバー2bの先端を被測定箇所(端子9)に当接した後に把持部3を先端に向かって押し付け、金属ピン4が被測定箇所(端子9)に当接するまで、金属ピン4は表出されることがないので、第1実施形態と同様の作用効果を得ることが可能となる。
このような構成においても、中継カバー2aを設けず、把持部3の内部に弾性体5を設け、把持部3に対してピンカバー2bを挿入可能としてもよい。
【0048】
図6にその例(第4実施形態)が示されており、テストリード棒1は、金属ピン4と、この金属ピン4を保持する把持部3と、把持部3から突出した金属ピン4を覆うように摺動可能に設けられたピンカバー2bと、ピンカバー2bを金属ピン4を覆う方向に常時付勢する弾性体5と、を有して構成されている。
【0049】
この第4実施形態において、第3実施形態と異なる点について説明すると、把持部3は、その先端部の内側、即ち、金属ピン4を固定する樹脂モールド3aとつば部6との間にピンカバー2bを軸方向に変位させる作動空間20を形成し、つば部6の中央に通孔6bを形成し、金属ピン4を作動空間20及び通孔6bを介して把持部3から突出させるようにしている。
【0050】
ピンカバー2bは、金属ピン4を挿通可能な通孔22が形成された長尺筒状に形成され、後端部がつば部6の通孔を介して把持部3の内側(作動空間20)に挿入され、この把持部3によって軸方向に移動可能に支持されている。
このピンカバー2bは、金属ピン4の先端部の全体を被覆可能な長さ(ピンカバー2bを把持部3から最も突出させた状態において、金属ピン4の先端部の全体が被覆可能な長さ)に形成され、把持部3に挿入された後端部には、径方向外側に突出する係止鍔からなる弾性体受け21が一体に形成されている。この弾性体受け21は、つば部6の通孔よりも大きい外径を有し、弾性体受21よりも後端側において樹脂モールド3aに形成された受座25と軸方向で対峙するように形成されている。
【0051】
受座25と弾性体受け21の間に、圧縮ばね5bからなる弾性体5が介在され、受座25と弾性体受け21とを互いに離反させる方向(弾性体受け21をピンカバー2bの前端壁に当接させる方向)に付勢力(伸長力)を常時付与するようにしている。
【0052】
そして、ピンカバー2bは、少なくともこの弾性体受け21がつば部6の通孔6bの周縁に当接した状態において、金属ピン4の全体がピンカバー2bによって覆われるようになっており、また、ピンカバー2bを把持部3に最も押し込んだ状態においては、金属ピン4の先端がピンカバー2bの先端から突出した状態となるようにピンカバー2bの長さや作動空間20の軸方向寸法が調整されている。
なお、他の構成は、第3実施形態と同様であるので、同一箇所の同一符号を付して説明を省略する。
【0053】
このような構成においても、ピンカバー2bの先端を被測定箇所(端子9)に当接した後に把持部3を先端に向かって押し付け、金属ピン4が被測定箇所(端子9)に当接するまで、金属ピン4は表出されることがないので、第1実施形態と同様の作用効果を得ることが可能となる。
【0054】
なお、以上の構成において、端子台11の端子9(被測定箇所)に金属ピン4を当接させて電気的特性を測定する場合について説明したが、電気的特性を測定する被測定箇所であれば、端子台11の端子9に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0055】
1 テストリード棒
2 カバー
2a 中継カバー(中継部)
2b ピンカバー
3 把持部
4 金属ピン
5 弾性体
5a 引っ張りばね
5b 圧縮ばね
21 弾性体受け
22 ピン孔
23b、6c、24,25 受座