(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012961
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】建物の防音構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/82 20060101AFI20220111BHJP
E04B 1/86 20060101ALI20220111BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
E04B1/82 A
E04B1/82 H
E04B1/86 A
E04B5/43 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115163
(22)【出願日】2020-07-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】519282915
【氏名又は名称】ツナガルデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】特許業務法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】大塚 五郎右エ門
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DF01
2E001DF06
2E001EA01
2E001FA03
2E001FA11
2E001FA14
2E001GA11
2E001GA29
2E001HA33
2E001HE01
2E001KA05
(57)【要約】
【課題】空気伝搬音による面振動を抑制することで、躯体に振動を伝搬させない、建物の防音構造を提供する。
【解決手段】建物の防音構造Sは、コンクリート躯体である、第1の床11と、第1の壁12と、第1の天井13と、から構成される第1の構造10と;第1の構造10内に構築される第2の構造20であって、第1の床11上に構築される防振構造の第2の床21と、第1の壁12から切り離して構築される第2の壁22と、第1の天井13下に第1の天井13から切り離して構築される第2の天井23と、から構成される第2の構造20と;第2の構造20内に構築される第3の構造30であって、第2の床21上に構築される防振構造の第3の床31と、第2の壁22内に防振層62を介して構築される第3の壁32と、第2の天井23下に防振層63を介して構築される第3の天井33と、から構成される第3の構造30と;を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の防音構造であって;
それぞれコンクリート躯体である、第1の床と、第1の壁と、第1の天井と、から構成される第1の構造と;
前記第1の構造内に構築される第2の構造であって、前記第1の床上に構築される防振構造の第2の床と、前記第1の壁から切り離して構築される第2の壁と、前記第1の天井下に前記第1の天井から切り離して構築される第2の天井と、から構成される第2の構造と;
前記第2の構造内に構築される第3の構造であって、前記第2の床上に構築される防振構造の第3の床と、前記第2の壁内に防振層を介して構築される第3の壁と、前記第2の天井下に防振層を介して構築される第3の天井と、から構成される第3の構造と;を備える、建物の防音構造。
【請求項2】
前記防振層は、厚み方向に所定の圧縮率で圧縮された圧縮グラスウールである、請求項1に記載された、建物の防音構造。
【請求項3】
前記圧縮グラスウールは、前記第2の構造を構成する外側フレームに固定された遮音ボードと、前記第3の構造を構成する内側フレームに固定された遮音ボードと、によって、挟まれて圧縮されている、請求項2に記載された、建物の防音構造。
【請求項4】
前記前記第2の構造を構成する外側フレームに固定された遮音ボードの内側にグラスウールボードをさらに備え、
前記圧縮グラスウールは、前記グラスウールボードと、前記第3の構造を構成する内側フレームに固定された遮音ボードと、によって、挟まれて圧縮されている、請求項3に記載された、建物の防音構造。
【請求項5】
前記圧縮グラスウールは、密度24kg/m3又は32kg/m3のグラスウールを、圧縮率40~60%で圧縮して使用される、請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載された、建物の防音構造。
【請求項6】
前記第1の床上に構築される前記第2の床の防振構造は、グラスウールボードの上にコンクリートを打設したグラスウール浮床であり、前記第2の床上に構築される前記第3の床の防振構造は、防振ゴムの上にコンクリートを打設した防振ゴム浮床である、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載された、建物の防音構造。
【請求項7】
すべての区画が、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載された建物の防音構造を備える、建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い静粛性が求められる集合住宅、オフィスビル、店舗、スタジオ、各種教室、コンサートホール、ライブハウス、シアター等を含むあらゆる建物に適用可能な建物の防音構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、集合住宅、スタジオ等を含む建物において、楽器演奏を可能とした二重構造の防音構造が存在している。二重構造の防音構造の建物の防音性能は、一般に、遮音等級Dr-60~Dr-70程度であり、ピアノやギター、木管楽器の演奏(100dB以下の演奏音)は可能であった。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された浮床隔離構造は、建物躯体とは独立した浮床構造とすることによって、防音空間内の音源から発生する音が、天井や壁の「橋絡材」を介して伝搬することがなくなり、防音性能、遮音性能を向上することができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1を含む従来の防音構造では、室内の音源から発せられた空気伝搬音の音波が、壁・天井・床の仕上げ材および遮音材に届くと、壁面・天井面・床面それぞれに面振動が発生してしまい、天井や壁の「橋絡材」が全く無い構造であったとしても、躯体と部屋(音源室)間の密閉された背面空気層が「空気ばね」となった共鳴透過(いわゆる太鼓現象)により躯体に振動を伝搬してしまう。そのため、一度躯体に振動の伝搬が引き起こされると、「ドンドン」というような振動が建物全体へ伝わってしまう、という欠点があった。特に、63Hz帯域の空気伝搬音の遮音性能が60dBに満たないために、重低音や振動を発生するドラムセットやエレキベース等の演奏音が、上下左右の隣接した部屋に漏れて伝わってしまうおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、空気伝搬音による面振動を抑制することで、躯体に振動を伝搬させない、建物の防音構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の建物の防音構造は、それぞれコンクリート躯体である、第1の床と、第1の壁と、第1の天井と、から構成される第1の構造と;前記第1の構造内に構築される第2の構造であって、前記第1の床上に構築される防振構造の第2の床と、前記第1の壁から切り離して構築される第2の壁と、前記第1の天井下に前記第1の天井から切り離して構築される第2の天井と、から構成される第2の構造と;前記第2の構造内に構築される第3の構造であって、前記第2の床上に構築される防振構造の第3の床と、前記第2の壁内に防振層を介して構築される第3の壁と、前記第2の天井下に防振層を介して構築される第3の天井と、から構成される第3の構造と;を備えている。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明の建物の防音構造は、それぞれコンクリート躯体である、第1の床と、第1の壁と、第1の天井と、から構成される第1の構造と;第1の構造内に構築される第2の構造であって、第1の床上に構築される防振構造の第2の床と、第1の壁から切り離して構築される第2の壁と、第1の天井下に第1の天井から切り離して構築される第2の天井と、から構成される第2の構造と;第2の構造内に構築される第3の構造であって、第2の床上に構築される防振構造の第3の床と、第2の壁内に防振層を介して構築される第3の壁と、第2の天井下に防振層を介して構築される第3の天井と、から構成される第3の構造と;を備えている。このような構成であれば、第2の壁と第3の壁との間で防振層が面振動を吸収するとともに、第2の天井と第3の天井との間で防振層が面振動を吸収することで、空気伝搬音による面振動を抑制でき、躯体に振動を伝搬させない、建物の防音構造となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図7】グラスウール圧縮試験の結果を示した表である。
【
図8】24kg/m
3のグラスウール圧縮試験の結果を示したグラフである。
【
図9】32kg/m
3のグラスウール圧縮試験の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成要素は例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例0011】
(全体構成)
はじめに、本実施例の建物の防音構造Sの全体構成について説明する。建物の防音構造Sは、
図1に示すように、第1の構造10と、第1の構造10内に構築される第2の構造20と、第2の構造20内に構築される第3の構造30と、によって三重構造とされている。
【0012】
第1の構造10は、それぞれコンクリート躯体である、第1の床11と、第1の壁12と、第1の天井13と、から構成される。第1の床11、第1の壁12、第1の天井13の厚みは180mm以上とされることが好ましい。この他、第1の構造10は、通常のコンクリート躯体構造であるから説明は省略する。なお、例えば、3階の住戸の第1の床11は、2階の住戸の第1の天井13に相当する。
【0013】
第2の構造20は、第1の床11上に構築される防振構造の第2の床21と、第1の壁12から切り離して構築される第2の壁22と、第1の天井13から切り離して構築される第2の天井23と、から構成される。
【0014】
より具体的に言うと、第2の構造20は、第1の構造10の第1の床11上に構築されたグラスウール浮床である第2の床21上に立設された鉄骨製の外側フレーム40と、この外側フレーム40に取り付けられた第2の壁22と第2の天井23と、から構成される。
【0015】
鉄骨製の外側フレーム40は、
図2に示すように、主に、角型断面のスチール角パイプによって形成される床部材41、・・・と、床部材41に立設される柱部材42、・・・と、柱部材42、・・・の上端を結ぶ天井部材43、・・・と、によって構成されている。コーナー部分には、補強プレート44、・・・が取り付けられている。さらに、壁面には、所定間隔でスタッド45が取り付けられるとともに、天井面には、所定間隔で野縁46が取り付けられる。
【0016】
第3の構造30は、第2の床21上に構築される防振構造の第3の床31と、第2の壁22内に防振層(62)を介して構築される第3の壁32と、第2の天井23内に防振層(63)を介して構築される第3の天井33と、から構成される。
【0017】
より具体的に言うと、第3の構造30は、第2の構造20の第2の床21上に構築された防振ゴム浮床である第3の床31上に立設された鉄骨製の内側フレーム50と、この内側フレーム50に取り付けられた第3の壁32と第3の天井33と、から構成される。
【0018】
鉄骨製の内側フレーム50の構造については、大きさが一回り小さくなっている以外は、上述した外側フレーム40の構造と略同一であるから説明は省略する。
【0019】
そして、本実施例の建物の防音構造Sは、2種類の自立型鉄骨フレーム(40、50)で、圧縮グラスウール(62、63)を挟み込んだ複合フレーム防振(防音)構造となっている。すなわち、建物の防音構造Sは、グラスウール浮床に支持された自立型鉄骨フレーム40と、防振ゴム浮床に支持された自立型鉄骨フレーム50と、それらの間の防振層である圧縮グラスウール(62、63)と、を含んでいる。以下では、
図3~
図6の詳細な断面図を用いて、壁、天井、床の各防音構造について詳しく説明する。
【0020】
(壁の防音構造)
まず、
図3を用いて、壁の防音構造について説明する。本実施例では、壁については「圧縮グラスウール」を内蔵する「複合フレーム防振構造」となっている。この複合フレーム防振構造は、外側フレーム40と、内側フレーム50と、フレーム40、50間に介在する防振層(62)としての圧縮グラスウール62と、から構成されている。
【0021】
より具体的に言うと、まず第1の構造10の第1の壁12の内面には、発泡ウレタン吹付によって断熱層12aが形成されている。そして、空気層を挟んで、複合フレーム防振構造が設置されている。
【0022】
複合フレーム防振構造は、外側フレーム40の内面に貼設された遮音ボード22aと、内側フレーム50の内面に貼設された遮音ボード32aと、これらの遮音ボード22a、32aによって挟まれた圧縮グラスウール62と、から構成されている。遮音ボード22a、32aは、例えば、千鳥張りで三層重ね合わせた強化石膏ボードを用いることができる。なお、本実施例では、外側フレーム40にはグラスウールからなる吸音層22bがさらに配置されている。
【0023】
このように、壁の複合フレーム防振構造全体では、低周波数帯域の振動は圧縮グラスウール62で吸収し、中高周波数帯域の振動は両面の遮音ボード22a、32aで遮音するようになっている。すなわち、第一に、低周波の振動を圧縮グラスウール62で最大86%カットすることで、外側フレーム40や遮音ボード22a、躯体へ振動を伝搬しないようになっている。
【0024】
そして、外側フレーム40の内面に貼設された遮音ボード22aのさらに内面には、絶縁層としてのグラスウールボード72が設置されている。換言すると、圧縮グラスウール62は、外側フレーム40に固定された遮音ボード22aに、グラスウールボード72を介して間接的に圧縮されている。
【0025】
ここにおいて、圧縮グラスウール62は、
図5(a)、(b)に示すように、グラスウール(62)を厚みの方向に所定の圧縮率で圧縮することで形成される。具体的には、スタッド45、45間に所定密度のグラスウール(62)を充填・配置し、遮音ボード22a、32aで圧縮しつつ固定することで、反発力(弾性力)によって振動を抑制するようになっている。
【0026】
圧縮グラスウール62(63)は、実施例2の実験結果を参照して説明するように、密度24kg/m3又は32kg/m3のグラスウールを、圧縮率40~60%で圧縮して使用されることが好ましい。より具体的に言うと、天井には圧縮グラスウール63として密度24kg/m3のグラスウールを圧縮率50%で使用し、壁には圧縮グラスウール62として密度32kg/m3のグラスウールを圧縮率50%で使用することが好ましい。
【0027】
(天井の防音構造)
次に、
図4を用いて、天井の防音構造について説明する。天井についても壁と略同様の「圧縮グラスウール」を内蔵する「複合フレーム防振構造」となっている。この複合フレーム防振構造は、外側フレーム40と、内側フレーム50と、フレーム40、50間に介在する防振層(63)としての圧縮グラスウール63と、から構成されている。
【0028】
より具体的に言うと、まず第1の構造10の第1の天井13の内面には、発泡ウレタン吹付によって断熱層13aが形成されている。そして、空気層を挟んで、複合フレーム防振構造が設置されている。
【0029】
複合フレーム防振構造は、外側フレーム40の内面に貼設された遮音ボード23aと、内側フレーム50の内面に貼設された遮音ボード33aと、これらの遮音ボード23a、33aによって挟まれた圧縮グラスウール63と、から構成されている。遮音ボード23a、33aは、例えば、千鳥張りで三層重ね合わせた強化石膏ボードを用いることができる。なお、本実施例では、外側フレーム40にはグラスウールからなる吸音層23bがさらに配置されている。
【0030】
このように、天井の複合フレーム防振構造全体では、低周波数帯域の振動は圧縮グラスウール63で吸収し、中高周波数帯域の振動は両面の遮音ボード23a、33aで遮音するようになっている。すなわち、第一に、低周波の振動を圧縮グラスウール63で最大86%カットすることで、外側フレーム40や遮音ボード23a、躯体へ振動を伝搬しないようになっている。
【0031】
そして、外側フレーム40の内面に貼設された遮音ボード23aのさらに内面には、絶縁層としてのグラスウールボード73が設置されている。換言すると、圧縮グラスウール63は、外側フレーム40に固定された遮音ボード23aに、グラスウールボード73を介して間接的に圧縮されている。圧縮グラスウール63の構造は、壁の場合の圧縮グラスウール62と略同様であるから説明を省略する。
【0032】
(床の防音構造)
次に、
図6を用いて、床の防音構造について説明する。本実施例では、床については「複合防振床構造」となっている。この複合防振床構造は、第2の床の防振構造であるグラスウール浮床と、第3の床の防振構造である防振ゴム浮床と、から構成されている。
【0033】
第2の床21であるグラスウール浮床は、第1の床11上に敷設される吸音部材21aと、吸音部材21a上に防水シートを介して打設される浮床コンクリート21bと、を備えている。吸音部材21aとしては、グラスウールをボード状に加工したグラスウールボードを使用することができる。グラスウールボードは複数枚(例えば2枚)敷設することもできる。
【0034】
第3の床31である防振ゴム浮床は、二段の中空防振ゴム31aと、中空防振ゴム31aの上に耐水合板及び防水シートを介して打設される浮床コンクリート31bと、を備えている。中空防振ゴム31aとしては、例えば、高さ30mm程度の中空防振ゴムを使用することで、高さを抑えながら高い制振性能を得ることができる。
【0035】
このように、複合防振床構造全体では、低周波数帯域の振動は上部の防振ゴム浮床で吸収し、中高周波数帯域の振動は下部のグラスウール浮床で遮音するようになっている。すなわち、第一に、二段の中空防振ゴム31aによって63Hz帯域の振動を最大で99%カットすることで下部のグラスウール浮床や躯体へ振動を伝搬しないようになっている。
【0036】
(まとめ)
このような構成によって、本実施例の建物の防音構造Sによれば、全周波数帯域における完全防音構造が達成される。すなわち、防音室間の隣戸間界壁および隣戸間界床の空気音遮断性能等級最大Dr-110・80dB(63Hz)以上、重量床衝撃音遮断等級LH-30以上を達成し、楽器同時演奏(バンド演奏を含む)の空気伝搬音およびエアロビクス等の団体スポーツの固定伝搬音が隣室や下階で一切「聞こえない」レベルに減衰する”全周波数帯域における完全防音”が実現される(
図10、
図11参照)。
【0037】
さらに、建物の1つの区画だけでなく、建物の他の区画(集合住宅やオフィスの全区画の居室や執務空間など)を全て同等の防音防振構造とすることで防振性能が倍増し、壁・天井の振動は最大98バーセント、床の振動は最大99パーセント削減された完全防振構造となり、他室への体感可能なレベルの振動伝搬が一切発生しないようにできる。
【0038】
また、本実施例の建物の防音構造Sによれば、壁:264mm・天井:300mm・床:306mm(仕上材を除く)の薄い防音層の厚みで空気音遮断性能等級Dr-100以上を達成でき、室内有効面積を広く、基準階の階高を3,160mmに抑えることが可能となる。但し、Dr-110を達成するためには階高3,360mm(天井高2,400mmの場合)が必要となる。
【0039】
(効果)
次に、本実施例の建物の防音構造Sの奏する効果を列挙して説明する。
【0040】
(1)上述してきたように、本実施例の建物の防音構造Sは、それぞれコンクリート躯体である、第1の床11と、第1の壁12と、第1の天井13と、から構成される第1の構造10と;第1の構造10内に構築される第2の構造20であって、第1の床11上に構築される防振構造の第2の床21と、第1の壁12から切り離して構築される第2の壁22と、第1の天井13下に第1の天井13から切り離して構築される第2の天井23と、から構成される第2の構造20と;第2の構造20内に構築される第3の構造30であって、第2の床21上に構築される防振構造の第3の床31と、第2の壁22内に防振層62を介して構築される第3の壁32と、第2の天井23下に防振層63を介して構築される第3の天井33と、から構成される第3の構造30と;を備えている。このような構成であれば、第2の壁22と第3の壁32との間で防振層(62)が面振動を吸収するとともに、第2の天井23と第3の天井33との間で防振層(63)が面振動を吸収することで、空気伝搬音による面振動を抑制でき、躯体に振動を伝搬させない、建物の防音構造Sとなる。
【0041】
(2)また、防振層(62、63)は、厚み方向に所定の圧縮率で圧縮された圧縮グラスウール62、63であるため、量産されて入手しやすい簡単な構造によって、交換が不要でランニングコストが安い防振層を構築することができる。さらに、グラスウールは、無機質のガラス繊維のみから形成されるため、経年劣化することもない。この場合、ガラス繊維が濡れないようにするため、躯体全面に発泡ウレタン断熱材を吹き付けることで、躯体にひび割れが生じた際にも防音室内への浸水を防止することができる。
【0042】
(3)さらに、圧縮グラスウール62(63)は、第2の構造20を構成する外側フレーム40に固定された遮音ボード22a(23a)と、第3の構造30を構成する内側フレーム50に固定された遮音ボード32a(33a)と、によって、挟まれて圧縮されるように構成することが好ましい。このように構成することで、遮音ボード22a、32aによって、外側フレーム40と内側フレーム50の間に設置されたグラスウールを容易に圧縮することができる。
【0043】
(4)また、第2の構造20を構成する外側フレーム40に固定された遮音ボード22a(23a)の内側にグラスウールボード72(73)をさらに備え、圧縮グラスウール62(63)は、グラスウールボード72(73)と、第3の構造30を構成する内側フレーム50に固定された遮音ボード32a(33a)と、によって、挟まれて圧縮されるように構成することが好ましい。このようにグラスウールボード72(73)を介して、外側フレーム40に接触させることで、グラスウールボード72(73)が絶縁部材として機能するようになる。
【0044】
(5)さらに、圧縮グラスウール62(63)は、密度24kg/m3又は32kg/m3のグラスウールを、圧縮率40~60%で圧縮して使用されることによって、低周波数帯域の振動を最大86%カットすることができる。より好ましくは、天井には圧縮グラスウール63として密度24kg/m3のグラスウールを圧縮率50%で使用し、壁には圧縮グラスウール62として密度32kg/m3のグラスウールを圧縮率50%で使用することが好ましい。
【0045】
(6)また、第1の床11上に構築される第2の床21の防振構造は、グラスウールボードの上にコンクリートを打設したグラスウール浮床であり、第2の床21上に構築される第3の床31の防振構造は、防振ゴムの上にコンクリートを打設した防振ゴム浮床であることが好ましい。このような構成であれば、低周波数帯域の振動は上部の防振ゴム浮床で吸収し、中高周波数帯域の振動は下部のグラスウール浮床で遮音するようになっている。
【0046】
(7)さらに、すべての区画が、上述したいずれかの建物の防音構造Sを備えることで、防振性能が倍増し、壁・天井の振動は最大98バーセント、床の振動は最大99パーセント削減された完全防振構造となり、他室への体感可能なレベルの振動伝搬が一切発生しないようにできる。
【0047】
(その他の作用・効果)
その他、本実施例の建物の防音構造Sは、以下のような効果・利点も有している。
【0048】
(効果A)隣戸間界床および隣戸間界壁の空気伝搬音の遮断性能等級「Dr-100」以上
63Hz~250Hzの低周波数帯域の遮音性能が大幅に向上することで、遮断性能等級Dr-100以上を安定的に達成し、躯体スラブや浮床スラブ等を厚くすることで、最大でDr-110程度までの防音性能向上が実現可能である。
(参照:
図10「表:Dr値(空気音遮断性能の評価)一覧表」)
【0049】
(効果B)重量床衝撃音の遮断性能等級「LH-30」以上
重量床衝撃音の評価を決定する主な周波数帯域である63Hzの振動を最大99%カットすることで、重量床衝撃音の遮断性能等級LH-30以上を安定的に実現できる。
【0050】
(効果C)「全周波数帯域完全防音」
最大Dr-110の遮音性能により、130デシベルもの大音量を発するドラムを含むバンド演奏等の演奏音や、LH-30以上の遮断性能により飛び跳ねを伴うエアロビクスなどの団体スポーツ等の振動など、室内で通常想定されるあらゆる音や振動を「聞こえない」レベルへ減衰させる「全周波数帯域完全防音」を実現できる。
【0051】
(利点1)経年劣化による防振性能の低下がない
天井および壁に使用する圧縮グラスウール防振層の防振材には、無機質のガラス繊維だけを使用するために経年劣化が無い。
ガラス繊維が長期にわたって濡れない様に注意する必要があるため、防音室の躯体全面に発泡ウレタン断熱材を吹き付けることで、躯体にひびが発生した際の防音室内への浸水対策とすると良い。
ゲルなどの樹脂製制振材は、制振性能が高いがわずか3~5年程度の耐久性しかない。
【0052】
(利点2)防音コストが低い
主に量産されているグラスウールを圧縮して使用する防振構造のため、高価な制振材料を使用しなくて良いので防音にかかるイニシャルコスト(初期費用)が低く、交換が不要なのでランニングコストがかからない。
【0053】
(利点3)階高が抑えられる
本発明は基準階の階高が3,160mm程で遮音性能Dr-100が達成可能なので、日影制限のかからない10mの高さ制限がある用途地域で3階建てを計画しやすい。
但し、Dr-110の遮音性能を達成するためには階高3,360mm程度が必要となる。
【0054】
(利点4)壁が薄く出来る
薄い防音壁構造により室内の有効面積を広くすることが出来る。グラスール単体で63Hz帯域を100%カットするにはグラスウールの吸音層が500cm必要になるが、本発明によれば壁の防音層(躯体から室内仕上げ材までの間隔)はわずか26cm程度で良い。
【0055】
(利点5)24時間バンド演奏やエアロビクス等のスポーツが可能になる
63Hz~250Hz帯域の低音域の遮音性能および制振性能が大幅に向上することで、今まで音漏れが起きていた大音量の重低音や振動を発するバンド演奏や、下階へ振動伝搬を引き起こすエアロビクスなどの団体スポーツが、深夜の時間帯を含めて24時間可能となる。
【0056】
(利点6)静粛性が求められる集合住宅やビル等において、騒音や振動に関する不満が完全に解消される。
全周波数帯域における完全防音により音漏れが発生しないので、静粛性が求められる集合住宅やビル等において最も深刻な課題であった騒音や振動に関するクレームがなくなる。
但し、建物躯体に直接触れる建築工事等による騒音は完全には削減出来ない。
(実験結果)
実験結果は以下の通りである。
◎グラウスールの密度によって現場施工で圧縮可能な圧縮率が異なる。ボードの耐久性の影響も受ける。
石膏ボードを人力によって圧縮可能なグラスウールの圧縮率は、96kで20%、32kおよび24Kで60%、16kで80%がおよその限界であった。
グラスウールの圧縮率を上げすぎるとボードが膨れたり、一部が破断するおそれがある。
◎圧縮グラスウールによるボードのたわみを防ぐために、鉄骨下地材の間隔は壁・天井共に303mm以内とする。
◎グラスウールの圧縮充填手順は、手に体重をのせて遮音ボードでGWを圧縮して鉄骨下地に押し付けてビス止めする。天井はボードに力を乗せにくいので3人で作業をする必要がある。
◎石膏ボードは、長手方向曲げ破壊荷重300N以上の12.5mm以上の厚さの強化石膏ボード(吉野石膏 製品名:スーパーハード)を使用する。普通強度の石膏ボードでは破断するおそれがある。
◎軽量鉄骨下地へ圧縮グラスウールが充填された石膏ボードを留めるには、軽量鉄骨下地材に壁は200mm以下・天井は150mm下の間隔でビス留めを行う必要がある。
◎16kg/m
3グラスウールは、反発力が小さいので圧縮型防振層には適さない。振動吸収率を70%以上にするためには厚さを3分の1以下に圧縮しなければならない。
◎24kg/m
3グラスウールの圧縮試験の結果をグラフに図示する。圧縮率を高めると振動吸収率は放物線を描いて上昇するが、およそ80%で頭打ちとなる。
参照 図:グラスウール圧縮試験の結果(24kg/m
3・100mm厚)
◎32kg/m
3グラスウールの圧縮試験の結果をグラフに図示する。圧縮率を高めると振動吸収率は放物線を描いて上昇するが、およそ86%で頭打ちとなる。
参照 図:グラスウール圧縮試験の結果(32kg/m
3・100mm厚)
◎グラスウール圧縮時の振動加速度試験結果のまとめ
16kg/m
3・100mm厚→33mm厚(圧縮率67%)で、振動加速度レベルは約-12dB、振動は約76%カットされる。
24kg/m
3・100mm厚→50mm厚(圧縮率50%)で、振動加速度レベルは約-13dB、振動は約77%カットされる。
24kg/m
3・100mm厚→40mm厚(圧縮率60%)で、振動加速度レベルは約-14dB、振動は約80%カットされる。
32kg/m
3・100mm厚→50mm厚(圧縮率50%)で、振動加速度レベルは約-15dB、振動は約82%カットされる。
32kg/m
3・100mm厚→40mm厚(圧縮率60%)で、振動加速度レベルは約-17dB、振動は約86%カットされる。
(
図7~
図9を参照。)
◎通常品質のグラスウール(ガラス繊維の太さ7μm)の振動吸収率の上限はおおむね86%である。ボードが絶えられる圧縮充填の圧縮率には限界があるため、振動吸収率は86%前後で頭打ちとなる。
振動吸収率の最高値は、32 kg/m
3のグラスウールを圧縮率60%とした場合に振動吸収率が約86%となった。
◎圧縮グラスウールばねの作成に最適な密度は、振動吸収率が高く、グラスウールロール製品に厚さのバリエーションが多い24k~32 kg/m
3が優れている。
圧縮前のグラスウールが厚すぎると圧縮充填の際に施工性が悪くなるため、圧縮率の上限は50%程度とする様にグラスウール密度と厚さを選定すべきである。
また、振動吸収率を高めるために圧縮率を上げすぎると、ボードにたわみが発生するおそれがあるため、24~32 kg/m
3いずれも圧縮率は50%に留めるべきである。
◎通常品質グラスウール100mm厚・圧縮率50%の場合の振動吸収率は、16 kg/m
3が54.75%、24 kg/m
3が76.79%、32 kg/m
3が82.14%である。
◎体重をかけて圧縮充填が行いやすい壁には、32 kg/m
3の密度のグラスウールを圧縮率50%で充填すると良い。振動吸収率は約82%となる。
◎天井は壁と比較して圧縮充填することが困難であるため、24 kg/m
3の密度のグラスールを圧縮率50%で充填すると良い。振動吸収率は約77%となる。
◎”圧縮グラスウール防振層”により、吸音層や背面空気層の厚さを薄くしても、制振性能(1~80Hzの重低音域の遮音性能)を大幅に向上できるメリットがあることが分かった。
◎グラスウールの成分であるガラス繊維は無機質でほとんど経年劣化しないため、圧縮防振層の制振性能はグラスウールが濡れない限り半永久的に保たれる。
◎振動の大きさは、振動加速度(単位m/s/s)、速度(m/s)、距離(m)等で表され、振動加速度レベルは人間が感じられる振動である1~80Hz帯域の対数表示(dB:デシベル)で表される。
◎グラスウールには、標準品質のものと高品質の製品があり、ガラス繊維の細さ(標準:7μm・高品質:3~4μm μm:マイクロメートル)や繊維の量が異なる。
◎高品質グラスウールは、ガラス繊維の太さが3~4マイクロメートルと細かく、繊維量も多いので、より高い制振性能を発揮できる可能性もあるが、コストが高くなる欠点がある。
◎圧縮前のグラスウールの厚さが200mmの場合は、100mmの厚さを圧縮した場合よりも振動吸収率は3%程度高くなった。
◎圧縮グラスウール防振層が吸収した後の振動を躯体側の遮音ボードやグラスウール浮床の鉄骨フレームへ伝えないために、絶縁材としてベースボード(密度96kg/m
3・25mm厚のグラスウールボード)を圧縮防振層の下地にすると良い。
また、実施例では、床の防音構造について、外側のグラスウール浮床と、内側の防振ゴム浮床と、の組み合わせが好ましいとして説明したが、これに限定されるものではなく、他の防音構造(浮床構造)であっても本発明を適用することができる。
さらに、実施例では、遮音ボード22a、23a、32a、33aとして、三層の強化石膏ボードとして説明したが、これに限定されるものではなく、グラスウールと接する1枚目のボードに構造用合板(例:厚さ12mm)を用いることも好ましい。このように構成することで、グラスウール圧縮時に生じるたわみへの耐久性とくぎ側面抵抗性とを向上させることができる。