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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129617
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理装置の故障診断装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20220830BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20220830BHJP
   F02M 37/18 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
F02M25/08 Z
F02M25/08 311L
F02M37/00 301G
F02M37/18 A
F02M37/00 301R
F02M37/00 311H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028349
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩之
【テーマコード(参考)】
3G144
【Fターム(参考)】
3G144BA20
3G144BA22
3G144FA23
(57)【要約】
【課題】燃料タンク内でキャニスタをケース内に収容した蒸発燃料処理装置の故障診断装置において、燃料タンクへの給油時は、ケース内へ燃料を流し、キャニスタの気密性に関する故障診断を行うときは、ケース内から燃料を排出させることにある。それにより、キャニスタの気密性に関する故障診断は可能とし、且つ給油時におけるキャニスタの吸着能力の低下を抑制する。
【解決手段】キャニスタ21を収容して燃料タンク10内に設けられ、燃料タンク10内の燃料からキャニスタ21を遮蔽し、且つキャニスタ21の外表面との間に隙間を備えるケース31と、燃料タンク10への給油時に作動され、燃料タンク10内の燃料をケース31内に流入させる燃料流入手段(ジェットポンプ61及びロータリ弁62)と、故障診断手段による故障診断時に作動され、ケース内の燃料を燃料タンク内へ排出する燃料排出手段(ジェットポンプ61及びロータリ弁62)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内で発生する蒸発燃料を吸着して捕捉するキャニスタと、
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を前記キャニスタに導入するベーパ通路と、
該ベーパ通路を開閉するベーパ弁と、
前記キャニスタに捕捉された蒸発燃料をパージ処理のため通流させるパージ通路と、
該パージ通路を開閉するパージ弁と、
前記キャニスタを収容して燃料タンク内に設けられ、燃料タンク内の燃料から前記キャニスタを遮蔽し、且つ前記キャニスタの外表面との間に燃料が流入可能な隙間を備えるケースと、
前記キャニスタ内に大気圧に対し高低いずれかの空気圧を印加し、前記キャニスタ内の圧力変化により前記キャニスタの気密性に関する故障診断を行う故障診断手段と、
燃料タンクへの給油時に作動され、燃料タンク内の燃料を前記ケース内に流入させる燃料流入手段と、
前記故障診断手段による故障診断時に作動され、前記ケース内の燃料を燃料タンク内へ排出する燃料排出手段とを備える
蒸発燃料処理装置の故障診断装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記燃料流入手段及び前記燃料排出手段は、一体に構成されており、
燃料ポンプにより圧送される燃料を受けて負圧を発生し、その負圧により燃料を流動させるジェットポンプと、
該ジェットポンプにより流動される燃料を、燃料タンク内から前記ケース内に流入する燃料とするか、前記ケース内から燃料タンク内へ排出する燃料とするように切り換える切換弁とを備える
蒸発燃料処理装置の故障診断装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記ケースは、前記燃料流入手段からの燃料を受け入れる燃料流入口より高い位置に設けられ、燃料タンク内空間に開放された開放端部を備えている
蒸発燃料処理装置の故障診断装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記ケースの開放端部は、前記ベーパ通路の燃料タンク側開口より低い位置に設けられている
蒸発燃料処理装置の故障診断装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかにおいて、
前記ケースの隙間の一部には、燃料の液位を検出する液位センサを有する液位センサ室を備え、
前記ケースの隙間と前記液位センサ室とは、連通孔を介して連通可能とされており、
該連通孔は、前記液位センサ室から前記ケースの隙間へ向かう燃料の流れは許容するが、それとは逆方向の燃料の流れは阻止する逆止弁を備える
蒸発燃料処理装置の故障診断装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかにおいて、
前記燃料流入手段の燃料タンク側の燃料吸込口は、前記ケースより低い位置で、燃料タンクの底部に設けられている
蒸発燃料処理装置の故障診断装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかにおいて、
前記燃料流入手段の燃料タンク側の燃料吸込口は、燃料タンク内へ燃料を給油するフィラーパイプの燃料タンク側の燃料流入端の延長線上に設けられている
蒸発燃料処理装置の故障診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、蒸発燃料処理装置の故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンク内で発生する蒸発燃料をキャニスタで吸着して捕捉し、その蒸発燃料をエンジンで燃焼させて処理するか、燃料タンクに環流させる蒸発燃料処理装置が知られている。この蒸発燃料処理装置において、キャニスタを燃料タンク内に設置してキャニスタから蒸発燃料が漏れるトラブルが生じても、その蒸発燃料が大気中に漏れないようにする構造が考えられている(以下、燃料タンク内設置キャニスタ構造という)。
【0003】
一方、蒸発燃料処理装置の気密性に関する故障診断を行う故障診断装置がある。燃料タンク内設置キャニスタを用いた蒸発燃料処理装置では、故障診断を行う際にキャニスタ周りに燃料が付着すると、キャニスタ等に検出されるべき孔が開いていても、その孔を燃料が塞いでしまい、キャニスタの気密性に関する故障診断を正確に行うことができない。そこで、燃料タンク内設置キャニスタを用いた蒸発燃料処理装置では、燃料タンク内でキャニスタをケース内に収容してキャニスタ周辺に燃料が付着しないようにしている(特許文献1参照)。
【0004】
また、キャニスタの吸着性能及び吸着した蒸発燃料の離脱性能を向上するため、キャニスタの周りに燃料を流してキャニスタを燃料により冷却及び加熱するものがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-54704号公報
【特許文献2】特開昭64-347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
キャニスタがケース内にあると、キャニスタの放熱性が悪く、キャニスタの吸着性が悪くなる。一方、キャニスタの冷却のため、ケース内に燃料を流すと、キャニスタの気密性に関する故障診断を行うことができない。
【0007】
本明細書が開示する技術の課題は、燃料タンク内でキャニスタをケース内に収容した蒸発燃料処理装置の故障診断装置において、燃料タンクへの給油時は、ケース内へ燃料を流し、キャニスタの気密性に関する故障診断を行うときは、ケース内から燃料を排出させることにある。それにより、キャニスタの気密性に関する故障診断は可能とし、且つ給油時におけるキャニスタの吸着能力の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本明細書に開示の蒸発燃料処理装置の故障診断装置は、次の手段をとる。
【0009】
第1の手段は、燃料タンク内で発生する蒸発燃料を吸着して捕捉するキャニスタと、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を前記キャニスタに導入するベーパ通路と、該ベーパ通路を開閉するベーパ弁と、前記キャニスタに捕捉された蒸発燃料をエンジンに供給するか、燃料タンクに環流させるパージ通路と、該パージ通路を開閉するパージ弁と、前記キャニスタを収容して燃料タンク内に設けられ、燃料タンク内の燃料から前記キャニスタを遮蔽し、且つ前記キャニスタの外表面との間に燃料が流入可能な隙間を備えるケースと、前記キャニスタ内を大気圧より高い正圧、若しくは大気圧より低い負圧とした後の前記キャニスタ内の圧力変化により前記キャニスタの気密性に関する故障診断を行う故障診断手段と、燃料タンクへの給油時に作動され、燃料タンク内の燃料を前記ケース内に流入させる燃料流入手段と、前記故障診断手段による故障診断時に作動され、前記ケース内の燃料を燃料タンク内へ排出する燃料排出手段とを備える。
【0010】
上記第1の手段によれば、給油時には、燃料流入手段によりケース内に燃料が流入される。その結果、給油時に蒸発燃料を吸着して発熱したキャニスタを燃料により冷却することができる。そのため、キャニスタの発熱に伴う吸着性能の低下を抑制することができる。一方、キャニスタの故障診断時には、燃料排出手段によりケース内の燃料が燃料タンク内へ排出される。その結果、キャニスタ周りには空気層が形成され、キャニスタの故障診断を燃料の影響を受けず、精度良く行うことができる。
【0011】
第2の手段は、上述した第1の手段において、前記燃料流入手段及び前記燃料排出手段は、一体に構成されており、燃料ポンプにより圧送される燃料を受けて負圧を発生し、その負圧により燃料を流動させるジェットポンプと、該ジェットポンプにより流動される燃料を、燃料タンク内から前記ケース内に流入する燃料とするか、前記ケース内から燃料タンク内へ排出する燃料とするように切り換える切換弁とを備える。
【0012】
上記第2の手段によれば、ジェットポンプが流動する燃料の流れを切換弁によって切り換えることにより、ケース内へ燃料タンクの燃料を流入させるか、ケース内の燃料を燃料タンクに排出することができる。従って、燃料流入手段の機能及び燃料排出手段の機能をまとめて達成することができ、システムとしての構成を簡素化することができる。
【0013】
第3の手段は、上述した第1の手段又は第2の手段において、前記ケースは、前記燃料流入手段からの燃料を受け入れる燃料流入口より高い位置に設けられ、燃料タンク内空間に開放された開放端部を備えている。
【0014】
上記第3の手段によれば、キャニスタとケースとの隙間が燃料で満杯になると、燃料がケースの開放端部から溢れ出る。そのため、キャニスタとケースとの隙間では、燃料が流れることとなり、キャニスタの冷却を効率的に行うことができる。
【0015】
第4の手段は、上述した第3の手段において、前記ケースの開放端部は、前記ベーパ通路の燃料タンク側開口より低い位置に設けられている。
【0016】
上記第4の手段によれば、ケースから燃料が溢れ出るとき、その位置がベーパ通路の燃料タンク側開口より低い位置とされているため、その燃料がベーパ通路に流入することを抑制することができる。
【0017】
第5の手段は、上述した第1の手段~第4の手段のいずれかにおいて、前記ケースの隙間の一部には、燃料の液位を検出する液位センサを有する液位センサ室を備え、前記ケースの隙間と前記液位センサ室とは、連通孔を介して連通可能とされており、該連通孔は、前記液位センサ室から前記ケースの隙間へ向かう燃料の流れは許容するが、それとは逆方向の燃料の流れは阻止する逆止弁を備える。
【0018】
上記第5の手段によれば、燃料給油時に燃料流入手段によりケース内に流入した燃料が液位センサ室に流れるのが逆止弁により阻止される。そのため、液位センサ室の液位センサによる液位の検出に誤差が生じるのを防止することができる。また、ケースの隙間の燃料が燃料排出手段により排出されてキャニスタの周りに空気層が形成される状態では、逆止弁が開かれて液位センサ室の燃料もケース内の燃料と共に排出される。そのため、液位センサによりケースの隙間の燃料が排出されたことを検出することができる。
【0019】
第6の手段は、上述した第1の手段~第5の手段のいずれかにおいて、前記燃料流入手段の燃料タンク側の燃料吸込口は、前記ケースより低い位置で、燃料タンクの底部に設けられている。
【0020】
上記第6の手段によれば、ケース内に流入される燃料が燃料タンクの底部から取り入れられるため、燃料タンク内部でも比較的低温の燃料をケース内に流入させることができる。そのため、キャニスタの冷却効果を高めることができる。
【0021】
第7の手段は、上述した第1の手段~第6の手段のいずれかにおいて、前記燃料流入手段の燃料タンク側の燃料吸込口は、燃料タンク内へ燃料を給油するフィラーパイプの燃料タンク側の燃料流入端の延長線上に設けられている。
【0022】
上記第7の手段によれば、ケース内に流入される燃料が、主にフィラーパイプから燃料タンクに流入された燃料とされるため、地下タンクから汲み上げられる冷たい燃料をケース内に流入させることができる。そのため、キャニスタの冷却効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態を示すシステム構成図である。
図2】上記実施形態における制御回路のブロック図である。
図3】上記実施形態における制御回路の制御内容のうち、給油時制御ルーチンを示すフローチャートである。
図4】上記実施形態の給油時の作用を説明する説明図であり、給油開始直後の状態を示す。
図5図4と同様の説明図であり、給油開始して所定時間経過後の状態を示す。
図6】上記実施形態における制御回路の制御内容のうち、故障診断ルーチンを示すフローチャートである。
図7】上記実施形態の故障診断時の作用を説明する説明図であり、故障診断開始前の状態を示す。
図8図7と同様の説明図であり、故障診断開始直前の状態を示す。
図9】その他の実施形態で用いられるスライド弁の説明図であり、スライド弁が第1スライド位置にある状態を示す。
図10】その他の実施形態で用いられるスライド弁の説明図であり、スライド弁が第2スライド位置にある状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<一実施形態の全体構成>
図1は、一実施形態のシステム構成を示す。この実施形態は、車両用ガソリンエンジン40に適用した例である。勿論、本件技術は、車両以外のエンジンにも適用可能である。
【0025】
エンジン40の吸気管41は、エアクリーナ44を通じて空気を清浄化して吸入している。吸気管41には、吸気の流れで、エアクリーナ44の下流に吸入空気量を制御可能とするスロットル弁43が設けられている。また、吸気管41において、スロットル弁43の下流には、エンジン40のシリンダ内に燃料を供給する燃料噴射弁42が設けられている。
【0026】
エンジン40に供給する燃料は、燃料タンク10に貯留されている。燃料タンク10の底部には、燃料噴射弁42に燃料を圧送するための燃料ポンプ45が設けられている。燃料ポンプ45は、燃料タンク10内の残留燃料が少ない状態で車両が傾斜しても燃料ポンプ45の燃料吸込口(図示略)(燃料流入手段の燃料タンク側の燃料吸込口に相当)での燃料の吸い込みが可能となるようにサブタンク13内に収容されている。サブタンク13は、燃料タンク10の底部に固定される容器である。燃料ポンプ45は、サブタンク13内の燃料を燃料パイプ46を介して燃料噴射弁42に供給している。燃料パイプ46の途中には、燃料噴射弁42に供給される燃料圧力を一定圧力に調整するプレッシャレギュレータ47が設けられている。燃料タンク10は、燃料タンク10内にキャニスタ21を設置した燃料タンク内設置キャニスタ構造を採用している。
【0027】
燃料タンク10には、燃料タンク10内に燃料給油を行うためのフィラーパイプ11が接続されている。燃料タンク10への燃料の給油は、フィラーパイプ11の上端開口(図示略)に給油ガン(図示略)の先端を挿入して行われる。フィラーパイプ11の上端開口には、フューエルキャップ(図示略)が設けられており、フィラーパイプ11を逆流して燃料タンク10内の燃料が外部に漏れ出ないようにしている。更に、フューエルキャップの外側は、盗難防止等のためフューエルリッド(図示略)により覆われている。フューエルリッドは、フューエルリッド用電磁ロック15(図2参照)により閉じた状態でロックされており、フューエルリッドを開く際は、電気的にロックを解除することにより付勢ばね(図示略)によりフューエルリッドが開放される。また、フューエルリッドは、付勢ばねの付勢力に抗して手動にて閉じることによりフューエルリッド用電磁ロック15がロックされて閉じた状態が維持される。
【0028】
フィラーパイプ11の上端開口部には、エアフィルタ14が設けられている。このエアフィルタ14は、後述のキャニスタ21に大気を供給する大気通路24の先端に接続されており、キャニスタ21に供給される大気中の塵等をエアフィルタ14により除去している。
【0029】
燃料ポンプ45の外壁には、センダゲージ71が設けられている。センダゲージ71は、燃料ポンプ45の外壁に揺動自在に支持されたフロートアーム71bと、その先端に支持され、燃料に浮く素材により形成されたフロート71aとを備える。燃料タンク10内の燃料の液位に応じてフロート71aが上下動し、その上下動に応じてフロートアーム71bが揺動し、その揺動角度によって燃料タンク10内の燃料残量を検出可能としている。
【0030】
<蒸発燃料処理装置の構成>
燃料タンク10の上部には、燃料タンク10内に燃料ポンプ45及びキャニスタ21をセットする際に、それらを挿入するための開口が形成されている。この開口には、セットプレート12が被せて設けられており、セットプレート12により開口が閉鎖されている。セットプレート12の下面には、キャニスタ21及びケース31が固定され、燃料タンク10内で、キャニスタ21の側面及び下面をケース31が覆うようにされている。従って、キャニスタ21は、ケース31によって燃料タンク10内の燃料から遮蔽されている。そして、キャニスタ21の外表面とケース31内表面との間には、燃料が流入するための隙間が形成されている。この隙間は、隙間を通って流れる燃料によりキャニスタ21の冷却が可能な程度の大きさに設定されている。ケース31の上部は、燃料タンク10内空間に開放されており、開放端部31aの高さは、後述の迷路構造25の入口より低い位置とされている。
【0031】
ケース31の一部は、フロート室(液位センサ室に相当)32とされている。フロート室32は、連通孔32aによりケース31と連通されている。但し、連通孔32aには、逆止弁33が設けられており、フロート室32からケース31への燃料の流入は許容するものの、反対にケース31からフロート室32への燃料の流入は阻止するようにされている。また、フロート室32の底面には、連通孔32bが設けられており、フロート室32は、燃料タンク10との間で燃料が通流自在とされている。フロート室32の上部は、連通孔32cにより燃料タンク10内に連通されている。
【0032】
フロート室32には、液位センサ53が設けられている。液位センサ53は、セットプレート12を貫通して垂直に支持されたロッド53aと、該ロッド53aに貫通されて摺動自在に支持されたフロート53bとを備える。フロート53bは、燃料に浮く素材で出来ており、フロート53bのロッド53aに対する摺動位置は、後述の制御回路51に電気信号として出力される。
【0033】
キャニスタ21は、内部に収容した活性炭で燃料タンク10内に発生する蒸発燃料を吸着するようにベーパ通路22を介して燃料タンク10内に連通されている。ベーパ通路22の途中には、ステップモータ駆動の封鎖弁26(ベーパ弁に相当)が設けられており、封鎖弁26によりベーパ通路22を開閉するようにされている。また、ベーパ通路22の燃料タンク10側開口には、迷路構造25が設けられている。迷路構造25は、ベーパ通路22内へ蒸発燃料が流入するのは許容するが、液体燃料が流入するのは抑制するように構成されている。
【0034】
キャニスタ21には、セットプレート12を貫通してパージ通路23及び大気通路24が連通されている。パージ通路23の先端は、スロットル弁43より下流側で吸気管41に連通されている。また、パージ通路23の途中には、電磁弁であるパージ弁27が設けられている。従って、パージ弁27によりパージ通路23は開閉可能とされている。一方、大気通路24の先端は、上述のエアフィルタ14に連通されている。また、大気通路24の途中には、電磁弁であるキャニスタ封鎖弁28及び故障診断モジュール29が設けられている。従って、キャニスタ封鎖弁28により大気通路24は開閉可能とされている。
【0035】
<蒸発燃料処理装置の故障診断装置の構成>
故障診断モジュール29は、電動ポンプである故障診断用ポンプ29a及びドレンポート圧センサ29bを備える。故障診断用ポンプ29aは、大気通路24を通じてキャニスタ21からエアフィルタ14に向けて空気を圧送する。ドレンポート圧センサ29bは、大気通路24を通じてキャニスタ21内の圧力を検出している。また、セットプレート12には、タンク内圧センサ52が設けられている。タンク内圧センサ52は、燃料タンク10内の気層の圧力を検出している。
【0036】
<燃料流入手段及び燃料排出手段の構成>
サブタンク13内で燃料ポンプ45に隣接して負圧発生装置としてのジェットポンプ61が設けられている。ジェットポンプ61には、配管63を介してプレッシャレギュレータ47から排出される余剰燃料が供給されている。ジェットポンプ61は、配管63から圧送される燃料を配管64に向けて流すことにより配管65に負圧を発生する。配管64と配管65は、ロータリ弁(切換弁に相当)62を介して互いに連通可能とされている。ロータリ弁62において、配管64及び配管65が接続された2つのポート以外の残りの2つのポートには、配管66及び配管67が接続されている。配管66は、ケース31の燃料流入口31bに連通されている。燃料流入口31bは、ケース31の最も低い位置に設けられている。一方、配管67は、ケース31の底部より低い位置で、サブタンク13内の底部に開口されている。しかも、配管67の開口端は、フィラーパイプ11の燃料流入端11aの延長線上に位置するように配置されている。
【0037】
ロータリ弁62は、ロータ62aを2つの位置間で回転可能とされている。ロータ62aの第1の回転位置では、図1、4、5のように、配管64と配管66とを連通させ、配管65と配管67とを連通させる。また、ロータ62aの第2の回転位置では、図7、8のように、配管64と配管67とを連通させ、配管65と配管66とを連通させる。そのため、ロータ62aが第1の回転位置にある状態(図4参照)(以下、給油モードという)では、ジェットポンプ61で発生した負圧によりサブタンク13内の燃料をケース31内に汲み上げて流入させる。また、ロータ62aが第2の回転位置にある状態(図7参照)(以下、故障診断モードという)では、ジェットポンプ61で発生した負圧によりケース31内の燃料をサブタンク13内に排出する。従って、ジェットポンプ61、ロータリ弁62及び各配管63~67は、燃料流入手段及び燃料排出手段をまとめて一体に構成している。
【0038】
<制御回路の構成>
キャニスタ21による蒸発燃料処理装置の制御、及びキャニスタ21の気密性に関する故障診断は、燃料噴射弁42の開弁制御等と共に制御回路51により行われている。図2には、蒸発燃料処理装置の制御及びキャニスタ21の故障診断に関する部分のみを示している。制御回路51の入力回路には、タンク内圧センサ52、ドレンポート圧センサ29b、液位センサ53、フューエルリッドボタン54、及びフューエルリッドセンサ55の各検出信号が入力されている。一方、制御回路51の出力回路には、燃料ポンプ(EFP)45、故障診断用ポンプ(OBDポンプ)29a、封鎖弁26、パージ弁(VSV)27、キャニスタ封鎖弁(CCV)28、ロータリ弁62、警告灯(MIL)56、及びフューエルリッド用電磁ロック15に各出力信号を出力している。
【0039】
<燃料流入手段の作用>
図3は、制御回路51の制御プログラムの一部である給油時制御ルーチンを示す。この給油時制御ルーチンは、燃料タンク10へ給油を行うべくフューエルリッドボタン54が操作されたとき、その操作信号を受けて実行される。給油時制御ルーチンが実行されると、ステップS1にてキャニスタ封鎖弁28が開かれる。また、ステップS2において封鎖弁26が開かれる。次にステップS4では、タンク内圧センサ52によって検出される燃料タンク10のタンク内圧Ptが大気圧Po以下となっているか否かが判定される。タンク内圧Ptが大気圧Poより高い間は、ステップS4は否定判断され、タンク内圧Ptが大気圧Po以下となると、ステップS4が肯定判断され、ステップS6以降の処理に進む。タンク内圧Ptが大気圧Po以下となるのを待つことにより、ステップS6以降でフューエルキャップを開いたとき燃料タンク10内の蒸発燃料がフィラーパイプ11から大気中に放出されるのを防止している。
【0040】
ステップS6では、燃料ポンプ45が作動開始される。次のステップS8では、ロータリ弁62を給油モードとする。また、ステップS12では、フューエルリッド用電磁ロック15に通電してフューエルリッドを開く。フューエルリッドが開けば、ステップS14、S16のように手動によりフューエルキャップを開いて、給油ガンにより給油を行うことができる。
【0041】
図4のように、給油中は、燃料ポンプ45から圧送される燃料がプレッシャレギュレータ47を通じてジェットポンプ61に供給される。その結果、ジェットポンプ61が発生する負圧により給油モードとされたロータリ弁62を介してサブタンク13内の燃料がケース31内に流入される。そのため、キャニスタ21は、ケース31内に流入した燃料により冷却され、キャニスタ21の蒸発燃料の吸着能力が良好に維持される。即ち、キャニスタ21は、給油中に発生する蒸発燃料を吸着して発熱し、その熱により蒸発燃料の吸着能力が低下する。しかし、キャニスタ21は、ケース31内の燃料により冷却されて発熱が抑制され、吸着能力の低下が抑制される。
【0042】
図5のように、ケース31内に燃料が流入すると、その燃料の圧力により逆止弁33が閉じる。そのため、やがてケース31とキャニスタ21との隙間は燃料で満たされ、その燃料は、ケース31の開放端部31aから矢印のように溢れ出る。そのため、ケース31とキャニスタ21との隙間の燃料は、隙間内を燃料流入口31bから開放端部31aに向けて流動することになり、キャニスタ21は継続的に流れる燃料により冷却される。しかも、ケース31内に流入する燃料は、フィラーパイプ11の燃料流入端11aから直接供給される燃料で、ガソリンスタンドの地下タンクからの低温の燃料とされるため、更にキャニスタ21は効率的に冷却される。また、ケース31内に流入する燃料は、サブタンク13内の底部の燃料とされているため、燃料タンク10内の燃料でも低い位置にある比較的低温の燃料とされ、キャニスタ21は効率的に冷却される。
【0043】
図3のステップS18では、給油中、液位センサ53の検出信号により燃料タンク10が満タンとなったか否かが判定されている。燃料タンク10が満タンとなり、ステップS18が肯定判断されると、ステップS20において、封鎖弁26が閉じられる。また、ステップS22では燃料ポンプ45が停止され、ステップS24ではロータリ弁62が故障診断(OBD)モードとされる。
【0044】
給油中にステップS20で封鎖弁26が閉じられると、燃料タンク10内の圧力が急激に高まり、給油ガンによる燃料注入が給油ガンの自動停止機能により自動的に停止される。給油の自動停止に伴って、給油ガンをフィラーパイプ11から抜き、フューエルキャップを閉じ、手動にてフューエルリッドを閉じると、ステップS28は肯定判断され、ステップS32でキャニスタ封鎖弁28が閉じられて給油時制御ルーチンの処理を終了する。
【0045】
燃料タンク10が満タンになる前で、ステップS18が否定判断されると、ステップS30において、フューエルリッドが手動で閉じられたか否かが判定される。即ち、ステップS30では、満タン前の状態で給油を任意に停止したか否かを判定している。ステップS30において、フューエルリッド閉じられたことが検出されて、ステップS30が肯定判断される場合は、上述のステップS20~S24の処理が実行され、各部を故障診断に備えた状態とする。ステップS24の後は、ステップS32にてキャニスタ封鎖弁28が閉じられて給油時制御ルーチンの処理を終了する。
【0046】
<蒸発燃料処理装置の作用>
給油中にベーパ通路22を介してキャニスタ21に吸着され捕捉された蒸発燃料は、エンジン40が作動され、吸気管41が負圧となると、パージ弁27が開かれたとき、エンジン40に吸入され燃焼されて処理される。このとき、封鎖弁26は閉じられているが、キャニスタ封鎖弁28は開かれており、キャニスタ21内には、キャニスタ封鎖弁28を介してエアフィルタ14で取り込んだ大気が供給されて、キャニスタ21に吸着され捕捉された蒸発燃料は脱離されパージされる。
【0047】
<燃料排出手段の作用>
図6は、制御回路51の制御プログラムの一部である故障診断ルーチンを示す。この故障診断ルーチンが実行されると、ステップS40において、エンジン回転数及び車速がゼロか否か判定される。即ち、ステップS40では、車両が駐車中か否かを判定している。車両が駐車中で、ステップS40が肯定判断されると、ステップS44において、そのときの液位センサ53の出力値が読み取られ、「L1」として記録される。ステップS46では、ケース31内が気層となっているか否かの判定基準値Leに対して、液位センサ53の出力値L1を比較する。ケース31内に燃料が残っていてL1がLeより大きく、ステップS46が否定判断されると、ステップS48にて燃料ポンプ45が作動される。
【0048】
燃料給油の終了時にロータリ弁62は故障診断モードとされているため、燃料ポンプ45が作動されると、図7のように、ジェットポンプ61の負圧によってケース31内の燃料は燃料タンク10内に排出される。ケース31内の燃料が排出されると、図8のように、逆止弁33が開いてフロート室32内の燃料も燃料タンク10内に排出される。
【0049】
次のステップS50では、燃料ポンプ45の作動後、N秒カウントして、ステップS52にて、再度液位センサ53の出力値が読み取られ、「L2」として記録される。ステップS54では、L2がL1より小さくなったか否かが判定される。即ち、ケース31内の燃料が少なくなっているか否かが判定される。L2がL1より小さくなって、ステップS54が肯定判断されると、ステップS56では、再び判定基準値Leに対して液位センサ53の出力値L2を比較する。そして、L2がLe以下となるまでステップS50からステップS54の処理を繰り返す。
【0050】
ステップS54において、L2がL1より小さくならず、ステップS54が否定判断されると、ステップS58でL2がL1より大きくなっているか否かが判定される。即ち、燃料タンク10内の燃料が多くなっているか否かが判定される。燃料タンク10内の燃料残量が少なく、液位センサ53で測定可能な最低レベルの状態で、ケース31内の燃料が燃料タンク10内に排出されて燃料タンク10内の燃料残量が増加すると、ステップS58は肯定判断される。ステップS58が肯定判断されると、ステップS60にて改めてロータリ弁62が故障診断モードとされて、次のステップS62にて2N秒カウントして、ステップS52、S54の処理を繰り返す。その結果、L2がL1より小さくなってステップS54が肯定判断されれば、ステップS56にてL2がLe以下となるまでステップS50からステップS56の処理を繰り返す。
【0051】
ステップS58にてL2がL1より大きくならず、ステップS58が否定判断されると、ステップS64にて燃料ポンプ45の作動電流がゼロか否か判定される。即ち、燃料ポンプ45が作動しているか否か判定される。燃料ポンプ45の作動電流がゼロではなく、ステップS64が肯定判断されると、ステップS66にて逆止弁33の張り付き故障と判定される。即ち、ロータリ弁62が故障診断モードとされて燃料ポンプ45が作動されていると、ケース31内の燃料が排出されてるため、逆止弁33が開放されてフロート室32内の燃料はケース31内へ流れ、液位センサ53により検出される液位は低下するはずであるにも関わらず、液位が低下しないのは逆止弁33が張り付き故障していることになる。次のステップS70では、故障診断を停止して、警告灯MILを点灯し、システム内に異常が発生していることを警告する。
【0052】
燃料ポンプ45の作動電流がゼロで、ステップS64が否定判断されると、ステップS68にて燃料ポンプ45が故障していると判定される。この場合も、ステップS70にて故障診断を停止して、警告灯MILを点灯し、システム内に異常が発生していることを警告する。
【0053】
<蒸発燃料処理装置の故障診断装置の作用>
ケース31内の燃料の排出の結果、ケース31内が気層となって、ステップS46若しくはステップS56が肯定判断されると、ステップS72にて封鎖弁26がイニシャライズされて閉位置とされ、ステップS74にてキャニスタ21、その他の漏れ診断が行われる。即ち、パージ弁27も閉じられている状態で、キャニスタ封鎖弁28を開いて故障診断モジュール29の故障診断用ポンプ29aを一定時間作動させる。この結果、キャニスタ21内は大気圧よりも低い負圧となる。この状態で、故障診断用ポンプ29aを作動停止させてキャニスタ封鎖弁28を閉じて、ドレンポート圧センサ29bによって検出されるキャニスタ21内の圧力変化を監視する。予め決められた時間経過後のキャニスタ21内の圧力の変化が所定範囲内か否かにより、キャニスタ21並びにパージ弁27よりキャニスタ21側のパージ通路23、及びキャニスタ封鎖弁28よりキャニスタ21側の大気通路24に孔あきがないか否かが診断される。ステップS74の処理は、故障診断手段に相当する。
【0054】
<その他の実施形態>
以上、本明細書に開示の技術を特定の実施形態について説明したが、その他各種の形態で実施可能なものである。例えば、上記実施形態では、キャニスタに捕捉された蒸発燃料の処理を、エンジンに吸入させて燃焼させる方式としたが、適宜のポンプにより燃料タンク内に環流させる方式(特許第5318793号等にて公知)を採用してもよい。
【0055】
上記実施形態では、キャニスタの気密性に関する故障診断を行う際、電動ポンプによりキャニスタ内を大気圧よりも低い負圧とする方式としたが、電動ポンプによりキャニスタ内を大気圧よりも高い正圧とする方式を採用してもよい。また、電動ポンプ以外のエアポンプ(例えば、ジェットポンプ等)によりキャニスタ内を大気圧よりも低い負圧、若しくは大気圧よりも高い正圧とする方式を採用してもよい。更に、エンジンが発生する負圧をキャニスタ内に導入する方式を採用してもよい。これらの各方式は、いずれも特許第5318793号等にて公知である。
【0056】
上記実施形態では、燃料流入手段と燃料排出手段とを一体に構成したが、それぞれ独立して構成されてもよい。また、上記実施形態では、切換弁をロータリ弁により構成したが、スライド弁により構成してもよい。スライド弁としては、例えば、図9、10のものを採用することができる。図9は、スライド弁68が第1スライド位置とされて給油モードとされた状態を示す。また、図10は、スライド弁68が第2スライド位置とされて故障診断モードとされた状態を示す。図9、10において、ジェットポンプ61及び各配管63~67は、図1と同様のものである。
【0057】
上記実施形態では、ジェットポンプに燃料ポンプから圧送される燃料は、プレッシャレギュレータ経由で送られたが、燃料ポンプから直接送られるようにしてもよい。また、上記実施形態では、燃料タンクの底部にサブタンクを備えるものとしたが、サブタンクなしで構成することもできる。
【0058】
上記実施形態では、液位センサをフロートを用いたものとしたが、サーミスタ等の検出素子を用いたものとしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 燃料タンク
11 フィラーパイプ
11a 燃料流入端
12 セットプレート
13 サブタンク
14 エアフィルタ
15 フューエルリッド用電磁ロック
21 キャニスタ
22 ベーパ通路
23 パージ通路
24 大気通路
25 迷路構造
26 封鎖弁(ベーパ弁)
27 パージ弁
28 キャニスタ封鎖弁
29 故障診断モジュール
29a 故障診断用ポンプ
29b ドレンポート圧センサ
31 ケース
31a 開放端部
31b 燃料流入口
32 フロート室(液位センサ室)
32a、32b、32c 連通孔
33 逆止弁
40 エンジン
41 吸気管
42 燃料噴射弁
43 スロットル弁
44 エアクリーナ
45 燃料ポンプ
46 燃料パイプ
47 プレッシャレギュレータ
51 制御回路
52 タンク内圧センサ
53 液位センサ
53a ロッド
53b フロート
54 フューエルリッドボタン
55 フューエルリッドセンサ
56 警告灯
61 ジェットポンプ
62 ロータリ弁(切換弁)
62a ロータ
63、64、65、66 配管
67 配管(燃料吸込口)
68 スライド弁
71 センダゲージ
71a フロート
71b フロートアーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10