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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012964
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】大口径撮像レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20220111BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115167
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】菅野 靖之
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087LA01
2H087PA07
2H087PA18
2H087PB08
2H087QA02
2H087QA06
2H087QA12
2H087QA21
2H087QA25
2H087QA37
2H087QA41
2H087QA45
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA42
2H087RA43
2H087RA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】小型コンパクト化を図りつつ近距離撮影側となる準広角から中望遠の撮影に用いる単焦点レンズとして無限遠から近距離まで十分な光学性能を有する大口径撮像レンズを提供する。
【解決手段】物体OBJ側から連続した複数枚の前正レンズLF…及び最も開口紋りSTO側の前負レンズL4を含み、全レンズLF…を物体OBJ側が凸形状のメニスカスレンズにより構成するとともに、開口絞りSTO側の各レンズ面の曲率半径が物体OBJ側から開口絞りSTO側へ順次小さくなり、かつ全レンズのレンズ面が空気に接触する前レンズ群101と、最も開口絞りSTO側に配した両凹レンズL5と最も像IMG側に配して両面が光軸Dc上の同方向に湾曲した負のパワーを有する最終レンズLEとにより挟まれた複数枚の後正レンズL6を含み、かつ当該後正レンズL6に少なくとも一つの両凸レンズを含ませた後レンズ群102とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ全系に、開口絞りに対して、物体側に配した正のパワーを有する前レンズ群,及び像側に配した正のパワーを有する後レンズ群を備える大口径撮像レンズにおいて、物体側から連続した複数枚の前正レンズ,及び最も開口紋り側の前負レンズを含み、全レンズを物体側が凸形状のメニスカスレンズにより構成するとともに、開口絞り側の各レンズ面の曲率半径が物体側から開口絞り側へ順次小さくなり、かつ全レンズのレンズ面が空気に接触する前レンズ群と、最も開口絞り側に配した両凹レンズと最も像側に配して両面が光軸上の同方向に湾曲した負のパワーを有する最終レンズとにより挟まれた複数枚の後正レンズを含み、かつ当該後正レンズに少なくとも一つの両凸レンズを含ませた後レンズ群とを有するレンズ全系を備え、物体距離を無限遠とし、全系焦点距離をAFL,レンズ全系の光軸長をTLL,最も物体側のレンズ面から像までの光軸長をTLi,前記最終レンズの像側のレンズ面から像までの光軸長をIMDとしたとき、
0.68<〔TLL/AFL〕<1.00 …(条件式1)
0.8 <〔TLi/AFL〕<1.4 …(条件式2)
0.2 <〔IMD/AFL〕 …(条件式3)
の条件を満たすことを特徴とする大口径撮像レンズ。
【請求項2】
前記後レンズ群は、前記両凹レンズの開口絞り側のレンズ面から像側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面の湾曲方向と、前記最終レンズの像側のレンズ面から開口絞り側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面の湾曲方向を、逆方向に設定することを特徴とする請求項1記載の大口径撮像レンズ。
【請求項3】
前記後レンズ群は、2枚の前記後正レンズを有することにより、開口絞り側の当該後正レンズから開口絞り側の後レンズA群,及び像側の当該後正レンズから像側の後レンズB群を備え、後レンズA群が無限物体時であって、かつ前記レンズ全系の最も物体側に配する最先レンズの物体側のレンズ面から当該後レンズA群の出射後における近軸像位置までの長さの絶対値が最も大きくなる際に、物体距離を無限遠とし、かつ全系のFナンバーをFNO,前記前レンズ群の光軸長をLF1,前記後レンズ群の光軸長をLF2,前記後レンズA群の光軸長をTL2A,前記後レンズB群の光軸長をTL2Bとしたとき、
0.8<〔TLl/TL2〕 <1.6 …(条件式4)
0.6<〔TL2A/TL2B〕<1.6 …(条件式5)
1.0<〔TLL/(AFL/FNO)〕<1.5 …(条件式6)
0.3<〔TL2/(FL2/FNO)〕<0.6 …(条件式7)
の条件を満たすことを特徴とする請求項1又は2記載の大口径撮像レンズ。
【請求項4】
前記レンズ全系は、3枚以上の前記前正レンズ及び2枚以上の前記後正レンズを含むとともに、全ての正レンズにおいて、d線の屈折率が1.75以上となる硝材を用いた正レンズを2枚以上含み、かつ平均アッベ数を38.0以上とし、レンズ全系における全ての正レンズの焦点距離の絶対値を、レンズ全系における最大の焦点距離を有する負レンズの当該焦点距離の絶対値の80〔%〕よりも大きく設定することを特徴とする請求項1,2又は3記載の大口径撮像レンズ。
【請求項5】
前記レンズ全系は、全ての正レンズにおいて、d線の屈折率が1.85以上となる硝材を用いた正レンズを少なくとも1枚含むことを特徴とする請求項4記載の大口径撮像レンズ。
【請求項6】
前記前レンズ群は、異常部分分散値の絶対値が0.02以上となる低屈折率低分散硝材を用いた少なくとも1枚のレンズを含むことを特徴とする請求項4又は5記載の大口径撮像レンズ。
【請求項7】
前記後レンズ群は、最も開口絞り側に配した両凹レンズとこの両凹レンズの像側に配した後正レンズによる接合レンズを備え、当該両凹レンズを、異常部分分散値の絶対値が0.02以上となる硝材を用いて形成するとともに、当該後正レンズを、d線の屈折率が1.75以上となる高屈折ガラスを用いて形成することを特徴とする請求項4又は5記載の大口径撮像レンズ。
【請求項8】
前記レンズ全系は、前記開口絞りに対向するレンズ面の曲率半径の絶対値を、前レンズ群側を小さく設定し、かつ前記前レンズ群側のレンズ面の曲率半径をSR1,前記開口絞りの空間間隔をTLSとしたとき、
1.0<〔SR1/TLS〕<1.5 …(条件式8)
の条件を満たすことを特徴とする請求項1-7のいずれかに記載の大口径撮像レンズ。
【請求項9】
前記最終レンズは、メニスカス形状の非球面を含み、かつ当該最終レンズの焦点距離をFLEとしたとき、
-4.0<〔FLE/AFL〕<-0.8 …(条件式9)
の条件を満たすことを特徴とする請求項1記載の大口径撮像レンズ。
【請求項10】
前記レンズ全系は、前レンズ群に4枚のレンズを配し、かつ後レンズ群に4枚のレンズを配することにより、全体で8枚のレンズにより構成するとともに、Fナンバーを1.7以下に、かつ半画角を12-25〔゜〕にそれぞれ設定することを特徴とする請求項1記載の大口径撮像レンズ。
【請求項11】
前記後レンズ群は、複数枚の前記後正レンズにおける相隣る前後の後正レンズ間の物体側を後レンズA群とし、かつ像側を後レンズB群とするとともに、当該後レンズA群の前後における空気空間の少なくとも一つを、フォーカス調整時に変化させる調整間隔として設定することを特徴とする請求項1記載の大口径撮像レンズ。
【請求項12】
前記調整間隔は、前記後レンズA群に対して物体側の空気空間,前記後レンズA群に対して像側の空気空間,前記後レンズA群に対して前後の空気空間のいずれか一つを含み、最大で三つのレンズ群を移動可能に構成することを特徴とする請求項11記載の大口径撮像レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラ等に使用する交換レンズとして用いて好適な大口径撮像レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、デジタルカメラ等に使用する交換レンズは、ミラーレス化やマウントの大口径化により、バックフォーカスや後玉径の制約が少なくなり、レンズタイプのバリエーションが広がっているとともに、撮像素子における写真フイルムと同等サイズの大型化及び写真フイルム以上の高性能化(高精細化)が進んでいる。この結果、準広角から中望遠域(撮影対角画角57-28゜)の明るい単焦点レンズ(交換レンズ)では、Fナンバー1.8以下が普通になり、より明るいレンズが求められている。また、デジタルカメラ本体の小型化により、交換レンズのコンパクト化、更には、消費者ニーズによるフォーカシング撮影領域全体における収差安定化も求められている。
【0003】
このような要請から、開口絞りに対して光軸方向の物体側に前レンズ群を配するとともに、像側に後レンズ群を配することにより、軸上光線及び軸外主光線の各レンズ面への入射角を小さくし、各レンズ面における球面収差,非点収差及びコマ収差の発生を抑制できるようにした対称配置タイプのレンズ構成を備える光学系も知られている。特に、この種の光学系では、レンズのパワー配置が開口絞りを中心にして対称に近いほど、球面収差,コマ収差,歪曲収差,倍率色収差等の諸収差を、前レンズ群と後レンズ群間で打ち消し合うことができるため、光学系全体として良好な収差補正を実現できる。しかし、この種の対称配置タイプは、一般に、遠距離撮影には対応していないとともに、結像サイズなどの仕様も大きく異なるため、用途としては、主に、複写用レンズや製版カメラ用レンズなどの特定分野に限られている。一方、この種の一般的な対称配置タイプのレンズ構成を変形させた、いわゆる変形ダブルガウスタイプとして、バックフォーカスの短いレンジファインダーカメラ(フィルムカメラ)用レンズから発展しながら、コンパクトデジタルカメラ及びミラーレスデジタルカメラ等に使用できるようにした大口径撮像レンズも提案されている。
【0004】
従来、このような大口径撮像レンズ、特に、Fナンバーが1.7以下となり、開口絞りの前後に3-5枚のレンズを配した対称配置タイプの撮影光学系としては、特許文献1に開示される一眼レフカメラ用の大口径中望遠レンズ及び特許文献2に開示されるレンジファインダーカメラ用のレンズシステムが知られている。同文献1に開示される大口径中望遠レンズは、前群に4枚の正レンズと1枚の負レンズを配した変形ダブルガウスタイプのレンズ例である。特に、撮影画角が約29゜、Fナンバーが1.4程度での撮影レンズで、ピントの合った位置前後のデフォーカス領域でのぼけを良好にした高性能な大口径中望遠レンズの提供を目的としたものであり、具体的には、物体側に強い凸面を向けた少なくとも3枚の正レンズと像側に強い凹面を向けた負レンズ1枚とを少なくとも含む前群と、接合レンズと物体側に強い凹面を向けた負レンズと少なくとも2枚の正レンズを含む後群にて構成され、後群中に屈折率分布型レンズを用いて構成したものである。一方、同文献2に開示されるレンズシステムは、後レンズ群に負レンズを配したゾナータイプのレンズ例である。具体的には、前レンズ群を、物体側から1枚の正レンズ,正レンズと正レンズと負レンズの3枚接合レンズにより構成するとともに、後レンズ群を、負レンズと正レンズと負レンズの3枚接合レンズにより構成したものである。このように、F1.5クラスにおけるオリジナル構成のゾナータイプ標準レンズの場合、接合レンズが多用されている。また、変形ダブルガウスタイプのレンズの後レンズ群は、1枚の負レンズが多いが、ゾナータイプは負レンズが2枚であり、この負レンズ間に正レンズが挟まれる接合レンズとして使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-142469号公報
【特許文献2】米国特許公開2186621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1及び2に開示されるような対称配置タイプによる従来のレンズは次のような課題も存在した。
【0007】
即ち、特許文献1の変形ダブルガウスタイプをはじめ、一般に、中望遠撮影領域のレンズの場合、公知の収差補正技術により正パワーを分割してレンズ枚数を増やしているため、レンズ全長が長くなる傾向があるとともに、他方、特許文献2のゾナータイプによるレンズの場合、接合レンズを多用する傾向があるため、単レンズにより構成する場合と比較して屈折率差が少なくなる。この結果、レンズが厚くなり、かつ重量アップを招きやすい。結局、大口径撮像レンズにおいては、高性能を確保しつつコンパクト化を図ることが容易でない。しかも、従来のこの種レンズの場合、主に、遠方物体に対する各種収差の補正に重点が置かれていたため、至近距離に対する光学性能を十分に確保できない課題も残されていた。
【0008】
このように、現状では、準広角から中望遠域の撮影に用いる単焦点レンズとして、無限遠から近距離まで十分な光学性能によりカバーするとともに、小型コンパクト化を図るデジタルカメラ等に使用する交換レンズ(単焦点レンズ)を得る観点からの明るい交換レンズの実現は容易でなく、現在においても、このような交換レンズを希望する消費者ニーズに十分に応えていないのが実情である。
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した大口径撮像レンズの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するため、レンズ全系100に、開口絞りSTOに対して、物体OBJ側に配した正のパワーを有する前レンズ群101,及び像IMG側に配した正のパワーを有する後レンズ群102を備える大口径撮像レンズ1を構成するに際して、物体OBJ側から連続した複数枚の前正レンズLF,L2,L3及び最も開口紋りSTO側の前負レンズL4を含み、全レンズLF,L2,L3,L4を物体OBJ側が凸形状のメニスカスレンズにより構成するとともに、開口絞りSTO側の各レンズ面(i=2,4,6,8)の曲率半径が物体OBJ側から開口絞りSTO側へ順次小さくなり、かつ全レンズLF,L2,L3,L4のレンズ面(i=1,2,3,4,5,6,7,8)が空気に接触する前レンズ群101と、最も開口絞りSTO側に配した両凹レンズL5と最も像IMG側に配して両面が光軸Dc上の同方向に湾曲した負のパワーを有する最終レンズLEとにより挟まれた複数枚の後正レンズL6,L7を含み、かつ当該後正レンズL6,L7に少なくとも一つの両凸レンズ(L6,L7)を含ませた後レンズ群102とを有するレンズ全系100を備え、物体距離を無限遠とし、全系焦点距離をAFL,レンズ全系100の光軸長をTLL,最も物体OBJ側のレンズ面(i=1)から像IMGまでの光軸長をTLi,最終レンズLEの像IMG側のレンズ面から像IMGまでの光軸長をIMDとしたとき、「0.68<〔TLL/AFL〕<1.00」(条件式[1]),「0.8 <〔TLi/AFL〕<1.4」(条件式[2]),「0.2 <〔IMD/AFL〕」(条件式[3])の各条件を満たすように構成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、好適な形態により、後レンズ群102は、両凹レンズL5の開口絞りSTO側のレンズ面(i=9)から像IMG側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面(i=9,11,13)の湾曲方向(+,+,-)と、最終レンズLEの像IMG側のレンズ面(i=15)から開口絞りSTO側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面(i=15,14,13)の湾曲方向(-,-,+)を、逆方向に設定することができる。さらに、後レンズ群102は、2枚の後正レンズL6,L7を有することにより、開口絞りSTO側の当該後正レンズL6から開口絞りSTO側の後レンズA群102A,及び像IMG側の当該後正レンズL7から像IMG側の後レンズB群102Bを備え、後レンズA群102Aが無限物体時であって、かつレンズ全系100の最も物体OBJ側に配する最先レンズLFの物体OBJ側のレンズ面(i=1)から当該後レンズA群102Aの出射後における近軸像位置までの長さの絶対値が最も大きくなる際に、物体距離を無限遠とし、かつ全系のFナンバーをFNO,前レンズ群101の光軸長をLF1,後レンズ群102の光軸長をLF2,後レンズA群102Aの光軸長をTL2A,後レンズB群102Bの光軸長をTL2Bとしたとき、「0.8<〔TLl/TL2〕<1.6」(条件式[4]),「0.6<〔TL2A/TL2B〕<1.6」(条件式[5]),「1.0<〔TLL/(AFL/FNO)〕<1.5」(条件式[6]),「0.3<〔TL2/(FL2/FNO)〕<0.6」(条件式[7])の各条件を満たすように設定することができる。
【0011】
加えて、レンズ全系100は、3枚以上の前正レンズLF,L2,L3…及び2枚以上の後正レンズL6,L7…を含むとともに、全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…において、d線の屈折率が1.75以上となる硝材を用いた正レンズを2枚以上含み、かつ平均アッベ数を38.0以上とし、レンズ全系100における全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…の焦点距離の絶対値を、レンズ全系100における最大の焦点距離を有する負レンズの当該焦点距離の絶対値の80〔%〕よりも大きく設定することが望ましく、さらに、全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…において、d線の屈折率が1.85以上となる硝材を用いた正レンズを少なくとも1枚含ませることがより望ましい。この際、前レンズ群101は、異常部分分散値dPgfの絶対値が0.02以上となる低屈折率低分散硝材を用いた少なくとも1枚のレンズを含ませて構成することができる。また、後レンズ群102は、最も開口絞りSTO側に配した両凹レンズL5とこの両凹レンズL5の像IMG側に配した後正レンズL6による接合レンズJaを備え、当該両凹レンズL5を、異常部分分散値dPgfの絶対値が0.02以上となる硝材を用いて形成するとともに、当該後正レンズL6を、d線の屈折率が1.75以上となる高屈折ガラスを用いて形成することができる。
【0012】
一方、レンズ全系100は、開口絞りSTOに対向するレンズ面(i=8,9)の曲率半径の絶対値を、前レンズ群101側を小さく設定し、かつ前レンズ群101側のレンズ面(i=8)の曲率半径をSR1,開口絞りSTOの空間間隔をTLSとしたとき、「1.0<〔SR1/TLS〕<1.5」(条件式[8])の条件を満たすことが望ましい。また、最終レンズLEは、メニスカス形状の非球面を含み、かつ当該最終レンズLEの焦点距離をFLEとしたとき、「-4.0<〔FLE/AFL〕<-0.8」(条件式[9])の条件を満たすように形成することが望ましい。さらに、レンズ全系100は、前レンズ群101に4枚のレンズLF,L2,L3,L4を配し、かつ後レンズ群102Bに4枚のレンズL5,L6,L7,LEを配することにより、全体で8枚のレンズLF,L2…L7,LEにより構成するとともに、Fナンバーを1.7以下に、かつ半画角を12-25〔゜〕にそれぞれ設定することができる。
【0013】
他方、フォーカス調整に関し、後レンズ群102は、複数枚の後正レンズL6,L7における相隣る前後の後正レンズL6とL7間の物体OBJ側を後レンズA群102Aとし、かつ像IMG側を後レンズB群102Bとするとともに、当該後レンズA群102Aの前後における空気空間Sf,Frの少なくとも一つを、フォーカス調整時に変化させる調整間隔として設定することができる。この際、調整間隔は、後レンズA群102Aに対して物体OBJ側の空気空間Sf,後レンズA群102Aに対して像IMG側の空気空間Sr,後レンズA群102Aに対して前後の空気空間Sf,Srのいずれか一つを含み、最大で三つのレンズ群101,102A,102Bを移動可能に構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
このような構成を有する本発明に係る大口径撮像レンズ1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0015】
(1) 物体OBJ側から連続した複数枚の前正レンズLF,L2…及び最も開口紋りSTO側の前負レンズL4を含み、全レンズLF,L2…を物体OBJ側が凸形状のメニスカスレンズにより構成するとともに、開口絞りSTO側の各レンズ面(i=2…)の曲率半径が物体OBJ側から開口絞りSTOへ順次小さくなり、かつ全レンズLF,L2…のレンズ面(i=1,2…)が空気に接触する前レンズ群101と、最も開口絞りSTO側に配した両凹レンズL5と最も像IMG側に配して両面が光軸Dc上の同方向に湾曲した負のパワーを有する最終レンズLEとにより挟まれた複数枚の後正レンズL6,L7を含み、かつ当該後正レンズL6,L7に少なくとも一つの両凸レンズ(L6,L7)を含ませた後レンズ群102とを有するレンズ全系100を備え、物体距離を無限遠とし、前述した条件式[1]-[3]を満たすように構成したため、構築した前レンズ群101により光軸Dc方向の長さを短縮できるとともに、各レンズ面の入出射角を緩めることにより収差発生を抑え、加えて、後レンズ群102を部分対称レンズ群として機能させることにより前段で発生した残存収差をバランス良く補正ことができる。これにより、準広角から中望遠域の撮影に用いる単焦点レンズとして、無限遠から近距離まで十分な光学性能によりカバーできるなど、消費者ニーズに十分に応えることができるデジタルカメラ等に最適な明るい交換レンズを実現できるとともに、光学系全体の小型コンパクト化を図りつつ大型高精細撮像素子にも対応できる大口径撮像レンズ1を得ることができる。
【0016】
(2) 好適な態様により、後レンズ群102を構成するに際し、両凹レンズL5の開口絞りSTO側のレンズ面(i=9)から像IMG側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面(i=9…)の湾曲方向と、最終レンズLEの像IMG側のレンズ面(i=15)から開口絞りSTO側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面(i=15…)の湾曲方向を、逆方向に設定すれば、レンズ全系100における望ましい部分対称レンズ群を構築できるため、残存収差に対する、更なるバランスの良好な補正を実現できるとともに、収差変動の低減を図ることができる。
【0017】
(3) 好適な態様により、後レンズ群102を構成するに際し、2枚の後正レンズL6,L7を有することにより、開口絞りSTO側の当該後正レンズL6から開口絞りSTO側の後レンズA群102A,及び像IMG側の当該後正レンズL7から像IMG側の後レンズB群102Bを備え、後レンズA群102Aが無限物体時であって、かつレンズ全系100の最も物体OBJ側に配する最先レンズLFの物体OBJ側のレンズ面(i=1)から当該後レンズA群102Aの出射後における近軸像位置までの長さの絶対値が最も大きくなる際に、物体距離を無限遠とし、前述した条件式[4]-[7]を満たすように設定すれば、後レンズA群102Aの通過後の光線を、アフォーカルレンズに近い状態にして光線角度の変化を少なくできるため、後レンズA群102Aを含むこの前後のレンズ群をフォーカス調整時に移動させる場合であっても、収差変動をより少なくできるとともに、組立工程における調整ポイントとして利用することができる。
【0018】
(4) 好適な態様により、レンズ全系100を構成するに際し、3枚以上の前正レンズLF,L2,L3…及び2枚以上の後正レンズL6,L7…を含むとともに、全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…において、d線の屈折率が1.75以上となる硝材を用いた正レンズを2枚以上含み、かつ平均アッベ数を38.0以上とし、レンズ全系100における全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…の焦点距離の絶対値を、レンズ全系100における最大の焦点距離を有する負レンズの当該焦点距離の絶対値の80〔%〕よりも大きく設定すれば、全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…の硝材特性及びパワー配分を考慮することによりガラス特性とレンズ形状をバランス良く組合せることができるため、レンズ全系において、微調整を含めた収差調整を容易かつ良好に行うことができる。特に、前レンズ群101における各前正レンズLF,L2,L3…のパワーバランスを高屈折率硝材と組合わせた曲率に選定できるため、前レンズ群101のコンパクト化及び収差補正効果を高めることができるとともに、後レンズ群102による軸上収差(色収差)の補正を有利に行うことができる。なお、全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…において、d線の屈折率が1.85以上となる硝材を用いた正レンズを少なくとも1枚含ませることにより、より望ましい効果を得ることができる。
【0019】
(5) 好適な態様により、前レンズ群101を構成するに際し、異常部分分散値dPgfの絶対値が0.02以上となる低屈折率低分散硝材を用いた少なくとも1枚のレンズを含ませて構成すれば、特に、低屈折率低分散硝材を用いた正レンズを含ませることにより、色収差が目立つ傾向のある中望遠撮影領域での色収差の捕正効果をより高めることができる。
【0020】
(6) 好適な態様により、後レンズ群102を構成するに際し、最も開口絞りSTO側に配した両凹レンズL5とこの両凹レンズL5の像IMG側に配した後正レンズL6による接合レンズJaを備え、当該両凹レンズL5を、異常部分分散値dPgfの絶対値が0.02以上となる硝材を用いて形成するとともに、当該後正レンズL6を、d線の屈折率が1.75以上となる高屈折ガラスを用いて形成すれば、特に、アッベ数の大きなガラスと屈折率差の利用により、球面収差及び軸上色収差に対する捕正効果をより高めることができる。
【0021】
(7) 好適な態様により、レンズ全系100を構成するに際し、開口絞りSTOに対向するレンズ面(i=8,9)の曲率半径の絶対値を、前レンズ群101側を小さく設定し、かつ前レンズ群101側のレンズ面(i=8)の曲率半径をSR1,開口絞りSTOの空間間隔をTLSとしたとき、「1.0<〔SR1/TLS〕<1.5」(条件式[8])を満たすように構成すれば、開口絞りSTOに対向するレンズ面(i=8,9)の曲率半径の絶対値は、前レンズ群101側を小さく設定できるため、変形ガウスタイプの欠点となるサジタルコマ収差の発生を効果的に抑制できる。また、条件式[8]を設定したため、半球度の抑制によりレンズの加工性を高めることができるとともに、絞り対称性を高めることにより収差補正の有効性をより高めることができる。
【0022】
(8) 好適な態様により、最終レンズLEを、メニスカス形状の非球面を含み、かつ当該最終レンズLEの焦点距離をFLEとしたとき、「-4.0<〔FLE/AFL〕<-0.8」(条件式[9])を満たすように形成すれば、最終レンズLEを通過する光線の入出射特性を非球面により設定できるため、最終段階における軸外収差を効果的に抑制できるとともに、軸上収差から軸外に至る収差補正も有効に行うことができる。
【0023】
(9) 好適な態様により、レンズ全系100を構成するに際し、前レンズ群101に4枚のレンズLF,L2,L3,L4を配し、かつ後レンズ群102Bに4枚のレンズL5,L6,L7,LEを配することにより、全体で8枚のレンズLF,L2…L7,LEにより構成するとともに、Fナンバーを1.7以下に、かつ半画角を12-25〔゜〕にそれぞれ設定すれば、レンズ枚数を設定する観点から、コンパクト化を実現しつつ、Fナンバーが1.7以下となり、かつ半画角が12-25〔゜〕となる単焦点レンズにおける光学性能を確保できる。即ち、本実施形態に係る大口径撮像レンズ1における必要かつ十分な光学性能(諸収差)を確保しつつ、レンズ全長の短縮化を確保できる最適な形態として実施できる。
【0024】
(10) 好適な態様により、フォーカス調整に関し、後レンズ群102を、複数枚の後正レンズL6,L7における相隣る前後の後正レンズL6とL7間の物体OBJ側を後レンズA群102Aとし、かつ像IMG側を後レンズB群102Bとするとともに、当該後レンズA群102Aの前後における空気空間Sf,Frの少なくとも一つを、フォーカス調整時に変化させる調整間隔として設定すれば、後レンズA群102Aの通過後の光線をアフォーカルレンズに近い状態にして光線角度の変化を少なくできるため、諸収差の捕正効果を高めることができるとともに、フォーカス調整時における無用な収差変動を抑制することができる。
【0025】
(11) 好適な態様により、フォーカス調整時に変化させる調整間隔を、後レンズA群102Aに対して物体OBJ側の空気空間Sf,後レンズA群102Aに対して像IMG側の空気空間Sr,後レンズA群102Aに対して前後の空気空間Sf,Srのいずれか一つを含み、最大で三つのレンズ群101,102A,102Bを移動可能に構成すれば、球面収差の変化によるソフトフォーカス撮影や像面湾曲の変化による周辺画像のボケ量の増減撮影、更には像面湾曲の補正等の撮影時の多様性や機能性を高めることができる。加えて、各レンズ群101,102A,102Bを移動させるアクチュエータ(不図示)を制御し、撮像素子をセンサとして利用することにより、本来のフォーカス調整の他に、球面収差や像面湾曲のコントロール、更には、製造時における調整工程にも利用できるなど、より多様性及び発展性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の好適実施形態に係る実施例1の大口径撮像レンズの構成図、
図2】同実施例1に係る大口径撮像レンズの条件項目説明図、
図3】同実施例1に係る大口径撮像レンズの無限遠時の縦収差図、
図4】同実施例1に係る大口径撮像レンズの図1に示すフォーカス方式F11-F13の縦収差図、
図5】同実施例1に係る大口径撮像レンズの図1に示すフォーカス方式F14及び表1に示すフォーカス方式F12AとF13Aの縦収差図、
図6】本発明の好適実施形態に係る各実施例における大口径撮像レンズの光学条件の一覧表、
図7】本発明の好適実施形態に係る実施例2の大口径撮像レンズの構成図、
図8】同実施例2に係る大口径撮像レンズの無限遠時及び図7に示すフォーカス方式F14の縦収差図、
図9】本発明の好適実施形態に係る実施例3の大口径撮像レンズの構成図、
図10】同実施例3に係る大口径撮像レンズの無限遠時及び図9に示すフォーカス方式F12の縦収差図、
図11】本発明の好適実施形態に係る実施例4の大口径撮像レンズの構成図、
図12】同実施例4に係る大口径撮像レンズの無限遠時及び図11に示すフォーカス方式F12の縦収差図、
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明に係る好適実施形態である実施例1-4を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0028】
まず、本実施形態に係る実施例1の大口径撮像レンズ1について、図1図6を参照して具体的に説明する。
【0029】
最初に、図1を参照して、本実施形態(実施例1)に係る大口径撮像レンズ1について説明する。なお、この大口径撮像レンズ1は、デジタルカメラ用交換レンズに適用することを想定できる。図1中、OBJは物体(被写体)を示し、IMGは像(撮像素子)を示している。したがって、物体OBJ側が光軸Dc方向の前方となり、像IMG側が光軸Dc方向の後方となる。
【0030】
本実施形態に係る大口径撮像レンズ1は、開口絞りSTOに対して、物体OBJ側に配した正のパワーを有する前レンズ群101,及び像IMG側に配した正のパワーを有する後レンズ群102を備え、この前レンズ群101と後レンズ群102により基本となるレンズ全系100を構成する。
【0031】
前レンズ群101は、図1に示すように、物体OBJ側から連続した4枚の前正レンズLF,L2,L3及び最も開口紋りSTO側の前負レンズL4を備え、全レンズLF,L2,L3,L4は、物体OBJ側が凸形状のメニスカスレンズにより構成する。より具体的には、物体OBJ側から、凸メニスカスレンズを使用した一番目の前正レンズ(最先レンズ)LF,凸メニスカスレンズを使用した二番目の前正レンズL2,凸メニスカスレンズを使用した三番目の前正レンズL3,凹メニスカスレンズを使用した四番目の前負レンズL4を備える。そして、開口絞りSTO側の各レンズ面(i=2,4,6,8)の曲率半径は、物体OBJ側から開口絞りSTO側へ順次小さくなるように設定するとともに、全レンズLF,L2,L3,L4のレンズ面(i=1,2,3,4,5,6,7,8)が空気に接触する。したがって、全レンズLF,L2,L3,L4はそれぞれ単レンズにより構成する。
【0032】
このように、前レンズ群101は、全レンズLF,L2,L3,L4が物体OBJ側に凸形状となるメニスカス形状にすることにより、光軸Dc方向の長さを圧縮し、コンパクト化を図るとともに、各レンズ面(i=2,4,6,8)の入出射角を緩めることにより収差の発生を抑制している。特に、前正レンズLF,L2,L3は、正のパワーを分割することにより、パワーの分散化を行うとともに、図1に示すように、前負レンズL4の物体OBJ側(i=6と7間)に、メニスカス形状の細い空間(負の空気レンズ)Laを設けることにより、球面収差の補正効果を高めている。
【0033】
一方、後レンズ群102は、最も開口絞りSTO側に配した両凹レンズL5と最も像IMG側に配して両面が光軸Dc上の同方向に湾曲した負のパワーを有する最終レンズLEを備えるとともに、この両凹レンズL5と最終レンズLEにより挟まれた2枚の後正レンズL6,L7、即ち、開口絞りSTO側から像IMG側に、両凸レンズ(L6),両凸レンズ(L7)を備える。このように、後正レンズL6,L7には、少なくとも一つの両凸レンズ(L6,L7)を含ませるとともに、両凹レンズL5と後正レンズ(両凸レンズ)L6は、接合レンズJaにより構成する。
【0034】
このように構成するため、後レンズ群102は、前後の負レンズ(L5,LE)に挟まれた2枚の正レンズ(L6,L7)を備える部分対称レンズ群となり、前レンズ群101により発生した残存収差をバランス良く補正することができる。また、後述するように、フォーカス調整時に移動するレンズ群を、接合レンズJa(後レンズA群102A)とすることにより諸収差の変動を抑制している。
【0035】
レンズ全系100を、このような前レンズ群101と後レンズ群102により構成することにより、無限物体から入射する光軸Dcに平行な光線は、前レンズ群101を通過し、収斂することにより後レンズ群102に入射するとともに、後レンズ群102に対して軸外から入射する斜め光線は、最初に位置する両凹レンズL5のレンズ面(i=9)に対して面の法線に近い角度で入射する。
【0036】
他方、以上の基本的なレンズ構成において、物体距離を無限遠とし、全系焦点距離をAFL,レンズ全系100の光軸長をTLL,最も物体OBJ側のレンズ面(i=1)から像IMGまでの光軸長をTLi,最終レンズLEの像IMG側のレンズ面から像IMGまでの光軸長をIMDとしたとき、以下の条件、即ち、条件式[1]-[3]を満たすように設定する。なお、図2に、これらの条件項目の一部を図示する。
0.68<〔TLL/AFL〕<1.00 … [1]
0.8 <〔TLi/AFL〕<1.4 … [2]
0.2 <〔IMD/AFL〕 … [3]
【0037】
この場合、条件式[1],[2]は、本実施形態に係る大口径撮像レンズ1をコンパクト化する範囲を設定するものであり、上限を超える場合、レンズの曲率や硝材の屈折率を低くできるため、収差発生を抑えることができるものの、コンパクト性を確保できなくなる。他方、下限を下回る場合、コンパクト性は確保できるものの、各レンズのパワーが強くなるため、収差の発生が多くなる。条件式[3]を満たすことにより、必要なバックフォーカスを確保できる。大口径撮像レンズ1の場合、撮像素子(IMG:像)の前面に設置される波長カットフィルタや防塵ガラスなどの平行平面板に干渉しない光軸距離を確保する必要があり、特に、交換レンズとして用いる場合には、各種の撮像装置(カメラ)に対応させる必要があるため、ある程度のバックフォーカスを確保する必要がある。
【0038】
また、基本的なレンズ構成において、後レンズ群102は、両凹レンズL5の開口絞りSTO側のレンズ面(i=9)から像IMG側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面(i=9,11,13)の湾曲方向(+,+,-)と、最終レンズLEの像IMG側のレンズ面(i=15)から開口絞りSTO側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面(i=15,14,13)の湾曲方向(-,-,+)を、逆方向に設定する。これにより、レンズ全系100における望ましい部分対称レンズ群を構築できるため、残存収差に対する、更なるバランスの良好な補正を実現できるとともに、収差変動の低減を図ることができる。
【0039】
さらに、後レンズ群102は、2枚の後正レンズL6,L7を有するため、開口絞りSTO側の後正レンズL6から開口絞りSTO側を後レンズA群102Aとし、像IMG側の後正レンズL7から像IMG側を後レンズB群102Bとして設定する。この場合、後レンズA群102Aを通過した後の光線はアフォーカルレンズに近い状態になるため、光線角度の変化を少なくすることができる。したがって、後レンズA群102Aを含む前後のレンズ群をフォーカス調整に用いる移動群とした場合には最適なレンズ群となり、固定間隔又は可変間隔のいずれに設定しても収差変動を少なくできるとともに、組立工程における調整ポイントとしても利用しやすくなる。なお、前レンズ群101及び後レンズ群102の各正レンズは、分割により枚数を増やせば、諸収差の補正は容易になるが、反面、光軸Dcが長くなるため、コンパクト性の観点からは不利になる。また、後レンズ群102は、部分対称レンズ群を構成するため、対称性から得られる収差補正のメリットを確保する観点から、後レンズA群102Aと後レンズB群102Bの光軸長の偏りはできるだけ抑えることが望ましい。
【0040】
そして、レンズ全系100において、後レンズA群102Aが無限物体時であって、かつレンズ全系100の最も物体OBJ側に配する最先レンズLFの物体OBJ側のレンズ面(i=1)から当該後レンズA群102Aの出射後における近軸像位置までの長さの絶対値が最も大きくなる際に、物体距離を無限遠とし、かつ全系のFナンバーをFNO,前レンズ群101の光軸長をLF1,後レンズ群102の光軸長をLF2,後レンズA群102Aの光軸長をTL2A,後レンズB群102Bの光軸長をTL2Bとしたとき、以下の条件、即ち、条件式[4]-[7]を満たすように設定する。なお、図2に、これらの条件項目の一部を図示する。
0.8<〔TLl/TL2〕<1.6 … [4]
0.6<〔TL2A/TL2B〕<1.6 … [5]
1.0<〔TLL/(AFL/FNO)〕<1.5 … [6]
0.3<〔TL2/(FL2/FNO)〕<0.6 … [7]
【0041】
この場合、条件式[4]は、前レンズ群101と後レンズ群102の光軸Dc長さの割合を示すことから、部分対称性を確保できるように、各正レンズの分割数は偏りが生じることなく均等に設定することが望ましい。条件式[5]も同様であり、後レンズ群102の部分対称性を確保できるように考慮する。このため、条件式[4]又は[5]の範囲を満たさない場合、前レンズ群101又は後レンズ群102の一方の負担が大きくなり、収差補正が不安定になるとともに、大口径撮像レンズ1のコンパクト性を確保できなくなる。また、条件式[6]は、前レンズ群101と後レンズ群102の径方向の制約を設定するものであり、入射瞳径をAFL/FNOとしたときのレンズ全系100における縦横比を示す。また、条件式[7]は、後レンズ群102の径方向の制約を設定するものであり、開口紋りSTOの径の代替として、FL2/FNOとしたときの後レンズ群102の縦横比を示す。このため、条件式[6],[7]の上限を超える場合には光軸Dc方向に長くなるとともに、他方、下限を下回る場合には径方向に大きくなる。
【0042】
他方、大口径撮像レンズ1を構成するに際しては、レンズ全系100において、以下の点を考慮する。まず、全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…において、d線の屈折率が1.75以上となる硝材を用いた正レンズを2枚以上含み、かつ平均アッベ数を38.0以上とし、レンズ全系100における全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…の焦点距離の絶対値を、レンズ全系100における最大の焦点距離を有する負レンズの当該焦点距離の絶対値の80〔%〕よりも大きく設定する。
【0043】
前レンズ群101における前正レンズLF,L2,L3は高屈折タイプのガラスを使用し、弱い曲率により正のパワーを得る。この場合、正レンズ2枚により構成することも可能となるが、1枚当たりのパワーが強くなるため、レンズ厚が大きくなり、収差の補正も十分に行えない。したがって、3枚以上に分割すれば、前レンズ群101のコンパクト化を図れることに加え、収差の補正効果も確保できる。なお、前レンズ群101の各正レンズLF,L2…に、低屈折及び低分散の硝材を用いることにより色収差の補正を行うことができるが、屈折率が低い場合、所定の正のパワーを得るには曲率半径を小さくする必要があるため、レンズ厚が大きくなる。加えて、メニスカス形状より、屈折力が得られる平凸形状や両凸形状に近づける必要があり、この点もレンズ厚を大きくする要因となる。このため、前レンズ群101における前正レンズLF,L2…のパワーバランスは、高屈折率硝材と組合わせた上で曲率を設定することが望ましい。他方、後レンズ群102の接合レンズJaに使用するガラス特性を屈折率差にした場合には軸上収差補正に有利になるとともに、アッベ数差にした場合には色収差の改善に有利になる。また、ガラス特性と形状をバランスよく組み合わせることによりレンズ全系100において収差を微調整できる効果もある。
【0044】
このように、レンズ全系100の全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…において、d線の屈折率が1.75以上となる硝材を用いた正レンズを2枚以上含み、かつ平均アッベ数を38.0以上とし、レンズ全系100における全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…の焦点距離の絶対値を、レンズ全系100における最大の焦点距離を有する負レンズの当該焦点距離の絶対値の80〔%〕よりも大きく設定すれば、全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…の硝材特性及びパワー配分を考慮することによりガラス特性とレンズ形状をバランス良く組合せることができるため、レンズ全系において、微調整を含めた収差調整を容易かつ良好に行うことができる。特に、前レンズ群101における各前正レンズLF,L2,L3…のパワーバランスを高屈折率硝材と組合わせた曲率に選定できるため、前レンズ群101のコンパクト化及び収差補正効果を高めることができるとともに、後レンズ群102による軸上収差(色収差)の補正を有利に行うことができる。なお、全ての正レンズLF,L2…,L6,L7…において、d線の屈折率が1.85以上となる硝材を用いた正レンズを少なくとも1枚含ませることにより、より望ましい効果を得ることができる。
【0045】
また、レンズ全系100において、開口絞りSTOに対向するレンズ面(i=8,9)の曲率半径の絶対値を、前レンズ群101側を小さく設定するとともに、前レンズ群101側のレンズ面(i=8)の曲率半径をSR1,開口絞りSTOの空間間隔をTLSとしたとき、
1.0<〔SR1/TLS〕<1.5 … [8]
の条件を満たすように設定する。
【0046】
後レンズ群102は、前レンズ群101より強い正のパワーを有するが、後レンズ群102の後負レンズL5の開口絞りSTO側の曲率半径が小さい場合、変形ガウスタイプの欠点であるサジタル方向のコマ収差が発生しやすくなるため、開口絞りSTOに対して像IMG側の曲率半径SR2の絶対値を開口紋りSTOに対して物体OBJ側の曲率半径SR1より大きく設定する。また、大口径の場合、開口絞りSTOの空間に接するレンズ面(i=8,9)の曲率半径の絶対値は小さくなる傾向により半球度が増加するため、この条件式[8]を設定する。このため、条件式[8]の下限を下回る場合には半球度が増してレンズの加工が困難になるとともに、上限を超える場合には部分対称性の低下により収差補正が困難になる。
【0047】
したがって、このような条件を設定すれば、開口絞りSTOに対向するレンズ面(i=8,9)の曲率半径の絶対値は、前レンズ群101側を小さく設定できるため、変形ガウスタイプの欠点となるサジタルコマ収差の発生を効果的に抑制できる。また、条件式[8]を設定したため、半球度の抑制によりレンズの加工性を高めることができるとともに、絞り対称性を高めることにより収差補正の有効性をより高めることができる。
【0048】
さらに、最終レンズLEを形成するに際しては、メニスカス形状の非球面を含み、かつ当該最終レンズLEの焦点距離をFLEとしたとき、
-4.0<〔FLE/AFL〕<-0.8 … [9]
の条件を満たすように形成する。
【0049】
最終レンズLEを構成する非球面レンズは、両面の面形状が光軸Dcから外周部にかけて同方向を向くため、両面が物体OBJ側の方向へ凸形状となるタイプと凹形状となるタイプの二つのタイプがある。凹形状の場合、各画角の主光線が通過する面の法線に近い角度で入出射するため、軸外収差の発生が少なくなるとともに、非球面レンズの開口紋りSTO側における両凹レンズL5が、軸上光線から軸外光線を分離させるように徐々に上方へ跳ね上げられるため、軸上収差から軸外に至る収差を補正する際に有利となる。一方、凸形状の場合、光線の入出射する非球面位置の法線に対して、軸上光線と軸外光線が均等に近い角度となるため、軸上収差から軸外収差を同様に補正することができる。
【0050】
例示の最終レンズLEは、構成要素として負のパワーが弱く、球面から極小にズレた非球面効果により収差補正を行っている。負メニスカスレンズのため、両面の曲率中心の方向の面の方がカーブが強くなる。なお、両凹レンズでも可能であるが中心と周辺ではカーブの動向が異なることがあるため、同方向を向く条件が条件式[9]となる。このような最終レンズLEを用いれば、最終レンズLEを通過する光線の入出射特性を非球面により設定できるため、最終段階における軸外収差を効果的に抑制できるとともに、軸上収差から軸外に至る収差補正も有効に行うことができる。
【0051】
本実施形態に係る大口径撮像レンズ1は、図1に示すように、レンズ全系100を構成するに際し、前レンズ群101に4枚のレンズLF,L2,L3,L4を配し、かつ後レンズ群102Bに4枚のレンズL5,L6,L7,LEを配することにより、全体で8枚のレンズLF,L2…L7,LEにより構成するするとともに、Fナンバーを1.7以下に、かつ半画角を12-25〔゜〕にそれぞれ設定する。これにより、レンズ枚数を設定する観点から、コンパクト化を実現しつつ、Fナンバーが1.7以下となり、かつ半画角が12-25〔゜〕となる光学性能を確保できる。即ち、本実施形態に係る大口径撮像レンズ1における必要かつ十分な光学性能(諸収差)を確保しつつ、レンズ全長の短縮化を確保できる最適な形態として実施できる。
【0052】
さらに、本実施形態に係る大口径撮像レンズ1は、図1に示すように、フォーカス調整機能部201を備える。即ち、フォーカス調整に関し、後レンズ群102を、複数枚の後正レンズL6,L7における相隣る前後の後正レンズL6とL7間の物体OBJ側を後レンズA群102Aとし、かつ像IMG側を後レンズB群102Bとするとともに、当該後レンズA群102Aの前後における空気空間Sf,Frの少なくとも一つを、フォーカス調整時に変化させる調整間隔として設定すれば、後レンズA群102Aの通過後の光線をアフォーカルレンズに近い状態にして光線角度の変化を少なくできるため、諸収差の捕正効果を高めることができるとともに、フォーカス調整時における無用な収差変動を抑制することができる。
【0053】
このフォーカス調整機能部201では、開口絞りSTOの空間を可変することにより、主に球面収差の捕正効果を高めている。また、後レンズ群102の2枚の後正レンズL6とL7間の空間を可変することにより、主に非点収差の補正効果を高めている。図1に示す〔F11〕のフォーカス方式のように、三つのレンズ群(前レンズ群101,後レンズA群102A,後レンズB群102B)を移動(Gm1,Gm2,Gm3)させることにより、無限遠から近距離でのフォーカス時の収差変化を小さくすることが可能である。さらに、二つのレンズ群(前レンズ群101+後レンズA群102A,後レンズB群102B)を移動(Gm4,Gm3)させる〔F12〕のフォーカス方式の場合には、主に非点収差を抑えることができるとともに、二つのレンズ群(前レンズ群101,後レンズA群102A+後レンズB群102B)を移動(Gm1,Gm5)させる〔F13〕のフォーカス方式の場合には、主に球面収差を抑えることによりフォーカス収差の変動を少なくすることもできる。
【0054】
本発明の対象とする大口径の撮像レンズでは、被写体である立体空間を平面の撮像素子により撮像するため、焦点空間から遠ざかるに従い、徐々にボケた像になる。特に、中距離から近距離の撮影では焦点深度が浅くなるため、平面の被写体をコピーするのではなく、一ケ所の被写体付近に焦点を合わせ、その周りをボカす撮影手法が多くなる。この場合、〔F14〕のフォーカス方式、即ち、レンズ全系100を移動(Gm6)させる全体繰り出し方式により画面周辺の像面湾曲を残存させた方が撮影上効果がある。
【0055】
また、フォーカス調整時に変化させる調整間隔については、後レンズA群102Aに対して、物体OBJ側の空気空間Sf,後レンズA群102Aに対して像IMG側の空気空間Sr,後レンズA群102Aに対して前後の空気空間Sf,Srのいずれか一つを含むため、最大で三つのレンズ群101,102A,102Bを移動可能に構成することになる。
【0056】
上述したように、可変間隔と収差の関係は、開口絞りSTOの空間間隔を可変することにより、主に球面収差が変化するとともに、後レンズ群102の2枚の後正レンズL6,L7の空間間隔を可変することにより、主に非点収差が変化する。この結果、開口絞りSTOの空間間隔を変えることにより球面収差が変化してソフトフォーカスになる。さらに、後レンズ群102の2枚の後正レンズL6,L7の空間間隔を変更すれば、像面湾曲が変化する。この場合、像面湾曲によるボケはデフォーカスになるため、周辺画像のボケ量を増減することができる。即ち、Fナンバーの大きなエリアとなる球面収差の上部が焦点位置前後に僅かに変化するため、球面収差によるソフトフォーカス効果はピントの芯があり周囲が滲みとなる。また、この間隔による収差調整は、組立時のバラつきにより発生する像面湾曲の補正に利用できる効果もある。
【0057】
以下、この収差調整、特に、軸上面間隔ZD9とZD12の可変間隔を利用した収差調整及びこの収差調整を応用した製造時に利用できる調整について説明する。
【0058】
カメラ等の撮像装置(光学機器)では、センサによるピント検出、メモリによるレンズ性能の記憶、演算装置とアクチュエータによるレンズ群の移動等の多様な機能が実現されているため、通常のレンズ性能を維持しつつ、撮影時に、レンズ群の間隔を変化させることによりレンズ性能を崩した状態の画像を得ることができる。また、レンズ性能を崩した状態において肉眼によりピントや構図(画面内の物体の距離等)を確認するのは困難であるため、撮像装置の多様な機能により、複雑に変化する被写体側の空間情報を迅速かつ正確に把握し、撮像装置の特性に合わせた操作を的確に行うことができる。
【0059】
まず、「像面湾曲」の調整について説明する。図5(f)に示すフォーカス方式〔F12A〕は、実施例1(図1)に係る撮像レンズ1のフォーカス方式〔F12〕に対して、軸上面間隔(ZD12)を変更した場合の縦収差図を示す。即ち、フォーカス方式〔F12〕の近距離収差補正を行った状態から可変間隔ZD12を「-0.20mm」過剰に移動させた状態を示す。この場合、図4(c)に示す〔F12〕の縦収差図よりも「非点収差」が負の方向に移動していることを確認できる。像面湾曲は、デフォーカスによるボケであり、画面中心の合焦時には画面周辺にボケが生じるとともに、画面周辺の合焦時には画面中心にボケが生じる。即ち、非点収差が負の方向に移動する場合、画面周辺のピント面に対応する物体は画面中心に対応するピント面より無限遠方向にあり、非点収差が正の方向に移動する場合、画面周辺のピント面に対応する物体は画面中心に対応するピント面よりレンズ側に近くなる。
【0060】
このため、製造工程における、例えば、投影解像検査などに応用することが可能である。即ち、投影面中心に解像している場合、投影面周辺の解像がレンズ側にあれば、可変間隔ZD12を広げ、他方、投影面周辺のレンズ側に解像していなければ、可変間隔ZD12を狭くすることにより、平坦な結像面を得ることができる。さらに、ZD12より像側における後レンズB群102Bの全体又は一部のレンズを偏心状態にすることにより、解像面の傾きを修正することができる。
【0061】
次に、「球面収差」の調整について説明する。図5(g)に示すフォーカス方式〔F13A〕は、実施例1(図1)に係る撮像レンズ1のフォーカス方式〔F13〕に対して、軸上面間隔(ZD9)を変更した場合の縦収差図を示す。即ち、フォーカス方式〔F13〕の近距離収差補正を行った状態から可変間隔ZD9を「-0.50mm」過剰に移動させた場合を示す。この場合、図4(d)に示す〔F13〕の縦収差図よりも「球面収差」が負の方向に移動していることを確認できる。なお、球面収差は、収差図の縦軸の上方がレンズ径が大きい方向となる。したがって、開口絞りSTOよりも像IMG側のレンズ面では、像面周辺に結像する光線の入出射角が緩やかになり、他方、像面中心に結像する光線は、レンズ面の中心(光軸Dc)に対して、周辺になるに従って急峻になるため、開口絞りSTOの空間間隔を変化させれば、球面収差は、収差図における縦軸の上方の変化が大きくなる。
【0062】
このため、通常の球面収差によるソフトフォーカス効果は、開口径が小さくなる絞った状態において「ピントの芯」になるとともに、開口径の周辺では球面収差が変化した「ピントの芯の周囲における滲み」となる。球面収差が負側、即ち、ZD9の空気間隔を狭くする側は、近軸焦点位置より物体側となり、球面収差が正側、即ち、ZD9の空気間隔を広くする側は、その反対となる。また、これらを上述した投影解像検査などに応用した場合、ソフトフォーカスの効果が大きい状態では焦点を合わせにくいため、開口絞りSTOを絞った状態で投影面中心に焦点を合わせるとともに、開口絞りSTOを開放させてから開口絞りSTOの空間間隔ZD9を調整すれば、明瞭な結像面を得ることが可能になる。なお、製造時の調整は、後述する実施例2-4においても、ZD9による球面収差の調整、ZD12による像面湾曲の調整が可能である。
【0063】
このように、フォーカス調整機能部201は、フォーカス調整時に変化させる調整間隔を、後レンズA群102Aに対して物体OBJ側の空気空間Sf,後レンズA群102Aに対して像IMG側の空気空間Sr,後レンズA群102Aに対して前後の空気空間Sf,Srのいずれか一つを含み、最大で三つのレンズ群101,102A,102Bを移動可能に構成できるため、球面収差の変化によるソフトフォーカス撮影や像面湾曲の変化による周辺画像のボケ量の増減撮影、更には像面湾曲の補正等の撮影時の多様性や機能性を高めることができる。加えて、各レンズ群101,102A,102Bを移動させるアクチュエータ(不図示)を制御し、撮像素子をセンサとして利用することにより、本来のフォーカス調整の他に、球面収差や像面湾曲のコントロール、更には、製造時における調整工程にも利用できるなど、より多様性及び発展性を高めることができる。
【0064】
よって、このような本実施形態に係る大口径撮像レンズによれば、基本構成として、物体OBJ側から連続した複数枚の前正レンズLF,L2…及び最も開口紋りSTO側の前負レンズL4を含み、全レンズLF,L2…を物体OBJ側が凸形状のメニスカスレンズにより構成するとともに、開口絞りSTO側の各レンズ面(i=2…)の曲率半径が物体OBJ側から開口絞りSTOへ順次小さくなり、かつ全レンズLF,L2…のレンズ面(i=1,2…)が空気に接触する前レンズ群101と、最も開口絞りSTO側に配した両凹レンズL5と最も像IMG側に配して両面が光軸Dc上の同方向に湾曲した負のパワーを有する最終レンズLEとにより挟まれた複数枚の後正レンズL6,L7を含み、かつ当該後正レンズL6,L7に少なくとも一つの両凸レンズ(L6,L7)を含ませた後レンズ群102とを有するレンズ全系100を備え、物体距離を無限遠とし、前述した条件式[1]-[3]を満たすように構成したため、構築した前レンズ群101により光軸Dc方向の長さを短縮できるとともに、各レンズ面の入出射角を緩めることにより収差発生を抑え、加えて、後レンズ群102を部分対称レンズ群として機能させることにより前段で発生した残存収差をバランス良く補正ことができる。これにより、近距離撮影においても十分な光学性能をカバーできるなど、消費者ニーズに十分に応えることができるデジタルカメラ等に最適な明るい交換レンズを実現できるとともに、光学系全体の小型コンパクト化を図りつつ大型高精細撮像素子にも対応できる、特に、準広角から中望遠の撮影域に最適な単焦点の大口径撮像レンズ1を得ることができる。
【0065】
表1には、実施例1に係る大口径撮像レンズ1におけるレンズ全系100のレンズデータを示す。無限物点時のレンズ全系100は、焦点距離:49.60mm,Fナンバー:1.43,半画角:23.31゜,像高:21.63mmである。
【0066】
【表1】
【0067】
表1の「面データ」は、物体OBJ側から数えたレンズ面の面番号をiで示し、この面番号iは、図1に示した符号(数字)に一致する。これに対応して、レンズ面の曲率半径R(i)、軸上面間隔D(i)、レンズの屈折率nd(i)、レンズのアッベ数νd(i)、異常部分分散値ΔPgF(i)の絶対値をそれぞれ示す。nd(i)及びνd(i)はd線(587.56〔nm〕)に対する数値である。軸上面間隔D(i)は相対向する面と面間のレンズ厚或いは空気空間を示す。なお、曲率半径R(i)と面間隔D(i)の単位は〔mm〕である。面番号のOBJは物体、STOは開口絞り、IMGは像の位置を示す。曲率半径R(i)のInfinityは平面であり、面番号iの後にAが付いた面は面形状が非球面であることを示す。屈折率nd(i)とアッベ数νd(i)の空欄は空気であることを示す。
【0068】
また、表1の「非球面係数」は、面の中心を原点とし、光軸Dc方向をZとした直交座標系(X,Y,Z)において、ASPを非球面の面番号としたとき、Zは数1により表される。数1において、Rは中心曲率半径、A4,A6,A8,A10は、それぞれ4次,6次,8次,10次の非球面係数、Hは光軸上の原点からの距離である。なお、表2において、「E」は「×10」を意味する。
【0069】
【数1】
【0070】
図6に示すように、AFLは49.60mm,TLLは40.69mmであるため、TLL/AFLは「0.82」となり、条件式[1](0.68<〔TLL/AFL〕<1.00)を満たす。TLiは65.00mmであるため、TLi/AFLは「1.31」となり、条件式[2](0.8 <〔TLi/AFL〕<1.4)を満たす。IMDは24.31mmであるため、IMD/AFLは「0.49」となり、条件式[3](0.2 <〔IMD/AFL〕)を満たす。
【0071】
また、TL1は15.44mm,TL2は14.33mmであるため、TLl/TL2は「1.08」となり、条件式[4](0.8<〔TLl/TL2〕<1.6)を満たす。TL2Aは5.28mm,TL2Bは7.80mmであるため、TL2A/TL2Bは「0.68」となり、条件式[5](0.6<〔TL2A/TL2B〕<1.6)を満たす。FNOは1.43であるため、TLL/(AFL/FNO)は1.17となり、条件式[6](1.0<〔TLL/(AFL/FNO)〕<1.5)を満たす。FL2は44.15mmであるため、TL2/(FL2/FNO)は「0.46」となり、条件式[7](0.3<〔TL2/(FL2/FNO)〕<0.6)を満たす。
【0072】
さらに、SR1は14.41mm,TLSは10.92mmであるため、SR1/TLSは「1.32」となり、条件式[8](1.0<〔SR1/TLS〕<1.5)を満たす。FLEは-73.00mmであるため、FLE/AFLは「-1.47」となり、条件式[9](-4.0<〔FLE/AFL〕<-0.8)満たす。加えて、図6に示すように、実施例1における他の各種物理量及び条件式の範囲についても本発明が要求する構成要件を満たしている。
【0073】
他方、表1の「フォーカス可変間隔」において、F10は無限遠時、F11-F14は、図1に示すフォーカス方式〔F11〕-〔F14〕にそれぞれ対応し、また、F12AはF12に対して軸上面間隔(ZD12)を変更するとともに、F13AはF13に対して軸上面間隔(ZD9)を変更した場合を示す。「フォーカス可変間隔」のZD16は、最終レンズ面(i=15)から像IMGまでの光軸長となり、特に、無限遠時は前述したIMDを示す。
【0074】
実施例1の場合、物体OBJの距離が無限遠から近距離に変化するときのフォーカス調整は、フォーカス方式〔F11〕-〔F14〕で示す4種類の何れかの方式により可能である。〔F11〕は、前レンズ群101,後レンズA群102A,後レンズB群102Bをそれぞれ一体とした三つの各レンズ群を、物体OBJ側に異なる量で移動させ、開口絞りSTO含む空気間隔,後レンズ群102における後正レンズL6とL7間の空気間隔,像IMG側の空気間隔,をそれぞれ変化させる方式、〔F12(F12A)〕は、前レンズ群101と後レンズA群102Aを一体としたレンズ群と、後レンズB群102Bを一体とした二つの各レンズ群を、物体OBJ側に異なる量で移動させ、後レンズ群102における後正レンズL6とL7間の空気間隔,像IMG側の空気間隔,をそれぞれ変化させる方式、〔F13(F13A)〕は、前レンズ群101と後レンズ群102をそれぞれ一体とした二つの各レンズ群を、物体OBJ側に異なる量で移動させ、開口絞りSTO含む空気間隔,像IMG側の空気間隔,をそれぞれ変化させる方式、〔F14〕は、レンズ全系100を一体として物体OBJ側に移動させ、像IMG側の空気間隔を変化させる方式である。
【0075】
図3図5に、実施例1の撮像レンズ1における無限遠時〔F10〕,フォーカス方式〔F11〕-〔F14〕,軸上面間隔を変更した場合のフォーカス方式〔F12A〕及び〔F13A〕にそれぞれ対応する縦収差図を示す。各縦収差図は、左側から、球面収差(656.27nm,587.56nm,435.83nm)、非点収差(587.56nm)、歪曲収差(587.56nm)を示す。各スケールは、±0.50mm,±0.50mm,±3.0%である。
【0076】
図3図5から明らかなように、いずれのフォーカス方式(〔F10〕,〔F11〕-〔F14〕,〔F12A〕及び〔F13A〕)であっても、良好な収差、即ち、撮像性能が得られることを確認できる。
【0077】
なお、像面(IMG)には撮像素子を配するとともに、通常、この撮像素子の前面には、フェイスプレート,赤外線カットフィルタ,ローパスフィルタ等の平行平面板などが配されるが、これらについては、その総厚を光学的に等価となる空気間隔に換算し、全系のバックフォーカスに加えている。
【実施例0078】
次に、本実施形態に係る実施例2の大口径撮像レンズ1について、図6図8を参照して説明する。
【0079】
実施例2の大口径撮像レンズ1は、図7に示すように、上述した実施例1と基本的なレンズ構成は同じとなるが、フォーカス方式として、フォーカス可変間隔ZD9,ZD12を不変とし、実施例1のフォーカス方式〔F14〕と同じレンズ全系100を移動(Gm6)させる全体繰り出し方式を採用したものである。
【0080】
表2には、実施例2に係る大口径撮像レンズ1におけるレンズ全系100のレンズデータを示す。無限物点時の撮像レンズ1は、焦点距離:49.60mm,Fナンバー:1.43,半画角:23.29゜,像高:21.63mmである。
【0081】
【表2】
【0082】
図6に示すように、AFLは49.60mm,TLLは40.00mmであるため、TLL/AFLは「0.81」となり、条件式[1](0.68<〔TLL/AFL〕<1.00)を満たす。TLiは65.00mmであるため、TLi/AFLは「1.31」となり、条件式[2](0.8 <〔TLi/AFL〕<1.4)を満たす。IMDは25.00mmであるため、IMD/AFLは「0.50」となり、条件式[3](0.2 <〔IMD/AFL〕)を満たす。
【0083】
また、TL1は15.23mm,TL2は12.87mmであるため、TLl/TL2は「1.18」となり、条件式[4](0.8<〔TLl/TL2〕<1.6)を満たす。TL2Aは5.55mm,TL2Bは7.17mmであるため、TL2A/TL2Bは「0.77」となり、条件式[5](0.6<〔TL2A/TL2B〕<1.6)を満たす。FNOは1.43であるため、TLL/(AFL/FNO)は1.15となり、条件式[6](1.0<〔TLL/(AFL/FNO)〕<1.5)を満たす。FL2は44.84mmであるため、TL2/(FL2/FNO)は「0.41」となり、条件式[7](0.3<〔TL2/(FL2/FNO)〕<0.6)を満たす。
【0084】
さらに、SR1は14.62mm,TLSは11.90mmであるため、SR1/TLSは「1.23」となり、条件式[8](1.0<〔SR1/TLS〕<1.5)を満たす。FLEは-127.32mmであるため、FLE/AFLは「-2.57」となり、条件式[9](-4.0<〔FLE/AFL〕<-0.8)満たす。加えて、図6に示すように、実施例2における他の各種物理量及び条件式の範囲についても本発明が要求する構成要件を満たしている。
【0085】
図8に、実施例2の撮像レンズ1における無限遠時〔F10〕及びフォーカス方式〔F14〕にそれぞれ対応する縦収差図を示す。図8から明らかなように、いずれのフォーカス方式(〔F10〕,〔F14〕)であっても、良好な収差、即ち、撮像性能が得られることを確認できる。
【実施例0086】
次に、本実施形態に係る実施例3の大口径撮像レンズ1について、図6図9及び図10を参照して説明する。
【0087】
実施例3の大口径撮像レンズ1は、図9に示すように、前述した実施例1と基本的なレンズ構成は同じとなるが、フォーカス方式として、フォーカス可変間隔ZD9を不変とし、実施例1のフォーカス方式〔F12〕と同じ方式、即ち、至近距離のフォーカス調整をZD12の可変間隔で行うようにしたものである。具体的には、前レンズ群101と後レンズA群102Aを一体としたレンズ群と、後レンズB群102Bを一体とした二つの各レンズ群を、物体OBJ側に異なる量で移動させ、後レンズ群102における後正レンズL6とL7間の空気間隔,像IMG側の空気間隔,をそれぞれ変化させる方式、即ち、二つのレンズ群(前レンズ群101+後レンズA群102A,後レンズB群102B)を移動(Gm4,Gm3)させる〔F12〕のフォーカス方式を採用したものである。
【0088】
また、実施例3では、後レンズ群102を構成するに際し、最も開口絞りSTO側に配した両凹レンズL5とこの両凹レンズL5の像IMG側に配した後正レンズL6による接合レンズJaを構成するに際し、両凹レンズL5を、異常部分分散値dPgfの絶対値が0.02以上となる硝材を用いて形成し、さらに、後正レンズL6を、d線の屈折率が1.75以上となる高屈折ガラスを用いて形成した。後レンズ群102を、このように構成すれば、特に、アッベ数の大きなガラスと屈折率差の利用により、球面収差及び軸上色収差に対する捕正効果をより高めることができる。
【0089】
表3には、実施例3に係る大口径撮像レンズ1におけるレンズ全系100のレンズデータを示す。無限物点時の撮像レンズ1は、焦点距離:49.60mm,Fナンバー:1.40,半画角:23.29゜,像高:21.63mmである。
【0090】
【表3】
【0091】
図6に示すように、AFLは49.60mm,TLLは40.06mmであるため、TLL/AFLは「0.81」となり、条件式[1](0.68<〔TLL/AFL〕<1.00)を満たす。TLiは65.00mmであるため、TLi/AFLは「1.31」となり、条件式[2](0.8 <〔TLi/AFL〕<1.4)を満たす。IMDは24.94mmであるため、IMD/AFLは「0.50」となり、条件式[3](0.2 <〔IMD/AFL〕)を満たす。
【0092】
また、TL1は15.56mm,TL2は13.59mmであるため、TLl/TL2は「1.15」となり、条件式[4](0.8<〔TLl/TL2〕<1.6)を満たす。TL2Aは5.30mm,TL2Bは7.72mmであるため、TL2A/TL2Bは「0.69」となり、条件式[5](0.6<〔TL2A/TL2B〕<1.6)を満たす。FNOは1.43であるため、TLL/(AFL/FNO)は1.16となり、条件式[6](1.0<〔TLL/(AFL/FNO)〕<1.5)を満たす。FL2は41.94mmであるため、TL2/(FL2/FNO)は「0.46」となり、条件式[7](0.3<〔TL2/(FL2/FNO)〕<0.6)を満たす。
【0093】
さらに、SR1は14.77mm,TLSは10.91mmであるため、SR1/TLSは「1.35」となり、条件式[8](1.0<〔SR1/TLS〕<1.5)を満たす。FLEは-58.42mmであるため、FLE/AFLは「-1.18」となり、条件式[9](-4.0<〔FLE/AFL〕<-0.8)満たす。加えて、図6に示すように、実施例3における他の各種物理量及び条件式の範囲についても本発明が要求する構成要件を満たしている。
【0094】
図10に、実施例3の撮像レンズ1における無限遠時〔F10〕及びフォーカス方式〔F12〕にそれぞれ対応する縦収差図を示す。図10から明らかなように、いずれのフォーカス方式(〔F10〕,〔F12〕)であっても、良好な収差、即ち、撮像性能が得られることを確認できる。
【実施例0095】
次に、本実施形態に係る実施例4の大口径撮像レンズ1について、図6図11及び図12を参照して説明する。
【0096】
実施例4の大口径撮像レンズ1は、図11に示すように、前述した実施例1と基本的なレンズ構成は同じとなるが、フォーカス方式として、フォーカス可変間隔ZD9を不変とし、実施例1のフォーカス方式〔F12〕と同じ方式(実施例3と同じ方式)、即ち、至近距離のフォーカス調整をZD12の可変間隔で行うようにしたものである。具体的には、前レンズ群101と後レンズA群102Aを一体としたレンズ群と、後レンズB群102Bを一体とした二つの各レンズ群を、物体OBJ側に異なる量で移動させ、後レンズ群102における後正レンズL6とL7間の空気間隔,像IMG側の空気間隔,をそれぞれ変化させる方式、即ち、二つのレンズ群(前レンズ群101+後レンズA群102A,後レンズB群102B)を移動(Gm4,Gm3)させる〔F12〕のフォーカス方式を採用し、撮影領域を中望遠領域としたものである。
【0097】
また、実施例4では、前レンズ群101を構成するに際し、異常部分分散値dPgfの絶対値が0.02以上となる低屈折率低分散硝材を用いた少なくとも1枚のレンズ(例示は、前正レンズL3)を含ませて構成した。前レンズ群101を、このように構成すれば、特に、低屈折率低分散硝材を用いた正レンズを含ませることにより、色収差が目立つ傾向のある中望遠撮影領域での色収差の捕正効果をより高めることができる。
【0098】
なお、この条件を適用するレンズは、いずれの前正レンズLF,L2,L3でも可能であるが、低屈折率低分散硝材は、低硬度の特性を有するため、最先レンズLFへの適用は避けた方が望ましく、また、加工上は小径レンズへの適用が望ましい。さらに、前レンズ群101の前正レンズL3…に低分散硝材を用いる場合、色収差の補正を行うことができるが、屈折率が低い場合、所定の正パワーを得るには曲率半径を小さくする必要があるとともに、メニスカス形状より、パワーの得られる平凸形状又は両凸形状に近づける必要がある。この場合、レンズ厚が大きくなるため、レンズ厚とのバランスを考慮する必要がある。
【0099】
表4には、実施例4に係る大口径撮像レンズ1におけるレンズ全系100のレンズデータを示す。無限物点時の撮像レンズ1は、焦点距離:73.00mm,Fナンバー:1.55,半画角:16.35゜,像高:21.63mmである。
【0100】
【表4】
【0101】
図6に示すように、AFLは73.00mm,TLLは54.29mmであるため、TLL/AFLは「0.74」となり、条件式[1](0.68<〔TLL/AFL〕<1.00)を満たす。TLiは89.25mmであるため、TLi/AFLは「1.22」となり、条件式[2](0.8 <〔TLi/AFL〕<1.4)を満たす。IMDは34.96mmであるため、IMD/AFLは「0.48」となり、条件式[3](0.2 <〔IMD/AFL〕)を満たす。
【0102】
また、TL1は22.92mm,TL2は15.84mmであるため、TLl/TL2は「1.45」となり、条件式[4](0.8<〔TLl/TL2〕<1.6)を満たす。TL2Aは7.28mm,TL2Bは8.36mmであるため、TL2A/TL2Bは「0.87」となり、条件式[5](0.6<〔TL2A/TL2B〕<1.6)を満たす。FNOは1.55であるため、TLL/(AFL/FNO)は1.15となり、条件式[6](1.0<〔TLL/(AFL/FNO)〕<1.5)を満たす。FL2は68.46mmであるため、TL2/(FL2/FNO)は「0.36」となり、条件式[7](0.3<〔TL2/(FL2/FNO)〕<0.6)を満たす。
【0103】
さらに、SR1は19.63mm,TLSは15.53mmであるため、SR1/TLSは「1.26」となり、条件式[8](1.0<〔SR1/TLS〕<1.5)を満たす。FLEは-81.98mmであるため、FLE/AFLは「-1.12」となり、条件式[9](-4.0<〔FLE/AFL〕<-0.8)満たす。加えて、図6に示すように、実施例4における他の各種物理量及び条件式の範囲についても本発明が要求する構成要件を満たしている。
【0104】
図12に、実施例4の撮像レンズ1における無限遠時〔F10〕及びフォーカス方式〔F12〕にそれぞれ対応する縦収差図を示す。図12から明らかなように、いずれのフォーカス方式(〔F10〕,〔F12〕)であっても、良好な収差、即ち、撮像性能が得られることを確認できる。
【0105】
以上、実施例1-4を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0106】
例えば、前レンズ群101に、物体OBJ側から連続した3枚の前正レンズLF,L2,L3を含ませた例を示したが、2枚の前正レンズLF…又は4枚以上の前正レンズLF…を含む場合を排除するものではない。また、後レンズ群102に、両凹レンズL5と最終レンズLEにより挟まれた2枚の後正レンズL6,L7を含ませた例を示したが、必要により3枚以上の後正レンズL6…を含む場合を排除するものではない。これらはレンズ分割による公知の収差補正技術を用いることによりレンズ群における光軸長の制約を許容できる範囲において任意の枚数を選定できる。一方、後レンズ群102を構成するに際し、両凹レンズL5の開口絞りSTO側のレンズ面(i=9)から像IMG側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面の湾曲方向と、最終レンズLEの像IMG側のレンズ面(i=15)から開口絞りSTO側へ順次空気に接触する三番目までのレンズ面の湾曲方向を、逆方向に設定することが望ましいが、必須の構成要件となるものではない。同様に、後レンズ群102を構成するに際し、2枚の後正レンズL6,L7を有することにより、開口絞りSTO側の当該後正レンズL6から開口絞りSTO側の後レンズA群102A,及び像IMG側の当該後正レンズL7から像IMG側の後レンズB群102Bを備え、後レンズA群102Aが無限物体時であって、かつレンズ全系100の最も物体OBJ側に配する最先レンズLFの物体OBJ側のレンズ面(i=1)から当該後レンズA群102Aの出射後における近軸像位置までの長さの絶対値が最も大きくなる際に、物体距離を無限遠とし、かつ全系のFナンバーをFNO,前レンズ群101の光軸長をLF1,後レンズ群102の光軸長をLF2,後レンズA群102Aの光軸長をTL2A,後レンズB群102Bの光軸長をTL2Bとしたとき、条件式[4]-[7]を満たすように設定することが望ましいが、必須の構成要件となるものではない。
【0107】
また、レンズ全系100において、3枚以上の前正レンズLF…及び2枚以上の後正レンズL6…を含むとともに、全ての正レンズLF…,L6…において、d線の屈折率が1.75以上となる硝材を用いた正レンズを2枚以上含み、かつ平均アッベ数を38.0以上とし、レンズ全系100における全ての正レンズLF…,L6…の焦点距離の絶対値を、レンズ全系100における最大の焦点距離を有する負レンズの当該焦点距離の絶対値の80〔%〕よりも大きく設定すること,全ての正レンズLF…,L6…において、d線の屈折率が1.85以上となる硝材を用いた正レンズを少なくとも1枚含ませること,前レンズ群101を、異常部分分散値dPgfの絶対値が0.02以上となる低屈折率低分散硝材を用いた少なくとも1枚のレンズを含ませること,後レンズ群102を、最も開口絞りSTO側に配した両凹レンズL5とこの両凹レンズL5の像IMG側に配した後正レンズL6による接合レンズJaを備え、当該両凹レンズL5を、異常部分分散値dPgfの絶対値が0.02以上となる硝材を用いて形成するとともに、当該後正レンズL6を、d線の屈折率が1.75以上となる高屈折ガラスを用いること,の各構成により実施することが望ましいが、いずれも必須の構成要件となるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係る大口径撮像レンズは、デジタルカメラやビデオカメラ等の各種光学機器における専用レンズ或いは交換レンズ等に利用できる。
【符号の説明】
【0109】
1:大口径撮像レンズ,100:レンズ全系,101:前レンズ群,102:後レンズ群,102A:後レンズA群,102B:後レンズB群,STO:開口絞り,OBJ:物体,IMG:像,LF:前正レンズ,L2:前正レンズ,L3:前正レンズ,L4:前負レンズ,L5:両凹レンズ,L6:後正レンズ(両凸レンズ),L7:後正レンズ(両凸レンズ),LE:最終レンズ,(i=1,2,3,4,5,6,7,8):レンズ面,Dc:光軸,AFL:全系焦点距離,TLL:レンズ全系の光軸長,TLi:最も物体側のレンズ面から像までの光軸長,IMD:最終レンズの像側のレンズ面から像までの光軸長,FNO:Fナンバー,LF1:前レンズ群の光軸長,LF2:後レンズ群の光軸長,TL2A:後レンズA群の光軸長,TL2B:後レンズB群の光軸長,Ja:接合レンズ,dPgf:異常部分分散値,SR1:曲率半径,TLS:開口絞りの空間間隔,FLE:最終レンズの焦点距離,Sf:空気空間,Sr:空気空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12