(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129649
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
B60W 30/045 20120101AFI20220830BHJP
B60L 15/20 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
B60W30/045
B60L15/20 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028408
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】平田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】中野 勇大
【テーマコード(参考)】
3D241
5H125
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BC04
3D241BC05
3D241CA09
3D241CC03
3D241CC18
3D241CD12
3D241DA13Z
3D241DA39Z
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3D241DB02Z
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3D241DB12Z
3D241DB13Z
3D241DB15Z
3D241DB18Z
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA07
5H125BA09
5H125CA12
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両を提供する。
【解決手段】車両運動制御装置17は、ロールモーメントおよびヨーモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両に搭載される。車両運動制御装置17は、旋回中の車両におけるロール運動とヨー運動が連動するように、アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器22と、ロールモーメント指令値を用いてヨーモーメント指令値を演算するヨーモーメント演算器23と、アクチュエータ制御手段24とを備える。アクチュエータ制御手段24は、演算されたロールモーメント指令値およびヨーモーメント指令値によってアクチュエータを制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールモーメントおよびヨーモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両に搭載される車両運動制御装置であって、
旋回中の前記車両におけるロール運動とヨー運動が連動するように、前記アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を、少なくとも前記車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器と、
このロールモーメント演算器で演算されたロールモーメント指令値を用いてヨーモーメント指令値を演算するヨーモーメント演算器と、
演算されたロールモーメント指令値およびヨーモーメント指令値によって前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段と、を備えた車両運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメント演算器は、前記アクチュエータで前記車両に発生させるロールモーメントによって生じるロール角加速度変化を前記ロールモーメント指令値から推定したロール角加速度変化推定値を出力するロール角加速度変化推定部と、このロール角加速度変化推定部で推定されたロール角加速度変化推定値から演算した前記ヨーモーメント指令値を出力するヨーモーメント指令値演算部と、を有する車両運動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメント指令値演算部は、ロールモーメント指令値の大きさが第1の閾値以下のとき、ヨーモーメント指令値の制御ゲインをロールモーメント指令値の大きさに応じて小さくする車両運動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメント指令値演算部は、ロールモーメント指令値の大きさが第2の閾値以下のとき、ヨーモーメント指令値を零とする車両運動制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメントを発生させるアクチュエータが、タイヤに発生させる前後力によってヨーモーメントを発生させるアクチュエータであり、
前記アクチュエータ制御手段は、ヨーモーメント指令値から演算される前後力指令値の大きさにおける、右前輪と右後輪の比または左前輪と左後輪の比が、アンチスクワット角の正接とアンチダイブ角の正接の比に等しくなるように前記アクチュエータを制御する車両運動制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメントを発生させるアクチュエータが、タイヤに発生させる前後力によってヨーモーメントを発生させるアクチュエータであり、
前記アクチュエータ制御手段は、ヨーモーメント指令値から演算される前後力指令値につき、右前輪と左前輪または右後輪と左後輪の前後力指令値の大きさが等しく符号が異なるように前記アクチュエータを制御する車両運動制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の車両運動制御装置と前記アクチュエータとを備えた車両運動制御システム。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の車両運動制御装置を搭載した車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回中の車両におけるロール運動を制御する車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
旋回中の車両におけるロールを制御することで、車両の乗り心地および運転のし易さを向上させる技術として、例えば、特許文献1、2がある。
特許文献1は、サスペンションのダンパの減衰力を変更することで、横加速度によって生じるロール角、または前後加速度によって生じるピッチ角を制御する技術である。横加速度の微分値または前後加速度の微分値に基づいてダンパの減衰力を変更することで、ロール角制御またはピッチ角制御の応答性を高めている。
特許文献2は、アクティブスタビライザや減衰力を変更可能なダンパを備えた車両においてロール角を制御する技術である。検出した車速と操舵角から車体に発生しているロール角を推定し、目標となるロール角との偏差に基づいてサスペンションの減衰特性、またはばね特性を変更することで、横加速度に応じて発生するロールを抑制し、横加速度の発生とロールの発生との時間差を小さくする、または一定に保つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-069527号公報
【特許文献2】特開2007-106257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、運転者がステアリングを操作してから車両にヨーレートが発生するタイミングと、横加速度が発生するタイミングは、車速によって変化する。例えば低速走行時、運転者のステアリング操作に対して車両に横加速度が発生した後、僅かに遅れてヨーレートが発生する。ロールは、ばね上の慣性モーメントおよびサスペンションの減衰力の影響で横加速度に対して発生が遅れるため、ヨーレートより遅れて発生する。高速走行時は、運転者のステアリング操作に対して車両にヨーレートが発生した後、遅れて横加速度が発生する。ロールは、ばね上の慣性モーメントおよびサスペンションの減衰力の影響で横加速度に対してさらに遅れて発生する。
【0005】
特許文献1、2は、旋回時の車両に生じる横加速度に対してロールの発生量や発生までの時間差を制御しているが、ヨーレートは考慮していないため、ロールの発生タイミングは横加速度に依存している。すなわち、車両の回転運動である、ヨー運動とロール運動は別々のタイミングで発生することになる。運転者はヨーとロールを別々の運動として感じることになるため、車両の動きに一体感を得ることができない。
【0006】
本発明の目的は、旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両運動制御装置17は、ロールモーメントおよびヨーモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両1に搭載される車両運動制御装置であって、
旋回中の前記車両1におけるロール運動とヨー運動が連動するように、前記アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を演算するロールモーメント演算器22と、
このロールモーメント演算器22で演算されたロールモーメント指令値を用いてヨーモーメント指令値を、少なくとも前記車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するヨーモーメント演算器23と、
演算されたロールモーメント指令値およびヨーモーメント指令値によって前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段24と、を備えた。
【0008】
この構成によると、ロールモーメント演算器22は、出力するロールモーメント指令値を、車両1の横滑り角速度と車速に基づいて演算するため、ロールモーメント指令値を容易に演算し得る。例えば、横滑り角速度と車速とロールモーメント指令値との関係を定めた演算式またはマップ等を設定しておき、設定内容に従ってロールモーメント指令値を演算すればよい。ヨーモーメント演算器23は、演算されたロールモーメント指令値を用いてヨーモーメント指令値を演算する。アクチュエータ制御手段24は、前記のように演算されたロールモーメント指令値およびヨーモーメント指令値によってアクチュエータを制御する。
したがって、車両1にロールモーメントを発生させ、さらにロールモーメントに基づくヨーモーメントを車両1に発生させることにより、車両1の平面運動の変化を抑制しつつ車両1のロール運動をヨー運動に連動させることができる。このため、旋回時の車両1において、運転者は車両1の動きに一体感を得ることができる。
【0009】
前記ヨーモーメント演算器23は、前記アクチュエータで前記車両1に発生させるロールモーメントによって生じるロール角加速度変化に相当する前記ロールモーメント指令値から推定したロール角加速度変化推定値を出力するロール角加速度変化推定部23aと、このロール角加速度変化推定部23aで推定されたロール角加速度変化推定値から演算した前記ヨーモーメント指令値を出力するヨーモーメント指令値演算部23bと、を有してもよい。このようにロール角加速度変化推定値からヨーモーメント指令値を演算することで、車両1の平面運動の変化をより確実に抑制することができる。
【0010】
前記ヨーモーメント指令値演算部23は、ロールモーメント指令値の大きさが第1の閾値以下のとき、ヨーモーメント指令値の制御ゲインをロールモーメント指令値の大きさに応じて小さくしてもよい。
前記第1の閾値は、設計等によって任意に定める値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な値を求めて定められる。
ロールモーメント指令値が小さいときは、ロールモーメントによる車両1の平面運動の変化も小さい。このため、ロールモーメント指令値の大きさが第1の閾値以下のときは、ヨーモーメント指令値の制御ゲインを小さくする、換言すれば、ヨーモーメント指令値を小さくすることで、アクチュエータでヨーモーメントを発生する際のエネルギー消費を抑えることができる。
【0011】
前記ヨーモーメント指令値演算部23は、ロールモーメント指令値の大きさが第2の閾値以下のとき、ヨーモーメント指令値を零としてもよい。
前記第2の閾値は、設計等によって任意に定める値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な値を求めて定められる。
このため、ロールモーメント指令値の大きさが第2の閾値以下のときは、ヨーモーメント指令値を零にすることで、アクチュエータでヨーモーメントを発生する際のエネルギー消費を格段に抑えることができる。
【0012】
前記ヨーモーメントを発生させるアクチュエータが、タイヤに発生させる前後力によってヨーモーメントを発生させるアクチュエータであり、
前記アクチュエータ制御手段24は、ヨーモーメント指令値から演算される前後力指令値の大きさにおける、右前輪2fと右後輪2rの比または左前輪2fと左後輪2rの比が、アンチスクワット角の正接とアンチダイブ角の正接の比に等しくなるように前記アクチュエータを制御してもよい。
前記アンチスクワット角は、後輪のサスペンションのリンク配置が有する仮想的な角度である。
前記アンチダイブ角は、前輪のサスペンションのリンク配置が有する仮想的な角度である。
【0013】
サスペンションのリンク配置が仮想的なアンチダイブ角または仮想的なアンチスクワット角を有する場合、アクチュエータによりタイヤに発生する前後力がサスペンションを介すことで上下力が車体1Aに作用する。この上下力はロール運動およびピッチ運動に影響を及ぼす。そこで、右前輪2fと右後輪2rの比または左前輪2fと左後輪2rの比が、アンチスクワット角の正接とアンチダイブ角の正接の比に等しくなるようにすることで、前後力により生じる上下力を左右それぞれの前後輪の間で打ち消すことができる。
【0014】
前記ヨーモーメントを発生させるアクチュエータが、タイヤに発生させる前後力によってヨーモーメントを発生させるアクチュエータであり、
前記アクチュエータ制御手段24は、ヨーモーメント指令値から演算される前後力指令値につき、右前輪2fと左前輪2fまたは右後輪2rと左後輪2rの前後力指令値の大きさが等しく符号が異なるように前記アクチュエータを制御してもよい。この場合、前後それぞれの左右輪の間で前後力の大きさを等しくし且つ異符号とすることで、前後力により生じる上下力を打ち消すことができる。これにより意図せぬピッチ運動の発生を抑制し得る。
【0015】
本発明の車両運動制御システムは、本発明のいずれかの車両運動制御装置17と前記アクチュエータとを備えている。この場合、本発明の車両運動制御装置17につき前述した各効果が得られる。また、旋回時の車両1に所望のロールモーメントを発生させ、さらにロールモーメントに基づく所望のヨーモーメントを車両1に発生させる高精度のアクチュエータを提供することが可能となる。
【0016】
本発明の車両1は、本発明のいずれかの車両運動制御装置17を搭載している。この場合、本発明の車両運動制御装置17につき前述した各効果が得られる。また、車両1に既存のアクチュエータを車両運動制御装置17で制御する場合、車両1に新たなアクチュエータを追加する場合と比べてコスト低減を図れる。したがって、車両運動制御装置17の汎用性を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両運動制御装置は、ロールモーメントおよびヨーモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両に搭載される車両運動制御装置であって、旋回中の前記車両におけるロール運動とヨー運動が連動するように、前記アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を演算するロールモーメント演算器と、このロールモーメント演算器で演算されたロールモーメント指令値を用いてヨーモーメント指令値を演算するヨーモーメント演算器と、を備え、前記ロールモーメント演算器は、出力する前記ロールモーメント指令値を、少なくとも前記車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算し、演算されたロールモーメント指令値およびヨーモーメント指令値によって前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段を備えている。このため、旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる。
【0018】
本発明の車両運動制御システムは、本発明の上記いずれかの構成の車両運動制御装置と前記アクチュエータとを備えたため、旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる。
【0019】
本発明の車両は、本発明の上記いずれかの構成の車両運動制御装置を搭載したため、旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る車両運動制御装置を備えた車両の概念構成を示すブロック図である。
【
図2】同車両運動制御装置の概念構成を示すブロック図である。
【
図3】同車両運動制御装置の非動作時と動作時における各値の変化を示す図である。
【
図4】同
図3のロールモーメントを発生させたときのロール角加速度変化推定値とヨーモーメント指令値の変化を示す図である。
【
図5A】車両に生じる上下力を車両前方から見て示す作用説明図である。
【
図5B】車両に生じる上下力を車両後方から見て示す作用説明図である。
【
図5C】車両に生じる上下力を車両側方から見て示す作用説明図である。
【
図6】ロールモーメント指令値と制御ゲインとの関係を示す図である。
【
図7】ヨーモーメント指令値と前後力指令値との関係を概念的に示す図である。
【
図8】車両に生じる上下力と前後力との関係を概念的に示す図である。
【
図9】同
図4のヨーモーメント指令値について、前後力指令値を出力した例を示す図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係る車両運動制御装置を備えた車両の概念構成を示すブロック図である。
【
図11】同車両運動制御装置の概念構成を示すブロック図である。
【
図12】本発明のさらに他の実施形態に係る車両運動制御装置を備えた車両の概念構成を示すブロック図である。
【
図13】同車両運動制御装置の概念構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態を
図1ないし
図9と共に説明する。
<アクチュエータ等>
図1に示すように、この実施形態の車両1は、ロールモーメントを発生可能なアクチュエータとして、左右の前後輪である四輪に後述するショックアブソーバー7を備え、ヨーモーメントを発生可能なアクチュエータとして、四輪にインホイールモータ3を備えている。車両1は、車体1Aに、左右の前輪2fとなる車輪2、および左右の後輪2rとなる車輪2をそれぞれ支持する前後のサスペンション装置4を備えている。
【0022】
<サスペンション装置4>
前後のサスペンション装置4は、構成部材上下のサスペンションアーム4aと、ショックアブソーバー7とを有する。各車輪2を回転駆動可能なインホイールモータ3は、上下のサスペンションアーム4a等を介して車体1Aに支持されている。上下のサスペンションアーム4aは車体側端の支持点が揺動自在に支持され、これら上下のサスペンションアーム4aの揺動に応じて車輪2が上下にストロークする。
【0023】
下側のサスペンションアーム4aと車体1Aとの間には、ばねおよびダンパを含むショックアブソーバー7が設けられている。車体1Aはショックアブソーバー7により弾性的に上下動可能に支持され、且つ、車体1Aの上下方向のストロークが減衰される。ショックアブソーバー7としては、車両1の走行時に、例えば、油圧、空気圧または電気モータ等の駆動源により減衰力を任意に変更可能なアクティブサスペンションが適用される。
左右の前輪2fのサスペンションアーム4aは、例えば、トーションバー等からなるスタビライザ部材Sbで互いに連結されている。左右の後輪2rのサスペンションアーム4aもスタビライザ部材Sbで互いに連結されている。
【0024】
<インホイールモータ3>
インホイールモータ3は、モータと、このモータの回転を減速する減速機とを有し、全体または大部分が車輪2の内部に配置されている。インホイールモータ3は、タイヤに発生させる前後力によってヨーモーメントを発生させるアクチュエータである。インホイールモータ3は、走行駆動および制動を行う駆動源であるが、四輪の制駆動力の関係を制御することで、車両1にヨーモーメントを発生させ得る。
インホイールモータ3は、運転者の操作に従い、車両1の基本動作を制御するメインのECU9を介して制御される。メインのECUはVCU(車両制御ユニット:Vehicle Control Unit)とも称され、コンピュータ等からなる。なおインホイールモータ3は、前記減速機が省略された所謂ダイレクトモータであってもよい。
【0025】
<センサ類>
車両1には、センサ類として、アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12、車速センサ13、操舵角センサ14、ヨーレートセンサ15および加速度センサ16が設けられている。アクセルペダルセンサ11は運転者のアクセルペダル操作を検出し、ブレーキペダルセンサ12はブレーキペダル操作を検出する。車速センサ13は車速を検出し、操舵角センサ14は操舵角を検出し、ヨーレートセンサ15はヨーレートを検出する。加速度センサ16は、車両1の前後および左右方向の加速度を検出する。
【0026】
<制御系について>
制御系として、車両1には、前記ECU9の他に、ロール運動およびヨー運動を制御する車両運動制御装置17、ショックアブソーバー7を制御するサスペンション制御装置18、およびインホイールモータ3を制御するモータ制御装置19が設けられている。モータ制御装置19は、各インホイールモータ3をそれぞれ制御する四台のインバータ19aを有する。インバータ19aは、図示外のバッテリの直流電力をモータ駆動のための交流電力に変換する図示外のパワー回路部と、このパワー回路部を制御する図示外のドライバ回路部とを有する。
【0027】
アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12の出力は、ECU9に入力されてECU9によりアクセル指令値およびブレーキ指令値に変換され、車両運動制御装置17に入力される。車速センサ13から出力される車速もECU9を介して車両運動制御装置17に入力される。操舵角センサ14、ヨーレートセンサ15、加速度センサ16がそれぞれ出力する操舵角情報、実ヨーレート、実横加速度は、車両運動制御装置17に直接入力される。車両運動制御装置17と、ショックアブソーバー7と、インホイールモータ3とで車両運動制御システム20が構成される。
【0028】
<車両運動制御装置17>
図2に、車両運動制御装置17のブロック図を概念的に示す。車両運動制御装置17は、横滑り角速度推定器21、ロールモーメント演算器22、ヨーモーメント演算器23、およびアクチュエータ制御手段24を有する。
横滑り角速度推定器21は、入力された各値を用いて定められた規則に従い横滑り角速度を推定する。横滑り角速度は、線形モデルまたは非線形タイヤモデルを用いた車両モデルを用いて後述のように推定する。
【0029】
ロールモーメント演算器22は、旋回中の車両におけるロール運動とヨー運動が連動するように、定められた規則に従い、ショックアブソーバー7(
図1)およびインホイールモータ3(
図1)を制御するためのロールモーメント指令値を演算する。
ロールモーメント演算器22は、具体的には、横滑り角速度推定値、車速、および実ヨーレートを用いて後述する式(5)または式(6)でロールモーメントを演算し、ロールモーメント指令値としてアクチュエータ制御手段24に出力する。
アクチュエータ制御手段24は、ロールモーメント指令値に従い、車両に備えたサスペンション装置4(
図1)でロールモーメントを発生させる。
【0030】
ヨーモーメント演算器23は、ロールモーメント演算器22で演算されたロールモーメント指令値を用いてヨーモーメント指令値を演算する。ヨーモーメント演算器23は、ロール角加速度変化推定部23aと、ヨーモーメント指令値演算部23bとを有する。ロール角加速度変化推定部23aは、サスペンション装置4(
図1)で車両に発生させるロールモーメントによって生じるロール角加速度変化推定値を、前記ロールモーメント指令値から推定する。ヨーモーメント指令値演算部23bは、ロール角加速度変化推定値に基づいてヨーモーメント指令値を演算し出力する。
アクチュエータ制御手段24は、ヨーモーメント指令値に従い、車両に備えたインホイールモータ3(
図1)でヨーモーメントを発生させる。
【0031】
<横滑り角速度推定器21が出力する横滑り角速度推定値について>
横滑り角速度β「・」を直接計測するためには高価な専用計測器が必要であるが、高価な専用計測器を不要とするため、横滑り角速度推定器21は車両モデルを用いて操舵角δから横滑り角速度β「・」を推定する方法、または車載のヨーレートセンサ15で計測した実ヨーレートrから推定する方法を用いてもよい。
【0032】
車両モデルを用いて操舵角δから横滑り角速度β「・」を推定する方法は、例えば、2輪モデルを用いた場合、操舵角δに対する横滑り角速度β「・」の伝達関数は次のようになる。
【0033】
【0034】
操舵角δは、例えば、ステアリング部に設けた操舵角センサ14の出力からの演算値の他に、ステアリングラックに設けたセンサの出力である歯車等の回転角またはラック移動量等から演算した操舵角情報を用いることができる。
【0035】
ヨーレートrから横滑り角速度β「・」を推定する方法としては、以下の2輪モデルを用いて推定し得る。
車両の横方向の並進運動と鉛直軸周りの回転運動のみを記述した2輪モデルの基本式を以下に示す。座標系はx軸が車両の前後方向であり前方向が正、y軸が左右方向であり左方向が正、z軸が上下方向であり上方向が正としている。
【0036】
【0037】
式(1)に旋回時の車両に生じる車両の横滑り角速度β「・」とヨーレートrの関係が示されている。また2輪モデルにおける車両の横加速度をayとすれば、式(1)から横滑り角速度β「・」とヨーレートrの関係は式(3)になる。
【0038】
【0039】
【0040】
前記式(3)´を用いることで、車載の加速度センサ16で計測した横加速度をayとヨーレートrから横滑り角速度β「・」を計算し得る。但し、カント路では傾斜に応じて横加速度をayが変化するため、推定した横滑り角速度β「・」に誤差が生じる。また前記式は線形タイヤモデルを用いているため、タイヤ横力が飽和する条件では誤差が大きくなる。また前後加速度を伴う場合も同様に誤差が大きくなる。これらの誤差を低減する方法として、非線形タイヤモデルを用いた横滑り角速度β「・」の推定方法を適用する。
【0041】
この推定方法では、下記式に示す非線形タイヤモデルを用いる。
【0042】
【0043】
但し、Tは前輪(f)または後輪(r)を示す添え字であり、KTはタイヤのコーナリングパワー、βTは前輪または後輪位置での横滑り角、μは路面摩擦係数、WTはタイヤの垂直荷重、XTはタイヤの前後力である。
【0044】
非線形タイヤモデルの前記式(50)で計算したタイヤ横力YTから、式(51)で横滑り角速度β「・」を推定する。式(51)のヨーレートrは、車載のヨーレートセンサの計測値である実ヨーレートである。
【0045】
【0046】
式(50)の非線形タイヤモデルは、タイヤ横力YTの飽和およびタイヤの垂直荷重を考慮しているため、タイヤ横力YTの推定値の精度が向上する。したがって、式(51)を用いれば車載のヨーレートセンサで計測したヨーレートrから横滑り角速度β「・」を精度よく推定し得る。
【0047】
<ロールモーメント演算器22が出力するロールモーメント指令値について>
横滑り角速度β「・」とヨーレートrの関係式(3)は、横加速度ayが車両の横滑り角速度β「・」で生じる横加速度とヨーレートrで生じる横加速度から成ることを示している。定常旋回時は車両の横滑り角速度β「・」は零になるが、旋回の過渡状態は車両の横滑り角速度β「・」で生じる横加速度Vβ「・」だけ横加速度ayが変化することを示している。つまり、ヨーレートrに対して横加速度ayは、車両の横滑り角速度β「・」の分だけ位相が変化することになる。
【0048】
ここで車両の重心に作用した横加速度ayによって車両にロール角φが生じるとして、2輪モデルを拡張する。hsは車両重心点とロール軸間の距離、Kφはロール剛性、Cφはロール減衰係数、Iφはロール慣性モーメントとすれば、式(4)のロール角φが生じる。sはラプラス演算子である。ばね下質量は車両質量に対して十分に小さいとすることで、車両のばね上質量は車両質量mに等しいとしている。
【0049】
【0050】
式(4)は、サスペンションの減衰特性および車両のロール慣性モーメントにより横加速度ay(ロールモーメントmhsay)に対してロール角φが遅れて生じることを示している。
【0051】
上記について、具体例として高速走行時に進行中の車線から他の車線へ移る車線変更を1回行うシングルレーンチェンジを行った場合の各値の変化を
図3に示す。
図3のグラフにおける実線は、本発明の車両運動制御装置を動作させていない(車両に制御によるロールモーメントもヨーモーメントも発生させていない)場合の各値の変化を示したものである。
高速走行では、操舵に対してヨーレートrが生じるが、横加速度a
yは横滑り角速度β「・」の影響でヨーレートrよりも遅れて生じ、さらに遅れてロール角φが生じる。このヨー運動に対するロール運動の遅れは、車速が高くなるほど大きくなる。
【0052】
本実施形態の車両運動制御装置では、車両に備えたショックアブソーバー7(
図1)で式(5)に示すロールモーメントM
φを発生させることで、横滑り角速度β「・」によって生じるロールモーメントを打ち消し、ヨー運動とロール運動を連動させる。
【0053】
【0054】
またロールモーメントM
φは、式(6)のように、サスペンションの減衰等によって生じるヨー運動に対するロール運動の遅れを補償する項をさらに追加してもよい。
【数9】
【0055】
図2に示すように、車両運動制御装置17は、横滑り角速度推定器21で横滑り角速度推定値を推定し、ロールモーメント演算器22で式(5)または式(6)に従いロールモーメント指令値を演算する。
【0056】
<ヨーモーメント演算器23が出力するヨーモーメント指令値について>
図3のグラフにおける点線は、車両運動制御装置で式(6)に示したロールモーメントM
φだけを発生させたとき(ヨーモーメント指令値は零)の各値の変化を示したものである。
図3に示す「ヨーレート」は「ヨー運動」と同義であり、同
図3に示す「ロール角」は「ロール運動」と同義である。
【0057】
車両運動制御装置でロールモーメントM
φを発生させた場合、
図3のように、ロール運動がヨー運動に連動し、ロール運動とヨー運動の時間差が小さくなる。このとき車両に生じているロール角をφ´とすれば、式(7)に示すように、ロールモーメントM
φを発生させていないときのロール角φに対して、ロールモーメントM
φによってΔφのロール角変化が生じる。
φ´=φ+Δφ (7)
【0058】
また式(8)に示すように、ロール角加速度φ´「・・」もロールモーメントMφによってロール角加速度変化Δφ「・・」が生じる。
【0059】
【0060】
このロール角の変化は車両の旋回運動にも影響を及ぼす。式(1)および式(2)に示した車両運動の基礎式は、ロール運動の影響を考慮すれば式(9)および式(10)となる。Izxは慣性乗積である。
【0061】
【0062】
また前輪の横力Yfおよび後輪の横力Yrは式(11)および式(12)であり、横滑り角βによって定まる値である。Kfは前輪のコーナリングパワー、Krは後輪のコーナリングパワー、δhは操舵角、nはステアリングギア比である。
【0063】
【0064】
式(9)~式(12)の関係から、ロール角加速度変化Δφ「・・」によってヨーレートr、横加速度a
y、横滑り角βに
図3の点線のような変化が生じる。そこで、
図2に示すヨーモーメント演算器23は、ロール角加速度変化Δφ「・・」によって生じる平面運動の変化を抑えるために必要なヨーモーメントを計算し、ヨーモーメント指令値として出力する。
【0065】
ロールモーメント指令値Mφによって生じるロール角加速度変化推定値Δφ「・・」は、ロール慣性モーメントIφとロール減衰係数Cφを考慮した式(13)で計算できる。
【0066】
【0067】
図3のロールモーメントM
φを発生させたときのロール角加速度変化推定値Δφ「・・」とヨーモーメント指令値M
zのグラフを
図4に示す。
図2に示す車両運動制御装置17のヨーモーメント演算器23は、ロール角加速度変化推定部23aでロール角加速度変化推定値を推定し、ヨーモーメント指令値演算部23bでヨーモーメント指令値を演算する。アクチュエータ制御手段24は、ヨーモーメント指令値に従い、車両に備えたインホイールモータ3(
図1)でヨーモーメントM
zを発生させる。ヨーモーメントM
zを発生させたときの旋回運動の方程式は式(16)になる。
【0068】
【0069】
ヨーモーメントM
zを発生させることで、ロールモーメントM
φを発生させた際の車両の平面運動の変化が
図3のグラフの一点鎖線のように抑制されるとともに、ロール運動がヨー運動に連動する。
【0070】
<アクチュエータ制御手段24が出力する上下力指令値について>
図5A~
図5Cに示すように、アクチュエータによりサスペンションに発生させる上下力をFS
iとする。上下力FS
iは車両のばね上を支持するばねおよびダンパによって作用する。これらばねおよびダンパは、各サスペンション装置4の構成部材である。上下力FS
iにおける添え字iは四輪車のサスペンション位置を示しており、添え字i=1が左前輪、i=2が右前輪、i=3が左後輪、i=4が右後輪である。後述する前後力における添え字iについても同様である。
【0071】
説明を簡単にするため、各サスペンション装置4におけるばねとダンパは同一軸上に配置されていると仮定する。
図5A~
図5Cに示すように、前輪2
fのサスペンション装置4におけるばねとダンパの支持点の左右間距離をds
f、後輪2
rのサスペンション装置4におけるばねとダンパの支持点の左右間距離をds
rとする。
ロールモーメント指令値M
φと上下力指令値FS
iの関係は式(17)になる。
【0072】
【0073】
図2に示すように、アクチュエータ制御手段24から上下力指令値FS
iが入力されたサスペンション制御装置18は、図示しない駆動源を用いてアクティブサスペンションの上下力を制御することでロールモーメントを発生させる。前記駆動源は、油圧、空気圧、または電気モータ等を用いることができる。
【0074】
ヨーモーメント演算器23は、ロール角加速度変化推定部23aでロールモーメント指令値Mφによりロール角加速度変化推定値Δφ「・・」を式(13)または式(14)で計算する。式(14)を用いることで積分項が無くなるため、積分による誤差を無くし計算負荷を抑えることができる。
【0075】
ヨーモーメント指令値演算部23bは、ロール角加速度変化推定値Δφ「・・」に基づきヨーモーメント指令値Mzを式(15)で計算し、アクチュエータ制御手段24にヨーモーメント指令値Mzを出力する。式(15)の制御ゲインAは一定値(A=A1)としてもよいが、ヨーモーメント指令値演算部23bは、ロールモーメント指令値Mφの大きさが閾値以下のとき、ヨーモーメント指令値Mzの制御ゲインAをロールモーメント指令値Mφの大きさに応じて小さくしてもよい。
【0076】
具体的には、
図6のグラフのようにロールモーメント指令値M
φの大きさ|M
φ|
が第1の閾値M
2以下のとき、ロールモーメント指令値M
φに応じて、制御ゲインAを本来の設定値であるA
1よりも小さくしてもよい。またヨーモーメント指令値演算部23b(
図2)は、ロールモーメント指令値M
φの大きさ|M
φ|が第2の閾値M
1以下のとき、制御ゲインAを零としてヨーモーメント指令値M
zが零となるようにしてもよい。但し、M
1<M
2である。ロールモーメント指令値M
φが小さいときはロールモーメントによる平面運動の変化も小さいため、運転者は違和感を感じ難い。ロールモーメント指令値M
φが小さいときはヨーモーメント指令値M
zを小さくまたは零にすることで、アクチュエータでヨーモーメントを発生する際のエネルギー消費を抑えることができる。
【0077】
<アクチュエータ制御手段24が出力する前後力指令値について>
図2に示すように、アクチュエータ制御手段24は、ヨーモーメントを発生するインホイールモータ3(
図1)の前後力を制御するため、ヨーモーメント指令値M
zから前後力指令値FX
i(i=1~4)を計算しモータ制御装置19に出力する。
【0078】
図7に示すように、前輪2fのトレッドをd
f、後輪2rのトレッドをd
rとすれば、ヨーモーメント指令値M
zと前後力指令値FX
iの関係は式(22)になる。
【0079】
【0080】
図8に示すように、サスペンションのリンク配置が仮想的なアンチダイブ角θ
fまたはアンチスクワット角θ
rを有する場合、インホイールモータ3(
図1)が発生する前後力がサスペンションを介すことで上下力が車体1Aに作用する。この上下力はロール運動およびピッチ運動に影響を及ぼすため、アクティブサスペンションでロール運動を制御する場合、インホイールモータと協調させてロール運動を制御することは制御の難易度が高くなる。
【0081】
そこで、
図2に示すアクチュエータ制御手段24は、ヨーモーメント指令値から演算される前後力指令値の大きさにおける、右前輪と右後輪の比または左前輪と左後輪の比が、アンチスクワット角θ
rの正接とアンチダイブ角θ
fの正接の比に等しくなるようにインホイールモータ3(
図1)を制御する。つまり前後輪に配分する前後力指令値FX
iの大きさの比が、アンチスクワット角θ
rの正接であるtanθ
rとアンチダイブ角θ
fの正接であるtanθ
fの比と等しくなるようにすることで、前後力により生じる上下力を左右それぞれの前後輪の間で打ち消す。
【0082】
またインホイールモータ3(
図1)により意図せぬピッチ運動の発生を抑制するため、アクチュエータ制御手段24は、ヨーモーメント指令値から演算される前後力指令値につき、右前輪と左前輪または右後輪と左後輪の前後力指令値の大きさが等しく符号が異なるようにインホイールモータ3を制御する。つまり前記意図せぬピッチ運動の発生を抑制するため、前後力により生じる上下力を、前後それぞれの左右輪の間で前後力の大きさを等しくし且つ異符号とすることで打ち消す。2つの条件を満たす前後力指令値FX
iは式(23)~式(26)となる。
【0083】
但し、運転者はアクセルペダルおよびブレーキペダルを操作し車両の前後加速度を操作するため、車両運動制御装置17は、式(23)~式(26)で計算したFX
iに対し、アクセル指令値およびブレーキ指令値に応じた前後力を加算した前後力指令値として出力する。モータ制御装置19は、車両運動制御装置17のアクチュエータ制御手段24が出力した前後力指令値に従ってインホイールモータ3(
図1)のモータトルクを制御する。
【0084】
【0085】
式(23)~式(26)の前後力指令値FX
iとなる前後力をインホイールモータ3(
図1)で発生することで、ロール運動およびピッチ運動に与える影響を抑え、かつヨーモーメントを発生することができる。これにより運動毎に制御するアクチュエータを分けることができる。この場合、一つの運動を複数のアクチュエータを協調させて制御する必要がなくなるため、計算量が抑制でき、制御の応答性向上およびハードウェアのコストダウンが可能になる。
図4に示したヨーモーメント指令値M
zについて、前後力指令値FX
iを式(23)~式(26)に従い出力した例を
図9に示す。
【0086】
<作用効果>
図1に示す本実施形態のようにショックアブソーバー7であるアクティブサスペンションで車両1にロールモーメントM
φを発生させ、さらにロールモーメントM
φに基づいて演算されるヨーモーメントM
zをインホイールモータ3で車両に発生させる。これにより、車両1の平面運動の変化を抑制しつつ車両1のロール運動をヨー運動に連動させることができるため、運転者は車両1の動きに一体感を得ることができる。
【0087】
本車両運動制御装置17によれば、ヨーモーメントMzをロールモーメントMφに基づいて演算し、車載されたセンサ情報から取得した車両挙動に基づいて演算していない。フィードフォワード制御としてヨーモーメントを発生させるため、路面または風などの外乱およびセンサのノイズ等の影響を受けることがなく安定した制御ができる。またフィードバック制御に比べ、制御の応答遅れを抑えることができる。
【0088】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0089】
ロールモーメントを発生させるアクチュエータとして、前記アクティブサスペンションに代えて、ロール剛性可変機構となるアクティブスタビライザ等の車体の上下力を発生可能なアクチュエータを使用し得る。前記アクティブスタビライザは、前輪と後輪に対してそれぞれ設けられる。各アクティブスタビライザは、トーションバー等からなる左右のスタビライザ部材と、これら左右のスタビライザ部材を相互に回転可能に結合するスタビライザーアクチュエータ部とを有する。
【0090】
前記スタビライザーアクチュエータ部が左右のスタビライザ部材を相互に回転させることで、アクティブスタビライザの全体の弾性力を変化させて車両のロール剛性を制御する。前記スタビライザーアクチュエータ部は、例えば、駆動源である電動モータと、この電動モータの出力を減速する減速機とを備えて出力軸が低速回転するロータリアクチュエータである。
【0091】
ヨーモーメントの発生には、前記インホイールモータの前後力(制駆動力)に代えて、エンジンまたはオンボードタイプの電気モータの制駆動力、摩擦ブレーキの制動力、それらを組合せて使用することもできる。
【0092】
[第2の実施形態]
図10は、前後輪にオンボードタイプの駆動モータ3Aを備え、四輪に摩擦ブレーキBkを備えた車両の例である。
図11は、
図10の車両運動制御装置のブロック図である。各車輪2は車輪用軸受を介してナックル25に支持されている。駆動モータ3Aの駆動力は、それぞれドライブシャフト26を介して前後輪に伝達される。
車両運動制御装置17のアクチュエータ制御手段24は、ロールモーメントを発生するためにサスペンション制御装置18に上下力指令値を出力する。サスペンション制御装置18は、図示外の駆動源を用いてアクティブサスペンションの上下力を制御することでロールモーメントを発生させる。
【0093】
前記アクチュエータ制御手段24は、ヨーモーメントを発生するため、駆動側の前後力指令値として駆動力指令値をモータ制御装置19に出力し、制動側の前後力指令値として制動力指令値をブレーキ制御装置27に出力する。モータ制御装置19は、アクチュエータ制御手段24が出力した駆動力指令値に従って駆動モータ3Aのモータトルクを制御する。ブレーキ制御装置27はアクチュエータ制御手段24が出力した制動力指令値に従って摩擦ブレーキBkを制御する。
第2の実施形態においても、前述の第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0094】
[第3の実施形態]
図12は、四輪にインホイールモータ3を備え、ロール運動の制御にインホイールモータ3の前後力を用いた例である。つまりこの車両1は、ロールモーメントおよびヨーモーメントを発生させるアクチュエータとして、四輪にインホイールモータ3を備えている。
図8に示したように、サスペンションのリンク配置が仮想的なアンチダイブ角θ
fまたはアンチスクワット角θ
rを有する場合、インホイールモータまたはブレーキ等の前後力によって車体に上下力が生じる。この上下力をロール運動の制御に用いる。
【0095】
図12の実施形態は、第1の実施形態(
図3)に対してアクティブサスペンションおよびサスペンション制御装置が無い点で異なっている。
図13は、
図12の車両運動制御装置17のブロック図である。この車両運動制御装置17でロールモーメントM
φとヨーモーメントM
zを発生させる場合の前後力指令値FX
i(i=1~4)は、式(27)から式(30)になる。モータ制御装置19は、アクチュエータ制御手段24が出力した前後力指令値に従ってインホイールモータ3のモータトルクを制御する。
【0096】
【0097】
ロールモーメントの発生には、インホイールモータの制動力の代わりに、摩擦ブレーキの制動力を使用することができる。また、アンチダイブ角θfおよびアンチスクワット角θrは小さくなるが、エンジンまたはオンボードタイプの電気モータの制駆動力を使用することができる。また、それらを組合せてもよい。
【0098】
各実施形態では、運転者によるアクセルペダル、ブレーキペダルの操作に応じたアクセル指令値およびブレーキ指令値を車両運動制御装置に入力しているが、例えば自動運転車両のように車両の状態および各種センサ等の情報から、運転者の操作に依ることなく自動的にアクセル指令値およびブレーキ指令値を計算することも可能である。
【0099】
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
1…車両、3…インホイールモータ(アクチュエータ)、7…ショックアブソーバー(アクチュエータ)、17…車両運動制御装置、20…車両運動制御システム、22…ロールモーメント演算器、23…ヨーモーメント演算器、23a…ロール角加速度変化推定部、23b…ヨーモーメント指令値演算部、24…アクチュエータ制御手段