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特開2022-129650車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129650
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/045 20120101AFI20220830BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20220830BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20220830BHJP
   B60W 10/22 20060101ALI20220830BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20220830BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220830BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20220830BHJP
   B60G 17/0195 20060101ALI20220830BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20220830BHJP
   B60L 15/20 20060101ALN20220830BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20220830BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20220830BHJP
   B62D 111/00 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
B60W30/045
B60W10/00 150
B60W10/20
B60W10/22
B60W10/00 134
B60W10/08
B60G17/015 A ZYW
B60G17/0195
B62D6/00
B60L15/20 S
B62D101:00
B62D113:00
B62D111:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028409
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】平田 淳一
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
3D301
5H125
【Fターム(参考)】
3D232CC14
3D232CC15
3D232DA03
3D232DA23
3D232DA29
3D232DA33
3D232DA92
3D232DA93
3D232DD02
3D232DE02
3D232EA04
3D232EB04
3D232EC22
3D232FF03
3D232GG01
3D241AA40
3D241AC01
3D241AD50
3D241AD51
3D241AE02
3D241BA18
3D241BC04
3D241BC05
3D241CA09
3D241CC03
3D241CC17
3D241CC18
3D241DA13Z
3D241DA39Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB09Z
3D241DB12Z
3D241DB15Z
3D241DB18Z
3D301AA04
3D301DA38
3D301EA14
3D301EA35
3D301EA36
3D301EA43
3D301EA49
3D301EA52
3D301EB13
3D301EC01
3D301EC06
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA07
5H125CA12
5H125CA13
5H125DD15
5H125EE41
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両を提供する。
【解決手段】車両運動制御装置17は、旋回中の車両におけるロール運動とヨー運動が連動するように、アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を、横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器22と、ロールモーメント指令値によってアクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段24とを備える。さらにロールモーメント指令値に基づいて、前輪または後輪の舵角補正指令値を演算する舵角補正値演算器28と、転舵装置を制御するための舵角指令値を、舵角補正指令値で補正する舵角指令値補正器29とを備えた。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪または後輪を転舵する転舵装置、およびロールモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両に搭載される車両運動制御装置であって、
旋回中の前記車両におけるロール運動とヨー運動が連動するように、前記アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を、少なくとも前記車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器と、
前記ロールモーメント指令値によって前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段と、
前記ロールモーメント指令値に基づいて、前記前輪または後輪の舵角補正指令値を演算する舵角補正値演算器と、
前記転舵装置を制御するための舵角指令値を、前記舵角補正指令値で補正する舵角指令値補正器と、を備えた車両運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記舵角補正値演算器は、前記アクチュエータで前記車両に発生させるロールモーメントによって生じるロール角加速度変化を前記ロールモーメント指令値から推定したロール角加速度変化推定値を出力するロール角加速度変化推定部と、前記ロール角加速度変化推定値に基づいて前記前輪または後輪の舵角補正指令値を演算する舵角補正指令値演算部と、を有する車両運動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両運動制御装置において、前記ロール角加速度変化推定部は、前記アクチュエータがロールモーメントを発生させてから前記車両の車体にロール角加速度が生じるまでの位相遅れを考慮して、前記ロールモーメント指令値から前記ロール角加速度変化推定値を演算する車両運動制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の車両運動制御装置において、前記舵角補正値演算器は、前記車両を上方から見て反時計回り方向の舵角の符号を正、前記車両を後方から見て時計回り方向のロール角加速度の符号を正としたとき、前記ロール角加速度変化推定値と同符号となる前記前輪の舵角補正指令値を出力する車両運動制御装置。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、前記舵角補正値演算器は、前記車両を上方から見て反時計回り方向の舵角の符号を正、前記車両を後方から見て時計回り方向のロール角加速度の符号を正としたとき、前記ロール角加速度変化推定値と異符号となる前記後輪の舵角補正指令値を出力する車両運動制御装置。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、前記舵角補正指令値演算部は、ロールモーメント指令値の大きさが第1の閾値以下のとき、舵角補正指令値の制御ゲインをロールモーメント指令値の大きさに応じて小さくする車両運動制御装置。
【請求項7】
請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、前記舵角補正指令値演算部は、ロールモーメント指令値の大きさが第2の閾値以下のとき、舵角補正指令値を零とする車両運動制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両運動制御装置と前記転舵装置と前記アクチュエータとを備えた車両運動制御システム。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両運動制御装置を搭載した車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回中の車両におけるロール運動を制御する車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
旋回中の車両におけるロールを制御することで、車両の乗り心地および運転のし易さを向上させる技術として、例えば、特許文献1、2がある。
特許文献1は、サスペンションのダンパの減衰力を変更することで、横加速度によって生じるロール角、または前後加速度によって生じるピッチ角を制御する技術である。横加速度の微分値または前後加速度の微分値に基づいてダンパの減衰力を変更することで、ロール角制御またはピッチ角制御の応答性を高めている。
特許文献2は、アクティブスタビライザや減衰力を変更可能なダンパを備えた車両においてロール角を制御する技術である。検出した車速と操舵角から車体に発生しているロール角を推定し、目標となるロール角との偏差に基づいてサスペンションの減衰特性、またはばね特性を変更することで、横加速度に応じて発生するロールを抑制し、横加速度の発生とロールの発生との時間差を小さくする、または一定に保つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-069527号公報
【特許文献2】特開2007-106257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、運転者がステアリングを操作してから車両にヨーレートが発生するタイミングと、横加速度が発生するタイミングは、車速によって変化する。例えば低速走行時、運転者のステアリング操作に対して車両に横加速度が発生した後、僅かに遅れてヨーレートが発生する。ロールは、ばね上の慣性モーメントおよびサスペンションの減衰力の影響で横加速度に対して発生が遅れるため、ヨーレートより遅れて発生する。高速走行時は、運転者のステアリング操作に対して車両にヨーレートが発生した後、遅れて横加速度が発生する。ロールは、ばね上の慣性モーメントおよびサスペンションの減衰力の影響で横加速度に対してさらに遅れて発生する。
【0005】
特許文献1、2は、旋回時の車両に生じる横加速度に対してロールの発生量や発生までの時間差を制御しているが、ヨーレートは考慮していないため、ロールの発生タイミングは横加速度に依存している。すなわち、車両の回転運動である、ヨー運動とロール運動は別々のタイミングで発生することになる。運転者はヨーとロールを別々の運動として感じることになるため、車両の動きに一体感を得ることができない。
【0006】
本発明の目的は、旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両運動制御装置17は、前輪または後輪を転舵する転舵装置SE、およびロールモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両1に搭載される車両運動制御装置であって、
旋回中の前記車両1におけるロール運動とヨー運動が連動するように、前記アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を、少なくとも前記車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器22と、
前記ロールモーメント指令値によって前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段24と、
前記ロールモーメント指令値に基づいて、前記前輪または後輪の舵角補正指令値を演算する舵角補正値演算器28と、
前記転舵装置SEを制御するための舵角指令値を、前記舵角補正指令値で補正する舵角指令値補正器29と、を備えた。
【0008】
この構成によると、ロールモーメント演算器22は、出力するロールモーメント指令値を、車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するため、ロールモーメント指令値を容易に演算し得る。例えば、横滑り角速度と車速とロールモーメント指令値との関係を定めた演算式またはマップ等を設定しておき、設定内容に従ってロールモーメント指令値を演算すればよい。
舵角補正値演算器28は、演算されたロールモーメント指令値に基づいて、前輪または後輪の舵角補正指令値を演算する。この舵角補正指令値により補正した舵角指令値で転舵装置SEを制御する。
したがって、車両1にロールモーメントを発生させ、さらに前記ロールモーメントに基づいて演算される前輪または後輪の舵角補正指令値で舵角指令値を補正し転舵装置SEを制御することで、ロールモーメントを発生させた際に生じる車両1の平面運動の変化が抑制されると共に、車両1のロール運動がヨー運動に連動する。このため、旋回時の車両1において、運転者は車両1の動きに一体感を得ることができる。
【0009】
前記舵角補正値演算器28は、前記アクチュエータで前記車両1に発生させるロールモーメントによって生じるロール角加速度変化に相当する前記ロールモーメント指令値から推定したロール角加速度変化推定値を出力するロール角加速度変化推定部28aと、前記ロール角加速度変化推定値に基づいて前記前輪または後輪の舵角補正指令値を演算する舵角補正指令値演算部28bと、を有してもよい。このようにロール角加速度変化推定値から前輪または後輪の舵角補正指令値を演算することで、精度よく舵角補正指令値を求めることで、車両1の平面運動の変化をより確実に抑制することができる。
【0010】
前記ロール角加速度変化推定部28aは、前記アクチュエータがロールモーメントを発生させてから前記車両1の車体1Aにロール角加速度が生じるまでの位相遅れを考慮して、前記ロールモーメント指令値から前記ロール角加速度変化推定値を演算してもよい。この場合、舵角補正指令値をより高精度に演算し得る。
【0011】
前記舵角補正値演算器28は、前記車両1を上方から見て反時計回り方向の舵角の符号を正、前記車両1を後方から見て時計回り方向のロール角加速度の符号を正としたとき、前記ロール角加速度変化推定値と同符号となる前記前輪の舵角補正指令値を出力してもよい。この場合、前輪の舵角を補正することとロールモーメントを発生させたことで生じる車両1の平面運動の変化を抑制し、車両1の平面運動の改善を図れる。前輪の舵角のみを補正する場合、後輪の転舵装置を車両1に搭載する必要がなく、コストの増加を抑えることができる。
【0012】
前記舵角補正値演算器28は、前記車両1を上方から見て反時計回り方向の舵角の符号を正、前記車両1を後方から見て時計回り方向のロール角加速度の符号を正としたとき、前記ロール角加速度変化推定値と異符号となる前記後輪の舵角補正指令値を出力してもよい。この場合、後輪の舵角を補正することとロールモーメントを発生させたことで生じる車両1の平面運動の変化を抑制し、車両1の平面運動の改善を図れる。
前輪の舵角指令値を補正する場合、前輪の横力も変化することでステアリング反力が変化し、運転者に違和感を与える可能性がある。後輪の舵角のみを補正した場合は、ステアリング反力の変化を抑えることができる。このため、運転者に違和感を与えることなく平面運動を改善することができる。
【0013】
前記舵角補正指令値演算部28bは、ロールモーメント指令値の大きさが第1の閾値以下のとき、舵角補正指令値の制御ゲインをロールモーメント指令値の大きさに応じて小さくしてもよい。
前記第1の閾値は、設計等によって任意に定める値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な値を求めて定められる。
ロールモーメント指令値が小さいときは、ロールモーメントによる車両1の平面運動の変化も小さい。このため、ロールモーメント指令値の大きさが第1の閾値以下のときは、舵角補正指令値の制御ゲインを小さくする、換言すれば、舵角補正指令値を小さくすることで、転舵装置SEのエネルギー消費や舵角の変化によって運転者に与える違和感を抑えることができる。
【0014】
前記舵角補正指令値演算部28bは、ロールモーメント指令値の大きさが第2の閾値以下のとき、舵角補正指令値を零としてもよい。
前記第2の閾値は、設計等によって任意に定める値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な値を求めて定められる。
このため、ロールモーメント指令値の大きさが第2の閾値以下のとき、舵角補正指令値を零にすることで、転舵装置SEのエネルギー消費を格段に抑え、舵角の変化によって運転者に与える違和感を無くすことができる。
【0015】
本発明の車両運動制御システムは、本発明のいずれかの車両運動制御装置と前記転舵装置と前記アクチュエータとを備えている。この場合、本発明の車両運動制御装置につき前述した各効果が得られる。また、旋回時の車両に所望のロールモーメントを発生させ、さらにロールモーメントに基づき補正された舵角を発生させる高精度の転舵装置を提供することが可能となる。
【0016】
本発明の車両1は、本発明のいずれかの車両運動制御装置17を搭載している。この場合、本発明の車両運動制御装置につき前述した各効果が得られる。また、車両1に既存の転舵装置およびアクチュエータを車両運動制御装置で制御する場合、車両1に新たな転舵装置およびアクチュエータを追加する場合と比べてコスト低減を図れる。したがって、車両運動制御装置の汎用性を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両運動制御装置は、前輪または後輪を転舵する転舵装置、およびロールモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両に搭載される車両運動制御装置であって、旋回中の前記車両におけるロール運動とヨー運動が連動するように、前記アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を、少なくとも前記車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器と、前記ロールモーメント指令値によって前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段と、前記ロールモーメント指令値に基づいて、前記前輪または後輪の舵角補正指令値を演算する舵角補正値演算器と、前記転舵装置を制御するための舵角指令値を、前記舵角補正指令値で補正する舵角指令値補正器と、を備えた。このため、旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる。
【0018】
本発明の車両運動制御システムは、本発明の上記いずれかの構成の車両運動制御装置と前記転舵装置と前記アクチュエータとを備えたため、旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる。
【0019】
本発明の車両は、本発明の上記いずれかの構成の車両運動制御装置を搭載したため、旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る車両運動制御装置を備えた車両の概念構成を示すブロック図である。
図2】同車両運動制御装置の概念構成を示すブロック図である。
図3】同車両運動制御装置の非動作時と動作時における各値の変化を示す図である。
図4】同図3のロールモーメントを発生させたときのロール角加速度変化推定値と前後輪の舵角補正指令値および補正後舵角指令値の変化を示す図である。
図5A】車両に生じる上下力を車両前方から見て示す作用説明図である。
図5B】車両に生じる上下力を車両後方から見て示す作用説明図である。
図5C】車両に生じる上下力を車両側方から見て示す作用説明図である。
図6】ロールモーメント指令値と制御ゲインとの関係を示す図である。
図7】同車両運動制御装置で前後輪の舵角指令値を補正した場合の車両挙動の例を示す図である。
図8】同図7に示す左旋回中の前後輪の舵角指令値および舵角補正指令値の関係を示す図である。
図9】同車両運動制御装置で前輪の舵角指令値を補正した場合と補正しない場合の車両挙動の例を示す図である。
図10】同車両運動制御装置で後輪の舵角指令値を補正した場合と補正しない場合の車両挙動の例を示す図である。
図11】本発明の他の実施形態に係る車両運動制御装置を備えた車両の概念構成を示すブロック図である。
図12】同車両運動制御装置の概念構成を示すブロック図である。
図13】同車両に生じる上下力と前後力との関係を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態を図1ないし図10と共に説明する。
<アクチュエータ等>
図1に示すように、この実施形態の車両1は、ロールモーメントを発生可能なアクチュエータとして、左右の前後輪である四輪に後述するショックアブソーバー7を備えている。また、前輪および後輪を転舵する転舵装置SEを車両1の前後に備えている。車両1は、車体1Aに、左右の前輪2fとなる車輪2、および左右の後輪2rとなる車輪2をそれぞれ支持する前後のサスペンション装置4を備えている。
【0022】
<サスペンション装置4>
前後のサスペンション装置4は、構成部材上下のサスペンションアーム4aと、ショックアブソーバー7とを有する。各車輪2は車輪用軸受を介してナックル25に支持されている。ナックル25は、上下のサスペンションアーム4a等を介して車体1Aに支持されている。上下のサスペンションアーム4aは車体側端の支持点が揺動自在に支持され、これら上下のサスペンションアーム4aの揺動に応じて車輪2が上下にストロークする。
【0023】
下側のサスペンションアーム4aと車体1Aとの間には、ばねおよびダンパを含むショックアブソーバー7が設けられている。車体1Aはショックアブソーバー7により弾性的に上下動可能に支持され、且つ、車体1Aの上下方向のストロークが減衰される。ショックアブソーバー7としては、車両1の走行時に、例えば、油圧、空気圧または電気モータ等の駆動源により減衰力を任意に変更可能なアクティブサスペンションが適用される。
左右の前輪2fのサスペンションアーム4aは、例えば、トーションバー等からなるスタビライザ部材Sbで互いに連結されている。左右の後輪2rのサスペンションアーム4aもスタビライザ部材Sbで互いに連結されている。
【0024】
<転舵装置SE>
各転舵装置SEは、車体1Aに取り付けられ、運転者のハンドルの操作、または図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によってタイロッドTrが進退し、このタイロッドTrに連結されたナックル25が車輪2と共に転舵するようになっている。
【0025】
<センサ類>
車両1には、センサ類として、アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12、車速センサ13、操舵角センサ14、ヨーレートセンサ15および加速度センサ16が設けられている。アクセルペダルセンサ11は運転者のアクセルペダル操作を検出し、ブレーキペダルセンサ12はブレーキペダル操作を検出する。車速センサ13は車速を検出し、操舵角センサ14は操舵角を検出し、ヨーレートセンサ15はヨーレートを検出する。加速度センサ16は、車両1の前後および左右方向の加速度を検出する。
【0026】
<制御系について>
制御系として、車両1には、車両1の基本動作を制御するメインのECU9の他に、ロール運動およびヨー運動を制御する車両運動制御装置17、ショックアブソーバー7を制御するサスペンション制御装置18、および転舵装置SEを制御する転舵制御装置SCが設けられている。メインのECUはVCU(車両制御ユニット:Vehicle Control Unit)とも称され、コンピュータ等からなる。
【0027】
アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12の出力は、ECU9に入力されてECU9によりアクセル指令値およびブレーキ指令値に変換され、車両運動制御装置17に入力される。車速センサ13から出力される車速もECU9を介して車両運動制御装置17に入力される。ECU9は、操舵角センサ14で検出した運転者のハンドル操作に基づいて前輪および後輪の舵角指令値を演算し、車両運動制御装置17に出力する。ヨーレートセンサ15、加速度センサ16がそれぞれ出力する実ヨーレート、実横加速度は、車両運動制御装置17に直接入力される。車両運動制御装置17と、ショックアブソーバー7と、転舵装置SEとで車両運動制御システム20が構成される。
【0028】
<車両運動制御装置>
図2に、車両運動制御装置17のブロック図を概念的に示す。車両運動制御装置17は、横滑り角速度推定器21、ロールモーメント演算器22、舵角補正値演算器28、舵角指令値補正器29およびアクチュエータ制御手段24を有する。
横滑り角速度推定器21は、入力された各値を用いて定められた規則に従い横滑り角速度を推定する。横滑り角速度は、線形モデルまたは非線形タイヤモデルを用いた車両モデルを用いて後述のように推定する。
【0029】
ロールモーメント演算器22は、旋回中の車両におけるロール運動とヨー運動が連動するように、定められた規則に従い、ショックアブソーバー7(図1)を制御するためのロールモーメント指令値を演算する。
ロールモーメント演算器22は、具体的には、横滑り角速度推定値、車速、および実ヨーレートを用いて後述する式(5)または式(6)でロールモーメントを演算し、ロールモーメント指令値としてアクチュエータ制御手段24に出力する。
アクチュエータ制御手段24は、ロールモーメント指令値に従い、車両に備えたサスペンション装置4(図1)でロールモーメントを発生させる。
【0030】
舵角補正値演算器28は、ロールモーメント演算器22で演算されたロールモーメント指令値に基づいて、前輪および後輪の舵角補正指令値を演算する。舵角補正値演算器28は、ロール角加速度変化推定部28aと、舵角補正指令値演算部28bとを有する。ロール角加速度変化推定部28aは、サスペンション装置4(図1)で車両に発生させるロールモーメントによって生じるロール角加速度変化を前記ロールモーメント指令値から推定し、推定したロール角加速度変化推定値を出力する。舵角補正指令値演算部28bは、前記ロール角加速度変化推定値に基づいて、前輪および後輪の舵角補正指令値を演算する。
【0031】
舵角指令値補正器29は、転舵装置SE(図1)を制御するための舵角指令値を、舵角補正指令値で補正し、前後輪の補正後舵角指令値を転舵制御装置30に出力する。
転舵制御装置30は、補正後舵角指令値に従い、前後輪に備えた転舵装置SE(図1)で各車輪を転舵させる。
【0032】
<横滑り角速度推定器21が出力する横滑り角速度推定値について>
横滑り角速度β「・」を直接計測するためには高価な専用計測器が必要であるが、高価な専用計測器を不要とするため、横滑り角速度推定器21は車両モデルを用いて操舵角δから横滑り角速度β「・」を推定する方法、または車載のヨーレートセンサ15で計測した実ヨーレートrから推定する方法を用いてもよい。
【0033】
車両モデルを用いて操舵角δから横滑り角速度β「・」を推定する方法は、例えば、2輪モデルを用いた場合、操舵角δに対する横滑り角速度β「・」の伝達関数は次のようになる。
【0034】
【数1】
【0035】
操舵角δは、例えば、ステアリング部に設けた操舵角センサ14(図1)の出力からの演算値の他に、ステアリングラックに設けたセンサの出力である歯車等の回転角またはラック移動量等から演算した操舵角情報を用いることができる。
【0036】
ヨーレートrから横滑り角速度β「・」を推定する方法としては、以下の2輪モデルを用いて推定し得る。
車両の横方向の並進運動と鉛直軸周りの回転運動のみを記述した2輪モデルの基本式を以下に示す。座標系はx軸が車両の前後方向であり前方向が正、y軸が左右方向であり左方向が正、z軸が上下方向であり上方向が正としている。
【0037】
【数2】
【0038】
式(1)に旋回時の車両に生じる車両の横滑り角速度β「・」とヨーレートrの関係が示されている。また2輪モデルにおける車両の横加速度をaとすれば、式(1)から横滑り角速度β「・」とヨーレートrの関係は式(3)になる。
【0039】
【数3】
【0040】
式(3)を変形すると次式を得る。
【数4】
【0041】
前記式(3)´を用いることで、車載の加速度センサ16で計測した横加速度をaとヨーレートrから横滑り角速度β「・」を計算し得る。但し、カント路では傾斜に応じて横加速度をaが変化するため、推定した横滑り角速度β「・」に誤差が生じる。また前記式は線形タイヤモデルを用いているため、タイヤ横力が飽和する条件では誤差が大きくなる。また前後加速度を伴う場合も同様に誤差が大きくなる。これらの誤差を低減する方法として、非線形タイヤモデルを用いた横滑り角速度β「・」の推定方法を適用する。
【0042】
この推定方法では、下記式に示す非線形タイヤモデルを用いる。
【0043】
【数5】
【0044】
但し、Tは前輪(f)または後輪(r)を示す添え字であり、Kはタイヤのコーナリングパワー、βは前輪または後輪位置での横滑り角、μは路面摩擦係数、Wはタイヤの垂直荷重、Xはタイヤの前後力である。
【0045】
非線形タイヤモデルの前記式(50)で計算したタイヤ横力Yから、式(51)で横滑り角速度β「・」を推定する。式(51)のヨーレートrは、車載のヨーレートセンサの計測値である実ヨーレートである。
【0046】
【数6】
【0047】
式(50)の非線形タイヤモデルは、タイヤ横力Yの飽和およびタイヤの垂直荷重を考慮しているため、タイヤ横力Yの推定値の精度が向上する。したがって、式(51)を用いれば車載のヨーレートセンサで計測したヨーレートrから横滑り角速度β「・」を精度よく推定し得る。
【0048】
<ロールモーメント演算器22が出力するロールモーメント指令値について>
横滑り角速度β「・」とヨーレートrの関係式(3)は、横加速度aが車両の横滑り角速度β「・」で生じる横加速度とヨーレートrで生じる横加速度から成ることを示している。定常旋回時は車両の横滑り角速度β「・」は零になるが、旋回の過渡状態は車両の横滑り角速度β「・」で生じる横加速度Vβ「・」だけ横加速度aが変化することを示している。つまり、ヨーレートrに対して横加速度aは、車両の横滑り角速度β「・」の分だけ位相が変化することになる。
【0049】
ここで車両の重心に作用した横加速度aによって車両にロール角φが生じるとして、2輪モデルを拡張する。hは車両重心点とロール軸間の距離、Kφはロール剛性、Cφはロール減衰係数、Iφはロール慣性モーメントとすれば、式(4)のロール角φが生じる。sはラプラス演算子である。ばね下質量は車両質量に対して十分に小さいとすることで、車両のばね上質量は車両質量mに等しいとしている。
【0050】
【数7】
【0051】
式(4)は、サスペンションの減衰特性および車両のロール慣性モーメントにより横加速度a(ロールモーメントmh)に対してロール角φが遅れて生じることを示している。
【0052】
上記について、具体例として高速走行時に進行中の車線から他の車線へ移る車線変更を1回行うシングルレーンチェンジを行った場合の各値の変化を図3に示す。図3のグラフにおける実線は、本発明の車両運動制御装置を動作させていない(車両に制御によるロールモーメントもヨーモーメントも発生させていない)場合の各値の変化を示したものである。
高速走行では、操舵に対してヨーレートrが生じるが、横加速度aは横滑り角速度β「・」の影響でヨーレートrよりも遅れて生じ、さらに遅れてロール角φが生じる。このヨー運動に対するロール運動の遅れは、車速が高くなるほど大きくなる。
【0053】
本実施形態の車両運動制御装置では、車両に備えたショックアブソーバー7(図1)で式(5)に示すロールモーメントMφを発生させることで、横滑り角速度β「・」によって生じるロールモーメントを打ち消し、ヨー運動とロール運動を連動させる。
【0054】
【数8】
【0055】
またロールモーメントMφは、式(6)のように、サスペンションの減衰等によって生じるヨー運動に対するロール運動の遅れを補償する項をさらに追加してもよい。
【数9】
【0056】
図2に示すように、車両運動制御装置17は、横滑り角速度推定器21で横滑り角速度推定値を推定し、ロールモーメント演算器22で式(5)または式(6)に従いロールモーメント指令値を演算する。
【0057】
<舵角補正値演算器28が出力する舵角補正指令値について>
ロールモーメントMφによって生じるロール角加速度変化を、舵角補正値演算器28に備えたロール角加速度変化推定部28aで推定し、その推定値であるロール角加速度変化推定値から舵角補正指令値演算部28bで前後輪の舵角補正指令値Δδ,Δδを演算し出力する。
【0058】
舵角補正値演算器28は、車両1を上方から見て(図8参照)反時計回り方向Ccの舵角の符号を正、車両1を後方から見て(図5B参照)時計回り方向Cwのロール角加速度の符号を正としたとき、前記ロール角加速度変化推定値と同符号となる前輪の舵角補正指令値Δδを出力する。
また舵角補正値演算器28は、車両1を上方から見て(図8参照)反時計回り方向Ccの舵角の符号を正、車両1を後方から見て(図5B参照)時計回り方向のロール角加速度の符号を正としたとき、前記ロール角加速度変化推定値と異符号となる後輪の舵角補正指令値Δδを出力する。
【0059】
図3のグラフにおける点線は、車両運動制御装置で式(6)に示したロールモーメントMφだけを発生させたとき(前後輪の舵角補正指令値Δδ,Δδは零)の各値の変化を示したものである。図3に示す「ヨーレート」は「ヨー運動」と同義であり、同図3に示す「ロール角」は「ロール運動」と同義である。
【0060】
図3では、車両につきシングルレーンチェンジ走行を模擬し、前輪の舵角指令値に一周期分のサイン波状の信号を与えている。説明を簡単にするため、後輪の舵角指令値は零としている。
車両運動制御装置でロールモーメントMφを発生させた場合、図3のように、ロール運動がヨー運動に連動し、ロール運動とヨー運動の時間差が小さくなる。このとき車両に生じているロール角をφ´とすれば、式(7)に示すように、ロールモーメントMφを発生させていないときのロール角φに対して、ロールモーメントMφによってΔφのロール角変化が生じる。
φ´=φ+Δφ (7)
【0061】
また式(8)に示すように、ロール角加速度φ´「・・」もロールモーメントMφによってロール角加速度変化Δφ「・・」が生じる。
【0062】
【数10】
【0063】
このロール角の変化は車両の旋回運動にも影響を及ぼす。式(1)および式(2)に示した車両運動の基礎式は、ロール運動の影響を考慮すれば式(9)および式(10)となる。Izxは慣性乗積である。
【0064】
【数11】
【0065】
また前輪の横力Yおよび後輪の横力Yは式(11)および式(12)であり、横滑り角βによって定まる値である。Kは前輪のコーナリングパワー、Kは後輪のコーナリングパワー、δは前輪の舵角指令値である。後輪の舵角指令値は零としている。
【0066】
【数12】
【0067】
式(9)~式(12)の関係から、ロール角加速度変化Δφ「・・」によってヨーレートr、横加速度a、横滑り角βに図3の点線のような変化が生じる。そこで、図2に示す舵角補正値演算器28は、ロール角加速度変化Δφ「・・」によって生じる平面運動の変化を抑えるために必要な前後輪の舵角補正指令値Δδ,Δδを計算し出力する。
【0068】
ロールモーメント指令値Mφによって生じるロール角加速度変化推定値Δφ「・・」は、ロール慣性モーメントIφおよび伝達関数G(s)を用いて式(13)で計算する。sはラプラス演算子である。
【0069】
【数13】
【0070】
G(s)は、アクチュエータがロールモーメントを発生させてから車体にロール角加速度が生じるまでの位相遅れを表す伝達関数であり、式(14)で表される。係数αおよびαは、車体慣性およびサスペンションのばねおよびダンパの特性から定まる値である。
【0071】
【数14】
【0072】
前後輪の舵角補正指令値Δδ,Δδは、ロール角加速度変化Δφ「・・」を用いて式(16)および式(17)で計算される。
【数15】
【0073】
舵角指令値補正器29は、前後輪の舵角補正指令値Δδ,ΔδをECU9が出力する舵角指令値に加算し、補正後舵角指令値δ´,δ´として出力する。
δ´=δ+Δδ (18)
δ´=δ+Δδ (19)
【0074】
前輪および後輪の変換定数B,Bについて説明する。
補正後舵角指令値δ´,δ´で前記転舵装置SE(図1)を制御した場合の前輪の横力Y´および後輪の横力Y´は式(20)および式(21)になる。
【0075】
【数16】
【0076】
式(22)および式(23)から、前後輪の舵角補正指令値Δδ,Δδについて連立方程式を解くことで以下の式が得られる。
【数17】
【0077】
図3のロールモーメントMφを発生させたときのロール角加速度変化推定値Δφ「・・」と前後輪の舵角補正指令値Δδ,Δδ、および前後輪の補正後舵角指令値δ´,δ´のグラフを図4に示す。この場合の前後輪の制御ゲインAおよびAは「1」としている。
【0078】
図4に示したロール角加速度変化推定値および舵角補正指令値の位相は、ロールモーメント指令値に対して遅れている。これは、ロール角加速度変化推定部28a(図2)において、アクチュエータがロールモーメントを発生させてから車体にロール角加速度が生じるまでの位相遅れを考慮しているためである。つまり図2に示すロール角加速度変化推定部28aは、前記アクチュエータがロールモーメントを発生させてから車両の車体にロール角加速度が生じるまでの位相遅れを考慮して、前記ロールモーメント指令値から前記ロール角加速度変化推定値を演算する。
【0079】
転舵制御装置30は、前後輪の補正後舵角指令値δ´,δ´に従い、車両に備えた前後輪の転舵装置SE(図1)で前後輪の転舵角を制御する。これにより、図3のグラフの一点鎖線のようにロールモーメントMφを発生させた際の車両の平面運動の変化が抑制されるとともに、ロール運動がヨー運動に連動する。なおECU9(図2)から出力される前後輪の舵角指令値δ,δは、例えば、ステアリングギア比可変制御または旋回制御を向上させる制御の出力であってもよい。
【0080】
舵角補正指令値Δδ,Δδを求める式(16)および式(17)の制御ゲインA,Aは常に初期値である「1」としてもよいが、舵角補正指令値演算部28bは、ロールモーメント指令値Mφの大きさが第1の閾値M以下のとき、舵角補正指令値の制御ゲインA,Aをロールモーメント指令値Mφの大きさに応じて小さくしてもよい。具体的には、図6のグラフのようにロールモーメント指令値Mφの大きさ|Mφ|が第1の閾値M以下のとき、ロールモーメント指令値Mφに応じて、制御ゲインA,Aを初期値である「1」よりも小さくしてもよい。
【0081】
舵角補正指令値演算部28b(図2)は、ロールモーメント指令値Mφの大きさが第2の閾値M以下のとき、制御ゲインA,Aを零として舵角補正指令値が零となるようにしてもよい。但し、M<Mである。ロールモーメント指令値Mφが小さいときはロールモーメントによる平面運動の変化も小さいため、運転者は違和感を感じ難い。ロールモーメント指令値Mφが小さいときは前後輪の舵角補正指令値Δδ,Δδを小さくまたは零にすることで、転舵装置のエネルギー消費や舵角の変化によって運転者に与える違和感を抑えることができる。図6の閾値MおよびMは制御ゲインA,Aで異なる値を用いてもよい。
【0082】
<アクチュエータ制御手段24が出力する上下力指令値について>
図5A図5Cに示すように、アクチュエータによりサスペンションに発生させる上下力をFSとする。上下力FSは車両のばね上を支持するばねおよびダンパによって作用する。これらばねおよびダンパは、各サスペンション装置4の構成部材である。上下力FSにおける添え字iは四輪車のサスペンション位置を示しており、添え字i=1が左前輪、i=2が右前輪、i=3が左後輪、i=4が右後輪である。後述する前後力における添え字iについても同様である。
【0083】
説明を簡単にするため、各サスペンション装置4におけるばねとダンパは同一軸上に配置されていると仮定する。図5A図5Cに示すように、前輪2のサスペンション装置4におけるばねとダンパの支持点の左右間距離をds、後輪2のサスペンション装置4におけるばねとダンパの支持点の左右間距離をdsとする。
ロールモーメント指令値Mφと上下力指令値FSの関係は式(28)になる。
【0084】
【数18】
【0085】
図2に示すように、アクチュエータ制御手段24から上下力指令値FSが入力されたサスペンション制御装置18は、図示しない駆動源を用いてアクティブサスペンションの上下力を制御することでロールモーメントを発生させる。前記駆動源は、油圧、空気圧、または電気モータ等を用いることができる。
【0086】
図2に示した前後輪の舵角補正指令値Δδ,Δδで、前輪の舵角指令値δおよび後輪の舵角指令値δを補正した場合の車両挙動の例を、図7のグラフ中に実線として示す。図7のグラフ中の点線は、ロールモーメントMφのみを発生させ、ECU9(図2)が出力した前後輪の舵角指令値δ,δに従い車輪を転舵させた場合である。前後輪の舵角指令値δ,δを舵角補正指令値Δδ,Δδで補正した補正後舵角指令値δ´,δ´に従い前後輪を転舵することで、旋回中のヨーレート、横加速度、横滑り角の振幅が大きくなり、図3に示したロールモーメントMφを発生させたことで生じる平面運動の変化が抑制される。
【0087】
<作用効果>
本実施形態のようにアクティブサスペンションで車両にロールモーメントMφを発生させ、さらに舵角を補正することにより、平面運動の変化を抑制しつつ車両のロール運動をヨー運動に連動させることができる。このため、運転者は車両の動きに一体感を得ることができる。
【0088】
本車両運動制御装置17によれば、前後輪の舵角補正指令値Δδ,ΔδをロールモーメントMφに基づいて演算し、車載されたセンサ情報から取得した車両挙動に基づいて演算していない。フィードフォワード制御として前後輪の舵角指令値δ,δを補正するため、路面または風などの外乱およびセンサのノイズ等の影響を受けることがなく安定した制御ができる。またフィードバック制御に比べ、制御の応答遅れを抑えることができる。
【0089】
図8は、図7に示した左旋回中の前後輪の舵角指令値δ,δ、および前後輪2f,2rの舵角補正指令値Δδ,Δδの関係を図示している。前輪2fは舵角補正指令値Δδにより舵角を大きくし、後輪2rは補正後舵角指令値δ´として前輪2fと逆方向に転舵することで、車両1に生じるヨーレート、横加速度および横滑り角が増加する。
【0090】
図9は、図7に示した条件に対して、前輪の舵角指令値δを舵角補正指令値Δδで補正し、後輪の舵角補正指令値Δδを零とし後輪の舵角指令値δを補正しない場合の車両のヨーレート等を実線で示している。同図9の点線は、前輪の舵角指令値δを補正していない場合である。
【0091】
前輪の舵角指令値δを舵角補正指令値Δδで補正した補正後舵角指令値δ´で前輪を転舵することで、旋回中のヨーレート、横加速度、横滑り角の振幅が大きくなっている。この場合、前後輪の舵角指令値δ,δを補正した場合(図7)に比べて、振幅の増加量は小さいが、前輪の舵角指令値δを補正することと、ロールモーメントMφを発生させたことで生じる平面運動の変化を抑制し、平面運動が改善されている。前輪の舵角指令値δのみを補正する場合、後輪の転舵装置を車両に搭載する必要がなく、コストの増加を抑えることができる。
【0092】
図10は、図7に示した条件に対して、後輪の舵角指令値δを舵角補正指令値Δδで補正し、前輪の舵角補正指令値Δδを零とし前輪の舵角指令値δを補正しない場合の車両のヨーレート等を実線で示している。同図10の点線は、後輪の舵角指令値δを補正していない場合である。
【0093】
後輪の舵角指令値δを舵角補正指令値Δδで補正した補正後舵角指令値δ´で後輪を転舵することで、旋回中のヨーレート、横加速度、横滑り角の振幅が大きくなっている。この場合、図9の例と同様に、前後輪の舵角指令値δ,δを補正した場合(図7)に比べて、振幅の増加量は小さいが、後輪の舵角指令値δを補正することと、ロールモーメントMφを発生させたことで生じる平面運動の変化を抑制し、平面運動が改善されている。図9の前輪の舵角指令値δを補正する場合、前輪の横力も変化することでステアリング反力が変化し、運転者に違和感を与える可能性がある。図10のように後輪の舵角指令値δのみを補正した場合はステアリング反力を抑えることができるため、運転者に違和感を与えることなく平面運動を改善することができる。
【0094】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0095】
[第2の実施形態:図11図13
図11に示すように、この実施形態の車両1は、ロールモーメントを発生可能なアクチュエータとして、四輪にインホイールモータ3を備えている。
図13に示すように、サスペンションのリンク配置が仮想的なアンチダイブ角θまたはアンチスクワット角θを有する場合、インホイールモータ3(図11)が発生する前後力FX(i=1~4)がサスペンションを介すことで上下力が車体1Aに作用する。この上下力を利用してロールモーメントを発生することができる。
【0096】
図11に示すように、制御系として、車両1には、インホイールモータ3を制御するモータ制御装置19が設けられている。モータ制御装置19は、各インホイールモータ3をそれぞれ制御する四台のインバータ19aを有する。インバータ19aは、図示外のバッテリの直流電力をモータ駆動のための交流電力に変換する図示外のパワー回路部と、このパワー回路部を制御する図示外のドライバ回路部とを有する。図12に示すように、アクチュエータ制御手段24は、インホイールモータ3(図11)の前後力を制御するため、ロールモーメント指令値から前後力指令値FX(i=1~4)を計算しモータ制御装置19に出力する。モータ制御装置19は、車両運動制御装置17のアクチュエータ制御手段24が出力した前後力指令値に従ってインホイールモータ3(図1)のモータトルクを制御する。第2の実施形態においても、前述の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0097】
ロールモーメントの発生には、前記インホイールモータの前後力(制動力)に代えて、摩擦ブレーキの制動力を使用することができる。アンチダイブ角θおよびアンチスクワット角θ図13)は小さくなるが、エンジンまたはオンボードタイプの電気モータの制駆動力を使用することができる。また、それらを組み合わせてロールモーメントを発生させてもよい。
【0098】
各実施形態では、運転者によるアクセルペダル、ブレーキペダルの操作に応じたアクセル指令値およびブレーキ指令値を車両運動制御装置に入力しているが、例えば自動運転車両のように車両の状態および各種センサ等の情報から、運転者の操作に依ることなく自動的にアクセル指令値およびブレーキ指令値を計算することも可能である。
【0099】
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
1…車両、3…インホイールモータ(アクチュエータ)、7…ショックアブソーバー(アクチュエータ)、17…車両運動制御装置、20…車両運動制御システム、22…ロールモーメント演算器、24…アクチュエータ制御手段、28…舵角補正値演算器、28a…ロール角加速度変化推定部、28b…舵角補正指令値演算部、SE…転舵装置
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13