(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129682
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】非水系電解液及び該非水系電解液を含む非水系電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20220830BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220830BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220830BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M10/0569
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028458
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深水 浩二
(72)【発明者】
【氏名】川上 大輔
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ04
5H029AJ06
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ07
(57)【要約】
【課題】レート特性、保存容量維持率、および高温保存ガス発生量が改善された非水系電解液二次電池を提供することができる非水系電解液を提供することを課題とする。
【解決手段】(1)オキサラート塩、(2)分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物、及び(3)炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルを含有することを特徴とする非水系電解液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)オキサラート塩、(2)分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物、及び(3)炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルを含有することを特徴とする非水系電解液。
【請求項2】
前記、分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物が、下記一般式(A)で表される、請求項1に記載の非水系電解液。
【化1】
(上記一般式(A)中、X
1及びX
2は、独立に、ヘテロ原子またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基を表し;Y
1及びY
2は、独立に、単結合、又はヘテロ原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1以上4以下の2価の脂肪族炭化水素基を表す。Y
1及びY
2は直接又は置換基を介して互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項3】
前記一般式(A)におけるX
1及びX
2が同一であって、X
1及びX
2における炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基が以下の構造にて表される、請求項1または2に記載の非水系電解液。
【化2】
(上記構造中、*は前記一般式(A)における前記環状カルボン酸無水物骨格のカルボニル炭素との結合箇所を表し、また、波線は前記一般式(A)における前記Y
1又は前記Y
2との結合箇所を表す。)
【請求項4】
前記一般式(A)におけるY1及びY2が、独立に、単結合、メチレン基、エチレン基
、トリメチレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ビニレン基、エチニレン基、プロペニレン基、及びプロピニレン基からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルが、酢酸メチル又はプロピオン酸メチルである、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
前記分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物の含有量が、非水系電解液の全量に対して0.01質量%以上10質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項7】
前記炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの含有量が、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して5体積%以上40体積%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項8】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を有する負極と、非水系電解液とを備えた非水系電解液二次電池であって、該非水系電解液が請求項1~7のいずれか1項に記載の非水系電解液であることを特徴とする、非水系電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及び該非水系電解液を含む非水系電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の電源から自動車用等の駆動用車載電源まで広範な用途に、リチウム二次電池等の非水系電解液二次電池が実用化されつつある。しかしながら、近年の非水系電解液二次電池に対する高性能化の要求はますます高くなっており、特に、高容量、低温使用特性、高温保存特性、サイクル特性、過充電時安全性等の種々の電池特性の改善が要望されている。
【0003】
これまで、非水系電解液二次電池の高温保存試験やサイクル試験を改善するための手段として、正極や負極の活物質や、非水系電解液を始めとする様々な電池の構成要素について、数多くの技術が検討されている。
特許文献1にはマンガン酸リチウム及びLiNi0.33Mn0.33Co0.33O2を活物質とする正極と、炭素系材料を活物質とする負極と、非水系電解液とからなるリチウム電池において、電解液中にリチウムビス(オキサラート)ボレートと無水コハク酸を含有させることにより、保存容量維持率を向上させる検討がなされている。
特許文献2にはLiNi0.80Co0.15Al0.05O2を活物質とする正極と、炭素系材料およびケイ素を活物質とする負極と、非水系電解液とからなるリチウム電池において、電解液中に特定の環状カルボン酸無水物を含有させることにより、60℃サイクルにおける維持率と膨れ率を向上させる検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-164126号公報
【特許文献2】WO2013/038842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年のリチウム非水系電解液二次電池の特性改善への要求はますます高まっており、レート特性、保存容量維持率、及び高温保存特性の全ての性能を高いレベルで併せ持つことが求められているが、未だに達成されていない。特に高密度化によるレート特性の低下、および高温保存ガス発生量の増加など課題がある。
そこで、本発明は、レート特性、保存容量維持率、および高温保存ガス発生量が改善された非水系電解液二次電池を提供することができる非水系電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、(1)オキサラート塩、(2)分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物、及び(3)炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルを含有することにより上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、以下に存する。
[1](1)オキサラート塩、(2)分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物、及び(3)炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルを含有することを特徴とする非水系電解液。
[2]前記分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物が、下記一般式(A)で表される、[1]に記載の非水系電解液。
【化1】
(上記一般式(A)中、X
1及びX
2は、独立に、ヘテロ原子またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基を表し;Y
1及びY
2は、独立に、単結合、又はヘテロ原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1以上4以下の2価の脂肪族炭化水素基を表す。Y
1及びY
2は直接又は置換基を介して互いに結合して環を形成してもよい。)
[3]前記一般式(A)におけるX
1及びX
2が同一であって、X
1及びX
2における炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基が以下の構造にて表される、[1]又は[2]に記載の非水系電解液。
【化2】
(上記構造中、*は前記一般式(A)における前記環状カルボン酸無水物骨格のカルボニル炭素との結合箇所を表し、また、波線は前記一般式(A)における前記Y
1又は前記Y
2との結合箇所を表す。)
[4]前記一般式(A)におけるY
1及びY
2が、独立に、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ビニレン基、エチニレン基、プロペニレ
ン基、及びプロピニレン基からなる群から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の非水系電解液。
[5]前記炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルが、酢酸メチル又はプロピオン酸メチルである、[1]~[4]のいずれかに記載の非水系電解液。
[6]前記分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物の含有量が、非水系電解液の全量に対して0.01質量%以上10質量%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の非水系電解液。
[7]前記炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの含有量が、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して5体積%以上40体積%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の非水系電解液。
[8]リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を有する負極と、非水系電解液とを備えた非水系電解液二次電池であって、該非水系電解液が[1]~[7]のいずれかに記載の非水系電解液であることを特徴とする、非水系電解液二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非水系電解液二次電池に関して、レート特性、保存容量維持率、及び高温保存ガス発生量に優れる二次電池を実現する非水系電解液及び係る非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供することができる。
本発明の非水系電解液を用いて作製された非水系電解液二次電池、及び本発明の非水系電解液二次電池が、レート特性、保存容量維持率、及び高温保存ガス発生量抑制の点で改善された二次電池となる作用及び原理について、本発明者らは以下のように推測する。ただし、本発明の効果は、以下に記述する作用及び原理以外の作用及び原理に基づいていてもよく、これらの作用及び原理に限定されるものではない。
【0009】
炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルは、他の低粘度溶媒に比べて、低粘度かつ高誘電率である。したがって、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルを含有する電解液は、従来の電解液に比べて、リチウムイオン電導性に優れ、レート特性に優れる電池を実現することができる。しかし、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルは耐酸化性が他の溶媒と比べて低いため、充放電もしくは高温保試験等の高温条件により、正極表面において継続的に酸化分解するため、電池の高温保存後の残存容量低下が起こる。同時に、正極表面を変質させるため、正極の抵抗を増加させる。その結果、高温保存後の電池のレート特性低下が起こる。また、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルが正極において酸化分解した成分は、電解液中を拡散し、負極表面に到達する。負極表面に到達した酸化分解成分は負極表面で還元分解を起こし、保存後容量維持率を減少させ、高温保存ガス発生量を増加させる。
オキサラート塩は、ホウ素原子が正極に吸着し、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの酸化分解を抑えることができる。そのため正極の変質を抑え、抵抗増加を抑える効果がある。また、負極においても保護被膜を形成するため、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルが酸化分解して発生した成分の還元を抑えることができる。そのため、保存後容量維持率を改善する効果がある。しかし、オキサラート塩は負極被膜形成により、負極の抵抗を大きくすること、また、それ自体が還元される際にガスを発生させることから、レート特性、および高温保存ガス発生量抑制の点から不十分であった。
分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物は、環状カルボン酸無水物骨格が高い求電子性を有するため、オキサラート塩が負極表面で還元されて生成するアニオン化合物と反応し、より安定した負極被膜を形成することができる。そのため、オキサラート塩の還元分解が大幅に抑えられ、高温保存ガス発生量が抑制される。また、このように形成された負極被膜成分はリチウムイオン導電性が高いと思われるカルボン酸リチウム構造を複数有するため、負極の抵抗増加を大幅に抑えることができる。その結果、高温保存後でもレート特性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値または物性値を含む表現として用いるものとする。
また、本明細書において、2つ以上の対象を併せて説明する際に用いる「独立に」とは、それらの2つ以上の対象が同じであっても異なっていてもよいという意味で使用される。
【0011】
[1.非水系電解液]
本発明の実施形態に係る非水系電解液(以下、単に「非水系電解液」とも称する。)は、(1)オキサラート塩、(2)分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物、及び(3)炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルを含有する。該非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様に、電解質及びこれを溶解する非水溶媒等を含有してもよい。
【0012】
[1-1.オキサラート塩]
オキサラート塩のカウンターカチオンとしては特に限定はないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等がその例として挙げられ、特にリチウムが好ましい。
オキサラート塩の具体例としては、リチウムジフルオロオキサラートボレート、リチウムビス(オキサラート)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラートフォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラート)フォスフェート、リチウムトリス(オキサラート)フォスフェート等が挙げられ、リチウムビス(オキサラート)ボレート、リチウムジフルオロビス(オキサラート)フォスフェートが好ましく、リチウムビス(オキサラート)ボレートがより好ましい。オキサラート塩は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、オキサラート塩の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、非水系電解液の全量(100質量%)に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1.5質量%以下である。
この範囲内であれば、非水系電解液二次電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、抵抗の増加が抑制され、保存後容量維持率が増加する傾向がある。
化合物の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行うことができる。
【0013】
[1-2.分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物]
分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物の構造は特に制限はないが、分子内に2個の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物が好ましく、下記一般式(A)で表される化合物が電解液に対する溶解性の観点から好ましい。
【0014】
【0015】
上記一般式(A)中、X1及びX2は、独立に、ヘテロ原子またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基を表す。Y1及びY2は、独立に、単結合又はヘテロ原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1以上4以下の2価の脂肪族炭化水素基を表し、また、Y1及びY2は直接又は置換基を介して互いに結合して環を形成してもよい。
X1及びX2は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましく、また、X1及びX2における各炭素間の結合が単結合であっても、二重結合であってもよい。
【0016】
X1及びX2は、独立に、ヘテロ原子、またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基を表し、該炭素数は、2以上3以下であることが好ましく、2であることがより好ましい。
ヘテロ原子またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基とは、炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基における炭素がヘテロ原子で置換されてもよく、脂肪族炭化水素基における水素がヘテロ原子を含む1価の置換基又はハロゲン原子で置換されていてもよいということを表す。
炭素数2以上4以下の脂肪族炭化水素基の具体例としては、以下の構造群(「構造群(1)」とも称する。)から選択される構造が挙げられる。なお、下記構造中、*は前記一般式(A)における前記環状カルボン酸無水物骨格のカルボニル炭素との結合箇所を表し、波線は前記一般式(A)における前記Y1又は前記Y2との結合箇所を表す。
なお、本明細書において、「炭化水素基」は、水素原子及び炭素原子を含む基だけでなく、以下の構造群(1)の中に示される水素原子を有さない炭素のみから構成される基(炭素数2であり、かつC=C結合を含む基)等も含む。
【0017】
【0018】
X1及びX2が上記の構造は、過度な反応性の抑制の観点から以下の構造群(「構造群(2)」とも称する。)から選択される構造であることが好ましい。
【0019】
【0020】
X1及びX2が上記の構造は、化合物の安定性の観点から以下の構造群(「構造群(3)」とも称する。)から選択される構造であることがより好ましい。
【0021】
【0022】
X1及びX2が上記の構造は、以下の構造であることがさらに好ましい。
【0023】
【0024】
上述の炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基に係る水素原子は、フッ素等のハロゲン原子に置換されていてもよく、又上述の炭素数2以上4以下の4価の脂肪族炭化水素基に係る炭素原子の一部が酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子等のヘテロ原子に置換されていてもよい。
X1及びX2は互いに異なっていても同一でもよいが、分子が対称性を有するほうが還元に対する反応性を制御できる観点から同一であることが好ましい。
【0025】
Y1及びY2は、独立に、単結合、又はヘテロ原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1以上4以下の2価の脂肪族炭化水素基を表す。
ヘテロ原子またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1以上4以下の2価の脂肪族炭化水素基とは、炭素数1以上4以下の2価の脂肪族炭化水素基における炭素がヘテロ原子で置換されてもよく、脂肪族炭化水素基における水素がヘテロ原子を含む1価の置換基又はハロゲン原子で置換されていてもよいということを表す。
炭素数1以上4以下の2価の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ビニレン基、エチニレン基、プロペニレン基、プロピニレン基が挙げられる。これらの中でも、過度な反応性の抑制の観点から、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ビニレン基、エチニレン基、プロペニレン基、プロピニレン基が好ましく、化合物の安定性の観点からメチレン基がより好ましい。
Y1及Y2は、独立に、単結合、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ビニレン基、エチニレン基、プロペニレン基、及びプロピニレン基から選択されることが好ましく、化合物の安定性の観点から、単結合、メチレン基又はエチレン基が好ましく、単結合又はメチレン基がより好ましく、特に、Y1又はY2のいずれか一方が単結合であり、かつ、もう一方がメチレン基であることが好ましい。
Y1及びY2は互いに異なっていても同一でもよい。また、Y1及びY2は直接又は置換基を介して互いに結合してもよい。
【0026】
X1、X2、Y1、及びY2で構成される環構造としては、特に限定は無いが、好ましくは4員環、5員環及び6員環であり、特に好ましくは、電解液中での化合物安定性の点で5員環及び6員環である。
【0027】
本実施形態で用いる化合物は、一般式(A)で表される化合物が使用されるが、過度の反応性の抑制及び化合物の安定性の観点から、下記の態様とすることが好ましい。
一般式(A)におけるX1、X2、Y1、及びY2は、好ましくは、以下のX及びYの組み合わせのいずれかから選択される。この場合、一般式(A)におけるX1及びX2は、独立にXを満たし、Y1及びY2は、独立にYを満たすことを意味する。これは以下の態様でも同様である。
X:上記の構造群(1)から選択される構造
Y:単結合、又はメチレン基
より好ましくは、以下のX及びYの組み合わせである。
X:上記の構造群(2)から選択される構造
Y:単結合、又はメチレン基
さらに好ましくは、以下のX及びYの組み合わせである。
X:上記の構造群(3)から選択される構造
Y:単結合、又はメチレン基
特には、一般式(A)で表される化合物は、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、及び3-(カルボキシメチル)-1,2,4-シクロペンタントリカルボン酸1,4:2,3-二無水物からなる群から選択さ
れることが好ましく、これらの中でも、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が特に好ましく、耐酸化性および電解液中での安定性から、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物が最も好ましい。
【0028】
分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。非水系電解液が該化合物を2種以上含む場合は、それらの合計量を該化合物の含有量とする。また、分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0029】
分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物の含有量は、非水系電解液100質量%中、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1.5質量%以下である。
また、非水系電解液において、上記のオキサラート塩の含有量に対する分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物の含有量の比率(分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物の含有量/オキサラート塩の含有量)は、質量比率で、通常0.01以上、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.07以上、また、通常30以下、好ましくは15以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.7以下である。
上記の含有量、比率の範囲内であれば、非水系電解液二次電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が向上し、ガス発生量が抑制され、放電容量維持率が増加する傾向がある。
化合物の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0030】
[1-3.炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステル]
炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルは非水系溶媒の一種として用いられ、その種類は特段制限されないが、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等が挙げられる。なかでも、酢酸メチル又はプロピオン酸メチルが好ましく、酢酸メチルが粘度低下による物質拡散の向上の点からより好ましい。
【0031】
炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの含有量は、通常、非水系電解液の非水系溶媒全量(100体積%中)に対して、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上、特に好ましくは20体積%以上である。このように下限を設定することで、非水系電解液のリチウムイオン等の金属イオンの拡散を改善し、非水系電解液二次電池を安全に廃棄できる性能を向上させやすくなる。また、鎖状カルボン酸エステルの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量(100体積%中)に対して、好ましくは40体積%以下、より好ましくは35体積%以下、さらに好ましくは30体積%以下である。このように上限を設定することで、正極および負極における分解反応を抑えることができる。
炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの含有量は、通常、非水系電解液の非水系溶媒の全量(100質量%中)に対して、好ましくは3.0質量%以上 、より好ましくは6
.0体積%以上、さらに好ましくは10.0質量%以上、特に好ましくは15.0質量%以上である。このように下限を設定することで、非水系電解液のリチウムイオン等の金属イオンの拡散を改善し、非水系電解液二次電池を安全に廃棄できる性能を向上させやすくなる。また、鎖状カルボン酸エステルの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量(100体積%中)に対して、好ましくは30.0質量%以下 、より好ましくは25.0質量
%以下、さらに好ましくは21.0質量%以下である。このように上限を設定することで、正極および負極における分解反応を抑えることができる。
炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルを2種以上併用する場合には、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0032】
非水系電解液において、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの含有量(体積)に対するオキサラート塩の含有量(質量)の比率は、通常5.0g/L以上、好ましくは10.0g/L以上、より好ましくは15.0g/L以上、さらに好ましくは20.0g/L以上、また、通常500g/L以下、好ましくは400g/L以下、より好ましくは300g/L以下、さらに好ましくは200g/L以下である。
また、非水系電解液において、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの含有量(体積)に対する分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物の含有量(質量)の比率は、通常5.0g/L以上、好ましくは10.0g/L以上、より好ましくは15.0g/L以上、さらに好ましくは20.0g/L以上、また、通常500g/L以下、好ましくは400g/L以下、より好ましくは300g/L以下、さらに好ましくは200g/L以下である。
上記の比率の範囲内であれば、非水系電解液二次電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が向上し、ガス発生量が抑制され、放電容量維持率が増加する傾向がある。
化合物の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。なお、この化合物の同定や含有量の測定の方法は、以降に記載する各化合物の同定や含有量の測定においても適用できる。
【0033】
[1-4.電解質]
<リチウム塩>
非水系電解液における電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
上記オキサラート塩は電解質として機能し得るが、通常は、電解質として上記オキサラート塩以外の電解質を使用する。
例えば、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、タングステン酸リチウム塩類、カルボン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムメチド塩類、及び含フッ素有機リチウム塩類等が挙げられる。
中でも、フルオロホウ酸リチウム塩類としてLiBF4;フルオロリン酸リチウム塩類としてLiPF6、Li2PO3F、LiPO2F2;スルホン酸リチウム塩類としてLiFSO3、CH3SO3Li;リチウムイミド塩類としてLiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド;リチウムメチド塩類として、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3;さらに好ましくは、LiPF6、LiN(FSO2)2、及びLiFSO3であり、特に好ましくはLiPF6である。また、上記電解質塩は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
2種類以上の電解質塩の組み合わせとして、特段の制限はないが、LiPF6及びLiN(FSO2)2;LiPF6及びLiBF4;LiPF6及びLiN(CF3SO2)2;LiBF4及びLiN(FSO2)2;LiBF4及びLiPF6及びLiN(FSO2)2が挙げられる。なかでも、LiPF6及びLiN(FSO2)2;LiPF6及びLiBF4;LiBF4、LiPF6及びLiN(FSO2)2が好ましい。
非水系電解液中のオキサラート塩以外の電解質の総濃度は、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好
ましくは16質量%以下である。電解質の総濃度が上記範囲内であると、電気伝導率が電池動作に適正となるため、十分な出力特性が得られる傾向にある。
【0034】
[1-5.非水系溶媒]
非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質を溶解する非水系溶媒を含有する。用いられる非水系溶媒は上述した電解質を溶解すれば特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル、及びスルホン系化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
2種以上の有機溶媒の組み合わせとして、特段の制限はないが、飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネート、並びに環状カルボン酸エステル及び鎖状カーボネートが挙げられる。なかでも、飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネートが好ましい。
非水系電解液中の非水系溶媒の含有量は、特に制限されず、例えば60~99.98質量%としてもよく、70~99.98質量%としてもよく、80~99.98質量%としてもよい。
【0035】
[1-5-1.飽和環状カーボネート]
飽和環状カーボネートとしては、例えば、炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から炭素数2~3の飽和環状カーボネートが好ましく用いられる。
飽和環状カーボネートとしては、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートが好ましく、酸化及び還元されにくいエチレンカーボネートがより好ましい。飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上であり、一方、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなり、非水系電解液の酸化及び還元耐性が向上し、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態における体積%とは25℃、1気圧における体積を意味する。
【0036】
[1-5-2.鎖状カーボネート]
鎖状カーボネートとしては、例えば、通常炭素数3~7のものが用いられ、電解液の粘度を適切な範囲に調整するために、炭素数3~5の鎖状カーボネートが好ましく用いられる。
鎖状カーボネートとしては、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが挙げられる。特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数(2つ以上)のフッ素原子を有する場合、当該複数のフッ素原子は同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。
フッ素化鎖状カーボネートとしては、フルオロメチルメチルカーボネート等のフッ素化ジメチルカーボネート誘導体;2-フルオロエチルメチルカーボネート等のフッ素化エチルメチルカーボネート誘導体;エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート等のフッ素化ジエチルカーボネート誘導体;等が挙げられる。
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0037】
鎖状カーボネートの含有量は特に限定されないが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上であり、また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
さらに、特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の含有量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。
例えば、特定の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、ジメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
【0038】
[1-5-3.環状カルボン酸エステル]
環状カルボン酸エステルとしては、例えば、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンが挙げられる。これらの中でも、γ-ブチロラクトンがより好ましい。また、上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した環状カルボン酸エステルも好適に使える。
環状カルボン酸エステルの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、環状カルボン酸エステルの含有量は、通常70体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0039】
[1-5-4.スルホン系化合物]
スルホン系化合物としては、特に制限されず、環状スルホンであってもよく、鎖状スルホンであってもよい。環状スルホンの場合、炭素数が通常3~6、好ましくは3~5であり、鎖状スルホンの場合、炭素数が通常2~6、好ましくは2~5である。また、スルホン系化合物1分子中のスルホニル基の数は、特に制限されないが、通常1又は2である。
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類等;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
スルホラン類としては、スルホラン及びスルホラン誘導体が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基で置換されたものが好ましい。
中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン、3-トリフルオロメチルスルホラン等が、イオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン等が挙げられる。なかでも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホンが電解液の高温保存安定性が向上する点で好ましい。
【0040】
スルホン系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常0.3体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常40体積%以下、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。スルホン系化合物の含有量が上記範囲内であれば、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0041】
[1-6.助剤]
本実施形態に係る非水系電解液には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各種の助剤を含有していてもよい。助剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。なお、助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
非水系電解液に含有していてもよい助剤としては、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネート、イソシアネート基を有する化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、フッ素非含有カルボン酸エステル、エーテル結合を有する環状化合物、ホウ酸塩(ただし、「1-1.オキサラート塩」で記載する少なくとも1つのホウ酸部位を有するオキサラート塩は除く)、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、フルオロスルホン酸塩等が例示できる。例えば、国際公開公報第2015/111676号に記載の化合物等が挙げられる。
添加剤の含有量は特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは1質量%未満である。エーテル結合を有する環状化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、「1-5.非水系溶媒」で示したとおり非水系溶媒としても用いることができるものも含まれる。エーテル結合を有する環状化合物を助剤として用いる場合は、4質量%未満の量で用いる。ホウ酸塩(ただし、「1-1.オキサラート塩」で記載する少なくとも1つのホウ酸部位を有するオキサラート塩は除く)、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩及びフルオロスルホン酸塩は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、「1-4.電解質」で示したとおり電解質として用いることができるものも含まれる。これら化合物を助剤として用いる場合は、3質量%未満で用いる。
【0042】
[1-7.非水系電解液の製造方法]
上述の非水系電解液の製造方法は、特段制限されないが、例えば、上述の非水系溶媒に、上述のオキサラート塩、分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物
、炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステル、及び電解質と、必要に応じて助剤等とを溶解して溶液を調製する方法が挙げられる。
非水系電解液を調製するに際しては、非水系電解液の各原料は、予め脱水しておくことが好ましい。脱水の程度としては、通常50ppm以下、好ましくは30ppm以下となるまで脱水することが望ましい。
【0043】
非水系電解液中の水分を除去することで、水の電気分解、水とリチウム金属との反応、リチウム塩の加水分解等が生じ難くなる。脱水の手段としては特に制限はないが、例えば、脱水する対象が非水溶媒等の液体の場合は、モレキュラーシーブ等の乾燥剤を用いればよい。また脱水する対象が電解質等の固体の場合は、分解が起きる温度未満で加熱して乾燥させればよい。
【0044】
[2.非水系電解液二次電池]
本発明の一実施態様である非水系電解液二次電池は、金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極とを備える非水系電解液二次電池であって、非水系電解液を含む。
【0045】
[2-1.非水系電解液]
非水系電解液としては、上述の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において上述の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を混合して用いることも可能である。
【0046】
[2-2.正極]
正極は、正極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
【0047】
[2-2-1.正極活物質]
以下に正極に使用される正極活物質(リチウム遷移金属系化合物)について述べる。
【0048】
[2-2-1-1.リチウム遷移金属系化合物]
リチウム遷移金属系化合物とは、リチウムイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物やリン酸塩化合物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合物、リチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。なかでも、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的にLixM2O4(Mは1種以上の遷移金属、xは通常1以上、1.5以下)と表され、具体的にはLiMn2O4、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoVO4などが挙げられる。層状構造を有するものは、一般的にLixMO2(Mは1種以上の遷移金属)と表される。具体的にはLiCoO2、LiNiO2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.9Co0.05Al0.05O2などが挙げられる。
【0049】
なかでも、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、下記組成式(1)で示される遷移金属酸化物であることがより好ましい。
Lia1Nib1Coc1Md1O2・・・(1)
(式(1)中、a1、b1、c1及びd1はそれぞれ、0.90≦a1≦1.10、0.
30≦b1≦0.98、0.01≦c1≦0.5、0.00≦d1≦0.50を満たす数値を示し、0.50≦b1+c1かつb1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(1)中、0.01≦d1≦0.50の数値を示すことが好ましい。
【0050】
さらに、下記組成式(2)で示される遷移金属酸化物であることが好ましい。
Lia2Nib2Coc2Md2O2・・・(2)
式(2)中、a2、b2、c2及びd2はそれぞれ、0.90≦a2≦1.10、0.70≦b2≦0.98、0.01≦c2<0.30、0.01≦d2<0.30を満たす数値を示し、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
特に、下記組成式(3)で示される遷移金属酸化物であることが好ましい。
Lia3Nib3Coc3Md3O2・・・(3)
式(3)中、a3、b3、c3及びd3はそれぞれ、0.90≦a2≦1.10、0.90≦b2≦0.98、0.01≦c2<0.30、0.01≦d2<0.30を満たす数値を示し、b3+c3+d3=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(3)で表されるリチウム遷移金属酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.50Co0.20Mn0.30O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.9Co0.05Al0.05O2等が挙げられる。
【0051】
上記の各組成式中、MはMn又はAlを含むことが好ましく、Alを含むことがより好ましい。リチウム遷移金属酸化物の構造安定性が高まり、繰り返し充放電した際の構造劣化が抑制されるためである。
【0052】
[2-2-1-2.異元素導入]
リチウム遷移金属複合酸化物は、上述の組成式に含まれる元素以外の元素(異元素)が導入されてもよい。
【0053】
[2-2-1-3.表面被覆]
上記正極活物質の表面に、正極活物質とは異なる組成の物質(表面付着物質)が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して、好ましくは1μmol/g以上であり、また、10μmol/g以上が好ましく、通常1mmol/g以下で用いられる。
本明細書においては、正極活物質の表面に、上記表面付着物質が付着したものも「正極活物質」という。
【0054】
[2-2-1-4.ブレンド]
なお、これらの正極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
[2-2-2.正極の構成と製造方法]
以下に、正極の構成と製造方法について述べる。本実施形態において、正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必
要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を、水系溶媒及び有機系溶媒等の液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成する塗布法により正極を得ることができる。また、例えば、上述の正極活物質をロール成形してシート電極としてもよいし、圧縮成形によりペレット電極としてもよい。
以下、正極集電体に順次スラリーの塗布及び乾燥する場合について説明する。
【0055】
[2-2-2-1.活物質含有量]
正極活物質層中、正極活物質の含有量は、通常80質量%以上、99.5質量%以下である。
【0056】
[2-2-2-2.電極密度]
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。集電体上に存在している正極活物質層の密度は、通常1.5g/cm3以上4.5g/cm3以下である。
【0057】
[2-2-2-3.導電材]
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素系材料;等が挙げられる。導電材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上50質量%以下含有するように用いられる。
【0058】
[2-2-2-4.結着剤]
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、例えば、塗布法により正極活物質層を形成する場合は、スラリー用の液体媒体に対して溶解又は分散される材料であれば、その種類は特に制限されないが、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等からポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマーなどが好ましい。
また、上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。なお、結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、結着剤として樹脂を用いる場合、その樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1万以上300万以下である。分子量がこの範囲であると電極の強度が向上し、電極の形成を好適に行うことができる。
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上80質量%以下である。
【0059】
[2-2-2-5.集電体]
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料が挙げられる。中でもアルミニウムが好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
正極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0060】
[2-2-2-6.正極板の厚さ]
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、正極板の厚さから集電体の厚さを差し引いた正極活物質層の厚さは、集電体の片面に対して通常10μm以上、500μm以下である。
【0061】
[2-2-2-7.正極板の表面被覆]
また、上記正極板は、その表面に、正極板とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよく、当該物質としては、正極活物質の表面に付着していてもよい表面付着物質と同じ物質が用いられる。
【0062】
[2-3.負極]
負極は、負極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
【0063】
[2-3-1.負極活物質]
負極に使用される負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵及び放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素系材料、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子、リチウム含有金属複合酸化物材料、並びにこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でもサイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素系材料、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子、及びLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物を使用するのが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0064】
[2-3-1-1.炭素系材料]
炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛及び樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。なかでも、天然黒鉛が好ましい。炭素系材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び/又はこれらに球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性又は充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛粒子が特に好ましい。
黒鉛粒子の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上、100μm以下である。
【0065】
[2-3-1-2.炭素系材料の物性]
負極活物質としての炭素系材料は、以下の(1)~(4)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1つを満たしていることが好ましく、複数を同時に満たすことが特に好ましい。
(1)X線回折パラメータ
炭素系材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.335nm以上0.360nm以下である。また、学振法によるX線回折で求めた炭素系材料の結晶子サイズ(Lc)は、通常1.0nm以上である。
(2)体積基準平均粒径
炭素系材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上、100μm以下である。
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素系材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上、1.5以下である。
また、炭素系材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上、100cm-1以下である。
(4)BET比表面積
炭素系材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m2・g-1以上100m2・g-1以下である。
また、負極活物質中に性質の異なる炭素系材料が2種以上含有されていてもよい。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、体積基準平均粒径、ラマンR値、ラマン半値幅又はBET比表面積を意味する。
好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素系材料を2種以上含有していること、及びX線パラメータが異なる炭素系材料を2種以上含有していること等が挙げられる。
【0066】
[2-3-1-3.Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子]
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子は、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、容量とサイクル寿命の点から、例えば、Sb、Si、Sn、Al、As、及びZnからなる群より選ばれる金属及び/又は半金属元素の単体であることが好ましい。また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子が金属を2種類以上含有する場合、当該粒子は、これらの金属の合金からなる合金粒子であってもよい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素の化合物としては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等が挙げられる。これらは、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を2種以上含有していてもよい。
なかでも、金属Si(以下、Siと記載する場合がある)又はSi含有無機化合物が高容量化の点で、好ましい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素の化合物は、後述する負極の製造時で既にLiと合金化されていてもよく、Si又はSi含有無機化合物が高容量化の点で、好ましい。
本明細書では、Si又はSi含有無機化合物を総称してSi化合物と呼ぶ。Si化合物としては、具体的には、SiOx(0≦x≦2)等が挙げられる。Liと合金化された金属化合物としては、具体的には、LiySi(0<y≦4.4)、Li2zSiO2+z(0<z≦2)等が挙げられる。Si化合物としてSi酸化物(SiOx1、0<x1≦
2)が、黒鉛と比較して理論容量が大きい点で好ましく、非晶質SiもしくはナノサイズのSi結晶が、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能である点で好ましい。
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子の平均粒子径(d50)は、サイクル寿命の観点から、通常0.01μm以上、10μm以下である。
【0067】
[2-3-1-4.Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物]
負極活物質として用いられるLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物は、前述のLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と前述の黒鉛粒子が互いに独立した粒子の状態で混合されている混合体でもよいし、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子が黒鉛粒子の表面又は内部に存在している複合体でもよい。
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と黒鉛粒子の合計に対するLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子の含有割合は、通常0.5質量%以上、20質量%以下である。
【0068】
[2-3-1-5.リチウム含有金属複合酸化物材料]
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタンを含むリチウム含有金属複合酸化物材料が好ましく、リチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)がより好ましく、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が出力抵抗を大きく低減するので特に好ましい。
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウム及び/又はチタンが、他の金属元素、例え
ば、Al、Ga、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよい。
リチウムチタン複合酸化物として、Li4/3Ti5/3O4、Li1Ti2O4及びLi4/5Ti11/5O4が好ましい。また、リチウム及び/又はチタンの一部が他の元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物として、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましい。
【0069】
[2-3-2.負極の構成と製造方法]
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、負極活物質に、結着剤、水系溶媒及び有機系溶媒等の液体媒体、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスして負極活物質層を形成することによって作製することができる。
【0070】
[2-3-2-1.活物質含有量]
負極活物質の、負極活物質層中の含有量は、通常80質量%以上、99.5質量%以下である。
【0071】
[2-3-2-2.電極密度]
塗布、乾燥によって得られた負極活物質層は、負極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質層の密度は、通常1g・cm-3以上、2.2g・cm-3以下である。
【0072】
[2-3-2-3.増粘剤]
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上、5質量%以下である。
【0073】
[2-3-2-4.結着剤]
負極活物質を結着する結着剤としては、非水系電解液や電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状高分子ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素系高分子等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
負極活物質に対する結着剤の割合は、通常0.1質量%以上20質量%以下である。
特に、結着剤がSBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対する結着剤の割合は、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。また、結着剤がポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する結着剤の割合は、好ましくは1質量%以上、15質量%以下である。
【0074】
[2-3-2-5.集電体]
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメ
ッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
負極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0075】
[2-3-2-6.負極板の厚さ]
負極(「負極板」ともいう。)の厚さは用いられる正極(「正極板」ともいう。)に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、負極材の厚さから集電体厚さを差し引いた負極活物質層の厚さは通常15μm以上、300μm以下である。
【0076】
[2-3-2-7.負極板の表面被覆]
また、上記負極板は、その表面に、負極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0077】
[2-4.セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。
【0078】
[2-5.電池設計]
[2-5-1.電極群]
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上、90%以下である。
【0079】
[2-5-2.集電構造]
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減する構造も好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0080】
[2-5-3.保護素子]
保護素子として、過大電流等による発熱とともに抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)素子、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0081】
[2-5-4.外装体]
非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではないが、軽量化の観点から、アルミニウム若しくはアルミニウム合金の金属、
又はラミネートフィルムが好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0082】
[2-5-5.形状]
また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例0083】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
<実施例1>
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、非水溶媒としてエチレンカーボネート(以下、ECと記載)、ジメチルカーボネート(以下、DMCと記載)、及び酢酸メチル(以下、MAと記載)の混合物(体積比20:50:30)を用い、電解質として十分に乾燥させたLiPF6を非水系電解液中の濃度1.3mol/Lで溶解させ、さらにビニレンカーボネート(以下、VCと記載)を非水系電解液全体に対し3.5質量%、モノフルオロエチレンカーボネート(以下、FECと記載)を非水系電解液全体に対し1.0質量%、リチウムビス(オキサラート)ボレートを非水系電解液全体に対し1.0質量%、及び1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物を非水系電解液全体に対し0.7質量%加えて実施例1の非水系電解液を調製した。
【0085】
[正極の作製]
正極活物質としてニッケル含有遷移金属酸化物(LiNi0.9Co0.05Al0.05O2)97質量部と、導電材としてアセチレンブラック1.5質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)1.5質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で、ディスパーザーで混合してスラリー化した。これを厚さ21μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。
【0086】
[負極の作製]
負極活物質として天然黒鉛粉末、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)、及び結着剤としてスチレン・ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン・ブタジエンゴムの濃度50質量%)を用い、ディスパーザーで混合してスラリー化した。このスラリーを厚さ12μmの銅箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして負極とした。なお、乾燥後の負極において、天然黒鉛:カルボキシメチルセルロースナトリウム:スチレン・ブタジエンゴム=98:1:1の質量比となるように作製した。
【0087】
[非水系電解液二次電池(パウチ型)の製造]
上記の正極、負極、及びポリプロピレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。
この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子が突設するように挿入した後、実施例1の非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行い、パウチ型電池を作製し、実施例1の非水系電解液二次電池とした。
【0088】
<実施例2>
1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物の代わりに1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を非水系電解液全体に対し0.4質量%用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の非水系電解液二次電池を作製した。
【0089】
<実施例3>
酢酸メチルの代わりにプロピオン酸メチルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の非水系電解液二次電池を作製した。
【0090】
<比較例1>
1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物及びリチウムビス(オキサラート)ボレートを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の非水系電解液二次電池を作製した。
【0091】
<比較例2>
1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の非水系電解液二次電池を作製した。
【0092】
<比較例3>
リチウムビス(オキサラート)ボレートを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の非水系電解液二次電池を作製した。
【0093】
<比較例4>
1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物の代わりに無水コハク酸を非水系電解液全体に対し0.8質量%用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の非水系電解液二次電池を作製した。
【0094】
<比較例5>
酢酸メチルの代わりにジメトキシエタンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の非水系電解液二次電池を作製した。
【0095】
<比較例6>
酢酸メチルの代わりにプロピオン酸プロピルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6の非水系電解液二次電池を作製した。
【0096】
<非水系電解液二次電池の評価>
[レート特性]
作製した上記各非水系電解液二次電池を、電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状態で、25℃において、0.05Cに相当する定電流で4時間充電を行い、0.2Cの定電流で2.5Vまで放電した。ここで、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、0.5Cとはその1/2倍の電流値を、また0.2Cとはその1/5の電流値を表す。
次に0.1Cに相当する定電流で4.1Vまで充電し、0.2Cの定電流で2.5Vまで放電し、さらに0.2Cに相当する定電流で4.1Vまで充電し、0.2Cの定電流で2.5Vまで放電し、その後、0.2Cで4.1Vまで定電流-定電圧充電(0.05Cカット)した。その後、45℃で、3日間経過した後、0.2Cの定電流で2.5Vまで放電した。その後、充電条件を0.2Cで4.2Vまで定電流-定電圧充電(0.05Cカット)することに統一して、2.5Vまでの1C放電容量と0.05C放電容量を測定した。1C放電容量/0.05C放電容量をレート特性とした。実施例1~3、比較例1~6のレート特性の評価結果を表1に示す。なお、表1には比較例1のレート特性を100として規格化した相対値をまとめた。
【0097】
[保存後容量維持率と高温保存ガス量]
上記レート特性の測定後に、再び4.2Vまで充電し、電池の体積をアルキメデスの原理を用いて測定した。その後、保存試験として85℃で、3日間静置した後、電池の体積を測定した。保存試験後の体積と保存試験前の体積の差から高温保存ガス量を算出した。電池の体積測定後、0.05Cの定電流で2.5Vまで放電した。このときの放電容量を保存後の容量とし、保存後の容量/保存前の容量を保存後容量残存率とした。実施例1~3、比較例1~6の保存後容量残存率及び高温保存ガス量の評価結果を表1に示す。なお、表1には比較例1の保存後容量残存率及び高温保存ガス量を100として規格化した相対値をまとめた。
【0098】
【0099】
表1から明らかなように、(1)オキサラート塩、(2)分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物、及び(3)炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルを含む電解液を備える実施例1~3の電池は、(1)オキサラート塩及び(2)分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物を含まない電解液を備える比較例1の電池、(2)分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物を含まない電解液を備える比較例2の電池、及び(1)オキサラート塩を含まない電解液を備える比較例3の電池と比較し、レート特性を同等に維持又はその低下を防ぎ、かつ保存後容量維持率を向上させ、高温保存ガス発生量を抑制することから、電池としての性能に優れることが分かる。
また、これと同様の理由から、(2)分子内に2つ以上の環状カルボン酸無水物骨格を有する化合物の代わりに単一の環状カルボン酸無水物骨格を有する無水コハク酸を含有する電解液を備える比較例4の電池や、(3)炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの代わりに同様の炭素数のエーテルを含有する電解液を備える比較例5の電池、(3)炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの代わりに高い炭素数の鎖状カルボン酸エステルである
プロピオン酸プロピルを含有する電解液を備える比較例6の電池と比べても、実施例1~3の電池は電池としての性能に優れることが分かる。