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  • 特開-分離装置 図1
  • 特開-分離装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129726
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】分離装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/60 20060101AFI20220830BHJP
   B01D 15/14 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
G01N30/60 B
B01D15/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028520
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】飯野 匡
(72)【発明者】
【氏名】野口 雅之
【テーマコード(参考)】
4D017
【Fターム(参考)】
4D017BA11
4D017CA03
4D017CA05
4D017CA13
4D017CB01
4D017DA03
4D017DB02
4D017EA05
4D017EB01
(57)【要約】
【課題】
分離解対象物を含む混合物から分離解対象物の分離において、処理能力及び分離能力が高い分離装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
分離装置は、充填剤を収容する円筒状のカラムと、前記カラムの一端側を閉塞する上端部と、前記カラムの他端側を閉塞する下端部と、を有し、前記上端部に、流入口が設けられ、前記下端部に、流出口が設けられ、前記流入口が二つ以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤を収容する円筒状のカラムと、前記カラムの一端側を閉塞する上端部と、前記カラムの他端側を閉塞する下端部と、を有し、
前記上端部に、流入口が設けられ、
前記下端部に、流出口が設けられ、
前記流入口が二つ以上であることを特徴とする分離装置。
【請求項2】
前記流入口は円形であり、前記流入口の直径は、前記カラムの内径の0.05~0.30倍であることを特徴とする請求項1に記載の分離装置。
【請求項3】
前記流入口は、お互いの中心と中心の距離が前記カラムの内径の0.20~0.80倍となるように形成される請求項1または2に記載の分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離装置、特に、分離性能を向上させると共に、大型化に適した分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶離溶媒等の移動相をポンプなどによって加圧してカラムを通過させ、分離対象物質を含む混合物(以下、「混合物」ともいう)とカラムに充填される充填剤等の固定相及び移動相との相互作用(吸着、分配、イオン交換、サイズ排除など)の差を利用して混合物から分離対象物質を分離する分離装置は食品、化学、製薬、臨床化学などの分野において広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、弱アニオン交換型の固定相と、両性イオン交換型の固定相、及びアイソクラティックモードがアルコール系有機溶剤の移動相とを用いて、キラルアミノ酸を分離する液体クロマトグラフィーが開示されている。また、特許文献2には、1,2,4-トリメチルベンゼンまたはテトラリンを溶離溶媒として、分離カラムを利用して、フラーレン混合物からC60フラーレンを分離することが記載されている。
【0004】
なお、上部に分離対象物質を含む試料の流入口を設け、下部に試料の流出口を複数設けると共に、内部に充填剤を充填した大型化に適した液体クロマトグラフ分離装置も提案された(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-100906号公報
【特許文献2】特開2005-187250号公報
【特許文献3】特開平8-29405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、分離装置には、流入口の直径よりも充填剤を充填したカラムの内径が大きいことが一般的であり、特に大型化した分離装置に対して、混合物と溶媒からなる混合液(以下、「混合液」ともいう)や溶離溶媒等の液体をカラム内に導入させる流入口が一つのみ配置されると、液体が流入口の直下にある一定範囲の充填剤に集中的に流れ、充填剤の一部分しか分離対象物質の分離に利用されず、充填剤の利用率が低いという課題があった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、充填剤の利用率を向上させることにより、処理能力(処理できる混合物の質量)及び分離能力(得た分離対象物質の純度)が高い分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)充填剤を収容する円筒状のカラムと、前記カラムの一端側を閉塞する上端部と、前記カラムの他端側を閉塞する下端部と、を有し、前記上端部に流入口が設けられ、前記下端部に流出口が設けられ、前記流入口が二つ以上であることを特徴とする分離装置。
(2)前記流入口は円形であり、前記流入口の直径は、前記カラムの内径の0.05~0.30倍であることを特徴とする前項(1)に記載の分離装置。
(3)前記流入口は、お互いの中心と中心の距離が前記カラムの内径の0.20~0.80倍となるように形成される前項(1)または(2)に記載の分離装置。
【0009】
本発明において、液体を導入する流入口を二つ以上とすると、液体が流れる充填剤の範囲が拡大され、より多くの充填剤が混合液や溶離溶媒等と接触でき、すなわち、より多くの充填剤が混合物の吸着や溶離等の相互作用に寄与できるため、分離装置の処理能力及び分離能力が向上できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、混合物の処理能力及び分離能力が高い分離装置を提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る分離装置10の一例を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る上端部22の流入口24の形状及び配置を例示する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
まず、本発明の一実施形態に係る分離装置について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る分離装置の一例を示す断面図である。図2は、図1に示す上端部22の流入口24の形状及び配置を例示する平面図である。
【0014】
本実施形態の分離装置10は、中空円筒形のカラム21と、このカラム21の一方の端面を閉塞する円形の上端部22と、カラム21の他方の端面を閉塞する円形の下端部23とを有する。分離装置10は、鉛直方向に起立した状態で配置されている。カラム21と、上端部22と、下端部23とは、例えば、ステンレス等の金属によって形成されてもよい。
【0015】
上端部22には、混合物を含む混合液や溶離溶媒などの液体を分離装置10内に導入する流入口24が二つ以上設けられている。流入口24は導入配管31と接続されている。また、下端部23には、液体を流出させる流出口25が形成されている。流出口25は流出配管32と接続している。なお、カラム21の内部には、充填剤26が配されている。さらに、充填剤26と下端部23の間に、目皿部27が配置されてもよい。
【0016】
カラム21の内径dは、好ましく10.0mm~600.0mmであり、より好ましくは、20.0mm~400.0mmである。カラム21の内径dが10.0mm以上であると、一回で処理できる混合物の量が多くなり、効率的である。カラム21の内径dが、600.0mm以下であると、充填剤を均一的に充填することが容易である。
【0017】
本実施形態の上端部22は、例えば、ステンレス製の円板であり、図2のように流入口24が四つ設けられている。上端部22において、四つの流入口24は、上端部22の中心からカラム21の内半径(d/2)を二等分した位置を円周にした仮想円に均等な距離で配置されている。
【0018】
また、流入口24の形状は特に限定されないが、本実施形態に係る流入口24は、円形である。
流入口24の直径はカラム21の内径dの0.05~0.30倍であることが好ましく、0.07~0.20倍であることがより好ましい。ただし、カラム21の内径dの0.05倍が、3.0mmより小さければ、流入口24の直径が3.0mmになるように形成される。流入口24の直径がこの範囲内であれば、混合物を含む混合液や溶離溶媒などの液体を分離装置10内に導入する際の流速が制御しやすくなるため、好ましい。
【0019】
また、本実施形態では、図2に示すように、四つの流入口24は、お互いの中心と中心の距離は、カラム21の内径dの0.35倍と、0.50倍となっている。
【0020】
下端部23は、例えば、ステンレス製の円板で、その中心に流出口25が一つ設けられている構造を有してもよい。
【0021】
充填剤26は、混合物から分離対象物質を吸着、脱着して分離できるものであれば、特に限定しない。例えば、球状または破砕状のシリカゲル、アルミナ粒子、活性炭紛、ポリマー粒子等が挙げられる。
【0022】
こうした充填剤26は、カラム21の内部のほぼ一杯に充填され、カラム21の内部形状に倣った円柱状の充填剤26からなる層が形成される。
【0023】
なお、上述した実施形態では、流入口24は四つであり、カラム21の内半径を二等分した位置を円周にした仮想円に均等な距離で配置されているが、流入口24が四つに限定されるものではなく、二つ、三つ、四つ以上であってもよい。ただし、混合液や溶離溶媒などの液体を分離装置10内に導入する際の操作性を考慮して、流入口24は2~20個が好ましく、2~10個がより好ましい。また、流入口24のお互いの中心と中心の距離は、カラム21の内径dの0.20~0.80倍であることが好ましく、0.30~0.70倍であることがより好ましい。この範囲内であれば、流入口24が上端部22の一ヶ所に集中せずに、かつ、上端部22の周縁部に偏在しすぎずにお互い離れるように設けられるため、液体が流れる充填剤の範囲が拡大され、より多くの充填剤が混合物を含む混合液や溶離溶媒などの液体と接触でき、混合物の吸着及び溶離に寄与することができる。
【0024】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0025】
以下、フラーレン混合物から分離対象物質C60フラーレン(以下、「C60」ともいう)を分離する実施例及び比較例を用いて、本実施形態の分離装置の効果をより明らかにする。なお、本発明は、実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0026】
(実施例1)
図1及び図2に示す分離装置10を用いてフラーレン混合物から、分離対象物質C60を分離した。
【0027】
充填剤として、市販の液体クロマトグラフィー用シリカゲル(富士ゲル販売株式会社、スーパーマイクロビーズ、平均粒子径30μm)を利用した。シリカゲル250gをルツボに入れて電気炉で1000℃、2時間焼成し、ビーカーに移し取り、22℃の水浴中で1,2,4-トリメチルベンゼン(丸善石油化学株式会社製)0.6Lを撹拌しながら5分間かけてゆっくりと添加して充填剤スラリーを作製した。
【0028】
カラム21はSUS304製で、内径は6.80cm、高さは10.0cmである。上端部22と下端部23は、SUS304製の円板であり、厚みは5mmである。上端部22に、図2に示すように、四つの流入口24が配置されていて、それぞれの直径は5mmである
【0029】
また、下端部23の上に目皿を入れ、目皿の上に直径が6.80cm、目開き寸法が5μmのフィルター層(PTFE製メンブランフィルター)を置き、カラム21に取り付けてネジで固定した。下端部23に、内径8mmの流出口25が設けられていて、流出配管32と接続する。上端部22を取り外し、カラム21の側面を叩きながら、上記充填剤スラリーを分離装置10の中に注ぎ込み、流出口25から減圧吸引し、スラリー中の1,2,4-トリメチルベンゼンを抜き出しながらシリカゲルベッドを作製した。
【0030】
シリカゲルベッドの上部が液面より上に出る直前までトリメチルベンゼンを抜き、スラリーを追加する操作を繰り返しながら層高98mmのシリカゲルベッドを作製し、上端部22を取り付けてネジで固定した。その後、各流入口24はそれぞれ導入配管31と接続させた。
【0031】
フラーレン混合物(混合比:C60/C70/C70以上の高次フラーレン=70/20/10質量%;フロンティアカーボン株式会社製)45gと、溶離溶液1,2,4-トリメチルベンゼン500mLとを混合して、スリーワンモータで60minを攪拌して混合液を作製した。その混合液は加圧ろ過により不溶成分を除去した。
【0032】
送液ポンプを駆動し、導入配管31を介して、四つの流入口24から混合液を分離装置10に送液した。そして、流出口25からC60を含む溶離溶媒を回収した。流出口25におけるC60を含む溶離溶媒の流出速度は45mL/minになるように、送液ポンプの出力を調整した。
【0033】
混合液を送液した後に、同様な方法で、溶離溶媒として1,2,4-トリメチルベンゼンを四つの流入口24から分離装置10に送液した。流出口25から流出するC60を含む溶離溶媒の流出速度は250mL/minになるように、送液ポンプの出力を調整した。そして、溶離溶媒1,2,4-トリメチルベンゼンの送液量が75Lに到着した時点で送液ポンプを停止させた。
【0034】
流出口25から流出したC60を含む溶離溶媒に対して、ロータリーエバポレーターを用いて溶離溶媒1,2,4-トリメチルベンゼンを除去し、固体物を得た。得られた固体物を取り出して、160℃で24h真空乾燥させ、最終に固体物を32.25g回収した。
【0035】
液体クロマトグラフィー(HPLC:株式会社島津製作所製)を用いて、固体物中のC60の含有率(質量%)を測定した。その結果、固体物中のC60の含有率は91.2質量%であった。この結果から、固体物中のC60の含有量は29.41gであることが分かった。
【0036】
(実施例2)
混合液を分離装置10に送液した際に、流出口25におけるC60を含む溶離溶媒の流出速度は57mL/minになるように、送液ポンプの出力を調整した。前記以外は、実施例1と同様にC60を分離した。結果として、固体物を32.68g回収して、固体物中のC60の含有率は90.5質量%であった。この結果から、固体物中のC60の含有量は29.58gであることが分かった。
【0037】
(比較例1)
中心部に、直径10mmの流入口24が一つのみ設けられた上端部22を用いた以外は、実施例1と同様に、C60を分離した。結果として、固体物を35.74g回収して、固体物中のC60の含有率は81.5質量%であった。この結果から、固体物中のC60の含有量は29.13gであることが分かった。
【0038】
実施例1,2は、比較例1と比べて、得た固体物中のC60の含有率が向上していることが分かった。すなわち、実施例1,2の分離装置は、比較例1の分離装置より、C60の分離能力が高いことが確認できた。また、比較例1は、実施例1,2と比べて、得た固体物の質量は多いことにより、混合液中のC70及びC70以上の高次フラーレンの含有量は比較例1の分離装置が吸着できる量を超えたことが分かった。つまり、比較例1の分離装置が処理できるフラーレン混合物の量は、実施例1,2の分離装置より少ない。これにより、実施例1,2の分離装置のフラーレン混合物の処理能力が優れていることが分かった。
【符号の説明】
【0039】
10…分離装置
21…カラム
22…上端部
23…下端部
24…流入口
25…流出口
26…充填剤
27…目皿
31…導入配管
32…流出配管


図1
図2