(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129740
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
B60C19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028544
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】青木 大地
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA08
3D131BA03
3D131BA05
3D131BA18
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB04
3D131BB05
3D131BB06
3D131BB07
3D131BC36
3D131CB11
3D131GA19
3D131LA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低温環境下で高速走行中に、大きな衝撃が加わった場合でも、電子部品取付部材のタイヤ表面からの剥離が生じ難い高い耐剥離性を有するタイヤを提供する。
【解決手段】電子部品を内蔵するための電子部品取付部材2が、タイヤ内側部材19の表面に取り付けられているタイヤであり、電子部品取付部材は、電子部品を収納する電子部品収納部と、電子部品取付部材をタイヤ内側部材の表面に取り付ける接合面を備える接合部とを備えており、接合部の0℃における複素弾性率E
*
r(MPa)、および、タイヤ内側部材の0℃における複素弾性率E
*
i(MPa)が、下記(式1)を満たしている。E
*
r/E
*
i<1・・・(式1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品を内蔵するための電子部品取付部材が、タイヤ内側部材の表面に取り付けられているタイヤであって、
前記電子部品取付部材は、前記電子部品を収納する電子部品収納部と、前記電子部品取付部材を前記タイヤ内側部材の表面に取り付ける接合面を備える接合部とを備えており、
前記接合部の0℃における複素弾性率E*
r(MPa)、および、前記タイヤ内側部材の0℃における複素弾性率E*
i(MPa)が、下記(式1)を満たしていることを特徴とするタイヤ。
E*
r/E*
i<1 ・・・・・・・・・・・・・(式1)
【請求項2】
前記タイヤ内側部材の0℃における損失正接(0℃tanδi)が、0.55以下であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記タイヤ内側部材の損失正接(0℃tanδi)が、0.35以下であることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
トレッド部の半径方向内側に、少なくとも1層のカーカス層を有しており、
半径方向最内側に位置するカーカス層の半径方向内側面から、前記タイヤ内側部材の半径方向内側面までの厚みdi(mm)が、0.6mm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記接合部のガラス転移点Tgr(℃)と、前記タイヤ内側部材のガラス転移点Tgi(℃)とが、下記(式2)を満たしていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のタイヤ。
Tgi-Tgr<0 ・・・・・・・・・・・・・(式2)
【請求項6】
前記電子部品取付部材の前記電子部品収納部において、前記接合面と対向する側が、開放されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記電子部品取付部材が、予め研磨処理されたタイヤ内側部材の表面に、取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記電子部品取付部材が、タイヤ内側部材の表面に、接着剤を用いて取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項9】
タイヤ断面において、トレッド接地幅を形成する両接地端間を4等分する線をタイヤ半径方向に平行に延長した線で区切られる4つの領域のうち、タイヤ赤道面に最も近い中央2領域内に、前記電子部品取付部材の中心が位置していることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
乗用車用タイヤであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品が内蔵された電子部品取付部材が、タイヤ内腔部に配置されたタイヤ内側部材の表面に設けられているタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を快適に走行させるためには、装着されたタイヤの空気圧が適切に管理されていることが重要であると考えられ、近年、内部にタイヤ圧力監視システム(Tire Pressure Monitoring System:TPMS)を装着することが一般的になりつつある(例えば、特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-016185号公報
【特許文献2】特開2018-199396号公報
【特許文献3】特開2019-023594号公報
【特許文献4】特開2019-026218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
TPMSのようなセンサは、一般的に金属製の電子部品であるため、ゴム製のタイヤに直接取り付けた場合、転動時に剥離することが懸念される。特に、低温環境下で高速走行中に段差に乗り上げるなど大きな衝撃が加わった場合、電子部品取付部材がタイヤ表面から剥離してしまうことが懸念される。
【0005】
そこで、本発明は、低温環境下で高速走行中に、大きな衝撃が加わった場合でも、電子部品のタイヤ表面からの剥離が生じ難い優れた耐剥離性を有するタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
請求項1に記載の発明は、
電子部品を内蔵するための電子部品取付部材が、タイヤ内側部材の表面に取り付けられているタイヤであって、
前記電子部品取付部材は、前記電子部品を収納する電子部品収納部と、前記電子部品取付部材を前記タイヤ内側部材の表面に取り付ける接合面を備える接合部とを備えており、
前記接合部の0℃における複素弾性率E*
r(MPa)、および、前記タイヤ内側部材の0℃における複素弾性率E*
i(MPa)が、下記(式1)を満たしていることを特徴とするタイヤである。
E*
r/E*
i<1 ・・・・・・・・・・・・・(式1)
【0008】
請求項2に記載の発明は、
前記タイヤ内側部材の0℃における損失正接(0℃tanδi)が、0.55以下であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、
前記タイヤ内側部材の損失正接(0℃tanδi)が、0.35以下であることを特徴とする請求項2に記載のタイヤである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、
トレッド部の半径方向内側に、少なくとも1層のカーカス層を有しており、
半径方向最内側に位置するカーカス層の半径方向内側面から、前記タイヤ内側部材の半径方向内側面までの厚みdi(mm)が、0.6mm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のタイヤである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、
前記接合部のガラス転移点Tgr(℃)と、前記タイヤ内側部材のガラス転移点Tgi(℃)とが、下記(式2)を満たしていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のタイヤである。
Tgi-Tgr<0 ・・・・・・・・・・・・・(式2)
【0012】
請求項6に記載の発明は、
前記電子部品取付部材の前記電子部品収納部において、前記接合面と対向する側が、開放されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のタイヤである。
【0013】
請求項7に記載の発明は、
前記電子部品取付部材が、予め研磨処理されたタイヤ内側部材の表面に、取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のタイヤである。
【0014】
請求項8に記載の発明は、
前記電子部品取付部材が、タイヤ内側部材の表面に、接着剤を用いて取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のタイヤである。
【0015】
請求項9に記載の発明は、
タイヤ断面において、トレッド接地幅を形成する両接地端間を4等分する線をタイヤ半径方向に平行に延長した線で区切られる4つの領域のうち、タイヤ赤道面に最も近い中央2領域内に、前記電子部品取付部材の中心が位置していることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のタイヤである。
【0016】
請求項10に記載の発明は、
乗用車用タイヤであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のタイヤである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低温環境下で高速走行中に、大きな衝撃が加わった場合でも、電子部品のタイヤ表面からの剥離が生じ難い優れた耐剥離性を有するタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るタイヤの構成を示す断面図である。
【
図2】(A)は、本発明の他の実施の形態に係るタイヤのトレッドの表面の形状を示す図であり、(B)は、本発明の他の実施の形態に係るタイヤの構成を示す断面図である。
【
図3】(A)は、本発明の一実施の形態における電子部品取付部材を接合面と対向する側から見た斜視図であり、(B)は、接合面側から見た斜視図である。
【
図4】本発明の他の実施の形態における電子部品取付部材を接合面と対向する側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1]本発明に係るタイヤの特徴
最初に、本発明に係るタイヤの特徴について説明する。
【0020】
1.概要
本発明に係るタイヤは、電子部品を内蔵するための電子部品取付部材が、タイヤ内腔部に配置されたタイヤ内側部材の表面に取り付けられているタイヤである。そして、電子部品取付部材は、電子部品を収納する電子部品収納部と、電子部品取付部材をタイヤ内側部材の表面に取り付ける接合面を備える接合部とを備えている。さらに、接合部の0℃における複素弾性率E*
r(MPa)、および、タイヤ内側部材の0℃における複素弾性率E*
i(MPa)が、下記(式1)を満たしている。
E*
r/E*
i<1 ・・・・・・・・・・・・・(式1)
【0021】
上記のようなタイヤとすることにより、後述するように、低温環境下で高速走行中に、大きな衝撃が加わった場合でも、電子部品取付部材のタイヤ表面からの剥離が生じ難い優れた耐剥離性を有するタイヤを提供することができる。
【0022】
なお、上記の記載において、E*
rおよびE*
iは、例えば、GABO社製「イプレクサー(登録商標)」などの粘弾性測定装置を用いて、JIS K 6394の規定に準じて、測定温度:0℃、初期歪み:10%、動歪み:±1%、周波数:10Hz、変形モード:伸長の条件下で測定される値である。
【0023】
2.本発明に係るタイヤにおける効果発現のメカニズム
本発明に係るタイヤにおける効果発現のメカニズムは、以下のように考えられる。
【0024】
タイヤはゴムを用いて作製されるが、低温時において、ゴムは、通常、硬くなりやすく、走行中に発生するタイヤの変形に対して柔軟に対応することが難しくなる。このため、低温環境下で高速走行中に段差を乗り越えるなどして、タイヤに対して大きな衝撃が加わった場合、その衝撃がタイヤ内側部材を介して電子部品取付部材にも伝達されて、電子部品取付部材がタイヤから剥離して、走行中に外れてしまう恐れがある。
【0025】
そこで、本発明においては、電子部品取付部材の剛性を、タイヤ内側部材の剛性よりも低くしている。具体的には、接合部の0℃における複素弾性率E*
r(MPa)、および、タイヤ内側部材の0℃における複素弾性率E*
i(MPa)が、E*
r/E*
i<1(式1)を満たすようにしている。なお、E*
r/E*
iは0.95未満であるとより好ましく、0.9未満であるとさらに好ましい。また、E*
r/E*
iの下限は限定されないが、例えば、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であるとより好ましく、0.7以上であるとさらに好ましい。
【0026】
そして、具体的なE*
rとしては、例えば、1MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であるとより好ましく、20MPa以上であるとさらに好ましい。一方、40MPa以下であることが好ましく、35MPa以下であるとより好ましく、30MPa以下であるとさらに好ましい。
【0027】
そして、具体的なE*
iとしては、例えば、1MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であるとより好ましく、20MPa以上であるとさらに好ましい。一方、50MPa以下であることが好ましく、45MPa以下であるとより好ましく、40MPa以下であるとさらに好ましい。
【0028】
このように、電子部品取付部材の剛性をタイヤ内側部材の剛性よりも低く、即ち、E*
r/E*
i<1(式1)を満たすようにした場合、タイヤに対して大きな衝撃が加わったとしても、剛性の低い電子部品取付部材へはタイヤ内側部材が受けた衝撃が緩和されて伝達されるため、電子部品取付部材が柔軟に変形して、タイヤ表面からの剥離の発生を十分に抑制することができ、優れた耐剥離性を発揮させることができると考えられる。
【0029】
3.本発明に係るタイヤの好ましい態様
また、本発明に係るタイヤは、以下の態様を採ることが好ましい。
【0030】
(1)タイヤ内側部材の損失正接
前記したように、本発明に係るタイヤは、E*
r/E*
i<1(式1)を満たしているが、このとき、タイヤ内側部材の0℃における損失正接(0℃tanδi)は、0.55以下であることが好ましく、0.45以下であるとより好ましく、0.35以下であるとさらに好ましい。下限は限定されないが、例えば、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であるとより好ましく、0.3以上であるとさらに好ましい。
【0031】
タイヤ内側部材の0℃tanδが大きいと、タイヤ内側部材の発熱性が高くなり、高速走行時にタイヤ内側部材が軟化しやすくなり、その結果、電子部品取付部材の振幅が大きくなり、式(1)を満たすことによる耐剥離効果が減少すると考えられるためである。タイヤ内側部材の0℃tanδを小さな値に制御することにより、(式1)を満たすことによる衝撃緩和作用と合わさって、相乗的に耐剥離効果が向上すると考えられる。なお、この0℃tanδiは、上記したE*
rやE*
iの測定と同様に、例えば、GABO社製「イプレクサー(登録商標)」などの粘弾性測定装置を用いて、測定温度:0℃、初期歪み:10%、動歪み:±2.5%、周波数:10Hz、変形モード:引張の条件下で測定することができる。
【0032】
(2)カーカス層の内側面からタイヤ内側部材の内側面までの厚み
本発明に係るタイヤは、トレッド部の半径方向内側に、少なくとも1層のカーカス層を有しており、半径方向最内側に位置するカーカス層の半径方向内側面から、タイヤ内側部材の半径方向内側面までの厚みdi(mm)が、0.6mm以上であることが好ましい。なお、カーカス層とタイヤ内側部材には、種々の形態があり、例えば、カーカス層が2層ある場合や、カーカス層とタイヤ内側部材の間に他のゴム層が配置される場合等がある。そして、例えば、カーカス層とタイヤ内側部材であるインナーライナーの間に他のゴム層が配置される場合、厚みdiは、このゴム層の厚みを含む大きさとなる。
【0033】
厚みdiが不足していると、タイヤの外表面で受けた衝撃が、十分に緩和されないまま、電子部品取付部材に伝達されることになり、式(1)を満たすことによる耐剥離効果が減少すると考えられるためである。
【0034】
厚みdiを、0.6mm以上にすることで、タイヤの外表面で受けた衝撃を十分に緩和させることができ、(式1)を満たすことによる衝撃緩和作用と合わさって、相乗的に耐剥離効果が向上すると考えられる。このような観点から、厚みdiは、0.8mm以上であるとより好ましく、1.0mm以上であるとさらに好ましい。上限は限定されないが、例えば、30mm以下であることが好ましく、20mm以下であるとより好ましく、10mm以下であるとさらに好ましい。
【0035】
(3)電子部品取付部材およびタイヤ内側部材のガラス転移点
ゴムやプラスチックは、ガラス転移点(Tg)を境にして剛性、粘度等の物性が急激に変化するため、Tg付近で衝撃を吸収しやすいと考えられる。従って、接合部のガラス転移点Tgr(℃)は、タイヤ内側部材のガラス転移点Tgi(℃)よりも高くすることが好ましいと考えられる。即ち、Tgi-Tgr<0(式2)を満たすことが好ましい。これにより、高温度領域において、接合部によって、衝撃を吸収しやすくなると考えられる。なお、Tgi-Tgrは-5(℃)未満であることが好ましく、-10(℃)未満であるとさらに好ましい。また、Tgi-Tgrの下限は限定されないが、例えば、-90(℃)以上であることが好ましい。
【0036】
そして、具体的なTgiとしては、例えば、-100℃以上であることが好ましく、-70℃以上であるとより好ましく、-50℃以上であるとさらに好ましい。一方、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であるとより好ましく、-20℃以下であるとさらに好ましい。また、具体的なTgrとしても、同様に、例えば、-100℃以上であることが好ましく、-70℃以上であるとより好ましく、-50℃以上であるとさらに好ましい。一方、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であるとより好ましく、-20℃以下であるとさらに好ましい。
【0037】
[2]具体的な実施の形態
次に、本発明の具体的な実施の形態について説明する。なお、以下では、電子部品取付部材としてゴム製の電子部品取付部材、タイヤ内側部材としてインナーライナーを例に挙げて説明するが、上記した(式1)を満足する関係にあれば、特に限定されるものではなく、プラスチック製の電子部品取付部材であってもよく、また、インナーライナー以外のタイヤ内側部材であってもよい。
【0038】
1.タイヤの構成
図1は、本実施の形態に係るタイヤの構成を示す断面図である。
図1において、1はタイヤ、2は電子部品取付部材である。そして、11はトレッド、12はベルト、13はサイドウォール、14はカーカス層、15はビードコア、16はビードエイペックス、17はチェーファー、18はクリンチ、19はタイヤ内側部材(インナーライナー)、31は周方向溝である。また、Iはタイヤの内腔面、CLはタイヤの幅方向のセンターラインである。
【0039】
図1に示すように、電子部品取付部材2は、まず、タイヤの内腔面I、即ち、インナーライナー19の表面に配置されている。このとき、モニタリング情報を精度高く、安定して得るためには、電子部品取付部材が、タイヤ断面において、トレッド接地幅を形成する両接地端間を4等分する線をタイヤ半径方向に平行に延長した線で区切られる4つの領域のうち、タイヤ赤道面に最も近い中央2領域内に、電子部品取付部材の中心が位置していることが好ましい。
図1では、その一例として、電子部品取付部材2が、タイヤ内腔面のタイヤ幅方向中央部、即ち、センターラインCL上に取り付けられている例を示している。なお、図示しないが、電子部品は、電子部品取付部材2に内蔵されている。ここで、タイヤのセンターラインCL上は特に変形量が大きいため、CLと電子部品取付部材の中心とがずれていることが好ましく、そのずれ幅はタイヤ軸方向において1~50mmであることが好ましい。
【0040】
図2は、本発明の他の実施の形態に係るタイヤの図面であり、(A)はトレッドの表面の形状を示す図であり、(B)は、タイヤの構成を示す断面図である。
図2(A)において、VLはトレッド接地幅を形成する両接地端および両接地端を4等分する仮想線である。また、
図2(B)において、clは電子部品取付部材2の中心線であり、mは電子部品取付部材の中心のタイヤのセンターラインCLからのずれ幅である。そして、34、35は、仮想線VLで4等分された領域であり、34はタイヤ赤道面に最も近い領域、35はタイヤ軸方向外側の領域である。なお、
図2(A)において、32dは、中央部の横溝であり、32aは、タイヤ軸方向外側端部に飾り溝を備える横溝である。また、33はサイプである。
【0041】
本実施の形態のタイヤは、トレッド部の表面3のタイヤのセンターラインCL上、即ち赤道上に1本、その両側にそれぞれ1本の周方向溝31が形成されている。このように赤道上に周方向溝31が形成されているタイヤにおいては、両接地端および両接地端間を4等分する線をタイヤ半径方向に平行に延長した仮想線VLで区切られる4つの領域、具体的には両接地端間を4等分するタイヤ表面のプロファイル上の位置から、同プロファイルに垂直の延びる仮想線VLで区切られる4つの領域のうち、タイヤ赤道面に最も近い中央2領域34内に、前記電子部品取付部材の中心を位置させることが好ましい。
【0042】
ここで、「トレッド接地幅を形成する両接地端」とは、タイヤを「正規リム」に組み付け「正規内圧」を加えて、平板上に垂直姿勢で静止配置した後、「正規荷重」を負荷したときの平板との接触面におけるタイヤ軸方向最大直線距離を形成する端部を言い、具体的には、例えば、トレッドの表面に墨を塗ったタイヤに「正規荷重」を負荷して厚紙に押しつけ、転写させることにより特定することができる。
【0043】
さらに、前記両接地端間を4等分することで区切られた4つの領域のうち、タイヤ赤道面に最も近い中央2領域内に、電子部品取付部材が位置しているかは、例えば幅2センチ程度に切り出したセクション断面上に接地端位置を転記し、表面プロファイルに沿ってタイヤを4等分することにより確認することができる。
【0044】
また、トレッド部の表面に形成されている溝については、「正規リム」に組み付け「正規内圧」を加え、無負荷の状態においたタイヤのトレッドの表面に形成されるラジアスにより求められるトレッドプロファイルから知ることができ、具体的には、例えば、タイヤ半径方向に幅2センチ程度で切り出した、セクションのビード部を適用リム幅に合わせて固定することにより、簡易的に計測することができる。
【0045】
なお、「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMA(日本自動車タイヤ協会)であれば「JATMA YEAR BOOK」に記載されている適用サイズにおける標準リム、ETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)であれば「STANDARDS MANUAL」に記載されている“Measuring Rim”、TRA(The Tire and Rim Association, Inc.)であれば「YEAR BOOK」に記載されている“Design Rim”を指す。そして、規格に定められていないタイヤの場合には、リム組み可能であって、内圧が保持できるリム、即ちリム/タイヤ間からエア漏れを生じさせないリムの内、最もリム径が小さく、次いでリム幅が最も狭いものを指す。
【0046】
そして、「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE” を指す。
【0047】
「正規荷重」とは、前記各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、タイヤに負荷されることが許容される最大の質量を言い、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”とする。
【0048】
次に、電子部品取付部材2は、電子部品を収納する電子部品収納部と、電子部品取付部材2をインナーライナー19の表面に取り付ける接合面を備える接合部とを備えている。
【0049】
図3(A)は本実施の形態における電子部品取付部材2を接合面と対向する側から見た斜視図であり、
図3(B)は接合面側から見た斜視図である。また、
図4は、他の一実施の形態における電子部品取付部材2を接合面と対向する側から見た斜視図である。
【0050】
図3および
図4において、21は電子部品収納部であり、22は接合部である。そして、Aはインナーライナー19に接合される接合面、E
1は電子部品収納部21の接合面と対向する側の上端部、E
2は電子部品収納部の接合面側の下端部であり、Sは電子部品の収納スペースである。そして、
図3(A)において、Dは接合面の直型(外径)、Tは接合部の厚さ、Wはフランジの幅、Hは電子部品取付部材の厚さ(高さ)である。
【0051】
図3および
図4に示すように、電子部品収納部21は筒状に形成されており、その内側に電子部品の収納スペースSを備えている。また、電子部品収納部21の下端部E
2にフランジ状の接合部22が形成されており、接合部22の下面には接合面Aが形成されている。接合部22をフランジ状にすることにより、接合面Aの大きさを大きくして、タイヤ内側部材との間に十分な接着面積を確保できるため、接合強度をより高くすることができる。
【0052】
収納スペースSの横断面の形状、サイズおよび深さは、収納する電子部品の形状とサイズに応じて適宜決定される。横断面の形状としては、例えば、図示した円形の他に、楕円形、多角形など、適宜設定することができる。なお、筒の側壁は、接合部22に対して垂直ではなく、収納スペースSの横断面のサイズが下端部E2側で大きく、上端部E1側で小さくなるように、円錐台状に形成されていることが好ましい。
【0053】
電子部品収納部21の下端部E
2側は、開口して形成されていることが好ましく、これにより、例えば、センサを直接タイヤのタイヤ内側部材に接触させることができるため、より高い感度で正確な情報を取得することができる。一方、上端部E
1側は、
図3(A)に示すように開放されて開口していることが好ましく、これにより、電子部品を着脱自在に装着することができ、容易に交換することもできる。なお、
図4に示すように、上端部E
1側は閉塞していてもよく、この場合には、電子部品を収納スペースS内に密封して収納することができ、安定した環境に置くことができる。
【0054】
なお、接合面Aの直径(外径)Dは、20mm以上であることが好ましく、25mm以上であるとより好ましく、30mm以上であるとさらに好ましい。一方、60mm以下であることが好ましく、55mm以下であるとより好ましく、50mm以下であるとさらに好ましい。
【0055】
また、電子部品取付部材の厚さ(高さ)Hは、10mm以上であることが好ましく、15mm以上であるとより好ましく、20mm以上であるとさらに好ましい。一方、40mm以下であることが好ましく、35mm以下であるとより好ましく、30mm以下であるとさらに好ましい。
【0056】
また、接合部の厚さTは、0.5mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であるとより好ましく、0.8mm以上であるとさらに好ましい。一方、1.4mm以下であることが好ましく、1.3mm以下であるとより好ましく、1.2mm以下であるとさらに好ましい。
【0057】
また、フランジの幅Wは、4mm以上であることが好ましく、6mm以上であるとより好ましく、8mm以上であるとさらに好ましい。一方、16mm以下であることが好ましく、14mm以下であるとより好ましく、12mm以下であるとさらに好ましい。
【0058】
そして、電子部品と電子部品取付部材とを合わせた重量は、50g以下であることが好ましく、40g以下であるとより好ましく、30g以下であるとさらに好ましい。
【0059】
2.タイヤ内側部材(インナーライナー)
次に、具体的なタイヤ内側部材の一例としてインナーライナーについて説明するが、前記した通り、タイヤ内側部材はインナーライナーに限定されるものではない。
【0060】
(1)タイヤ内側部材(インナーライナー)を構成するゴム組成物
本実施の形態において、タイヤ内側部材(インナーライナー)は、例えば、以下の示す各配合材料が配合されたゴム組成物(インナーライナー用ゴム組成物)を用いて形成される。
【0061】
(a)ゴム成分
インナーライナー用ゴム組成物のゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムやブチル系ゴムを挙げることができる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記ゴムの内でも、空気遮断性および耐熱性に優れるという理由から、ブチル系ゴムを主たるゴム成分として含有することが好ましい。
【0062】
(a-1)ブチル系ゴム
ブチル系ゴムとしては、タイヤ工業で通常に使用されるものを好適に使用することができ、具体的には、通常のブチルゴム(IIR)の他、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)、フッ素化ブチルゴム(F-IIR)、臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体(Exxon Mobil Chemical社製のExxpro 3035)などのハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)などが挙げられる。これらの内でも、天然ゴムを含有せずとも硫黄架橋が進行しやすいという理由から、Br-IIRが好ましく使用される。
【0063】
また、ブチル系ゴムとして、再生ブチル系ゴムを併用することもできる。再生ブチル系ゴムは、通常、ハロゲン化されていないブチルゴム(レギュラーブチルゴム)の含有率が高いため、ハロゲン化ブチルゴムと併用することで、良好な空気遮断性、加硫速度を確保することができる。特に、再生ブチル系ゴムを含む配合に脂肪酸金属塩及び脂肪酸アミドの混合物を添加した場合、シート加工性、空気遮断性の性能バランスが、相乗的に顕著に改善され好ましい。
【0064】
再生ブチル系ゴムとは、タイヤのチューブや、タイヤ製造時に使用するブラダー等のブチル系ゴムを多く含むゴム製品の粉砕物、又は該粉砕物を加熱・加圧したものに含まれるブチル系ゴム分であり、ゴム成分の架橋結合を切断(脱硫処理)し、再加硫可能としたものを含む。一般的に、粉砕物中の約50質量%が再生ブチル系ゴムである。なお、再生ブチル系ゴム中には硫黄分も存在するが、架橋に関与しない程度に失活している。
【0065】
再生ブチル系ゴムの市販品としては、ブチルチューブを加圧条件下で加熱処理して製造された村岡ゴム(株)製のチューブ再生ゴムや、ブラダーを押し出し機で粉砕して得られる(株)カークエスト製のブラダー再生ゴムなどが挙げられる。これらの再生ブチル系ゴムは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
ゴム成分100質量部中におけるブチル系ゴムの含有量は、空気遮断性に優れるという理由から、70質量部以上であることが好ましく、75質量部以上であるとより好ましく、80質量部以上であるとさらに好ましい。上限としては特に限定されず、100質量部であってもよいが、シート加工性の観点から、95質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であるとより好ましい。
【0067】
なお、ここで、ゴム成分100質量部中における再生ブチル系ゴムの含有量は、再生ブチル系ゴムを用いることによるメリットの観点から、5質量部以上であることが好ましく、8質量部以上であるとより好ましい。一方、十分な空気遮断性、加硫速度の確保の観点から、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であるとより好ましい。
【0068】
そして、全ブチル系ゴム100質量部中、再生ブチル系ゴムの含有量は、7質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であるとより好ましい。一方、35質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であるとより好ましい。
【0069】
(a-2)イソプレン系ゴム
そして、ゴム成分には、シート加工性、空気遮断性をバランスよく向上できるという観点から、必要に応じて、イソプレン系ゴムが含有されていることが好ましい。
【0070】
イソプレン系ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム等が挙げられる。NRには、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)も含まれ、改質天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。また、NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、シート加工性、空気遮断性をバランスよく向上できるという理由から、NR、IRが好ましい。
【0071】
ゴム成分100質量部中のイソプレン系ゴムの含有量としては、シート加工性、空気遮断性のバランスを考慮すると、5質量部以上が好ましく、10質量部以上であるとより好ましい。一方、30質量部以下が好ましく、25質量部以下であるとより好ましい。
【0072】
(a-3)その他のゴム
また、ブチル系ゴム、イソプレン系ゴムの以外に、必要に応じて、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム等、タイヤ工業において一般的に使用するゴムを含有していてもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
(b)ゴム成分以外の配合材料
(b-1)樹脂成分
インナーライナー用ゴム組成物には、粘着性付与、ガラス転移温度(Tg)の調整、および、シート加工性などの観点から、樹脂成分を含有することが好ましい。具体的な樹脂成分としては、例えば、テルペン系樹脂、クマロンインデン樹脂などの芳香族炭化水素系樹脂、非反応性アルキルフェノール樹脂、C5樹脂、C9樹脂などの脂肪族炭化水素系樹脂などが挙げられ、2種以上を併用してもよい。なかでも、芳香族炭化水素系樹脂と脂肪族炭化水素系樹脂との組み合わせが好ましい。樹脂成分のゴム製分100質量部に対する含有量は、例えば、2質量部以上が好ましく、3質量部以上であるとより好ましい。一方、7質量部以下が好ましく、5質量部以下であるとより好ましい。
【0074】
テルペン系樹脂としては、ポリテルペン、テルペンフェノール、芳香族変性テルペン樹脂などが挙げられる。ポリテルペンは、テルペン化合物を重合して得られる樹脂およびそれらの水素添加物である。テルペン化合物は、(C5H8)nの組成で表される炭化水素およびその含酸素誘導体で、モノテルペン(C10H16)、セスキテルペン(C15H24)、ジテルペン(C20H32)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオールなどが挙げられる。
【0075】
ポリテルペンとしては、上述したテルペン化合物を原料とするα-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β-ピネン/リモネン樹脂などのテルペン樹脂の他、該テルペン樹脂に水素添加処理した水素添加テルペン樹脂も挙げられる。テルペンフェノールとしては、上記テルペン化合物とフェノール系化合物とを共重合した樹脂、および該樹脂に水素添加処理した樹脂が挙げられ、具体的には、上記テルペン化合物、フェノール系化合物およびホルマリンを縮合させた樹脂が挙げられる。なお、フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂としては、テルペン樹脂を芳香族化合物で変性して得られる樹脂、および該樹脂に水素添加処理した樹脂が挙げられる。なお、芳香族化合物としては、芳香環を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、不飽和炭化水素基含有フェノールなどのフェノール化合物;ナフトール、アルキルナフトール、アルコキシナフトール、不飽和炭化水素基含有ナフトールなどのナフトール化合物;スチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、不飽和炭化水素基含有スチレンなどのスチレン誘導体;クマロン、インデンなどが挙げられる。
【0076】
クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分として、クマロンおよびインデンを含む樹脂である。クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0077】
クマロンインデン樹脂の水酸基価(OH価)は、例えば、15mgKOH/g超、150mgKOH/g未満である。なお、OH価とは、樹脂1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、電位差滴定法(JIS K 0070:1992)により測定した値である。
【0078】
クマロンインデン樹脂の軟化点は、例えば、30℃超、160℃未満である。なお、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0079】
非反応性アルキルフェノール樹脂とは、鎖中のベンゼン環の水酸基のオルト位およびパラ位(特にパラ位)にアルキル鎖を有し、加硫時に架橋反応への寄与が小さいものを言い、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
C5樹脂とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂としては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0081】
C9樹脂とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。具体例としては、例えば、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。
【0082】
なお、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られるC5C9樹脂も使用することができ、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。
【0083】
(b-2)軟化剤
インナーライナー用ゴム組成物には、シート加工性の観点から、オイル(伸展油を含む)や液状ゴム等を軟化剤として含有することが好ましい。これらの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましい。また、9質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。なお、オイルの含有量には、ゴム(油展ゴム)に含まれるオイルの量も含まれる。
【0084】
オイルとしては、タイヤ工業において一般的に用いられるオイルであれば、特に限定されず、鉱物油(一般にプロセスオイルと言われる)、植物油脂、またはその混合物が挙げられる。鉱物油(プロセスオイル)としては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
なお、プロセスオイルを使用する場合には、アロマ成分の含有量の少ないものを使用することが好ましい。アロマ成分の含有量が少ないものを使用することにより、ブチルゴムとの相溶性が良好となり、ゴムシート表面へのブリードが抑えられ、成形粘着性の低下を抑えることができる。
【0086】
具体的なプロセスオイル(鉱物油)としては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0087】
軟化剤として挙げた液状ゴムとは、常温(25℃)で液体状態の重合体であり、かつ、固体ゴムと同様のモノマーを構成要素とする重合体である。液状ゴムとしては、ファルネセン系ポリマー、液状ジエン系重合体及びそれらの水素添加物等が挙げられる。
【0088】
ファルネセン系ポリマーとは、ファルネセンを重合することで得られる重合体であり、ファルネセンに基づく構成単位を有する。ファルネセンには、α-ファルネセン((3E,7E)-3,7,11-トリメチル-1,3,6,10-ドデカテトラエン)やβ-ファルネセン(7,11-ジメチル-3-メチレン-1,6,10-ドデカトリエン)などの異性体が存在する。
【0089】
ファルネセン系ポリマーは、ファルネセンの単独重合体(ファルネセン単独重合体)でも、ファルネセンとビニルモノマーとの共重合体(ファルネセン-ビニルモノマー共重合体)でもよい。
【0090】
液状ジエン系重合体としては、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)などが挙げられる。
【0091】
液状ジエン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、例えば、1.0×103超、2.0×105未満である。なお、本明細書において、液状ジエン系重合体のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0092】
液状ゴムの含有量(液状ファルネセン系ポリマー、液状ジエン系重合体等の合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1質量部超、100質量部未満である。
【0093】
液状ゴムとしては、例えば、クラレ(株)、クレイバレー社等の製品を使用できる。
【0094】
(b-3)充填剤
インナーライナー用ゴム組成物は、充填剤を含有することが好ましい。具体的な充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカなどが挙げられ、この内でも、カーボンブラックが、補強剤として好ましく使用でき、シリカを併用してもよい。
【0095】
(イ)カーボンブラック
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であるとより好ましく、30質量部以上であるとさらに好ましい。一方、100質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であるとより好ましく、80質量部以下であるとさらに好ましい。
【0096】
カーボンブラックとしては特に限定されず、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCFおよびECFのようなファーネスブラック(ファーネスカーボンブラック);アセチレンブラック(アセチレンカーボンブラック);FTおよびMTのようなサーマルブラック(サーマルカーボンブラック);EPC、MPCおよびCCのようなチャンネルブラック(チャンネルカーボンブラック);グラファイト等を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0097】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、シート加工性の観点から、例えば、10m2/g以上、70m2/g以下が好ましく、20m2/g以上、40m2/g以下であるとより好ましい。カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、例えば50ml/100g超、250ml/100g未満である。なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、ASTM D4820-93に従って測定され、DBP吸収量は、ASTM D2414-93に従って測定される。
【0098】
具体的なカーボンブラックとしては特に限定されず、N550、N660、N762等が挙げられる。市販品としては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱化学(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
(ロ)シリカ
インナーライナー用ゴム組成物は、必要に応じて、さらに、シリカを含んでいてもよく、通常、シランカップリング剤と共に使用される。しかし、シリカを使用した場合には、シートを押出成形する際、シランカップリング剤に覆われていないシリカが再凝集してシート加工性の悪化を招く恐れがあるため、可能であれば、使用しないことが好ましい。
【0100】
使用する場合、シリカのBET比表面積は、140m2/g超が好ましく、160m2/g超がより好ましい。一方、250m2/g未満が好ましく、220m2/g未満であることがより好ましい。また、ゴム成分100質量部に対する前記シリカの含有量は、5質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、25質量部以上がさらに好ましい。一方、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。なお、上記したBET比表面積は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定されるN2SAの値である。
【0101】
シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0102】
シリカとしては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0103】
なお、シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのグリシドキシ系;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
シランカップリング剤としては、例えば、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。
【0105】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、例えば、3質量部超、25質量部未満である。
【0106】
(ハ)その他の充填剤
インナーライナー用ゴム組成物には、上記したカーボンブラック、シリカの他に、タイヤ工業において一般的に用いられている、例えば、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカ等の充填剤をさらに含有してもよい。中でも、空気遮断性およびシート加工性に優れる扁平水酸化アルミニウムが好ましい。なお、これらの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、200質量部未満である。
【0107】
(b-4)加工助剤
インナーライナー用ゴム組成物には、加工助剤として、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物を含有することが好ましい。これにより、シート加工性と空気遮断性とのバランスを適切なものにすることができる。
【0108】
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、特に限定されないが、好ましくは炭素数6~28、より好ましくは炭素数10~25、さらに好ましくは炭素数14~20の飽和または不飽和脂肪酸を挙げることができ、具体的には、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ネルボン酸等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を混合して用いることができる。なかでも、飽和脂肪酸が好ましく、炭素数14~20の飽和脂肪酸がより好ましい。
【0109】
脂肪酸金属塩を構成する金属としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、ニッケル、モリブデン等が挙げられる。なかでも、亜鉛、カルシウムが好ましい。
【0110】
脂肪酸アミドとしては、飽和脂肪酸アミドでも不飽和脂肪酸アミドでもよい。飽和脂肪酸アミドとしては、N-(1-オキソオクタデシル)サルコシン、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等が挙げられる。一方、不飽和脂肪酸アミドとしては、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。
【0111】
加工助剤のゴム成分100質量部に対する含有量としては、0.8質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であるとより好ましく、1.2質量部以上であるとさらに好ましい。一方、3.2質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であるとより好ましく、2.8質量部以下であるとさらに好ましい。
【0112】
(b-5)老化防止剤
インナーライナー用ゴム組成物は、老化防止剤を含むことが好ましい。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.2質量部以上であることが好ましく、0.7質量部以上であるとより好ましい。一方、5.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であるとより好ましく、2.0質量部以下であるとさらに好ましい。
【0113】
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、6-アニリノ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、ポリ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンなどのキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
なお、老化防止剤としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0115】
(b-6)ステアリン酸
インナーライナー用ゴム組成物は、ステアリン酸を含んでもよい。ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部超、10.0質量部未満である。ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、NOF社、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0116】
(b-7)酸化亜鉛
インナーライナー用ゴム組成物は、酸化亜鉛を含んでもよい。酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部超、10質量部未満である。酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0117】
(b-8)架橋剤および加硫促進剤
インナーライナー用ゴム組成物は、硫黄等の架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、10.0質量部未満である。
【0118】
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0119】
なお、硫黄としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0120】
硫黄以外の架橋剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス社製のKA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0121】
インナーライナー用ゴム組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.3質量部超、10.0質量部未満である。
【0122】
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0123】
(2)タイヤ内側部材(インナーライナー)の作製
前記インナーライナー用ゴム組成物は、一般的な方法、例えば、ゴム成分とカーボンブラック等の充填剤とを混練するベース練り工程と、前記ベース練り工程で得られた混練物と架橋剤とを混練する仕上げ練り工程とを含む製造方法により作製される。
【0124】
混練は、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどの公知の(密閉式)混練機を用いて行うことができる。
【0125】
ベース練り工程の混練温度は、例えば、50℃超、200℃未満であり、混練時間は、例えば、30秒超、30分未満である。ベース練り工程では、上記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、オイル等の軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫促進剤などを必要に応じて適宜添加、混練してもよい。
【0126】
仕上げ練り工程では、前記ベース練り工程で得られた混練物と架橋剤とが混練される。仕上げ練り工程の混練温度は、例えば、室温超、80℃未満であり、混練時間は、例えば、1分超、15分未満である。仕上げ練り工程では、上記成分以外にも、加硫促進剤、酸化亜鉛等を必要に応じて適宜添加、混練してもよい。
【0127】
このとき、例えば、カーボンブラックなどの充填剤の配合量を調整したり、オイルや樹脂成分の配合量を調整することによって、インナーライナーの0℃におけるE*およびtanδを、前記した条件を満たすように、調整することができる。また、例えば、樹脂成分の種類や配合量を調整することによって、インナーライナーのガラス転移温度(Tgi)を調整することができる。例えば、充填剤を増やすことでE*やtanδを高くすることができるし、また、例えば、ゴム成分よりもTgの高い樹脂を配合することでTgを高くすることができる。
【0128】
そして、得られたインナーライナー用ゴム組成物を所定の形状に成形することにより、インナーライナーを作製する。
【0129】
3.電子部品取付部材
次に、具体的な電子部品取付部材の一例としてゴム製の電子部品取付部材について説明するが、前記した通り、ゴム製に限定されるものではない。
【0130】
(1)電子部品取付部材を構成するゴム組成物
電子部品取付部材を構成するゴム組成物(電子部品取付部材用ゴム組成物)は、前記インナーライナー用ゴム組成物の場合と同じ配合材料を用いて形成することができるが、前記インナーライナー用ゴム組成物とは異なるゴム成分、例えば、Tgが低く低温特性に優れたBRと、機械的特性に優れたNBRとを主たるゴム成分として使用してもよく、また、その他の、例えば、イソプレン系ゴム、SBR、SIBR、CR等のジエン系ゴムを適宜、使用してもよい。
【0131】
なお、ゴム成分としてBRとNBRとを使用する場合、ゴム成分100質量部中におけるBRの含有量は、例えば、40~60質量部であり、NBRの含有量は、例えば、40~60質量部である。
【0132】
ここで、BRの重量平均分子量は、例えば、10万超、200万未満である。BRのビニル結合量は、例えば1質量%超、30質量%未満である。BRのシス含量は、例えば1質量%超、98質量%以下である。BRのトランス量は、例えば、1質量%超、60質量%未満である。なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0133】
BRとしては特に限定されず、高シス含量(シス含量が90%以上)のBR、低シス含量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。BRは、非変性BR、変性BRのいずれでもよく、変性BRとしては、例えば、下記式で表される化合物(変性剤)により変性されたBRを使用できる。
【0134】
【0135】
なお、式中、R1、R2およびR3は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(-COOH)、メルカプト基(-SH)またはこれらの誘導体を表す。R4およびR5は、同一または異なって、水素原子またはアルキル基を表す。R4およびR5は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。
【0136】
上記式で表される化合物(変性剤)により変性された変性BRとしては、重合末端(活性末端)を前記式で表される化合物により変性されたBRを挙げることができる。
【0137】
R1、R2およびR3としてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)。R4およびR5としてはアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1~5、より好ましくは2~4、更に好ましくは3である。また、R4およびR5が結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4~8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。
【0138】
上記変性剤の具体例としては、2-ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0139】
また、変性BRとしては、以下の化合物(変性剤)により変性された変性BRも使用できる。変性剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル;ジグリシジル化ビスフェノールA等の2個以上のフェノール基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル;1,4-ジグリシジルベンゼン、1,3,5-トリグリシジルベンゼン、ポリエポキシ化液状ポリブタジエン等のポリエポキシ化合物;4,4’-ジグリシジル-ジフェニルメチルアミン、4,4’-ジグリシジル-ジベンジルメチルアミン等のエポキシ基含有3級アミン;ジグリシジルアニリン、N,N’-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-p-フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等のジグリシジルアミノ化合物;ビス-(1-メチルプロピル)カルバミン酸クロリド、4-モルホリンカルボニルクロリド、1-ピロリジンカルボニルクロリド、N,N-ジメチルカルバミド酸クロリド、N,N-ジエチルカルバミド酸クロリド等のアミノ基含有酸クロリド;1,3-ビス-(グリシジルオキシプロピル)-テトラメチルジシロキサン、(3-グリシジルオキシプロピル)-ペンタメチルジシロキサン等のエポキシ基含有シラン化合物;(トリメチルシリル)[3-(トリメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(トリエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(トリプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(トリブトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジブトキシシリル)プロピル]スルフィド等のスルフィド基含有シラン化合物;エチレンイミン、プロピレンイミン等のN-置換アジリジン化合物;メチルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン;4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン、4-N,N-ジ-t-ブチルアミノベンゾフェノン、4-N,N-ジフェニルアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジフェニルアミノ)ベンゾフェノン、N,N,N’,N’-ビス-(テトラエチルアミノ)ベンゾフェノン等のアミノ基および/または置換アミノ基を有する(チオ)ベンゾフェノン化合物;4-N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒド、4-N,N-ジフェニルアミノベンズアルデヒド、4-N,N-ジビニルアミノベンズアルデヒド等のアミノ基および/または置換アミノ基を有するベンズアルデヒド化合物;N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-フェニル-2-ピロリドン、N-t-ブチル-2-ピロリドン、N-メチル-5-メチル-2-ピロリドン等のN-置換ピロリドン;N-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-フェニル-2-ピペリドン等のN-置換ピペリドン;N-メチル-ε-カプロラクタム、N-フェニル-ε-カプロラクタム、N-メチル-ω-ラウリロラクタム、N-ビニル-ω-ラウリロラクタム、N-メチル-β-プロピオラクタム、N-フェニル-β-プロピオラクタム等のN-置換ラクタム類;の他、N,N-ビス-(2,3-エポキシプロポキシ)-アニリン、4,4-メチレン-ビス-(N,N-グリシジルアニリン)、トリス-(2,3-エポキシプロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン類、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルマレイミド、N,N-ジエチル尿素、1,3-ジメチルエチレン尿素、1,3-ジビニルエチレン尿素、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-3-エチル-2-イミダゾリジノン、4-N,N-ジメチルアミノアセトフェン、4-N,N-ジエチルアミノアセトフェノン、1,3-ビス(ジフェニルアミノ)-2-プロパノン、1,7-ビス(メチルエチルアミノ)-4-ヘプタノン等を挙げることができる。なお、上記化合物(変性剤)による変性は公知の方法で実施可能である。なお、これらの変性BRは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0140】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0141】
そして、NBRとしても特に限定されず、要求される特性に応じて、対応する結合アクリロニトリル量のNBRを使用することができる。
【0142】
(2)電子部品取付部材用ゴム組成物の作製
電子部品取付部材用ゴム組成物は、前記したタイヤ内側部材(インナーライナー)の作製と同様にして得ることができる。このとき、タイヤ内側部材(インナーライナー)の作製と同様に、カーボンブラックなどの充填剤の配合量の調整や、オイルや樹脂成分の配合量を調整することによって、前記した条件を満たすように、0℃におけるE*を調整することができ、また、樹脂成分の種類や配合量の調整によって、ガラス転移温度(Tgr)を調整することができる。
【0143】
(3)電子部品取付部材の作製
次に、得られた電子部品取付部材用ゴム組成物を用いて、加硫機中で、所定の形状に加熱加圧することにより電子部品取付部材を作製する。加硫工程は、公知の加硫手段を適用することで実施できる。加硫温度としては、例えば、120℃超、200℃未満であり、加硫時間は、例えば、5分超、15分未満である。なお、電子部品取付部材の収容部と接合部とは、それぞれ異なる材質であってもよいが、同じ材質で一体的に成形されることが好ましい。
【0144】
4.タイヤの製造
(1)電子部品取付部材取付前のタイヤの製造
本発明において、電子部品取付部材を取り付ける前のタイヤは、通常の方法によって製造することができる。即ち、上記によって作製されたインナーライナー(タイヤ内側部材)を、他のタイヤ部材と共に、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、まず、未加硫タイヤを作製する。
【0145】
具体的には、成形ドラム上に、タイヤの気密保持性を確保するための部材として作製されたインナーライナー、タイヤの受ける荷重、衝撃、充填空気圧に耐える部材としてのカーカス、両側縁部にカーカスの両端を固定すると共に、タイヤをリムに固定させるための部材としてのビード部を配置し、カーカス部を折り返してビード部を包み込む。次いで、ビード部のタイヤ幅方向外側になる様にビード部及びカーカスを保護して屈曲に耐える部材としてのビード補強層、クリンチ部、またサイドウォールを貼り合わせた後、これらをトロイド状に成形する。その後、外周の中央部に、カーカスを強く締付けトレッドの剛性を高める部材としてのベルトなどを巻回し、さらに外周にトレッドを配置することにより、未加硫タイヤを作製する。
【0146】
その後、作製された未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、電子部品取付部材が取り付けられていないタイヤを得る。加硫工程は、公知の加硫手段を適用することで実施できる。加硫温度としては、例えば、120℃超、200℃未満であり、加硫時間は、例えば、5分超、15分未満である。
【0147】
(2)電子部品取付部材の取付
次に、所定の接着剤を用いて、作製されたタイヤの内側部材のタイヤ幅方向中央部に、別途作製された電子部品取付部材を取り付け、本実施の形態に係るタイヤの製造を完了する。なお、電子部品取付部材には、作製後、電子部品が収納されている。また、このように加硫後のタイヤに接着剤で電子部品取付部材を取り付けるのではなく、未加硫タイヤと電子部品取付部材とを同時に加硫してもよい。ただし、電子部品取付部材を交換しにくくなるため、加硫後のタイヤに接着剤で電子部品取付部材を取り付ける方が好ましい。
【0148】
タイヤ内側部材(内腔部)の表面には、加硫時の離型性を保つために、一般的に、離型剤が塗布されているため、この離型剤を除去した後に、電子部品取付部材を接着剤により取り付けることが好ましい。この離型剤の除去に当たっては、以下の2つの方法が考えられる。
【0149】
第1の方法は、バフ機などの研磨機を用いて離型剤を削り取る方法(バフ研磨)であり、研磨機を用いることにより大きな凹凸をなくすと共に、表面を荒らして十分な接触面積を確保して、接着させることができる。
【0150】
第2の方法は、レーザーなどを用いて離型剤を削り取る方法(レーザー研磨)であり、研磨機よりも精度の高い研磨をすることができると共に、電子部品取付部材との接触面を平滑にすることができる為、耐剥離性に優れると考えられる。
【0151】
なお、前記レーザーによる研磨方法については、研磨処理部と研磨未処理部の界面でのタイヤ内腔表面の段差が200μm以下であることを確認することにより、他の研磨方法と判別することができる。なお、研磨未処理部には、加硫時の離型剤層も含まれる。
【0152】
また、別の方法として、未加硫タイヤの内腔面に離型剤を塗布する際、電子部品取付部材を取り付け予定の箇所だけ離型剤の塗布を行わず、加硫後、その箇所に電子部品取付部材を取り付けてもよい。
【0153】
なお、接着剤としては、アクリルゴム系、クロロプレンゴム系、スチレンブタジエンゴム系、ブチルゴム系等、ゴム部材の接着に通常使用される市販のゴム系接着剤の中から適宜選択して使用することができるが、硬化後も軟らかさを維持できるゴム系接着剤であることが好ましい。
【0154】
5.用途
上記した本発明のタイヤは、空気入りタイヤでもよいし、非空気入りタイヤでもよい。また、乗用車用タイヤ、大型車用タイヤ、2輪自動車用タイヤ、農業用タイヤ、鉱山用タイヤ、航空機用タイヤなど、種々の用途に適用可能であるが、空気入りの乗用車用タイヤに適用することが最も好ましい。なお、ここで言う乗用車用タイヤとは、四輪で走行する自動車に装着されるタイヤであって、最大負荷能力が1000Kg以下のタイヤを言う。
【0155】
最大負荷能力は、1000Kg以下であれば、特に限定されないが、一般的に最大負荷能力の増加に伴い、タイヤ重量が増加しやすく、タイヤに伝わる衝撃も大きくなりやすいことから、900Kg以下であることが好ましく、800Kg以下であることがより好ましく、さらに700Kg以下であることが好ましい。
【0156】
タイヤ重量は、タイヤに伝わる衝撃を和らげる観点から、20Kg以下であることが好ましく、15Kg以下であることがより好ましく、さらに12Kg以下、10Kg以下、8Kg以下であることが好ましい。なお、ここで言うタイヤ重量とは、上記した電子部品及び電子部品取付部材の重量を含み、内腔部にシーラント、スポンジなどを設けた場合には、それらも含めたタイヤ重量である。
【実施例0157】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
【0158】
以下の実施例においては、
図1に示す構成のタイヤ(サイズ:195/65R15)を製造し、電子部品取付部材のタイヤ内側部材(インナーライナー)からの耐剥離性能について評価した。
【0159】
1.インナーライナーの製造
(1)インナーライナー用ゴム組成物の製造
最初に、インナーライナー用ゴム組成物の製造を行った。
【0160】
(a)配合材料
まず、以下に示す各配合材料を準備した。
【0161】
(a-1)ゴム成分
ブチルゴム:エクソン化学社製のクロロブチルHT1066(塩素化ブチルゴム)
【0162】
(a-2)ゴム成分以外の配合材料
(イ)カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN660
(N2SA:35m2/g)
(ロ)オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-260
(ハ)樹脂成分-1:丸善石油化学(株)製のマルカレッツT-100AS
(C5系石油樹脂)
(ニ)樹脂成分-2:東ソー(株)製のペトロタック100V
(C5系石油樹脂)
(ホ)加工助剤:ストラクトール社製のWB16
(脂肪酸金属塩(炭素数14~20の飽和脂肪酸カルシウム)と
脂肪酸アミドとの混合物)
(ヘ)ステアリン酸:日油(株)製の椿
(ト)酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
(チ)硫黄:細井化学(株)製のHK-200-5(5質量%オイル含有)
(リ)加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM
(ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド)
【0163】
(b)インナーライナー用ゴム組成物の製造
表1に示す各配合内容に従い、バンバリーミキサーを用いて、酸化亜鉛、硫黄および加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りして、混練物を得た。なお、各配合量は、質量部である。なお、表1には、便宜上、後に測定したE*
i、tanδi、Tgiを、併せて記載している。
【0164】
【0165】
次に、得られた混練物に、酸化亜鉛、硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、インナーライナー用ゴム組成物を得た。
【0166】
2.電子部品取付部材の製造
別途、電子部品取付部材の製造を行った。
【0167】
具体的には、ゴム成分として、BR(宇部興産(株)製のUBEPOL BR130B)およびNBR(日本ゼオン(株)製のNipol DN401LL)を用いたこと以外は、上記インナーライナー用ゴム組成物と同じ配合材料を用い、表2に示す配合内容に従い、同様に混練して、電子部品取付部材用ゴム組成物を得た。なお、表2には、便宜上、後に測定したE*
r、Tgrを、併せて記載している。
【0168】
【0169】
次いで、得られた電子部品取付部材用ゴム組成物を、
図3に示した形状、即ち、横断面が円形の収納スペースSを有し、接合面Aの直径(外径)Dが40mm、厚さ(高さ)Hが25mm、接合部の厚さTが1mm、フランジの幅Wが10mmのサイズに加硫成形して、電子部品取付部材を製造した。
【0170】
3.試験用タイヤの製造
(1)電子部品取付部材取付前のタイヤの製造
まず、電子部品取付部材取付前のタイヤの製造を行った。
【0171】
具体的には、表3~表5に示す各配合のゴム組成物を成形して、表3~表5に示す各厚みのインナーライナーを得、他のタイヤ部材と共に貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で10分間プレス加硫して、電子部品取付部材取付前のタイヤを得た。なお、ここでは、カーカス層の表面に直接インナーライナーを貼り付けたため、カーカス層の表面から、タイヤ内側部材のタイヤ内腔部側の表面までの厚みdiは、インナーライナーの厚みと同じである
【0172】
(2)試験用タイヤの製造
次に、各々の電子部品取付部材取付前のタイヤの内腔面において、表3~表5に示す電子部品取付部材取付箇所を、表3~表5に示す研磨方法にて研磨して離型剤を取り除いた後、予め、収納スペースに所定の電子部品を収納した電子部品取付部材を、接着剤を用いて取り付け、実施例1~6、比較例1~5の各試験用タイヤを製造した。なお、電子部品取付部材の中心のセンターラインCLからのずれ幅mを2mmとした。また、接着剤としては、市販のクロロプレンゴム系接着剤を用いた。
【0173】
なお、レーザー研磨は、移動ピッチ60μm、移動速度4000mm/sに調整されたレーザー光を用いて、電子部品取付部材取付箇所を数往復させることにより、離型剤およびゴム表面を削り取り、95μmの段差となるように行った。
【0174】
4.パラメーターの算出
その後、各試験用タイヤの各々から、トレッド部の内側のインナーライナー層からタイヤ周方向が長辺となる様に長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの粘弾性測定用ゴム試験片を切り出し、各ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、測定温度:0℃、初期歪み:10%、動歪み:±1%、周波数:10Hzの条件下、伸長の変形モードで複素弾性率E*
i(MPa)、測定温度:0℃、初期歪み:10%、動歪み:±2.5%、周波数:10Hzの条件下、変形モード:引張の条件下で損失正接(0℃tanδ)を測定した。
【0175】
併せて、電子部品取付部材の複素弾性率E*
r(MPa)については、接合部から長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで粘弾性測定試験片を採取し、上記と同様に測定した。また、配合1~配合13の各ゴム組成物におけるTg(℃)即ち、Tgi(℃)およびTgr(℃)を以下の方法により算出した。
【0176】
GABO社製のイプレクサーシリーズを用い、周波数10Hz、初期歪み10%、振幅±0.5%、および昇温速度2℃/minの条件下で、tanδの温度分布曲線を測定した。そして、測定した温度分布曲線における最も大きいtanδ値に対応するtanδピーク温度をガラス転移点(Tg)とした。
【0177】
各測定の結果を表1、表2に示す。
【0178】
次に、上記測定結果に基づいて、各試験用タイヤにおけるE*
r/E*
i、Tgi-Tgrを算出した。結果を表3~表5に示す。なお、各複素弾性率、損失正接、Tg(℃)は製造した試験タイヤごとに実施し、同一のゴム組成物を用いているものについてはそれらの平均値を求めて示している。
【0179】
5.評価試験
評価は、実高速走行時耐剥離性について行った。
【0180】
(1)試験方法
各試験用タイヤを車輌(国産のFF車、排気量2000cc)の全輪に装着させて、内圧が230kPaとなるように空気を充填した後、過積載状態にて、乾燥路面のテストコース上を、80km/hの速度で走行し、路面に設けた突起に乗り上げさせ、走行後に、電子部品取付部材がタイヤ内腔面から剥がれていないかを観察した。
【0181】
剥がれていない場合には、走行速度を5km/h上げて同様の観察を行った。そして、走行速度が最大140km/hとなるまで、同様の観察を繰り返し、剥がれた時の速度を取得した。
【0182】
次いで、比較例5における結果を100として、下式に基づいて指数化し、実高速走行時耐剥離性能を相対的に評価した。数値が大きいほど、実高速走行時耐剥離性能が優れており、剥がれ難いことを示す。
実高速走行時耐剥離性能=[(試験用タイヤの結果)/(比較例5の結果)]×100
【0183】
(2)評価結果
評価結果を、表3~表5に示す。なお、表3~表5には、各配合のE*
i、E*
r、0℃tanδi、Tgi、Tgrを再掲している。
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
表3と表4の比較より、E*
r/E*
i<1の場合(実施例1~6)、優れた実高速走行時耐剥離性能を示すタイヤを提供できることが分かる。
【0188】
そして、実施例1~11の実施例同士の比較から、0℃tanδiが0.55以下の場合、実高速走行時剥離性能がより向上し、0.35以下の場合さらに向上することが分かる。
【0189】
また、実施例3~11の実施例同士の比較から、Tgi-Tgr<0を満たしている場合、実高速走行時耐剥離性能がさらに一層向上することが分かる。
【0190】
また、実施例7~11より、インナーライナー厚みdiを、1mmと大きくし、E*
r/E*
i<0.95とし、Tgi-Tgr<-2.0とすることにより、安定して実高速走行時剥離性能の優れたタイヤを提供することができることが分かる。
【0191】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。