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特開2022-129814セラミックスラリー組成物及びそれを用いた積層セラミック電子部品の製造方法
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  • 特開-セラミックスラリー組成物及びそれを用いた積層セラミック電子部品の製造方法 図1
  • 特開-セラミックスラリー組成物及びそれを用いた積層セラミック電子部品の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129814
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】セラミックスラリー組成物及びそれを用いた積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/626 20060101AFI20220830BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20220830BHJP
   C04B 35/634 20060101ALI20220830BHJP
   C04B 35/636 20060101ALI20220830BHJP
   C04B 35/63 20060101ALI20220830BHJP
   B28B 11/00 20060101ALI20220830BHJP
   C04B 35/468 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C04B35/626 250
H01G4/30 517
H01G4/30 311Z
C04B35/626 400
C04B35/634 200
C04B35/636
C04B35/63 030
B28B11/00
C04B35/468
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028648
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】和田 由香里
(72)【発明者】
【氏名】石津谷 正英
(72)【発明者】
【氏名】中村 晃
【テーマコード(参考)】
4G055
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4G055AA08
4G055BA22
5E001AB03
5E001AC09
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC31
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG11
5E082GG28
5E082JJ03
5E082JJ12
5E082JJ23
5E082PP03
(57)【要約】
【課題】ゲル化が抑制されたセラミックスラリー組成物及びそれを用いた積層セラミック電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】セラミック粉末と、ホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂を含むバインダー成分と、1価のアルコールを含む有機溶剤と、1,2-ジオール構造を有する化合物と、を含有する、セラミックスラリー組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末と、ホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂を含むバインダー成分と、1価のアルコールを含む有機溶剤と、1,2-ジオール構造を有する化合物と、を含有する、セラミックスラリー組成物。
【請求項2】
前記1価のアルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のセラミックスラリー組成物。
【請求項3】
前記1,2-ジオール構造を有する化合物の含有量が、ホウ酸(HBO)に換算した前記ホウ素化合物の全量を基準として、2.5~100質量%である、請求項2に記載のセラミックスラリー組成物。
【請求項4】
前記1,2-ジオール構造を有する化合物の1-プロパノールに対する20℃における溶解度が、0.1g/100g以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックスラリー組成物。
【請求項5】
前記1,2-ジオール構造を有する化合物が、糖、糖アルコール及び糖酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックスラリー組成物。
【請求項6】
前記1,2-ジオール構造を有する化合物が、糖アルコール及び糖酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックスラリー組成物。
【請求項7】
水の含有量が、組成物の全量に対して1質量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のセラミックスラリー組成物。
【請求項8】
セラミックスラリー組成物を用いて形成されたセラミックグリーンシートと、前記セラミックグリーンシートの主面上に形成された内部電極パターンとを備える積層用シートを積層し、焼成することでセラミック素体を得る工程と、
セラミック素体に端子電極を形成する工程と、
を備え、
前記セラミックスラリー組成物が、セラミック粉末と、ホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂を含むバインダー成分と、1価のアルコールを含む有機溶剤と、1,2-ジオール構造を有する化合物と、を含有する、積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックスラリー組成物及びそれを用いた積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体層と導体層とが交互に複数積層された積層電子部品として、積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品が知られている。積層セラミック電子部品においては、高周波用途に使用する場合に発生する内部損失を抑制する観点から、導体層を構成する材料として、例えば、融点が低く電気抵抗の低い銀及び銅等が用いられる。しかしながら、銀及び銅等の低抵抗材料は融点が低いため、通常のセラミックグリーンシートとは同時に焼成することができない。
【0003】
このような背景の中、低抵抗材料と同時焼成が可能なセラミックグリーンシートとして、セラミック粉末と、ホウ素化合物とを含有するセラミックスラリー組成物から形成されたセラミックグリーンシートが開発されている。セラミック粉末にホウ素化合物を添加することで焼結温度が低下する。
【0004】
ところで、セラミックグリーンシートには、強度が求められる。強度が高いセラミックグリーンシートを形成するために、強度が高いポリビニルブチラール樹脂等のヒドロキシ基を有する樹脂をバインダー成分として含有するセラミックスラリー組成物が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ホウ素を含有するセラミック原料粉末と、ヒドロキシ基を有するバインダ成分と、キレート化剤としてのβ-ジケトンと、有機溶剤とを含有し、β-ジケトンの含有量が特定の範囲である、セラミックグリーンシート用スラリー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-139034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、セラミックスラリー組成物がホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂とを含有する場合、ホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂との反応が進行する。当該反応の進行により、ゲル化が発生し、セラミックグリーンシートの形成が困難となる場合がある。特許文献1に開示のスラリー組成物においては、ゲル化の抑制が十分ではない。
【0008】
そこで、本発明の一側面は、ゲル化が抑制されたセラミックスラリー組成物及びそれを用いた積層セラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、セラミック粉末と、ホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂を含むバインダー成分と、1価のアルコールを含む有機溶剤と、1,2-ジオール構造を有する化合物と、を含有する、セラミックスラリー組成物である。
【0010】
一態様において、1価のアルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0011】
一態様において、1,2-ジオール構造を有する化合物の含有量が、ホウ酸(HBO)に換算したホウ素化合物の全量を基準として、2.5~100質量%であってもよい。
【0012】
一態様において、1,2-ジオール構造を有する化合物の1-プロパノールに対する20℃における溶解度が、0.1g/100g以上であってもよい。
【0013】
一態様において、1,2-ジオール構造を有する化合物が、糖、糖アルコール及び糖酸からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0014】
一態様において、1,2-ジオール構造を有する化合物が、糖アルコール及び糖酸からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0015】
一態様において、水の含有量が、組成物の全量に対して1質量%以下であってもよい。
【0016】
本発明の他の一側面は、セラミックスラリー組成物を用いて形成されたセラミックグリーンシートと、セラミックグリーンシートの主面上に形成された内部電極パターンとを備える積層用シートを積層し、焼成することでセラミック素体を得る工程と、セラミック素体に端子電極を形成する工程と、を備え、セラミックスラリー組成物が、セラミック粉末と、ホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂を含むバインダー成分と、1価のアルコールを含む有機溶剤と、1,2-ジオール構造を有する化合物と、を含有する、積層セラミック電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一側面によれば、ゲル化が抑制されたセラミックスラリー組成物及びそれを用いた積層セラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態に係る積層セラミック電子部品の断面構成を模式的に示す図である。
図2】シートのスジの評価においてスジが発生した場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。
【0020】
[セラミックスラリー組成物]
本実施形態に係るセラミックスラリー組成物は、セラミック粉末と、ホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂を含むバインダー成分と、1価のアルコールを含む有機溶剤と、1,2-ジオール構造を有する化合物と、を含有する。
【0021】
セラミック粉末としては、特に制限されないが、例えば、チタンを含む酸化物、ジルコニウムを含む酸化物の粉末が挙げられる。具体的には、例えば、BaTiO、(Ca,Sr)(Ti,Zr)Oの粉末が挙げられる。これらの酸化物は、仮焼されていてもよい。仮焼する場合、温度は、例えば、900℃以上であってよく、1350℃以下であってよい。仮焼の時間は、例えば、0.5~24時間であることが好ましい。セラミック粉末は、はじめから酸化物である必要はなく、例えば、炭酸塩、及び水酸化物等のように熱処理により酸化物となるものであってもよい。セラミック粉末は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
ホウ素化合物は、構成元素としてホウ素を含む化合物である。ホウ素化合物としては、例えば、HBO、B、及びホウ酸ガラス等のホウ素を含むガラスが挙げられる。ホウ酸(HBO)に換算したホウ素化合物の含有量は、セラミック粉末及びホウ酸(HBO)に換算したホウ素化合物の全量を基準として、0.1~20質量%であってもよい。
【0023】
本実施形態に係るセラミックスラリー組成物は、助剤を含んでいてもよい。助剤としては、例えば、マグネシウムを構成元素として含むマグネシウム化合物、希土類元素を構成元素として含む希土類元素化合物、マンガンを構成元素として含むマンガン化合物、クロムを構成元素として含むクロム化合物、ケイ素を構成元素として含むケイ素化合物、アルミニウムを構成元素として含むアルミニウム化合物、及びバナジウムを構成元素として含むバナジウム化合物が挙げられる。これらの化合物は、酸化物、炭酸塩又は水酸化物であってよい。助剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
助剤の含有量は、セラミック粉末の全量を基準として、0.1~20質量%であってよい。
【0025】
バインダー成分は、ポリビニルブチラール樹脂を含む。ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、バインダー成分の全量を基準として、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。
【0026】
バインダー成分は、ポリビニルブチラール樹脂以外の樹脂成分を含んでいてもよい。そのような樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、及びエチルセルロース樹脂が挙げられる。
【0027】
バインダー成分の含有量は、セラミック粉末の全量を基準として、4~12質量%であってよい。
【0028】
有機溶剤は、1価のアルコールを含む。1価のアルコールの炭素数は、例えば、1~10であってよく、1~8であってよく、1~5以下であってよく、ゲル化抑制の観点から、1~3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、及び2-ブタノールが挙げられ、ゲル化抑制の観点から、メタノール、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールであることが好ましく、メタノール及びエタノールであることがより好ましい。
【0029】
1価のアルコールの含有量は、ゲル化抑制の観点から、有機溶剤の全量を基準として、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましい。
【0030】
有機溶剤は、1価のアルコール以外の有機溶剤を含んでいてもよい。そのような有機溶剤としては、例えば、ミネラルスピリット、キシレン、トルエン等の炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン等のケトン系溶剤、並びに酢酸エチル等が挙げられる。有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
有機溶剤の含有量は、セラミック粉末の全量を基準として、100~250質量%であってよい。
【0032】
1,2-ジオール構造は、2つのヒドロキシ基がそれぞれ、隣接した2つの異なる炭素に結合した構造である。1,2-ジオール構造を有する化合物としては、例えば、糖、糖アルコール、糖酸及び糖アルコール以外の多価アルコールが挙げられる。糖としては、例えば、単糖類、二糖類及び多糖類が挙げられる。単糖類としては、例えば、ヘプトース(七炭糖)、ヘキソース(六炭糖)及びペントース(五炭糖)が挙げられる。ヘプトースとしては、例えば、セドヘプツロースが挙げられる。ヘキソースとしては、例えば、α-グルコース(ブドウ糖)、β-グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース、タロース及びアロースが挙げられる。ペントースとしては、例えば、リブロース、アピオース及びリボースが挙げられる。二糖類としては、例えば、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)、マルトース(麦芽糖)、セロビオースが挙げられる。多糖類としては、例えば、アミロース(でんぷん)、セルロース、アミロペクチン、グリコーゲン(動物デンプン)、ペクチン、グルコマンナンが挙げられる。糖アルコールとしては、ソルビトール、キシリトール及びマンニトールが挙げられる。糖酸としては、例えば、アスコルビン酸、グリセリン酸、ノイラミン酸、グルクロン酸、酒石酸が挙げられる。糖アルコール以外の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール及びグリセリンが挙げられる。
【0033】
1,2-ジオール構造を有する化合物は、ゲル化の抑制の観点から、糖、糖アルコール及び糖酸であることが好ましく、セラミックスラリー組成物を用いて得られるセラミックグリーンシートのスジの発生を抑制できる観点から、糖アルコール及び糖酸であることが好ましい。1,2-ジオール構造を有する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
1,2-ジオール構造を有する化合物の含有量は、ゲル化の抑制の観点から、ホウ酸(HBO)に換算したホウ素化合物の全量を基準として、2.5~100質量%であることが好ましく、12.5~75質量%であることがより好ましい。
【0035】
1,2-ジオール構造を有する化合物の1-プロパノールに対する20℃における溶解度は、セラミックスラリー組成物を用いて得られるセラミックグリーンシートのスジの発生を抑制できる観点から、0.1g/100g以上であることが好ましく、0.2g/100g以上であることがより好ましく、0.3g/100g以上であることが更に好ましい。
【0036】
1,2-ジオール構造を有する化合物の分子内に含まれるヒドロキシ基の数は、ゲル化の抑制の観点から、4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。1,2-ジオール構造を有する化合物の分子内に含まれるヒドロキシ基の数は、8以下であってよい。
【0037】
1,2-ジオール構造を有する化合物の分子量は、セラミックスラリー組成物を用いて得られるセラミックグリーンシートのスジの発生を抑制できる観点から、180以下であることが好ましい。
【0038】
本実施形態に係るセラミックスラリー組成物は、上記以外の成分として、例えば、可塑剤、分散剤、水を含んでいてもよい。
【0039】
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジイソノニル、アジピン酸ジオクチルが挙げられる。
【0040】
分散剤としては、例えば、アルキルイミダゾリン、高分子量のポリエステル酸アミドアミン塩が挙げられる。
【0041】
水の含有量は、グリーンシートのピンホール発生を抑制する観点から、セラミックスラリー組成物の全量を基準として、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。本実施形態に係るセラミックスラリー組成物は、水を含んでいなくてもよい。
【0042】
本実施形態に係るセラミックスラリー組成物は、セラミック粉末と、ホウ素化合物と、バインダー成分と、有機溶剤と、1,2-ジオール構造を有する化合物とを混合することで得られる。混合の順序は、特に制限されないが、ゲル化の抑制の観点から、まず、セラミック粉末と、ホウ素化合物と、有機溶剤とを混合し、その後、バインダー成分を配合し、混合することが好ましい。セラミック粉末と、ホウ素化合物とは、予め混合されていてもよく、予め混合されていなくてもよい。セラミック粉末と、ホウ素化合物とが予め混合されている場合、ホウ素化合物は、セラミック粉末に付着した状態であってもよい。セラミック粉末は、仮焼き又はコーティングによりセラミック粉末に付着されていてよい。
【0043】
<作用効果>
本実施形態に係るセラミックスラリー組成物は、ホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂とに加えて、1価のアルコールを含む有機溶剤と、1,2-ジオール構造を有する化合物とを組み合わせて含有することで、セラミックスラリー組成物が1価のアルコールを含む有機溶剤を含有しない場合や、1,2-ジオール構造を有する化合物を含有しない場合と比較して、ゲル化を抑制することができる。また、本実施形態に係るセラミックスラリー組成物は、ホウ素化合物と、ポリビニルブチラール樹脂を含有するため、低温であっても焼成が可能であり、また、強度が優れたものとなる。
【0044】
[セラミック電子部品]
次に、上記実施形態に係るセラミックスラリー組成物を用いて形成されたセラミック層を備える積層セラミック電子部品の例を説明する。図1は、好適な実施形態に係る積層セラミック電子部品の断面構成を模式的に示す図である。図1に示す積層セラミック電子部品100は、セラミック素体3と、このセラミック素体の両端に設けられた端子電極7とを備えている。
【0045】
セラミック素体3は、上記実施形態に係るセラミックスラリー組成物を用いて形成された複数(ここでは3層)のセラミック層1と、このセラミック層1の間に設けられた複数の内部電極2から構成される。換言すれば、セラミック素体3は、セラミック層1と内部電極2とが交互に積層された積層体からなる。このセラミック素体3において、内部電極2は、それらの一方の端部がセラミック素体3における対向する異なる端面にそれぞれ露出するように設けられて(引き出されて)おり、その露出した部分で端子電極7に接続されている。
【0046】
内部電極2の構成材料としては、特に限定されない。例えば、Cu、Ag、Pd、Ni、及びAlの金属単体やこれらを主成分とする材料(合金、化合物等)が挙げられる。上記実施形態のセラミックスラリー組成物は、低温であっても焼成が可能であることから、内部電極2は、Cu及びAgを含むことが好ましい。
【0047】
一対の端子電極7は、セラミック素体3における内部電極2が露出した端面にそれぞれ設けられている。端子電極7は、下地電極4と、下地電極4上に形成された第1の層と、第1の層上に形成された第2の層とを備える。端子電極7の材料は、例えば、Cu、Ag、Pd、Ni、Sn、及び導電性樹脂が挙げられる。端子電極7は、例えば、下地電極4がCuを含み、第1の層がNiを含むNi層であり、第2の層がSnを含むSn層であってよい。端子電極7は、複数の層を有しない単層であってもよい。
【0048】
次に、上記実施形態に係る積層セラミック電子部品100の製造方法の好適な実施形態について説明する。
【0049】
本実施形態に係る積層セラミック電子部品100の製造方法は、上記実施形態に係るセラミックスラリー組成物を用いて形成されたセラミックグリーンシートと、セラミックグリーンシートの主面上に形成された内部電極パターンとを備える積層用シートを積層し、焼成することでセラミック素体3を得る工程と、セラミック素体3に端子電極7を形成する工程と、備える。
【0050】
セラミックグリーンシートは、例えば、支持シート上に上記実施形態に係るセラミックスラリー組成物を塗布し、得られた塗膜を乾燥することで得られる。
【0051】
支持シートは、例えば、PETフィルムであってよい。セラミックスラリー組成物を塗布する方法は、特に制限されないが、例えば、ドクターブレード法が挙げられる。乾燥時間は、特に制限されない。乾燥温度は、例えば、60~120℃であってよい。セラミックグリーンシートの厚さは、0.5~30μmであってよい。
【0052】
積層用シートは、セラミックグリーンシートの主面上に導電性ペーストをスクリーン印刷等して、内部電極2のパターンを形成することで得られる。
【0053】
焼成の温度は、上記実施形態のセラミックスラリー組成物が低温での焼成に好適に用いられることから、800~1085℃であることが好ましく、800~961℃であることがより好ましい。焼成の時間は、例えば、0.5~20時間であってよく、1~10時間であってよい。
【0054】
端子電極を形成する方法は特に制限されないが、例えば、下記の方法であってよい。すなわち、まず、Cu粒子、ガラスフリット、樹脂及び溶剤を含むペーストをセラミック素体3の端面に塗布し、塗膜を形成する。次いで、形成した塗膜を高温で焼き付けてセラミック素体3の端面にCu焼結体を形成する。次いで、Cu焼結体上にNiめっきを施し、Ni層を形成する。次いで、Ni層上にSnめっきを施し、Sn層を形成することで端子電極が形成される。
【0055】
上記実施形態では、積層セラミック電子部品の例として、セラミックコンデンサについて説明したが、本発明はこれらに限られない。本発明は、セラミック素体を有する積層セラミック電子部品であれば、例えば、インダクタ、バリスタ、サーミスタ、LCフィルタ、抵抗等の電子部品にも適用できる。
【実施例0056】
以下では実施例により本発明がさらに詳細に説明されるが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0057】
[第1の検討]
<組成物の調整>
(実施例1-1)
ボールミルに、直径2mmの球状の安定化ジルコニアのメディアと、表1に示す材料とを表1に示す配合量で投入し、混合することで、混合物を得た。また、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業(株)製、商品名「BH6」)1.89g及び1-プロパノール10.70gを混合することでポリビニルブチラール樹脂が溶解したラッカーを得た。得られた混合物にラッカーを配合し、混合することで組成物を得た。有機溶剤の全量に占める1価のアルコールの割合は、37.0質量%であった。
【0058】
(比較例1-1)
表1に示すとおり、HBO及び添加剤を配合しなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして混合物を得た。有機溶剤にあらかじめ溶解してラッカー状にしたポリビニルブチラール樹脂を混合物に配合し、混合することで組成物を得た。
【0059】
(比較例2-2)
表1に示すとおり、添加剤を配合しなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして混合物を得た。有機溶剤にあらかじめ溶解してラッカー状にしたポリビニルブチラール樹脂を混合物に配合し、混合することで組成物を得た。
【0060】
(実施例1-2~1-7及び比較例1-3、1-4)
表1及び表2に示すように添加剤を変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして組成物を得た。比較例1-4で添加剤として用いたポリエチレングリコールの重量平均分子量は、380~420である。
【0061】
<粘度の測定>
(実施例1-1~1-7及び比較例1-1~1-4)
得られた組成物についてB型の回転粘度計を用いて粘度を測定した。測定条件は、温度を25℃、回転速度を100rpmとした。結果を表1及び2に示した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
[第2の検討]
(実施例2-1~2-8)
キシリトールの配合量を表3及び4に示すとおり変更したこと以外は、実施例1-3と同様にして組成物を調整した。また、得られた組成物の粘度を実施例1-3と同様にして測定した。結果を表3及び表4に示した。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
[第3の検討]
<組成物の調整>
(実施例3-1~3-3)
ボールミルに、直径2mm球状の安定化ジルコニアのメディアと、表5に示す材料とを投入し混合することで、混合物を得た。また、メチルエチルケトン21.13g及びポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業(株)製、商品名「BH6」)1.91gを混合してポリビニルブチラール樹脂が溶解したラッカーを得た。得られた混合物に対してラッカーを表5に示す配合量で配合し、ボールミルで混合することで組成物を得た。
【0068】
(比較例3-1)
表5に示すとおり、添加剤を配合せずに、また、1-プロパノールに代えてメチルエチルケトンを用いて混合物を調整したこと以外は、実施例3-1と同様にして組成物を得た。
【0069】
(比較例3-2)
表5に示すとおり、添加剤を配合せずに混合物を調整したこと以外は、実施例3-1と同様にして組成物を得た。
【0070】
(比較例3-3)
表5に示すとおり、1-プロパノールに代えてメチルエチルケトンを用いて混合物を調整したこと以外は、実施例3-1と同様にして組成物を得た。
【0071】
<粘度の測定>
(実施例3-1~3-3及び比較例3-1~3-3)
実施例1-1~1-7及び比較例1-1~1-4と同様にして粘度を測定した。結果を表5に示した。表中、測定不可とは、組成物がゲル化したことを示す。
【0072】
【表5】
【0073】
[第4の検討]
<組成物の調整>
(実施例4-1~4-2及び比較例4-1~4-4)
表6に示す材料を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にして組成物を得た。
【0074】
<粘度の測定>
(実施例4-1~4-2及び比較例4-1~4-4)
実施例3-1と同様にして粘度を測定した。結果を表6に示した。
【0075】
【表6】
【0076】
[第5の検討]
<組成物の調整>
(実施例5-1~5-5)
表1に示す材料に代えて表7に示す材料を表7に示す配合量ボールミルに投入したこと以外は、実施例1-1と同様にして混合物を調整した。ポリビニルブチラール樹脂が溶解したラッカーを表7に示す配合量で混合物に配合したこと以外は、実施例1-1と同様にして組成物を調整した。有機溶剤の全量に占める1価のアルコールの割合は、42.2質量%であった。
【0077】
<シートの作製>
(実施例5-1~5-5)
シリコーン樹脂がコーティングされたPETフィルム(幅:100mm)を準備した。次いで、ダムコーターを用いて得られた組成物をPETフィルムに塗布した。PETフィルムと、ダムコーターとのギャップは、内層及び外装ともに100μmとした。次いで、PETフィルム上に塗布された組成物をドライヤーにより乾燥し、PETフィルム上に組成物の乾燥膜が形成されたシートを得た。ドライヤーの温度は80℃とした。セラミック層のTD方向の長さは、80mmであった。
【0078】
<シートのスジの評価>
(実施例5-1~5-5)
得られたシートのTD方向にセロハンテープ(登録商標)を貼り付けた。セロハンテープの長さは、乾燥膜のTD方向の長さ以上とした。次いで、貼り付けたセロハンテープをMD方向に剥離することで一部の乾燥膜をPETフィルムから剥離した。PETフィルム上に剥離されずに残った乾燥膜について、図2において矢印で示される山状の突起の個数をシートに発生したスジの本数とした。結果を表7に示した。
【0079】
<1,2-ジオール構造を有する化合物の溶解度の測定>
(実施例5-1~5-5)
フラスコに溶媒として1-プロパノールを入れた。1,2-ジオール構造を有する化合物を1-プロパノールに沈殿が残るまで加えた。次いで、フラスコを密栓し、十分に振とうして、上澄み液と沈殿が完全に分離するまで静置した。上澄み液を耐熱容器にとって120℃で蒸発させ、上澄み液の質量と、蒸発後の残渣の質量から1,2-ジオール構造を有する化合物の1-プロパノールへの溶解度を算出した。結果を表7に示した。
【0080】
<組成物の粘度の測定>
(実施例5-1~5-5)
実施例1-1と同様にして組成物の粘度を測定した。結果を表7に示した。
【0081】
【表7】
【0082】
1…セラミック層、2…内部電極、3…セラミック素体、4・・・下地電極、5・・・第1の層、6・・・第2の層、7…端子電極、100…積層セラミック電子部品。
図1
図2