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特開2022-129868B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法及び試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129868
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法及び試薬
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6881 20180101AFI20220830BHJP
   C12Q 1/6853 20180101ALI20220830BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220830BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220830BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C12Q1/6881 Z
C12Q1/6853 Z ZNA
C12N15/12
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028721
(22)【出願日】2021-02-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、肝炎等克服実用化研究事業、肝炎等克服緊急対策研究事業「B型肝炎ウイルスおよびヒトゲノムの解析に基づくクリニカルシークエンスに向けた研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】西田 奈央
(72)【発明者】
【氏名】溝上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】徳永 勝士
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA03
4B029GA08
4B029GB06
4B063QA07
4B063QA08
4B063QA19
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ28
4B063QQ43
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR42
4B063QR56
4B063QR62
4B063QR66
4B063QR72
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】新規のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法を提供する。
【解決手段】B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法は、前記B型肝炎ワクチンがビームゲン(登録商標)及びヘプタバックス(登録商標)-IIであり、被験者由来のDNA含有試料中のHLA class II遺伝子のハプロタイプを検出することと、前記ハプロタイプとしてHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04が検出された場合に、前記被験者は前記ビームゲンに対する免疫応答性を有し、前記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さない又は免疫応答性が低いと判定することと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法であって、
前記B型肝炎ワクチンがビームゲン(登録商標)及びヘプタバックス(登録商標)-IIであり、
被験者由来のDNA含有試料中のHLA class II遺伝子のハプロタイプを検出することと、
前記ハプロタイプとしてHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04が検出された場合に、前記被験者は前記ビームゲンに対する免疫応答性を有し、前記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さない又は免疫応答性が低いと判定することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ハプロタイプとしてHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01が検出された場合に、前記被験者は前記ビームゲン及び前記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さないと判定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する試薬であって、
HLA class II遺伝子のハプロタイプであるHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを含む、試薬。
【請求項4】
HLA class II遺伝子のハプロタイプであるHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを更に含む、請求項3に記載の試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法及び試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界180か国以上でB型肝炎ウイルス(HBV)に対してB型肝炎ワクチン(HBワクチン)接種が行われている。HBVには複数の遺伝子型(Genotype)が存在しており、本邦ではGenotype C(HBV/C)が最も多い。そのため、HBV/Cに対応する組換え沈降HBワクチン(酵母由来)であるビームゲン(登録商標)(以下、「登録商標」との記載を省略する)、及び、Genotype A(HBV/A)に対応する組換え沈降HBワクチン(酵母由来)であるヘプタバックス(登録商標)(以下、「登録商標」との記載を省略する)-IIが使用されている。しかしながら、ビームゲン接種者及びヘプタバックス-II接種者のうち、約10%はその中和抗体であるHBs抗体を獲得できないという問題があるが、その原因は未だ不明である。
【0003】
発明者らは、日本人成人に対するビームゲン接種におけるワクチン低反応(HBs抗体価が10mIU/mL以下)には、HLA class II遺伝子であるHLA-DRB104:05-DQB104:01及びHLA-DRB114:06-DQB103:01の2つのハプロタイプが強く寄与することを明らかにしている。一方でビームゲン応答性(HBs抗体価が10mIU/mL超)には、HLA class II遺伝子であるHLA-DRB108:03-DQB106:01及びHLA-DRB115:01-DQB106:02の2つのハプロタイプ、並びに、BTNL2遺伝子が強く寄与することを明らかにしている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nishida N et al., “Key HLA-DRB1-DQB1 Haplotypes and Role of the BTNL2 Gene for Response to a Hepatitis B Vaccine.”, Hepatology, Vol. 68, No. 3, pp. 848-858, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、HBワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因については未だ不明な点が多く、その検出方法は確立されていない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法及び試薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、HLA(Human Leukocyte Antigen;ヒト白血球抗原) imputation法により、HLA class II遺伝子のハプロタイプとB型肝炎ワクチンの効果との関連解析を行なった結果、HLA-DRB1*04:05-DQB*04:01を有するとビームゲン及びヘプタバックス-IIのいずれのB型肝炎ワクチンを接種しても効果は低く(免疫応答性が低いままであり)、一方で、HLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を有するとヘプタバックス-IIを接種することによる効果は得にくい(免疫応答性が低いままである)が、ビームゲンを接種することによる効果が得られる(免疫応答性が上昇する)ことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法であって、
前記B型肝炎ワクチンがビームゲン及びヘプタバックス-IIであり、
被験者由来のDNA含有試料中のHLA class II遺伝子のハプロタイプを検出することと、
前記ハプロタイプとしてHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04が検出された場合に、前記被験者は前記ビームゲンに対する免疫応答性を有し、前記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さない又は免疫応答性が低いと判定することと、
を含む、方法。
(2) 前記ハプロタイプとしてHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01が検出された場合に、前記被験者は前記ビームゲン及び前記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さないと判定することを更に含む、(1)に記載の方法。
(3) B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する試薬であって、
HLA class II遺伝子のハプロタイプであるHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを含む、試薬。
(4) HLA class II遺伝子のハプロタイプであるHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを更に含む、(3)に記載の試薬。
【発明の効果】
【0009】
上記態様の方法及び試薬によれば、被験者におけるB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を簡便且つ確実に検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係るB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法及び試薬(以下、「本実施形態の方法」、「本実施形態の試薬」とそれぞれ略記する場合がある)の詳細を以下に説明する。
【0011】
<B型肝炎ワクチン(HBワクチン)>
本明細書において、B型肝炎ワクチンは、B型肝炎ウイルスの感染や再活性化を予防するために用いられるものであり、例えば、ヘプタバックス-II等のGenotype A(HBV/A)由来のワクチン;Engerix-B、Recombivax HB等のGenotype A2(HBV/A2)由来のワクチン;ビームゲン等のGenotype C(HBV/C)由来のワクチン等が挙げられる。
中でも、本実施形態の方法で対象となるHBワクチンとしては、本邦にHBワクチンとしての使用実績のあるビームゲン及びヘプタバックス-IIである。
【0012】
<B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法>
本実施形態の方法は、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法であって、前記B型肝炎ワクチンがビームゲン及びヘプタバックス-IIであり、
被験者由来のDNA含有試料中のHLA class II遺伝子のハプロタイプを検出することと、
前記ハプロタイプとしてHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04が検出された場合に、前記被験者は前記ビームゲンに対する免疫応答性を有し、前記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さない又は免疫応答性が低いと判定することと、
を含む。
【0013】
発明者らは、ビームゲンワクチンを接種した日本人成人1193検体及びヘプタバックス-IIを接種した日本人成人555検体について、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行ない、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性に関連するHLA class II遺伝子のハプロタイプとしてHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01及びHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を同定した。
【0014】
よって、本実施形態の方法は、ハプロタイプとしてHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01が検出された場合に、前記被験者は前記ビームゲン及び前記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さないと判定することを更に含むことが好ましい。
【0015】
本実施形態の方法によれば、被験者におけるB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を簡便且つ確実に検出することができる。
【0016】
HLAはヒトの主要組織適合性複合体(MHC;Major Histocompatibility Complex)であり、移植片や細菌、ウイルス等の外来抗原ペプチドと結合してT細胞に提示する膜タンパク質である。HLAには多くのアリルが存在することが知られており、これらの情報についてはHLA nomenclature(http://hla.alleles.org/announcement.html)等に記載がある。なお、本明細書のアリルや多型の表記は、HLA nomenclatureによる表記方法に基づく。
【0017】
上記ハプロタイプに関するシークエンスデータは、例えばGenBank(NIH genetic sequence data base)や、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)等のデータベースに登録されているデータを用いてよい。ここで、例えば、HLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01のうち、HLA-DRB1遺伝子のgDNAは11074bpであり、GenBankにHLA-DRB1(配列番号1、Genbankアクセッション番号NM_002124.4)と、アミノ酸は266残基でMHC class II antigen(配列番号2、Genbankアクセッション番号AAB42072.1)と登録されている。
HLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01のうち、HLA-DQB1遺伝子のgDNAは7191bpであり、GenBankにHLA-DQB1(配列番号3、Genbankアクセッション番号NM_002123.5)と、アミノ酸は229残基でMHC class II HLA-DQ-beta-1(配列番号4、Genbankアクセッション番号AAC41967.1)と登録されている。
HLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04のうち、HLA-DRB1遺伝子のgDNAは11704bpであり、GenBankにHLA-DRB1(配列番号1、Genbankアクセッション番号NM_002124.4)と、アミノ酸は89残基でMHC class II antigen HLA-DRBI, partial(配列番号5、Genbankアクセッション番号AAD50971.1)と登録されている。 HLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04のうち、HLA-DQB1遺伝子のgDNAは7191bpであり、GenBankにHLA-DQB1(配列番号3、Genbankアクセッション番号NM_002123.5)と、アミノ酸は183残基でMHC class II antigen, partial(配列番号6、Genbankアクセッション番号CBF35736.1)と登録されている。
なお、以降において、上記ハプロタイプHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01及びHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を「B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性に関連のあるアリル」、「本実施系に係るアリル」と称する場合がある。また、アリルに変えて多型やSNPという場合がある。
【0018】
アリルは、一本鎖及び二本鎖のDNAのほか、そのRNA相補体も含み、天然由来のものであっても、人工的に作製したものであってもよい。DNAには、例えば、ゲノムDNAや、前記ゲノムDNAに対応するcDNA、化学的に合成されたDNA、PCRにより増幅されたDNA、及びそれらの組み合わせや、DNAとRNAのハイブリッド等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、本明細書においてポリヌクレオチドとは、ヌクレオチドが2以上結合しているものをいい、一般にオリゴヌクレオチドと言われる長さのものを含む。また、本明細書におけるポリヌクレオチドは、DNAでもよく、RNAでもよい。
【0019】
これらの塩基配列は、当業者に公知の方法で適当な断片を用いてプローブを作製し、このプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリー及びゲノムライブラリー等から得ることができる。
【0020】
被験者由来のDNA含有試料としては、被験者の生体から採取されたものであれば特別な限定はないが、例えば、血液、血清、血漿、尿、パフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液、気管支肺胞洗浄液、毛髪、便、生体から直接採取された細胞又は組織等が挙げられ、これらに限定されない。これら試料からDNAを抽出して、後述する検出に用いられる試料とすることが好ましい。
【0021】
HLA class II遺伝子のハプロタイプの検出は、遺伝子レベル又はタンパク質レベルで行うことができる。例えば、検体からゲノムDNA又はmRNAを調製し、塩基配列に基づいて、ゲノムDNA又はmRNAにおけるB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性に関連のあるアリルを検出することができる。また、検体からヒトHLA-DP分子タンパク質を調製し、例えば抗体等を用いてDP分子におけるHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01及びHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を検出することができる。これらの方法について、以下簡単に説明する。
【0022】
[DNA含有試料からのゲノムDNA又はmRNA調製]
DNAの抽出方法としては、特別な限定はなく、公知の方法を用いて抽出することができる。例えば、フェノール/クロロホルム法、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)法等が挙げられる。DNAの抽出には、市販のキットを用いてもよい。当該キットとしては、例えば、Wizard Genomic DNA Purification Kit(Promega製)等が挙げられる。
【0023】
また、DNAは、mRNAを抽出し、当該mRNAを鋳型として合成されたcDNAであってもよい。mRNAの抽出方法としては、特別な限定はなく、公知の方法を用いて抽出することができる。例えば、グアニジンイソチオシアネート法等が挙げられる。mRNAの抽出には、市販のキットを用いてもよい。当該キットとしては、例えば、NucleoTrap(登録商標) mRNA Kit(Clontech製)等が挙げられる。cDNAの合成方法についても、特別な限定はなく、公知の方法を用いて合成することができる。例えば、ランダムプライマー又はポリTプライマーを用いて、RNAから逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりcDNAを合成することができる。
【0024】
上記のように調製したゲノムDNA又はmRNAにおけるHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01及びHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04の検出は、当技術分野で公知の遺伝子多型検出法を用いて検出することができる。例えば、直接配列決定法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、制限酵素断片長多型(RFLP)法、ハイブリダイゼーション法、TaqMan(登録商標) PCR法(以下、「登録商標」との記載を省略する)、質量分析法等を用いる方法が挙げられる。ただし、HLA-DRB1遺伝子では、特に第2エクソン内に多型部位が多数あるため、これらのアリルを検出するために、多数の多型を判別する必要がある。以下に当該方法について説明する。
【0025】
直接配列決定法は、上記被験者由来のDNA含有試料中の検出対象であるHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01及びHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を含む領域を、ベクターにクローニングするか又はPCRで増幅し、当該領域の塩基配列を決定することにより行う。クローニングの方法としては、適切なプローブを用いてcDNAライブラリーからスクリーニングすることにより、クローニングすることができる。また、適切なプライマーを用いてPCR反応により増幅し、適切なベクターに連結することによりクローニングすることができる。さらに、別のベクターにサブクローニングすることもできるが、これらに限定されない。ベクターとしては、例えば、pBlue-Script SK(+)(Stratagene製)、pGEM-T(Promega製)、pAmp(Gibco-BRL製)、p-Direct(Clontech製)、pCR2.1-TOPO(Invitrogene製)等の市販のプラスミドベクター、ウイルスベクター、人口染色体ベクターやコスミドベクターを用いることができる。塩基配列の決定としては、公知の方法を用いることができ、例えば、放射性マーカーヌクレオチドを使用する手動式配列決定法や、ダイターミネーターを使用する自動配列決定法が挙げられるが、これらに限定されない。このようにして得られた塩基配列に基づき、検体がHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01及びHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04に相当する配列を有するか否かを決定する。
【0026】
PCR法は、本実施形態に係るアリルを有する配列又は他のアリルを有する配列にのみハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー(以下、「本実施形態に係るアリル検出用プライマー」と称する場合がある)を用いて行う。上述のとおりHLA-DRB1遺伝子には複数のSNPが存在本実施形態に係るアリル検出用プライマーは、全てのSNPを検出し得るプライマーを1種単独で用いてもよく、各SNPを検出し得るプライマーを2種以上組み合わせて用いてもよい。このプライマーを使用して検体のDNAを増幅する。本実施形態に係るアリル検出用プライマーのみがPCR産物を生成した場合には、検体は本実施形態に係るアリルを有することになる。他のアリル用プライマーのみがPCR産物を生成した場合には、検体には本実施形態に係るアリルがないことが示される。
【0027】
RFLP法は、まず、検出対象の本実施形態に係るアリルを含む領域をPCRで増幅する。続いてこのPCR産物を、本実施形態に係るアリルを含む領域に適する制限酵素で切断する。制限酵素により消化されたPCR産物は、ゲル電気泳動で分離し、エチジウムブロマイド染色で可視化する。当該断片長を、分子量マーカー、並びに、対照として、制限酵素処理していない上記PCR産物等と比較して、検体における本実施形態に係るアリルの存在を検出することができる。
【0028】
ハイブリダイゼーション法は、検体由来のDNAが、それに対し相補的なDNA分子(例えば、オリゴヌクレオチドプローブ)とハイブリダイズする性質に基づき、検体における本実施形態に係るアリルの有無を決定する方法である。コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション等のハイブリダイゼーション及び検出のための種々の技術を利用してこのハイブリダイゼーション法を行うことができる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning、A Laboratory Manual 3rd ed.」(Cold Spring Harbor Press(2001);特にSection6-7)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley&Sons(1987-1997);特にSection6.3-6.4)、「DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach 2nd ed.」(Oxford University(1995);ハイブリダイゼーション条件については特にSection2.10)等を参照することができる。さらに、ハイブリダイゼーションはDNAチップを利用して検出することもできる。当該方法としては、本実施形態に係るアリルに特異的なオリゴヌクレオチドプローブを設計し、それを固相支持体に貼りつけたものを用いる。そして、検体由来のDNAサンプルを当該DNAチップと接触させて、ハイブリダイゼーションを検出する。
【0029】
TaqMan PCR法は、本実施形態に係るアリルに特異的なTaqManプローブとTaqポリメラーゼを用い、SNPの検出とSNPを含む領域の増幅とを同時並行で行う方法である。TaqManプローブは、5’末端が蛍光物質、3’末端がクエンチャーで標識されている約20塩基前後のオリゴヌクレオチドであり、目的のSNP部位にハイブリダイズするよう設計されている。Taqポリメラーゼは5’→3’ヌクレアーゼ活性がある。これらのTaqManプローブ及びTaqポリメラーゼ存在下で目的のSNP部位を含む領域を増幅するよう設計されたPCRプライマーを用いて該SNP部位を含む領域を増幅すると、増幅と並行して、TaqManプローブが鋳型DNAの目的のSNP部位にハイブリダイズする。フォワードプライマー側からの伸長反応が、鋳型にハイブリダイズした、TaqManプローブに到達すると、Taqポリメラーゼの5’→3’ヌクレアーゼ活性により、TaqManプローブの5’末端に結合していた蛍光物質が切断される。その結果、遊離した蛍光物質はクエンチャーの影響を受けなくなり、蛍光を発生する。蛍光強度の測定により、SNP検出が可能となる。
【0030】
質量分析法を用いた方法としては、例えば、MALDI-TOF/MS法を応用したSNPタイピング方法として、プライマー伸長法と組み合わせた方法もあげられる。この方法はハイスループットな解析が可能であり、1)PCR、2)PCR産物の精製、3)プライマー伸長反応、4)伸長産物の精製、5)質量分析、6)ジェノタイプ決定、のステップにより解析する。まずPCRによって、目的とするSNP部位を含む領域をゲノムDNAから増幅する。PCRプライマーは、SNP部位塩基と重複しないように設計する。そして、エキソヌクレアーゼとエビのアルカリホスファターゼを用いて酵素的除去方法により精製するかエタノール沈殿法を用いて精製する。次に、3’末端がSNP部位に直接隣接するように設計したジェノタイピングプライマーを用いて、プライマー伸長反応を行う。PCR産物を高温で変性し、過剰のジェノタイピングプライマーを加えて、アニールさせる。ddNTPとDNAポリメラーゼを反応系に添加し、サーマルサイクル反応させると、ジェノタイピングプライマーよりも1塩基長いオリゴマーが生じる。この伸長反応で生じる1塩基長いオリゴマーは、ジェノタイピングプライマーの上記設計により、アリルに応じて異なる。精製した伸長反応産物について質量分析を行い、マススペクトルから解析する。
【0031】
その他の検出方法としては、ハイスループットが可能なSNPタイピング法として、1分子蛍光分析法を応用した方法等が挙げられる。例えば、MF20/10S(オリンパス製)は、当該方法を採用したシステムである。具体的には、共焦点レーザー光学系と高感度光検出器を用いて、約1フェムトリットル(1000兆分の1リットル)の超微小領域中で、相補的及び非相補的なプライマーを用いたPCR法によって増幅した蛍光ラベルプライマーの1分子レベルの並進拡散時間を計測及び解析するものである。
【0032】
また、DNAチップによる方法も、ハイスループットが可能なタイピングの1つである。DNAチップは、基板上に多種類のDNAプローブを整列して固定したもので、標識したDNA試料をチップ上でハイブリダイゼーションし、プローブによる蛍光シグナルを検出する。
【0033】
PCR法以外の遺伝子増幅法を利用したSNPタイピング方法の例として、Snipper法が挙げられる。当該方法は、環状一本鎖DNAを鋳型としてDNAポリメラーゼがその上を移動しながら相補鎖DNAを合成するDNA増幅方法であるRCA(rolling circle amplification)法を応用したSNPタイピング法である。プローブは80塩基長以上90塩基長以下のオリゴDNAで、標的SNP部位の5’末端及び3’末端近傍のそれぞれに相補的な10塩基長20塩基長以下の配列を両末端に含んでおり、標的DNAにアニールして環状になるように設計されている。また、プローブの3’末端が標的SNP部位に相補的配列となるよう設計されている。プローブの3’末端が標的SNP部位と完全に相補的であれば、プローブは環状化されるが、プローブの3’末端がミスマッチであるとプローブは環状化されない。またプローブには、40塩基長以上50塩基長以下のバックボーン配列があり、2種類のRCA増幅プライマーと相補的な配列が含まれる。
【0034】
PCR法以外の遺伝子増幅法を利用したSNPタイピング方法の他の例としては、例えば、UCAN法やLAMP法を利用したタイピング方法が挙げられる。
【0035】
UCAN法は、タカラバイオが開発した遺伝子等温増幅法であるICAN法を応用した方法である。UCAN法では、プライマー前駆体としてDNA-RNA-DNAキメラオリゴヌクレオチド(DRD)を用いる。このDRDプライマー前駆体は、DNAポリメラーゼによる鋳型DNAの複製が起こらないように、3’末端のDNAが修飾されており、SNPサイトにRNA部分が結合するように設計されている。このDRDプライマー前駆体を鋳型とインキュベートすると、DRDプライマーと鋳型が完全にマッチしている場合のみ、共存するRNase Hが対合したDRDプライマーのRNA部分を切断する。これにより、プライマー3’末端は修飾DNAが外れて新しくなるため、DNAポリメラーゼによる伸長反応が進み、鋳型DNAが増幅される。一方、DRDプライマーと鋳型DNAがマッチしない場合、RNase HはDRDプライマーを切断せず、DNA増幅も起こらない。パーフェクトマッチしたDRDプライマー前駆体がRNase Hによって切断された後の増幅反応は、ICAN反応メカニズムによって進行する。
【0036】
LAMP法は、栄研化学によって開発された遺伝子等温増幅法で、標的遺伝子の6箇所の領域(3’末端側からF3c、F2c、F1c、5’末端側からB3、B2、B1)を規定し、当該6領域に対する4種類のプライマー(FIPプライマー、F3プライマー、BIPプライマー、B3プライマー)を用いて増幅する。タイピングを目的とする場合は、F1-B1間は標的SNP部位(1塩基)のみでよく、FIPプライマー及びBIPプライマーを、その5’末端にSNPの1塩基がくるように設計する。SNPがない場合、LAMP法の起点構造であるダンベル構造からDNAの合成反応が起こり、増幅反応が連続的に進行する。SNPがある場合は、ダンベル構造からのDNA合成反応が起こらず、増幅反応は進行しない。
【0037】
インベーダー(Invader)法は、核酸増幅法を用いず、2種類の非蛍光標識プローブ(アレルプローブ、インベーダープローブ) と1種類の蛍光標識プローブ(FRETプローブ)及びエンドヌクレアーゼであるCleavaseを用いる方法である。アレルプローブは、鋳型DNAに対しSNP部位から3’末端側に相補的な配列があり、プローブの5’末端側にフラップという鋳型DNAと無関係な配列がある。インベーダープローブは、鋳型DNAのSNP部位から5’末端側に相補的な配列があり、SNP部位に相当する部分の塩基は任意の塩基がある。FRETプローブは、3’末端側にフラップ配列に相補的な配列がある。一方の5’末端側は蛍光色素及びクエンチャーで標識されているが、FRETプローブは分子内で2本鎖を形成するよう設計されており、通常は消光されている。これらを鋳型DNAと反応させると、アレルプローブが鋳型DNAと2本鎖を形成したときに、SNP部位にインベーダープローブの3’末端(任意塩基部分)が侵入する。Cleavaseは、当該塩基が侵入した構造を認識して、アレルプローブのフラップ部分を切断する。次に、この遊離したフラップがFRETプローブの相補配列と結合すると、フラップの3’末端がFRETプローブの分子内二本鎖部分に侵入する。Cleavaseは、上記アレルプローブとインベーダープローブの場合と同様に、このFRETプローブにフラップの塩基が侵入した構造を認識し、FRETプローブの蛍光色素を切断する。蛍光色素はクエンチャーから離れるため、蛍光が発生する。アレルプローブが鋳型DNAとマッチしない場合は、Cleavaseが認識する、上記特異的な構造が形成されないため、フラップは切断されない。
【0038】
SNPの検出にプライマーを用いる場合は、増幅する領域及びタイピング方法に即したプライマーとなるように設計する。例えば、上記領域を完全に増幅できることが好ましく、上記領域の両端付近の配列に基づいて配列を設計できる。プライマーの設計手法は当技術分野で周知であり、本実施形態の方法において使用可能なプライマーは、特異的なアニーリングが可能な条件を満たす、例えば特異的なアニーリングが可能な長さ及び塩基組成(融解温度)を有するように設計される。増幅する領域の長さは、タイピングに支障がない限り制限はないし、検出方法により適宜増減してよい。また、増幅される領域の一部にはSNP部位が含まれるが、増幅される領域内における当該部位の位置に制限はなく、検出方法(タイピング方法)にしたがって適切な位置に配置してよい。そのためプライマーの設計にあたり、プライマーとSNP部位との位置関係は、検出方法にあわせて自由に設計でき、検出しようとするSNPを含む領域(例えば、連続した50塩基長以上500塩基長以下)にハイブリダイズする限り、タイピング方法の特性を考慮しながら、プライマーを設計できる。プライマーとしての機能を発揮する長さとしては、10塩基以上100塩基以下が好ましく、15塩基以上50塩基以下がより好ましく、15塩基以上30塩基以下がさらに好ましい。また設計の際には、任意の核酸鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度であるプライマーの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。鋳型となるDNAとプライマーとが二本鎖を形成してアニーリングするためには、アニーリングの温度を最適化する必要があるが、その一方で、この温度をより低すぎると非特異的な反応がおこるため、好ましくないからである。Tmの確認には、公知のプライマー設計用ソフトウェアを利用することができる。
【0039】
SNPの検出にプローブを用いる場合は、プローブがSNP部位を認識するように設計する。プローブ設計において、SNP部位は、タイピング方法にあわせて、プローブ内のいずれかの場所で認識されればよく、タイピング方法によっては、プローブの末端で認識されてもよい。SNP検出用ポリヌクレオチドをプローブとする場合、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15塩基以上200塩基以下であり、15塩基以上100塩基以下が好ましく、15塩基以上50塩基以下がより好ましいが、タイピング方法によってはこれより長くても短くてもよい。
【0040】
本実施形態の方法において、ハプロタイプとしてHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04が検出された場合に、前記被験者は前記ビームゲンに対する免疫応答性を有し、前記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さない又は免疫応答性が低いと判定する。すなわち、当該被験者がビームゲンを接種した後である場合には、当該被験者がHBs抗体を有する可能性があることを示す。
また、本実施形態の方法において、ハプロタイプとしてHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01が検出された場合に、前記被験者は前記ビームゲン及び前記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さないと判定する。
【0041】
また、診断実用性の計算に用いて、ビームゲンに対する免疫応答性の陽性率を解析することもできる。ここでいう陽性率とは、検体全体のうち、ハプロタイプとしてHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を有する検体の割合を意味する。例えば、本明細の実施例に記載した日本人成人1193人については、HLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を有する検体は123人であり、HLA-DRB1*13:02-DQB1を有さない検体は1070人であり、陽性率は約10.3%となる。
【0042】
HBワクチンに対する免疫応答性の有無は、HBワクチンをこれから接種する健常者やHBワクチンを接種した健常者だけでなく、HBV感染者にとっても重要な情報であり、例えば、B型肝炎の治療方法や治療薬の選定及びB型肝炎の予防及び発症防止に関する重要な情報となる。特に、HBV感染者においては、免疫力が低下等することでHBVが再活性化して肝炎が劇症化することを予防するために重要な情報となり得る。
【0043】
本実施形態の方法において、上記ハプロタイプの検出に加えて、他のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無に関連するSNPやハプロタイプを検出してもよい。上記ハプロタイプの検出と組み合わせてこれら他のSNPやハプロタイプを検出することで、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無をより精度が高く判断することができ、診断の信頼度がより高まる。
【0044】
他のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無に関連するSNPとしては、例えば、BTNL2遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs4248166等)、IL1RL1遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs9646944等)、STOX2遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2871385等)、MCPH1遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2732977等)、OXA1L遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs3132969等)、BCL11B遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs1951122等)が挙げられる。これらのSNPを1種単独で検出対象としてもよく、2種以上組み合わせて検出対象としてもよい。検体中にこれらのSNPが検出された場合に、当該検体がHBワクチンに対する免疫応答性を有すると判定することができる。
【0045】
B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無に関連するハプロタイプとしては、HLA class II遺伝子のハプロタイプ(HLA-DRB108:03-DQB106:01、HLA-DRB114:06-DQB103:01、HLA-DRB115:01-DQB106:02、HLA-DRB101:01-DQB105:01等)等が挙げられる。これらのハプロタイプを1種単独で検出対象としてもよく、2種以上組み合わせて検出対象としてもよい。検体中にHLA-DRB108:03-DQB106:01及びHLA-DRB115:01-DQB106:02のうち少なくともいずれか一方のハプロタイプが検出された場合に、当該検体がHBワクチンに対する免疫応答性を有すると判定することができる。一方で、検体中にHLA-DRB104:05-DQB104:01及びHLA-DRB114:06-DQB103:01のうち少なくともいずれか一方のハプロタイプが検出された場合に、当該検体がHBワクチンに対する免疫応答性を有さない、又は免疫応答性が低いと判定することができる。
また、検体中に、HLA-DRB108:03-DQB106:01及びHLA-DRB115:01-DQB106:02のうち少なくともいずれか一方のハプロタイプ、及び、HLA-DRB104:05-DQB104:01及びHLA-DRB114:06-DQB103:01のうち少なくともいずれか一方のハプロタイプ、の両方が検出された場合には、ワクチンへの高反応性が有意となることから、当該検体がHBワクチンに対する免疫応答性を有すると判定することができる。
【0046】
これら他のSNPやハプロタイプの検出方法としては、上述したハプロタイプの検出方法と同様の方法が挙げられる。
【0047】
<B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する試薬>
本実施形態の試薬は、HLA class II遺伝子のハプロタイプであるHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を検出する核酸プローブ又はプライマーを含む。本実施形態の試薬は、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無の検査用試薬として有用である。HLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04としては、上記「B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。また、核酸プローブ又はプライマーについては、当業者であれば、上記「B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法」において、ハプロタイプの検出方法として記載した方法を用いて適宜作製することができる。
【0048】
本実施形態の試薬は、HLA class II遺伝子のハプロタイプであるHLA-DRB1*04:05-DQB*04:01を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを更に含むことが好ましい。当該核酸プローブ又はプライマーを更に含むことで、ビームゲン及びヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さない又は免疫応答性が低い被験者の検出をより効率良く行うことができる。
【0049】
本実施形態の試薬は、上記核酸プローブ又はプライマーに加えて、SNPタイピングに通常用いられる試薬、陽性コントロール、溶媒及び溶質を更に含むことができる。当該試薬としては、例えば、デオキシヌクレオチド3リン酸(dNTPs)やDNAポリメラーゼ等が挙げられる。溶媒及び溶質としては、例えば、蒸留水、pH緩衝試薬、塩、タンパク質、界面活性剤等が挙げられる。
【0050】
上記核酸プローブ又はプライマーは、上述した2種類のハプロタイプとは無関係な配列が含まれていてもよい。また、上記核酸プローブ又はプライマーは、DNAとRNAのキメラであってもよい。また、上記核酸プローブ又はプライマーは、蛍光物質や、ビオチン又はジゴキシンのような結合親和性物質、酵素、放射性同位元素、発光物質等で標識されていてもよい。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセインイソチオシアネート等が挙げられる。酵素としては、例えば、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ等が挙げられる。放射性同位元素としては、例えば、125I、131I、H、14C等が挙げられる。発光物質としては、例えば、ルシフェリン、ルシゲニン、ルミノール、ルミノール誘導体等が挙げられる。
【0051】
本実施形態の試薬は、上記核酸プローブ又はプライマーに加えて、比較基準とするためのあるいは検量線を作成するための照合サンプル、検出器等も含んでもよい。検出器としては、例えば、分光器、放射線検出器、光散乱検出器等の上記核酸プローブ又はプライマーの標識を検出可能なものが挙げられる。
【0052】
本実施形態の試薬は、上述した2種類のハプロタイプを検出する核酸プローブ又はプライマーに加えて、他のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無に関連するSNPやハプロタイプを検出する核酸プローブ又はプライマーを含むことができる。当該SNPやハプロタイプとしては、上記「B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。また、これらSNPやハプロタイプを検出する核酸プローブ又はプライマーについては、当業者であれば、上記「B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法」において、ハプロタイプの検出方法として記載した方法を用いて適宜作製することができる。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<材料及び測定方法>
[試料及び臨床データ]
本研究でビームゲンに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出に使用された日本人成人1193例のゲノムDNAサンプルは、全て組換え沈降HBワクチン(ビームゲン、化学及血清療法研究所製)で、0、1及び6か月に3回(0.5mL)のワクチン接種を行った健康な成人ボランティア(18歳以上)から得られたものである。ヘプタバックス-IIワクチン(MSD KK製)の予防接種を受けた個人は上記1193例のゲノムDNAサンプルには含まれない。
一方、本研究でヘプタバックス-IIに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出に使用された日本人成人555例のゲノムDNAサンプルは、全て全て組換え沈降HBワクチン(ヘプタバックス-II、MSD KK製)で、0、1及び6か月に3回(0.5mL)のワクチン接種を行った健康な成人ボランティア(18歳以上)から得られたものである。ビームゲンワクチン(化学及血清療法研究所製)の予防接種を受けた個人は上記555例のゲノムDNAサンプルには含まれない。
【0055】
血清抗HBV表面抗体(HBsAb)及び血清抗HBVコア抗体(HBcAb)は、それぞれ、抗HBsキット及び抗HBc II キットを使用し、且つ、Architect i2000SRアナライザー(Abbott Japan製)を使用した完全自動化学発光酵素免疫測定システムで、ワクチン接種前及び最終接種の1か月後に確認した。HBcAb陽性(>1.0 S/CO)の個人は、本研究には含まれない。
本研究では、上記ビームゲンに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出に使用された日本人成人1193例を以下に示す3つのグループに分類した:
group_0、低反応群、HBsAb≦10mIU/mL、n=107。
group_1、中反応群、10mIU/mL<HBsAb≦100mIU/mL、n=351。
group_2、高応応群、100mIU/mL<HBsAb≦1000mIU/mL、n=735。
1193例の個人の臨床情報は、グループ毎に以下のURLにまとめられている(http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hep.29876/suppinfo)。
また、上記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出に使用された日本人成人555例についても同様に、以下に示す3つのグループに分類した:
group_0、低反応群、HBsAb≦10mIU/mL、n=66。
group_1、中反応群、10mIU/mL<HBsAb≦100mIU/mL、n=124。
group_2、高反応群、100mIU/mL<HBsAb、n=305。
【0056】
[ゲノムワイド関連解析(GWAS)]
上記ゲノムDNAサンプルについて、製造元の指示に従い、Affymetrix Axiom Genome-Wide ASI 1 Arrayを使用して、ゲノムワイドSNP解析を実施した。
【0057】
[HLA imuputation法]
上記555例のSNPデータは、hg19の位置に基づいて、25,759,242bp以上33,534,827bp以下の範囲の拡張MHC(xMHC)領域から抽出した。以前の報告(非特許文献1)と同じ方法を用いて、HIBAG Rパッケージを使用して、3つのHLA class II遺伝子に対して、2-field HLA genotype imputationを実施した。HLA-DRB1、DQB1、及びDPB1の場合には、HLA遺伝子型imputationには、当所が所有する日本語参照imputationが使用された。呼び出した閾値(CT>0.5)を使用して、imputation後の品質管理を適用した。Group_0の63例、Group_1の174例、及びGroup_2の278例からなる合計515例のサンプルは、3つの推定HLA遺伝子型を示し、すべてが閾値を満たしていた 合計で、22個のHLA―DRB1、14個のHLA-DQB1、及び11個のHLA-DPB1遺伝子型をHLA class II遺伝子に代入した。
【0058】
[実施例1]
上記555例のゲノムDNAサンプルを用いて、上記ゲノムワイドSNP解析を実施し、下記に示すStatus-1及びStatus-2中の2群をそれぞれ比較するゲノムワイド関連解析(GWAS)を行なった。
【0059】
Status-1:group_0(低反応群、HBsAb≦10mIU/mL、n=66)に対する、group_1+group_2(中反応群+高反応群、HBsAb>10mIU/mL、n=489)
Status-2:group_0(低反応群、HBsAb≦10mIU/mL、n=66)に対する、group_2(高反応群、HBsAb>100mIU/mL、n=305)
【0060】
以前の研究により、ビームゲンを対象としたGWASにおいてビームゲン応答性との関連が有意(P値<0.0001)となったSNPの中で、ヘプタバックス-IIを対象としたGWASでも応答性が有意(P値<0.05)となった72個のSNPのオッズ比は非常に高い相関を示した(R2=0.8856)。一方で、ヘプタバックス-II接種者とビームゲン接種者を3群ごとに比較した結果、ゲノムワイドで有意となるSNPが存在しなかった。
これらのことから、GWASでは、2種類のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性に関わる遺伝子に有意な違いを検出できないことが分かった。
【0061】
続いて、HLA関連解析を実施した。
具体的には、HLA関連解析においても、まずはヘプタバックス-IIに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出に使用された日本人成人555例を同様に、以下に示す3つのグループに分類した:
group_0、低反応群、HBsAb≦10mIU/mL、n=66。
group_1、中反応群、10mIU/mL<HBsAb≦100mIU/mL、n=124。
group_2、高反応群、100mIU/mL<HBsAb、n=305。
【0062】
次いで、それぞれの応答群におけるハプロタイプ及びアリルとの関連をHLA imuputation法により解析した。
【0063】
まず、各反応群とHLAハプロタイプとの関係性について検討した。結果を表1(group_0とgroup_2の比較)及び表2(group_0とgroup_1+group_2の比較)に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1及び表2に示すように、ハプロタイプ(HLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01)及びアリル(DPB*05:01)が有意な関連を示した。それぞれにおけるオッズ比(OR)が1より大きいことから、これらハプロタイプ及びアリルを有すると、グループ0となる確率が有意に大きい、つまり低反応群となりやすいことが示唆された。
【0067】
次に、HLAハプロタイプとヘプタバックス-II応答性との関係性と、以前行った日本人成人1,193例を対象としたHLAハプロタイプとビームゲン応答性との関係性(非特許文献1参照)とを比較した。表3は、ヘプタバックス-II及びビームゲンそれぞれの高反応群(Group_2)におけるHLAハプロタイプの比率を示したものである。表4は、ヘプタバックス-II及びビームゲンそれぞれの中高反応群(Group_1+Group_2)におけるHLAハプロタイプの比率を示したものである。
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
表3及び表4に示したように、2種のハプロタイプ(HLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01及びHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04)が有意な関連を示した。それぞれのオッズ比(OR)から、HLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01を有すると、ヘプタバックス-IIの群が有意に大きい、つまりヘプタバックス-IIの群で高反応群及び中高反応群となりやすい。一方、HLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を有すると、ビームゲンの群が有意に大きい、つまりビームゲンの群で高反応群となりやすいことが示された。
なお、HLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01は、ヘプタバックス-II及びビームゲンそれぞれにおける低反応群、中反、及び応群高反応群との比較により、本ハプロタイプを有すると、いずれのワクチンの場合も低反応群となりやすいことが既に示されているハプロタイプである。
他方、HLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04はヘプタバックス-II及びビームゲンそれぞれにおける中高反応群との比較で初めて有意な相関が認められた。
【0071】
そこで、続いてHLAハプロタイプと、ビームゲン及びヘプタバックス-IIの高反応群それぞれと健常者群の関係性を比較した。結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表5に示すように、HLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04がヘプタバックス-II高反応群と健常者群との比較において有意な関連を示した。一方、健常者群とビームゲン高反応群では、同ハプロタイプにおいて有意な相関は得られなかった。なおヘプタバックス-II高反応群と健常者群との比較におけるオッズ比(OR)が1より小さいことから、これらハプロタイプを有する確率は健常者の群が有意に大きい。つまり、HLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を有する群は、ヘプタバックス-II高反応群よりも健常者の群において割合が有意に多いことを示しており、間接的に同ハプロタイプを有する群はヘプタバックス-II接種において高反応群となりにくいことを示唆している。
【0074】
また、IEDB(Immune Epitope Database)を用いて、HLA-DRB1*04:05又はHLA-DRB1*13:02と、ビームゲン又はヘプタバックス-IIの抗原ペプチドの結合予測を行なった。
【0075】
その結果、HLA-DRB1*04:05では、ヘプタバックス-IIの抗原ペプチドのほうが安定的な結合を示すものが多いことが明らかとなった。また、HLA-DRB1*13:02との結合において、ヘプタバックス-IIでは不安定で、ビームゲンでは安定である抗原ペプチドの配列を探索したところ、ヘプタバックス-IIに特有の配列であって、N末端から134番目のアミノ酸残基から148番目のアミノ酸残基までの15アミノ酸残基からなる配列(FPSCCCTKP[T/S]DGNCT:配列番号7)であることが明らかとなった。
【0076】
以上の結果から、検体がHLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01を有する場合には、当該検体は、ビームゲン及びヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さない又は免疫応答性が低い傾向があり、一方で、検体がHLA-DRB1*13:02-DQB1*06:04を有する場合には、当該検体は、ビームゲンに対する免疫応答性を有し、ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性を有さない又は免疫応答性が低い傾向があることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本実施形態の方法及び試薬によれば、被験者におけるB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を簡便且つ確実に検出することができる。
【配列表】
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