(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129900
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20220830BHJP
B64D 27/24 20060101ALI20220830BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20220830BHJP
B64D 33/00 20060101ALI20220830BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20220830BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20220830BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20220830BHJP
F16C 19/54 20060101ALI20220830BHJP
F16N 7/32 20060101ALI20220830BHJP
F16N 29/02 20060101ALI20220830BHJP
G01M 13/04 20190101ALI20220830BHJP
【FI】
F16C41/00
B64D27/24
B64C39/02
B64D33/00 Z
B64C27/08
F16C19/16
F16C19/52
F16C19/54
F16N7/32 E
F16N29/02
G01M13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028769
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】多田 晶美
(72)【発明者】
【氏名】土田 良恵
【テーマコード(参考)】
2G024
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2G024AC02
2G024AC05
2G024BA27
2G024CA11
2G024CA13
2G024CA17
2G024DA09
2G024EA11
2G024FA02
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA14
3J217JA02
3J217JA12
3J217JA14
3J217JA15
3J217JA16
3J217JA24
3J217JA34
3J217JB22
3J217JB25
3J217JB61
3J217JB88
3J701AA03
3J701AA14
3J701AA15
3J701AA16
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA77
3J701DA09
3J701DA16
3J701EA03
3J701EA06
3J701EA49
3J701FA22
3J701FA24
3J701FA26
3J701FA48
(57)【要約】
【課題】電動垂直離着陸機の駆動部における回転軸を支持する軸受の異常を精度良く検出でき、安定な飛行を実現する軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受装置6は、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部3A~3Dを複数備え、回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機1に搭載され、駆動部3A~3Dにおける回転軸を支持する転がり軸受7A~7Dと、転がり軸受の内部または外部に設けられ、その転がり軸受の状態を示す指標を取得するセンサ8A~8Dと、指標に基づいて転がり軸受の異常を判定する異常判定部9と、駆動部3A~3Dを制御する制御部11とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される軸受装置であって、
前記軸受装置は、前記駆動部における回転軸を支持する転がり軸受と、前記転がり軸受の内部または外部に設けられ、その転がり軸受の状態を示す指標を取得するセンサと、前記指標に基づいて前記転がり軸受の異常を判定する異常判定部と、前記駆動部を制御する制御部とを有することを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記指標は、前記転がり軸受の熱流束、前記転がり軸受の温度、前記転がり軸受の振動、前記転がり軸受の荷重、および前記転がり軸受の絶対角から選ばれる1つまたは2つ以上を組み合わせた指標であることを特徴とする請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
前記異常判定部が、前記複数の転がり軸受のうち少なくとも1つの転がり軸受が異常と判定した場合、前記制御部は、異常と判定された前記転がり軸受の状態を緩和させるよう該転がり軸受が搭載される前記駆動部を制御しつつ、他の前記駆動部を制御して飛行を継続させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の軸受装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記異常判定部により異常と判定された場合に、前記駆動部の前記モータの回転数、または、前記転がり軸受の軸受内部に供給される潤滑剤の供給量を調整することを特徴とする請求項3記載の軸受装置。
【請求項5】
前記異常判定部は、前記センサの前記指標の取得間隔のm倍(mは整数)の間隔で前記転がり軸受の異常を判定することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の軸受装置。
【請求項6】
前記異常判定部により異常と判定された場合に、その異常を報知する報知部を有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の軸受装置。
【請求項7】
回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される軸受装置であって、
前記軸受装置は、前記駆動部における回転軸を支持する転がり軸受と、前記転がり軸受の内部または外部に設けられ、その転がり軸受の状態を示す指標を取得するセンサと、前記指標を保存する保存装置と、前記指標に基づいて前記転がり軸受の異常を判定する異常判定部とを有し、
前記異常判定部は、前記保存装置に累積して保存された前記指標の推移に基づき、所定期間毎に前記転がり軸受の異常を判定することを特徴とする軸受装置。
【請求項8】
前記指標は、前記転がり軸受の熱流束、前記転がり軸受の温度、前記転がり軸受の振動、および前記転がり軸受の荷重から選ばれる1つまたは2つ以上を組み合わせた指標であることを特徴とする請求項7記載の軸受装置。
【請求項9】
前記異常判定部により異常と判定された場合に、その異常を報知する報知部を有することを特徴とする請求項7または請求項8記載の軸受装置。
【請求項10】
前記異常判定部は、前記指標に基づいて、予め設定した閾値を境に異常と判定することを特徴とする請求項7から請求項9までのいずれか1項記載の軸受装置。
【請求項11】
前記閾値は複数段階設定されており、前記異常判定部は、前記閾値に基づいて前記転がり軸受の異常のレベルを判定し、
前記報知部は前記異常判定部が判定した異常のレベルに応じて、報知の態様を変更することを特徴とする請求項10記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、道路網の発達とともに、移動手段として自動車が世界的に広く使用されている。一方で、日本を含む多くの国では都市部への人口集中が進んでおり、過密化が進む都市部では、自動車による交通渋滞が深刻な社会問題になっている。このような交通渋滞によって膨大な労働力が失われているといわれている。
【0003】
また近年、道路網は発達しているものの、山岳地や過疎地などでは未だ道路が十分に整備されていない地域も多い。さらに、日本では将来的な人口減少が問題視されており、今後、地方における道路整備なども課題になってくる。一方、地震などの自然災害時には道路が寸断されるケースもあり、そのような事態には自動車による移動が困難な場合もある。
【0004】
このような様々な事情から、自動車に代わる持続可能な新たな移動手段が求められつつある。近年では、移動手段として飛行可能な自動車、いわゆる空飛ぶクルマが注目されている。空飛ぶクルマは、上記の社会的問題の解消に期待されており、地域内移動、地域間移動、観光・レジャー、救急医療、災害救助など、様々な場面での活用が期待されている。日本では「空の移動革命に向けた官民協議会」が開催され、2018年に空飛ぶクルマの実現に向けたロードマップが取りまとめられており、実現化に向けて検討が進められている。
【0005】
空飛ぶクルマとしては、垂直離着陸機(VTOL;Vertical Take-Off and Landing aircraft)が注目されている。垂直離着陸機は、空と離発着場を垂直に昇降できることから、滑走路が必要とならず、利便性に優れる。特に、近年ではCO2の削減に向けた社会的要請などからバッテリーとモータで飛行するタイプの電動垂直離着陸機(eVTOL)が開発の主流となっている。
【0006】
電動垂直離着陸機は、さらにマルチコプタータイプと固定翼付きタイプに大別される。マルチコプタータイプは短距離の飛行に適しており、コンパクトなサイズで部品点数が少ないことを特徴としている。マルチコプターは、主に、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する複数の駆動部と、乗員が乗車する本体部とを有する(例えば特許文献1参照)。マルチコプターは、回転翼の回転によって生じる揚力で浮上し、複数の回転翼の回転数を制御することでバランスを取り、飛行姿勢を制御する。一方、固定翼付きタイプは短距離に限らず、中距離での飛行にも活用できるとされているが、社会実装は、開発コストや認証コストが少ないマルチコプタータイプから先に進むといわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、電動垂直離着陸機は航空法上の航空機の1つに分類される。そのため、航空法により定められる安全性の基準を満たす必要があり、極めて高い安全性が要求される。安定した飛行性能はもちろんのこと、例えば、一部の部品に不具合が生じた場合にも飛行を安全に継続できるための機能(フェールセーフ機能)も重要になる。
【0009】
特に、マルチコプターは、固定翼を有しておらず回転翼の回転のみで推進力を得ているため、一部の回転翼の回転に不具合が生じた場合には、飛行姿勢の維持が困難になるおそれがある。そのため、駆動部において回転軸を支持する軸受の役割は重要であり、軸受の異常を精度良く検出することが求められる。また、マルチコプターは、水平移動時には、浮上に使用した揚力の一部を水平移動の力に変えて飛行姿勢を傾ける。このように回転翼を飛行姿勢の制御にも用いているため、より俊敏かつ、正確な姿勢制御を実現する観点からも軸受が果たす役割は大きいといえる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電動垂直離着陸機の駆動部における回転軸を支持する軸受の異常を精度良く検出でき、安定な飛行を実現する軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の形態(リアルタイム監視の形態)の軸受装置は、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、上記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される軸受装置であって、上記軸受装置は、上記駆動部における回転軸を支持する転がり軸受と、上記転がり軸受の内部または外部に設けられ、その転がり軸受の状態を示す指標を取得するセンサと、上記指標に基づいて上記転がり軸受の異常を判定する異常判定部と、上記駆動部を制御する制御部とを有することを特徴とする。本発明において、異常を判定するとは、異常の発生の有無に加えて、異常の予兆の有無を判定することも含む。
【0012】
上記指標は、上記転がり軸受の熱流束、上記転がり軸受の温度、上記転がり軸受の振動、上記転がり軸受の荷重、および上記転がり軸受の絶対角から選ばれる1つまたは2つ以上を組み合わせた指標であることを特徴とする。
【0013】
上記異常判定部が、上記複数の転がり軸受のうち少なくとも1つの転がり軸受が異常と判定した場合、上記制御部は、異常と判定された上記転がり軸受の状態を緩和させるよう該転がり軸受が搭載される上記駆動部を制御しつつ、他の上記駆動部を制御して飛行を継続させることを特徴とする。
【0014】
上記制御部は、上記異常判定部により異常と判定された場合に、上記駆動部の上記モータの回転数、または、上記転がり軸受の軸受内部に供給される潤滑剤の供給量を調整することを特徴とする。
【0015】
上記異常判定部は、上記センサの上記指標の取得間隔のm倍(mは整数)の間隔で上記転がり軸受の異常を判定することを特徴とする。
【0016】
上記軸受装置は、上記異常判定部により異常と判定された場合に、その異常を報知する報知部を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の第2の形態(中長期的な監視の形態)の軸受装置は、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、上記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される軸受装置であって、上記軸受装置は、上記駆動部における回転軸を支持する転がり軸受と、上記転がり軸受の内部または外部に設けられ、その転がり軸受の状態を示す指標を取得するセンサと、上記指標を保存する保存装置と、上記指標に基づいて上記転がり軸受の異常を判定する異常判定部とを有し、上記異常判定部は、上記保存装置に累積して保存された上記指標の推移に基づき、所定期間毎に上記転がり軸受の異常を判定することを特徴とする。
【0018】
本発明の第2の形態において、上記異常判定部により異常と判定された場合に、その異常を報知する報知部を有することを特徴とする。また、上記異常判定部は、上記指標に基づいて、予め設定した閾値を境に異常と判定することを特徴とする。この場合において、上記閾値は複数段階設定されており、上記異常判定部は、上記閾値に基づいて上記転がり軸受の異常のレベルを判定し、上記報知部は上記異常判定部が判定した異常のレベルに応じて、報知の態様を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の形態の軸受装置は、電動垂直離着陸機に搭載され、駆動部における回転軸を支持する転がり軸受と、転がり軸受の内部または外部に設けられ、その転がり軸受の状態を示す指標を取得するセンサと、指標に基づいて転がり軸受の異常を判定する異常判定部と、駆動部を制御する制御部とを有するので、センシングにより転がり軸受の異常を精度良く検出でき、安定な飛行を実現できる。
【0020】
上記指標は、転がり軸受の熱流束、転がり軸受の温度、転がり軸受の振動、転がり軸受の荷重、および転がり軸受の絶対角から選ばれる1つまたは2つ以上を組み合わせた指標であるので、転がり軸受の状態をより正確に把握でき、異常の検出精度の向上に繋がる。
【0021】
異常判定部が、複数の転がり軸受のうち少なくとも1つの転がり軸受が異常と判定した場合、制御部は、異常と判定された転がり軸受の状態を緩和させるよう該転がり軸受が搭載される駆動部を制御しつつ、他の駆動部を制御して飛行を継続させるので、転がり軸受に異常が生じた場合であっても、飛行を安全に継続でき、フェールセーフ機能を果たすことができる。
【0022】
制御部は、異常判定部により異常と判定された場合に、駆動部のモータの回転数、または、転がり軸受の軸受内部に供給される潤滑剤の供給量を調整するので、例えば、駆動部のモータの回転数を低下させることで異常と判定された転がり軸受の負荷を確実に軽減しつつ、他の駆動部のモータの回転数を調整することで飛行を継続させることができる。
【0023】
異常判定部は、センサの指標の取得間隔のm倍(mは整数)の間隔で転がり軸受の異常を判定するので、異常判定部や制御部への負荷に応じて、判定頻度の低減が可能になる。
【0024】
異常判定部により異常と判定された場合に、その異常を報知する報知部を有することで、乗員や機体外部の人に対して、機体の異常(軸受の異常)を速やかに認知させることができる。
【0025】
また、本発明の第2の形態の軸受装置は、電動垂直離着陸機に搭載され、駆動部における回転軸を支持する転がり軸受と、転がり軸受の内部または外部に設けられ、その転がり軸受の状態を示す指標を取得するセンサと、指標を保存する保存装置と、指標に基づいて転がり軸受の異常を判定する異常判定部とを有し、異常判定部が、保存装置に累積して保存された指標の推移に基づき、所定期間毎に転がり軸受の異常を判定することで、長期間の状態監視による傾向管理を行うことができる。その結果、メンテナンスの頻度を減らすことができ、作業負担の軽減に繋がる。
【0026】
異常判定部により異常と判定された場合に、その異常を報知する報知部を有することで、乗員や機体外部の人に対して、機体の異常(軸受の異常)を速やかに認知させることができる。さらに、複数段階に設定された閾値に基づいて転がり軸受の異常のレベルを判定し、異常のレベルに応じて、報知の態様を変更することで、乗員や機体外部の人に対して、異常状態を段階的に認知させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の軸受装置が搭載される電動垂直離着陸機の斜視図である。
【
図2】本発明の軸受装置の全体構成の模式図である。
【
図3】電動垂直離着陸機の駆動部におけるモータの一部断面図である。
【
図6】センサおよび制御装置の詳細を示すブロック図である。
【
図7】熱流束、温度、および振動と回転速度との関係を示す図である。
【
図8】振動実効値の経時変化を示すグラフなどである。
【
図9】制御装置が実行する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図10】異常モードにおける制御部の制御の一例を示す図である。
【
図11】異常モードにおける制御部の制御の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の軸受装置が搭載される電動垂直離着陸機について、
図1に基づいて説明する。
図1に示す電動垂直離着陸機1は、機体中央に位置する本体部2と、前後左右に配置された4つの駆動部3を有するマルチコプターである。駆動部3は、電動垂直離着陸機1の揚力および推進力を発生させる装置であり、駆動部3の駆動によって電動垂直離着陸機1が飛行する。電動垂直離着陸機1において駆動部3は複数あればよく、4つに限定されない。
【0029】
本体部2は乗員(例えば1~2名程度)が搭乗可能な居住空間を有している。この居住空間には、進行方向や高度などを決めるための操作系や、高度、速度、飛行位置などを示す計器類などが設けられている。本体部2からは4本のアーム2aがそれぞれ延び、各アーム2aの先端に駆動部3が設けられている。
図1において、アーム2aには、回転翼4を保護するため、回転翼4の回転周囲を覆う円環部が一体に設けられている。また、本体部2の下部には、着陸時に機体を支えるスキッド2bが設けられている。
【0030】
駆動部3は、回転翼4と、該回転翼4を回転させるモータ5とを有する。駆動部3において、回転翼4はモータ5を挟んで軸方向両側に一対設けられている。各回転翼4は、径方向外側へ延びる2枚の羽根をそれぞれ有する。なお、回転翼4は、羽根型の回転翼に限らず、螺旋状の回転翼であってもよい。
【0031】
本体部2には、バッテリー(図示省略)および制御装置9(
図2参照)が設けられている。制御装置はフライトコントローラとも呼ばれる。電動垂直離着陸機1の制御は、制御装置によって、例えば以下のように実施される。制御装置が、現姿勢と目標姿勢の差から揚力を調整すべきモータ5に回転数変更の指令を出力する。その指令に基づいて、モータ5に備えられたアンプがバッテリーからモータ5へ送る電力量を調整し、モータ5(および回転翼4)の回転数が変更される。また、モータ5の回転数の調整は、複数のモータ5に対して、同時に実施され、それによって機体の姿勢が決まる。このように機体の飛行姿勢において、駆動部における回転軸の制御は重要であり、安全で快適な飛行を実現するため、該回転軸を支持する転がり軸受の異常を精度良く検出することが求められる。
【0032】
図2には、本発明の軸受装置の全体構成の模式図を示す。なお、
図2では、4つの駆動部を互いに区別するため、その符号にA~Dを付記している。また、各駆動部に設けられる転がり軸受およびセンサにもA~Dを付記している。後述の
図6、
図10、
図11も同様である。
【0033】
図2に示すように、軸受装置6は、駆動部3A~3Dにおける回転軸を支持する転がり軸受7A~7Dと、転がり軸受7A~7Dの状態を示す指標を取得するセンサ8A~8Dと、センサ8A~8Dに有線または無線により通信可能に接続された制御装置9とを有する。制御装置9は、周知のCPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。また、制御装置9は、センサ8A~8Dによって取得された指標に基づいて転がり軸受7A~7Dの異常を判定する異常判定部10と、駆動部3A~3Dを制御する制御部11とを有する。このような構成によれば、各駆動部における転がり軸受の異常を検出できるとともに、その検出結果に基づいて各駆動部の制御を行うことができる。
【0034】
以下には、本発明の軸受装置の詳細について説明する。
図3は、任意の駆動部(例えば3A)におけるモータの一部断面図を示している。
図3において、モータ5の回転軸13の一端側(図上側)には上述の回転翼が取り付けられ、他端側(図下側)にはロータが取り付けられる。ロータは、ハウジングに固定されたステータに対向配置され、該ステータに対して回転可能になっている。なお、モータ5は、アウターロータ型のブラシレスモータや、インナーロータ型のブラシレスモータの構成を採用できる。
【0035】
図3において、モータ5は、ハウジング12と、ロータ(図示省略)と、ステータ(図示省略)と、アンプ29(
図6参照)と、上記の転がり軸受7Aとしての2個のアンギュラ玉軸受7a、7bと、上記のセンサ8Aとしての2つのセンサユニット8a、8bとを備える。ハウジング12は外筒12aと内筒12bを有し、これらの間には冷却媒体流路12cが設けられている。この流路12cに冷却媒体を流すことにより、過度の温度上昇を防止できる。また、アンギュラ玉軸受7a、7bは、内筒12b内で回転軸13を回転自在に支持している。アンギュラ玉軸受7aおよび7bの間には内輪間座14、外輪間座15が挿入され、予圧が印加されている。
【0036】
ここで、アンギュラ玉軸受7aは、
図4に示すように、外周面に軌道面を有する内輪21と、内周面に軌道面を有する外輪22と、内輪21の軌道面と外輪22の軌道面との間を転動する玉23と、玉23を転動自在に保持する保持器24とを備える。内輪21および外輪22と、玉23とは径方向中心線に対して所定の角度θ(接触角)を有して接触しており、ラジアル荷重と一方向のアキシアル荷重を負荷できる。
【0037】
アンギュラ玉軸受7aにおいて、内輪21および外輪22はいずれも鋼材からなっている。上記鋼材には、軸受材料として一般的に用いられる任意の材料を用いることができる。例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ1、SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5など;JIS G 4805)、浸炭鋼(SCr420、SCM420など;JIS G 4053)、ステンレス鋼(SUS440Cなど;JIS G 4303)、冷間圧延鋼などを用いることができる。また、玉23には、上記の鋼材やセラミックス材料を用いることができる。なお、アンギュラ玉軸受7bの構成も同様である。
【0038】
図3では、2個のアンギュラ玉軸受7a、7bが背面組合せ(DB組合せ)で設置されているが、これに限らず、正面組合せ(DF組合せ)であってもよい。また、アンギュラ玉軸受に限らず、深溝玉軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受なども用いることができる。また、モータ5における転がり軸受の数は特に限定されず、1個でも2個以上でもよい。
【0039】
図3に示すように、外輪間座15には、アンギュラ玉軸受7a、7bの冷却および潤滑のために潤滑油を噴射するためのノズル部材16、16が設けられている。ノズル部材16は、外部の潤滑油供給装置(図示省略)から供給されるエアオイルを軸受空間に導く潤滑油流路を内部に有する。潤滑油流路は、先端が軸受空間に向かって開口したノズル孔と、このノズル孔に連通する流入孔とからなる。潤滑油供給装置は、潤滑油と圧縮空気を混合してエアオイルを送り出す装置である。
【0040】
アンギュラ玉軸受7a、7bの回転時には、潤滑油供給装置からエアオイルが所定間隔毎に所定量(例えば0.01~0.03mm3/3~10min)供給される。エアオイルは、ハウジング12の潤滑油供給路からノズル部材16の流入孔に入り、ノズル孔から内輪21の軌道面に向かって噴射される。その結果、内輪21の軌道面や外輪22の軌道面などが潤滑される。なお、潤滑方式は、エアオイル潤滑に限らず、オイルミスト潤滑でもよい。オイルミスト潤滑では、霧状にした潤滑油を圧縮空気で混合した潤滑用の混合気体(オイルミスト)を軸受に供給することで潤滑させる。
【0041】
図3において、発熱や振動源となるアンギュラ玉軸受7a、7bの近傍には、それぞれセンサユニット8a、8bが固定されている。センサユニット8a、8bは、各軸受7a、7bの状態を示す指標を取得するものであればよく、ユニットを構成するセンサの種類は特に限定されない。取得される指標としては、軸受の熱流束、軸受の温度、軸受の振動、軸受の荷重、および軸受の絶対角から選ばれる1つまたは2つ以上を組み合わせた指標であることが好ましく、2つ以上を組み合わせた指標であることがより好ましい。
【0042】
図3では、アンギュラ玉軸受7a、7bの状態を示す指標を複数取得するため、センサユニット8a、8bは、熱流センサ17、温度センサ18、振動センサ19、荷重センサ20を備えている。なお、これらセンサは、各軸受の外部に設けられているが、一部または全部が軸受の内部に設けられていてもよい。
【0043】
熱流センサ17は、外輪間座15の内径面に固定され、内輪間座14の外径面に対向している。より具体的には、熱流センサ17は、外輪間座15の内径面における軸方向の両端部にそれぞれ固定されている。熱流センサ17を各軸受7a、7bの近傍に設けることで、軸受の内外輪間に流れる熱の熱流束を直接的に検出することができる。なお、熱流束は、単位時間あたりに単位面積を通過する熱量である。熱流センサは、ゼーベック効果を利用して熱流を電気信号に変換するセンサであり、センサ表裏のわずかな温度差から出力電圧が発生する。熱流センサは、後述の温度センサに比べて、軸受内部の熱の変化に対する感度が良く、軸受内部の熱の変化にタイムリーに追従できる。そのため、軸受における突発的な温度上昇を速やかに検出できる。
【0044】
図3では、熱流センサ17を外輪間座15の内径面における軸方向の両端部にそれぞれ設置しているが、熱流センサ17を、外輪間座15の内径面における軸方向の中央部分付近に設置してもよい。また、熱流センサ17を各軸受の内部(例えば外輪内周面)に設置してもよい。
【0045】
温度センサ18は、外輪間座15の軸方向の両端面に固定され、外輪間座15または外輪22の温度を検出する。温度センサ18は、非接触式温度センサまたは熱電対、サーミスタなどが適用される。なお、温度センサ18の設置箇所は、
図3の設置箇所に限らず、内筒12bの嵌合孔に、外輪外周面に臨むセンサ設置空間を形成し、このセンサ設置空間に温度センサを設置して外輪22の温度を検出してもよい。また、内輪21の温度を検出するように、内輪内周面に設置してもよい。
【0046】
振動センサ19は、運転中、軸受軌道面の面荒れまたはピーリング、圧痕などに起因するアンギュラ玉軸受7a、7bの振動を測定する。振動センサ19は、例えば、外輪間座15の軸方向の両端面に固定される。なお、振動センサ19をハウジング12の外周面に設置することも可能であるが、異常の初期段階や振動レベルの小さな状態も感度良く検出するため、アンギュラ玉軸受7a、7bに隣接する外輪間座15に振動センサ19を内蔵することが好ましい。
【0047】
荷重センサ20は、軸受の予圧および外部からの荷重を検知するように、例えば、アンギュラ玉軸受7a、7bと外輪間座15との間に設置される。例えば、高速運転による発熱や遠心力によって、アンギュラ玉軸受7a、7bに加わる予圧も変動する。予圧が増加すると油膜切れによる摩擦力によって発熱量が増加するおそれがある。
【0048】
なお、駆動部における軸受構成は、
図3の構成に限定されない。
図3では、モータの回転軸と回転翼の回転軸とを同一の回転軸としたが、モータの回転軸と回転翼の回転軸とが伝達機構を介して接続された構成であってもよい。この場合、駆動部における回転軸を支持する転がり軸受は、モータの回転軸を支持する転がり軸受でもよく、回転翼の回転軸を支持する転がり軸受でもよい。また、例えば駆動部が回転翼のピッチ角を制御する機構を有する構成の場合、駆動部における回転軸を支持する転がり軸受には、回転翼のピッチ角を制御する回転軸を支持する転がり軸受も含まれる。
【0049】
また、本発明において、軸受の状態を示す指標として絶対角を取得してもよい。
図5には、例えば外輪に対する内輪(回転軸)の絶対角を取得する構成を示す。
図5(a)に示すように、深溝玉軸受7A’には絶対角を取得する角度センサ25が設けられている。角度センサ25は、センサハウジング28に固定された検出回路26と、内輪21に固定された磁気エンコーダ27とで構成されている。磁気エンコーダ27は、絶対角を一意に示す物理的信号を生成し、その物理的信号が検出回路26によって検出される。ここで、絶対角は、周方向の一箇所に定められた原点からの角度を示す情報のことであり、例えば角度値などである。なお、角度センサ25としては磁気式センサに限らず、光学式センサを用いてもよい。
【0050】
磁気エンコーダ27は、圧延鋼板、磁性ステンレス鋼板などの磁性板をプレス加工して、断面形状L字状の円環状に成形した芯金27aと、芯金27aに加硫接着された円筒状の磁性ゴム27bとで形成されている。磁気エンコーダ27は、芯金27aの内周を内輪21の内周面に圧入嵌合することによって、内輪21に固定されている。磁性ゴム27bは、ニトリルゴム(NBR)などの合成ゴムをバインダとし、フェライトなどの磁性粉を適宜配合して混錬し、ひも状に一旦成形した後、該ひも状成形体と、接着剤が塗布された芯金27aとを金型に入れて加硫成形することで芯金27aに接着させ、その後、所定パターンに着磁することで得られる。磁性ゴム27bは、1回転(回転/360°)で位相が相対的に360°(1周期)ずれるように磁気トラックが複列に着磁されている。
【0051】
図5(b)には、円筒状の磁性ゴム27bを外周面側から見た平面図を示す。磁気トラックT1、T2は、それぞれN極とS極が周方向に交互に並んで構成されている。
図5(b)において、磁性ゴム27bは、互いに磁極数の異なる複列の磁気トラックT1、T2を有しており、具体的には、磁気トラックT1の磁極対数が、磁気トラックT2の磁極対数よりも多くなっている。この場合、磁気トラックT1の磁極の周方向のピッチ(周方向長さ)は、磁気トラックT2の磁極の周方向のピッチ(周方向長さ)よりも短くなっている。磁性ゴム27bには、周方向の一箇所だけに原点Pが設定されている。原点Pでは、磁気トラックT1の磁極面の周方向端部の一辺と、磁気トラックT2の磁極面の周方向端部の一辺とが軸方向の同一直線上に位置している。
【0052】
各トラックの磁極対数は特に限定されないが、例えば、磁気トラックT1の磁極対数を64(N極、S極がそれぞれ64極)、磁気トラックT2の磁極対数を63(N極、S極がそれぞれ63極)とすることができる。この場合、磁気トラックT1の1周期を最大16384分割することにより、1回転で最大1048576分割(20bit)の分解能が得られる。
【0053】
図5の構成では、2つの磁気トラックT1、T2に対峙する検出回路26から位相出力(第1トラック位相P1、第2トラック位相P2)がそれぞれ得られる。これらの位相から位相差を取ると1回転で360度の信号が得られ、これに基づいて絶対角が取得される。この絶対角は、例えば、深溝玉軸受7A’が回転翼の回転軸を支持する軸受である場合には、回転軸の回転角度として取得される。また、深溝玉軸受7A’が回転翼のピッチ角を制御する回転軸を支持する軸受である場合には、回転翼のピッチ角として取得される。
【0054】
絶対角を取得する構成は、
図5の構成に限定されない。例えば、磁気エンコーダ27における磁気トラックの列数は2列に限らず、1列や3列以上としてもよい。また、
図5では、磁気エンコーダ27として、芯金27aの円筒状の外周の全周にわたり磁気トラックが形成されたラジアル型を用いたが、アキシアル型の磁気エンコーダを用いてもよい。
【0055】
続いて、
図6に、センサから得られた指標に基づく異常判定を行う構成の一例をブロック図で示す。
図6(a)は、主にリアルタイム監視により運航時の飛行安定化制御に繋げる異常検知を行う場合を示す。
図6(b)は、中長期的な監視によりメンテナンス可否判断のための異常検知を行う場合を示す。センサによる指標の取得間隔(サンプリング周期)は特に限定されない。リアルタイムな異常検出を可能とする場合には、1秒以内が好ましく、100ミリ秒以内がより好ましく、また当該センサのスペックにおいて取得可能な最小取得間隔としてもよい。また、中長期的な監視のみを目的とする場合には、リアルタイム監視の場合と同様の間隔、または、数分、数時間、起動時毎など、より広い間隔としてもよい。なお、リアルタイム監視と中長期的な監視とは適宜組み合わせて利用することが望ましい。
【0056】
図6(a)のリアルタイム監視および制御について説明する。
軸受装置は、複数の転がり軸受7A~7D(
図2参照)と、これら転がり軸受に対応したセンサ8A~8Dと、制御装置9を備えている。転がり軸受およびセンサの具体的な構成は上述のとおりである。なお、
図6では図示を省略しているが、センサ8B~8Dも、センサ8Aと同様のセンサ構成を有している。また、駆動部3B~3Dも、駆動部3Aと同様にアンプおよび潤滑油供給装置を有している。制御装置9は、上述の異常判定部10と制御部11のほか、指標を保存する保存装置9aと、異常状態を報知する報知部9bとを有している。異常判定部10は、センサ8A~8Dによって取得された指標に基づいて、転がり軸受7A~7Dについて異常の有無を判定する。制御部11は、この異常の判定結果に基づいて各駆動部などを制御する。
【0057】
保存装置9aは、例えばセンサ8A~8Dによって取得された指標を、随時保存する。報知部9bは、異常状態を報知する機能を有する。報知手段としては、特に限定されず、乗員に対して異常状態をモニタ表示する、音や音声で知らせる、機体外部に対して通信で知らせる、ランプ表示や音で知らせるなど、の手段を1種または組み合わせて採用できる。
【0058】
図6(a)の場合は、異常判定部において、例えば、センサの指標の取得間隔(例えば最小取得間隔)のm倍(mは整数)の間隔で転がり軸受の異常を判定する。mは、例えば1~100である。mの値は、異常判定部または制御部への負荷などを考慮して、適宜設定できる。リアルタイム監視の場合、指標の取得間隔を非常に短く、例えばナノ秒間隔などにすることで、異常の判定も瞬時となり、突発的な異常にも対応することが可能となる。
【0059】
図6(b)の中長期的な監視について説明する。
制御装置9は、異常判定部10と、保存装置9aと、報知部9bとを有している。転がり軸受、センサ、保存装置、報知部の具体的な構成は
図6(a)の場合と同様である。なお、保存装置に保存されるデータ(指標や閾値など)は、異常判定の手法などに応じて異なるようにしてもよい。また、中長期的な監視においても、必要に応じて制御部を設けて異常判定部と連携した自動的な制御を行ってもよい。
【0060】
図6(b)の場合は、異常判定部において、例えば、センサの指標の取得間隔(例えば最小取得間隔)のn倍(nは整数)の間隔で転がり軸受の異常を判定する。nは、上記のmよりも大きい値とし、例えば1000~10000である。また、センサの指標の取得間隔とは無関係に、異常の判定間隔を決定してもよい。例えば、センサの指標自体は、非常に短い間隔(例えば1秒以内)で保存装置9aに保存しておき、保存装置9aに累積して保存された上記指標の推移に基づいて、数時間毎、日毎、月毎などの所定期間毎に異常を判定してもよい。このような中長期間の状態監視により、メンテナンスの可否判断などができる。
【0061】
以下に、転がり軸受7Aの異常判定の具体的な手法について示すが、他の転がり軸受の異常判定も同様にして行うことができる。
【0062】
(異常判定の手法1)
異常判定部10は、例えば、熱流センサ17、温度センサ18、振動センサ19、および荷重センサ20のうち、少なくとも1つのセンサによって取得される指標が、所定の閾値を超えた場合に転がり軸受7Aが異常であると判定する。指標としては、熱流センサの出力値(Q)、温度センサの出力値(T)、振動センサの出力値(V)、荷重センサの出力値(L)に加えて、各出力値の時間変化量(例えば、熱流センサの出力値の時間変化量(ΔQ/Δt)、温度センサの出力値の時間変化量(ΔT/Δt)、荷重センサの出力値の時間変化量(ΔL/Δt))、振動センサの周波数解析後のパワースペクトルの最大値、特定の周波数領域での積分値(Vf)などを用いることができる。
【0063】
上記指標の比較対象となる閾値は、予め回転速度などに応じて設定される。例えば、
図3に示す軸受構成を有する試験機を、以下の試験条件で低速域から超高速域(dmn値144万)まで回転させた試験では、
図7に示すように、回転速度の上昇に伴って、温度および熱流束が所定の関係で上昇することが分かる。なお、
図7の各グラフは簡略図を示しており、全体的な傾向を示している。
<試験条件>
試験軸受:φ70×φ110×20、5S-2LA-HSE014相当品
(セラミックボール入り超高速アンギュラ玉軸受)
予圧方式:定位置予圧(組込み後予圧750N)
回転速度:0~16000min
-1
潤滑方式:エアオイル潤滑
給油量 :0.03mL/10min
潤滑油 :ISO VG32
潤滑エア流量:30NL/min
外筒冷却:あり、室温同調
軸姿勢 :横軸
【0064】
図7に示す傾向に基づいて、上記指標として熱流センサの出力値(Q)や温度センサの出力値(T)を用いる場合には、回転速度域に応じて、複数の閾値を設定することが好ましい。例えば、熱流センサの出力値(Q)を用いる場合、回転速度N<2000(1/min)に対応する閾値Q_th1、回転速度2000≦N<4000(1/min)に対応する閾値Q_th2、回転速度4000≦N<6000(1/min)に対応する閾値Q_th3、回転速度6000≦N<8000(1/min)に対応する閾値Q_th4、回転速度8000≦N<10000(1/min)に対応する閾値Q_th5、回転速度N≧10000(1/min)に対応する閾値Q_th6を予め設定することができる。温度センサの出力値(T)の閾値についても、同様に設定することができる。なお、回転速度は、モータ内に設けられる回転センサによって取得される。
【0065】
上記閾値は異常判定部10の保存装置9aに保存される。また、保存装置9aには、各種センサによって取得された指標が随時保存され、長期間において取得された指標が保存可能になっている。
【0066】
ここで、指標を適宜組み合わせることなどによって、軸受の異常の原因を推定することができる。例えば、転がり軸受に過大な荷重が入力された場合、転動体と内輪および外輪との接触面圧が上昇し、発熱が生じる。このような事象に基づいて、熱流センサによる指標と荷重センサによる指標の組み合わせで異常と判定された場合は、過大荷重による異常発熱と推定することができる。
【0067】
また、転がり軸受の潤滑不良や異物混入などに起因して軌道面に面荒れが生じる場合がある。面荒れが進行すると軌道面が損傷して発熱が生じる。このような事象に基づいて、熱流センサによる指標と振動センサによる指標の組み合わせで異常と判定された場合は、軌道面の損傷による異常発熱と推定することができる。
【0068】
また、振動センサによって、軸受損傷や損傷部位などを推定することもできる。振動センサはその設置箇所などによって、各外乱振動、ノイズを識別し、軸受に起因する振動値のみを抽出できる。例えば、振動センサとして高周波用振動センサを、径方向振動を測定するように転がり軸受の外輪外周面に設置することで、取得される実効値から軸受損傷を検出できる。また、低周波用振動センサを、径方向振動を測定するように設置することで、取得される1次回転周波数成分、2次回転周波数成分、3次回転周波数成分からアンバランスを検出できる。また、低周波用振動センサを、軸方向振動を測定するように設置することで、取得される1次回転周波数成分、2次回転周波数成分、3次回転周波数成分からミスアライメントを検出できる。
【0069】
図8(a)は転がり軸受の振動値の経時変化の一例を示すグラフである。グラフの縦軸は実効値を示し、横軸は月日を示している。
図8(a)に示すように、時間経過とともに実効値は緩やかに上昇することが分かる。この場合、実効値が所定の閾値を超えた場合に、異常と判定することができる。また、
図8(b)は計測点Aでのエンベロープスペクトルを示し、
図8(c)は計測点Bでのエンベロープスペクトルを示す。つまり、
図8(b)、(c)は周波数毎の振動加速度を示している。
【0070】
ここで、周波数には、外輪が損傷しているときに発生する周波数(外輪損傷周波数fo)、内輪が損傷しているときに発生する周波数(内輪損傷周波数fi)、転動体が損傷しているときに発生する周波数(転動体損傷周波数fb)があり、下記の式(1)~式(3)によって予め算出できる。
fo=(fr/2)×(1-(d/D)×cosθ)×z・・・(1)
fi=(fr/2)×(1+(d/D)×cosθ)×z・・・(2)
fb=(fr/2)×(D/d)(1-(d/D)2×cos2θ)・・・(3)
上記式(1)~(3)中、fr:回転周波数(Hz)、d:転動体の直径(mm)、D:ピッチ円直径(mm)、θ:接触角度、z:動体数を示す。また、第n次(nは自然数)の損傷周波数はそれぞれn×fo、n×fi、n×fbにより求められる。
【0071】
図8(b)では、軸受の内輪損傷周波数fiのピークおよびその両側に回転周波数の変調成分(fi±fr、2fi±fr)の側帯波が観測されている。この結果より、軸受の内輪に損傷があることが推定できる。
図8(b)から約12ヵ月経過後の
図8(c)では、内輪損傷周波数fiおよびその変調成分(fi±fr、2fi±fr)の側帯波が
図8(b)よりも強く観測されていることが分かる。この結果より、軸受の内輪に発生した損傷が進展したことが推定できる。
【0072】
図8に示すように軸受に起因する振動値のうち、振動データの周波数解析を行うことで、各周波数が軸受のどの部分(転動体、内輪、外輪など)に起因する振動であるかを推定できる。さらにその振動値から損傷がどの程度であるかなどを推定できる。また、回転速度による影響(振動値の大小)を補正することで、異常判断に資する軸受の振動スペクトルも抽出可能である。
【0073】
(異常判定の手法2)
また、異常判定部10は、各種センサによって取得される指標を所定の計算式に代入して、算出された計算値を用いて異常判定を行ってもよい。この場合、計算値が、所定の閾値を超えた場合に転がり軸受7Aが異常であると判定する。指標には、上述した各種センサの出力値に基づく指標(Q、T、V、ΔQ/Δtなど)を用いることができる。
【0074】
計算式を用いる場合、各指標に重み付けをしてもよい。例えば、指標毎に係数を定め、各指標と各係数を掛け合わせた数値の総和と、所定の閾値を比較して異常の判定を行うことができる。係数および閾値は、回転速度に応じて設定されることが好ましい。
【0075】
図6に戻り、制御部11は、異常判定部10の判定結果に基づいて、駆動部3A~3Dの制御を行う。異常判定部10が転がり軸受7A~7Dは全て正常と判定した場合には、制御部11は正常モードによる制御を行う。正常モードにおいて、制御部11は、例えば、機体の現姿勢と目標姿勢の差から揚力を調整すべきモータのアンプ29に回転数変更の指令を出力する。そして、その指令に基づいてアンプ29によって電力量が調整され、モータ(および回転翼)の回転数が制御される。
【0076】
一方、異常判定部10が、転がり軸受7A~7Dのうち少なくとも1つの転がり軸受が異常と判定した場合には、制御部11は異常モードによる制御を行う。例えば、転がり軸受7Aが異常と判定された場合、制御部11は、転がり軸受7Aの状態を緩和させるよう転がり軸受7Aが搭載されている駆動部3Aを制御しつつ、他の駆動部3B~3Dを制御して飛行を継続させる。具体的には、駆動部3A~3Dのアンプ29を制御することで、モータの回転数を調整して飛行姿勢を維持させる、または、潤滑油供給装置30を制御することで、潤滑油の給油量を増加して油膜切れなどを解消させる。
【0077】
図9は、制御装置が実行する異常判定および駆動部の制御の処理手順を示すフローチャートである。
図9のスタートからエンドに至るまでの処理は、所定時間毎に繰り返し実施される。
【0078】
まず、制御装置はセンサが取得した指標を入力する(ステップS11)。指標には、上述した各種センサの出力値に基づく指標(Q、T、V、ΔQ/Δtなど)が挙げられる。続くステップS12では、取得した指標を所定の計算式に代入して計算値(判定値)を算出する。
【0079】
ステップS13では、異常判定部において転がり軸受の異常判定を行う。異常判定は、各駆動部に搭載されている転がり軸受毎に判定が行われる。例えば、
図2の構成の場合、転がり軸受7A~7Dについて異常判定がそれぞれ行われる。また、転がり軸受7A~7Dの各々が複数の転がり軸受から構成される場合には、そのうちの1つまたは全部の転がり軸受について異常判定を行う。異常判定は、上述したように、所定の閾値とステップS12で算出した計算値との大小を比較することで行われる。
【0080】
なお、
図9のフローチャートでは、ステップS12で算出した計算値を用いて異常判定(上記手法2)を行っているが、ステップS12を省略して、ステップS11で取得した指標を判定値として用いて異常判定(上記手法1)を行ってもよい。
【0081】
ステップS13における異常判定の結果、全ての軸受が正常である場合(ステップS14:Yes)には正常モードによる制御を行う(ステップS15)。一方、全ての軸受が正常でない場合(ステップS14:No)、つまり少なくともいずれかの軸受が異常である場合には異常モードによる制御を行う(ステップS16)。
【0082】
ここで、異常モードの具体的な制御の一例を
図10および
図11に示す。
図10および
図11では、駆動部3Aにおける回転軸を支持する転がり軸受7Aが異常と判定された場合を想定している。異常の形態として、より具体的には、
図10では軸受損傷による異常発熱、
図11では油膜切れによる異常発熱を想定している。
【0083】
図10では、制御部11は駆動部3A~3Dの各アンプに指令を出力する。この場合、転がり軸受7Aが異常(軸受損傷)と判定されたことから、制御部11は、アンプを介して駆動部3Aのモータの回転数を減少または停止させる。これにより転がり軸受7Aの負荷が軽減されて、該軸受の状態が緩和される。
【0084】
一方、モータの回転数の減少に伴い駆動部3Aの回転翼の回転数が減少することから、機体の前方右側の揚力が低下して揚力バランスが崩れるおそれがある。しかし、制御部11はアンプを介して他の駆動部3B~3Dのモータの回転数を調整することで飛行姿勢を安定させる。例えば、駆動部3Bおよび駆動部3Cのモータの回転数を増加させるとともに、本体部2を隔てて駆動部3Aの対角に位置する駆動部3Dのモータの回転数を減少させることで、揚力バランスを保ち、機体を水平に維持できると考えられる。
【0085】
図11では、制御部11は駆動部3A~3Dの各潤滑油供給装置に指令を出力する。この場合、転がり軸受7Aが異常(油膜切れ)と判定されたことから、制御部11は、駆動部3Aの潤滑油供給装置に対して、例えば転がり軸受7Aへの1回当たりの給油量が規定量よりも多くなるように指令を出力する。なお、給油頻度を増やすことで給油量を増加させるようにしてもよい。これにより、転がり軸受7Aの潤滑状態が向上し、異常状態が緩和される。なお、制御部11は、他の駆動部3B~3Dの潤滑油供給装置に対しては給油量を維持する(規定量による給油)制御などを行う。
【0086】
なお、制御部11の異常モードによる制御はこれらに限定されない。例えば、転がり軸受における異常の内容やその程度に応じて、モータの回転数や給油量の調整量を変更してもよい。例えば、軸受損傷などの重度の異常と判定された場合には、該当する駆動部の駆動を停止する、つまりモータの回転数をゼロにすることができる。
【0087】
本発明において、異常判定部で用いる閾値を複数段階に設定し、異常判定部は、それらの閾値に基づいて転がり軸受の異常のレベルを判定してもよい。例えば、第1の閾値(例えば注意閾値)と、注意閾値よりも高く設定された第2の閾値(例えば警告閾値)を設定し、注意閾値を超え、警告閾値以下の場合に第1のレベル(注意レベル)の異常と判定し、警告閾値を超えた場合に第2のレベル(警告レベル)の異常と判定してもよい。なお、閾値を3つ以上設定してもよい。
またこの場合、判定された異常のレベルに応じて、制御(例えば報知)の態様を変更してもよい。例えば、指標に基づく判定値が一段階目の閾値を超えた場合に、警報ランプを点灯したり、駆動部のモータの許容回転数を制限したりすることができる。さらに、二段階目の閾値を超えた場合に、警報ブザーを鳴らしたり、機体外部に対して通信で異常を知らせたりすることができる。その結果、点検などを促すことができる。
また、
図9に示すフローチャートでは、異常判定部は転がり軸受の異常の有無を判定したが、異常判定部は異常の予兆の有無を判定してもよい。
【0088】
以上より、本発明の軸受装置は、1回の運航中に転がり軸受をリアルタイムでセンシングして、突発的な異常を検出することができる(リアルタイム監視)。また、本発明の軸受装置は、週単位や月単位といった長期間で指標を取得することで、その推移から転がり軸受の異常や異常の予兆を捉えることができる(中長期的な監視)。例えば、
図8で示したように、各種センサによって取得された指標から長期的な傾向を管理して、それに基づく制御、対応などを行うことができる。将来的には、多くの電動垂直離着陸機が飛行することが予想され、それに伴いメンテナンスの負担の増大などが懸念されるが、このような長期間の状態監視による傾向管理を行うことで、作業負担の軽減にも繋がる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の軸受装置は、電動垂直離着陸機の駆動部における回転軸を支持する軸受の異常を精度良く検出でき、安定な飛行を実現できるので、電動垂直離着陸機に搭載される軸受装置として広く利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 電動垂直離着陸機
2 本体部
3、3A、3B、3C、3D 駆動部
4 回転翼
5 モータ
6 軸受装置
7A、7B、7C、7D 転がり軸受
7a、7b アンギュラ玉軸受
7a’ 深溝玉軸受
8A、8B、8C、8D センサ
9 制御装置
9a 保存装置
9b 報知部
10 異常判定部
11 制御部
12 ハウジング
13 回転軸
14 内輪間座
15 外輪間座
16 ノズル部材
17 熱流センサ
18 温度センサ
19 振動センサ
20 荷重センサ
21 内輪
22 外輪
23 玉
24 保持器
25 回転センサ
26 検出回路
27 磁気エンコーダ
28 センサハウジング
29 アンプ
30 潤滑油供給装置