(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129993
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂組成物及び金属ベース基板
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20220830BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20220830BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20220830BHJP
H05K 1/05 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08
C08K9/02
H05K1/05 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028910
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】原 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 史朗
(72)【発明者】
【氏名】薄 京佳
【テーマコード(参考)】
4J002
4J043
5E315
【Fターム(参考)】
4J002CM041
4J002DE136
4J002DF016
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5E315AA03
5E315BB03
5E315BB04
5E315BB16
5E315CC01
5E315GG18
(57)【要約】
【課題】フィラーと樹脂とを含む樹脂組成物であって、ボイドが発生しにくく、熱伝導性と耐電圧性とに優れる樹脂組成物、及びこの樹脂組成物を絶縁膜として用いた金属ベース基板を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂と、前記ポリイミド樹脂に分散されているフィラーとを含み、前記ポリイミド樹脂は、両末端にジカルボン酸基又はジカルボン酸基の酸無水物基を有し、前記フィラーは、表面に、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機化合物を有することを特徴とするポリイミド樹脂組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、前記樹脂に分散されているフィラーとを含み、
前記樹脂は、両末端にジカルボン酸基又はジカルボン酸基の酸無水物基を有するポリイミド樹脂を含み、
前記フィラーは、表面に、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機化合物を有することを特徴とするポリイミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリイミド樹脂が、下記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物である請求項1に記載のポリイミド樹脂組成物。
【化1】
【化2】
ただし、一般式(1)及び一般式(2)において、R
1は、4価の有機基を表し、R
2は2価の有機基を表し、Sは、数平均分子量から算出される10以上200以下の数を表す。
【請求項3】
前記ポリイミド樹脂の数平均分子量が、5000以上50000以下の範囲内にある請求項1又は請求項2に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記フィラーの含有量が60質量%以上90質量%以下の範囲内にある請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂において、前記ポリイミド樹脂の含有量が66質量%以上100質量%以下の範囲内にある請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
金属基板と、絶縁膜と、金属回路層とがこの順で積層された金属ベース基板であって、
前記絶縁膜が請求項1から請求項5のいずれ一項に記載のポリイミド樹脂組成物からなることを特徴とする金属ベース基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂組成物及び金属ベース基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子やLEDなどの電子部品を実装するための基板の一つとして、金属ベース基板が知られている。金属ベース基板は、金属基板と、絶縁膜と、金属回路層とがこの順で積層された積層体である。電子部品は、金属回路層の上に、はんだを介して実装される。このような構成とされた金属ベース基板では、電子部品にて発生した熱は、絶縁膜を介して金属基板に伝達され、金属基板から外部に放熱される。
【0003】
金属ベース基板の絶縁膜は、一般に絶縁性や耐電圧性に優れる樹脂と、熱伝導性に優れるフィラーとを含む絶縁性組成物から形成されている。絶縁膜用の樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などが用いられている。また、絶縁膜用のフィラーとしては、酸化アルミニウム粒子、水酸化アルミニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、水酸化マグネシウム粒子、窒化アルミニウム粒子、シリカ粒子、炭化珪素粒子、酸化チタン粒子、窒化硼素粒子などが用いられている(特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0116976号明細書
【特許文献2】特開2013-60575号公報
【特許文献3】特開2009-13227号公報
【特許文献4】特開2013-159748号公報
【特許文献5】特開2019-140094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属ベース基板は、例えば、金属基板の上に絶縁膜を形成し、次いで、絶縁膜と金属回路層とを熱圧着することによって製造されている。金属基板の上に絶縁膜を形成する方法としては、例えば、基板の上に、フィラーを分散させた樹脂溶液を塗布し、得られた塗布膜を乾燥する方法が用いられる。この方法の場合、塗布膜を乾燥する際に、樹脂とフィラーとの間にボイド(気孔)が発生することがある。絶縁膜中の樹脂とフィラーとの間にボイドが発生すると、ボイド部分は熱が伝わりにくいため、絶縁膜の熱伝導性が低下するおそれがある。さらに、ボイド部分で部分放電が起こることによって、絶縁膜の絶縁破壊が起こりやすくなるなど、絶縁膜の耐電圧性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、フィラーと樹脂とを含む樹脂組成物であって、ボイドが発生しにくく、熱伝導性と耐電圧性とに優れる樹脂組成物、及びこの樹脂組成物を絶縁膜として用いた金属ベース基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の樹脂組成物は、樹脂と、前記樹脂に分散されているフィラーとを含み、前記樹脂は、両末端にジカルボン酸基又はジカルボン酸基の酸無水物基を有するポリイミド樹脂を含み、前記フィラーは、表面に、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機化合物を有するポリイミド樹脂組成物である。
【0008】
この構成のポリイミド樹脂組成物によれば、母材である樹脂に含まれるポリイミド樹脂は、両末端にジカルボン酸基又はジカルボン酸基の酸無水物基を有し、フィラーは、表面に、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機化合物を有するので、樹脂とフィラーとは互いに親和性が高くなり、化学的に結合しやすくなる。このため、樹脂とフィラーとの接合力が強くなり、両者の間にボイドが生成しにくくなる。よって、上記の構成のポリイミド樹脂組成物は、熱導電率と耐電圧が向上する。
【0009】
ここで、本発明のポリイミド樹脂組成物においては、前記ポリイミド樹脂が、下記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物である構成とされていてもよい。
この場合、ポリイミド樹脂が下記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物であるので、ポリイミド樹脂とフィラーとの接合力がより強くなり、両者の間にボイドがより生成しにくくなる。
【0010】
【0011】
【0012】
ただし、一般式(1)及び一般式(2)において、R1は、4価の有機基を表し、R2は2価の有機基を表し、Sは、数平均分子量から算出される10以上200以下の範囲内にある数を表す。
【0013】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物においては、前記ポリイミド樹脂の数平均分子量が、5000以上50000以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合、ポリイミド樹脂の数平均分子量が、5000以上50000以下の範囲内にあるので、ポリイミド樹脂の流動性が制御され、樹脂-金属接合時の不良が生じにくい。
【0014】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物においては、前記フィラーの含有量が、60質量%以上90質量%以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合、フィラーの含有量が60質量%以上90質量%以下の範囲内にあるので、熱伝導率が確実に向上する。
【0015】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物においては、前記樹脂において、前記ポリイミド樹脂の割合が66質量%以上100質量%以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合、樹脂が両末端にジカルボン酸基又はジカルボン酸基の酸無水物基を有するポリイミド樹脂を上記の範囲で含むので、樹脂とフィラーとの接合力がさらに強くなる。
【0016】
本発明の金属ベース基板は、金属基板と、絶縁膜と、金属回路層とがこの順で積層された金属ベース基板であって、前記絶縁膜が請前述のポリイミド樹脂組成物からなることを特徴としている。
この構成の金属ベース基板によれば、金属基板と金属回路層との間に、上述のポリイミド樹脂組成物から構成される絶縁膜が配置されているので、熱伝導性と耐電圧性とに優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フィラーと樹脂とを含む樹脂組成物であって、ボイドが発生しにくく、熱伝導性と耐電圧性とに優れる樹脂組成物、及びこの樹脂組成物を絶縁膜として用いた金属ベース基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態であるポリイミド樹脂組成物の概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る金属ベース基板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態であるポリイミド樹脂組成物及び金属ベース基板について、添付した図面を参照して説明する。
【0020】
<ポリイミド樹脂組成物>
図1は、本発明の一実施形態であるポリイミド樹脂組成物の概略断面図である。
図1に示すように、本実施形態であるポリイミド樹脂組成物10は、ポリイミド樹脂11と、ポリイミド樹脂11に分散されているフィラー12とを含む。ポリイミド樹脂組成物10のフィラー12の含有量は、質量基準で、60質量%以上90質量%以下の範囲内にあることが好ましく、70質量%以上88質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。また、ポリイミド樹脂組成物10のフィラー12の含有量は、体積基準で、40体積%以上80体積%以下の範囲内にあることが好ましく、45体積%以上75体積%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0021】
(ポリイミド樹脂11)
ポリイミド樹脂11は、ポリイミド樹脂組成物10の母材(マトリックス樹脂)である。ポリイミド樹脂11は、両末端にジカルボン酸基又はジカルボン酸基の酸無水物基を有する。このため、ポリイミド樹脂11は、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機化合物に対して親和性が高く、化学的に結合しやすい。
ポリイミド樹脂11は、下記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物であってもよい。
【0022】
【0023】
【0024】
ただし、一般式(1)及び一般式(2)において、R1は、4価の有機基を表し、R2は2価の有機基を表し、Sは、数平均分子量から算出される10以上200以下の数を表す。
【0025】
R1で表される4価の有機基は、芳香族炭化水素から4個の水素原子を除いた4価の芳香族炭化水素基、又は脂環式炭化水素から4個の水素原子を除いた4価の脂環式炭化水素基であってもよい。芳香族炭化水素は、単環式芳香族、縮合多環式芳香族、2つの単環式芳香族が直接もしくは架橋基により互いに連結した非縮合多環式芳香族を含む。脂環式炭化水素は炭素原子数が4以上8以下の範囲内にあってもよい。
【0026】
R1で表される4価の有機基は、例えば、下記の一般式(3)~(6)で表される基であってもよい。
【0027】
【0028】
一般式(3)~(6)において、*は、結合手を表す。
一般式(6)において、Xは、架橋基を表す。架橋基は、2価の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、イミノ基、又はこれらの基を組み合わせた基であってもよい。2価の炭化水素基は、例えば、炭素原子数が1~10の脂肪族基(アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基)、炭素原子数が4~10のシクロアルキレン基、アリーレン基、又はこれらを組み合わせた基であってもよい。2価の脂肪族基及びイミノ基は置換基を有していてもよい。置換基の例としては、1価の炭化水素基、1価の炭化水素基をフッ素で置換したフッ化炭素基、炭素原子数が1~10のアルコキシ基、-OCOCH3基を挙げることができる。1価の炭化水素基は、例えば、炭素原子数が1~10の脂肪族基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)、炭素原子数が4~10のシクロアルキル基、炭素原子数が6~10のアリール基、炭素原子数が7~10のアラルキル基であってもよい。Xで表される架橋基は、例えば、下記の式(7)~(13)で表される基であってもよい。
【0029】
【0030】
R2で表される2価の有機基は、メチレン鎖を有することが好ましい。メチレン鎖は、炭素原子数が3以上であることが好ましい。2価の有機基は、メチレン鎖と2価の連結基を組み合わせた基であってもよい。2価の連結基は、2価の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、イミノ基、-(Si(R3R4)-O)n-基(ただし、式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、炭素原子数が1~10のアルキル基を表し、nは、1以上30以下の範囲内にある数を表す。)又はこれらの基を組み合わせた基であってもよい。2価の炭化水素基は、例えば、炭素原子数が1~10の脂肪族基(アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基)、炭素原子数が4~10のシクロアルキレン基、炭素原子数が6~10のアリーレン基、又はこれらを組み合わせた基であってもよい。2価の炭化水素基及びイミノ基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、1価の炭化水素基を挙げることができる。1価の炭化水素基は、例えば、炭素原子数が1~10の脂肪族基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)、炭素原子数が4~20のシクロアルキル基、炭素原子数が6~10のアリール基、炭素原子数が7~20のアラルキル基であってもよい。
【0031】
R2で表される2価の有機基は、例えば、下記の一般式(14)~(15)で表される基であってもよい。また、R2で表される2価の有機基は、例えば、メチレン鎖を有するダイマージアミン由来の炭化水素基であってもよい。ダイマージアミン由来の炭化水素基は、炭素原子数が20~50の範囲内にあって、水素原子数は、炭素原子数をmとして、(m×2-6)以上(m×2)以下の範囲内にあってもよい。
【0032】
【0033】
一般式(14)において、pは、3以上10以下の範囲内にある数を表す。
一般式(15)において、q及びrは、それぞれ独立して3以上8以下の範囲内にある数を表し、nは、1以上30以下の範囲内にある数を表す。
【0034】
ポリイミド樹脂11は、例えば、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを、有機溶媒中で反応させてポリアミド酸を生成させる工程と、ポリアミド酸をイミド化する工程とを有する方法によって製造することができる。テトラカルボン酸二無水物としては、下記の一般式(16)で表される化合物を用いてもよい。ジアミンとしては、下記の一般式(17)で表される化合物を用いてもよい。
【0035】
【0036】
一般式(16)において、R1は、上記の一般式(1)及び一般式(2)の場合と同じである。
【0037】
【0038】
一般式(17)において、R2は、上記の一般式(1)及び一般式(2)の場合と同じである。
【0039】
有機溶媒としては、極性有機溶媒を用いてもよい。極性有機溶媒の例としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、シクロヘキサノンを挙げることができる。
【0040】
ポリアミド酸を生成させる工程では、有機溶媒とテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを撹拌混合して、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることによってポリアミド酸を生成させてもよい。反応温度は、例えば、10℃以上100℃以下の範囲内であってもよい。反応雰囲気は、空気雰囲気又は不活性ガス雰囲気(例えば、アルゴン、窒素)であってもよい。
【0041】
ポリイミド樹脂11において、その両末端に存在するジカルボン酸基又はその酸無水物基は、原料のテトラカルボン酸二無水物に由来する。ポリイミド樹脂11の両末端にジカルボン酸基又はその酸無水物基を存在させるため、有機溶媒中のテトラカルボン酸二無水物の量をジアミンよりも多くしてもよい。有機溶媒中のジアミンに対するテトラカルボン酸二無水物の混合比(テトラカルボン酸二無水物/ジアミン比)は、1.005以上1.2以下の範囲内にあってもよい。
【0042】
ポリアミド酸をイミド化する工程において、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸をイミド化する方法としては、ポリアミド酸溶液を加熱する方法、ポリアミド酸溶液にイミド化触媒を添加する方法を用いることができる。ポリアミド酸溶液を加熱する場合、加熱温度は、100℃以上300℃以下の範囲内であってもよい。イミド化触媒を添加する場合、イミド化触媒としては、脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミンなどの従来よりイミド化触媒として利用されているアミン化合物を用いることができる。
【0043】
ポリイミド樹脂11の数平均分子量は、5000以上50000以下の範囲内にあることが好ましく、8000以上30000以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0044】
(フィラー12)
フィラー12は、表面に、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機化合物を有する。フィラー12の表面に、上記の無機化合物が存在することによって、ポリイミド樹脂11とフィラー12との接合力が強くなり、両者の間にボイドが生成しにくくなる。フィラーは、上記の無機化合物の一種のみを含む単体粒子であってもよいし、上記の無機化合物の二種以上を組み合わせた複合粒子であってもよい。また、フィラー12は、核粒子の表面の一部もしくは全部を上記の無機化合物の一種もしくは二種以上で被覆した被覆粒子であってもよい。核粒子としては、例えば、窒化アルミニウム粒子、シリカ粒子、炭化珪素粒子、酸化チタン粒子、窒化硼素粒子を用いることができる。これらの粒子は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
フィラー12は、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内にあることが好ましい。フィラー12の平均粒子径が0.1μm以上であることによって、樹脂組成物の熱伝導性が向上する。フィラー12の平均粒子径が20μm以下であることによって、樹脂組成物の耐電圧性が向上する。また、フィラー12の平均粒子径が上記の範囲内にあると、フィラー12が凝集粒子を形成しにくく、また沈降しにくいため、ポリイミド樹脂11中にフィラー12を均一に分散させやすくなる。フィラー12が凝集粒子を形成せずに、一次粒子もしくはそれに近い微細な粒子として絶縁樹脂に分散していると、ポリイミド樹脂11の耐電圧性が向上する。フィラー12の平均粒子径は0.3μm以上20μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0046】
(ポリイミド樹脂組成物10の製造方法)
次に、本実施形態のポリイミド樹脂組成物10の製造方法について説明する。
ポリイミド樹脂組成物10は、例えば、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製する調製工程と、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液を塗布し、得られた塗布膜を乾燥する成形工程とを含む方法によって製造することができる。
【0047】
調製工程において、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液は、例えば、次のようにして調製してもよい。まず、ポリイミド樹脂11を有機溶媒に溶解して、ポリイミド樹脂溶液を得る。有機溶媒としては、例えば、ポリイミド樹脂の製造で使用する極性有機溶媒を用いてもよい。次いで、ポリイミド溶液とフィラー12とを混合して混合物を得る。そして、混合物に対して分散処理を行なって、ポリイミド樹脂11の溶液にフィラー12を分散させる。分散処理としては、超音波分散処理、ボールミルによる分散処理、高圧噴射された原料同士を衝突させて、粒子を分散させる処理を用いることができる。
【0048】
成形工程において、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ディップコート法などを用いることができる。塗布膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥などの方法を用いることができる。乾燥温度は、100℃以上ポリイミド樹脂の熱分解温度以下であることが好ましい。100℃以上に加熱することによって、ポリイミド樹脂とフィラーとの接合力がより強くなる。
【0049】
以上のような構成とされた本実施形態のポリイミド樹脂組成物10によれば、母材であるポリイミド樹脂11は、両末端にジカルボン酸基又はジカルボン酸基の酸無水物基を有し、フィラー12は、表面に、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機化合物を有するので、ポリイミド樹脂11とフィラー12とが互いに親和性が高く、化学的に結合しやすい。このため、ポリイミド樹脂11とフィラー12との接合力が強くなり、両者の間にボイドが生成しにくくなる。よって、本実施形態のポリイミド樹脂組成物10は、熱導電率と耐電圧が向上する。
【0050】
本実施形態のポリイミド樹脂組成物10において、ポリイミド樹脂11が上記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物である場合は、ポリイミド樹脂11とフィラー12との接合力がより強くなり、両者の間にボイドがより生成しにくくなる。また、本実施形態のポリイミド樹脂組成物10において、ポリイミド樹脂11の数平均分子量が、5000以上50000以下の範囲内にある場合は、ポリイミド樹脂11の硬度と柔軟性のバランスがよく、変形しにくくなるので、ポリイミド樹脂組成物10の熱導電率と耐電圧が長期間にわたって安定する。さらに、本実施形態のポリイミド樹脂組成物10において、フィラー12の含有量が60質量%以上90質量%以下の範囲内にある場合は、熱伝導率が確実に向上する。
【0051】
<金属ベース基板20>
図2は、本発明の一実施形態である金属ベース基板の概略断面図である。
金属ベース基板20は金属基板21と、絶縁膜22と、金属回路層23とがこの順で積層された積層体である。
【0052】
金属基板21は、金属ベース基板20のベースとなる部材である。金属基板21としては、銅板、アルミニウム板及びこれらの積層板を用いることができる。
【0053】
絶縁膜22は、金属基板21と金属回路層23とを絶縁するための部材である。絶縁膜22は、
図1に示すポリイミド樹脂組成物10から構成されていて、ポリイミド樹脂11と、ポリイミド樹脂11に分散されているフィラー12とを含む。このため、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0054】
金属回路層23は、回路パターン状に形成される。その回路パターン状に形成された金属回路層23の上に、電子部品がはんだ等を介して接合される。金属回路層23の材料としては、銅、アルミニウム、金などを用いることができる。
【0055】
金属回路層23に実装される電子部品の例としては、特に制限はなく、半導体素子、抵抗、キャパシタ、水晶発振器などが挙げられる。半導体素子の例としては、MOSFET(Metal-oxide-semiconductor field effect transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、LSI(Large Scale Integration)、LED(発光ダイオード)、LEDチップ、LED-CSP(LED-Chip Size Package)が挙げられる。
【0056】
次に、本実施形態の金属ベース基板20の製造方法について説明する。
本実施形態の金属ベース基板20は、例えば、金属基板21の一方の表面に絶縁膜22を成膜する絶縁膜形成工程と、絶縁膜22の上に金属回路層23を圧着する金属回路層圧着工程と、を含む方法によって製造することができる。
【0057】
絶縁膜形成工程において、絶縁膜22は、例えば、金属基板21の一方の表面に、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液を塗布し、次いで得られた塗布膜を乾燥する方法によって成膜することができる。フィラー分散ポリイミド樹脂溶液の調製方法、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液の塗布方法、塗布膜の乾燥方法は、上述のポリイミド樹脂組成物10の製造方法の場合と同じである。
【0058】
金属回路層圧着工程において、金属回路層23は、例えば、絶縁膜22の上に金属回路層23を積層し、次いで得られた積層体を加熱しながら、積層方向に加圧することによって圧着することができる。加熱温度は、好ましくは200℃以上であり、特に好ましくは250℃以上である。加熱温度の上限は、ポリイミド樹脂11の熱分解温度未満であり、好ましくは熱分温度よりも30℃低い温度以下である。加圧時の圧力は、好ましくは1MPa以上30MPa以下の範囲内にあり、特に好ましくは3MPa以上25MPa以下の範囲内にある。圧着時間は、加熱温度や圧力によって異なるが、一般に10分間以上180分間以下である。
【0059】
以上のような構成とされた本実施形態である金属ベース基板20によれば、金属基板21と金属回路層23との間に、上述のポリイミド樹脂組成物10から構成される絶縁膜22が配置されているので、熱伝導性と耐電圧性とに優れる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、ポリイミド樹脂組成物10に含まれる樹脂として、両末端にジカルボン酸基又はジカルボン酸基の酸無水物基を有するポリイミド樹脂11を単独で用いた例を説明したが、ポリイミド樹脂組成物10は、他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、少なくとも一方の末端にアミン基を有するポリイミド樹脂、エポキシ樹脂を用いることができる。ただし、ポリイミド樹脂組成物10に含まれる樹脂は、両末端にジカルボン酸基又はジカルボン酸基の酸無水物基を有するポリイミド樹脂11の含有量が66質量%以上100質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0061】
また、本実施形態では、ポリイミド樹脂組成物10を、金属ベース基板20の絶縁層として利用した例を説明したが、ポリイミド樹脂組成物10の用途はこれに限定されるものではない。ポリイミド樹脂組成物10は、例えば、エナメル線などの絶縁膜で被覆された絶縁性導体の絶縁膜として利用してもよい。
【実施例0062】
[合成例1:ポリイミド樹脂Aの合成]
DMF(N,N-ジメチルホルムアミド、富士フイルム和光純薬株式会社製)100g中に、PMDD(3,3’-(ペンタメチレンジオキシ)ジアニリン、メルク株式社製)6.20gを加えて溶解し、次いで6FDA(4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、東京化成工業株式会社製)10.10gを加えた。その後、アルゴン雰囲気下、室温で72時間撹拌混合してポリアミック酸を生成させた。得られたポリアミック酸溶液を蒸発皿に移し、減圧雰囲気下で50℃の温度で24時間、200℃の温度で5時間、250℃の温度で30分間の順で、乾燥、焼成することで両末端がジカルボン酸無水物のポリイミド樹脂Aを得た。混合溶液中の6FDA/PMDDのモル比は1.05である。
得られたポリイミド樹脂Aの数平均分子量は、11000であった。
【0063】
[合成例2:ポリイミド樹脂Bの合成]
DMF100g中に、PMDD6.20gを加えて溶解し、次いで6FDA9.14gを加えた。その後、アルゴン雰囲気下、室温で72時間撹拌混合してポリアミック酸を生成させた。得られたポリアミック酸溶液を蒸発皿に移し、減圧雰囲気下で50℃の温度で24時間、200℃の温度で5時間、250℃の温度で30分間の順で、乾燥、焼成することで両末端がアミン基のポリイミド樹脂Bを得た。混合溶液中の6FDA/PMDDのモル比は0.95である。
得られたポリイミド樹脂Bの数平均分子量は、11000であった。
【0064】
[合成例3:ポリイミド樹脂Cの合成]
シクロヘキサノン100g中に、V551(Versamine551、BASFジャパン株式会社製)6.20gを加えて溶解し、次いで、ODPA(4,4’-オキシジフタル酸無水物、東京化成工業株式会社製)4.93gを加えた。その後、アルゴン雰囲気下、室温で72時間撹拌混合してポリアミック酸を生成させた。得られたポリアミック酸溶液を蒸発皿に移し、減圧雰囲気下で50℃の温度24時間、150℃の温度で5時間、乾燥、焼成することで両末端がジカルボン酸無水物基のポリイミド樹脂Cを得た。混合溶液中のODPA/V551のモル比は1.05である。
得られたポリイミド樹脂Cの数平均分子量は、11000であった。
【0065】
[合成例4:ポリイミド樹脂Dの合成]
シクロヘキサノン100g中に、V551を6.20g加えて溶解し、次いでODPA4.46gを加えた。その後、アルゴン雰囲気下、室温で72時間撹拌混合してポリアミック酸を生成させた。得られたポリアミック酸溶液を蒸発皿に移し、減圧雰囲気下で50℃の温度24時間、150℃の温度で5時間、乾燥、焼成することで両末端がアミン基のポリイミド樹脂Dを得た。混合溶液中のODPA/V551のモル比は0.95である。
得られたポリイミド樹脂Dの数平均分子量は、11000であった。
【0066】
[本発明例1]
DMF10gに対してポリイミド樹脂Aを5g投入し、均一に溶解するまで撹拌した。得られたポリイミド樹脂溶液に、酸化アルミニウム粉末(平均粒子径:3μm)をポリイミド樹脂Aと酸化アルミニウム粉末の合計量に対して、質量換算で60質量%(体積換算で35体積%)となるように投入し、マグネティックスターラーで撹拌した。得られた混合物を、スギノマシン社製スターバーストを用い、圧力50MPaの高圧噴射処理を10回繰り返すことにより分散処理を行なって、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。フィラー分散ポリイミド樹脂溶液に含まれる樹脂は、両末端がジカルボン酸無水物であるポリイミド樹脂(ポリイミド樹脂A)の含有量が100質量%である。
【0067】
[本発明例2~4]
酸化アルミニウム粉末の投入量を、下記の表1に記載されている含有量となる量としたこと以外は、本発明例1と同様にしてフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。
【0068】
[本発明例5]
DMF10gに対して、ポリイミド樹脂Aを4gとポリイミド樹脂Bを2g投入し、酸化アルミニウム粉末の投入量を、下記の表1に記載されている含有量となる量としたこと以外は、本発明例1と同様にしてフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。フィラー分散ポリイミド樹脂溶液に含まれる樹脂は、両末端がジカルボン酸無水物であるポリイミド樹脂(ポリイミド樹脂A)の含有量が66.7%であり、両末端がアミン基であるポリイミド樹脂(ポリイミド樹脂B)の含有量が33.3質量%である。
【0069】
[本発明例6]
DMFの代わりにシクロヘキサノンを用い、シクロヘキサノン10gに対して、ポリイミド樹脂Aの代わりにポリイミド樹脂Cを1g投入し、酸化アルミニウム粉末の投入量を、下記の表1に記載されている含有量となる量としたこと以外は、本発明例1と同様にしてフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。フィラー分散ポリイミド樹脂溶液に含まれる樹脂は、両末端がジカルボン酸無水物であるポリイミド樹脂(ポリイミド樹脂C)の含有量が100質量%である。
【0070】
[本発明例7]
酸化アルミニウム粉末の代わりに酸化マグネシウム粉末(平均粒子径:10μm)を、下記の表1に記載されている含有量となる量で投入したこと以外は、本発明例1と同様にしてフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。
【0071】
[本発明例8]
酸化アルミニウム粉末の代わりに水酸化アルミニウム粉末(平均粒子径:3μm)を、下記の表1に記載されている含有量となる量で投入したこと以外は、本発明例1と同様にしてフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。
【0072】
[本発明例9]
DMF10gに対してポリイミド樹脂Aを4.85g投入し、均一に溶解するまで撹拌した。得られたポリイミド樹脂溶液に、エポキシ樹脂原料(JER-630、三菱ケミカル株式会社製)0.15gを加えた。さらに酸化アルミニウム粉末(平均粒子径:3μm)をポリイミド樹脂Aとエポキシ樹脂と酸化アルミニウム粉末の合計量に対して、質量換算で79質量%(体積換算で57体積%)となるように投入し、マグネティックスターラーで撹拌した。得られた混合物を、スギノマシン社製スターバーストを用い、圧力50MPaの高圧噴射処理を10回繰り返すことにより分散処理を行なって、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。フィラー分散ポリイミド樹脂溶液に含まれる樹脂は、両末端がジカルボン酸無水物であるポリイミド樹脂(ポリイミド樹脂A)の含有量が97質量%であり、エポキシ樹脂の含有量は3質量%である。
【0073】
[本発明例10]
平均粒径3μmの酸化アルミニウム粉末の代わりに平均粒径0.7μmの酸化アルミニウム粉末を、下記の表1に記載されている含有量となる量で投入したこと以外は、本発明例1と同様にしてフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。
【0074】
[比較例1]
DMF10gに対して、ポリイミド樹脂Aの代わりにポリイミド樹脂Bを5g投入し、酸化アルミニウム粉末の投入量を、下記の表1に記載されている含有量となる量としたこと以外は、本発明例1と同様にしてフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。
【0075】
[比較例2]
酸化アルミニウム粉末の代わりにシリカ粉末(平均粒子径:0.7μm)を、下記の表1に記載されている含有量となる量で投入したこと以外は、本発明例1と同様にしてフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。
【0076】
[比較例3]
DMF10gに対して、ポリイミド樹脂Aの代わりにポリイミド樹脂Dを1g投入し、酸化アルミニウム粉末の投入量を、下記の表1に記載されている含有量となる量としたこと以外は、本発明例1と同様にしてフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を調製した。
【0077】
[評価]
本発明例1~10及び比較例1~3で得られたフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を用いて、フィラーを含むポリイミド樹脂組成物膜を作製し、得られたポリイミド樹脂膜のフィラー分散性、ボイド占有率、熱伝導率、膜厚当たりの耐電圧を、下記の方法により評価した。その結果を、下記の表1に示す。
【0078】
(フィラー分散性)
縦50mm×横50mm×厚さ1mmの銅基板上に、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液を500rpmの回転速度でスピンコートして、厚さ20μmの塗布膜を得る。得られた塗布膜を100℃の温度で3時間加熱して乾燥することにより、フィラーを含むポリイミド樹脂組成物膜を成膜して、ポリイミド樹脂組成物膜付銅基板を得る。得られたポリイミド樹脂組成物膜を、光学顕微鏡を用いて観察して、粒径が0.1mm以上のフィラーの凝集体の個数を計測する。ポリイミド樹脂組成物膜1cm2あたりの凝集体の個数が、3個以下であった場合を〇とし、4個以上10個以下であった場合を△、11個以上であった場合を×と判定した。
【0079】
(ボイド占有率)
縦50mm×横50mm×厚さ1mmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)板の上に、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液を、バーコーターを用いて塗布して厚さ100μmの塗布膜を得る。得られた塗布膜を100℃の温度で30分間加熱した後150℃の温度で30分間加熱して、乾燥することにより、フィラーを含むポリイミド樹脂組成物膜を成膜する。得られたポリイミド樹脂組成物膜をPTFE板から剥離して、樹脂埋めする。樹脂埋めしたポリイミド樹脂組成物膜を、CP加工によって断面を露出させる。次いで、露出したポリイミド樹脂組成物膜の断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察する。ポリイミド樹脂組成物膜の断面積100μm2に対して、ボイドが占める面積を計測し、その占有率を算出する。
【0080】
(熱伝導率)
縦50mm×横50mm×厚さ1mmの銅基板上に、フィラー分散ポリイミド樹脂溶液を、バーコーターを用いて塗布して厚さ100μmの塗布膜を得る。得られた塗布膜を100℃の温度で3時間加熱して乾燥することにより、フィラーを含むポリイミド樹脂組成物膜を成膜して、ポリイミド樹脂組成物膜付銅基板を得る。
ポリイミド樹脂組成物膜の熱伝導率(ポリイミド樹脂組成物膜の厚さ方向の熱伝導率)は、NETZSCH-GeratebauGmbH製のLFA477 Nanoflashを用いて、レーザーフラッシュ法により測定する。
【0081】
(膜厚当たりの耐電圧)
ポリイミド樹脂組成物膜の耐電圧は、株式会社計測技術研究所の多機能安全試験器7440を用いて測定する。
上記熱伝導率の測定と同様にして、ポリイミド樹脂組成物膜付銅基板を得る。ポリイミド樹脂組成物膜付き銅基板のポリイミド樹脂組成物膜の表面に電極(φ6mm)を配置する。ポリイミド樹脂組成物膜付銅基板の銅基板とポリイミド樹脂組成物膜の表面に配置した電極をそれぞれ電源に接続し、6000Vまで30秒で昇圧する。銅基板と電極との間に流れる電流値が5000μAになった時点の電圧をポリイミド樹脂組成物膜の耐電圧とした。マイクロメーターにより膜厚を計測し、耐電圧から膜厚を除することで膜厚当たりの耐電圧を算出する。
【0082】
【0083】
両末端にジカルボン酸基又はその酸無水物基を有するポリイミド樹脂を用い、フィラーとして、酸化アルミニウム粉末、水酸化アルミニウム粉末、酸化マグネシウム粉末、水酸化マグネシウム粉末のいずれかを含む本発明例1~10のフィラー分散ポリイミド樹脂溶液を用いて成膜したポリイミド樹脂組成物膜は、フィラー分散性に優れ、ボイド占有率が低く、熱伝導率と耐電圧が高くなった。これは、ポリイミド樹脂の両末端のジカルボン酸基又はその酸無水物基とフィラーとの親和性が高く、ポリイミド樹脂とフィラーとの間に欠陥が発生しにくいためである。例えば、フィラーが、酸化アルミニウム粉末の場合は、ポリイミド樹脂の末端のジカルボン酸無水物基は酸化アルミニウム粒子上の吸着水もしくは空気中の水分で容易に加水分解され、ジカルボン酸基が生成する。ジカルボン酸基と酸化アルミニウム粒子上の水酸基が反応し、カルボキシレート基が2つ生成する。生成した2つのカルボキシレート基は、それぞれ2つのアルミニウム原子に対して二座架橋することで安定化し、酸化アルミニウム粒子に表面にポリイミド樹脂が固定化される。二座架橋の反応進行のためには100℃以上の加熱が好ましい。
【0084】
これに対して、両末端にジカルボン酸基及びその酸無水物基を有しないポリイミド樹脂を用いた比較例1、3及びフィラーとして、シリカ粉末を用いた比較例2では、ポリイミド樹脂組成物膜のフィラー分散性が低下した。なお、比較例1、3及び比較例2で得られたポリイミド樹脂組成物膜は、凝集体が多数生成したため、ボイド占有率、熱伝導率、耐電圧は測定できなかった。