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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130042
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】電気機械変換器
(51)【国際特許分類】
   H02K 33/18 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
H02K33/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028987
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 行志
【テーマコード(参考)】
5H633
【Fターム(参考)】
5H633BB09
5H633BB11
5H633GG03
5H633GG06
5H633GG09
5H633GG17
5H633HH02
5H633HH05
5H633HH09
5H633JA02
(57)【要約】
【課題】電気機械変換器をシンプルな構造により小型化する技術の提供。
【解決手段】電気機械変換器1においては、略U字形状をなすヨーク10の閉端部に設けられたシリンダー10cにアーマチュア18の一端部に設けられたローター18bが挿入されており、ローターの貫通孔に固定された軸20の両側に配置される軸受けを介してアーマチュア18とヨーク10とが結合する。ローター18bとシリンダー10cとの間には僅かな隙間が存在し、コイル12に交流電流が流れると、アーマチュア18はヨーク10に対して軸回りに振動する。ローター18bの外径及びシリンダー10cの内径を大きくすればローター18bとシリンダー10cとの対向面積を大きく確保でき、部品の加工精度及び組立精度により両者間の隙間を小さくでき磁気抵抗を十分に小さく抑制できるため、電気機械変換器をシンプルな構造により小型化しながらも所望の駆動力を生じることが可能となる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略U字状の形状をなすヨークと、
一端部が前記ヨークの閉端部に回動可能に配置され、他端部が前記ヨークの開放端から突出するアーマチュアと、
前記ヨークの内側における前記閉端部寄りの位置に固定され、空芯部を前記アーマチュアが空隙をおいて貫通するコイルと、
前記ヨークの内側における開放端寄りの対称となる位置に固定され、前記アーマチュアに空隙をおいて対向する1対の磁石と、
前記開放端から突出した前記アーマチュアの他端部を挟んで保持する1対の弾性部材と
を備えた電気機械変換器。
【請求項2】
請求項1に記載の電気機械変換器において、
前記アーマチュアは、
前記一端部に略円柱状の形状をなすローターを有しており、
前記ヨークは、
前記閉端部に設けられた略円筒状の形状をなすシリンダーを有しており、前記ローターは、前記シリンダーに空隙をおいて配置されることを特徴とする電気機械変換器。
【請求項3】
請求項2に記載の電気機械変換器において、
前記アーマチュアは、
前記ローターに軸を有しており、
前記ヨークは、
前記シリンダーの両側に前記軸を保持する軸受けが固定されることを特徴とする電気機械変換器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の電気機械変換器において、
前記アーマチュア及び前記ヨークは、
打ち抜かれた複数枚の板材を積層して構成されることを特徴とする電気機械変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号を機械振動に変換する電気機械変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるバランスドアーマチュア型の電気機械変換器には、アーマチュアの振動に要する復元力をアーマチュア自身の弾性力から得るタイプのもの(例えば、特許文献1を参照。)や、別途設けたバネの弾性力から得るタイプのもの(例えば、特許文献2を参照。)が存在する。また、従来、永久磁石を用いたリニアモータの原理を応用した電気シェーバーが知られており(例えば、特許文献3を参照。)、この原理を用いた発明が多く出願されている(例えば、特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-74499号公報
【特許文献2】特開2015-139041号公報
【特許文献3】特公昭50-20493号公報
【特許文献4】特開平11-276727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の変換器においては、磁気吸引力によってアーマチュアの一端が変位したときに、アーマチュアを元の位置に戻すために要する復元力は、アーマチュア自身の弾性力から得ている。磁気吸引力より復元力が大きくなるよう構成する必要があるが、復元力を大きくしすぎると感度が低下するため、アーマチュアの設計の自由度が制限される。また、大きな駆動力の振動を要する場合には、アーマチュアを片持ち梁構造で設計することは困難である。
【0005】
これに対し、特許文献2に記載の変換器は、磁気的な要求はアーマチュアに分担させ、機械的な要求はバネに分担させるため、設計の自由度が高く、大きな駆動力の振動を得ることが可能である。しかしながら、この変換器においては、2対の磁石との関係で部品が2か所で対称的に配置される必要があるため、構造が複雑になる。
【0006】
また、特許文献3に記載のリニアモータにおいては、その原理が影響し、十分な駆動力を得るためにはある程度の寸法と電力量を要するため、小型化することが困難である。
【0007】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、電気機械変換器をシンプルな構造により小型化する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の電気機械変換器を採用する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
本発明の電気機械変換器は、略U字状の形状をなすヨークと、一端部がヨークの閉端部に回動可能に配置され、他端部がヨークの開放端から突出するアーマチュアと、ヨークの内側における閉端部寄りの位置に固定され、空芯部をアーマチュアが空隙をおいて貫通するコイルと、ヨークの内側における開放端寄りの対称となる位置に固定され、アーマチュアに空隙をおいて対向する1対の磁石と、開放端から突出したアーマチュアの他端部を挟んで保持する1対の弾性部材とを備えている。
【0010】
この態様の電気機械変換器によれば、回動可能に保持されたアーマチュアの一端を軸として、コイルに交流電流が流れるとアーマチュアの他端が1対の弾性部材から復元力を受けながら振動するため、電気機械変換器をシンプルな構造により小型化することができる上に、リニアモータと比較して効率良く、ある程度の大きさの直線的な駆動力を生じることができる。
【0011】
好ましくは、上記の態様の電気機械変換器において、アーマチュアは、一端部に略円柱状の形状をなすローターを有しており、ヨークは、閉端部に設けられた略円筒状の形状をなすシリンダーを有している。そして、ローターは、シリンダーに空隙をおいて配置される。
【0012】
この態様の電気機械変換器によれば、略円筒形状のシリンダーの内部に略円柱形状のローターが空隙をおいて配置されるため、ローターが回動する際に、シリンダーとの磁気的な結合状態を安定させることができる。また、ローターの外径及びシリンダーの内径を大きく設計すれば、両者の対向面積を大きく確保することができ、加工精度及び組立精度を上げれば両者間の隙間は十分に小さくできるため、アーマチュアをヨークに固定することなく、両者間の隙間における磁気抵抗を十分に小さく抑制することができる。
【0013】
より好ましくは、上記の態様の電気機械変換器において、アーマチュアは、ローターに軸を有しており、ヨークは、シリンダーの両側に軸を保持する軸受けが固定される。
【0014】
この態様の電気機械変換器によれば、アーマチュアとヨークとが軸受けを介して結合されるため、ローターとシリンダーとの間に形成される間隙を非常に小さくすることができ、この部分における磁気抵抗を一段と小さく抑制しつつ、アーマチュアをヨークに対して回動させることができる。
【0015】
さらに好ましくは、上記のいずれかの態様の電気機械変換器において、アーマチュア及びヨークは、打ち抜かれた複数枚の板材を積層して構成される。
【0016】
この態様の電気機械変換器によれば、アーマチュアやヨークを安価に製作することができるため、これらの部品の製作コストひいては電気機械変換器の製造コストを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、電気機械変換器をシンプルな構造により小型化する技術の提供を課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態の電気機械変換器1を示す斜視図である。
図2】電気機械変換器1におけるアーマチュア18を示す図である。
図3】電気機械変換器1におけるヨーク10を示す図である。
図4】電気機械変換器1を示す分解斜視図である(1/2)。
図5】電気機械変換器1を示す分解斜視図である(2/2)。
図6】電気機械変換器1を示す断面図(図1中のVI-VI線に沿う、アーマチュア18の振動方向に平行な断面図)である。
図7】電気機械変換器1における磁気回路を簡略化して示す図である。
図8】電気機械変換器1の利用例を示す図である。
図9】比較例としての電気機械変換器を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の各実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0020】
図1は、一実施形態の電気機械変換器1を示す斜視図である。
【0021】
電気機械変換器1は、主に、略U字形状のヨーク10と、ヨーク10の内側に固定される空芯のコイル12及び1対の磁石14,16と、コイル12の空芯部及び1対の磁石14,16の間を貫くようにして配置されるアーマチュア18と、ヨーク10の開放端側でアーマチュア18を保持し、その変位に応じた復元力を与える1対のバネ24,26等で構成されており、特に、ヨーク10及びアーマチュア18の各形状、並びにこれら相互の位置関係に特徴を有している。なお、電気機械変換器1の詳細については、別の図面を参照しながら後述する。
【0022】
〔アーマチュアの構成〕
図2は、電気機械変換器1におけるアーマチュア18を示す図である。このうち、(A)及び(B)はアーマチュア18の斜視図であり、(C)はアーマチュア18の正面図である。
【0023】
図2中(A):アーマチュア18は、ある程度の長さを有した平板状の形状をなす平板部18aと、その一端部に設けられた略円柱状の形状をなすローター18bとを有している。ローター18bには、アーマチュア18の幅方向に貫通する貫通孔18cが形成されている。
【0024】
図2中(B):貫通孔18cには軸20が嵌挿され、レーザ溶接等で固定される。このとき、ローター18b、貫通孔18c、軸20の中心軸は一致している。なお、ローター18bに軸20を嵌挿し固定するのに代えて、ローター18bと軸20とを一体的に製作してもよい。
【0025】
図2中(C):平板部18aは、厚さTを有している。また、ローター18bは、外径Dを有している。
【0026】
アーマチュア18は、ケイ素鋼やパーマロイ等の軟磁性材料からなり、本実施形態においては、複数枚の板材を打ち抜き、軸20の中心軸方向に積層にして(接着、溶接、又は機械的な嵌合構造により)構成されている。このような構成により、アーマチュア18の製作コストを抑制することができるが、切削や成型により製作することも可能である。
【0027】
〔ヨークの構成〕
図3は、電気機械変換器1におけるヨーク10を示す図である。このうち、(A)はヨーク10の斜視図であり、(B)はヨーク10の正面図である。
【0028】
図3中(A):ヨーク10は、対向する2つの腕部10a,10bがそれぞれの一端側で接続して閉じられたような略U字状の形状に形成されている。以下、閉じられた側の部位を「閉端部」と称し、閉じられていない側を「開放端」と称する。閉端部の内側には、略円筒形状をなすシリンダー10cが設けられており、ここにローター18bが挿入され、さらにシリンダー10cの両側の開口部には後述する軸受けが配置されることとなる。また、アーマチュア18は、ローター18bをシリンダー10cに挿入した状態で平板部18aがヨーク10の開放端から突出する程度の長さに形成されている。
【0029】
図3中(B):シリンダー10cの内径Dは、ローター18bの外径Dより僅かに大きく設定されている(D>D)。したがって、シリンダー10cとローター18bとは、接触しないが、磁気的に結合することとなる。シリンダー10c及びローター18bが同心円であるため、ローター18bが軸回りに回動する際に、シリンダー10cとローター18bとの間の隙間における磁気抵抗は一定となり、両者の磁気的な結合状態を安定させることができる。
【0030】
シリンダー10cは、その一部がヨーク10の内側に向かって開いており、断面は半円より大きい円弧形状を有している。また、シリンダー10cにおける開きの間隔Tは、アーマチュアの平板部18aの厚さTより大きく設定されている(T>T)。具体的には、間隔Tは、ローター18bとシリンダー10cとが対向する面積を大きく確保するため、なるべく小さくしながらも、アーマチュア18の軸回りの回動(正逆の回転)を妨げない大きさに設定されている。
【0031】
ヨーク10は、アーマチュア18と同様に、ケイ素鋼やパーマロイ等の軟磁性材料からなり、複数枚の板材を打ち抜き、シリンダー10cの中心軸方向に積層にして(接着、溶接、又は機械的な嵌合構造により)構成されている。このような構成により、ヨーク10の製作コストを抑制することができるが、切削や成型により製作することも可能である。
【0032】
〔電気機械変換器の構成〕
図4及び図5は、電気機械変換器1を示す分解斜視図である。
【0033】
ヨーク10の内側には、先ず、ローターの貫通孔18cに軸20が固定されたアーマチュア18がシリンダー10cに挿入されてから、軸20の両端部に軸受け36,38が配置され、軸受け36,38がヨーク10に対して接着材等で固定される。アーマチュア18とヨーク10とが軸受け36,38を介して結合されることにより、ローター18bとシリンダー10cとの間に形成される隙間を0.05mm以下にすることができ、結果としてこの部分における磁気抵抗を小さく抑制することができる。
【0034】
なお、本実施形態においては、小型化を実現するために滑り軸受けを採用したが、ボールベアリング等の転がり軸受けを採用してもよい。また、アーマチュア18とヨーク10との間に潤滑剤を入れて、適当な粘性抵抗を与えることも可能である。
【0035】
ヨーク10の内側における閉端部寄りの位置には、コイル12が配置される。コイル12は、その空芯部にアーマチュア18を通した状態で、ヨーク10に対し接着して固定される。また、ヨーク10の内側におけるコイル12よりも開放端寄りの位置には、アーマチュア18に対して対称になるように1対の磁石14,16が配置される。1対の磁石14,16は、同じ向きに磁化される。すなわち、一方の磁石のN極と他方の磁石のS極とが対向した状態でヨーク10に対し接着して固定される。
【0036】
ヨーク10の開放端から突出するアーマチュア18の端部には、連結部材22が取り付けられ、レーザ溶接等で固定される。連結部材22は、アーマチュア18の振動を伝達するため、他の構造物の連結構造に合致した形状となっている。また、連結部材22が固定されたアーマチュア18の端部をその幅方向の両側(図4における手前側と奥側)に、ヨーク10の開放端を挟んで1対のバネ保持部側板28,30が配置され、ヨーク10に対してレーザ溶接等で固定される。
【0037】
また、図5に示されるように、アーマチュア18の端部(連結部材22)の厚さ方向の両側(図5における上側と下側)には、これを挟んで、1対のバネ24,26が配置され、さらに1対のバネ24,26を外側(図5における上側と下側)からアーマチュア18に押さえつけるようにして、1対のバネ保持部天板32,34が配置される。1対のバネ保持部天板32,34は、1対のバネ保持部側板28,30に対してレーザ溶接等で固定される。
【0038】
バネ24,26は、アーマチュア18の変位に対して復元力を与えるものであり、適当な量だけ縮ませた状態で、バネ保持部天板32,34と連結部材22(アーマチュア18の端部)との間に配置される。これにより、アーマチュア18を安定した状態で保持することができる。本実施形態においては、圧縮コイルバネを採用したが、これに限定されず、他の態様のバネ(例えば、板バネ)を採用してもよい。バネ保持部天板32,34には、バネ24,26を保持するための突出部32a,34aが設けられており、バネ24,26の端部は突出部32a,34aに保持されることで、振動しても位置がずれることが無い。
【0039】
図6は、電流が流れていない状態における電気機械変換器1を示す垂直断面図(図1中のVI-VI線に沿う、アーマチュア18の振動方向に平行な断面図)である。なお、説明の便宜のため、図6ではローター18bとシリンダー10cとの間の隙間を実際より大きく表現している。
【0040】
電気機械変換器1は、アーマチュア18を挟む1対の磁石14,16からの磁気吸引力がつり合うように組み立てられ、コイル12に電流が流れていない状態においては、アーマチュア18は1対のバネ24,26によってこれらの弾性力(復元力)がつり合う位置に保持される。また、アーマチュア18とコイル12との間、及び、アーマチュア18と1対の磁石14,16との間には、空隙が存在し、アーマチュア18とヨーク10との間(ローター18bとシリンダー10cとの間)にも、僅かな隙間が存在している。コイル12に交流電流が流れると、アーマチュア18は、ヨーク10に対して軸回りに回動し、1対のバネ24,26からの復元力を受けながら振動する。このように、アーマチュア18が振動しても、コイル12や1対の磁石14,16に接触することはない。
【0041】
ヨーク10に対するアーマチュア18の動きの自由度は、軸回りの回動と、軸方向の僅かな隙間(アーマチュア18と軸受け36,38との間の隙間)における動き(ずれ)とに限られる。磁石14,16がヨーク10に対して対称に固定されており、アーマチュア18の幅と磁石14,16の幅が同じであれば、コイル12に電流を流した際に磁気回路で発生する磁気力によるアーマチュア18の動きは、軸回りの回動だけに限定される。つまり、磁気力が概ねつり合う位置に僅かにずれ動いた後は、軸方向の動きは、無視できる。
【0042】
〔磁気回路〕
図7は、電気機械変換器1における磁気回路の漏洩磁路を無視して簡略化して示した等価回路である。
【0043】
図7中のFm1,Fm2は、それぞれ磁石14,16による起磁力を表しており、Fcは、コイル12に電流が流れたときの起磁力を表しており、Rg1,Rg2は、それぞれ磁石14,16とアーマチュア18との間の空隙における磁気抵抗を表しており、Rg3,Rg4は、ローター18bとシリンダー10cとの間の隙間における磁気抵抗を2分割したものを表しており、Ry1,Ry2は、それぞれヨークの腕部10a,10bにおける磁気抵抗を表しており、Ry3は、ヨーク10の閉端部における磁気抵抗を表しており、Raは、アーマチュアの平板部18aにおける磁気抵抗を表している。また、実線矢印は、磁石14,16の磁化によって生じる各磁石14,16とアーマチュア18(平板部18a)との間の空隙における磁束の向きを表しており、破線矢印は、コイル12に電流が或る向きに流れたときに発生する磁束の向きを表している。
【0044】
コイル12に電流が流れて起磁力Fcが発生する際に、できるだけ大きな磁束がコイル12を貫通するためには、各空隙における磁気抵抗Rg1~Rg4は小さい方が有利である。空隙における磁気抵抗は、空隙の断面積(磁束に垂直な断面積)に反比例し、空隙の長さ(磁束に沿った長さ)に比例する。
【0045】
ここで、磁石14,16とアーマチュア18(平板部18a)との間の空隙の断面積及び長さは、電気機械変換器1の使用目的に応じて必要な量が決定され、これらの量に応じて磁気抵抗Rg1,Rg2が概ね定まる。すなわち、磁気抵抗Rg1,Rg2は、使用目的に応じた設計上の制約を受けて定まるものであることから、これらの抵抗値を小さくするための調整を加えることは困難である。
【0046】
これに対し、磁気抵抗Rg3,Rg4については、ローター18bの外径及びシリンダー10cの内径を大きく設計すれば、ローター18bとシリンダー10cとの間の空隙の断面積を十分に大きく確保することができる。また、両者間の空隙は、部品の加工精度及び組立精度を上げれば十分に小さく(0.05mm以下に)することができ、空隙の長さを十分に小さく抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、アーマチュア18とヨーク10とを固定することなく、磁気抵抗Rg3,Rg4を十分に小さくすることができ、電気機械変換器1全体としてのサイズを小型化しながらも、所望の駆動力を生じることが可能となる。
【0047】
また、本実施形態によれば、特許文献2に記載の電気機械変換器と同様に、アーマチュアの弾性による復元力を考慮することなく磁気回路を設計することができる上に、磁石が1対で済むため、特許文献2に記載の電気機械変換器よりもシンプルな磁気回路を構成することができ、構造もシンプルにできる。
【0048】
〔電気機械変換器における動作〕
コイル12に電流が流れていない状態においては、アーマチュア18の軸回りの変位量は0であり、アーマチュア18は初期位置で静止している。アーマチュア18が初期位置に静止した状態で、コイル12に或る向きの電流に流れ、図7の破線矢印の向きに磁束が発生したとすると、上側の空隙(磁石14とアーマチュア18との間の空隙)における磁束が増加する一方、下側の空隙(磁石16とアーマチュア18との間の空隙)における磁束が減少して、上側の磁気吸引力が大きくなり、アーマチュア18は上側に(磁石14寄りに)変位する。また、コイル12に逆向きの電流が流れると、下側の空隙(磁石16とアーマチュア18との間の空隙)における磁束が増加する一方、上側の空隙(磁石14とアーマチュア18との間の空隙)における磁束が減少して、下側の磁気吸引力が大きくなり、アーマチュア18は下側に(磁石16寄りに)変位する。バネ24,26の復元力を磁気力より大きくしておけば、電流が0になるとアーマチュア18は初期位置に戻る。
【0049】
したがって、コイル12に交流電流を流せば、アーマチュア18はヨーク10に対して軸回りの振動運動をする。アーマチュア18の振動の周波数及び振幅は、コイル12に流す電流の周波数及び振幅により制御される。したがって、コイル12に流す電流を制御することにより、電気機械変換器1の駆動の周波数や振幅を用途や状況に応じて制御することができる。
【0050】
〔応用例〕
図8は、電気機械変換器1の利用例を示す図である。
【0051】
電気機械変換器1は、例えば、電気シェーバーの駆動源として利用することができる。言い方を変えると、電気機械変換器1は、電気シェーバーの駆動源として利用できる程度の大きな駆動力を生じることができる。具体的には、アーマチュア18の端部に設けられた連結部材22に、内刃BIを連結し、図示しないハウジングに収容した上で、内刃BIに外刃BOを被せれば、電気シェーバーの髭剃り部の基本的な構造が完成する。電気機械変換器1は、このような電気シェーバーの駆動源となり、内刃BIを図8中の実線矢印の方向に往復運動させることができる。なお、このような利用例においては、電気シェーバーに効率のよい周波数で駆動することが好ましい。
【0052】
〔比較例〕
図9は、比較例としての電気機械変換器、より具体的には、特許文献3に記載の電気シェーバーにおいて駆動源として利用されている、永久磁石を用いたリニアモータを説明する図である。
【0053】
磁気力により振動を発生させる変換器においては、一般的に、磁束を集中させる空隙が設けられ、その空隙における磁束を変化させることにより振動を発生させる。そして、振動による駆動力の大きさは、空隙における磁束変化によって生じる磁気力で決定する。
【0054】
図9中(A):リニアモータの動作原理を示している。図中に示された弧状の実線矢印は、永久磁石による磁束を表しており、弧状の破線矢印は、電磁石による磁束を表している。固定子のコイルに電流が流れ、破線矢印の向きに磁束が発生したとすると、可動子は、図中に示された白抜き矢印の向き(図9中(A)における右向き)の力を受ける。なお、この図においては、コイル電流により生じる電磁石の磁極が簡易的に表されているが、正確には、電流の向きや永久磁石との位置関係に応じて変化する。
【0055】
図9中(B):図9中(A)の中央部を拡大して示している。この図においては、理解の促進のために、磁気力に関係した磁束を模式化するとともに、電磁石の極性をより正確に表している。永久磁石による磁束にコイル電流による磁束が重畳されるため、左側に示された部位においては、磁束密度が大きくなるのに対し、右側に示された部位においては、磁束密度が小さくなる。
【0056】
ここで、磁気力Fは、磁束に沿った方向に作用する磁気吸引力であり、次式で与えられる。
F=A×B/(2×μ
上記の式において、Bは磁束密度であり、Aは磁束に垂直な方向の断面積であり、μは空気の透磁率(≒真空の透磁率)である。
【0057】
図9中(B)の左側に示された部位の磁気吸引力をF1、右側に示された部位の磁気吸引力をF2とすると、いずれも断面積Aは同じであるから、磁束密度が大きい左側の磁気吸引力F1の方が右側の磁気吸引力F2より大きくなることが分かる。この結果、これらの部位の間では、磁気吸引力F1,F2のそれぞれの水平成分をF1x,F2xとすると、水平方向に「F1x-F2x」の大きさの力、すなわち右向きの力が作用することとなる。そして、このようにして作用する水平方向の力が、リニアモータにおける駆動力となる。
【0058】
磁石を用いたリニアモータの駆動力を大きくするためには、固定子と可動子との間の空隙を小さくして、磁束密度を大きくし、磁気吸引力の向きを水平方向に近づけることが考えられる。しかしながら、このようにすると、磁束の方向に垂直な断面積が小さくなるため、駆動力を十分に大きくすることができない。すなわち、この方式においては、十分な駆動力を確保する上である程度の寸法と電力量が必要となることから、変換器を小型化することが非常に困難である。
【0059】
これに対し、本実施形態においては、駆動力を決定する磁石14,16とアーマチュア18との間の空隙の磁束に関して、上記のリニアモータの場合と比較して、より大きな断面積と同程度の磁束密度を得ることができるため、より大きな駆動力を得ることができる。したがって、本実施形態によれば、電気機械変換器1の寸法や電力量を大きくする必要がなく、効率的に、シンプルかつ小型化された構造により所望の駆動力を確保することができる。
【0060】
上述したように、本実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
(1)電気機械変換器1においては、アーマチュア18の一端部に設けられたローター18bがヨーク10の閉端部に設けられたシリンダー10cに挿入された状態でヨーク10とアーマチュア18とが回動可能に保持され、かつ、磁気的に結合されるとともに、アーマチュア18の他端部がヨーク10の開放端から突出して1対の磁石14,16により挟まれて、かつ、1対のバネ24,26で保持されており、コイル12に交流電流が流れるとアーマチュア18が1対の磁石14,16からの磁気吸引力と、バネ24,26からの復元力を受けながら振動するため、このようなシンプルな構造で、効率的に、大きな駆動力を生じることができる。また、復元力にアーマチュア18の弾性力を用いないため、磁気回路の設計の自由度が向上する。
【0061】
(2)ローター18bが略円柱形状をなしているとともにシリンダー10cが略円筒形状をなしており、ローター18bとシリンダー10cとの間には僅かな隙間が均一に存在するため、この隙間の磁気抵抗を小さくできとともに、ローター18bが軸回りに回動する際に、シリンダー10cとの磁気的な結合状態を一定にすることができ、駆動力への影響を小さくすることができる。
【0062】
(3)ローター18bが略円柱形状をなしているとともにシリンダー10cが略円筒形状をなしており、ローター18bの外径及びシリンダー10cの内径を大きくすれば、両者の対向面積を大きく確保することができるため、結果として両者間の隙間における磁気抵抗を十分に小さく抑制することができる。
【0063】
(4)軸20が固定されたローター18bがシリンダー10cに挿入され、軸20の両端部に配置されシリンダー10cに固定される軸受け36,38を介して、アーマチュア18とヨーク10とが結合されるため、ローター18bとシリンダー10cとの間に形成される間隙を非常に小さく保持することができ、この部分における磁気抵抗を小さく抑制することができる。
【0064】
(5)アーマチュア18及びヨーク10は、いずれも複数枚の板材を打ち抜き、軸方向に積層にして(接着、溶接、又は機械的な嵌合構造により)構成されているため、これらの部品を安価に製作することができ、電気機械変換器1の製造コストを抑制することが可能となる。
【0065】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0066】
上述した実施形態に用いるバネ24,26は、磁石14,16の磁気力が作用して変位するアーマチュア18に対し、その変位に応じた復元力を与えられるものであればよく、バネ以外の弾性部材を用いることも可能である。
【0067】
上述した実施形態においては、電気機械変換器1の利用例として電気シェーバーを挙げているが、これに限定されず、歯ブラシ、毛抜き、超音波メス等、様々な機器の駆動源として利用可能である。
【0068】
その他、電気機械変換器1の各構成部品の例として挙げた材料や数値等はあくまで例示であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0069】
1 電気機械変換器
10 ヨーク
10c シリンダー
12 コイル
14,16 磁石
18 アーマチュア
18b ローター
20 軸
22 連結部材
24,26 バネ(弾性部材)
28,30 バネ保持部側板
32,34 バネ保持部天板
36,38 軸受け
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9