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特開2022-130108ポーラスメタルボンド砥石及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130108
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ポーラスメタルボンド砥石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/10 20060101AFI20220830BHJP
   B24D 3/06 20060101ALI20220830BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B24D3/10
B24D3/06 A
B24D3/00 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029088
(22)【出願日】2021-02-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物名 精密工学会春季大会学術講演会講演論文集 発行日 2020年3月1日 発行者 一般社団法人精密工学会 該当ページ 第490頁~第491頁 公開者 櫻井孝之 村岡潤一 泉妻孝迪 後藤仁 公開のタイトル 「エアー放出機構を持つCFRP加工用砥石の開発」 2.刊行物名 2020年度 砥粒加工学会 学術講演会講演論文集 発行日 令和2年8月21日 発行者 社団法人砥粒加工学会 該当ページ 第95頁~第96頁 公開者 櫻井孝之 村岡潤一 公開のタイトル 「CFRP加工用エア放出型砥石の加工性能評価」
(71)【出願人】
【識別番号】593022021
【氏名又は名称】山形県
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】村岡 潤一
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 孝之
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB03
3C063BA02
3C063BB02
3C063BC02
3C063BC09
3C063BH02
3C063CC04
3C063CC05
3C063EE15
3C063FF20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】内部に連通孔が形成され、且つ高い気孔率を有し、目詰まりを抑えることのできるポーラスメタルボンド砥石、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数の砥粒3と、前記砥粒のボンド材である金属ポーラス体2とを備えるポーラスメタルボンド砥石1であって、前記金属ポーラス体2中に、複数のスペーサーが除去されて形成された複数の気孔が繋がることにより長尺の連通孔4が形成され、且つ気孔率が40%~60%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の砥粒と、前記砥粒のボンド材である金属ポーラス体とを備えるポーラスメタルボンド砥石であって、
前記金属ポーラス体中に、複数のスペーサーが除去されて形成された複数の気孔が繋がることにより長尺の連通孔が形成され、且つ気孔率が40%~60%であることを特徴とするポーラスメタルボンド砥石。
【請求項2】
前記スペーサーの粒径は、粒径75μm以上300μm以下の範囲であり、添加量が40vol%以上60vol%以下であることを特徴とする請求項1に形成されたポーラスメタルボンド砥石。
【請求項3】
前記連通孔は、連続的に繋がることにより長尺に形成され、前記ポーラス体の内周面内周面と外周面とを結ぶように形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたポーラスメタルボンド砥石。
【請求項4】
前記金属ポーラス体は、複数の球形金属粒子により焼結形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたポーラスメタルボンド砥石。
【請求項5】
前記球形金属粒子は、CuまたはCuより融点の高い金属元素、或いはCuを元にした合金元素の金属からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載されたポーラスメタルボンド砥石。
【請求項6】
複数の砥粒と、前記砥粒のボンド材である金属ポーラス体とを備えるポーラスメタルボンド砥石の製造方法であって、
複数の砥粒と、複数の球形金属粒子と、水溶性の無機塩または有機塩のスペーサーとを混合し混合体を成形する工程と、
前記混合体を焼結し、第一の焼結体を形成する工程と、
前記第一の焼結体から前記スペーサーを除去する工程と、
を備え、
前記混合体を成形する工程において、
前記スペーサーの添加量を40~60vol.%とすることを特徴とするポーラスメタルボンド砥石の製造方法。
【請求項7】
前記第一の焼結体から前記スペーサーを除去する工程の後、
前記第一の焼結体を再焼結し、第二の焼結体を形成する工程をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載されたポーラスメタルボンド砥石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポーラスメタルボンド砥石及びその製造方法に関し、砥粒間を結合するボンド材として、連続的に気孔が形成された連通孔を有すると共に、高い気孔率を有する金属ポーラス体を用いた、ポーラスメタルボンド砥石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量・高剛性を特徴とする炭素繊維強化樹脂(CFRP)は、自動車、医療、航空宇宙分野などに材料として広く利用されている。CFRPにより形成される製品は、CFRP板を積層し成形した後、余剰部分の除去(トリミング加工)が必須である。
このCFRPは、硬い炭素繊維を加工しなければならないため、切れ刃の消耗が激しい材料として知られている。
このような切れ刃の消耗に対して高い耐性を有する砥石としては、ダイヤモンドの多数の切れ刃を有し、切れ刃の消耗に強い、ダイヤモンド砥石が知られている。
【0003】
しかしながら、ダイヤモンド砥石をCFRPの加工に用いると、多数の切れ刃の間にCFRPの切り屑が堆積しやすく、しかも乾式で加工しなければならないCFRP加工では容易に目詰まりすることが知られている。即ち、CFRPは、加工熱により炭素繊維をつなぐ樹脂層が融解し、ダイヤモンド砥石を目詰まりさせるという問題があった。
【0004】
このような目詰まりを解決する方法として、砥石中に気孔を形成させることにより、砥石の自生作用を促進し、目詰まりを抑制する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、溶剤に可溶で融点が500℃以上の物質(スペーサー)と、超砥粒とをメタルボンド粉末に混入し、この混合物をホットプレスにより焼結した後、焼結体を溶剤に浸漬して、前記物質(スペーサー)を除去して焼結体中に気孔を形成する方法が開示されている。
【0005】
また、砥石ではないが多孔質金属材料として、特許文献2には、例えば亜硝酸ナトリウムなどの無機化合物を所定形状に成形して焼結したのちに、焼結体の空隙に溶融した金属を圧入し、凝固させた後、溶剤で処理して前記無機化合物を溶出させ、三次元網目構造の細孔を有するポーラス金属の形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60-118469号公報
【特許文献2】特開昭59-038343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示されたメタルボンド砥石にあっては、焼結体中に気孔が形成されるものの、気孔が繋がること無く、独立孔として分散するために、メタルボンド砥石の内部をエア(空気)あるいは切削油が流動しない。そのため、切り屑の良好な排出が行えず、目詰まりを抑制できないという課題があった。
また、焼結体中に形成される気孔は独立孔であるため、スペーサーにNaClを用いた場合、焼結体内にNaClが残存する虞がある。その場合、砥石が著しく酸化するため、保存に難があるという課題があった。
【0008】
本発明者らは、CFRP等の切れ刃の消耗が激しい材料においても、目詰まりが抑制され、好適に研削できる砥石を鋭意研究した。
この検討において、特許文献2に開示された方法についても検討したが、工程数が多く、各工程に時間を要するため、製造コストが高くなるという課題があった。また、スペーサーを形成する例えば亜硝酸ナトリウムが有害物質であるため、環境負荷が大きいという課題があった。
そして、この問題を解決するには、熱伝導率に優れるメタルボンド砥石を採用し、さらにメタルボンドをポーラス体とし(連通した気孔により形成し)、その内部から砥石表面にエア等の流動体を供給することにより、目詰まりを抑制することを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、内部に連通した気孔が形成され、且つ高い気孔率を有し、目詰まりを抑えることのできるポーラスメタルボンド砥石、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係るポーラスメタルボンド砥石は、 複数の砥粒と、前記砥粒のボンド材である金属ポーラス体とを備えるポーラスメタルボンド砥石であって、前記金属ポーラス体中に、複数のスペーサーが除去されて形成された複数の気孔が繋がることにより長尺の連通孔が形成され、且つ気孔率が40%~60%であることに特徴を有する。
【0011】
尚、前記スペーサーの粒径は、粒径75μm以上300μm以下の範囲であり、添加量が40vol%以上60vol%以下であることが望ましい。
また、前記連通孔は、連続的に繋がることにより長尺に形成され、前記ポーラス体の内周面と外周面とを結ぶように形成されていることが望ましい。
また、前記金属ポーラス体は、複数の球形金属粒子が焼結形成されていることが望ましい。
また、前記球形金属粒子は、CuまたはCuより融点の高い金属元素、或いはCuを元にした合金元素の金属からなることが望ましい。
【0012】
このような構成によれば、金属ポーラス体中には気孔が連続的に繋がるように形成された連通孔を有しており、気孔率は40%~60%であるため、砥石内部にエア等を流しながら研削することで被研削材の目詰まりを防止することができる。また、金属ポーラス体中には複数の気孔が繋がって前記連通孔が形成されているため、砥石内部にスペーサー(NaCl等)が残ることがなく、砥石の酸化を防止することができる。
また、砥粒のボンド材である金属ポーラス体は、Cu、またはCuより融点の高い金属元素、或いはCuを元にした合金元素からなる複数の球形金属粒子を焼結して形成することにより、高い熱伝導率と高強度を得ることができる。
また、ポーラス体が熱伝導率の大きい金属体であるため、熱による弊害が大きいプラスチックや耐熱金属の加工に大きな効果を奏することができる。
【0013】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係るポーラスメタルボンド砥石の製造方法は、複数の砥粒と、前記砥粒のボンド材である金属ポーラス体とを備えるポーラスメタルボンド砥石の製造方法であって、複数の砥粒と、複数の球形金属粒子と、水溶性の無機塩または有機塩のスペーサーとを混合し混合体を成形する工程と、前記混合体を焼結し、第一の焼結体を形成する工程と、前記第一の焼結体から前記スペーサーを除去する工程と、を備え、前記混合体を成形する工程において、前記スペーサーの添加量を40~60vol.%とすることに特徴を有する。
【0014】
尚、前記第一の焼結体から前記スペーサーを除去する工程の後、前記第一の焼結体を再焼結し、第二の焼結体を形成する工程をさらに備えることが望ましい。
【0015】
このような方法によれば、前記ポーラスメタルボンド砥石を得ることができ、また、例えば放電焼結により製造することにより、製造工程を簡略化し、高速化を実現でき、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内部に連通した気孔が形成され、且つ高い気孔率を有し、目詰まりを抑えることのできるポーラスメタルボンド砥石、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係るポーラスメタルボンド砥石の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1のポーラスメタルボンド砥石を用いた研削装置の一例を示す断面図である。
図3図3は、図1のポーラスメタルボンド砥石を形成する焼結前の混合体の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
図4図4は、図3の混合体を焼結し、スペーサーを除去した状態を模式的に示す断面図である。
図5図5は、実施例の結果を示すグラフである。
図6図6(a)、(b)は、実施例における顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るポーラスメタルボンド砥石、及びその製造方法について説明する。
本発明に係るポーラスメタルボンド砥石は、その内部に酸素、窒素などの気体、或いは切削油などの液体が連続的に供給され、砥粒及びボンド材表面(砥石表面)を冷却するとともに、切り屑を排出しながら研削加工する砥石である。
【0019】
図1は、本発明に係るポーラスメタルボンド砥石の一部を拡大して示す断面図である。図1に示すようにポーラスメタルボンド砥石1は、複数の球形金属粒子が焼結により連結された金属ポーラス体2と、金属ポーラス体2中に配置された複数の砥粒3(例えばダイヤモンド砥粒)と、金属ポーラス体2中に形成された長尺の連通孔4とにより構成されている。
前記金属ポーラス体2において、前記連通孔4は、複数の気孔が連続的に繋がって形成されたものであり、ポーラスメタルボンド砥石1の気孔率は40%~60%である。
この連通孔4は、酸素、窒素などの気体、或いは切削油などの液体の通路として機能する。
【0020】
金属ポーラス体2は、Cu、またはCuよりも融点の高い金属、或いはそれらを元に形成された合金よりなる。
具体的には、Cuよりも融点の高い金属としては、W、Fe、Ni、Co、Mo等が挙げられる。また、Cuと、前記したCuよりも融点の高い金属の合金であっても良い。
これら金属を用いることにより、熱伝導性に優れた砥石1を得ることができる。
【0021】
金属ポーラス体2は、複数の球形金属粒子同士が、その接点において焼結により連結されているため、長尺の連通孔4の配置箇所を除き、均等に配置され、隣り合う球形金属粒子の間には隙間(図示せず)が、前記連通孔4よりも微少な気孔として均一に存在する。
また、前記連通孔4は、金属ポーラス体2の内周面と外周面とを結ぶように形成され、幅数十μm~1mmに形成されている。これにより砥石1内における空気などの気体、或いは切削油などの液体等の流動性を格段に向上することができる。
【0022】
前記ポーラスメタルボンド砥石1を用いてCFRP材を研削加工する場合、例えば図2のような装置構成において用いられる。
図2において、ポーラスメタルボンド砥石1は、円環状に形成され、例えば鉛直方向に延びる回転軸10が砥石1の中心に挿嵌され、回転軸10の周りに固定される。
回転軸10は管状に形成され、管中に高圧エアが流されるようになっている。
また、管側面に複数の連通孔10aが形成されており、この連通孔10aをエア(空気)が流れ、ポーラスメタルボンド砥石1の中心側から径外側方向に向かって砥石1中をエアが流れるように構成されている。
【0023】
回転軸10が所定の速度(例えば188m/min)で回転され、被研削対象であるCFRP材20が回転するポーラスメタルボンド砥石1に接触され、研削加工が行われる。
このとき、高圧エア(入力圧0.5MPaのエア)がポーラスメタルボンド砥石1の連通孔4を主に通って外に噴出される(砥石1の内周面から外周面にエアが流れ、外周面から外に噴出される)ため、CFRP材20の切り屑が目詰まりすること無く研削を行うことができる。
また、連通孔4を通るエア(空気)によって、砥粒3及びポーラス金属体2が冷却され、砥石の熱によるCFRP材20への悪影響が抑制される。
尚、研削される対象物である被研削体によっては、エア(空気)以外の切削油を用いることもできる。
【0024】
続いて、このポーラスメタルボンド砥石1の製造方法について説明する。
最初に、図3に示すようにCu、またはCuより融点の高い金属元素、またはCuとそれらの金属元素の合金元素のいずれからなる球形金属粒子11と、無機塩のスペーサー12と、例えばCu-Ni被覆ダイヤモンドからなる砥粒3とを混合し成形する(混合体の形成)。
無機塩としては、例えば、NaCl、KCl等を用いることができる。特にスペーサー12としては、常温の水等に融解しやすい等の理由から、NaClを用いるのが好ましい。
尚、前記NaClやKClは、前記Cu等からなる球形金属粒子11よりも融点が低いが、後述の焼結工程において通電焼結法を用いることにより、通常のホットプレス法等における焼結温度よりも低い温度での焼結が可能となる。そのため、スペーサー12の融点が低いことによる悪影響を受けにくい。
【0025】
ここで、本発明にあっては、前記混合体中にスペーサー12の粒子を連続的に配置しやすくし、連通孔4を形成する点に特徴を有する。
スペーサー12を連続して配置するには、粒径が75μm以上300μm以下の範囲のスペーサー12を添加量40vol%以上60vol%以下の配合量とし、混合することにより、図3に示すようにスペーサー12を連続して配置しやすくすることができる。
【0026】
また、ボンド材である球形金属粒子11は、スペーサー12と同じ粒径に形成されたものである(粒径は均一であることが望ましい)。
これは、球形金属粒子11の径よりスペーサー12の粒径が大きい場合、スペーサー12が焼結後に焼結体内で大きな孔となり、均一な流路が得られ難いためである。反対に、球形金属粒子11の径よりスペーサー12の粒径が小さい場合、スペーサー12が球形金属粒子11を取り巻き、焼結を妨げる恐れがあるためである。
また、砥粒3であるダイヤモンド添加量は、例えば12.5vol.%、スペーサー12の添加量は、好ましくは40vol.%以上60vol.%以下である。
【0027】
次いで、前記混合体を所定形状に成形する。
そして、この成形体に対して、プラズマ放電焼結装置を用い、真空状態で炉内圧力10.2MPaとして、650℃で15min仮焼結する。これにより成形体は仮焼結体(第一の焼結体)となる。
前記仮焼結体を蒸留水に浸してスペーサー12(NaCl)を除去(脱塩)し、図4に示すように連通孔4を形成する。
最後に、真空状態で加圧無し、750℃或いは820℃で2時間焼結して、ポーラスメタルボンド砥石1(第二の焼結体)が得られる。このように再度の加熱処理により、強度が向上する。
【0028】
尚、この本焼結により砥石強度が増すが、研削対象に応じて砥石強度(ボンド材強度)を調整することも可能である。
即ち、研削加工においては、ボンド材の強度を落とし、切れ刃の自生を促すことで切れ味を向上させ、被研削材へのダメージを抑えることが必要な場合がある。
そのため、上記製造工程における、焼結時間や加熱温度を調整して、あえてポーラスメタルボンド砥石1(第二の焼結体)の強度を低くしても良い。
【0029】
以上のように本実施の形態によれば、金属ポーラス体2中には長尺の連通孔4が形成されており、気孔率は40%~60%であるため、砥石内部にエア等を流しながら研削することで、被研削材の目詰まりを防止することができる。また、金属ポーラス体2中には複数の気孔が繋がって前記連通孔4が形成されているため、砥石内部にスペーサー12(NaCl等)が残ることがなく、砥石の酸化を防止することができる。
また、砥粒3のボンド材である金属ポーラス体2は、Cu、またはCuより融点の高い金属元素、或いはCuを元にした合金元素からなる複数の球形金属粒子を焼結したものであるため、高い熱伝導率と高強度を得ることができる。
更に、ポーラス体2は熱伝導率の大きい金属体であるため、熱による弊害が大きいプラスチックや耐熱金属の加工に大きな効果を奏することができる。
また、放電焼結により製造することにより、製造工程を簡略化し、高速化を実現でき、製造コストを低減することができる。
【0030】
尚、前記実施の形態においては、球形金属粒子11として、CuまたはCuより融点の高い金属元素、或いはCuを元にした合金元素を例に説明したが、本発明にあってはそれに限定されるものではない。例えば、球形金属粒子11として、Fe、Ni、Mo、W、Sn及びそれらの合金を用いてもよい。
また、前記実施の形態においては、スペーサーとして、NaCl等を例に説明したが、それに限定されず、KClなどの水溶性結晶材料を用いてもよい。また、水溶性であれば、無機塩に限らず有機塩でもよい。また、結晶形状が長尺な形状、例えば針状の結晶を有する塩をスペーサーとして用いてもよい。
【実施例0031】
本発明に係るポーラスメタルボンド砥石及びその製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
【0032】
(実験1)
本実験1では、本実施の形態に沿ってポーラスメタルボンド砥石を製造した。具体的には、球形金属粒子に青銅(Cu-10Sn:ベース金属Cuに対してSnを10wt%配合したもの)、スペーサーにNaCl、ダイヤモンド砥粒を用いてポーラスメタルボンド砥石を作製し、性能を評価した。
【0033】
(実施例1)
実施例1では、青銅(Cu-10Sn)を25.2vol%、スペーサーにNaClを40vol%、ダイヤモンド砥粒を34.8vol%の割合で混合し、成形体を形成した。青銅の金属粒子径は、75μm以上125μm以下の範囲とし、スペーサーの粒径は金属粒子径と同じとした。
その後、前記成形体を仮焼結温度650℃、本焼結温度750℃として、気孔率40%、砥粒の集中度100のポーラスメタルボンド砥石を作製した。尚、作製した砥石の気孔率は、「JISR1634(1998)ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法」に沿って測定した。
ポーラスメタルボンド砥石は、円環状に形成し、図2に模式的に示した装置において、エアを0.5MPaの入力圧で流しながらCFRP材を研削加工し、研削距離(mm)に対する法線研削抵抗(N)を測定した。
その結果を図5に示す。
【0034】
実施例2では、実施例1と同様の配合比で青銅(Cu-10Sn)、NaCl、ダイヤモンド砥粒を混合し、成形体を形成した。青銅の金属粒子径は75μm以上125μm以下の範囲とし、スペーサーの粒径は金属粒子径と同じとした。
その後、前記成形体を仮焼結温度650℃、本焼結温度750℃として、気孔率40%、砥粒の集中度100のポーラスメタルボンド砥石を作製し、図2に模式的に示した装置において、内部にエアを流さず、CFRP材を研削加工し、研削距離(mm)に対する法線研削抵抗(N)を測定した。
その結果を図5に示す。
【0035】
実施例3では、青銅(Cu-10Sn)を42.6vol%、スペーサーにNaClを40vol%、ダイヤモンド砥粒を17.4vol%の割合で混合し、成形体を形成した。青銅の金属粒子径は75μm以上125μm以下の範囲とし、スペーサーの粒径は金属粒子径と同じとした。
その後、前記成形体を仮焼結温度650℃、本焼結温度750℃として、気孔率40%、砥粒の集中度50のポーラスメタルボンド砥石を作製し、図2に模式的に示した装置において、にエアを0.5MPaの入力圧で流しながらCFRP材を研削加工し、研削距離(mm)に対する法線研削抵抗(N)を測定した。
その結果を図5に示す。
【0036】
実施例4では、青銅(Cu-10Sn)を22.6vol%、スペーサーにNaClを60vol%、ダイヤモンド砥粒を17.4vol%の割合で混合し、成形体を形成した。青銅の金属粒子径は125μm以上250μm以下の範囲とし、スペーサーの粒径は金属粒子径と同じとした。
その後、前記成形体を仮焼結温度650℃、本焼結温度750℃として、気孔率60%、砥粒の集中度50のポーラスメタルボンド砥石を作製し、図2に模式的に示した装置において、にエアを0.5MPaの入力圧で流しながらCFRP材を研削加工し、研削距離(mm)に対する法線研削抵抗(N)を測定した。
その結果を図5に示す。
【0037】
実施例5では、実施例4と同様の配合比で青銅(Cu-10Sn)、NaCl、ダイヤモンド砥粒を混合し、成形体を形成した。青銅の金属粒子径は125μm以上250μm以下の範囲とし、スペーサーの粒径は金属粒子径と同じとした。
その後、前記成形体を、仮焼結温度650℃、本焼結温度820℃として、気孔率60%、砥粒の集中度50のポーラスメタルボンド砥石を作製し、図2に模式的に示した装置において、にエアを0.5MPaの入力圧で流しながらCFRP材を研削加工し、研削距離(mm)に対する法線研削抵抗(N)を測定した。
その結果を図5に示す。
【0038】
図5のグラフの横軸は研削距離(mm)、縦軸は垂直研削抵抗(N)である。
図5に示すように、実施例1では、研削距離400mmまでは法線研削抵抗が低く抑えられており、エア供給の効果が見られた。しかしながら、実施例2では、エア供給を行わなかったため、加工当初から目詰まりし、法線研削抵抗が高くなった。
【0039】
また、実施例3では、砥粒集中度が50であったため、研削距離にかかわらず、垂直研削抵抗が低く抑えられた。
また、実施例4、5では、気孔率が60%と大きいため、研削距離にかかわらず、垂直研削抵抗がより低く抑えられ、目詰まりも抑制することができた。
以上により本発明を用いた砥石は、従来の気孔のない砥石と比べ数倍の寿命を持っていると認められる。
【0040】
(実験2)
実験2では、気孔率60%のポーラスメタルボンド砥石を作製し、図2に示した構成でCFRP研削加工を実施した後、電子顕微鏡により表面の状態を観察した。
具体的には、図6(a)に示すポーラスメタルボンド砥石は、青銅(Cu―10Sn)を22.6vol%、スペーサーにNaClを60vol%、ダイヤモンド砥粒を17.4vol%の割合で混合し、成形体を形成した。その後、前記成形体を仮焼結温度650℃として、本焼結を行わず、気孔率60%、砥粒の集中度50のポーラスメタルボンド砥石を作製した。
一方、図6(b)に示すポーラスメタルボンド砥石は、青銅(Cu―10Sn)を22.6vol%、スペーサーにNaClを60vol%、ダイヤモンド砥粒を17.4vol%の割合で混合し、成形体を形成した。その後、前記成形体を仮焼結温度650℃として、本焼結温度を750℃として、気孔率60%、砥粒の集中度50のポーラスメタルボンド砥石を作製した。
【0041】
そして、それぞれの砥石について、CFRP研削を行った。加工の研削条件は、縦横50mm、厚さ5mmのCFRP積層板をワークとし、砥石周速度188m/min、送り速度200mm/min、切り込み0.5mmとした。加工パス数は、20パスとした。
その結果を図6に示す。尚、図6(a)に脱塩後の再焼結処理なしの場合の顕微鏡写真を示し、図6(b)に脱塩後の再焼結処理ありの場合の顕微鏡写真を示す。
【0042】
図6の写真に示すように、いずれの砥石も全く目詰まりしていないことが認められた。また、図6(a)では、点線で囲った場所のような砥粒、ボンド材の脱落が見られた。一方、図6(b)では、脱落は見られず、強度の向上を確認することができた。
尚、研削加工においては、あえてボンド材の強度を落とし、切れ刃の自生を促すことで切れ味を向上させ加工ワークへのダメージを抑えることが必要な場合もある。本発明による砥石の製造方法では、ボンド材の強度を調整することができるため、様々な用途の砥石を製造することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ポーラスメタルボンド砥石
2 ポーラス体
3 砥粒
4 連通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6