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特開2022-130126回転機械評価装置、回転機械評価システム、回転機械評価装置のチューニング方法、及び、回転機械評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130126
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】回転機械評価装置、回転機械評価システム、回転機械評価装置のチューニング方法、及び、回転機械評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20220830BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G05B23/02 R
G05B23/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029114
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛志
(72)【発明者】
【氏名】手塚 宣和
【テーマコード(参考)】
2G024
3C223
【Fターム(参考)】
2G024AD05
2G024AD23
2G024BA12
2G024BA21
2G024BA22
2G024BA27
2G024CA11
2G024CA17
2G024CA30
2G024DA09
2G024DA16
2G024FA01
3C223AA17
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF05
3C223FF22
3C223GG01
(57)【要約】
【課題】回転機械の運転中に評価値をリアルタイム且つ精度よく監視する。
【解決手段】回転機械の評価は、回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出し、回転機械の運転中に、縮退モデルに基づいて、当該計測された境界条件に対応する評価値を算出することにより行われる。縮退モデルは、回転機械の伝熱モデル及び構造モデルを含み、且つ、境界条件に対応する回転機械の評価値を予測するための予測モデルに基づいて作成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出するための境界条件算出部と、
前記境界条件に対応する前記回転機械の評価値を予測するために前記回転機械の伝熱モデル及び構造モデルを含んで構成される予測モデルに基づいて作成された縮退モデルを記憶するための記憶部と、
前記回転機械の運転中に、前記縮退モデルに基づいて、前記境界条件算出部で算出された前記境界条件に対応する前記評価値を算出するための評価値算出部と、
を備える、回転機械評価装置。
【請求項2】
前記縮退モデルは、前記予測モデルに含まれる積分式における積分点を低減することにより作成される、請求項1に記載の回転機械評価装置。
【請求項3】
前記予測モデルは、伝熱方程式、変形構成式、力のつり合い方程式、及び、損傷発展式を含み、
前記縮退モデルは、前記予測モデルのうち前記伝熱方程式又は前記力のつり合い方程式に含まれる少なくとも1つの項をPODガラーキン射影することにより作成される、請求項1又は2に記載の回転機械評価装置。
【請求項4】
前記評価値は、前記回転機械に生じる応力、又は、前記応力に基づいて算出される前記回転機械の損傷を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の回転機械評価装置。
【請求項5】
前記パラメータの前記計測値を前記伝熱モデルに適用することで算出される前記回転機械の構造的指標の予測値と、前記構造的指標の実測値とが一致するように、前記伝熱モデルに含まれるパラメータを調整するパラメータ調整部を更に備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の回転機械評価装置。
【請求項6】
前記構造的指標は、前記回転機械が備える回転部材の軸方向に沿った伸び量である、請求項5に記載の回転機械評価装置。
【請求項7】
前記パラメータ調整部は、前記回転機械の運転モードに応じて選択される熱伝達率に関するパラメータを調整する、請求項5又は6に記載の回転機械評価装置。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項の回転機械評価装置をチューニングするための回転機械評価装置のチューニング方法であって、
前記パラメータの前記計測値を前記伝熱モデルに適用することで算出される前記回転機械の構造的指標の予測値と、前記構造的指標の実測値とが一致するように、前記伝熱モデルに含まれるパラメータを調整する、回転機械評価装置のチューニング方法。
【請求項9】
前記構造的指標は、前記回転機械が備える回転部材の軸方向に沿った伸び量である、請求項8に記載の回転機械評価装置のチューニング方法。
【請求項10】
前記回転機械の運転モードに応じて選択される熱伝達率に関するパラメータを調整する、請求項8又は9に記載の回転機械評価装置。
【請求項11】
回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出する工程と、
前記回転機械の運転中に、縮退モデルに基づいて、前記計測された境界条件に対応する評価値を算出する工程と、
を備え、
前記縮退モデルは、前記境界条件に対応する前記回転機械の評価値を予測するために前記回転機械の伝熱モデル及び構造モデルを含んで構成される予測モデルに基づいて作成される、回転機械評価方法。
【請求項12】
クライアント端末装置と、
前記クライアント端末装置と通信可能な回転機械評価装置と
を備える回転機械評価システムであって、
前記クライアント端末装置は、
前記回転機械評価装置へ回転機械の評価を要求するための要求手段を、
備え、
前記回転機械評価装置は、
前記要求手段による要求がなされると、前記回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出するための境界条件算出部と、
前記境界条件に対応する前記回転機械の評価値を予測するために前記回転機械の伝熱モデル及び構造モデルを含んで構成される予測モデルに基づいて作成された縮退モデルを記憶するための記憶部と、
前記回転機械の運転中に、前記縮退モデルに基づいて、前記境界条件算出部で算出された前記境界条件に対応する前記評価値を算出するための評価値算出部と、
を備える、回転機械評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械評価装置、回転機械評価システム、回転機械評価装置のチューニング方法、及び、回転機械評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気、ガスのような高温流体を取り扱うタービン等の回転機械では、その内部に熱応力が発生する。このような熱応力は、回転機械の構成部材に損傷をもたらす要因となり、寿命に影響を与える。そのため、熱応力や損傷は、回転機械の寿命を評価するための評価値として有用であり、回転機械の運用上、監視項目として留意する必要がある。
【0003】
このような評価値を求めるための一手法として、例えば、高温流体によって回転可能なロータ(回転部材)と、ロータを回転可能に支持する車室(静止部材)とを備える回転機械では、車室に設置された温度センサの計測結果を、予め用意された径方向一次元の伝熱・構造ロータモデルの表面温度条件として入力することで、ロータ内部の温度や熱応力を求めることができる。また他の手法として、有限要素法(FEM:Finit Element Method)により、回転機械の運転データや各種計測データを解析条件として、ロータの温度又は応力を評価することもできる(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-277382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した伝熱・構造ロータモデルを用いて評価値を算出する手法では、当該モデルが径方向における一次元モデルであるため、温度センサ近傍(すなわち温度センサと軸方向が略同位置)における評価値しか算出できず、また有限要素法を用いた手法に比べて評価精度が低い一方で、有限要素法を用いる手法では、伝熱・構造ロータモデルを用いる手法に比べて評価精度がよいものの、演算負荷が大きい。そのため、運転中の回転機械における評価値のリアルタイム監視への適用が難しい。
【0006】
本実施形態の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、回転機械の運転中に評価値をリアルタイム且つ精度よく監視可能な回転機械評価装置、回転機械評価システム、回転機械評価装置のチューニング方法、及び、回転機械評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の少なくとも一実施形態に係る回転機械評価装置は、上記課題を解決するために、
回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出するための境界条件算出部と、
前記境界条件に対応する前記回転機械の評価値を予測するために前記回転機械の伝熱モデル及び構造モデルを含んで構成される予測モデルに基づいて作成された縮退モデルを記憶するための記憶部と、
前記回転機械の運転中に、前記縮退モデルに基づいて、前記境界条件算出部で算出された前記境界条件に対応する前記評価値を算出するための評価値算出部と、
を備える。
【0008】
本実施形態の少なくとも一実施形態に係る回転機械評価装置のチューニング方法は、上記課題を解決するために、
回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出する工程と、
前記回転機械の運転中に、縮退モデルに基づいて、前記計測された境界条件に対応する評価値を算出する工程と、
を備え、
前記縮退モデルは、前記境界条件に対応する前記回転機械の評価値を予測するために前記回転機械の伝熱モデル及び構造モデルを含んで構成される予測モデルに基づいて作成される。
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係る回転機械評価システムは、上記課題を解決するために、
クライアント端末装置と、
前記クライアント端末装置と通信可能な回転機械評価装置と
を備える回転機械評価システムであって、
前記クライアント端末装置は、
前記回転機械評価装置へ回転機械の評価を要求するための要求手段を、
備え、
前記回転機械評価装置は、
前記要求手段による要求がなされると、前記回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出するための境界条件算出部と、
前記境界条件に対応する前記回転機械の評価値を予測するために前記回転機械の伝熱モデル及び構造モデルを含んで構成される予測モデルに基づいて作成された縮退モデルを記憶するための記憶部と、
前記回転機械の運転中に、前記縮退モデルに基づいて、前記境界条件算出部で算出された前記境界条件に対応する前記評価値を算出するための評価値算出部と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本実施形態の少なくとも一実施形態によれば、回転機械の運転中に評価値をリアルタイム且つ精度よく監視可能な回転機械評価装置、回転機械評価システム、回転機械評価装置のチューニング方法、及び、回転機械評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】回転機械の断面構造を概略的に示す模式図である。
図2】一実施形態に係る回転機械評価装置の概略構成図である。
図3】一実施形態に係る回転機械評価方法を示すフローチャートである。
図4A図2の結果出力部から出力される評価結果の一例である。
図4B図2の結果出力部から出力される評価結果の他の例である。
図5】予測モデルの概要を示す図である。
図6図5の予測モデルにおける演算フローを示す図である。
図7A】予測モデルから縮退モデルを構築する方法を説明するための図である。
図7B】予測モデルから縮退モデルを構築する方法を説明するための図である。
図7C】予測モデルから縮退モデルを構築する方法を説明するための図である。
図7D】予測モデルから縮退モデルを構築する方法を説明するための図である。
図7E】予測モデルから縮退モデルを構築する方法を説明するための図である。
図7F】予測モデルから縮退モデルを構築する方法を説明するための図である。
図8】一実施形態に係る回転機械評価装置のチューニング方法を示すフローチャートである。
図9A図8のステップS402で構造的指標として算出されるロータの伸びを示す模式図である。
図9B図8のステップS402で構造的指標として算出されるロータの伸びを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
まず幾つかの実施形態に係る回転機械評価装置又は回転機械評価方法の評価対象である回転機械について説明する。以下では回転機械の一例として高温流体によって駆動可能なタービンを説明するが、回転機械は、少なくとも一部が回転可能な部材を備える他の機器であってもよい。また本実施形態では、高温流体として蒸気を用いる蒸気タービンを例示するが、例えばガス等の他の高温流体を用いてもよい。
【0014】
図1は回転機械1の断面構造を概略的に示す模式図である。回転機械1は、作動流体として高温の蒸気を用いる蒸気タービンであり、ケーシング2(車室)と、ロータ4とを備える。ケーシング2は、ロータ4の中間部を囲む。ロータ4は、ケーシング2の両側においてラジアル軸受6によって回転可能に支持されている。
【0015】
回転機械1は軸流タービンとして構成されており、ロータ4には、ロータ4の軸方向に相互に離間して複数の動翼列8が固定されている。一方、ケーシング2には、翼環10を介して、軸方向に相互に離間した複数の静翼列12が固定されているとともに、軸方向において翼環10とは反対側にダミーリング13が固定される。ダミーリング13には冷却用のグランド蒸気が流入可能なインナーグランド15設けられている。
【0016】
翼環10とロータ4との間には筒状の内部流路14が形成され、内部流路14に動翼列8及び静翼列12が配置される。内部流路14には、ケーシング2に設けられた蒸気入口部2aが連通しており、蒸気入口部2aから供給された蒸気が内部流路14に導かれる。各動翼列8は、周方向に配列された複数の動翼(タービン動翼)からなり、各動翼は、ロータ4に対して固定されている。各静翼列12は、ロータ4の周方向に配列された複数の静翼からなり、各静翼が翼環10に対して固定されている。各静翼列12では、蒸気の流れが加速され、各動翼列8では、蒸気のエネルギがロータ4の回転エネルギに変換される。ロータ4は、例えば発電機(不図示)に接続され、ロータ4によって発電機が駆動される。
【0017】
続いて上記の回転機械1を評価するための回転機械評価装置100について説明する。図2は一実施形態に係る回転機械評価装置100の概略構成図である。
【0018】
回転機械評価装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。具体的には回転機械評価装置100は、計測値取得部102と、境界条件算出部104と、記憶部106と、評価値算出部108と、結果出力部110とを備える。
【0019】
計測値取得部102は、回転機械1の運転状態に関するパラメータの計測値を取得するための構成である。例えば、回転機械1には、回転数を計測するための回転数センサ、ロータ4に連結された発電機(不図示)の発電出力を計測するための発電出力センサ、蒸気温度を計測するための蒸気温度センサ、及び、蒸気圧力を計測するための蒸気圧力センサが配置されている。計測値取得部102は、これらのセンサからの電気的信号を受信することで、各パラメータの計測値が取得可能である。
【0020】
境界条件算出部104は、計測値取得部102で取得された計測値に基づいて、記憶部106に記憶された縮退モデルMに対して設定される境界条件を算出するための構成である。縮退モデルMは、予測モデルの本質的挙動を維持したまま次元を落とすこと(縮退化)により得られるモデルであって、解析時間やデータ容量を大幅に削減することができる。記憶部106には縮退モデルMが予め記憶されており、評価値算出部108は記憶部106から読み出した縮退モデルMに対して、境界条件算出部104で算出された境界条件を適用することで評価値の算出を行う。結果出力部110は、評価値算出部108で算出された評価値に基づく評価結果を出力するための構成である。
【0021】
続いて上記構成を有する回転機械評価装置100によって実施される回転機械評価方法について説明する。図3は一実施形態に係る回転機械評価方法を示すフローチャートである。
【0022】
回転機械1の運転中において、計測値取得部102は、回転機械1の運転状態に関するパラメータの計測値を取得する(ステップS100)。ステップS100における計測値の取得は、回転機械1の運転中において繰り返し実施される。繰り返し取得される計測値は後述する評価値の算出に逐次用いられることにより、回転機械1に対する評価値の算出をリアルタイムに行うことができる。
【0023】
続いて境界条件算出部104は、ステップS100で取得された計測値に基づいて境界条件を算出する(ステップS101)。境界条件は、評価値の算出に用いられる縮退モデルMに対応する所定の演算式によって求められる。本実施形態では、計測値としてロータ4の回転数、発電機(不図示)の発電出力、蒸気温度、蒸気圧力等が取得され、これらを所定の演算式に入力することで境界条件が算出される。
【0024】
続いて評価値算出部108は、記憶部106にアクセスすることにより記憶部106に用意された縮退モデルMを読み出し(ステップS102)、ステップS101で算出した境界条件を縮退モデルMに適用することにより評価値を算出する(ステップS103)。
【0025】
ステップS103で評価値の演算に用いられる縮退モデルMは、境界条件と評価値との相関を示す予測モデルを縮退することにより構築される。このように縮退モデルの基礎となる予測モデルは、典型的には、回転機械1の伝熱モデルと構造モデルを含んで構成される。予測モデルは例えば有限要素法によって境界条件に基づいて評価値を高精度に算出可能であるが、演算負荷が膨大であり、そのままではリアルタイムな評価値の算出に適さない。そのため、このような予測モデルを縮退することで縮退モデルMを構築することにより、演算負荷を大幅に低減し、リアルタイムな評価値の算出が可能となる。
尚、予測モデルから縮退モデルMを構築するための手法については、後に詳述することとする。
【0026】
続いて結果出力部110は、ステップS103で算出された評価値に基づいて評価結果を出力する(ステップS104)。本実施形態では、評価値としてロータ4各部における温度、応力、損傷の少なくとも一つが算出され、その時間的変化が結果出力部110から出力される。
【0027】
ここで図4A及び図4B図2の結果出力部110から出力される評価結果の例である。図4Aでは、評価値として算出されたロータ4における応力が経時的に変化する様子が出力されており、オペレータはこれを参照することで応力のリアルタイム監視が可能である。また図4Aでは、塑性変形が生じる閾値(耐力)が破線で示されており、時刻t1~t2において評価結果である応力が閾値を上回ることで塑性変形が生じるおそれがあることが示されている。
【0028】
図4Bでは、評価値として算出されたロータ4の応力からクリープ損傷Dc及び疲労損傷Dfを求め、回転機械1の運転点が時間とともに遷移する様子が示されている。この例では、回転機械1が正常に運転可能な領域Aと、異常が発生する可能性が高い領域Bとが境界ラインLによって仕切られており、回転機械1の運転時間が経過するに従って、運転点が領域Aから領域Bに近づく様子が示されている。
【0029】
このような回転機械1のリアルタイム評価は、前述したように、評価値の算出に縮退モデルMを用いることにより達成可能である。ここで基礎となる予測モデルmから縮退モデルMを構築するための方法について詳しく説明する。図5は予測モデルmの概要を示す図であり、図6図5の予測モデルmにおける演算フローを示す図である。
【0030】
図5に示すように、予測モデルmは伝熱モデルm1及び構造モデルm2を含む。この例の予測モデルmは、伝熱モデルm1として伝熱方程式C1を有するとともに、構造モデルm2として変形構成式C2、力のつり合い方程式C3及び損傷発展式C4を有する。このような予測モデルmでは、損傷FEM解析において、伝熱方程式C1、変形構成式C2、力のつり合い方程式C3、及び、損傷発展式C4を計算し、温度、応力、塑性歪み、損傷の時間発展を求める。尚、変形構成式C2、力のつり合い方程式C3及び損傷発展式C4を連立して解く方法と、非連立で解く方法とがあるが、いずれも縮退モデルの構築方法は同じであるため、ここで計算負荷がより小さい、非連立で解く方法について説明する。
【0031】
予測モデルmでは、図6に示すように、まず伝熱方程式C1によって温度(又は熱負荷)が算出される(ステップS200)。続いて変形構成式C2には、伝熱方程式C1で算出された温度(又は熱負荷)とともに、力のつり合い方程式C3で算出された応力(又は変位)が入力され、塑性歪みが算出される(ステップS201)。力のつり合い方程式C3では、変形構成式C2で算出された塑性歪みが入力されることで応力(又は変位)が算出される(ステップS202)。ステップS201及びS202は、変形構成式C2及び力のつり合い方程式C3が同時成立する塑性歪み、及び、応力(又は変位)が見つかるまで繰り返し行われる。
【0032】
そして、ある時刻に関するステップS200~S202の演算が完了すると、次時刻について同様の演算が行われる。このような演算の繰り返しは、回転機械が起動から停止するまでの1サイクル分行われる。1サイクル分の演算が完了すると(ステップS203)、ステップS200で算出された温度(又は熱負荷)、ステップS201で算出された塑性歪み、ステップS202で算出された応力(又は変位)の1サイクル分を用意し、損傷発展式C4に入力される。損傷発展式C4は、用意された1ステップ分の温度(又は熱負荷)、応力(又は変位)及び塑性歪みに基づいて、損傷がどのように発展するかを算出する(ステップS204)。本実施形態では、ステップS205の算出結果として、1サイクルが経過した際の疲労損傷Df及びクリープ損傷Dcが得られる(ステップS205)。
【0033】
続いて、このような予測モデルmを縮退することにより縮退モデルMを構築する方法について説明する。
まず予測モデルmに含まれる伝熱方程式C1は、図7Aに示すように、回転機械1が熱伝達面S、輻射面S及び体積Vを有すると仮定すると、次式により表される。
式(1)のうち左辺第1項は熱容量項であり、左辺第2項は熱伝導項であり、右辺第1項は熱伝達項であり、右辺第2項は輻射項である。尚、T:温度、Tg:流体温度(蒸気やガスの温度)、ρ:密度、c:比熱、κ:熱伝導率、HTC:熱伝達率、J:入射熱流束、G:射度、δT:温度の変分、S:面積を示す。
【0034】
ここで式(1)の熱伝達項(右辺第2項)は、図7Bに示すように、図7Aの熱伝達面SがNHTC個の分割面S 、S 、・・・、S NHTCから構成されるとみなすと、以下のように示すことができる。
【0035】
また式(1)の輻射項(右辺第2項)は、図7Cに示すように、図7Aの輻射面SがNRD個の分割面のペア,(S 2,s、S 2,m),(S 2,s、S 2,m)・・・、(SNRD 2,s、SNRD 2,m)、から構成されるとみなすと、以下のように示すことができる。
ここで輻射熱QIは、A 2、S、A 2、m:分割面SI 2,s、SI 2,mの面積を用いて、次式で表される。
尚、σ:ステファンボルツマン定数、e1 ,S、e2, :放射率である。
【0036】
そして上記の式(1)~式(3)から、有限要素法による空間離散化式は次式となる。
ここで、T:N次元節点温度ベクトル、T*4:節点温度ベクトルの各成分を4乗したN次元ベクトル、C,K,M,R:離散化により生じるN×N行列、E:離散化で生じるN次元ベクトルである。
【0037】
一般的にM×S行列Xに、N次の打切り特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)を適用すると、図7Dのように近似的に分解される。式(5)を解くことで得られる節点温度ベクトルの集合をT(i=1、・・・)、X=[T、T、・・・]にNh次打切りSVDを適用した場合のN×Nh行列UをU、X=[T*4 、T*4 、・・・]にN次打切りSVDを適用した場合のN×N行列UをWとすると、式(5)の熱容量項、熱伝導項、熱伝達項のPODガラーキン射影は、それぞれ次式となる。
尚、φ:縮退温度(U T)である。
また式(5)の輻射項に、DEIM(Discrete Empirical Interpolation Method)を適用すると次式となる。
ここでPは、各列が基本単位ベクトルN×Nq行列である。
【0038】
従って(6-1)~(6-4)を式(5)の各項に適用することにより、縮退された伝熱方程式C1は次式として得られる。
【0039】
続いて予測モデルmに含まれる変形構成式C2は、例えば、Norton則を用いた次式を用いることができる。
【0040】
続いて予測モデルmに含まれる力のつり合い方程式C3は、次式により表される。
ここでσ:応力テンソル、p:圧力、n:法線ベクトル、ρ:密度、ω:角速度、F:使用している角速度の単位系でω=1の時の遠心力、α:線膨張係数テンソル、T:温度、T:熱歪みが0になる温度、δu:仮想変位、δε:仮想歪みテンソルである。
尚、力のつり合い方程式C3では、実際には、上式と拘束条件から変位を計算するが、ここでは説明の簡略化のために、拘束条件は暗に考慮されているものとする。
【0041】
このような力のつり合い方程式C3は、例えば図7Eに示すように、積分点低減法による縮退が可能である。式(14-1)~式(14-9)、式(15)に有限要素法を適用し、複数の解析ケースで、応力σ及び変位uを求めるとともに、変位uを仮想変位δuとみなし、仮想歪みを求める(ステップS300)。
【0042】
続いて有限要素の積分点の集合p(i=1、…、Nqp)、低減積分点の数Cを想定し、C=1に設定する(ステップS301)。そして積分点の集合pの中から、C個の積分点を選び、それらをqとするとともに、qの正値の重みをwとする(ステップS302)。これにより、内力の仮想仕事は次式で近似される。
【0043】
続いて学習データセットσ及びδεの全組合せに対して、上式の近似精度が最良となる「C個の積分点の選び方」及び「その重み」を求める(ステップS303)。ステップS303で得られた最適解による近似精度が十分である、又は、Cが事前の決めた自然数に到達した場合(ステップS304:YES)、これを最終解とする(ステップS305)。一方で、いずれの条件も満たさない場合(ステップS304:NO)、積分点の個数を1つ増加させ(C←C+1)、処理をステップS302に戻す。
【0044】
これにより、図7Fに示すように、応力・歪みの事前計算結果(複数)より,少数の点で精度良く数値積分が可能な積分点を求めることができる。
【0045】
前述の式(15)に示す力のつり合い方程式C3は、有限要素法により離散化するとともに、内力による仮想仕事にのみ低減した積分点を用いて数値積分すると次式として表される。
式(17)では左辺が内力項であり、右辺第1項が熱荷重項であり、右辺第2項が遠心力項であり、右辺第3項が圧力項である。尚、u:O次元節点変位ベクトル、T:N次元節点温度ベクトル、T:熱歪みが0となるN次元節点温度ベクトル、ω:角速度、p:圧力、Π:M×M行列、Θ:M×N行列、Λ及びΓ:M次元ベクトルである。
【0046】
式(17)を解くことで得られる節点変位ベクトルの集合をu(i=1、・・・)、X=[u、u、・・・]にN次打切りSVDを適用した場合のN×N行列UをU
とする。この時,式(17)の各項のPODガラーキン射影は、それぞれ次式となる。
尚、φsは縮退変位(=U u)であり、φh,0=U である。
【0047】
従って(18-1)~(18-4)を式(17)の各項に適用することにより、縮退された力のつり合い方程式C3は、次式として得られる。
【0048】
以上の縮退モデルMにより,縮退温度φ、縮退変位φ及び低減積分点での応力の値をそれぞれ得ることができる。温度と変位は、次式によって求めることができる。
また応力に関しては、データ欠損部を修復する手法であるGappyPODを用いて,低減積分点の応力値から、それ以外の積分点応力値を復元することで、応力場全体を求めることができる。
【0049】
本実施形態に係る回転機械評価装置100では、このように予測モデルmから構築された縮退モデルMを用いて評価値の算出を行うことで、予測モデルmを用いる場合に比べて演算負荷を大幅に低減することができる。その結果、回転機械1の運転中に取得される計測値に基づいて評価値を迅速に算出し、リアルタイムな回転機械1の監視が可能となる。
【0050】
上述したように、縮退モデルMは予測モデルmに基づいて構築される。幾つかの実施形態に係る回転機械評価装置100では、基礎となる予測モデルmをチューニングすることによって縮退モデルMによる評価値の算出精度を向上させてもよい。予測モデルmのチューニングは、予測モデルmのうち伝熱モデルm1に含まれるパラメータを調整することにより行われる。
【0051】
尚、図2に示す回転機械評価装置100では、このような予測モデルmのチューニングを実施するためのパラメータ調整部114を備える。本実施形態では、回転機械評価装置100の構成の一部としてパラメータ調整部114を備えており、所定のタイミングでパラメータ調整部114によって、予測モデルmがチューニングされることで記憶部106に記憶された縮退モデルMの精度向上が行われるようになっている。また他の実施形態では、回転機械評価装置100は、このようなパラメータ調整部114を備えず、例えばオペレータによって予測モデルmのチューニングを行うことで、予測モデルmに基づいて構築される縮退モデルMを更新することで評価精度を向上するようにしてもよい。
【0052】
図8は一実施形態に係る回転機械評価装置100のチューニング方法を示すフローチャートである。
【0053】
まずパラメータ調整部114は、回転機械1から運転状態に関する計測値を取得する(ステップS400)。ステップS400における計測値の取得は、前述した計測値取得部102による計測値の取得と同様である。続いてパラメータ調整部114は、ステップS400で取得した計測値を、チューニング対象である予測モデルmの伝熱モデルm1に適用することにより伝熱解析を実施し(ステップS401)、構造的指標(推定値)を算出する(ステップS402)。本実施形態では、構造的指標としてロータ4の伸びを採用するが、他のパラメータでもよい。
【0054】
続いてパラメータ調整部114は、ステップS402で算出された構造的指標の実測値を取得する(ステップS403)。構造的指標の実測値は、ステップS400において他のパラメータとともに取得したものを使用してもよい。本実施形態では、ステップS402において算出されるロータ4の伸びの実測値が取得される。
【0055】
図9A及び図9B図8のステップS402で構造的指標として算出されるロータ4の伸びを示す模式図である。図9Aでは、ロータ4の一端がケーシング2に対して固定されており、他端における伸びが構造的指標とされる。この場合、伸びの実測値は、例えば、ケーシング2の内表面に設置された光学的センサによってロータ4の他端までの相対的距離R1を計測するとともに、他のセンサによって計測されるケーシング2の伸びr1を減算することでロータ4の伸びの実測値R(=R1-r1)を取得することができる。
【0056】
また図9Bでは、ロータ4の両端がともに固定されていない場合に、ケーシング2の内表面に設置された光学的センサによってロータ4の各端までの相対的距離R1、R2を計測するとともに、他のセンサによって計測されるケーシング2の伸びr1、r2を計測することでロータ4の伸びの実測値R(=(R1-r1)+(R2-r2)/2)を取得することができる。
【0057】
続いてパラメータ調整部114は、ステップS402で算出した伸び(推定値)と、ステップS403で取得した伸びの実測値との差分ΔRが許容値以内であるか否かを判定する(ステップS404)。差分ΔRが許容値を超える場合(ステップS404:NO)、パラメータ調整部114は伝熱モデルm1に含まれるパラメータを変更する(ステップS405)。ステップS405におけるパラメータの変更は、例えば最適化アルゴリズム等を用いて自動化することもできる。
【0058】
ここでステップS405におけるパラメータの変更パターンについて、幾つか例を説明する。1つ目の例としては、伝熱モデルm1に含まれる蒸気温度条件に関するパラメータを変更することができる。蒸気温度条件のチューニングは、例えば、蒸気温度の計測値から行うことができる。例えば、有効な蒸気温度の計測箇所としては、(i)翼環10とダミーリング14に関しては、蒸気入口部2aや、ロータ4に溶接部が有る場合には溶接部の近傍、(ii)翼環10とロータ4との間にある静翼列12を構成する静翼先端、又は、(iii)インナーグランド15が挙げられる。
【0059】
2つ目の例としては、伝熱モデルm1に含まれる熱伝達率に関するパラメータを変更することができる。回転機械1における熱伝達率は、回転機械1の運転状態と密接な関係があり、例えば回転機械1が起動状態にある場合、熱伝達率αは以下の式で表される。
尚、αrate:定格での熱伝達率評価値、Prate:定格での圧力評価値、P:圧力評価値、n:指数である。
また回転機械1が停止状態(内部流路14が真空に近い圧力)にある場合、熱伝達率αは以下の式で表される。
尚、αvacuum:真空での熱伝達率評価値である。
また回転機械1が停止状態(内部流路14に空気が流入し真空破壊)にある場合、熱伝達率αは以下の式で表される。
尚、αair:真空破壊での熱伝達率評価値である。
この場合、パラメータ調整部114は、式(24-1)~式(24-3)に含まれるパラメータα1~α3を調整対象にすることができる。
【0060】
【0061】
そして処理をステップS401に戻し、パラメータが変更された伝熱モデルm1を用いて伝熱解析が再び実施される。このような繰り返しは、差分ΔRが許容値以内になるまで繰り返される。すなわち構造的指標の予測値と、構造的指標の実測値とが一致するように、伝熱モデルm1に含まれるパラメータが調整される。
【0062】
そして差分ΔRが許容値以内になると(ステップS404:YES)、ステップS405でパラメータが変更された伝熱モデルm1を含む予測FEMモデルmを再度縮退し(ステップS406)、記憶部106に記憶された縮退モデルMを更新する(ステップS407)。
【0063】
このように予測モデルmをチューニングすることで縮退モデルMを更新することにより、縮退モデルMを用いた評価精度を向上できる。
【0064】
本実施形態では、回転機械評価装置100について説明を行ったが、このような構成にとどまることなく、回転機械評価装置100と通信可能なクライアント端末装置(不図示)において、ステップS104における評価結果を出力する構成としてもよい。
また、クライアント端末装置から回転機械を評価する要求に応じて、図3に示す回転機械評価方法や図8に示すチューニング方法を示すフローチャートにおける処理を実行してもよい。
さらに、前述のオペレータはクライアント端末装置に対して、予測モデルmのチューニングの指示入力を行う構成としてもよい。
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0065】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0066】
(1)一態様に係る回転機械評価装置(例えば上記実施形態の回転機械評価装置100)は、
回転機械(例えば上記実施形態の回転機械1)の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出するための境界条件算出部(例えば上記実施形態の境界条件算出部104)と、
前記境界条件に対応する前記回転機械の評価値を予測するために前記回転機械の伝熱モデル(例えば上記実施形態の伝熱モデルm1)及び構造モデル(例えば上記実施形態の構造モデルm2)を含んで構成される予測モデル(例えば上記実施形態の予測モデルm)に基づいて作成された縮退モデル(例えば上記実施形態の縮退モデルM)を記憶するための記憶部(例えば上記実施形態の記憶部106)と、
前記回転機械の運転中に、前記縮退モデルに基づいて、前記境界条件算出部で算出された前記境界条件に対応する前記評価値を算出するための評価値算出部(例えば上記実施形態の評価値算出部108)と、
を備える。
【0067】
上記(1)の態様によれば、縮退モデルに基づいて、回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値から算出される境界条件に対応する評価値の算出が行われる。縮退モデルは、予測モデルを縮退することにより作成され、大幅な演算負荷の低減が可能であるため、回転機械の運転中において評価値を精度よく、且つ、迅速に算出できる。これにより、オペレータは回転機械の運転中に評価値のリアルタイム監視が可能となる。
【0068】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記縮退モデルは、前記予測モデルに含まれる積分式における積分点を低減することにより作成される。
【0069】
上記(2)の態様によれば、予測モデルに積分点低減法を適用することにより、良好な精度で評価値を算出でき、且つ、演算負荷が少ない縮退モデルを好適に作成できる。
【0070】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記予測モデルは、伝熱方程式(例えば上記実施形態の伝熱方程式C1)、変形構成式(例えば上記実施形態の変形構成式C2)、力のつり合い方程式(例えば上記実施形態の力のつり合い方程式C3)、及び、損傷発展式(例えば上記実施形態の損傷発展式C4)を含み、
前記縮退モデルは、前記予測モデルのうち前記伝熱方程式又は前記力のつり合い方程式に含まれる少なくとも1つの項をPODガラーキン射影することにより作成される。
【0071】
上記(3)の態様によれば、予測モデルに含まれる伝熱方程式又は力のつり合い方程式の少なくとも一部にPODガラーキン射影を適用することにより、良好な精度で評価値を算出でき、且つ、演算負荷が少ない縮退モデルを好適に作成できる。
【0072】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記評価値は、前記回転機械に生じる応力、又は、前記応力に基づいて算出される前記回転機械の損傷を含む。
【0073】
上記(4)の態様によれば、評価値として応力又は損傷を求めることで、回転機械の余寿命診断に必要な情報を精度よく得ることができる。
【0074】
(5)他の態様では、上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記パラメータの前記計測値を前記伝熱モデルに適用することで算出される前記回転機械の構造的指標の予測値と、前記構造的指標の実測値とが一致するように、前記伝熱モデルに含まれるパラメータを調整するパラメータ調整部(例えば上記実施形態のパラメータ調整部114)を更に備える。
【0075】
上記(5)の態様によれば、伝熱モデルに含まれるパラメータが、当該パラメータから求められる構造的指標の予測値と実測値とが一致するように調整(チューニング)される。これにより伝熱モデルの精度を向上でき、その結果、当該伝熱モデルを含む予測モデルから構築される縮退モデルによる評価値の算出精度も効果的に向上できる。
【0076】
(6)他の態様では、上記(5)の態様において、
前記構造的指標は、前記回転機械が備える回転部材(例えば上記実施形態のロータ4)の軸方向に沿った伸び量である。
【0077】
上記(6)の態様によれば、チューニング実施時に用いられる構造的指標として、回転機械の回転部材(例えばタービンロータなど)の軸方向に沿った伸び量を採用することで、上記のパラメータの調整を好適に行うことができる。
【0078】
(7)他の態様では、上記(5)又は(6)の態様において、
前記パラメータ調整部は、前記回転機械の運転モードに応じて選択される熱伝達率に関するパラメータを調整する。
【0079】
上記(7)の態様によれば、運転モードに対応して調整対象とするパラメータを選択することで、回転機械の運転状態に関する評価値をより精度よく算出可能な縮退モデルを構築することができる。
【0080】
(8)一態様に係る回転機械評価装置のチューニング方法は、
上記(1)から(4)のいずれか一態様に係る回転機械評価装置をチューニングするための回転機械評価装置のチューニング方法であって、
前記パラメータの前記計測値を前記伝熱モデルに適用することで算出される前記回転機械の構造的指標の予測値と、前記構造的指標の実測値とが一致するように、前記伝熱モデルに含まれるパラメータを調整する。
【0081】
上記(8)の態様によれば、伝熱モデルに含まれるパラメータが、当該パラメータから求められる構造的指標の予測値と実測値とが一致するように調整(チューニング)される。これにより伝熱モデルの精度を向上でき、その結果、当該伝熱モデルを含む予測モデルから構築される縮退モデルによる評価値の算出精度も効果的に向上できる。
【0082】
(9)他の態様では、上記(8)の態様において、
前記構造的指標は、前記回転機械が備える回転部材(例えば上記実施形態のロータ4)の軸方向に沿った伸び量である。
【0083】
上記(9)の態様によれば、チュージング実施時に用いられる構造的指標として、回転機械の回転部材(例えばタービンロータなど)の軸方向に沿った伸び量を採用することで、上記のパラメータの調整を好適に行うことができる。
【0084】
(10)他の態様では、上記(8)又は(9)の態様において、
前記回転機械の運転モードに応じて選択される熱伝達率に関するパラメータを調整する。
【0085】
上記(10)の態様によれば、運転モードに対応して調整対象とするパラメータを選択することで、回転機械の運転状態に関する評価値をより精度よく算出可能な縮退モデルを構築することができる。
【0086】
(11)一態様に係る回転機械評価方法は、
回転機械(例えば上記実施形態の回転機械1)の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出する工程と、
前記回転機械の運転中に、縮退モデル(例えば上記実施形態の縮退モデルM)に基づいて、前記計測された境界条件に対応する評価値を算出する工程と、
を備え、
前記縮退モデルは、前記境界条件に対応する前記回転機械の評価値を予測するために前記回転機械の伝熱モデル(例えば上記実施形態の伝熱モデルm1)及び構造モデル(例えば上記実施形態の構造モデルm2)を含んで構成される予測モデル(例えば上記実施形態の予測モデルm)に基づいて作成される。
【0087】
上記(11)の態様によれば、縮退モデルに基づいて、回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値から算出される境界条件に対応する評価値の算出が行われる。縮退モデルは、予測モデルを縮退することにより作成され、大幅な演算負荷の低減が可能であるため、回転機械の運転中において評価値を精度よく、且つ、迅速に算出できる。これにより、オペレータは回転機械の運転中に評価値のリアルタイム監視が可能となる。
【0088】
(12)一態様に係る回転機械評価システムは、
クライアント端末装置と、
前記クライアント端末装置と通信可能な回転機械評価装置と
を備える回転機械評価システムであって、
前記クライアント端末装置は、
前記回転機械評価装置へ回転機械の評価を要求するための要求手段を、
備え、
前記回転機械評価装置は、
前記要求手段による要求がなされると、前記回転機械の運転状態に関するパラメータの計測値に基づいて境界条件を算出するための境界条件算出部(例えば上記実施形態の境界条件算出部104)と、
前記境界条件に対応する前記回転機械の評価値を予測するために前記回転機械の伝熱モデル(例えば上記実施形態の伝熱モデルm1)及び構造モデル(例えば上記実施形態の構造モデルm2)を含んで構成される予測モデル(例えば上記実施形態の予測モデルm)に基づいて作成された縮退モデル(例えば上記実施形態の縮退モデルM)を記憶するための記憶部(例えば上記実施形態の記憶部106)と、
前記回転機械の運転中に、前記縮退モデルに基づいて、前記境界条件算出部で算出された前記境界条件に対応する前記評価値を算出するための評価値算出部(例えば上記実施形態の評価値算出部108)と、
を備える。
【0089】
上記(12)の態様によれば、回転機械評価システムは、互いに通信可能なクライアント端末装置と回転機械評価装置とを備える。これにより、クライアント端末装置と回転機械評価装置とが互いに離れた位置に配置された場合においても、クライアント端末が備える要求手段による要求に応じて、回転機械評価装置において、前述の回転機器の評価を行うことができる。
【符号の説明】
【0090】
1 回転機械
2 ケーシング
2a 蒸気入口部
4 ロータ
6 ラジアル軸受
8 動翼列
10 翼環
12 静翼列
13 ダミーリング
14 内部流路
15 インナーグランド
100 回転機械評価装置
102 計測値取得部
104 境界条件算出部
106 記憶部
108 評価値算出部
110 結果出力部
Dc クリープ損傷
Df 疲労損傷
M 縮退モデル
m 予測モデル
m1 伝熱モデル
m2 構造モデル
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8
図9A
図9B