IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ WaveArrays株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人神戸大学の特許一覧

<>
  • 特開-レーダ装置 図1
  • 特開-レーダ装置 図2
  • 特開-レーダ装置 図3
  • 特開-レーダ装置 図4
  • 特開-レーダ装置 図5
  • 特開-レーダ装置 図6
  • 特開-レーダ装置 図7
  • 特開-レーダ装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130155
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20220830BHJP
   H01Q 3/36 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
G01S7/02 216
H01Q3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029167
(22)【出願日】2021-02-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、情報通信分野における研究開発委託事業(戦略的情報通信研究開発推進事業)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】520503175
【氏名又は名称】WaveArrays株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】賀谷 信幸
(72)【発明者】
【氏名】仁田 功一
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA06
5J021AA11
5J021DB03
5J021FA06
5J021FA17
5J021FA26
5J021FA29
5J021FA32
5J021GA02
5J021HA04
5J070AB17
5J070AD05
5J070AD10
5J070AG08
5J070AH34
5J070AK01
5J070BE01
(57)【要約】
【課題】位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供する。
【解決手段】本発明のレーダ装置1は、電波と電気信号とを互いに変換可能な複数のアンテナ4と、コントローラ2と、を備え、コントローラ2は、少なくとも1以上のアンテナ4が電波を送信する処理と、電波が観測対象Oに入射することによって生じた反射波を複数のアンテナ4のうち少なくとも1以上のアンテナ4が電気信号にそれぞれ変換する処理と、所定の位相パターンに基づいて電気信号それぞれの位相を制御する処理と、位相が制御された電気信号それぞれが合成された合成信号に基づいて生成されたデジタル信号を取得する処理と、所定の位相パターン、デジタル信号の時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて観測対象Oを探知する処理と、を実行可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波と電気信号とを互いに変換可能な複数のアンテナと、コントローラと、を備え、
前記コントローラは、
少なくとも1以上の前記アンテナが電波を送信する処理と、
前記電波が観測対象に入射することによって生じた反射波を前記複数のアンテナのうち少なくとも1以上の前記アンテナが前記電気信号にそれぞれ変換する処理と、
所定の位相パターンに基づいて前記電気信号それぞれの位相を制御する処理と、
前記位相が制御された電気信号それぞれが合成された合成信号に基づいて生成されたデジタル信号を取得する処理と、
前記所定の位相パターン、前記デジタル信号の時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて前記観測対象を探知する処理と、
を実行可能である、レーダ装置。
【請求項2】
前記反射波を前記電気信号に変換する処理は、前記反射波を前記複数のアンテナのうち少なくとも2以上の前記アンテナが前記電気信号にそれぞれ変換する処理を含む、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記所定の位相パターンは、前記反射波を変換する2以上の前記アンテナが指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンを含む、請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記所定の位相パターンは、前記電気信号それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記所定の位相パターンと前記時系列情報とに基づいて前記所定のニューラルネットワークに前記観測対象の探知を機械学習させる処理をさらに実行可能である、請求項1から4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記送信する処理は、少なくとも2以上の前記アンテナのそれぞれが前記電波を送信する処理を含み、
前記送信する処理で送信される電波は、特定の位相パターンに基づいて位相が制御された電波を含み、
前記探知する処理は、前記特定の位相パターン、前記所定の位相パターン、前記時系列情報、及び前記所定のニューラルネットワークを用いて前記観測対象を探知する処理を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記特定の位相パターンは、前記電波を送信する2以上の前記アンテナが指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンを含む、請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記特定の位相パターンは、前記電波それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンを含む、請求項6又は7に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記コントローラは、前記特定の位相パターンと前記所定の位相パターンと前記時系列情報とに基づいて前記所定のニューラルネットワークに前記観測対象の探知を機械学習させる処理をさらに実行可能である、請求項6から8のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置において、複数のアンテナ素子を配列したアレイアンテナが利用されている。アレイアンテナのアンテナ素子において送受信する電波の位相を電気的に制御可能に構成することにより、アレイアンテナは、送受信する電波の位相を電気的に制御することによってアレイアンテナが指向する向きを変更する処理を実行可能なフェイズドアレイアンテナとして利用できる。
【0003】
フェイズドアレイアンテナを用いたレーダ装置は、電気的な制御によってアンテナを指向させることができるため、アンテナを機械的に回転等させることなく、アンテナが指向する向きを制御し得る。アンテナを機械的に回転等させることがないため、フェイズドアレイアンテナを用いたレーダ装置は、アンテナを機械的に回転等させるレーダ装置より短い時間で、アンテナが指向する向きを変更し得る。したがって、フェイズドアレイアンテナを用いたレーダ装置は、アンテナを機械的に回転等させるレーダ装置より短い時間で、広い方位範囲にある観測対象を探知し得る。
【0004】
フェイズドアレイアンテナを用いたレーダ装置では、電波の位相を制御することによって、アンテナが指向する向き及び/又はアンテナの指向性に関する形状等によって例示されるアンテナの特性を変更し得る。アンテナの特性を変更することにより、アンテナが観測対象に向けて送信するレーダ電波の電界強度をより強くし得る。これにより、観測対象にレーダ電波をより確実に到達させ得る。アンテナの特性を変更することにより、レーダ電波が観測対象に入射することによって生じた反射波をアンテナにおいて電気信号に変換する効率を高め得る。これにより、反射波をより確実に電気信号に変換し得る。そして、この電気信号を用いて、観測対象を探知し得る。したがって、フェイズドアレイアンテナを用いたレーダ装置では、電波の位相を制御する位相パターンを適切に定めることにより、より確実に観測対象を探知し得る。
【0005】
フェイズドアレイアンテナを用いたレーダ装置における位相パターンに関する工夫の例として、非特許文献1は、ポールアンテナを円錐状の向きに指向させる位相パターンを用いるフェイズドアレイアンテナを開示している。非特許文献1のアンテナを用いてレーダ装置を構成することにより、円錐状の範囲にある観測対象を探知し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】賀谷 信幸(Nobuyuki Kaya)、人工衛星のためのアクティブフェイズドアレイアンテナを用いた新しい受信地上アンテナ(NEW RECEIVING GROUND ANTENNA USING ACTIVE PHASED ARRAY ANTENNA FOR SATELLITES)、「第67回国際宇宙会議(IAC 2016)予稿集」(In proceedings of "67th International Astronautical Congress(IAC 2016)")、2016年、p.3159-3162.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アンテナが指向する向き及び/又はアンテナの指向性に関する形状を時間に応じて変化させる位相パターンを定めることにより、広い方位範囲にある観測対象を探知し得る。非特許文献1は、アンテナが指向する向き及び/又はアンテナの指向性に関する形状を時間に応じて変化させる位相パターンを有するレーダ装置を構成する点において、さらなる改良の余地がある。
【0008】
アンテナが指向する向き及び/又はアンテナの指向性に関する形状を時間に応じて変化させる位相パターンを用いる場合、時間に応じて反射波に関する電気信号が変化し得る。変化する電気信号であっても、より長い時間における時系列情報を解析すれば、より確実に観測対象を探知し得る。しかし、電気信号の時系列情報が比較的短い時間における電気信号の時系列情報である場合、該時系列情報を解析して観測対象を探知することは、容易ではない。したがって、非特許文献1は、比較的短い時間における電気信号の時系列情報を解析して観測対象を探知する点においても、さらなる改良の余地がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、1以上のアンテナが反射波を電気信号に変換する処理と、これら電気信号それぞれの位相を所定の位相パターンに基づいて制御する処理と、位相が制御された電気信号それぞれが合成された合成信号に基づいて生成されたデジタル信号を取得する処理と、所定の位相パターン、デジタル信号の時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて観測対象を探知する処理と、を行うことで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
第1の特徴に係る発明は、電波と電気信号とを互いに変換可能な複数のアンテナと、コントローラと、を備え、前記コントローラは、少なくとも1以上の前記アンテナが電波を送信する処理と、前記電波が観測対象に入射することによって生じた反射波を前記複数のアンテナのうち少なくとも1以上の前記アンテナが前記電気信号にそれぞれ変換する処理と、所定の位相パターンに基づいて前記電気信号それぞれの位相を制御する処理と、前記位相が制御された電気信号それぞれが合成された合成信号に基づいて生成されたデジタル信号を取得する処理と、前記所定の位相パターン、前記デジタル信号の時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて前記観測対象を探知する処理と、を実行可能である、レーダ装置を提供する。
【0012】
複数のアンテナによって構成されるアレイアンテナは、複数のアンテナに関する位相を制御することによってアレイアンテナが指向する向きを様々な向きに変化させ得る。アレイアンテナを様々な向きに指向させて観測対象を探知する場合、アレイアンテナが指向する向きとアレイアンテナから観測対象への向きとが一致していなければ観測対象を探知することが難しい。指向する向きを変化させるパターンにより、アレイアンテナが指向する向きとアレイアンテナから観測対象への向きとが一致するまでに時間を要し得る。したがって、アレイアンテナを様々な向きに指向させて観測対象を探知する場合、観測対象の探知に時間を要し得る。
【0013】
ところで、単一のセンサを用いて観測対象を探知するシングルピクセルイメージングが知られている。シングルピクセルイメージングでは、センサと観測対象との間にフィルタ及び/又はミラーアレイ等の観測対象において生じた反射波を変化パターンに応じて変化させる仕組みを設ける。そして、この変化させる仕組みにおいて複数の変化パターンを高速に切り替える。シングルピクセルイメージングでは、変化した反射波の時系列情報を単一のセンサによって取得する。そして、変化パターンと取得した反射波の時系列情報とを用いて、観測対象を探知する。
【0014】
第1の特徴に係る発明によれば、所定の位相パターンに基づいて前記電気信号それぞれの位相を制御する処理によって、観測対象において生じた反射波に基づく電気信号を変化させることができる。そして、位相が制御された電気信号それぞれが合成された合成信号に基づいて生成されたデジタル信号を取得する処理により、変化した反射波を単一のセンサによって取得する処理に相当する処理を行える。したがって、第1の特徴に係る発明によれば、所定の位相パターンと該デジタル信号の時系列情報とを用いて観測対象を探知し得る。
【0015】
シングルピクセルイメージングでは、ニューラルネットワークを用いて電気信号の時系列情報を解析することにより、ニューラルネットワークを用いない場合より短い時間の時系列情報に基づいて観測対象をより確実に探知し得ることが知られている。第1の特徴に係る発明によれば、所定の位相パターン及びデジタル信号の時系列情報だけでなく、所定のニューラルネットワークをも用いた処理を行うため、比較的短い時間におけるデジタル信号の時系列情報を解析して観測対象をより確実に探知し得る。これにより、複数のアンテナによって構成されるアレイアンテナを様々な向きに指向させて観測対象を探知する場合より短い時間で観測対象を探知し得る。
【0016】
第1の特徴に係る発明によれば、所定の位相パターンに基づいて前記電気信号それぞれの位相を制御する処理によって、観測対象において生じた反射波に基づく電気信号を変化させることができる。これにより、変化した電気信号それぞれが干渉し得る。第1の特徴に係る発明によれば、所定の位相パターン及びデジタル信号の時系列情報だけでなく、所定のニューラルネットワークをも用いた処理を行うため、この干渉をも用いた探知を見込み得る。
【0017】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【0018】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記反射波を前記電気信号に変換する処理は、前記反射波を前記複数のアンテナのうち少なくとも2以上の前記アンテナが前記電気信号にそれぞれ変換する処理を含む、レーダ装置を提供する。
【0019】
第2の特徴に係る発明によれば、電波を送信し、電波が観測対象に入射することによって生じた反射波を2以上のアンテナが電気信号に変換し得る。これら電気信号それぞれの位相を所定の位相パターンに基づいて制御して電気信号を合成するため、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号である合成信号を取得し得る。
【0020】
比較的弱い電気信号に基づいてデジタル信号を生成する場合、デジタル信号の生成が困難となる場合がある。第2の特徴に係る発明によれば、合成信号に基づいてデジタル信号を生成するため、電気信号それぞれが比較的弱い電気信号であっても、電気信号それぞれのうち1つのみに基づいてデジタル信号を生成する場合より容易にデジタル信号を生成し得る。
【0021】
したがって、第2の特徴に係る発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【0022】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前記所定の位相パターンは、前記反射波を変換する2以上の前記アンテナが指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンを含む、レーダ装置を提供する。
【0023】
反射波を変化させる仕組みにおいて複数の変化パターンを不規則に切り替えるシングルピクセルイメージングでは、変化パターンを規則的に切り替えることにより、反射波それぞれの間における干渉を抑え得ることが知られている。反射波それぞれの間における干渉を抑えることにより、反射波の干渉が探知を妨げることを防ぎ得る。第3の特徴に係る発明によれば、所定の位相パターンが反射波を変換する2以上のアンテナが指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンを含むため、反射波それぞれの間における干渉を抑え、観測対象をより短い時間でより確実に探知し得る。
【0024】
したがって、第3の特徴に係る発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【0025】
第4の特徴に係る発明は、第1の特徴から第3の特徴のいずれかに係る発明であって、前記所定の位相パターンは、前記電気信号それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンを含む、レーダ装置を提供する。
【0026】
電気信号それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンは、アンテナが指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンより不規則な位相パターンである。したがって、第4の特徴に係る発明によれば、反射波それぞれの間における干渉をよりいっそう抑え、観測対象をよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0027】
したがって、第4の特徴に係る発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【0028】
第5の特徴に係る発明は、第1の特徴から第4の特徴のいずれかに係る発明であって、前記コントローラは、前記所定の位相パターンと前記時系列情報とに基づいて前記所定のニューラルネットワークに前記観測対象の探知を機械学習させる処理をさらに実行可能である、レーダ装置を提供する。
【0029】
第5の特徴に係る発明によれば、所定のニューラルネットワークに観測対象の探知を機械学習させるため、観測対象の探知を学習したニューラルネットワークを用いて観測対象を探知し得る。これにより、学習したニューラルネットワークを用いて観測対象を短い時間でより確実に探知し得る。この機械学習は、所定の位相パターンと時系列情報とに基づいた学習であるため、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報の解析を学習し得る。
【0030】
したがって、第5の特徴に係る発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【0031】
第6の特徴に係る発明は、第1の特徴から第5の特徴のいずれかに係る発明であって、前記送信する処理は、少なくとも2以上の前記アンテナのそれぞれが前記電波を送信する処理を含み、前記送信する処理で送信される電波は、特定の位相パターンに基づいて位相が制御された電波を含み、前記探知する処理は、前記特定の位相パターン、前記所定の位相パターン、前記時系列情報、及び前記所定のニューラルネットワークを用いて前記観測対象を探知する処理を含む、レーダ装置を提供する。
【0032】
第6の特徴に係る発明によれば、反射波そのもののみならず、観測対象において反射波を生じさせる送信する電波をも変化させる。これにより、反射波がよりいっそう不規則に変化し得る。したがって、第6の特徴に係る発明によれば、反射波それぞれの間における干渉をよりいっそう抑え、観測対象をよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0033】
したがって、第6の特徴に係る発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【0034】
第7の特徴に係る発明は、第6の特徴に係る発明であって、前記特定の位相パターンは、前記電波を送信する2以上の前記アンテナが指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンを含む、レーダ装置を提供する。
【0035】
第7の特徴に係る発明によれば、特定の位相パターンが電波を送信する2以上のアンテナが指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンを含むため、送信する電波がよりいっそう不規則に変化し得る。したがって、第7の特徴に係る発明によれば、反射波それぞれの間における干渉をよりいっそう抑え、観測対象をよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0036】
したがって、第7の特徴に係る発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【0037】
第8の特徴に係る発明は、第6又は第7の特徴に係る発明であって、前記特定の位相パターンは、前記電波それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンを含む、レーダ装置を提供する。
【0038】
電波それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンは、アンテナが指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンより不規則な位相パターンである。したがって、第8の特徴に係る発明によれば、反射波それぞれの間における干渉をよりいっそう抑え、観測対象をよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0039】
したがって、第8の特徴に係る発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【0040】
第9の特徴に係る発明は、第6の特徴から第8の特徴のいずれかに係る発明であって、前記コントローラは、前記特定の位相パターンと前記所定の位相パターンと前記時系列情報とに基づいて前記所定のニューラルネットワークに前記観測対象の探知を機械学習させる処理をさらに実行可能である、レーダ装置を提供する。
【0041】
第9の特徴に係る発明によれば、所定のニューラルネットワークに観測対象の探知を機械学習させるため、観測対象の探知を学習したニューラルネットワークを用いて観測対象を探知し得る。これにより、学習したニューラルネットワークを用いて観測対象を短い時間でより確実に探知し得る。この機械学習は、特定の位相パターンと所定の位相パターンと時系列情報とに基づいた学習であるため、所定の位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報の解析を学習し得るのみならず、特定の位相パターンに応じた送信される電波が入射することによって観測対象において生じた反射波に関する電気信号の時系列情報の解析をも学習し得る。
【0042】
したがって、第9の特徴に係る発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報を用い、観測対象を短い時間でより確実に探知可能なレーダ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、本発明の実施形態におけるレーダ装置1を斜め上方からみたときの概略図である。
図2図2は、コントローラ2で実行される探知処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
図3図3は、送信波Tを送信するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させた場合の探知を示す概念図である。
図4図4は、送信波Tそれぞれの位相を時間に応じて略ランダムに変化させた場合の探知を示す概念図である。
図5図5は、反射波Rを受信するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させた場合の探知を示す概念図である。
図6図6は、反射波Rを変換して得られた電気信号それぞれの位相を時間に応じて略ランダムに変化させた場合の探知を示す概念図である。
図7図7は、ニューラルネットワークを用いた探知を示す概念図である。
図8図8は、所定のニューラルネットワークを用いて観測対象の形状を探知する処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための好適な形態の一例について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0046】
<レーダ装置1>
図1は、本発明の実施形態におけるレーダ装置1を斜め上方からみたときの概略図である。以下、図1を参照して本発明の実施形態におけるレーダ装置1の好ましい構成の一例を説明する。
【0047】
レーダ装置1は、コントローラ2と、送信機3と、2以上のアンテナ4(図1における符号4a~4d)と、を含んで構成される。
【0048】
必須の態様ではないが、レーダ装置1は、2以上のアンテナ4を支持可能な支持構造5をさらに含むことが好ましい。支持構造5を含むことにより、2以上のアンテナ4のそれぞれが所定の位置関係を保つよう、これらを支持構造5によって支持できる。これにより、後述する観測対象を探知する探知処理を容易に行える。
【0049】
〔コントローラ2〕
コントローラ2は、送信機3と、2以上のアンテナ4と、を制御する。また、
コントローラ2は、電波が観測対象に入射することによって生じた反射波をアンテナ4において電気信号にそれぞれ変換する処理と、所定の位相パターンに基づいて電気信号それぞれの位相を制御する処理と、位相が制御された電気信号それぞれが合成された合成信号に基づいて生成されたデジタル信号を取得する処理と、所定の位相パターン、デジタル信号の時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて観測対象を探知する処理と、を少なくとも含む探知処理を実行する。コントローラ2が行う探知処理については、後に図2を用いてより詳細に説明する。レーダ装置1がコントローラ2を含むため、探知処理を実行し、観測対象の場所を探知できる。
【0050】
コントローラ2は、特に限定されない。コントローラ2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)等を備える従来技術のマイクロコンピュータでよい。
【0051】
コントローラ2は、電気信号それぞれの位相を制御する処理に関する所定の位相パターンを取得可能に構成される。コントローラ2が所定の位相パターンを取得可能に構成されることにより、所定の位相パターンに基づいて電気信号の位相を制御し得る。
【0052】
コントローラ2が所定の位相パターンを取得する手段は、特に限定されず、例えば、メルセンヌ・ツイスタ(Mersenne twister、MTとも称する。)、平方採中法、線形合同法、線形帰還シフトレジスタ、キャリー付き乗算、Xorshift、Lagged Fibonacci 法、RANLUX、Permuted congruential generator、Blum-Blum-Shub、及びFortuna等によって例示される疑似乱数生成法等の略ランダムなパターンを生成可能な手段を用いて略ランダムな位相パターンを生成し、生成された位相パターンを取得する手段、コントローラ2のROM等に記憶された所定の位相パターンを取得する手段、及び/又はコントローラ2の外部から所定の位相パターンを取得する手段等の1以上を含む手段でよい。
【0053】
コントローラ2は、送信する処理で送信される電波(送信される電波を単に送信波とも称する。)に関する特定の位相パターンを取得可能に構成される。コントローラ2が特定の位相パターンを取得可能に構成されることにより、特定の位相パターンに基づいて送信波の位相を制御し得る。コントローラ2が特定の位相パターンを取得する手段は、特に限定されず、コントローラ2が所定の位相パターンを取得する手段と同様の手段でよい。
【0054】
コントローラ2は、所定の位相パターンとアンテナ4が提供する電気信号の時系列情報とに基づいて観測対象を探知可能な所定のニューラルネットワークを取得可能に構成される。コントローラ2が所定のニューラルネットワークを取得可能に構成されることにより、所定の位相パターン、時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて観測対象を探知する処理を実行し得る。
【0055】
コントローラ2が所定のニューラルネットワークを取得する手段は、特に限定されず、例えば、コントローラ2のROM等に記憶された所定のニューラルネットワークを取得する手段、及び/又はコントローラ2の外部から所定のニューラルネットワークを取得する手段等でよい。
【0056】
所定のニューラルネットワークは、特に限定されず、所定の位相パターンとアンテナ4が提供する電気信号の時系列情報とに基づいて観測対象を探知可能な各種のニューラルネットワークでよい。所定のニューラルネットワークは、符号化層と復号化層とを有する深層ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Networks、CNN)、スタックオートエンコーダ、残差ネットワーク(Residual Network)、敵対的生成ネットワーク(Generative adversarial networks、GAN)、ボルツマンマシン、及び回帰型ニューラルネットワーク等によって例示される深層学習可能なニューラルネットワークを用いて構成されたニューラルネットワークであることが好ましい。
【0057】
なかでも、所定のニューラルネットワークは、符号化層と復号化層とを有する深層ニューラルネットワークであることが好ましい。符号化層と復号化層とを有する深層ニューラルネットワークでは、符号化層において入力を符号化し、符号化された入力を復号化層において復号することによって、入力を識別した結果に相当する画像等を効率的に出力し得る。所定のニューラルネットワークが符号化層と復号化層とを有する深層ニューラルネットワークであることにより、所定の位相パターンと時系列情報とを含む情報を深層ニューラルネットワークの入力として符号化層において符号化し、符号化された情報を復号化層において処理することによって、観測対象を効率的に探知し得る。符号化層と復号化層とを有する深層ニューラルネットワークを用いた探知については、後に図7を用いてより詳細に説明する。
【0058】
4以上の層を備える深層ニューラルネットワークは、画像認識及び音声認識等によって例示される対象を認識する処理において、優れた性能を発揮する手法である深層学習(ディープラーニングとも称する。)を行い得るニューラルネットワークである。観測対象を探知する探知処理は、観測対象を認識して探知する処理である。したがって、所定のニューラルネットワークが深層ニューラルネットワークを用いて構成されたニューラルネットワークであることにより、深層学習を行い、より短い時間の時系列情報に基づいて観測対象をより確実に探知し得る。
【0059】
必須の態様ではないが、コントローラ2が取得可能な所定のニューラルネットワークは、特定の位相パターンと所定の位相パターンと時系列情報とに基づいて観測対象を探知可能なニューラルネットワークを含むことが好ましい。これにより、特定の位相パターン、所定の位相パターン、時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて観測対象を探知する処理を実行し得る。
【0060】
コントローラ2は、探知処理によって探知した観測対象に関する情報を出力可能に構成されていることが好ましい。観測対象に関する情報を出力する手段は、特に限定されず、従来技術のレーダ装置で観測対象に関する情報を出力するために利用される各種の手段でよい。
【0061】
コントローラ2は、レーダ装置1を利用する利用者から各種の指令を受信可能であることが好ましい。各種の指令は、例えば、レーダ装置1の利用を開始する指令、レーダ装置1の利用を終了する指令、電波の送信を開始する指令、電波の送信を停止する指令、及び/又は各種の位相パターンを変更する指令等が挙げられる。コントローラ2がレーダ装置1を利用する利用者から各種の指令を受信可能であることにより、利用者の指令に応じてレーダ装置1を制御し得る。
【0062】
[分配器]
コントローラ2は、送信機3から提供される送信信号を分配し、分配された送信信号のそれぞれを2以上のアンテナ4それぞれに提供可能な分配器(図示せず)を有することが好ましい。コントローラ2が分配器を有することにより、送信機3が複数の送信信号を同時に生成することができない送信機であっても、2以上のアンテナ4それぞれに送信信号を提供できる。
【0063】
分配器は、2以上のアンテナ4から提供される位相を制御された電気信号を合成し、合成された合成信号を後述するコンバータに提供可能な合成器でもあることが好ましい。比較的弱い電気信号に基づいてデジタル信号を生成する場合、デジタル信号の生成が困難となる場合がある。合成器でもある分配器を含むことにより、コンバータは、分配器において合成された合成信号に基づいてデジタル信号を生成し得る。これにより、電気信号それぞれが比較的弱い電気信号であっても、コンバータは、電気信号それぞれのうち1つのみに基づいてデジタル信号を生成する場合より容易にデジタル信号を生成し得る。
【0064】
以下、合成器として用いることも可能な分配器を、その用途によらず単に「分配器」と称する。分配器は、特に限定されず、例えば、抵抗分配器、ウィルキンソン分配器、及びハイブリッド分配器等によって例示される従来技術の分配器でよい。分配器は、2以上の分配器の組合せを含む分配器でもよい。
【0065】
分配器は、コントローラ2と別体に構成された分配器でもよい。分配器がコントローラ2と別体に構成された分配器であることにより、コントローラ2の構造を一体に構成された分配器を含まない簡易な構造とし得る。コントローラ2と別体に構成された分配器は、例えば、アンテナ4と一体に構成された分配器等が挙げられる。
【0066】
[コンバータ]
コントローラ2は、分配器から提供された合成信号からデジタル信号を生成し、変換して得られたデジタル信号の時系列情報を生成可能なコンバータを有することが好ましい。これにより、コントローラ2において実行される探知処理に適したデジタル信号の態様を有する合成信号の時系列情報を生成できる。コンバータは、特に限定されず、従来技術の電気信号からデジタル信号を生成可能なコンバータでよい。
【0067】
コンバータは、コントローラ2と別体に構成されたコンバータでもよい。コンバータがコントローラ2と別体に構成されたコンバータであることにより、コントローラ2の構造を一体に構成されたコンバータを含まない簡易な構造とし得る。コントローラ2と別体に構成されたコンバータは、例えば、アンテナ4と一体に構成されたコンバータ等が挙げられる。
【0068】
〔送信機3〕
送信機3は、アンテナ4に電波(送信波)を送信させる送信信号を提供可能な送信機である。送信機3は、コントローラ2と接続されている。送信機3は、コントローラ2による制御に応じて送信信号を2以上のアンテナ4に提供可能に構成される。送信機3は、特に限定されず、従来技術の送信機でよい。送信機3は、例えば、送信信号を発振する発振器及び送信信号を変調する変調器等を備えた送信機でよい。レーダ装置1が送信機3を備えることにより、送信信号を介して2以上のアンテナ4に送信波を送信させることができる。
【0069】
必須の態様ではないが、送信機3は、パルス波である送信波を送信させるパルス波送信信号を提供可能であることが好ましい。パルス波は、断続的に送信される送信波である。パルス波は、断続的に送信されるため、送信波と反射波との対応付けが容易である。これにより、送信波と反射波との対応付けを用いた探知を行い得る。
【0070】
パルス波である送信波は、周波数変調された送信波でもよく、周波数変調されていない送信波でもよい。パルス波である送信波が周波数変調された送信波であることにより、反射波の周波数を用いた探知を行い得る。パルス波である送信波が周波数変調されていない送信波であることにより、周波数変調を行わない簡易な構成の送信機を用いて送信機3を構成し得る。
【0071】
周波数変調連続波(Frequency Modulated Continuous Wave。FM-CWとも称する。)は、周波数変調した連続波である。必須の態様ではないが、送信機3は、アンテナ4に周波数変調連続波である送信波を送信させる周波数変調連続波送信信号を提供可能であることが好ましい。これにより、反射波の周波数を用いた探知を行い得る。また、連続波である周波数変調連続波を送信させる周波数変調連続波送信信号を提供可能であるため、より長い時間について、デジタル信号の時系列情報を取得し得る。したがって、観測対象をより確実に探知し得る。
【0072】
〔アンテナ4〕
アンテナ4(図1の第1アンテナ4a~第8アンテナ4h等)は、送信機3から提供される送信信号を送信波に変換して送信可能であり、送信波が観測対象に入射することによって生じた反射波を電気信号に変換可能であるアレイアンテナである。
【0073】
2以上のアンテナ4のそれぞれは、アンテナ本体41と、1以上の移相器42と、1以上のアンテナ素子43と、を含んで構成される。2以上のアンテナ4のそれぞれは、コントローラ2によって制御可能に構成される。2以上のアンテナ4のそれぞれは、コントローラ2及び送信機3と接続される。
【0074】
2以上のアンテナ4のそれぞれが1以上の移相器42を含むため、所定の位相パターンに基づいて2以上のアンテナ素子43のそれぞれが提供する電気信号それぞれの位相を制御し得る。これにより、2以上のアンテナ4をアレイアンテナとして利用し得る。
【0075】
2以上のアンテナ4の配置は、特に限定されず、例えば、直線的に配置してもよく、平面的に配置してもよく、曲面に沿って配置してもよく、あるいは、任意の形状に配置(例えば、図1の第1アンテナ4a~第8アンテナ4hの配置)してもよい。2以上のアンテナ4を直線的に配置することにより、2以上のアンテナ4をリニアアレイアンテナとして利用し得る。2以上のアンテナ4を平面的に配置することにより、2以上のアンテナ4を平面アレイアンテナとして利用し得る。2以上のアンテナ4を曲面に沿って配置することにより、2以上のアンテナ4をコンフォーマルアレイアンテナとして利用し得る。2以上のアンテナ4を任意の形状に配置することにより、レーダ装置1を設置する場所における空間的制約を満たす形状のアレイアンテナとして利用し得る。後に図2を用いて説明する探知処理により、アンテナ4の配置に関わらず、観測対象を探知し得る。
【0076】
2以上のアンテナ4それぞれが含む移相器42の数は、アンテナ素子43の数より1少ない数、アンテナ素子43の数と同じ数、及びアンテナ素子43の数より大きい数のいずれかであることが好ましい。移相器42の数がこれらの数のいずれかであることにより、複数のアンテナ素子43それぞれが送信する送信波の位相を制御し得る。また、これにより、複数のアンテナ素子43それぞれが提供する電気信号の位相を制御し得る。以下では、2以上のアンテナ4それぞれが含む移相器42の数とアンテナ素子43の数とは、いずれも所定の数「n」であるものとして説明する。
【0077】
アンテナ素子43のそれぞれは、電波と電気信号とを互いに変換可能なアンテナ素子(アンテナ)である。2以上のアンテナ4のそれぞれが1以上のアンテナ素子43を含むため、レーダ装置1は、2以上のアンテナ素子43(アンテナ)が反射波を電気信号にそれぞれ変換する処理を行い得る。
【0078】
[アンテナ本体41]
アンテナ本体41(図1の第1アンテナ本体41a、第2アンテナ本体41b等)は、アンテナ素子43等のアンテナ4が含む各種の構成要素を支持可能に構成される。これにより、アレイアンテナを構成するように複数のアンテナ素子43それぞれを配置できる。
【0079】
[移相器42]
移相器42は、アンテナ素子43から提供される電気信号に関する位相を制御し、コントローラ2に提供する移相機である。移相器42は、コントローラ2によって制御可能に構成される。移相器42により、アンテナ素子43が提供する電気信号の位相を所定の位相パターンに基づいて制御し得る。また、移相器42は、送信機3によって生成された送信信号の位相を制御し、アンテナ素子43に提供する移相機でもある。移相器42により、特定の位相パターンに基づいて送信波の位相を制御し得る。移相器42は、特に限定されず、電気信号の位相を制御可能な従来技術の移相器を含む移相器でよい。
【0080】
図1には、第1アンテナ4aが含む移相器42として、第1移相器42aが示されている。また、第2アンテナ4bが含む移相器42として、第2移相器42bが示されている。これらの移相器42それぞれは、アンテナ素子43それぞれと接続されている。また、これらの移相器42それぞれは、コントローラ2と接続されている。
【0081】
[アンテナ素子43]
アンテナ素子43は、電波と電気信号とを互いに変換可能なアンテナ素子(アンテナ)である。アンテナ素子43は、反射波を変換することにより生成した電気信号を移相器42に提供できる。アンテナ素子43は、移相器42が提供する送信信号に基づいて電波(送信波)を送信できる。
【0082】
アンテナ素子43は、特に限定されず、電波と電気信号とを相互に変換可能である従来技術のアンテナを用いて構成されたアンテナ素子でよい。これにより、電波が観測対象に入射することによって生じた反射波をアンテナ素子43において電気信号にそれぞれ変換する処理を実行し得る。アンテナ素子43は、例えば、ダイポールアンテナ、ループ・アンテナ、及びパッチアンテナ等によって例示される従来技術のアンテナの1以上を用いて構成されたアンテナ素子でよい。
【0083】
アンテナ素子43は、実質的に無指向性のアンテナ素子であることが好ましい。ここでいう「実質的に無指向性」は、アンテナ素子43の利得がアンテナ素子43からみた方位によらず略同じであることを示す。ここでいう利得は、アンテナ素子43からみた方位におけるアンテナ素子43の電界強度を等方性アンテナの場合の電界強度で割った比のことである。
【0084】
実質的に無指向性のアンテナ素子43における利得の上限は、1.7以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。利得の上限を上述のとおり定めることにより、いずれの向きにある観測対象であっても探知し得る。
【0085】
図1には、第1アンテナ4aが含むアンテナ素子43として第1アンテナ素子43aが示されている。また、第2アンテナ4bが含むアンテナ素子43として第2アンテナ素子43bが示されている。これらのアンテナ素子43それぞれは、移相器42それぞれと接続されている。
【0086】
[増幅器]
必須の態様ではないが、アンテナ4は、1以上の増幅器(図示せず)を含むことが好ましい。増幅器は、電気信号を増幅可能な増幅器である。一般に、増幅された電気信号を用いたデジタル信号の生成は、増幅されない電気信号を用いたデジタル信号の生成より容易である。したがって、増幅器を含むことにより、電気信号を用いたデジタル信号の生成をより容易に行い得る。また、増幅器を含むことにより、増幅されたより強い電気信号に基づいて電波を送信できる。増幅器は、特に限定されず、従来技術の増幅器でよい。
【0087】
増幅器は、移相器42のそれぞれが分配器に提供する電気信号をそれぞれ増幅可能であることが好ましい。これにより、電気信号のそれぞれをより強くできる。したがって、コントローラ2が有するコンバータにおいて合成信号をデジタル信号に変換することがより容易になる。
【0088】
増幅器は、分配器が提供する送信信号を増幅可能であることが好ましい。これにより、分配器における分配で送信信号の強度が低下した場合に、送信信号を増幅して移相器42に提供し得る。そして、より強い送信信号に基づく送信波を送信できる。
【0089】
増幅器が、分配器が提供する送信信号を増幅可能である場合、2以上のアンテナ4それぞれが含む増幅器の数は、n以上であることが好ましい。これにより、分配器が提供する送信信号それぞれを増幅し、nの移相器42に提供し得る。
【0090】
[周波数変換器]
必須の態様ではないが、アンテナ4は、1以上の周波数変換器(図示せず)を含むことが好ましい。周波数変換器は、アンテナ素子43に提供される送信信号の周波数を変換可能であり、アンテナ素子43から提供される電気信号の周波数を変換可能である周波数変換器である。以下、送信信号及び/又は電気信号等の、周波数変換器において周波数を変換される信号を単に変換対象信号とも称する。
【0091】
一般に、周波数がより高い変換対象信号を処理するほど、変換対象信号を処理する部材の構成がより複雑になり、費用対効果等がより低下する。周波数変換器を含むことにより、送信機3、移相器42、分配器、及び/又は、増幅器等が処理する変換対象信号の周波数を送信波及び/又は反射波の周波数より低い周波数を処理するよう構成し得る。したがって、これらの構成要素の構成をより簡単にし、レーダ装置1の費用対効果等を改善し得る。
【0092】
周波数変換器の数は、n以上であることが好ましい。周波数変換器の数がn以上であることにより、nのアンテナ素子43が提供する電気信号の周波数それぞれを変換し得る。これにより、分配器及びコンバータを電気信号の周波数より低い周波数を処理するよう構成し得る。また、増幅器及び/又は移相器42を電気信号の周波数より低い周波数を処理するよう構成し得る。周波数変換器の数がn以上であることにより、分配器によって分配された送信信号の周波数をそれぞれ変換し得る。これにより、送信機3及び分配器を送信波の周波数より低い周波数を処理するよう構成し得る。また、周波数変換器の数がn以上であることにより、移相器42、及び/又は、増幅器を送信する電波の周波数より低い周波数を処理するよう構成し得る。
【0093】
周波数変換器は、特に限定されず、従来技術の周波数変換器でよい。周波数変換器は、例えば、所定の周期的な信号LOと変換対象信号とを合成することで変換対象信号の周波数を変換するミキサでよい。所定の周期的な信号LOと変換対象信号とを合成することにより、変換対象信号の周波数を、所定の周期的な信号LOの周波数と変換対象信号の周波数との和及び/又は差の周波数に変換できる。
【0094】
〔支持構造5〕
支持構造5は、2以上のアンテナ4を支持可能である。支持構造5は、特に限定されず、従来技術の支持構造でよい。支持構造5は、2以上のアンテナ4それぞれの位置関係を所定の位置関係に保つよう支持可能であることが好ましい。これにより、後述する探知処理を、より容易に行い得る。
【0095】
〔フローチャート〕
図2は、コントローラ2で実行される探知処理の流れの一例を示すフローチャート図である。以下、図2を用いてコントローラ2が行う探知処理の好ましい手順の一例を説明する。
【0096】
[ステップS1:探知を開始するか否かを判別]
コントローラ2は、探知を開始するか否かを判別する(ステップS1)。探知を開始するのであれば、コントローラ2は、処理をステップS2に移す。探知を開始しないのであれば、コントローラ2は、探知処理を終了し、ステップS1からステップS9の処理を繰り返す。コントローラ2が探知を開始するか否かを判別することにより、探知を開始する場合に電波を送信する処理等を実行し、観測対象を探知し得る。
【0097】
探知を開始するか否かを判別する方法は、特に限定されず、例えば、レーダ装置1を利用する利用者から受信した指令であって、レーダ装置1の利用を開始する指令及び電波の送信を開始する指令等によって例示される指令の1以上に基づいて探知を開始すると判別する方法でよい。これにより、利用者から受信した指令に基づいて探知を開始し得る。
【0098】
[ステップS2:送信信号の送信を開始するよう制御]
コントローラ2は、送信信号の送信を開始するよう送信機3を制御する(ステップS2)。コントローラ2は、処理をステップS3に移す。コントローラ2が送信信号の送信を開始するよう送信機3を制御することにより、送信信号をアンテナ素子43に提供し、アンテナ素子43から送信波を送信し得る。
【0099】
必須の態様ではないが、コントローラ2は、ステップS3で実行される特定の位相パターンに基づいて移相器42を制御する処理を実行することが好ましい。
【0100】
[ステップS3:特定の位相パターンに基づいて移相器を制御]
コントローラ2は、特定の位相パターンを取得し、電波を送信するアンテナ素子43に関する移相器42のそれぞれを特定の位相パターンに基づいて制御する(ステップS3)。コントローラ2は、処理をステップS4に移す。コントローラ2が電波を送信するアンテナ素子43に関する移相器42のそれぞれを特定の位相パターンに基づいて制御することにより、移相器42を介して送信信号の位相それぞれを制御し得る。これにより、アンテナ素子43から送信される電波(送信波)の位相それぞれを、特定の位相パターンに基づいて制御し得る。
【0101】
コントローラ2が特定の位相パターンを取得する手段は、特に限定されず、例えば、疑似乱数生成法等の略ランダムなパターンを生成可能な手段を用いて略ランダムな位相パターンを生成し、生成された位相パターンを取得する手段、コントローラ2のROM等に記憶された特定の位相パターンを取得する手段、及び/又はコントローラ2の外部から特定の位相パターンを取得する手段等の1以上を含む手段でよい。
【0102】
反射波を変化させる仕組みにおいて複数の変化パターンを不規則に切り替えるシングルピクセルイメージングでは、変化パターンを規則的に切り替えることにより、反射波それぞれの間における干渉を抑え得ることが知られている。反射波それぞれの間における干渉を抑えることにより、反射波の干渉が探知を妨げることを防ぎ得る。
【0103】
必須の態様ではないが、特定の位相パターンは、電波を送信するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンを含むことが好ましい。これにより、電波を送信する2以上のアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させ得る。
【0104】
特定の位相パターンが電波を送信するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンを含むことにより、送信波が不規則に変化し得る。したがって、反射波それぞれの間における干渉を抑え、観測対象をよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0105】
必須の態様ではないが、特定の位相パターンは、送信信号それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンを含むことが好ましい。これにより、送信波それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させ得る。
【0106】
送信波それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させ得る位相パターンは、アンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンより不規則な位相パターンである。したがって、反射波それぞれの間における干渉をよりいっそう抑え、観測対象をよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0107】
送信波の送信に用いられるアンテナ4の数が2以上である場合、特定の位相パターンは、2以上のアンテナ4を協働させて1のアレイアンテナとして用いる位相パターンを含んでもよい。これにより、2以上のアンテナ4を協働させて1のアレイアンテナとして利用し得る。
【0108】
アレイアンテナを構成する各要素が所定の位置関係を保つことにより、これら各要素を協働させてアレイアンテナとして用いることが容易となる。特定の位相パターンが2以上のアンテナ4を協働させて1のアレイアンテナとして用いる位相パターンを含む場合、2以上のアンテナ4は、支持構造5等によって所定の位置関係を保つよう支持されていることが好ましい。これにより、2以上のアンテナ4を協働させて1のアレイアンテナとして利用することをよりいっそう容易に実現し得る。これにより、1のアンテナ4のみによって送信波を送信する場合より電界強度が強い送信波を送信し得る。
【0109】
[ステップS4:反射波から電気信号への変換を開始するようアレイアンテナを制御]
コントローラ2は、反射波から電気信号への変換を開始するようアンテナ4を制御する(ステップS4)。コントローラ2は、処理をステップS5に移す。コントローラ2が反射波から電気信号への変換を開始するようアンテナ4を制御することにより、アンテナ4が含む1以上のアンテナ素子43(アンテナ)は、電波が観測対象に入射することによって生じた反射波を電気信号に変換し得る。反射波を電気信号に変換するアンテナ4の数は、1以上であれば、特に限定されない。反射波を電気信号に変換するアンテナ4の数は、2以上であることが好ましい。
【0110】
反射波を電気信号に変換するアンテナ4の数が2以上であることにより、これら電気信号それぞれの位相を所定の位相パターンに基づいて制御して電気信号を合成し得る。したがって、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号である合成信号を取得し得る。
【0111】
比較的弱い電気信号に基づいてデジタル信号を生成する場合、デジタル信号の生成が困難となる場合がある。反射波を電気信号に変換するアンテナ4の数が2以上であることにより、合成信号に基づいてデジタル信号を生成し得るため、電気信号それぞれが比較的弱い電気信号であっても、電気信号それぞれのうち1つのみに基づいてデジタル信号を生成する場合より容易にデジタル信号を生成し得る。
【0112】
[ステップS5:所定の位相パターンに基づいて移相器を制御]
コントローラ2は、所定の位相パターンを取得し、反射波を電気信号に変換するアンテナ素子43に関する移相器42のそれぞれを所定の位相パターンに基づいて制御する(ステップS5)。コントローラ2は、処理をステップS6に移す。コントローラ2が反射波を電気信号に変換するアンテナ素子43に関する移相器42のそれぞれを所定の位相パターンに基づいて制御することにより、移相器42を介して電気信号の位相それぞれを制御し得る。これにより、電気信号の位相それぞれを、所定の位相パターンに基づいて制御し得る。
【0113】
コントローラ2が所定の位相パターンを取得する手段は、特に限定されず、例えば、疑似乱数生成法等の略ランダムなパターンを生成可能な手段を用いて略ランダムな位相パターンを生成し、生成された位相パターンを取得する手段、コントローラ2のROM等に記憶された所定の位相パターンを取得する手段、及び/又はコントローラ2の外部から所定の位相パターンを取得する手段等の1以上を含む手段でよい。
【0114】
必須の態様ではないが、所定の位相パターンは、反射波を変換するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンを含むことが好ましい。これにより、反射波を変換する2以上のアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させ得る。
【0115】
所定の位相パターンが反射波を変換するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させ得る位相パターンを含むため、反射波それぞれの間における干渉を抑え、観測対象をより短い時間でより確実に探知し得る。
【0116】
必須の態様ではないが、所定の位相パターンは、電気信号それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンを含むことが好ましい。電気信号それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンは、アンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンより不規則な位相パターンである。したがって、反射波それぞれの間における干渉をよりいっそう抑え、観測対象をよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0117】
反射波を電気信号に変換するアンテナ4の数が2以上である場合、所定の位相パターンは、2以上のアンテナ4を協働させて1のアレイアンテナとして用いる位相パターンを含んでもよい。これにより、2以上のアンテナ4を協働させて1のアレイアンテナとして利用し得る。これにより、1のアンテナ4のみを用いて反射波を電気信号に変換する場合より多くのアンテナ素子43を用いて反射波を電気信号に変換し得る。したがって、多くの反射波に基づく電気信号を用いて観測対象をより確実に探知し得る。
【0118】
アレイアンテナを構成する各要素が所定の位置関係を保つことにより、これら各要素を協働させてアレイアンテナとして用いることが容易となる。所定の位相パターンが2以上のアンテナ4を協働させて1のアレイアンテナとして用いる位相パターンを含む場合、2以上のアンテナ4は、支持構造5等によって所定の位置関係を保つよう支持されていることが好ましい。これにより、2以上のアンテナ4を協働させて1のアレイアンテナとして利用することをよりいっそう容易に実現し得る。
【0119】
[ステップS6:合成信号の時系列情報を取得]
コントローラ2は、分配器及びコンバータを用いて合成信号に関するデジタル信号の時系列情報を取得する(ステップS6)。コントローラ2は、処理をステップS7に移す。コントローラ2が分配器及びコンバータを用いて合成信号に関するデジタル信号の時系列情報を取得することにより、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号である合成信号に関するデジタル信号を取得し得る。
【0120】
コントローラ2が分配器及びコンバータを用いて合成信号に関するデジタル信号の時系列情報を取得する処理は、分配器において合成された合成信号に基づいてデジタル信号を生成する処理を含む。比較的弱い電気信号に基づいてデジタル信号を生成する場合、デジタル信号の生成が困難となる場合がある。合成信号に基づいてデジタル信号を生成するため、電気信号それぞれが比較的弱い電気信号であっても、電気信号それぞれのうち1つのみに基づいてデジタル信号を生成する場合より容易にデジタル信号を生成し得る。
【0121】
複数のアンテナによって構成されるアレイアンテナは、複数のアンテナに関する位相を制御することによってアレイアンテナが指向する向きを様々な向きに変化させ得る。アレイアンテナを様々な向きに指向させて観測対象を探知する場合、アレイアンテナが指向する向きとアレイアンテナから観測対象への向きとが一致していなければ観測対象を探知することが難しい。指向する向きを変化させるパターンにより、アレイアンテナが指向する向きとアレイアンテナから観測対象への向きとが一致するまでに時間を要し得る。したがって、アレイアンテナを様々な向きに指向させて観測対象を探知する場合、観測対象の探知に時間を要し得る。
【0122】
ところで、単一のセンサを用いて観測対象を探知するシングルピクセルイメージングが知られている。シングルピクセルイメージングでは、センサと観測対象との間にフィルタ及び/又はミラーアレイ等の観測対象において生じた反射波を変化パターンに応じて変化させる仕組みを設ける。そして、この変化させる仕組みにおいて複数の変化パターンを高速に切り替える。シングルピクセルイメージングでは、変化した反射波の時系列情報を単一のセンサによって取得する。そして、変化パターンと取得した反射波の時系列情報とを用いて、観測対象を探知する。
【0123】
ステップS5において実行される所定の位相パターンに基づいて電気信号それぞれの位相を制御する処理によって、観測対象において生じた反射波に基づく電気信号を変化させることができる。そして、ステップS6において実行される位相が制御された電気信号それぞれが合成された合成信号に基づいて生成されたデジタル信号を取得する処理により、変化した反射波を単一のセンサによって取得する処理に相当する処理を行える。したがって、所定の位相パターンと該デジタル信号の時系列情報とを用いて観測対象を探知し得る。
【0124】
所定の位相パターン及び/又は特定の位相パターンが反射波を変換するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンである場合、デジタル信号の時系列情報に関する時間の下限は、指向する向きを時間に応じて規則的に変化させる位相パターンにおいて探索対象範囲のすべてを探索する場合の時間(以下、規則的探査時間とも称する。)の10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、25%以上であることがさらに好ましい。デジタル信号の時系列情報に関する時間の下限を上述のとおり定めることにより、観測対象をよりいっそう確実に探知し得る。また、観測対象の形状をより正確に探知し得る。
【0125】
所定の位相パターン及び/又は特定の位相パターンが反射波を変換するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンである場合、デジタル信号の時系列情報に関する時間の上限は、規則的探査時間の50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。デジタル信号の時系列情報に関する時間の上限を上述のとおり定めることにより、観測対象をよりいっそう短い時間で探知し得る。また、観測対象が移動する観測対象である場合等の長い時間観測することに困難を伴い得る対象である場合であっても、観測対象をよりいっそう確実に探知し得る。
【0126】
[ステップS7:観測対象を探知]
コントローラ2は、ステップS5において用いた所定の位相パターン、ステップS6において取得したデジタル信号の時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて観測対象を探知する(ステップS7)。コントローラ2は、処理をステップS8に移す。ステップS7において実行される処理により、所定の位相パターン、デジタル信号の時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて観測対象を探知し得る。
【0127】
ステップS7において実行される処理は、所定のニューラルネットワークを取得する処理を含む。これにより、所定のニューラルネットワーク等を用いて観測対象を探知し得る。所定のニューラルネットワークを取得する処理は、特に限定されず、例えば、コントローラ2のROM等に記憶された所定のニューラルネットワークを取得する手段、及び/又はコントローラ2の外部から所定のニューラルネットワークを取得する手段等でよい。
【0128】
シングルピクセルイメージングでは、ニューラルネットワークを用いて電気信号の時系列情報を解析することにより、ニューラルネットワークを用いない場合より短い時間の時系列情報に基づいて観測対象をより確実に探知し得ることが知られている。ステップS7において実行される処理によれば、所定の位相パターン及びデジタル信号の時系列情報だけでなく、所定のニューラルネットワークをも用いた処理を行うため、比較的短い時間におけるデジタル信号の時系列情報を解析して観測対象をより確実に探知し得る。これにより、複数のアンテナによって構成されるアレイアンテナを様々な向きに指向させて観測対象を探知する場合より短い時間で観測対象を探知し得る。
【0129】
コントローラ2が取得可能な所定のニューラルネットワークが特定の位相パターンと所定の位相パターンと時系列情報とに基づいて観測対象を探知可能なニューラルネットワークを含む場合、ステップS7において実行される処理は、ステップS3において用いた特定の位相パターン、ステップS5において用いた所定の位相パターン、ステップS6において取得したデジタル信号の時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて観測対象を探知する処理を含むことが好ましい。これにより、反射波そのもののみならず、観測対象において反射波を生じさせる送信する電波をも変化させた場合におけるよりいっそう不規則に変化する反射波に基づいて、観測対象をよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0130】
(機械学習させることについて)
必須の態様ではないが、コントローラ2は、所定の位相パターンと時系列情報とに基づいて所定のニューラルネットワークに観測対象の探知を機械学習させる処理を実行することが好ましい。
【0131】
所定のニューラルネットワークに観測対象の探知を機械学習させるため、観測対象の探知を学習したニューラルネットワークを用いて観測対象を探知し得る。これにより、学習したニューラルネットワークを用いて観測対象を短い時間でより確実に探知し得る。この機械学習は、所定の位相パターンと時系列情報とに基づいた学習であるため、位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報の解析を学習し得る。
【0132】
必須の態様ではないが、特定の位相パターンに基づいて移相器42を制御する処理をステップS3で実行する場合、コントローラ2は、特定の位相パターンと所定の位相パターンと時系列情報とに基づいて所定のニューラルネットワークに観測対象の探知を機械学習させる処理をさらに実行することが好ましい。
【0133】
所定のニューラルネットワークに観測対象の探知を機械学習させるため、観測対象の探知を学習したニューラルネットワークを用いて観測対象を探知し得る。これにより、学習したニューラルネットワークを用いて観測対象を短い時間でより確実に探知し得る。この機械学習は、特定の位相パターンと所定の位相パターンと時系列情報とに基づいた学習であるため、所定の位相パターンに応じた反射波に関する電気信号の時系列情報の解析を学習し得るのみならず、特定の位相パターンに応じた送信される電波が入射することによって観測対象において生じた反射波に関する電気信号の時系列情報の解析をも学習し得る。
【0134】
所定のニューラルネットワークに観測対象の探知を機械学習させる場合、機械学習は、深層学習を含むことが好ましい。深層学習は、画像認識及び音声認識等によって例示される対象を認識する処理において、優れた性能を発揮する手法である。したがって、機械学習が深層学習を含むことにより、より短い時間の時系列情報に基づいて観測対象をより確実に探知し得る。
【0135】
[ステップS8:探知を終了するか否かを判別]
コントローラ2は、探知を終了するか否かを判別する(ステップS8)。探知を終了するのであれば、コントローラ2は、処理をステップS9に移す。探知を終了しないのであれば、コントローラ2は、処理をステップS2に移す。コントローラ2が探知を終了するか否かを判別することにより、探知を終了する場合に送信信号の送信を終了する処理等を実行し、探知処理を終了させ得る。
【0136】
探知を終了するか否かを判別する方法は、特に限定されず、例えば、レーダ装置1を利用する利用者から受信した指令であって、レーダ装置1の利用を終了する指令及び電波の送信を停止する指令等によって例示される指令の1以上に基づいて探知を終了すると判別する方法でよい。これにより、利用者から受信した指令に基づいて探知を終了し得る。
【0137】
[ステップS9:探知を終了]
コントローラ2は、送信信号の送信を終了するよう送信機3を制御し、反射波から電気信号への変換を開始するようアンテナ4を制御して探知を終了する(ステップS9)。コントローラ2は、探知処理を終了し、ステップS1からステップS9の処理を繰り返す。ステップS9において実行される処理により、探知処理を終了できる。
【0138】
<使用例>
図3は、送信波Tを送信するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させた場合の探知を示す概念図である。図4は、送信波Tそれぞれの位相を時間に応じて略ランダムに変化させた場合の探知を示す概念図である。図5は、反射波Rを受信するアンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させた場合の探知を示す概念図である。図6は、反射波Rを変換して得られた電気信号それぞれの位相を時間に応じて略ランダムに変化させた場合の探知を示す概念図である。図7は、ニューラルネットワークを用いた探知を示す概念図である。以下、必要に応じて図3から図7を用いて、本実施形態のレーダ装置1の使用例を説明する。
【0139】
〔探知を開始〕
レーダ装置1を利用する利用者は、レーダ装置1の利用を開始する指令をレーダ装置1に送信する。レーダ装置1は、該指令を受信し、観測対象Oを探知する探知処理を開始する。
【0140】
〔送信信号の生成〕
レーダ装置1は、送信機3において送信信号を生成する。レーダ装置1は、移相器42の制御を介して送信波T(図3の第1送信波T1、第2送信波T2、第3送信波T3、及び第4送信波T4並びに図4の第5送信波T5、第6送信波T6、第7送信波T7、及び第8送信波T8等)の位相を制御する。以下、図3及び図4を用いて、位相パターンに応じた送信波Tの変化について説明する。
【0141】
〔送信波の向きを略ランダムに変化させて送信波を送信〕
レーダ装置1は、移相器42の制御を介してアンテナ4が指向する向きを略ランダムに変化させて送信波Tを送信する。レーダ装置1は、アンテナ4が指向する向きの変化に応じて、送信波T(図3の第1送信波T1、第2送信波T2、第3送信波T3、及び第4送信波T4等)を送信する。
【0142】
位相パターンが、アンテナ4が指向する向きを規則的に変化させる位相パターンである場合、送信波Tは、例えば、第1送信波T1、第2送信波T2、第3送信波T3と順に変化する。このとき、送信波Tが第1送信波T1である場合と、送信波Tが第2送信波T2である場合の両方において、観測対象Oの領域Aは、反射波を生じる。したがって、送信波Tが第1送信波T1である場合と送信波Tが第2送信波T2である場合とにおいて反射波が連続的に生じ得る。これらの反射波は、連続的に生じるため、互いに干渉し得る。したがって、反射波の干渉が探知を妨げ得る。
【0143】
位相パターンが、アンテナ4が指向する向きを略ランダムに変化させる位相パターンである場合、送信波Tは、例えば、第1送信波T1、第4送信波T4、第2送信波T2のように不規則に変化する。これにより、観測対象Oの領域A等において反射波が連続的に生じることを軽減し得る。したがって、反射波それぞれの間における干渉を抑え、観測対象Oをより短い時間でより確実に探知し得る。
【0144】
〔送信波Tそれぞれの位相を略ランダムに変化させて送信波Tを送信〕
レーダ装置1は、移相器42の制御を介して送信波Tに関する送信信号それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる。レーダ装置1は、略ランダムに変化する送信信号それぞれに応じた送信波T(図4の第5送信波T5、第6送信波T6、第7送信波T7、及び第8送信波T8等)を送信する。
【0145】
図4に示すように、送信信号それぞれの位相を時間に応じてそれぞれ略ランダムに変化させる位相パターンは、アンテナ4が指向する向きを時間に応じて略ランダムに変化させる位相パターンより不規則な位相パターンである。したがって、反射波それぞれの間における干渉をよりいっそう抑え、観測対象Oをよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0146】
〔反射波Rから電気信号への変換を開始するようアンテナ4を制御〕
レーダ装置1は、反射波R(図5の第1反射波R1及び第2反射波R2並びに図6の第3反射波R3及び第4反射波R4等)から電気信号への変換を開始するようアンテナ4を制御する。以下、図5及び図6を用いて、位相パターンに応じたアンテナ4が指向する向き等の変化について説明する。
【0147】
〔アンテナが指向する向きを略ランダムに変化させて反射波を電気信号に変換〕
レーダ装置1は、移相器42の制御を介してアンテナ4が指向する向きを略ランダムに変化させて反射波Rを電気信号に変換する。アンテナ4が指向する向きは、図5に示す第1向きD1、第2向きD2、第3向きD3、及び第4向きD4に変化する。そして、アンテナ4が指向する向きと反射波Rの向きとが略一致する場合に、アンテナ4が反射波Rを電気信号に変換する。
【0148】
図5に示す例では、アンテナ4が指向する向きが第1向きD1である場合に、アンテナ4は、第1反射波R1を電気信号に変換する。また、アンテナ4が指向する向きが第1向きD1及び第2向きD2である場合に、アンテナ4は、第1反射波R1及び第2反射波R2を電気信号に変換する。
【0149】
位相パターンが、アンテナ4が指向する向きを規則的に変化させる位相パターンである場合、アンテナ4が指向する向きは、例えば、第1向きD1、第2向きD2、第3向きD3と順に変化する。このとき、第2反射波R2は、アンテナ4が指向する向きが第1向きD1である場合と、第2向きD2である場合とにおいて、連続的に電気信号に変換され得る。これらの電気信号は、連続的に生じるため、互いに干渉し得る。したがって、反射波に関する電気信号の干渉が探知を妨げ得る。
【0150】
位相パターンが、アンテナ4が指向する向きを略ランダムに変化させる位相パターンである場合、アンテナ4が指向する向きは、例えば、第1向きD1、第4向きD4、第2向きD2のように不規則に変化する。これにより、例えば、第2反射波R2が連続的に電気信号に変換されることを軽減し得る。したがって、反射波に基づく電気信号それぞれの間における干渉を抑え、観測対象Oをより短い時間でより確実に探知し得る。
【0151】
〔電気信号それぞれの位相を略ランダムに変化させて反射波を電気信号に変換〕
レーダ装置1は、移相器42の制御を介して電気信号それぞれの位相を略ランダムに変化させて反射波Rを電気信号に変換する。アンテナ4が指向する向きは、例えば、図6に示す第5向きD5、第6向きD6、第7向きD7、及び第8向きD8に変化する。そして、アンテナ4が指向する向きと反射波Rの向きとが略一致する場合に、アンテナ4が反射波Rを電気信号に変換する。
【0152】
図6に示す例では、アンテナ4が指向する向きが第5向きD5である場合に、アンテナ4は、第3反射波R3を電気信号に変換する。また、アンテナ4が指向する向きが第6向きD6である場合に、アンテナ4は、第2反射波R2を電気信号に変換する。すなわち、これらの反射波のいずれについても、反射波が連続的に電気信号に変換されることが軽減され得る。したがって、反射波に基づく電気信号それぞれの間における干渉をよりいっそう抑え、観測対象Oをよりいっそう短い時間でよりいっそう確実に探知し得る。
【0153】
〔観測対象を探知〕
レーダ装置1は、位相パターン、デジタル信号の時系列情報、及び所定のニューラルネットワークを用いて観測対象Oを探知する。
【0154】
複数のアンテナによって構成されるアレイアンテナは、複数のアンテナに関する位相を制御することによってアレイアンテナが指向する向きを様々な向きに変化させ得る。アレイアンテナを様々な向きに指向させて観測対象を探知する場合、アレイアンテナが指向する向きとアレイアンテナから観測対象への向きとが一致していなければ観測対象を探知することが難しい。指向する向きを変化させるパターンにより、アレイアンテナが指向する向きとアレイアンテナから観測対象への向きとが一致するまでに時間を要し得る。したがって、アレイアンテナを様々な向きに指向させて観測対象を探知する場合、観測対象の探知に時間を要し得る。
【0155】
ところで、単一のセンサを用いて観測対象を探知するシングルピクセルイメージングが知られている。シングルピクセルイメージングでは、センサと観測対象との間にフィルタ及び/又はミラーアレイ等の観測対象において生じた反射波を変化パターンに応じて変化させる仕組みを設ける。そして、この変化させる仕組みにおいて複数の変化パターンを高速に切り替える。シングルピクセルイメージングでは、変化した反射波の時系列情報を単一のセンサによって取得する。そして、変化パターンと取得した反射波の時系列情報とを用いて、観測対象を探知する。
【0156】
本実施形態のレーダ装置1によれば、所定の位相パターンに基づいて電気信号それぞれの位相を制御する処理によって、観測対象Oにおいて生じた反射波Rに基づく電気信号を変化させることができる。そして、位相が制御された電気信号それぞれが合成された合成信号に基づいて生成されたデジタル信号を取得する処理により、変化した反射波Rを単一のセンサによって取得する処理に相当する処理を行える。したがって、所定の位相パターンと該デジタル信号の時系列情報とを用いて観測対象Oを探知し得る。
【0157】
シングルピクセルイメージングでは、ニューラルネットワークを用いて電気信号の時系列情報を解析することにより、ニューラルネットワークを用いない場合より短い時間の時系列情報に基づいて観測対象をより確実に探知し得ることが知られている。本実施形態のレーダ装置1によれば、所定の位相パターン及びデジタル信号の時系列情報だけでなく、所定のニューラルネットワークをも用いた処理を行うため、比較的短い時間におけるデジタル信号の時系列情報を解析して観測対象Oをより確実に探知し得る。これにより、複数のアンテナによって構成されるアレイアンテナを様々な向きに指向させて観測対象Oを探知する場合より短い時間で観測対象を探知し得る。
【0158】
[ニューラルネットワークを用いた探知について]
図7を用いて、所定のニューラルネットワークが符号化層と復号化層とを備える深層ニューラルネットワークである場合について説明する。
【0159】
図7に示すニューラルネットワークは、符号化層L1と復号化層L2とを備える。また図7に示すニューラルネットワークは、入力ノードX1~X5を有する入力層及び出力ノードZ1~Z5を有する出力層を含む7の層を備える。すなわち、図7に示すニューラルネットワークは、4以上の層を備える深層ニューラルネットワークである。
【0160】
符号化層を備えるニューラルネットワークは、画像を識別する問題等の線形分離不可能な問題を比較的小さい計算量で解き得ることが知られている。位相パターンに応じて複雑に変化する反射波に基づいて観測対象を識別する処理は、線形分離不可能な問題を含み得る。したがって、図7に示すニューラルネットワークは、符号化層L1を備えるため、位相パターンに応じて複雑に変化する反射波に基づいて観測対象Oを識別する処理を比較的小さい計算量で実現し得る。
【0161】
符号化層を備えるニューラルネットワークによって識別した結果を、復号化層を用いて復号することにより、識別した結果を画像等の利用が容易である態様の情報に復号し得る。図7に示すニューラルネットワークは、復号化層L2を備えるため、符号化層L1によって識別した結果を、画像等の利用が容易である態様の情報に復号し得る。
【0162】
深層ニューラルネットワークは、深層学習を行い得るニューラルネットワークである。深層学習は、機械学習の手法であり、画像認識及び音声認識等によって例示される対象を認識する処理において優れた性能を発揮する手法である。観測対象Oを探知する探知処理は、観測対象Oを認識して探知する処理である。したがって、所定のニューラルネットワークが深層ニューラルネットワークであることにより、深層学習を行い、より短い時間の時系列情報に基づいて観測対象Oをより確実に探知し得る。
【0163】
したがって、符号化層L1と復号化層L2とを備え、4以上の層を備える深層ニューラルネットワークである図7に示すニューラルネットワークは、位相パターンに応じて複雑に変化する反射波に基づいて観測対象を識別し、画像等の利用が容易である態様の情報に復号する処理を比較的小さい計算量で実現し得る。そして、図7に示すニューラルネットワークは、深層学習を行い、より短い時間の時系列情報に基づいて観測対象Oをより確実に探知し得る。
【0164】
なお、図7に示すニューラルネットワークは、符号化層と復号化層とを備える深層ニューラルネットワークの一例を示すものであり、入力ノードの数、符号化層L1及び/又は復号化層L2の構成、符号の数、出力ノードの数のそれぞれは、符号化層と復号化層とを備える深層ニューラルネットワークを構成するものであれば、図7に示したものに限定されない。
【0165】
図8は、所定のニューラルネットワークを用いて観測対象の形状を探知する処理の一例を示す図である。元画像P0は、10の観測対象それぞれの形状を示す画像である。10の観測対象のそれぞれは、算用数字の0~9を示す形状をそれぞれ有する。第1画像P1、第2画像P2、第3画像P3、第4画像P4、第5画像P5、及び第6画像P6のそれぞれは、10の観測対象について、後述する所定の位相パターンを用いてアンテナ4が指向する向きを一定時間ごとに変化させた場合に相当するデジタル信号の時系列情報と、所定のニューラルネットワークとを用いて観測対象の形状を識別する処理を行った場合に得られた、ニューラルネットワークによって復号された観測対象それぞれの形状を示す画像である。
【0166】
図8に示す例における所定の位相パターンにおいて、アンテナ4が指向する向きは、アンテナ4から観測対象がある領域に含まれる1024の小領域のいずれかに向かう向きとなる。1024の小領域は、観測対象がある略長方形状の領域を32行32列に配列された略長方形状の領域に分割した小領域である。図8に示す例における所定の位相パターンは、アンテナ4が指向する向きがアンテナ4から1024の小領域から略ランダムに選択されたいずれかの小領域へ向かう向きとなるように、アンテナ4が指向する向きを略ランダムに変化させる位相パターンに相当する。
【0167】
図8の第1画像P1、第2画像P2、第3画像P3、第4画像P4、第5画像P5、及び第6画像P6のそれぞれは、アンテナ4が指向する向きをそれぞれ1024回、512回、256回、128回、64回、及び32回略ランダムに変化させた場合に対応する時系列情報と所定のニューラルネットワークとを用いて観測対象の形状を探知した場合に得られた10の観測対象それぞれの形状を示す画像である。なお、変化の回数は、探知処理を開始するときにおいていずれの向きにも指向していないアンテナ4をアンテナ4から小領域のいずれかへ向かう向きに指向させるよう変化させる変化の回数を含む。アンテナ4が指向する向きを一定時間ごとに変化させるため、時系列情報に関する時間は、変化の回数に比例する。
【0168】
所定の位相パターンと同様の向きにアンテナ4が指向する向きを規則的に変化させ、ニューラルネットワークを用いずに観測対象の形状を識別する処理では、アンテナ4が指向する向きをアンテナ4から観測対象がある領域に含まれる1024の小領域それぞれに向かうよう変化させることにより、観測対象の形状を識別できる。このとき、アンテナ4が指向する向きは、1024回変化する。したがって、時系列情報に関する時間は、アンテナ4が指向する向きを1024回変化させることに応じた時間となる。
【0169】
一方、図8の第1画像P1、第2画像P2、第3画像P3、第4画像P4、第5画像P5、及び第6画像P6のそれぞれにおける時系列情報に関する時間は、アンテナ4が指向する向きを規則的に変化させる場合の時間を100%としてそれぞれ100%(第1画像P1)、50%(第2画像P2)、25%(第3画像P3)、12.5%(第4画像P4)、6.25%(第5画像P5)、及び3.125%(第6画像P6)となる。
【0170】
時系列情報に関する時間が規則的に変化させる場合の6.25%である図8の第5画像P5では、10の観測対象のうち、算用数字の3の形状を有する観測対象及び算用数字の8の形状を有する観測対象を除くいずれの観測対象の形状についても、観測対象の形状それぞれをほぼ正確に探知している。時系列情報に関する時間が規則的に変化させる場合の12.5%である図8の第4画像P4では、算用数字の8の形状を有する観測対象の形状をほぼ正確に探知している。また、算用数字の3の形状を有する観測対象についても、その形状を判別し得る精度で観測対象を探知している。
【0171】
したがって、本実施形態のレーダ装置1によれば、アンテナ4が指向する向きを規則的に変化させる場合のおおよそ6.25%から12.5%の時間に応じた時系列情報を用いて観測対象の形状を探知し得る。したがって、アンテナ4が指向する向きを規則的に変化させる場合のおおよそ10%の時間に応じた時系列情報を用いて観測対象の形状を探知し得る。すなわち、本実施形態のレーダ装置1によれば、アンテナ4が指向する向きを規則的に変化させ、ニューラルネットワークを用いずに観測対象の形状を識別する処理より短い時間で観測対象をより確実に探知し得る。
【0172】
〔探知を終了〕
レーダ装置1を利用する利用者は、レーダ装置1の利用を終了する指令をレーダ装置1に送信する。レーダ装置1は、該指令を受信し、送信機3を制御して送信信号の生成を終了し、アンテナ4を制御して反射波から電気信号への変換を終了する。これにより、レーダ装置1は、観測対象Oを探知する探知処理を終了する。
【0173】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限るものではない。また、上述の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したものに過ぎず、本発明による効果は、上述の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。また、上述の実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0174】
1 レーダ装置
2 コントローラ
3 送信機
4 アンテナ
41 アンテナ本体
42 移相器
43 アンテナ素子
5 支持構造
A 領域
D 向き
L1 符号化層
L2 復号化層
O 観測対象
P 画像
R 反射波
T 送信波
X 入力ノード
Y 符号
Z 出力ノード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8