(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130156
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】細胞の表現型と自家蛍光の対応データ作成方法及びデータ使用方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20220830BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220830BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20220830BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N21/64 Z
G06N20/00 130
C12M1/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029169
(22)【出願日】2021-02-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】301037213
【氏名又は名称】独立行政法人製品評価技術基盤機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八幡 穣
(72)【発明者】
【氏名】八幡 志央美
(72)【発明者】
【氏名】平山 智宏
(72)【発明者】
【氏名】野村 暢彦
(72)【発明者】
【氏名】森 浩二
(72)【発明者】
【氏名】芹田 龍郎
(72)【発明者】
【氏名】高久 洋暁
【テーマコード(参考)】
2G043
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA17
2G043DA06
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2G043FA03
2G043FA06
2G043GA06
2G043GA08
2G043GB21
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA09
2G043HA15
2G043JA01
2G043JA04
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2G043LA01
2G043LA02
2G043NA01
2G043NA02
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2G043NA06
4B029AA07
4B029BB02
4B029BB04
4B029BB06
4B029BB11
4B029BB12
4B029BB13
4B029FA01
4B029FA12
4B063QA01
4B063QQ06
4B063QQ07
4B063QQ08
4B063QQ09
4B063QQ10
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】細胞の物質生産能力または生産高を非侵襲的かつ簡易に予測することができる対応データ作成方法及びデータ使用方法を提供すること。
【解決手段】対応データ作成方法は、所定の細胞集団について、各細胞において、表現型を反映する表現型データを取得し、各細胞において、励起光を照射して得られる自家蛍光に基づいて生成される発光データを取得し、表現型データ及び発光データを対応付けた対応付けデータを作成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の細胞集団について、
各細胞において、表現型を反映する表現型データを取得し、
各細胞において、励起光を照射して得られる自家蛍光に基づいて生成される発光データを取得し、
前記表現型データ及び前記発光データを対応付けた対応付けデータを作成する、
対応データ作成方法。
【請求項2】
特定の表現型を有する細胞からなる細胞集団について、
前記細胞集団に励起光を照射して得られる自家蛍光に基づいて生成される発光データを取得し、
前記表現型と、前記発光データとを対応付けた対応付けデータを作成する、
対応データ作成方法。
【請求項3】
複数の前記細胞は、単層に存在する、
請求項1又は2に記載の対応データ作成方法。
【請求項4】
互いに異なる複数の焦点面において実施されるものである、
請求項1~3のいずれかに記載の対応データ作成方法。
【請求項5】
前記自家蛍光に基づいて生成される発光データは、波長帯域が互いに異なる複数の励起光を前記細胞に照射して得られる自家蛍光の強度データを含む、
請求項1~4のいずれかに記載の対応データ作成方法。
【請求項6】
前記細胞が、動物細胞、植物細胞、酵母細胞、真菌類細胞、微細藻類細胞、細菌類、古細菌類、ウイルス、ファージのいずれか及びそれらが産生する胞子、芽胞、膜小胞のいずれかを含む請求項1~5のいずれかに記載の対応データ作成方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の対応データ作成方法によって作成された前記対応付けデータを用いてスクリーニングするデータ使用方法。
【請求項8】
前記対応付けデータを特徴量、細胞内で生産される生産物の量を目的変数とする学習用データによって学習した回帰モデルを用いて、予測対象の前記対応付けデータから前記生産物の生産量を予測する、
請求項7に記載のデータ使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の表現型と自家蛍光の対応データ作成方法及びデータ使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顕微鏡装置を用いて、試料が発する光を観察する際、その光の強度や、スペクトルが算出される。観察者は、算出されたスペクトル等を見て、試料の特性等を確認する。例えば、特許文献1には、試料が含む細胞の自家蛍光のスペクトルを算出し、そのスペクトルから細胞の種別等を同定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細胞の物質生産能力または生産高を評価する場合、細胞を大量に培養したうえで、細胞破砕や細胞内物質の染色を行うのが主流である。これらの手法は、侵襲的であり、細胞の培養や前処理や破砕に時間や手間を要していた。特に、自然界から物質生産性の高い株を選抜するための、候補株の性能評価に多くの手間と時間を要する。このため、非侵襲的かつ簡易に物質生産を予測することが求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、細胞の物質生産能力または生産高を非侵襲的かつ簡易に予測することができる対応データ作成方法及びデータ使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る対応データ作成方法は、所定の細胞集団について、各細胞において、表現型を反映する表現型データを取得し、各細胞において、励起光を照射して得られる自家蛍光に基づいて生成される発光データを取得し、前記表現型データ及び前記発光データを対応付けた対応付けデータを作成する。
【0007】
本発明に係る対応データ作成方法は、特定の表現型を有する細胞からなる細胞集団について、前記細胞集団に励起光を照射して得られる自家蛍光に基づいて生成される発光データを取得し、前記表現型と、前記発光データとを対応付けた対応付けデータを作成する。
【0008】
本発明に係る対応データ作成方法は、上記発明において、複数の前記細胞は、単層に存在する。
【0009】
本発明に係る対応データ作成方法は、上記発明において、互いに異なる複数の焦点面において実施されるものである。
【0010】
本発明に係る対応データ作成方法は、上記発明において、前記自家蛍光に基づいて生成される発光データは、波長帯域が互いに異なる複数の励起光を前記細胞に照射して得られる自家蛍光の強度データを含む。
【0011】
本発明に係る対応データ作成方法は、上記発明において、前記細胞が、動物細胞、植物細胞、酵母細胞、真菌類細胞、微細藻類細胞、細菌類、古細菌類、ウイルス、ファージのいずれか及びそれらが産生する胞子、芽胞、膜小胞のいずれかを含む。
【0012】
本発明に係るデータ使用方法は、上記発明に係る対応データ作成方法によって作成された前記対応付けデータを用いてスクリーニングする。
【0013】
本発明に係るデータ使用方法は、上記発明において、前記対応付けデータを特徴量、細胞内で生産される生産物の量を目的変数とする学習用データによって学習した回帰モデルを用いて、予測対象の前記対応付けデータから前記生産物の生産量を予測する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細胞の物質生産能力または生産高を非侵襲的かつ簡易に予測することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡システムの概略構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態に係る油脂生産能予測方法を説明するフローチャートの一例である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態における観察時の試料について説明する図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡システムの走査方法を説明する図である。
【
図5】
図5は、透過/反射光画像の一例を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、油脂酵母であるLipomyces starkeyiの観察結果の一例であって、検体に対して405nmの励起光を照射した際に得られる自家蛍光像(a)及び、波長に対する強度の波形(b)を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、油脂酵母であるLipomyces starkeyiの観察結果の一例であって、検体に対して488nmの励起光を照射した際に得られる自家蛍光像(a)及び、波長に対する強度の波形(b)を示す図である。
【
図6C】
図6Cは、油脂酵母であるLipomyces starkeyiの観察結果の一例であって、検体に対して561nmの励起光を照射した際に得られる自家蛍光像(a)及び、波長に対する強度の波形(b)を示す図である。
【
図6D】
図6Dは、油脂酵母であるLipomyces starkeyiの観察結果の一例であって、検体に対して640nmの励起光を照射した際に得られる自家蛍光像(a)及び、波長に対する強度の波形(b)を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡システムにおける油脂生産能の検出方法の一例を説明するための図である。
【
図8】
図8は、検体染色時の透過/反射光画像の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、Lipomyces starkeyiの油脂生産量の経時変化(a)及び、励起光に対する自家蛍光強度(b)を示す図である。
【
図10】
図10は、Lipomyces starkeyiの株のうち潜在的な油脂生産特性が異なる三つの株の励起光に対する自家蛍光強度を示す図である。
【
図11】
図11は、学習装置による予測モデルの生成について説明する図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施の形態に係る油脂生産能予測のための予測モデルの生成方法を説明するフローチャートの一例である。
【
図13】
図13は、予測モデルの予測結果の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡システムにおける走査によって生成される合焦画像を説明する図である。
【
図15】
図15は、絶対強度における蛍光波長と油脂生産量との相関の一例を示す図(その1)である。
【
図16】
図16は、
図15に示す相関関係において、相関が高い強度と油脂生産量との相関の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、絶対強度における蛍光波長と油脂生産量との相関の一例を示す図(その2)である。
【
図18】
図18は、
図17に示す相関関係において、相関が高い強度と油脂生産量との相関の一例を示す図である。
【
図19】
図19は、相対強度における蛍光波長と油脂生産量との相関の一例を示す図(その1)である。
【
図20】
図20は、
図19に示す相関関係において、相関が高い強度と油脂生産量との相関の一例を示す図である。
【
図21】
図21は、相対強度における蛍光波長と油脂生産量との相関の一例を示す図(その2)である。
【
図22】
図22は、
図20に示す相関関係において、相関が高い強度と油脂生産量との相関の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。
【0017】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡システムの概略構成を模式的に示す図である。同図に示す顕微鏡システム1は、共焦点レーザスキャン顕微鏡100により取得された画像データに基づいて、画像中に写り込んだ細胞の物質生産能の予測を行って、その予測結果や取得した画像の表示を行うシステムである。この顕微鏡システム1は、
図1に示すように、レーザ光を照射して試料(以下、検体ということもある)の自家蛍光、又は、透過/反射光を取得する共焦点レーザスキャン顕微鏡100と、顕微鏡システム1を統括的に制御する制御装置200と、共焦点レーザスキャン顕微鏡100が取得した光に基づく画像データ等の各種データを生成する画像処理装置300と、画像処理装置300が生成した表示用の画像データに基づく画像を表示する表示装置400とを備える。ここで、微生物は、細菌、菌類、ウイルス、微細藻類、及び原生動物等を含んでいる。なお、本実施の形態において、撮像対象となる試料は、動物細胞、植物細胞、酵母細胞、真菌類細胞、微細藻類細胞、細菌類、古細菌類、ウイルス、ファージのいずれか、及びそれらが産生する胞子、芽胞、膜小胞のいずれかである。
【0018】
共焦点レーザスキャン顕微鏡100は、ステージ101と、対物レンズ102と、レーザ光源103と、レンズ104と、コリメートレンズ105、112と、ビームスプリッター106と、結像レンズ107、114と、コンフォーカルピンホール108と、検出器109と、走査ミラー110、113と、透過用光源111とを備える。以下、ステージ101の検体載置面と平行な平面上の直交する二つの軸をX軸、Y軸とし、この平面に直交する軸をZ軸とする。なお、Z軸は、対物レンズ102の光軸と平行であるものとして説明する。
【0019】
ステージ101は、検体を載置する。ステージ101は、制御装置200の制御のもと、例えばモータ等の駆動源を用いてZ軸方向に移動可能に構成される。検体は、微生物を含む溶液や培地であり、例えばシャーレやスライドガラス等の保持部材によって保持された状態でステージ101に載置されている。
【0020】
対物レンズ102は、ビームスプリッター106が反射したレーザ光をステージ101に向けて集光するとともに、ステージ101上の検体からの光を平行光にしてビームスプリッター106に入射させる。
【0021】
レーザ光源103は、所定の波長を有するレーザ光を出射する。具体的に、レーザ光源103は、検体を励起するための励起波長に応じた波長のレーザ光を出射する。レーザ光源103は、使用する波長のレーザ光をそれぞれ出射可能な複数の光源を有するものであってもよいし、白色のレーザ光を照射して、フィルタによって出射する光の波長を選択できるようにしてもよい。
【0022】
レンズ104は、レーザ光源103が発したレーザ光を放射状のレーザ光として出射する。
【0023】
コリメートレンズ105は、レンズ104を通過した放射状のレーザ光を平行光に変換して、ビームスプリッター106に出射する。
【0024】
ビームスプリッター106は、入射する光の一部を通過させ、残りの光を反射する。具体的に、ビームスプリッター106は、レーザ光源103から出射された光の一部を対物レンズ102側に折り曲げるとともに、対物レンズ102から入射した光の一部を通過させることによって結像レンズ107に入射させる。ビームスプリッター106は、例えばハーフミラーを用いて構成され、入射したレーザ光のうち、半分のレーザ光を通過させるとともに、残りの半分のレーザ光を反射する。
【0025】
結像レンズ107は、ビームスプリッター106を通過した光を結像する。
【0026】
コンフォーカルピンホール108は、結像レンズ107によって結像された光の少なくとも一部を通過させる。コンフォーカルピンホール108には、光が通過可能な孔であるピンホール108aが形成されている。また、コンフォーカルピンホール108は、対物レンズ102と共役な位置に設けられる。このため、コンフォーカルピンホール108では、対物レンズ102の焦点面からの光がピンホール108aを通過し、合焦していない位置からの光が遮断される。例えば、結像レンズ107により結像されるレーザ光のスポット径が0.2μmである場合、結像位置において、約0.03μm2の範囲からの光がピンホール108aを通過する。なお、ピンホール108aの径と、焦点空間の大きさは設定の変更が可能である。
【0027】
検出器109は、入射した光を設定された波長帯域に分離する反射型回折格子と、得られた光を光電変換するとともに、変換した電気信号の電流増幅を行う複数の光電子増倍管(PhotoMultiplier Tube:PMT、以下、チャンネルということもある)とを用いて構成される。検出器109は、例えば反射型回折格子によって互いに波長帯域の異なる32個の光に分離し、分離した光が、32個の光電子増倍管にそれぞれ入射する。各光電子増倍管は、入射した光をそれぞれ光電変換して電気信号を出力する。なお、光電子増倍管の数はこれに限らない。
【0028】
走査ミラー110は、制御装置200による制御のもと、検体の焦点面PF上におけるレーザ光の照射位置を制御する。走査ミラー110は、例えばX位置制御ミラーと、Y位置制御ミラーとを用いて構成され、XY平面上の所定の位置にレーザ光を導光する。走査ミラー110は、制御装置200による制御のもと、各位置制御ミラーの角度を変化させることによってレーザ光の照射位置を予め設定された走査経路に沿って移動させる。
【0029】
透過用光源111は、制御装置200の制御のもと、ステージ101を透過させる透過光を出射する。透過用光源111は、例えば、ハロゲンランプ、レーザ光源等を用いて構成される。
【0030】
コリメートレンズ112は、透過用光源111が出射した放射状の光を平行光に変換して、走査ミラー113に出射する。
【0031】
走査ミラー113は、制御装置200による制御のもと、検体の焦点面PF上における透過用の光の照射位置を制御する。走査ミラー113は、走査ミラー110と同様に、例えばX位置制御ミラーと、Y位置制御ミラーとを用いて構成される。
【0032】
結像レンズ114は、走査ミラー113を通過した光を結像する。
【0033】
次に、制御装置200の構成について説明する。制御装置200は、制御部201と、入力部202とを備える。なお、制御装置200は、当該制御装置200の動作に必要な各種情報を記録する記録部(図示せず)を備えている。
【0034】
制御部201は、演算及び制御機能を有するCPU(Central Processing Unit)や各種演算回路等を用いて構成される。制御部201は、記録部が格納する情報を読み出して各種演算処理を実行することによって顕微鏡システム1を統括して制御する。制御部201は、レーザ制御部203と、走査制御部204と、透過光制御部205とを有する。
【0035】
レーザ制御部203は、制御プログラムや、入力部202が受け付けた指示情報に基づいて、レーザ光源103によるレーザ光の出射を制御する。具体的に、レーザ制御部203は、レーザ光の出射タイミングの制御や、出射するレーザ光の波長の制御を行う。レーザ制御部203は、例えば、パルス制御によってレーザ光を間欠的に出射する制御を行う。
【0036】
走査制御部204は、制御プログラムや、入力部202が受け付けた指示情報に基づいて、ステージ101のZ方向の位置の制御や、走査ミラー110によるレーザ光の照射位置の制御を行う。
【0037】
透過光制御部205は、制御プログラムや、入力部202が受け付けた指示情報に基づいて、透過用光源111の駆動制御を行う。
【0038】
入力部202は、各種情報の入力を受け付ける。入力部202は、キーボード、マウス、タッチパネル等のユーザインタフェースを用いて構成される。
【0039】
次に、画像処理装置300の構成について説明する。画像処理装置300は、検出信号受信部301と、データ生成部302と、二次元画像生成部303と、三次元画像生成部304と、予測部305と、色相重畳部306と、記録部307とを有する。
【0040】
検出信号受信部301は、検出器109から、各チャンネルの電気信号を受信する。検出信号受信部301は、受信した各チャンネルの電気信号と、走査面上の位置情報(例えばレーザ光照射位置)とを対応付けてデータ生成部302に出力する。なお、検出信号受信部301は、透過/反射光検出用と、自家蛍光検出用とを個別に設けるようしてもよい。
【0041】
データ生成部302は、検出信号受信部301から受信した電気信号に基づく光の強度と、走査面上の位置情報とを対応付けたデータを生成する。データ生成部302は、自家蛍光データ生成部302aと、透過/反射光データ生成部302bと、対応データ生成部302dとを有する。
【0042】
自家蛍光データ生成部302aは、検出信号受信部301が受信した自家蛍光に係る電気信号であって、各チャンネルの電気信号を取得して、所定の焦点面上の1つの座標ごとに強度データ及び/又は蛍光スペクトル(スペクトルデータ)を生成する。自家蛍光データ生成部302aは、走査面上の一つの位置について、照射された励起光が一つの場合は、一つの蛍光スペクトルを生成し、互いに異なる複数の波長の励起光が異なるタイミングで照射された場合には、励起光に応じて複数の蛍光スペクトルを生成する。ここでいう「蛍光スペクトル」とは、励起光として所定の波長のレーザ光を照射した際に生じた自家蛍光の「波長に対する強度分布」を意味する。また、ここでいう「強度」とは、例えば得られた自家蛍光を光電変換した信号値を指す。蛍光スペクトルは、例えばプロット間を補完して平滑化処理等が施されている波形からなる。なお、本発明では複数の蛍光スペクトルからなるデータをスペクトルプロファイルデータと呼ぶことがある。本明細書において、「自家蛍光データ」とは、自家蛍光の強度データ、スペクトルデータ及びスペクトルプロファイルデータのいずれか又はすべてを含む。自家蛍光データ生成部302aは、走査面上の各位置(所定の焦点面上の複数の座標)について、励起波長に応じて生成される蛍光スペクトルを対応付けた自家蛍光データを生成する。
【0043】
透過/反射光データ生成部302bは、検出信号受信部301が受信した、検体を透過した透過光、又は、検体が反射した反射光に係る検出信号を取得して、この取得した検出信号に基づく光の強度と、走査面上の位置情報とを対応付けた透過/反射光データを生成する。透過/反射光データ生成部302bは、例えば、各チャンネルの電気信号に基づく光の強度を合算して、その走査面上の位置における光の強度とする。
【0044】
油脂生産能データ生成部302cは、検出信号受信部301が受信した、検体が発した光に係る検出信号を取得して、この取得した検出信号に基づく光の強度と、走査面上の位置情報とを対応付けた油脂生産能データを生成する。本実施の形態において、油脂生産能データは、細胞が生産する油脂の生産量(油脂生産量:lipid amount)に対応する光強度データであり、走査面上の位置情報と対応付けられる。また、油脂生産能データは、所定の期間培養した細胞の油脂生産量の経時変化や、特定の油脂を生産する細胞の油脂生産量、互いに異なる種別の油脂を生産する油脂生産量を含む。なお、油脂生産能データ生成部302cは、細胞を破砕して得られた油脂生産量に基づいて油脂生産能データを生成するようにしてもよい。本実施の形態では、油脂生産能データが含む油脂生産能(量)が、表現型を反映する表現型データに相当する。
【0045】
対応データ生成部302dは、所定の焦点面上の1つの座標における自家蛍光データ、及び、透過/反射光データからなる対応データ、又は、自家蛍光データ及び油脂生産能データからなる学習用の対応データを生成する。対応データ生成部302dは、複数の座標において自家蛍光データ、反射光データ及び油脂生産能データが生成されていれば、各座標について、対応データや学習用対応データを生成する。また、同一の座標において複数の励起光による自家蛍光データが生成されていれば、その座標に各自家蛍光データを対応付ける。
【0046】
ここで、所定の焦点面上の1つの座標において透過/反射光データと自家蛍光データとを対応付けることの意義について述べる。透過/反射光の強度は、所定の焦点面上の1つの座標における、細胞等の検体の存在を反映する。当該座標に検体(細胞)が存在しなければ光の強度は低く、検体(細胞)が存在すれば高い強度の光が得られる。これに対し、透過光は、当該座標に検体(細胞)が存在しなければ光の強度は高く、検体(細胞)が存在すれば低い強度の光が得られる。高倍率での反射光を取得すれば、細胞の輪郭部分からの光、細胞内部からの光、さらには核など内部の細胞内小器官からの光を得ることもできる。このようにして、ある座標における検体(細胞)の有無、或いは、ある座標が検体(細胞)のどの部位に相当するかの情報を取得し、これと当該座標における自家蛍光データを用いることにより、これまで不可能であった個々の細胞レベル、さらには細胞内小器官レベルでの解析を行うことが可能となる。
【0047】
二次元画像生成部303は、データ生成部302が生成した各種データに基づいて、1フレームの表示用画像に対応する二次元画像データを生成する。二次元画像生成部303は、例えば、透過光に基づく合焦画像データを生成する場合、透過/反射光データ生成部302bが生成した透過光データに基づいて、画素位置ごとに輝度情報を付与した合焦画像データを、走査した走査面の数に応じて一つ又は複数生成する。また、二次元画像生成部303は、照射した励起光により生じた自家蛍光による蛍光画像データを生成する場合、対応データ生成部302dが生成した対応データのうちの蛍光スペクトルに基づいて、画素位置ごとに輝度情報を付与した蛍光画像データを、走査した走査面の数に応じて一つ又は複数生成する。二次元画像生成部303は、生成された1フレームの二次元画像データに対してゲイン処理、コントラスト処理、γ補正処理等の公知の技術を用いた画像処理を行うとともに、表示装置400の表示仕様に応じた処理を施すことによって表示用の画像データを生成する。
【0048】
三次元画像生成部304は、二次元画像生成部303が生成した二次元画像データをもとに、三次元画像データを生成する。三次元画像生成部304は、各フレームにおける輝度情報を、三次元空間上に付与することによって三次元画像データを生成する。
【0049】
ここで、レーザ光照射位置は、二次元画像生成部303及び三次元画像生成部304が生成する画像データの空間情報と対応付いている。空間位置は、二次元であればX軸上の画素の位置(X位置)及びY軸上の画素の位置(Y位置)からなる位置情報であり、三次元であればX位置、Y位置、及びZ軸上の画素の位置(Z位置)からなる位置情報である。例えば、走査面は、Z軸と直交する平面に対応し、走査面上の位置は、その走査面におけるX位置とY位置とによって表現される。
【0050】
予測部305は、データ生成部302において生成された対応データを用いて、油脂生産能を予測する。予測部305は、学習装置500から取得した予測モデルを用いて油脂生産能を予測する。また、予測部305は、未知の自家蛍光スペクトルを有する細胞の油脂生産能を予測する。
【0051】
色相重畳部306は、予測部305の予測情報に基づいて、画像中の対応する画素位置に、設定された色相を重畳する。具体的に、色相重畳部306は、表示対象画像が三次元画像であり、予測油脂生産量に応じて色相が設定されている場合、三次元画像データに対して、予測油脂生産量に該当する色相を配色する処理を施す。色相重畳部306は、色相を重畳した重畳画像データを表示装置400に出力する。この重畳画像データは、二次元画像データ又は三次元画像データに、色相に関する情報を付与したデータである。なお、色相重畳部306は、細胞の種別に応じた色相を重畳した重畳画像データを生成してもよい。
【0052】
記録部307は、画像処理装置300の動作を実行するためのプログラムを含む各種プログラムを記録する。記録部307は、各種プログラム等が予めインストールされたROM(Read Only Memory)や、演算パラメータ等を記録するRAM(Random Access Memory)等を用いて構成される。記録部307は、予測部305により生成された予測結果や、学習装置500から取得した予測モデル等を記録してもよい。
【0053】
表示装置400は、液晶又は有機EL(Electro Luminescence)を用いて構成され、画像処理装置300にて生成された画像等を表示する。表示装置400は、制御装置200にて生成された各種情報を表示するようにしてもよい。
【0054】
学習装置500は、入力された学習用対応データの特徴を学習し、一細胞ごとの油脂生産能を目的変数とする油脂生産能予測モデル(以下、単に予測モデルともいう)を生成する。学習装置500は、構築した予測モデルの精度を、学習に用いなかった対応データを使用して評価し、汎化能の高い予測モデルを構築する。学習装置500では、評価を繰り返すことによって、予測精度の高い予測モデルを構築する。学習装置500は、演算及び制御機能を有するCPUや各種演算回路や、各種プログラム等が予めインストールされたROMや、演算パラメータ等を記録するRAM等のメモリ等を用いて構成される。
【0055】
次に、顕微鏡システム1による油脂生産能予測方法について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施の形態に係る油脂生産能予測方法を説明するフローチャートの一例である。以下、得られた自家蛍光や予測モデルに基づいて、細胞を含む検体の油脂生産能予測を行う流れを説明する。
【0056】
本実施の形態に係る油脂生産能予測方法では、検体中に含まれる複数の細胞を存在させて単層にする。例えば、ディッシュに載置した複数の細胞を存在させ、ゲルによって被覆して複数の細胞を固定し、単層状態を維持する。
【0057】
図3は、本発明の一実施の形態における観察時の試料について説明する図である。まず、ディッシュ600に複数の細胞700(細胞集団)を載置し、ディッシュ面に存在させる。この際、細胞の特性によって、当該細胞自体がディッシュ面上を移動して存在するか、使用者の操作等によって細胞700を存在させる。その後、細胞700を、ゲル601によって被覆して、ディッシュ600上の細胞700を固定する。各細胞700は、ディッシュ600上で培養される。観察時は、細胞700が固定されたディッシュ600を、ステージ101に載置する。この際、ディッシュ600上の複数の細胞700は、XY平面において存在して単層をなす。なお、ゲル601は、光透過性を有するハイドロゲル(例えばアガロースゲル)を用いることができる。また、ゲル601に代えてシートを用いてもよいし、ディッシュ600の検体載置面に、細胞を直接固定できるコーティング処理(例えばポリリジンコーティング)を施してもよい。
【0058】
上述した細胞700を保持したディッシュ600をステージ101に載置した後、制御部201の制御のもと、検体に対し、透過/反射光を取得するために予め設定された光を照射する(ステップS1)。検出信号受信部301が、検体を透過した透過光、又は、検体が反射する反射光に応じた検出信号を取得する。本実施の形態では、走査ミラー110又は113を制御して、透過/反射光取得用の光の焦点位置を三次元的に走査して透過/反射光を取得し、三次元空間のデータを生成するものとして説明する。
【0059】
ここで、顕微鏡システム1による走査方法について、
図4を参照して説明する。
図4は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡システムの走査方法を説明する図である。共焦点レーザスキャン顕微鏡100では、あるZ位置の焦点面において、XY平面上を走査して検体からの光を受光した後、Z位置を変更して、変更後のZ位置におけるXY平面上を走査する。例えば、
図1に示すZ走査範囲R
Zにおいて設定されたZ位置ごとに走査を行って、各Z位置において焦点面上の複数の位置から光(反射光又は自家蛍光)を得る。共焦点レーザスキャン顕微鏡100では、生成する画像に応じて、ビームスプリッター106や、検出器109の構成を適宜変更可能である。
【0060】
例えば、
図4に示すように、焦点面P
F1におけるレーザ光の走査を行った後、ステージ101をZ軸方向に移動して、移動後にレーザ光の焦点が配置される焦点面P
F2におけるレーザ光の走査を行う。これを、予め設定されているZ走査範囲R
Zにおける焦点面P
F3、P
F4、P
F5、P
F6、P
F7、・・・と順次走査を行う。
【0061】
XY平面における走査方法について、例えば、
図4に示すように、矩形をなす焦点面(
図4では焦点面P
F7)の一つの角部からレーザ光を照射して、照射領域であるスポットSPからの光を受光する。このスポットSPをジグザグに走査することによって、焦点面P
F7において、1枚の二次元画像(合焦画像)を生成するためのデータ数に対応する光を取得することができる。このスポットSPの径を、例えば一つの画素(モニタに表示される1つのドットに相当)のサイズと略同等とすれば、二次元画像及び三次元画像の色を画素単位で表現することができ、さらには油脂生産量等の情報に対応する視覚情報を画素単位で配色することが可能である。「画素のサイズと略同等」とは、例えば、スポットSPを円とした場合、画素に内接する大きさとほぼ同じサイズのことをいう。なお、上述した走査経路は一例であり、焦点面を走査できれば、この経路に限らない。なお、スポットSPの径は、光学顕微鏡の分解能の限界である約0.2μmを下限として、コンフォーカルピンホールの径を変更することにより適宜調節しうる。
【0062】
ステップS1に続くステップS2において、透過/反射光データ生成部302bは、検出信号受信部301が受信した光に係る検出信号を取得し、取得した検出信号に基づいて透過/反射光データを生成する(透過/反射光データ生成ステップ)。
【0063】
図5は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡システムにおける透過/反射光画像の一例を示す図である。各焦点面の走査によって、
図5に示すような画像が得られる。
図5に示す画像は、透過光に基づく画像の一例である。
図5に示す画像によって、細胞の輪郭や、走査面における位置を示すことができる。
【0064】
ステップS2に続くステップS3において、制御部201の制御のもと、検体に対し、自家蛍光を取得するために予め設定された波長又は波長帯域の光(励起光)を照射する。なお、本実施の形態では、自家蛍光を取得するための励起光と、透過/反射光を取得するための照射光とを異なるタイミングで照射して取得するものとして説明するが、例えば同じ波長の光を、透過/反射光、及び自家蛍光を取得するための光として用いる場合には、試料に対して光を一回のみ照射し、検出時間に差を設けることによって、透過/反射光、及び、自家蛍光を取得するようにしてもよい。
【0065】
その後、自家蛍光データ生成部302aは、検出信号受信部301が受信した自家蛍光に係る検出信号を取得し、取得した検出信号に基づいて自家蛍光データを生成する(ステップS4)。この自家蛍光データは、ステップS1において検体に照射された励起光によって生じた自家蛍光の蛍光スペクトルを含んでもよい。また、必要に応じて各細胞の自家蛍光の経時変化を含む。
【0066】
なお、ステップS1、2及びステップS3、4の各データ生成処理は、ステップS3、4を先に行ってもよいし、並行して処理を実行するようにしてもよい。
【0067】
ステップS4に続くステップS5において、制御部201は、ステップS3で照射した自家蛍光取得用の励起光の波長(又は波長帯域)とは異なる波長(又は波長帯域)の励起光を照射するか否かを判断する。制御部201は、予め設定されている走査条件や、入力部202を介して設定された走査条件を参照し、さらに照射すべき励起光があるか否かを判断する。
【0068】
ステップS2、S4では、1スポット、すなわち、あるZ位置の焦点面における一点について、ある一つの励起波長のレーザ光を照射した際に取得される自家蛍光の蛍光スペクトル、又は、透過/反射光強度が生成される。予め設定されている励起波長が複数の場合は、各励起波長のレーザ光の走査を繰り返すことによって、同じ位置において異なる励起波長の蛍光スペクトルを生成する。この繰り返しにより、複数の焦点面における各位置の、励起波長に応じた蛍光スペクトルが生成される。ここでいう「焦点面」とは、レーザ光の光軸と直交する面であって、レーザ光の焦点が配置されている面のことをさす。
【0069】
制御部201は、ステップS3で照射した波長とは異なる波長の励起光の照射をする必要があると判断した場合(ステップS5:Yes)、ステップS3に戻り、設定される励起光を用いた走査を繰り返す。これに対し、制御部201は、さらなる励起光の照射を行う必要がないと判断した場合(ステップS5:No)、ステップS6に移行する。
【0070】
ここで、ステップS3~S5の処理によって得られる自家蛍光データについて、
図6A~
図6Dを参照して説明する。
図6A~
図6Dは、油脂酵母であるLipomyces starkeyi(以下、「L. starkeyi」という)の観察結果の一例である。
図6Aは、検体に対して405nmの励起光を照射した際に得られる自家蛍光像(a)及び、波長に対する強度の波形(b)を示す。
図6Bは、検体に対して488nmの励起光を照射した際に得られる自家蛍光像(a)及び、波長に対する強度の波形(b)を示す。
図6Cは、検体に対して561nmの励起光を照射した際に得られる自家蛍光像(a)及び、波長に対する強度の波形(b)を示す。
図6Dは、検体に対して640nmの励起光を照射した際に得られる自家蛍光像(a)及び、波長に対する強度の波形(b)を示す。
図6A~
図6Dの(b)において、波長は、右にいくにしたがって長くなる。すなわち、波長は、青色側(図中左側)にいくほど短く、赤色側(右側)にいくほど長い。また、各図の(b)に示す波形は、自家蛍光像(a)において〇で囲った細胞が発した自家蛍光に基づくものである。
図6A~
図6Dに示すように、励起光の波長によって、得られる自家蛍光の波形が異なる。各細胞の各励起光に対する波形は、各細胞の代謝特性および種類に対応して特有のパターンを有する。
【0071】
図2に戻り、ステップS6において、対応データ生成部302dは、ステップS2で生成された透過/反射光の強度データと、ステップS3で生成された自家蛍光データとを対応付けた対応データを生成する(対応データ作成ステップ)。この際、複数の励起光の照射により複数の蛍光スペクトルが生成されている場合は、一つのレーザ光照射位置について、複数の蛍光スペクトルと、透過/反射光の強度とが対応付けられる。また、透過/反射光の強度は、一つのレーザ光照射位置について、波長(又は波長帯域)が異なるすべての励起光について取得した透過/反射光の強度を合算した合算値として用いてもよいし、予め設定されている波長の励起光により取得された透過/反射光の強度を用いてもよい。
【0072】
画像処理装置300は、学習装置500から、予測モデルを取得する(ステップS7)。
【0073】
ステップS7に続くステップS8において、予測部305は、ステップS6において生成された対応データと、ステップS7において取得した予測モデルとを用いて、検体の油脂生産能の予測処理を行う。ここで、予測部305は、自家蛍光が検出された位置、すなわち、検体(試料)に含まれる複数の細胞のうち、自家蛍光が検出された細胞の油脂生産能をそれぞれ予測する。予測部305は、予測対象の各細胞の予測生産能を、当該細胞の代表座標と対応付けて予測結果を出力する。
【0074】
ここで、予測部305が用いる予測モデルについて説明する。予測モデルは、学習装置500において、自家蛍光データを特徴量、油脂生産能を目的変数として学習を行うことによって生成される。この際に用いられる油脂生産能は、油脂生産能データ生成部302cが、細胞が生産する油脂の生産量に対応する光強度データに基づいて、生成したデータである。
【0075】
図7は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡システムにおける油脂生産能の検出方法の一例を説明するための図である。
図7に示すように、ゲル601上から染色用色素800を滴下して油脂を染める。染色用色素800としては、例えばナイルレッドを用いることができる。染色用色素800は、光(色)強度として油脂生産量を算出できるものであれば適用可能である。油脂生産能データ生成部302cは、共焦点レーザスキャン顕微鏡100によって測定された、染色後の色素の色強度、染色面積、又は染色体積等のうちの少なくとも一つに基づいて、油脂生産能データを生成する。色強度は、検出器109における、使用する染色用色素の波長帯域を含むチャンネルから光強度として取得される。
【0076】
図8は、検体染色時の透過/反射光画像の一例を示す図である。
図8は、ナイルレッドによって染色した場合の画像を示している。
図8に示す画像からも分かる通り、染色用色素によって染色することによって、細胞が生産した油脂を、その量に応じた面積で染色できている。
図8では、各細胞中の油脂が赤く染色される。
【0077】
油脂生産能データ生成部302cによって生成された油脂生産能データは、対応データ生成部302dによって、自家蛍光データと対応付けられる。この対応付け後の対応データは、検証用の対応データとして予測部305に出力される。また、油脂生産量と対応付いた対応データが、学習用データとして、学習装置500に出力される。
【0078】
図9は、L. starkeyiの油脂生産量の経時変化(a)及び、励起光に対する自家蛍光強度(b)を示す図である。
図9では、100サンプルのL. starkeyiに対して測定した油脂生産量及び自家蛍光データを示している。
図9の(a)では、各サンプルの油脂生産量がプロットされ、平均値をバー(-)で示している。
図9の(b)は、図の上下方向に、培養した各サンプルの励起光(Excitation)に対する自家蛍光(Emission)の相対強度(Relative fluorescence intensity)を、励起光ごとに並べて、その経時変化を示している。
図9から分かる通り、培養によって油脂生産量が経時的に変化するとともに、自家蛍光の強度も培養によって変化している。
図9より、L. starkeyiは、油脂生産量や自家蛍光の強度変化に個体差があるといえる。なお、
図9の(b)では、波長に合わせて左側が青色、右側が赤色となるように励起光(Excitation)のカラーバーが表示されるとともに、各励起光において上側が青色、下側が赤色となるように自家蛍光(Emission)のカラーバーが表示される。また、自家蛍光(Emission)の相対強度は、ゼロに近い(右側)ほど青く、1.0に近い(左側)ほど黄色となるようなカラーバーが表示される。
【0079】
図10は、L. starkeyiの株のうち潜在的な油脂生産特性が異なる三つの株の励起光に対する自家蛍光強度を示す図である。
図10は、潜在的に油脂生産量が多い株(E15-11)、野生型株(WT)及び潜在的に油脂生産量が少ない株(sr22)の自家蛍光強度を示している。
図10では、各株をそれぞれ100サンプル用意して測定した自家蛍光データを示している。
図10から分かる通り、株間において、自家蛍光の強度パターンに差異があるといえる。なお、
図10におけるカラーバーの表示は、
図9と同様である。
【0080】
学習装置500は、機械学習モデルのパラメータを最適化する学習を行うことによって予測モデルを生成する。学習としては、例えば誤差逆伝播法や、確率的勾配降下法等の公知の手法を用いた学習が挙げられる。
【0081】
図11は、学習装置による予測モデルの生成について説明する図である。学習装置500は、例えば、入力層501と、中間(隠れ)層502と、出力層503とからなるニューラルネットワークモデルを有する。学習装置500では、自家蛍光データ(x)が入力された入力層501及び中間層502において固有の重みでそれぞれ重み付けされながら特徴が抽出され、抽出された特徴に基づいて出力層503から目的変数が出力される、学習済みの予測モデルf(x)が生成される。検出器109のチャンネルが32個あり、使用した励起光が4種である場合、個々の細胞は、128個(128 Dimensions)の自家蛍光値に基づいて構成される自家蛍光データを有する。なお、ニューラルネットワークモデルにおける層数や各層が有するノードの数は限定されない。
【0082】
例えば、学習装置500において、各細胞の自家蛍光データ(
図11の(a)参照)が入力されると、ニューラルネットワークモデル(
図11の(b)参照)は、入力データの特徴を学習し、一つの目的変数を算出する(出力層503)。予測モデルによって算出される各細胞の油脂生産量(Predicted:
図11の(c)参照)と、実際に測定された各細胞の油脂生産量(Answer:
図11の(d)参照)とを比較し、誤差をフィードバックして、ニューラルネットワークの重みを調整する。この重み調整を繰り返すことによって、回帰モデルである予測モデルが生成される。この際に入力される自家蛍光データは、
図9の(b)等で示した、励起光に対する自家蛍光の相対強度データである。なお、相対強度データに代えて絶対強度データを用いてもよい。
【0083】
図12は、本発明の一実施の形態に係る油脂生産能予測のための予測モデルの生成方法を説明するフローチャートの一例である。画像処理装置300から対応データが入力されると、学習装置500は、対応データを、学習用の対応データと、検証用の対応データとに分割する(ステップS11)。分割は、複数の対応データを学習用又は検証用に区別してもよいし、対応データをコピーして、一方の対応データを学習用、他方の対応データを検証用としてもよい。対応データは、自家蛍光データと油脂生産量とが対応付いたデータである。
【0084】
学習装置500は、分割した対応データのうち、学習用対応データを用いて予測モデルの構築を行う。まず、学習装置500は、予測対象の予測モデルが既に生成済みであるか否かを判断する(ステップS12)。学習装置500は、メモリを参照して予測モデルが生成済みであると判断した場合(ステップS12:Yes)、ステップS13に移行する。これに対し、学習装置500は、メモリを参照して予測モデルが生成済みではないと判断した場合(ステップS12:No)、ステップS14に移行する。
【0085】
ステップS13において、学習装置500は、生成済みの予測モデルに対して設定されている重み(調整済みのパラメータ)をメモリから読み出して設定する。これにより、予測モデルの予測精度を検証するための予測モデルが構築される。学習装置500は、重み設定(予測モデル構築)後、ステップS15に移行する。
【0086】
ステップS14において、学習装置500は、パラメータを調整する。学習装置500は、ニューラルネットワークに対して、予め設定されている重み、又は、記録済みの予測モデルの重みをメモリから読み出して、設定する。これにより、予測モデルの予測精度を検証するための予測モデルが構築される。学習装置500は、重み設定(予測モデル構築)後、ステップS15に移行する。
【0087】
学習装置500は、構築した予測モデルと、検証用の対応データ(自家蛍光データ)とを用いて予測処理を実施する(ステップS15)。学習装置500は、検証用対応データを用いて油脂生産量を予測する。
【0088】
学習装置500は、予測した油脂生産量と、検証用対応データにおける実測の油脂生産量とをもとに、検証精度を算出する(ステップS16)。検証精度は、生産量の差分や、差分の二乗等、任意の算出方法を設定することができる。
【0089】
学習装置500は、検証精度が条件を満たすか否かを判断する(ステップS17)。学習装置500は、検証精度に対して予め設定されている基準と、算出した検出精度とを比較して、検証精度が条件を満たすか否かを判断する。学習装置500は、例えば、検証精度が基準より小さければ条件を満たさないと判断し(ステップS17:No)、ステップS14に戻り、パラメータの調整を行う。この際、学習装置500は、例えば設定された条件等にしたがって重みを変更する。これに対し、学習装置500は、検証精度が閾値以上であれば条件を満たすと判断し(ステップS17:Yes)、ステップS16に移行する。
【0090】
ステップS18において、学習装置500は、構築した予測した予測モデルをメモリに記録する。これにより、予測モデルが構築され、順次更新される。
【0091】
図13は、回帰モデルの予測結果の一例を示す図である。
図13は、潜在的に油脂生産量が多い株(E15-11)の3日目の油脂生産量を示す。
図13において、直線に並ぶ点群からなり、黒色で示すデータ群L
Mは、実測値を示す。また、青色で示すデータ点は回帰モデルによって予測される予測生産量(Predicted amount)であり、直線L
Pは、予測生産量の近似直線である。
図13からも分かる通り、近似直線L
Pがデータ群L
Mと近い値を推移しており、自家蛍光データから、高精度に油脂生産量を予測することができるといえる。
【0092】
図2に戻り、二次元画像生成部303、三次元画像生成部304及び色相重畳部306が、対応データに基づいて画像データを生成する(ステップS9)。ステップS7では、まず、二次元画像生成部303が、対応データにおける反射光データを用いて複数の合焦画像データを生成する。
【0093】
図14は、本発明の一実施の形態に係る顕微鏡システムにおける走査によって生成される合焦画像を説明する図である。対応データ生成部302dにより生成された対応データのうちの透過/反射光の強度に基づいて、二次元画像生成部303が画像処理を行うことによって、
図14に示すような、各焦点面において反射された光に基づくN枚の合焦画像D
1、D
2、・・・、D
Nが得られる(Nは3以上の自然数)。二次元画像生成部303は、各位置において得られた反射光の強度を輝度情報に変換し、レーザ光の照射位置に応じて配列した合焦画像データを生成する。すなわち、二次元画像生成部303は、反射光により生成される画像と、レーザ光の照射位置に関する位置情報(例えばZ位置)とを含む二次元画像データを生成する。
【0094】
複数の合焦画像データ(合焦画像D1、D2、・・・、DN)が生成されると、三次元画像生成部304が、三次元空間の直交座標系において、各合焦画像の輝度情報を対応付けることによって、三次元空間上の輝度に応じて検体像を表現する三次元画像データを生成する。三次元画像生成部304は、輝度に応じた明るさの点の集合によってなる三次元画像を含む三次元画像データを生成する。なお、三次元画像は、輝度に応じて濃淡を変化させたグレースケール画像や、設定された色を付与したカラー画像等、色相の条件等は適宜設定の変更が可能である。
【0095】
三次元画像データを生成後、色相重畳部306が、予測部305が生成した同定情報と、予め設定された条件とに応じて、各位置(二次元空間又は三次元空間上の位置)において重畳する色相を選択して、三次元画像生成部304が生成した三次元画像データに色相を重畳した重畳画像データを生成する。色相重畳部306は、例えば、予測した油脂生産量に応じた色相を重畳する。これにより、各細胞の油脂生産量を視覚的に把握することができる。
【0096】
ステップS9に続くステップS10において、画像処理装置300は、制御装置200の制御のもと、色相重畳部306により生成された重畳画像データを、表示装置400に表示させる。以上説明した処理により、例えば、検体像を解析結果(予測油脂生産量)に応じて配色した重畳画像が、表示装置400に表示される。
【0097】
以上説明した本発明の一実施の形態では、自家蛍光データを特徴量、油脂生産量を目的変数とする予測モデルを生成し、該予測モデルを用いて、細胞の油脂生産量を予測する。本実施の形態によれば、予測モデルを用いて油脂生産量を高精度に予測できるため、細胞の物質生産を非侵襲的かつ簡易に予測することができる。
【0098】
(変形例)
次に、本実施の形態の変形例について、
図15~
図22を参照して説明する。実施の形態では、細胞集団内から個々の細胞の油脂生産能を、予測モデルを用いて予測する例について説明したが、変形例では、野生分離株(ここではL. starkeyiにおけるE15-11、WT及びsr22)の油脂生産能の予測について説明する。具体的には、蛍光波長と油脂生産量との相関に基づいて検体の油脂生産能を予測する。なお、本変形例に係る顕微鏡システムの構成は、顕微鏡システム1の構成と同じであるため、説明を省略する。
【0099】
[自家蛍光の絶対強度による相関]
図15は、絶対強度における蛍光波長と油脂生産量との相関の一例を示す図(その1)である。
図15は、E15-11、WT及びsr22のすべての株について、培養3日目に取得した励起光及び自家蛍光と、油脂生産量との相関を示している。
図15は、油脂生産量との相関を色相で表現しており、赤色が濃い(上側)ほど油脂生産量と正の相関が強く、青色が濃い(下側)ほど負の相関が強いことを示すヒートマップである。なお、
図15の自家蛍光(Emission wavelength)として示すカラーバーは、波長に応じた色相を示しており、右側ほど青色(紫色)に近付き、左側ほど赤色に近付く。
図15に示すように、E15-11、WT及びsr22のすべての株に対して、青色蛍光側に強い正の相関がみられ、赤色蛍光側に強い負の相関がみられる。
【0100】
図16は、
図16に示す相関関係において、相関が高い強度と油脂生産量との相関の一例を示す図である。
図16の(a)は、405nmの励起波長を照射した際の435nmの自家蛍光の強度と油脂生産量との関係を示す。
図16の(b)は、561nmの励起波長を照射した際の575nmの自家蛍光の強度と油脂生産量との関係を示す。
図16の(a)から分かるように、405nmの励起波長を照射した際の435nmの自家蛍光の強度が強いほど油脂生産量も多くなる傾向がある。また、
図16の(b)から分かるように、561nmの励起波長を照射した際の575nmの自家蛍光の強度が強いほど油脂生産量も少なく、強度が弱いほど比較的油脂生産量が多くなる傾向がある。なお、
図16では、油脂生産量(Lipid amount)について、小さいほど青色に近付き、多いほど黄色に近付く。
【0101】
図17は、絶対強度における蛍光波長と油脂生産量との相関の一例を示す図(その2)である。
図17は、E15-11を除いた、WT及びsr22の株について、培養3日目に取得した励起光及び自家蛍光と、油脂生産量との相関を示している。
図17に示すように、E15-11を除いた、WT及びsr22の株では、短波長側に強い正の相関がみられ、長波長側に強い負の相関がみられる。
図17に示す相関は、
図15に示す相関と比して、短波長側において一層強い相関を示している。
【0102】
図18は、
図17に示す相関関係において、相関が高い強度と油脂生産量との相関の一例を示す図である。
図18の(a)は、405nmの励起波長を照射した際の435nmの自家蛍光の強度と油脂生産量との関係を示す。
図18の(b)は、561nmの励起波長を照射した際の575nmの自家蛍光の強度と油脂生産量との関係を示す。
図18の(a)から分かるように、405nmの励起波長を照射した際の435nmの自家蛍光の強度が強いほど油脂生産量も多くなる傾向がある。また、
図18の(b)から分かるように、561nmの励起波長を照射した際の575nmの自家蛍光の強度が強いほど油脂生産量も少なく、強度が弱いほど油脂生産量が多くなる傾向がある。
【0103】
[自家蛍光の相対強度による相関]
図19は、相対強度における蛍光波長と油脂生産量との相関の一例を示す図(その1)である。
図19は、E15-11、WT及びsr22のすべての株について、培養3日目に取得した励起光及び自家蛍光と、油脂生産量との相関を示している。
図19に示すように、絶対強度と同様に、E15-11、WT及びsr22のすべての株に対して、短波長側で強い正の相関がみられ、長波長側で強い負の相関がみられる。なお、相対強度は、得られた自家蛍光の強度(例えば上述した絶対強度)を正規化して得られる。
【0104】
図20は、
図19に示す相関関係において、相関が高い強度と油脂生産量との相関の一例を示す図である。
図20の(a)は、405nmの励起波長を照射した際の435nmの自家蛍光の強度と油脂生産量との関係を示す。
図20の(b)は、561nmの励起波長を照射した際の575nmの自家蛍光の強度と油脂生産量との関係を示す。
図20の(a)から分かるように、405nmの励起波長を照射した際の435nmの自家蛍光の強度が強いほど油脂生産量も多くなる傾向がある。また、
図20の(b)から分かるように、561nmの励起波長を照射した際の575nmの自家蛍光の強度が強いほど油脂生産量も少なく、強度が弱いほど油脂生産量が多くなる傾向がある。
【0105】
図21は、相対強度における蛍光波長と油脂生産量との相関の一例を示す図(その2)である。
図21は、E15-11を除いた、WT及びsr22の株について、培養3日目に取得した励起光及び自家蛍光と、油脂生産量との相関を示している。
図21に示すように、E15-11を除いた、WT及びsr22の株では、短波長側に強い正の相関がみられ、長波長側に強い負の相関がみられる。
図21に示す相関は、
図19に示す相関と比して、短波長側において一層強い相関を示している。
【0106】
図22は、
図21に示す相関関係において、相関が高い強度と油脂生産量との相関の一例を示す図である。
図22の(a)は、405nmの励起波長を照射した際の435nmの自家蛍光の強度と油脂生産量との関係を示す。
図22の(b)は、561nmの励起波長を照射した際の575nmの自家蛍光の強度と油脂生産量との関係を示す。
図22の(a)から分かるように、405nmの励起波長を照射した際の435nmの自家蛍光の強度が強いほど油脂生産量も多くなる傾向がある。また、
図22の(b)から分かるように、561nmの励起波長を照射した際の575nmの自家蛍光の強度が強いほど油脂生産量も少なく、強度が弱いほど油脂生産量が多くなる傾向がある。
【0107】
本変形例において、自家蛍光データ生成部302aは、各チャンネルの電気信号に基づいて、自家蛍光の絶対強度及び/又は相対強度の強度データを生成する。自家蛍光データ生成部302aは、設定にしたがって絶対強度及び/又は相対強度を算出する。自家蛍光データ生成部302aは、焦点面上の座標と、励起光と、自家蛍光強度(絶対強度及び/又は相対強度)とを対応付けた強度データを生成する。
【0108】
対応データ生成部302dは、励起光と、自家蛍光の強度とを対応付けた対応データ、及び/又は、励起光と、自家蛍光の強度と、油脂生産能とを対応付けた学習用の対応データを生成する。
【0109】
学習装置500は、励起光と対応付いた自家蛍光の強度を特徴量、油脂生産量を目的変数とする予測モデルを生成する。学習装置500は、例えば新たな学習用の対応データが入力される都度、予測モデルを更新する。この際、例えば、
図15~
図22に示す相関では、絶対強度よりも相対強度の方が、相関関係が明確に表現されているため、学習装置500が、相対強度を優先的に用いて予測モデルを生成する設定としてもよい。
なお、学習装置500は、上述した相関を用いて、油脂生産能に対して正又は負の相関を有する自家蛍光波長を特定するようにしてもよい。この場合、学習装置500は、学習用の対応データから生成されるヒートマップを用いて、強い相関を有する自家蛍光の波長を抽出する。
【0110】
予測部305は、学習装置500から取得した予測モデルと、予測対象(検体)の対応データ(励起光及び自家蛍光の強度)とを用いて、予測対象の油脂生産能を予測する。変形例において予測部305は、当該予測対象の細胞が、相対的に高い油脂生産能を示す傾向にあるか、又は、相対的に低い油脂生産能を示す傾向にあるかを予測したり、各波長の自家蛍光の強度から油脂生産量を予測したりする。予測部305は、設定にしたがって予測結果を出力する。
なお、予測部305は、学習装置500において特定された自家蛍光の波長に基づいて、検体が油脂生産能について強い相関を有するものであるか否かを予測するようにしてもよい。
【0111】
以上説明した変形例では、励起光及び自家蛍光と、油脂生産量との相関を用いて、細胞の油脂生産量や強い相関を有するか否かを予測する。本変形例によれば、上述した相関を用いて油脂生産量を高精度に予測できるため、細胞の物質生産を非侵襲的かつ簡易に予測することができる。
【0112】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。上述した実施の形態では、検体中の微生物からの自家蛍光に基づいて自家蛍光データを生成し、細胞の油脂生産量を予測するものとして説明したが、油脂生産量に限らず、例えば光データとして測定可能な特性の予測に適用することが可能である。具体的には、未知試料又は既知試料の種々の代謝状態又は生理状態に関する検体の状態を評価したりすることができる。
【0113】
また、上述した実施の形態では、三次元空間を走査して、自家蛍光データ、反射光データ及び対応データを生成するものとして説明したが、二次元空間(
図4に示すXY平面、XZ平面及びYZ平面のいずれか)を走査して自家蛍光データ、反射光データ及び対応データを生成してもよいし、
図4に示すX方向、Y方向及びZ方向のうちのいずれか一つの方向に走査するようにしてもよいし、空間における、ある一点の自家蛍光、及び、透過/反射光を取得して自家蛍光データ、透過/反射光データを生成してもよい。
【0114】
また、上述した実施の形態では、ステージ101上で存在して単層をなす複数の細胞に対して測光等を行う例について説明したが、各細胞を区別することができれば、Z方向からみた際に細胞の一部が互いに重なっていたり、複数の層に細胞が存在したりしてもよい。
【0115】
また、上述した実施の形態では、三次元画像を生成して表示するものとして説明したが、二次元画像を表示、又は予測した油脂生産量を表示するものであってもよいし、ユーザからの操作入力によって表示する画像や情報を選択するようにしてもよい。
【0116】
また、上述した実施の形態では、検出器109が、反射型回折格子及び光電子増倍管(PMT)を用いて構成されるものとして説明したが、この他、例えば、音響光学ビームスプリッター(例えば、ライカ社のAOBS(登録商標))、高感度検出器(HyD検出器)、及び検出器の前段に設けられる可動スリット構造からなる検出器としてもよい。この検出器は、上述した構成により、例えば1nmごとの波長に分離したデータを取得することが可能である。
【0117】
また、上述した実施の形態では、レーザ光を用いて反射光又は自家蛍光を取得するようにしたが、レーザ光のような指向性の高い光に限らず、指向性の低い光(例えばハロゲンランプによる光)を集光して試料に照射することによって反射光又は自家蛍光を取得するようにしてもよい。例えば、レーザ光により自家蛍光を取得し、ハロゲンランプを用いて反射光を取得したり、ハロゲンランプを用いて自家蛍光を取得し、レーザ光により反射光を取得したり、ハロゲンランプを用いて自家蛍光及び反射光を取得したりしてもよい。また、光の波長は、フィルタを通過したものや、プリズムによって分光したものでもよい。また、検体からの反射光に限らず、透過光や蛍光等、細胞等の輪郭を抽出できる光検出データであれば適用できる。
【0118】
このように、本発明は、特許請求の範囲に記載した技術的思想を逸脱しない範囲内において、様々な実施の形態を含みうるものである。
【0119】
以上のように、本発明に係る細胞の表現型と自家蛍光の対応データ作成方法及びデータ使用方法は、細胞の物質生産能力または生産高を非侵襲的かつ簡易に予測するのに有用である。
【符号の説明】
【0120】
1 顕微鏡システム
100 共焦点レーザスキャン顕微鏡
101 ステージ
102 対物レンズ
103 レーザ光源
104 レンズ
105、112 コリメートレンズ
106 ビームスプリッター
107、114 結像レンズ
108 コンフォーカルピンホール
109 検出器
110、113 走査ミラー
111 透過用光源
200 制御装置
202 入力部
203 レーザ制御部
204 走査制御部
205 透過光制御部
300 画像処理装置
301 検出信号受信部
302 データ生成部
302a 自家蛍光データ生成部
302b 透過/反射光データ生成部
302c 油脂生産能データ生成部
302d 対応データ生成部
303 二次元画像生成部
304 三次元画像生成部
305 予測部
306 色相重畳部
307 記録部
400 表示装置
500 学習装置