IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

特開2022-130174居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム
<>
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図1
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図2
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図3
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図4
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図5
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図6
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図7
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図8
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図9
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図10
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図11
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図12
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図13
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図14
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図15
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図16
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図17
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図18
  • 特開-居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130174
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20220830BHJP
   G06N 20/10 20190101ALI20220830BHJP
   A61B 5/18 20060101ALI20220830BHJP
   A61B 5/352 20210101ALI20220830BHJP
【FI】
A61B5/16 130
G06N20/10
A61B5/18
A61B5/352 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029195
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】加納 学
(72)【発明者】
【氏名】岩本 洋紀
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】堀 憲太郎
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C038PP05
4C038PQ03
4C127AA02
4C127BB03
4C127GG02
4C127GG05
4C127GG10
4C127GG11
4C127GG13
4C127GG15
(57)【要約】
【課題】高精度で居眠りを検知する居眠り検知装置を提供する。
【解決手段】居眠り検知装置100は、居眠りを検知する検知装置であって、居眠りを検知するための検知処理を実行する演算装置1を備え、検知処理は、被験者の心電信号から生成されたRRI(R-R Interval)から、居眠り検知のための指標値を得、指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、継続時間が第2の閾値を超えると被験者の居眠りを検知する、ことを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
居眠りを検知する検知装置であって、
居眠りを検知するための検知処理を実行する演算装置を備え、
前記検知処理は、
被験者の心電信号から生成されたRRI(R-R Interval)から、居眠り検知のための指標値を得、
前記指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、
前記継続時間が第2の閾値を超えると前記被験者の居眠りを検知する、ことを含む
居眠り検知装置。
【請求項2】
前記居眠り検知のための指標値を得ることは、対象データを入力値とし、前記対象データの異常を検知するために用いられる値を出力するモデルに、RRIから得られる値を入力値として与え、前記モデルからの出力値を用いて前記指標値を得ることを含む
請求項1に記載の居眠り検知装置。
【請求項3】
前記モデルはオートエンコーダであって、
前記居眠り検知のための前記指標値を得ることは、
オートエンコーダに対して、前記被験者の心電信号から生成されたRRIを入力データとして与えて前記入力データの再構築データである出力データを取得し、
前記被験者の心電信号から生成されたRRIからの前記出力データの誤差を前記指標値として算出する、ことを含む
請求項2に記載の居眠り検知装置。
【請求項4】
前記オートエンコーダは、覚醒時の心電信号から生成されたRRIを学習用入力データとして与えて学習されている
請求項3に記載の居眠り検知装置。
【請求項5】
前記モデルはMSPC(Multivariate Statistical Process Control:多変量統計的プロセス管理)を利用した識別器であって、
前記居眠り検知のための前記指標値を得ることは、
前記被験者の心電信号から生成されたRRIから、心拍に関する指標を生成し、
前記心拍に関する前記指標のうちの複数の変数HRVを含むデータセットを前記識別器に入力し、前記居眠り検知のための前記指標値として統計量を得ることを含む
請求項2に記載の居眠り検知装置。
【請求項6】
前記複数の変数HRVは、前記被験者の心電信号から生成されたRRIから得られたポアンカレ指標に含まれる変数のうちの少なくとも1つを含む
請求項5に記載の居眠り検知装置。
【請求項7】
前記データセットは、前記複数の変数HRVを正準相関分析して得られた正準変数のうちの複数の正準変数を含む
請求項5又は6に記載の居眠り検知装置。
【請求項8】
前記データセットは、前記被験者の心電信号の複数の心拍それぞれから得られる前記心拍に関する前記指標から生成される時系列変化を有するデータを含む
請求項5~7のいずれか一項に記載の居眠り検知装置。
【請求項9】
前記データセットは、前記被験者の心電信号から生成されたRRIから得られたポアンカレ指標に含まれる変数のうちの少なくとも1つを含んだ、前記心拍に関する前記指標のうちの複数の変数HRVから得られる、時系列変化を有するデータを含み、
前記時系列変化を有するデータは、前記複数の変数HRVを正準相関分析して得られた正準変数のうちの複数の正準変数それぞれについて、前記被験者の心電信号の複数の心拍それぞれから得られる前記心拍に関する前記指標から生成される
請求項5に記載の居眠り検知装置。
【請求項10】
前記居眠り検知のための前記指標値を得ることは、オートエンコーダ、MSPCを利用した識別器、LSTM(long short-term memory)を利用した深層学習モデル、及び、セルフ・アテンション(self-attention)を利用した深層学習モデル、のうちの少なくとも1つを用いることを含む
請求項1に記載の居眠り検知装置。
【請求項11】
居眠りを検知する方法であって、
被験者の心電信号から生成されたRRIから、居眠り検知のための指標値を得、
前記指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、
前記継続時間が第2の閾値を超えると前記被験者の居眠りを検知する、ことを含む
検知方法。
【請求項12】
コンピュータに居眠りを検知するための検知処理を実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記検知処理は、
被験者の心電信号から生成されたRRIから、居眠り検知のための指標値を得、
前記指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、
前記継続時間が第2の閾値を超えると前記被験者の居眠りを検知する、ことを含む
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の居眠りを検知する技術として、例えば、特開2015-226696号公報(以下、特許文献1)では、被験者の心電を利用する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-226696号公報
【発明の概要】
【0004】
このよう居眠り検知は、車両などの運転手の居眠りを検知する際に用いられることも想定される。そのため、検知精度の更なる改善が望まれる。
【0005】
ある実施の形態に係る居眠り検知装置は、居眠りを検知する検知装置であって、居眠りを検知するための検知処理を実行する演算装置を備え、検知処理は、被験者の心電信号から生成されたRRI(R-R Interval)から、居眠り検知のための指標値を得、指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、継続時間が第2の閾値を超えると被験者の居眠りを検知する、ことを含む。
【0006】
ある実施の形態に係る検知方法は、居眠りを検知する方法であって、被験者の心電信号から生成されたRRIから、居眠り検知のための指標値を得、指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、継続時間が第2の閾値を超えると被験者の居眠りを検知する、ことを含む。
【0007】
ある実施の形態に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに居眠りを検知するための検知処理を実行させるためのコンピュータプログラムであって、検知処理は、被験者の心電信号から生成されたRRIから、居眠り検知のための指標値を得、指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、継続時間が第2の閾値を超えると被験者の居眠りを検知する、ことを含む。
【0008】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に居眠り検知装置(以下、検知装置)の構成の概略を示す図である。
図2図2の(a)は心電信号の一例を示す図であり、(b)は(a)の心電信号に対応するR波データを示す図である。
図3図3は、検知装置の演算装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、ポアンカレ指標、及び、T2統計量,Q統計量を説明するための図である。
図5図5は、データセットの正準相関分析を説明するための図である。
図6図6は、データセットのダイナミック化を行う方法の具体例を説明するための図である。
図7図7は、第1の実施の形態に係る検知装置での居眠りの検知方法の一例を表したフローチャートである。
図8図8は、図7のフローチャートのステップS300の判定処理の一例を表したフローチャートである。
図9図9は、発明者らによる、第1の実施の形態に係る検知方法において、指標値としてQ統計量及びT2統計量のいずれを用いる方が検知精度がよいかを検証するための試験結果を表した図である。
図10図10は、発明者らによる、第1の実施の形態に係る検知方法において、識別器に入力するデータセットとして用いる指標値としてHRV指標の値をそのまま用いた場合に得られたROC(Receiver Operating Characteristic)曲線である。
図11図11は、発明者らによる、第1の実施の形態に係る検知方法において、識別器に入力するデータセットとして用いる指標値としてポアンカレ指標の値のみを用いた場合に得られたROC曲線である。
図12図12は、発明者らによる、第1の実施の形態に係る検知方法において、識別器に入力するデータセットとして用いる指標値として、HRV指標及びポアンカレ指標の値を正準相関分析して得られた正準変数を用いた場合に得られたROC曲線である。
図13図13は、発明者らによる、第1の実施の形態に係る検知方法において、識別器に入力するデータセットとして用いる指標値として、HRV指標及びポアンカレ指標の値をダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた場合に得られたROC曲線である。
図14図14は、発明者らによる、第1の実施の形態に係る検知方法において、識別器に入力するデータセットとして用いる指標値として、HRV指標及びポアンカレ指標の値を正準相関分析して得られた正準変数をダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた場合に得られたROC曲線である。
図15図15は、発明者らによる、第1の実施の形態に係る検知方法におけるダイナミック化において、何拍分過去のデータを取り入れるのがよいかを検証した試験の結果を表した図である。
図16図16は、第2の実施の形態に係る検知装置での居眠りの検知方法の一例を表したフローチャートである。
図17図17は、発明者らによる、被験者が居眠りの状態を含む心電信号に対する第2の実施の形態に係る検知方法についての評価実験の結果を表した図である。
図18図18は、発明者らによる、被験者が常に覚醒状態である心電信号に対する第2の実施の形態に係る検知方法についての評価実験の結果を表した図である。
図19図19は、発明者らによる、第2の実施の形態に係る検知方法において用いるオートエンコーダの構成がLSTMとセルフ・アテンションとのそれぞれの場合についての評価試験の結果を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1.居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラムの概要>
【0011】
(1)ある実施の形態に係る居眠り検知装置は、居眠りを検知する検知装置であって、居眠りを検知するための検知処理を実行する演算装置を備え、検知処理は、被験者の心電信号から生成されたRRI(R-R Interval)から、居眠り検知のための指標値を得、指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、継続時間が第2の閾値を超えると被験者の居眠りを検知する、ことを含む。
【0012】
居眠り検知のための指標値は、例えば、下記の誤差や統計量などである。第1の閾値は、指標値が居眠りと判定され得る値である。指標値が第1の閾値を超えたと判定されることにより、被験者の眠りの可能性が判定される。
【0013】
居眠り検知のための指標値を得るためには、オートエンコーダや、MSPC(Multivariate Statistical Process Control:多変量統計的プロセス管理)を利用した識別器や、LSTM(long short-term memory)を利用した深層学習モデルやセルフ・アテンション(self-attention)を利用した深層学習モデル、などを用いることができる。
【0014】
第2の閾値は、居眠りの可能性があると判定された状態の継続時間が居眠りと判定し得る継続時間であって、例えば10秒程度である。第2の閾値として10秒程度が採用し得ることは、後述する、発明者らが行った評価実験によって、第2の閾値を10秒と設定したときに、被験者の居眠り、及び、居眠りからの覚醒が精度よく検知されることが検証されている(図17及び図18)。これにより、指標値が第1の閾値を越えたことによって居眠りを判定するより高精度で居眠りを検知することができる。このことは、後述する発明者らによる検証試験によっても検証された。
【0015】
(2)好ましくは、居眠り検知のための指標値を得ることは、対象データを入力値とし、対象データの異常を検知するために用いられる値を出力するモデルに、RRIから得られる値を入力値として与え、モデルからの出力値を用いて指標値を得ることを含む。モデルは演算モデルであって、例えば、機械学習されたモデルである。具体的には、オートエンコーダや、LSTMを利用した深層学習モデルやセルフ・アテンションを利用した深層学習モデル、などである。モデルは、他の例として、入力値に対する統計処理を行うモデルであって、具体的には、MSPCなどである。モデルを用いることによって、モデルからの出力によって指標値の算出に必要な値が得られる。
【0016】
(3)好ましくは、モデルはオートエンコーダであって、指標値を得ることは、オートエンコーダに対して、被験者の心電信号から生成されたRRIを入力データとして与えて入力データの再構築データである出力データを取得し、出力データの、被験者の心電信号から生成されたRRIからの誤差を指標値として算出する、ことを含む。これにより、容易に高精度で居眠りを検知することができる。
【0017】
(4)好ましくは、オートエンコーダは、覚醒時の心電信号から生成されたRRIを学習用入力データとして与えて学習されている。この場合、第1の閾値は、入力データが覚醒時の心電信号から生成されたRRIから得られた入力データとは異なる、つまり、居眠り時を含む心電信号から生成されたRRIから得られた入力データよりある程度に大きい値とすることにより、誤差と第1の閾値とを比較することによって居眠りの可能性を判定できる。
【0018】
(5)好ましくは、モデルはMSPCを利用した識別器であって、指標値を得ることは、被験者の心電信号から生成されたRRIから、心拍に関する指標を生成し、指標のうちの複数の変数HRVを含むデータセットを前記識別器に入力し、指標値として統計量を得ることを含む。心拍に関する指標は、例えば、心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)指標である。
【0019】
統計量は、例えば、Q統計量及びT2統計量の少なくとも一方である。Q統計量は、図4の式(5)で表され、T2統計量は、図4の式(4)で表される。この場合、第1の閾値は、Q統計量及び/又はT2統計量が、居眠りと判定され得る値であって、一例として、管理限界値である。管理限界値は、一例として、覚醒している人から得られるRRIのみから生成されたデータセットを識別器に入力して得られる統計量である。これにより、統計量と第1の閾値とを比較することによって居眠りの可能性を判定できる。
【0020】
(6)好ましくは、複数の変数HRVは、被験者の心電信号から生成されたRRIから得られたポアンカレ指標に含まれる変数のうちの少なくとも1つの変数を含む。これにより、より精度よく居眠りが検知されることが、発明者らによる検証試験によって検証された。
【0021】
(7)好ましくは、データセットは、複数の変数HRVを正準相関分析して得られた正準変数のうちの複数の正準変数を含む。これにより、より精度よく居眠りが検知されることが、発明者らによる検証試験によって検証された。
【0022】
(8)好ましくは、データセットは、被験者の心電信号の複数の心拍それぞれから得られる心拍に関する指標から生成される時系列変化を有するデータを含む。これにより、より精度よく居眠りが検知されることが、発明者らによる検証試験によって検証された。
【0023】
(9)好ましくは、データセットは、被験者の心電信号から生成されたRRIから得られたポアンカレ指標に含まれる変数のうちの少なくとも1つを含んだ、心拍に関する指標のうちの複数の変数HRVから得られる、時系列変化を有するデータを含み、時系列変化を有するデータは、複数の変数HRVを正準相関分析して得られた正準変数のうちの複数の正準変数それぞれについて、被験者の心電信号の複数の心拍それぞれから得られる心拍に関する指標から生成される。これにより、より精度よく居眠りが検知されることが、発明者らによる検証試験によって検証された。
【0024】
(10)好ましくは、居眠り検知のための前記指標値を得ることは、オートエンコーダ、MSPCを利用した識別器、LSTMを利用した深層学習モデル、及び、セルフ・アテンションを利用した深層学習モデル、のうちの少なくとも1つを用いることを含む。
【0025】
(11)ある実施の形態に係る検知方法は居眠りを検知する方法であって、被験者の心電信号から生成されたRRIから、居眠り検知のための指標値を得、指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、継続時間が第2の閾値を超えると被験者の居眠りを検知する、ことを含む。これにより、(1)~(10)に記載の検知装置が実現される。
【0026】
(12)ある実施の形態に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに居眠りを検知するための検知処理を実行させるためのコンピュータプログラムであって、検知処理は、被験者の心電信号から生成されたRRIから、居眠り検知のための指標値を得、指標値が第1の閾値を越える継続時間を計時し、継続時間が第2の閾値を超えると被験者の居眠りを検知する、ことを含む。これにより、コンピュータを(1)~(10)に記載の検知装置として機能させることができる。
【0027】
<2.居眠り検知装置、検知方法、及びコンピュータプログラムの例>
【0028】
[第1の実施の形態]
【0029】
図1は、本実施の形態に居眠り検知装置(以下、検知装置)の構成の概略を示す図である。図を参照して、検知装置100は、演算装置1と心拍計測器2とを含む。
【0030】
検知装置100は、被験者の心拍に基づいて、被験者の居眠りを検知する検知装置である。被験者は、例えば、車両の運転者である。車両は、バス、タクシー、乗用車、又は、列車などである。演算装置1は、例えば、このような車両に搭載可能な装置、被験者が携帯するなどして保持可能な装置、及び、それらの装置とインターネットなどの通信を介して通信可能なサーバ、の少なくとも1つである。
【0031】
居眠りを検知することは、覚醒状態であることを検知することを含む。すなわち、被験者の状態を、居眠りの状態か覚醒状態かの2状態として、少なくとも一方の状態を検知することであってよい。好ましくは、検知装置100は、被験者の居眠りと、覚醒との両状態を検知する。
【0032】
演算装置1と心拍計測器2とは通信可能である。通信は、一例として、無線通信であってもよい。無線通信は、たとえば、Bluetooth(登録商標)などの短距離無線通信、インターネットを介した通信、などである。
【0033】
心拍計測器2は、被験者Pの身体に取り付けられ、被験者Pの心拍を計測するための小型軽量なウェアラブルデバイスである。心拍計測器2には、被験者Pの体表に取り付けられる複数(図1では3つ)の電極21が接続されている。3つの電極21は、たとえばプラス電極、マイナス電極、及び、接地電極である。
【0034】
心拍計測器2として機能するウェアラブル端末としては、例えば、心拍計測機能を有するスマートウォッチが挙げられる。なお、ウェアラブル端末自体が、演算装置1及び心拍計測器2として機能してもよい。
【0035】
図2の(a)は、心電信号の一例を示す図である。図2の(a)の縦軸は電位、横軸は時間を示している。電極21を用いて心拍を計測すると、図2の(a)に示すようなP~T波からなる電位変化が周期的に現れる。単位周期の電位変化の中で最も電位の高いピークをR波といい、R波のタイミングで心臓が拍動する。心拍計測器2は、R波を示すR波データを演算装置1に送信する。
【0036】
図2の(b)は、図2の(a)の心電信号に対応するR波データを示す。図2の(b)に示すように、R波データは、一例として、心電信号におけるR波に対応する期間(信号強度Iが所定の強度閾値Ithを超える期間)が「1」に設定され、それ以外の期間が「0」に設定された矩形パルス列を表すデータである。
【0037】
演算装置1は、心拍計測器2から送信されるR波データに基づいて、被験者が居眠り状態にあることを検知する検知装置として機能する。演算装置1は、たとえば、スマートフォンやパーソナルコンピュータなどの通信端末である。又は、演算装置1は、車載装置などの、被験者が操縦する装置に搭載される、あるいは、車載装置などに搭載され得る装置である。
【0038】
図3は、演算装置1の構成の一例を示すブロック図である。図3を参照して、演算装置1は、処理部10を含む。処理部10は、専用のマイクロコンピュータなどから構成される。また、演算装置1はメモリ12を有する。メモリ12には、処理部10で演算を行うためのプログラム121が記憶されている。プログラム121は、演算装置1での処理のためのプログラムコードを有する。プログラム121は、プログラム121が格納されたメモリに接続された処理部10によって読み取られ、実行される。
【0039】
プログラム121は、コンピュータ読取り可能である非一時的な記録媒体に記録されたプログラム製品として提供されてもよい。プログラム121は、ネットワークを介したダウンロードによって提供されてもよい。また、プログラム121は、アプリケーションプログラムとして提供されてもよいし、その一部または全部が、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)に含まれていてもよい。
【0040】
なお、以降の説明では、演算装置1での処理はプログラム121によって実現されるものとするが、他の例として、回路素子その他のハードウェアによって実現されてもよい。
【0041】
演算装置1は、心拍計測器2と通信する通信部13を有する。通信部13は、たとえば、心拍計測器2から送信されたR波を示す無線信号を受信し、処理部10に入力する。又は、通信部13は、R波を示すデータを記録した記録媒体にアクセスし、記録媒体からデータを読み出す読み出し装置であってもよい。つまり、データを取得することは、通信によってデータを受信すること、及び、記録媒体からデータを読み出すこと、を含む。
【0042】
処理部10は、メモリ12に記憶されているプログラム121を実行することで居眠りを検知するための検知処理を実行する。検知処理は、RRI算出処理101を含む。RRI算出処理101は、通信部13から入力された、図2の(b)に示すようなR波データからR波の間隔であるRRI(R-R Interval)を算出し、RRIデータを得ることを含む。RRIデータは、RRI変数の時系列データである。
【0043】
他の例として、心拍計測器2は、R波データからRRIを検知し、RRIデータを含む心拍データを出力してもよい。通信部13は、心拍計測器2から出力された心拍データを受信する。この場合、処理部10は、RRI算出処理101に替えて、心拍データに含まれるRRIデータを取り出す処理を実行する。つまり、心拍計測器2がRRIデータを含む心拍データを出力することによって、演算装置1はRRIを算出する処理が不要となる。また、心拍計測器2から送信されるデータがR波を示す無線信号よりもサイズの小さいRRIデータとなり、データ送信が容易になる。
【0044】
検知処理は、指標値算出処理102を含む。指標値算出処理102は、RRIを用いて居眠り検知のための指標値を算出することを含む。詳しくは、指標値算出処理102は、算出用のモデル105を用い、RRIから得られる値をモデル105に入力し、モデル105からの出力値を得ることを含む。モデル105は、対象データを入力値とし、対象データの異常を検知するために用いられる値を出力するモデルである。
【0045】
居眠り検知のための指標値を得ることは、一例として、RRIから、心拍に関する指標を生成することを含む。心拍に関する指標は、心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)指標(以下、HRV指標)が挙げられる。
【0046】
HRV指標は、下の10指標を含む。
1)meanNN:RRIの平均値
2)SDNN:RRIの標準偏差
3)Total Power:RRIの分散
4)RMSSD:隣接するRRIの差の2乗平均平方根
5)NN50:隣接するRRIの差が50msを超えた回数
6)LF:PSD(Power Spectrum Density:RRIデータのパワースペクトル密度)の低周波(0.04~0.15Hz)のパワースペクトル
7)HF:PSDの高周波(0.15~0.40Hz)のパワースペクトル
8)LF/HF:HFに対するLFの比
9)LFnu:LF/(LF+HF)で定義される補正LF
10)HFnu:HF/(LF+HF)で定義される補正HF
【0047】
RMSSDは、RRIの変動が多いと値が大きくなる。RMSSDは、自立神経系の活動の指標として用いられる。通常のRRIの変動は50ミリ秒以下である。そのため、NN50は激しいRRIの変動の指標となる。つまり、NN50が大きいと、RRIの変動が大きいことを示している。
【0048】
LFは、主に交感神経系の活動の指標とされ、HFは、主に副交感神経系の活動の指標とされている。そのため、LF/HFは、交感神経系と副交感神経系との活動の比を表し、値が大きいほど交感神経系優位、値が小さいほど副交感神経系優位であることを示している。LFnuは、感神経活動の変化を強調した指標値であり、HFnuは副交感神経活動の変化を強調した指標値である。
【0049】
居眠り検知のための指標値を得ることは、さらに、ポワンカレ指標を生成することを含んでもよい。図4は、ポアンカレ指標を説明するための図であって、横軸にRRI、縦軸に1拍後のRRIをプロットしたものである。ポアンカレ指標は、図4の楕円Eで表された、下の3指標を含む。3指標は、いずれも、RRIの変動の大きさを表す。
1)SD1:楕円Eの短軸A2の標準偏差
2)SD2:楕円Eの長軸A1の標準偏差
3)SD1/SD2:SD2に対するSD1の比
【0050】
居眠り検知のための指標値を得ることは、HRV指標の上の10指標のうちの複数の指標が変数として時系列に並んだデータセットをモデル105に入力し、モデル105からの出力値を得ることを含む。第1の実施の形態に係る検知装置100においては、モデル105は、入力値に対する統計処理を行う演算モデルであって、一例として、MSPC(Multivariate Statistical Process Control:多変量統計的プロセス管理)を利用した識別器である。すなわち、第1の実施の形態においては、居眠り検知のための指標値を得ることは、HRV指標の上の10指標のうちの複数の指標が変数として時系列に並んだデータセットに識別器を適用することを含む。
【0051】
MSPCは、主成分分析に基づいた統計手法である。主成分分析は、データの特徴抽出、及び、次元圧縮を目的とする多変量解析であり、変数間の相関関係を捉えるために、変数の線形結合によって、主成分と呼ばれる新たな合成変数を作り出すものである。
【0052】
MSPCでは、データを最もよく表現できる方向に第1主成分を設定し、その第1主成分と直交する空間の中で、第1主成分では表現できないデータの変動を最もよく表現できる方向に第2主成分を設定するという手順で、主成分を次々と設定する。データを最もよく表現する方向とは、主成分得点の分散が最大となる方向であり、主成分得点とは、主成分軸上の座標、すなわち主成分が張る空間にデータを射影した値を指す。図4の例では、長軸A1の方向が第1主成分方向、短軸A2の方向が第2主成分方向となる。
【0053】
ここで、変数の数P、サンプル数Nを用いて、データ行列Xを図4の式(1)のように定義する。各変数は標準化されているとする。また、直交行列U,V、及び、対角要素に特異値s,rが降順に並んだ対角行列Sを用いて、データ行列Xの特異値分解を図4の式(2)のように定義する。
【0054】
このとき、採用する主成分の数Rを用いて、第r主成分は負荷量行列Vの第r列vrで与えられ、第r主成分trは、直交行列Uの第r列vrを用いて、図4の式(3)で得られる。
【0055】
第1の実施の形態において、モデル105は、時系列に並んだデータセットが入力されると、MSPCに従ってQ統計量及びT2統計量の少なくとも一方を出力する。指標値算出処理102においては、モデル105が出力した値を居眠り検知のための指標値とする。Q統計量及びT2統計量は、変数の正常値からの乖離度合を評価する指標である。
【0056】
T2統計量は、元の変数を圧縮して得られる主成分空間内における、平均から各サンプルまでの距離を表す。すなわち、T2統計量は、入力されたデータセットの、平均からの乖離度を表す。詳しくは、T2統計量は、図4の式(3)で表された第r主成分tr、及び、第r主成分得点trの標準偏差σtrを用いて、図4の式(4)で表される。T2統計量は、マハラノビス距離に対応している。つまり、T2統計量が小さいほど、サンプルはモデル構築データの平均に近いと言える。
【0057】
Q統計量は、入力されたデータセットの変数間の相関からの逸脱を評価する指標である。Q統計量によって、変数間の相関関係に異常が発生していることを検出できる。Q統計量は、残差から計算されるものであって、詳しくは図4の式(5)で表される。Q統計量は二乗予測誤差とも呼ばれ、データのうち、モデルによっては表現できない部分を表すものとされる。MSPCではT2統計量とQ統計量とを同時に監視し、いずれか一方でも管理限界を超えた場合に異常と判定する。
【0058】
モデル105に入力されるデータセットは、10指標それぞれの値を要素として、各指標の値が時系列に並んだものであってもよいし、そのうちの一部の複数の指標を要素として、その値が時系列に並んだものであってもよい。好ましくは、モデル105に入力されるデータセットは、さらに、ポアンカレ指標の上の3指標のうちの少なくとも1つの指標を要素とする。例えば、入力されるデータセットの要素は、HRV指標の上の10指標とポアンカレ指標の上の3指標との合計13の指標の値が時系列に並んだものであってもよい。また、正規化されたデータセットであってもよい。
【0059】
好ましくは、居眠り検知のための指標値を得ることにおいて処理部10では、データセットを正準相関分析し、得られた正準変数からなるデータセットを識別器に入力する。正準相関分析は、複数のデータそれぞれについて線形変換した値の間の相関を得る手法であって、正準相関分析することは、データセットに標本正準計数を掛け合わせることを含む。
【0060】
標本正準計数は、データセットに内在する個人差を重みとして表現する係数である。標本正準計数は、具体的には、図5に示される行列(X)とそれに対するone-hot行列(Y)とを正準相関分析することで得られる。行列(X)は、番号n(n=1,2,3、…,n)が付与されたN人の被験者それぞれの、覚醒時に得られたRRIを用いて生成したデータセットを縦に連結した行列である。one-hot行列は、要素の1つだけを1とし、他の要素を0としたベクトルを指す。具体的には、n人目の時系列データが1で、それ以外を0としたベクトルをN個連結したものである。
【0061】
処理部10では、得られた正準変数の中の少なくとも一部の変数を新たなデータセットとして取り出し、モデル105に入力する。例えば、得られた正準変数の中の第1、第10、第11、第12変数を取り出して新たなデータセットとし、モデル105に入力する。このとき、好ましくは、新たなデータセットはポアンカレ指標の3指標のうちの少なくとも1つから得られた変数を要素とする。
【0062】
好ましくは、居眠り検知のための指標値を得ることにおいて処理部10では、データセットをダイナミック化し、得られた時系列変化を有する時系列データのデータセットをモデル105に入力する。ダイナミック化するデータセットは、正準相関分析して得られた正準変数からなるデータセットであってもよいし、正準相関分析される前の変数からなるデータセットであってもよい。
【0063】
ダイナミック化することは、新たなデータセットの各要素について、被験者の心電信号の複数の心拍それぞれから得られる、複数の心拍に関する指標の値を用いて、時系列変化を有するデータを生成することを指す。具体的には、ダイナミック化することは、過去のデータを要素として加えることで時系列変化を有するデータとすることであってよい。
【0064】
図6を用いて、第1のデータセットD1に対してダイナミック化を行う方法の具体例について説明する。第1のデータセットD1は、第1変数、第10変数、第11変数、及び、第12変数の4つの変数それぞれの心拍1~5までの値を要素とした時系列データである。
【0065】
第1のデータセットD1のダイナミック化においては、一例として、第1のデータセットD1に対して、1拍後の時系列データに相当する第2のデータセットD2を用いる。第2のデータセットD2は、第1のデータセットD1と同様の第1変数、第10変数、第11変数、及び、第12変数の4つの変数それぞれの、第1のデータセットD1の最初の心拍から1拍後の心拍2~5までの値を要素とした時系列データである。
【0066】
ダイナミック化では、第1のデータセットD1に第2のデータセットD2が連結されることによって、第3のデータセットD3が生成される。第3のデータセットD3は、第1のデータセットD1の心拍における第1変数、第10変数、第11変数、及び、第12変数それぞれの心拍1~4までの値と、心拍における第1変数、第10変数、第11変数、及び、第12変数それぞれの1拍後の心拍2~5までの値との、8変数、32個の要素からなる時系列データである。
【0067】
第1のデータセットD1のダイナミック化においては、さらに、第1のデータセットD1に対して、さらに第2のデータセットD2の最初の心拍から後の心拍のデータセットを結合してもよい。さらに後の拍は、例えば2拍後であってよい。図6の例で、さらに2拍後のデータセットを結合すると、生成されるデータセットは、12変数、48個の要素からなる時系列データとなる。
【0068】
指標値算出処理102では、ダイナミック化して得られた時系列変化を有するデータセット、又は、そのデータセットを正規化したものをモデル105に入力することによって、モデル105の出力値としてQ統計量及びT2統計量を得、それらの少なくとも一方を指標値とする。
【0069】
検知処理は、判定処理103を含む。判定処理103は、指標値算出処理102によって連続する心拍から算出された複数の指標値を第1の閾値と比較し、第1の閾値を越える継続時間DT1、及び、第1の閾値を下回る継続時間DT2を計時することを含む。指標値は、識別器にデータセットを入力することによって得られるQ統計量及びT2統計量の少なくとも一方である。
【0070】
第1の閾値は、Q統計量及び/又はT2統計量が、居眠りと判定され得る値であって、一例として、管理限界値Q0及び/又は管理限界値T0である。管理限界値Q0は、一例として、覚醒している人から得られるRRIのみであって、居眠り時のRRIを含まないRRIから生成されたデータセットをモデル105に入力して得られるQ統計量である。管理限界値T0は、一例として、覚醒している人から得られるRRIのみであって、居眠り時のRRIを含まないRRIから生成されたデータセットをモデル105に入力して得られるT2統計量である。管理限界値は、他の例として、覚醒時のQ統計量及び/又はT2統計量として、予め記憶されている値を用いてもよい。
【0071】
判定処理103は、指標値を第1の閾値と比較することによって、被験者の心電信号から得られた指標値が、覚醒時の心電信号から得られた指標値から乖離した状態であるか否かを判定することを含む。すなわち、ここでは、指標値が第1の閾値を超えた状態において、被験者が覚醒状態でない、つまり、居眠りをしている状態である可能性が判定される。指標値が第1の閾値を下回った状態において、被験者が覚醒状態、つまり、居眠りをしていない状態である可能性が判定される。
【0072】
ここで、心電には、健常者でも起こりうる一般的な不整脈である期外収縮(PVC:Premature Ventricular Contraction)や、被験者の体動などの要因によって、ノイズが混入する場合がある。そのため、正確なRRIが得られない場合がある。そのような場合、指標値が第1の閾値を超えた状態であっても、居眠りをしている状態と限らない場合がある。そのため、より高精度の居眠り検知が望まれる。
【0073】
また、得られたRRIに基づく指標値が第1の閾値を下回った場合には覚醒していると判定されてしまうものの、実際には、居眠りから完全に覚醒しきらない状態である場合もある。そのため、より高精度の覚醒の検知も望まれる。つまり、より高精度の居眠り検知が望まれる。
【0074】
この点、判定処理103では、指標値として得られたQ統計量及びT2統計量の少なくとも一方について、管理限界値を越える継続時間DT1が計時される。そして、判定処理103は、得られた継続時間DT1を第2の閾値と比較し、継続時間DT1が第2の閾値を越えると居眠りと判定することを含む。また、Q統計量及びT2統計量の少なくとも一方について、管理限界値を下回る継続時間DT2が計時される。そして、判定処理103は、得られた継続時間DT2を第2の閾値と比較し、継続時間DT2が第2の閾値を越えると覚醒と判定することを含む。
【0075】
第2の閾値は、居眠りの可能性があると判定された状態の継続時間が居眠りと判定し得る継続時間、及び、覚醒の可能性があると判定された状態の継続時間が覚醒状態と判定し得る継続時間の閾値t0であって、例えば10秒程度である。なお、居眠りの判定と覚醒の判定とに異なる閾値が用いられてもよい。
【0076】
つまり、検知装置100では、指標値であるQ統計量及び/又はT2統計量が管理限界値を越えた状態が、居眠りと判定し得る継続時間である閾値t0以上連続したときに被験者の居眠りを検知する。これにより、指標値であるQ統計量及び/又はT2統計量が管理限界値を越えたことによって居眠りを判定するより高精度で居眠りを検知することができる。
【0077】
また、検知装置100では、指標値であるQ統計量及び/又はT2統計量が管理限界値を下回る状態が、覚醒状態と判定し得る継続時間である閾値t0以上連続したときに被験者の覚醒状態を検知する。これにより、指標値であるQ統計量及び/又はT2統計量が管理限界値を下回ったことによって覚醒状態を判定するより高精度で覚醒状態を検知する、言い換えると、高精度で居眠りを検知することができる。
【0078】
検知処理は、出力処理104を含んでもよい。出力処理104は、検知結果を出力することを含む。検知結果の出力は、音声出力、表示による出力、ライトの点灯による出力、振動、及び、他の装置への送信、などのうちの1以上であってよい。出力処理104は、図示しない出力装置に出力を指示する制御信号を送信することを含む。
【0079】
出力する検知結果は、居眠りであることの検知結果であってもよいし、居眠りでない、つまり、覚醒状態であることの検知結果であってもよい。これにより、被験者の、居眠りしているか覚醒状態しているかのいずれかの状態をリアルタイムで報知することが可能になる。
【0080】
図7のフローチャートを用いて、第1の実施の形態に係る検知装置100での居眠りの検知方法の一例を説明する。図7のフローチャートは、演算装置1の処理部10によって実行される。第1の実施の形態に係る検知方法は、一例として、R波データが得られると開始される。
【0081】
図7を参照して、処理部10は、初めに、処理に用いられる各パラメータT1,T2,f,stを初期化する(ステップS101)。パラメータT1,T2は、それぞれ、指標値として得られたQ統計量及びT2統計量の少なくとも一方について、管理限界値を越える継続時間、及び、管理限界値を下回る継続時間のパラメータである。パラメータfは、指標値と第1の閾値とで得られる居眠りの可能性ある状態か覚醒の可能性ある状態かを表すパラメータである。パラメータstは、被験者が居眠りしているか覚醒しているかの判定結果を表すパラメータである。
【0082】
パラメータT1,T2の初期値は0である。パラメータfの初期値は、覚醒の可能性を示す0である。パラメータstの初期値は、覚醒との判断結果を表す0である。
【0083】
処理部10は、RRIを取得し(ステップS103)、RRIを用いてHRV指標、及び、ポアンカレ指標を算出する(ステップS105)。処理部10は、これら13指標のうちの少なくとも一部の複数の指標それぞれの値を要素とするデータセットを正準相関分析し(ステップS107)、正準変数を含むデータセットを得る。
【0084】
処理部10は、ステップS107で得られたデータセットをダイナミック化することによって(ステップS109)、時系列変化を有するデータセットを生成する。処理部10は、得られたデータセットを正規化した後(ステップS111)、MSPCを利用した識別器であるモデル105に入力する(ステップS113)。これにより、Q統計量及びT2統計量が得られる、それらの少なくとも一方を指標値する(ステップS115)。
【0085】
処理部10は、指標値とする統計量を用いて判定処理を実行する(ステップS300)。処理部10は、以上の処理を繰り返すことで、得られたR波データに表される被検者の居眠りしている状態又は覚醒している状態を、リアルタイムで判定する。
【0086】
ステップS300の判定処理については、図8のフローチャートを参照して、初めに、処理部10は、指標値を第1の閾値と比較する(ステップS301)。第1の実施の形態に係る検知方法では、指標値とする統計量を管理限界値と比較する。
【0087】
指標値が第1の閾値を越えており(ステップS301でYES)、かつ、状態の可能性を表すパラメータfが1、つまり、居眠りを示している場合(ステップS303でYES)、処理部10は、指標値が第1の閾値を越えた継続時間DT1にそのときのRRIを加える(ステップS305)。
【0088】
指標値が第1の閾値を越えており(ステップS301でYES)、かつ、状態の可能性を表すパラメータfが0、つまり、覚醒を示している場合(ステップS303でNO)、処理部10は、継続時間DT1を初期化し、かつ、パラメータfを、居眠りを示す1に変化させた上で(ステップS307)、継続時間DT1にそのときのRRIを加える(ステップS305)。これにより、覚醒の可能性ある状態での継続時間DT2の計測が終了し、居眠りの可能性ある状態での継続時間DT1の計測が開始する。
【0089】
処理部10は、継続時間DT1と第2の閾値である継続時間の閾値t0とを比較する。その結果、継続時間DT1が閾値t0を越えている場合(ステップS309でYES)、処理部10は居眠りと判定して、判定結果を示すパラメータstを、居眠りを示す1にする(ステップS311)。
【0090】
一方、指標値が第1の閾値を下回っており(ステップS301でNO)、かつ、状態の可能性を表すパラメータfが0、つまり、覚醒を示している場合(ステップS313でYES)、処理部10は、指標値が第1の閾値を下回っている継続時間DT2にそのときのRRIを加える(ステップS315)。
【0091】
指標値が第1の閾値を下回っており(ステップS301でNO)、かつ、状態の可能性を表すパラメータfが1、つまり、居眠りを示している場合(ステップS313でNO)、処理部10は、継続時間DT2を初期化し、かつ、パラメータfを、覚醒を示す0変化にさせた上で(ステップS307)、継続時間DT2にそのときのRRIを加える(ステップS315)。これにより、居眠りの可能性ある状態での継続時間DT1の計測が終了し、覚醒の可能性ある状態での継続時間DT2の計測が開始する。
【0092】
処理部10は、継続時間DT2と第2の閾値である継続時間の閾値t0とを比較する。その結果、継続時間DT2が閾値t0を越えている場合(ステップS319でYES)、処理部10は覚醒していると判定して、判定結果を示すパラメータstを、覚醒を示す0にする(ステップS321)。
【0093】
処理部10は、以上の処理の後の判定結果を示すパラメータstが居眠りを示す1であった場合(ステップS323でYES)、警告を出力するなどの出力処理を実行する(ステップS325)。
【0094】
第1の実施の形態に係る検知方法において図8に表された判定処理が行われることで、指標値である統計量が第1の閾値を超えた場合でも、継続時間DT1が第2の閾値を超えない場合には居眠りと判定されない。また、いったん居眠りと判定された後、指標値が第1の閾値を下回った場合でも、下回った継続時間DT2が第2の閾値を超えない場合には覚醒したと判定されない。つまり、RRIのノイズなどによって居眠りと誤検知されることが防がれるとともに、居眠りの状態から完全な覚醒ではない状態で覚醒と検知されてしまうことも防がれる。従って、被験者の居眠りが高精度で検知される。
【0095】
発明者は、第1の実施の形態に係る検知方法において、指標値としてQ統計量及びT2統計量のいずれを用いる方が検知精度がよいかを検証するため、同一の被験者のT2統計量及びQ統計量のそれぞれを用いて居眠りを検知した。図9の(A)は、T2統計量の推移を表し、(B)は同じ心電信号に対するQ統計量の推移を表している。図9(A)及び(B)において、横軸は時間を表し、縦軸は指標値を表している。T2統計量の管理限界値T0を10、Q統計量の管理限界値Q0を0,2とした。図9(A)及び(B)において、被験者は、時刻T2からT3までの期間Dに居眠りをしている。
【0096】
図9(A)の結果では、T2統計量を用いた場合、時刻T0からT2統計量が管理限界値T0を超え、時刻T1に達すると継続時間DTが閾値t0以上となって、居眠りが検知される。一方、図9(B)に示されたように、この測定結果では、Q統計量を用いた場合には(A)において居眠りが検知される時刻T1でも居眠りは検知されない。
【0097】
従って、図9の結果より、指標値としてQ統計量及びT2統計量のいずれかを用いる場合にはT2統計量の方がよいことが検証された。
【0098】
次に、発明者は、第1の実施の形態に係る検知方法において、モデル105に入力するデータセットとして用いる指標値について、HRV指標の値をそのまま用いた場合、ポアンカレ指標の値のみを用いた場合、HRV指標並びにポアンカレ指標の値を正準相関分析して得られた正準変数を用いた場合、HRV指標並びにポアンカレ指標の値をダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた場合、及び、HRV指標並びにポアンカレ指標の値を正準相関分析して得られた正準変数をダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた場合それぞれの検知精度を検証するための、第1~第5の試験を行った。
【0099】
図10図14は、それぞれ、第1~第5の試験によって得られた、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を表した図である。ROC曲線は、FPR(偽陽性率)を横軸、TPR(真陽性率)を縦軸として、FPRに対するTPRをプロットしたものである。
【0100】
発明者らは、第1~第5の試験結果から得られたAUC(area under the receiver operating characteristic curve)、感度及び特異度を用いて、それぞれモデル105に入力するデータセットを評価した。AUCは、ROC曲線の下側の面積で得られる。AUCは0から1までの値をとり、大きいほど検知性能が高いことを示している。感度は、真陽性及び偽陰性に対する真陽性率である。特異度は、擬陽性及び真陰性に対する真陰性率である。
【0101】
図10に示される第1の試験においては、AUCが0.8349、感度が0.78、及び、特異度が0.71と得られた。図11に示される第2の試験においては、AUCが0.8650、感度が0.78、及び、特異度が0.88と得られた。図12に示される第3の試験においては、AUCが0.8434、感度が0.78、及び、特異度が0.71と得られた。図13に示される第4の試験においては、AUCが0.8534、感度が0.89、及び、特異度が0.71と得られた。図14に示される第5の試験においては、AUCが0.8904、感度が0.89、及び、特異度が0.75と得られた。
【0102】
第1の試験と第2の試験との結果を比較すると、第2の試験の方が第1の試験よりもAUC及び特異度ともに高く、ポアンカレ指標を用いた方が、検知精度が高いことが分かった。第1の試験と第3~第5の試験との結果を比較すると、HRV指標並びにポアンカレ指標の値を正準相関分析して得られた正準変数を用いた場合、ダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた場合、及び、正準相関分析して得られた正準変数をダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた場合のいずれも、HRV指標の値をそのまま用いた場合より検知精度が高いことが分かった。
【0103】
さらに、第3~第5の試験の結果を比較すると、HRV指標並びにポアンカレ指標の値を正準相関分析して得られた正準変数を用いた場合よりダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた場合、また、ダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた場合より正準相関分析して得られた正準変数をダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた場合の方が、検知精度が高いことが分かった。
【0104】
以上の結果より、第1の実施の形態に係る検知方法においては、指標値としてHRV指標の値をそのまま用いるより、少なくとも一部にポアンカレ指標の値を用いた方が、検知精度が上がることが検証された。また、さらに、指標の値をそのまま用いるより、指標の値を正準相関分析して得られた正準変数を用いた方が、検知精度が上がることが検証された。また、指標の値をそのまま用いるより、指標の値をダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた方が、検知精度が上がることが検証された。また、さらに、指標の値をそのまま用いるより、指標の値を正準相関分析して得られた正準変数をダイナミック化して得られた時系列変化を有する時系列データを用いた方が、検知精度が上がることが検証された。
【0105】
なお、ダイナミック化において、第1のデータセットに対して連結する第2のデータセットを、第1のデータセットの何拍後までのものとするかを検証するため、発明者らは、第2のデータセットの第1のデータセットからの拍数の差を変化させて検知装置100での検知精度を評価した。検知精度の評価はAUCを用いた。その結果、図15の結果が得られた。図15は、縦軸がAUCを表し、横軸が第2のデータセットの第1のデータセットからの拍数の遅れを表している。図15の結果より、この試験では、第1のデータセットから8拍遅れた第2のデータセットを第1のデータセットに連結したときの検知精度が最も高いことが分かる。これより、第2のデータセットとして8拍程度の遅れのものを用いるのがよいことが検証された。
【0106】
[第2の実施の形態]
【0107】
第2の実施の形態に係る検知装置100においては、モデル105は、機械学習されたモデルであって、一例として、オートエンコーダである。第2の実施の形態の指標値算出処理102においては、オートエンコーダに対してRRIを入力データとして与えて、入力データの再構築データである出力データを用いて居眠り検知のための指標値を得る。
【0108】
オートエンコーダは、LSTM(long short-term memory)やセルフ・アテンション(self-attention)を利用した深層学習モデルの一例であって、入力データを再構築し、入力データと近い値を出力するように訓練データを用いて機械学習された深層学習モデルである。そのため、モデル105をオートエンコーダとすると、モデル105に訓練データと異なる傾向のデータが入力されると、出力データの入力データからの誤差が大きくなる。すなわち、正常時のデータを訓練データとして機械学習されたモデル105に異常データを入力すると誤差が大きくなる。第2の実施の形態に係る検知装置100は、モデル105のこの特性を利用して異常データが検知することで居眠りを検知する。これにより、容易に高精度で居眠りを検知することができる。
【0109】
指標値算出処理102において、処理部10は、覚醒時のRRIデータのみを訓練データとして用いて機械学習されたオートエンコーダであるモデル105を用いる。すなわち、訓練データは、覚醒時のRRIデータを含み、居眠り時のRRIデータを含まない。モデル105は、演算装置1に記憶されていてもよいし、通信部13によってアクセス可能な他の装置に記憶されていてもよい。
【0110】
第2の実施の形態に係る指標値算出処理102は、R波データから得られたRRIをモデル105に入力し、出力データを得ることを含む。処理部10は指標値算出処理102において、得られる都度RRIを記憶しておき、所定数のRRIをモデル105に入力する。所定数は、例えば30個である。このとき、モデル105からは30個の出力データが得られる。
【0111】
指標値算出処理102は、モデル105からの出力データの、モデル105に入力したRRIからの誤差を算出することを含む。第2の実施の形態に係る検知方法では、得られた誤差を指標値とする。誤差は、例えば、平均二乗誤差である。
【0112】
第2の実施の形態に係る判定処理103は、指標値算出処理102によって算出された誤差を第1の閾値と比較し、第1の閾値を越える継続時間DT1を計時することを含む。また、判定処理103は、誤差が第1の閾値を下回る継続時間DT2を計時することを含む。ここでの第1の閾値は、異常データであると考えられる程度に入力データからの乖離を表す値e0であって、予め設定されていてよい。
【0113】
処理部10が誤差を第1の閾値と比較することによって、入力されたRRIが、覚醒時のR波データから得られたRRIと同じ傾向のデータであるか異なる傾向のデータであるかが判定される。第1の閾値である閾値e0は、誤差が、入力データが覚醒時のみから得られる入力データとは異なるデータであると判定し得る誤差、つまり、居眠りと判定し得る値である。これにより、誤差が閾値e0を越えて大きいときに、被験者が覚醒状態でない、つまり、居眠りの可能性が判定され、誤差が閾値e0を下回るときに、被験者が覚醒状態である可能性が判定される。
【0114】
第2の実施の形態に係る判定処理103でも、誤差が閾値e0を越える継続時間DT1と、誤差が閾値e0を下回る継続時間DT2を計時する。そして、判定処理103は、得られた継続時間DT1が第2の閾値を越えると被験者の居眠りを検知し、継続時間DT2が第2の閾値を越えると被験者の覚醒を検知することを含む。第2の閾値は、居眠り又は覚醒と判定し得る継続時間の閾値t0であって、例えば10秒程度である。
【0115】
これにより、第2の実施の形態に係る検知装置100でも、誤差が閾値e0を越えた状態が、居眠りと判定し得る継続時間である閾値t0以上連続したときに被験者の居眠りを検知する。また、誤差が閾値e0を下回った状態が、覚醒と判定し得る継続時間である閾値t0以上連続したときに被験者の覚醒を検知する。これにより、誤差が第1の閾値を越えたことによって居眠りを判定したり、誤差が第1の閾値を下回ったことによって覚醒を判定したりするより高精度で居眠りを検知することができる。
【0116】
図16のフローチャートを用いて、第2の実施の形態に係る検知装置100での居眠りの検知方法の一例を説明する。図16のフローチャートは、演算装置1の処理部10によって実行される。第2の実施の形態に係る検知方も、一例として、R波データが得られると開始される。
【0117】
図16を参照して、処理部10は、初めに、処理に用いられる各パラメータT1,T2,f,stを初期化する(ステップS201)。
【0118】
処理部10は、RRIを取得し(ステップS203)、標準化した後、メモリへ記憶する(ステップS205)。処理部10では、以上のRRIの算出を、メモリに記憶されたRRIがオートエンコーダであるモデル105に入力するのに適した数に達するまで繰り返す(ステップS207でNO)。
【0119】
メモリに記憶されたRRIがモデル105に入力するのに適した数に達すると(ステップS207でYES)、処理部10は、これらRRIをオートエンコーダであるモデル105に入力する(ステップS209)。これにより、モデル105からRRIが再構築された値が出力データとして得られる。処理部10は、入力したRRIのモデル105の出力データからの誤差を算出し(ステップS211)、と指標値とする。
【0120】
処理部10は、指標値とする誤差を用いて判定処理を実行する(ステップS300)。ステップS300の判定処理は、図8の処理である。処理部10は、以上の処理を繰り返すことで、得られたR波データに表される被検者の居眠りしている状態又は覚醒している状態を、リアルタイムで判定する。ここでは、HRV指標などをRRIから算出せずにRRIをモデル105への入力に用いることで、指標値を容易に得られるとともに、RRIから各種指標を算出する際に情報量が低下することが防がれ、検知精度を向上させることができる。
【0121】
また、第2の実施の形態に係る検知方法でも図8に表された判定処理が行われることによって、指標値である誤差が第1の閾値を超えた場合でも、継続時間DT1が第2の閾値を超えない場合には居眠りと判定されない。また、いったん居眠りと判定された後、指標値が第1の閾値を下回った場合でも、下回った継続時間DT2が第2の閾値を超えない場合には覚醒したと判定されない。つまり、RRIのノイズなどによって居眠りと誤検知されることが防がれるとともに、居眠りの状態から完全な覚醒ではない状態で覚醒と検知されてしまうことも防がれる。従って、被験者の居眠りが高精度で検知される。
【0122】
[評価試験]
【0123】
発明者は、第2の実施の形態に係る検知方法についての、検出精度を評価するための評価試験を行った。評価試験においては、指標値である誤差の閾値e0として0.6を用い、継続時間の閾値t0として10秒を用いた。
【0124】
図17及び図18は、第2の実施の形態に係る検知方法についての評価実験の結果を表した図であって、縦軸は再構築されたデータの入力データからの誤差の大きさ、横軸は時刻を表している。図17は、被験者が居眠りの状態を含む心電信号からの検知結果を表し、図18は、被験者が常に覚醒状態である心電信号からの検知結果を表している。これらの図において、灰色の領域は検知装置100によって被験者の居眠りが検知された期間を指す。
【0125】
詳しくは、図17に示された誤差の推移では、誤差が閾値e0を10秒以上越えた範囲があり、その範囲において居眠りが検知されている。また、その後、誤差が閾値e0を下回る期間が10秒を超えると、居眠りからの覚醒が検知されている。一方、図18に示された誤差の推移では、誤差が閾値e0を越えたタイミングはあったものの、越えた状態が10秒以上継続していないため、居眠りが検知されてない。
【0126】
図17及び図18の結果より、第2の実施の形態に係る検知方法によって、ノイズや心拍の揺れなどによって誤差が居眠りの状態を表す閾値e0を越える場合があっても、覚醒時に、居眠りとして検出されてしまうことが防がれる。すなわち、居眠りを検知する精度を向上させることができる。
【0127】
なお、発明者らは、第2の実施の形態に係る検知方法の評価試験を、オートエンコーダの構成をLSTMとセルフ・アテンションとのそれぞれについて行い、オートエンコーダの構成について評価した。この評価試験には、被験者26名がドライビングシミュレータによる運転実験を行い、その間に得られた心電信号から算出されたRRIをデータセットとして用いた。各データは、15分~20分の長さをもつ。
【0128】
オートエンコーダの構成の評価には、用いたデータセットのAUC(area under the receiver operating characteristic curve)を用いた。AUCは、継続時間の閾値t0を固定して誤差の閾値e0を変化させたときの、各閾値e0に対応する陽性的中率(TPS:true positive rate)と偽陽性率(FPS:false positive rate)とが描く軌跡の下側の面積で得られる。陽性的中率と偽陽性率とが描く軌跡はROC曲線と呼ばれる。AUCは0から1までの値をとり、大きいほど検知性能が高いことを示している。評価試験では、閾値t0を変化させて、閾値t0の各値のときのAUCを求めた。
【0129】
図19は、縦軸をAUCとし、横軸を閾値t0の値として、オートエンコーダの構成をLSTMとセルフ・アテンションとのそれぞれについて評価試験の結果を示したグラフである。図19の結果より、閾値t0がどの値のときも、オートエンコーダの構成をセルフ・アテンションとした方がLSTMとするより検知精度が高いことが検証された。
【0130】
<3.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0131】
1 :演算装置
2 :心拍計測器
10 :処理部
12 :メモリ
13 :通信部
21 :電極
100 :検知装置
101 :RRI算出処理
102 :指標値算出処理
103 :判定処理
104 :出力処理
105 :モデル
121 :プログラム
A1 :長軸
A2 :短軸
D :期間
D1 :第1のデータセット
D2 :第2のデータセット
D3 :第3のデータセット
E :楕円
HF :補正
I :信号強度
Ith :強度閾値
LF :補正
P :被験者
Q0 :管理限界値
T :継続時間
T0 :管理限界値
e0 :閾値
t0 :閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19