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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130193
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B30B 11/02 20060101AFI20220830BHJP
   B22F 3/035 20060101ALI20220830BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B30B11/02 F
B22F3/035 D
B22F3/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029235
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮島 敏朗
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018CA14
4K018CA17
4K018CA18
4K018CA19
4K018KA16
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】 成形体内部の密度分布差が小さな成形体を製造するための成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 ダイ3に設けられた貫通孔3aと貫通孔3aに挿入された第一パンチ1とにより形成された空間に原料粉末4を充填し、第一パンチ1と対向するよう第二パンチ2を貫通孔3aに挿入して第一パンチ1と第二パンチ2とを相対的に移動させ原料粉末4を圧縮成形する成形体10の製造方法であって、第二パンチ2を、第二パンチ2が原料粉末4に接触した位置から第一パンチ1に向かって第一所定量移動する第1加圧工程と、第一パンチ1を第二パンチ2に向かって第二所定量移動する第2加圧工程と、第二パンチ2を第一パンチ1に向かって第三所定量移動する第3加圧工程と、を備え、第1加圧工程、第2加圧工程、及び第3加圧工程を順次実施する成形体の製造方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイに設けられた貫通孔と当該貫通孔に挿入された第一パンチとにより形成された空間に原料粉末を充填し、前記第一パンチと対向するよう第二パンチを前記貫通孔に挿入して前記第一パンチと前記第二パンチとを相対的に移動させ前記原料粉末を圧縮成形する成形体の製造方法であって、
前記第二パンチを、前記第二パンチが前記原料粉末に接触した位置から前記第一パンチに向かって第一所定量移動する第1加圧工程と、
前記第一パンチを前記第二パンチに向かって第二所定量移動する第2加圧工程と、
前記第二パンチを前記第一パンチに向かって第三所定量移動する第3加圧工程と、を備え、
前記第1加圧工程、前記第2加圧工程、及び前記第3加圧工程を順次実施することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
前記第二所定量は、前記第一所定量と前記第三所定量との和と等しいことを特徴とする請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記第三所定量は前記第二所定量より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末から成形金型を用いて成形体を成形する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミックスや超硬などの機能性に優れた製品にニーズが高まっている。例えば切削工具用チップ製品の製造では、大量生産可能である粉末プレス成形が多く用いられている。粉末プレス成形では、ダイとパンチから構成される成形金型を利用し、原料粉末を充填したダイにパンチを挿入して原料粉末を加圧することで円柱形状、円筒形状、四角形状などの成形体を製造し、成形体を焼結してブランクを作製した後、ブランクの外形を最終の製品形状に加工して製品を製造している。これら粉末プレス成形により製造される製品では、成形体内部の密度に不均一な部分があると、ブランク外形の寸法ばらつきの増加や、ブランクの加工時に破損が発生をする恐れがある。ブランク外形の寸法ばらつきは、その後の加工工程での加工量の増加や、ブランクの内部欠陥の増加につながる。
【0003】
粉末プレス成形では、精度の高いブランクを得るため、パンチをサーボモータで正確に制御できるCNC粉末成形機を利用して成形を行うことも行われている。しかしこの方法で成形を行っても、ダイに挿入されたパンチ周囲の粉末は、ダイ壁面との間の摩擦により他の部位より密度が高くなりやすく、成形体内部の密度分布差は生じる。特に、円柱形状や四角形状の成形体は、成形時に金型内での粉末移動が起こりにくいため、成形時の密度分布が不均一になりやすい。
【0004】
このような成形体の内部における密度分布差を解消するため、上パンチと下パンチにより上下方向から粉末に荷重をかける両押し方式による成形方法や、パンチを駆動すると同時にダイをパンチと同一方向に移動させて成形するウイズドロアル(Withdrawal process)方式など様々な方法が考案されている。
特許文献1では、粉末プレス成形時に第1パンチを移動させてから第2パンチを移動させるという2段階のプレス方法が提案されており、第1パンチ(上パンチ)の移動量を第2パンチ(下パンチ)の移動量の1~5倍に設定して成形する例が開示されている。また、特許文献2には、金型にテーパーをつけて成形する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-272942号公報
【特許文献2】特開2001-3104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば特許文献1記載の成形方法では、第1パンチと第2パンチの移動量を相違させるため、それぞれのパンチを移動させる工程における原料粉末の移動量が異なり、移動量の大きいパンチ側には大きな密度ばらつきが生じることとなり、成形体を焼結したブランクにおいて寸法ばらつきや密度不均一による品質低下を十分に解消することはできない。また、特許文献2記載の成形方法であっても、成形体にかかる圧力を低減させることで、成形体内部の密度分布の不均一さを低減できる期待はされるものの十分とはいえない。本発明は上記課題を鑑み、成形体内部の密度分布差が小さな成形体を製造するための成形体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ダイに設けられた貫通孔と当該貫通孔に挿入された第一パンチとにより形成された空間に原料粉末を充填し、前記第一パンチと対向するよう第二パンチを前記貫通孔に挿入して前記第一パンチと前記第二パンチとを相対的に移動させ前記原料粉末を圧縮成形する成形体の製造方法であって、前記第二パンチを、前記第二パンチが前記原料粉末に接触した位置から前記第一パンチに向かって第一所定量移動する第1加圧工程と、
前記第一パンチを前記第二パンチに向かって第二所定量移動する第2加圧工程と、
前記第二パンチを前記第一パンチに向かって第三所定量移動する第3加圧工程と、を備え、前記第1加圧工程、前記第2加圧工程、及び前記第3加圧工程を順次実施する成形体の製造方法とする。
さらに、前記第二所定量は、前記第一所定量と前記第三所定量との和と等しい成形体の製造方法とする。
さらにまた、前記第三所定量は前記第二所定量より小さい成形体の製造方法とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形体内部の密度分布を小さくし、成形体の焼結後の寸法ばらつきや内部欠陥の少ない高品質の製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の成形体の製造方法の実施形態を説明するための図である。
図2】比較例1の成形体の製造方法を説明するための図である。
図3】比較例3の成形体の製造方法を説明するための図である。
図4-1】実施例1のブランク断面におけるピンホール形成状態を撮像した図である。
図4-2】比較例2のブランク断面におけるピンホール形成状態を撮像した図である。
図4-3】比較例3のブランク断面におけるピンホール形成状態を撮像した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の成形体の製造方法は、ダイに設けられた貫通孔と当該貫通孔に挿入された第一パンチとにより形成された空間に原料粉末を充填し、第一パンチと対向するよう第二パンチを貫通孔に挿入して第一パンチと第二パンチとを相対的に移動させ原料粉末を圧縮成形する成形体の製造方法において、第二パンチを移動させ原料粉末を加圧し、その後、第一パンチを移動させ原料粉末を加圧し、さらにその後、第2パンチを移動させ原料粉末を加圧して成形体を製造する方法である。
【0011】
図1は、本発明の成形体の製造方法の実施形態を説明するための図である。本実施形態では円柱状の成形体を製造する方法を例とし本発明を説明する。成形体は、貫通孔3aを備えた円筒状のダイ3と、ダイ3の貫通孔3aに挿入される円柱状の下パンチ1及び上パンチ2を有する金型を備える粉末成形プレス機により製造される。下パンチ1と上パンチ2は、ダイ3の貫通孔3aに挿入され、それぞれが貫通孔3aの軸線上を独立して移動可能となっている。
【0012】
[原料粉末充填工程:図1(a)]
まず、貫通孔3aの一方の開放端より下パンチ1が挿入され、下パンチ1の底面とダイ3の貫通孔3aの内壁面とにより凹部が形成されたダイ3の凹部に、成形体の原料粉末4を供給する。
【0013】
[第1加圧工程:図1(b)]
次いで、貫通孔3aの他方の開放端より上パンチ2を挿入し、上パンチ2を下パンチ1へ向かって移動させることで原料粉末4を加圧、圧縮する。このとき、ダイ3及び下パンチ1の位置は固定され、上パンチ2は原料粉末4から接触した位置から下パンチ1へ向かい予め設定した所定の距離Aだけ移動する。この工程により、主に上パンチ2側の原料粉末4が移動し、原料粉末4は貫通孔3aの内壁面との摩擦によって部分的に圧縮され、上パンチ2近傍の密度上昇が起こる。なお、下パンチ1周辺では原料粉末4の大きな移動がないため大きな密度上昇は起こらず、原料粉末4全体の密度は不均一な状態である。
【0014】
[第2加圧工程:図1(c)]
次いで、ダイ3及び上パンチ2の位置を固定した状態で、下パンチ1を上パンチ2に向かって予め設定した所定の距離aだけ移動し、原料粉末4を加圧、圧縮する。この工程により、主に下パンチ1側の原料粉末4が移動し、下パンチ1近傍の密度上昇が起こる。このとき、原料粉末4は第1加圧工程によりある程度圧縮された状態であり、第1加圧工程における上パンチ2周辺の密度上昇に比べ大きな密度上昇が下パンチ1周辺に発生する。なお、この工程における下パンチ1の移動量(所定の距離a)は、第1加圧工程における上パンチ2の移動量(所定の距離A)より大きく設定する。
【0015】
[第3加圧工程:図1(d)]
次いで、ダイ3及び下パンチ1の位置を固定した状態で、上パンチ2を下パンチ1に向かって予め設定した所定の距離αだけ移動し、原料粉末を加圧、圧縮する。第2加圧工程を終えた状態では、下パンチ1周辺の密度が上パンチ2周辺より大きくなっているが、この工程を行うことで主に上パンチ2周辺の密度が上昇する。
【0016】
このように、上パンチ2からの加圧(第1加圧工程)、下パンチ1からの加圧(第2加圧工程)、上パンチ2からの加圧(第3加圧工程)を順次実施ことで、上パンチ2からの加圧、下からの加圧を同時または別々に一回実施した場合と比較し、ダイス3凹部の中央部における原料粉末4の移動(再配列)が生じやすく、原料粉末4の圧縮を均等に促進させることができ、成形体10内部の密度分布差を小さくすることが可能である。
【0017】
なお、第3加圧工程における上パンチ2の移動量(所定の距離α)は、第1加圧工程における上パンチ2の移動量(所定の距離A)及び第2加圧工程におけるより移動量(所定の距離a)より小さく設定するのが好ましく、第1加圧工程と第3加圧工程における上パンチ2の移動量の和(所定の距離A+所定の距離α)が第2加工工程における下パンチ1の移動量(所定の距離a)と等しくなるよう設定する、つまり各工程を通じた上パンチ2の移動量と下パンチ1の移動量とを等しくすることで、より均一な密度の成形体10を製造することが可能となる。
【0018】
[排出工程:図1(e)]
最後に上パンチ2、下パンチ1をダイ3の貫通孔3aの他方の開放端側へ移動させ、貫通孔3a内で圧縮成形された原料粉末4からなる成形体10をダイ3から排出する。以上により原料粉末4からなる成形体10が完成する。成形体10はその後、焼結されブランクとなり、ブランクの外形を研磨することで所望外径の製品となる。
【0019】
次に、本発明の成形体の製造方法により製造した成形体を焼結したブランク(実施例)と、本発明を採用しない別の製造方法により製造した成形体を焼結したブランク(比較例)により、それぞれの成形体の状態を検証した結果を説明する。なお、ここでは、上記実施形態で説明した符号を用い実施例及び比較例を説明する。実施例及び比較例ともに、成形体10を製造するための成形金型として、直径1.2mmの貫通孔3aの開いた超硬製のダイ3、超硬製の下パンチ1、及び超硬製の上パンチ2を利用し、原料粉末4として成形用バインダーが添加されているアルミナ粉末を粉末プレス成形して成形体10を製造した。成形体10は、直径1.2mm、高さ1.2mmの外形を目指して作成している。実施例及び比較例ともに、後述する工程で記載していない成形条件、焼結条件等はすべて同一のもと行い、
成形体10の状態は、実施例及び比較例における各ブランクの上面(上パンチ2側)と下面(下パンチ1側)との直径の寸法差、及び各ブランクの断面におけるピンホールの形成状態を観察することで評価をした。
【0020】
[実施例1]
実施例1は、上述の本発明の実施形態により成形体10を製造しており、上パンチ2と下パンチ1のそれぞれの総移動量を2.7mmに設定し、第1加圧工程における上パンチ2の移動量を1.2mm、第2加圧工程における下パンチ1の移動量を1.35mm、第3加圧工程における上パンチ2の移動量を0.15mmとして原料粉末4を圧縮し成形体10を製造した。
【0021】
[実施例2]
実施例2も上述の本発明の実施形態により成形体10を製造し、上パンチ2と下パンチ1のそれぞれの総移動量を2.7mmに設定し、第1加圧工程における上パンチ2の移動量を1.15mm、第2加圧工程における下パンチ1の移動量を1.35mm、第3加圧工程における上パンチ2の移動量を0.20mmとして原料粉末4を圧縮し成形体10を製造した。実施例1との相違点は、第1加圧工程における上パンチ2の移動量を0.05mm減少させ、第3工程における上パンチ2の移動量を0.05mm増加させた点である。
【0022】
[比較例1]
比較例1は、上パンチ2と下パンチ1とをそれぞれ一回ずつ順次移動させ、原料粉末4を加圧して成形体10を製造した例である。図2は、比較例1の成形体の製造方法を説明するための図である。比較例1では、まず、貫通孔3aの一方の開放端より下パンチ1が挿入され、下パンチ1の底面とダイ3の貫通孔3aの内壁面とにより凹部が形成されたダイ3の凹部に、成形体の原料粉末4を供給する(図2(a):原料粉末充填工程)。次いで、貫通孔3aの他方の開放端より上パンチ2を挿入し、上パンチ2を下パンチ1へ向かって移動させることで原料粉末4を加圧、圧縮する(図2(b):第1加圧工程)。このとき、ダイ3及び下パンチ1の位置は固定され、上パンチ2は原料粉末4から接触した位置から下パンチ1へ向かい2.25mm移動させ、原料粉末4を加圧、圧縮した。次いで、ダイ3及び上パンチ2の位置を固定した状態で、下パンチ1を上パンチ2に向かって0.45mm移動し、原料粉末4を加圧、圧縮した(図2(c):第2加圧工程)。最後に、上パンチ2、下パンチ1をダイ3の貫通孔3aの他方の開放端側へ移動させ、貫通孔3a内で圧縮成形された原料粉末4からなる成形体10をダイ3から排出した(図2(d):排出工程)。
【0023】
[比較例2]
比較例2は、比較例1と同様の工程により成形体10を製造した。比較例1と相違する点は、比較例1における第1加圧工程における上パンチ2の移動量を2.55mm、第2加圧工程における下パンチ1の移動量を0.15mmとした点である。
【0024】
[比較例3]
比較例3は、上パンチ2と下パンチ1とを同時に移動させることで原料粉末4を加圧して成形体10を製造した例である。図3は、比較例3の成形体の製造方法を説明するための図である。比較例3では、まず、貫通孔3aの一方の開放端より下パンチ1が挿入され、下パンチ1の底面とダイ3の貫通孔3aの内壁面とにより凹部が形成されたダイ3の凹部に、成形体の原料粉末4を供給する(図3(a):原料粉末充填工程)。次いで、貫通孔3aの他方の開放端より上パンチ2を挿入し、ダイ3の位置を固定させた状態で、上パンチ2及び下パンチ1をそれぞれ対向するパンチへ向かって移動し、原料粉末4を加圧、圧縮する(図3(b):第1加圧工程)。このとき、上パンチ2及び下パンチ1は、上パンチ2が原料粉末4に接触した位置からをそれぞれ1.35mm同時に移動させ、原料粉末4を加圧、圧縮した。最後に、上パンチ2、下パンチ1をダイ3の貫通孔3aの他方の開放端側へ移動させ、貫通孔3a内で圧縮成形された原料粉末4からなる成形体10をダイ3から排出した(図3(c):排出工程)。
【0025】
表1は、実施例及び比較例の成形体の製造条件と、各実施例及び比較例により製造された成形体10を焼結した各ブランクの上面側(上パンチ側)及び下面側(下パンチ側)の直径の寸法差を示している。なお、各ブランクの寸法差は、マイクロメータで上面側及び下面側の寸法を測定し、その寸法差を算出した。また、図4-1は、実施例1のブランク断面におけるピンホール形成状態を撮像した図であり、図4-2は比較例2のピンホール形成状態を撮像した図であり、図4-3は、比較例3のブランク断面におけるピンホール形成状態を撮像した図である。ブランクの断面は、成形時の上パンチ及び下パンチの加圧方向(ダイの貫通孔の軸方向)に水平に切断した断面であり、ピンホールの状態は、実体顕微鏡倍率100倍により観察、撮像したものである。図中の黒点がピンホールを示している。
【0026】
【表1】
【0027】
表1、図4-1、図4-2及び図4-3より、実施例1は、ブランクの上面、下面における寸法差が最も小さく、またブランクの断面にピンホールも存在はするもののその量は最も少なく、ブランク内部全体に均一に分布している。以上の結果より、ブランク(成形体10)内部は全体的に均一な密度であり、密度分布差は少なく良好な成形体10を得られたといえる。
【0028】
実施例2は、ブランクの上面、下面における寸法差が他の例に比べて中程度であり、実施例1に対して寸法差は大きくなっている。実施例1と実施例2とでは、上パンチ2の総移動量は同一であるが、実施例2は実施例1に対し、第1加圧工程での上パンチ2移動量を減少させ、第3加圧工程での上パンチ2移動量を増加させている。実施例2のブランクは上側の直径が下側の直径より大きくなっているが、これは、第1加圧工程においてはダイ3と下パンチ1で形成される凹部に原料粉末が充填された状態の原料粉末4を加圧するのに対し、第3加圧工程では、第1加圧工程及び第2加圧工程を経てある程度圧縮された状態の原料粉末4を加圧していることに起因したものと考えられる。ピンホールの状態は図示しないが、実施例1と同等の数量、分布状態であった。実施例2は、実施例1よりブランク上面と下面の寸法差が大きいためブランク内部の密度差は大きいと考えられるものの寸法差は中程度であり、ピンホールの状態は実施例1と変わらないため、成形体10内の密度分布差は然程大きくなく、良好な成形体10を得られたといえる。
【0029】
比較例1は、成形体の排出工程で成形体が上面側と下面側との間の中央部で2つに割れてしまい成形ができないという結果であった。これは、成形体内部の中央部における粉末の移動が少なかったために中央部における密度が低くなり、中央部の密度と下面側または上面側の密度とが大きく相違してしまったためと考えられる。なお、比較例3における上面と下面の寸法が下面の方が大きいことから、本比較例では下面側の密度が非常に高くなったものと考えられる。
【0030】
比較例2は、比較例1の製造方法において下パンチの移動量を調整したものである。比較例1に対し、比較例2では成形体は製造できたものの、成形体を焼結したブランクの上面と下面との寸法差が9μmであり、下面が大きい。さらに、ピンホールも実施例1に比べ多く観察された。したがって、ブランク内部の密度分布差が非常に大きいことがわかる。
【0031】
比較例3は、他の例と比較しブランクの上面と下面の寸法差が小さかった。しかし、ピンホールの数は、比較例2と同様に実施例1より多く観察された。これより、比較例3の製造方法では、ブランク(成形体10)の外形形状は精度よく形成できるものの、ブランク内部の密度分布は不均一であると推測される。
【0032】
以上、本発明の成形体の製造方法の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。例えば実施形態では、第1加圧工程、第2加圧工程、及び第3加圧工程を順次行うことで成形体を製造しているが、第3工程の後に原料粉末をさらに圧縮する工程を含んでもよい。その場合においても、上パンチと下パンチとを交互に複数回移動し原料粉末を加圧することで、移動がおき難い成形体中央部に位置する原料粉末の移動を促進でき、成形体内部の密度分布差を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 下パンチ
2 上パンチ
3 ダイ
3a 貫通孔
4 原料粉末
10 成形体
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】