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特開2022-130210移植片を所望の形状に成形するための医療機器
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  • 特開-移植片を所望の形状に成形するための医療機器 図1
  • 特開-移植片を所望の形状に成形するための医療機器 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130210
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】移植片を所望の形状に成形するための医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/02 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
A61F2/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029265
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】大橋 文哉
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA20
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC02
4C097DD01
4C097DD04
4C097DD05
4C097DD09
4C097DD15
4C097EE02
4C097EE06
4C097EE08
4C097EE09
4C097EE11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シート状細胞培養物などの移植片を複数枚の移植片を適用する場合に、簡便に所望の形状に成形することのできる医療機器を提供する。
【解決手段】医療機器1は、移植片Sを載置することのできる支持部2、及び、支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、1以上の刃状部4を先端側に備えた切開部3を含む。移植片Sは、複数の刃状部により複数の切れ込みが入れられ、各切れ込みの間には所望の形状の部分とそれ以外の部分とが繋がっている隙間部分を残している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植片を所望の形状に成形するための医療機器であって、
移植片を載置することのできる支持部、
支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、1以上の刃状部を先端側に備えた切開部
を含む、前記医療機器。
【請求項2】
切開部が、支持部の移植片を載置する面の逆側に位置しており、該支持部が、1以上の孔を有する、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
切れ込みの入った移植片を押し出す、押し出し部をさらに含む、請求項1または2に記載の医療機器。
【請求項4】
筒状の本体部をさらに含み、ここで切開部が、本体部の内側をスライドできるように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項5】
切開部がストッパを備え、ここでストッパが切開部の本体内でのスライド距離を調節できるように構成されている、請求項4に記載の医療機器。
【請求項6】
切開部が、本体部の内側で回転することができるように構成されている、請求項4または5に記載の医療機器。
【請求項7】
支持部が、その端部が基端側に向かい反った形状となるように構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項8】
所望の形状が、多角形である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項9】
移植片を所望の形状に成形するための方法であって、
移植片を載置することのできる支持部、支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、少なくとも1の刃状部を先端側に備えた切開部、を含む医療機器を提供するステップ、
支持部に移植片を載置するステップ、
移植片に所望の切れ込みを入れるステップ
を含む、前記方法。
【請求項10】
切れ込みの入った移植片を、目的部位に向けて押し出すステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
所望の形状の移植片を目的部位に送達するための方法であって、
移植片を載置することのできる支持部、支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、少なくとも1の刃状部を先端側に備えた切開部、および切れ込みの入った移植片を押し出す、押し出し部を含む医療機器を提供するステップ、
支持部に移植片を載置するステップ、
移植片に所望の切れ込みを入れるステップ、および
切れ込みの入った移植片を、目的部位に向けて押し出すステップ
を含む、前記方法。
【請求項12】
目的部位への移植片の送達が、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器を挿通することによって行われる、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植片を所望の形状に成形するための医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の利用が試みられている(非特許文献1)。
【0003】
このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた(非特許文献2)。
シート状細胞培養物の治療への応用については、火傷などによる皮膚損傷に対する培養表皮シートの利用、角膜損傷に対する角膜上皮シート状細胞培養物の利用、食道がん内視鏡的切除に対する口腔粘膜シート状細胞培養物の利用などの検討が進められており、その一部は臨床応用の段階に入っている。
【0004】
シート状細胞培養物を目的部位に投与する方法に関して、人体に対する低侵襲な手術方法として内視鏡下手術が広く用いられており、シート状細胞培養物を目的部位に送達して投与するための様々な器具が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Haraguchi et al., Stem Cells Transl Med. 2012 Feb;1(2):136-41
【非特許文献2】Sawa et al., Surg Today. 2012 Jan;42(2):181-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような中、本発明者は、臨床応用においては、シート状細胞培養物などの移植片を適用する際には、形成された形状そのままで適用されることが多く、複数枚の移植片を適用する場合に、移植片が重なり合うなどして、最適な枚数による適用が困難であるといった問題、また移植片が重なり合わないように目的部位に配置すると、移植片が目的部位を被覆する面積が低下するため、所望の効果を発揮しないという問題に直面した。したがって、本発明の目的は、そのような問題を解決し、移植片を簡便に所望の形状に成形することのできる医療機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねる中で、移植片を載置することのできる支持部、支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、1以上の刃状部を先端側に備えた切開部を含む医療機器を用いることにより、移植片を所望の形状に成形することができることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を続けた結果、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]移植片を所望の形状に成形するための医療機器であって、
移植片を載置することのできる支持部、
支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、1以上の刃状部を先端側に備えた切開部
を含む、前記医療機器。
[2]切開部が、支持部の移植片を載置する面の逆側に位置しており、該支持部が、1以上の孔を有する、[1]に記載の医療機器。
[3]切れ込みの入った移植片を押し出す、押し出し部をさらに含む、[1]または[2]に記載の医療機器。
[4]筒状の本体部をさらに含み、ここで切開部が、本体部の内側をスライドできるように構成されている、[1]~[3]のいずれか1つに記載の医療機器。
[5]切開部がストッパを備え、ここでストッパが切開部の本体内でのスライド距離を調節できるように構成されている、[4]に記載の医療機器。
[6]切開部が、本体部の内側で回転することができるように構成されている、[4]または[5]に記載の医療機器。
[7]支持部が、その端部が基端側に向かい反った形状となるように構成されている、[1]~[6]のいずれか1つに記載の医療機器。
[8]所望の形状が、多角形である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の医療機器。
【0009】
[9]移植片を所望の形状に成形するための方法であって、
移植片を載置することのできる支持部、支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、少なくとも1の刃状部を先端側に備えた切開部、を含む医療機器を提供するステップ、
支持部に移植片を載置するステップ、
移植片に所望の切れ込みを入れるステップ
を含む、前記方法。
[10]切れ込みの入った移植片を、目的部位に向けて押し出すステップをさらに含む、[9]に記載の方法。
[11]所望の形状の移植片を目的部位に送達するための方法であって、
移植片を載置することのできる支持部、支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、少なくとも1の刃状部を先端側に備えた切開部、および切れ込みの入った移植片を押し出す、押し出し部を含む医療機器を提供するステップ、
支持部に移植片を載置するステップ、
移植片に所望の切れ込みを入れるステップ、および
切れ込みの入った移植片を、目的部位に向けて押し出すステップ
を含む、前記方法。
[12]目的部位への移植片の送達が、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器を挿通することによって行われる、[11]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、移植片を簡便に所望の形状に成形することができる。それにより、複数の移植片を目的部位に適用させる際に、移植片同士を重なり合わせずに適用することができ、最適な枚数の移植片を目的部位に適用することが可能となる。また、本発明によれば移植片同士が重なり合わず、重なり合う部分において細胞同士が接着することがないため、適用の際にある一枚の移植片が破損した場合においても、その破損した一枚だけを容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の医療機器を使用して、支持部上の移植片に、切れ込みを入れる一態様の概念図である。破線は、移植片の所望の形状を示す。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係る医療機器の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、一側面において、移植片を載置することのできる支持部、支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、1以上の刃状部を先端側に備えた切開部を含む、移植片を所望の形状に成形するための医療機器に関する。
【0013】
本発明において、「移植片」は、生体内へ移植するための構造物を意味し、特に生細胞を構成成分として含む移植用構造物を意味する。好ましくは、移植片は、生細胞および生細胞由来の物質以外の構造物(例えばスキャフォールド等)を含まない移植用構造物である。本発明の移植片としては、これに限定するものではないが、例えばシート状細胞培養物、スフェロイド、細胞凝集塊等が挙げられ、好ましくはシート状細胞培養物またはスフェロイド、より好ましくはシート状細胞培養物である。
【0014】
本発明において「シート状細胞培養物」とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)体、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
【0015】
シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明のシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明のシート状細胞培養物は、好ましくは、シート状細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0016】
シート状細胞培養物を構成する細胞は、シート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたもの(iPS細胞由来接着細胞)であってもよい。シート状細胞培養物を構成する細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。iPS細胞由来接着細胞の非限定例としては、iPS細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0017】
本発明において、「所望の形状」とは、移植片を製造した際のそのままの形状ではなく、目的部位への適用に際して、適用者が所望する移植片の形状を指す。一態様において、所望の形状は、複数の移植片を適用する際に、移植片同士が重なり合うことなく複数の移植片を並べて適用することのできる形状であり、かかる形状として、これらに限定されるものではないが、三角形、四角形、六角形などの多角形の形状であり得る。また、多角形は、鋭角および/または鈍角を含む形状であってもよく、例えば、凹多角形であってもよい。
【0018】
本発明において、「支持部」とは、移植片をその形状を維持した状態で支持することができる平面を有する板状体をいう。支持部の材料としては、特に限定されず、各種公知の材料を単独でまたは複数組み合わせて用いることができる。このような材料としては、例えば、金属、軟質塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム、スチレンーエチレンーブチレンースチレン共重合体(SEBS)、スチレンーエチレンープロピレンースチレン共重合体(SEPS)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ナイロンなどのポリアミド樹脂及びポリアミドエラストマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂及びポリエステルエラストマー、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
一態様において、支持部は、1以上の孔を設けられている。本発明において、「孔」とは、支持部に設けられた貫通孔をいい、これにより、支持部の移植片を載置する面とは逆側に位置する刃状部が、かかる孔を通り、支持部の移植片を載置する側へと表出し、移植片に切れ込みを入れることができる。孔は、刃状部が通る形状であればよく、例えば、スリット状の形状をしている。また、支持部は、孔を設けるのに代えて、針状の形状をした刃状部を通す、メッシュ状の構造をしていてもよい。
一態様において、支持部は、その端部が基端部に向かい反った形状となるように構成されている。かかる態様において、端部は、好ましくは、支持部上の刃状部が通る孔の外側の部分である。また、かかる態様において、端部は、移植片が接着しやすい材質により構成されていることが好ましい。
【0020】
本発明において、「切開部」は、その先端側に移植片に切れ込みを入れることが可能な刃状部を1以上備える部材をいう。切開部は、刃状部基部および刃状部基部の先端側の面に配置された1以上の刃状部からなる。刃状部の形状は、移植片が所望の形状となるよう切れ込みを入れることができるものであれば特に限定されないが、例えば、直線状、針状等であり得る。刃状部の形状は、好ましくは、支持部の有する孔を通ることができるものである。刃状部の形状が針状である態様において、切開部は、複数の連続する刃状部を備え、例えば、かかる刃状部が、移植片に対してミシン目を入れるように孔をあけることで、切れ込みを入れることができる。本発明において、先端側とは、医療機器における移植片の送達先である目的部位側のことをいい、これに対して、医療機器の操作者側を基端側という。
一態様において、切開部は、例えば、刃状部基部が円筒形をしていることにより、その中央を先端側から基端側まで結ぶ軸を回転中心として、回転することができるように構成されている。かかる態様において、切開部を回転させることにより、移植片に対する刃状部の位置を変更することができるため、より少ない数の刃状部で移植片に切れ込みを入れることができる。
【0021】
本発明において、「押し出し部」とは、切開部によって切れ込みの入れられた移植片に対して、移植片の切れ込みの間の隙間部分を破断して、目的部位に向けて押し出すことのできる、押し出し機構を備える部材をいう。押し出し機構としては、特に限定されず、例えば、押し子機構、気体または液体などの流体を支持部の孔から吐出させる吐出機構等が挙げられる。押し出し部が押し子機構を備える態様において、押し出し部の先端部分は、支持部の一部となっていてもよく、例えば、支持部の移植片に切れ込みを入れるための刃が通る孔に囲まれた中央部が、押し子機構の先端部分となっていて、該先端部分がさらに先端側にせり上がることによって、移植片を押し出してもよい。かかる態様において、移植片を押し出すと同時に、目的部位に適用させる際に、移植片が先端部分から容易に剥離するように、該先端部分は、移植片が接着しにくい構造をしていることが好しい。かかる構造として、例えば、移植片が接着しにくい材質により構成されていること、該先端部分が細かい凹凸を有するように構成されていることが挙げられる。
【0022】
本発明は、別の側面において、移植片を載置することのできる支持部、支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、少なくとも1の刃状部を先端側に備えた切開部を含む医療機器を提供するステップ、支持部に移植片を載置するステップ、移植片に所望の切れ込みを入れるステップを含む、移植片を所望の形状に成形するための方法に関する。
【0023】
本発明は、さらに別の側面において、移植片を載置することのできる支持部、支持部上の移植片に切れ込みを入れることのできる、少なくとも1の刃状部を先端側に備えた切開部、切れ込みの入った移植片を押し出す、押し出し部を含む医療機器を提供するステップ、支持部に移植片を載置するステップ、移植片に所望の切れ込みを入れるステップ、切れ込みの入った移植片を、目的部位に向けて押し出すステップを含む、所望の形状の移植片を目的部位に送達するための方法に関する。
【0024】
本発明において、「目的部位」とは、移植片を適用(貼付)する部分をいう。目的部位としては、例えば、管腔臓器における、損傷(創傷)が存在する部位や、損傷が存在する部位に対応する管腔壁の反対側などが挙げられる。「管腔臓器」は、体腔に収納されている内腔を有する臓器、すなわち管状または袋状の構造を有する臓器を意味し、例えば消化管系、循環器系、尿路系、呼吸器系、女性生殖器系の臓器などが挙げられる。典型的には消化管系の臓器である。また、「管腔壁」とは、管腔臓器の管または袋を構成する臓器壁を意味する。管腔壁には内腔に面した内側部と臓器の外表面を形成する外側部とがあり、「管腔壁の片側」という場合、管腔壁の内側または外側のいずれかを意味し、内側に対する外側または外側に対する内側を「反対側」という。また、片側のある領域に対して、管腔壁のちょうど反対側に位置する領域を「対応する反対側」という。目的部位は、腹腔内の臓器の表面であってもよい。
ある態様においては、管腔壁の少なくとも片側に損傷を有する管腔組織において、損傷が存在する部位に対応する反対側に移植片を移植することにより、組織の治癒を促進することができる。特にESDなどの施術によって形成された損傷であっても効果があるため、これらの施術後の合併症を予防し、予後を向上させることが可能となる。
【0025】
<第1実施形態>
以下、本発明の好適な実施態様に係る医療機器1について説明する。図1は、本発明の医療機器を使用して、支持部上の移植片に、切れ込みを入れる一態様の概念図である。図2は、本発明の第1実施形態に係る医療機器1の概念図である。なお、本開示における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は実際の大きさを示すものではない。
図1に示すように、医療機器1は、支持部2上に載置した移植片Sに向けて切断部3の刃状部4により切れ込みを入れることができる。図1においては、切断部3に刃状部4は3枚備わっており、夫々くの字型をしている。3枚のくの字型をした刃状部4は、移植片Sに略六角形となるような3箇所の切れ込みを設けることができる。これらの切れ込みは、各々その端部とその端部から最も近縁にある切れ込みの端部との間に隙間部分を有している。刃状部4により設けられた切れ込みと切れ込みの間の隙間部分には切れ込みが設けられておらず、移植片Sが連続している。一態様において、このように切れ込みを入れられた移植片Sを、さらに医療機器1の基端側から先端側の方向へ押し出すことにより、図1中の各くの字型の隙間部分を破断し、所望の形状(図1においては六角形)の移植片Sを得ることができる。図1において、破線は、移植片Sにおける所望の形状を示す。
【0026】
図2に示すように、医療機器1は、支持部2および切開部3を含む。支持部2は、その先端側に移植片Sを載置することができる。切開部3は、1以上の刃状部4および刃状部基部5からなり、刃状部4は、支持部2上に載置された移植片Sに所望の形状となるように切れ込みを入れることができる。好ましくは、切開部3は連続しない複数の刃状部4を備える。この場合に、移植片Sは、複数の刃状部4により複数の切れ込みが入れられ、各切れ込みの間には所望の形状の部分とそれ以外の部分とが繋がっている隙間部分を残している。これにより、例えば、枠状の形状をした1の刃状部4で型抜きのようにして移植片Sを所望の形状に成形するときと比べて、刃状部4の1つ1つの大きさを小さくすることができ、さらには隙間部分が残ることから、刃状部4により移植片Sがうまく切れずに押されることによって目的部位以外の場所に移植片Sが落ちること、刃状部4を押し付けた際に移植片Sが刃状部4の枠状の形状の内側に付着し、目的部位への適用が困難になることなどの発生が低減される。
一態様において、支持部2は、移植片Sに対応する位置に、1以上の孔(図示せず)を設けるように構成することができる。かかる態様において、切開部3は、これらの1以上の孔の少なくとも1つの孔を通じて刃状部4を支持部2上に表出させ、移植片Sに切れ込みを入れる。
【0027】
図2に示すように、医療機器1は、押し出し部6をさらに含むことができる。押し出し部6は、その機構により、支持部2上の移植片Sを、基端側から先端側の方向へ押し出すことができる。したがって、切開部3の刃状部4により切れ込みの入れられた移植片Sを、押し出すことにより、切れ込みの間の隙間部分を破断し、移植片Sを所望の形状に成形することができる。
一態様において、押し出し部6は、刃状部基部5の内部に収納されており、刃状部4が移植片Sに切れ込みを入れた後に、押し出し部6の先端部分が医療機器1の先端側に表出し、その先端部分が移植片Sを押し出す。かかる態様において、支持部2は、刃状部4が通る孔以外に、押し出し部6が支持部2に表出するための孔を設けられてもよく、押し出しがなされる前には、押し出し部6の先端部分が支持部2の一部を構成していてもよい。また、かかる態様において、押し出し部6の先端部分は、移植片Sと接着しにくい材質で構成されていることが好ましい。
別の態様において、押し出し部6は、気体や液体などの流体を支持部2に設けられた孔から吐出することによって、移植片Sを先端側に向けて押し出してもよい。かかる態様において、好ましくは、支持部2は、刃状部4を表出させる孔以外にも、流体を吐出するための孔が設けられており、さらに好ましくは、流体を吐出するための孔は、支持部2において、刃状部4を表出させる孔よりも内側に設けられている。これにより、より効率的に、所望の形状の移植片Sのみを押し出すことができる。
【0028】
図2に示すように、医療機器1は、筒状の本体部7をさらに含むことができる。この場合に、支持部2は、本体部7の先端側に配置され、切開部3は、本体部7内に配置されている。またこの場合に、切開部3は、本体部7内で基端側から先端側へと、またその逆方向へとスライドすることができるように構成することができる。したがって、支持部2上に移植片Sを載置した際には、切開部3は、本体部7内に収容されており、支持部2上に移植片Sを載置した後に医療機器1を操作して、切開部3を先端側へとスライドさせることで、切開部3の刃状部4を支持部2上に表出させ、移植片Sに切れ込みを入れることができる。ここで、医療機器1の操作として、例えば、切開部3の刃状部基部5の基端側に把持部9が備わっており、操作者が、本体部7の外から把持部9を先端側に向けて押す、基端側に向けて引く等することによって切開部3をスライドさせてもよい。
また、この場合において、切開部3は、ストッパ8をさらに備えていてもよい。ストッパ8は、切開部3のスライド距離を調節するように構成されている。したがって、ストッパ8によって、切開部3が一定以上先端側にスライドさせないようにすることができ、すなわち、切開部3の刃状部4が支持部2から表出する長さを調節することができる。これにより、切開部3のスライド距離を刃状部4が移植片Sの厚さだけ支持部2から表出するように調節することで、目的部位に近接させた、あるいは目的部位に接触させた状態で医療機器1を使用した場合においても、刃状部4が移植片Sに切れ込みを入れる際に、目的部位を傷つけることを避けることができる。
一態様において、切開部3は、本体部7の内側において、切開部3の中心を先端側から基端側へと結ぶ線を軸として回転できるように構成することができる。かかる構成として、例えば、切開部3がその刃状部基部5の基端側に把持部9を備えており、操作者が把持部9を回転させることにより、切開部3を回転させるものであってもよい。これにより、移植片Sに対する刃状部4の位置を変更することができ、刃状部4のうちの1つが移植片Sの複数の箇所に切れ込みをいれることができるため、切開部3に備える刃状部4の数を最小限にすることができる。
【0029】
図2に示すように、支持部2を、その端部が基端側に向かい反った形状となるように構成することができる。これにより、所望の形状に押し出した移植片Sを目的部位に適用する際に、移植片Sの所望の形状に押し出された以外の部分を、目的部位に触れさせることなく、支持部2上に残すことができる。また、これにより、移植片Sの所望の形状に押し出された以外の部分が、目的部位の付近に適用された他の移植片と接触することを妨げることができる。例えば、図1において、破線の外側部分は、移植片Sの所望の形状に押し出される以外の部分を指し、すなわち、支持部2において、この破線の外側部分に相当する部分の少なくとも一部が、端部として基端部に向かい反った形状となっている。
一態様において、支持部2の基端部に向かい反った形状の部分は、移植片Sの所望の形状に押し出された以外の部分をより確実に支持部2上に残すために、移植片が接着しやすい材質で構成されている。
【0030】
本発明の医療機器1を使用して、所望の形状の移植片Sを、臓器などの目的部位に適用する場合は、医療機器1を腹腔内(体腔内)へ直接に送達した上で行うことができる。もしくは、医療機器1の先端側を含む一部分あるいはその全体を、内視鏡下外科手術などで使用する腹壁に貫入させた中空のポート(筒状体)などを介して、体腔内に経腹腔的に送達した上で行うこともできる。医療機器1を、ポートなどを介して体腔内に送達する場合は、医療機器1の先端側の支持部2について、目的部位に対して位置決めを行い、移植片Sの押し出しと同時に適用することができるが、体腔内に挿入された別の鉗子を使用して、位置決めおよび適用を行ってもよい。
【0031】
本発明の医療機器1の使用は、例えば、以下のステップによって順次行うことができる。
(1)移植片Sを載置した支持部2に向けて、切開部3を動かし、切開部3に備わった刃状部4により、移植片Sに切れ込みを入れる。
(2)押し出し部6により、切れ込みの入った移植片Sから、切れ込みに従った、所望の形状を有する移植片Sを押し出す。
この場合に、押し出す方法として、移植片Sを押し子機構により押し出しても、または気体や液体などの流体を吐出することで押し出してもよい。また、上記のステップは、医療機器1の先端側を目的部位に近接させて、あるいは目的部位に接触させて行うことで、移植片Sを所望の形状に押し出すと同時に目的部位へと適用することもまた可能となる。
【0032】
以上、本発明の第1実施形態に係る医療機器1によれば、移植片Sを簡便に所望の形状に成形することができる。また、移植片Sが所望の形状を有することにより、複数の移植片を目的部位に適用する際に、移植片同士を重ね合わせることなく、隙間なく目的部位に適用することができる。したがって、目的部位に適用するために必要とする移植片の数を最適にすることができる。また、本発明の第1実施形態に係る医療機器1によれば、移植片Sを所望の形状を押し出す際に、医療機器1の先端側を目的部位に近接させて、あるいは目的部位に接触させて押し出すことにより、移植片Sを所望の形状に押し出すと同時に目的部位へと適用することもまた可能となる。この場合、所望の形状に押し出した移植片Sを、鉗子等により医療機器1から剥離させて目的部位に適用するという操作を省くことができるために、移植片Sを破損するリスクを低下させることが可能となる。
本発明を図示の実施態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明において、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【符号の説明】
【0033】
1 医療機器
2 支持部
3 切開部
4 刃状部
5 刃状部基部
6 押し出し部
7 本体部
8 ストッパ
9 把持部
S 移植片
図1
図2