(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130247
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】自動車の室内温度調節装置及び電気自動車
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20220830BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20220830BHJP
B60N 2/56 20060101ALI20220830BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20220830BHJP
B60N 2/879 20180101ALN20220830BHJP
A47C 7/74 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
B60H1/22 611B
B60H1/22 671
B60H1/00 102V
B60H1/22 611D
B60N2/56
B60N2/90
B60N2/879
A47C7/74 B
A47C7/74 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051386
(22)【出願日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】63/153531
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】熊 友和
(72)【発明者】
【氏名】紺野 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡一郎
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
3L211
【Fターム(参考)】
3B084JF02
3B084JG06
3B087DE10
3L211AA11
3L211BA01
3L211BA32
3L211DA53
3L211FA24
3L211FB04
3L211GA49
3L211GA53
(57)【要約】
【課題】自動車の室内温度調節装置において、温度に関する乗員の快適環境を早急に得ることと電力消費の低減とを両立すること。
【解決手段】電動機54により駆動される圧縮機42を含む冷凍サイクルによるものを含み、温度を調節された空気を車室内に向けて吹き出す空気吹出口52を含む空調装置40と、温度を調節された空気をシート26、38に着座した乗員に向けて吹き出す、空調装置40よりも消費電力が少ない空気吹出装置62、76と、空調装置40の起動時に所定期間に亘って空気吹出装置62、76を作動させる制御装置100とを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車室内の温度を調節する室内温度調節装置であって、
温度を調節された空気を車室内に向けて吹き出す空気吹出口を含む空調装置と、
ヒータ或いは半導体デバイスの少なくとも何れか一方によって温度を調節された空気をシートに着座した乗員に向けて吹き出す空気吹出装置或いはシートヒータの少なくとも何れか一方を含み、前記空調装置よりも消費電力が少ないシート用温度調節装置と、
前記空調装置の起動時に所定期間に亘って前記シート用温度調節装置を作動させる制御装置とを有する自動車の室内温度調節装置。
【請求項2】
前記空調装置は電動機により駆動される圧縮機を含む冷凍サイクルによるものを含む請求項1に記載の自動車の室内温度調節装置。
【請求項3】
前記所定期間は前記空調装置の起動時から所定の時間が経過するまでの期間である請求項1又は2に記載の自動車の室内温度調節装置。
【請求項4】
前記所定期間は前記空調装置の起動時から前記空調装置の設定温度と車室内温度との差が所定値以上である期間である請求項1又は2に記載の自動車の室内温度調節装置。
【請求項5】
前記制御装置は前記シート用温度調節装置の調節温度を作動期間中の後半に比して前半を低くする請求項1~4の何れか一項に記載の自動車の室内温度調節装置。
【請求項6】
前記制御装置は前記空気吹出装置の吹出空気の風量を作動期間中の後半に比して前半を少なくする請求項1~5の何れか一項に記載の自動車の室内温度調節装置。
【請求項7】
前記制御装置は前記空気吹出装置を間歇的に作動させる請求項1~5の何れか一項に記載の自動車の室内温度調節装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記シート用温度調節装置の作動中は定常運転の電力値より低い電力値の電力により前記空調装置を運転する請求項1~7の何れか一項に記載の自動車の室内温度調節装置。
【請求項9】
前記空気吹出装置は、前記シートのシートバック或いはヘッドレストに設けられ、前記乗員の首元に向けて前記空気を吹き出す空気吹出口を含む請求項1~8の何れか一項に記載の自動車の室内温度調節装置。
【請求項10】
電動機によって走行車輪が駆動される電気自動車であって、
請求項1~9の何れか一項に記載の室内温度調節装置を有し、
前記走行車輪を駆動する前記電動機、前記圧縮機を駆動する前記電動機及び前記シート用温度調節装置の電源が共通のバッテリである電気自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の室内温度調節装置及び電気自動車に関し、更に詳細には、空調装置とシート用温度調節装置とを有する自動車の室内温度調節装置及びその温度調節装置を備えた電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内に向けて空気を吹き出す冷凍サイクルによる空調装置(主空調装置)と、シートから着座者に向けて電熱ヒータにより温められた空気を吹き出すシート用温風装置や電熱式のシートヒータ等によるシート用温度調節装置(補助空調装置)とを備えた自動車が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-64660号公報
【特許文献2】特開2011-73657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷凍サイクルによる空調装置の圧縮機が電動機により駆動される電動式の空調装置は、電動機の消費電力が、シートヒータの消費電力に比して大きく、バッテリの電力消費が大きい問題がある。
【0005】
このため、電気自動車において、冷凍サイクルの圧縮機を駆動する電動機の電源が走行車輪を駆動する電動機の電源をなすバッテリと共用であると、圧縮機用の電動機によるバッテリの電力消費により、1回のバッテリ充電による電気自動車の航続距離が低減する。
【0006】
特に、温度に関する快適環境を早急に得るべく、空調装置の起動時に急速暖房或いは急速冷房が行われると、圧縮機の駆動負荷の増大に伴いバッテリの電力消費が著しく大きくなり、電気自動車の航続距離が著しく低減する。このことは、電気自動車にとって大きい問題になる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、自動車の室内温度調節装置において、温度に関する乗員の快適環境を早急に得ることと電力消費の低減とを両立することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの実施形態による自動車の室内温度調節装置は、自動車の車室内の温度を調節する室内温度調節装置であって、温度を調節された空気を車室内に向けて吹き出す空気吹出口(52)を含む電力式の空調装置(40)と、ヒータ或いは半導体デバイスの少なくとも何れか一方によって温度を調節された空気をシートに着座した乗員に向けて吹き出す空気吹出装置或いはシートヒータの少なくとも何れか一方を含み、前記空調装置よりも消費電力が少ないシート用温度調節装置(60、62、76)と、前記空調装置の起動時に所定期間に亘って前記シート用温度調節装置を作動させる制御装置(100)とを有する。
【0009】
この構成によれば、温度に関する快適環境を早急に得ることと電力消費の低減とが両立する。
【0010】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記空調装置は電動機(54)により駆動される圧縮機(42)を含む冷凍サイクルによるものを含む。
【0011】
この構成によれば、適切な空調容量が容易に得られる。
【0012】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記所定期間は前記空調装置の起動時から所定の時間が経過するまでの期間である。
【0013】
この構成によれば、空調装置の起動時から所定の時間が経過するまでシート用温度調節装置が作動し、温度に関する快適環境を早急に得ることと電力消費の低減とが両立する。
【0014】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記所定期間は前記空調装置の起動時から前記空調装置の設定温度と車室内温度との差が所定値以上である期間である。
【0015】
この構成によれば、空調装置の起動時から前記空調装置の設定温度と車室内温度との差が所定値以上である期間にシート用温度調節装置が作動し、温度に関する快適環境を早急に得ることと電力消費の低減とが両立する。
【0016】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記制御装置は前記シート用温度調節装置の調節温度を作動期間中の後半に比して前半を低くする。
【0017】
この構成によれば、吹き出し当初から熱い温風が着座者の首元に当たることがなく、快適性が向上する。
【0018】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記制御装置は前記空気吹出装置の吹出空気の風量を作動期間中の後半に比して前半を少なくする。
【0019】
この構成によれば、吹き出し当初から温風が大きい風量をもって着座者の首元に当たることがなく、快適性が向上する。
【0020】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記制御装置は前記空気吹出装置を間歇的に作動させる。
【0021】
この構成によれば、空気吹出装置の平均的な消費電力が連続運転に比して低減し、空気吹出装置の電力消費が低減する。
【0022】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記制御装置は、前記シート用温度調節装置の作動中は定常運転の電力値より低い電力値の電力により前記空調装置を運転する。
【0023】
この構成によれば、空調装置の電源の負荷が低減する。
【0024】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記空気吹出装置は、前記シートのシートバック或いはヘッドレストに設けられ、着座者の首元に向けて前記空気を吹き出す空気吹出口を含む。
【0025】
この構成によれば、シートバック或いはヘッドレストから着座者の首元に向けて温調された空気を適切に吹き付けることができる。
【0026】
本発明の一つの実施形態による電気自動車は、電動機によって走行車輪が駆動される電気自動車であって、上記の実施形態による室内温度調節装置を有し、前記走行車輪を駆動する前記電動機、前記圧縮機を駆動する前記電動機及び前記シート用温度調節装置の電源が共通のバッテリである。
【0027】
この構成によれば、バッテリの電力消費が低減し、電気自動車の航続距離の低減が抑制される。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一つの実施形態による自動車の室内温度調節装置は、自動車の車室内の温度を調節する室内温度調節装置であって、温度を調節された空気を車室内に向けて吹き出す空気吹出口(52)を含む電力式の空調装置(40)と、ヒータ或いは半導体デバイスの少なくとも何れか一方によって温度を調節された空気をシートに着座した乗員に向けて吹き出す空気吹出装置或いはシートヒータの少なくとも何れか一方を含み、前記空調装置よりも消費電力が少ないシート用温度調節装置(60、62、76)と、前記空調装置の起動時に所定期間に亘って前記シート用温度調節装置を作動させる制御装置(100)とを有する。
【0029】
この構成によれば、温度に関する快適環境を早急に得ることと電力消費の低減とが両立する。
【0030】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記空調装置は電動機(54)により駆動される圧縮機(42)を含む冷凍サイクルによるものを含む。
【0031】
この構成によれば、適切な空調容量が容易に得られる。
【0032】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記所定期間は前記空調装置の起動時から所定の時間が経過するまでの期間である。
【0033】
この構成によれば、空調装置の起動時から所定の時間が経過するまでシート用温度調節装置が作動し、温度に関する快適環境を早急に得ることと電力消費の低減とが両立する。
【0034】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記所定期間は前記空調装置の起動時から前記空調装置の設定温度と車室内温度との差が所定値以上である期間である。
【0035】
この構成によれば、空調装置の起動時から前記空調装置の設定温度と車室内温度との差が所定値以上である期間にシート用温度調節装置が作動し、温度に関する快適環境を早急に得ることと電力消費の低減とが両立する。
【0036】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記制御装置は前記シート用温度調節装置の調節温度を作動期間中の後半に比して前半を低くする。
【0037】
この構成によれば、吹き出し当初から熱い温風が着座者の首元に当たることがなく、快適性が向上する。
【0038】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記制御装置は前記空気吹出装置の吹出空気の風量を作動期間中の後半に比して前半を少なくする。
【0039】
この構成によれば、吹き出し当初から温風が大きい風量をもって着座者の首元に当たることがなく、快適性が向上する。
【0040】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記制御装置は前記空気吹出装置を間歇的に作動させる。
【0041】
この構成によれば、空気吹出装置の平均的な消費電力が連続運転に比して低減し、空気吹出装置の電力消費が低減する。
【0042】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記制御装置は、前記シート用温度調節装置の作動中は定常運転の電力値より低い電力値の電力により前記空調装置を運転する。
【0043】
この構成によれば、空調装置の電源の負荷が低減する。
【0044】
上記自動車の室内温度調節装置において、好ましくは、前記空気吹出装置は、前記シートのシートバック或いはヘッドレストに設けられ、着座者の首元に向けて前記空気を吹き出す空気吹出口を含む。
【0045】
この構成によれば、シートバック或いはヘッドレストから着座者の首元に向けて温調された空気を適切に吹き付けることができる。
【0046】
本発明の一つの実施形態による電気自動車は、電動機によって走行車輪が駆動される電気自動車であって、上記の実施形態による室内温度調節装置を有し、前記走行車輪を駆動する前記電動機、前記圧縮機を駆動する前記電動機及び前記シート用温度調節装置の電源が共通のバッテリである。
【0047】
この構成によれば、バッテリの電力消費が低減し、電気自動車の航続距離の低減が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本実施形態による自動車の室内温度調節装置を備えた電気自動車の概要を示す側面図
【
図2】本実施形態による自動車の室内温度調節装置に用いられるシートの斜視図
【
図3】本実施形態による自動車の室内温度調節装置に用いられる空調装置の冷凍サイクルを示すブロック線図
【
図4】本実施形態による自動車の室内温度調節装置に用いられる空気吹出装置の断面図
【
図5】本実施形態による自動車の室内温度調節装置の制御系を示すブロック線図
【
図6】(A)は本実施形態による自動車の室内温度調節装置の消費電力に関するタイムチャート、(B)は温度に関するタイムチャート
【
図7】本実施形態による自動車の室内温度調節装置の制御フローを示すフローチャート
【
図8】(A)は他の実施形態による自動車の室内温度調節装置の消費電力に関するタイムチャート、(B)は温度に関するタイムチャート
【
図9】(A)は他の実施形態による自動車の室内温度調節装置の消費電力に関するタイムチャート、(B)は温度に関するタイムチャート
【
図10】(A)は他の実施形態による自動車の室内温度調節装置の消費電力に関するタイムチャート、(B)は温度に関するタイムチャート
【
図11】(A)は他の実施形態による自動車の室内温度調節装置の消費電力に関するタイムチャート、(B)は温度に関するタイムチャート
【
図12】(A)は他の実施形態による自動車の室内温度調節装置の消費電力に関するタイムチャート、(B)は温度に関するタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本発明による自動車の温度調節装置及びその温度調節装置を備えた電気自動車の実施形態を、図を参照して説明する。
【0050】
図1は電気自動車10を示している。電気自動車10は、車体12と、車体12に取り付けられた左右の前輪14及び後輪16と、後輪16を駆動する走行用電動機18と、車体12に設けられ、走行用電動機18の電源をなす再充電可能なバッテリ20と、車体12により画定された車室22と、車室22のフロアパネル24上に設けられた前部シート26及び後部シート28とを有する。
【0051】
前部シート26及び後部シート28は、
図2に示されているように、シートクッション30と、シートクッション30の後部に設けられたシートバック32と、シートバック32の上部に設けられたヘッドレスト34とを有する。
【0052】
電気自動車10は、室内温度調節装置として、空調装置40を有する。空調装置40は、
図3に示されているように、圧縮機42、凝縮器44、膨張弁46、蒸発器48を含む冷媒回路を含む冷凍サイクルによるものである。空調装置40は、冷媒回路の冷媒の循環方向の切替により冷房モードと暖房モードとの間に切り替わり、凝縮器44或いは蒸発器48におけるファン風との熱交換によって温度を調節された空気を、ダクト50(
図1参照)を介してインストルメントパネル36に設けられた空気吹出口52から車室22内に向けて吹き出す。冷凍サイクルによる空調装置40は、適切な空調容量が容易に得られる。
【0053】
圧縮機42は空調用電動機54により駆動される。空調用電動機54の電源は走行用電動機18の電源であるバッテリ20と共用である。
【0054】
前部シート26及び後部シート28のシートクッション30及びシートバック32には、
図2に示されているように、可撓性を有する電熱式の面状のシートヒータ60が組み込まれている。
【0055】
シートヒータ60は、通電開始時からの温度上昇が、空調装置40による室内温度の上昇よりも速い速熱性を有する。
【0056】
シートバック32の上部には左右一対の第1空気吹出装置62が組み込まれている。各第1空気吹出装置62は、
図4に示されているように、空気ダクト64と、空気ダクト64の途中に設けられた電熱式ヒータ66、電動ファン68及びペルチェ効果素子70を含み、
図2に示されているように、シートバック32の側面に開口した空気取入口72から空気ダクト64に空気を取り入れ、シートバック32の前面の左右両側に開口した空気吹出口74から着座者の首元に温風或いは冷風を吹き付ける。
【0057】
第1空気吹出装置62はシートバック32に組み込まれていることにより、空気ダクト64が短くてすみ、空気ダクト64を流れる空気圧損が少なく、空気吹出口88から着座者の首元に向けて温調された空気を適切に吹き付けることができる。
【0058】
ヘッドレスト34の上部には左右一対の第2空気吹出装置76が組み込まれている。各第2空気吹出装置76は、第1空気吹出装置62と実質的に同じ構造で、
図4に示されているように、空気ダクト78と、空気ダクト78の途中に設けられた電熱式ヒータ80、電動ファン82及びペルチェ効果素子84を含み、
図2に示されているように、ヘッドレスト34の側面に開口した空気取入口86から空気ダクト78に空気を取り入れ、ヘッドレスト34の前面の左右両側に開口した空気吹出口88から着座者の首元に温風或いは冷風を吹き付ける。
【0059】
第2空気吹出装置76はヘッドレスト34に組み込まれていることにより、空気ダクト78が短くてすみ、空気ダクト78を流れる空気圧損が少なく、空気吹出口88から着座者の首元に向けて温調された空気を適切に吹き付けることができる。
【0060】
第1空気吹出装置62及び第2空気吹出装置76は、通電開始時からの温度上昇が、空調装置40による室内温度の上昇よりも速い速熱性を有する。第1空気吹出装置62及び第2空気吹出装置76は、着座者の体格や好みに応じて何れか一方が切替式に使用されてよい。
【0061】
シートヒータ60、第1空気吹出装置62及び第2空気吹出装置76は、何れもがシート用温度調節装置であり、これらの電源は走行用電動機18の電源であるバッテリ20と共用である。シートヒータ60、第1空気吹出装置62及び第2空気吹出装置76の個々の消費電力は、空調装置40の消費電力よりも少ない。より詳細には、シートヒータ60、第1空気吹出装置62及び第2空気吹出装置76の個々の消費電力は、空調装置40の急速暖房運転時の消費電力と通常運転時の消費電力との差分(消費電力の増加分)よりも少ない。更には、シートヒータ60と第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76との合計の消費電力は急速暖房運転による消費電力の増加分よりも少ない。
【0062】
本実施形態による温度調節装置の制御系を、
図5を参照して説明する。
【0063】
温度調節装置の制御装置100は、空調装置40、シートヒータ60、第1空気吹出装置62及び第2空気吹出装置76を一括して制御する電子制御式のものである。制御装置100は、マイクロコンピュータ101及びフリーランタイマ102を含み、車室内温度設定部104、車室内温度センサ106、車外温度センサ108及び吹出口温度センサ110の各々より各種情報を取り込み、空調用電動機54.シートヒータ60、第1空気吹出装置62及び第2空気吹出装置76に制御指令を出力し、これらの制御を行う。
【0064】
制御装置100は、空調装置40の始動スイッチ(不図示)が乗員によってオンになることにより、車室内温度設定部104により設定された制御目標の設定温度、車室内温度センサ106により検出される室内温度、車外温度センサ108により検出される車外温度及び吹出口温度センサ110により検出される空気吹出口52から吹き出される空気の吹出口温度に基づいて室内温度が設定温度になるように、空調装置40を制御する。
【0065】
空調装置40は、車室内温度設定部104により検出される車室内温度が設定温度より低いときには、温風を吹き出す暖房モードで作動し、車室内温度が設定温度より高いときには、冷風を吹き出す冷房モードで作動する。
【0066】
制御装置100は、空調装置40の始動スイッチ(不図示)がオンになることにより、つまり、空調装置40の起動時に所定期間に亘ってシート用温度調節装置であるシートヒータ60と第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76とを作動させる制御を行う。シートヒータ60と第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76とが作動する所定期間は、フリーランタイマ102により計時される空調装置40の起動時から所定の時間が経過するまでの期間である。所定の時間は、空調装置40の熱能力等に応じて定められる一定値であっても、車室内温度と空調装置40の設定温度との差に応じて定められる可変値であってもよい。
【0067】
次に、
図6に示されているタイムチャート及び
図7に示されているフローチャートを参照して本実施形態の作動(暖房モード)を説明する。
【0068】
時点t1において、空調装置40の始動スイッチがオンになると(ステップST1・肯定)、空調装置40が起動される(ステップST2)。これと同時にシート用温度調節装置であるシートヒータ60と第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76とがオンになる(ステップST3)。
【0069】
この時の空調装置40の運転状態は通常運転であり、
図6(A)に示されているように、通常運転での空調装置40の消費電力Pcは、電力値W2である。シート用温度調節装置であるシートヒータ60と第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76との合計の消費電力Ps(以降、シート用温度調節装置の消費電力Psと云うことがある)は電力値W1である。電力値W1は電力値W2より小さい。
【0070】
シートヒータ60は、空調装置40に比して速熱性を有しており、時点t1において、着座者の臀部、背部を熱伝導によって温めることを開始する。これにより、着座者は、空調装置40が起動されると略同時に臀部、背部を暖かく感じる。
【0071】
第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76も、空調装置40に比して速熱性を有しており、
図6(B)に示されているように、時点t1において、吹出空気温度Tsが温度T4の温風を所定の風量Q1をもって空気吹出口74或いは88から着座者の首元に向けて吹き出す。これにより、空調装置40が起動に対して実質的な遅れを生じることなく着座者の首元が温風により温められる。首元には頸動脈があり、頸動脈付近の温めは、身体の感温性が良好で、暖房効率がよいことが知られているから、頸動脈付近を温めることは、吹出空気温度Ts及び風量Q1が比較的低くても、着座者は十分に暖かさを感じる。これにより、着座者は、空調装置40の始動スイッチがオンになると略同時に、温度に関する快適環境を早急に得ることになる。
【0072】
時点t1から所定の時間が経過した時点t2において、空調装置40は、暖房に必要な温度の空気を吹き出すことできる状態になり、空気吹出口52から吹出空気温度Tcが温度T3の温風を車室22内へ向けて吹き出す。これにより、車室内温度Tiが上昇し始める。時点t2から更に所定の時間が経過した時点t4において、車室内温度Tiが空調設定温度T2になる。これより以降、空調装置40は車室内温度Tiが空調設定温度T2になるように作動する。
【0073】
時点t4から少しの時間が経過すると、空調装置40の起動時から予め定められた所定時間が経過した時点t5で(ステップST4・肯定)、シートヒータ60及び第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76がオフになる(ステップST5)。
【0074】
その後、始動スイッチがオフになると(ステップST6・肯定)、空調装置40の運転が停止される(ステップST7)。
【0075】
時点t1から時点t4までの期間の通常運転での空調装置40とシート用温度調節装置との合計の消費電力の積算値は、(W1+W2)×(t4-t1)で示される。空調装置40が急速暖房運転されると、空調装置40の消費電力Pcは、
図6(A)に仮想線により示されているように、電力値W2より大きい電力値W3になり、
図6(A)に示されているように、時点t4よりも早い時点t3において車室内温度Tiが空調設定温度T2になる。急速暖房運転を開始する時点t1から時点t3までの空調装置40の消費電力の積算値は、W3×(t3-t1)になる。急速暖房運転による消費電力の増加量(W3-W2)はシート用温度調節装置の消費電力Psの電力値W1より大幅に小さいから、つまり、(W3-W2)≫W1であることから、{(W1+W2)×(t4-t1)}<{W3×(t3-t1)}になり、その差分、バッテリ20の電力消費が低減する。
【0076】
このようにして、本実施形態によれば、温度に関する乗員の快適環境を早急に得ることとバッテリ20の電力消費の低減とが両立する。このバッテリ20の電力消費の低減により、電気自動車10の航続距離の低減が抑制される。
【0077】
本発明による室内温度調節装置の他の実施形態を、
図8~
図12を参照して説明する。尚、
図8~
図12において、
図6に対応する部分は、
図6に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0078】
図8に示されている実施形態では、制御装置100は、第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76の作動期間である時点t1から時点t5の前半の期間である時点t1から時点t6は吹出空気温度Tsを前述の実施形態における温度T4よりも低い温度T5とし、時点t1から時点t5の後半の期間である時点t6から時点t5は吹出空気温度Tsを前述の実施形態における温度T4よりも高い温度T6にする制御を行う。
【0079】
この場合のシート用温度調節装置の時点t1から時点t5の期間の消費電力Psは電力値W1よりも低い電力値W4であり、時点t5から時点t6の期間の消費電力Psは電力値W1よりも高い電力値W5である。
【0080】
本実施形態でも、前述の実施形態と同様に、温度に関する乗員の快適環境を早急に得ることとバッテリ20の電力消費の低減とが両立する。
【0081】
本実施形態では、空気吹出口74或いは88から吹き出る温風の温度Tsは、吹き出し前半は、後半よりも低いから、吹き出し当初から熱い温風が着座者の首元に当たることがなく、快適性が向上する。
【0082】
尚、空気吹出口74或いは88から吹き出る温風の温度Tsは、時間の経過と共に段階的に或いは連続的に上昇してもよい。
【0083】
図9に示されている実施形態では、制御装置100は、第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76の作動期間である時点t1から時点t5の前半の期間である時点t1から時点t6は吹出空気の風量Qを前述の実施形態における風量Q1よりも少ない風量Q2とし、時点t1から時点t5の後半の期間である時点t6から時点t5は風量Qを前述の実施形態における風量Q1より多い風量Q3にする制御を行う。
【0084】
この場合のシート用温度調節装置の時点t1から時点t5の期間の消費電力Psは電力値W1よりも低い電力値W6であり、時点t5から時点t6の期間の消費電力Psは電力値W1よりも高い電力値W7である。
【0085】
本実施形態でも、前述の実施形態と同様に、温度に関する乗員の快適環境を早急に得ることとバッテリ20の電力消費の低減とが両立する。
【0086】
本実施形態では、空気吹出口74或いは88から吹き出る温風の風量Qは、吹き出し前半は、後半よりも少ないから、吹き出し当初から温風が大きい風量をもって着座者の首元に当たることがなく、快適性が向上する。
【0087】
尚、空気吹出口74或いは88から吹き出る温風の風量Qは、時間の経過と共に段階的に或いは連続的に増大してもよい。
【0088】
図10に示されている実施形態では、制御装置100は、第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76を、時点t1から時点t5に亘って、オン・オフを繰り返す間歇作動を行う制御を行う。
【0089】
この場合の第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76を含むシート用温度調節装置の時点t1から時点t6までの期間の消費電力Psの平均値が連続運転である場合に比して低減する。
【0090】
これにより、本実施形態では、バッテリ20の電力消費が更に低減したうえ、温度に関する乗員の快適環境を早急に得ることとバッテリ20の電力消費の低減とが両立する。
【0091】
図11に示されている実施形態では、制御装置100は、空調装置40の起動時から車室内温度Tiが空調設定温度T2になるまで、消費電力Pcが通常運転時の電力値W2よりも小さい電力値W4によって空調装置40を運転する制御を行う。
【0092】
空調装置40の消費電力Pcが電力値W2から電力値W4に低下したことにより、車室内温度Tiが空調設定温度T2になる時点が時点t4から時点t7に遅延する。これに伴い、シートヒータ60及び第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76によるシート用温度調節装置がオフになる時点も時点t5から時点t8に遅延する。
【0093】
本実施形態では、空調装置40の起動時から車室内温度Tiが空調設定温度T2になるまでに要する時間が長くなるが、この期間における空調装置40の消費電力Pcが電力値W2から電力値W4に低減することにより、この期間におけるバッテリ20の負荷が低減し、バッテリ20の発熱が抑制される。空調装置40の起動時から車室内温度Tiが空調設定温度T2になるまでに要する時間が長くなっても、シートヒータ60及び第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76が作動していることにより、温度に関する乗員の快適環境が悪化することがない。
【0094】
これにより、本実施形態で、バッテリ20の発熱が抑制されたうえで、温度に関する乗員の快適環境を早急に得ることとバッテリ20の電力消費の低減とが両立する。
【0095】
図12に示されている実施形態では、制御装置100は、空調装置40の起動時である時点t1から空調装置40の空調設定温度T2と車室内温度Tiとの差が所定値以上の期間中(例えば、零よりも大きな期間中)、換言すると、空調装置40の起動時から車室内温度Tiが空調装置40の空調設定温度T2になる時点t4まで、シート用温度調節装置であるシートヒータ60及び第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76が作動する制御を行う。
【0096】
これにより、車室内温度Tiが空調装置40の空調設定温度T2になる時点t4になる以前にシート用温度調節装置がオフ状態になったり、車室内温度Tiが空調装置40の空調設定温度T2になった時点t4よりも以降もシート用温度調節装置がオン状態であることになったりすることがない。
【0097】
これにより、本実施形態で、シート用温度調節装置の作動が過不足になることなく、温度に関する乗員の快適環境を早急に得ることとバッテリ20の電力消費の低減とが両立する。
【0098】
以上、空調装置40が暖房モードであるときの作用について説明したが、空調装置40が冷房モードであるときも、制御装置100は、暖房モード時と同様に、空調装置40の起動時に所定期間に亘ってシート用温度調節装置を作動させる制御を行う。冷房モード時には、シート用温度調節装置として、第1空気吹出装置62或いは第2空気吹出装置76のペルチェ効果素子70、84が電熱式ヒータ66、80に代えて作動し、空気吹出口74、88から冷風が着座者の首元に向けて吹き付けられる。
【0099】
これにより、冷房モード時も暖房モード時と同様に、温度に関する乗員の快適環境を早急に得ることとバッテリ20の電力消費の低減とが両立する。
【0100】
以上、本発明を、その好適な実施形態について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、シートヒータ60、第1空気吹出装置62、第2空気吹出装置76の熱源は、ジュール熱による電熱式のものに限られることなく、セラミックヒータ等であってもよい。空調装置40は電動式のスターリングサイクロによるものであってよい。
【0101】
また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。例えば、シートヒータ60は必須でなく、シート用温度調節装置は第1空気吹出装置62及び第2空気吹出装置76の何れか一つを有していればよい。
【符号の説明】
【0102】
10 :電気自動車
12 :車体
14 :前輪
16 :後輪
18 :走行用電動機
20 :バッテリ
22 :車室
24 :フロアパネル
26 :前部シート
28 :後部シート
30 :シートクッション
32 :シートバック
34 :ヘッドレスト
36 :インストルメントパネル
40 :空調装置
42 :圧縮機
44 :凝縮器
46 :膨張弁
48 :蒸発器
50 :ダクト
52 :空気吹出口
54 :空調用電動機
60 :シートヒータ(シート用温度調節装置)
62 :第1空気吹出装置(シート用温度調節装置)
64 :空気ダクト
66 :電熱式ヒータ
68 :電動ファン
70 :ペルチェ効果素子
72 :空気取入口
74 :空気吹出口
76 :第2空気吹出装置(シート用温度調節装置)
78 :空気ダクト
80 :電熱式ヒータ
82 :電動ファン
84 :ペルチェ効果素子
86 :空気取入口
88 :空気吹出口
100 :制御装置
101 :マイクロコンピュータ
102 :フリーランタイマ
104 :車室内温度設定部
106 :車室内温度センサ
108 :車外温度センサ
110 :吹出口温度センサ