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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130270
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】腸管吸収用補助剤及びその利用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/08 20060101AFI20220830BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220830BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20220830BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20220830BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220830BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20220830BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20220830BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K45/00
A61K9/12
A61K38/02
A61K38/16
A61K31/715
A61K38/28
A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106207
(22)【出願日】2021-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2021029308
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】520460971
【氏名又は名称】シンバイオシス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507307374
【氏名又は名称】学校法人神戸学院
(74)【代理人】
【識別番号】100113044
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 智子
(72)【発明者】
【氏名】清水 真
(72)【発明者】
【氏名】武田 真莉子
(72)【発明者】
【氏名】民輪 英之
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA24
4C076BB05
4C076CC21
4C076DD80
4C076FF34
4C076FF63
4C084AA01
4C084AA02
4C084DB34
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA56
4C084NA05
4C084NA11
4C084ZC35
4C084ZC54
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA56
4C086NA05
4C086NA11
4C086ZC35
4C086ZC54
(57)【要約】
【課題】生体に腸管経由でインスリン等の高分子化合物を導入するために使用する腸管吸収用補助剤及びそれを含む組成物等を提供すること。
【解決手段】下記(I)を含むことを特徴とする(III)を腸管吸収させるための補助剤、又は下記(I)及び(II)を含むことを特徴とする当該補助剤、並びに当該補助剤と(III)を含むことを特徴とする腸管吸収用組成物である。
(I)低張液を含む溶媒
(II)ナノサイズ以下(1μm未満)の気泡
(III)投与目的物質
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)を含むことを特徴とする、(III)投与目的物質を腸管を経由して吸収させるための腸管吸収用補助剤。
(I)低張液を含む溶媒
【請求項2】
下記(I)及び(II)を含むことを特徴とする、請求項1記載の補助剤。
(I)低張液を含む溶媒
(II)ナノサイズ以下(1μm未満)の気泡
【請求項3】
(III)投与目的物質が、下記(III)-i乃至(III)-iiiから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2記載の補助剤。
(III)-i:難吸収性低分子化合物
(III)-ii:中分子化合物
(III)-iii:高分子化合物
【請求項4】
(III)投与目的物質が、下記から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項記載の補助剤。
(III)-ii-a:ペプチド又はその誘導体
(III)-iii-a:蛋白質又はその誘導体
(III)-iii-b:多糖類又はその誘導体
【請求項5】
(III)投与目的物質が、下記の(III)-iii-a-1及び/又は(III)-iii-b-1であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項記載の補助剤。
(III)-iii-a-1:インスリン又はその誘導体
(III)-iii-b-1:デキストラン又はその誘導体
【請求項6】
(I)中の低張液が、下記の(I)-i乃至(I)-viiの少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の補助剤。
(I)-i:超純水
(I)-ii:逆浸透水
(I)-iii:改質逆浸透水(modified RO water)
(I)-iv:生理食塩水とブドウ糖液からなる「低張電解質輸液」(1~4号液)
(I)-v:注射用蒸留水
(I)-vi:精製水
(I)-vii:イオン交換水
【請求項7】
(II)の平均気泡径が、1μm未満であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項記載の補助剤。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の補助剤とともに、(III)投与目的物質を含むことを特徴とする、腸管吸収用組成物。
【請求項9】
(III)投与目的物質が、下記(III)-i乃至(III)-iiiから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項8記載の腸管吸収用組成物。
(III)-i:難吸収性低分子化合物
(III)-ii:中分子化合物
(III)-iii:高分子化合物
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の補助剤とともに、下記(III)-iii-a-1を含むことを特徴とする、インスリンの失活又は欠乏に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
(III)-iii-a-1:インスリン又はその誘導体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管吸収用補助剤、より詳しくは、高分子化合物を腸管経由によって、確実に生体中に吸収させるための「ドラッグデリバリーシステム補助剤」として用いることができる「腸管吸収用補助剤」に関するものである。
また本発明は、より確実に腸管吸収させることができる「腸管吸収用組成物」に関するものである。
更に本発明は、より確実に生体内で機能、効能、又は効果を発揮することができる、「腸管吸収用薬剤」に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬剤等の活性物質を、生体内へ投与する方法としては、注射剤、経皮吸収剤、経口剤など種々の方法が用いられている。中でも注射剤は、血管や皮下又は筋肉等に直接投与することによって、活性物質が分解・失活せずに目的とする部位に到達することができるため、有効な投与方法の一つとして使用されている。
【0003】
但し、注射剤には、痛みを伴うこと以外に、通院負担あるいは自己注射の場合の、身体的・精神的な負担等があり、一日に複数回投与しなければならない場合に、特にその負担は大きいことから、多くの注射剤が、経口剤への代替を望まれている。
【0004】
しかしながら、活性物質の種類によっては、特に活性物質が「多糖類」や「蛋白質」等の中・高分子化合物である場合には、消化管吸収を担う小腸から殆ど吸収されないことが知られており、経口薬剤の開発は、困難とされてきた。
【0005】
一方、腸管吸収性の改善については、活性物質を、膜透過ペプチド等の「吸収促進剤」と併用する方法等も試みられているが、そうした特殊な「吸収促進剤」を必要としない方法が望まれていた。
【0006】
また、直径が数十μm以下の微細な気泡、いわゆるマイクロバブルや、1μm未満のナノバブル等を発生させる装置の開発が進み(特許文献1)、それらの気泡を含有する溶液が、医療、農業、水産・養殖業等の種々の分野で利用されるようになって来ている。
【0007】
そして、本発明者によって、「腸内フローラ移植」にこの微細な気泡を含む溶液(以下、単に「ナノバブル(水)」又は「NB」と記載する場合がある。)を用いる方法が開発された(特許文献2)。
【0008】
しかしながら、特許文献1は、主として、気泡による殺菌その他を目的とするものであり、目的物質を患部に送り届けるいわゆるドラッグデリバリーシステムに関するものでは無く、
また特許文献2は、「目的物質(ドナー由来の腸内細菌群)」を、レシピエント(患者)の腸管の表面付近に生着させる技術に過ぎず、「目的物質(腸内細菌)」を、腸壁の腸管細胞を経由して、腸管内部にまで吸収させるものでは無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-582号公報
【特許文献2】WO2019/168034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等は鋭意検討の結果、驚くべきことに、低張液を主たる成分とする溶媒、あるいは低張液中に更に微細な気泡を含む溶媒が、他の吸収促進剤等を一切使用することなく中・高分子化合物の腸管吸収を促進することを見出し、本発明に到達したものであって、その目的とするところは、腸管細胞を傷つけることなく、中・高分子化合物を腸管から吸収させることのできる「補助剤」、又はこれら補助剤と中・高分子活性物質を含む「組成物」又は「薬剤」を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的は、下記第一の発明から第十の発明によって、達成される。
【0012】
<第一の発明>
下記(I)を含むことを特徴とする、(III)投与目的物質を腸管を経由して吸収させるための腸管吸収用補助剤。
【0013】
(I)低張液を含む溶媒
【0014】
<第二の発明>
下記(I)及び(II)を含むことを特徴とする、第一の発明に記載の補助剤。
【0015】
(I)低張液を含む溶媒
(II)ナノサイズ以下(1μm未満)の気泡
【0016】
<第三の発明>
(III)投与目的物質が、下記(III)-i乃至(III)-iiiから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、第一の発明又は第二の発明に記載の補助剤。
【0017】
(III)-i:難吸収性低分子化合物
(III)-ii:中分子化合物
(III)-iii:高分子化合物
【0018】
<第四の発明>
(III)投与目的物質が、下記から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、第一の発明乃至第三の発明のいずれか1項に記載の補助剤。
【0019】
(III)-ii-a:ペプチド又はその誘導体
(III)-iii-a:蛋白質又はその誘導体
(III)-iii-b:多糖類又はその誘導体
【0020】
<第五の発明>
(III)投与目的物質が、下記の(III)-iii-a-1及び/又は(III)-iii-b-1であることを特徴とする、第一の発明乃至第三の発明のいずれか1項に記載の補助剤。
【0021】
(III)-iii-a-1:インスリン又はその誘導体
(III)-iii-b-1:デキストラン又はその誘導体
【0022】
<第六の発明>
(I)中の低張液が、下記の(I)-i乃至(I)-viiの少なくとも1種からなることを特徴とする、第一の発明乃至第五の発明のいずれか1項に記載の補助剤。
【0023】
(I)-i:超純水
(I)-ii:逆浸透水
(I)-iii:改質逆浸透水(modified RO water)
(I)-iv:生理食塩水とブドウ糖液からなる「低張電解質輸液」(1~4号液)
(I)-v:注射用蒸留水
(I)-vi:精製水
(I)-vii:イオン交換水
【0024】
<第七の発明>
(II)の平均気泡径が、1μm未満であることを特徴とする、第一の発明乃至第六の発明のいずれか1項記載の補助剤。
【0025】
<第八の発明>
第一の発明乃至第七の発明のいずれか1項記載の補助剤とともに、(III)投与目的物質を含むことを特徴とする、腸管吸収用組成物。
【0026】
<第九の発明>
(III)投与目的物質が、下記(III)-i乃至(III)-iiiから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、第八の発明に記載の腸管吸収用組成物。
(III)-i:難吸収性低分子化合物
(III)-ii:中分子化合物
(III)-iii:高分子化合物
【0027】
<第十の発明>
第一の発明乃至第七の発明のいずれか1項記載の補助剤とともに、下記(III)-iii-a-1を含むことを特徴とする、インスリンの失活又は欠乏に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
(III)-iii-a-1:インスリン又はその誘導体
【発明の効果】
【0028】
本発明の腸管吸収用補助剤は、低張液を主な成分とし、小腸透過ペプチド等の特殊な薬剤の併用も不要であるという極めて簡素な構成にも関わらず、投与目的物質、中でもこれまで腸管吸収が極めて困難とされてきた中・高分子化合物を、腸管から確実に吸収させることができるという利点を有している。
しかも、本発明の腸管吸収用補助剤自体に消化管細胞に対する細胞傷害性は見られず、(III)投与目的物質の、安全な腸管吸収促進が可能である。
またナノサイズ以下(1μm未満)の気泡を更に含有する本発明の腸管吸収用補助剤の場合には、投与目的物質を各種の消化酵素等による分解・失活等から保護する効果が本発明によって確認されたため、腸管吸収後にもその活性を充分に発揮させ得ることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、試験例で用いた「In situ closed loop法」の概要を示す図である。
図2図2は、本発明の「腸管吸収用組成物」を実験用ラットに投与する際の手順を示す図である。
図3図3は、実施例及び比較例の「腸管吸収用組成物」を実験用ラットの腸管に投与した際の、血漿中インスリン濃度を示す図である。
図4図4は、実施例及び比較例の「腸管吸収用組成物」を実験用ラットの腸管に投与した際の、血漿中蛍光標識デキストラン濃度を示す図である。
図5図5は、実施例及び比較例の「腸管吸収用補助剤」を実験用ラットの腸管に投与した際の、細胞傷害性(乳酸脱水素酵素(LDH)逸脱に伴うLDH酵素活性)を示す図である。
図6図6は、実施例及び比較例の「腸管吸収用組成物」を実験用ラットの腸管に投与した際の、気泡濃度の違いによる、血漿中インスリン濃度の差を示す図である。
図7-1】図7-1は、ナノサイズ以下の気泡(NB)による、「インスリンの消化酵素(トリプシン)に対する安定性」の向上効果を、インスリンの残存濃度の時間経過によって示した図である。
図7-2】図7-2は、ナノサイズ以下の気泡(NB)による、「インスリンの消化酵素(トリプシン)に対する安定性」の向上効果を、インスリンの分解速度定数と半減期によって示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0031】
[本発明の腸管吸収用補助剤]
本発明の「腸管吸収用補助剤」は、(III)投与目的物質を腸管を経由して吸収させるための補助剤であって、下記(I)を含むことを特徴とするものである。
(I)低張液を含む溶媒
【0032】
尚、本発明において「腸管吸収」とは、腸壁を通して吸収されることを言い、
本発明の「腸管吸収用補助剤」とは、その剤形や投与方法に関わらず、腸管吸収を促進する補助剤を意味する。
【0033】
《(I)低張液を含む溶媒》
本発明において(I)低張液を含む溶媒とは、低張液を主たる成分とする溶媒を言い、(I)の溶媒に用いられる「低張液」とは、生体内の溶液(体液、血液等)よりも浸透圧の低い溶液を意味する。
【0034】
具体的には、体液(血漿)の浸透圧である、約285±5mOsm(ミリオスモル)/Lよりも低い浸透圧を有する液体を意味し、例えば下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
(I)-i:超純水(明確な定義や国際規格等は無いが、医療用途に用いられる超純水(Ultrapure water)等が挙げられる。)
(I)-ii:逆浸透水(RO(reverse osmosis)水:高張液側へ移動した純水を、半透膜(逆浸透膜)を介してポンプなどで再び低張液側に押し戻す逆浸透現象を利用することによって得られる純度の高い水)
(I)-iii:改質逆浸透水(modified RO water)
(I)-iv:生理食塩水とブドウ糖液からなる「低張電解質輸液」(1~4号液)
(I)-v:注射用蒸留水
(I)-vi:精製水
(I)-vii:イオン交換水
【0036】
但し、上記の中でも、細胞傷害性の少ないものが好ましいものとして挙げられる。
【0037】
(I)-iiiの「改質逆浸透水」とは、例えば0.1μ以下のポアサイズの濾過膜を半透膜(逆浸透膜)として用いた、備長炭含有ミネラルのごく一部を強制通過させた水等を意味する。
【0038】
尚、本発明の(I)には、上述の低張液以外に、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種の添加剤等を含有させることができる。
具体的には、例えば腸管吸収用補助剤全体の浸透圧を、約285±5mOsm(ミリオスモル)/L未満に維持できる範囲で、等張液や高張液その他の溶媒や各種の添加剤を含有させることができる。
【0039】
《(II)ナノサイズ以下(1μm未満)の気泡》
本発明の腸管吸収用補助剤には、更に下記の(II)を含有させることができる。
【0040】
(II)ナノサイズ以下(1μm未満)の気泡
【0041】
(気泡中の気体の種類)
本発明で用いられる(II)のナノサイズ以下の気泡中の「気体成分」としては、例えば下記の1種又は2種以上であることが好ましいが、必ずしもこれらに限定されるものでは無い。
【0042】
(II)-(i):大気
(II)-(ii):水素
(II)-(iii):窒素
(II)-(iv):オゾン
(II)-(v):酸素
(II)-(vi):二酸化炭素
(II)-(vii):アルゴン
【0043】
(II)-(i)の大気を単独で用いる場合、例えば(II)-(ii)乃至(II)-(vii)のような特別な「気体成分」を準備しなくて良い点で、現実的であり、好ましい。
【0044】
尚、「大気」あるいは「2種以上の混合気体」を(I)の溶媒に導入した場合の、「溶媒(I)中に発生した気泡(II)」中の「各気体成分の封入比率」を正確に測定することは、現在の技術では容易ではない。
溶媒(I)中に気泡(II)を発生させる過程で、溶媒(I)中に溶け込み得る「量」や「スピード」が、「気体成分」毎に異なり、また、発生した気泡(II)中に封入された「気体成分」の「種類」や「比率」を正確に判定すること自体が容易ではないからである。
しかしながら、例えば「気体成分(仮にXとする。)」を単独あるいは大気と併用して用いた場合には、大気のみを用いる場合に比べて、「溶媒(I)中に発生した気泡(II)」中の、「気体成分(X)」の「封入比率」が高くなる筈であり、それによって、上述したような、「気体成分(X)」の特性を、より活かすことができると考えられる。
【0045】
尚、気泡中の水素の比率を、大気を単独で使用した場合よりも高めると、下記のメリットが期待できるため好ましい。
【0046】
1,水素を使用した本発明のナノバブル水の酸化還元電位(ターゲットは-150mV±15mV)が、腸管内環境の酸化還元電位(-50mV~-250mV)と同程度の低さであることから、それに被覆された(III)投与目的物質が腸壁に定着し易く、腸上皮細胞表面における物質濃度が高くなることから、細胞内外の濃度差が高まり受動拡散が促進され、対象物への腸管吸収促進効果が高いと考えられること。
【0047】
2,腸管内に炎症がある場合、酸化還元電位が高くなる傾向にあり、免疫反応が亢進して、導入した(III)投与目的物質が、投与対象者の免疫によって跳ね返されがちだが、水素の酸化還元電位の低さによる抗炎症作用で、その反応を和らげることができると考えられること。
【0048】
気泡中の水素の比率を、大気よりも高めるには、水素単独を用いるほか、大気と水素を併用する方法等が挙げられる。
【0049】
この場合、大気と水素単独の気体を同時に封入しても良いが、大気と共に封入する水素の濃度を段階的に増やしていく、あるいは、当初は大気単独を用い、後半の段階で、水素を封入する等の方法が挙げられ、これらの方法を用いることで、溶媒中への溶解等による水素の損失が最小限に抑えられ、より多くの水素を気泡中に封入することができると考えられる。
【0050】
大気と水素を同時に用いる場合の比率は、特に制限されるものでは無いが、例えば封入操作に使用する「(ii)水素」の量を、使用する「(i)大気」の量の10倍以上とすることが好ましいと考えられ、より好ましくは、使用する「(i)大気」の量の100倍以上である。
【0051】
(気泡の大きさ)
本発明の「腸管吸収用補助剤」に用いられる「(II)ナノサイズ以下(1ミクロン未満)の気泡」の大きさは、主にナノサイズ以下(1ミクロン未満)である必要がある一方で、具体的な大きさは、この補助剤によって腸管から吸収させる(III)投与目的物質の種類やサイズ等によって、臨機応変に変更することができる。
【0052】
具体的には、「(II)ナノサイズ以下(1ミクロン未満)の気泡」の大きさが、例えば900nm以下程度が好ましく、より好ましくは数百nm以下である。特に数十nm以下、更には数nm以下であると、腸管への(III)投与目的物質の吸収スピードや吸収割合が格段に向上する可能性があるため好ましい。
【0053】
但し、数百nm程度でも本発明の効果を十分発揮し得ることから、気泡の大きさは、現実的には、気泡を小さくする製造コストとのバランスから決定すれば良い。
【0054】
(全気泡中のナノサイズ以下の気泡の比率)
「腸管吸収用補助剤」中の全気泡中、「(II)ナノサイズ以下の気泡)」が必ずしも100%である必要は無い。
【0055】
しかし、本発明の「腸管吸収用補助剤」によって腸管内に吸収された(III)投与目的物質が、生体においてその本来の機能、効能、又は効果を充分に発揮するためには、(III)投与目的物質よりも小さい「(II)ナノサイズ以下の気泡」が、(III)投与目的物質の表面又は周囲を被覆等によって保護し、あるいはその表面又は周囲に存在する隙間等から(III)投与目的物質の内側に入り込み、より密接に(III)投与目的物質を保護するためには、少なくとも個々の(III)投与目的物質の表面又は周囲全体を保護し得る程度に多数含んでいることが好ましいと考えられる。
【0056】
更に、ナノサイズよりも大きな気泡の圧壊による補助剤自体の変性が少ない点で、できるだけ「(II)ナノサイズ以下の気泡」の比率が高いことが望ましい。
【0057】
また、気泡の大きさは、必ずしも均質にはならず、ある程度の気泡径分布を有するのが一般的である。
【0058】
そのため、具体的な目安としては、気泡の「平均径」が、使用する(III)投与目的物質全体の径よりも充分に小さければ、(III)投与目的物質を保護できるほど小さな気泡も多数含まれると考えられ、例えば、平均気泡径(直径)が1μm(1000nm)未満の溶液を用いることが好ましく、より好ましくは、平均気泡径900nm以下である。
【0059】
(腸管吸収用補助剤中の気泡の数)
本発明の「腸管吸収用補助剤」中の気泡の数は、多いほうが望ましい。
具体的な数は(III)投与目的物質の種類や濃度によっても異なり、一概には言えないが、「(II)ナノサイズ以下の気泡」を製造することのできる公知の製造機器を用いた場合に一般的に発生し得る、数千個~数億個/mlであれば十分であることが、確認できている。
【0060】
しかし、数千万個~数億個/mlであれば、より好ましいと考えられる。
また、生体内の消化酵素による投与目的物質の失活を防ぐ点では、より高濃度のものが好ましく、例えば、数億個/ml以上が好ましく、より好ましくは10億個/ml以上である。
【0061】
尚、微細な気泡を測定する方法としては、電気的検知帯法(Electrical Sensing Zone Method)として知られる下記のコールター原理を用いた方法が挙げられ、具体的には、ベックマン・コールター株式会社製の「Multisizer3」、「Multisizer4」、「Multisizer4e」等を使用する方法等が挙げられる。
コールター原理とは、1つ又は複数の微細な空孔(アパチャー)が設けられた筒(マノメーター)の内部に、一定量の電解液を流し、マノメーターの内部と外部とに電極を設置して直流電圧(内部がマイナス、外部がプラス電極)を印加し、粒子(気泡等)が検知帯(アパチャー感応領域)を通過する際に生じる、2電極間の電気抵抗の変化を測定することによって、気泡径と気泡の数の分布を測定する方法である。
【0062】
《腸管吸収用補助剤の製造方法》
本発明の「腸管吸収用補助剤」は、(I)の溶媒中に、(II)の気泡を発生させることによって製造することができる。
【0063】
「(I)の溶媒中に、(II)の気泡を発生させる方法」としては、例えば下記のような方法、あるいはこれらの併用方法等が挙げられるが、これらに限定されるものでは無い。
【0064】
気液混合せん断方式:
気体を液体と共に高速旋回させる方法である。
【0065】
超音波方式:
液体に、衝撃波やキャビテーションを加えて、一旦できた気泡を更に圧壊する方法である。
【0066】
加圧溶解方式:
気体と液体に圧力をかけ、一気に放出することで、気泡を発生させる方法である。
【0067】
微細孔方式:
オリフィス等を用い、圧力をかけながら気体を供給する方法である。
【0068】
電気分解方式:
水溶液中に浸漬した細線から、気体を発生させる方法である。
【0069】
上記の中でも、「気液混合せん断方式」は、マイクロバブルの更なるせん断処理により、安定したナノサイズ以下の気泡を発生させることができるため好ましい。
【0070】
また、具体的には、例えば、下記1)及び2)等の市販の装置を併用する等して、ナノバブルを発生させることができる。
1)協和機設社製マイクロナノバブル発生装置「バヴィタス(登録商標)HYK-25」による、直径1マイクロメートル以下の気泡生成(回転せん断方式)
2)株式会社亞八和社製「νG7(登録商標)」によるマイクロナノバブルの、ナノバブル化(ステンレス製フィルター)
【0071】
尚、本件発明者によって開発された、下記特許出願に記載の「ウルトラファインバブル(NB)発生装置」を使用すると、気泡の粒径が1μm未満、例えば平均気泡径が数nm~数百nmのオーダーで、且つ濃度の濃いナノバブル水を、効率良く生成することができるため、特に好ましい。
特願2020-57176
【0072】
《気泡濃度の制御》
本発明の「腸管吸収用補助剤」に含有される「 (II) ナノサイズ以下の気泡」の濃度は、用途等に応じて、下記の方法等に従って、適宜制御することができる。

i)「(II)ナノサイズ以下の気泡」の濃度を低くする方法:
(I)中に一旦気泡を発生させた後、(I)の溶媒やその他の溶媒を更に加えて、希釈する方法。
但し、この場合、「腸管吸収用補助剤」全体の浸透圧を、約285±5mOsm(ミリオスモル)/L未満に維持することが好ましい。

ii)「(II)ナノサイズ以下の気泡」の濃度を高くする方法:
ii)-1:上述の装置を用いて気泡含有溶媒を作製する段階で、旋回数,旋回時間,圧力,攪拌数,せん断時間等を増やす方法。
ii)-2:一旦作成した気泡含有溶媒を、限外濾過等の方法で、濾過して濃縮する方法。
具体的には、例えばマクロセップ アドバンス 遠心濾過デバイス(日本ポール(株))等の容器に気泡含有溶媒(原液)を入れ、マイクロ冷却遠心機(久保田商事(株)、Model 3740)を用いた限外濾過等で濃縮することによって、簡便かつ効率的に濃縮することができる。
濃縮倍率は、原液の濃度や装置の条件等によって変化するが、例えば約30倍に濃縮することが可能である。
【0073】
尚、「(II)ナノサイズ以下の気泡」を含有させることによる、浸透圧への影響は、殆ど無いと考えられる。
【0074】
《その他の成分》
尚、本発明の「腸管吸収用補助剤」には、(I)及び(II)以外に、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種の溶媒や添加剤等を含有させることができる。
【0075】
《投与形態(剤形)》
本発明の「腸管吸収用補助剤」の形態は、特に限定されるものではなく、液状、ゲル状、ゾル状(含:コロイド等)、クリーム状等の種々の形態が挙げられるが、本発明の腸管吸収用補助剤に、(II)の気泡が含まれる場合には、気泡の保存安定性に優れる形態が好ましい。
【0076】
《投与量》
本発明の「腸管吸収用補助剤」の投与量は、この補助剤によって腸管吸収性を促進すべき「(III)投与目的物質」の活性や含有量、疾患の具体的な種類、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態等に応じて適宜選ぶことができ、一概には規定できないが、一例としては、通常成人として1日あたり、約0.03~1000mg、好ましくは0.1~500mg、更に好ましくは0.1~100mgを1日1~数回に分けて投与する方法等が挙げられる。
【0077】
尚、本発明の「腸管吸収用補助剤」を、「(III)を含有する経口製剤」を飲む際の嚥下補助としてと使用する場合には、更に多量の「腸管吸収用補助剤」を使用することもできる。
【0078】
《用途》
本発明の「腸管吸収用補助剤」は、後述する「(III)投与目的物質」と、ほぼ同時にあるいは少しの時間差(例えば数秒~数分内)で生体内に投与するために用いることができる。
また本発明の「腸管吸収用補助剤」は、後述する本発明の「腸管吸収用組成物」の構成材料として使用することができる。
【0079】
《投与方法》
本発明の「腸管吸収用補助剤」の投与方法は、薬物吸収の態様が腸管吸収であれば、特に限定されず、注腸カテーテルや経口投与等が挙げられるが、経口投与によるものが、投与の対象者である患者自身の負担が少ない点で、好ましい。
【0080】
《(III)投与目的物質》
本発明において、腸管より吸収させる対象である「(III)投与目的物質」としては、低分子量化合物から中分子・高分子量化合物(又はこれらの誘導体)まで、幅広い分子量の化合物が挙げられるが、本発明は、これまで腸管吸収が特に困難とされてきた「(III)-i:難吸収性低分子化合物」、「(III)-ii:中分子化合物」、又は「(III)-iii:高分子化合物」等に特に有用である。
【0081】
低分子化合物、中分子化合物、高分子化合物の明確な線引きは困難であるが、一般的には、下記のように分類されている。
しかし、当然ながら下記の例示や定義に限定されるものではない。
【0082】
低分子化合物:
化学構造の小さな、いわゆる低分子医薬や、難消化性のオリゴ糖(分子量300~500未満)等の、
例えば、分子量が約500未満の化合物等が例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
中でも、「BCS Class III(高溶解性‐低透過性医薬品)に属する低分子化合物、例えばFamotidineなど、あるいはビンブラスチンなど排出トランスポーター基質となる化合物のような、これまで腸管吸収が特に困難とされてきた「(III)-i:難吸収性低分子化合物」が、本発明の補助剤による効果が高いため、好ましいものとして例示される。
【0084】
(III)-ii:中分子化合物:
シクロスポリンA(分子量約1202)等のペプチド製剤又はその誘導体((III)-ii-a)、難消化性のオリゴ糖(分子量500~数千)等の、
例えば、分子量が約500~数千までの化合物等が例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
(III)-iii:高分子化合物:
インスリン(分子量約5800)又はその誘導体((III)-iii-a-1)等の蛋白質製剤((III)-iii-a)等、
抗体医薬、
デキストラン(分子量約4000のデキストラン4、分子量約4万のデキストラン40、分子量約7.5万のデキストラン70等)又はその誘導体((III)-iii-b-1)等の多糖類等((III)-iii-b)、難消化性のオリゴ糖(分子量数千~30000)、
その他の一般的に注射で用いられているバイオ医薬品等の、
例えば、分子量が約数千~15万くらいの化合物等が例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
尚、本発明において用いられる「(III)-iii-a-1:インスリン又はその誘導体」には、天然由来のもの、人工的に作成したもの、あるいは半人工的に作成したもの等が含まれる。
【0087】
天然由来のものとしては、ヒト又はヒト以外の動物から抽出したものが挙げられる。
ヒト以外の動物としては、ほ乳類等が挙げられ、中でも豚由来のものが、ヒトのインスリンに近い性質を有する点で好ましい。
【0088】
半人工的に作成したものとしては、上述のヒト又はヒト以外の動物から抽出したインスリン遺伝子から作成したもの等が挙げられる。
【0089】
人工的に作成したものとしては、
1)人工的に合成した「インスリン遺伝子」を発現させた「インスリン」
2)天然から抽出した「インスリン遺伝子」の一部を、欠失、置換、付加及び/又は挿入した組み替え遺伝子を発現させた「遺伝子組み換えインスリン」(例:超速効型インスリンアナログ製剤等)、
3)2)の組み換え遺伝子配列を、一から人工的に合成した遺伝子を発現させた「インスリン類縁体」
4)天然、半合成、人工合成したインスリンに糖鎖付加等の修飾が施された「インスリン誘導体」
等が挙げられる。
【0090】
更に、本発明で用いられるインスリンには、六量体のように、複数の分子が凝集した多量体の場合も含まれる。
【0091】
[本発明の腸管吸収用組成物]
本発明の「腸管吸収用組成物」は、上記本発明の「腸管吸収用補助剤」とともに、上述の(III)投与目的物質を含むことを特徴とするものである。
【0092】
本発明の「腸管吸収用組成物」とは、その剤形や投与方法に関わらず、腸管から吸収される「組成物」又は「薬剤」を意味する。
【0093】
《その他の成分》
尚、本発明の「腸管吸収用組成物」には、(I)、(II)、及び(III)以外に、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種の添加剤等を含有させることができる。
【0094】
《投与形態(剤形)》
本発明の「腸管吸収用組成物」の形態は、特に限定されるものではなく、液状、ゲル状、ゾル状(含:コロイド等)、クリーム状、ソフトカプセルや腸溶カプセル等のカプセル剤等の種々の形態が挙げられるが、本発明の腸管吸収用組成物に、(II)の気泡が含まれる場合には、気泡の保存安定性に優れる形態が好ましい。
【0095】
尚、腸溶カプセルとは、薬の錠剤やカプセルを、小腸等に到達してから溶けるような物質で被膜したカプセルを言う。
【0096】
《投与方法》
本発明の「腸管吸収用組成物」の投与方法は、薬物吸収の態様が腸管吸収であれば、特に限定されず、注腸カテーテルや経口投与等が挙げられるが、経口投与によるものが、投与の対象者である患者自身の負担が少ない点で、好ましい。
【0097】
《投与量》
本発明の「腸管吸収用組成物」の投与量は、含有する「(III)投与目的物質」の活性や含有量、疾患の具体的な種類、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態等に応じて適宜選ぶことができ、一概には規定できないが、一例としては、通常成人として1日あたり、約0.03~1000mg、好ましくは0.1~500mg、更に好ましくは0.1~100mgを1日1~数回に分けて投与する方法等が挙げられる。
【0098】
《組成物の製造方法》
本発明の「腸管吸収用組成物」は、上述の「腸管吸収用補助剤」を予め製造したのちに、「(III)投与目的物質」と混合しても良いが、「腸管吸収用補助剤」の製造過程において、「(III)投与目的物質」を混合しても良い。
【0099】
《用途》
本発明の「腸管吸収用組成物」は、インスリン等の高分子の腸管吸収を促進することができるため、下記の「インスリンの失活又は欠乏に起因する疾患の予防及び/又は治療剤」として使用することができる。
【0100】
[本発明のインスリンの失活又は欠乏に起因する疾患の予防及び/又は治療剤]
本発明の「インスリンの失活又は欠乏に起因する疾患の予防及び/又は治療剤」には、上記本発明の「腸管吸収用補助剤」とともに、下記(III)-iii-a-1を含むことを特徴とするものである。
【0101】
(III)-iii-a-1:インスリン又はその誘導体
【0102】
(III)-iii-a-1のインスリン又はその誘導体の詳細な内容については、上述の通りである。
【0103】
インスリンの欠乏に起因する疾患としては、例えば下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0104】
I型糖尿病
II型糖尿病
【0105】
《その他の成分》
尚、本発明の上記「予防及び/又は治療剤」には、(I)、(II)、及び(III)-iii-a-1のインスリン又はその誘導体以外に、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種の添加剤等を含有させることができる。
【0106】
本発明の上記「予防及び/又は治療剤」の、投与形態(剤形)、投与方法、投与量、製法、その他は、上述の「腸管吸収用組成物」の場合と同様である。
上記本発明の「腸管吸収用組成物」は、インスリン等の高分子の腸管吸収を促進することができるため、「インスリンの失活又は欠乏に起因する疾患の予防及び/又は治療剤」として使用することができる。
【実施例0107】
[実施例1~5,比較例1~2:腸管吸収用補助剤]
実施例又は比較例の「腸管吸収用補助剤」として下記のものを準備し、後述する本発明の「腸管吸収用組成物」の原料として使用した。
【0108】
尚、以下においては、ナノバブル(ナノサイズ以下の気泡)を単に「NB」と記載する場合がある。
【0109】
(比較例1:等張液A)
等張液(282mOsm/L):PBS(リン酸緩衝生理食塩水,pH7.4)
【0110】
(比較例2:等張液B)
比較例1の等張液内に、特許2020-57176に記載の「ウルトラファインバブル(NB)発生装置」を使用することによって、下記の気泡を発生させたもの。
(II)ナノサイズ以下の気泡(平均気泡径:約200nm以下,気泡濃度:数億個/ml,内部気体:大気の一部を3G純水素(純度99.999)に置換)
【0111】
(実施例1:低張液A)
低張液(約130mOsm/L以下):超純水(Ultrapure water)
【0112】
(実施例2:低張液B)
低張液(100mOsm/L以下):上述の(I)-iii:改質逆浸透水(modified RO water)
【0113】
(実施例3:低張液B+NB(基本濃度のNB))
実施例2の低張液内に、特許2020-57176に記載の「ウルトラファインバブル(NB)発生装置」を使用することによって、下記の気泡を発生させたもの。
【0114】
(II)ナノサイズ以下の気泡(平均気泡径:約200nm以下,気泡濃度:数億個/ml,内部気体:大気の一部を3G純水素(純度99.999)に置換)
尚、気泡濃度の測定には、上述のベックマン・コールター株式会社製「Multisizer4e」を用いた。
【0115】
(実施例4:低張液B+NB(低濃度のNB))
実施例3の「低張液B+NB(基本濃度のNB)」の腸管吸収用補助剤を、実施例1の低張液Aからなる補助剤で、5倍に希釈したもの。
【0116】
(II)ナノサイズ以下の気泡(平均気泡径:約200nm以下,気泡濃度:数千~1億個/ml,内部気体:大気の一部を3G純水素(純度99.999)に置換)
【0117】
(実施例5:低張液B+NB(高濃度のNB))
実施例2の低張液内に、特許2020-57176に記載の「ウルトラファインバブル(NB)発生装置」を使用してNBを発生させる際に、実施例3の4倍の時間をかけて攪拌することによって、下記の気泡を発生させたもの。
【0118】
(II)ナノサイズ以下の気泡(平均気泡径:約200nm以下,気泡濃度:数億~10億個/ml,内部気体:大気の一部を3G純水素(純度99.999)に置換)
【0119】
[実施例6~8,比較例3~4:腸管吸収用組成物((III)投与目的物質:インスリン)]
上述の実施例又は比較例の「腸管吸収用補助剤」を用いて、下記の手順によってインスリン投与液を作成し、本発明の「腸管吸収用組成物((III)投与目的物質:インスリン((III)-iii-a-1))」とした。
【0120】
(インスリン投与液の製造方法)
1)固形のインスリン(富士フィルム和光純薬株式会社製,ヒト組換インスリン)2.909mgに、0.1M HCl 0.1mlを加えた。
2)1)に、インスリンの容器吸着防止剤として0.001W/V%の下記MCを含有させた上記実施例又は比較例の各「腸管吸収用補助剤」を、各々3.8ml加えた。
3)2)に、0.1M NaOHを0.1ml加え、インスリン投与液(腸管吸収用組成物)とした。
【0121】
インスリン濃度:2.909mg/4ml=0.727mg/ml≒20IU/ml
【0122】
MC(メチルセルロース):信越化学工業(株)製,メトローズ(登録商標)SM-15(分子量約6万)
【0123】
(実施例6)
実施例1の「腸管吸収用補助剤(超純水)」を用い、上記の方法に従って、インスリン投与液(実施例6の腸管吸収用組成物)を製造した。
【0124】
(実施例7)
実施例2の「腸管吸収用補助剤(modified RO water)」を用い、上記の方法に従って、インスリン投与液(実施例7の腸管吸収用組成物)を製造した。
【0125】
(実施例8)
実施例3の「腸管吸収用補助剤(modified RO water+基本濃度のNB)」を用い、上記の方法に従って、インスリン投与液(実施例8の腸管吸収用組成物)を製造した。
【0126】
(比較例3)
比較例1の「腸管吸収用補助剤(PBS)」を用い、上記の方法に従って、インスリン投与液(比較例3の腸管吸収用組成物)を製造した。
【0127】
(比較例4)
比較例2の「腸管吸収用補助剤(PBS+基本濃度のNB)」を用い、上記の方法に従って、インスリン投与液(比較例4の腸管吸収用組成物)を製造した。
【0128】
[実施例9~11,比較例5:腸管吸収用組成物((III)投与目的物質:デキストラン)]
上述の実施例又は比較例の「腸管吸収用補助剤」を用いて、下記の手順によってデキストラン投与液を作成し、本発明の「腸管吸収用組成物((III)投与目的物質:デキストラン((III)-iii-b-1))」とした。
【0129】
(デキストラン投与液の製造方法)
上述の実施例又は比較例の「腸管吸収用補助剤」に、「FD4(FITC(Fluoresceinisothiocyanate:蛍光標識)デキストラン、分子量:約4千)」を各々4mg/mlの濃度となるように溶解させて、デキストラン投与液(腸管吸収用組成物)とした。
【0130】
(実施例9~11)
実施例2、実施例3、実施例5の「腸管吸収用補助剤」を用い、上記の方法に従って、デキストラン(FD4)投与液(実施例9~11の腸管吸収用組成物)を製造した。
実施例9:実施例2(modified RO water)+FD4
実施例10:実施例3(modified RO water+基本濃度のNB)+FD4
実施例11:実施例5(modified RO water+高濃度のNB)+FD4
【0131】
(比較例5)
比較例1の「腸管吸収用補助剤(PBS)」を用い、上記の方法に従って、デキストラン投与液(比較例5の腸管吸収用組成物)とした。
【0132】
[試験例1:腸管吸収用組成物を用いたインスリンの腸管吸収促進効果確認試験]
図1に示す公知のIn situ closed loop法を用いて、実施例又は比較例のインスリン投与液(腸管吸収用組成物)を投与対象(ラット)の腸管に直接投与した後、ラット血液(血漿)中のインスリンを測定することによって、腸管経由吸収量、すなわち本発明の「腸管吸収用組成物」による、高分子化合物(インスリン)の吸収促進効果を確認した。
【0133】
「腸管吸収用組成物」の具体的な投与手順を、図2に示した。
【0134】
尚、その他の実験条件は、下記の通りである。
【0135】
《材料と方法:Material and Method》
(投与対象)
SD系ラット、雄、190g(各群3~10匹)
【0136】
(投与液)
実施例6~8の「インスリン投与液(腸管吸収用組成物)」・・・低張液(+NB)+インスリン
比較例3~4の「インスリン投与液(腸管吸収用組成物)」・・・等張液(+NB)+インスリン
【0137】
(投与量)
0.5ml/(ラット体重)200g(=2.5ml/kg)
【0138】
尚、「インスリン投与液(腸管吸収用組成物)」中のインスリン濃度は、上述の通り0.727mg/ml≒20IU/mlであるため、「インスリン投与液(腸管吸収用組成物)」2.5ml/kgの投与とは、すなわち「インスリン投与量:約50IU/kg」に相当することになる。
【0139】
(投与後の採血部位)
頸静脈
【0140】
(血漿中インスリン濃度測定法)
ELISA(酵素免疫測定法)
(使用機器)
Insulin, Human, ELISA Kit / MRD-10-1113-01-1
【0141】
《結果》
測定結果を図3に示す。
図3で、抽出されたインスリンの単位「μU/ml」とは、「μIU/ml」を意味する。
また、図には示していないが、実施例4(低濃度のNB)又は実施例5(高濃度のNB)の腸管吸収用補助剤を用いて、上記と同様に「インスリン投与液(腸管吸収用組成物)」を作成し、試験例1と同様の試験を行った結果、気泡(NB)濃度によって多少差があるものの、いずれも腸管経由で確実に生体内に吸収され得ることがわかった。
【0142】
《考察》
血漿中のインスリン濃度が、比較例と比べて有意に増加している図3の結果から、低張液を溶媒(腸管吸収用補助剤)として用いた組成物とすることによって、これまで腸管からの吸収が極めて困難とされてきた高分子化合物(インスリン)であっても、腸管経由で確実に生体内に吸収され得ることがわかった。
尚、低張液に更にNBを含む場合、低張液のみと比較して多少吸収促進効果は低減していたが、
i)本発明者による他の検証実験(データ示さず)によって、NB水を使用した場合には、生体投与する前の、各種の活性物質の溶媒中での保存安定性が向上する傾向が確認されており、
ii)また、後述の試験例5等によって、低張液のみの場合に比べて、更にNBを含むものを使用した場合の方が、消化管での酵素分解等からインスリンを保護する効果が顕著に高いことが確認された(図7-1,図7-2)ことから、結果として、腸管吸収後のインスリンのトータル的な活性を、低張液のみの場合よりも高く維持できる可能性があり
これらを総合的に考慮した場合には、低張液のみの場合よりも、更にNBを含むものが、投与目的物質の腸管吸収には好ましい場合もあると考えられる。
【0143】
[試験例2:腸管吸収用組成物を用いたデキストランの腸管吸収促進効果確認試験]
試験例1と同様の方法を用い、実施例又は比較例のデキストラン投与液(腸管吸収用組成物)を投与対象(ラット)の腸管に直接投与した後、ラット血液(血漿)中のデキストランを測定することによって、腸管経由吸収量、すなわち本発明の「腸管吸収用組成物」による、高分子化合物(デキストラン)の吸収促進効果を確認した。
【0144】
「腸管吸収用組成物」の具体的な投与手順は、図2に準じて行った。但し、採血は240分まで行った。
尚、その他の実験条件は、下記の通りである。
【0145】
《材料と方法:Material and Method》
(投与対象)
SD系ラット、雄、190g(各群3~4匹)
【0146】
(投与液)
実施例9~11の「デキストラン投与液(腸管吸収用組成物)」・・・低張液(modified RO water)(+NB)+FD4
比較例5の「デキストラン投与液(腸管吸収用組成物)」・・・等張液(PBS)+FD4
【0147】
(投与量)
0.5ml/(ラット体重)200g(=2.5ml/kg)
デキストラン投与液の濃度は、上述の通り、4mg/mlなので、上記投与量は、蛍光標識デキストラン投与量:10mg/(ラット体重)kgに相当する。
【0148】
(投与後の採血部位)
頸静脈
【0149】
(血漿中デキストラン濃度測定法)
蛍光度を測定して、濃度に変換することによって測定した。
【0150】
《結果》
測定結果を図4に示す。
尚、図中の「means±SE」とは、平均値±標準誤差を意味する。
また、図中のNとは、1群あたりのラット数を意味する。
【0151】
《考察》
血漿中のデキストラン濃度が、比較例と比べて有意に増加している図4の結果から、低張液を溶媒(腸管吸収用補助剤)として用いた組成物とすることによって、これまで腸管からの吸収が極めて困難とされてきた高分子化合物(デキストラン)であっても、腸管経由で確実に生体内に吸収され得ることがわかった。
【0152】
[試験例3:腸管吸収用補助剤の細胞傷害性確認試験]
乳酸脱水素酵素(Lactate dehydrogenase:LDH)は、ほとんど全ての細胞の細胞質に存在する酵素であり、通常は細胞膜を透過しないが、細胞膜が何らかの事情で傷害を受けると細胞外に漏れ出すことが知られている。
従って、細胞外に放出されたLDH量を測定することで、腸管吸収用補助剤の細胞傷害性の指標とすることが出来る。
【0153】
そこで、試験例1等と同様のIn situ closed loop法を用いて、ラットの小腸に実施例又は比較例の各「腸管吸収用補助剤」を投与した後、1時間経過後に腸管から投与液を回収し、その回収液中に含まれるLDH量を、下記のキットを用いて測定することによって、腸管吸収用補助剤による細胞傷害の有無を判定した。
【0154】
《材料と方法:Material and Method》
【0155】
(投与対象)
SD系ラット、雄、190g(各群3匹)
【0156】
(投与液)
実施例1~3の「腸管吸収用補助剤」・・・低張液(+NB)
比較例1~2の「腸管吸収用補助剤」・・・等張液(+NB)
【0157】
更に、細胞傷害性のある場合の例(ポジティブコントロール)として、下記の参考例1の溶液を使用した。
【0158】
(参考例1)
5%Triton X-100を含むPBS(等張液)・・・等張液+Triton X-100
【0159】
尚、Triton X-100とは、タンパク質を失活させずに、生体膜を可溶化し得るものとして知られている、公知の界面活性剤であり、本試験例においては、LDHを漏出させる「ポジティブコントロール」として用いている。
【0160】
(投与量)
0.5ml/(ラット体重)200g
【0161】
(使用機器)
同仁堂製 細胞毒性測定キット(製品名:Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST)
【0162】
《結果》
試験結果を、図5に示す。
【0163】
図5からわかる通り、実施例及び比較例のいずれも、細胞傷害の一般的な指標となるTriton X-100を用いた参考例1と比較して、LDHの漏出量は極めて少なかった。
【0164】
《考察》
つまり、本発明の「腸管吸収用補助剤」によるインスリンやデキストランの吸収促進は、細胞を破壊した上での強制的な腸管内浸入等では無く、安全性に問題が無いことが確認できた。
【0165】
[実施例12:腸管吸収用補助剤]
実施例3の「腸管吸収用補助剤(modified RO water+基本濃度のNB)」(以下、NanoGASTM(RO)(N:Normal))と記載する場合がある。)20mLを、マクロセップ アドバンス 遠心濾過デバイス(日本ポール(株))に入れ、遠心条件3000xg、4℃、15分のマイクロ冷却遠心機(久保田商事(株)、Model 3740)を用いた限外濾過によって濃縮し、NBの気泡濃度を高めた「腸管吸収用補助剤(modified RO water+高濃度のNB)」(以下、NanoGASTM(RO)(C:Conc))と記載する場合がある。)1.5mLを作成した。
尚、簡易的な測定方法を用いた気泡濃度の比較によって、この限外濾過で得られた高濃度NB水は、基本濃度の約30倍の気泡を含むことが確認された。
【0166】
[実施例13:腸管吸収用組成物((III)投与目的物質:インスリン)]
実施例12の腸管吸収用補助剤を用い、実施例6等に記載の方法に準じて、インスリン投与液(実施例13の腸管吸収用組成物)を製造した。
従って、インスリン濃度は、実施例6等と同様に、約20IU/mlであった。
【0167】
[試験例4:気泡濃度の異なる腸管吸収用組成物を用いたインスリンの腸管吸収促進効果確認試験]
後述する実験条件以外は、試験例1と同様にして、In situ closed loop法を用いて、本発明の気泡濃度の異なる「腸管吸収用組成物」による、高分子化合物(インスリン)の吸収促進効果を確認した。
【0168】
尚、実験条件は、下記の通りである。
【0169】
《材料と方法:Material and Method》
【0170】
(投与対象)
SD系ラット、雄、190~230g(各群3~6匹)
【0171】
(投与液)
「実施例7の腸管吸収用組成物:インスリン投与液(低張液(RO)+インスリン)」
「実施例8の腸管吸収用組成物:インスリン投与液(低張液(RO)+NB(基本濃度)+インスリン)」
「実施例13の腸管吸収用組成物:インスリン投与液(低張液(RO)+NB(高濃度)+インスリン)」
「比較例3の腸管吸収用組成物:インスリン投与液(等張液(PBS)+インスリン)」
「比較例4の腸管吸収用組成物:インスリン投与液(等張液(PBS)+NB(基本濃度)+インスリン)」
【0172】
《結果》
測定結果を図6に示す。
【0173】
尚、図6中の「NanoGASTM」とは、シンバイオシス(株)社製のNB(水)(腸管吸収用補助剤)を意味する。
また、図6で、抽出されたインスリンの単位「μU/ml」とは、「μIU/ml」を意味する。
図6から分かる通り、低張液を溶媒(腸管吸収用補助剤)として用いた組成物とすることによって、これまで腸管からの吸収が極めて困難とされてきた高分子化合物(インスリン)であっても、腸管経由で確実に生体内に吸収され得ることがわかった。
また、特に、ナノサイズ以下の気泡(NB)の濃度を高めた実施例13の場合に、インスリンの腸管吸収量が特に多かった。
【0174】
《考察》
低張液の腸管吸収作用に加え、高濃度のナノサイズ以下の気泡の存在が、更にインスリンの消化管吸収性を向上させることが分かった。
【0175】
[実施例14~16,比較例6:腸管吸収用組成物((III)投与目的物質:インスリン)]
上述の実施例2,3,12又は比較例1の「腸管吸収用補助剤」を用いて、下記の手順によってインスリン投与液を作成し、本発明の「腸管吸収用組成物((III)投与目的物質:インスリン((III)-iii-a-1))」とした。
【0176】
(インスリン投与液の製造方法)
1)固形のインスリン(富士フィルム和光純薬株式会社製,ヒト組換インスリン)7.5mgに、0.1M HCl 75μLを加えた。
2)1)に、インスリンの容器吸着防止剤として0.001W/V%の下記MCを含有させた上記実施例2,3,12又は比較例1の各「腸管吸収用補助剤」を、各々2.85ml加えた。
3)2)に、0.1M NaOHを75μL加え、実施例14~16又は比較例6のインスリン投与液(腸管吸収用組成物)とした。
【0177】
(インスリン濃度)
7.5mg/3mL=2.5mg/mL≒69IU/mL
【0178】
MC(メチルセルロース):信越化学工業(株)製,メトローズ(登録商標)SM-15(分子量約6万)
【0179】
[試験例5:NBによる、インスリンの消化酵素(トリプシン)分解に対する安定性向上確認試験]
インスリンは、実際には、腸管に辿り着くまでにトリプシン等のざまざまな消化酵素によって分解その他の阻害作用の影響を受けることが知られている。
そこで、インスリンが受ける消化酵素分解作用に対する、NBの保護効果を、インビトロで確認した。
具体的には、NBによる、インスリンの消化酵素分解からの保護作用を、インスリン残存濃度の時間経過(図7-1),インスリンの分解速度定数と半減期(図7-2)によって評価した。
【0180】
尚、実験条件は、下記の通りである。
【0181】
《材料と方法:Material and Method》
【0182】
(トリプシン濃度)
トリプシン(シグマアルドリッチ社製,トリプシン ブタ膵臓由来)2.38mgを、下記の被検液のうち、実施例14~16又は比較例6の各「インスリン投与液(腸管吸収用組成物)」1mLに投与し、最終濃度10μMとした。
【0183】
尚、コントロールである対照例1には、トリプシンを投与しなかった。
【0184】
また、コントロールである対照例2には、トリプシンと共に、公知のSTI(大豆トリプシンインヒビター)1.25mg/mlを投与した。
【0185】
(被検液)
「実施例14のインスリン投与液(低張液(RO)+インスリン)」+トリプシン
「実施例15のインスリン投与液(低張液(RO)+NB(基本濃度)+インスリン)」+トリプシン
「実施例16のインスリン投与液(低張液(RO)+NB(高濃度)+インスリン)」+トリプシン
「比較例6のインスリン投与液(等張液(PBS)+インスリン)」+トリプシン
「対照例1(等張液(PBS)+インスリン)」・・・(トリプシン無)
「対照例2(等張液(PBS)+インスリン)」+トリプシン+トリプシン阻害剤(STI)
【0186】
(試験方法)
各被検液に、上記濃度となるようにトリプシンを加え、37℃で90分間、恒温槽にて保存した。
図7-1に示したように、HPLCにより、定期的にインスリンの残存濃度を測定した(図7-1)。
また、これらの測定結果をもとに、インスリンの分解速度定数と半減期を求めた結果を、図7-2に示した。
【0187】
《結果》
尚、図7-1,図7-2中の「NanoGASTM」とは、シンバイオシス(株)社製のNB(水)(腸管吸収用補助剤)を意味する。
【0188】
NBを含む実施例15及び実施例16の場合、インスリンの半減期は、
“トリプシンを含まない対照例1”や、
”トリプシンと共に公知のトリプシン阻害剤(STI)を併用した対照例2”
ほどでは無いものの、
“PBSのみを含む腸管吸収用組成物(比較例6)”と比較して、2~2.5倍に延長された。
【0189】
但し、NBの濃度による差は(実施例15:基本濃度,実施例16:高濃度)、それほど見られなかった。
【0190】
尚、実施例14(低張液のみ。NB無し。)は、トリプシンに対するインスリンの安定性にはあまり寄与していなかった。
【0191】
《考察》
1)NBの有用性について:
上述の試験例1(In situ closed loop法:トリプシンの分泌が殆ど無い小腸に、直接投与する試験)によれば、NBを有する実施例8は、低張液のみの実施例6,7ほど腸管吸収効果は見られなかったが、本試験例5によって、インスリンをトリプシン阻害から保護する効果は、NBを有する場合の方が高いことが確認された。
つまり、トリプシンによる投与目的物質の活性阻害を考慮した場合、NBの存在が重要である可能性が示唆された。
【0192】
尚、これは、本発明者等がゼータ電位測定によって明らかにした通り、NBの表面が負に帯電していることによるものであると考えられる。
つまり、中性域でインスリンは負の電荷を有し、トリプシンは正の電荷を有していることから、負の電荷を有するNBが、インスリンとトリプシンとの相互作用を阻害したことによるものと考えられる。
【0193】
2)トリプシン以外の酵素について:
また、この試験例5による酵素分解実験は、インスリン分解酵素として、トリプシンのみを用いた、イン・ビトロでの実験である。
しかし生体内には、インスリンを分解する酵素はトリプシン以外にも存在しており、NBの濃度が濃い実施例16は、NBが基本濃度の実施例15よりも多種・多量の酵素を阻害できるものと考えられる。
試験例4のインスリン腸管吸収実験(図6)において、NBを、より高濃度で含む実施例16が、基本濃度の実施例15よりも、顕著な促進効果を示したのは、このためと考えられる。
【0194】
3)低張液のみの実施例について
尚、実施例14(低張液のみ。NB無し。)は、トリプシンに対するインスリンの安定性には寄与しなかったものの、試験例1(図3)において、実施例14に相当する「低張液のみの実施例7」が、インスリンの腸管吸収効果そのものは、NBを有する他の実施例より高かったことを考慮すれば、投与目的物質へのトリプシンの影響をそれほど考慮する必要の無い場合には、NBを含まない低張液からなる腸管吸収用補助剤(又はそれと共に投与目的物質を含む腸管吸収用組成物)も、充分に利用価値があるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明の腸管吸収用補助剤は、低張液を主な成分とし、小腸透過ペプチド等の特殊な薬剤の併用も不要であるという極めて簡素な構成にも関わらず、(III)投与目的物質、中でもこれまで腸管吸収が極めて困難とされてきた物質(例えば、(III)-i:難吸収性低分子化合物や、(III)-ii:中分子化合物、又は(III)-iii:高分子化合物等)を、腸管から確実に吸収させることができるという利点を有している。
しかも、本発明の腸管吸収用補助剤自体に消化管細胞に対する細胞傷害性は見られず、(III)投与目的物質の、安全な腸管吸収促進が可能である。
またナノサイズ以下(1μm未満)の気泡を更に含有する本発明の腸管吸収用補助剤の場合には、(III)投与目的物質を各種の消化酵素等による分解・失活等から保護する効果が本発明によって確認されたため、腸管吸収後にもその活性を充分に発揮させ得ることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】