(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130303
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】導電性繊維シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20220830BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20220830BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20220830BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B5/26
B32B7/025
D06M11/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007589
(22)【出願日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2021028941
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハステロイ
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 健史
(72)【発明者】
【氏名】田中 潤
【テーマコード(参考)】
4F100
4L031
5E321
【Fターム(参考)】
4F100AB00A
4F100AB00B
4F100AB10A
4F100AB10B
4F100AB12A
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4F100DG01A
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4L031AA18
4L031AB34
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4L031DA15
5E321AA05
5E321AA22
5E321AA23
5E321BB23
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5E321BB60
5E321CC16
5E321GG05
5E321GG11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐湿熱性を備えながらもより高い電波吸収性を有する導電性繊維シート、その製造方法、電波吸収体及び電子デバイスを提供すること。
【解決手段】導電性繊維シート3は、導電性繊維基材A、1及びその一方の表面上に配置された導電性繊維基材B、2を含み、導電性繊維基材Aが密度が100000g/m
3以上350000g/m
3以下である繊維基材Aを含み、導電性繊維基材Bが繊維基材Aよりも密度が低い繊維基材Bを含み、且つ、導電性繊維基材Aの導電性繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維基材A及びその一方の表面上に配置された導電性繊維基材Bを含み、前記導電性繊維基材Aが密度が100000g/m3以上350000g/m3以下である繊維基材Aを含み、前記導電性繊維基材Bが前記繊維基材Aよりも密度が低い繊維基材Bを含み、且つ前記導電性繊維基材Aの前記導電性繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下である、導電性繊維シート。
【請求項2】
前記導電性繊維基材Aが前記繊維基材A及び前記繊維基材Aを構成する繊維の表面に付着している金属成分を含み、且つ前記導電性繊維基材Bが前記繊維基材B及び前記繊維基材Bを構成する繊維の表面に付着している金属成分を含む、請求項1に記載の導電性繊維シート。
【請求項3】
前記導電性繊維基材A及び前記導電性繊維基材Bの金属付着量の合計が5μg/cm2以上150μg/cm2以下である、請求項1又は2に記載の導電性繊維シート。
【請求項4】
前記導電性繊維基材Aの前記導電性繊維基材B側とは反対側の表面における高輝度面積率Aに対する、前記導電性繊維基材Bの前記導電性繊維基材A側の表面における高輝度面積率Bの比(B/A)が、0.25以上1.0以下である、請求項1~3のいずれかに記載の導電性繊維シート。
【請求項5】
前記繊維基材Aの開口率が10%以上80%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の導電性繊維シート。
【請求項6】
前記繊維基材A及び前記繊維基材Bが不織布である、請求項1~5のいずれかに記載の導電性繊維シート。
【請求項7】
前記繊維基材Aと前記繊維基材Bとが融着していない、請求項1~6のいずれかに記載の導電性繊維シート。
【請求項8】
前記導電性繊維基材A及び前記導電性繊維基材Bが含む金属が、ニッケル、モリブデン、クロム、チタン、銅、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む、請求項1~7のいずれかに記載の導電性繊維シート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の導電性繊維シートを含む、電波吸収体。
【請求項10】
請求項9に記載の電波吸収体を有する、電子デバイス。
【請求項11】
繊維基材A及びその一方の表面上に配置された繊維基材Bを含み、前記繊維基材Aの密度が100000g/m3以上350000g/m3以下であり、且つ前記繊維基材Bの密度が前記繊維基材Aの密度よりも低い多層体に対して、前記繊維基材A側から金属を付着させる工程を含み、前記工程は、前記繊維基材Aの前記繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下となるように金属を付着させる工程である、導電性繊維シートの製造方法。
【請求項12】
前記金属を付着させる方法が、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、及びパルスレーザーデポジション法からなる群より選択される少なくとも1種の方法を含む、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維シート等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器、家庭用電化製品等では、電波の漏洩や侵入を防止するために、電波吸収材料を施した部材が用いられている。近年では、特に電波を利用した電子機器(情報通信機器)においては、他の電子機器の誤作動及び信号劣化の防止、並びに、人体への悪影響の防止の観点から、不要な電磁波を吸収する電波吸収体が広く採用されている。電波吸収体としては、各種ゴムや樹脂材料に磁性体金属粉を分散させてなるものが用いられている。また、例えば、布帛の表面上に金属が付着されたノイズ吸収布帛が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子機器はそれ自身のエネルギーのやり取りから熱を発生することが多く、また湿度が高い環境で使用される場合も多いことから、電波吸収体は高温高湿環境下で利用されることとなる。
【0005】
本発明は、耐湿熱性を備えながらもより高い電波吸収性を有する導電性繊維シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は研究を進める中で、高温高湿環境では、繊維に付着している金属の劣化により導電パスが減少し、電波吸収性が低下することがあることに着目した。本発明者は、高温高湿下での電波吸収性の低下を抑制するために、密度の高い布帛に金属を付着させることや、付着する金属量を増やすことを試みたが、電波吸収性の初期値が低下してしまうことがあった。
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、導電性繊維基材A及びその一方の表面上に配置された導電性繊維基材Bを含み、前記導電性繊維基材Aが密度が100000g/m3以上350000g/m3以下である繊維基材Aを含み、前記導電性繊維基材Bが前記繊維基材Aよりも密度が低い繊維基材Bを含み、且つ前記導電性繊維基材Aの前記導電性繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下である、導電性繊維シート、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. 導電性繊維基材A及びその一方の表面上に配置された導電性繊維基材Bを含み、前記導電性繊維基材Aが密度が100000g/m3以上350000g/m3以下である繊維基材Aを含み、前記導電性繊維基材Bが前記繊維基材Aよりも密度が低い繊維基材Bを含み、且つ前記導電性繊維基材Aの前記導電性繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下である、導電性繊維シート.
項2. 前記導電性繊維基材Aが前記繊維基材A及び前記繊維基材Aを構成する繊維の表面に付着している金属成分を含み、且つ前記導電性繊維基材Bが前記繊維基材B及び前記繊維基材Bを構成する繊維の表面に付着している金属成分を含む、項1に記載の導電性繊維シート.
項3. 前記導電性繊維基材A及び前記導電性繊維基材Bの金属付着量の合計が5μg/cm2以上150μg/cm2以下である、項1又は2に記載の導電性繊維シート.
項4. 前記導電性繊維基材Aの前記導電性繊維基材B側とは反対側の表面における高輝度面積率Aに対する、前記導電性繊維基材Bの前記導電性繊維基材A側の表面における高輝度面積率Bの比(B/A)が、0.25以上1.0以下である、項1~3のいずれかに記載の導電性繊維シート.
項5. 前記繊維基材Aの開口率が10%以上80%以下である、項1~4のいずれかに記載の導電性繊維シート.
項6. 前記繊維基材A及び前記繊維基材Bが不織布である、項1~5のいずれかに記載の導電性繊維シート.
項7. 前記繊維基材Aと前記繊維基材Bとが融着していない、項1~6のいずれかに記載の導電性繊維シート.
項8. 前記導電性繊維基材A及び前記導電性繊維基材Bが含む金属が、ニッケル、モリブデン、クロム、チタン、銅、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む、項1~7のいずれかに記載の導電性繊維シート.
項9. 項1~8のいずれかに記載の導電性繊維シートを含む、電波吸収体.
項10. 項9に記載の電波吸収体を有する、電子デバイス.
項11. 繊維基材A及びその一方の表面上に配置された繊維基材Bを含み、前記繊維基材Aの密度が100000g/m3以上350000g/m3以下であり、且つ前記繊維基材Bの密度が前記繊維基材Aの密度よりも低い多層体に対して、前記繊維基材A側から金属を付着させる工程を含み、前記工程は、前記繊維基材Aの前記繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下となるように金属を付着させる工程である、導電性繊維シートの製造方法.
項12. 前記金属を付着させる方法が、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、及びパルスレーザーデポジション法からなる群より選択される少なくとも1種の方法を含む、項11に記載の製造方法.
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐湿熱性を備えながらもより高い電波吸収性を有する導電性繊維シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】金属層及び不織布を含む本発明の導電性繊維シートの一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の電波吸収体が筐体の開口部及び筐体内壁に配置された場合の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の電波吸収体を電波ノイズの発生源を覆うようにして使用する場合の一例を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の電波吸収体を樹脂筐体の内部に配置する場合の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の導電性繊維シートに加えてさらに誘電体層、粘着剤層及び反射層を有する本発明の電波吸収体の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
本発明は、その一態様において、導電性繊維基材A及びその一方の表面上に配置された導電性繊維基材Bを含み、前記導電性繊維基材Aが密度が100000g/m3以上350000g/m3以下である繊維基材Aを含み、前記導電性繊維基材Bが前記繊維基材Aよりも密度が低い繊維基材Bを含み、且つ前記導電性繊維基材Aの前記導電性繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下である、導電性繊維シート(本明細書において、「本発明の導電性繊維シート」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0012】
なお、本明細書において、導電性繊維基材A及び導電性繊維基材Bをまとめて「導電性繊維基材」と示すこともある。同様に、繊維基材A及び繊維基材Bをまとめて「繊維基材」と示すこともある。
【0013】
<1.導電性繊維基材>
導電性繊維基材は、繊維基材を含み、且つ導電性を有する基材である限り特に制限されない。導電性繊維基材は、好ましくは、繊維基材及び当該繊維基材を構成する繊維の表面に付着している金属成分を含む。
【0014】
<1-1.繊維基材>
繊維基材は、繊維又は繊維束を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。繊維基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、繊維及び繊維束以外の成分が含まれていてもよい。その場合、繊維基材中の繊維及び繊維束の合計量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0015】
繊維を構成する素材は、繊維状である又は繊維状に成形可能な素材である限り、特に制限されない。繊維の素材としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド(PPA)樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリメチルペンテン(PMP)樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂等の合成樹脂、天然樹脂、セルロース、ガラス等が挙げられる。繊維素材は樹脂であることが好ましい。繊維は、1種単独の繊維素材から構成されるものであってもよいし、2種以上の繊維素材が複数組み合わされたものであってもよい。
【0016】
繊維基材としては、例えば、不織布、メッシュ、織物、編物等が挙げられる。これらの中でも、柔軟性、追従性等の観点から、好ましくは不織布が挙げられる。
【0017】
繊維基材は、本発明の導電性繊維シートの耐熱性の観点から、融点250℃以上の樹脂を含むことが好ましい。当該樹脂は、繊維基材を構成する繊維の素材であってもよいし、繊維以外の成分であってもよい。このような樹脂としては、例えば各種PET樹脂、PAR樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン66)等が挙げられる。
【0018】
繊維基材の層構成は特に制限されない。繊維基材は、1種単独の繊維基材から構成されるものであってもよいし、2種以上の繊維基材が複数組み合わされた(積層された)ものであってもよい。
【0019】
なお、本明細書において、融点とは、JIS K7121に準拠して、示差走差熱量計(DSC;例えば、メトラー社製「TA3000」)を用いて測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、DSC装置にて測定する際、測定サンプルを10~20mg取り、アルミ製パンへ封入した後、キャリアガスとして窒素を流量100mL/minで流し、20℃/minで昇温したときの1st runの吸収ピークを測定する。ポリマーの種類により上記の1st runで明確な吸収ピークが出現しない場合には、50℃/minの昇温速度で予想される融解温度より50℃ 高い温度まで昇温し、その温度で3分間以上保持し、完全に溶解した後、80℃/minの速度で50℃まで冷却し、しかる後、20℃/minの昇温速度で2nd runの吸熱ピークを測定する。
【0020】
<1-2.金属成分>
導電性繊維基材において、繊維基材を構成する繊維の表面に金属成分が付着している場合、金属成分は、金属層を構成する場合もある。
【0021】
金属成分は、金属を素材として含む成分である限り、特に制限されない。金属成分は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、金属以外の成分が含まれていてもよい。その場合、金属成分中の金属量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0022】
金属成分を構成する金属としては、電波吸収性を発揮できるものであれば特に制限されない。金属としては、例えばニッケル、モリブデン、クロム、チタン、銅、アルミニウム、金、銀、亜鉛、スズ、白金、鉄、インジウム等、好ましくはニッケル、モリブデン、クロム、チタン、銅、アルミニウム等の元素を含む金属であることが好ましい。具体的には、金属としては、例えば、ニッケル、モリブデン、クロム、チタン、銅、アルミニウム、金、銀、亜鉛、スズ、白金、鉄、インジウム等、これらの金属を含む合金、及び、これらの金属又はこれらの金属を含む合金の金属化合物等が挙げられる。金属は、導電性繊維シートの電波吸収特性の経時変化を抑制する(耐久性の)観点から、ニッケル、モリブデン、クロム、チタン、銅及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含有することが好ましい。
【0023】
上記ニッケル、モリブデン、クロム、チタン、銅及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含有する場合、その含有量は、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0024】
金属成分としては、耐久性、シート抵抗の調整が容易である観点から、モリブデンを含有する金属成分が好ましく用いられる。モリブデンの含有量の下限は特に限定されないが、より耐久性を高める観点から、5重量%が好ましく、7重量%がより好ましく、9重量%が更に好ましく、11重量%がより更に好ましく、13重量%が特に好ましく、15重量%が非常に好ましく、16重量%が最も好ましい。また、上記モリブデンの含有量の上限は、シート抵抗の調整の容易化の観点から、70重量%が好ましく、30重量%がより好ましく、25重量%がさらに好ましく、20重量%が更に好ましい。
【0025】
金属成分は、モリブデンを含有している場合、さらにニッケル及びクロムを含有することがより好ましい。金属成分にモリブデンに加えてニッケル及びクロムを含有することでより耐久性に優れた導電性繊維シートとすることができる。ニッケル、クロム及びモリブデンを含有する合金としては、例えば、ハステロイB-2、B-3、C-4、C-2000、C-22、C-276、G-30、N、W、X等の各種グレードが挙げられる。
【0026】
金属成分がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、モリブデンの含有量が5重量%以上、ニッケルの含有量が40重量%以上、クロムの含有量が1重量%以上であることが好ましい。モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量が上記範囲であることで、より耐久性に優れた導電性繊維シートとすることができる。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が7重量%以上、ニッケル含有量が45重量%以上、クロム含有量が3重量%以上であることがより好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が9重量%以上、ニッケル含有量が47重量%以上、クロム含有量が5重量%以上であることが更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が11重量%以上、ニッケル含有量が50重量%以上、クロム含有量が10重量%以上であることがより更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が13重量%以上、ニッケル含有量が53重量%以上、クロム含有量が12重量%以上であることが特に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が15重量%以上、ニッケル含有量が55重量%以上、クロム含有量が15重量%以上であることが非常に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が16重量%以上、ニッケル含有量が57重量%以上、クロム含有量が16重量%以上であることが最も好ましい。また、上記ニッケルの含有量は、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、65重量%以下であることが更に好ましい。上記クロム含有量の上限は、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下であることが更に好ましい。
【0027】
金属成分は、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属を含有してもよい。そのような金属としては、例えば、鉄、コバルト、タングステン、マンガン、チタン等が挙げられる。金属成分がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の上限は、金属成分の耐久性の観点から、好ましくは45重量%、より好ましくは40重量%、更に好ましくは35重量%、より更に好ましくは30重量%、特に好ましくは25重量%、非常に好ましくは23重量%である。上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の下限は、例えば1重量%以上である。
【0028】
金属成分が鉄を含有する場合、金属成分の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は25重量%、より好ましい上限は20重量%、更に好ましい上限は15重量%であり、好ましい下限は1重量%である。金属成分がコバルト及び/又はマンガンを含有する場合、金属成分の耐久性の観点から、それぞれ独立して、含有量の好ましい上限は5重量%、より好ましい上限は4重量%、更に好ましい上限は3重量%であり、好ましい下限は0.1重量%である。金属成分がタングステンを含有する場合、金属成分の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は8重量%、より好ましい上限は6重量%、更に好ましい上限は4重量%であり、好ましい下限は1重量%である。
【0029】
金属成分は、ケイ素及び/又は炭素を含有してもよい。金属成分がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、それぞれ独立して、1重量%以下であることが好ましく0.5重量%以下であることがより好ましい。また、金属成分がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、0.01重量%以上であることが好ましい。
【0030】
繊維上の金属成分は、1種単独の金属成分から構成されるものであってもよいし、2種以上の金属成分の層から構成されるものであってもよい。また、金属成分が金属層を構成する場合、金属層の層構成は特に制限されない。金属層は、1種単独の金属層から構成されるものであってもよいし、2種以上の金属層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0031】
<1-3.バリア成分>
導電性繊維基材は、金属成分の繊維側及び/又は繊維側とは反対側にバリア成分が付着したものであることができる。また、金属成分が金属層を構成する場合、導電性繊維基材は、金属層の繊維基材側及び/又は繊維基材側とは反対側少にバリア成分からなるバリア層を有することができる。
【0032】
バリア成分は、金属成分を保護し、その劣化を抑えることができる層である限り、特に制限されないが、金属成分とは異なる組成であることが好ましい。バリア成分の素材としては、例えば金属、半金属、合金、金属化合物、半金属化合物等が挙げられる。バリア成分は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、上記素材以外の成分が含まれていてもよい。その場合、バリア成分中の上記素材量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0033】
バリア成分に好適に用いられる金属としては、例えばニッケル、チタン、アルミニウム、ニオブ、コバルト等が挙げられる。バリア成分に好適に用いられる半金属としては、例えばケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス等が挙げられる。
【0034】
バリア成分に用いられる金属化合物及び半金属化合物の具体例としては、SiO2、SiOx(Xは酸化数を表し、0<X<2)、Al2O3、MgAl2O4、CuO、CuN、TiO2、TiN、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)等が挙げられる。
【0035】
バリア成分は、好ましくはニッケル、ケイ素、チタン、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する。これらの中でも、好ましくはケイ素が挙げられる。
【0036】
バリア成分に由来する金属元素及び/又は半金属元素付着量は、後述のシート抵抗を満たし得るものである限り特に制限されない。バリア成分に由来する金属元素及び/又は半金属元素付着量は、例えば2~15μg/cm2、好ましくは4~12μg/cm2、より好ましくは6~10μg/cm2である。
【0037】
繊維上のバリア成分は、1種単独のバリア成分から構成されるものであってもよいし、2種以上のバリア成分の層から構成されるものであってもよい。また、バリア成分がバリア層を構成する場合、バリア層の層構成は特に制限されない。バリア層は、1種単独のバリア層から構成されるものであってもよいし、2種以上のバリア層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0038】
<2.導電性繊維基材A>
導電性繊維基材Aは、導電性繊維基材の中でも、密度が100000g/m3以上350000g/m3以下である繊維基材Aを含み、且つ導電性繊維基材Aの導電性繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下であるものである。
【0039】
繊維基材Aの密度は、電波吸収性、耐湿熱性等の観点から、好ましくは120000g/m3以上330000g/m3以下、より好ましくは140000g/m3以上310000g/m3以下、さらに好ましくは160000g/m3以上290000g/m3以下、よりさらに好ましくは180000g/m3以上270000g/m3以下である。
【0040】
繊維基材Aの密度は、目付及び厚みから算出することができる。
【0041】
導電性繊維基材Aの導電性繊維基材B側とは反対側のシート抵抗は、電波吸収性、耐湿熱性等の観点から、好ましくは20Ω/□以上350Ω/□以下、より好ましくは25Ω/□以上300Ω/□以下、さらに好ましくは25Ω/□以上250Ω/□以下、よりさらに好ましくは25Ω/□以上200Ω/□以下、とりわけ好ましくは30Ω/□以上150Ω/□以下である。
【0042】
導電性繊維基材Aの導電性繊維基材B側とは反対側のシート抵抗は、表面抵抗計(MITUBISHI CHEMICAL ANALYTECH社製、商品名:Loresta-EP、又はその同等品)を用いて4端子法によって測定される。測定にはESPプローブ(MITUBISHI CHEMICAL ANALYTECH社製、商品名:MCP-TP08P、又はその同等品)を使用し、試料に対してプローブの全てのピンが均一になるように押し当てて測定を行う。
【0043】
繊維基材Aの回孔率は、電波吸収性、耐湿熱性等の観点から、10%以上80%以下であることが好ましい。当該回孔率は、より好ましくは20%以上80%以下、さらに好ましくは25%以上80%以下、よりさらに好ましくは30%以上75%以下である。
【0044】
繊維基材Aの開孔率は次のようにして測定される。デジタルマイクロスコープ(ライカDVM6)を用いて繊維基材Aを観察し、ある一定面積における繊維が存在しない面積の割合を測定、算出する。
【0045】
繊維基材Aの空隙率は、特に制限されないが、例えば50%以上95%以下、好ましくは60%以上95%以下、より好ましくは70%以上90%以下である。
【0046】
繊維基材Aの空隙率は次のようにして測定される。樹脂密度に対する見かけ密度(目付/厚み)の割合を空隙率として、次の式より算出する。(1-(見かけ密度)/樹脂密度)×100。
繊維基材Aの目付(坪量)は、例えば1~100g/m2、好ましくは2~50g/m2、より好ましくは4~30g/m2である。
【0047】
繊維基材Aの厚みは、例えば1~500μm、好ましくは5~300μm、より好ましくは10~200μm、さらに好ましくは15~150μm、よりさらに好ましくは15~120μmである。繊維基材Aとして比較的薄いものを使用することにより、後述の製造方法により繊維基材Bまで金属成分を到達させることが容易になり、ひいては電波吸収性、耐湿熱性に資することができる。
【0048】
<3.導電性繊維基材B>
導電性繊維基材Bは、導電性繊維基材の中でも、繊維基材Aよりも密度が低い繊維基材Bを含むものである。導電性繊維基材Bは、導電性繊維基材Aの一方の表面上に配置されている。導電性繊維基材Bは、導電性繊維基材Aの表面上に、他の層を介さずに直接配置されていることが好ましい。
【0049】
繊維基材Bの密度は、繊維基材Aの密度よりも低い限り、特に限定されない。繊維基材Bの密度は、電波吸収性、耐湿熱性等の観点から、好ましくは50000g/m3以上200000g/m3以下、より好ましくは80000g/m3以上180000g/m3以下、さらに好ましくは100000g/m3以上160000g/m3以下である。
【0050】
繊維基材Bの密度は、目付及び厚みから算出することができる。
【0051】
繊維基材Aの密度に対する繊維基材Bの密度の比(密度B/密度A)は、電波吸収性、耐湿熱性等の観点から、好ましくは0.2以上0.9以下、より好ましくは0.3以上0.9以下、さらに好ましくは0.4以上0.9以下、よりさらに好ましくは0.4以上0.8以下、特に好ましくは0.4以上0.7以下である。
【0052】
繊維基材Bの目付(坪量)は、例えば1~200g/m2、好ましくは10~100g/m2、より好ましくは20~60g/m2である。
【0053】
繊維基材Bの厚みは、例えば10~2000μm、好ましくは50~1000μm、より好ましくは100~600μm、さらに好ましくは200~300μmである。繊維基材Bの厚みは、繊維基材Aの厚みよりも大きいことが好ましい。
【0054】
<4.導電性繊維シート>
本発明の導電性繊維シートは、導電性繊維基材A及びその一方の表面上に配置された導電性繊維基材Bを含む。
【0055】
導電性繊維基材A及び導電性繊維基材Bの金属付着量(金属元素の付着量)の合計は、電波吸収性、耐湿熱性等の観点から、好ましくは5μg/cm2以上150μg/cm2以下である。当該合計は、より好ましくは10μg/cm2以上140μg/cm2以下、さらに好ましくは20μg/cm2以上130μg/cm2以下、よりさらに好ましくは25μg/cm2以上130μg/cm2以下である。
【0056】
金属付着量は、蛍光X線分析により求める。具体的には、走査型蛍光X線分析装置(例えば、リガク社製走査型蛍光X線分析装置 ZSX PrimusIII+、又はその同等品)を用いて加速電圧は50kV、加速電流は50mA、積分時間は60秒として分析する。測定対象の成分のKα線のX線強度を測定し、ピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、正味の強度が算出できるようにする。あらかじめ作成した検量線から、測定した強度値を付着量に換算することができる。同一のサンプルに5回分析を行い、その平均値を平均付着量とする。
【0057】
導電性繊維基材Aの導電性繊維基材B側とは反対側の表面における高輝度面積率Aに対する、導電性繊維基材Bの導電性繊維基材A側の表面における高輝度面積率Bの比(高輝度面積率B/高輝度面積率A)は、電波吸収性、耐湿熱性等の観点から、好ましくは0.25以上1.0以下である。当該比は、より好ましくは0.25以上0.7以下、さらに好ましくは0.25以上0.5以下、よりさらに好ましくは0.3以上0.4以下である。高輝度面積率Bの比(高輝度面積率B/高輝度面積率A)が0.25以上であることによって、導電性繊維基材Bの導電性繊維基材A側の表面に十分な量の金属が付着しており、電波吸収性能がより良好なものとなる。高輝度面積率Bの比が1.0以下であることによって、導電性繊維基材Bの導電性繊維基材A側の表面に付着する金属成分の量を、導電性繊維基材Aの導電性繊維基材Bとは反対側の表面に付着する金属成分の量以下に調整することができる。結果、電波吸収性、耐湿熱性がより良好なものとなる。
【0058】
高輝度面積率B/高輝度面積率Aは、次のようにして測定される。X線CT装置により得られる断面像の解析により求める。具体的には次の通りである。導電性繊維シートを約3mm角にカットして測定用サンプルとする。X線顕微鏡(株式会社リガク製 nano3DX又はその同等品)により測定用サンプルを測定し、3次元画像を取得する。ビニング2、露光時間は測定機の推奨時間内にて設定し、撮影枚数1200枚の条件で撮影を行う。X線源としては、金属層の金属を検出することができる線源、例えばMoやW等を用いることができる。レンズは導電性不織布を構成する繊維の繊維径を確認可能な画素数となるレンズを使用する。なお導電性不織布の厚みが、レンズの視野を超える場合、複数の画像を撮影し、画像解析ソフトにて合成し解析に用いる。得られた3次元画像を画像解析ソフトウェアAvizo9.7(Thermo Fisher Scientific社製)及び画像処理ソフトImage J Fiji( 2017年12月30日バージョン、オープンソースソフトウェア:Schindelin, J.;Arganda-Carreras, I. & Frise, E. et al. (2012), “Fiji: an open-source platform for biological-image analysis”, Nature methods 9(7): 676-682)にて解析する。
【0059】
解析は例えば以下のように行う事ができる。なお(1)~(4)はAvizo9.7を、(5)はImage J Fijiを使用する。
(1)X線CTによる測定画像を256階層(8bit)の輝度値を持つ画像とし、再構築して3次元画像を得る。
(2)厚み方向をz軸として、導電性繊維シートの繊維基材A側である面側から順にx-y平面でのスライス画像を形成する。さらにx-y平面の底面が四角形になるよう画像をカットする。
(3)Auto threshold機能により二値化を行い、導電性不織布部分を選択する。次いでOpening処理によりノイズを除去し、導電性不織布が存在する部分と空気のみが存在する部分とを分ける。
(4)マスク処理により、のうち導電性不織布が存在する部分のみを抽出し、それ以外の部分の輝度値を0となるように調整する。
(5)画像処理ソフトにて、スライス画像ごとに、輝度値が1以上の画素のカウント数(全輝度面積数)及び輝度値が閾値以上の画素のカウント数(高輝度面積数)を取得する。なお、導電性繊維シートの繊維基材Bの繊維基材A側とは反対の面から導電性繊維シート厚みの5%の範囲までにおける輝度値の最大値の平均値を閾値とする。輝度値0の領域は空気層とみなし、以後の解析では用いない。
(6)繊維基材Aから繊維基材Bへ向かう厚み方向をX軸正の方向として、厚み位置をX軸(mm)、高輝度面積率((高輝度面積数/全輝度面積数)×100(%))をY軸としてプロットし、高輝度面積率と厚みのグラフを作成する。
(7)以降、繊維基材Bの繊維基材A側とは反対の面から、測定用サンプルの繊維基材Bの厚みの50%までの範囲を除いた厚み範囲において解析を行う。
(8)高輝度面積数が3000以上である厚み位置のうち、最大の値を示す高輝度面積率を高輝度面積率Aとする。尚、高輝度面積率Aを有する厚み位置を、厚み位置Aとする。(9)厚み位置Aよりも厚み位置が大きい範囲において、高輝度面積数が最小となる厚み位置を厚み位置Bとする。厚み位置Bにおける高輝度面積率の値を高輝度面積率Bとする。
(10)ただし、厚み位置Aよりも厚み位置が大きい範囲において、高輝度面積数が3000未満となる点を有する場合、以下の解析を行う。
【0060】
厚み位置Aよりも厚み位置が大きい範囲において、高輝度面積数が最小となる厚み位置を厚み位置Xとする。厚み位置Xよりも厚み位置が大きい範囲において、高輝度面積数が3000以上となる最小の厚み位置を厚み位置Bとする。厚み位置Bにおける高輝度面積率の値を高輝度面積率Bとする。
【0061】
本発明の一態様において、繊維基材Aと繊維基材Bとが融着していないことが好ましい。「融着していない」とは、繊維基材Aを構成する繊維と、繊維基材Bを構成する繊維とが、付着する金属成分を介することなく、繊維素材同士が融着していないことを示す。
【0062】
<5.性能>
本発明の導電性繊維シートは、耐湿熱性を備えながらもより高い電波吸収性を有する。
【0063】
電波吸収性については、実施例(3-1)の方法により測定される吸収値が、好ましくは0.60以上であり、より好ましくは0.70以上であり、さらに好ましくは0.75以上であり、よりさらに好ましくは0.80以上であり、とりわけ好ましくは0.85以上であり、とりわけより好ましくは0.90以上である。吸収値の上限は、特に制限されず、たとえば1.0、0.99、0.98、又は0.97である。
【0064】
電波吸収性については、実施例(3-1)の方法により測定されるS11値が、好ましくは0.10以下、より好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.07以下、よりさらに好ましくは0.06以下、とりわけ好ましくは0.05以下である。S11値の下限は特に制限されず、例えば0.005、0.01、又は0.02である。
【0065】
耐湿熱性については、実施例(3-2)の方法により測定される変化率が、好ましくは30%未満、より好ましくは25%未満、さらに好ましくは20%未満、よりさらに好ましくは15%未満である。変化率の下限は、特に制限されず、例えば1%、2%、又は5%である。
【0066】
<6.製造方法>
本発明の導電性繊維シートは、様々な方法で得ることができる。好ましくは、本発明の導電性繊維シートは、繊維基材A及びその一方の表面上に配置された繊維基材Bを含み、前記繊維基材Aの密度が100000g/m3以上350000g/m3以下であり、且つ前記繊維基材Bの密度が前記繊維基材Aの密度よりも低い多層体に対して、前記繊維基材A側から金属を付着させる工程を含み、前記工程は、前記繊維基材Aの前記繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下となるように金属を付着させる工程である、方法によって、得ることができる。
【0067】
金属を付着させる方法は、好ましくはスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、及びパルスレーザーデポジション法からなる群より選択される少なくとも1種の方法を含むことができる。これらの中でも、膜厚制御性、電波吸収特性等の観点から、スパッタリング法が好ましい。尚、本発明において上述の方法によって金属が付着され形成された導電性繊維基材を、その方法に応じて、スパッタリング導電性繊維基材、真空蒸着導電性繊維基材、イオンプレーティング導電性繊維基材、化学蒸着導電性繊維基材、パルスレーザーデポジション導電性繊維基材ともいう。前記繊維基材Aの前記繊維基材B側とは反対側のシート抵抗が20Ω/□以上400Ω/□以下とすることが容易となる観点から、前記繊維基材Aの前記繊維基材B側とは反対側の表面にむけて金属を付着させることが好ましい。
【0068】
スパッタリング法としては、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ、高周波マグネトロンスパッタ及びイオンビームスパッタ等が挙げられる。また、スパッタ装置は、バッチ方式であってもロール・ツー・ロール方式であってもよい。
【0069】
スパッタリング法により付着する場合、表面とその内部とにおける金属付着量の勾配は、スパッタ時のガス圧により調整することもできる。スパッタ時のガス圧を下げることで、繊維基材の内部、より深くまで金属を付着させることができ、緩やかな勾配で分布させることができ、また繊維基材Bに対して効率的に金属を付着させることができる。
【0070】
<7.用途>
本発明の導電性繊維シートは、高周波の電波に対してもより高い電波吸収特性(高吸収性、低反射性)を備えるので、電波吸収体として好適に利用することができる。この観点から、本発明は、その一態様において、本発明の導電性繊維シートを含む、電波吸収体(本明細書において、「本発明の電波吸収体」と示すこともある。)に関する。本発明の電波吸収体は、本発明の導電性繊維シートの導電性繊維基材B側の面を電波の入射面に向けて、配置することが好ましい。
【0071】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、不要な電磁波を吸収する性能を有するため、例えば、光トランシーバや、次世代移動通信システム(5G)における電波対策部材として好適に利用できる。また、その他の用途として自動車、道路、人の相互間で情報通信を行う高度道路交通システム(ITS)や自動車衝突防止システムに用いるミリ波レーダーにおいても、電波干渉抑制やノイズ低減の目的で用いることができる。本発明の電波吸収体が対象とする電波の周波数は、例えば20GHz以上150GHz以下、好ましくは25GHz以上85GHz以下である。
【0072】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、本発明の導電性繊維シートと接着剤層を有する。接着剤層を有することで、本発明の電波吸収体を成形品や筐体等の物品に容易に取り付けることができる。例えば、導電性繊維シートの金属層側に接着剤層を有してもよく、金属層ではない面に接着剤層を有してもよい。接着剤層としては、公知の接着剤、感圧接着剤(粘着剤)等を用いることができる。
【0073】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、電波吸収対象物の周囲を覆うことにより使用することができる。このため、対象物の形状に応じて、適宜成形される。成形されたものを、本明細書においては、「電波吸収成形体」と表す。
【0074】
電波吸収対象物としては特に限定されない。電波吸収対象物としては例えば、LSI等の電子部品、ガラスエポキシ基盤及びFPC等の回路表面又はその裏面、部品間の接続ケーブル及びコネクター部、電子部品・装置を入れる筐体、保持体等の裏又は表、電源線、伝送線等のケーブル等が挙げられる。
【0075】
周囲を覆う方法は特に限定されず、巻き付け、貼付などが挙げられる。
【0076】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、接着剤等を介して筐体に貼付することにより、優れた電波吸収性を有する筐体を得ることができる。本発明の導電性繊維シートを有する筐体もまた、本発明の1つである。
【0077】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、接着剤等を介して電子デバイス等を内蔵する筐体の内面(より好ましくは内壁)に貼付することにより、優れた電波吸収性を有する筐体を得ることができる。
【0078】
本発明の電波吸収体は、電波ノイズの発生源から離れた位置に配置し、電波吸収対象物の周囲を覆うように用いられることで、不要な電波ノイズを吸収する性能をより効果的に発揮することができる。また、電波ノイズの発生源から離れた位置に配置することで、LSI等から発生する熱の放熱を妨げにくくなる。本発明の電波吸収体は電波吸収性の観点から、電波ノイズの発生源からλ/2π以上離れた位置に配置することが好ましい。なお、λは対象とする電波の波長を示す。また、筐体内部で電波ノイズが生じた場合、空洞共振現象により筐体自身も電波ノイズ源になりうる。本発明の電波吸収体を筐体内壁に配置することで、空洞共振現象を抑制し、筐体からのノイズ発生を抑制することもできる。
【0079】
本発明の導電性繊維シートを筐体内面に有する筐体、及び、該筐体を有する電子デバイスもまた、本発明の1つである。
【0080】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、電子デバイス等を内蔵する筐体が開口部を有する場合、その開口部に貼付することにより、優れた電波吸収性を有する筐体を得ることができる。電子デバイス等を内蔵する筐体が開口部を有する場合、内部の電子デバイスから発生した電波ノイズが開口部から漏れ出たり、開口部がアンテナとして機能し電波ノイズを再放射したりする場合がある。このような場合に、筐体の開口部に本発明の電波吸収体を配置することで、筐体から発するノイズを低減することができる。
【0081】
本発明の導電性繊維シートを筐体の開口部に有する筐体、及び、該筐体を有する電子デバイスもまた、本発明の1つである。
【0082】
本発明の電波吸収成形体は、その一態様において、非導電性材料をさらに含む。該非導電性材料を含むことにより、電波吸収成形体の形状保持性を高めることができる。
【0083】
本発明の電波吸収体は、接着剤等を介して種々の非導電性材料からなる部材に貼付することにより、優れた電波吸収性を有する電波吸収成形体を得ることができる。なかでも、電子デバイスを内蔵するための筐体の表面に貼着して電波吸収を付与する用途に好適である。非導電性材料からなる部材の表面に、本発明の電波吸収体が貼付されている電波吸収成形体もまた、本発明の1つである。非導電性材料からなる部材の表面に本発明の電波吸収体が貼付された筐体に、電子デバイスが内蔵されている電子デバイスもまた、本発明の1つである。
【0084】
本発明の電波吸収体を、非導電性材料からなる部材の表面に貼付するだけでなく、非導電性材料からなる部材の内部に保持することによっても、優れた電波吸収性を有する電波吸収成形体を得ることができる。非導電性材料からなる部材の内部に、本発明の電波吸収体が保持されている電波吸収成形体もまた、本発明の1つである。非導電性材料からなる部材の内部に本発明の電波吸収体が保持された筐体に、電子デバイスが内蔵されている電子デバイスもまた、本発明の1つである。
【0085】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、さらに反射層を有する。反射層を有する場合、本発明の導電性繊維シートは片面側にのみ金属層を有し、反射層は金属層とは反対側に配置される。上記構成を有する場合、電波吸収特性がより優れる。
【0086】
この理由は特定の理論に束縛されないが、入射した電波は、本発明の導電性繊維シートを通過する過程で吸収・減衰され、反射層にて反射される。反射された電波は、入射する電波との干渉によりさらに減衰する。この結果、入射面への電波の反射は抑制され、入射面とは逆側へは電波が透過しないことが考えられる。
【0087】
反射層は、電波吸収体において電波の反射層として機能し得るものである限り、特に制限されない。反射層としては、特に制限されないが、例えば金属膜、金属箔、導電性材料等が挙げられる。
【0088】
金属膜は、金属を素材として含む層である限り、特に制限されない。金属膜は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、金属以外の成分が含まれていてもよい。その場合、金属膜中の金属の合計量は、例えば30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、非常に好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0089】
金属としては、特に制限されず、例えばアルミニウム、銅、鉄、銀、金、クロム、ニッケル、モリブデン、ガリウム、亜鉛、スズ、ニオブ、インジウム等が挙げられる。また、金属化合物、例えばITO等も、金属膜の素材として使用することができる。これらは1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0090】
反射層の厚みは、特に制限されない。反射層の厚みは、例えば1μm以上500μm以下、好ましくは2μm以上200μm以下、より好ましくは5μm以上100μm以下である。
【0091】
反射層の層構成は特に制限されない。反射層は、1種単独の反射層から構成されるものであってもよいし、2種以上の反射層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0092】
本発明の電波吸収体が反射層を有する場合、本発明の電波吸収体は、その一態様において、任意に誘電体層を有する。誘電体層は、反射層と、本発明の導電性繊維シートの間に配置される。
【0093】
誘電体層は、電波吸収体において目的の波長に対して誘電体として機能し得るものである限り、特に制限されない。誘電体層としては、特に制限されないが、例えば樹脂シート、粘着剤等が挙げられる。
【0094】
樹脂シートは、樹脂を素材として含むシート状のものである限り、特に制限されない。樹脂シートは、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。その場合、樹脂シート中の樹脂の合計量は、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0095】
樹脂としては、特に制限されず、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル、ウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ等の合成樹脂や、ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴムおよびシリコーンゴム等の合成ゴム材料を樹脂成分として用いることが好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0096】
誘電体層は、発泡体や粘着剤であってもよい。
【0097】
誘電体層は、粘着性を備えるものであってもよい。このため、粘着性を有しない誘電体を粘着剤層により他の層に積層させる場合、該誘電体と粘着剤層とを合わせたものが「誘電体層」となる。隣接する層と積層し易いという観点から、誘電体層は、好ましくは粘着剤層を含む。
【0098】
誘電体層の層構成は特に制限されない。誘電体層は、1種単独の誘電体層から構成されるものであってもよいし、2種以上の誘電体層が複数組み合わされたものであってもよい。例えば、粘着性を有しない誘電体とその両面に配置された粘着剤層とからなる3層構造の誘電体層、粘着性を有する誘電体からなる1層構造の誘電体層等が挙げられる。
【0099】
本発明の電波吸収体において(特に、反射層を有する場合において)、本発明の導電性繊維シートの厚みdが、式(1):λ/16≦d(好ましくはλ/16≦d≦λ/4、より好ましくはλ/8≦d≦λ/4)(式中、λは対象とする電波の波長を示す。)を満たすことが好ましい。上記厚みdであることで、電波吸収特性が一層向上する。
【0100】
本発明の電波吸収体が、反射層に加えてさらに誘電体層を有する場合は、本発明の導電性繊維シートの厚みと誘電体層の厚みとの合計d’が、式(1’):λ/16≦d’(好ましくはλ/16≦d≦λ/4、より好ましくはλ/8≦d’≦λ/4)(式中、λは対象とする電波の波長を示す。)を満たすことが好ましい。
【0101】
λは、本発明の電波吸収体が対象とする電波の波長であり、用途により適する値が選択される。λは、光速を周波数で除した値であり、例えば0.2cm以上1.5cm以下、好ましくは0.3cm以上1.2cm以下である。
【実施例0102】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0103】
(1)物性測定
後述の「(2)導電性繊維シートの製造」で使用した材料及び製造された導電性繊維シートの物性の測定方法は以下の通りである。以下に測定方法が示されていない物性の値は、入手元からの情報に基づく。
【0104】
(1-1)繊維基材Aの空隙率の測定
繊維基材Aの空隙率を次のようにして測定した。樹脂密度に対する見かけ密度(目付/厚み)の割合を空隙率として、次の式より算出した。(1-(見かけ密度)/樹脂密度)×100。
【0105】
(1-2)繊維基材Aの開孔率の測定
繊維基材Aの開孔率を次のようにして測定した。デジタルマイクロスコープ(ライカDVM6)を用いて繊維基材Aを観察し、ある一定面積における繊維が存在しない面積の割合を測定、算出した。
【0106】
(1-3)導電性繊維基材Aのシート抵抗の測定
導電性繊維基材Aの導電性繊維基材B側とは反対側のシート抵抗を、表面抵抗計(MITUBISHI CHEMICAL ANALYTECH社製、商品名:Loresta-EPを用いて4端子法によって測定した。測定にはESPプローブ(MITUBISHI CHEMICAL ANALYTECH社製、商品名:MCP-TP08P)を用いた。
【0107】
(1-4)導電性繊維シートの金属付着量の測定
導電性繊維シートの金属付着量を蛍光X線分析により求めた。具体的には、走査型蛍光X線分析装置(リガク社製走査型蛍光X線分析装置 ZSX PrimusIII+)を用いて加速電圧は50kV、加速電流は50mA、積分時間は60秒として分析した。測定対象の成分のKα線のX線強度を測定し、ピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、正味の強度が算出できるようにした。あらかじめ作成した検量線から、測定した強度値を付着量に換算した。同一のサンプルに5回分析を行い、その平均値を平均付着量とした。
【0108】
(1-5)高輝度面積率比率の測定
導電性繊維基材Aの導電性繊維基材B側とは反対側の表面における高輝度面積率Aに対する、導電性繊維基材Bの導電性繊維基材A側の表面における高輝度面積率Bの比(B/A)を以下のようにして測定した。
【0109】
X線CT装置により得られる断面像の解析により求めた。具体的には次の通りである。導電性繊維シートを約3mm角にカットして測定用サンプルとした。X線顕微鏡(株式会社リガク製 nano3DX又はその同等品)により測定用サンプルを測定し、3次元画像を取得した。ビニング2、露光時間は測定機の推奨時間内にて設定し、撮影枚数1200枚の条件で撮影を行った。X線源としては、金属層の金属を検出することができる線源、例えばMoやW等を用いた。レンズは導電性不織布を構成する繊維の繊維径を確認可能な画素数となるレンズを使用した。なお導電性不織布の厚みが、レンズの視野を超える場合、複数の画像を撮影し、画像解析ソフトにて合成し解析に用いた。得られた3次元画像を画像解析ソフトウェアAvizo9.7(Thermo Fisher Scientific社製)及び画像処理ソフトImage J Fiji( 2017年12月30日バージョン、オープンソースソフトウェア:Schindelin, J.;Arganda-Carreras, I. & Frise, E. et al. (2012), “Fiji: an open-source platform for biological-image analysis”, Nature methods 9(7): 676-682)にて解析した。
【0110】
解析は以下のように行った。なお(1)~(4)はAvizo9.7を、(5)はImage J Fijiを使用した。
(1)X線CTによる測定画像を256階層(8bit)の輝度値を持つ画像とし、再構築して3次元画像を得た。
(2)厚み方向をz軸として、導電性繊維シートの繊維基材A側である面側から順にx-y平面でのスライス画像を形成した。さらにx-y平面の底面が四角形になるよう画像をカットした。
(3)Auto threshold機能により二値化を行い、導電性不織布部分を選択した。次いでOpening処理によりノイズを除去し、導電性不織布が存在する部分と空気のみが存在する部分とを分けた。
(4)マスク処理により、のうち導電性不織布が存在する部分のみを抽出し、それ以外の部分の輝度値を0となるように調整した。
(5)画像処理ソフトにて、スライス画像ごとに、輝度値が1以上の画素のカウント数(全輝度面積数)及び輝度値が閾値以上の画素のカウント数(高輝度面積数)を取得した。なお、導電性繊維シートの繊維基材Bの繊維基材A側とは反対の面から導電性繊維シート厚みの5%の範囲までにおける輝度値の最大値の平均値を閾値とした。輝度値0の領域は空気層とみなし、以後の解析では用いないこととした。
(6)繊維基材Aから繊維基材Bへ向かう厚み方向をX軸正の方向として、厚み位置をX軸(mm)、高輝度面積率((高輝度面積数/全輝度面積数)×100(%))をY軸としてプロットし、高輝度面積率と厚みのグラフを作成した。
(7)以降、繊維基材Bの繊維基材A側とは反対の面から、測定用サンプルの繊維基材Bの厚みの50%までの範囲を除いた厚み範囲において解析を行った。
(8)高輝度面積数が3000以上である厚み位置のうち、最大の値を示す高輝度面積率を高輝度面積率Aとした。尚、高輝度面積率Aを有する厚み位置を、厚み位置Aとした。(9)厚み位置Aよりも厚み位置が大きい範囲において、高輝度面積数が最小となる厚み位置を厚み位置Bとした。厚み位置Bにおける高輝度面積率の値を高輝度面積率Bとした。
(10)ただし、厚み位置Aよりも厚み位置が大きい範囲において、高輝度面積数が3000未満となる点を有する場合、以下の解析を行った。
【0111】
厚み位置Aよりも厚み位置が大きい範囲において、高輝度面積数が最小となる厚み位置を厚み位置Xとした。厚み位置Xよりも厚み位置が大きい範囲において、高輝度面積数が3000以上となる最小の厚み位置を厚み位置Bとした。厚み位置Bにおける高輝度面積率の値を高輝度面積率Bとした。
【0112】
(2)導電性繊維シートの製造
以下で使用した各繊維基材(繊維基材A1、繊維基材A2、繊維基材A3、繊維基材A4、繊維基材A5、繊維基材B1)の物性は表1の通りである。
【0113】
(実施例1)
繊維基材A1と繊維基材B1を重ねあわせ、テスター産業株式会社製 SA-1010小型卓上テストラミネータ特型を用いて線圧0.1MPa、搬送速度1.0m/minの条件で圧着し、繊維シートを作成した。
作成した繊維シートを真空装置内に設置し、5.0×10-4Pa以下となるまで真空排気した。続いて、アルゴンガスを導入して、DCマグネトロンスパッタリング法により、繊維基材A1側から、ケイ素からなるバリア層1、ハステロイからなる金属層、及びケイ素からなるバリア層2をこの順に積層させ、導電性繊維シートを得た。
【0114】
(実施例2~5及び比較例3~5)
繊維基材の種類及び金属付着量を表1に記載の通りに変更する以外は、実施例1と同様にして導電性繊維シートを得た。尚、比較例5では、DCマグネトロンスパッタリング法により、繊維基材B1側から、ケイ素からなるバリア層1、ハステロイからなる金属層、及びケイ素からなるバリア層2をこの順に積層させ、導電性繊維シートを得た。
【0115】
(比較例1~2)
繊維基材の積層体に代えて表1に記載の1種の繊維基材を使用し、且つ金属付着量を表1に記載の通りに変更する以外は、実施例1と同様にして導電性繊維シートを得た。
【0116】
(3)性能評価
得られた導電性繊維シートの各性能を評価した。
【0117】
(3-1)電波吸収性の評価
PNAマイクロ波ネットワーク・アナライザ N5227A(キーサイト社製)、PNA-Xシリーズ2ポート用ミリ波コントローラ N5261A(キーサイト社製)、ホーンアンテナ FSS-07(HVS社製)を用いて電波吸収測定装置を構成した。この電波吸収測定装置を用いてSパラメータ法により、Sパラメータの反射減衰量(S11)と、透過減衰量(S21)とを各周波数で測定し、次の式(1):loss率(Ploss/Pin)=1-(S112+S212)/1 ・・・式(1) からloss率を算出した。
【0118】
電波吸収性を、吸収値及びS11値に基づいて、以下の基準で評価した。
◎:吸収値0.75以上かつS11値0.10以下。
○:吸収値0.60以上0.75未満かつS11値0.10以下。
×:吸収値0.60未満もしくはS11値0.10超。
【0119】
(3-2)耐湿熱性の評価
導電性繊維シートを85℃85%RHの雰囲気下に96時間暴露した後の抵抗値(R11)と、湿熱試験前の抵抗値(R10)をそれぞれ、上記のシート抵抗の測定方法に従って測定し、次の式(2):R1=(R11-R10)/R10×100・・・式(2) にて抵抗値変化率(R1)を算出した。
【0120】
耐湿熱性を、変化率に基づいて、以下の基準で評価した。
◎:変化率20%未満。
○:変化率20%以上30%未満。
×:変化率30%以上。
【0121】
(4)結果
導電性繊維シートの構成及び性能評価結果を表1に示す。表中、ハステロイは、組成:モリブデン16.4重量%、ニッケル55.2重量%、クロム18.9重量%、鉄5.5重量%、タングステン3.5重量%、シリカ0.5重量%)の合金である。表中、斜線は、存在しない、或いは未測定であることを示す。
【0122】